説明

微細構造形成用型および光学素子の製造方法

【課題】微細構造形成用型および光学素子の製造方法において、被加工体の表面形状が変化しても、被加工体の表面に反射防止構造を容易かつ迅速に形成することができるようにする。
【解決手段】曲率を有する凹レンズ面1aを備えるレンズ本体1の凹レンズ面1aに凹凸形状の反射防止部を形成する微細構造形成用型5であって、反射防止部を転写する成形面部5aと、成形面部5aを湾曲可能に支持する基体部5と、基体部5を変形することにより成形面部5aを湾曲させる空洞部6、環状空洞部7、および流体供給部8と、を備える表面加工装置10を用いて、反射防止部を形成する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、微細構造形成用型および光学素子の製造方法に関する。例えば、反射防止構造等の微細構造を形成するための微細構造形成用型および光学素子の製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、例えばカメラ等の撮像レンズのレンズ面には、ゴーストやフレアなどの不要光の映り込みを防止するため、反射防止膜が設けられている。
このようなレンズ等の光学素子の表面に設けられる反射防止膜としては、例えば、反射防止する光の波長に応じて高屈折率層と低屈折率層とを交互に適宜重ね合わせた多層薄膜が知られている。このような多層の反射防止膜は、真空蒸着やスパッタ等の真空プロセスによって形成される。
一方、このような多層薄膜によらない反射防止構造体として、例えば、特許文献1に記載されたように、レンズ表面に三角錐や四角錐などを単位とする微細構造を形成し、レンズ表面の近傍で屈折率変化が生じるようにした反射防止構造体が知られている。
特許文献1では、三角柱が微小ピッチをあけて配列されたX線マスクを形成し、このX線マスクを介してレンズ上に塗布されたレジストにX線を露光して、レンズ表面に三角錐の微細構造を形成する。そして、RFドライエッチングを行うことにより、三角錐の微細構造をレンズ表面に転写して反射防止構造体を形成している。
また、特許文献2には、微細な円錐状の凸部が略稠密状に配置された反射防止部を成形する技術が記載されている。特許文献2に記載の技術では、ガラス板からなる成形型の成形面にエッチング速度傾斜材料の薄層を形成し、この薄層の表面にホトレジスト膜を形成し、このホトレジスト膜に露光・現像を行って所定パターンのマスクを形成し、このマスクを介してエッチング速度傾斜材料層をエッチングすることにより、反射防止部の形状を転写する成形型を形成する。そして、この成形型を用いて、プレス成形を行うことにより反射防止部の形状がレンズ表面に転写された光学素子を形成する。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特開2006−317807号公報
【特許文献2】特開2004−12856号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
しかしながら、上記のような従来技術には、以下の問題があった。
真空蒸着やスパッタ等の真空プロセスによる反射防止膜は、膜厚が管理された薄膜を多層に設ける必要があるため、処理時間が長くなるという問題がある。
また、真空プロセスは指向性が高いため、レンズ形状により、例えば中心部に対する外周部の凹凸量が大きくなるレンズの場合、中心部と外周部とで膜厚が変化する。このため、レンズ面全体にわたって均一な反射防止特性を有する反射防止膜を得ることができず、例えば、中心部に比べて外周部の反射防止特性が劣る反射防止膜になってしまうという問題がある。
特許文献1に記載の技術では、多層膜を用いないため、真空蒸着やスパッタ等の工程は省略することができるものの、光学素子ごとにエッチングを行うため、製造に時間がかかってしまうという問題がある。
特許文献2に記載の技術では、プレス成形によって、反射防止部の形状を転写するため、光学素子ごとに多層膜を形成したり、エッチングを行ったりする場合に比べると、製造時間を短縮できるものの、成形型が、反射防止構造の形状を含むため、通常のレンズ面のみを成形する成形型に比べて高価な金型となる。そして、光学素子のレンズ面の曲率半径等の設計寸法がわずかでも異なる光学素子を製造するためにはこのような高価な成形型を個別に作っておく必要がある。このため、型製作コスト大きくなり、光学素子の製造コストが増大してしまうという問題がある。
