説明

干渉縞生成方法および干渉計

【課題】基準レンズを必要とせずコンパクトであって振動等の外乱の影響を受けにくく非球面レンズ(自由形状レンズ)の測定を低コストで実現できる干渉縞生成方法および干渉計を提供する。
【解決手段】光源2から出た光S0を複屈折光学素子7で出射角度が微小に異なる2つの光束S1,S2に分割して第一,第二の検査光として被検体13の被検面13aに垂直に照射し、その反射光を照射時の経路に沿って逆行する向きで複屈折光学素子7に透過させることで再び重ね合わせ、重ね合わせた光を受光面12に投影することで干渉縞を生成する。第一,第二の検査光と其の反射光の往復経路が光源2から受光面12に至る区間で完全に共通となり振動等に対しては相対運動が行われるので測定精度が向上し、温度差や空気の揺らぎ等による光路の微妙な変化、あるいは、干渉計の設置環境下で生じる振動や光学部品の経年変化等の影響を受けにくくなり、干渉縞の生成と維持が容易となって特殊な防振対策も不要となり簡単なもので済むようになる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、被検体の被検面の形状を特定する際に利用される干渉縞を生成する干渉縞生成方法と此の干渉縞生成方法を適用した干渉計に関する。
【背景技術】
【0002】
形状測定用の干渉計としては、非特許文献1に開示されるフィゾー干渉計,トワイマン干渉計,マッハツェンダー干渉計や非特許文献2に開示されるシェアリング干渉計等が既に公知である。
【0003】
図2は、平面の測定に適したフィゾー干渉計の光学系について簡略化して示した図である。
【0004】
フィゾー干渉計の主要部は、レーザ光源100,発散レンズ101,ビームスプリッタ102,コリメータレンズ103,基準板104,結像レンズ105、および、干渉縞を検出するための受光面として機能するCCD等の撮像素子106によって構成される。
【0005】
レーザ光源100から出射されたレーザビームは、発散レンズ101,ビームスプリッタ102,コリメータレンズ103を透過して平行光となり、オプティカルフラットな平行面を有する基準板104に照射され、その一部が基準板104の参照面104aで反射され、残りの光は基準板104を透過して更に被検体107の被検面107aに到達して反射される。そして、参照面104aで反射された光と被検面107aで反射された光は各々の光路を逆行してビームスプリッタ102に照射され、ビームスプリッタ102で光路を屈折された後、結像レンズ105を透過して受光面となる撮像素子106に投影されて干渉縞を形成する。
【0006】
この際、参照面104aで反射された光と被検面107aで反射された光の光路差が波長の整数倍であれば干渉光は明るくなり、光路差が波長の整数倍から半波長だけずれていれば干渉光は暗くなる。また、干渉光の明るさは正弦波状に変化するので、干渉縞の各部の明るさに基いて当該部位における光の初期位相が分かる。
【0007】
従って、干渉縞が1周期(2π)変化するように参照面104aと被検面107aの離間距離を変化させ、その間に複数の画像(例えば、π/2周期毎に1枚で計4枚の画像)を撮像素子106から取り込み、コンピュータによる画像処理を利用して画像を各画素毎に分析し、各画素毎の初期位相や隣接する画素間の連続性の有無、つまり、1周期分(2π分)の位相のずれの有無を求めて各画素毎の情報を関連付けるようにすれば、被検面107aの形状を正確に知ることができる。
【0008】
球面レンズ等の被検体107’を測定するフィゾー干渉計にあっては、図3に示されるように、前述の基準板104に代えて基準レンズ104’を使用し、基準レンズ104’の参照面104a’からの反射光と被検体107’の被検面107a’からの反射光を利用して干渉縞を形成させることになるが、作用原理に関しては前述した平面測定用のフィゾー干渉計の場合と同様である。
【0009】
フィゾー干渉計は、レーザ光源100から参照面104a(104a’)を経由して撮像素子106に導かれる光の経路すなわち参照光の経路と、レーザ光源100から被検面107a(107a’)を経由して撮像素子106に導かれる光の経路つまり測定光の経路の大半が共通しており、共通していない部分と言えば参照面104a(104a’)と被検面107a(107a’)との間の往復経路のみであるから、理論上の測定精度が非常に高い。
