説明

基板の乾燥方法及びそれを用いた画像表示装置の製造方法

【課題】基板の端部領域におけるレジスト表面難溶化層の剥離及び再付着で生じるスジ状欠陥の発生を抑制する。
【解決手段】基板1の板厚中心に位置する中央面を含む仮想平面1bより上方に位置する上方吹き出し部2aから、基板を乾燥させるための第1の気流4を基板に向けて斜め下向きに供給し、かつ仮想平面より下方に位置する下方吹き出し部2bから、基板を乾燥させるための第2の気流5を基板に向けて斜め上向きに供給しながら、基板が上方吹き出し部と下方吹き出し部との間を、端部領域を基板先頭部として通過するように、上方及び下方吹き出し部と、基板と、を相対移動させる。第2の気流の仮想平面と垂直な上向きの速度成分が、第1の気流の仮想平面と垂直な下向きの速度成分より小さくなるように第1及び第2の気流を制御する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、基板に気体を吹き付けることによって基板を乾燥させる方法及び画像表示装置の製造方法に関し、特にエアナイフを用いた基板の乾燥方法に関する。
【背景技術】
【0002】
フラットパネルディスプレイなどの画像表示装置では、ガラス基板上の回路パターン等はレジスト膜によって形成される。レジスト膜の形成後は現像等の薬液処理を行い、薬液処理の後には洗浄水(純水)を用いて基板を洗浄し、その後基板を乾燥させることが必要である。
【0003】
基板の薬液処理から洗浄、乾燥までの一連の処理は通常、一つのチャンバ内で、ローラーコンベアなどの移動手段によって基板を移動しながら行われる。
【0004】
基板の乾燥にはエアナイフを用いるのが一般的である。エアナイフによって基板の上面及び下面に同時に乾燥エアを吹きつけ、それによって洗浄水が基板の表面から吹き飛ばされ、除去される。エアナイフは上下一対となっており、エアナイフの配置及びエア流量は厳密に上下対称とすることが一般的である(特許文献1)。上記の一連の処理において、基板はレジストパターンの形成された面が上面となるよう配置される。
【0005】
基板を乾燥する際に、基板の上面に吹き付ける乾燥エアが強すぎると、レジストパターンの破壊が生じることが知られている(特許文献2,3)。特許文献2には、レジストパターンの破壊を防止するため、乾燥エアを吹き付けた後に温風を吹き付け、仕上げ乾燥を行う技術が開示されている。特許文献3には、ノズル形状の工夫により少量のエアで基板を乾燥させる技術が開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【特許文献1】特開2003−133217号公報
【特許文献2】特開2007−149987号公報
【特許文献3】特開2007−144314号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
上述したレジストパターンの破壊現象について、図面を用いて説明する。図10は、エアナイフを用いて基板に乾燥エアを吹き付けた際に生じるレジストパターンの破壊の様子を模式的に示している。同図(a)は、基板の上方から見た基板の平面図であり、同図(b)は横方向から見た基板の側方図である。エアナイフから供給されるエアと同じ方向にレジスト表面難溶化層9の剥離が発生し、剥離部9aがレジストパターン8の上に付着してスジ状欠陥10となっている。レジスト表面難溶化層9とは未露光のレジスト表面がTMAH(テトラメチルアンモニウムハイドロオキサイド)水溶液などの現像液に触れることによって、樹脂と感光剤がアゾカップリング反応を起こし、TMAH水溶液に不溶となったもののことである。レジスト表面難溶化層9は一般にレジスト9bの表面から50〜200nmの厚さで形成されることが知られている。
【0008】
