説明

基板乾燥装置および基板乾燥方法

【課題】基板表面に付着した液体を大気圧雰囲気で除去して基板を良好に乾燥させることができる基板乾燥装置および基板乾燥方法を提供する。
【解決手段】凍結膜12を構成するDIWの凝固点よりも低温で、かつ凍結膜12の温度よりも低い露点を有する凍結乾燥用窒素ガスが基板表面Wfに向けて継続して供給される。このため、凍結乾燥用窒素ガス中の水蒸気の分圧は凍結膜12の蒸気圧(昇華圧)よりも低く昇華乾燥が進行する。また、昇華により発生した水蒸気成分は凍結乾燥用窒素ガスの気流に乗って基板表面Wfから取り除かれるため、水蒸気成分が液相や固相に戻り基板表面Wfに再付着するのを確実に防止することができる。このように大気圧雰囲気で基板表面Wfに付着したリンス液を良好に除去して基板Wを乾燥させることができる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
この発明は、半導体ウエハ、フォトマスク用ガラス基板、液晶表示用ガラス基板、プラズマ表示用ガラス基板、FED(Field Emission Display)用基板、光ディスク用基板、磁気ディスク用基板、光磁気ディスク用基板などの各種基板(以下、単に「基板」という)を乾燥させる基板乾燥装置および基板乾燥方法に関するものである。
【背景技術】
【0002】
半導体装置や液晶表示装置などの電子部品の製造工程では、基板の表面に成膜やエッチングなどの処理を繰り返し施して微細パターンを形成していく工程が含まれる。ここで、微細加工を良好に行うためには基板表面を清浄な状態に保つ必要があり、必要に応じて基板表面に対して洗浄処理が行われる。そして、洗浄処理後に、基板表面に付着しているDIW(deionized Water:脱イオン水)などの液体を除去して基板を乾燥させる必要がある。この乾燥時における重要な課題のひとつが基板表面に形成されているパターンを倒壊させずに基板乾燥を行うことである。この課題を解消する方法として昇華乾燥技術が注目されている。この昇華乾燥技術は、例えば特許文献1や特許文献2に記載されているように、基板表面に付着するDIWなどの液体を処理室内で凍結させた後に、その処理室内を減圧して凍結体を昇華させるものである。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特開平4−242930号公報(図2)
【特許文献2】特開平4−331956号公報(図1)
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
上記従来技術では、処理室内の減圧処理が必須であり、大気圧状態で基板乾燥を行うことができず、同一装置内で他の基板処理を連続的に行うことができない。例えばDIWなどの純水を用いた基板を洗浄するのに続き、基板洗浄直後のまま基板乾燥を行うことは難しい。また、処理室内を減圧させる必要があるため、処理室の気密性を確保するとともに、処理室内を減圧するための真空ポンプやバルブなどを設ける必要がある。その結果、基板乾燥装置の大型化や高コスト化を招いている。
【0005】
この発明は、上記課題に鑑みなされたものであり、基板表面に付着した液体を大気圧雰囲気で除去して基板を良好に乾燥させることができる基板乾燥装置および基板乾燥方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
この発明にかかる基板乾燥装置は、上記目的を達成するため、基板表面上の液体を凍結させる凍結手段と、基板表面に向けて液体の凝固点よりも低い温度でかつ凍結体の温度よりも低い露点を有する乾燥用気体を継続して供給して凍結体を昇華乾燥させる昇華乾燥手段とを備えたことを特徴としている。また、この発明にかかる基板乾燥方法は、上記目的を達成するため、基板表面上の液体を凍結させた後、基板表面に向けて基板表面上の液体を凍結させた後、基板表面に向けて液体の凝固点よりも低い温度でかつ凍結体の温度よりも低い露点を有する乾燥用気体を継続して供給して凍結体を昇華乾燥させることを特徴としている。
【0007】
