説明

封止型デバイスの製造方法および封止型デバイス

【課題】接合される部材の材質によらず、閉空間に収納したデバイスを簡単かつ確実に気密封止することができる封止型デバイスの製造方法、およびかかる封止型デバイスの製造方法により製造された信頼性の高い封止型デバイスを提供すること。
【解決手段】水晶振動子1の製造方法は、ケース2と蓋体4とを用意する工程と、凹部22内に水晶振動片5を収納する工程と、ケース2の接合面231に第1の接合膜31を成膜するとともに、蓋体4の接合面401に第2の接合膜32を成膜する工程と、エネルギーを付与することにより、各接合膜31、32に接着性を発現させる工程と、接合面231と接合面401とが対向するように重ね合わせることにより、凹部22を気密封止し、水晶振動子1を得る工程とを有する。ここで、第1の接合膜31と第2の接合膜32とで成膜パターンが異なっており、それぞれの合成パターンは閉じた枠状を形成するよう構成されている。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、封止型デバイスの製造方法および封止型デバイスに関するものである。
【背景技術】
【0002】
2つの部材同士を接合(接着)する際には、従来、エポキシ系接着剤、ウレタン系接着剤、シリコーン系接着剤等の接着剤を用いて行う方法が多く用いられている。
このように接着剤を用いて部材を接着する際には、液状またはペースト状の接着剤を接着面に塗布し、塗布された接着剤を介して部材同士を貼り合わせる。その後、熱または光の作用により接着剤を硬化させることで接着が完了する。
接着剤としては、前述したように有機系材料からなる接着剤が一般的であるが、このような接着剤はそれ自体が通気性を有しているため、気密性を必要とする箇所の接着は困難である。
【0003】
一方、接着剤を用いない接合方法として、陽極接合等の固体接合が知られている。陽極接合は、ガラス製の部材とシリコン製の部材とを重ね合わせ、加熱しつつ両者に電圧を印加すると、接触界面に共有結合が生じ、直接接合する方法である。
特許文献1には、内部に水晶振動子素子を収容しつつ、ベース基板と蓋体とを陽極接合することにより、内部を気密封止してなる水晶振動子(封止型デバイス)が開示されている。
【0004】
しかしながら、陽極接合では、その接合原理から接合可能な材質に制約がある。具体的には、接合の際にアルカリ金属イオン等の部材内で移動するイオンを含んでいる必要があり、しかも、接合に供される2つの部材は共有結合可能な部材に限られる。このため、接合可能な材質は、ガラス材料とシリコン材料等の組み合わせに限られる。
また、固体接合では、2つの部材の各接合面のうち、互いに接触している面全体が接合するため、一部を選択的に接合することは困難である。このため、異種材料からなる部材同士を接合した場合、部材間の熱膨張率差に伴って接合界面に大きな応力が発生し、反りや剥離、気密破壊等の問題を引き起こすおそれがある。
【0005】
一方、特許文献2では、プラズマ重合法により形成された接合膜を用いて部材同士を接合する方法が提案されている。
この接合膜は、それ自体が通気性を有しないため、気密性を維持しつつ接合することができる。しかしながら、接合が必要な箇所にのみ選択的に接合膜を形成するためには、接合膜をパターニングする技術が必要となる。パターニング技術としてよく知られているのは、フォトリソグラフィー技術とエッチング技術とを用いて接合膜の不要部分を除去する技術であるが、接合膜を付着させたくない領域にまで成膜されるという問題がある。例えば、前述した水晶振動子の場合、水晶振動子素子を搭載する領域に接合膜が付着するため、素子の特性が変化してしまう。さらには、フォトリソグラフィーを用いる場合、現像工程でアルカリ溶液を用いる必要があるが、プラズマ重合膜はアルカリ溶液の耐性が弱く、エッチングの際に接合膜の特性が劣化し、膜自体の気密性が損なわれるおそれがある。
【0006】
また、特許文献3には、内部に閉空間を形成する第1の構造体と第2の構造体とをシロキサン(Si−O)骨格と、シロキサン骨格に結合する脱離基とを含む接合膜で接合した構造が提案されており、閉空間の蓋体となる第1の構造体の全面に接合膜を形成している。しかしながら、閉空間の蓋体全面に接合膜を形成すると、閉空間の内部に収納されている電子デバイスに蓋体から欠落した接合膜が付着し、素子の特性に悪影響を与えてしまう可能性がある。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0007】
【特許文献1】特開2008−252805号公報
【特許文献2】特開2008−307873号公報
【特許文献3】特開2009−131911号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
また、パターニング技術としては、成膜する領域に対応した窓部を有するマスクを介して成膜することにより、選択的に接合膜を成膜する技術が知られている。
図10は、従来の封止型デバイスの製造方法を説明するための分解斜視図である。
図10に示す封止型デバイス9は、凹部90を有する箱状の容器91と、容器91の開口部に重ねられることにより、凹部90を閉空間とする蓋体92と、凹部90内に収納される素子93とを有している。
【0009】
このような封止型デバイスを製造する際には、まず、凹部90内に素子93を収納した後、容器91の上面に枠状の接合膜を成膜する必要がある。この場合、枠状の窓部を有するマスクを介して接合膜を成膜すればよいが、枠状の窓部を形成すると、窓部の内側部分が脱落することになるため、マスクの窓部の少なくとも1箇所に外枠部との連結部を形成する必要がある。しかしながら、マスクの連結部の位置にあたる凹部90の部分はプラズマ重合膜が成膜されないため封止した際に気密性が保てない問題がある。このため、凹部90内に接合膜を付着させないようにして、容器91の上面に枠状の接合膜を選択的に成膜するのが困難であった。
本発明の目的は、接合される部材の材質によらず、閉空間に収納したデバイスを簡単かつ確実に気密封止することができる封止型デバイスの製造方法、およびかかる封止型デバイスの製造方法により製造された信頼性の高い封止型デバイスを提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0010】
上記目的は、下記の本発明により達成される。
本発明の封止型デバイスの製造方法は、互いの接合面を重ね合わせることにより、内部に閉空間を形成し得る第1の部材および第2の部材を用意する第1の工程と、
前記閉空間になり得る位置にデバイスを載置する第2の工程と、
シロキサン(Si−O)結合を含む原子構造と、該シロキサン結合に結合し有機基からなる脱離基と、を含む接合膜を用いて前記第1の部材の前記接合面に第1の接合膜を成膜するとともに、前記第2の部材の前記接合面に前記接合膜を用いて第2の接合膜を成膜する第3の工程と、
前記第1の接合膜および前記第2の接合膜にエネルギーを付与することにより、前記脱離基を前記シロキサン結合から脱離させ、前記接合膜に接着性を発現させる第4の工程と、
前記互いの接合面が対向するように、前記第1の部材と前記第2の部材とを重ね合わせることにより、前記デバイスが収納された前記閉空間を気密封止し、封止型デバイスを得る第5の工程とを有し、
前記第1の接合膜の成膜パターンと、前記第2の接合膜の成膜パターンとが、互いに異なっており、かつ、それぞれの成膜パターンの合成パターンが閉じた枠状を形成するよう構成されていることを特徴とする。
これにより、接合される部材の材質によらず、閉空間に収納したデバイスを簡単かつ確実に気密封止することができる。
【0011】
本発明の封止型デバイスの製造方法は、互いの接合面を重ね合わせることにより、内部に閉空間を形成し得る第1の部材および第2の部材を用意する第1の工程と、
前記閉空間になり得る位置にデバイスを載置する第2の工程と、
シロキサン(Si−O)結合を含む原子構造と、該シロキサン結合に結合し、有機基からなる脱離基とを含む接合膜を用いて、前記第1の部材の前記接合面に第1の接合膜を成膜するとともに、前記第2の部材の前記接合面に前記接合膜を用いて第2の接合膜を成膜する第3の工程と、
前記互いの接合面が対向するように、前記第1の部材と前記第2の部材とを重ね合わせることにより、前記閉空間に前記デバイスを収納した仮接合体を得る第4の工程と、
前記仮接合体にエネルギーを付与し、前記脱離基を前記シロキサン結合から脱離させることにより、前記接合膜に接着性を発現させ、前記閉空間を気密封止し、封止型デバイスを得る第5の工程とを有し、
前記第1の接合膜の成膜パターンと、前記第2の接合膜の成膜パターンとが、互いに異なっており、かつ、それぞれの成膜パターンの合成パターンが閉じた枠状を形成するよう構成されていることを特徴とする。
これにより、接合される部材の材質によらず、閉空間に収納したデバイスを簡単かつ確実に気密封止することができる。
【0012】
本発明の封止型デバイスの製造方法では、前記互いの接合面が対向するように、前記第1の部材と前記第2の部材とを重ね合わせたとき、前記第1の接合膜の成膜パターンおよび前記第2の接合膜の成膜パターンは、少なくとも前記第1の接合膜と前記第2の接合膜との接続部近傍において重複するよう設定されることが好ましい。
これにより、仮に第1の接合膜や第2の接合膜の成膜位置がずれたり、第1の部材と第2の部材とを重ね合わせる際の位置がずれたりしても、重複部分において位置ずれを吸収することができるので、閉空間の気密性が損なわれるのを防止することができる。その結果、製造工程における各種のバラツキの許容範囲を広げることができ、製造効率を高めることができる。
【0013】
本発明の封止型デバイスの製造方法では、前記第1の接合膜および前記第2の接合膜は、それぞれ、成膜すべき領域に対応する互いに異なる形状の窓部を有するマスクを介して成膜され、
前記第1の接合膜の成膜に用いられる前記マスクは、前記接合面のうちの前記閉空間に対応する領域を遮蔽する第1の遮蔽部と、前記第1の遮蔽部と前記窓部を介して離間して設けられ、前記第1の遮蔽部の外側を遮蔽する第2の遮蔽部と、前記第1の遮蔽部と前記第2の遮蔽部とを部分的に連結する連結部とを有するものであり、
前記第2の接合膜の成膜に用いられる前記マスクは、前記連結部を包含する形状の窓部を有するものであることが好ましい。
【0014】
これにより、第1の接合膜および第2の接合膜は、その縁部において、外側に向かうにつれて膜厚が漸減する形状となる。このため、これらの接合膜を一体化させたときには、重複部分において膜厚の差により生じる段差が緩和されることになる。その結果、互いの接合面を重ね合わせたときに、段差に伴って接合界面に隙間が生じることが防止され、閉空間をより高度に気密封止することができる。また、第1の接合膜の成膜に用いられるマスクは、閉空間への成膜を確実に遮蔽するとともに、接合面について選択的な成膜を可能にする。また、第2の接合膜の成膜に用いられるマスクは、第1の接合膜の非成膜領域を確実に補完するように成膜されることとなり、第1の接合膜と第2の接合膜とを一体化してなる接合膜は、完全に閉じた枠状の膜となり、閉空間を確実に気密封止し得るものとなる。
