説明

半導体装置及びこれを用いた電気回路、電気回路の制御方法

【課題】消費電力を増大させずにオンチップでHEMTの動作状況をモニターする。
【解決手段】
この半導体装置10においては、第1の半導体層である電子走行層11上に、第2の半導体層である電子供給層12が形成されている。これらの界面(ヘテロ接合界面)における電子走行層側に、2次元電子ガス(2DEG)層13が形成される。この半導体装置10において、電子は、電子供給層12の表面に形成された第1の主電極であるソース電極14と、同様にこの表面に形成された第2の主電極であるドレイン電極15との間を、この2DEG層13を通って流れる。ゲート電極16とソース電極14との間の電子供給層12上に電位検出電極17が設置される。この電位検出電極17には、動作時にこの電位検出電極17に流れる電流がドレイン電流と比べて無視できる程度となるような、充分に高い抵抗値をもつ抵抗18が接続される。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、2次元電子ガスをチャンネルとして動作する半導体装置、及びこの半導体装置が用いられた電気回路、電気回路の制御方法に関する。
【背景技術】
【0002】
2次元電子ガス(2DEG)をチャンネルとして動作する半導体装置として、例えばHEMT(High Electron Mobility Transistor)が知られている。HEMTにおいては、電子走行層(例えばノンドープGaN)と電子供給層(例えばAlGaN)の界面における電子走行層側に2DEGが形成される。ソースとドレイン間における2DEG中にチャンネルが形成され、このチャンネルがゲートによってオンオフされ、スイッチング動作する。
【0003】
特に窒化物半導体であるGaN系のHEMTは、GaNの禁制帯幅が広く、かつ電子の飽和速度が高いために、大電力でのスイッチング動作に適している。従って、これを用いて大電力で動作するスイッチング回路等を構成することができる。例えば、4個のHEMTをスイッチング素子として用いてモーター駆動用のフルブリッジ回路(電気回路)を構成した例が図6である。この構成においては、ハイサイド側端子とローサイド側端子との間に、2つのスイッチング素子が直列に接続された構成をもつアームが左右に2組形成されている。各アームにおける2つのスイッチング素子の接続点がA、Bであり、A、Bにモーターを駆動するコイルLの両端子がそれぞれ接続される。このコイルLに流れる電流の方向は、ハイサイド側のトランジスタ(Tr1、Tr2)とローサイド側のトランジスタ(Tr3、Tr4)のスイッチングによって制御される。例えば、Tr1、Tr4をオン、Tr2、Tr3をオフとした際には図中の破線で示された経路でコイルLに電流が流れ、Tr1、Tr4をオフ、Tr2、Tr3をオンとした際には、これと逆方向に電流が流れる。このように、Tr1〜Tr4の各々においてオンオフを制御することにより、モーターの回転方向の制御、停止等の動作が行われる。Tr1〜Tr4として上記のHEMTを用いた場合には、特に高速で大電力の制御を行うことができる。
【0004】
特に大電力でトランジスタが用いられる場合には、トランジスタの動作状況をモニターすることが安全上有効である。例えば、図6の回路においては、Tr1に流れる電流をモニターし、Tr4をオンする前に、この電流値によってこの動作を行うか否かの判定をすることが可能である。これにより、モーターの動作を安全に行うことができる。こうした電流検出型のHEMTについては、例えば特許文献1に記載されている。特許文献1に記載の技術においては、HEMTにおける複数組のソース電極、ゲート電極、ドレイン電極が配列して形成され、更にその外側に電流検出用の電極領域が形成されている。この電極領域は、擬似的なソース電極として機能し、ここに流れる電流によって、このHEMTにおけるドレイン電流をモニターすることができる。
【0005】
