説明

基準周波数発生器

【課題】リファレンス信号を取得できている状態において動作環境が通常のものから一時的に外れた場合でも、自走用制御信号を精度良く得ることができる基準周波数発生器を提供する。
【解決手段】基準周波数発生器は、電圧制御発振器と、位相比較器と、温度センサと、制御部と、を備える。制御部は、GPS受信機からの1PPS信号が供給されなくなると、ループフィルタから出力される制御電圧信号に代えて、自走用制御電圧信号を生成して電圧制御発振器を制御する。制御部は、電圧制御発振器が動作している経過時間に応じて、前記自走用制御電圧信号を決定する。また、この制御部は、1PPS信号を取得できているときに時系列で記憶された制御電圧信号から、温度センサの検出値が設定温度範囲から外れたときの制御電圧信号を除外した上で、残りの制御電圧信号の変化に基づいて前記自走用制御電圧信号を決定することができる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、基準周波数信号がリファレンス信号に同期するように発振器を制御する基準周波数発生器に関するものである。
【背景技術】
【0002】
例えば携帯電話の基地局やデジタル放送の送信局等では、信号を送信するタイミングや周波数の同期を行うために必要とされる高精度な基準周波数信号を、基準周波数発生器を用いて供給することが行われている。そして、この種の基準周波数発生器の中には、GPS受信機から得られる高精度なリファレンス信号に出力信号が同期するように電圧制御発振器を制御し、上記基準周波数信号を出力させるものがある。
【0003】
この電圧制御発振器は、入力される制御電圧に応じて異なる周波数を発生するように構成されており、例えば、水晶振動子を共振器として用いるものを挙げることができる。このタイプの電圧制御発振器の制御電圧対発振周波数特性(以下、F−V特性と称する)は、時間が経過するに従って、ごく僅かではあるが変化する。
【0004】
上記のような基準周波数発生器は、GPS衛星の位置、障害物、妨害電波等の様々な原因により、GPS受信機がGPS衛星からの信号を受信できず、リファレンス信号を生成できなくなることがある。そこで、リファレンス信号を取得できなくなっても基準周波数信号を継続して出力するための自走制御機能を備えた基準周波数発生器が提案されている。この基準周波数発生器は、リファレンス信号を取得できている状況では、電圧制御発振器を制御するために用いたデータを記憶できるようになっている。そして、リファレンス信号を得ることができなくなると、記憶されている過去のデータに基づき、上記のような電圧制御発振器の経時変化を予測して前記電圧制御発振器を自走制御(ホールドオーバー制御)することで、長時間にわたって高精度の基準周波数信号を出力することができる。この種の基準周波数発生器を開示したものとして例えば特許文献1及び特許文献2がある。
【0005】
特許文献1は、水晶発振器の経年数と温度変化を考慮して自走用の制御電圧を推定する基準周波数発生器を開示する。特許文献2では、経時変化による周波数の変動を補正して自走時の電圧制御発振器の制御を行う構成が開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【特許文献1】特許第4050618号公報
【特許文献2】特開平11−271476号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
基準周波数発生器で使用される電圧制御発振器は一定の温度環境で高精度に動作することを念頭において設計されており、メーカーは当該電圧制御発振器を提供するにあたって、その動作が仕様を満たすことを保証する温度範囲(性能保証温度)を指定するのが通常である。従って、電圧制御発振器が使用される温度環境が性能保証温度の範囲を満たさなくなった場合は、仕様どおりのF−V特性を期待することができない。
【0008】
なお、特許文献1及び特許文献2の構成では、上記のように電圧制御発振器の高精度な動作が期待できない状況であっても、GPS衛星からの信号をGPS受信機が受信できていれば、電圧制御発振器の出力がGPS受信機からのリファレンス信号に同期するように制御電圧が適宜調整される。従って、温度環境が上記の性能保証温度の範囲を若干外れても、GPS電波の受信状況が良好であれば、殆どの場合、基準周波数発生器は十分な精度の基準周波数信号をユーザ側の装置に供給できると考えられる。
【0009】
しかし、従来の構成においては、GPS受信機からのリファレンス信号が受信できている限り、温度環境の如何にかかわらず、そのときの制御データが、自走制御時において電圧制御発振器の経時変化による周波数変動の予測に使用されていた。従って、周波数の変動を予測する際の根拠となる制御データに性能保証温度外での動作時の制御データが含まれるおそれがあり、予測の精度が大きく低下し、ホールドオーバー時に出力される基準周波数の精度が低下する原因となっていた。
【0010】
近年、基準周波数発生器を使用する場面は拡大しており、屋外や高温な場所等、温度環境の過酷な状況で用いられることも多くなっている。このような場所では、昼夜の寒暖差等によって一時的に性能保証温度の範囲から外れてしまうことも多い。従って、リファレンス信号を取得できる状態において一時的に性能保証温度の範囲外になった場合でも、リファレンス信号を失ったときの自走制御を高精度に行うことができる基準周波数発生器が求められていた。
【0011】
本発明は以上の事情に鑑みてなされたものであり、その目的は、リファレンス信号を取得できる状態において発振器の動作環境が通常の想定から一時的に外れた場合でも、リファレンス信号を失ったときの自走制御時に発振器に与えるべき制御信号を精度良く得ることができる基準周波数発生器を提供することにある。
【課題を解決するための手段及び効果】
【0012】
本発明の解決しようとする課題は以上の如くであり、次にこの課題を解決するための手段とその効果を説明する。
【0013】
本発明の第1の観点によれば、以下の構成の基準周波数発生器が提供される。即ち、この基準周波数発生器は、同期回路と、状態検出部と、制御部と、を備える。前記同期回路は、リファレンス信号に基づいて得られた制御信号によって発振器が出力する基準周波数信号を制御する。前記状態検出部は、前記発振器が使用される環境の変化を示す環境変数を検出値として検出する。前記制御部は、前記リファレンス信号を取得できなくなると、自走用制御信号を生成して前記発振器を制御する。また、前記制御部は、前記発振器が動作している経過時間に応じて前記自走用制御信号を決定する制御モードとして、第1制御モードと第2制御モードとを選択可能に構成される。前記第1制御モードにおいて、前記制御部は、前記リファレンス信号を取得できているときに時系列で記憶された前記制御信号の変化に基づいて前記自走用制御信号を決定する。前記第2制御モードにおいて、前記制御部は、前記リファレンス信号を取得できているときに時系列で記憶された前記制御信号から、前記検出値が所定の範囲から外れたときの前記制御信号を除外し、残りの前記制御信号の変化に基づいて前記自走用制御信号を決定する。
