説明

導電性酸化物とその製造方法

【課題】スパッタリングよる酸化物半導体膜の堆積速度の向上と堆積された酸化物半導体膜のエッチング速度の向上を可能にするターゲットとしての導電性酸化物を提供する。
【解決手段】導電性酸化物は、結晶質InGa2(1−m)Zn1−q7−p(0≦m<1、0≦q<1、0≦p≦3m+q)と結晶質GaZnOとを含む。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は導電性酸化物に関し、特に酸化物半導体膜をスパッタリングで形成するためのターゲットとして好ましい導電性酸化物に関する。
【背景技術】
【0002】
液晶表示装置、薄膜EL(エレクトロルミネッセンス)表示装置、有機EL表示装置などにおいて、薄膜トランジスタ(TFT)のチャネル層として、従来では主として非晶質シリコン膜が使用されてきた。
【0003】
しかし、近年では、そのような半導体膜として、In−Ga−Zn系複合酸化物(IGZO)を主成分とする非晶質酸化物半導体膜が、非晶質シリコン膜に比べてキャリヤの移動度が大きいという利点から注目されている(例えば、特許文献1の特開2008−199005号公報参照)。この特許文献1においては、非晶質酸化物半導体膜が、ターゲットを使用するスパッタリング法によって形成されることが開示されている。そして、そのターゲットは、導電性を示す酸化物粉末の焼結体である。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開2008−199005号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
上述の特許文献1に開示のターゲットを使用するスパッタリング法で酸化物半導体膜を形成する場合には、酸化物焼結体のターゲットに電圧を印加して、希ガスイオンでターゲット表面をスパッタリングすることによって、ターゲットの構成原子が真空槽内で飛び出していく。そして、飛び出した原子はターゲットに対向して配置された基板上に堆積され、これによってIn−Ga−Zn−O膜が形成される。
【0006】
このとき、In−Ga−Zn−O膜の堆積速度が速いほど規定の膜厚に達するまでに要する時間が短くて済むので生産性の観点から望ましく、その堆積速度の向上に対する強い要望が存在している。
【0007】
また、酸化物半導体膜を利用する例えばフラットパネルディスプレイの製造過程などにおいては、酸化物半導体膜を部分的にエッチング除去してパターニングする後工程が含まれることが多く、この工程においてはエッチング速度を高めることも生産性の観点から望まれている。
【0008】
そこで、本発明は、スパッタリング用ターゲットとして好ましく使用され得る導電性酸化物を提供し、そのターゲットを用いることによって、スパッタリングによる酸化物半導体膜の堆積速度の向上と堆積された酸化物半導体膜のエッチング速度の向上を可能にすることを目的としている。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明による導電性酸化物は、結晶質InGa2(1−m)Zn1−q7−p(0≦m<1、0≦q<1、0≦p≦3m+q)と結晶質GaZnOとを含むことを特徴としている。
【0010】
なお、本発明の導電性酸化物に粉末X線回折法を適用した場合に、最大の回折強度を有するaピークの回折2θが33.00°以上36.00°以下の範囲内にあり、かつ第2位の回折強度を有するbピークの回折角2θが29.00°以上30.75°以下の範囲内にあり、そしてaピークに対するbピークの回折強度比Ib/Iaが0.1以上1.0以下であることが好ましい。また、回折角2θが35.0°以上37.0°以下の範囲内においてaピークとは異なるcピークが現れることも好ましい。
【0011】
さらに、導電性酸化物においてZnの原子濃度比を1として規格化した場合に、Inの原子濃度比が1.5以上4以下であり、またはGaの原子濃度比が0.5以上3以下であることが好ましい。導電性酸化物の断面積に占める結晶質GaZnOの割合は、0.5%以上20%未満であることが好ましい。導電性酸化物は、N、Al、Si、Ti、V、Cr、Zr、Nb、Mo、Hf、Ta、W、Sn、およびBiから選ばれた少なくとも1種の元素をさらに含むことも好ましい。本発明による導電性酸化物は、スパッタリング法のターゲットにおいて好ましく用いられ得る。