スジ状欠陥10は、基板がエアナイフを通過する際に、基板の端部領域3に限って発生することが分かっている。ここで基板の端部領域3は、基板上面(レジストパターンが形成された面)の先頭側の端部21から測って10〜20mm程度の範囲をいう。端部領域3内に有効パターン領域22が存在している場合、有効パターン領域22にこのような欠陥が発生すると、歩留まり低下の原因となる。ここで有効パターン領域22とは基板表面にレジスト膜が一定の厚さで形成され、パターン形成が可能な領域のことであり、一般的に基板の端部から一定の距離以上内側にある領域を指す。有効パターン領域22の外側でレジスト膜の厚さが一定とならない理由は、スピンコート法では、レジスト塗布時の基板端での表面張力の影響が挙げられ、スリットコート法では塗布開始時と塗布終了時のポンプ動作の不安定性が挙げられる。
【0009】
スジ状欠陥は、端部領域3がエアナイフで乾燥されるときに洗浄液のミストが発生し、そのミストが乾燥エアに流されて基板表面に衝突することにより生じる。特許文献2,3に記載の方法では、基板の端部領域3でのレジスト表面難溶化層9の剥離とレジストパターン8への再付着を防止することが難しく、上記課題の解決を図ることは困難である。
【0010】
本発明は、基板の端部領域におけるレジスト表面難溶化層が気体を吹き付けられて剥離し、再付着することで生じるスジ状欠陥の発生を抑制可能な基板の乾燥装方法及び画像表示装置の製造方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0011】
本発明の基板の乾燥方法は、基板の上面に当該上面の端部領域を含めてレジストが塗布され、レジストの表面にレジスト表面難溶化層が形成され、その後洗浄された基板を、基板に気体を吹き付けることによって乾燥させる方法である。本方法は、基板の板厚中心に位置する中央面を含む仮想平面より上方に位置する上方吹き出し部から、基板を乾燥させるための第1の気流を基板に向けて斜め下向きに供給し、かつ仮想平面より下方に位置する下方吹き出し部から、基板を乾燥させるための第2の気流を基板に向けて斜め上向きに供給しながら、基板が上方吹き出し部と下方吹き出し部との間を、端部領域を基板先頭部として通過するように、上方及び下方吹き出し部と、基板と、を相対移動させることと、第2の気流の仮想平面と垂直な上向きの速度成分が、第1の気流の仮想平面と垂直な下向きの速度成分より小さくなるように第1及び第2の気流を制御することと、を含んでいる。
【0012】
基板を乾燥するときには、洗浄の際に用いられた洗浄液のミストが発生する。第1及び第2の気流は、第2の気流の仮想平面と垂直な上向きの速度成分が、第1の気流の仮想平面と垂直な下向きの速度成分より小さくなるように制御されるため、ミストが基板の上面に向かうことが抑制される。これによって、合成気流に乗って基板上面の端部領域に衝突するミストが減少し、有効パターン領域でのスジ状欠陥の発生を抑えることができる。
【0013】
本発明の他の実施態様では、上方吹き出し部における第1の気流の方向と仮想平面とがなす第1の挟角が、下方吹き出し部における第2の気流の方向と仮想平面とがなす第2の挟角より大きくなるように第1及び第2の気流が制御される。
【0014】
本発明の画像表示装置の製造方法は、上述の基板の乾燥方法に従いレジストが形成された基板を乾燥させ、基板上のレジストをエッチングして配線パターンを形成し、配線パターンに画像表示用素子を組み合わせることを含んでいる。
【発明の効果】
【0015】
本発明によれば、基板の端部領域におけるレジスト表面難溶化層が気体を吹き付けられて剥離し、再付着することで生じるスジ状欠陥の発生を抑制可能な基板の乾燥方法及び画像表示装置の製造方法を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0016】
【図1】レジスト現像装置の構成を示す概念図である。
【図2】エアナイフの配置を示す平面図及び側方図である。
【図3】エアナイフからの乾燥エアの吹き出し速度を上下非対称にしたときの気流の状態を示す図である。
【図4】下側エアナイフからの乾燥エアの吹き出し速度を変えたときの欠陥長さを示すグラフである。
【図5】エアナイフと仮想平面がなす挟角を上下非対称にしたときの気流の状態を示す図である。
【図6】第2の挟角を変えたときの欠陥長さを示すグラフである。
【図7】上側エアナイフからの乾燥エアの吹き出し速度及び基板の搬送速度を変えたときの欠陥長さを示すグラフである。