【0014】
これにより、第1制御モードが選択された場合、リファレンス信号が供給されないときは、それまでに記憶された制御信号の推移を忠実に考慮して自走用制御信号を決定し、発振器を制御することができる。一方、第2制御モードが選択された場合、想定外の環境で使用されたことによって、発振器が通常と異なる動作をしたおそれのある状態で与えられた制御信号を考慮に含めずに、自走用制御信号を決定し、発振器を制御することができる。このように、本発明の基準周波数発生器は、使用される環境や目的に適した方法で自走用制御信号を生成して発振器を自走制御することができる。
【0015】
本発明の第2の観点によれば、以下の構成の基準周波数発生器が提供される。即ち、この基準周波数発生器は、同期回路と、状態検出部と、制御部と、を備える。前記同期回路は、リファレンス信号に基づいて得られた制御信号によって発振器が出力する基準周波数信号を制御する。前記状態検出部は、前記発振器が使用される環境の変化を示す環境変数を検出値として検出する。前記制御部は、前記リファレンス信号を取得できなくなると、自走用制御信号を生成して前記発振器を制御する。前記制御部は、前記発振器が動作している経過時間に応じて前記自走用制御信号を決定するように構成されている。前記制御部は、前記リファレンス信号を取得できているときに時系列で記憶された前記制御信号から、前記検出値が所定の範囲から外れたときの前記制御信号を除外し、残りの前記制御信号の変化に基づいて前記自走用制御信号を決定する。
【0016】
これにより、想定外の環境で使用されたことによって、発振器が通常と異なる動作をしたおそれのある状態で与えられた制御信号を考慮に含めずに、自走用制御信号を決定し、発振器を制御することができる。
【0017】
前記の基準周波数発生器においては、前記状態検出部は、温度、電流値又は電圧値のうち少なくとも1つを前記環境変数として検出することが好ましい。
【0018】
これにより、発振器の動作に影響を与えるおそれがある温度、電流値又は電圧値のうち少なくとも1つを検出することで、発振器が通常と異なる動作をしたおそれのある状態で使用されたか否かを精度良く判定することができる。
【0019】
前記の基準周波数発生器においては、前記所定の範囲は変更可能であることが好ましい。
【0020】
これにより、例えば発振器を異なる仕様のものに交換した場合でも、所定の範囲を変更することで容易に対応することができる。また、仕様が異なる複数の発振器を用いた製品ラインナップを、共通の部品を用いて容易に構築することができる。
【0021】
前記の基準周波数発生器においては、前記制御部は、前記状態検出部の検出値が前記所定の範囲から外れたために除外された部分を補間する補間制御信号を求め、前記補間制御信号を考慮に含めて自走用制御信号を決定することが好ましい。
【0022】
これにより、制御信号が除外された部分が補間用の関数によって補間されるので、自走用制御信号の決定をより容易に行うことができる。
【0023】
前記の基準周波数発生においては、以下のように構成されることが好ましい。前記同期回路は、位相比較器と、位相差信号変換器と、を有する。位相比較器は、前記リファレンス信号と、前記基準周波数信号に基づいて得られる位相比較用信号と、を比較して、その位相差に基づいた位相差信号を出力する。位相差信号変換器は、前記位相差信号を制御信号に変換する。前記発振器は、前記制御信号に応じた基準周波数信号を出力する電圧制御発振器として構成されている。そして、前記制御部は、前記リファレンス信号を取得できなくなると、前記位相差信号変換器から出力される前記制御信号に代えて、自走用制御信号を生成して前記電圧制御発振器を制御する。
【0024】
これにより、電圧制御発振器の動作が通常のF−V特性に従わないおそれのある状態で与えられた制御信号を考慮に含めずに、自走用制御信号を決定し、電圧制御発振器を制御することができる。
【0025】
前記の基準周波数発生器においては、以下の構成とすることが好ましい。即ち、前記電圧制御発振器は水晶発振器である。前記状態検出部は前記電圧制御発振器の近傍の温度を検出するための温度検出部である。
【0026】
これにより、温度変動の影響を受け易い水晶発振器を用いた場合でも、自走用制御信号を精度良く決定し、電圧制御発振器を自走制御することができる。
【0027】
前記の基準周波数発生器においては、以下の構成とすることが好ましい。即ち、前記電圧制御発振器は恒温槽付水晶発振器として構成されている。前記状態検出部は、恒温槽内に配置される加熱手段が駆動されるときの電流を検出する電流検出器である。
【0028】
これにより、電圧制御発振器が使用される環境の温度に相関関係がある加熱手段の電流を検出することで、温度変動の影響を受け易い水晶発振器の自走用制御信号を精度良く決定することができる。
【0029】
前記の基準周波数発生器においては、前記状態検出部は電源電圧を測定する電圧検出器であることが好ましい。
【0030】
これにより、周囲の温度と連動する傾向がある電源電圧を検出することで、温度変動の影響を受けることが多い電圧制御発振器の自走用制御信号を良好な精度で得ることができる。また、電圧制御発振器に与えられる電源電圧の変動によって、電圧制御発振器の動作が通常のF−V特性に従わないおそれのある状態になったときの制御信号の影響を除外して自走用制御信号を決定できる。
【図面の簡単な説明】
【0031】
【図1】第1実施形態の基準周波数発生器を概略的に示したブロック図。
【図2】基準周波数発生器が使用される環境の温度と制御電圧信号との関係を示した説明図。
【図3】第2制御モードにおいて自走用制御電圧信号を決定するための処理を示したフローチャート。
【図4】第2実施形態の第2制御モードの自走用制御電圧信号を決定するための処理を示したフローチャート。
【図5】第3実施形態の基準周波数発生器の一部を示したブロック図。
【発明を実施するための形態】
【0032】
次に発明の実施の形態について説明する。図1は、第1実施形態の基準周波数発生器10を概略的に示したブロック図である。図2は、基準周波数発生器10が使用される環境の温度と制御電圧信号との関係を示した説明図、図3は第2制御モードにおいて自走用制御電圧信号を決定するための処理を示したフローチャートである。
【0033】
本実施形態の基準周波数発生器10は、携帯電話の基地局、地上デジタル放送の送信局及びWiMAX(Worldwide Interoperability for Microwave Access)通信設備等に用いられるものであり、接続されるユーザ側の機器に基準周波数信号を提供するものである。以下に、基準周波数発生器10の各部の構成について説明していく。