【0012】
本発明による導電性酸化物を製造するための方法においては、酸化亜鉛粉末と酸化ガリウム粉末を含む第1の混合物を調製し、この第1の混合物を800℃以上1200℃未満の温度で仮焼してGaZnO粒子を作製し、その後にこのGaZnO粒子を酸化インジュウム粒子と混合または粉砕して混合することによって第2の混合物を調製し、この第2の混合物の成形体を作製し、その成形体を1390℃以上1400℃以下の温度で焼結する工程を含むことが好ましい。
【発明の効果】
【0013】
以上のような本発明によれば、スパッタリング用ターゲットとして好ましく使用され得る導電性酸化物を提供でき、そのターゲットを用いることによって、スパッタリングよる酸化物半導体膜の堆積速度の向上と堆積された酸化物半導体膜のエッチング速度の向上が可能となる。
【発明を実施するための形態】
【0014】
以下、本発明の一実施形態について詳細に説明する。上述のように、本発明による導電性酸化物は、結晶質InGa2(1−m)Zn1−q7−p(0≦m<1、0≦q<1、0≦p≦3m+q)と結晶質GaZnOとを含んでいる。
【0015】
ところで、結晶質InGaZnOと結晶質GaZnOは、すでに知られている結晶体である。しかし、本発明による導電性酸化物は、これらの結晶粉末が所定の条件で混合されて改質された焼結体である。
【0016】
より具体的には、本発明による焼結体は、結晶質InGa2(1−m)Zn1−q7−p(0≦m<1、0≦q<1、0≦p≦3m+q)と結晶質GaZnOを含み、0<mおよび0<qであることは堆積速度を高める観点から好ましい。この結晶質InGa2(1−m)Zn1−q7−pは、知られている結晶質InGaZnOに比較して、GaおよびZnが欠損した状態であることを意味している。この欠損にともなって、化学量論比で考えた場合に、酸素原子比が変化して「7」よりも小さい値(すなわち0<p)をとる場合もある。
【0017】
実際の結晶質InGa2(1−m)Zn1−q7−pにおいて、mおよびqの値を直接的に求めることは困難である。本実施形態では、焼結体全体の組成をICP(誘導結合プラズマ)発光分光により求め、同時にX線回折によって結晶相を同定し、それによって結晶質InGa2(1−m)Zn1−q7−pの存在が確認される。
【0018】
より具体的には、ICP分析によって求めたIn:Ga:Znの原子濃度比が2:2:1であるにも拘らず、X線回折によってInGaZnOとGaZnOの存在が確認された場合、InGaZnO中のGaとZnが欠損したInGa2(1−m)Zn1−q7−p(0<m<1、0<q<1、0≦p≦3m+q)がGaZnOとともに存在していると判断される。
【0019】
本発明において、焼結体が結晶質InGa2(1−m)Zn1−q7−pと結晶質GaZnOとを含むときに粉末X線回折法を適用した場合、最大の回折強度を有するaピークの回折角2θが33.00°以上36.00°以下の範囲内にあり、第2位の回折強度を有するbピークの回折角2θが29.00°以上30.75°以下の範囲内にあり、そしてaピークに対するbピークの回折強度比Ib/Iaが0.1以上1.0以下となることが望ましい。
【0020】
粉末X線回折において、結晶質InGaZnOと結晶質GaZnOは、回折角2θが29.00°以上30.75°以下の範囲内において、同じ回折角2θの位置に回折ピークを生じる。他方、結晶質InGaZnOは、回折角2θが33.00°以上36.00°以下の範囲内においても回折ピークを生じる。したがって、結晶質InGaZnOと結晶質GaZnOが共存している場合、結晶質GaZnOの含有量が多くなるにしたがって、回折角2θが33.00°以上36.00°以下の範囲内に生じる回折ピークの強度が相対的に小さくなる。
【0021】
本発明者達は、結晶質InGa2(1−m)Zn1−q7−pと結晶質GaZnOとを含む導電性酸化物をスパッタリングのターゲットとして用いたときに、酸化物半導体膜の堆積速度が大きくなるのは、X線回折において最大の回折強度を有するaピークの回折角2θが33.00°以上36.00°以下の範囲内にあり、かつ第2位の回折強度を有するbピークの回折角2θが29.00°以上30.75°以下の範囲内にあり、そしてaピークに対するbピークの回折強度比Ib/Iaが0.1以上1.0以下の場合であることを見出した。なお、回折強度比Ib/Iaは0.8以上1.0以下であることがより好ましい。
