説明

多重膜のエッチング液組成物及びそのエッチング方法

【課題】Cu/Mo積層金属膜、Cu/Mo合金積層金属膜、Cu合金/Mo合金積層金属膜のような、銅又は銅合金の1層以上の銅層と、モリブデン又はモリブデン合金の1層以上のモリブデン層とを含む多重膜を、効率的で優秀に同時に一括してエッチングすることができるエッチング液組成物及びこれを用いた多重膜のエッチング方法を提供する。
【解決手段】エッチング液組成物は、総重量に対して、リン酸50〜80wt%;硝酸0.5〜10wt%;酢酸5〜30wt%;イミダゾール0.01〜5wt%;及び残量の水を含む。添加剤イミダゾールは、銅/モリブデンガルバニック反応調節剤として機能する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、特にフラットパネルディスプレイのTFT(Thin Film Transistor)又はタッチセンサパネル(Touch Sensor Panel)に使われる導電膜(conductive layer)のパターニング(patterning)のためのエッチング液に関する。より詳しくは、銅(Cu)又は銅合金(Cu合金)の1層以上の銅層と、モリブデン(Mo)又はモリブデン合金(Mo合金)の1層以上のモリブデン層とを含む多重膜をエッチングするためのエッチング液に関し、特にCu/Moの二重膜を一括してエッチングするためのエッチング液に関する。また、本発明は、このようなエッチング液を用いる多重膜のエッチング方法に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、低抵抗金属電極として銅(Cu)の単一膜を使うことができず、銅の下部に拡散防止膜としてモリブデン(Mo)又はチタン(Ti)膜を形成した後、その上部に純銅(Cu)を形成することでCu/Mo又はCu/Tiの二重膜でTFTゲート電極、ソース/ドレイン電極を形成している。
【0003】
前記のような二重膜のエッチング液は、従来のリン酸系混合酸を使う場合、TFTの条件を満たす所望のパターンの形成が不可能であり、過酸化水素系(不安定で廃液量が多いし、純水使用量が多い問題点を有する。)であって、フッ素イオンが少量含まれた混合酸をエッチング液として使用する場合、その量があまり多ければ、基板として使われるガラスをエッチングさせる問題点があった。
【0004】
また、従来の混酸系アルミニウムエッチング液であるリン酸+硝酸+酢酸+水の組成物を使う場合、エッチング速度が非常に速いため、所望のTFTパターンの形成が難しい問題点があった。よって、Cuエッチング速度を制御する(低める)ための調節剤(control agent)、つまりCuエッチング速度調節剤が必要であった。
【0005】
また、特許文献1には、Cu/Mo積層金属膜(又はCu合金/Mo合金積層金属膜)を一括してエッチングすることができる過酸化水素を含むエッチング液が開示されている。前記過酸化水素混合液の場合、経時によって濃度変化が発生する欠点があり、特にエッチング液の安全性に問題が生じる。
【0006】
最近では、過酸化水素混合液がエッチング液として注目されているが、一般的に過酸化水素に金属が含まれると、金属によって過酸化水素の分解反応が引き起こされ、不安定な状態になる。より具体的に説明すれば、急激な過酸化水素の分解反応はエッチング工程の経過、つまり経時によって濃度変化が発生し、エッチング液温度の急激な上昇、爆発の危険性、さらに付帯設備が必要となり、製造コストの上昇などの問題があるため、過酸化水素混合液をエッチング液として使うのには問題点が多い。
【0007】
このように既存の過酸化水素系エッチング液は、爆発性(廃水処理問題の発生など、薬液の安全性)及び短寿命が問題となる。特に、Cu/Moの二重膜の場合、Mo残渣を除去するために、含フッ素化合物(フッ素化合物)をエッチング液に添加しなければならないが、これはガラス基板に損傷を与えてしまう。
【0008】
したがって、前述した問題点を解決するために、Cu/Mo多重膜を同時に一括してエッチングすることができる非過酸化水素/非フッ素化合物系(Non-hydrogen peroxide(H)/Non-fluorine compound based)の新規のエッチング液組成物の開発が要求されている。
【0009】
リン酸、硝酸、酢酸及びその他の添加剤を含む銅エッチングは、特許文献2及び3などに提案されているが、Cu/Mo多重膜構造に対する具体的な適用結果は明かにされておらず、過酸化水素(廃液量が多い)のような環境有害物質、エッチング寿命を縮める不安定な成分、又は基板のガラスを腐食させるフッ素系化合物などを含まなくてもCu/Mo多重膜に対して1回の湿式エッチング工程だけで優れたエッチングプロファイルを得ることができる新規のエッチング液組成物の開発が要求されている。