【0010】
また、各種の外乱、例えば、空気中に発生するコールドスポットやホットスポット等による温度差や空気の揺らぎ等による光路の微妙な変化、あるいは、干渉計の設置環境下で生じる振動、更には、発散レンズ101,ビームスプリッタ102,コリメータレンズ103等に経年変化が生じたとしても、これらの影響は参照光の経路に対しても測定光の経路に対しても同等に作用するので、安定した測定を行なえるといったメリットがある。
【0011】
しかし、その一方で、原器として使用する基準板104や基準レンズ104’を高精度に研磨して理想的な形状に仕上げない限り正確な測定を行うことは困難であり、干渉計の導入コストが高騰するといった弊害もある。
【0012】
特に、複雑な曲率の非球面レンズを被検体107’とする場合においては、原器となる基準レンズ104’を精密に仕上げること自体が非常に困難でありまた、可能であったとしても、その製作コストが著しく高価なものになってしまう。
【0013】
図4は、非球面レンズの測定に適したシェアリング干渉計の光学系について簡略化して示した図である。
【0014】
レーザ光源100から出射されたレーザビームはビームエキスパンダ108を透過して光束を広げられ、ビームスプリッタ109,110を透過し、コリメータレンズ111を介して被検体107”の被検面107a”を照射する。
【0015】
被検面107a”で反射された光は、コリメータレンズ111を透過して平行光に戻され、ビームスプリッタ110で2つの経路に分割される。そして、その一方はビームスプリッタ110を透過し、ビームスプリッタ109,112で反射されて結像レンズ105を透過し、受光面となる撮像素子106に投影される。また、ビームスプリッタ110で分割された残りの光は反射鏡113で反射され、平行平面板114を透過して僅かに経路をずらされた後、ビームスプリッタ112および結像レンズ105を透過して、受光面となる撮像素子106に投影され、これらの2つの光の干渉によって撮像素子106上に干渉縞が形成される。
【0016】
フィゾー干渉計の場合とは処理操作が相違するが、撮像素子106で撮像された画像を取り込んで各画素毎にコンピュータを利用した画像処理を行うことで、基準となる球面と被検面107a”との間のずれ量、更には、被検面107a”自体の形状を求めることができる。
【0017】
シェアリング干渉計の場合には原器として機能する基準レンズ104’を必要とせず、比較的に低コストで非球面レンズの測定を行なうことができるメリットがある。
【0018】
しかし、被検面107a”で反射されてビームスプリッタ110を透過した光がビームスプリッタ109,112を経て結像レンズ105に導かれる一方、被検面107a”で反射されてビームスプリッタ110で光路を変えられた光は反射鏡113,平行平面板114,ビームスプリッタ112を経て結像レンズ105に導かれるので、被検面107a”によって反射されてビームスプリッタ110で分割された2つの光、つまり、フィゾー干渉計における参照光や測定光に相当する2つの光が撮像素子106に至る経路が全く異なるものとなってしまう。
【0019】
このように、全く異なる2つの経路が必要となることから、シェアリング干渉計はフィゾー干渉計に比べて相対的に大型のものとならざるを得ず、また、独立した2つの経路が距離をおいて存在することから、各種の外乱、例えば、前述したような温度差,空気の揺らぎ,振動等が各経路毎に独立的に作用することになり、微妙な光路の変動によって撮像素子106上に適切な干渉縞が形成されなくなったり、あるいは、適切な干渉縞が一旦は形成されたとしても、特に、干渉計の設置環境下で生じる振動が災いして観察や処理操作に必要とされる時間に亘って干渉縞の状態を維持することが難しくなる等の不都合が生じる場合があり、干渉計の防振対策に過大なコストを要していた。
【0020】
また、全く異なる2つの経路に独立した光学系、例えば、反射鏡113,平行平面板114等が配置されるため、光学系を構成する部品の経年変化も各経路毎に独立的に影響を及ぼすことになり、長期間に亘って干渉計の信頼性を保証することが難しい。
【0021】
【非特許文献1】齋藤隆行、“レーザ干渉計の原理と光学素子測定への対応”[online]、2000年6月号、月刊「光アライアンス」、日本工業出版株式会社、章「代表的な干渉計」“フィゾー干渉計”、[平成19年6月18日検索]、インターネット<URL:http://www.fujinon.co.jp/jp/products/laser/kisotisiki4_1.htm>