【0022】
また、本発明による導電性酸化物では、回折角2θが35.0°以上37.0°以下の範囲内において、aピークとは異なるcピークが生じる。このcピークは結晶質GaZnOに起因しており、結晶質GaZnOを含む本発明の導電性酸化物をスパッタリングのターゲットに用いた場合に、酸化物半導体膜の堆積速度を向上させることができる。
【0023】
本発明による導電性酸化物がGaZnOを含むことによって、それをターゲットに用いたスパッタリングによる成膜において堆積速度が向上する理由として、結晶質InGa2(1−m)Zn1−q7−p粒子と結晶質GaZnO粒子との界面がスパッタリング速度を高めるからであると考えられる。
【0024】
ここで、結晶質GaZnO粒子の割合が増えるにしたがって、異種粒子間の界面の割合も増える。しかし、結晶質GaZnO粒子の割合がある程度以上に増えれば、結晶質GaZnO粒子同士の界面の増加が顕著になって、結晶質InGa2(1−m)Zn1−q7−pと結晶質GaZnOとの粒子界面が逆に減少する場合もあって好ましくない。
【0025】
このようなことから、本発明の導電性酸化物に含まれる結晶質GaZnOの量に関連して、粉末X線回折法を適用した場合に、最大の回折強度を有するaピークの回折角2θが33.00°以上36.00°以下の範囲内にあり、第2位の回折強度を有するbピークの回折角2θが29.00°以上30.75°以下の範囲内にあり、そしてaピークに対するbピークの回折強度比Ib/Iaが0.1以上1.0以下の範囲内にある場合が望ましいことが分かった。なお、回折強度比Ib/Iaは0.8以上1.0以下であることがより好ましい。
【0026】
また、本発明の導電性酸化物の断面積に占める結晶質GaZnOの断面割合は、0.5%以上20%未満の範囲内にあることが好ましい。本発明者達の実験によれば、導電性酸化物における結晶質GaZnOの断面積割合が0.5%未満または20%以上の場合には、その導電性酸化物をターゲットに用いたスパッタリングによる成膜において、従来に比べて堆積速度が向上しなかった。なお、結晶質GaZnOの断面積割合は、5%以上20%以下であることがより好ましく、10%以上20%以下であることがさらに好ましい。
【0027】
このような結晶質GaZnOの断面積割合は、分析型走査電子顕微鏡を用いて求めることができる。より具体的には、導電性酸化物の試料断面に照射された入射電子ビームに起因してその断面から反射された電子(反射電子像)を観察する。そして、コントラストの異なる領域の蛍光X線分析を行なってGaZnO領域を特定することによって、断面に占めるGaZnO領域の面積割合を測定することができる。
【0028】
本発明の導電性酸化物に含まれるIn、GaおよびZnの原子濃度比において、Znの原子濃度比を1.0として規格化した場合に、Inの原子濃度比が1.5以上4以下の範囲内またはGaの原子濃度比が0.5以上3以下の範囲内であることが望ましい。Inの原子濃度比が1.5未満またはGaの原子濃度比が3.0より大きい場合、導電性酸化物の電気抵抗が高くなりすぎて、スパッタリングのターゲットとしての実用に適さなかった。他方、導電性酸化物におけるInの原子濃度比が4より大きくまたはGaの原子濃度比が0.5未満の場合には、その導電性酸化物をターゲットとして用いてスパッタリングで堆積された酸化物半導体膜の電気特性が経時変化し、その酸化膜は表示装置中の酸化物半導体膜としての実用に適さなかった。なお、Inの原子濃度比は1.8以上3以下であることがより好ましく、Gaの原子濃度比は1.5以上2.9以下であることがより好ましい。ここで、上述のIn、GaおよびZnの原子濃度比は、ICP発光分析により測定される濃度値(単位:atom%)を基にZnの濃度値で規格化したものである。
【0029】
さらに、本発明による導電性酸化物は、N、Al、Si、Ti、V、Cr、Zr、Nb、Mo、Hf、Ta、W、Sn、およびBiから選ばれた少なくとも1種の元素をさらに含めば、その導電性酸化物をスパッタリングすることによって堆積された酸化物半導体膜のエッチング速度が速くなるので好ましい。
【0030】
そして、本発明による導電性酸化物は、スパッタリングで酸化物半導体膜を堆積する場合のターゲットとして好ましく用いることができる。
【0031】
