説明

反応生成物の検知方法

【課題】洗浄後の反応炉部品上の残留反応生成物(不可視膜)の有無を、簡単な方法で検知できる反応生成物の検知方法を提供する。
【解決手段】基板上に薄膜を気相成長させた後の反応炉部品11上に付着した反応生成物を洗浄した後、反応炉部品11に特定の波長の光、例えば、ブラックライト16を照射して反応炉部品11上に残留する反応生成物の発光状態を検出することにより、反応炉部品11上の反応生成物の残留状態を検知する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、反応生成物の検知方法に関し、詳しくは、気相成長装置の反応炉(反応管、気相成長室)内で基板上に薄膜、特に窒化物半導体膜を成長させたときに反応炉部品上に付着する反応生成物を洗浄工程によって洗浄した後に、反応炉部品上に洗浄工程で完全に除去できなかった反応生成物が残留しているか否かを検知する反応生成物の検知方法に関する。
【背景技術】
【0002】
窒化物半導体とは、窒化ガリウムや窒化アルミニウムに代表される窒化されたIII族半導体混晶を総称し、近年その応用が盛んに広がりつつある。例えば、基板上に窒化ガリウム薄膜を形成したデバイス構造からは、紫外域〜緑色の発光波長を有するダイオード構造型の発光素子が得られ、液晶テレビのバックライトや携帯電話のバックライトへの応用が期待されるほか、照明技術への応用が期待されている。
【0003】
また、ケイ素基板上に窒化アルミニウム薄膜を形成し、更に窒化ガリウム膜を形成することにより、電子デバイスがケイ素基板上に実現される。この電子デバイスは、携帯電話の基地局で使用されるアンプや、家電製品のインバータへの応用が期待されている。
【0004】
このような窒化物半導体を成膜するためには、原料として、アンモニアと有機金属原料(トリメチルガリウム、トリエチルガリウム、トリメチルアルミニウム)とが使用され、キャリアガスには水素と窒素とが用いられている。また、基板には、サファイア基板、ケイ素基板、炭化ケイ素基板、あるいは窒化ガリウム基板が用いられる。成膜に際しては、まず、基板を反応炉内に搬送し、水素と窒素とを供給しながら1000℃以上に加熱することにより、基板表面に残留した酸化膜などを水素との還元反応により除去する。さらに、サファイア基板を用いる場合には、500℃程度まで降温してからアンモニアと有機金属原料とを供給し、基板と平坦膜との間に、バッファ層を成膜する。次に、有機金属原料の供給を止めてから1100℃程度まで再び昇温し、サセプタ温度が安定したら、有機金属原料を供給する。これによって窒化物半導体膜が基板上に平坦に成長する。その後は順次、光デバイス構造や電子デバイス構造を成長させる。
【0005】
このような成膜工程を行うと、反応炉内が反応生成物で汚染され、特に、基板周辺部の反応炉部品に付着した反応生成物は、基板からの輻射熱の影響によって再蒸発するおそれがあることから、1プロセスごとに洗浄して反応生成物を除去することが望ましく、1回のを終了した時点で基板と共に反応炉部品を外部に取り出し、反応炉部品上に付着した反応生成物を除去する洗浄工程を行っていた。
【0006】
洗浄工程における反応生成物の除去方法としては、サンドブラスターを用いて機械的に削り取る方法や、エッチング液に浸漬して溶解させる方法がある。しかし、これらの方法では反応炉部品へのダメージが多いために繰り返し使用することに限界があることから、洗浄ガスによって反応生成物を除去する方法が提案されている。この方法によれば、エッチング液等を使用せずに洗浄ガスを使用することから、反応炉部品へのダメージを少なくできるとともに、作業上の危険性を低くすることができる(例えば、特許文献1参照。)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0007】
【特許文献1】特開2006−332201
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
通常、基板と反応炉部品とでは熱環境などが異なり、プロセス後に反応炉部品に付着した反応生成物には、可視膜となるものと不可視膜となるものの2種類がある。窒化物半導体を成膜するプロセスの後に反応炉部品に付着した反応生成物の大半は、原料が反応しきった後に形成される酸化膜類あるいは窒素のみが脱離して金属ガリウムが膜状に残留した状態のもので、特に、基板周辺の反応炉部品に付着した反応生成物は、基板部からの輻射熱の影響によってプロセス中に窒素の脱離現象が生じ、付着した生成物(窒化膜)の一部が金属ガリウムとなったものであり、これらは可視膜となっていた。一方、反応炉部品に単結晶あるいは多結晶として付着した窒化物半導体膜は、バンドギャップが大きいために不可視膜となる。