【0015】
本発明の封止型デバイスの製造方法では、前記接合膜は、Si−H結合を含んでいることが好ましい。
Si−H結合は、シロキサン結合の生成が規則的に行われるのを阻害すると考えられる。このため、シロキサン結合は、Si−H結合を避けるように形成されることとなり、Si骨格の規則性が低下する。このようにして、第1の接合膜中および第2の接合膜中にSi−H結合が含まれることにより、結晶化度の低いSi骨格を効率よく形成することができる。
【0016】
本発明の封止型デバイスの製造方法では、前記接合膜は、プラズマ重合法により形成されることが好ましい。
これにより、緻密で均質な第1の接合膜および第2の接合膜を効率よく作製することができる。また、プラズマ重合法で作製された第1の接合膜および第2の接合膜では、エネルギーが付与されて活性化された状態が比較的長時間にわたって維持される。このため、封止型デバイスの製造過程の簡素化、効率化を図ることができる。
【0017】
本発明の封止型デバイスの製造方法では、前記エネルギーの付与は、前記接合膜をプラズマに曝す方法、および前記接合膜にエネルギー線を照射する方法の少なくとも一方により行われることが好ましい。
これにより、各接合膜を効率よく活性化させることができる。また、各接合膜中の結合を必要以上に切断しないので、各接合膜の特性が低下してしまうのを避けることができる。
【0018】
本発明の封止型デバイスは、互いの接合面を重ね合わせることにより、内部に閉空間を形成し得る第1の部材および第2の部材と、
前記互いの接合面の間に設けられ、シロキサン(Si−O)結合を含む原子構造と、該シロキサン結合に結合し有機基からなる脱離基と、を含み、前記互いの接合面の間を接合するとともに、気密封止する接合膜とを有し、
前記接合膜は、前記第1の部材の前記接合面に成膜された第1の接合膜および前記第2の部材の前記接合面に成膜された第2の接合膜の、少なくとも一部の領域にエネルギーを付与することにより、前記脱離基が前記シロキサン結合から脱離し、前記領域に発現した接着性によって一体化してなるものであり、
前記第1の接合膜の成膜パターンと、前記第2の接合膜の成膜パターンとは、互いに異なっており、かつ、それぞれの合成パターンが閉じた枠状を形成するよう構成されていることを特徴とする。
これにより、信頼性の高い封止型デバイスが得られる。
【図面の簡単な説明】
【0019】
【図1】本発明の封止型デバイスの製造方法により製造される封止型デバイス(本発明の封止型デバイス)を適用した水晶振動子の構成を示す平面図および断面図である。
【図2】図1に示す水晶振動子の分解斜視図である。
【図3】図1に示す水晶振動子に用いられる接合膜のエネルギー付与前の状態を示す部分拡大図である。
【図4】図1に示す水晶振動子に用いられる接合膜のエネルギー付与後の状態を示す部分拡大図である。
【図5】本発明の封止型デバイスの製造方法において用いられるプラズマ重合装置を模式的に示す断面図である。
【図6】接合膜を作製する方法を説明するための断面図および平面図である。
【図7】マスクの構成を示す平面図である。
【図8】本発明の封止型デバイスの製造方法(水晶振動子の製造方法)の第1実施形態を説明するための断面図である。
【図9】本発明の封止型デバイスの製造方法(水晶振動子の製造方法)の第2実施形態を説明するための断面図である。
【図10】従来の封止型デバイスの製造方法を説明するための分解斜視図である。
【発明を実施するための形態】
【0020】
以下、本発明の封止型デバイスの製造方法および封止型デバイスを、添付図面に示す好適実施形態に基づいて詳細に説明する。
<第1実施形態>
まず、本発明の封止型デバイスの製造方法の第1実施形態について説明する。なお、ここでは、封止型デバイスとして水晶振動子を例に説明する。
【0021】
図1は、本発明の封止型デバイスの製造方法により製造される封止型デバイス(本発明の封止型デバイス)を適用した水晶振動子の内部構成を示す平面図および断面図、図2は、図1に示す水晶振動子の分解斜視図、図3は、図1に示す水晶振動子に用いられる接合膜のエネルギー付与前の状態を示す部分拡大図、図4は、図1に示す水晶振動子に用いられる接合膜のエネルギー付与後の状態を示す部分拡大図である。なお、以下の説明では、図1(b)、図2〜4中の上側を「上」、下側を「下」という。
【0022】
(封止型デバイス)
図1に示す水晶振動子(封止型デバイス)1は、有底箱状をなし、内側に凹部22を有するケース(第1の部材)2と、ケース2の上方に設けられ、凹部22の開口部を覆うことにより、凹部22を閉塞する蓋体(第2の部材)4と、凹部22内に設けられた水晶振動片5とを有する。そして、ケース2と蓋体4との間は、接合膜3により接合されている。これにより、ケース2と蓋体4との間は気密封止され、凹部22は閉空間となる。
【0023】
ここで、水晶振動片5には、図示しない電気配線が設けられており、この電気配線はケース2の外表面に設けられた図示しない電極パッドと導通している。これにより、水晶振動片5にはケース2の外部から電圧を印加し得るようになっている。
水晶振動片5に電圧を印加すると、水晶の逆圧電効果により、ある一定の周波数(共鳴周波数)で水晶振動片5を振動させることができる。また、水晶振動片5が振動すると、今度は水晶の圧電効果により、ある一定の周波数で電極パッドに電圧が生じる。これらの性質を利用して、水晶振動子1は、共鳴周波数で振動する電気信号を発生させる電子部品として利用される。
【0024】
ところで、水晶振動子1の凹部22内は、通常、減圧下または不活性ガス雰囲気下に維持される。これは、水晶振動片5の振動抵抗を減少させる(減圧下の場合)とともに、水晶振動片5や凹部22内に設けられた電気配線等の変質・劣化を防止するためである。よって、ケース2と蓋体4との接合部には、減圧状態または不活性ガス充填状態を長期にわたって維持するための高度な気密性(または液密性)が要求される。
【0025】
図1に示す水晶振動子1では、このような接合部の気密性が接合膜3により確保されている。接合膜3は、シロキサン(Si−O)結合を含む原子構造と、このシロキサン骨格に結合する脱離基とを含むものである。このような接合膜3は、それ自体が高密度で通気性が低く、ケース2や蓋体4に対して強固に密着するものであるため、極めて高度な気密性を維持することができる。
【0026】
以下、図1に示す水晶振動子1の各部について詳述する。
ケース2は、図1(a)の平面図に示すように、平面視にて長方形をなしており、その内側には平面視で長方形をなす凹部22を有している。また、ケース2は、図1(b)の断面図に示すように、凹部22の側面を囲うように設けられた側壁23と、凹部22の下方に設けられた底部24とで構成されている。
【0027】
底部24の上面のうち、左端近傍は部分的に高くなっており、水晶振動片5を支持する支持部21となっている。
このようなケース2は、絶縁性を有する材料で構成されており、その材料としては、例えば、各種ガラス材料、各種セラミックス材料、各種シリコン材料、各種樹脂材料等が挙げられる。なお、ケース2が絶縁性を必要としない場合は、各種金属材料、各種炭素材料等であってもよい。
【0028】
水晶振動片5は、平板状をなしており、その左端が支持部21上に固定されている。水晶振動片5は、この固定部のみで固定されており、それ以外の部分は、凹部22の空間内に浮いた状態で保持されている。水晶振動片5の構成材料は、水晶に限らず、圧電材料であればよい。圧電材料としては、例えば、水晶、タンタル酸リチウム、ニオブ酸リチウム、ホウ酸リチウム、チタン酸バリウム等が挙げられる。
【0029】
水晶振動片5と支持部21との間は、マウント材6により固定されている。マウント材6の構成材料としては、例えば、エポキシ系、シリコーン系のような各種接着剤、各種ハンダ、各種ろう材等が挙げられる。
ケース2の側壁23上に設けられた蓋体4の構成材料としては、いかなる材料をも用いられるが、ケース2と同様の材料や、各種金属材料等が挙げられる。
【0030】
ケース2と蓋体4との接合は、ケース2の側壁23の上面である接合面231と、蓋体4の下面の縁部である接合面401との間でなされており、この間に設けられた、平面視で四角形の枠状をなす接合膜3が担っている。この接合膜3は、図2の分解斜視図に示すように、ケース2の側壁23の接合面231に成膜された第1の接合膜31と、蓋体4の接合面401に成膜された第2の接合膜32とからなり、これらが一体化してなるものである。
【0031】
第1の接合膜31および第2の接合膜32は、それぞれ前述したように、エネルギーを付与することにより接着性が発現するという特徴を有するものである。第1の接合膜31と第2の接合膜32は、同様の成分を含むものであるため、ここでは、第1の接合膜31について代表に説明する。
第1の接合膜31は、図3に示すように、シロキサン(Si−O)結合302を含み、ランダムな(または結晶性が低い)原子構造(アモルファス構造)を有するSi骨格301と、このSi骨格301に結合する脱離基303とを有するものである。このような第1の接合膜31は、シロキサン結合302を含みランダムな原子構造を有するSi骨格301の影響によって、変形し難い強固な膜となる。これは、Si骨格301の結晶性が低くなる(非晶質化する)ため、結晶粒界における転位やズレ等の欠陥が生じ難いためであると考えられる。このため、第1の接合膜31自体が接合強度、耐薬品性、耐光性および寸法精度の高いものとなり、最終的に得られる水晶振動子1においても、接合強度、耐薬品性、耐光性および寸法精度が高いものが得られる。
【0032】
第1の接合膜31にエネルギーが付与されると、脱離基303がSi骨格301から脱離し、図4に示すように、第1の接合膜31の表面35および内部に、活性手304が生じる。これにより、第1の接合膜31表面には接着性が発現する。かかる接着性が発現すると、第1の接合膜31は、蓋体4の接合面401に対して強固に接合可能なものとなる。
【0033】
なお、脱離基303とSi骨格301との結合エネルギーは、Si骨格301中のシロキサン結合302の結合エネルギーよりも小さい場合が多い。これは、シロキサン結合302の結合エネルギーが、約430kJ/molと他の結合種に比べてもかなり大きいからであり、したがって、第1の接合膜31にエネルギーが付与されると、Si骨格301の破壊を招くことなく、脱離基303とSi骨格301との結合を選択的に切断し、脱離基303を脱離させることができる。