【0005】
本発明は、上記のような問題に鑑みてなされたものであり、被加工体の表面形状が変化しても、被加工体の表面に反射防止構造を容易かつ迅速に形成することができる微細構造形成用型および光学素子の製造方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
上記の課題を解決するために、本発明の微細構造形成用型は、曲率を有する表面を備える被加工体の前記表面に凹凸形状の微細構造を形成する微細構造形成用型であって、前記微細構造を転写する成形面部と、該成形面部を湾曲可能に支持する基体部と、該基体部を変形することにより前記成形面部を湾曲させる型変形部と、を備える構成とする。
【0007】
また、本発明の微細構造形成用型では、前記成形面部は、前記基体部の表面に前記微細構造を転写する形状が加工されてなることが可能である。
【0008】
また、本発明の微細構造形成用型では、前記型変形部は、前記被加工体の凹部に対向して前記基体部の表面を突出させる凸変形部および前記被加工体の凸部に対向して前記基体部の表面を凹ませる凹変形部の少なくとも一方を備えることが可能である。
【0009】
また、本発明の微細構造形成用型では、前記型変形部は、前記基体部の内部に流体を収容し、該流体の圧力変化により容積の増大および縮小の少なくとも一方が可能とされた容積変化室と、該容積変化室内の流体の圧力を変化させる圧力制御手段と、を備えることが可能である。
【0010】
また、本発明の微細構造形成用型では、前記基体部は、前記容積変化室を形成する複数の部材が貼り合わされて形成されることが可能である。
【0011】
また、本発明の微細構造形成用型では、前記微細構造は、錘体が集合した反射防止構造であることが可能である。
【0012】
また、本発明の光学素子の製造方法は、曲率を有する光学面を表面に備える被加工体である光学素子本体を形成する工程と、前記光学面に成形用樹脂を塗布する工程と、請求項1〜6のいずれか1項に記載の微細構造成形用型の前記型変形部によって、前記成形面部を前記光学面の形状に沿う形状に変形させた状態で、前記微細構造成形用型の前記成形面部を、前記成形用樹脂を介して前記光学面に押圧し、前記微細構造成形用型の前記成形面部の形状を前記成形用樹脂に転写することにより、前記光学面上に前記微細構造を成形するする工程と、を備える方法である。
【発明の効果】
【0013】
本発明の微細構造形成用型および光学素子の製造方法によれば、型変形部によって成形面部を湾曲させることができるため、被加工体の表面形状が変化しても、被加工体の表面に反射防止構造を容易かつ迅速に形成することができるという効果を奏する。
【図面の簡単な説明】
【0014】
【図1】本発明の第1の実施形態の光学素子の製造方法によって製造された光学素子の構成を示す模式的な平面図、そのA−A断面図、およびB部詳細図である。
【図2】本発明の第1の実施形態の微細構造形成用型および表面加工装置の模式的な構成図、そのC−C断面図、およびD部詳細図である。
【図3】本発明の第1の実施形態の微細構造形成用型の製造工程を示す模式的な工程説明図である。
【図4】本発明の第1の実施形態の微細構造形成用型の図3に続く製造工程を示す模式的な工程説明図である。
【図5】本発明の第1の実施形態の光学素子に製造方法の模式的な工程説明図である。
【図6】本発明の第1の実施形態の光学素子に製造方法の図5に続く模式的な工程説明図である。
【図7】本発明の第1の実施形態の光学素子に製造方法の図6に続く模式的な工程説明図である。
【図8】本発明の第2の実施形態の光学素子の製造方法によって製造された光学素子の模式的な平面図、そのE−E断面図、およびF部詳細図である。
【図9】本発明の第2の実施形態の微細構造形成用型および表面加工装置の模式的な構成図、およびそのG−G断面図である。
【図10】本発明の第2の実施形態の微細構造形成用型の動作説明図である。
【図11】本発明の第2の実施形態の変形例(第1変形例)の微細構造形成用型の構成を示す断面図、およびそのH―H断面図である。
【図12】本発明の第3の実施形態の微細構造形成用型および表面加工装置の模式的な構成図、およびそのJ−J断面図である。