【0009】
上述の特許文献1の洗浄方法では、プロセス後の反応炉部品の洗浄に、洗浄ガスとして塩素系ガスと窒素ガスとを用いており、肉眼で確認できるもの、即ち前記可視膜が完全に除去されるまで洗浄操作を行うようにしている。このようにして洗浄した反応炉部品を再使用してプロセスを行ったときに、良好な平坦膜が得られないことがある。これは、反応炉部品に前記不可視膜が完全に除去されずに残留しているためであり、不可視膜である窒化物半導体膜の窒化物,例えば窒化ガリウムがプロセス中に金属ガリウムに変化し、この金属ガリウムが再蒸発して反応炉内の原料ガスと反応することが原因である。
【0010】
しかし、不可視膜は肉眼では確認できないため、洗浄工程後の反応炉部品上に不可視膜が残留しているか否かを確認することができないことから、不可視膜を完全に除去するためには、必要以上に時間を掛けて洗浄操作を行う必要があった。このため、洗浄工程の時間が長くなって大量の洗浄ガスを必要とするだけでなく、薄膜の製造効率も低下するという問題があった。
【0011】
そこで本発明は、洗浄後の反応炉部品上の残留反応生成物(不可視膜)の有無を簡単な方法で検知できる反応生成物の検知方法を提供することを目的としている。
【課題を解決するための手段】
【0012】
上記目的を達成するため、本発明の反応生成物の検知方法は、基板上に薄膜を気相成長させた後の反応炉部品上に付着した反応生成物を洗浄した後、前記反応炉部品に特定の波長の光を照射して該反応炉部品上に残留する反応生成物の発光状態を検出することにより、反応炉部品上の反応生成物の残留状態を検知することを特徴としている。
【0013】
前記反応炉部品への前記光の照射は、遮光状態のグローブボックス内で行うことが好ましい。さらに、前記薄膜が窒化物半導体の場合には前記光の波長が300〜400nmが最適である。また、前記反応生成物の洗浄は、塩素系ガスを主成分とする洗浄ガスを用いて行うことが好ましい。
【発明の効果】
【0014】
本発明の反応生成物の検知方法によれば、反応炉部品上に付着した反応生成物(不可視膜)の性状に応じた特定の波長の光を照射することにより、蛍光反応によって反応生成物を発光させることができるので、発光状態を検知することによって反応炉部品上に反応生成物が残留しているか否かを容易に確認することができる。これにより、反応炉部品上から反応生成物を確実に除去できるとともに、洗浄工程の時間短縮、洗浄ガスなどの消費量の削減などを図ることができる。
【0015】
また、光の照射を遮光状態のグローブボックス内で行うことにより、発光状態をより確実に検知することができる。特に、窒化物半導体を成膜する気相成長装置の反応炉部品の場合は、波長が300〜400nmの範囲の光を反応炉部品に照射することにより、洗浄工程で残留している窒化物半導体膜の残留状態を確実に検知することができ、反応炉部品を確実に洗浄できるので、反応炉部品を繰り返し使用しても良好な平坦膜を安定して成膜することができる。さらに、反応生成物の洗浄を、塩素系ガスを主成分とする洗浄ガスを用いて行うことにより、洗浄時の反応炉部品へのダメージを少なくすることができる。
【図面の簡単な説明】
【0016】
【図1】本発明の第1形態例を示す洗浄装置の説明図である。
【図2】反応炉部品上に残留した反応生成物がブラックライトの照射によって発光した状態を示す説明図である。
【図3】本発明の第2形態例を示す洗浄装置の説明図である。
【発明を実施するための形態】
【0017】
図1に示す洗浄装置10は、基板上に窒化物半導体の成膜を行った後のサセプタやフローチャンネル等の反応炉部品11を塩素系ガス、例えば、Cl,HCl,SiCl,SiHCl,SiHCl,SiHCl,BCl,CHCl,CHCl,CHCl等の分子内に塩素を含む化合物の1種又は2種以上の混合物を用いて洗浄するためのもので、窒素ガスと塩素系ガスとからなる洗浄ガスを流しながら、500〜1000℃に加熱することにより反応炉部品11上に付着した反応生成物を除去するための洗浄炉12と、該洗浄炉12から反応炉部品11を取り出す際に塩素暴露を防止するためのグローブボックス13とにより構成されている。洗浄炉12とグローブボックス13との間には、洗浄炉12とグローブボックス13とを気密に仕切ることができる洗浄炉ハッチ12aが開閉可能に設けられており、グローブボックス13の天井部分には、特定の波長の光を照射する光源としてのブラックライト16と、発光状態を検出するための光検出器17とが設けられている。