【非特許文献2】「レーザー干渉計とその光学素子測定への応用」,富士写真光機株式会社,p.40
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0022】
そこで、本発明の課題は、高価な基準レンズを必要とせずコンパクトであって、温度差や空気の揺らぎ、特に、振動等の外乱や経年変化の影響を受けにくく、しかも、非球面レンズ(自由形状レンズ)の測定を低コストで実現することのできる干渉計を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0023】
本発明の干渉縞生成方法は、前記課題を達成するため、
光源と複屈折光学素子とコリメータレンズと被検体とを此の順で単一の光路上に配置し、前記光源から出た光を前記複屈折光学素子に透過させて該複屈折光学素子からの出射角度が微小に異なる2つの光束に分割した後、
前記コリメータレンズに前記2つの光束を透過させて相互に平行な光束とし、一方の光束を第一の検査光として前記被検体の被検面に垂直に照射すると共に他方の光束を第二の検査光として前記被検体の被検面に垂直に照射し、
前記被検面で反射された第一の検査光と前記被検面で反射された第二の検査光とを照射時の経路に沿って逆行する向きで前記コリメータレンズと前記複屈折光学素子に透過させて重ね合わせ、
前記重ね合わせられた光を受光面に投影することによって、
前記被検面の形状を特定するための干渉縞を生成するようにしたことを特徴とする構成を有する。
【0024】
このように、複屈折光学素子を利用することによって光源から出た光を出射角度が微小に異なる2つの光束に分割し、この2つの光束をコリメータレンズに透過させて平行な光束とし、これらの光束を第一,第二の検査光として被検体の被検面に垂直に照射した後、その反射光を照射時の経路に沿って逆行する向きでコリメータレンズと複屈折光学素子に透過させることで再び重ね合わせ、この重ね合わさったところに干渉縞が生じる。この干渉縞を受光面に投影することで単一の光路上に配置された光源と複屈折光学素子とコリメータレンズによって被検体の検査面の形状を表す干渉縞を生成することができる。
この結果、第一,第二の検査光と其の反射光の往復経路が光源から受光面に至る区間で完全に共通となり、フィゾー干渉計と同等あるいは其れ以上に理論上の測定精度が確かなものとなる。
しかも、温度差や空気の揺らぎ等による光路の微妙な変化、あるいは、干渉計の設置環境下で生じる振動、更には、光学部品の経年変化等の影響が、第一の検査光と其の反射光の経路および第二の検査光と其の反射光の経路に対して完全に同等に作用することになるので、分割光路上に平行平面板を設置して反射光の経路をずらすようにした従来型のシェアリング干渉計は言うに及ばず、参照光と測定光の光路が参照面と被検面との間のみで相違するフィゾー干渉計と比べても外乱の影響を受けにくく、特に、振動による影響を受けにくいことから、干渉縞の生成と維持が容易となり、防振対策も簡単なもので済むようになる。
そして、単一の光路上に配置された光源と複屈折光学素子とコリメータレンズを利用して被検体の被検面の形状を特定する干渉縞を生成することができることから、従来型のシェアリング干渉計を利用した場合よりも狭いスペースで作業を行うことができ、しかも、フィゾー干渉計を利用する場合とは違い、原器となる基準レンズを必要としないので、非球面レンズ等を初めとする複雑な形状の被検体の被検面の形状測定を低コストで実現することができる。
【0025】
本発明の干渉計は、前記と同様の課題を達成するため、
光源と、直線偏光用の偏光子と、ビームスプリッタと、前記光源から出て前記偏光子およびビームスプリッタを透過した光を出射角度が微小に異なる2つの光束に分割する複屈折光学素子と、前記複屈折光学素子から出射された2つの光束を透過させ相互に平行な光束として被検体の被検面に照射するコリメータレンズと、被検体をセットするための支持具とを此の順で単一の光路上に備えると共に、
前記単一の光路から側方にオフセットされた位置には、
前記被検体の被検面で反射されて前記コリメータレンズと前記複屈折光学素子を透過し重ね合わせられて前記ビームスプリッタで反射された光を直線偏光する検光子と、該検光子を透過した光を投影するための受光面とを配備したことを特徴とする構成を有する。