本発明による導電性酸化物は、酸化亜鉛粉末と酸化ガリウム粉末とを含む第1の混合物を調製し、この第1の混合物を800℃以上1200℃未満で仮焼してGaZnO粒子を作製し、その後にこのGaZnO粒子と酸化インジュウム粒子とを混合または粉砕して混合することによって第2の混合物を調製し、この第2の混合物の成形体を作製し、そしてその成形体を1375℃以上1400℃以下の温度で焼成した焼結体として製造することができる。ここで、GaZnO粒子とIn2O3粒子を混合した成形体を焼結する場合、得られる焼結体に含まれるGaZnOの割合が焼結温度によって変化し、焼結温度が低ければGaZnOの割合が高くなる。以上のように製造された導電性酸化物をターゲットとしてスパッタリングで酸化物半導体膜を形成れば、その堆積速度を速くすることができる。
【0032】
なお、本発明による導電性酸化物において付加的に含まれるN、Al、Si、Ti、V、Cr、Zr、Nb、Mo、Hf、Ta、W、Sn、またはBiの原子濃度は、堆積された膜についてのSIMS(2次イオン質量分析)で測定され得る。
【0033】
前述のように、本発明による導電性酸化物層は結晶質であり、その酸化物はスパッタリングのターゲットとして好ましく用いることができる。また、本発明の導電性酸化物をターゲットとしてスパッタリングで酸化物半導体膜を堆積すれば、堆積速度が速くなるとともに、その堆積された膜のエッチング速度の増大が可能となる。
【0034】
ここで、「スパッタリングのターゲット」とは、スパッタリングで成膜するための材料をプレート状に加工したものや、当該プレート状の材料をバッキングプレート(ターゲット材を貼り付けるための裏板)に貼り付けたものなどの総称である。バッキングプレートは、無酸素銅、鋼、ステンレス鋼、アルミニウム、アルミニウム合金、モリブデン、チタンなどの素材を基に作製することができる。
【0035】
上述のようなターゲットは、径が1cmのサイズから大型LCD(液晶表示装置)用のスパッタリングターゲットのように径が2mを超えるサイズに至るまで作製可能であり、その形状としては丸型のみならずに角型などでもあり得る。
【0036】
以下においては、本発明の導電性酸化物の製造方法が、より詳細に説明される。まず、導電性酸化物の原料粉末として、酸化インジウム(In)粉末、酸化ガリウム(Ga)粉末、酸化亜鉛(ZnO)粉末などを用いることができる。原料粉末の純度としては、99.9%以上の高純度であることが好ましい。
【0037】
準備された酸化ガリウム(Ga)と酸化亜鉛(ZnO)の原料粉末が互いに混合され、第1の混合物が作製される。これら原料粉末の混合には、乾式と湿式の何れの混合方式を用いてもよい。具体的には、通常のボールミル、遊星ボールミル、ビーズミルなどを用いて混合され得る。また、湿式の混合方式を用いた場合の混合物の乾燥には、自然乾燥やスプレードライヤなどの乾燥方怯が好ましく用いられ得る。
【0038】
得られた第1の混合物は、仮焼される。このときの仮焼温度は、800℃以上1200℃未満であることが好ましい。その後、仮焼された第1の混合物に、In原料粉末がさらに混合され、第2の混合物が作製される。この際の混合方法としても、上記第1の混合物の場合と同じ方法を採用することができる。
【0039】
その後、第2の混合物の成形体を作製し、その成形体が焼成されて焼結体にされる。この際の焼結温度は、1375℃以上1400℃以下であることが好ましい。
【0040】
なお、焼結の雰囲気については、大気雰囲気、酸素雰囲気、窒素−酸素混合雰囲気などが好ましく用いられ得る。また、焼結時のZnOの蒸発を抑制するために、CIP(冷間静水圧処理)、加圧ガス中の焼結、ホットプレス焼結、HIP(熱間静水圧処理)焼結などを利用してもよい。
【0041】
以上のような工程を実施することにより、本発明による導電性酸化物を製造することができる。
【0042】
本発明による以下の種々の実施例においては、スパッタリングのターゲットとしての種々の導電性酸化物を作製し、それらの導電性酸化物をターゲットとして用いてスパッタリングで酸化物半導体膜を堆積し、そしてリン酸−酢酸の混酸溶液を用いたウエットエッチングとガスを用いたドライエッチングを実施して酸化物半導体膜のエッチング速度が求められた。
【0043】
(実施例1〜5)
ステップ1:原料粉末の粉砕混合
