説明

四輪駆動式産業用車両

【課題】前側及び後側の車輪に空転が発生した場合でも、走行し得る四輪駆動式産業用車両を提供する。
【解決手段】前部車軸及び後部車軸の途中にディファレンシャアル装置が配置されると共に、両ディファレンシャアル装置同士が連結軸により連結され、各車軸の先端部に車輪を駆動するモータがそれぞれ設けられたホイールローダであって、各モータ41を制御する制御装置44を、エンコーダ45により検出された回転速度に基づき前側及び後側における左右の車輪同士の回転速度比を演算する速度比演算部46と、この速度比演算部にて求められた回転速度比及び予め求められた内外輪の回転半径比に基づき前側及び後側における左右の車輪のいずれかが空転しているか否かを判断する空転判断部47と、この空転判断部にて空転していると判断された場合に、空転している車輪のモータ41のトルクを低下させるトルク指令を出力するトルク指示部48とから構成したもの。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、四輪駆動式の産業用車両、例四輪駆動式のホイールローダに関するものである。
【背景技術】
【0002】
産業用車両としては、主に、建設・土木用に用いられるホイールローダがあり、この中でも、大型のものには、車輪がそれぞれ電動機により駆動される四輪駆動方式および車両本体の前部と後部とが折れ曲がる屈折式が採用されているものがある。
【0003】
このようなホイールローダの駆動部分の概略構成を図7に基づき説明すると、車両本体の底部フレーム(所謂、シャーシである)の前部および後部に、それぞれ中間にディファレンシャアル装置51,52が設けられた前部車軸(アクスル軸ともいう)53および後部車軸54が設けられるとともに、底部フレームの中心部には、前後方向で両ディファレンシャアル装置51,52同士を連結する連結軸(プロペラシャフトに対応する)55が配置されている。なお、各ディファレンシャアル装置51,52としては、公知の差動歯車装置が用いられている。
【0004】
そして、前部車軸53および後部車軸54の各先端部には、それぞれ前側の左右の車輪56および後側の左右の車輪57を個別に回転させるための電動機58が設けらている。なお、各電動機58の駆動軸の一端側がそれぞれ車軸53,54側に連結されるとともに、他端側が各車輪56,57に連結されている(例えば、特許文献1参照)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特許第3295046号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
上記従来の構成によると、前側および後側の左右の車輪56L,56R;57L,57R同士はそれぞれディファレンシャアル装置51,52を介して接続されているとともに、前後のディファレンシャアル装置51,52同士も連結軸55を介して連結されており、例えば前側(または後側)の左右のいずれか片方の車輪56(または57)がスリップにより空転した場合には、空転が発生していない後側(または前側)の車軸54(または53)から回転駆動力が伝達されるが、前側車輪56および後側車輪57に空転が発生した場合には、走行し得ないという問題がある。
【0007】
そこで、本発明は、前側および後側の車輪に空転が発生した場合でも、走行し得る四輪駆動式産業用車両を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
上記課題を解決するため、本発明の四輪駆動式産業用車両は、車両本体フレームの前部および後部に前部車軸および後部車軸を配置するとともに、これら各車軸の途中にディファレンシャアル装置を配置し、これら前部および後部のディファレンシャアル装置同士を連結軸により連結し、上記各車軸の先端部に車輪を駆動する電動機をそれぞれ設けてなる四輪駆動式産業用車両であって、
上記各電動機を制御するための制御装置を具備するとともに、
この制御装置を、
上記各車輪の回転速度を検出する回転速度検出器にて検出された回転速度を入力して、前側および後側における左右の車輪同士の回転速度比を演算する速度比演算部と、
