説明

半導体封止用エポキシ樹脂組成物及び半導体装置

【課題】ブロム化エポキシ樹脂、アンチモン化合物を使用せずに、耐燃性が良好で、流動性、耐半田性のバランスに優れたエポキシ樹脂組成物を提供すること。
【解決手段】半導体封止用のエポキシ樹脂組成物であって、グリシジルエーテルを有する特定構造のエポキシ樹脂(A)と、硬化剤(B)と、無機充填剤(C)とを含み、キュラストメーターを用いて、金型温度175℃にて該エポキシ樹脂組成物の硬化トルクを経時的に測定した際の、測定開始120秒後の硬化トルク値と、測定開始300秒後までの最大硬化トルク値との比が70%以上の範囲であることを特徴とするエポキシ樹脂組成物、並びに、そのエポキシ樹脂組成物の硬化物により半導体素子を封止してなることを特徴とする半導体装置。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、半導体封止用エポキシ樹脂組成物及び半導体装置に関するものである。
【背景技術】
【0002】
電子機器の小型化、軽量化、高機能化の要求に伴い、半導体素子は高集積し、これを保護する半導体パッケージ形態も進化を遂げてきた。半導体パッケージ形態を大別すると、従来構造を維持しながら表面実装へ対応するものと、新規に登場したエリア表面実装と呼ばれる構造のものの2つを挙げることができる。前者の従来構造の表面実装型の半導体パッケージとしては、たとえば、クワッド・フラット・パッケージ(以下、「QFP」という。)、スモール・アウトライン・パッケージ(以下、「SOP」という。)などがあり、これらのパッケージは、表面実装される際にはんだの融点以上の高温にさらされる。この際、半導体装置内の吸湿分は急激に気化し、水蒸気爆発的な応力となって半導体装置にクラック、或いは半導体素子やリードフレームと半導体封止用のエポキシ樹脂組成物の硬化物との界面に剥離が発生し、半導体装置の電気的信頼性が低下するという不具合を生じる場合がある。半導体封止用のエポキシ樹脂組成物には、これらの不良の防止、すなわち高い耐半田性と、環境負荷の高いBr化合物や酸化アンチモン等の難燃剤を使わずに耐燃性を発現することが要求される。
【0003】
後者のエリア表面実装型の半導体パッケージは多ピン化、高速化の要求に対応するために登場したものであり、たとえばボール・グリッド・アレイ(以下、「BGA」という。)更に小型化を追求したチップ・サイズ・パッケージ(以下、「CSP」という。)などを挙げることができる。構造としては、ビスマレイミド・トリアジン(以下、「BT」という。)樹脂/銅箔回路基板に代表される硬質回路基板、あるいはポリイミド樹脂フィルム/銅箔回路基板に代表されるフレキシブル回路基板の片面上に半導体素子を搭載し、その素子搭載面、即ち基板の片面のみが半導体封止用のエポキシ樹脂組成物などの硬化物で封止されている。また基板の素子搭載面の反対面には半田ボールを格子状に面配列して形成し、半田ボールを介してマザーボードと電気的接合を行う特徴を有している。更に、素子を搭載する基板としては、上記有機回路基板以外にもリードフレーム等の金属基板を用いる構造も考案されている。
【0004】
これらエリア表面実装型の半導体パッケージの構造は基板の素子搭載面のみを半導体封止用のエポキシ樹脂組成物で封止し、半田ボール形成面側は封止しないという片面封止の形態をとっている。このため、有機基板や金属基板と半導体封止用のエポキシ樹脂組成物の硬化物との間での熱膨張、熱収縮の不整合、あるいは半導体封止用のエポキシ樹脂組成物の成形から硬化に至る際の硬化収縮により、成形直後からパッケージの反りが発生しやすい。エリア表面実装型の半導体パッケージをマザーボード上に実装(半田ボールを溶融接合)する際には200℃以上の加熱工程を経る。この際にパッケージが反り変形すると多数の半田ボールがマザーボードから浮き上がり、電気的接合信頼性が損なわれる場合がある。さらに近年、これらのエリア表面実装型の半導体パッケージでも、パッケージの積層化やMAP型半導体パッケージが登場により薄型化が進行し、半導体封止用のエポキシ樹脂組成物には従来以上に流動性が求められるようになりつつある。
【0005】
前記エリア表面実装型の半導体パッケージに用いる半導体封止用のエポキシ樹脂組成物への要求特性は、耐半田性、耐燃性、低反り化、高流動性と纏めることができる。反りを低減する方法としては、原因となる熱膨張、収縮の不整合の解消、すなわち半導体封止用のエポキシ樹脂組成物の硬化物物性におけるα1の回路基板のα1への適合化、高Tg化、或いは、半導体封止用のエポキシ樹脂組成物の硬化成形収縮の低減などの方法をあげる
ことができ、具体的には、
(1)トリフェノールメタン型エポキシ樹脂とトリフェノールメタン型フェノール樹脂との組合せによりTgを高くし、半導体封止用のエポキシ樹脂組成物の硬化収縮を小さくする手法(例えば、特許文献1参照。)
(2)溶融粘度の低い樹脂を用いて無機充填剤の配合量を高めることにより、耐燃性向上と、α1の回路基板のα1への適合化を図る手法により低反り性を達成する方法(例えば、特許文献2参照。)
(3)高耐燃性、高Tgおよび低線膨張係数を兼ね備えるとされるナフタレン環骨格型エポキシ樹脂を配合する方法(例えば、特許文献3参照。)
などが提案されている。しかしながら、これらの半導体封止用のエポキシ樹脂組成物では反りの低減には一定の効果はあるものの、たとえば第一、第二の手法では、樹脂硬化物の吸水率が高く、半田処理時にクラックが生じ易く、耐燃性も十分ではない場合があった。また、第三の手法では、樹脂硬化物の高耐燃性、低吸水性が得られるものの、樹脂組成物の流動特性が必ずしも十分とはいえず、特に薄型のエリア表面実装型の半導体パッケージでは流動性が必ずしも十分でない場合があった。以上から、薄型のエリア表面実装型の半導体パッケージに用いる半導体封止用樹脂組成物には、高耐半田性、高耐燃性、低反り性、高流動特性の特性がバランスする材料が求められていた。
【0006】
【特許文献1】特開平11−147940号公報
【特許文献2】特開平11−1541号公報
【特許文献3】特開平6−239970号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
本発明は、耐半田性、耐燃性に優れ、かつ流動特性又は低反り性のバランスに優れた半導体封止用樹脂組成物及びそれを用いた半導体装置を提供するものである。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明の半導体封止用エポキシ樹脂組成物は、半導体封止用のエポキシ樹脂組成物であって、
下記一般式(1)で表されるエポキシ樹脂(A)
【化1】

(ただし、上記一般式(1)において、R1はそれぞれ炭素数1〜20の炭化水素基の中から選ばれた基であり、互いに同じであっても異なっていてもよい。一つのナフタレン環におけるグリシジルエーテル基もしくはそれが開環した基、R1及び他のナフチレン基の結合位置は、ナフタレン環のいずれの位置であってもよい。mは0〜5の整数であり、aは0〜6の整数である。)と、硬化剤(B)と、無機充填剤(C)と、硬化促進剤(D)と、を含み、前記エポキシ樹脂(A)が上記一般式(1)においてm=0である成分を必須成分として含むものであり、キュラストメーターを用いて、金型温度175℃にて該エポキシ樹脂組成物の硬化トルクを経時的に測定した際の、測定開始120秒後の硬化トルク値をT120、測定開始300秒後までの最大硬化トルク値をTmaxとしたとき、硬化トルク比T120/Tmax×100(%)が70%以上の範囲であることを特徴とする。
【0009】
本発明の半導体封止用エポキシ樹脂組成物は、キュラストメーターを用いて、金型温度175℃にて前記エポキシ樹脂組成物の硬化トルクを経時的に測定した際の、測定開始300秒後までの最大硬化トルク値をTmaxとしたとき、Tmaxの2%の硬化トルク値に達する、測定開始からの経過時間が、25秒以上、80秒以下の範囲であるものとすることができる。
【0010】
本発明の半導体封止用エポキシ樹脂組成物は、前記エポキシ樹脂組成物の硬化物の260℃における曲げ弾性率が400MPa以上、1100MPa以下の範囲であるものとすることができる。
【0011】
本発明の半導体封止用エポキシ樹脂組成物は、前記エポキシ樹脂(A)が前記一般式(1)においてm=0である成分を80質量%以上含むものとすることができる。
【0012】
本発明の半導体封止用エポキシ樹脂組成物は、前記硬化剤(B)が一分子中にフェノール性水酸基を2個以上含む化合物であるものとすることができる。
【0013】
本発明の半導体封止用エポキシ樹脂組成物は、前記硬化促進剤(D)が、テトラ置換ホスホニウム化合物(d1)、ホスホニウム化合物とシラン化合物との付加物(d2)から選ばれた少なくとも1種の硬化促進剤を含むものとすることができる。
【0014】
本発明の半導体封止用エポキシ樹脂組成物は、前記硬化促進剤(D)が、エポキシ樹脂組成物の成形から硬化に至る段階において、芳香環にヒドロキシル基が2つ以上結合した化合物を生成し得るものとすることができる。
【0015】
本発明の半導体封止用エポキシ樹脂組成物は、回路基板と、該回路基板上に搭載された半導体素子と、前記回路基板と前記半導体素子とを電気的に接続するワイヤと、前記半導体素子と前記ワイヤとを封止する封止材とを備えたエリア表面実装型の半導体装置の封止材用として用いられるものとすることができる。
【0016】
本発明の半導体装置は、上述のエポキシ樹脂組成物の硬化物により半導体素子を封止してなることを特徴とする。
【0017】
本発明の半導体装置は、回路基板と、該回路基板上に搭載された半導体素子と、前記回路基板と前記半導体素子とを電気的に接続するワイヤと、前記半導体素子と前記ワイヤとを封止する封止材とを備え、該封止材が上述のエポキシ樹脂組成物の硬化物から構成されてなるものとすることができる。
【発明の効果】
【0018】
本発明に従うと、ブロム化エポキシ樹脂、アンチモン化合物を使用せずに、耐燃性に優れ、エリア表面実装型の半導体パッケージにおいて反りが小さく、かつ流動性、耐半田性のバランスが良好な半導体封止用エポキシ樹脂組成物及び信頼性に優れた半導体装置を得ることができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0019】
本発明の半導体封止用エポキシ樹脂組成物は、半導体封止用のエポキシ樹脂組成物であって、一般式(1)で表されるエポキシ樹脂(A)と、硬化剤(B)と、無機充填剤(C)と、硬化促進剤(D)と、を含み、前記エポキシ樹脂(A)が一般式(1)においてm=0である成分を必須成分として含むものであり、キュラストメーターを用いて、金型温度175℃にて該エポキシ樹脂組成物の硬化トルクを経時的に測定した際の、測定開始120秒後の硬化トルク値をT120、測定開始300秒後までの最大硬化トルク値をT
axとしたとき、硬化トルク比T120/Tmax×100(%)が70%以上の範囲であることを特徴とするものであり、これにより、耐燃性に優れ、かつ流動性、耐半田性のバランスに優れる半導体封止用のエポキシ樹脂組成物及び信頼性に優れた半導体装置が得られるものである。また、特に、回路基板と、該回路基板上に搭載された半導体素子と、前記回路基板と前記半導体素子とを電気的に接続するワイヤと、前記半導体素子と前記ワイヤとを封止する封止材とを備えたエリア表面実装型の半導体装置の封止材用として用いた場合には、反りが小さく、電気的接合信頼性に優れた半導体装置が得られるものである。以下、本発明について詳細に説明する。
【0020】
先ず、本発明の半導体封止用エポキシ樹脂組成物について説明する。本発明の半導体封止用エポキシ樹脂組成物では、エポキシ樹脂として下記一般式(1)で表される構造を有するエポキシ樹脂(A)であって、下記一般式(1)においてm=0である成分を必須成分として含むものを用いる。該エポキシ樹脂(A)は、ナフタレン環構造を有することにより樹脂組成物の耐燃性向上、吸水率低減、熱膨張係数低減などの効果があり、さらにナフタレン環同士が直接共有結合する構造をとることによって、ナフタレン環の嵩高さによりナフタレン環とナフタレン環の間の共有結合を軸とする回転運動が規制され、高い剛直性を示す。このような理由から、エポキシ樹脂(A)は2官能型のエポキシ樹脂でありながらも硬化物は高Tg、高耐熱性を示し、エリア表面実装型の半導体パッケージにおいて低反りであるという特長を有する。
【化1】