Ga粉末(純度99.99%、BET比表面積11m/g)およびZnO粉末(純度99.99%、BET比表面積4m/g)が、ボールミル装置を用いて3時間粉砕混合され、第1の混合物としてのGa−ZnO混合物が作製された。この際のmol混合比率は、Ga:ZnO=1:1である。なお、粉砕混合の際の分散媒としては、水が用いられた。粉砕混合後の第1の混合物は、スプレードライヤで乾燥された。
【0044】
ステップ2:仮焼
得られた第1の混合物はアルミナ製ルツボに入れられ、大気雰囲気中で900℃の温度にて5時間の仮焼が行なわれ、こうして結晶質GaZnOからなる仮焼粉体が得られた。
【0045】
ステップ3:In粉末との粉砕混合
得られたGaZnO仮焼粉体とIn粉末(純度99.99%、BET比表面積5m/g)とが、ボールミル装置を用いて6時間粉砕混合され、これによって第2の混合物としてのGaZnO−In混合物が作製された。この際のmol混合比率は、GaZnO:In=1:1である。なお、この際の粉砕混合の分散媒としても、水が用いられた。粉砕混合後の第2の混合物も、スプレードライヤで乾燥された。
【0046】
ステップ4:成形および焼結
得られた第2混合物であるGaZnO−In混合粉体をプレスにより成形し、さらにCIPにより加圧成形し、直径100mmで厚さ約9mmの円板状の成形体を得た。得られた成形体を酸素雰囲気中にて所定温度で5時間焼成し、これによって焼結体が得られた。なお、このときの実施例1〜5に関するそれぞれの焼結温度は、表1にまとめて示されている。
【0047】
表1においては、焼結された導電性酸化物に含まれるIn、GaおよびZnの原子濃度比は、ICP発光分析で測定される濃度値(単位:atom%)を基に、Znの原子濃度比を1.0として規格化されて示されている。
【0048】
【表1】

【0049】
ステップ5:X線回折測定
得られた焼結体の一部からサンプルを採取して、粉末X線回折法によって結晶解析が行なわれた。X線としてはCuのKα線が用いられ、回折角2θと回折強度Iが測定された。
【0050】
このようなX線測定の結果として、実施例1〜5の焼結体に含まれる結晶質成分、aピークに対するbピークの回折強度比Ib/Iaおよびcピークの回折角2θ(度)が表1にまとめて示されている。
【0051】
ステップ6:ターゲットの作製
得られた焼結体は、直径3インチ(76.2mm)で厚さ5.0mmのターゲットに加工された。
【0052】
ステップ7:スパッタリング法による成膜
得られたターゲットを用いたスパッタリング法にて、酸化物半導体膜が堆積された。スパッタリング法としては、DC(直流)マグネトロンスパッタ法が用いられた。このとき、ターゲットの直径3インチの平面がスパッタ面であった。
【0053】
まず、スパッタリング装置の成膜室内において、水冷している基板ホルダ上に、成膜用基板として25mm×25mm×0.6mmの合成石英ガラス基板が配置された。このとき、ガラス基板上の一部領域が金属マスクによって覆われた。ターゲットは基板に対向して配置され、基板とターゲットとの距離は40mmであった。その後、成膜室内が、1×10−4Pa程度まで真空引きされ、ターゲットのプレスパッタが行なわれた。具体的には、基板とターゲットとの間にシャッターを入れた状態で、成膜室内へArガスを1Paの圧力まで導入し、30Wの直流電力を印加してスパッタリング放電を起こし、これによってターゲット表面のクリーニング(プレスパッタ)が10分間行なわれた。
【0054】
その後、流量比で0.5%の酸素ガスを含むArガスを成膜室内へ所定の圧力まで導入し、50Wのスパッタ電力で1時間の成膜が行なわれた。なお、基板ホルダに対しては、特にバイアス電圧は印加されておらず、水冷がされているのみであった。成膜後に基板を成膜室から取り出したところ、基板上において金属マスクで覆われていなかった領域のみにIn−Ga−Zn−O膜が形成されていた。そして、基板上において金属マスクで覆われて膜が形成されなかった領域とそれ以外で膜が形成された領域との間の段差を触針式表面粗さ計で測定することによって、堆積された膜の厚さが求められた。この膜厚を成膜時間で割った値が、堆積速度と判断される。表1においては、従来例に相当する後述の比較例1における堆積速度を1として規格化して、実施例1〜5における堆積速度がまとめられて示されている。
【0055】
ステップ8:エッチング