【0018】
反応炉部品11の洗浄工程は、成膜操作を終えた気相成長装置から取り出された反応炉部品11をハッチ13aからグローブボックス13内に搬入し、さらに、洗浄炉ハッチ12aを開いて反応炉部品11を洗浄炉12内に搬入し、洗浄炉ハッチ12aを閉じてから洗浄炉12を約800℃に加熱するとともに導入管14から洗浄ガスを供給することによって行われる。反応炉部品11に付着している反応生成物、例えば窒化ガリウムは、洗浄ガス中の塩素系ガスと反応して塩化物となり、ガス化して排気管15から排気される。洗浄工程が終了したら、洗浄炉12を室温付近まで冷却してから真空パージを行った後、洗浄炉ハッチ12aを開いて洗浄炉12内から洗浄後の反応炉部品11をグローブボックス13内に取り出す。
【0019】
そして、ブラックライト16及び光検出器17を作動状態とし、ブラックライト16からの光を洗浄後の反応炉部品11に照射する。このとき、洗浄後の反応炉部品11上に完全に洗浄除去されなかった反応生成物(不可視膜)が残留していると、反応生成物がブラックライト16から照射された光との蛍光反応で発光し、反応生成物が残留していない部分は、その材質に応じてブラックライト16からの光を吸収したり、透過したりして、例えばサファイヤガラスや石英ガラスのような材質は光を透過し、カーボンは光を吸収して発光しないので、ブラックライト16を照射した反応炉部品11の発光状態を検出することによって反応生成物の残留の有無を検知することができる。
【0020】
反応炉部品11の発光状態の検出は、グローブボックス13の周囲の外光の影響を避けるため、グローブボックス13の周囲を遮光した状態、洗浄装置10を設置した室内を暗くした状態で行うことが好ましい。また、反応生成物からの発光が可視光線ならば、グローブボックス13に設けた窓から肉眼で検出することも可能であるが、ブラックライト16から照射される光の波長をカットするフィルターを備えた光検出器17を用いることにより、反応炉部品11上の反応生成物の発光状態をより確実に検出することができる。すなわち、ブラックライト16からの光が400nm以下の紫外線域の波長であって、反応生成物からの蛍光反応による光が500nm以上の波長の場合には、450nm付近にカットオフ波長を有するハイパスフィルタを取り付けたケイ素ディテクタを光検出器17として用いることにより、反応炉部品11上の残留反応生成物の有無を容易に検出することができる。
【0021】
例えば、石英ガラス製の各種反応炉部品11を使用した反応炉において、表面から順に、窒化ガリウム(3nm)/窒化アルミニウムガリウム(25nm、アルミニウム=20%)/窒化ガリウム(3um)/窒化アルミニウム/炭化ケイ素基板の構造を有するデバイスを成膜した後、各反応炉部品11を洗浄装置で洗浄して再利用する際に、次のデバイスの成膜の際に窒化アルミニウム膜が平坦に成長できないことがあり、デバイスの歩留まりに悪影響を与えていた。窒化アルミニウム膜が平坦に成長できない理由は、洗浄工程における洗浄が不十分で、反応炉部品11上に反応生成物である窒化物半導体膜、例えば窒化ガリウム膜が残留していたためである。
【0022】
結晶性の窒化ガリウム膜は、前述の通り不可視膜であるから、洗浄工程後に反応炉部品11上に窒化ガリウム膜が残留していても、通常の室内光では確認することができないが、前述のように、遮光状態としたグローブボックス13内で反応炉部品11にブラックライト16から400nm以下の波長の紫外線を照射することにより、洗浄後の反応炉部品11に窒化ガリウム膜が残留している場合には、残留している窒化ガリウム膜の蛍光反応によって波長600nm付近(黄色)に強い発光が確認されるので、この発光状態を検出することで反応炉部品11上の窒化ガリウム膜の残留の有無を検知することができる。
【0023】