【図13】本発明の第3の実施形態の微細構造形成用型の動作説明図である。
【図14】本発明の第3の実施形態の変形例(第2変形例)の微細構造形成用型の構成を示す模式的な構成図である。
【図15】本発明の第3の実施形態の他の変形例(第3変形例)の微細構造形成用型の主要部の模式的な構成図、およびそのK−K断面図である。
【発明を実施するための形態】
【0015】
以下では、本発明の実施形態について添付図面を参照して説明する。すべての図面において、実施形態が異なる場合であっても、同一または相当する部材には同一の符号を付し、共通する説明は省略する。
【0016】
[第1の実施形態]
本発明の第1の実施形態の微細構造形成用型について説明する。
図1(a)は、本発明の第1の実施形態の光学素子の製造方法によって製造された光学素子の構成を示す模式的な平面図である。図1(b)、(c)は、それぞれ図1(a)におけるA−A断面図、およびB部詳細図である。図2(a)は、本発明の第1の実施形態の微細構造形成用型および表面加工装置の模式的な構成図である。図2(b)、(c)は、それぞれ図2(a)におけるC−C断面図、およびD部詳細図である。
【0017】
本実施形態の微細構造形成用型は、曲率を有する被加工体の表面に凹凸形状の微細構造を形成するものである。
被加工体としては、曲率を有する表面に凹凸形状の微細構造を形成する表面加工を行うものであれば、特に限定されない。また、微細構造は、樹脂成形により形成できる形状であれば特に限定されない。
以下では、一例として、図1(a)、(b)、(c)に示すように、被加工体がレンズ本体1(光学素子本体)であり、微細構造が反射防止部2による反射防止構造の場合の例で説明する。
すなわち、本実施形態では、レンズ本体1に反射防止部2を形成して、光学素子であるレンズ1Aを製造する場合の例で説明する。
【0018】
レンズ本体1は、球面の凹レンズ面1a(曲率を有する表面、光学面)と、平レンズ面1bとを備える単玉の凹平レンズである。本実施形態の微細構造形成用型によれば、凹レンズ面1aにも平レンズ面1bにも反射防止部2を形成することができるが、以下では、凹レンズ面1aに反射防止部2を形成する場合の例を中心として説明する。
また、凹レンズ面1aは、反射防止部2を形成する前に、レンズの設計仕様に基づく面形状、面精度に加工されている。面形状の設計データは、後述する表面加工装置10の流体供給部8に予め記憶されている。
レンズ本体1の材質は、ガラスでも合成樹脂でもよい。また、凹レンズ面1aの形成方法は、研磨でもよいし成形でもよい。
【0019】
反射防止部2は、図1(c)に示すように、凹レンズ面1a上に密集して配置された円錐状の突起2aの集合体であり、本実施形態では、UV硬化樹脂によって形成されている。UV硬化樹脂の種類は、レンズ本体1の材質の屈折率に応じて、屈折率差がなるべく少なくなる材質を選定する。例えば、本実施形態では、レンズ本体1がCOP(シクロオレフィンポリマー)樹脂(屈折率1.5)である場合に、UV硬化樹脂は、PAK−02(商品名;東洋合成工業(株)製、屈折率1.5)を採用している。
突起2aの形状は、反射防止する波長や反射率の目標値に応じて適宜設定することができる。本実施形態では、一例として、波長380nm〜780nmの入射光の凹レンズ面1aでの反射率を1%以下にするために、各突起2aの形状を、底面が直径約200nm、高さが約200nmとなり、隣接ピッチ約200nmで略均一に配置している。
このような構成により、凹レンズ面1a上では、高さ200nmの範囲で、屈折率が1から1.5に連続的に変化するため、入射光の反射が抑制される。
【0020】
このようなレンズ1Aは、本実施形態では、図2(a)に示す表面加工装置10を用いて、レンズ本体1の凹レンズ面1aに反射防止部2を形成することにより製造される。
【0021】
表面加工装置10の概略構成は、保持部3、UV光源4、微細構造形成用型5、および流体供給部8(圧力制御手段)を備える。
【0022】
保持部3は、表面加工を行う際にレンズ本体1を保持するもので、本実施形態では、光軸Oを鉛直軸に整列させて、凹レンズ面1aを上方に向けた状態で、平レンズ面1bの外周部およびレンズ側面を保持することができるようになっている。