(ただし、上記一般式(1)において、R1はそれぞれ炭素数1〜20の炭化水素基の中から選ばれた基であり、互いに同じであっても異なっていてもよい。一つのナフタレン環におけるグリシジルエーテル基もしくはそれが開環した基、R1及び他のナフチレン基の結合位置は、ナフタレン環のいずれの位置であってもよい。mは0〜5の整数であり、aは0〜6の整数である。)
【0021】
一般式(1)中のR1はそれぞれ炭素数1〜20の炭化水素基の中から選ばれた基であり、互いに同じであっても異なっていてもよいが、芳香族基を含む炭化水素基であることが好ましい。これによりナフタレン骨格に加え、さらに芳香族環が多くなり、これを用いたエポキシ樹脂組成物の硬化物の耐燃性をより優れたものとすることができる。一つのナフタレン環におけるグリシジルエーテル基もしくはそれが開環した基、R1及び他のナフチレン基の結合位置は、ナフタレン環のいずれの位置であってもよい。
【0022】
一般式(1)で表される構造を有するエポキシ樹脂(A)におけるmは0〜5の整数であり、m=0である成分を必須成分として含むものであるが、m=0である成分が主成分であることが望ましい。m=0である成分の含有割合の下限値としては、特に限定されないが、エポキシ樹脂(A)全体に対し、80質量%以上であることが好ましく、90質量%以上であることがより好ましい。m=0である成分の含有割合の下限値が上記範囲内であると、樹脂組成物は良好な流動性を示し、その硬化物は低吸水性、高耐熱性、高Tgとを発現することができる。また、m=0である成分の含有割合の上限値としては、特に限定されるものではなく、エポキシ樹脂(A)全体に対し、100質量%であってもよい。m=0である成分の含有割合を前述の好ましい範囲とするためには、後述する方法により合成、調整することができる。
【0023】
尚、一般式(1)で表される構造を有するエポキシ樹脂(A)におけるm=0である成分の含有割合は、次のようにして算出することができる。エポキシ樹脂(A)のゲルパーミエーションクロマトグラフィー(GPC)測定を行って、検出されたピークに対応する各成分のPS換算分子量を求め、検出されたピーク面積の比から検出されたピークに対応する各成分の含有割合(質量%)を算出する。また、エポキシ樹脂(A)のFD−MS測定を行って、検出されたピークに対応する成分の分子量と構造を同定することによりGPCで検出された各ピークに対応する成分毎のmの値を求めることもできる。
【0024】
本発明において、ゲルパーミエーションクロマトグラフィー(GPC)測定は次のように行なわれる。GPC装置は、ポンプ、インジェクター、ガードカラム、カラム及び検出器から構成され、溶媒にはテトラヒドロフラン(THF)を用いる。ポンプの流速は0.5ml/分にて測定を行なう。これよりも高い流速では目的の分子量の検出精度が低くなるため好ましくない。前記の流速で精度よく測定を行なうためには流量精度のよいポンプを使用することが必要であり、流量精度は0.10%以下が好ましい。ガードカラムには市販のガードカラム(例えば、東ソー(株)製TSK GUARDCOLUMN HHR−L:径6.0mm、管長40mm)、カラムには市販のポリスチレンジェルカラム(東ソー(株)製TSK−GEL GMHHR−L:径7.8mm、管長30mm)を複数本直列接続させる。検出器には示差屈折率計(RI検出器。例えば、WATERS社製示差屈折率(RI)検出器W2414)を用いる。測定に先立ち、ガードカラム、カラム及び検出器内部は40℃に安定させておく。試料には、濃度3〜4mg/mlに調整したエポキシ樹脂(A)のTHF溶液を用意し、これを約50〜150μlインジェクターより注入して測定を行なう。試料の解析にあたっては、単分散ポリスチレン(以下PS)標準試料により作成した検量線を用いる。検量線はPSの分子量の対数値とPSのピーク検出時間(保持時間)をプロットし、3次式に回帰したものを用いる。検量線作成用の標準PS試料としては、昭和電工(株)製ShodexスタンダードSL−105シリーズの品番S−1.0(ピーク分子量1060)、S−1.3(ピーク分子量1310)、S−2.0(ピーク分子量1990)、S−3.0(ピーク分子量2970)、S−4.5(ピーク分子量4490)、S−5.0(ピーク分子量5030)、S−6.9(ピーク分子量6930)、S−11(ピーク分子量10700)、S−20(ピーク分子量19900)を使用する。
【0025】
また、本発明において、FD−MSの測定は次のように行なわれる。エポキシ樹脂の試料10mgに溶剤ジメチルスルホキシド(DMSO)1gを加えて十分溶解したのち、FDエミッターに塗布の後、測定に供する。FD−MSシステムは、イオン化部に日本電子株式会社製MS−FD15Aを、検出器に日本電子株式会社製MS−700機種名二重収束型質量分析装置とを接続して用い、検出質量範囲(m/z)50〜2000にて測定する。
【0026】
本発明の半導体封止用エポキシ樹脂組成物で用いられる一般式(1)で表されるエポキシ樹脂(A)は、下記一般式(2)で表されるナフトール化合物を反応させて下記一般式(3)で表される前駆体であるビナフトール類を合成し、さらにエピハロヒドリン類を加えてグリシジルエーテル化することにより得ることができる。
【0027】
【化2】

(ただし、上記一般式(2)において、R1はそれぞれ炭素数1〜20の炭化水素基の中から選ばれた基であり、互いに同じであっても異なっていてもよい。水酸基及びR1の結合位置は、ナフタレン環のいずれの位置であってもよい。aは0〜6の整数である。)
【0028】
【化3】

(ただし、上記一般式(3)において、R1はそれぞれ炭素数1〜20の炭化水素基の中から選ばれた基であり、互いに同じであっても異なっていてもよい。一つのナフタレン環における水酸基、R1及び他のナフチレン基の結合位置は、ナフタレン環のいずれの位置であってもよい。aは0〜6の整数である。)
【0029】
エポキシ樹脂(A)の原料として用いられるナフトール化合物としては、一般式(2)で表されるナフトール化合物であれば特に限定されないが、例えば、α−ナフトール、β−ナフトール、2−メチル−1−ナフトール、3−メチル−1−ナフトール、4−メチル−1−ナフトール、6−メチル−1−ナフトール、7−メチル−1−ナフトール、8−メチル−1−ナフトール、9−メチル−1−ナフトール、3−メチル−2−ナフトール、5−メチル−1−ナフトール、6,7−ジメチル−1−ナフトール、5,7−ジメチル−1−ナフトール、2,5,8−トリメチル−1−ナフトール、2,6−ジメチル−1−ナフトール、2,3−ジメチル−1−ナフトール、2−メチル−3−フェニル−1−ナフトール、2−メチル−3−エチル−1−ナフトール、ラシニレンA、7−ヒドロキシカダレン、1,6−ジ−ターシャル−ブチルナフタレン―2−オール、6−ヘキシル−2−ナフトール等が挙げられる。これらの中でも、樹脂組成物の硬化性の観点からはα−ナフトールが好ましく、ビナフトール構造となった際の剛直性の高さ、あるいは原料価格といった観点からはβ−ナフトールが好ましい。また、樹脂硬化物の耐燃性の観点からは2−メチル−3−フェニル−1−ナフトール、等のナフタレン骨格に芳香族基を含む炭化水素基が結合したものが好ましい。これらは、1種類を単独で用いても、2種類以上を併用してもよい。
【0030】
本発明で用いられるエポキシ樹脂(A)の前駆体であるビナフトール類の合成方法については特に限定はなく、市販品を用いてもよい。ビナフトール類の合成方法としては、酸化カップリング反応を挙げることができ、たとえば前述のナフトール類をメタノールなどのアルコール溶媒に溶解し、硝酸銅などの銅触媒を添加して酸素導入および攪拌しながら12〜24時間反応させた後、反応系を冷却して結晶析出することで得ることができる。ここで、反応温度は5℃から50℃の温度範囲であることが好ましく、15℃から40℃の温度範囲であることがより好ましい。反応温度を前述の範囲とすることで、ナフタレン構造3量体以上の成分の生成を抑制し、一般式(3)で表されるようなビナフトール類を高収率で収得することができ、結果として得られるエポキシ樹脂(A)の粘度を低減することができ、樹脂組成物は優れた流動性を示すことができる。
【0031】
本発明で用いられるエポキシ樹脂(A)の前駆体であるビナフトール類の構造は一般式(3)で表される化合物であれば、特に限定されるものではないが、下記一般式(4)で表される構造のものが、ナフタレン環とナフタレン環の間の共有結合を軸とする回転運動が拘束され、特に高い剛直性を示し、結果としてエリア表面実装型の半導体パッケージにおいて反りをより低減することができる。このようにナフタレン環同士の回転が制限されることによって、ビナフトール類に光学異性体が存在する場合があるが、R体、S体のい
ずれを用いてもよく、これらを単独で用いても混合して用いてもよい。このようなものとしては、たとえば、(R)−(+)−1,1’−ビ−2―ナフトール、(S)−(−)−1,1’−ビ−2―ナフトール(いずれも下記一般式(4)においてa=0の構造のもの)をあげることができる。
【0032】
【化4】