この速度比演算部にて求められた回転速度比および予め求められている当該産業用車両の最小回転半径における内外輪の回転半径比に基づき前側および後側における左右の車輪のいずれかが空転しているか否かを判断する空転判断部と、
この空転判断部にて空転していると判断された場合に、空転している車輪の電動機のトルクを低下させるトルク指令を出力するトルク指示部とから構成したものである。
【発明の効果】
【0009】
上記の構成によると、前側および後側における左右の車輪の回転速度比と、産業用車両の最小回転半径における内外輪の回転半径比とを比較することにより、前側および後側の両車輪のいずれかが空転しているか否かを判断するとともに、前側および後側の車輪にそれぞれ空転が発生している判断された場合に、空転している車輪の電動機のトルクを低下させるトルク指令を出力するようにしたので、空転している車輪のトルクを低下させて地面に対するグリップ力を増加させることができ、したがって走行可能状態にすることができる。
【図面の簡単な説明】
【0010】
【図1】本発明の実施例に係る四輪駆動式産業用車両の側面図である。
【図2】同産業用車両の平面図である。
【図3】同産業用車両の駆動部分を示す平面図である。
【図4】同産業用車両のディファレンシャアル装置の要部平面図である。
【図5】同産業用車両における制御装置の概略構成を示すブロック図である。
【図6】同産業用車両の制御を説明するための模式平面図である。
【図7】従来例の同四輪駆動式産業用車両の駆動部分を示す平面図である。
【発明を実施するための形態】
【0011】
以下、本発明の実施の形態に係る四輪駆動式産業用車両を具体的に示した実施例に基づき説明する。
本実施例においては、四輪駆動式産業用車両として、建設・土木用に用いられるホイールローダについて説明する。なお、このホイールローダは、土砂の掘削・運搬などを行い得るもので、大型で且つ四輪駆動式であり、さらに車体が前後に屈折し得るものについて説明する。
【0012】
図1および図2に示すように、このホイールローダの車両本体1は、左右に前部車輪4を有する前側本体部2と、同じく左右に後部車輪5を有する後側本体部3とから構成され、また両本体部2,3同士は、鉛直方向の連結ピン6により、互いに屈折可能つまり換向可能に連結されるとともに、両本体部2,3同士間に亘って設けられた左右一対の屈折用つまり換向用油圧シリンダ(以下、換向用シリンダという)7により換向(ステアリング)が行われるものである。
【0013】
上記前側本体部2には、ブーム11の一端部が水平ピン12を介して鉛直面内で傾動自在に支持されるとともに、その先端には、同じく水平ピン13を介してバケット14がやはり鉛直面内で、つまり上下方向で揺動自在に取り付けられており、また上記ブーム11と前側本体部2との間には当該ブーム11を傾動させる傾動用油圧シリンダ(以下、傾動用シリンダという)15が設けられており、さらにブーム11の中間部には、水平ピン16を介して前後方向に長いリンク体17が揺動自在に支持されている。なお、リンク体17の中間部が水平ピン16により支持されている。
【0014】
そして、このリンク体17の前端部とバケット14の後面側とはリンク材18を介して連結されるとともに、リンク体17の後端部と前側本体部2との間にはバケット14を上下方向で揺動させる揺動用油圧シリンダ(以下、揺動用シリンダという)19が配置されている。
【0015】
したがって、運転席8に設けられた操作レバーにより、傾動用シリンダ15を作動させることにより、ブーム11を傾動させてバケット14を上下方向で移動させることができ、また揺動用シリンダ19を作動させることにより、バケット14を上下方向で揺動させることができる。つまり、バケット14を、その開口部が下向くダンプ姿勢と、クラウド姿勢との間で揺動させることができる。
【0016】
次に、本発明の要旨である四輪駆動系統について説明する。