すなわち、図2に示すように、石英ガラス製のサセプタ18において、洗浄工程を短縮して取り出したとき、通常の光で見る限りでは白濁した石英ガラスの色になっていて、サセプタ18の表面に残留している。窒化ガリウム膜(反応生成物)の有無を確認することはできないが、グローブボックス13内でブラックライト16を照射すると、反応生成物が付着していない部分が無色透明の状態になるのに対し、反応生成物が残留している部分Pは、肉眼でも判別できる程度に黄色く発光する。また、光検出器17を用いることにより、肉眼では識別困難な状態の弱い光も検出することができる。
【0024】
洗浄後の反応炉部品11上に窒化ガリウム膜のような反応生成物の残留が認められた場合には、反応炉部品11を洗浄炉12内に搬入して洗浄工程を繰り返すことにより、反応生成物を反応炉部品11上から完全に除去することができ、薄膜の気相成長を安定した状態で確実に行うことができ、歩留まりを向上させることができる。また、反応生成物の残留状態を確認することができるので、従来のように必要以上に時間を掛けて洗浄工程を行う必要がなくなることから、洗浄工程の時間を短縮することが可能となり、薄膜の製造効率を向上できるとともに、洗浄ガスや洗浄液などの消費量も削減することができる。
【0025】
図3は、本発明の第2形態例を示すもので、第1形態例と同様の構成要素を示すものには、同一の符号を付して、その詳細な説明は省略する。
【0026】
本形態例は、特定の波長の光を照射する光源として、波長400nm以下のレーザ光が得られる半導体レーザやガスレーザなどのレーザ20を用いたものであって、レーザ20からのレーザ光は、グローブボックス13内に挿入されたバンドルタイプの光ファイバ21を介して反応炉部品11に照射される。このように、レーザ光を用いることにより、残留反応生成物からの発光がより強くなるので、残留反応生成物の有無の確認が容易になる。また、グローブを介して光ファイバ21を操作することで反応炉部品11の任意の位置にレーザ光を照射することができるので、例えば小さな窪みの中に残留した反応生成物も検知することができる。
【0027】
なお、反応炉部品の洗浄方法は任意であり、上述のように塩素系ガスを用いたガス洗浄に限らず、反応炉部品を薬液に浸してエッチングする方法や、サンドブラスターによって反応炉部品の表面を削り落す方法であってもよい。また、残留反応生成物の検出を洗浄炉に一体的に形成されているグローブボックスで行うようにしているが、独立したグローブボックス内で行うこともでき、気相成長装置に一体的に形成されているグローブボックスで行うこともできる。さらに、反応炉部品を搬送する搬送装置にブラックライトなどの光源と光検出器とを設けて自動的に残留反応生成物を検知するように形成することも可能である。また、薄膜の構成も任意であり、残留反応生成物の種類も特に限定されず、反応炉部品に照射する光の波長も残留反応生成物の性状に応じて決定することができる。
【符号の説明】
【0028】
10…洗浄装置、11…反応炉部品、12…反応炉、12a…洗浄炉ハッチ、13…グローブボックス、13a…ハッチ、14…導入管、15…排気管、16…ブラックライト、17…光検出器、18…サセプタ、20…レーザ、21…光ファイバ

【特許請求の範囲】
【請求項1】
基板上に薄膜を気相成長させた後の反応炉部品上に付着した反応生成物を洗浄した後、前記反応炉部品に特定の波長の光を照射して該反応炉部品上に残留する反応生成物の発光状態を検出することにより、反応炉部品上の反応生成物の残留状態を検知することを特徴とする反応生成物の検知方法。
【請求項2】
前記反応炉部品への前記光の照射を、遮光状態のグローブボックス内で行うことを特徴とする請求項1記載の反応生成物の検知方法。
【請求項3】
前記薄膜が窒化物半導体であり、前記光の波長が300〜400nmであることを特徴とする請求項1又は2項記載の反応生成物の検知方法。
【請求項4】
前記反応生成物の洗浄を、塩素系ガスを主成分とする洗浄ガスにより行うことを特徴とする請求項1乃至3のいずれか1項記載の反応生成物の検知方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【公開番号】特開2011−35218(P2011−35218A)
【公開日】平成23年2月17日(2011.2.17)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−181176(P2009−181176)
【出願日】平成21年8月4日(2009.8.4)
【出願人】(000231235)大陽日酸株式会社 (642)
【Fターム(参考)】