保持部3の中心部には、レンズ1Aのレンズ有効径よりも大きく開口した孔部3aが貫通して設けられている。
孔部3aの中心軸は、保持部3に保持されたレンズ本体1の光軸Oと整列する位置関係にある。
【0023】
UV光源4は、紫外光(UV光)をレンズ本体1に照射する光源であり、凹レンズ面1aに塗布されたUV硬化樹脂を硬化させるために用いられる。本実施形態では、UV光源4は、保持部3の下方において、孔部3aの中心に重なる位置に配置されている。このため、UV光源4から上方に照射されたUV光は、孔部3aを通過して、レンズ本体1に入射し、凹レンズ面1aの全面に照射される。
【0024】
微細構造形成用型5は、平たい略円柱状の外形を有し、保持部3の上方に配置されている。微細構造形成用型5の中心軸線Zは、鉛直軸に沿って配置され、保持部3に保持されたレンズ本体1の光軸Oと整列されている。
また、微細構造形成用型5は、下側からそれぞれ同径の円板状の外形を有する、基体部5Aと、ベース部材5Bとを備える。
ベース部材5Bの上端部の中心部には、図示略の駆動機構によって鉛直軸に沿って進退する昇降アーム9が連結されている。このため、微細構造形成用型5は、昇降アーム9を進退させることにより鉛直軸に沿う昇降移動が可能である。
【0025】
基体部5Aは、下面側に反射防止部2の形状を転写するため、反射防止部2の凹凸形状を反転させた凹凸形状を有する成形面部5aが設けられ、上面はベース部材5Bの下面と接合されている。
本実施形態では、成形面部5aの形状は、下端側の平面(以下、先端面と称する)に、突起2aの形状を反転させた円錐状の穴部が多数形成された形状を有し、全体として凹型の形状である。また、成形面部5aは、基体部5Aの表面に反射防止部2を転写する形状が加工されている構成を備えている。
基体部5Aの材質は、例えば、ゴムやエラストマーなどの変形が容易な弾性体からなる。このため、基体部5Aは、成形面部5aを湾曲可能に支持している。
本実施形態では、基体部5Aの材質は、一例として、シリコン混和物からなるゴムを採用している。
基体部5Aの内部には、成形面部5a寄りの位置に、空洞部6と、環状空洞部7とが設けられている。
【0026】
空洞部6は、基体部5Aの平面視の中心部に設けられた球状または上下方向に偏平な回転楕円体状の空間である。空洞部6の上部には、金属パイプなどからなる流体供給路6aが貫通され、流体供給路6aを通して、外部との間で流体の流入および排出が可能になっている。
環状空洞部7は、円状または楕円状の断面を有する環状の空間であり、空洞部6に対して同心円をなす位置に配置されている。環状空洞部7の上部には、金属パイプなどからなる流体供給路7aが貫通され、流体供給路7aを通して、外部との間で流体の流入および排出が可能になっている。
【0027】
ベース部材5Bは、柔軟な微細構造形成用型5の上面を固定する部材であり、例えば、金属など基体部5Aに比べて変形しにくい高剛性の材質によって構成される。
また、ベース部材5Bは、昇降アーム9の昇降動作に伴って昇降アーム9から微細構造形成用型5に圧力が作用する場合に、この圧力を基体部5Aの上面に分散する機能を有している。
ベース部材5Bの内部には、基体部5Aから上側に延出された流体供給路6a、7aが配管されている。
流体供給路6a、7aはそれぞれベース部材5Bの側面に延ばされ、ベース部材5Bの側面において、可撓性を有する流体供給管8a、8bとそれぞれ接続されている。
【0028】
流体供給部8は、流体供給管8a、8bを介して、流体供給路6a、7aに流体を送出または吸引するものである。流体供給部8の詳細構成の図示は省略するが、例えば、流体を貯留する流体貯留部と、流体を流体供給管8a、8bに対してそれぞれ独立に送出または吸引する2系統のポンプ部と、各ポンプ部の動作を制御する圧力制御部とを備える。
流体供給部8が供給する流体としては、例えば空気などの気体でもよいし、例えば水などの液体でもよい。本実施形態では、一例として、流体供給部8は空気を供給し、空気圧を制御することで、空洞部6、環状空洞部7の容積を制御できるようになっている。
【0029】
空洞部6、環状空洞部7、および流体供給部8は、基体部5Aを変形することにより成形面部5aを湾曲させる型変形部を構成している。