(ただし、上記一般式(4)において、R1はそれぞれ炭素数1〜20の炭化水素基の中から選ばれた基であり、互いに同じであっても異なっていてもよい。水酸基及びR1の結合位置は、ナフタレン環のいずれの位置であってもよい。aは0〜6の整数である。)
【0033】
本発明の半導体封止用エポキシ樹脂組成物で用いられる一般式(1)で表されるエポキシ樹脂(A)の合成方法については特に限定しないが、例えば、エポキシ樹脂(A)の前駆体であるビナフトール類1モルを8〜20モルのエピクロルヒドリンに溶解した後、水酸化ナトリウム、水酸化カリウム等のアルカリ金属水酸化物の存在下で50〜150℃、好ましくは60〜120℃で1〜10時間反応させる方法等が挙げられる。反応終了後、過剰のエピクロルヒドリンを留去し、残留物をトルエン、メチルイソブチルケトン等の溶剤に溶解し、濾過し、水洗して無機塩を除去し、次いで溶剤を留去することによりエポキシ樹脂(A)を得ることができる。ここで、m=0である成分の含有割合を前述の好ましい範囲とするために、エポキシ樹脂(A)の合成時のエピクロルヒドリンの配合比率を高くする、反応溶媒にジメチルスルホキシドやトルエンなどの有機溶媒を用いるなどの方法により調整することができる。
【0034】
本発明の半導体封止用エポキシ樹脂組成物では、一般式(1)で表される構造を有するエポキシ樹脂(A)を用いることによる効果が損なわれない範囲で、他のエポキシ樹脂を併用することができる。併用できるエポキシ樹脂としては、例えばビフェニル型エポキシ樹脂、ビスフェノール型エポキシ樹脂、スチルベン型エポキシ樹脂等の結晶性エポキシ樹脂;フェノールノボラック型エポキシ樹脂、クレゾールノボラック型エポキシ樹脂等のノボラック型エポキシ樹脂;トリフェノールメタン型エポキシ樹脂、アルキル変性トリフェノールメタン型エポキシ樹脂等の多官能エポキシ樹脂;フェニレン骨格を有するフェノールアラルキル型エポキシ樹脂、フェニレン骨格を有するナフトールアラルキル型エポキシ樹脂、ビフェニレン骨格を有するフェノールアラルキル型エポキシ樹脂、ビフェニレン骨格を有するナフトールアラルキル型エポキシ樹脂等のアラルキル型エポキシ樹脂;ジヒドロキシナフタレン型エポキシ樹脂、ジヒドロキシナフタレンの2量体をグリシジルエーテル化して得られるエポキシ樹脂等のナフトール型エポキシ樹脂;トリグリシジルイソシアヌレート、モノアリルジグリシジルイソシアヌレート等のトリアジン核含有エポキシ樹脂;ジシクロペンタジエン変性フェノール型エポキシ樹脂等の有橋環状炭化水素化合物変性フェノール型エポキシ樹脂等が挙げられる。エポキシ樹脂組成物としての耐湿信頼性を考慮すると、イオン性不純物であるNaイオンやClイオンが極力少ない方が好ましく、硬化性の点からエポキシ当量としては100g/eq以上500g/eq以下が好ましい。
【0035】
他のエポキシ樹脂を併用する場合における一般式(1)で表される構造を有するエポキシ樹脂(A)の配合割合としては、全エポキシ樹脂に対して、40質量%以上であること
が好ましく、45質量%以上であることがより好ましく、60質量%以上であることが特に好ましい。配合割合が上記範囲内であると、耐燃性、低吸水性、Tg等を向上させる効果を得ることができる。
【0036】
エポキシ樹脂全体の配合割合の下限値については、特に限定されないが、全エポキシ樹脂組成物中に、2質量%以上であることが好ましく、4質量%以上であることがより好ましい。配合割合の下限値が上記範囲内であると、流動性の低下等を引き起こす恐れが少ない。また、エポキシ樹脂全体の配合割合の上限値についても、特に限定されないが、全エポキシ樹脂組成物中に、15質量%以下であることが好ましく、13質量%以下であることがより好ましい。配合割合の上限値が上記範囲内であると、耐半田性の低下等を引き起こす恐れが少ない。
【0037】
本発明の半導体封止用エポキシ樹脂組成物では、硬化剤(B)を用いる。本発明の半導体封止用エポキシ樹脂組成物で用いることができる硬化剤(B)としては、例えば重付加型の硬化剤、触媒型の硬化剤、縮合型の硬化剤の3タイプに大別することができる。
【0038】
重付加型の硬化剤としては、例えば、ジエチレントリアミン(DETA)、トリエチレンテトラミン(TETA)、メタキシレリレンジアミン(MXDA)などの脂肪族ポリアミン、ジアミノジフェニルメタン(DDM)、m−フェニレンジアミン(MPDA)、ジアミノジフェニルスルホン(DDS)などの芳香族ポリアミンのほか、ジシアンジアミド(DICY)、有機酸ジヒドララジドなどを含むポリアミン化合物;ヘキサヒドロ無水フタル酸(HHPA)、メチルテトラヒドロ無水フタル酸(MTHPA)などの脂環族酸無水物、無水トリメリット酸(TMA)、無水ピロメリット酸(PMDA)、ベンゾフェノンテトラカルボン酸(BTDA)などの芳香族酸無水物などを含む酸無水物;ノボラック型フェノール樹脂、フェノールポリマーなどのポリフェノール化合物;ポリサルファイド、チオエステル、チオエーテルなどのポリメルカプタン化合物;イソシアネートプレポリマー、ブロック化イソシアネートなどのイソシアネート化合物;カルボン酸含有ポリエステル樹脂などの有機酸類などが挙げられる。
【0039】
触媒型の硬化剤としては、例えば、ベンジルジメチルアミン(BDMA)、2,4,6−トリスジメチルアミノメチルフェノール(DMP−30)などの3級アミン化合物;2−メチルイミダゾール、2−エチル−4−メチルイミダゾール(EMI24)などのイミダゾール化合物;BF3錯体などのルイス酸などが挙げられる。
【0040】
縮合型の硬化剤としては、例えば、ノボラック型フェノール樹脂、レゾール型フェノール樹脂等のフェノール樹脂系硬化剤;メチロール基含有尿素樹脂のような尿素樹脂;メチロール基含有メラミン樹脂のようなメラミン樹脂などが挙げられる。
【0041】
これらの中でも、耐燃性、耐湿性、電気特性、硬化性、保存安定性等のバランスの点からフェノール樹脂系硬化剤が好ましい。フェノール樹脂系硬化剤は、一分子内にフェノール性水酸基を2個以上有するモノマー、オリゴマー、ポリマー全般であり、その分子量、分子構造を特に限定するものではないが、例えば、フェノールノボラック樹脂、クレゾールノボラック樹脂、ナフトールノボラック樹脂等のノボラック型樹脂;トリフェノールメタン型フェノール樹脂等の多官能型フェノール樹脂;テルペン変性フェノール樹脂、ジシクロペンタジエン変性フェノール樹脂等の変性フェノール樹脂;フェニレン骨格及び/又はビフェニレン骨格を有するフェノールアラルキル樹脂、フェニレン及び/又はビフェニレン骨格を有するナフトールアラルキル樹脂等のアラルキル型樹脂;ビスフェノールA、ビスフェノールF等のビスフェノール化合物等が挙げられ、これらは1種類を単独で用いても2種類以上を併用してもよい。これらのうち、硬化性の点から水酸基当量は90g/eq以上、250g/eq以下のものが好ましい。また、エリア表面実装型の半導体装置
における反りの低減という点を考慮すると、トリフェノールメタン型フェノール樹脂等の多官能型フェノール樹脂や、ナフトールノボラック樹脂、フェニレン骨格を有するナフトールアラルキル樹脂等のナフタレン環を有するフェノール樹脂が好ましい。
【0042】
硬化剤(B)全体の配合割合の下限値については、特に限定されないが、全エポキシ樹脂組成物中に、0.8質量%以上であることが好ましく1.5質量%以上であることがより好ましい。配合割合の下限値が上記範囲内であると、充分な流動性を得ることができる。また、硬化剤(B)全体の配合割合の上限値についても、特に限定されないが、全エポキシ樹脂組成物中に、10質量%以下であることが好ましく、8質量%以下であることがより好ましい。配合割合の上限値が上記範囲内であると、良好な耐半田性を得ることができる。
【0043】
また、硬化剤(B)としてフェノール樹脂系硬化剤を用いる場合においては、エポキシ樹脂全体とフェノール樹脂系硬化剤全体との配合比率としては、エポキシ樹脂全体のエポキシ基数(EP)とフェノール樹脂系硬化剤全体のフェノール性水酸基数(OH)との当量比(EP)/(OH)が0.8以上、1.3以下であることが好ましい。当量比がこの範囲であると、エポキシ樹脂組成物の成形時に充分な硬化性を得ることができる。また、当量比がこの範囲であると、樹脂硬化物における良好な物性を得ることができる。また、エリア表面実装型の半導体装置における反りの低減という点を考慮すると、エポキシ樹脂組成物の硬化性及び樹脂硬化物のガラス転移温度又は熱時弾性率を高めることができるように、用いる硬化促進剤の種類に応じてエポキシ樹脂全体のエポキシ基数(Ep)と硬化剤全体のフェノール性水酸基数(Ph)との当量比(Ep/Ph)を調整することが望ましい。
【0044】
本発明の半導体封止用エポキシ樹脂組成物では、無機充填剤(C)を用いる。本発明の半導体封止用エポキシ樹脂組成物用いる無機充填剤(C)としては、一般にエポキシ樹脂組成物に用いられているものを使用することができ、例えば、溶融シリカ、球状シリカ、結晶シリカ、アルミナ、窒化珪素、窒化アルミ等が挙げられる。無機充填剤(C)の粒径としては、金型キャビティへの充填性を考慮すると0.01μm以上、150μm以下であることが望ましい。
【0045】
無機充填剤(C)の含有割合の下限値としては、エポキシ樹脂組成物全体の80質量%以上であることが好ましく、83質量%以上であることがより好ましく、86質量%以上であることが特に好ましい。無機充填剤(C)の含有割合の下限値が上記範囲内であると、エポキシ樹脂組成物の硬化物物性として、吸湿量が増加したり、強度が低下したりすることがなく、良好な耐半田クラック性を得ることができる。また、無機充填剤(C)の含有割合の上限値としては、エポキシ樹脂組成物全体の93質量%以下であることが好ましく、91質量%以下であることがより好ましく、90質量%以下であることが特に好ましい。無機充填剤(C)の含有割合の上限値が上記範囲内であると、流動性が損なわれることがなく、良好な成形性を得ることができる。尚、後述する難燃剤として、水酸化アルミニウム、水酸化マグネシウム等の金属水酸化物や、硼酸亜鉛、モリブデン酸亜鉛、三酸化アンチモン等の無機系難燃剤を用いる場合には、これらの無機系難燃剤も含めたトータルの含有割合を上記範囲内とすることが望ましい。また、エリア表面実装型の半導体装置における反りの低減という点を考慮すると、樹脂硬化物の熱膨張係数を回路基板の熱膨張係数へ適合させるように、用いる無機充填剤(C)の含有割合を調整することが望ましい。
【0046】
本発明の半導体封止用エポキシ樹脂組成物では、硬化促進剤(D)を用いる。硬化促進剤(D)は、エポキシ樹脂のエポキシ基とフェノール性水酸基を2個以上含む化合物のフェノール性水酸基との反応を促進するものであればよく、一般のエポキシ樹脂組成物に使用されているものを利用することができる。具体例としては、有機ホスフィン、テトラ置
換ホスホニウム化合物、ホスホベタイン化合物、ホスフィン化合物とキノン化合物との付加物、ホスホニウム化合物とシラン化合物との付加物等のリン原子含有化合物;1,8−ジアザビシクロ(5,4,0)ウンデセン−7、ベンジルジメチルアミン、2−メチルイミダゾール等の窒素原子含有化合物が挙げられる。これらのうち、硬化性の観点からはリン原子含有化合物が好ましく、流動性と硬化性のバランスの観点からは、テトラ置換ホスホニウム化合物、ホスホベタイン化合物、ホスフィン化合物とキノン化合物との付加物、ホスホニウム化合物とシラン化合物との付加物等の潜伏性を有する触媒がより好ましい。流動性という点を考慮するとテトラ置換ホスホニウム化合物が特に好ましく、またエポキシ樹脂組成物の硬化物熱時低弾性率という点を考慮するとホスホベタイン化合物、ホスフィン化合物とキノン化合物との付加物が特に好ましく、また潜伏的硬化性という点を考慮すると、ホスホニウム化合物とシラン化合物との付加物が特に好ましい。
【0047】
特に、エポキシ樹脂組成物の成形直後の熱剛性が高くなり、それによって、エリア表面実装型の半導体装置の反りを低くすることができ、成形後から加熱工程を経ても反りの変動量が小さくできる点を考慮すると、テトラ置換ホスホニウム化合物、ホスホニウム化合物とシラン化合物との付加物等の硬化促進剤が好ましい。その中でも、エポキシ樹脂組成物の成形から硬化に至る段階において、芳香環にヒドロキシル基が2つ以上結合した化合物を生成し得る硬化促進剤がより好ましい。このような硬化促進剤を用いた場合にエポキシ樹脂組成物の成形直後の熱剛性が高くなる理由は定かではないが、下記のような理由が考えられる。すなわち、上述の硬化促進剤は、エポキシ樹脂組成物の混合及び溶融混練工程では、アニオン部の高次構造により触媒活性を有するカチオン部が保護されている。これにより、触媒失活や低温での架橋反応を生じることがなく、結果として架橋密度の低下を抑制することができる。また、エポキシ樹脂組成物の成形から硬化を行う工程では、加熱されることによってカチオン部とアニオン部とが解離し、触媒活性を有するカチオン部がむき出しになるとともに、アニオン部においても、芳香環にヒドロキシル基が2つ以上結合した化合物がむき出しとなることによって、触媒作用を急峻に発現することができる。以上のことから、上述の硬化促進剤は成形から硬化に至る過程で、優れた反応促進効果と架橋密度を高める作用を奏することができ、結果としてエポキシ樹脂組成物の成形直後の熱剛性を高める効果が得られるものと推察される。このような効果を奏する具体的な硬化促進剤としては、テトラ置換ホスホニウムと、芳香環にヒドロキシル基が2つ以上結合した化合物及び芳香環にヒドロキシル基が2つ以上結合した化合物から1個の水素を除いたフェノキシド型化合物との分子会合体が特に好ましい。
【0048】
本発明の半導体封止用エポキシ樹脂組成物で用いることができる有機ホスフィンとしては、例えばエチルホスフィン、フェニルホスフィン等の第1ホスフィン;ジメチルホスフィン、ジフェニルホスフィン等の第2ホスフィン;トリメチルホスフィン、トリエチルホスフィン、トリブチルホスフィン、トリフェニルホスフィン等の第3ホスフィンが挙げられる。
【0049】
本発明の半導体封止用エポキシ樹脂組成物で用いることができるテトラ置換ホスホニウム化合物としては、例えば下記一般式(5)で表される化合物等が挙げられる。
【0050】
【化5】