【0034】
また、このような第1の接合膜31は、比較的無機材料に近い構造を有していることなどから、流動性を有しない固体状のものとなる。このため、従来の流動性を有する液状または粘液状の接着剤に比べて、接着層(第1の接合膜31)の厚さや形状がほとんど変化しない。これにより、水晶振動子1の寸法精度は、従来に比べて格段に高いものとなる。さらに、接着剤の硬化に要する時間が不要になるため、短時間での接合が可能となる。
【0035】
なお、第1の接合膜31においては、特に第1の接合膜31を構成する全原子からH原子を除いた原子のうち、Si原子の含有率とO原子の含有率の合計が、10原子%以上90原子%以下程度であるのが好ましく、20原子%以上80原子%以下程度であるのがより好ましい。Si原子とO原子とが、前記範囲の含有率で含まれていれば、第1の接合膜31はSi原子とO原子とが強固なネットワークを形成し、膜自体がより強固なものとなる。このような第1の接合膜31は、蓋体4に対して、特に高い接合強度を示すものとなる。
【0036】
また、第1の接合膜31中のSi原子とO原子の存在比は、3:7以上7:3以下程度であるのが好ましく、4:6以上6:4以下程度であるのがより好ましい。Si原子とO原子の存在比を前記範囲内になるよう設定することにより、第1の接合膜31の安定性が高くなり、蓋体4に対してより強固に接合することができるようになる。
また、第1の接合膜31中のSi骨格301の結晶化度は、45%以下であるのが好ましく、40%以下であるのがより好ましい。これにより、Si骨格301は十分にランダムな原子構造を含むものとなり、より非晶質的な特性を示す。このため、前述したSi骨格301の特性が顕在化し、第1の接合膜31の寸法精度および接着性がより優れたものとなる。また、膜自体の機械的強度および密度も向上することから、通気性をより低下させることができる。これにより、第1の接合膜31による気密封止がより高度化される。
【0037】
なお、Si骨格301の結晶化度は、一般的な結晶化度測定方法により測定することができ、具体的には、結晶部分における散乱X線の強度に基づいて測定する方法(X線法)、赤外線吸収の結晶化バンドの強度から求める方法(赤外線法)、核磁気共鳴吸収の微分曲線の下の面積に基づいて求める方法(核磁気共鳴吸収法)、結晶部分には化学試薬が浸透し難いことを利用した化学的方法等により測定することができる。
このうち、簡便性等の観点からX線法が好ましく用いられる。
【0038】
また、Si骨格301の結晶化度を測定する際には、第1の接合膜31に対して上述の測定方法を適用すればよいが、あらかじめ第1の接合膜31に前処理を施しておくのが好ましい。この前処理としては、後述する第1の接合膜31にエネルギーを付与する処理(例えば、紫外線照射処理等)が挙げられる。エネルギーの付与により、第1の接合膜31中の脱離基303が脱離し、Si骨格301の結晶化度をより正確に測定することが可能になる。
【0039】
また、第1の接合膜31は、その構造中にSi−H結合を含んでいるのが好ましい。このSi−H結合は、例えばプラズマ重合法によってシランが重合反応する際に重合物中に生じ、シロキサン結合の生成が規則的に行われるのを阻害すると考えられる。このため、シロキサン結合は、Si−H結合を避けるように形成されることとなり、Si骨格301の原子構造の規則性が低下する。このような理由から、Si−H結合を含む第1の接合膜31は、より結晶化度の低い膜となる。
【0040】
一方、第1の接合膜31中のSi−H結合の含有率が多ければ多いほど結晶化度が低くなるわけではない。具体的には、第1の接合膜31についての赤外光吸収スペクトルにおいて、シロキサン結合に帰属するピークの強度を1としたとき、Si−H結合に帰属するピークの強度は、0.001以上0.2以下程度であるのが好ましく、0.002以上0.05以下程度であるのがより好ましく、0.005以上0.02以下程度であるのがさらに好ましい。Si−H結合のシロキサン結合に対する割合が前記範囲内であることにより、第1の接合膜31中の原子構造は、相対的に最もランダムなものとなる。このため、第1の接合膜31は、接合強度、耐薬品性および寸法精度において特に優れたものとなる。
【0041】
このような第1の接合膜31は、いかなる方法で作製されたものであってもよく、プラズマ重合法、CVD法(特にプラズマCVD法)、PVD法のような各種気相成膜法や、各種液相成膜法等により作製することができる。これらの中でも、プラズマ重合法によれば、緻密で均質な第1の接合膜31を効率よく作製することができる。また、プラズマ重合法で作製された第1の接合膜31では、エネルギーが付与されて活性化された状態が比較的長時間にわたって維持される。このため、水晶振動子1の製造過程の簡素化、効率化を図ることができる。
【0042】
ところで、Si骨格301に結合する脱離基303は、前述したように、Si骨格301から脱離することによって、第1の接合膜31に活性手を生じさせるよう振る舞うものである。したがって、脱離基303には、エネルギーを付与されることによって、比較的簡単に、かつ均一に脱離するものの、エネルギーが付与されないときには、脱離しないようSi骨格301に確実に結合しているものである必要がある。
【0043】
なお、プラズマ重合法による成膜の際には、原料ガスの成分が重合して、シロキサン結合を含むSi骨格301と、それに結合した残基とを生成するが、例えばこの残基が脱離基303となり得る。また、その他の成膜法においても、原料に含まれた残基が脱離基303となり得る。
脱離基303には、Si骨格301に結合可能でかつ脱離可能な原子団であれば、特に限定されないが、H原子、B原子、C原子、N原子、O原子、P原子、S原子およびハロゲン系原子、またはこれらの各原子を含み、これらの各原子がSi骨格301に結合するよう配置された原子団からなる群から選択される少なくとも1種で構成されたものが好ましく用いられる。これらの脱離基303は、エネルギーの付与による結合/脱離の選択性に比較的優れている。このため、上記のような必要性を十分に満足するものとなり、第1の接合膜31の接着性をより高度なものとすることができる。
【0044】
なお、上記のような各原子がSi骨格301に結合するよう配置された原子団(基)としては、例えば、メチル基、エチル基のようなアルキル基、ビニル基、アリル基のようなアルケニル基、アルデヒド基、ケトン基、カルボキシル基、アミノ基、アミド基、ニトロ基、ハロゲン化アルキル基、メルカプト基、スルホン酸基、シアノ基、イソシアネート基等が挙げられる。
【0045】
これらの各基の中でも、脱離基303は、特に有機基であるのが好ましく、アルキル基であるのがより好ましい。有機基およびアルキル基は化学的な安定性が高いため、有機基およびアルキル基を含む第1の接合膜31は、耐候性および耐薬品性に優れたものとなる。
ここで、脱離基303が特にメチル基(−CH)である場合、その好ましい含有率は、赤外光吸収スペクトルにおけるピーク強度から以下のように規定される。
【0046】
すなわち、第1の接合膜31の赤外光吸収スペクトルにおいて、シロキサン結合に帰属するピークの強度を1としたとき、メチル基に帰属するピークの強度は、0.05以上0.45以下程度であるのが好ましく、0.1以上0.4以下程度であるのがより好ましく、0.2以上0.3以下程度であるのがさらに好ましい。メチル基のピーク強度がシロキサン結合のピーク強度に対する割合が前記範囲内であることにより、メチル基がシロキサン結合の生成を必要以上に阻害するのを防止しつつ、第1の接合膜31中に必要かつ十分な数の活性手が生じるため、第1の接合膜31に十分な接着性が生じる。また、第1の接合膜31には、メチル基に起因する十分な耐候性および耐薬品性が発現する。
【0047】
このような特徴を有する第1の接合膜31の構成材料としては、例えば、ポリオルガノシロキサンのような、シロキサン結合とそれに結合した脱離基303となり得る有機基とを含む重合物等が挙げられる。
ポリオルガノシロキサンで構成された第1の接合膜31は、それ自体が優れた機械的特性を有している。また、多くの材料に対して特に優れた接着性を示すものである。したがって、ポリオルガノシロキサンで構成された第1の接合膜31は、ケース2に対して特に強固に被着するとともに、蓋体4に対しても特に強い被着力を示し、その結果として、ケース2と蓋体4とを強固に接合することができる。
【0048】
また、ポリオルガノシロキサンは、通常、撥水性(非接着性)を示すが、エネルギーを付与されることにより、容易に有機基を脱離させることができ、親水性に変化し、接着性を発現するが、この非接着性と接着性との制御を容易かつ確実に行えるという利点を有する。
なお、この撥水性(非接着性)は、主に、ポリオルガノシロキサン中に含まれた有機基(例えばアルキル基)による作用である。したがって、ポリオルガノシロキサンで構成された第1の接合膜31は、エネルギーを付与されることにより、表面35に接着性が発現するとともに、表面35以外の部分においては、前述した有機基による作用・効果が得られるという利点も有する。したがって、このような第1の接合膜31は、耐候性および耐薬品性に優れたものとなり、例えば、薬品類等に長期にわたって曝されるような水晶振動子(封止型デバイス)1の組み立てに際して、特に有効である。
【0049】
また、ポリオルガノシロキサンの中でも、特に、オクタメチルトリシロキサンの重合物を主成分とするものが好ましい。オクタメチルトリシロキサンの重合物を主成分とする第1の接合膜31は、接着性に特に優れるものである。また、オクタメチルトリシロキサンを主成分とする原料は、常温で液状をなし、適度な粘度を有するため、取り扱いが容易であるという利点もある。
【0050】
このような第1の接合膜31の平均厚さは、1nm以上1000nm以下程度であるのが好ましく、2nm以上800nm以下程度であるのがより好ましい。第1の接合膜31の平均厚さを前記範囲内とすることにより、水晶振動子1の寸法精度が著しく低下するのを防止しつつ、ケース2と蓋体4とをより強固に接合することができる。
なお、第1の接合膜31の平均厚さが前記下限値を下回った場合は、十分な接合強度が得られないおそれがある。一方、第1の接合膜31の平均厚さが前記上限値を上回った場合は、水晶振動子1の寸法精度が低下するおそれがある。
【0051】
さらに、第1の接合膜31の平均厚さが前記範囲内であれば、第1の接合膜31にある程度の形状追従性が付与される。このため、例えば、ケース2の接合面231(第1の接合膜31を成膜する面)に凹凸が存在している場合でも、その凹凸の高さにもよるが、凹凸の形状に追従するように第1の接合膜31を成膜することができる。その結果、第1の接合膜31は、凹凸を吸収して、その表面に生じる凹凸の高さを緩和することができる。また、その反対に、蓋体4の接合面401に凹凸が存在している場合にも、第1の接合膜31によって凹凸を吸収することができる。その結果、第1の接合膜31を介した接合面231と接合面401とを密着性を高めることができる。