【0034】
図1に示すように、第1実施形態の基準周波数発生器10は、電圧制御発振器15と、分周器16と、位相比較器12と、ループフィルタ(位相差信号変換器)13と、温度センサ17と、制御部11と、LEDランプ18と、スイッチ回路14と、を備える。
【0035】
基準周波数発生器10には、GPS受信機20とGPSアンテナ21からなるGPS受信部が接続されており、このGPS受信部は基準周波数発生器10にリファレンス信号を供給する。より具体的には、GPS受信機20は、GPSアンテナ21がGPS衛星から受信した電波に含まれる測位用信号に基づいて、前記リファレンス信号としての1PPS信号(1秒周期信号)を生成し、基準周波数発生器10に出力するよう構成されている。図1に示すように、GPS受信機20で生成されて基準周波数発生器10に供給された1PPS信号は、制御部11及び位相比較器12に入力される。
【0036】
電圧制御発振器15は、水晶振動子を共振器として使用したVCXO(Voltage Controlled Crystal Oscillator)であり、外部から印加される電圧のレベルによって出力する周波数を変更可能に構成されている。この電圧制御発振器15によって出力された基準周波数信号は、外部のユーザ側のシステムへ出力されるとともに、分周器16に入力される。なお、本実施形態の電圧制御発振器15は、いわゆる恒温槽付水晶発振器(Oven Controlled Crystal Oscillator、OXCO)として構成されている。
【0037】
分周器16は、電圧制御発振器15から入力される基準周波数信号を分周して高い周波数から低い周波数に変換し、得られた位相比較用信号を位相比較器12へ出力するように構成されている。例えば、電圧制御発振器15が出力する基準周波数が10MHzである場合、分周器16は、電圧制御発振器15が出力する10MHzの信号を分周比1/10000000で分周して、1Hzの位相比較用信号を生成する。
【0038】
位相比較器12は、1PPS信号と、分周器16で分周された前記位相比較用信号と、の位相差を検出し、その位相差に基づく信号(位相差信号)を出力する。位相比較器12が出力した位相差信号は、ループフィルタ13に入力される。
【0039】
ループフィルタ13はローパスフィルタ等によって構成されており、前記位相差信号の電圧レベルを時間的に平均化して制御電圧信号に変換する。この制御電圧信号は、スイッチ回路14を介して電圧制御発振器15に入力される。電圧制御発振器15は、このループフィルタ13から出力されてきた制御電圧信号に基づく周波数を出力する。以上のPLLループにより、電圧制御発振器15の出力周波数は、前記位相比較用信号の位相が1PPS信号の位相と一致するように適宜調整される。また、このループフィルタ13からの制御電圧信号は制御部11にも送信されており、制御部11は、この制御電圧信号を時系列で記憶することができる。
【0040】
温度センサ(状態検出部)17は、電圧制御発振器15が使用されている温度(状態、環境)を検出するためのものであり、電圧制御発振器15の近傍であって前記恒温槽の外側に配置されている。温度センサ17の検出信号は制御部11に送信されており、制御部11は、この温度センサ17からの検出値を利用して各種の制御を行う。なお、温度センサ17の位置は適宜変更することができる。
【0041】
LEDランプ(報知手段)18は、制御部11に接続されており、制御部11からの作動信号に基づいてその点灯及び消灯が制御される。このLEDランプ18によって、基準周波数発生器10に異常が発生したことをユーザに知らせることが可能になっている。
【0042】
制御部11は、基準周波数発生器10の各部の制御を行うためのものであり、演算部としてのCPU及び記憶部としてのメモリ等からなるマイクロコンピュータとして構成されている。この構成で、制御部11は、GPS受信機20から前記1PPS信号が供給されているか否かを監視する。そして、1PPS信号が供給されていると判断した場合は、制御部11は切換制御信号をスイッチ回路14に送信し、ループフィルタ13と電圧制御発振器15とを接続させる。
【0043】
スイッチ回路14によってループフィルタ13と電圧制御発振器15とが接続されることで、位相同期回路(Phase Locked Loop、PLL回路)30のループが形成され、リファレンス信号としての1PPS信号に基準周波数信号が同期するように電圧制御発振器15が制御される。従って、GPS受信機20が1PPS信号を生成して基準周波数発生器10に供給し、当該1PPS信号に対してPLLがロックしている限り、経時変化や周囲の温度変化等に起因して電圧制御発振器15のF−V特性の変動が生じたとしても、基準周波数発生器10から出力される基準周波数は一定に保たれる。なお、以下の説明では、このように基準周波数発生器10が1PPS信号を取得でき、それに基づいて基準周波数信号を出力している状態を「定常状態」と称することがある。
【0044】
次に、GPS受信機20がGPS衛星からの信号を受信できず、1PPS信号を生成できなくなった場合の制御について説明する。制御部11は、1PPS信号が入力断を検出すると、当該制御部11と電圧制御発振器15とを接続させるための切換制御信号をスイッチ回路14に送信し、ホールドオーバー制御に移行する。このホールドオーバー制御では、ループフィルタ13から出力される制御電圧信号に代わって、制御部11が生成する自走用制御電圧信号がスイッチ回路14を介して電圧制御発振器15に送信される。なお、前記入力断とは、1PPS信号のパルスがHi側あるいはLow側に固定される現象と、1PPSが正確でないタイミングで信号を出し続ける現象と、の両方を意味している。
【0045】
前述したように、制御部11にはループフィルタ13が出力する制御電圧信号が入力されている。そして、制御部11は、GPS受信機20から1PPS信号が得られている状態(前記定常状態)では、ループフィルタ13から電圧制御発振器15に出力される制御電圧信号(DAC値)を所定の時間間隔をおいて反復して取得し、時系列で記憶するように構成されている。制御部11は、この時系列で記憶された一連のDAC値から、電圧制御発振器15のF−V特性の経時変化を推定する。従って、前記定常状態は、基準周波数発生器10が電圧制御発振器15の経時変化を学習している状態ということもできる。この推定結果は、1PPS信号の供給が失われたときに電圧制御発振器15に与えるべき自走用DAC値を決定する際に用いられる。
【0046】
本実施形態の制御部11は、この電圧制御発振器15のF−V特性の経時変化を推定する方法として、後述する第1制御モード又は第2制御モードの何れかを選択できるように構成されている。即ち、制御部11は図略の設定手段を有しており、この設定手段によって2つの制御モードを切り換えることが可能に構成されている。