(ただし、上記一般式(5)において、Pはリン原子を表す。R2、R3、R4及びR5は芳香族基又はアルキル基を表す。Aはヒドロキシル基、カルボキシル基、チオール基から選ばれる官能基のいずれかを芳香環に少なくとも1つ有する芳香族有機酸のアニオンを表す。AHはヒドロキシル基、カルボキシル基、チオール基から選ばれる官能基のいずれかを芳香環に少なくとも1つ有する芳香族有機酸を表す。x、yは1〜3の整数、zは0〜3の整数であり、かつx=yである。)
【0051】
一般式(5)で表される化合物は、例えば以下のようにして得られるがこれに限定されるものではない。まず、テトラ置換ホスホニウムハライドと芳香族有機酸と塩基を有機溶剤に混ぜ均一に混合し、その溶液系内に芳香族有機酸アニオンを発生させる。次いで水を加えると、一般式(5)で表される化合物を沈殿させることができる。一般式(5)で表される化合物において、合成時の収得率と硬化促進効果のバランスに優れるという観点では、リン原子に結合するR2、R3、R4及びR5がフェニル基であり、かつAHはヒドロキシル基を芳香環に有する化合物、すなわちフェノール類であり、かつAは該フェノール類のアニオンであるのが好ましい。また、AHがフェノール性水酸基を2つ以上有するフェノール類であり、かつAがフェノール性水酸基を2つ以上有する該フェノール類のアニオンである場合の一般式(5)で表される化合物は、上述した、エポキシ樹脂組成物の成形から硬化に至る段階において芳香環にヒドロキシル基が2つ以上結合した化合物を生成し得る硬化促進剤に相当するものとなり、かつ、テトラ置換ホスホニウムと、芳香環にヒドロキシル基が2つ以上結合した化合物及び芳香環にヒドロキシル基が2つ以上結合した化合物から1個の水素を除いたフェノキシド型化合物との分子会合体にも相当するものとなるため、エリア表面実装型の半導体装置における反り特性の向上という点でも好ましい。
【0052】
本発明の半導体封止用エポキシ樹脂組成物で用いることができるホスホベタイン化合物としては、例えば下記一般式(6)で表される化合物等が挙げられる。
【化6】

(ただし、上記一般式(6)において、X1は炭素数1〜3のアルキル基、Y1はヒドロキシル基を表す。fは0〜5の整数であり、gは0〜3の整数である。)
【0053】
一般式(6)で表される化合物は、例えば以下のようにして得られる。まず、第三ホスフィンであるトリ芳香族置換ホスフィンとジアゾニウム塩とを接触させ、トリ芳香族置換ホスフィンとジアゾニウム塩が有するジアゾニウム基とを置換させる工程を経て得られる。しかしこれに限定されるものではない。
【0054】
本発明の半導体封止用エポキシ樹脂組成物で用いることができるホスフィン化合物とキノン化合物との付加物としては、例えば下記一般式(7)で表される化合物等が挙げられる。
【化7】

(ただし、上記一般式(7)において、Pはリン原子を表す。R6、R7及びR8は炭素数1〜12のアルキル基又は炭素数6〜12のアリール基を表し、互いに同一であっても異なっていてもよい。R9、R10及びR11は水素原子又は炭素数1〜12の炭化水素基を表し、互いに同一であっても異なっていてもよく、R9とR10が結合して環状構造となっていてもよい。)
【0055】
ホスフィン化合物とキノン化合物との付加物に用いるホスフィン化合物としては、例えばトリフェニルホスフィン、トリス(アルキルフェニル)ホスフィン、トリス(アルコキシフェニル)ホスフィン、トリナフチルホスフィン、トリス(ベンジル)ホスフィン等の芳香環に無置換又はアルキル基、アルコキシル基等の置換基が存在するものが好ましく、アルキル基、アルコキシル基等の置換基としては1〜6の炭素数を有するものが挙げられる。入手しやすさの観点からはトリフェニルホスフィンが好ましい。
【0056】
またホスフィン化合物とキノン化合物との付加物に用いるキノン化合物としては、o−ベンゾキノン、p−ベンゾキノン、アントラキノン類が挙げられ、中でもp−ベンゾキノンが保存安定性の点から好ましい。
【0057】
ホスフィン化合物とキノン化合物との付加物の製造方法としては、有機第三ホスフィンとベンゾキノン類の両者が溶解することができる溶媒中で接触、混合させることにより付加物を得ることができる。溶媒としてはアセトンやメチルエチルケトン等のケトン類で付加物への溶解性が低いものがよい。しかしこれに限定されるものではない。
【0058】
一般式(7)で表される化合物において、リン原子に結合するR6、R7及びR8がフェニル基であり、かつR9、R10及びR11が水素原子である化合物、すなわち1,4−ベンゾキノンとトリフェニルホスフィンを付加させた化合物がエポキシ樹脂組成物の硬化物の熱時弾性率を低下させる点で好ましい。
【0059】
本発明の半導体封止用エポキシ樹脂組成物で用いることができるホスホニウム化合物とシラン化合物との付加物としては、例えば下記一般式(8)で表される化合物等が挙げられる。
【化8】