【図8】画像表示装置のマトリックス配線構造を示す図である。
【図9】従来例のエアナイフから供給される乾燥エアによる気流の状態を示す図である。
【図10】レジスト膜面に発生するスジ状欠陥の模式図である。
【発明を実施するための形態】
【0017】
以下図面を参照して、本発明の基板の乾燥方法の実施形態について説明する。本発明の対象となる基板はどのような用途のものでも構わないが、一例として、平面型画像表示装置用の、電子放出素子が形成されるガラス基板が挙げられる。基板のパターンの形成される面にはその全面に、パターン形成用のレジストが塗布される。レジストは基板の端部に沿った帯状領域である端部領域にも塗布されるが、端部領域は膜厚が安定していないためパターン形成領域としては使用されない。端部から端部と直交する向きに測った端部領域の幅は、例えば10〜20mm程度である。基板に塗布されるレジストはノボラック系樹脂を主成分とするポジレジストであることが望ましく、レジストの塗布膜厚は3μm以下とすることが望ましい。レジストが塗布された基板の面はその後の工程で上向きに維持される。このため、レジストの塗布された面が基板の上面となる。
【0018】
レジストの塗布された基板は、露光機を用いて所定のパターンで露光される。露光された基板はレジスト現像装置に搬入され、現像、洗浄、乾燥の各工程を受ける。図1は、レジスト現像装置の構成を示す概念図で、同図(a)が側方図、同図(b)がエアナイフ乾燥槽の部分拡大図である。レジスト現像装置11は、現像処理槽12と、洗浄槽13と、基板を乾燥するエアナイフ乾燥槽14と、を備えている。基板1はレジスト現像装置11の各槽12〜14を、コンベア15によって搬送方向Dの方向に搬送されながら、これらの処理を受ける。すなわち、現像処理槽12ではアルカリ液によってレジストが現像され、レジスト表面難溶化層が形成される。洗浄槽13では基板1に残った薬液(現像液)が純水で洗い流される。エアナイフ乾燥槽14では、エアナイフによって基板1に乾燥エアが吹き付けられ、純水が吹き飛ばされて、基板1が乾燥させられる。搬送方向Dは通常は水平方向に一致する。
【0019】
図1(b)に示すように、エアナイフ乾燥槽14の下流側にはHEPA(High Efficiency Particulate Air)フィルタ16が設けられ、エアナイフ乾燥槽14の入口付近には排気口17が設けられている。従って、エアナイフ乾燥槽14内には下流側から上流側に向けて、HEPAフィルタでろ過された清浄な空気が流されており、かつ下流側(HEPAフィルタ側)の圧力が高くされている。これによって乾燥エアで吹き飛ばされた純水のミストが乾燥後の基板1に再付着することが防止される。
【0020】
図2にエアナイフの配置を示す。同図(a)が平面図、同図(b),(c)が側方図である。図3は気流の状態を示す図である。エアナイフ2は上側エアナイフ2aと下側エアナイフ2bからなる一対のエアナイフである。エアナイフ2は、圧縮空気を内部のチャンバに充填し、充填された圧縮空気を細長い隙間から吐出するもので、本発明に好適に用いることができる。基板1の板厚中心に位置する面を中央面1aとし、中央面1aを含む平面を仮想平面1bと定義する。上側エアナイフ2aは仮想平面1bより上方に位置する上方吹き出し部を構成しており、基板1を乾燥させるための第1の気流4を基板1に向けて斜め下向きに供給する。下側エアナイフ2bは仮想平面1bより下方に位置する下方吹き出し部を構成しており、基板1を乾燥させるための第2の気流5を基板1に向けて斜め上向きに供給する。
【0021】
図2(b)に示すように、上側エアナイフ2aと下側エアナイフ2bは仮想平面1bに関し上下対称に配置されている。すなわち、上側エアナイフ2aと下側エアナイフ2bは各々、基板1の上面1dと下面1eから等距離の位置に配置されている。また上側エアナイフ2aから供給される第1の気流4の方向と仮想平面1bとがなす挟角(以下、第1の挟角θ1という)と、下側エアナイフ2bから供給される第2の気流5の方向と仮想平面1bとがなす挟角(以下、第2の挟角θ2という)は、互いに等しい。
【0022】