【0047】
この設定手段による制御モードの変更は、適宜の方法で行うことができる。例えば、基準周波数発生器10をLAN等のケーブルを介してパーソナルコンピュータ等に接続し、パーソナルコンピュータを介してユーザが制御モードを選択する構成とすることができる。また、基準周波数発生器10自体に切換スイッチを設け、その切換スイッチを選択することで制御モードの切換えを行う構成としてもよい。更に、制御部11や電圧制御発振器15等が配置される基板に制御モードの切換えを行うためのスイッチを配置し、製造時に制御モードを予め選択しておくこともできる。
【0048】
また、制御部11は、前記ホールドオーバー制御を行うときは、温度センサ17からの検出値に基づいて自走用DAC値を補正するように構成されている。より具体的には、制御部11が備える記憶部には、温度センサ17の検出値に応じた補正値が予め温度補正テーブルとして記憶されており、前記ホールドオーバー制御時には、この補正値によって自走用DAC値を補正する。これによって、温度変動に起因する電圧制御発振器15のF−V特性の変動の影響を取り除くことができるので、ホールドオーバー時において高精度な基準周波数信号を出力することができる。
【0049】
次に、基準周波数発生器10がGPS受信機20からの1PPS信号を失ったときの自走用DAC値の決定について説明する。この自走用DAC値は、1PPS信号が基準周波数発生器10に供給されている状況(前記定常状態)において求められる、電圧制御発振器15のF−V特性の経時変化推定関数に基づいて算出される。
【0050】
この経時変化推定関数は、例えば2次関数や対数関数等の適宜の関数(電圧制御発振器15の動作開始からの経過時間の関数)として表現することができ、制御部11に演算用関数として記憶されている。この演算用関数は、電圧制御発振器15のF−V特性の経時変化を実質的に表現することができれば形式は任意であり、例えば、一定の温度で一定の基準周波数信号を得るために必要な制御電圧信号値の経時変化を表す関数を採用することができる。そして、例えば基準周波数発生器10の電源投入直後においては、前記経時変化推定関数(演算用関数)の係数は未定の状態となっている。
【0051】
この構成で、前記定常状態では、制御部11は所定の時間間隔ごとに、電圧制御発振器15のF−V特性の経時変化を推定する。具体的には、制御部11は、当該制御部11に記憶されている一連のDAC値に対して前記演算用関数をフィッティングさせ、最小二乗法等を用いることによって前記演算用関数の係数を計算し、得られた係数を記憶する。なお、後述するように、第1制御モードでは、記憶されているDAC値の全てが前記係数の算出に用いられる。一方、第2制御モードでは、記憶されているDAC値のうち一定の条件を満たさない状態で取得されたDAC値が除外され、残ったDAC値のみが前記係数の算出に用いられる。
【0052】
この演算用関数の係数は、GPS受信機20から1PPS信号が供給されなくなったことを制御部11が検出してホールドオーバー制御に移行するまで、適宜のタイミングで新たに算出されていく。この結果、基準周波数発生器10が定常状態にあるときは、電圧制御発振器15のF−V特性の経時変化推定関数は逐次最新のものに更新されることになる。
【0053】
1PPS信号の供給を失ったことを制御部11が検出すると、当該1PPS信号によらずに基準周波数信号を発生させる自走制御(ホールドオーバー制御)に移行する。この自走制御においては、制御部11は、記憶された係数を適用した演算用関数によって電圧制御発振器15を制御する。
【0054】
次に、図2を参照して、電圧制御発振器15のF−V特性の経時変化を推定する方法について詳細に説明する。図2(a)のグラフは、基準周波数発生器10が使用される環境の温度変動の一例を模式的に示したものである。一方、図2(b)のグラフは、上側のグラフに対応した制御電圧信号の推移を示している。なお、2つのグラフはともに、GPS受信機20から1PPS信号を受信している定常状態での様子を示している。
【0055】
例えば基準周波数発生器10が屋外に設置された場合、周囲の温度が例えば図2(a)に示すように大幅に変動し、このために基準周波数発生器10の動作環境が通常のものから乖離することがある。この点、本実施形態の基準周波数発生器10は、通常の動作環境として想定される状態の範囲(具体的には、温度範囲)を制御部11に記憶できるようになっている。図2(a)のグラフに示されている上限値及び下限値は、制御部11に記憶されている温度範囲の上限値及び下限値を表している。
【0056】
この温度範囲としては、製造時にメーカー側が適当な範囲を予め設定して制御部11に記憶させることもでき、また、ユーザが所望の範囲を設定することもできる。ユーザが温度範囲を設定又は変更する場合、前述の第1制御モードと第2制御モードとの切換えと同様に、外部に接続された操作手段を用いる等の適宜の方法を採用することができる。
【0057】
ここで前述したように、電圧制御発振器15のF−V特性は温度によって変化し、また、時間の経過によっても変化する。この点、本実施形態の基準周波数発生器10は、定常状態においてPLL回路30が上記の温度変化及び経時変化に対応して電圧制御発振器15へのDAC値を図2(b)のグラフ(実線及び破線の部分)のように制御することで、基準周波数発生器10から出力される基準周波数信号を一定に保つことができる。
【0058】
電圧制御発振器15に対して図2(b)のグラフのように出力されるDAC値は、制御部11によって時系列的に記憶され、電圧制御発振器15のF−V特性の経時変化を推定するために(即ち、前記演算用関数の係数を算出するために)に用いられる。そして、ホールドオーバー制御に移行したときは、推定結果としての経時変化推定関数(演算用関数)に電圧制御発振器15の動作開始からの経過時間を当てはめることで自走用DAC値が決定され、電圧制御発振器15に与えられる。
【0059】
なお、定常状態において、制御部11には図2(b)のグラフの曲線そのものが記憶される訳ではない。即ち、温度センサ17の検出値に基づき、周囲の温度変化の影響を前記温度補正テーブルによって除去した後のDAC値が時系列的に記憶される。
【0060】
そして本実施形態では、制御部11に記憶された一連のDAC値を、電圧制御発振器15のF−V特性の経時変化の推定にあたってどのように用いるかは、制御モードによって異ならせるようにしている。即ち、第1制御モードでは、前記DAC値を取得したときの温度センサ17の検出値が、制御部11に記憶された温度範囲を満たしているか否かにかかわらず、記憶されている全てのDAC値が前記経時変化の推定に用いられる。一方、第2制御モードでは、温度センサ17の検出温度が上記温度範囲を外れていたときに取得されたDAC値は除外され、残りのDAC値を用いて前記経時変化が推定される。即ち、図2(b)のグラフに照らして言えば、第1制御モードでは、当該グラフの曲線のうち実線及び破線を含めて全てが電圧制御発振器15の経時変化の推定に用いられ、第2制御モードでは曲線のうち実線の部分のみが経時変化の推定に使用されるということができる。