【0010】
ところで、Cu/Mo多重膜のような異種金属間では、ガルバニック反応が発生することが知られている。ガルバニック反応(Galvanic reaction)とは、溶液又は大気中で互いに異なる金属を接触させたときに発生する現象である。異種金属間の電解質内の電気化学的起電力の差によってエッチング速度が著しく変化する現象をいう。2種金属の酸化及び還元反応の速度は、2種金属の溶液内の相対電位差によって決定される。一般に、溶液内の2種金属の中で電気化学的電位が高いほど(noble)陰極(cathode)として作用して還元反応が優勢になり、単一膜の場合に比べてエッチング速度が遅くなる。電位が相対的に低い(active)金属は陽極(anode)として作用して酸化反応がさらに促進され、エッチング速度が単一膜の場合に比べて速くなる。
【0011】
これらの研究によってリン酸系のエッチング液として、硝酸の添加の有無によって銅とモリブデンの電位が大きく変わることを確認した。硝酸添加の前には、銅がモリブデンより高い電位を有することにより陰極(cathode)として作用した。しかし、酸化剤として硝酸を添加後、銅がモリブデンより低い電位を有することにより、陽極(anode)として作用して過エッチング現象が発生した。すなわち、同じエッチング液内で銅とモリブデンが異なるエッチング速度を有することにより、モリブデンがエッチングされる前に銅が過エッチングされて直進性が低下し、全配線の抵抗を増加させる欠点が発生する。
【0012】
このような問題点を補うために、銅及び下部配線(Mo及びTi)のそれぞれに対して互いに異なる組成を有する2種以上のエッチング液を使う場合、全エッチング工程が複雑になり、製造コスト及び時間が増加して製品の生産性が低下する問題点がある。工程の簡素化及び製造コストの節減のためには、Cu/Moの二重配線のような多重膜を一度にエッチングすることができるエッチング液が必要である。
【0013】
また、現在の薄膜トランジスタ配線工程は製造コストの節減のために金属配線のパターニング工程の簡素化が進み、大面積基板に適用されるため、エッチングの際、多層膜を成す物質に構わずに均一なエッチング特性を示す新規のエッチング液組成物の開発が要求されている。
【0014】
さらに、特許文献4及び5に提案されたように、金属導電多重薄膜も(投影型)静電容量方式又は抵抗式(抵抗膜方式)タッチセンサ構造((projected) capacitive or resistive touch sensor structures)のために必要である。タッチセンサ構造は、例えばTFT−LCDのカラーフィルタ基板(color filter substrate)の内部又は外部に、若しくはディスプレイの前方に配置される追加の基板に形成される。
【0015】
小型タッチセンサは、単一層のモリブデン(Mo)、MoTa、又はMoTa合金などで回路が形成され、また、透明導電膜、例えば、酸化インジウムスズ(Indium tin oxide;ITO)が取り付けられ、センサ構造を有する。また、導電膜として、Al/Mo、AlNd/Mo、AlNd/Mo合金のような多重膜も使われている。しかし、大型タッチスクリーンには、低抵抗金属化の必要性が発生するため、結果としてCu/Mo又はCu/Mo合金の多重膜が使われる。
【0016】
金属配線のパターニングは、好ましくは湿式エッチングによって達成され、タッチセンサに対するこれら金属多重膜のパターニングの問題は、薄膜トランジスタ(thin film transistor)に関連した問題と同様である。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0017】
【特許文献1】国際公開第2009/038063号
【特許文献2】韓国公開特許第10−2009−0095408号公報
【特許文献3】韓国公開特許第10−2006−0082270号公報
【特許文献4】米国特許出願公開第2009/0160824号明細書
【特許文献5】米国特許出願公開第2009/0096759号明細書
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0018】
前記のような従来技術の問題点を解決するために、本発明は、Cu/Mo積層金属膜、Cu/Mo合金積層金属膜、Cu合金/Mo合金積層金属膜を含む、銅又は銅合金の1層以上の銅層とモリブデン又はモリブデン合金の1層以上のモリブデン層を含む多重膜を同時に一括してエッチングして製造工程を簡素化し、これにより製造コストと時間を節減するだけでなく、優れたプロファイル及びエッチング特性を有し、工程上の薬液の安全性に優れたエッチング液組成物及びこれを用いた多重膜のエッチング方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0019】