また、空洞部6および環状空洞部7は、基体部5Aの内部に流体を収容し、この流体の圧力変化により容積の増大および縮小の少なくともいずれか可能とされた容積変化室を構成している。
また、流体供給部8は、容積変化室内の流体の圧力を変化させる圧力制御手段を構成している。
【0030】
次に基体部5Aの製造方法の一例について説明する。
図3(a)、(b)、(c)、(d)は、本発明の第1の実施形態の微細構造形成用型の製造工程を示す模式的な工程説明図である。図4(a)、(b)、(c)は、本発明の第1の実施形態の微細構造形成用型の図3(d)に続く製造工程を示す模式的な工程説明図である。なお、図3(a)、(b)、(c)、(d)は、見易さのため、主要部の部分拡大図として描いている。
【0031】
本実施形態では、一例として、図4(a)に示すように、表面層部材14、第1基体部材15A、および第2基体部材15Bの3部材を接合して一体化することにより、基体部5Aを製造している。
このように、基体部5Aを分割して製造することにより、ナノインプリント技術のような微細加工技術を必要とする表面層部材14の製造工程と、一般的な成形技術を採用することができる第1基体部材15A、第2基体部材15Bの製造工程とを分けることができるため効率的な製造を行うことができる。
【0032】
表面層部材14は、シリコン混和物からなるゴム製のシート状部材の一方の表面に成形面部5aが形成され、他方の表面が滑らかな平面からなり、第1基体部材15Aと貼り合わせて接合することが可能な接合面14aを有する部材である。
表面層部材14を製造するには、図3(a)に示すように、例えばシリコンからなる平板状のマスター基材11の基材表面11a上に、反転微細構造体12を形成する。
反転微細構造体12の形状は、反射防止部2の形状を転写するための形状であり、成形面部5aと同じ形状である。すなわち、本実施形態では、突起2aの形状に沿った円錐状の穴部が密集して配置された、全体として凹型の形状である。
反転微細構造体12は、例えば、基材表面11a上にレジストを塗布し、例えば電子線描画装置によって形状パターンを露光した後、露光部を除去することにより形成することができる。
【0033】
次に、図3(b)に示すように、反転微細構造体12が除去されるまで、ドライエッチングなどによる異方性エッチングを行う。これにより、基材表面11aが、反転微細構造体12の外形に沿ってエッチングされ、反転微細構造体12の表面形状がマスター基材11の表面に転写される。これにより、基材表面11a側の表面に反転微細構造部11bが形成される。
以下、反転微細構造部11bが形成されたマスター基材11をマスター型11Aと称する。
【0034】
次に、図3(c)に示すように、マスター型11Aを母型として、反転型13を形成する。例えば、UV硬化樹脂をUVインプリントを用いてガラス等の透明かつ平面基板上に微細構造転写を行うことにより、反転型13を形成する。また、反転型13の製作方法は、樹脂フィルムに加熱下でマスター型11Aを押し付けることによっても製作可能である。
これにより、反転微細構造部11bの形状を反転した微細構造部13aを表面に有する全体として平板状の反転型13が得られる。微細構造部13aの形状は、反転微細構造部11bを反転した形状であるため、反射防止部2と同様の円錐状の突起が密集して配置された、全体として凸型の形状である。
マスター型11Aの製作を省略して反転型13から製作を行ってもよいが、エッチングでは、凹型の形状を製作する方が凸型の形状を製作するよりも容易であり、形状精度も良好となる。このため、本実施形態では、凹型の形状のマスター型11Aを作成する製造方法を採用している。
【0035】
次に反転型13を母型とし、ナノインプリント技術を用いて、微細構造部13aの形状を転写し、表面層部材14を形成する。
ナノインプリント技術としては、熱方式や光硬化方式を挙げることができる。本実施形態では、光硬化方式を採用している。すなわち、光(UV)硬化型樹脂をマスター型11Aと基板の間に塗布して所定の光を照射することにより、成形面部5aおよび接合面14aを有する表面層部材14を形成することができる。
【0036】
第1基体部材15A、第2基体部材15Bは、図4(a)に示すように、基体部5Aから表面層部材14を除去した円板状の部材を、空洞部6および環状空洞部7の中心を通る平面で厚さ方向(図示上下方向)に分断した形状を有する部材である。