(ただし、上記一般式(8)において、Pはリン原子を表し、Siは珪素原子を表す。R12、R13、R14及びR15は、それぞれ、芳香環又は複素環を有する有機基、あるいは脂肪族基を表し、互いに同一であっても異なっていてもよい。式中X2は、基Y2及びY3と結合する有機基である。式中X3は、基Y4及びY5と結合する有機基である。Y2及びY3は、プロトン供与性基がプロトンを放出してなる基を表し、同一分子内の基Y2及びY3が珪素原子と結合してキレート構造を形成するものである。Y4及びY5はプロトン供与性基がプロトンを放出してなる基を表し、同一分子内の基Y4及びY5が珪素原子と結合してキレート構造を形成するものである。X2、及びX3は互いに同一であっても異なっていてもよく、Y2、Y3、Y4、及びY5は互いに同一であっても異なっていてもよい。Z1は芳香環又は複素環を有する有機基、あるいは脂肪族基である。)
【0060】
一般式(8)において、R12、R13、R14及びR15としては、例えば、フェニル基、メチルフェニル基、メトキシフェニル基、ヒドロキシフェニル基、ナフチル基、ヒドロキシナフチル基、ベンジル基、メチル基、エチル基、n−ブチル基、n−オクチル基及びシクロヘキシル基等が挙げられ、これらの中でも、フェニル基、メチルフェニル基、メトキシフェニル基、ヒドロキシフェニル基、ヒドロキシナフチル基等の置換基を有する芳香族基もしくは無置換の芳香族基がより好ましい。
【0061】
また、一般式(8)において、X2は、Y2及びY3と結合する有機基である。同様に、X3は、基Y4及びY5と結合する有機基である。Y2及びY3はプロトン供与性基がプロトンを放出してなる基であり、同一分子内の基Y2及びY3が珪素原子と結合してキレート構造を形成するものである。同様にY4及びY5はプロトン供与性基がプロトンを放出してなる基であり、同一分子内の基Y4及びY5が珪素原子と結合してキレート構造を形成するものである。基X2及びX3は互いに同一であっても異なっていてもよく、基Y2、Y3、Y4、及びY5は互いに同一であっても異なっていてもよい。このような一般式(8)中の−Y2−X2−Y3−、及び−Y4−X3−Y5−で表される基は、プロトン供与体が、プロトンを2個放出してなる基で構成されるものであり、プロトン供与体としては、例えば、カテコール、ピロガロール、1,2−ジヒドロキシナフタレン、2,3−ジヒドロキシナフタレン、2,2’−ビフェノール、1,1’−ビ−2−ナフトール、サリチル酸、1−ヒドロキシ−2−ナフトエ酸、3−ヒドロキシ−2−ナフトエ酸、クロラニル酸、タンニン酸、2−ヒドロキシベンジルアルコール、1,2−シクロヘキサンジオール、1,2−プロパンジオール及びグリセリン等が挙げられる。これらの中でも、原料入手の容易さと硬化促進効果のバランスという観点では、カテコール、1,2−ジヒドロキシナフタレン、2,3−ジヒドロキシナフタレンがより好ましい。また、プロトン供与体がカテコール、ピロガロール、1,2−ジヒドロキシナフタレン、2,3−ジヒドロキシナフタレン、2,2’−ビフェノール、1,1’−ビ−2−ナフトール、クロラニル酸、タンニン酸から選ばれた化合物である場合の一般式(8)で表される化合物は、上述した、エポキシ樹脂組成物の成形から硬化に至る段階において、芳香環にヒドロキシル基が2つ以上結合した化合物を生成し得る硬化促進剤に相当するものとなるため、エリア表面実装型の半導体装置における反り特性の向上という点で好ましい。
【0062】
また、一般式(8)中のZ1は、芳香環又は複素環を有する有機基又は脂肪族基を表し、これらの具体的な例としては、メチル基、エチル基、プロピル基、ブチル基、ヘキシル基及びオクチル基等の脂肪族炭化水素基や、フェニル基、ベンジル基、ナフチル基及びビフェニル基等の芳香族炭化水素基、グリシジルオキシプロピル基、メルカプトプロピル基、アミノプロピル基及びビニル基等の反応性置換基などが挙げられるが、これらの中でも、メチル基、エチル基、フェニル基、ナフチル基及びビフェニル基が熱安定性の面から、より好ましい。
【0063】
ホスホニウム化合物とシラン化合物との付加物の製造方法としては、メタノールを入れ
たフラスコに、フェニルトリメトキシシラン等のシラン化合物、2,3−ジヒドロキシナフタレン等のプロトン供与体を加えて溶かし、次に室温攪拌下ナトリウムメトキシド−メタノール溶液を滴下する。さらにそこへ予め用意したテトラフェニルホスホニウムブロマイド等のテトラ置換ホスホニウムハライドをメタノールに溶かした溶液を室温攪拌下滴下すると結晶が析出する。析出した結晶を濾過、水洗、真空乾燥すると、ホスホニウム化合物とシラン化合物との付加物が得られる。しかし、これに限定されるものではない。
【0064】
本発明の半導体封止用エポキシ樹脂組成物に用いることができる硬化促進剤(D)の配合割合の下限値は、全エポキシ樹脂組成物中0.1質量%以上であることが好ましい。硬化促進剤(D)の配合割合の下限値が上記範囲内であると、充分な硬化性を得ることができる。また、硬化促進剤(D)の配合割合の上限値は、全エポキシ樹脂組成物中1質量%以下であることが好ましい。硬化促進剤(D)の配合割合の上限値が上記範囲内であると、充分な流動性を得ることができる。また、エリア表面実装型の半導体装置における反りの低減という点を考慮すると、エポキシ樹脂組成物の硬化性及び樹脂硬化物の熱時弾性率を高めることができるように、用いる硬化促進剤の種類に応じて配合割合を調整することが望ましい。
【0065】
本発明では、さらに芳香環を構成する2個以上の隣接する炭素原子にそれぞれ水酸基が結合した化合物(E)を用いることができる。芳香環を構成する2個以上の隣接する炭素原子にそれぞれ水酸基が結合した化合物(E)(以下、「化合物(E)」とも称する。)は、これを用いることにより、一般式(1)で表される構造を有するエポキシ樹脂(A)と硬化剤(B)との架橋反応を促進させる硬化促進剤として、潜伏性を有しないリン原子含有硬化促進剤を用いた場合であっても、樹脂組成物の溶融混練中での反応を抑えることができ、安定してエポキシ樹脂組成物を得ることができる。また、化合物(E)は、エポキシ樹脂組成物の溶融粘度を下げ、流動性を向上させる効果も有するものである。化合物(E)としては、下記一般式(9)で表される単環式化合物又は下記一般式(10)で表される多環式化合物等を用いることができ、これらの化合物は水酸基以外の置換基を有していてもよい。
【0066】
【化9】

(ただし、上記一般式(9)において、R16、R20はどちらか一方が水酸基であり、片方が水酸基のとき他方は水素原子、水酸基又は水酸基以外の置換基である。R17、R18及びR19は水素原子、水酸基又は水酸基以外の置換基である。)
【0067】
【化10】