前記の目的を達成するために、本発明に係る多重膜のエッチング液組成物は、組成物の総重量に対して、50〜80wt%のリン酸と、0.5〜10wt%の硝酸と、5〜30wt%の酢酸と、0.01〜5wt%のイミダゾールとを含むことを特徴とする。
【0020】
また、本発明に係るエッチング方法は、基板上に少なくともモリブデン又はモリブデン合金膜と、銅又は銅合金膜とを含む多重膜を蒸着するステップと、前記多重膜に所定のパターンを持つフォトレジスト膜を形成するステップと、前記フォトレジスト膜をマスクとして使い、組成物の総重量に対して、50〜80wt%のリン酸と、0.5〜10wt%の硝酸と、5〜30wt%の酢酸と、0.01〜5wt%のイミダゾールとを含むエッチング液組成物を使って前記多重膜をエッチングして金属配線を形成するステップと、前記フォトレジスト膜を除去するステップと脱イオン水で金属配線を洗浄し乾燥するステップとを含むことを特徴とする。
【発明の効果】
【0021】
本発明は、Cu/Mo積層金属膜、Cu/Mo合金積層金属膜、Cu合金/Mo合金積層金属膜を含む、銅又は銅合金の1層以上の銅層とモリブデン又はモリブデン合金の1層以上のモリブデン層とを含む多重膜を、同時に一括してエッチングすることができる。このため、製造工程及びコストを最小化することができ、また、装備の損傷がないので優れた生産性を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0022】
【図1】従来技術(特許文献3)の一実施例で提案されたリン酸+硝酸+酢酸+添加剤含有エッチング液(比較例)を用いてCu/Moの二重膜をエッチングしたときに現れるステップ長さ(step length)を示す平面SEM写真である。
【図2】比較例のエッチング液組成物でエッチングした断面SEM写真である。
【図3】実施例のリン酸、硝酸、酢酸、添加剤イミダゾール(imidazole)及び水を含むエッチング液を用いてCu/Moの二重膜をエッチングしたときの平面写真である。
【図4】実施例のエッチング液組成物でエッチングした断面SEM写真である。
【図5】イミダゾール(C)の添加によるCu/Mo層のエッチング特性の変化を示すグラフである。
【図6】アミノテトラゾール(CH)の添加すによるCu/Mo層のエッチング特性の変化を示すグラフである。
【図7】イミダゾールとアミノテトラゾールのステップ長さ(step length)の効果を比較するCu/Mo層のエッチング特性の変化を示すグラフである。
【発明を実施するための形態】
【0023】
本発明の一実施の形態に係るエッチング液組成物(以下、本エッチング液ともいう。)は、非過酸化水素/非フッ素化合物のリン酸系エッチング液であって、エッチングプロファイルを改善(ステップ長さ(step length)及びCD(cut dimension) Skewの減少)するために、添加剤としてイミダゾールを含むものである。
【0024】
リン酸系エッチング液(phosphoric acid based etchant)は、過酸化水素系に比べて安定している。本発明者の研究によれば、リン酸系エッチング液は、過酸化水素系エッチング液とは異なり、Mo残渣の問題がほとんど発生しないので、本エッチング液は、Mo残渣の除去のために大部分のエッチング液に含まれる成分であるフッ素化合物も不要となる。
【0025】
また、本エッチング液は、安定したリン酸系エッチング液(リン酸+硝酸+酢酸+水)にイミダゾールを添加したものである。すなわち、本エッチング液は、リン酸(HPO)、硝酸(HNO)、酢酸(CHCOOH)、イミダゾール(imidazole)(C)及び水(HO)を含む。
【0026】
好ましくは、本エッチング液は、組成物の総重量に対して、リン酸(HPO)を50〜80wt%、硝酸(HNO)を0.5〜10wt%、酢酸(CHCOOH)を5〜30wt%、添加剤としてイミダゾール(C)を0.01〜5wt%、及び残量の水を含む。
【0027】
より好ましくは、エッチング液組成物は、組成物の総重量に対して、リン酸を50〜75wt%、硝酸を1〜9wt%、酢酸を14〜20wt%、添加剤としてイミダゾール(C)を0.1〜0.3wt%、及び残量の水を含む。
【0028】
本エッチング液は、銅又は銅合金の1層以上の銅層と、モリブデン又はモリブデン合金の1層以上のモリブデン層とを含む多重膜を湿式エッチングする場合に使用される。好ましくは、これらの多重膜を同時に一括してエッチングする場合に使用される。
【0029】