その後、リン酸:酢酸:水=4:1:100のエッチング水溶液を調製し、In−Ga−Zn−O膜が形成された石英ガラス基板をそのエッチング液内に浸漬させた。このとき、エッチング液は、ホットバス内で50℃に昇温されていた。浸漬時間を2分に設定し、その間にエッチングされずに残った膜の厚さを触針式の表面粗さ計にて測定した。成膜直後の膜厚とエッチング後に残った膜の厚さとの差をエッチング時間で割ったものが、エッチング速度と判断された。実施例1〜5におけるエッチング速度は、比較例1のエッチング速度を1として規格化されて表1に示されている。
【0056】
(実施例6)
実施例6においても、前述のステップ1と2は実施例1〜5の場合と同様である。しかし、実施例6においては、ステップ3と4が部分的に変更されたことにおいて、実施例1〜5と異なっている。すなわち、実施例6においては、前述のステップ3と4が下記のステップ3aと4aのように部分的に変更された。
【0057】
ステップ3a:In粉末およびGaN粉末との粉砕混合
ステップ2の仮焼によって得られたGaZnO粉体とIn(純度99.99%、BET比表面積5m/g)粉末およびGaN(純度99.99%、BET比表面積2m/g)とが、ボールミル装置を用いて6時間粉砕混合された。このときのmol混合比率は、GaZnO:In:GaN=1:1:0.05であった。なお、分散媒には水が用いられ、粉砕混合後の混合物はスプレードライヤで乾燥された。
【0058】
ステップ4a:成形および焼結
次に、得られたGaZnO−In−GaN混合粉体をプレスにより成形し、さらにCIPにより加圧成形し、直径100mmで厚さ約9mmの円板状の成形体を得た。得られた成形体は、1気圧のN雰囲気中において1390℃で5時間焼成することによって焼結体にされた。得られた焼結体は、直径が80mmに収縮し、厚さは約7mmに収縮していた。
【0059】
その後の実施例6におけるステップ5から8に関する条件は実施例1〜5の場合と同様であり、実施例6に関する結果も表1に示されている。
【0060】
(実施例7〜19)
実施例7〜19におけるターゲットは、基本的には実施例1〜5におけるターゲットと同様に製造されたが、ステップ3におけるGaZnO粉体とIn粉末との粉砕混合において、添加元素を含む酸化物粉体(Al、SiO、TiO、V、Cr、ZrO、Nb、MoO、HfO、Ta、WO、SnO、Bi)が付加されて粉砕混合された点が異なっていた。添加元素の酸化物が、Al、Cr、Nb、Ta、またはBiである場合、mol混合比率はGaZnO:In:添加元素の酸化物=1:1:(0.1以下0.01以上)である。また、添加元素の酸化物が、SiO、TiO、ZrO、MoO、HfO、WO、またはSnOである場合、mol混合比率はGaZnO:In:添加元素の酸化物=1:1:(0.2以下0.02以上)である。以上のような実施例7〜19に関する結果も、表1にまとめて示されている。なお、添加元素の原子濃度は、スパッタリングで堆積された膜をSIMSで分析することによって、1cm当りの原子数(atom/cc)として求められた。
【0061】
(実施例20)
実施例20におけるターゲットも、基本的には実施例1〜5におけるターゲットと同様に製造されたが、ステップ3におけるIn粉末との粉砕混合において、仮焼で得られたGaZnO粉体がIn紛体およびInGaO紛体と粉砕混合されたことのみにおいて異なっていた。このときのmol混合比率は、GaZnO:In:InGaO=1:1:1であった。このような実施例20に関する結果も、表1に示されている。
【0062】
(実施例21)
実施例21におけるターゲットも、基本的には実施例1〜5におけるターゲットと同様に製造されたが、ステップ3におけるIn粉末との粉砕混合において、仮焼で得られたGaZnO粉体がIn紛体およびInZn紛体と粉砕混合されたことのみにおいて異なっていた。このときのmol混合比率は、GaZnO:In:InZn=1:4:1であった。このような実施例21に関する結果も、表1に示されている。
【0063】
(比較例1)
従来の導電性酸化物に相当する比較例1においては、その作製方法が少し変更されていた。具体的には、以下のステップ1b〜3bを経て作製された。
【0064】
ステップ1b:原料粉末の粉砕混合
このステップ1bは、前述のステップ1に比べて、In粉末(純度99.99%、BET比表面積5m/g)が最初からGa粉末およびZnO粉末に付加されて粉砕混合されることのみにおいて異なっていた。