なお、上記のような形状追従性の程度は、第1の接合膜31の厚さが厚いほど顕著になる。したがって、形状追従性を十分に確保するためには、第1の接合膜31の厚さをできるだけ厚くすればよい。
【0052】
(封止型デバイスの製造方法)
次に、図1に示す水晶振動子1の製造方法(本発明の封止型デバイスの製造方法)について、図5〜8を参照しつつ説明する。
図5は、本発明の封止型デバイスの製造方法において用いられるプラズマ重合装置を模式的に示す断面図、図6は、接合膜を作製する方法を説明するための断面図および平面図、図7は、マスクの構成を示す平面図、図8は、本発明の封止型デバイスの製造方法(水晶振動子の製造方法)の第1実施形態を説明するための断面図である。
【0053】
本実施形態に係る水晶振動子1の製造方法は、ケース(第1の部材)2と蓋体(第2の部材)4とを用意する第1の工程と、凹部22内に水晶振動片5を収納する第2の工程と、ケース2の側壁23の接合面231に第1の接合膜31を成膜するとともに、蓋体4の接合面401に第2の接合膜32を成膜する第3の工程と、第1の接合膜31および第2の接合膜32にそれぞれエネルギーを付与することにより、第1の接合膜31および第2の接合膜32に接着性を発現させる第4の工程と、接合面231と接合面401とが対向するように、ケース2と蓋体4とを重ね合わせることにより、凹部22を気密封止し、水晶振動子1を得る第5の工程とを有する。
【0054】
以下、各工程について順次説明する。
[1]まず、ケース2と蓋体4とを用意する(第1の工程)。
[2]次に、ケース2の凹部22内に水晶振動片5を収納する(第2の工程)。そして、水晶振動片5とケース2の支持部21とをマウント材6により固定する(図6(a)参照)。
[3]次いで、ケース2の側壁23の接合面231に第1の接合膜31を成膜するとともに、蓋体4の接合面401に第2の接合膜32を成膜する(第3の工程)。
【0055】
[3−1]プラズマ重合装置の装置構成
以下、第1の接合膜31および第2の接合膜32の成膜方法について説明するが、ここでは、一例として、プラズマ重合法により第1の接合膜31および第2の接合膜32を作製する方法について説明する。
まず、第1の接合膜31および第2の接合膜32の作製方法に先立って、プラズマ重合装置について説明する。
【0056】
図5に示すプラズマ重合装置100は、チャンバー101と、ケース2または蓋体4を支持する第1の電極130と、第2の電極140と、各電極130、140間に高周波電圧を印加する電源回路180と、チャンバー101内にガスを供給するガス供給部190と、チャンバー101内のガスを排気するポンプ170とを備えている。これらの各部のうち、第1の電極130および第2の電極140がチャンバー101内に設けられている。以下、各部について詳細に説明する。
【0057】
チャンバー101は、内部の気密を保持し得る容器であり、内部を減圧(真空)状態にして使用されるため、内部と外部との圧力差に耐え得る耐圧性能を有するものとされる。
図5に示すチャンバー101は、軸線が水平方向に沿って配置されたほぼ円筒形をなすチャンバー本体と、チャンバー本体の左側開口部を封止する円形の側壁と、右側開口部を封止する円形の側壁とで構成されている。
【0058】
チャンバー101の上方には供給口103が、下方には排気口104が、それぞれ設けられている。そして、供給口103にはガス供給部190が接続され、排気口104にはポンプ170が接続されている。
なお、本実施形態では、チャンバー101は、導電性の高い金属材料で構成されており、接地線102を介して電気的に接地されている。
【0059】
第1の電極130は板状をなしており、ケース2または蓋体4を支持している。
この第1の電極130は、チャンバー101の側壁の内壁面に、鉛直方向に沿って設けられており、これにより、第1の電極130は、チャンバー101を介して電気的に接地されている。なお、第1の電極130は、図5に示すように、チャンバー本体と同心状に設けられている。
【0060】
第1の電極130のケース2または蓋体4を支持する面には、静電チャック(吸着機構)139が設けられている。
この静電チャック139により、図5に示すように、ケース2または蓋体4を鉛直方向に沿って支持することができる。また、ケース2または蓋体4に多少の反りがあっても、静電チャック139に吸着させることにより、その反りを矯正した状態でケース2または蓋体4をプラズマ処理に供することができる。
【0061】
第2の電極140は、ケース2または蓋体4を介して、第1の電極130と対向して設けられている。なお、第2の電極140は、チャンバー101の側壁の内壁面から離間した(絶縁された)状態で設けられている。
この第2の電極140には、配線184を介して高周波電源182が接続されている。また、配線184の途中には、マッチングボックス(整合器)183が設けられている。これらの配線184、高周波電源182およびマッチングボックス183により、電源回路180が構成されている。
【0062】
このような電源回路180によれば、第1の電極130は接地されているので、第1の電極130と第2の電極140との間に高周波電圧が印加される。これにより、第1の電極130と第2の電極140との間隙には、高い周波数で向きが反転する電界が誘起される。
ガス供給部190は、チャンバー101内に所定のガスを供給するものである。
【0063】
図5に示すガス供給部190は、液状の膜材料(原料液)を貯留する貯液部191と、液状の膜材料を気化してガス状に変化させる気化装置192と、キャリアガスを貯留するガスボンベ193とを有している。また、これらの各部とチャンバー101の供給口103とが、それぞれ配管194で接続されており、ガス状の膜材料(原料ガス)とキャリアガスとの混合ガスを、供給口103からチャンバー101内に供給するように構成されている。
【0064】
貯液部191に貯留される液状の膜材料は、プラズマ重合装置100により、重合してケース2または蓋体4の表面に重合膜を形成する原材料となるものである。
このような液状の膜材料は、気化装置192により気化され、ガス状の膜材料(原料ガス)となってチャンバー101内に供給される。なお、原料ガスについては、後に詳述する。
【0065】
ガスボンベ193に貯留されるキャリアガスは、電界の作用により放電し、およびこの放電を維持するために導入するガスである。このようなキャリアガスとしては、例えば、Arガス、Heガス等が挙げられる。
また、チャンバー101内の供給口103の近傍には、拡散板195が設けられている。
拡散板195は、チャンバー101内に供給される混合ガスの拡散を促進する機能を有する。これにより、混合ガスは、チャンバー101内に、ほぼ均一の濃度で分散することができる。
【0066】
ポンプ170は、チャンバー101内を排気するものであり、例えば、油回転ポンプ、ターボ分子ポンプ等で構成される。このようにチャンバー101内を排気して減圧することにより、ガスを容易にプラズマ化することができる。また、大気雰囲気との接触によるケース2または蓋体4の汚染・酸化等を防止するとともに、プラズマ処理による反応生成物をチャンバー101内から効果的に除去することができる。
また、排気口104には、チャンバー101内の圧力を調整する圧力制御機構171が設けられている。これにより、チャンバー101内の圧力が、ガス供給部190の動作状況に応じて、適宜設定される。
【0067】
[3−2]プラズマ重合装置による成膜
次に、上記のプラズマ重合装置100を用いて、ケース2の接合面231に第1の接合膜31を成膜する方法、および、蓋体4の接合面401に第2の接合膜32を成膜する方法について説明する。
第1の接合膜31および第2の接合膜32は、強電界中に、原料ガスとキャリアガスとの混合ガスを供給することにより、原料ガス中の分子を重合させ、重合物を接合面231上および接合面401上に堆積させることにより得ることができる。以下、詳細に説明する。
【0068】
まず、図6(b)に示すように、ケース2の接合面231に第1の接合膜31を選択的に成膜するため、接合面231上にマスク36を配置する。マスク36は、接合面231の平面視形状に対応する形状の窓部361を有している。
また、同様に、蓋体4の接合面401に第2の接合膜32を選択的に成膜するため、接合面401上にマスク37を配置する。マスク37は、接合面401の平面視形状に対応する形状の窓部371を有している。
【0069】
次に、図6(b)に示すように、マスク36およびマスク37を介して、プラズマ重合膜を成膜する。これにより、ケース2のうち、接合面231に選択的に成膜され、第1の接合膜31を得ることができる。また同様に、蓋体4のうち、接合面401に選択的に成膜され、第2の接合膜32を得ることができる(図6(c)参照)。このようにしてマスク36、37を介して第1の接合膜31および第2の接合膜32を成膜することにより、接合膜の形成領域を容易に選択する(パターニングする)ことができる。このようにして、各接合面231、401の全面において接合するのではなく、各接合膜31、32の成膜パターンを適宜選択することにより、接合領域の最適化がなされ、接合後の接合界面に生じる応力集中を緩和することができる。
【0070】
ところで、接合膜をパターニングする方法としては、従来、フォトリソグラフィー技術とエッチング技術とを用いて接合膜の不要部分を除去する方法が知られていたが、この方法では、一旦広い範囲に接合膜を成膜した後、不要部分を除去するというプロセスを経るため、接合膜を付着させたくない領域にまで成膜されるという問題があった。このため、例えば、ケース2の接合面231にのみ接合膜を形成する場合、水晶振動片5を収納する凹部22内にも接合膜が付着することとなり、水晶振動子1の特性が変化してしまう。加えて、エッチングの際に、除去すべきでない領域の接合膜までも侵されてしまい、接合膜自体の気密性が損なわれるおそれがあった。
【0071】
これに対し、本実施形態に係る上記の方法によれば、凹部22をマスク36、37で遮蔽しつつ接合膜を成膜するため、凹部22内への成膜が防止される。その結果、特性バラツキの少ない水晶振動子1を製造することができる。
ここで、図6(d)には、第1の接合膜31の成膜パターンと第2の接合膜32の成膜パターンとを平面図として示しているが、第1の接合膜31の成膜パターンは、四隅が欠損した枠状をなすパターンであり、一方、第2の接合膜32の成膜パターンは、第1の接合膜31が欠損した個所に対応して配置された、三角形をなす島状のパターンである。
【0072】