前記多重膜としては、例えばCu/Mo積層金属膜、Cu/Mo合金積層金属膜、Cu合金/Mo合金積層金属膜などが挙げられ、本エッチング液は、特にCu/Moの二重膜を一括してエッチングするためのエッチング液として使用することができる。
【0030】
また、本エッチング液は、特にCu/Moの二重膜のためのエッチング液であって、リン酸系(リン酸、硝酸、酢酸)を基本組成とし、ガルバニック効果を減少させるためにイミダゾールを添加剤としてさらに含む。すなわち、イミダゾール(imidazole)は、銅/モリブデンガルバニック反応調節剤(Cu/Mo galvanic reaction controller)として機能する。
【0031】
また、本エッチング液は、非過酸化水素/非フッ素化合物溶液であって、構成成分として過酸化水素及び/又はフッ素化合物を含まないことを特徴とする。本エッチング液は、過酸化水素に比べて安定したリン酸を基本としているため、効率的に多重膜、特にCu(又はCu合金)/Mo(又はMo合金)多重膜を同時にエッチングすることができる。
【0032】
水は、銅酸化剤として機能し、好ましくは本エッチング液に残量として含まれる。一般に、エッチング液に過量の水が含まれる場合、銅のエッチング速度が促進し、銅とモリブデンのガルバニック現象が促進することにより、エッチングによる銅とモリブデン配線幅の差(step length)が大きくなる。
【0033】
リン酸(HPO)は、基本酸化剤として機能し、組成物の総重量に対して50〜80wt%含まれることが好ましい。リン酸が50wt%未満の場合には、水の含量が多くなって過エッチング現象が発生し、80wt%超過の場合にも過エッチング及び不均一エッチングが発生する。純リン酸の割合は、高いほど良い。
【0034】
硝酸(HNO)は、銅酸化剤として機能し、組成物の総重量に対して0.5〜10wt%含まれることが好ましい。硝酸が0.5wt%未満である場合には、銅のエッチング速度が遅くなり、硝酸が10wt%を超える場合には、銅とモリブデンのガルバニック現象が促進されてステップ長さ(step length)が急激に増加し、銅のエッチング速度も急激に速くなる。
【0035】
酢酸(CHCOOH)は、銅とモリブデンのガルバニック現象の調節液として機能し、組成物の総重量に対して5〜30wt%含まれることが好ましい。酢酸が5wt%未満である場合には、銅とモリブデンのガルバニック現象が発生し、ステップ長さ(step length)が大きくなり、銅エッチング速度が速くて過エッチングが発生する。また、酢酸が30wt%を超過する場合には、パターンの直進性が低下する。
【0036】
酢酸を添加する場合、リン酸溶液内の銅表面に形成された酸化被膜(CuO)が溶けるので、銅のエッチング速度は速くなる。本研究では、リン酸溶液内に酢酸を添加した場合、モリブデンの表面にモリブデン酸化膜(MoO)が成長するため、モリブデンのエッチング速度が一層遅くなることを確認した。また、リン酸内の酢酸含有量が増加するほど、前述した作用によって全ガルバニック反応が変わり、ステップ長さ(step length)及びCD(cut dimension) Skewは減少する効果をもたらすことを確認した。
【0037】
本エッチング液においては、このようなガルバニック効果を減少させるために、リン酸、硝酸及び酢酸に、添加剤としてイミダゾールをさらに含む。リン酸におけるイミダゾールの正確な機構は知られていないが、イミダゾールのような添加剤は、銅やモリブデンの表面に吸着されるか、エッチングされた銅イオン及びモリブデンイオンと錯化物を形成して表面に積層することにより、後続の銅/モリブデンエッチング速度を調節するものと考えられる。イミダゾールが一定含量以上含有する場合は、銅のエッチング速度が抑制されるため、むしろエッチングの不均一性を引き起こす。
【0038】
したがって、本エッチング液においては、イミダゾール(imidazole)は、銅/モリブデンガルバニックの反応調節剤(Cu/Mo galvanic reaction controller)の機能をする添加剤であり、組成物の総重量に対して0.01〜5wt%含まれることが好ましい。より好ましくは、イミダゾールは、少なくとも0.1wt%以上、特に好ましくは0.1〜0.3wt%含まれる。イミダゾールが0.01wt%未満の場合には、銅とモリブデンのガルバニック現象の発生が多くなって、銅とモリブデンの配線幅の差であるステップ長さ(step length)(エッチングの後、銅とモリブデン配線幅の差を“step length”という。)が大きくなり、5wt%を超えて含まれる場合には、銅のエッチング速度が急激に遅くなる。
【0039】