こうした技術を用いて過電流を検出できるHEMTが得られ、これを用いて安全に動作する大電力のスイッチング回路を得ることができる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【特許文献1】特開2006−108679号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
しかしながら、電流検出用の素子を用いて電流を検出する場合、本来の動作電流に伴う消費電力以外に、この電流検出用の素子における消費電力が発生する。すなわち、消費電力を増大させずにオンチップでHEMTの動作状況をモニターすることは困難であった。
【0008】
本発明は、かかる問題点に鑑みてなされたものであり、上記問題点を解決する発明を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明は、上記課題を解決すべく、以下に掲げる構成とした。
本発明の半導体装置は、第1の半導体層と、当該第1の半導体層上に形成された第2の半導体層と、当該第2の半導体層上に形成されたソース電極、ドレイン電極、ゲート電極とを具備し、前記第1の半導体層と前記第2の半導体層のヘテロ接合界面の2次元電子ガス層を通って前記ソース電極と前記ドレイン電極の間で電子が流れ、当該電子が流れるチャンネルのオンオフが前記ゲート電極に印加された電圧で制御される半導体装置であって、前記ソース電極と前記ゲート電極との間のチャンネル上の前記第2の半導体層上に、電位検出電極が形成されたことを特徴とする。
本発明の半導体装置において、前記電位検出電極には、1MΩ以上の抵抗値をもつ抵抗が接続されたことを特徴とする。
本発明の半導体装置において、前記電位検出電極は、前記第2の半導体層とオーミック接触する材料で形成されたことを特徴とする。
本発明の半導体装置において、前記電位検出電極は、前記第2の半導体層とショットキー接触する材料で形成されたことを特徴とする。
本発明の半導体装置において、前記第1の半導体層及び前記第2の半導体層は窒化物半導体で構成されたことを特徴とする。
本発明の電気回路は、ハイサイド側端子とローサイド側端子の間に2つのスイッチング素子が直列接続されたアームを1組以上具備し、前記アームにおける2つのスイッチング素子の接続点に、コイルの両端子がそれぞれ接続された構成を具備する電気回路であって、前記アームにおいて、少なくともローサイド側に設置された前記スイッチング素子として、請求項1から請求項5までのいずれか1項に記載の半導体装置が用いられたことを特徴とする。
本発明の電気回路は、ハイサイド側端子とローサイド側端子の間に2つのスイッチング素子が直列接続されたアームを1組以上具備し、前記アームにおける2つのスイッチング素子の接続点に、コイルの両端子がそれぞれ接続された構成を具備する電気回路であって、前記アームに、請求項1から請求項5までのいずれか1項に記載の半導体装置が、当該半導体装置のドレイン電極が前記接続点と接続されるように設置されたことを特徴とする。
本発明の電気回路の制御方法は、前記半導体装置が用いられた電気回路の制御方法であって、前記半導体装置がオフ状態の際に、前記電位検出電極によって検出された電位が負であった場合に、前記ゲート電極に印加する電圧を制御し、前記半導体装置をオン状態とする第1のステップを具備することを特徴とする。
本発明の電気回路の制御方法は、前記第1のステップの後で、前記電位検出電極によって検出された電位の絶対値が予め設定された値よりも小さくなった場合に、前記半導体装置をオフ状態とする第2のステップを具備することを特徴とする。
【発明の効果】
【0010】
本発明は以上のように構成されているので、消費電力を増大させずにオンチップでHEMTの動作状況をモニターすることができる。これを用いて電気回路の最適な動作を行うことができる。
【図面の簡単な説明】
【0011】
【図1】本発明の実施の形態に係る半導体装置の断面図(a)及びその等価回路図(b)である。
【図2】フルブリッジ型のモーター駆動用回路においてA点が負電位となった場合のTr3の特性を示す図である。
【図3】通常のMOSFETが用いられたモーター駆動用回路の構成を示す図である。
【図4】本発明の実施の形態に係る半導体装置が用いられたモーター駆動用回路の構成(一部)を示す図である。