エアナイフ2は基板1の搬送方向Dと直交する向きに対して傾いて配置されている。気流の供給手段はエアナイフ2に限定されず、多数の孔(ノズル)が設けられた管などであっても構わない。乾燥用の気体としては乾燥エアが用いられるが、基板1を乾燥することができれば、乾燥エアに限定されない。
【0023】
基板1はコンベア15を移動手段として搬送されながら、上側エアナイフ2aと下側エアナイフ2bとの間を、端部領域3を先頭として通過する。図1の例では、基板1が左から右に移動しているが、エアナイフ2に移動手段を設けて右から左に移動するようにしてもよい。基板1と上側及び下側エアナイフ2a,2bとが互いに対して相対移動可能であれば、どのような移動方法を用いてもよく、基板1とエアナイフ2の双方を同時に動かすことも可能である。
【0024】
図3を参照すると、第1及び第2の気流4,5は各々斜め下方向及び斜め上方向に吹き出されるため、これらの気流4,5を隔てる障害物がない場合は、途中で合流して合成気流6を形成する。従って、基板先頭部1fが第1及び第2の気流4,5の合流点18に達していないときは合成気流6が形成され、基板先頭部1fが合流点18に差し掛かると合成気流6の形成が妨げられる。基板先頭部1fが合流点18を通過すると、第1の気流4と第2の気流5は基板1によって隔てられて、各々基板1の上面1dと下面1eに吹き付けられる。本発明では、基板先頭部1fが第1の気流4と第2の気流5の合流点18の近傍に達したときに、基板先頭部1fの近傍で合成気流6が仮想平面1bと垂直でかつ上向きの速度成分を持たないように、第1及び第2の気流4,5が制御される。
【0025】
この条件を実現するため、本実施形態では第2の気流5の仮想平面1bと垂直な上向きの速度成分VUが、第1の気流4の仮想平面1bと垂直な下向きの速度成分VDより小さくされている。本実施形態では第1の挟角θ1と、第2の挟角θ2が等しいため、第2の気流5の吹き出し流速V2を第1の気流4の吹き出し流速V1よりも小さくすることで、この条件が満たされる。この結果、基板先頭部1fの端部領域3に向かう合成気流6の向きが、仮想平面1bと平行な方向ではなく、上側から下側に向かう方向に傾くように制御される。
【0026】
従来例では、図9に示すように上下のエアナイフ配置並びに第1及び第2の気流4,5の向きが仮想平面1bに関して線対称となっており、かつ第1及び第2の気流4,5の速度も等しいため、合成気流6の向きが仮想平面1bと平行となる。このため、基板先頭部1fで分かれて基板上面1dに向かう気流と基板下面1eに向かう気流とがほぼ同じ風量となり、基板先頭部1fの近傍を乾燥するときに発生する洗浄液のミストのおよそ半分が基板1の上側へ向かう。このミストが基板1の上側の乾燥エアに乗って基板1の上面1dに衝突し、スジ状欠陥を引き起こしていた。
【0027】
これに対し本実施形態では、図3に示すように上側エアナイフ2aから第1の気流4が、下側エアナイフ2bから第2の気流5が供給され、第1の気流4と第2の気流5が合流して合成気流6が形成される。基板先頭部1fが第1の気流4と第2の気流5の合流点18に達すると、合成気流6は基板先頭部1fで、基板1の上側に向かう気流7と下側に向かう気流8とに分かれる。第1の気流4の吹き出し流速V1より第2の気流5の吹き出し流速V2が小さいため、合成気流6は仮想平面1bに平行な方向ではなく、上側から下側へ向かう方向に傾く。この結果、気流8と比べて気流7の風量が小さくなり、基板先頭部1fの近傍を乾燥するときに発生する洗浄液のミストが基板1の上面1dに向かいにくくなる。
【0028】
図4は、第1の気流4の吹き出し流速V1を150m/秒に固定し、第2の気流5の吹き出し流速V2を変化させたときのスジ状欠陥の長さを示している。V2=150m/秒(黒四角で示したポイント)は従来技術に相当する。V2をV1に対して小さくしていくとスジ状欠陥の長さが短くなり、特にV1/V2が1.3になるとスジ状欠陥の長さが大きく縮小する。スジ状欠陥の長さが短くなると、欠陥自体が軽微なものになるだけでなく、剥離したレジスト表面難溶化層9が端部領域3内でとどまる可能性が増え、有効パターン領域に進入しにくくなる。一方V2が小さいと、基板1の下面に供給される気流が不足するため、基板1の下面が乾きにくくなる。以上より、V1とV2の比V1/V2は、1.3以上2.0以下であるのが望ましい。V1/V2がこの範囲にあれば、基板1の両面を十分に乾燥させ、かつスジ状欠陥の長さを十分に短く抑えることが可能となる。