第1の接合膜31の成膜パターンおよび第2の接合膜32の成膜パターンは、その平面視形状が、ケース2と蓋体4とを重ね合わせたときに、それぞれ互いの非成膜領域を補完する関係になるよう構成されている。これにより、第1の接合膜31の成膜パターンと第2の接合膜32の成膜パターンとの合成パターンは、完全に閉じた枠状をなすパターンとなる。その結果、第1の接合膜31と第2の接合膜32とを一体化してなる接合膜3は、凹部22の周囲を隙間なく囲うこととなり、凹部22を気密封止することができる。
【0073】
かかる観点から、第1の接合膜31の成膜パターンを規定するマスク36の窓部361の形状、および、第2の接合膜32の成膜パターンを規定するマスク37の窓部371の形状も、上記関係を満足するように設定される。
すなわち、本発明では、第1の接合膜31の成膜パターンと第2の接合膜32の成膜パターンとが異なるパターンになっていることにより、両者の合成パターンでもって、完全に閉じた枠状をなすパターンを実現すれば足りることから、それぞれの接合膜31、32の成膜パターンを、比較的単純なパターンにすることができる。このため、マスク36、37の設計、製造が容易になり、水晶振動子1の製造容易性を高めることができる。なお、各接合膜31、32は、上述したようなシロキサン結合と脱離基とを主とする組成になっているので、エネルギーの付与により、これらが隙間なく一体化することができる。これにより、各接合膜31、32を一体化したとしても、接続部における通気性は抑制され、気密性の高い接合膜3が得られる。
【0074】
また、接合膜3は、互いに異なる成膜パターンの第1の接合膜31と第2の接合膜32とで構成されているので、製造工程で成膜パターンに異物が付着して断線する可能性を低減することができる。
なお、本明細書において「成膜パターンが異なる」とは、成膜する領域の形状および位置のいずれかが異なっていることを指す。したがって、例えば成膜する領域の形状が同じであっても成膜する位置が異なっていれば、成膜パターンが異なっていることになる。
【0075】
図7は、マスク36およびマスク37の構成を示す平面図である。
図7(a)に示すマスク36は、平面視にて四角形をなしており、その中央部には、ケース2の凹部22に対応する領域を遮蔽する第1の遮蔽部362が配置されている。また、第1の遮蔽部362の外側には、窓部361を介して、ケース2の接合面231の外側領域を遮蔽する第2の遮蔽部363が配置されている。なお、第1の遮蔽部362は、平面視にて略四角形をなしており、第2の遮蔽部363は、四角の枠状をなしている。そして、第1の遮蔽部362と第2の遮蔽部363との間は、四角形の四隅に対応して設けられた4つの連結部364を介して連結されている。このようなマスク36は、凹部22への成膜を確実に遮蔽するとともに、接合面231について選択的な成膜を可能にする。
【0076】
一方、図7(b)に示すマスク37も、平面視にて四角形をなしており、その四隅近傍には、それぞれが三角形をなす4つの窓部371が配置されている。4つの窓部371の配置は、前述した4つの連結部364の配置に対応しており、4つの連結部364を包含するよう構成されている。これにより、第2の接合膜32は、第1の接合膜31の非成膜領域を確実に補完するように成膜されることとなる。その結果、第1の接合膜31と第2の接合膜32とを一体化してなる接合膜3は、完全に閉じた枠状の膜になり、凹部22を確実に気密封止し得るものとなる。
【0077】
また、第1の接合膜31の成膜パターンと第2の接合膜32の成膜パターンとは、少なくとも第1の接合膜31と第2の接合膜32との接続部近傍において重複しているのが好ましい。これにより、仮にマスク36やマスク37の位置がずれたり、ケース2と蓋体4とを重ね合わせる位置がずれたりしても、重複部分において位置ずれを吸収し、凹部22の気密性が損なわれるのを防止することができる。すなわち、製造工程における各種のバラツキの許容範囲を広げることができるので、製造効率を高めることができる。
【0078】
なお、マスク36は、図6(b)に示すようにケース2の接合面231から離間して配置されてもよく、接合面231に接するように配置されてもよい。いずれにしても、マスク36と接合面231との間には、隙間が生じてしまうため、この隙間にはプラズマ重合による重合物が侵入し、堆積する。このため、第1の接合膜31の縁部では、外側に向かうにつれて膜厚が漸減するような形状となる。
【0079】
同様にマスク37も、図6(b)に示すように蓋体4の接合面401から離間して配置されてもよく、接合面401に接するように配置されてもよい。この場合でも、マスク37と接合面401との間には、やはり隙間が生じてしまうため、この隙間には重合物が侵入し、堆積する。このため、第2の接合膜32の縁部では、外側に向かうにつれて膜厚が漸減するような形状となる。
【0080】
第1の接合膜31の形状および第2の接合膜32の形状が前記のようになると、これらが一体化したときに、重複部分において膜厚の差により生じる段差が緩和されることとなる。これにより、ケース2と蓋体4とを重ね合わせたときに、段差に伴って接合界面に隙間が生じることが防止され、凹部22をより高度に気密封止することができる。
また、マスク36、37の構成材料としては、例えば、メタルマスクのような各種金属材料、シリコンマスクのような各種半導体材料、各種樹脂材料、各種セラミックス材料、各種ガラス材料等が挙げられる。
【0081】
次いで、マスク36、37を配置した状態で、チャンバー101を封止し、ポンプ170の作動により、チャンバー101内を減圧状態とする。
次に、ガス供給部190を作動させ、チャンバー101内に原料ガスとキャリアガスの混合ガスを供給する。供給された混合ガスは、チャンバー101内に充填される。
ここで、混合ガス中における原料ガスの占める割合(混合比)は、原料ガスやキャリアガスの種類や目的とする成膜速度等によって若干異なるが、例えば、混合ガス中の原料ガスの割合を20体積%以上70体積%以下程度に設定するのが好ましく、30体積%以上60体積%以下程度に設定するのがより好ましい。これにより、重合膜の形成(成膜)の条件の最適化を図ることができる。
【0082】
また、供給するガスの流量は、ガスの種類や目的とする成膜速度、膜厚等によって適宜決定され、特に限定されるものではないが、通常は、原料ガスおよびキャリアガスの流量を、それぞれ、1ccm以上100ccm以下程度に設定するのが好ましく、10ccm以上60ccm以下程度に設定するのがより好ましい。
次いで、電源回路180を作動させ、一対の電極130、140間に高周波電圧を印加する。これにより、一対の電極130、140間に存在するガスの分子が電離し、プラズマが発生する。このプラズマのエネルギーにより原料ガス中の分子が重合し、重合物がマスク36、37の窓部361、371を通過して接合面231、401に付着・堆積する。これにより、プラズマ重合膜からなる第1の接合膜31および第2の接合膜32が形成される。
【0083】
また、プラズマの作用により、接合面231、401が活性化・清浄化される。このため、原料ガスの重合物が接合面231、401に堆積し易くなり、第1の接合膜31および第2の接合膜32の安定した成膜が可能になる。このようにプラズマ重合法によれば、ケース2や蓋体4の構成材料によらず、第1の接合膜31および第2の接合膜32を確実に成膜することができる。
【0084】
原料ガスとしては、例えば、メチルシロキサン、オクタメチルトリシロキサン、デカメチルテトラシロキサン、デカメチルシクロペンタシロキサン、オクタメチルシクロテトラシロキサン、メチルフェニルシロキサンのようなオルガノシロキサン等が挙げられる。
このような原料ガスを用いて得られるプラズマ重合膜は、これらの原料が重合してなるもの(重合物)、すなわちポリオルガノシロキサンで構成されることとなる。
【0085】
プラズマ重合の際、一対の電極130、140間に印加する高周波の周波数は、特に限定されないが、1kHz以上100MHz以下程度であるのが好ましく、10MHz以上60MHz以下程度であるのがより好ましい。
また、高周波の出力密度は、特に限定されないが、0.01W/cm以上100W/cm以下程度であるのが好ましく、0.05W/cm以上50W/cm以下程度であるのがより好ましく、0.05W/cm以上1W/cm以下程度であるのがさらに好ましい。高周波の出力密度を前記範囲内とすることにより、高周波の出力密度が高過ぎて原料ガスに必要以上のプラズマエネルギーが付加されるのを防止しつつ、ランダムな原子構造を有するSi骨格301を確実に形成することができる。すなわち、高周波の出力密度が前記下限値を下回った場合、原料ガス中の分子に重合反応を生じさせることができず、第1の接合膜31および第2の接合膜32を形成することができないおそれがある。一方、高周波の出力密度が前記上限値を上回った場合、原料ガスが分解する等して、脱離基303となり得る構造がSi骨格301から分離してしまい、得られる第1の接合膜31および第2の接合膜32において脱離基303の含有率が低くなったり、Si骨格301のランダム性が低下する(規則性が高くなる)おそれがある。
【0086】
また、成膜時のチャンバー101内の圧力は、133.3×10−5Pa以上1333Pa以下(1×10−5Torr以上10Torr以下)程度であるのが好ましく、133.3×10−4Pa以上133.3Pa以下(1×10−4Torr以上1Torr以下)程度であるのがより好ましい。
原料ガス流量は、0.5sccm以上200sccm以下程度であるのが好ましく、1sccm以上100sccm以下程度であるのがより好ましい。一方、キャリアガス流量は、5sccm以上750sccm以下程度であるのが好ましく、10sccm以上500sccm以下程度であるのがより好ましい。
【0087】
処理時間は、1分以上30分以下程度であるのが好ましく、1分以上15分以下程度であるのがより好ましい。
また、基材の温度は、25℃以上であるのが好ましく、25℃以上100℃以下程度であるのがより好ましい。
以上のようにして、第1の接合膜31および第2の接合膜32が得られる。
【0088】
なお、接合面231、401には、第1の接合膜31および第2の接合膜32の成膜に先立って、これらの密着力を高める表面処理が施されているのが好ましい。
かかる表面処理としては、例えば、酸素プラズマ、窒素プラズマ等を用いたプラズマ処理、コロナ放電処理、エッチング処理、電子線照射処理、紫外線照射処理、オゾン暴露処理のような化学的表面処理、または、これらを組み合わせた処理等が挙げられる。このような処理を施すことにより、接合面231、401の上面を清浄化するとともに、活性化させることができる。その結果、各接合面231、401と各接合膜31、32との密着強度をより高めることができる。
【0089】