【0061】
次に、図3のフローチャートを参照して、第2制御モードによる制御について具体的に説明する。上記定常状態(GPS受信機20からの1PPS信号を取得できている状態)において、制御部11は、自走用DAC値を決定するための演算用関数の係数を更新すべきタイミングになるまで待機する(S101)。そして、当該タイミングになると、制御部11は、現在までの所定の期間(例えば、過去1週間)において、温度センサ17の検出値が、制御部11に設定された温度範囲を外れたことがあるか否かを調べる(S102)。なお、以下の説明では、制御部11に設定された温度範囲を単に「設定温度範囲」と称することがある。
【0062】
また、制御部11は、上記の期間において温度センサ17の検出値が前記設定温度範囲を外れたことがあった場合は、その外れていた時間の累計が一定時間以上であるか否かを調べる(S103)。
【0063】
S103の処理において、温度センサ17の検出値が設定温度範囲を外れていた時間が一定時間未満の場合は、電圧制御発振器15のF−V特性の経時変化を推定する処理(演算用関数の係数を決定する処理)が行われる。図3に示すフローの制御(第2制御モードの制御)では、制御部11は、温度センサ17の検出値が設定温度範囲を外れた状況で使用されていたときのDAC値(範囲外DAC値)を、演算用関数の係数算出の根拠とするDAC値の群から除外する(S104)。次に、制御部11は、残りのDAC値群に対して演算用関数をフィッティングし、当該演算用関数の係数を最小二乗法等によって算出する(S105)。そして制御部11は、得られた演算用関数の係数を記憶する(S106)。
【0064】
例えば、図2(a)のグラフに示すように、基準周波数発生器10の動作する環境が、時間区間t1,t2,t3の間に設定温度範囲から外れていたとする。この場合、S104、S105の処理では、図2(b)のグラフに示す時間区間t1,t2,t3の破線のDAC値をDAC値群から除外し、実線で示された部分のDAC値のみに基づいて演算用関数の係数を算出する。
【0065】
なお、S102の判断において、温度センサ17の検出値が設定温度範囲から外れていた時間がゼロであった場合は、上記のS103及びS104の処理はスキップされる。
【0066】
S101からS105までの処理は、GPS受信機20からの1PPS信号が供給される状態(定常状態)が継続される限り繰り返され、演算用関数の係数は逐次更新される(S107)。そして、1PPS信号の供給が失われるとホールドオーバー制御に移行し、制御部11は、記憶した係数を適用した前記演算用関数に基づいて、電圧制御発振器15の動作時間に応じた自走用DAC値を算出して電圧制御発振器15を自走制御する(S108)。
【0067】
また、S103の判断において、設定温度範囲を外れていた時間が一定時間以上だった場合は、制御部11は作動信号をLEDランプ18に送信し、当該LEDランプ18を点灯させる(S109)。即ち、温度センサ17の検出値が長期間にわたって設定温度範囲から外れていた場合は、演算用関数の係数を算出する根拠として使用できるDAC値が少なく、精度の良好な演算用関数を得ることができない。従って、そのことをLEDランプ18によってユーザ側に知らせ、1PPS信号の供給が途切れてしまう前にユーザに適切な対応を促すこととしている。
【0068】
なお、制御部11に設定する温度範囲(設定温度範囲)は、電圧制御発振器15について定められている性能保証温度の範囲と一致しているか、当該性能保証温度の範囲に含まれていることが好ましい。ここでいう性能保証温度の範囲とは、当該電圧制御発振器15のF−V特性の変動が一定の範囲内(誤差内)に収まる温度範囲のことをいい、例えば電圧制御発振器15のメーカーが指定するものである。これによって、電圧制御発振器15の性能保証温度の範囲外になったときのDAC値を確実に除外して上記F−V特性の経時変化を推定できるので、ホールドオーバー時において適切な自走用DAC値を電圧制御発振器15に与えることができる。
【0069】
ここで、図2(a)のグラフに示す上限値と下限値が上記性能保証範囲の上限値と下限値であった場合に、基準周波数発生器10の周囲の温度(温度センサ17が検出する温度)が当該グラフのように変化した場合を考える。時間区間t1、t2及びt3のように、基準周波数発生器10の動作環境が性能保証温度範囲から外れた場合、当該区間においては、電圧制御発振器15は通常と大きく異なるF−V特性を示す可能性がある。このときにGPS受信機20から1PPS信号が供給されていると、PLL回路30は、そのように特殊な挙動を示す電圧制御発振器15の出力周波数を当該1PPS信号に同期させようとするので、電圧制御発振器15に与えられるDAC値も特殊なものとなる可能性が高い。
【0070】
この点、従来のF−V特性の経時変化の推定方法では、性能保証温度の範囲外のときに制御に用いられたDAC値も、性能保証温度範囲内のときのDAC値と同様に、前記演算用関数の係数の決定にあたって考慮されていた。そのため、係数の算出により得られる演算用関数の精度が十分でなく、ホールドオーバー制御時における基準周波数信号の精度が低下してしまっていた。しかしながら、本実施形態では、第2制御モードを選択して上記性能保証範囲を温度範囲として設定することで、性能保証温度範囲から外れた状況で動作したときのDAC値を除外して演算用関数の係数の算出を行うことができる。従って、1PPS信号の供給を失った場合でも高精度のホールドオーバー制御を実現することができる。
【0071】
また、基準周波数発生器10を供給するメーカー側から見れば、第2制御モードを利用して、基準周波数発生器10について定める性能保証温度を部分的に拡大することができる。以下、詳細に説明する。
【0072】
即ち、例えば、電圧制御発振器15の性能保証温度が−15℃から75℃の範囲に定められ、動作保証温度が−25℃から85℃の範囲に定められていた場合を考える。ここで、動作保証温度とは、(通常要求される周波数精度を得ることはできないが)問題なく動作し続ける限界として、電圧制御発振器15のメーカー等が指定する温度範囲を意味する。
【0073】