このように構成された発明(基板乾燥装置および基板乾燥方法)では、基板表面上の液体が凍結されて凍結体が形成された後に、凍結体が昇華されて基板乾燥が実行されるが、この点で従来技術と共通する。しかしながら、大気圧雰囲気で凍結体を昇華させている点で従来技術と大きく相違する。すなわち本発明では、液体の凝固点よりも低い温度の乾燥用気体が基板表面に供給されて凍結体が液相に戻るのを防止している。また、詳しくは後で説明するが、当該乾燥用気体の露点は凍結体の温度よりも低いため、乾燥用気体中の水蒸気の分圧は凍結体の蒸気圧(昇華圧)よりも低くなり昇華乾燥が発生する。しかも、凍結体の昇華乾燥により凍結膜近傍の乾燥用気体中の水蒸気の分圧は一時的に増加かも知れないが、フレッシュな乾燥用気体が継続して供給されるため、凍結膜近傍での乾燥用気体中の水蒸気の分圧は凍結体の蒸気圧(昇華圧)よりも低い状態に維持され、昇華乾燥が継続して進行していく。しかも、昇華により発生した液体蒸気成分は乾燥用気体の気流に乗って基板表面から取り除かれるため、液体蒸気成分が液相や固相に戻り基板表面に再付着するのを確実に防止することができる。このように大気圧雰囲気で凍結体が液相を経由することなく固相から気相に昇華されるとともに乾燥用気体と一緒に基板表面から除去されて基板が乾燥される。
【0008】
ここで、液体として例えば純水を用いることができる。また、乾燥用気体として例えば窒素ガスを用いることができ、温度が−60゜Cの窒素ガスを生成し供給してもよい。さらに、昇華乾燥中において、乾燥用気体中の水蒸気の分圧が凍結体の蒸気圧よりも低い状況が維持されることで昇華乾燥が確実に、しかも連続して行われる。
【発明の効果】
【0009】
以上のように、本発明によれば、基板表面上の凍結体に対し、当該凍結体を構成する液体の凝固点よりも低い温度でかつ凍結体の温度よりも低い露点を有する乾燥用気体を継続して供給して凍結体を昇華乾燥させているため、基板表面に付着した液体を大気圧雰囲気で除去して基板を良好に乾燥させることができる。
【図面の簡単な説明】
【0010】
【図1】この発明にかかる基板乾燥装置の第1実施形態を装備した基板処理装置を示す図である。
【図2】図1の基板処理装置の制御構成を示すブロック図である。
【図3】ガス冷却ユニットおよび配管機構を示す図である。
【図4】図1の基板処理装置の動作を模式的に示す図である。
【図5】水、氷の蒸気圧曲線である。
【図6】この発明にかかる基板乾燥装置の第2実施形態を装備した基板処理装置を示す図である。
【図7】図6に示す基板処理装置の動作を模式的に示す図である。
【図8】この発明にかかる基板乾燥装置の第3実施形態の動作を模式的に示す図である。
【図9】この発明にかかる基板乾燥装置の第4実施形態の動作を模式的に示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0011】
図1はこの発明にかかる基板乾燥装置の第1実施形態を装備した基板処理装置を示す図であり、図2は図1の基板処理装置の制御構成を示すブロック図である。この基板処理装置は半導体ウエハ等の基板Wの表面Wfをリンス処理する枚葉式の基板処理装置であり、当該リンス処理後に昇華乾燥を用いて基板Wを乾燥させる。
【0012】
この基板処理装置は、基板Wに対して洗浄処理を施す処理空間をその内部に有する処理チャンバー1と、装置全体を制御する制御ユニット4とを備えている。この処理チャンバー1内には、スピンチャック2とDIW吐出ノズル3と遮断部材9とが設けられている。スピンチャック2は、基板Wの表面Wfを上方に向けて略水平姿勢に保持した状態で、基板Wを回転させるものである。DIW吐出ノズル3は、スピンチャック2に保持された基板Wの表面Wfに向けてDIWを吐出するものである。遮断部材9は、スピンチャック2の上方に、スピンチャック2に保持された基板Wの表面Wfに対向して配置されている。
【0013】
上記スピンチャック2の中心軸21の上端部には、円板状のスピンベース23がネジなどの締結部品によって固定されている。この中心軸21はモータを含むチャック回転機構22の回転軸に連結されている。そして、制御ユニット4からの動作指令に応じてチャック回転機構22が駆動されると、中心軸21に固定されたスピンベース23が回転中心A0を中心に回転する。
【0014】
スピンベース23の周縁部付近には、基板Wの周縁部を把持するための複数個のチャックピン24が立設されている。チャックピン24は、円形の基板Wを確実に保持するために3個以上設けてあればよく、スピンベース23の周縁部に沿って等角度間隔で配置されている。各チャックピン24のそれぞれは、基板Wの周縁部を下方から支持する基板支持部と、基板支持部に支持された基板Wの外周端面を押圧して基板Wを保持する基板保持部とを備えている。各チャックピン24は、基板保持部が基板Wの外周端面を押圧する押圧状態と、基板保持部が基板Wの外周端面から離れる解放状態との間を切り替え可能に構成されている。