【図5】本発明の実施の形態に係る半導体装置が用いられたモーター駆動用回路の他の一例の構成(一部)を示す図である。
【図6】フルブリッジ型のモーター駆動用回路の一例の構成を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0012】
本発明の半導体装置は、特に大電力でのスイッチング素子として好ましく用いることができる。この半導体装置は、第1の半導体層上に第2の半導体層が形成され、これらのヘテロ接合界面に形成された2次元電子ガス(2DEG)からなるチャンネルがゲート電極に印加された電圧によってオンオフ制御される、いわゆるHEMT(High Electron Mobility Transistor)である。この際、その動作状況、すなわち主電極の電位等をモニターすることができる。
【0013】
図1(a)は、この半導体装置の構造を示す断面図であり、図1(b)は、この構造を示す等価回路図である。
【0014】
図1(a)に示されるように、この半導体装置10においては、第1の半導体層である電子走行層11上に、第2の半導体層である電子供給層12が形成されている。これらの界面(ヘテロ接合界面)における電子走行層側に、2次元電子ガス(2DEG)層13が形成される。この2DEGは、ヘテロ接合界面のバンド構造の不連続性や、特に電子走行層11がGaNである場合にはピエゾ分極によって形成される。この半導体装置10において、電子は、電子供給層12の表面に形成された第1の主電極であるソース電極14と、同様にこの表面に形成された第2の主電極であるドレイン電極15との間を、この2DEG層13を通って流れる。ソース電極14とドレイン電極15の間の電子供給層12表面には、ゲート電極16が形成されている。ソース電極14からドレイン電極15の間の2DEG層13中に電子が流れるチャンネルが形成される。このチャンネルのオンオフが、ゲート電極14によって制御されることによって、スイッチング動作が行われる。なお、図1では省略されているが、電子走行層11は、基板上に形成されている。以上の構成は、従来より知られるHEMTと同様である。この半導体装置10が使用される際には、ソース電極14が接地側、ドレイン電極15が正の高圧側とされ、ゲート電極16に印加された電圧によってソース電極14とドレイン電極15の間のチャンネルの導通がオンオフされる。
【0015】
この半導体装置10においては、ゲート電極16とソース電極14との間の電子供給層12上に電位検出電極17が設置される。この電位検出電極17には、動作時にこの電位検出電極17に流れる電流がドレイン電流と比べて無視できる程度となるような、充分に高い抵抗値(例えば1MΩ以上)をもつ抵抗18が接続される。
【0016】
図1(b)に示されるように、上記の構成においては、電位検出電極17によって検出される電位は、ゲート電極16直下からソース電極14までの間のチャンネル電位が抵抗分割された電位に対応する。すなわち、この部分のチャンネル電位を、電位検出電極17によって検出することができる。
【0017】
電子走行層(第1の半導体層)11は、ノンドープの単結晶GaN層であり、例えばシリコン基板上にエピタキシャル成長によって形成される。その厚さは例えば0.5〜10μm程度である。基板上に直接成長させるのではなく、緩衝層を挟んで成長させてもよい。電子走行層11は、例えばMOCVD(Metal Organic Chemical Vapor Deposition)法によって基板上に形成することができる。
【0018】
電子供給層(第2の半導体層)12は、例えば混晶AlGa1−xN(x=0.1〜0.4)であり、その厚さは5〜50nm程度である。AlGaNの格子定数はGaNよりも小さく、電子濃度が高い。周知のように、この構造においては、ピエゾ分極と自発分極との相乗効果によって、電子走行層11と電子供給層12の界面における電子走行層11側に電子が蓄積され、2次元電子ガス(2DEG)層13が形成される。この電子に対する散乱源となる不純物は電子走行層11側にはないため、この電子の移動度を極めて高くすることができる。電子供給層12も、例えばMOCVD法によって電子走行層11上に形成することができる。このように、電子走行層11、電子供給層12が共に禁制帯幅の広い窒化物半導体で構成されることにより、この半導体装置10は、大電力動作、すなわち、主電極となるソース電極14とドレイン電極15間に大電流を流す動作が可能となる。