上記の場合において、従来は、基準周波数発生器の動作保証温度を定めるにあたって、電圧制御発振器15の動作保証温度を基準としつつ適宜のマージンを考慮して、例えば−20℃から80℃の範囲としていた。また、性能保証温度も同様に、電圧制御発振器15の性能保証温度を基準として、例えば−10℃から70℃の範囲というように単純に定めていた。しかし、本実施形態の構成であれば、ホールドオーバー時の基準周波数信号の精度を維持しつつ、1PPS信号が供給されているときの基準周波数発生器10の性能保証温度を−20℃から80℃の範囲まで拡大することが可能になる(なお、ホールドオーバー時の性能保証温度は−10℃から70℃の範囲のままとすることができる)。
【0074】
即ち、GPS受信機20から1PPS信号が供給されていれば、基準周波数発生器10の動作環境が電圧制御発振器15の性能保証温度範囲外であっても、基準周波数信号の精度は、PLL回路30による1PPS信号へのPLLロックによって良好に保つことができる。また、1PPS信号が供給されているときに基準周波数発生器10の動作環境が電圧制御発振器15の性能保証温度範囲から外れることがあっても、そのときのDAC値を除外して電圧制御発振器15のF−V特性の経時変化が推定されるので、ホールドオーバー時の基準周波数信号の精度を従来と同等とすることができる。そして、このような性能保証温度の拡大は、ユーザ側から見れば基準周波数発生器10を活用できる場面が広がり、より柔軟な運用が可能になることを意味する。
【0075】
以上に示したように、本実施形態の基準周波数発生器10は以下のように構成される。即ち、この基準周波数発生器10は、PLL回路30と、温度センサ17と、制御部11と、を備える。PLL回路30は、リファレンス信号に基づいて得られた制御電圧信号によって電圧制御発振器15が出力する基準周波数信号を制御する。温度センサ17は、電圧制御発振器15が使用される環境の変化を示す環境変数を検出値として検出する。制御部11は、リファレンス信号を取得できなくなると、自走用制御信号を生成して電圧制御発振器15を制御する。制御部11は、電圧制御発振器15が動作している経過時間に応じて自走用制御電圧信号を決定する制御モードとして、第1制御モードと第2制御モードとを選択可能に構成される。第1制御モードにおいて、制御部11は、1PPS信号を取得できているときに時系列で記憶された制御電圧信号の変化に基づいて、自走用制御電圧信号を決定する。第2制御モードにおいて、制御部11は、1PPS信号を取得できているときに時系列で記憶された制御電圧信号から、前記検出値が設定範囲から外れたときの制御電圧信号を除外し、残りの制御電圧信号の変化に基づいて自走用制御電圧信号を決定する。
【0076】
これにより、第1制御モードが選択された場合、1PPS信号が供給されなくなると、それまでに記憶されたDAC値の推移を忠実に考慮して自走用DAC値を決定し、電圧制御発振器15を制御することができる。一方、第2制御モードが選択された場合、1PPS信号が供給されなくなると、それまでに記憶されたDAC値のうち、想定外の環境で使用されたことによって、電圧制御発振器15が通常と異なる動作をしたおそれのある状態で与えられたDAC値を考慮に含めずに自走用DAC値を決定し、電圧制御発振器15を制御することができる。このように、本実施形態の基準周波数発生器10は、使用される環境や目的に適した方法でDAC値を生成して電圧制御発振器15を自走制御することができる。
【0077】
また、本実施形態の基準周波数発生器10においては、温度センサ17によって温度を前記環境変数として検出する。
【0078】
これにより、電圧制御発振器15の動作に影響を与えるおそれがある温度を検出することで、電圧制御発振器15が通常と異なる動作をしたおそれのある状態で使用されたか否かを精度良く判定することができる。
【0079】
また、本実施形態の基準周波数発生器10においては、前記設定温度範囲は変更可能となっている。
【0080】
これにより、例えば電圧制御発振器15を異なる仕様のものに交換した場合でも、温度範囲を変更することで容易に対応することができる。また、仕様が異なる複数の電圧制御発振器15を用いた製品ラインナップを、共通の部品を用いて容易に構築することができる。
【0081】
また、本実施形態の基準周波数発生器10においては、以下のように構成される。PLL回路30は、位相比較器12と、ループフィルタ13と、を有する。位相比較器12は、1PPS信号と、基準周波数信号に基づいて得られる位相比較用信号と、を比較して、その位相差に基づいた位相差信号を出力する。ループフィルタ13は、位相差信号を制御電圧信号に変換する。電圧制御発振器15は、DAC値に応じた基準周波数信号を出力する。そして、制御部11は、リファレンス信号を取得できなくなると、ループフィルタ13から出力される制御信号に代えて、自走用制御信号を生成して電圧制御発振器15を制御する。
【0082】
これにより、電圧制御発振器15の動作が通常のF−V特性に従わないおそれのある状態で与えられた制御信号を考慮に含めずに、自走用制御信号を決定し、電圧制御発振器15を制御することができる。
【0083】
また、本実施形態の基準周波数発生器10において、電圧制御発振器15は水晶発振器であり、温度センサ17は電圧制御発振器15の近傍の温度を検出するための温度センサ17である。
【0084】
これにより、温度変動の影響を受け易い水晶発振器を用いた場合でも、自走用DAC値を精度良く決定し、電圧制御発振器15を自走制御することができる。
【0085】
次に、図4を参照して、第2実施形態の基準周波数発生器10について説明する。図4は、第2実施形態において、第2制御モードの自走用制御電圧信号を決定するための処理を示したフローチャートである。なお、第2実施形態は、範囲外DAC値を後述する補間用関数によって補間DAC値に置換する以外の構成については、第1実施形態と同様である。従って、本実施形態の説明では上記第1実施形態と異なる部分を中心に説明し、他の部分の詳細な説明は省略する。
【0086】
第2実施形態の制御部11には、演算用関数とは別に補間用関数が予め記憶されている。この補間用関数は補間DAC値を算出するためのものであり、適宜の関数を使用することができる。
【0087】
この構成で、本実施形態の第2制御モードでも第1実施形態と同様に、電圧制御発振器15のF−V特性の経時変化を推定する根拠となるDAC値群から、設定温度範囲を外れた状態で取得されたDAC値が除外される。ただし本実施形態では、上記のようにDAC値が除外された後に、当該除外された部分(区間)を補間するために、前後のデータ等から補間DAC値を算出するようになっている。
【0088】
補間に利用するDAC値としては、例えば、温度センサ17の検出値が設定温度範囲から外れる直前のDAC値や、設定温度範囲に再び戻ってきた直後のDAC値等を用いることができる。また、除外された部分の両端部に位置するDAC値のデータ同士を単純に直線(1次関数)で結ぶように補間することも可能である。また、設定温度範囲から外れる前のDAC値群を利用して補間してもよいし、復帰した後のDAC値群を利用して補間することもできる。更に、前記演算係数の算出を例えば逐次最小二乗法を用いて行う場合は、設定温度範囲内に戻ったときのDAC値のデータに基づいて補間DAC値を算出することが考えられる。これにより、演算用関数の係数をより高精度に算出することができる。