【0015】
そして、スピンベース23に対して基板Wが受渡しされる際には、各チャックピン24を解放状態とし、基板Wに対してリンス処理を行う際には、各チャックピン24を押圧状態とする。各チャックピン24を押圧状態とすると、各チャックピン24は基板Wの周縁部を把持して、基板Wがスピンベース23から所定間隔を隔てて略水平姿勢に保持されることとなる。これにより、基板Wは、その表面Wfを上方に向け、裏面Wbを下方に向けた状態で保持される。なお、この実施形態では、基板Wの表面Wfに微細パターンが形成されており、表面Wfがパターン形成面となっている。
【0016】
DIW吐出ノズル3をスキャン駆動するための駆動源として、スピンチャック2の周方向外側にノズル駆動用回転モータ31が設けられている。この回転モータ31には回転軸33が接続され、この回転軸33にはアーム35が水平方向に延びるように接続されており、このアーム35の先端に上記DIW吐出ノズル3が取り付けられている。そして、制御ユニット4からの動作指令に応じて回転モータ31が駆動されると、アーム35が回転軸33回りに揺動することとなる。
【0017】
上記遮断部材9は、中心部に開口を有する円板状に形成されている。遮断部材9の下面は、基板Wの表面Wfと略平行に対向する基板対向面となっており、基板Wの直径と同等以上の大きさに形成されている。遮断部材9は略円筒形状を有する支持軸91の下端部に略水平に取り付けられている。この支持軸91は、水平方向に延びるアーム92により保持されている。また、アーム92には、遮断部材昇降機構94が接続されており、制御ユニット4からの動作指令に応じて、遮断部材9をスピンベース23に近接させたり、逆に離間させる。具体的には、制御ユニット4は、遮断部材昇降機構94の動作を制御して、基板処理装置に対して基板Wを搬入出させる際には、遮断部材9をスピンチャック2の上方の離間位置(図1に示す位置)に上昇させる一方、基板Wに対して後述する凍結処理、乾燥処理および結露防止処理を施す際には、遮断部材9をスピンチャック2に保持された基板Wの表面Wfのごく近傍に設定された対向位置まで下降させる。
【0018】
支持軸91は中空になっており、その内部にガス供給管95挿通されるとともに、当該ガス供給管95にガス供給管96が挿通されて、いわゆる二重管構造となっている。そして、ガス供給管96に対して凍結乾燥用の窒素ガス供給部64が接続されている。この凍結乾燥用窒素ガス供給部64は、制御ユニット4からの動作指令に応じてリンス液(DIW)の液膜の凝固点よりも低温であり、しかも後述するようにして形成されるDIWの凍結膜の温度(例えば−20゜C)よりも低い露点を有する凍結乾燥用窒素ガス、例えば−60゜Cの窒素ガスをガス供給管96に供給するものであり、当該凍結乾燥用窒素ガスを得るためにガス冷却ユニット640を有している。
【0019】
図3はガス冷却ユニットおよび配管機構を示す図である。ガス冷却ユニット640では、容器641は内部に液体窒素を貯留するタンク構造を有しており、液体窒素温度に耐えうる材料、例えば、ガラス、石英またはHDPE(高密度ポリエチレン:High Density Polyethylene)により形成されている。なお、容器641を断熱容器で覆う二重構造を採用してもよい。この場合、外部容器は、処理チャンバ外部の雰囲気と容器641との間での熱移動を抑制するために、断熱性の高い材料、例えば発泡性樹脂やPVC(ポリ塩化ビニル樹脂:polyvinyl chloride)などにより形成するのが好適である。
【0020】
容器641には、液体窒素を取り入れる液体窒素導入口643が設けられている。そして、該導入口643を介して液体窒素供給ユニット(図示省略)から液体窒素が容器641内に導入される。また、容器641内には液面センサ(図示省略)が設けられて、容器内の液体窒素の量を一定に保っている。
【0021】
また、容器641の内部には、ステンレス、銅などの金属管で形成されたコイル状の熱交換パイプ647がガス通送路として設けられている。熱交換パイプ647は容器641に貯留された液体窒素に浸漬されており、その内部には窒素ガス供給ユニット(図示省略)から窒素ガスが供給されている。これにより、窒素ガスが液体窒素により冷やされて凍結乾燥用窒素ガスとして出力される。すなわち、この実施形態では、液体窒素を貯留する容器641およびその内部に設けられた熱交換パイプ647が熱交換器を構成している。
【0022】