【0029】
上記の条件を実現するために、第1の挟角θ1を第2の挟角θ2より大きくすることも可能である。これによっても、合成気流6の向きを仮想平面1bと平行ではなく、上側から下側に向かう方向に傾くように制御することができる。図5を参照すると、図3と同様に第1の気流4と第2の気流5が合流してできる合成気流6が基板先頭部1fへ向かい、基板先頭部1fにおいて、基板上面1dに向かう気流7と基板下面1eに向かう気流8とに分かれている。ここでは、第1の気流4の吹き出し速度と第2の気流5吹き出し速度は等しいとする。第1の気流4の仮想平面1bに垂直な成分より第2の気流5の仮想に垂直な成分が小さいため、合成気流6は仮想平面1bに平行な方向ではなく、上側から下側へ向かう方向に傾く。この結果、基板先頭部1fで分岐して基板1の上側へ向かう気流7の風量が相対的に小さくなり、基板先頭部1fの近傍を乾燥するときに発生する洗浄液のミストが基板1の上面1dに向かいにくくなる。なお、第1の挟角θ1を第2の挟角θ2より大きくするとともに、第1の気流4の吹き出し流速V1より第2の気流5の吹き出し流速V2を小さくすることも可能である。
【0030】
図6は第1の挟角θ1を60°に固定し、第2の挟角θ2を変えたときのスジ状欠陥の長さを示している。θ2=60°(黒四角で示したポイント)は従来技術に相当する。第2の挟角θ2が第1の挟角θ1よりも小さいとスジ状欠陥の長さが短くなり、θ2が45°まで小さくなるとスジ状欠陥の長さが大きく縮小する。一方θ2が小さいと、基板1の下面に供給される気流が不足するため、基板1の下面が乾きにくくなる。以上より、第2の挟角θ2は40°以上45°以下の範囲が望ましい。θ2がこの範囲にあれば、基板1の両面を十分に乾燥させ、かつスジ状欠陥の長さを十分に短く抑えることが可能となる。
【0031】
上述のように、基板1はレジスト塗布、露光、現像、洗浄、乾燥等の工程を順次受け、さらにその後もポストベーク、エッチングなどの様々な処理を受ける。従って、これらの工程を効率的に行うためには、各工程に要する時間(タクトタイム)をあらかじめ定め、その時間内で各工程を終了させることが望ましい。乾燥工程の際は、基板1はレジスト現像装置11内を、このタクトタイムを満足するようにあらかじめ定められた値より大きい搬送速度(エアナイフとの相対速度)で搬送される。タクトタイムが短く設定された場合、基板1の搬送速度を増加する必要があるが、搬送速度が大きいと乾燥むらないし水滴残りが生じやすくなる。搬送速度が速いと、図7(a)に示すように、スジ状欠陥が長くなる傾向がある。以上より、タクトタイムの上限(搬送速度の下限)は、乾燥工程を含む基板の処理工程全体から規定される、基板乾燥工程のタクトタイムに収めるように選ぶことが望ましい。またタクトタイムの下限(搬送速度の上限)は、基板が上側エアナイフ2aと下側エアナイフ2bとの間を完全に通過したときに、基板の表面に水滴が残存することなく基板1が完全に乾燥するように選ぶことが望ましい。以上を考慮すると、基板の搬送速度は1.4〜1.9m/分程度が好ましい範囲である。
【0032】
第1の気流4の吹き出し流速V1は任意に設定することができるが、V1が大きいと、図7(b)に示すように、スジ状欠陥が長くなる傾向がある。一方、V1が小さいと、洗浄液のミストを吹き飛ばす力が弱くなり、基板上面1dに水滴が残存しやすくなる。第1の気流4の吹き出し流速V1は135m/秒以上165m/秒以下の範囲とすることが好ましい。
【実施例1】
【0033】