また、表面処理の有無によらず、接合面231、401は、例えば、水酸基、チオール基、カルボキシル基、アミノ基、ニトロ基、イミダゾール基のような各種官能基、各種ラジカル、開環分子または、2重結合、3重結合のような不飽和結合を有する脱離性中間体分子、F、Cl、Br、Iのようなハロゲン、過酸化物からなる群から選択される少なくとも1つの基や物質、または、これらの基が脱離してなる終端化されていない結合手(未結合手、ダングリングボンド)を有しているのが好ましい。これにより、各接合面231、401と各接合膜31、32との密着強度をより高めることができる。
このうち、脱離性中間体分子は、開環分子または不飽和結合を有する炭化水素分子であるのが好ましい。このような炭化水素分子は、開環分子および不飽和結合の顕著な反応性に基づき、各接合膜31、32に対して強固に作用し、密着強度をさらに高めることができる。
【0090】
[4]次いで、第1の接合膜31および第2の接合膜32にエネルギーを付与する(図8(a)参照)。エネルギーを付与すると、各接合膜31、32に接着性が発現する(第4の工程)。
各接合膜31、32にエネルギーを付与する方法としては、いかなる方法であってもよいが、例えば、エネルギー線を照射する方法、加熱する方法、圧縮力(物理的エネルギー)を付与する方法、プラズマに曝す(プラズマエネルギーを付与する)方法、オゾンガスに曝す(化学的エネルギーを付与する)方法等が挙げられる。
【0091】
このうち、エネルギーを付与する方法は、プラズマに曝す方法およびエネルギー線を照射する方法の少なくとも一方であるのが好ましい。かかる方法によれば、各接合膜31、32を効率よく活性化させる。また、この方法によれば、各接合膜31、32中の結合を必要以上に(例えば、ケース2や蓋体4との界面に至るまで)切断しないので、各接合膜31、32の特性が低下してしまうのを避けることができる。
【0092】
プラズマに曝す方法には、大気圧プラズマが好ましく用いられる。大気圧プラズマによれば、減圧手段等の高価な設備を用いることなく、容易にプラズマ処理を行うことができる。また、このプラズマ処理には、各接合膜31、32の近傍でプラズマを発生させるダイレクトプラズマ方式の他、被処理物とプラズマ発生部とが離間したリモートプラズマ方式またはダウンフロープラズマ方式による処理も好ましく用いられる。ダイレクトプラズマ方式によれば、各接合膜31、32の近傍でプラズマを発生させるため、プラズマ処理を効率よくかつ均一に行うことができる。また、リモートプラズマ方式やダウンフロープラズマ方式のように被処理物とプラズマ発生部とが離間している場合、被処理物とプラズマ発生部とが干渉しないため、被処理物(各接合膜31、32)をイオン損傷から避けることができる。
【0093】
一方、エネルギー線としては、例えば、紫外光、レーザー光のような光、電子線、粒子線等が挙げられる。
このうち、エネルギー線には、特に紫外線(例えば波長126nm以上300nm以下程度)を用いるのが好ましい。かかる紫外線によれば、各接合膜31、32の特性の著しい低下を防止しつつ、広い範囲をムラなく、より短時間に処理することができる。このため、各接合膜31、32の活性化をより効率よく行うことができる。また、紫外線には、紫外ランプ等の簡単な設備で発生させることができるという利点もある。
【0094】
なお、紫外線の波長は、より好ましくは、160nm以上200nm以下程度とされる。
また、紫外線を照射する時間は、各接合膜31、32の表面付近の化学結合を切断し得る程度の時間であればよく、特に限定されないが、0.5分以上30分以下程度であるのが好ましく、1分以上10分以下程度であるのがより好ましい。
【0095】
なお、各接合膜31、32の全面ではなく、一部の領域に対してエネルギー線を照射するようにしてもよい。この場合、レーザー光、電子線のような指向性の高いエネルギー線であれば、目的の方向に向けて照射することにより、所定領域のみに向けて簡単にエネルギー線を照射することができる。
このようにしてエネルギーが付与され、活性化された各接合膜31、32には、終端化されていない結合手(ダングリングボンド)や、この結合手に周囲の水分が接触してなる水酸基(OH基)等が露出する。なお、前述の「活性化させる」とは、各接合膜31、32の表面付近および内部の結合が切断されて、終端化されていない結合手が生じた状態や、その結合手に水酸基が結合した状態のいずれか一方、または、これらの状態が混在した状態のことをいう。
【0096】
また、各接合膜31、32が接合される相手となる各接合面231、401は、水酸基(OH基)が結合している状態になっているのが好ましい。このような状態になっていると、各接合面231、401と各接合膜31、32との接合強度が向上することとなり、水晶振動子1の気密性がより高くなる。なお、かかる効果は、以下のような現象によるものと推察される。
【0097】
次工程において、第1の接合膜31とこれに対向する接合面401とを接触させたとき、あるいは、第2の接合膜32とこれに対向する接合面231とを接触させたとき、各接合面231、401に存在する水酸基と、各接合膜31、32に存在する水酸基とが、水素結合によって互いに引き合い、水酸基同士の間に引力が発生する。
また、この水素結合によって互いに引き合う水酸基同士は、温度条件等によって、脱水縮合する。その結果、各接合膜31、32と各接合面231、401との接触界面では、脱離したOH基が結合していた結合手同士が酸素原子を介して結合する。これにより、各接合膜31、32と各接合面231、401とがより強固に接合される。
【0098】
なお、各接合面231、401に水酸基が結合している状態を形成するためには、例えば、各接合面231、401に酸素プラズマ等のプラズマ処理を施す方法、エッチング処理を施す方法、電子線を照射する方法、紫外光を照射する方法、オゾンに曝す方法、またはこれらを組み合わせた方法等が用いられる。このような方法によれば、各接合面231、401の表面を清浄化するとともに、表面付近の結合の一部を切断して、表面を活性化することができる。このような状態の表面には、周囲の水分が接触することにより、水酸基(OH基)が自然に結合する。このようにして、水酸基が結合している状態を形成することができる。
【0099】
また、ケース2や蓋体4の構成材料によっては、上記のような処理を施さなくても、各接合面231、401に水酸基が結合しているものもある。かかる構成材料としては、例えば、ステンレス鋼、アルミニウムのような各種金属材料、シリコン、石英ガラスのようなシリコン系材料、アルミナのような酸化物系セラミックス材料(無機系材料)等が挙げられる。なお、ケース2および蓋体4は、その全体が上記のような材料で構成されていなくてもよく、少なくとも表面付近が上記のような材料で構成されていればよい。
【0100】
このような材料で構成されたケース2や蓋体4では、各接合面231、401近傍が酸化膜で覆われており、この酸化膜の表面には、水酸基が結合している。したがって、上記処理を施さなくても、ケース2と蓋体4とを強固に接合することができる。
また、ケース2や蓋体4の表面および内部には、終端化されていない活性な結合手(ダングリングボンド)が含まれていてもよい。さらに、水酸基とダングリングボンドとが混在した状態であってもよい。ケース2や蓋体4の表面および内部にダングリングボンドが含まれていると、各接合膜31、32の表面に露出したダングリングボンドとの間で、ネットワーク状に構築された共有結合に由来するより強固な接合がなされる。その結果、ケース2と蓋体4とをより強固に接合することができる。
【0101】
なお、エネルギーが付与された活性化された各接合膜31、32の表面は、その活性状態が経時的に緩和してしまう。このため、各接合膜31、32は、エネルギーの付与後、できるだけ早く被着体と積層されるのが好ましい。具体的には、エネルギーの付与後、60分以内に積層するのが好ましく、5分以内に積層されるのがより好ましい。かかる時間内であれば、各接合膜31、32の表面が十分な活性状態を維持しているので、貼り合せたときに十分な接合強度を得ることができる。
【0102】
換言すれば、活性化させる前の各接合膜31、32は、化学的に安定であり、耐候性に優れている。このため、活性化させる前の各接合膜31、32は、長期にわたる保存に適したものである。したがって、一度に多量の各接合膜31、32を成膜して保管しておき、被着体との積層を行う直前にエネルギーを付与するようにすれば、水晶振動子1の製造効率の観点から有効である。
【0103】
ところで、従来のシリコン直接接合、オプティカルコンタクトのような固体接合では、表面を活性化させても、その活性状態は、大気中では数秒以上数十秒以下程度の極めて短時間しか維持されない。このため、表面の活性化を行った後、接合する2つの部材を貼り合わせる等の作業を行う時間を十分に確保することができないという問題があった。
これに対し、本発明によれば、エネルギーを付与した後でも数分以上の比較的長時間にわたってその活性状態を維持することができる。このため、作業に要する時間を十分に確保することができ、接合作業の効率化を図ることができる。
【0104】
[5]次に、図8(b)に示すように、接合面231と接合面401とが対向するように、ケース2と蓋体4とを重ね合わせる。これにより、第1の接合膜31と第2の接合膜32とが一体化して接合膜3が得られるとともに、この接合膜3によりケース2と蓋体4とが接合される。その結果、凹部22が気密封止され、図8(c)に示す水晶振動子1が得られる(第5の工程)。
ここで、凹部22は気密封止されて閉空間となるが、この際には、周囲の環境が閉空間内に閉じ込められることとなる。水晶振動子1のような封止型デバイスは、前述したように閉空間の環境がデバイスの信頼性に大きな影響を及ぼすことから、本工程における周囲の環境は重要となる。
【0105】
具体的には、本工程における周囲の環境は、減圧雰囲気、不活性ガス雰囲気とされるのが好ましい。これにより、閉空間内は不活性な環境となり、デバイスの変質・劣化を長期にわたって防止することができる。さらに減圧した場合、水晶振動片5等の可動デバイスの動作における抵抗が抑制されるため、可動の精度が向上する。その結果、特性に優れた水晶振動子1が得られる。
なお、水晶振動子1を得た後、必要に応じて、以下の2つの工程[6A]、[6B]のうちのいずれか一方または双方を行うようにしてもよい。
【0106】
[6A]得られた水晶振動子1を、ケース2と蓋体4とが互いに近づく方向に加圧する。これにより、各接合面231、401に各接合膜31、32がより接近し、水晶振動子1における接合強度をより高めることができる。
このとき、水晶振動子1を加圧する際の圧力はできるだけ高い方が好ましい。これにより、この圧力に応じて水晶振動子1における接合強度を高めることができる。
【0107】