上記のよう構成されたガス冷却ユニット640は配管機構7の二重配管71を介してガス供給管96と接続されている。この二重配管71は、図3に示すように、内部に凍結乾燥用窒素ガスを通送する内管711と、断熱性樹脂により形成された外管712とで構成されており、ガス供給管96に到達する前に凍結乾燥用窒素ガスの温度が上昇するのを防止する。より詳しくは、外管712はPFA(テトラフルオロエチレン・パーフルオロアルキルビニルエーテル共重合樹脂:polymer of tetrafluoroethylene and perfluoroalkylvinylether)製の蛇腹構造を有するフレキシブルキューブ構造を有しており、当該外管712内にPFA製の内管711が遊挿されるとともに、図示を省略するスペーサにより内管711が外管712の中心部に位置して外管712と接触するのを防止している。また、この二重配管71の両開放端のうち冷却ユニット側開放端部はコネクタ73、75およびユニオン74によりガス冷却ユニット640に接続される一方、遮断部材側開放端部がPFA製のレデューシングユニオン76、PTFE(ポリテトラフルオロエチレン:polytetrafluoroethylene)製のスリーブキャップ77、PFA製のコネクタ78、79によりガス供給管96と接続されており、二重配管71の両端部は封止されている。そして、二重配管71の内部、つまり外管712の内部が排気されて減圧され、これによって断熱性が高められている。こうして、ガス冷却ユニット640で冷却された凍結乾燥用窒素ガスの温度上昇を抑制しながら凍結乾燥用窒素ガスをガス供給管96に供給可能となっている。
【0023】
図1に戻って構成説明を続ける。このガス供給管96の下方端部は遮断部材9の開口に延設されるとともに、その先端に凍結乾燥用窒素ガス吐出ノズル97が設けられている。そして、次に説明するように、液膜を凍結する凍結処理および液膜を昇華乾燥する乾燥処理において低温の凍結乾燥用窒素ガスを基板表面Wfに向けて供給する。
【0024】
一方、二重管構造を形成するもう一方のガス供給管95は常温窒素ガス供給部65に接続されている。この常温窒素ガス供給部65は、常温の窒素ガスを供給するもので、基板Wに対する乾燥処理後に実行される結露防止処理時に、遮断部材9と基板Wの表面Wfとの間に形成される空間に向けてガス供給管95から常温の窒素ガスを供給する。なお、この実施形態では、常温窒素ガス供給部65から結露防止用ガスとして常温窒素ガスを供給しているが、常温の空気や他の不活性ガスなどを供給するようにしてもよい。また、結露防止用ガスの温度は常温に限定されるものではなく、第2実施形態に示すように加熱したものを用いてもよい。つまり、常温以上の空気や不活性ガス(窒素ガスを含む)を結露防止用ガスとして用いることができる。
【0025】
次に上記のように構成された基板処理装置の動作について図4および図5を参照しながら説明する。図4は図1の基板処理装置の動作を模式的に示す図である。また、図5は水、氷の蒸気圧曲線である。この装置では、図4(a)に示すように、基板搬入時には、遮断部材9はスピンチャック2の上方の離間位置に退避して基板Wとの干渉を防止しており、基板表面Wfを上方に向けた状態で表面Wfがフッ酸等の薬液処理が施された基板Wが装置内に搬入され、スピンチャック2に保持される。
【0026】
基板搬入が完了すると、DIW吐出ノズル3を基板Wの回転中心AO上方の回転中心位置へ移動させてリンス工程を実行する。このリンス工程では、制御ユニット4はチャック回転機構22を駆動させてスピンチャック2とともに基板Wを例えば300rpmで回転させるとともに、DIW吐出ノズル3からDIWを例えば10秒間だけ基板表面Wfに供給する。基板表面に供給されたDIWには、基板Wの回転に伴う遠心力が作用し、基板Wの径方向外向きに均一に広げられて基板表面Wfに対するリンス処理が実行される。なお、本実施形態ではリンス工程後に凍結乾燥を実行するため、リンス工程では0〜2゜C程度に温度調整されたDIWを用いるのが好ましい。というのも、水膜の温度が比較的高い場合には、水膜を凍結させる前に水膜が蒸発してしまい、パターン倒壊などの不具合が生じてしまうからである。そこで、低温DIWを用いると、基板Wおよび基板表面Wf上の液膜11の温度がDIWの凝固点近傍となり、液膜11が凍結される前に液膜11が蒸発するのを抑制してパターン倒壊のリスクを抑えることができる。また、後述する凍結処理に要する時間を短縮することも可能となる。
【0027】