【0026】
このような構成を適用した場合、光源から出た光が偏光子で直線偏光されてビームスプリッタを透過し、複屈折光学素子に照射される。
複屈折素子に照射された光は、該複屈折光学素子からの出射角度が微小に異なる2つの光束に分割され、更に、コリメータレンズを透過する過程で相互に平行な光束とされて、支持具にセットされた被検体の被検面に第一,第二の検査光として垂直に照射される。
被検面に垂直に照射された第一,第二の検査光は被検体の被検面で反射され、照射時の経路に沿って逆行する向きでコリメータレンズと複屈折光学素子を透過することで再び重ね合わせられて、ビームスプリッタによって単一の光路の側方に反射され、光路から側方にオフセットされた位置に配備された検光子を透過して直線偏光され、受光面に投影される。
このように、光源から被検体の被検面を経て受光面に至る第一,第二の検査光と其の反射光の往復経路が完全に共通化されているので、参照光と測定光の光路が参照面と被検面との間のみで相違するフィゾー干渉計と同等あるいは其れ以上に理論上の測定精度が確かなものとなる。
しかも、温度差や空気の揺らぎ等による光路の微妙な変化、あるいは、干渉計の設置環境下で生じる振動、更には、光学部品の経年変化等の影響が、第一の検査光と其の反射光の経路および第二の検査光と其の反射光の経路に対して完全に同等に作用することになるので、分割光路上に平行平面板を設置して反射光の経路をずらすようにした従来型のシェアリング干渉計は言うに及ばず、参照光と測定光の光路が参照面と被検面との間のみで相違するフィゾー干渉計と比べても外乱の影響を受けにくく、特に、振動による影響を受けにくいことから、干渉縞の生成と維持が容易となり、防振対策も簡単なもので済むようになる。
また、単一の光路上に配置された光源と複屈折光学素子とコリメータレンズを利用して被検体の被検面の形状を特定する干渉縞を生成することができることから、従来型のシェアリング干渉計よりも狭いスペースで作業を行うことができ、しかも、フィゾー干渉計とは違い、原器となる基準レンズを必要としないので、非球面レンズ(自由形状レンズ)等を初めとする複雑な形状の被検体の被検面の形状測定を低コストで実現することができる。
【0027】
ここで、複屈折素子の配備位置は前述した単一の光路に沿って移動可能な構成とすることが望ましい。
【0028】
複屈折素子の配備位置を光路に沿って移動可能とすることで、生成される干渉縞の間隔を調整することが可能である。干渉縞の間隔を調整して受光面上の干渉縞を観察し易い状態とすることで、計測の精度を向上させることができる。従来型のシェアリング干渉計においても分割光路上の平行平面板の揺動角度を調整することで同様のことが可能であるが、複屈折光学素子の配備位置を単一の光路に沿って移動させる本発明の構成においては、平行平面板の揺動角度を変更する場合とは違い、第一,第二の検査光に共通する光路内で調整作業が行われるので、分割光路上に設けられた平行平面板の揺動角度を調整する従来のものと比べ、より安定した状態で第一,第二の検査光のずれ量つまり最終的には干渉縞の間隔を調整することができる。
【0029】
更に、前記単一の光路上に備えられた偏光子が、前記光源からの光を受ける側の前記ビームスプリッタの面に一体化され、前記単一の光路から側方にオフセットされた位置に配備された検光子が、前記受光面と対向する前記ビームスプリッタの面に一体化された構成とするよい。
【0030】
このような構成を適用した場合、偏光子と検光子は各種のコーティング技術を用いてビームスプリッタの面に一体的に形成することが望ましく、これにより、干渉計の更なるコンパクト化が可能となる。
【発明の効果】
【0031】
本発明の干渉縞生成方法および干渉計は、複屈折光学素子を利用することによって、光源から出た光を出射角度が微小に異なる2つの光束に分割し、この2つの光束をコリメータレンズを透過させて相互に平行な光束とし、これらの光束を第一,第二の検査光として被検体の被検面に垂直に照射した後、更に、その反射光を照射時の経路に沿って逆行する向きでコリメータレンズと複屈折光学素子に透過させることで再び重ね合わせ、この重ね合わさったところに干渉縞が生じる。この干渉縞を受光面に投影することで単一の光路上に配置された光源と複屈折光学素子とコリメータレンズによって被検体の被検面の形状を特定する干渉縞を生成することができる。