【0019】
ソース電極14とドレイン電極15は、電子供給層12とオーミック接触する金属として、例えばTi/Al等で構成される。これにより、電子は2DEG層13を介してソース電極14とドレイン電極15間を流れる。ゲート電極16は、電子供給層12とショットキー接触をし、電子供給層12中に空乏層を形成する材料で構成される。特にこの半導体装置10(HEMT)のゲート閾値を正の電圧としてノーマリーオフ動作させるためには、電子供給層12とショットキー接触するp型金属酸化物半導体(例えばNiO)等を用いることが好ましい。この場合、p型金属酸化物半導体と金属との積層構造を用いることもできる。なお、一般にショットキー接触とは、金属と半導体との接触形態の一種であり、電流が流れる際に整流特性をもたないオーミック接触と対照的な接触形態である。ここでは、ゲート電極16(例えばp型金属酸化物半導体)と半導体(電子供給層12)との接触、すなわち、半導体同士の接触においても、金属と半導体のショットキー接触と同様の効果を奏する場合には、広義にショットキー接触と呼称する。ここにいう同様の効果とは、ゲート電極16にバイアスを印加しない場合において、電子供給層12との界面に空乏層が形成されるという効果である。これにより、この半導体装置10(HEMT)をノーマリーオフ型とすることができる。
【0020】
電位検出電極17としては、ソース電極14,ドレイン電極15と同様に、電子供給層12とオーミック接触する金属等を用いて構成することができる。あるいは、ゲート電極16と同様に、電子供給層12とショットキー接触する材料を用いても構成できる。抵抗18は、半導体層(電子走行層11、電子供給層12等)と別体で接続することができるが、半導体層上に絶縁層を介して抵抗18を形成し、配線を介して接続した構成とすることもできる。
【0021】
この半導体装置10を動作させる際には、ソース電極14が接地され、ドレイン電極15に正の高電圧(例えば500V)が印加される。こうした場合に、例えばこの半導体装置10がノーマリーオフ型である場合には、ゲート電極16に正の閾値以上の電圧を印加した場合に、ソース電極14とドレイン電極15間に動作電流(ドレイン電流)が流れる。すなわち、ゲート電圧を制御することによってドレイン電流のオンオフを制御することができる。この動作は従来より知られるHEMTと同様である。
【0022】
この際、電位検出電極17の電位は、この動作時における電位検出電極17直下のチャンネル電位を反映する。このため、この半導体装置10がオフ時に高電位、オン時には低電位となる。あるいは、仮にドレイン電極15側が負電位となった場合には、ここで検出されるチャンネル電位も負になり、その極性を検知することもできる。すなわち、この電位やその極性を測定することによって、この半導体装置10の動作状況をモニターすることができる。この電位は通常は入力インピーダンスが高い電圧計で計測されるため、これによって余分な電流が流れる影響は小さい。このため、本来のスイッチング動作以外に消費される電力は小さくなる。あるいは、チャンネル抵抗よりも充分に高い抵抗値(例えば1MΩ以上)をもつ抵抗18が接続されれば、この部分に流れる電流は無視できる程度となる。
【0023】