リンス工程が完了すると、基板Wを300rpmで回転させたままDIW吐出ノズル3からのDIW供給を停止するとともにDIW吐出ノズル3を基板Wから離間した退避位置(例えば図9に示す位置)に移動させる。基板表面Wf上のDIWの一部は基板W外に振り切られ(振り切り工程)、基板表面Wfの全体に所定の厚みを有する液膜(水膜)11が形成される(図4(b))。なお、この実施形態では、振り切り工程を実施することで液膜の厚みを20μm程度に調整しているが、基板Wの回転数を制御することで液膜11を任意の値に調整することができる。
【0028】
こうして所望厚みの液膜11が形成されると、基板Wの回転が停止されるとともに、遮断部材9が対向位置まで降下され、基板表面Wfに近接配置される。これにより、基板表面Wfが遮断部材9の基板対向面に近接した状態で覆われ、基板Wの周辺雰囲気から遮断される。続いて凍結処理を実行する。すなわち、ガス冷却ユニット640に窒素ガスを送り込んで、例えば−60゜Cの凍結乾燥用窒素ガスを生成する。そして、当該凍結乾燥用窒素ガスをノズル97から基板表面Wfに供給する。これにより、基板表面Wf全面に凍結乾燥用窒素ガスを供給して液膜11を凍結させて凍結膜12を形成する(図4(c))。
【0029】
凍結膜12の形成後も凍結乾燥用窒素ガスを基板表面Wfに継続して供給し続ける。すると、上記凍結膜12は時間経過とともに昇華していく。これは、冷凍庫内の氷がどんどん小さくなっていく現象と同一である。すなわち、本実施形態ではガス冷却ユニット640により窒素ガスを低下させて凍結乾燥用窒素ガス中の水蒸気が凝結し始める温度、つまり露点を−60゜C程度としており、凍結乾燥用窒素ガス中の水蒸気の分圧は図5に示すように1Pa(7.5×10−3Torr)程度にまで低下している。これに対し、凍結膜12の温度は凍結乾燥用窒素ガスの温度よりも高く、本願発明者が実測したところ−20゜C程度となっている。これは、基板Wの裏面が常温雰囲気に面しており、基板裏面から基板表面Wfへの熱移動により凍結膜12の温度低下が抑制されていることに起因すると考えられる。ただし、基板表面Wfには凍結乾燥用窒素ガスが継続して供給されているため、凍結膜12が液相に変わることはなく、凍結乾燥用窒素ガスの温度Tg(本実施形態では−60゜C)とDIWの凝固点との間の温度Ts(本実施形態では−20゜C)となる。したがって、温度Tsでの凍結膜12の蒸気圧(昇華圧)、例えば−20゜Cで約100Paに対し、凍結乾燥用窒素ガス中の水蒸気の分圧は上記したように1Pa程度と非常に低く、この蒸気圧差を埋めるように昇華蒸発が生じる。しかも本実施形態では、凍結乾燥用窒素ガスは継続して供給されるため、凍結乾燥用窒素ガス中の水蒸気の分圧が凍結膜12の蒸気圧よりも低いという状況が維持されて昇華乾燥が進行していく。しかも、昇華により発生した水蒸気成分は凍結乾燥用窒素ガスの気流に乗って基板表面Wfから取り除かれるため、凍結膜12から昇華して発生した水蒸気成分が液相や固相に戻り基板表面Wfに再付着するのを確実に防止することができる。このように、本実施形態では、大気圧雰囲気で凍結膜12が液相を経由することなく気相に昇華されるとともに凍結乾燥用窒素ガスと一緒に基板表面Wfから除去されて基板Wが乾燥される(図4(d)))。
【0030】
基板表面Wfから凍結膜12が完全に除去されて乾燥工程が完了した時点では基板Wの温度はDIWの凝固点以下となっており、低温状態のまま基板Wを搬出すると、基板全面に結露が発生してしまう。そこで、本実施形態では乾燥工程の完了後に結露防止工程を実行している。この結露防止工程では、ガス冷却ユニット640からの凍結乾燥用窒素ガスの供給が停止されるのと入れ替えに常温窒素ガス供給部65からガス供給管95への常温窒素ガスの供給が開始される(図4(e))。このように常温窒素ガスが基板表面Wfに供給されることで基板Wの温度が常温付近まで戻される。このため、基板Wに結露が発生するのを確実に防止することができる。最後に、遮断部材9がスピンチャック2の上方の離間位置に退避した後に、処理チャンバー1から処理済の基板Wが搬出される。
【0031】