この結果、第一,第二の検査光と其の反射光の往復経路が光源から受光面に至る区間で完全に共通となり、フィゾー干渉計と同等あるいは其れ以上に理論上の測定精度が確かなものとなり、しかも、温度差や空気の揺らぎ等による光路の微妙な変化、あるいは、干渉計の設置環境下で生じる振動、更には、光学部品の経年変化等の影響が、第一の検査光と其の反射光の経路および第二の検査光と其の反射光の経路に対して完全に同等に作用することになるので、分割光路上に平行平面板を設置して反射光の経路をずらすようにした従来型のシェアリング干渉計は言うに及ばず、参照光と測定光の光路が参照面と被検面との間のみで相違するフィゾー干渉計と比べても外乱の影響を受けにくく、特に、振動による影響を受けにくいことから、干渉縞の生成と維持が容易となり、防振対策も簡単なもので済むようになる。
このように、単一の光路上に配置された光源と複屈折光学素子とコリメータレンズを利用して被検体の被検面の形状を特定する干渉縞を生成することができることから、従来型のシェアリング干渉計よりも狭いスペースで作業を行うことができ、しかも、フィゾー干渉計とは違い、原器となる基準レンズを必要としないので、非球面レンズ等を初めとする複雑な形状の被検体の被検面の形状測定を低コストで実現することができる。
【0032】
また、複屈折光学素子の配備位置を光路に沿って移動させて受光面上に生成される干渉縞の間隔を調整して観察し易い状態とすることによって計測の精度を容易に向上させることができる。
複屈折光学素子の配備位置を光路に沿って移動させる場合であっても、第一,第二の検査光に共通する光路内で干渉縞の間隔調整作業が行われることになるので、分割光路上に設けられた平行平面板の揺動角度を調整する従来型のシェアリング干渉計と比べ、より安定した状態で第一,第二の検査光のずれ量つまり最終的には干渉縞の間隔を調整することができる。
【0033】
更に、光源からの光を受ける側のビームスプリッタの面と受光面と対向する側のビームスプリッタの面に偏光子や検光子を一体的に設けた構成とすることで、干渉計の更なるコンパクト化が実現される。
【発明を実施するための最良の形態】
【0034】
次に、本発明の干渉縞生成方法を適用した一実施形態の干渉計の光学系の構成例について具体例を挙げて説明する。
【0035】
図1は一実施形態の干渉計1の光学系について示した図である。
【0036】
干渉計1の主要部は、He-Ne レーザ等で構成されるレーザ光源2と直線偏光用の偏光子として機能する偏光板3およびビームエキスパンダ4と集光レンズ5、ならびに、ビームスプリッタ6と複屈折光学素子7、および、2群2枚のレンズからなるコリメータレンズ8と、非球面レンズ等の被検体13をセットするための支持具9、および、直線偏光用の検光子として機能する偏光板10と結像レンズ11、および、受光面として機能するCCD等の撮像素子12によって構成される。
【0037】
このうち、レーザ光源2,偏光板3,ビームエキスパンダ4,集光レンズ5,ビームスプリッタ6,複屈折光学素子7,コリメータレンズ8,支持具9は此の順で単一の光路L1上に備えられ、また、他の偏光板10,結像レンズ11,撮像素子12は、光路L1から側方にオフセットされるかたちでビームスプリッタ6の側方に配備されている。
【0038】
偏光板3は図1の紙面に垂直な方向の格子を備えたもので、レーザ光源2から出射された光を図1の紙面と垂直な方向の振動のみを有する偏光に直線偏光させる。
【0039】
複屈折光学素子7はウォーラストンプリズムあるいはノマルスキープリズム等で構成される。この複屈折光学素子7は、レーザ光源2から出て偏光板3で直線偏光され更にビームエキスパンダ4で拡径されて集光レンズ5およびビームスプリッタ6を透過した光S0を、光路L1を含み図1の紙面に垂直な面、すなわち、偏光板3による直線偏光の偏光面に対して交差する向きに出射角度が微小に異なる2つの光束S1,S2に分割する向きに配置されている。2つの光束S1,S2の内の一方が常光線で他方が異常光線である。
【0040】
コリメータレンズ8は、複屈折光学素子7から僅かに出射角度を違えて出射された光束S1,S2を相互に平行な光束とした上で、これらの光束S1,S2を第一,第二の検査光として非球面レンズ等の被検体13の被検面13aに垂直に照射するためのものである。