以下、具体的な実施例により、本発明を説明する。基板1として、旭硝子製ガラス基板1PD200(商品名)を用いた。基板1の形状は長辺長さ1330mm、短辺長さ794mmの長方形であり、厚さ1.8mmである。ポジレジストとして、東京応化工業製ポジレジストTFR1250PM(商品名)を用いた。ポジレジストの粘度は0.013Pa・s、固形分濃度は23%であった。基板1を純水により洗浄し乾燥した後、ポジレジストをスリットコート法により塗布膜厚13μmで塗布した。塗布された基板1を真空チャンバにて13Paまで減圧し乾燥させ、ホットプレート上で116℃に加熱して10分間乾燥させた。乾燥後の塗布膜厚は3μmであった。
【0034】
次に、薬液(現像液)として2.38重量%、温度23℃のTMAH水溶液を用いて、乾燥させた基板1に対して現像処理を行った。図1(a)に示す現像処理槽12内において、乾燥された基板1の上側表面に、TMAH水溶液を圧力0.15MPaのフルコーン形状シャワーにて3分間噴霧した。基板1及びシャワーノズルを揺動させて、シャワーの打力が基板表面全体にわたって均一にかかるようにした。
【0035】
現像処理された基板1に対して、純水による水洗処理を行った。図1(a)に示す洗浄槽13内において、現像処理された基板1の上面1d及び下面1eに、純水を圧力0.05MPaのフルコーン形状シャワーにて1分間噴霧した。
【0036】
次に、上下一対のエアナイフ2を用いて、水洗処理された基板1に対して乾燥処理を行った。図1(a)に示すエアナイフ乾燥槽14において、水洗処理された基板1の上面1d及び下面1eに乾燥エアを供給し、純水を吹き飛ばして基板1を乾燥させた。
【0037】
上下一対のエアナイフ2のエア噴出口形状は長さ900mm、幅0.1mmとした。上側エアナイフ2aから供給されるエア流量は800NL/minであり(1NLは0℃、大気圧で1Lに相当する容積)、上側エアナイフ2aから供給される気流の速度V1は150m/秒であった。下側エアナイフ2bから供給されるエア流量は500NL/minであり、下側エアナイフ2bから供給される気流の速度V2は95m/秒であった。図2(a)において、仮想平面1bと平行な面内において基板1の搬送方向Dに直交する方向とエアナイフ2がなす角度を20°とした。図2(b)に示すように、基板1が上側エアナイフ2aと下側エアナイフ2bの間を通過する時の基板1とエアナイフ2の距離を3mm、上側及び下側エアナイフ2a,2bのエア噴出方向と仮想平面1bとがなす第1及び第2の挟角θ1,θ2は60°とした。基板1の搬送速度は1.6m/minとした。本実施例においては、レジスト塗布膜厚が安定する領域である有効パターン領域は、基板1の端部から10mm以上離れた領域とした。
【0038】
上下一対のエアナイフ2から供給される乾燥エアによる合成気流6は、図3のようになる。基板先頭部1fに向かう合成気流6の速度ベクトルは仮想平面1bに対して平行ではなく、上側から下側に向かう方向に傾く。このため、基板先頭部1fに衝突後、基板1の上側へ向かう気流7は、上側及び下側のエアナイフ2a,2bから供給されるエア流量が等しい場合と比べて減少する。これにより、基板先頭部1fから基板1の上側の乾燥エアに乗って基板表面に衝突する洗浄液のミストが減少し、スジ状欠陥の長さを5mmとすることができた。これは端部領域3の幅(10mm)より小さい値であり、有効パターン領域でのスジ状欠陥の発生を抑えることができた。
【実施例2】
【0039】
実施例2では、エアナイフ2と仮想平面のなす挟角を上下非対称として、基板先頭部1fに向かう合成気流6が仮想平面に対して平行ではなく上側から下側に向かう方向に傾くように制御した。基板、塗布材料、塗布方法、現像液、現像方法、洗浄液、リンス方法については実施例1と同様である。
【0040】
水洗処理された基板1に対して乾燥処理を行うために上下一対のエアナイフ2a,2bを用いた。図1(a)に示すレジスト現像装置11のエアナイフ乾燥槽14において、水洗処理された基板1の上面1d及び下面1eに乾燥エアを供給し、純水を吹き飛ばし乾燥させた。
【0041】