図3に示すように、車両本体1の底部フレーム(車両本体フレームで、所謂、シャーシである)の前部および後部には(つまり、前側本体部2および後側本体部3には)、それぞれ途中につまり中間にディファレンシャアル装置23,24が設けられた前部車軸(前部アクスル軸ともいう)21および後部車軸(後部アクスル軸ともいう)22が配置されるとともに、底部フレームの中心部で且つ前後方向に配置されて両車軸21,22同士を接続する、すなわち両ディファレンシャアル装置23,24同士を連結する連結軸(プロペラシャフトに対応する)25が設けられている。したがって、前部のディファレンシャアル装置23の左右には、前部左側および前部右側車軸部21a,21bが、また後部のディファレンシャアル装置24の左右には、後部左側および後部右側車軸部22a,22bが配置されることになる。なお、連結軸25の途中には、ユニバーサルジョイント26(図6にだけ示す)が設けられている。
【0017】
各ディファレンシャアル装置23,24としては公知のものが用いられており、ここで、図4に基づき、ディファレンシャアル装置23,24を簡単に説明しておく。
このディファレンシャアル装置23,24は、ディファレンシャアルケース31と、このディファレンシャアルケース31にピニオン軸(スパイダともいう)32を介して回転自在に支持された左右一対のピニオンギヤ33と、これらピニオンギヤ33に同時に噛合されかつディファレンシャアルケース31に左右方向の回転軸34を介して回転自在に支持された一対のサイドギヤ35と、これらサイドギヤ35と同一軸心でもってディファレンシャアルケース31に固定されたリングギヤ36と、このリングギヤ36の回転軸心と直交する軸心方向である前後方向の回転軸37の端部に設けられるとともに当該リングギヤ36に噛合されるピニオンギヤ38とから構成されている。そして、左右方向の回転軸34がそれぞれ対応する車軸部21a,21b,22a,22bに連結されるとともに、前後方向の回転軸37が連結軸25に連結されている。
【0018】
そして、各車軸部21a,21b,22a,22bの先端部には、それぞれ車輪4,5を個別に駆動して回転させるためのモータ(電動機)41が設けられている。なお、各モータ41の駆動軸の一端側が各車軸部21a,21b,22a,22b側に連結されるとともに、他端側がそれぞれ車輪4,5に連結されており、またモータ41は例えば車軸21,22を覆っているケーシング(図示せず)に固定されている。また、各車輪4,5には減速機42が内蔵されている。
【0019】
次に、ホイールローダの駆動制御構造について簡単に説明する。
すなわち、図5に示すように、各モータ41に対応してその回転速度を制御するためのインバータ(図2においては、仮想線にて示す)43が車両本体1の底部フレームに設けられるとともに、これら各インバータ43を制御して車輪4,5の回転速度(単位時間当りの回転数である)を制御する制御装置44が設けられており、また各車輪4,5の回転速度を検出し得る回転速度検出器として例えばエンコーダ45が具備されている。なお、このエンコーダ45は、例えば各モータ41または各車軸部21a,21b,22a,22bに設けられて、モータ41または車軸部21a,21b,22a,22bの回転速度を検出するようにしたものである。
【0020】
また、上記制御装置44には、図5および図6に示すように、回転速度検出器44からの検出信号すなわち回転速度を入力して、左右の前部車輪4L,4Rの回転速度VfL,VfRおよび後部車輪5L,5Rの回転速度VrL,VrRに基づき、内輪と外輪の回転速度比r1(外輪の回転速度/内輪の回転速度:例えばVfR/VfL)を求める速度比演算部46と、この速度比演算部46で求められた内外輪の回転速度比r1を入力するとともにこの内外輪の回転速度比r1と予め求められている当該ホイールローダの最小回転半径における内輪回転半径(R)と外輪回転半径(R)との比である回転半径比r2(R/R)とを比較して車輪4,5が空転しているか否かを判断する空転判断部47と、この空転判断部47で得られた判断結果を入力して、各インバータ43にトルク指令を出力するトルク指示部48とが具備されている。
【0021】
上記空転判断部47では、内外輪の回転速度比r1と、当該ホイールローダの最小回転半径における内外輪の回転半径比r2とを比較し、内外輪の回転速度比r1が回転半径比r2を超えている場合には、回転速度が大きい方の車輪4,5が空転を起こしていると判断される。例えば、図6においては、前部右側車輪4Rと後部左側車輪5Lが空転している場合を示す(破線の矢印にて示す)。
【0022】