(ただし、上記一般式(10)において、R21、R27はどちらか一方が水酸基であり、片方が水酸基のとき他方は水素原子、水酸基又は水酸基以外の置換基である。R22、R23、R24、R25及びR26は水素原子、水酸基又は水酸基以外の置換基である。)
【0068】
一般式(9)で表される単環式化合物の具体例としては、例えば、カテコール、ピロガロール、没食子酸、没食子酸エステル又はこれらの誘導体が挙げられる。また、一般式(10)で表される多環式化合物の具体例としては、例えば、1,2−ジヒドロキシナフタレン、2,3−ジヒドロキシナフタレン及びこれらの誘導体が挙げられる。これらのうち、流動性と硬化性の制御のしやすさから、芳香環を構成する2個の隣接する炭素原子にそれぞれ水酸基が結合した化合物が好ましい。また、混練工程での揮発を考慮した場合、母核は低揮発性で秤量安定性の高いナフタレン環である化合物とすることがより好ましい。この場合、化合物(E)を、具体的には、例えば、1,2−ジヒドロキシナフタレン、2,3−ジヒドロキシナフタレン及びその誘導体等のナフタレン環を有する化合物とすることができる。これらの化合物(E)は1種類を単独で用いても2種以上を併用してもよい。
【0069】
かかる化合物(E)の配合割合の下限値は、全エポキシ樹脂組成物中に0.01質量%以上であることが好ましく、より好ましくは0.03質量%以上、特に好ましくは0.05質量%以上である。化合物(E)の配合割合の下限値が上記範囲内であると、エポキシ樹脂組成物の充分な低粘度化と流動性向上効果を得ることができる。また、化合物(E)の配合割合の上限値は、全エポキシ樹脂組成物中に1質量%以下であることが好ましく、より好ましくは0.8質量%以下、特に好ましくは0.5質量%以下である。化合物(E)の配合割合の上限値が上記範囲内であると、エポキシ樹脂組成物の硬化性の低下や硬化物物性の低下を引き起こす恐れが少ない。
【0070】
本発明の半導体封止用エポキシ樹脂組成物においては、エポキシ樹脂と無機充填剤(C)との密着性を向上させるため、シランカップリング剤等の密着助剤(F)を添加することができる。その例としては特に限定されないが、エポキシシラン、アミノシラン、ウレイドシラン、メルカプトシラン等が挙げられ、エポキシ樹脂と無機充填剤との間で反応し、エポキシ樹脂と無機充填剤の界面強度を向上させるものであればよい。また、シランカップリング剤は、前述の化合物(E)と併用することで、エポキシ樹脂組成物の溶融粘度を下げ、流動性を向上させるという化合物(E)の効果を高めることもできるものである。
【0071】
より具体的には、エポキシシランとしては、例えば、γ−グリシドキシプロピルトリエトキシシラン、γ−グリシドキシプロピルトリメトキシシラン、γ−グリシドキシプロピルメチルジメトキシシラン、β−(3,4エポキシシクロヘキシル)エチルトリメトキシシラン等が挙げられる。また、アミノシランとしては、例えば、γ−アミノプロピルトリエトキシシラン、γ−アミノプロピルトリメトキシシラン、N−β(アミノエチル)γ−
アミノプロピルトリメトキシシラン、N−β(アミノエチル)γ−アミノプロピルメチルジメトキシシラン、N−フェニルγ−アミノプロピルトリエトキシシラン、N−フェニルγ−アミノプロピルトリメトキシシラン、N−β(アミノエチル)γ−アミノプロピルトリエトキシシラン、N−6−(アミノヘキシル)3−アミノプロピルトリメトキシシラン、N−3−(トリメトキシシリルプロピル)−1,3−ベンゼンジメタナン等が挙げられる。また、ウレイドシランとしては、例えば、γ−ウレイドプロピルトリエトキシシラン、ヘキサメチルジシラザン等が挙げられる。また、メルカプトシランとしては、例えば、γ−メルカプトプロピルトリメトキシシラン等が挙げられる。これらのシランカップリング剤は1種類を単独で用いても2種類以上を併用してもよい。
【0072】
本発明の半導体封止用エポキシ樹脂組成物に用いることができるシランカップリング剤等の密着助剤(F)の配合割合の下限値としては、全エポキシ樹脂組成物中0.01質量%以上が好ましく、より好ましくは0.05質量%以上、特に好ましくは0.1質量%以上である。シランカップリング剤等の密着助剤(F)の配合割合の下限値が上記範囲内であれば、エポキシ樹脂と無機充填剤との界面強度が低下することがなく、半導体装置における良好な耐半田クラック性を得ることができる。また、シランカップリング剤等の密着助剤(F)の配合割合の上限値としては、全エポキシ樹脂組成物中1質量%以下が好ましく、より好ましくは0.8質量%以下、特に好ましくは0.6質量%以下である。シランカップリング剤等の密着助剤(F)の配合割合の上限値が上記範囲内であれば、エポキシ樹脂と無機充填剤との界面強度が低下することがなく、半導体装置における良好な耐半田クラック性を得ることができる。また、シランカップリング剤等の密着助剤(F)の配合割合が上記範囲内であれば、エポキシ樹脂組成物の硬化物の吸水性が増大することがなく、半導体装置における良好な耐半田クラック性を得ることができる。
【0073】
本発明の半導体封止用エポキシ樹脂組成物では、前述した成分以外に、カーボンブラック、ベンガラ、酸化チタン等の着色剤;カルナバワックス等の天然ワックス、ポリエチレンワックス等の合成ワックス、ステアリン酸やステアリン酸亜鉛等の高級脂肪酸及びその金属塩類若しくはパラフィン等の離型剤;シリコーンオイル、シリコーンゴム等の低応力添加剤;酸化ビスマス水和物等の無機イオン交換体;水酸化アルミニウム、水酸化マグネシウム等の金属水酸化物や、硼酸亜鉛、モリブデン酸亜鉛、フォスファゼン、三酸化アンチモン等の難燃剤等の添加剤を適宜配合してもよい。
【0074】
本発明の半導体封止用エポキシ樹脂組成物は、キュラストメーターを用いて、金型温度175℃にて該エポキシ樹脂組成物の硬化トルクを経時的に測定した際の、測定開始120秒後の硬化トルク値をT120、測定開始300秒後までの最大硬化トルク値をTmaxとした場合に、硬化トルク比T120/Tmax×100(%)が70%以上であることが好ましく、80%以上であることがより好ましい。硬化トルクは熱剛性のパラメータであり、硬化トルク比の大きい方が成形直後の熱剛性が良好となる。硬化トルク比を上記範囲とすることで、エポキシ樹脂(A)の剛直な骨格構造と相まって、エポキシ樹脂組成物を用いて作製したエリア表面実装型の半導体装置を、成形直後から反り量が小さく、かつ各種の加熱工程を経ても反りの変動量が小さいものとする効果を得ることができる。それにより、エリア表面実装型の半導体装置を、半導体装置製造工程内での搬送性、ハンドリング性に優れ、半導体装置のマザーボード実装歩留まりを向上させ、さらに実装後の半田ボールの残留応力を低減させる効果を得ることができる。
【0075】
また、本発明の半導体封止用エポキシ樹脂組成物として好ましい様態は、キュラストメーターを用いて、金型温度175℃にて前記エポキシ樹脂組成物の硬化トルクを経時的に測定した際の、測定開始300秒後までの最大硬化トルク値をTmaxとしたとき、Tmaxの2%の硬化トルク値に達する、測定開始からの経過時間が、25秒以上、80秒以下の範囲であることが好ましく、30秒以上、70秒以下の範囲であることがより好まし
い。最大硬化トルク値の2%の硬化トルク値に達するまでの経過時間(硬化立ち上がり時間)は、エポキシ樹脂組成物が低粘度で流動性を維持している安定時間の目安となるパラメータであり、硬化立ち上がり時間が長いほど、成形時の流動性が良好となる。硬化立ち上がり時間を上記範囲とすることで、半導体素子の封止成形時におけるエポキシ樹脂組成物の硬化性を損ねることなく、粘度を低減化し流動性を向上させる効果を得ることができる。それにより、エリア表面実装型の半導体装置におけるワイヤ流れ等の不具合を低減する効果を得ることができる。
【0076】
本発明において、硬化トルク比及び硬化立ち上がり時間の測定に用いるキュラストメーターとしては、例えば、オリエンテック(株)製、JSRキュラストメーターIVPS型等を用いることができる。本発明の半導体封止用エポキシ樹脂組成物の硬化トルク比及び硬化立ち上がり時間を上記の好ましい範囲とするためには、一般式(1)で表される構造を有するエポキシ樹脂(A)と、硬化剤(B)と、無機充填剤(C)と、硬化促進剤(D)との種類と配合割合を調整することで達成することができる。特に、一般式(1)で表される構造を有するエポキシ樹脂(A)の種類と配合割合、エポキシ樹脂全体のエポキシ基数(Ep)と硬化剤全体のフェノール性水酸基数(Ph)との当量比(Ep/Ph)、無機充填剤(C)の含有割合、硬化促進剤(D)の種類と配合割合等を調整することが重要である。
【0077】
本発明の半導体封止用エポキシ樹脂組成物は、硬化物の260℃における曲げ弾性率の下限値が400MPa以上であることが好ましく、450MPa以上であることが特に好ましい。硬化物の260℃における曲げ弾性率の下限値が上記範囲内であると、エリア表面実装型の半導体装置において、成形直後からの反り量と、その後の各種加熱工程を経てからの反りの変動量とを、共に小さいものとする効果を得ることができる。それにより、エリア表面実装型の半導体装置において、半導体装置製造工程内での搬送性、ハンドリング性に優れ、半導体装置のマザーボード実装歩留まりが高く、さらに実装後の半田ボールの残留応力を抑えることができる効果を得ることができる。また、本発明の半導体封止用エポキシ樹脂組成物は、硬化物の260℃における曲げ弾性率の上限値が1100MPa以下であることが好ましく、1000MPa以下であることが特に好ましい。硬化物の260℃における曲げ弾性率の上限値が上記範囲内であると、耐半田性試験における熱応力を小さくすることができ、耐半田性試験における不良数を低減することができる。本発明において、硬化物の260℃における曲げ弾性率は、JIS K 6911に準じて、例えば、(株)オリエンテック製、テンシロンUCT−5T型を用いて測定することができる。樹脂硬化物の260℃における曲げ弾性率を上記の好ましい範囲とするためには、一般式(1)で表される構造を有するエポキシ樹脂(A)と、硬化剤(B)と、無機充填剤(C)と、硬化促進剤(D)との種類と配合割合を調整することで達成することができる。特に、一般式(1)で表される構造を有するエポキシ樹脂(A)の種類と配合割合、エポキシ樹脂全体のエポキシ基数(Ep)と硬化剤全体のフェノール性水酸基数(Ph)との当量比(Ep/Ph)、無機充填剤(C)の含有割合、硬化促進剤(D)の種類と配合割合等を調整することが重要である。
【0078】
本発明の半導体封止用エポキシ樹脂組成物は、(A)〜(C)成分、及びその他の添加剤等を、例えば、ミキサー等を用いて常温で均一に混合したもの、さらにその後、加熱ロール、ニーダー又は押出機等の混練機を用いて溶融混練し、続いて冷却、粉砕したものなど、必要に応じて適宜分散度や流動性等を調整したものを用いることができる。
【0079】
次に、本発明の半導体装置について説明する。本発明の半導体封止用エポキシ樹脂組成物の硬化物により半導体素子を封止し半導体装置を製造するには、例えば、半導体素子を搭載したリードフレーム、回路基板等を金型キャビティ内に設置した後、エポキシ樹脂組成物をトランスファーモールド、コンプレッションモールド、インジェクションモールド
等の成形方法で成形封止すればよい。
【0080】
本発明の半導体装置で封止される半導体素子としては、特に限定されるものではなく、例えば、集積回路、大規模集積回路、トランジスタ、サイリスタ、ダイオード、固体撮像素子等が挙げられる。
【0081】
本発明の半導体装置の形態としては、特に限定されないが、例えば、デュアル・インライン・パッケージ(DIP)、プラスチック・リード付きチップ・キャリヤ(PLCC)、クワッド・フラット・パッケージ(QFP)、ロー・プロファイル・クワッド・フラット・パッケージ(LQFP)、スモール・アウトライン・パッケージ(SOP)、スモール・アウトライン・Jリード・パッケージ(SOJ)、薄型スモール・アウトライン・パッケージ(TSOP)、薄型クワッド・フラット・パッケージ(TQFP)、テープ・キャリア・パッケージ(TCP)、ボール・グリッド・アレイ(BGA)、チップ・サイズ・パッケージ(CSP)等が挙げられる。
【0082】
トランスファーモールドなどの成形方法でエポキシ樹脂組成物の硬化物により半導体素子を封止した本発明の半導体装置は、そのまま、或いは80℃から200℃程度の温度で、10分から10時間程度の時間をかけて完全硬化させた後、電子機器等に搭載される。
【0083】
図1は、本発明に係るエポキシ樹脂組成物を用いた半導体装置の一例について、断面構造を示した図である。ダイパッド3上に、ダイボンド材硬化体2を介して半導体素子1が固定されている。半導体素子1の電極パッドとリードフレーム5との間は金線4によって接続されている。半導体素子1は、エポキシ樹脂組成物の硬化体6によって封止されている。
【0084】
図2は、本発明に係るエポキシ樹脂組成物を用いた片面封止型の半導体装置の一例について、断面構造を示した図である。基板8上にダイボンド材硬化体2を介して半導体素子1が固定されている。半導体素子1の電極パッドと基板8上の電極パッドとの間は金線4によって接続されている。エポキシ樹脂組成物の硬化体6によって、基板8の半導体素子1が搭載された片面側のみが封止されている。基板8上の電極パッドは基板8上の非封止面側の半田ボール9と内部で電気的に接合されている。
【実施例】
【0085】
以下、本発明を実施例にて具体的に説明するが、本発明はこれらの実施例により何ら限定されるものではない。以下配合量は質量部とする。実施例、比較例で用いた成分について、以下に示す。
【0086】
図3に実施例1で用いたエポキシ樹脂1のFD−MSチャートを示しているが、このFD−MS測定は次の条件で行なった。エポキシ樹脂1の試料10mgに溶剤ジメチルスルホキシド(DMSO)1gを加えて十分溶解したのち、FDエミッターに塗布の後、測定に供した。FD−MSシステムは、イオン化部に日本電子株式会社製MS−FD15Aを、検出器に日本電子株式会社製MS−700機種名二重収束型質量分析装置とを接続して用い、検出質量範囲(m/z)50〜2000にて測定した。
【0087】
また、図4に実施例1で用いたエポキシ樹脂1のゲルパーミエーションクロマトグラフィー(GPC)チャートを示しているが、このゲルパーミエーションクロマトグラフィー(GPC)測定は次の条件で行なった。エポキシ樹脂1の試料20mgに溶剤テトラヒドロフラン(THF)を6ml加えて十分溶解しGPC測定に供した。GPCシステムは、WATERS社製モジュールW2695、東ソー(株)製TSK GUARDCOLUMN HHR−L(径6.0mm、管長40mm、ガードカラム)、東ソー(株)製TSK
−GEL GMHHR−L(径7.8mm、管長30mm、ポリスチレンジェルカラム)2本、WATERS社製示差屈折率(RI)検出器W2414を直列に接続したものを用いた。ポンプの流速は0.5ml/分、カラム及び示差屈折率計内温度を40℃とし、測定溶液を100μlインジェクターより注入して測定を行った。試料の解析にあたっては、単分散ポリスチレン(以下PS)標準試料により作成した検量線を用いる。検量線はPSの分子量の対数値とPSのピーク検出時間(保持時間)をプロットし、3次式に回帰したものを用いる。検量線作成用の標準PS試料としては、昭和電工(株)製ShodexスタンダードSL−105シリーズの品番S−1.0(ピーク分子量1060)、S−1.3(ピーク分子量1310)、S−2.0(ピーク分子量1990)、S−3.0(ピーク分子量2970)、S−4.5(ピーク分子量4490)、S−5.0(ピーク分子量5030)、S−6.9(ピーク分子量6930)、S−11(ピーク分子量10700)、S−20(ピーク分子量19900)を使用した。
【0088】
(エポキシ樹脂)
エポキシ樹脂1:前駆体ナフトール樹脂として1.1’−ビ−2―ナフトール(東京化成工業製試薬、融点220℃、分子量286.3、純度99.4%)100質量部に、エピクロルヒドリン710質量部、ジメチルスルホキシド200質量部を加えて溶解後、40℃に加熱し、水酸化ナトリウム(固形細粒状、純度99%試薬)55.9質量部を2時間かけて添加し、50℃に昇温して2時間、さらに80℃に昇温して2時間反応させた。反応後、蒸留水150質量部を加えて振とうした後に、水層を棄却する操作(水洗)を洗浄水が中性になるまで繰り返し行った後、油層を125℃減圧処理することによってエピクロルヒドリン及びジメチルスルホキシドを留去した。得られた固形物にトルエン260質量部を加えて溶解し、70℃に加熱し20質量%水酸化ナトリウム水溶液27.9質量部を1時間かけて添加し、さらに1時間反応した後、静置し水層を棄却した。油層に蒸留水260質量部を加えて水洗操作を行い、洗浄水が中性になるまで同様の水洗操作を繰り返し行った後、加熱減圧によってトルエンを留去し、下記式(11)で表されるエポキシ樹脂1(エポキシ当量227、軟化点59℃、150℃におけるICI粘度0.35dPa・s。GPCより求めたm=0体含有量92.7質量%、m=1体含有量2.6質量%、m=2体含有量4.3質量%、m≧3体含有量0.4%。)を得た。FD−MSチャートを図3に、GPCチャートを図4に示す。
【0089】
エポキシ樹脂2:エポキシ樹脂1の合成において、前駆体ナフトール樹脂1.1’−ビ−2―ナフトール(東京化成工業製試薬、融点220℃、分子量286.3、純度99.4%)100質量部を、(R)−(+)−1,1’−ビ−2―ナフトール(東京化成工業製試薬、融点210℃、分子量286.3、純度98.7%)55質量部と(S)−(−)−1,1’−ビ−2―ナフトール(東京化成工業製試薬、融点210℃、分子量286.3、純度98.7%)45質量部とした他は、エポキシ樹脂1と同様の操作を行い、式(11)で表されるエポキシ樹脂2(エポキシ当量224、軟化点60℃、150℃におけるICI粘度0.3dPa・s。GPCより求めたm=0体含有量94.7%質量%、m=1体含有量2.1質量%、m=2体含有量3.2質量%。)を得た。
【0090】
【化11】