【0041】
複屈折光学素子7には、複屈折光学素子7の姿勢を保持した状態で該複屈折素子7を光路L1に沿って移動および位置決め固定するための調整具14が設けられている。
【0042】
被検体13をセットするための支持具9は、光路L1に沿った直線移動と、光路L1と直交する2軸の各軸方向の直線移動、および、光路L1と直交する2軸の各軸の周りでの揺動動作を許容された支持具である。つまり、支持具9は、直線運動に関する自由度3と回転運動に関する自由度2を備えた5軸型の支持具であり、適切な操作によって非球面レンズ等の被検体13の中心軸を確実に光路L1に合致させられるようになっている。
【0043】
調整具14および支持具9の構造に関しては、光学機器におけるテレスコピック機構やチルト/シフト機構等として公知である。
【0044】
偏光板10は回転操作可能とされ、直線偏光に用いられる格子の配列方向を必要に応じて調整できるようになっている。
【0045】
撮像素子12で撮像された干渉縞の画像はコンピュータを介してディスプレイに表示される(図示せず)。また、コンピュータのフレームメモリ等に干渉縞の画像を取り込んだ上で、コンピュータよる画像処理を利用して各画素毎の分析作業が行われるようになっている。
【0046】
以上の構成において、レーザ光源2から出射されたレーザビームは、まず、偏光板3により図1の紙面と垂直な方向に直線偏光されてビームエキスパンダ4で拡径され、集光レンズ5およびビームスプリッタ6を透過して、複屈折光学素子7に照射される。
【0047】
複屈折光学素子7に照射された光S0は、複屈折光学素子7を透過する過程で、偏光板3による直線偏光の偏光面に対して交差する向き、つまり、光路L1を含み図1の紙面に垂直な面に対して交差する向きに出射角度が微小に異なる2つの光束S1,S2に分割され、更に、コリメータレンズ8を透過する過程で相互に平行な光束とされて、支持具9にセットされた非球面レンズ等の被検体13の被検面13aに第一,第二の検査光として垂直に照射される。
【0048】
被検面に垂直に照射された第一,第二の検査光(光束S1,S2)は被検体13の被検面13aで反射され、照射時の経路に沿って逆行する向きでコリメータレンズ8と複屈折光学素子7を透過することで再び重ね合わせられ、ビームスプリッタ6によって光路L1の側方に反射され、光路L1から側方にオフセットされた位置に配備された偏光板10を透過して直線偏光された後、結像レンズ11を経て撮像素子12上に投影されて干渉縞を形成する。
【0049】
干渉縞の画像は撮像素子12からコンピュータに取り込まれ、コンピュータに接続されたディスプレイに表示されるので、ディスプレイ上の画像を確認することで干渉縞の状態を容易に把握することができる。
【0050】
撮像素子12上に投影される干渉縞の間隔を調整する場合には、調整具14を操作して複屈折光学素子7の配備位置を光路L1に沿って移動させる。
複屈折光学素子7から出射する光束S1,S2の成す角は一定であるから、複屈折素子7をコリメータレンズ8に接近させる方向に移動させれば、コリメータレンズ8に入射する位置での光束S1,S2の位置ずれ量が減少し、結果として、これらの光束を相互に平行にして得られる第一,第二の検査光が被検体13の被検面13aに照射される際の位置ずれ量も小さくなり、その反射光の干渉によって撮像素子12上に生成される干渉縞の間隔も狭くなる。当然、これとは逆に、複屈折光学素子7をコリメータレンズ8から離間させる方向に移動させれば、干渉縞の間隔は広くなる。
【0051】
また、干渉縞の中心がディスプレイつまり撮像素子12の中心からずれている場合には、非球面レンズ等の被検体13の中心軸が光路L1と一致していないことを意味するので、支持具9を操作して被検体13の位置および姿勢を調整することで被検体13の中心軸を光路L1に一致させる。
【0052】
また、干渉縞が確認されない場合には、第一,第二の検査光が被検体13の被検面13aに対して垂直に照射されていないことを意味するので、支持具9を操作して被検体13とコリメータレンズ8との離間距離を調整し、第一,第二の検査光が被検面13aに対して垂直に照射されるようにする。干渉縞の明度は偏光板10を回転させることで調整できる。
【0053】