そして、空転を起こしている車輪4R,5Lがトルク指示部48に出力されて、このトルク指示部48からこれら車輪4R,5Lに対応するモータ41のインバータ43に対してトルクを低下させる指令が出力される。なお、トルク指令としては、例えば現時点のトルクを例えばモータ定格トルクの8%程度まで低下させるような指示である。
【0023】
そして、このような制御が所定時間(例えば、20msec)ごとに行われており、内外輪の回転速度比r1が回転半径比r2より小さくなった場合、つまり空転がなくなった場合には、元のトルク値に戻される。この判断についても、空転判断部47で行われており、したがって空転判断部47にて空転がなくなったと判断された場合に、トルク指示部48からトルクを元に戻す指令、つまりトルクの増加指令が出力される。
【0024】
すなわち、ホイールローダにより土砂などの掘削・運搬作業を行っている最中に、例えば前側と後側のそれぞれ左右の車輪4,5の片方がスリップして空転した場合には、空転判断部47にて空転していると判断される。したがって、トルク指示部48から空転している前側および後側の車輪4,5のモータ41に(正確には、インバータ43に)トルクを低下させる(抑える)指令が出力される。このように、空転している車輪4,5のトルクが低下すると、地面に対する車輪4,5のグリップ力(把持力)が回復するため、スリップがなくなり、走行可能な状態となる。
【0025】
そして、スリップがなくなると、空転判断部47およびトルク指示部48から、元のトルクに戻す指令が出力される。
上述したように、前側および後側における内外輪の回転速度比と、産業用車両の最小回転半径における内外輪の回転半径比とを比較することにより、つまりその大小に基づき、前側および後側の両車輪のいずれかが空転しているか否かを判断するとともに、前側および後側の車輪にそれぞれ空転が発生している判断された場合に、空転している車輪のモータのトルクを低下させるトルク指令を出力するようにしたので、空転している車輪のトルクを低下させて地面に対するグリップ力を増加させることができ、したがって走行可能状態に戻すことができる。
【0026】
なお、上記実施例においては、本発明をホイールローダに適用した場合について説明したが、勿論、このホイールローダに限定されるものではなく、他の四輪駆動式産業用車両にも適用し得るものである。
【符号の説明】
【0027】
1 車両本体
2 前側本体部
3 後側本体部
4 前側車輪
5 後側車輪
21 前部車軸
22 後部車軸
23 ディファレンシャアル装置
24 ディファレンシャアル装置
25 連結軸
41 モータ
43 インバータ
44 制御装置
45 エンコーダ
46 速度比演算部
47 空転判断部
48 トルク指示部

【特許請求の範囲】
【請求項1】
車両本体フレームの前部および後部に前部車軸および後部車軸を配置するとともに、これら各車軸の途中にディファレンシャアル装置を配置し、これら前部および後部のディファレンシャアル装置同士を連結軸により連結し、上記各車軸の先端部に車輪を駆動する電動機をそれぞれ設けてなる四輪駆動式産業用車両であって、
上記各電動機を制御するための制御装置を具備するとともに、
この制御装置を、
上記各車輪の回転速度を検出する回転速度検出器にて検出された回転速度を入力して、前側および後側における左右の車輪同士の回転速度比を演算する速度比演算部と、
この速度比演算部にて求められた回転速度比および予め求められている当該産業用車両の最小回転半径における内外輪の回転半径比に基づき前側および後側における左右の車輪のいずれかが空転しているか否かを判断する空転判断部と、
この空転判断部にて空転していると判断された場合に、空転している車輪の電動機のトルクを低下させるトルク指令を出力するトルク指示部とから構成したことを特徴とする四輪駆動式産業用車両。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【公開番号】特開2010−220448(P2010−220448A)
【公開日】平成22年9月30日(2010.9.30)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−67153(P2009−67153)
【出願日】平成21年3月19日(2009.3.19)
【出願人】(000003241)TCM株式会社 (319)
【Fターム(参考)】