電位検出電極17の電位の絶対値ではなく、その極性(正負)のみを判定する構成としてもよい。後述するように、この場合においても、この半導体装置10を用いた回路の動作においては、この極性の情報を用いた制御は極めて有効である。このように、電位検出電極17の電位は必ずしも正確にチャンネル電位と等しい必要はない。この半導体装置10がオンとされているか、オフとされているか、あるいは、ドレイン電極15が負電位であるか否かの判定ができれば充分である。このため、電位検出電極17を構成する材料と電子供給層12とがオーミック接触する必要はなく、電位検出電極17と電子供給層12とがショットキー接触する構成としてもよい。電位検出電極17と電子供給層12とがオーミック接触する場合には、直下のチャンネル電位をより正確に測定することができる。これらがショットキー接触する場合には、電位検出電極17に流れる電流をより小さくすることができる。前者の場合には電位検出電極17を構成する材料をソース電極14、ドレイン電極15と同様にし、後者の場合には、この材料をゲート電極16と同様にすればよい。
【0024】
この際、電位検出電極17にオン時のチャンネル抵抗よりも充分に高い抵抗値、例えば1MΩをもつ抵抗18を接続することにより、電位検出電極17を流れる電流を更に低減することができる。また、チャンネルに対するこの電位測定の影響も更に低減することができる。
【0025】
また、特許文献1に記載の技術においては、通常の構成で形成されたHEMTの横に別途電流検出用の素子が形成された。これに対して、この半導体装置10においては、電位検出電極17がソース電極14とゲート電極16の間に挿入される。この際、電流を検出しないため、電位検出電極17の大きさも例えばソース電極14やドレイン電極15等と比べて充分小さくすることができる。このため、特許文献1に記載の技術と比べて、所要面積の増大が少ない。すなわち、チップ面積を小さくすることができる。
【0026】
例えば図6に示されたモーター駆動用の電気回路におけるスイッチング素子としてこの半導体装置10が用いられた場合には、以下に示すように、特に顕著な効果が得られる。この際には、特に電位検出電極17でチャンネル電位の極性を検出する動作が有効である。
【0027】
図6の回路において、Tr1、Tr4をオン、Tr2、Tr3をオフとした場合には、図中の破線で示される経路で電流が流れる。すなわち、モーターのコイルLを図中左側から右側に向かって電流が流れる。Tr1、Tr4をオフ、Tr2、Tr3をオンとした場合には、これと左右対称の経路で電流が流れ、コイルLを図中右側から左側に向かって電流が流れる。ここで、例えばTr1、Tr4をオン、Tr2、Tr3をオフとした状態から、Tr1をオフした場合(いわゆるデッドタイム期間中)には、コイルLの逆起電力により、A点の電位がGNDに対して負電位となる。コイルに蓄えられたエネルギーがTr3を介して放出される、すなわち、電流がTr3を介して流れることによって、A点は零電位となる。
【0028】
図6の回路中におけるTr3のドレイン−ソース間電圧VDSとドレイン電流IDSの関係を図2に示す。デッドタイム期間中のVDSとIDSの関係は、Tr3の閾値(Vth)である1〜3V程度オフセットされたbの特性となる。このオフセット電圧の分だけ、消費電力が増大する。この状況を解消するためには、A点が負電位となった場合に、Tr3をオンして、その特性を図2中のaのようにする必要がある。
【0029】
この問題は、コイルLを負荷としている限り、図6の回路におけるトランジスタが、通常のMOSFET(Metal Oxide Semiconductor Field Effect Transistor)、HEMTのいずれである場合においても同様に発生する。しかしながら、通常のMOSFETを用いた場合には、大きな問題とはならない。図3は、図6の回路における各トランジスタとして通常のMOSFETであるMOS1〜MOS4が用いられた場合の構成である。この場合の状況は、例えば特開2006−115557号公報に記載されている。シリコンで構成された通常のMOSFET(nチャンネル)においては、p型基板上にn型のドレイン領域とソース領域とが形成された構成をもつ。このため、ドレイン領域周辺においては、p型基板とn型のドレイン領域とでダイオード(ボディダイオード)が自動的に形成されている。すなわち、実質的にはMOS1〜MOS4のソースとドレインには図3に示されるようにボディダイオードが接続された構成とされる。このボディダイオードのV(順方向電圧)は通常0.6V程度である。
【0030】