本エッチング液を使用する際の溶液温度は、30℃〜60℃、特に約40℃が好ましい。溶液温度30℃未満では、CD(cut dimension) Skew及びステップ長さ(step length)の不均一性が発生し、60℃超過では過エッチング現象が観察された。
【0040】
また、本エッチング液が適用される多重膜の銅層とモリブデン層の厚さ比は、30:1以上であることが好ましく、それ未満の場合は、ガルバニック反応が大きくなってステップ長さ(step length)が大きくなる。銅層とモリブデン層との厚さ比が30:1以上の場合、ガルバニック現象が減少してステップ長さ(step length)が減少することになる。Moの最適の厚さは100オングストローム、また、Cuの最適の厚さは3000オングストロームであることが好ましい。
【0041】
前記モリブデン膜又はモリブデン合金膜の残留応力(residual stress)は、引張応力(tensile stress)であることが好ましい。モリブデン蒸着膜の場合、アルゴン圧力が高い工程条件で蒸着すると、銅とのガルバニック現象が減少してテーパアングル(taper angle)の形成に有利である。
【0042】
前記銅膜又は銅合金膜は、蒸着後、100℃〜300℃の温度で10分〜1時間アニーリングすることが好ましい。
【0043】
本エッチング液は、フラットパネルディスプレイのTFT、アクティブマトリックスOLED又はタッチセンサパネルの製造に有利に使用可能である。
【0044】
また、本エッチング液組成物は、例えば界面活性剤、エッチング調節剤のような通常の添加剤をさらに含むことができ、目的とするエッチング特性と必要によって公知の他の添加剤をさらに添加することができる。
【0045】
モルリブデン膜の特性によって小粒子状の残渣(residue)が形成され、これがガラス基板又は下部膜に残るとピクセル不良を引き起こす原因となる。残渣を除去するために、大部分のエッチング液にはフッ素化合物が含まれる。フッ素化合物は、残渣除去の効果はあるが、ガラス基板に損傷を与える欠点を有する。
【0046】
一方、本エッチング液は、Moの残渣除去のために添加されるフッ素化合物を含まない。その理由は、過酸化水素系エッチング液とは異なり、本エッチング液のようなリン酸系エッチング液では、Mo残渣の問題がほとんど発生しないため、フッ素化合物をエッチング液に添加する必要がない。したがって、フッ素化合物添加剤によってガラス基板に損傷(glass damage)を与える欠点を解消することができる。
【0047】
また、本エッチング液を用いるエッチング方法(以下、本エッチング方法ともいう。)は、基板上に少なくともモリブデン又はモリブデン合金膜と銅又は銅合金膜を含む多重膜を蒸着するステップと、前記多重膜に所定のパターンを有するフォトレジスト膜を形成するステップと、前記フォトレジスト膜をマスクとして使用し、組成物の総重量に対して、50〜80wt%のリン酸と、0.5〜10wt%の硝酸と、5〜30wt%の酢酸と、0.01〜5wt%のイミダゾールとを含むエッチング液を使って前記多重膜をエッチングすることで金属配線を形成するステップと、前記フォトレジスト膜を除去するステップと、脱イオン水で金属配線を洗浄して乾燥するステップとを含む。
【0048】
好ましくは、前記多重膜は、例えばCu/Mo積層金属膜、Cu/Mo合金積層金属膜、Cu合金/Mo合金積層金属膜などのような、銅又は銅合金の1層以上の銅層と、モリブデン又はモリブデン合金の1層以上のモリブデン層とを含む。
【0049】
本エッチング方法においては、モリブデン又はモリブデン合金膜が基板上に蒸着され、銅又は銅合金膜が前記モリブデン又はモリブデン合金膜上に蒸着され、そして、フォトレジスト膜が前記銅又は銅合金膜上に形成された積層体に好ましく適用される。
【0050】
前記モリブデン合金は、モリブデンと、好ましくはタングステン、チタン、タンタル及びニオビウムから選択される少なくとも1種の元素とを含む。また、前記銅合金は、銅と、好ましくはマグネシウム、モリブデン及びマンガンから選択される少なくとも1種の元素とを含む。
【0051】
好ましくは、前記モリブデン又はモリブデン合金膜は、100〜500オングストロームの厚さを有し、銅又は銅合金膜は、1000〜20000オングストロームの厚さを有し、この範囲で効率的なエッチングが可能である。
【0052】
また、本エッチング方法は、30℃〜60℃、好ましくは約40℃の温度で行うことができる。本エッチング液を使う場合、好ましくはスプレー法(噴霧法)(spray method)によって30秒〜150秒間、エッチング液を基板上に噴霧することで金属配線を形成することができる。また、前記銅又は銅合金膜は、好ましくはソース/ドレイン電極として形成することができる。
【0053】