このため、第1基体部材15Aは、厚さ方向の一方の表面に表面層部材14の接合面14aと貼り合わせて接合可能な滑らかな平面からなる接合面15cを有し、他方の表面に第2基体部材15Bと貼り合わせて接合するための滑らかな平面からなる接合面15aと、接合面15aから内部側に凹んだ穴部6A、環状溝部7Aとを備えた形状を有する。
また、第2基体部材15Bは、厚さ方向の一方の表面に第1基体部材15Aの接合面15aと貼り合わせて接合可能な滑らかな平面からなる接合面15bと、接合面15bから内部側に凹んだ穴部6B、環状溝部7Bとを有し、他方の表面にベース部材5Bと貼り合わせて接合するための滑らかな平面からなる接合面15eを備えた形状を有する。
ここで、穴部6A、環状溝部7Aの開口と、穴部6B、環状溝部7Bの開口とは、それぞれ同形状を有し、第1基体部材15Aの中心位置と、第2基体部材15Bの中心位置に対して、同じ位置関係に配置されるように形成されている。
このような構成の第1基体部材15A、第2基体部材15Bは、表面層部材14と同じ材料を用いて、成形、もしくは機械加工により製作される。それぞれの外形形状を転写する金型を用いて成形を行うか、またはシリコン混和物からなるゴムをブロック状に成形してから穴部6A、6B等の形状を機械加工することによって製造することができる。
【0037】
次に、図4(b)に示すように、第1基体部材15A、第2基体部材15Bをそれぞれ接合面15a、15b同士を当接させて互いに接合し、基体部本体15を形成する。さらに第1基体部材15Aの接合面15cと表面層部材14の接合面14aとを当接させて、互いに接合する。これにより、基体部本体15および表面層部材14が一体化される。
各接合面の接合方法としては、後述するように空洞部6、環状空洞部7内の圧力を制御してある程度変形させても剥離しない接合強度が得られる適宜の接合方法を採用することができる。本実施形態では、一例として、酸素プラズマを用いた活性化接合を採用している。
【0038】
次に、図4(c)に示すように、基体部本体15の接合面15eから、それぞれ空洞部6、環状空洞部7の上部に貫通するようにそれぞれ金属パイプを挿入して、流体供給路6a、7aを形成する。
このようにして、基体部5Aが製造される。
基体部5Aは、ベース部材5B内に予め配置された流体供給路6a、7aを接合面15e側の流体供給路6a、7aを接続するとともに、接合面15eをベース部材5Bの下面に固定する。
固定方法としては、例えば接着を採用することができる。ただし、第2基体部材15Bを製造する際に、接合面15eに代えて、ねじ部や嵌合部等が形成された接合部材を取り付けておき、この接合部材を介してベース部材5Bと着脱可能に固定するようにしてもよい。
【0039】
なお、上述した基体部5Aの製造方法は一例であって、適宜変形することが可能である。
例えば、マスター型11Aを形成する場合に、ドライエッチングの代わりに、アルミ陽極酸化等の選択的なエッチングを採用してもよい。
【0040】
次に、本実施形態の微細構造形成用型5を用いた本実施形態の光学素子の製造方法について説明する。
図5は、本発明の第1の実施形態の光学素子に製造方法の模式的な工程説明図である。図6は、本発明の第1の実施形態の光学素子に製造方法の図5に続く模式的な工程説明図である。図7は、本発明の第1の実施形態の光学素子に製造方法の図6に続く模式的な工程説明図である。
【0041】
本方法によりレンズ1Aを製造するには、まず、例えば、切削・研磨、ガラスモールド成形、樹脂成形等の適宜の加工を行って、レンズ本体1を形成する。
次に、図5に示すように、レンズ本体1を、凹レンズ面1aが微細構造形成用型5の方に向いた姿勢で、表面加工装置10の保持部3に保持させる。
【0042】
次に、凹レンズ面1a上に、UV硬化樹脂16(成形用樹脂)を塗布する。UV硬化樹脂16の種類は、本実施形態では、一例として、PAK−02(商品名)を採用している。
UV硬化樹脂16は、図5に示すように、中心部に塊状に塗布して、後述する微細構造形成用型5を押圧する工程で、外周部に塗り拡げられるようにしてもよいし、例えば、スピンコート等によって、予め凹レンズ面1aの全体にわたって層状に塗布しておいてもよい。
【0043】