この場合、前記のようにA点が負電位となり、この電圧の絶対値がこのVを越えた場合には、MOS3がオフの状態であっても、このボディダイオードを介して電流が図中の点線で示されるように流れる。このため、仮にA点が大きな負電位となることがあったとしても、この電流によって自動的にこの負電位は解消され、大きな損失は生じない。
【0031】
これに対して、化合物半導体で構成されたHEMTにおけるソース領域、ドレイン領域の構造は例えば図1に示された通りであり、ボディダイオードは形成されない。ここで、前記の通り、このオフセット電圧の絶対値はHEMTの閾値(VTH)で決まり、1〜3V程度であり、前記のボディダイオードのVよりも大きい。更に、例えばVTHが1V程度と低い場合には、HEMT(Tr3)を確実にオフ動作させるためには、Tr3のオフ時においてゲートに負電位(例えば−5V程度)を印加する動作を行う場合もある。この場合には、結局、上記の電圧降下は合計で−6V程度となり、これによる損失は更に大きくなる。このため、MOSFETが用いられた場合と異なり、HEMTが用いられた場合には、上記の問題が特に顕著となる。
【0032】
ここで、Tr3として上記の半導体装置10を用いた場合には、A点の電位はドレイン電極15の電位となる。Tr3がオフ状態の時にこの電位が負になれば、電位検出電極17で検出される電位も負となる。すなわち、電位検出電極17を用いて、ドレイン電極15の電位が負になったことを検出できる。ドレイン電極15の電位が負になったことが検出された場合、Tr3のゲート電圧を制御して、これをオンすれば、過渡的に図2中のbの特性となった状態を、aの特性とすることができる。すなわち、このオフセット電圧が解消され、余分な電力消費を抑制することが可能である。この際、A点の電位が負になったことを確認するだけであるなら、電位検出電極17で検出された電位の符号を認識するだけで充分である。
【0033】
この目的のためには、電位検出電極17は、図1に示されるように、ソース電極14とゲート電極16の間に設けることが特に好ましい。電位検出電極17をゲート電極16とドレイン電極15の間に設けた場合においても、オン状態とオフ状態の検出は可能である。しかしながら、ゲート電極16とドレイン電極15の間のチャンネル電位は、ドレイン電圧(例えば500V)に近い高電圧となるため、こうした大きな正電位と、小さな負電位を共に検出することは困難である。これに対して、電位検出電極17をソース電極14とゲート電極16の間に設けた場合、この箇所のチャンネル電位は常にソース電位に近くなる。このため、この場合の電位検出電極17は、小さな正電位と小さな負電位を検出することになるため、その検出を容易かつ正確に行うことができる。
【0034】
具体的に上記の動作を行うための回路構成の一例を図4に示す。ここで、図4においては、図6におけるTr1、Tr3、Lからなる箇所のみ示している。ここでは、ハイサイドのTr1としては通常のHEMTを、ローサイドのTr3として上記の半導体装置10が用いられている。ここでは、電位検出電極17から抵抗18を介して出力された電位は、電圧検出回路21で検出される。比較回路22は、予め設定された基準値とこの電圧とを比較することにより、電位検出電極17直下のチャンネル電位を判定する。制御部23は、この判定結果を元に、Tr3(半導体装置10)のゲートをゲート駆動手段24で、Tr1のゲートをゲート駆動手段25でそれぞれ制御する。
【0035】
この電気回路における制御方法の一例を説明する。Tr3がオフ時に上記の通りにチャンネル電位が負となった場合(A点の電位が負であった場合)には、比較回路22が電圧検出回路21からの出力と基準値との比較を行い、この出力が基準値よりも小さい場合には、この出力が負であると認識する。制御部23はこの結果を受け、ゲート駆動手段24を制御し、Tr3(半導体装置10)のゲートをオンする(強制オンステップ:第1のステップ)。これによって、A点の電位は上昇して零に近づくため、電圧検出回路21で検出される電圧も上昇して零に近づく。