なお、この圧力は、ケース2や蓋体4の構成材料や厚さ、接合装置等の条件に応じて、適宜調整すればよい。具体的には、1MPa以上10MPa以下程度であるのが好ましく、1MPa以上5MPa以下程度であるのがより好ましい。
また、加圧する時間は、特に限定されないが、10秒以上30分以下程度であるのが好ましい。
【0108】
[6B]得られた水晶振動子1を加熱する。これにより、水晶振動子1における接合強度をより高めることができる。
このとき、水晶振動子1を加熱する際の温度は、室温より高く、水晶振動子1の耐熱温度未満であれば、特に限定されないが、好ましくは25℃以上100℃以下程度とされ、より好ましくは50℃以上100℃以下程度とされる。かかる範囲の温度で加熱すれば、水晶振動子1が熱によって変質・劣化するのを防止しつつ、接合強度を確実に高めることができる。
【0109】
また、加熱時間は、特に限定されないが、1分以上30分以下程度であるのが好ましい。
また、前記工程[6A]、[6B]の双方を行う場合、これらを同時に行うのが好ましい。すなわち、水晶振動子1を加圧しつつ、加熱するのが好ましい。これにより、加圧による効果と、加熱による効果とが相乗的に発揮され、水晶振動子1の接合強度を特に高めることができる。
【0110】
なお、ケース2と蓋体4の熱膨張率がほぼ等しい場合には、上記のようにして水晶振動子1を加熱するのが好ましいが、2つの被着体の熱膨張率が大きく異なっている場合には、できるだけ低温下で接合を行うのが好ましい。接合を低温下で行うことにより、接合界面に発生する熱応力のさらなる低減を図ることができる。
具体的には、熱膨張率差にもよるが、25℃以上50℃以下程度で加熱するのが好ましく、25℃以上40℃以下程度で加熱するのがより好ましい。このような温度範囲であれば、熱膨張率差がある程度大きくても(例えば、5×10−5/K以上)、接合界面に発生する熱応力を十分に低減することができる。その結果、水晶振動子1における反りや剥離等の発生を確実に防止することができる。
【0111】
以上のような工程[6A]、[6B]を行うことにより、水晶振動子1における接合強度のさらなる向上を図ることができる。
このようにして作製された水晶振動子1は、各接合膜31、32が接合強度、耐薬品性および寸法精度に優れていることから、そのような特性を有するものとなる。
特に、水晶振動子1は、従来の接合方法で用いられていた接着剤のように、アンカー効果のような物理的結合に基づく接着ではなく、共有結合のように短時間で起こる強固な化学的結合に基づいて接合している。このため、水晶振動子1は、極めて剥離し難く、接合ムラ等も生じ難いものとなる。
【0112】
また、従来の固体接合のように、高温(700℃以上800℃以下程度)での熱処理を必要としないことから、耐熱性の低い材料で構成された被着体をも、接合に供することができる。これにより、ケース2や蓋体4の構成材料の制約がなくなり、材料選択の幅を広げることができる。
また、本発明では、前述したように、第1の接合膜31の成膜パターンと第2の接合膜32の成膜パターンとの合成パターンでもって、完全に閉じた枠状をなすパターンを実現すれば足りることから、それぞれの接合膜31、32の成膜パターンは、比較的単純なパターンにすることができる。このため、各接合膜31、32の膜厚や組成の均一性、エネルギー付与の均一性が向上し、接合強度および気密性に優れた水晶振動子1を製造することができる。
【0113】
また、得られた水晶振動子1は、気密性および液密性に優れたものとなるが、これは、各接合膜31、32がそれ自体高密度で通気性の低いものであり、また接合メカニズムも前述したような化学結合に基づくものであるため、原子、分子の通過も制限するためである。得られた閉空間の気密性は、ヘリウムガスを用いたリーク量(リークレート)で、1×10−9Pa・m/sec以下となることが期待できる。このようなリーク量であれば、長期にわたって閉空間の気密性を維持することができる。その結果、内部の閉空間を減圧状態または不活性ガスで置換した状態を長期にわたって維持可能な、信頼性の高い水晶振動子1が得られる。
また、水晶振動子1におけるケース2と蓋体4との接合強度は、5MPa(50kgf/cm)以上であるのが好ましく、10MPa(100kgf/cm)以上であるのがより好ましい。このような接合強度であれば、接合界面の剥離および気密破壊が確実に防止され、信頼性の高い水晶振動子1が得られる。
【0114】
<第2実施形態>
次に、本発明の封止型デバイスの製造方法の第2実施形態について説明する。なお、ここでは、封止型デバイスとして水晶振動子を例に説明する。
図9は、本発明の封止型デバイスの製造方法(水晶振動子の製造方法)の第2実施形態を説明するための断面図である。
【0115】
以下、第2実施形態について説明するが、前記第1実施形態との相違点を中心に説明し、同様の事項については、その説明を省略する。なお、本実施形態において、第1実施形態と同様の構成部分については、先に説明した構成部分と同様の符号を付し、その詳細な説明を省略する。
本実施形態では、エネルギーを付与する前に、ケース2と蓋体4とを重ね合わせ、その後にエネルギーを付与するようにした以外は、前記第1実施形態と同様である。
【0116】
本実施形態に係る水晶振動子1の製造方法は、ケース(第1の部材)2と蓋体(第2の部材)4とを用意する第1の工程と、凹部22内に水晶振動片5を収納する第2の工程と、ケース2の側壁23の接合面231に第1の接合膜31を成膜するとともに、蓋体4の接合面401に第2の接合膜32を成膜する第3の工程と、接合面231と接合面401とが対向するように、ケース2と蓋体4とを重ね合わせることにより、仮接合体10を得る第4の工程と、仮接合体10にエネルギーを付与することにより、第1の接合膜31および第2の接合膜32に接着性を発現させ、凹部22を気密封止して水晶振動子1を得る第5の工程とを有する。
【0117】
以下、各工程について順次説明する。
まず、第1実施形態と同様にして、第1の接合膜31および第2の接合膜32を成膜する。
次いで、図9(a)に示すように、接合面231と接合面401とが対向するように、ケース2と蓋体4とを重ね合わせる。これにより、図9(b)に示す仮接合体10が得られる(第4の工程)。この仮接合体10における各接合膜31、32には、この段階では接着性が発現していないので、仮接合体10においてケース2または蓋体4をずらすことにより、相対位置を微調整することができる。
【0118】
次いで、図9(c)に示すように、仮接合体10にエネルギーを付与する。これにより、各接合膜31、32に接着性が発現し、これらの接合膜が一体化して接合膜3が形成される(第5の工程)。
仮接合体10にエネルギーを付与する方法としては、第1実施形態における方法と同様の方法が用いられるが、ここでは、図9(c)に矢印で示すように圧縮力を付与する方法について説明する。
【0119】
また、仮接合体10に付与される圧縮力は、0.2MPa以上10MPa以下程度であるのが好ましく、1MPa以上5MPa以下程度であるのがより好ましい。これにより、各接合膜31、32において、その接着性を必要かつ十分に発現させることができる。なお、この圧力が前記上限値を上回っても構わないが、ケース2や蓋体4の各構成材料によっては損傷等が生じるおそれがある。
【0120】
また、加圧する時間は、特に限定されないが、10秒以上30分以下程度であるのが好ましい。なお、加圧する時間は、加圧する際の圧力に応じて適宜変更すればよい。具体的には、仮接合体10を加圧する際の圧力が高いほど、加圧する時間を短くしても、十分な接着性を発現させることができる。
なお、仮接合体10の圧縮は、いかなる雰囲気中で行うようにしてもよいが、大気雰囲気中で行われるのが好ましい。これにより、雰囲気を制御することに手間やコストをかける必要がなくなり、活性化処理をより簡単に行うことができる。
【0121】
エネルギーが付与されると、第1の接合膜31と第2の接合膜32とが一体化し、接合膜3が得られる。この接合膜3により、ケース2と蓋体4とが接合されるとともに、凹部22が気密封止され、水晶振動子1が得られる。
以上のような第2実施形態においても、第1実施形態と同様の作用・効果が得られる。
以上、本発明の封止型デバイスの製造方法および封止型デバイスを図示の実施形態に基づいて説明したが、本発明はこれらに限定されるものではない。
【0122】
例えば、水晶振動子のうち、ケースと接合膜との間、および、蓋体と接合膜との間には、任意の層が付加されていてもよい。このような層としては、層間の密着強度を高める中間層、層間のクッション性を高める中間層、応力集中を緩和する機能を有する中間層等が挙げられる。
また、本発明の封止型デバイスの製造方法では、前記実施形態の構成に限定されず、任意の目的の工程が1または2以上追加されていてもよい。さらに、各工程の順序は、前記実施形態の構成に限定されず、例えば、第1実施形態では、接合膜の成膜後またはエネルギーの付与後に、デバイスを収納するようにしてもよく、第2実施形態では、接合膜の成膜後にデバイスを収納するようにしてもよい。
【0123】
なお、上記各実施形態では、封止型デバイスの例として水晶振動子を挙げたが、本発明はこの他に、あらゆる封止型デバイスに適用することができる。封止型デバイスは、気密封止を必要とする接合部を有するデバイスであるが、例えば、圧電アクチュエータ、圧電振動子、弾性表面波素子(SAWデバイス)等の圧電デバイス、蛍光灯、放電ランプ、発光ダイオード、半導体レーザーのような発光素子、フォトダイオードのような受光素子、液晶表示素子、有機EL素子、無機EL素子、プラズマディスプレイ、電気泳動表示素子のような表示素子、電荷結合素子(CCD)、相補型金属酸化物半導体(CMOS)のような撮像素子、加速度センサー、角速度センサー、圧力センサーのような各種センサー、波長可変フィルター、バイオセンサーのようなMEMS(Micro Electro Mechanical Systems)、光コネクター、光変調器のような光通信デバイス、ICパッケージのような半導体素子、IDタグ、ICカードのような記録媒体、腕時計、被収納物として任意の気体や液体を封入する医療器具等が挙げられる。
【実施例】
【0124】
次に、本発明の具体的実施例について説明する。
1.水晶振動子(封止型デバイス)の製造
(実施例1)
まず、図2に示すような、アルミナ製のケース、OA10ガラス製の蓋体、および水晶振動片を用意した。
次いで、ケース内に水晶振動片を収納するとともに、ケースの側壁の接合面および蓋体の接合面にそれぞれ酸素プラズマ処理を施した。
次に、各接合面に、図7に示すマスクを介して平均厚さ200nmのプラズマ重合膜を成膜した。なお、成膜条件は以下に示す通りである。
【0125】
<成膜条件>
・原料ガスの組成 :オクタメチルトリシロキサン