以上のように、この実施形態では、凍結膜12を構成するDIWの凝固点よりも低温の凍結乾燥用窒素ガスを基板表面Wfに供給して凍結膜12が液相に戻るのを防止するとともに、凍結乾燥用窒素ガスの露点を凍結膜12の温度よりも低く設定することで凍結乾燥用窒素ガス中の水蒸気の分圧を凍結膜12の蒸気圧(昇華圧)よりも低下させて昇華乾燥を実行している。また、昇華乾燥により凍結乾燥用窒素ガス中の水蒸気の分圧は瞬間的に上昇するかも知れないが、フレッシュな凍結乾燥用窒素ガスを継続して基板表面Wfに供給しているため、凍結膜12を覆う凍結乾燥用窒素ガス中の水蒸気の分圧は常に低くなり、昇華乾燥が進行していく。しかも、昇華により発生した水蒸気成分は凍結乾燥用窒素ガスの気流に乗って基板表面Wfから取り除かれるため、水蒸気成分が液相や固相に戻り基板表面Wfに再付着するのを確実に防止することができる。このように大気圧雰囲気で基板表面Wfに付着したリンス液(DIW)を良好に除去して基板Wを乾燥させることができる。
【0032】
上記のように、本実施形態では、常温窒素ガス供給部65およびガス供給管95が本発明の「基板温調手段」として機能して基板Wに結露が発生するのを防止している。また、凍結乾燥用窒素ガス供給部64、ガス供給管96および凍結乾燥用窒素ガス吐出ノズル97が本発明の「昇華乾燥手段」として機能しており、凍結乾燥用窒素ガスを本発明の「乾燥用気体」を基板表面Wfに供給している。また、凍結乾燥用窒素ガスはリンス処理後に基板表面Wfに対して供給されて液膜を凍結させており、凍結乾燥用窒素ガス供給部64、ガス供給管96および凍結乾燥用窒素ガス吐出ノズル97は本発明の「凍結手段」としても機能している。もちろん、次に説明するように「昇華乾燥手段」と「凍結手段」をそれぞれ分離して設けてもよい。
【0033】
図6はこの発明にかかる基板乾燥装置の第2実施形態を装備した基板処理装置を示す図であり、図7は図6に示す基板処理装置の動作を模式的に示す図である。この第2実施形態が第1実施形態と大きく相違する点は以下の点である。まず第1に、窒素ガス供給部64、ガス供給管96および窒素ガス吐出ノズル97が本発明の「昇華乾燥手段」としてのみ機能する一方、基板表面Wf上の液膜を凍結させるために「凍結手段」が追加されている点である。この「凍結手段」は、凍結用窒素ガス供給部(図示省略)と、ガス供給管25と、凍結用窒素ガス吐出ノズル27とで構成されている。すなわち、図6に示すように、スピンチャック2の中心軸21は円筒状の空洞を有する中空になっており、中心軸21の内部には、基板Wの裏面Wbに凍結用窒素ガスを供給するための円筒状のガス供給管25が挿通されている。ガス供給管25は、スピンチャック2に保持された基板Wの下面側である裏面Wbに近接する位置まで延びており、その先端に基板Wの下面の中央部に向けて凍結用窒素ガス供給部から送られてくる凍結用窒素ガス、例えば−20゜Cの窒素ガスを吐出するガス吐出ノズル27が設けられている。このように第2実施形態では、凍結用窒素ガスが本発明の「凍結用気体」に相当しており、DIWの凝固点よりも低く、かつ乾燥用窒素ガス(乾燥用気体)の温度よりも高い凍結用窒素ガスを基板裏面Wfに供給して液膜を凍結させる。したがって、こうして形成される凍結膜12の温度はDIWの凝固点よりも低く、かつ乾燥用窒素ガス(乾燥用気体)の露点よりも高くなる。
【0034】
また第2の相違点は加熱窒素ガスを乾燥後の基板Wに供給して基板Wを周辺温度以上に昇温する基板温調手段を設けている点である。この「基板温調手段」は加熱された窒素ガスを供給する加熱窒素ガス供給部(図示省略)を有している。この加熱窒素ガス供給部はスピンチャック2の中心軸21の内壁面とガス供給管25の外壁面との隙間、つまり横断面リング状のガス供給路29に接続されており、ガス供給路29を介して加熱窒素ガスを基板裏面Wbに供給する。これにより基板Wは常温以上の温度に加熱される。
【0035】
なお、その他の構成は図1に示す基板処理装置と基本的に同一であるため、以下の説明では同一符号を付して構成説明を省略する。
【0036】
次に、上記のように構成された第2実施形態の動作について図7を参照しつつ説明する。この第2実施形態においても、第1実施形態と同様にしてリンス工程および振り切り工程が実行される。その後、次の凍結工程、乾燥工程および結露防止工程がそれぞれ実行される。
【0037】
この凍結工程では、図7(a)に示すように、基板Wを回転させるとともに遮断部材9をスピンチャック2の上方の離間位置に退避させたまま、凍結用窒素ガス供給部から凍結用窒素ガス(例えば−20°C)をノズル27から基板裏面Wbに供給する。これにより、基板W全体が冷却されるとともに基板表面Wf上の液膜(水膜)が凍結される。このように基板表面Wf上の液膜に対して直接凍結用窒素ガスを供給することなく凍結処理を行っているため、凍結処理中に液膜が乾燥されるのを確実に防止することができる。また、凍結工程中において極低温の窒素ガスを供給している第1実施形態に比べて基板Wを必要以上に冷却していないため、凍結膜12を形成するためのエネルギー効率を向上させることができる。