前記基板は、好ましくはTFT LCD用ガラス基板、フレキシブルディスプレイ用金属薄膜基板又はプラスチック基板であり、前記基板は、TFT LCD、アクティブマトリックスOLED又はタッチセンサパネル用に使うことができる。
【実施例】
【0054】
以下、実施例及び比較例に基づいて本発明を詳細に説明する。なお、以下に示す実施例は、本発明を詳細に説明するためのものであり、本発明の範囲を限定するものではない。
【0055】
ここでは、実施例及び比較例のエッチング液組成物を製造し、そのエッチング特性を評価した。エッチング特性の評価は、次のような実験例によって行った。
【0056】
[実験例]
基板上にCu/Moの二重膜が蒸着された試片を準備し、噴射式エッチング方式の実験装備(FNS Tech社製)内に実施例又は比較例のエッチング液を入れ、温度を40℃に設定して加温し、温度が40±0.1℃に到逹したとき、前記基板のエッチング工程を実行した。
【0057】
総エッチング時間は、終末点探知機(EPD: End Point Detector)によって検出された時間を基準として、50%超過させたオーバエッチングを行った。エッチングの終了後、基板を取り出して脱イオン水で洗浄した後、熱風乾燥装置で乾燥させた。また、フォトレジスト(PR)剥離器(stripper)でフォトレジストを除去した。
【0058】
電子走査顕微鏡(SEM、TESCAN社製)を用いて、フォトレジスト末端と銅末端との間の距離を示すCD skew(Cut dimension skew)、銅とモリブデン配線幅の差であるステップ長さ(step length)、エッチング残留物などを観察し、評価した。
【0059】
[比較例1]
背景技術で言及したように、リン酸、硝酸、酢酸及びその他の添加剤を含む銅エッチング液は、特許文献2及び3などで提案されているものの、Cu/Moの二重構造に対する具体的な適用結果は明かされていない。従来技術である特許文献3に記載の技術は、フラットパネルディスプレイの薄膜トランジスタ形成のための金属電極用エッチング液組成物であり、従来のアルミニウムエッチング液であるリン酸+硝酸+酢酸+水の組成物にエッチング速度調整剤をさらに添加することにより、所望のパターンが形成できるようにしたものである。
【0060】
そこで、比較例1として特許文献3に記載された実施例1のエッチング液組成物を製造した。比較例1のエッチング液組成物の組成は、以下の通りである。
PO 55wt%
HNO 8wt%
CHCOOH 10wt%
(NHHPO 2wt%
CHCOONH 2wt%
O 残量
【0061】
前記組成を有する比較例1のエッチング液組成物のエッチング特性について、前記実験例によって評価した。
【0062】
図1は、比較例として従来技術(特許文献3)に提案されたリン酸、硝酸、酢酸組成及び添加剤を含むエッチング液のCu/Moの二重膜に対する具体的な適用結果を示す平面写真である。
【0063】
図1に示すように、Cu/Moの二重構造にリン酸系のエッチング液を適用する場合、下部膜であるモリブデンはほとんど溶けないが、2種金属のエッチング速度差及びガルバニック腐食現象によって上部膜の銅が過エッチングされる現象が発生した。このときに発生する銅とモリブデン配線幅の差をステップ長さ(step length)とした(図1参照)。図1によれば、比較例1のエッチング液でCu/Moの二重膜をエッチングする場合、かなり大きいステップ長さが発生することから、エッチングプロファイルが不良であることが分かる。
【0064】
図2は、比較例1のエッチング液組成物でエッチングした断面SEM写真である。図2に示すように、フォトレジスト末端と銅末端との間の距離を示すCD skew(Cut dimension skew)が大きくなる問題点が発生した(エッチング不良)。段差がなく均一なテーパエッチングを行うためには、この距離(CD skew)は適切な範囲内でなければならない。
【0065】
[実施例1]
PO 70wt%
+HNO 2wt%
CHCOOH 15wt%
(imidazole) 0.1wt%
O 12.9wt%
【0066】
実施例1として、前記組成比を有するエッチング液組成物を製造し、そのエッチング特性を前記実験例によって評価した。
【0067】
図3は、実施例1によって製造されたリン酸、硝酸、酢酸、添加剤イミダゾール(imidazole)及び水を含むエッチング液を用いてCu/Moの二重膜をエッチングしたときの平面写真を示し、図4は、実施例1のエッチング液組成物でエッチングした断面SEM写真である。
【0068】