制御部23は、比較回路22の判定結果によってチャンネル電位が零に近く(あるいはこの電位の絶対値が予め設定された値以下に)なった場合には、再びゲート駆動手段24を制御し、Tr3(半導体装置10)のゲートをオフする(強制オフステップ:第2のステップ)。上記の動作においては、図3の構成においてMOSFETのボディダイオードを介して行われる動作を、HEMTが用いられた場合に制御部23等を用いて行っている。Tr3がオフとされたら、制御部23は、ゲート駆動手段25を制御し、ハイサイドのTr1のゲートをオンし、図6中の破線で示された電流をコイルL(モーター)に流すことができる(第3のステップ)。なお、電位検出電極17で検出された電位の極性のみによって上記の動作を行わせることも可能である。この場合には、例えば、負電位が検出された場合には強制オンステップを予め設定された所定の時間のみ行わせる設定とすることができる。
【0036】
このように、従来のMOSFETに対して高速性、電流駆動能力に優れた半導体装置(HEMT)10を、モーター駆動用のフルブリッジ回路におけるローサイドのトランジスタ(スイッチング素子)として用いることができる。この際に、A点の負電位を検出することによって同期整流制御を行い、余分な電力消費を抑制し、低損失の動作を行うことができる。従って、高速性、電流駆動能力が高いスイッチング回路を低消費電力で駆動することができる。
【0037】
また、上記の半導体装置10が用いられる電気回路の他の一例を、図5に示す。ここでも、図6におけるTr1、Tr3、Lに関連した箇所のみ示している。ここでは、ハイサイドのTr1、ローサイドのTr3共に通常のHEMTが用いられる。A点をドレイン側として前記の半導体装置10が接続され、この半導体装置10に対して、前記と同様の構成で電圧検出回路21、比較回路22、制御部23、ゲート制御手段24、25が接続される。また、半導体装置10のゲートには、これをオンとすべく正の一定電圧が直流電源26によって印加され、ソースには高抵抗値をもつ抵抗27が接続される。
【0038】
図4の電気回路においては、半導体装置10は、スイッチング動作を行うと共に、A点の電位を検出するという2つの役割を果たしていた。これに対し、図5の電気回路においては、スイッチング動作は従来のHEMTであるTr3が行い、この半導体装置10は、A点の電位を検出する目的にのみ用いられる。このため、半導体装置10のドレイン電流をTr3等と比べて無視できる程度に小さくすることができ、小型化したものを用いることができる。また、抵抗27の抵抗値を充分高くしておくことにより、このドレイン電流は更に低減することができる。このため、A点から半導体装置10に流れる電流を無視できる程度に小さくすることができ、電位検出の際にロスする電流を、図4の場合よりも更に小さくすることができる。また、スイッチング動作専用に用いられるTr3と、電位検出専用に用いられる半導体装置10を分離するために、各々をその目的に応じて最適に設計できる。このため、より好ましいスイッチング動作を行うと共に、電位検出能力を高めることにより、適切に同期整流制御を行い、余分な電力消費を抑制し、低損失の動作を行うことができる。
【0039】
なお、上記の半導体装置においては、電子走行層としてGaN、電子供給層としてAlGaNに代表される窒化物半導体を用いた例につき記載したが、2次元電子ガスが用いられる半導体装置であれば、同様の効果を奏することは明らかである。すなわち、上記の材料以外においても本願発明が適用できることは明らかである。また、窒化物半導体として、Ga、Alと同じIIIB族元素であるインジウム(In)、ホウ素(B)を含んだAlGa1−x−yN(0≦x≦1、0≦y≦1、0≦x+y<1、ここで、MはIn、Bのうちの1種を少なくとも含む)を用いることもできる。
【0040】
また、上記の例では、この半導体装置が使用される電気回路として、モーター駆動用のフルブリッジ回路について説明したが、例えばそのドレイン側の電圧が過渡的に負になることがある電気回路においては、同様に上記の制御方法は有効である。すなわち、上記の半導体装置や電気回路の制御方法は、上記の例以外においても有効であることは明らかである。例えば、アームが一組以上ある電気回路であれば、上記と同様の問題が発生しうるため、上記の半導体装置や電気回路の制御方法が有効であることは明らかである。