【0038】
基板表面Wf上の液膜が凍結されると、基板回転と凍結用窒素ガス供給が停止されるとともに、遮断部材9が対向位置まで降下され、基板表面Wfに近接配置される。これにより、基板表面Wfが遮断部材9の基板対向面に近接した状態で覆われ、基板Wの周辺雰囲気から遮断される。続いて第1実施形態と同様にして乾燥処理を実行する。すなわち、ガス冷却ユニット640に窒素ガスを送り込んで、例えば−60゜Cの乾燥用窒素ガスを生成する。そして、当該乾燥用窒素ガスをノズル97から基板表面Wfに連続的に供給する。これにより、凍結膜12は時間経過とともに昇華していく。(図7(b)))。
【0039】
乾燥工程が完了すると、ガス冷却ユニット640からの凍結乾燥用窒素ガスの供給が停止されるとともに、常温窒素ガス供給部65からガス供給管95への常温窒素ガスの供給が開始される(図7(c))。また、この第2実施形態では、基板表面Wf側のみならず、基板裏面Wb側にも窒素ガスを供給している。しかも裏面側の窒素ガスは加熱窒素ガス供給部から供給される加熱窒素ガスであるため、基板Wは常温よりも高い温度に加熱される。このため、基板Wに結露が発生するのをより確実に防止することができる。もちろん、基板表面Wf側にも加熱窒素ガスを供給しても良い。最後に、遮断部材9がスピンチャック2の上方の離間位置に退避した後に、処理チャンバー1から処理済の基板Wが搬出される。
【0040】
なお、本発明は上記した実施形態に限定されるものではなく、その趣旨を逸脱しない限りにおいて上述したもの以外に種々の変更を行うことが可能である。上記実施形態で採用されたものと異なる構成の「凍結手段」や「基板温調手段」を用いてもよく、例えば図8に示すように加熱冷却機構23aを備えたスピンベース23を用いてもよく、スピンベース23が本発明の「ベース部」に相当し、スピンベース23の上面に直接基板Wを当接させたり、スピンベース23の上面に基板Wを近接配置させた状態で凍結処理や結露防止処理を行ってもよい。
【0041】
図8はこの発明にかかる基板乾燥装置の第3実施形態の動作を模式的に示す図である。この第3実施形態では、第1実施形態と同様にしてリンス工程および振り切り工程が実行される。その後、次の凍結工程、乾燥工程および結露防止工程がそれぞれ実行される。
【0042】
この凍結工程では、図8(a)に示すように、基板Wを回転させるとともに遮断部材9をスピンベース23の上方の離間位置に退避させたまま、スピンベース23に内蔵された加熱冷却機構23aの冷却部が作動してスピンベース23をDIWの凝固点よりも低い温度に冷却する(スピンベース23の低温化)。これにより、基板W全体が冷却されるとともに基板表面Wf上の液膜(水膜)が凍結される。
【0043】
その後、基板回転が停止されるとともに、遮断部材9が対向位置まで降下され、基板表面Wfに近接配置される。加熱冷却機構23aについてはそのまま作動して基板Wおよび凍結膜12の温度をDIWの凝固点よりも低く、かつ乾燥用窒素ガスの露点よりも高い温度に制御する。そして、第1実施形態と同様にして乾燥処理を実行する。すなわち、ガス冷却ユニット640に窒素ガスを送り込んで、例えば−60゜Cの乾燥用窒素ガスを生成する。そして、当該乾燥用窒素ガスをノズル97から基板表面Wfに連続的に供給する。これにより、凍結膜12は時間経過とともに昇華していく。(図8(b)))。
【0044】
乾燥工程が完了すると、ガス冷却ユニット640からの凍結乾燥用窒素ガスの供給が停止される。また、加熱冷却機構23aの冷却部の停止と入れ替えに加熱部が作動してスピンベース23を加熱して基板Wを常温以上に加熱する。このため、基板Wに結露が発生するのをより確実に防止することができる。最後に、遮断部材9がスピンベース23の上方の離間位置に退避した後に、処理チャンバー1から処理済の基板Wが搬出される。
【0045】
また、上記実施形態では遮断部材9を基板表面Wfに近接配置した状態で乾燥用窒素ガスをノズル97から基板表面Wfに連続的に供給して凍結膜12を乾燥させているが、例えば図9に示すように、乾燥用窒素ガスを吐出するノズル5を回転する基板Wの表面Wfに対してスキャンさせて基板表面Wf全体に乾燥用窒素ガスを供給して凍結膜12を乾燥させてもよい。すなわち、ノズル5をスキャン駆動するためにスピンチャック2の周方向外側に回転モータ51が設けられている。この回転モータ51には回転軸53が接続され、この回転軸53にはアーム55が水平方向に延びるように接続されており、このアーム55の先端に上記乾燥用窒素ガス吐出ノズル5が取り付けられている。そして、制御ユニット4からの動作指令に応じて回転モータ51が駆動されると、アーム55が回転軸53回りに揺動し、基板表面Wfに沿ってノズル5が移動する。