上下一対のエアナイフ2a,2bのエア噴出口形状は長さ900mm、幅0.1mmとし、上下一対のエアナイフ2a,2bから供給されるエア流量は上下とも800NL/minとした。図2(c)に示すように、水洗された基板1が上側エアナイフ2aと下側エアナイフ2bを通過する時の基板1とエアナイフの距離は3mmとした。図2(c)に示すように、上側エアナイフ2aのエア噴出方向と仮想平面1bとがなす第1の挟角θ1を60°、下側エアナイフ2bのエア噴出方向と仮想平面1bとがなす第2の挟角θ2を45°とした。基板1の搬送速度は1.6m/minとした。本実施例においては、レジスト塗布膜厚が安定する領域である有効パターン領域は、基板1の端部から10mm以上離れた領域とした。
【0042】
上下一対のエアナイフ2a,2bから供給されるエアによる合成気流6は、図5のようになる。基板先頭部1fに向かう合成気流6ベクトル6は仮想平面1bに対して平行ではなく、上側から下側に向かう方向に傾く。このため、基板先頭部1fに衝突後、基板1の上側へ向かう気流7は、上下のエアナイフが仮想平面1bとなす挟角θ1,θ2が等しい場合と比べて減少する。これにより、基板先頭部1fから基板1の上側の乾燥エアに乗って基板表面に衝突する洗浄液のミストが減少し、スジ状欠陥の長さを10mmとすることができた。これは端部領域3の幅と同等の値であり、有効パターン領域でのスジ状欠陥の発生を抑えることができた。
【0043】
なお、エアナイフのエア噴出口形状、上側エア噴出量、基板搬送速度、エアナイフと仮想平面のなす挟角は、実施例1及び2で示した値に限られるものではなく、乾燥対象の基板サイズや表面状態によって適切に変更することができる。
【実施例3】
【0044】
実施例3として、基板1の乾燥方法を用いて画像表示装置を製造した。図8はマトリックス構造の配線を示す基板の平面図であり、同図(a)が全体平面図、同図(b)が部分拡大図である。
【0045】
図8(a)に示すように、画像表示装置の製造においてはマトリックス構造の配線19を形成することが必要である。本実施例においては、図8(b)に示すように配線を基板端から10mm離れた場所まで形成し、配線が形成される領域を有効パターン領域とした。
【0046】
基板1として、旭硝子製ガラス基板PD200(商品名)を用いた。基板1の形状は長辺長さ1330mm、短辺長さ794mmの長方形であり、厚さ1.8mmであった。
【0047】
基板1上に配線材料としてメタル膜を成膜した。その後、メタルが成膜された基板1にレジストを塗布した。使用する材料、塗布方法、乾燥方法は実施例1と同様とした。レジストが塗布された基板1に対し、適切なマスクを用いて露光処理を行い、レジストに潜像を形成した。マスクは基板端部から10mm以上離れた部分にのみパターンを有しており、基板端部から10mmまでの範囲にはパターンを形成していない。露光量は70mJ/cm2とした。
【0048】
露光された基板1に対し、現像処理及び水洗処理を行った。使用する材料、現像方法、水洗方法は実施例1と同様とした。
【0049】
現像及び水洗処理のされた基板1を、上下一対のエアナイフ2a,2bによって乾燥させた。エアナイフの構成及び条件は実施例1と同様とした。基板端部から10mm以上離れた部分に形成した配線パターンに、エアナイフ乾燥によるスジ状欠陥は生じなかった。
【0050】
乾燥された基板1をホットプレート上にて120℃まで加熱し、5分間のポストベーク処理を行った。ポストベークされた基板1を適切な方法でエッチングし、レジストを適切な方法で剥離することにより、所望の配線パターンを形成することができた。この配線パターンに対して画像表示用素子を組み合わせて画像表示装置を構成した。
【0051】
以上の手順により、レジストパターン形成時において有効パターン領域でのスジ状欠陥の発生を抑制し、所望の配線パターンを高品質で形成することができた。欠陥の発生が抑えられた配線パターンと画像表示用素子とを組み合わせることにより、従来と比べて高品質の画像表示装置を製造することができた。
【符号の説明】
【0052】
1 基板
1b 仮想平面
2 エアナイフ
4 第1の気流
5 第2の気流

【特許請求の範囲】
【請求項1】
基板の上面に該上面の端部領域を含めてレジストが塗布され、前記レジストの表面にレジスト表面難溶化層が形成され、その後洗浄された前記基板を、該基板に気体を吹き付けることによって乾燥させる方法であって、