【0089】
図4に従って本実施形態における第2制御モードのフローを簡単に説明すると、制御部11は、演算用関数の更新タイミングになると(S201)、現在までの所定時間内に、温度センサ17の検出値が設定温度範囲を外れていることがあったか否かを調べる(S202)。温度センサ17の検出値が設定温度範囲を外れていた場合には、設定温度範囲を外れていた時間が一定時間以上であるかを調べる(S203)。次に、除外すべきDAC値に代わる補間DAC値を、予め記憶されていた補間用関数によって算出し、除外対象となる範囲外DAC値を補間DAC値に置き換える(S204)。そして、補間DAC値とDAC値に基づいて推定曲線を算出して演算係数を記憶する(S205、S206)。その他の処理は、第1実施形態の第2制御モードと同様であるので、説明を省略する。
【0090】
このように、第2実施形態では、電圧制御発振器15のF−V特性の経時変化を推定する根拠となるDAC値群から前記範囲外DAC値が除外され、その代わりに、補間用関数によって算出された補間DAC値が用いられる。従って、DAC値の除外によりデータ数が減少し、演算用関数の係数を決定するにはDAC値のデータ数が不十分となる場合であっても、補間によってデータ数を補うことで演算用関数を容易に決定することができる。
【0091】
以上に示したように、第2実施形態の基準周波数発生器10においては、制御部11は、温度センサ17の検出値が設定温度範囲から外れたために除外された部分を補間する補間DAC値を求め、この補間DAC値を考慮に含めて自走用DAC値を決定する。
【0092】
これにより、DAC値が除外された部分が補間用の関数によって補間されるので、自走用DAC値の決定をより容易に行うことができる。
【0093】
次に、図5を参照して、電流を検出することで基準周波数発生器10の状態を検出する第3実施形態の構成について説明する。図5は、第3実施形態の基準周波数発生器10の一部を示したブロック図である。なお、第3実施形態の構成は、状態検出部として温度センサ17に代えて電流検出器44が用いられている点以外は、第1実施形態と同様である。従って、本実施形態では、第1実施形態とは異なる部分についてのみ説明し、他の部分については説明を省略する。
【0094】
図5に示すように、OCXOとして構成される電圧制御発振器15は、恒温槽を有しており、この恒温槽内には、水晶振動子40と、加熱手段41と、恒温槽内温度センサ(図面において省略)と、が配置されている。本実施形態の加熱手段41はパワートランジスタ等で構成されており、通電による抵抗加熱によって恒温槽内の温度を一定に保つように制御されている。そして、この加熱手段41に電力を供給するための供給経路には電流検出器44が配置されており、この電流検出器44の検出値は制御部11に送信されている。
【0095】
加熱手段41を駆動する電流の大きさは、恒温槽内の温度を一定に保つために適宜調整される。具体的には、恒温槽の周囲の温度が下がると電流が大きくなり、周囲の温度が上がると電流が小さくなるように制御される。従って、電流検出器44が検出する電流値は外気の温度と相関関係を有しており、電流検出器44の電流値を測定することは温度を測定するのと実質的に同等であるということができる。
【0096】
また、第3実施形態の制御部11においても、上記第1実施形態及び第2実施形態と同様に第1制御モード又は第2制御モードを選択可能に構成されている。このうち第1制御モードについては、第1実施形態の第1制御モードと同様であるので説明を省略する。
【0097】
第3実施形態の制御部11には、温度範囲に代えて電流値の範囲を設定可能に構成されている。そして、第2制御モードにおいては、電流検出器44の検出値が前記電流値の範囲を外れたときのDAC値が、演算用関数の係数を計算する根拠となるDAC値群から除外される。なお、電流値の範囲は、予め測定等によって求められた値に基づいて設定される。
【0098】
以上に示したように、第3実施形態の基準周波数発生器において、電圧制御発振器15はOCXOとして構成されている。また、閾値の範囲か否かを検出するための状態検出部は、恒温槽内に配置される加熱手段41が駆動されるときの電流を検出する電流検出器44である。
【0099】
これにより、電圧制御発振器15が使用される環境の温度に相関関係がある加熱手段41の電流を検出することで、温度変動の影響を受け易い水晶発振器の自走用DAC値を精度良く決定することができる。また、電流値を制御部11によって検出する構成なので、電流値の異常からOCXOの故障を検出する構成とすることも容易である。
【0100】
更に、上記実施形態は、基準周波数発生器10の電源電圧を検出することで、基準周波数発生器10の使用される環境の状態を検出し、その検出値に基づいて自走用DAC値の推定を行う構成に変更することも可能である。
【0101】
即ち、周囲温度の変動等に起因して、基準周波数発生器10の電源電圧が変動することがある。そこで、通常想定される電源電圧の変動の範囲(電圧範囲)を制御部11に設定できるようにした上で、制御部11が電圧検出器の検出値を監視し、検出値が前記電圧範囲を外れたときのDAC値が、演算用関数の係数を計算する根拠となるDAC値群から除外されるように構成することができる。
【0102】
このように、基準周波数発生器においては、状態検出部は電源電圧を測定する電圧検出器とすることができる。
【0103】
この構成により、周囲の温度と連動する傾向がある電源電圧を検出することで、温度変動の影響を受けることが多い電圧制御発振器15の自走用DAC値を良好な精度で得ることができる。また、電圧制御発振器15に与えられる電源電圧の変動によって、電圧制御発振器15の動作が通常のF−V特性に従わないおそれのある状態になったときの制御信号の影響を除外して自走用制御信号を決定できる。例えば、メーカーから設定されている範囲を超えた電源電圧が電圧制御発振器15に印加されたときのDAC値を除外することで、電源電圧のブレを原因とする自走用制御電圧信号の精度低下を防止できる。
【0104】
以上に本発明の実施形態を説明したが、上記の構成は更に以下のように変更することができる。
【0105】
上記実施形態の基準周波数発生器10は、第1制御モード又は第2制御モードを選択する構成であるが、第1制御モードを省略し、第2制御モードによる制御だけを行う構成に変更することができる。
【0106】
また、上記実施形態では、自走状態での温度補正は予めテーブル形式で記憶された値に応じて設定されているが、この構成は適宜変更することができる。例えば、適宜の関数によって、温度変動の影響を除去するための補正値を動的に決定する構成とすることもできる。