図1に示される通り、レーザ光源2から出て偏光板3,ビームエキスパンダ4,集光レンズ5,ビームスプリッタ6を透過した光S0は複屈折光学素子7によって微小に出射角度の異なる2つの光束S1,S2に分割され、これらの光がコリメータレンズ8で相互に平行とされて、被検体13の被検面13aに第一,第二の検査光として照射され、その反射光がコリメータレンズ8,複屈折光学素子7,ビームスプリッタ6,偏光板10,結像レンズ11を経て撮像素子12に投影されるので、第一の検査光と其の反射光および第二の検査光と其の反射光の別に関わりなく、これらの光束が通る光学系は完全に同一のものとなる。
空気中に発生するコールドスポットやホットスポット等による温度差や空気の揺らぎ等による光路の微妙な変化、あるいは、干渉計の設置環境下で生じる振動、更には、光学部品等の経年変化等の外乱に対して耐性があるとされる図2,図3のようなフィゾー干渉計であっても、参照光と測定光の光路には参照面104a(104a’)と被検面107a(107a’)との間の往復経路で光路の違いが存在するが、この実施形態の干渉計1では、第一の検査光と其の反射光および第二の検査光と其の反射光の別に全く関わりなく此れらの光束が通る光学系が完全に共通しているので、理論上の測定精度や外乱に対する耐性は、図2,図3のようなフィゾー干渉計と比較しても高いと考えるのが妥当である。
【0054】
また、図4に示したような従来型のシェアリング干渉計では、独立した2つの光学経路が距離をおいて存在することから装置自体が大型化し、各種の外乱、特に、干渉計の設置環境下で生じる振動の影響で干渉縞の生成や維持に支障を生じる場合があるが、第一の検査光と其の反射光および第二の検査光と其の反射光の別に関わりなく、これらの光束が通る光学系が完全に同一である本実施形態の干渉計1では、仮に、振動その他の外乱が作用した場合であっても、其の外乱が第一,第二の検査光と其の反射光の光路に対して同等に作用するので、特に、振動に対する耐性に優れ、干渉縞の生成や維持を容易に行なうことができる。当然、図4に示したような従来型のシェアリング干渉計を利用する場合よりも作業スペースは僅かで済む。
図2,図3のようなフィゾー干渉計の場合であっても、参照面104a(104a’)と被検面107a(107a’)との間に振動による微小な位置ずれが生じた場合には、参照面104a(104a’)で反射された光と被検面107a(107a’)で反射された光に相対的な位置ずれが生じ、このずれが干渉縞の生成や維持に悪影響を与えるが、本実施形態の干渉計1では、第一,第二の検査光が共に被検体13の被検面13aによって反射されているので、振動等による光学部品間の微小な位置ずれは必ずしも重大な問題とはならず、この振動に抗して干渉縞を維持することが可能である。
【0055】
結果として、干渉計1の設置に必要とされる防振対策の簡略化が可能であり、また、原器となる基準レンズを必要としないことから、非球面レンズ等を初めとする複雑な形状の被検体の被検面を測定する干渉計1を低コストにて導入することが可能となる。
【0056】
図4に示したような従来型のシェアリング干渉計にあっては分割光路上の平行平面板114の揺動角度を調整することで干渉縞の間隔を調整することになるので、平行平面板114の操作に伴って平行平面板114を配備した側の光路が独立的に振動するといった可能性もあるが、本実施形態の干渉計1では、複屈折光学素子7の配備位置を光路L1に沿って移動させるようになっているので、第一,第二の検査光と其の反射光に共通する光路内で調整作業を行うことができ、操作時の振動等による悪影響を問題とすることなく安定した状態で干渉縞の間隔を調整することができる。
【0057】
また、光路L1上に設置された偏光板3に代えてレーザ光源2からの光を受ける側のビームスプリッタ6の面(図1におけるビームスプリッタ6の左端面)に各種のコーティング技術を用いて偏光子を形成し、光路L1から側方にオフセットされた位置に配備された偏光板10の代わりに、撮像素子12と対向するビームスプリッタ6の面(図1におけるビームスプリッタ6の上端面)に各種のコーティング技術を用いて検光子を形成するようにしてもよい。これにより、干渉計1の更なるコンパクト化が可能となる。
【0058】
レーザ光源2,偏光板3,ビームエキスパンダ4,集光レンズ5,ビームスプリッタ6,複屈折光学素子7,コリメータレンズ8,支持具9は、単一の光路L1上に配置する必要があるが、光路L1それ自体が単一の直線に沿っている必要はない。