【0091】
エポキシ樹脂3:ビスフェノールA型エポキシ樹脂(ジャパンエポキシレジン(株)製、jER(登録商標)YL−6810。エポキシ当量172g/eq、融点45℃)
【0092】
エポキシ樹脂4:ビフェニル型エポキシ樹脂(ジャパンエポキシレジン(株)製、jER(登録商標)YX4000K。エポキシ当量185、融点105℃。)
【0093】
エポキシ樹脂5:ビスフェノールF型エポキシ樹脂(新日鐵化学(株)、YSLV−80XY。エポキシ当量190、融点80℃。)
【0094】
エポキシ樹脂6:トリフェノールメタン型エポキシ樹脂(ジャパンエポキシレジン(株)製、E−1032H60。エポキシ当量171、軟化点60℃。)
【0095】
エポキシ樹脂7:α―ナフトール(東京化成工業製1−ナフトール、融点96℃、分子量144、純度99.6%)15質量部、β―ナフトール(東京化成工業製2−ナフトール、融点122℃、分子量144、純度99.3%)85質量部、メチルイソブチルケトン(東京化成工業(株)製特級試薬、純度99.5%)100質量部とをセパラブルフラスコに秤量し、攪拌しながら固形分を溶解し、49質量%水酸化ナトリウム水溶液2.8質量部を加えた。窒素置換しながら加温し、系内の温度を100℃に到達した時点でホルアルデヒド37%水溶液(和光純薬工業(株)製ホルマリン37%)36.6質量部を徐々に添加し、100℃120分間反応させた。上記の加熱、溶融開始から反応終了までの間、系内の温度については95℃から105℃の範囲を維持し、反応やホルマリン添加によって系内に発生、混入した水分については、窒素気流によって系外へ排出した。反応終了後、分液漏斗に移し、蒸留水150質量部を加えて振とうした後に、水層を棄却する操作(水洗)を洗浄水が中性になるまで繰り返し行った後、油層を125℃減圧処理することによって、メチルイソブチルケトンや残留モノマー成分などの揮発成分を留去し、褐色の固形分(前駆体ナフトール樹脂)を得た。収得したナフトール樹脂分100質量部に対して、エピクロルヒドリン291.2質量部、ジメチルスルホキシド200質量部を加えて溶解後、40℃に加熱し、水酸化ナトリウム(固形細粒状、純度99%試薬)22.2質量部を2時間かけて添加し、50℃に昇温して2時間、さらに70℃に昇温して2時間反応させた。反応後、蒸留水150質量部を加えて振とうした後に、水層を棄却する操作(水洗)を洗浄水が中性になるまで繰り返し行った後、油層を125℃減圧処理することによってエピクロルヒドリン及びジメチルスルホキシドを留去した。得られた固形物にトルエン260質量部を加えて溶解し、70℃に加熱し20質量%水酸化ナトリウム水溶液10.2質量部を1時間かけて添加し、さらに1時間反応した後、静置し水層を棄却した。油層に蒸留水260質量部を加えて水洗操作を行い、洗浄水が中性になるまで同様の水洗操作を繰り返し行った後、加熱減圧によってトルエンを留去し、下記式(12)で表されるエポキシ樹脂7(エポキシ当量231、軟化点80℃、150℃におけるICI粘度0.8dPa・s。)を得た。
【0096】
【化12】

【0097】
エポキシ樹脂8:下記式(13)で表される多官能ナフタレン型エポキシ樹脂(大日
本インキ化学工業(株)製、EXA−4701。エポキシ当量163、軟化点68℃、150℃におけるICI粘度1.0dPa・s。)
【0098】
【化13】

【0099】
(硬化剤)
硬化剤1:フェニレン骨格を有するフェノールアラルキル樹脂(三井化学(株)製、XLC−4L。水酸基当量168、軟化点62℃。)
硬化剤2:下記式(14)で表される化合物(新日鐵化学(株)製、SN−485。水酸基当量210、軟化点85℃。)
【0100】
【化14】

【0101】
硬化剤3:トリフェノールメタン型フェノール樹脂(明和化成(株)製、MEH−7500。水酸基当量98、軟化点110℃。)
硬化剤4:フェノールノボラック樹脂(住友ベークライト(株)製、PR−HF−3。水酸基当量104、軟化点80℃。)
硬化剤5:ビフェニレン骨格フェノールアラルキル樹脂(明和化成(株)製、MEH−7851SS。水酸基当量203、軟化点67℃。)
【0102】
(無機充填剤)
無機充填剤1:電気化学工業製溶融球状シリカFB560(平均粒径30μm)100質量部、アドマテックス製合成球状シリカSO−C2(平均粒径0.5μm)6.5質量部、アドマテックス製合成球状シリカSO−C5(平均粒径30μm)7.5質量部とを予めブレンドしたもの。
【0103】
(複合金属水酸化物)
複合金属水酸化物:水酸化マグネシウム・水酸化亜鉛固溶体複合金属水酸化物(タテホ化学(株)製、エコーマグZ−10。)
【0104】
(硬化促進剤)
硬化促進剤1:下記式(15)で表される硬化促進剤
【化15】

【0105】
硬化促進剤2:下記式(16)で表される硬化促進剤
【化16】

【0106】
硬化促進剤3:下記式(17)で表される硬化促進剤
【化17】

【0107】
硬化促進剤4:下記式(18)で表される硬化促進剤
【化18】

【0108】
硬化促進剤5:下記式(19)で表される硬化促進剤
【化19】

【0109】
硬化促進剤6:トリフェニルホスフィン(北興化学工業(株)製、TPP。)
【0110】
(化合物(E))
化合物E1:下記式(20)で表される化合物(東京化成工業(株)製、2,3−ナフタレンジオール、純度98%。)
【化20】