【0107】
また、上記実施形態では、LEDランプが報知手段として採用されているが、この構成に限定されるわけではない。例えば、ブザー等の発音装置を報知手段として採用することもできる。また、LAN等を通じてパーソナルコンピュータに接続することで出力する方法を採ってもよい。
【0108】
また、上記実施形態では、ループフィルタ13から出力される制御電圧信号に応じて電圧制御発振器15が制御される構成であるが、この構成は適宜変更することができる。例えば、ループフィルタ13に代えて、PID制御器やPI制御器によって、制御電圧信号を出力する構成に変更することができる。
【0109】
また、上記実施形態では、電圧制御発振器15として水晶発振器を用いる構成であるが、ルビジウム発振器や、出力周期を制御するデジタル制御発振器(Digital Controlled Oscillator、DCO)等を用いる構成に変更できる。このように、本実施形態の電圧制御発振器15に限定されるものではなく、発振器は事情に応じて適宜変更することができる。
【0110】
基準周波数発生器10の内部にGPS受信機20を配置し、自機の内部で1PPS信号(リファレンス信号)を生成する構成に変更することができる。また、GPS受信機20が、1PPSに代えて、PP2S等の1Hz以外の信号をリファレンス信号として基準周波数発生器10に供給する構成に変更することができる。
【0111】
また、供給されるリファレンス信号に同期して電圧制御発振器15を制御する構成である限り、PLL回路30以外の同期回路(例えば、DLL回路)を使用することもできる。
【0112】
また、上記実施形態では、GPS衛星からの信号に基づいてリファレンス信号を生成する構成であるが、GNSS(Global Navigation Satellite System)を利用する構成であれば、適宜変更することができる。例えば、GLONASS衛星やGALILEO衛星からの信号に基づいてリファレンス信号を生成する構成に変更することができる。更に、外部装置からのリファレンス信号を取得する構成としても良い。
【符号の説明】
【0113】
10 基準周波数発生器
11 制御部
12 位相比較器
13 ループフィルタ(位相差信号変換器)
15 電圧制御発振器
17 温度センサ(状態検出部)
30 PLL回路(同期回路)

【特許請求の範囲】
【請求項1】
リファレンス信号に基づいて得られた制御信号によって発振器が出力する基準周波数信号を制御する同期回路と、
前記発振器が使用される環境の変化を示す環境変数を検出値として検出する状態検出部と、
前記リファレンス信号を取得できなくなると、自走用制御信号を生成して前記発振器を制御する制御部と、
を備え、
前記制御部は、前記発振器が動作している経過時間に応じて前記自走用制御信号を決定する制御モードとして、第1制御モードと第2制御モードとを選択可能に構成され、
前記第1制御モードにおいて、前記制御部は、前記リファレンス信号を取得できているときに時系列で記憶された前記制御信号の変化に基づいて前記自走用制御信号を決定し、
前記第2制御モードにおいて、前記制御部は、前記リファレンス信号を取得できているときに時系列で記憶された前記制御信号から前記検出値が所定の範囲から外れたときの前記制御信号を除外し、残りの前記制御信号の変化に基づいて前記自走用制御信号を決定することを特徴とする基準周波数発生器。
【請求項2】
リファレンス信号に基づいて得られた制御信号によって発振器が出力する基準周波数信号を制御する同期回路と、
前記発振器が使用される環境の変化を示す環境変数を検出値として検出する状態検出部と、
前記リファレンス信号を取得できなくなると、自走用制御信号を生成して前記発振器を制御する制御部と、
を備え、
前記制御部は、前記発振器が動作している経過時間に応じて前記自走用制御信号を決定するように構成されており、
前記制御部は、前記リファレンス信号を取得できているときに時系列で記憶された前記制御信号から、前記検出値が所定の範囲から外れたときの前記制御信号を除外し、残りの前記制御信号の変化に基づいて前記自走用制御信号を決定することを特徴とする基準周波数発生器。
【請求項3】
請求項1又は2に記載の基準周波数発生器であって、
前記状態検出部は、温度、電流値又は電圧値のうち少なくとも1つを前記環境変数として検出することを特徴とする基準周波数発生器。
【請求項4】
請求項1から3までの何れか一項に記載の基準周波数発生器であって、
前記所定の範囲を変更可能であることを特徴とする基準周波数発生器。
【請求項5】
請求項1から4までの何れか一項に記載の基準周波数発生器であって、
前記制御部は、前記状態検出部の検出値が前記所定の範囲から外れたために除外された部分を補間する補間制御信号を求め、前記補間制御信号を考慮に含めて自走用制御信号を決定することを特徴とする基準周波数発生器。
【請求項6】
請求項1から5までの何れか一項に記載の基準周波数発生器であって、
前記同期回路は、
前記リファレンス信号と、前記基準周波数信号に基づいて得られる位相比較用信号と、を比較して、その位相差に基づいた位相差信号を出力する位相比較器と、
前記位相差信号を制御信号に変換する位相差信号変換器と、
を有し、
前記発振器は、前記制御信号に応じた基準周波数信号を出力する電圧制御発振器として構成されており、
前記制御部は、前記リファレンス信号を取得できなくなると、前記位相差信号変換器から出力される前記制御信号に代えて、自走用制御信号を生成して前記電圧制御発振器を制御することを特徴とする基準周波数発生器。
【請求項7】
請求項6に記載の基準周波数発生器であって、
前記電圧制御発振器は水晶発振器であり、
前記状態検出部は前記電圧制御発振器の近傍の温度を検出するための温度検出部であることを特徴とする基準周波数発生器。
【請求項8】
請求項6に記載の基準周波数発生器であって、
前記電圧制御発振器は恒温槽付水晶発振器として構成されており、
前記状態検出部は、恒温槽内に配置される加熱手段が駆動されるときの電流を検出する電流検出器であることを特徴とする基準周波数発生器。
【請求項9】
請求項6に記載の基準周波数発生器であって、
前記状態検出部は電源電圧を測定する電圧検出器であることを特徴とする基準周波数発生器。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【公開番号】特開2010−200051(P2010−200051A)
【公開日】平成22年9月9日(2010.9.9)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−43227(P2009−43227)
【出願日】平成21年2月25日(2009.2.25)
【出願人】(000166247)古野電気株式会社 (441)
【Fターム(参考)】