例えば、干渉計1の全長を短縮する必要があるような状況下では、ビームエキスパンダ4と集光レンズ5の間、および、複屈折光学素子7とコリメータレンズ8との間に、相対的に90°の角度を成す反射鏡を各1枚ずつ設置することで、全体としての光路L1を略U字型に屈折させて装置全長の短縮が可能である。
【図面の簡単な説明】
【0059】
【図1】本発明の干渉縞生成方法を適用した一実施形態の干渉計の光学系の構成例について示した図である。
【図2】平面の測定に適したフィゾー干渉計の光学系について簡略化して示した図である。
【図3】球面レンズの測定に適したフィゾー干渉計の光学系について簡略化して示した図である。
【図4】非球面レンズの測定に適したシェアリング干渉計の光学系について簡略化して示した図である。
【符号の説明】
【0060】
1 干渉計
2 レーザ光源
3 偏光板(偏光子)
4 ビームエキスパンダ
5 集光レンズ
6 ビームスプリッタ
7 複屈折光学素子
8 コリメータレンズ
9 支持具
10 偏光板(検光子)
11 結像レンズ
12 撮像素子(受光面)
13 被検体
13a 被検面
14 調整具
100 レーザ光源
101 発散レンズ
102 ビームスプリッタ
103 コリメータレンズ
104 基準板
104’ 基準レンズ
104a 参照面
104a’ 参照面
105 結像レンズ
106 撮像素子(受光面)
107 被検体
107’ 被検体
107” 被検体
107a 被検面
107a’ 被検面
107a” 被検面
108 ビームエキスパンダ
109 ビームスプリッタ
110 ビームスプリッタ
111 コリメータレンズ
112 ビームスプリッタ
113 反射鏡
114 平行平面板

【特許請求の範囲】
【請求項1】
光源と複屈折光学素子とコリメータレンズと被検体とを此の順で単一の光路上に配置し、前記光源から出た光を前記複屈折光学素子に透過させて該複屈折光学素子からの出射角度が微小に異なる2つの光束に分割した後、
前記コリメータレンズに前記2つの光束を透過させて相互に平行な光束とし、一方の光束を第一の検査光として前記被検体の被検面に垂直に照射すると共に他方の光束を第二の検査光として前記被検体の被検面に垂直に照射し、
前記被検面で反射された第一の検査光と前記被検面で反射された第二の検査光とを照射時の経路に沿って逆行する向きで前記コリメータレンズと前記複屈折光学素子に透過させて重ね合わせ、
前記重ね合わせられた光を受光面に投影することによって、
前記被検面の形状を特定するための干渉縞を生成するようにしたことを特徴とする干渉縞生成方法。
【請求項2】
光源と、直線偏光用の偏光子と、ビームスプリッタと、前記光源から出て前記偏光子およびビームスプリッタを透過した光を出射角度が微小に異なる2つの光束に分割する複屈折光学素子と、前記複屈折光学素子から出射された2つの光束を透過させ相互に平行な光束として被検体の被検面に照射するコリメータレンズと、被検体をセットするための支持具とを此の順で単一の光路上に備えると共に、
前記単一の光路から側方にオフセットされた位置には、
前記被検体の被検面で反射されて前記コリメータレンズと前記複屈折光学素子を透過し重ね合わせられて前記ビームスプリッタで反射された光を直線偏光する検光子と、該検光子を透過した光を投影するための受光面とを配備したことを特徴とする干渉計。
【請求項3】
前記複屈折光学素子の配備位置を光路に沿って移動可能としたことを特徴とする請求項2記載の干渉計。
【請求項4】
前記偏光子が、前記光源からの光を受ける側の前記ビームスプリッタの面に一体的に設けられ、前記検光子が、前記受光面と対向する前記ビームスプリッタの面に一体的に設けられていることを特徴とする請求項2または請求項3の何れか一項に記載の干渉計。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【公開番号】特開2009−31166(P2009−31166A)
【公開日】平成21年2月12日(2009.2.12)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2007−196685(P2007−196685)
【出願日】平成19年7月27日(2007.7.27)
【出願人】(592004404)中央精機株式会社 (16)
【Fターム(参考)】