【符号の説明】
【0041】
10 半導体装置(HEMT)
11 電子走行層(第1の半導体層)
12 電子供給層(第2の半導体層)
13 2次元電子ガス(2DEG:2 Dimensional Electron Gas)層
14 ソース電極
15 ドレイン電極
16 ゲート電極
17 電位検出電極
18、27 抵抗
21 電圧検出回路
22 比較回路
23 制御部
24、25 ゲート駆動手段
26 直流電源

【特許請求の範囲】
【請求項1】
第1の半導体層と、当該第1の半導体層上に形成された第2の半導体層と、当該第2の半導体層上に形成されたソース電極、ドレイン電極、ゲート電極とを具備し、前記第1の半導体層と前記第2の半導体層のヘテロ接合界面の2次元電子ガス層を通って前記ソース電極と前記ドレイン電極の間で電子が流れ、当該電子が流れるチャンネルのオンオフが前記ゲート電極に印加された電圧で制御される半導体装置であって、
前記ソース電極と前記ゲート電極との間のチャンネル上の前記第2の半導体層上に、電位検出電極が形成されたことを特徴とする半導体装置。
【請求項2】
前記電位検出電極には、1MΩ以上の抵抗値をもつ抵抗が接続されたことを特徴とする請求項1に記載の半導体装置。
【請求項3】
前記電位検出電極は、前記第2の半導体層とオーミック接触する材料で形成されたことを特徴とする請求項1又は2に記載の半導体装置。
【請求項4】
前記電位検出電極は、前記第2の半導体層とショットキー接触する材料で形成されたことを特徴とする請求項1又は2に記載の半導体装置。
【請求項5】
前記第1の半導体層及び前記第2の半導体層は窒化物半導体で構成されたことを特徴とする請求項1から請求項4までのいずれか1項に記載の半導体装置。
【請求項6】
ハイサイド側端子とローサイド側端子の間に2つのスイッチング素子が直列接続されたアームを1組以上具備し、前記アームにおける2つのスイッチング素子の接続点に、コイルの両端子がそれぞれ接続された構成を具備する電気回路であって、
前記アームにおいて、少なくともローサイド側に設置された前記スイッチング素子として、請求項1から請求項5までのいずれか1項に記載の半導体装置が用いられたことを特徴とする電気回路。
【請求項7】
ハイサイド側端子とローサイド側端子の間に2つのスイッチング素子が直列接続されたアームを1組以上具備し、前記アームにおける2つのスイッチング素子の接続点に、コイルの両端子がそれぞれ接続された構成を具備する電気回路であって、
前記アームに、請求項1から請求項5までのいずれか1項に記載の半導体装置が、当該半導体装置のドレイン電極が前記接続点と接続されるように設置されたことを特徴とする電気回路。
【請求項8】
請求項1から請求項5までのいずれか1項に記載の半導体装置が用いられた電気回路の制御方法であって、
前記半導体装置がオフ状態の際に、前記電位検出電極によって検出された電位が負であった場合に、前記ゲート電極に印加する電圧を制御し、前記半導体装置をオン状態とする第1のステップを具備することを特徴とする、電気回路の制御方法。
【請求項9】
前記第1のステップの後で、
前記電位検出電極によって検出された電位の絶対値が予め設定された値よりも小さくなった場合に、前記半導体装置をオフ状態とする第2のステップを具備することを特徴とする請求項8に記載の、電気回路の制御方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【公開番号】特開2012−54440(P2012−54440A)
【公開日】平成24年3月15日(2012.3.15)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−196461(P2010−196461)
【出願日】平成22年9月2日(2010.9.2)
【出願人】(000106276)サンケン電気株式会社 (982)
【Fターム(参考)】