前記基板の板厚中心に位置する中央面を含む仮想平面より上方に位置する上方吹き出し部から、前記基板を乾燥させるための第1の気流を前記基板に向けて斜め下向きに供給し、かつ前記仮想平面より下方に位置する下方吹き出し部から、前記基板を乾燥させるための第2の気流を前記基板に向けて斜め上向きに供給しながら、前記基板が前記上方吹き出し部と前記下方吹き出し部との間を、前記端部領域を基板先頭部として通過するように、前記上方及び下方吹き出し部と、前記基板と、を相対移動させることと、
前記第2の気流の前記仮想平面と垂直な上向きの速度成分が、前記第1の気流の前記仮想平面と垂直な下向きの速度成分より小さくなるように前記第1及び第2の気流を制御することと、を含む、基板の乾燥方法。
【請求項2】
前記上方吹き出し部における前記第1の気流の吹き出し流速の、前記下方吹き出し部における前記第2の気流の吹き出し流速に対する比は、1.3以上2.0以下である、請求項1に記載の基板の乾燥方法。
【請求項3】
基板の上面に該上面の端部領域を含めてレジストが塗布され、前記レジストの表面にレジスト表面難溶化層が形成され、その後洗浄された前記基板を、該基板に気体を吹き付けることによって乾燥させる方法であって、
前記基板の板厚中心に位置する中央面を含む仮想平面より上方に位置する上方吹き出し部から、前記基板を乾燥させるための第1の気流を前記基板に向けて斜め下向きに供給し、かつ前記仮想平面より下方に位置する下方吹き出し部から、前記基板を乾燥させるための第2の気流を前記基板に向けて斜め上向きに供給しながら、前記基板が前記上方吹き出し部と前記下方吹き出し部との間を、前記端部領域を基板先頭部として通過するように、前記上方及び下方吹き出し部と、前記基板と、を相対移動させることと、
前記上方吹き出し部における前記第1の気流の方向と前記仮想平面とがなす第1の挟角が、前記下方吹き出し部における前記第2の気流の方向と前記仮想平面とがなす第2の挟角より大きくなるように前記第1及び第2の気流を制御することと、を含む、基板の乾燥方法。
【請求項4】
前記第1の挟角は60°、前記第2の挟角は40°以上45°以下である、請求項3に記載の基板の乾燥方法。
【請求項5】
前記第1及び第2の気流は、前記基板の前記先頭部が前記第1の気流と第2の気流の合流点の近傍に達したときに、前記第1及び第2の気流によって形成される合成気流が前記基板の前記先頭部の近傍で、前記仮想平面と垂直でかつ上向きの速度成分を持たないように供給される、請求項1から4のいずれか1項に記載の基板の乾燥方法。
【請求項6】
前記第1の気流の吹き出し流速は135m/秒以上165m/秒以下である、請求項1から5のいずれか1項に記載の基板の乾燥方法。
【請求項7】
前記上方吹き出し部は前記第1の気流を供給するエアナイフを、前記下方吹き出し部は前記第2の気流を供給するエアナイフを有している、請求項1から6のいずれか1項に記載の基板の乾燥方法。
【請求項8】
前記上方及び下方吹き出し部と前記基板とは、あらかじめ定められた値より大きい相対速度であって、かつ前記基板が前記上方吹き出し部と前記下方吹き出し部との間を完全に通過したときに、前記基板の表面に水滴が残存しない相対速度で相対移動させられる、請求項1から7のいずれか1項に記載の基板の乾燥方法。
【請求項9】
請求項1から8のいずれか1項に記載の基板の乾燥方法に従い、前記レジストが形成された基板を乾燥させ、前記基板上の前記レジストをエッチングして配線パターンを形成し、該配線パターンに画像表示用素子を組み合わせることを含む、画像表示装置の製造方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【公開番号】特開2012−55835(P2012−55835A)
【公開日】平成24年3月22日(2012.3.22)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−202169(P2010−202169)
【出願日】平成22年9月9日(2010.9.9)
【出願人】(000001007)キヤノン株式会社 (59,756)
【Fターム(参考)】