【0065】
ステップ2b:仮焼
ステップ1bで得られた混合粉末は、前述のステップ2の場合と同様の条件で仮焼され、それによって仮焼粉体が得られた。
【0066】
ステップ3b:成形および焼結
ステップ2bで得られた仮焼粉体は一軸加圧成形によって成形され、直径100mmで厚さ約9mmの円板状の成形体が得られた。この成形体は酸素雰囲気中において1500℃で5時間焼成され、これよって焼結体が得られた。
【0067】
その後、この比較例1で得られた焼結体についても、前述のステップ5と同様にしてX線測定され、ステップ6と同様にしてターゲットが作製され、ステップ7と同様にしてスパッタリング成膜し、そしてステップ8と同様にしてエッチング速度が測定された。比較例1におけるこれらの結果も、表1にまとめて示されている。なお、表1から分かるように、比較例1による導電性酸化物は非晶質であって、X線測定において明瞭な回折ピークは現れなかった。
【0068】
以上のように表1にまとめて示された結果から明らかなように、本発明の条件を満たす実施例1〜21による導電性酸化物のターゲットは、従来例に相当する比較例1による導電性酸化物のターゲットに比べて、スパッタリング成膜の速度を向上させかつ堆積された膜のエッチング速度を向上させ得ることが分かる。
【産業上の利用可能性】
【0069】
以上のように、本発明による導電性酸化物は、スパッタリング成膜のターゲットとして好ましく用いることができ、酸化物半導体膜の堆積速度の向上とエッチング速度の向上を可能にすることができる。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
結晶質InGa2(1−m)Zn1−q7−p(0≦m<1、0≦q<1、0≦p≦3m+q)と結晶質GaZnOとを含むことを特徴とする導電性酸化物。
【請求項2】
粉末X線回折法を適用したときに、最大の回折強度を有するaピークの回折角2θが33.00°以上36.00°以下の範囲内にあり、かつ第2位の回折強度を有するbピークの回折角2θが29.00°以上30.75°以下の範囲内にあり、そして前記aピークに対する前記bピークの回折強度比Ib/Iaが0.1以上1.0以下であることを特徴とする請求項1に記載の導電性酸化物。
【請求項3】
回折角2θが35.0°以上37.0°以下の範囲内において前記aピークとは異なるcピークが現れることを特徴とする請求項2に記載の導電性酸化物。
【請求項4】
前記導電性酸化物においてZnの原子濃度比を1として規格化した場合に、Inの原子濃度比が1.5以上4以下であり、またはGaの原子濃度比が0.5以上3以下であることを特徴とする請求項1から3のいずれかに記載の導電性酸化物。
【請求項5】
前記導電性酸化物の断面積に占める前記結晶質GaZnOの割合が、0.5%以上20%未満であることを特徴とする請求項1から4のいずれかに記載の導電性酸化物。
【請求項6】
N、Al、Si、Ti、V、Cr、Zr、Nb、Mo、Hf、Ta、W、Sn、およびBiから選ばれた少なくとも1種の元素をさらに含むことを特徴とする請求項1から5のいずれかに記載の導電性酸化物。
【請求項7】
スパッタリング法のターゲットに用いられることを特徴とする請求項1から6のいずれかに記載の導電性酸化物。
【請求項8】
請求項1から7のいずれかに記載の導電性酸化物を製造するための方法であって、酸化亜鉛粉末と酸化ガリウム粉末を含む第1の混合物を調製し、前記第1の混合物を800℃以上1200℃未満の温度で仮焼してGaZnO粒子を作製し、その後に酸化インジュウム粒子と前記GaZnO粒子とを混合または粉砕して混合することによって第2の混合物を調製し、前記第2の混合物の成形体を作製し、前記成形体を1375℃より高く1400℃以下の温度で焼結する工程を含むことを特徴とする製造方法。

【公開番号】特開2011−195923(P2011−195923A)
【公開日】平成23年10月6日(2011.10.6)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−65882(P2010−65882)
【出願日】平成22年3月23日(2010.3.23)
【出願人】(000002130)住友電気工業株式会社 (12,747)
【Fターム(参考)】