・原料ガスの流量 :30sccm
・キャリアガスの組成:アルゴン
・キャリアガスの流量:30sccm
・高周波電力の出力 :250W
・高周波出力密度 :0.5W/cm
・チャンバー内圧力 :5Pa(低真空)
・処理時間 :3分
・基板温度 :60℃
これにより、各接合面上にプラズマ重合膜を成膜した。
【0126】
このようにして成膜されたプラズマ重合膜は、オクタメチルトリシロキサン(原料ガス)の重合物で構成されており、シロキサン結合を含み、ランダムな原子構造を有するSi骨格と、アルキル基(脱離基)とを含むものであった。また、Si骨格の結晶化度を測定するため、プラズマ重合膜の一部に波長405nmの紫外線を600秒間照射した後、X線回折法により結晶化度を測定した。その結果、プラズマ重合膜の結晶化度は30%以下であった。
次に、得られた各プラズマ重合膜に以下に示す条件でプラズマ処理を施した。
【0127】
<プラズマ処理条件>
・プラズマ処理方式:ダイレクトプラズマ方式
・処理ガスの組成 :ヘリウムガス
・雰囲気圧力 :大気圧(100kPa)
・電極間距離 :1mm
・印加電圧 :1kVp−p
・電圧周波数 :40MHz
【0128】
次に、プラズマ処理を施してから1分後に、接合面同士が対向するように、ケースと蓋体とを重ね合わせた。これにより、ケースと蓋体とを接合し、水晶振動子を得た。なお、この重ね合わせの作業は、減圧雰囲気下で行った。
次いで、得られた水晶振動子を5MPaで圧縮した。
(実施例2)
エネルギー付与の工程と、ケースと蓋体とを重ね合わせる工程とを入れ替えた以外は、前記実施例1と同様にして水晶振動子を得た。
【0129】
(比較例1)
ケースと蓋体との間をエポキシ系接着剤で接着した以外は、前記実施例1と同様にして水晶振動子を得た。なお、エポキシ系接着剤の平均厚さは、200μmとした。
(比較例2)
まず、水晶製のケースと、ガラス製の蓋体とを用意した。そして、ケースと蓋体との間を陽極接合により接合した以外は、前記実施例1と同様にして水晶振動子を得た。
(比較例3)
マスクを用いることなく、接合膜を成膜するようにした以外は、前記実施例1と同様にして水晶振動子を得た。
【0130】
2.水晶振動子(封止型デバイス)の評価
2.1 接合強度の評価
各実施例および各比較例で得られた水晶振動子について、それぞれ接合強度を測定した。
接合強度の測定は、各接合体において第1の被着体と第2の被着体とを強制的に引き剥がしたとき、剥がれる直前の引っ張り力を測定することにより行った。また、接合強度の測定は、接合直後と、接合後に−40℃から125℃の温度サイクルを50回繰り返した後のそれぞれにおいて行った。
【0131】
その結果、各実施例で得られた水晶振動子および比較例3で得られた水晶振動子では、接合直後および温度サイクル後のいずれにおいても、十分な接合強度(10MPa以上)を有していた。
一方、各比較例で得られた水晶振動子のうち、比較例1、2については接合強度が非常に小さく測定できなかった。
【0132】
2.2 リーク量の評価
各実施例および各比較例で得られた水晶振動子について、それぞれリーク量を測定した。
リーク量の測定は、リークディテクターを用いて真空法により行った。また、プローブガスとしてはヘリウムガスを用いた。
【0133】
また、リーク量の測定は、接合直後と2.1の温度サイクル後のそれぞれにおいて行った。
その結果、各実施例で得られた水晶振動子では、接合直後および温度サイクル後のいずれにおいても、リーク量は1×10−9Pa・m/sec未満であった。
一方、各比較例で得られた水晶振動子のうち、比較例1、2についてはリーク量が多過ぎて測定できなかった。また、比較例3については、接合直後はリーク量が1×10−9Pa・m/sec未満であったが、温度サイクル後は、若干の悪化が認められた。
以上の評価結果から、各実施例で得られた水晶振動子は、温度サイクルを経ても、接合強度および気密性に優れたものであることが明らかとなった。
【0134】
2.3 発振特性の評価
各実施例および各比較例で得られた水晶振動子について、それぞれの2.1の温度サイクル後における発振特性を評価した。
その結果、各実施例で得られた水晶振動子の特性は、いずれも設計時に想定した特性範囲内であった。
これに対し、各比較例で得られた水晶振動子の特性は、いずれも設計時に想定した特性範囲から外れていた。
【符号の説明】
【0135】
1……水晶振動子 10……仮接合体 2……ケース 21……支持部 22……凹部 23……側壁 231……接合面 24……底部 3……接合膜 31……第1の接合膜 32……第2の接合膜 301……Si骨格 302……シロキサン結合 303……脱離基 304……活性手 35……表面 36、37……マスク 361、371……窓部 362……第1の遮蔽部 363……第2の遮蔽部 364……連結部 4……蓋体 401……接合面 5……水晶振動片 6……マウント材 100……プラズマ重合装置 101……チャンバー 102……接地線 103……供給口 104……排気口 130……第1の電極 139……静電チャック 140……第2の電極 170……ポンプ 171……圧力制御機構 180……電源回路 182……高周波電源 183……マッチングボックス 184……配線 190……ガス供給部 191……貯液部 192……気化装置 193……ガスボンベ 194……配管 195……拡散板 9……封止型デバイス 90……凹部 91……容器 92……蓋体 93……素子

【特許請求の範囲】
【請求項1】
互いの接合面を重ね合わせることにより、内部に閉空間を形成し得る第1の部材および第2の部材を用意する第1の工程と、
前記閉空間になり得る位置にデバイスを載置する第2の工程と、
シロキサン(Si−O)結合を含む原子構造と、該シロキサン結合に結合し有機基からなる脱離基と、を含む接合膜を用いて前記第1の部材の前記接合面に第1の接合膜を成膜するとともに、前記第2の部材の前記接合面に前記接合膜を用いて第2の接合膜を成膜する第3の工程と、
前記第1の接合膜および前記第2の接合膜にエネルギーを付与することにより、前記脱離基を前記シロキサン結合から脱離させ、前記接合膜に接着性を発現させる第4の工程と、
前記互いの接合面が対向するように、前記第1の部材と前記第2の部材とを重ね合わせることにより、前記デバイスが収納された前記閉空間を気密封止し、封止型デバイスを得る第5の工程とを有し、
前記第1の接合膜の成膜パターンと、前記第2の接合膜の成膜パターンとが、互いに異なっており、かつ、それぞれの成膜パターンの合成パターンが閉じた枠状を形成するよう構成されていることを特徴とする封止型デバイスの製造方法。
【請求項2】
互いの接合面を重ね合わせることにより、内部に閉空間を形成し得る第1の部材および第2の部材を用意する第1の工程と、
前記閉空間になり得る位置にデバイスを載置する第2の工程と、
シロキサン(Si−O)結合を含む原子構造と、該シロキサン結合に結合し、有機基からなる脱離基とを含む接合膜を用いて、前記第1の部材の前記接合面に第1の接合膜を成膜するとともに、前記第2の部材の前記接合面に前記接合膜を用いて第2の接合膜を成膜する第3の工程と、
前記互いの接合面が対向するように、前記第1の部材と前記第2の部材とを重ね合わせることにより、前記閉空間に前記デバイスを収納した仮接合体を得る第4の工程と、
前記仮接合体にエネルギーを付与し、前記脱離基を前記シロキサン結合から脱離させることにより、前記接合膜に接着性を発現させ、前記閉空間を気密封止し、封止型デバイスを得る第5の工程とを有し、
前記第1の接合膜の成膜パターンと、前記第2の接合膜の成膜パターンとが、互いに異なっており、かつ、それぞれの成膜パターンの合成パターンが閉じた枠状を形成するよう構成されていることを特徴とする封止型デバイスの製造方法。
【請求項3】
前記互いの接合面が対向するように、前記第1の部材と前記第2の部材とを重ね合わせたとき、前記第1の接合膜の成膜パターンおよび前記第2の接合膜の成膜パターンは、少なくとも前記第1の接合膜と前記第2の接合膜との接続部近傍において重複するよう設定される請求項1または2に記載の封止型デバイスの製造方法。
【請求項4】
前記第1の接合膜および前記第2の接合膜は、それぞれ、成膜すべき領域に対応する互いに異なる形状の窓部を有するマスクを介して成膜され、
前記第1の接合膜の成膜に用いられる前記マスクは、前記接合面のうちの前記閉空間に対応する領域を遮蔽する第1の遮蔽部と、前記第1の遮蔽部と前記窓部を介して離間して設けられ、前記第1の遮蔽部の外側を遮蔽する第2の遮蔽部と、前記第1の遮蔽部と前記第2の遮蔽部とを部分的に連結する連結部とを有するものであり、
前記第2の接合膜の成膜に用いられる前記マスクは、前記連結部を包含する形状の窓部を有するものである請求項1ないし3のいずれかに記載の封止型デバイスの製造方法。
【請求項5】
前記接合膜は、Si−H結合を含んでいる請求項1ないし4のいずれかに記載の封止型デバイスの製造方法。
【請求項6】
前記接合膜は、プラズマ重合法により形成される請求項1ないし5のいずれかに記載の封止型デバイスの製造方法。
【請求項7】
前記エネルギーの付与は、前記接合膜をプラズマに曝す方法、および前記接合膜にエネルギー線を照射する方法の少なくとも一方により行われる請求項1ないし6のいずれかに記載の封止型デバイスの製造方法。
【請求項8】
互いの接合面を重ね合わせることにより、内部に閉空間を形成し得る第1の部材および第2の部材と、
前記互いの接合面の間に設けられ、シロキサン(Si−O)結合を含む原子構造と、該シロキサン結合に結合し有機基からなる脱離基と、を含み、前記互いの接合面の間を接合するとともに、気密封止する接合膜とを有し、
前記接合膜は、前記第1の部材の前記接合面に成膜された第1の接合膜および前記第2の部材の前記接合面に成膜された第2の接合膜の、少なくとも一部の領域にエネルギーを付与することにより、前記脱離基が前記シロキサン結合から脱離し、前記領域に発現した接着性によって一体化してなるものであり、
前記第1の接合膜の成膜パターンと、前記第2の接合膜の成膜パターンとは、互いに異なっており、かつ、それぞれの合成パターンが閉じた枠状を形成するよう構成されていることを特徴とする封止型デバイス。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【公開番号】特開2011−129587(P2011−129587A)
【公開日】平成23年6月30日(2011.6.30)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−284434(P2009−284434)
【出願日】平成21年12月15日(2009.12.15)
【出願人】(000002369)セイコーエプソン株式会社 (51,324)
【Fターム(参考)】