図3及び図4を参照すると、Cu/Moの二重膜のガルバニック現象が減少して、CD skew及びステップ長さ(step length)が大幅に改善されることから、パターンのプロファイルとエッチング特性が優れていることが分かる。つまり、図1と図3とを比較すると、本発明のエッチング液を使う場合、従来技術のエッチング液を使う場合よりステップ長さ(step length)が大幅に改善することが分かる。また、図2と図4とを比較すると、本発明のエッチング液を使う場合、従来技術のエッチング液を使う場合よりCD skewが大幅に改善することが分かる。
【0069】
本発明者は、他の組成比のエッチング液でもエッチング特性が改善することを確認した結果、下記実施例2〜4の組成比を有するエッチング液組成物は、図2及び図3に示す実施例1の組成比のエッチング液によるエッチング特性とほぼ類似の改善効果を示した。
【0070】
[実施例2]
PO 70wt%
HNO 2wt%
CHCOOH 15wt%
(imidazole) 0.1〜0.3wt%
残りは蒸溜水
【0071】
[実施例3]
PO 58wt%
HNO 2wt%
CHCOOH 20wt%
(imidazole) 0.1〜0.3wt%
残りは蒸溜水
【0072】
[実施例4]
PO 52wt%
HNO 8wt%
CHCOOH 20wt%
(imidazole) 0.1〜0.3wt%
残りは蒸溜水
【0073】
[イミダゾールの添加量によるエッチング特性]
図5は、本実施例によるエッチング液において、イミダゾール(imidazole)(C)の添加によるCu/Mo層のエッチング様相の変化を示す。
【0074】
イミダゾールは、銅/モリブデンガルバニック反応調節剤(Cu/Mo galvanic reaction controller)として機能する添加剤であることが分かる。
【0075】
効果的なCu/Moのエッチングのためには、CD Skewは、0.5μm以下、かつCuとMoの間のエッチング速度差によって発生するステップ長さ(step length=width of copper−width of molybdenum(つまり、エッチング後の銅とモリブデン配線幅の差))が最小にならなければならない。
【0076】
図5に示すように、リン酸、硝酸、酢酸溶液にイミダゾールを添加することによってステップ長さ(step length)が最小になる濃度が存在することが分かる。図5はイミダゾール濃度が0.02Mの場合に最良の効果を示すことが分かる。
【0077】
[他の添加剤によるエッチング特性]
本発明者は、イミダゾール(C)以外にもガルバニック反応を減少させる添加剤を見つけるために、イミダゾールのような複素環アミン化合物であるアミノテトラゾール(Aminotetrazole)(CH)を添加剤として用いて実験した(図6参照)。また、アスコルビン酸(Ascorbic acid)(C)、リン酸二水素ナトリウム(Sodium dihydrogen phosphate)(NaHPO)、アミノアセト酢酸(Aminodiacetic acid)(CNO)、リン酸一水素二ナトリウム(Disodium hydrogen phosphate)(NaHPO)などの多くの添加剤を対象として実験を行ったが、イミダゾールよりガルバニック反応を減少させてCD skew及びステップ長さ(step length)を同時に著しく改善した添加剤は発見されなかった。
【0078】
例えば、図6に、イミダゾールのような複素環アミン化合物に属するアミノテトラゾール(CH)の添加によるCu/Mo層のエッチング特性の変化を示す。図6に示すように、アミノテトラゾールは、イミダゾールよりステップ長さ(step length)を著しく改善することはできないことが分かる。
【0079】
また、図7に、図5に示すイミダゾールのステップ長さ(step length)の効果と、図6に示すアミノテトラゾールのステップ長さ(step length)の効果とを比較するために、両者のCu/Mo層のエッチング特性の変化を示す。
【0080】
以上、本発明者の研究によれば、イミダゾールは、過酸化水素系エッチング液においてはエッチング速度に大きく影響を及ぼすが、リン酸系エッチング液においてはエッチング速度にあまり影響を及ぼさないという事実を見出した。
【産業上の利用可能性】
【0081】
本発明は、フラットパネルディスプレイのTFT又はタッチセンサパネルに使われる導電膜のパターニングに適用可能である。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
組成物の総重量に対して、
50〜80wt%のリン酸と、
0.5〜10wt%の硝酸と、
5〜30wt%の酢酸と、
0.01〜5wt%のイミダゾールと
を含む多重膜のエッチング液組成物。
【請求項2】
前記イミダゾールが0.1〜0.3wt%含まれる請求項1に記載のエッチング液組成物。
【請求項3】
組成物の総重量に対して、