【0111】
(シランカップリング剤)
シランカップリング剤1:γ−グリシドキシプロピルトリメトキシシラン(信越化学工業(株)製、KBM−403。)
シランカップリング剤2:γ−メルカプトプロピルトリメトキシシラン(信越化学工業(株)製、KBM−803。)
【0112】
(着色剤)
着色剤1:カーボンブラック(三菱化学工業(株)製、MA600。)
【0113】
(離型剤)
離型剤1:カルナバワックス(日興ファイン(株)製、ニッコウカルナバ、融点83℃。)
【0114】
実施例1
エポキシ樹脂1 7.63質量部
硬化剤1 5.37質量部
無機充填剤1 86質量部
硬化促進剤1 0.4質量部
シランカップリング剤1 0.1質量部
シランカップリング剤2 0.1質量部
着色剤1 0.3質量部
離型剤1 0.1質量部
をミキサーにて常温混合し、80〜100℃の加熱ロールで溶融混練し、冷却後粉砕し、エポキシ樹脂組成物を得た。得られたエポキシ樹脂組成物を用いて以下の方法で評価した。評価結果を表1に示す。
【0115】
スパイラルフロー:低圧トランスファー成形機(コータキ精機(株)製、KTS−15)を用いて、EMMI−1−66に準じたスパイラルフロー測定用金型に、175℃、注入圧力6.9MPa、保圧時間120秒の条件でエポキシ樹脂組成物を注入し、流動長を測定した。スパイラルフローは、流動性のパラメータであり、数値が大きい方が、流動性が良好である。単位はcm。
【0116】
硬化トルク比:キュラストメーター(オリエンテック(株)製、JSRキュラストメーターIVPS型)を用い、金型温度175℃にてエポキシ樹脂組成物の硬化トルクを経時的に測定し、測定開始120秒後の硬化トルク値、300秒後までの最大硬化トルク値を求め、硬化トルク比:(120秒後の硬化トルク値)/(300秒後までの最大硬化トルク値)×100(%)を計算した。キュラストメーターにおける硬化トルクは熱剛性のパ
ラメータであり、硬化トルク比の大きい方が成形直後の熱剛性は良好である。単位は%。
【0117】
硬化立ち上がり時間:キュラストメーター(オリエンテック(株)製、JSRキュラストメーターIVPS型)を用い、金型温度175℃にてエポキシ樹脂組成物の硬化トルクを経時的に測定し、得られたチャートにより、測定開始300秒後までの最大硬化トルク値の2%の硬化トルク値に達する、測定開始からの経過時間を算出し、硬化立ち上がり時間とした。硬化立ち上がり時間は、エポキシ樹脂組成物が低粘度で流動性を維持している安定時間の目安となるパラメータであり、硬化立ち上がり時間が長いほど、流動性は良好である。単位は秒。
【0118】
・熱時曲げ弾性率:低圧トランスファー成形機(コータキ精機株式会社製、KTS−30)を用いて、金型温度175℃、注入圧力9.8MPa、硬化時間120秒の条件で、エポキシ樹脂組成物を注入成形し、長さ80mm、幅10mm、厚さ4mmの成形品を得た。得られた成形品を、後硬化として175℃、8時間加熱処理したものを試験片とし、熱時曲げ弾性率をJIS K 6911に準じて260℃の雰囲気温度下で測定した。単位はMPa。
【0119】
ガラス転移温度(Tg):トランスファー成形機(藤和精機(株)製、TEP−50−30)を用いて、金型温度175℃、成形圧力9.8MPa、硬化時間120秒の条件下で、樹脂組成物を注入成形して、幅4mm、厚さ3mm、長さ15mmの試験片を作製した。得られた試験片の長さ方向について、圧縮荷重5g、昇温速度5℃/分、測定範囲−65℃〜300℃の条件下で、熱機械分析法(TMA、熱機械分析装置としてセイコーインスツル(株)製、TMA−120/SSC6200を使用)により測定した。測定によって得られる温度と試料寸法とのグラフにおいて、Tgより低い温度領域とTgより高い温度領域で、その傾きがほぼ一定となった部分でそれぞれ接線を作図し、その交点をもってTgとした。単位は℃。
【0120】
吸湿率:低圧トランスファー成形機(コータキ精機株式会社製、KTS−30)を用いて、金型温度175℃、注入圧力7.4MP、硬化時間120秒の条件で、エポキシ樹脂組成物を注入成形して直径50mm、厚さ3mmの試験片を作製し、175℃、8時間で後硬化した。その後、得られた試験片を85℃、相対湿度85℃の環境下で168時間加湿処理し、加湿処理前後の重量変化を測定し吸湿率を求めた。単位は重量%。
【0121】
耐燃性:低圧トランスファー成形機(コータキ精機(株)製、KTS−30)を用いて、金型温度175℃、注入時間15秒、硬化時間120秒、注入圧力9.8MPaの条件で、エポキシ樹脂組成物を注入成形して、3.2mm厚の耐燃試験片を作製した。得られた試験片について、UL94垂直法の規格に則り耐燃試験を行った。表には、Fmax、ΣF及び判定後の耐燃ランクを示した。
【0122】
パッケージの反り特性:低圧トランスファー成形機(TOWA製、Yシリーズ)を用いて、金型温度175℃、注入圧力6.9MPa、硬化時間2分の条件で、エポキシ樹脂組成物によりシリコンチップ等を封止成形して、352ピンBGA(基板は厚さ0.56mm、ビスマレイミド・トリアジン樹脂/ガラスクロス基板、パッケージサイズは30×30mm、厚さ1.17mm、シリコンチップはサイズ10×10mm、厚さ0.35mm、チップと回路基板のボンディングパッドとを25μm径の金線でボンディングした。)を得た。得られたパッケージについて、下記の処理工程後に反り量を測定した。反り量の測定方法は、封止成形した面を上にし、表面粗さ計を用いてパッケージ上面のゲートから対角線方向に高さ方向の変位を測定し、変位差の最も大きい値を反り量とした。尚、測定サンプル数は半導体装置各n=4個の測定値の平均値を、上に凸の反り変位の場合は数値を負の値とし、凹の反り変位の場合は数値を正の値として(+の符号は略)表示した。単
位はμm。
成形後反り量(W1):成形後の25℃における反り量
熱履歴後反り量(W2):成形後反り量(W1)を測定した後、後硬化(175℃、4時間)した後IRリフロー処理(260℃、JEDEC条件に従う)を行い、更に125℃、8時間の乾燥工程を行った後の25℃での反り量
反り変動量(W1−W2):成形後の反り量をW1とし、熱履歴後反り量をW2としたときの差
成形後の反り量(W1)が80μm以上であると装置による搬送が困難になる。また、反り変動量(W1−W2)が40μm以上であると、半導体装置をマザーボード上に実装した際に、半田ボールがマザーボードから浮き上がり、電気的接合信頼性が損なわれる可能性、あるいは実装後においても半田ボールに残留応力が加わる可能性があり好ましくない。実施例1で得られたエポキシ樹脂組成物はW1,W2,(W1−W2)いずれも上述の値を満たしており良好な反り特性を示した。
【0123】
耐半田性試験1:低圧トランスファー成形機(TOWA製、Yシリーズ)を用いて、金型温度180℃、注入圧力7.4MPa、硬化時間120秒の条件で、エポキシ樹脂組成物を注入してシリコンチップが搭載された回路基板等を封止成形し、225ピンのボール・グリッド・アレイ(225pBGA;基板は厚さ0.36mm、ビスマレイミド・トリアジン/ガラスクロス基板、パッケージサイズは24×24mm、厚さ1.17mm、シリコンチップはサイズ9×9mm、厚さ0.35mm、チップと回路基板のボンディングパッドとを25μm径の金線でボンディングしている。平均金線長は5mm。)を作製した。ポストキュアとして175℃で8時間加熱処理したパッケージ8個を、30℃、相対湿度60%で168時間加湿処理した後、IRリフロー処理(260℃、JEDEC・Level3条件に従う)を行った。処理後のパッケージ内部の剥離、及びクラックの有無を超音波傷機(日立建機ファインテック製、mi−scope10)で観察し、剥離又はクラックのいずれか一方でも発生したものを不良とした。n=8個中の不良半導体装置の個数を表示した。実施例1で得られたエポキシ樹脂組成物は不良個数0/8と良好な信頼性を示した。
【0124】
耐半田性試験2:上述の耐半田性試験1の加湿処理条件を60℃、相対湿度60%で120時間加湿処理としたほかは、耐半田性試験1と同様に試験を実施した。実施例1で得られたエポキシ樹脂組成物は不良個数0/8と良好な信頼性を示した。
【0125】
実施例2〜11、比較例1〜7
表1、表2の配合に従い、実施例1と同様にしてエポキシ樹脂組成物を製造し、実施例1と同様にして評価した。評価結果を表1、表2に示す。
【0126】
【表1】

【0127】
【表2】

【0128】
実施例1〜11は、一般式(1)で表されるエポキシ樹脂(A)、硬化剤(B)、無機充填剤(C)、硬化促進剤(D)を含み、かつキュラスト測定における硬化トルク比が70%以上の範囲のものであり、エポキシ樹脂(A)の種類や配合割合を変更したもの、硬化剤(B)の種類を変更したもの、或いは、硬化促進剤(D)の種類を変更したものを含むものであるが、いずれにおいても、吸湿率が低く、流動性(スパイラルフロー)、耐燃性、反り特性及び耐半田性のバランスに優れる結果となった。一方、一般式(1)で表されるエポキシ樹脂(A)の代わりに他のエポキシ樹脂を用いた比較例1〜4においては、吸湿率が高く、耐半田性が劣る結果となった。比較例1〜4のうち、キュラスト測定における硬化トルク比が70%を下回る比較例4においては、さらに成形直後の反りも劣る結果となった。また、比較例1、2においては、耐燃性も劣る結果であった。また、一般式
(1)で表されるエポキシ樹脂(A)は用いているものの、キュラスト測定における硬化トルク比が70%を下回る比較例5〜7においては、吸湿率が高く、耐半田性が劣る結果となった。また、比較例5〜7は、反り特性も劣る結果となった。
【産業上の利用可能性】
【0129】
本発明に従うと、ブロム化エポキシ樹脂、アンチモン化合物を使用せずに、低コストながらも耐燃性に優れ、片面封止型の半導体パッケージにおいて反りが小さく、かつ流動性、耐半田性のバランスが良好なエポキシ樹脂組成物及びその硬化物により、生産性と信頼性に優れた半導体素子を封止してなる半導体装置を得ることができるため、半導体装置封止用、特にエリア表面実装型の半導体装置用として好適である。
【図面の簡単な説明】
【0130】
【図1】本発明に係るエポキシ樹脂組成物を用いた半導体装置の一例について、断面構造を示した図である。
【図2】本発明に係るエポキシ樹脂組成物を用いた片面封止型の半導体装置の一例について、断面構造を示した図である。
【図3】エポキシ樹脂1のFD−MSチャートである。
【図4】エポキシ樹脂1のGPCチャートである。
【符号の説明】
【0131】
1 半導体素子
2 ダイボンド材硬化体
3 ダイパッド
4 金線
5 リードフレーム
6 エポキシ樹脂組成物の硬化体
7 レジスト
8 基板
9 半田ボール

【特許請求の範囲】
【請求項1】
半導体封止用のエポキシ樹脂組成物であって、
下記一般式(1)で表されるエポキシ樹脂(A)
【化1】

(ただし、上記一般式(1)において、R1はそれぞれ炭素数1〜20の炭化水素基の中から選ばれた基であり、互いに同じであっても異なっていてもよい。一つのナフタレン環におけるグリシジルエーテル基もしくはそれが開環した基、R1及び他のナフチレン基の結合位置は、ナフタレン環のいずれの位置であってもよい。mは0〜5の整数であり、aは0〜6の整数である。)と、
硬化剤(B)と、
無機充填剤(C)と、
硬化促進剤(D)と、
を含み、
前記エポキシ樹脂(A)が上記一般式(1)においてm=0である成分を必須成分として含むものであり、
キュラストメーターを用いて、金型温度175℃にて該エポキシ樹脂組成物の硬化トルクを経時的に測定した際の、測定開始120秒後の硬化トルク値をT120、測定開始300秒後までの最大硬化トルク値をTmaxとしたとき、硬化トルク比T120/Tmax×100(%)が70%以上の範囲であることを特徴とする半導体封止用エポキシ樹脂組成物。
【請求項2】
キュラストメーターを用いて、金型温度175℃にて前記エポキシ樹脂組成物の硬化トルクを経時的に測定した際の、測定開始300秒後までの最大硬化トルク値をTmaxとしたとき、Tmaxの2%の硬化トルク値に達する、測定開始からの経過時間が、25秒以上、80秒以下の範囲であることを特徴とする請求項1記載の半導体封止用エポキシ樹脂組成物。
【請求項3】
前記エポキシ樹脂組成物の硬化物の260℃における曲げ弾性率が400MPa以上、1100MPa以下の範囲であることを特徴とする請求項1又は請求項2に記載の半導体封止用エポキシ樹脂組成物。
【請求項4】
前記エポキシ樹脂(A)が前記一般式(1)においてm=0である成分を80質量%以上含むことを特徴とする請求項1ないし請求項3のいずれか1項に記載の半導体封止用エポキシ樹脂組成物。
【請求項5】
前記硬化剤(B)が一分子中にフェノール性水酸基を2個以上含む化合物であることを特徴とする請求項1ないし請求項4のいずれか1項に記載の半導体封止用エポキシ樹脂組成物。
【請求項6】
前記硬化促進剤(D)が、テトラ置換ホスホニウム化合物(d1)、ホスホニウム化合物とシラン化合物との付加物(d2)から選ばれた少なくとも1種の硬化促進剤を含むことを特徴とする請求項1ないし請求項5のいずれか1項に記載の半導体封止用エポキシ樹脂組成物。
【請求項7】
前記硬化促進剤(D)が、前記エポキシ樹脂組成物の成形から硬化に至る段階において、芳香環にヒドロキシル基が2つ以上結合した化合物を生成し得るものであることを特徴とする請求項1ないし請求項6のいずれか1項に記載の半導体封止用エポキシ樹脂組成物。
【請求項8】
回路基板と、該回路基板上に搭載された半導体素子と、前記回路基板と前記半導体素子とを電気的に接続するワイヤと、前記半導体素子と前記ワイヤとを封止する封止材とを備えたエリア表面実装型の半導体装置の封止材用として用いられることを特徴とする請求項1ないし請求項7のいずれか1項に記載の半導体封止用エポキシ樹脂組成物。
【請求項9】
請求項1ないし請求項7のいずれか1項に記載の半導体封止用エポキシ樹脂組成物の硬化物により半導体素子を封止してなることを特徴とする半導体装置。
【請求項10】
回路基板と、該回路基板上に搭載された半導体素子と、前記回路基板と前記半導体素子とを電気的に接続するワイヤと、前記半導体素子と前記ワイヤとを封止する封止材とを備え、該封止材が請求項8に記載の半導体封止用エポキシ樹脂組成物の硬化物から構成されてなることを特徴とするエリア表面実装型の半導体装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【公開番号】特開2009−292996(P2009−292996A)
【公開日】平成21年12月17日(2009.12.17)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−150785(P2008−150785)
【出願日】平成20年6月9日(2008.6.9)
【出願人】(000002141)住友ベークライト株式会社 (2,927)
【Fターム(参考)】