【0046】
また、上記実施形態では、基板表面Wfに付着したDIWなどの純水を除去して乾燥させているが、乾燥対象はDIWなどに限定されるものではなく、他の液体であっても同様にして除去することができる。また、液膜に限定されるものではなく、液滴であっても同様にして除去することができる。
【0047】
さらに、上記実施形態では基板乾燥装置を基板処理装置に組み込み、当該基板乾燥装置によりリンス処理後の基板を乾燥させているが、本発明の適用対象はこれに限定されるものではなく、基板表面に付着する液体を除去して基板を乾燥させる基板乾燥装置全般に適用することができる。また、基板乾燥装置内で前処理工程の薬液処理手段を組み込み、薬液処理から乾燥処理までの一連の処理を装置内で続けて行うように構成する装置にも適用することができる。
【産業上の利用可能性】
【0048】
この発明は、半導体ウエハ、フォトマスク用ガラス基板、液晶表示用ガラス基板、プラズマ表示用ガラス基板、FED(Field Emission Display)用基板、光ディスク用基板、磁気ディスク用基板、光磁気ディスク用基板などを含む基板全般の表面を乾燥させる基板乾燥装置および基板乾燥方法に適用することができる。
【符号の説明】
【0049】
11…液膜
12…凍結膜
23…スピンベース(ベース部)
23a…加熱冷却機構(凍結手段、基板温調手段)
25…ガス供給管(凍結手段)
27…凍結用窒素ガス吐出ノズル(凍結手段)
64…窒素ガス供給部(昇華乾燥手段、凍結手段)
65…常温窒素ガス供給部(基板温調手段)
95…ガス供給管(基板温調手段)
96…ガス供給管(昇華乾燥手段、凍結手段)
97…窒素ガス吐出ノズル(昇華乾燥手段、凍結手段)
640…ガス冷却ユニット(昇華乾燥手段、凍結手段)
W…基板
Wb…基板裏面
Wf…基板表面

【特許請求の範囲】
【請求項1】
基板表面上の液体を凍結させる凍結手段と、
前記基板表面に向けて前記液体の凝固点よりも低い温度でかつ前記凍結体の温度よりも低い露点を有する乾燥用気体を継続して供給して前記凍結体を昇華乾燥させる昇華乾燥手段と
を備えたことを特徴とする基板乾燥装置。
【請求項2】
前記凍結手段は前記液体の凝固点よりも低く、かつ前記乾燥用気体の露点よりも高い温度の前記凍結体を形成する請求項1記載の基板乾燥装置。
【請求項3】
前記凍結手段は前記液体の凝固点よりも低く、かつ前記乾燥用気体の露点よりも高い温度の凍結用気体を前記基板に供給して前記液体を凍結させる請求項2記載の基板乾燥装置。
【請求項4】
前記凍結手段は、前記基板の裏面と当接または近接するベース部と、前記ベース部材を前記液体の凝固点よりも低い温度に冷却する冷却部とを有する請求項2記載の基板乾燥装置。
【請求項5】
前記凍結体が昇華乾燥された、前記基板を周辺温度以上に昇温する基板温調手段をさらに備える請求項1ないし4のいずれか一項に記載の基板乾燥装置。
【請求項6】
基板表面上の液体を凍結させた後、前記基板表面に向けて前記液体の凝固点よりも低い温度でかつ前記凍結体の温度よりも低い露点を有する乾燥用気体を継続して供給して前記凍結体を昇華乾燥させることを特徴とする基板乾燥方法。
【請求項7】
液体は純水であり、乾燥用気体は窒素ガスである請求項6記載の基板乾燥方法。
【請求項8】
温度が−60゜Cの窒素ガスを生成し供給する請求項7記載の基板乾燥方法。
【請求項9】
昇華乾燥では、乾燥用気体中の水蒸気の分圧が前記凍結体の蒸気圧よりも低い状況が維持される請求項6記載の基板乾燥方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【公開番号】特開2010−199261(P2010−199261A)
【公開日】平成22年9月9日(2010.9.9)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−41797(P2009−41797)
【出願日】平成21年2月25日(2009.2.25)
【出願人】(000207551)大日本スクリーン製造株式会社 (2,640)
【Fターム(参考)】