前記リン酸が50〜75wt%、
前期硝酸が1〜9wt%、
前記酢酸が14〜20wt%、及び
前記イミダゾールが0.1〜0.3wt%
含まれることを特徴とする請求項1又は2に記載のエッチング液組成物。
【請求項4】
前記多重膜は、Cu/Mo積層金属膜、Cu/Mo合金積層金属膜、Cu合金/Mo合金積層金属膜を含む、銅又は銅合金の1層以上の銅層と、モリブデン又はモリブデン合金の1層以上のモリブデン層とを含むことを特徴とする請求項1に記載のエッチング液組成物。
【請求項5】
前記多重膜は、Cu/Moの二重膜であることを特徴とする請求項4に記載のエッチング液組成物。
【請求項6】
使用温度が30℃〜60℃であることを特徴とする請求項1に記載のエッチング液組成物。
【請求項7】
前記銅層とモリブデン層との厚さの比は、30:1以上であることを特徴とする請求項4に記載のエッチング液組成物。
【請求項8】
前記モリブデン膜又はモリブデン合金膜の残留応力は、引張応力であることを特徴とする請求項4に記載のエッチング液組成物。
【請求項9】
前記銅膜又は銅合金膜は、蒸着後に100℃〜300℃の温度で10分〜1時間アニーリングされることを特徴とする請求項4に記載のエッチング液組成物。
【請求項10】
構成成分として過酸化水素及び/又はフッ素化合物を含まないことを特徴とする請求項1に記載のエッチング液組成物。
【請求項11】
フラットパネルディスプレイのTFT、アクティブマトリックスOLED又はタッチセンサパネルの製造に使われる請求項1に記載のエッチング液組成物。
【請求項12】
基板上に少なくともモリブデン又はモリブデン合金膜と、銅又は銅合金膜とを含む多重膜を蒸着するステップと、
前記多重膜に所定のパターンを持つフォトレジスト膜を形成するステップと、
前記フォトレジスト膜をマスクとして使い、組成物の総重量に対して、50〜80wt%のリン酸と、0.5〜10wt%の硝酸と、5〜30wt%の酢酸と、0.01〜5wt%のイミダゾールとを含むエッチング液組成物を使って前記多重膜をエッチングして金属配線を形成するステップと、
前記フォトレジスト膜を除去するステップと、
脱イオン水で金属配線を洗浄し乾燥するステップと
を含む多重膜のエッチング方法。
【請求項13】
前記多重膜は、Cu/Mo積層金属膜、Cu/Mo合金積層金属膜、Cu合金/Mo合金積層金属膜を含む、銅又は銅合金の1層以上の銅層とモリブデン又はモリブデン合金の1層以上のモリブデン層とを含むことを特徴とする請求項12に記載のエッチング方法。
【請求項14】
モリブデン又はモリブデン合金膜を基板上に蒸着し、銅又は銅合金膜を前記モリブデン又はモリブデン合金膜上に蒸着し、フォトレジスト膜を前記銅又は銅合金膜上に形成することを特徴とする請求項12に記載のエッチング方法。
【請求項15】
前記モリブデン合金は、モリブデンと、タングステン、チタン、タンタル及びニオビウムから選択される少なくとも1種の元素とを含むことを特徴とする請求項13に記載のエッチング方法。
【請求項16】
前記銅合金は、銅と、マグネシウム、モリブデン及びマンガンから選択される少なくとも1種の元素とを含むことを特徴とする請求項13に記載のエッチング方法。
【請求項17】
前記モリブデン又はモリブデン合金膜は、100〜500オングストロームの厚さを有し、銅又は銅合金膜は、1000〜20000オングストロームの厚さを有することを特徴とする請求項13に記載のエッチング方法。
【請求項18】
前記エッチングは、30℃〜60℃の温度で行われることを特徴とする請求項12に記載のエッチング方法。
【請求項19】
前記エッチング液組成物が、30秒〜150秒の間スプレー法(噴霧法)によって基板に噴霧されることを特徴とする請求項12に記載のエッチング方法。
【請求項20】
前記銅又は銅合金膜は、ソース/ドレイン電極であることを特徴とする請求項13に記載のエッチング方法。
【請求項21】
前記基板は、TFT LCD用ガラス基板、フレキシブルディスプレイ用金属薄膜基板又はプラスチック基板であり、前記基板は、TFT LCD、アクティブマトリックスOLED又はタッチセンサパネル用に使われることを特徴とする請求項12に記載のエッチング方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【公開番号】特開2012−49535(P2012−49535A)
【公開日】平成24年3月8日(2012.3.8)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−181947(P2011−181947)
【出願日】平成23年8月23日(2011.8.23)
【出願人】(390040486)プランゼー エスエー (25)
【Fターム(参考)】