UV硬化樹脂16の塗布が完了するまでの間に、流体供給部8によって、空洞部6および環状空洞部7内の圧力を調整し、成形面部5aが凹レンズ面1aの形状に沿う形状に変形しておく。本実施形態では、凹レンズ面1aが凹球面であるため、空洞部6および環状空洞部7を膨張させて、成形面部5aの中心部が下方に突出する凸球面状の形状となるように変形させる。
このとき、成形面部5aの先端面は、凹レンズ面1aと同形状の球面になることが好ましいが、微細構造形成用型5はシリコン混和物からなるゴム部材を貼り合わせて形成しているため、変形容易な弾性体になっている。
したがって、後述する押圧時に成形面部5aが凹レンズ面1aに倣って変形するため、未押圧時の先端面の形状は凹レンズ面1aと略同径の球面または球面に近似する形状であればよい。ただし、成形面部5aの先端面が、凹レンズ面1aと同形状の球面にならない場合には、成形面部5aが凹レンズ面1aの面頂から当接し外周側に向かって凹レンズ面1aとの間に隙間が漸次増大する形状であることがより好ましい。具体的には、例えば、成形面部5aの先端面の曲率半径が凹レンズ面1aの曲率半径よりわずかに小さい球面や、曲率半径が中心部から外周側に向かって漸減する非球面などの形状がより好ましい。
本実施形態では、反射防止部2の形成後の反射率バラツキの発生位置と、空洞部6、環状空洞部7の圧力値との相関を実験的に調べておき、反射率バラツキが許容範囲となる目標圧力値を流体供給部8に設定している。
【0044】
このように、空洞部6、環状空洞部7は、被加工体の凹部に対向して基体部の表面を突出させる凸変形部を構成している。
このため、本実施形態は、被加工体の1つの凹部に対して、複数の凸変形部を備える場合の例になっている。
【0045】
次に、図6に示すように、昇降アーム9を下降させて、微細構造形成用型5の成形面部5aを、UV硬化樹脂16を介して凹レンズ面1aに押圧する。
これにより、未押圧時に成形面部5aの先端面の形状と凹レンズ面1aの形状とに差がある場合にも、柔軟な成形面部5aが変形して、凹レンズ面1aに密着する。
ただし、押圧力が大きすぎると、成形面部5aの穴部の形状が変形して反射防止部2の突起2aの形状誤差が発生しやすくなる。
また押圧力が小さすぎると、成形面部5aの変形が不十分となって、成形面部5aの先端面と凹レンズ面1aとが当接しない部分ができるため、残膜が発生しやすくなる。
これらの押圧力不良は、いずれも反射防止部2の形状不良となって、反射防止部2に反射率バラツキを発生させる。そこで本実施形態では、予めUV硬化樹脂16の粘度、押圧力を変えて、反射防止部2の反射率バラツキを調べる実験を行い、反射率バラツキが許容範囲となるUV硬化樹脂16の粘度および押圧力の条件を調べ、好適な押圧力に設定している。
【0046】
次に、微細構造形成用型5を凹レンズ面1aに押圧した状態で、UV光源4を点灯する。これにより、孔部3aからレンズ本体1に紫外光が入射し、レンズ本体1の内部から凹レンズ面1aに紫外光が照射される。
これにより、凹レンズ面1aと成形面部5aとで挟まれた空間に充填されたUV硬化樹脂16が光硬化し、凹レンズ面1a上に反射防止部2が形成される。
UV硬化樹脂16の硬化が終了したら、図7に示すように、UV光源4を消灯し、昇降アーム9を上昇させて、微細構造形成用型5を凹レンズ面1aから離間させる。
【0047】
このとき、上昇と並行して、空洞部6、環状空洞部7の圧力を漸減して、成形面部5aを変形前の形状に戻していくことが好ましい。この場合、例えば、空洞部6、環状空洞部7の順次圧力を漸減すると、まず空洞部6の縮小により、成形面部5aの中心部が上方に引き上げられる。このため、成形面部5aの中心部から外周側に向かって、徐々に離型が進むため、微細構造形成用型5の全体を反射防止部2から離型する場合に比べて、離型抵抗が少なくなり、反射防止部2の形状精度を向上することができる。
【0048】
このようにして、凹レンズ面1aに反射防止部2が形成されたレンズ1Aが製造される。
なお、表面加工装置10によって、平レンズ面1bにも反射防止部を設ける場合には、保持部3にレンズ1Aを反転して保持させ、空洞部6、環状空洞部7の圧力を、成形面部5aが略平面となるように調整することで、上記と同様にして、反射防止部を形成することができる。
【0049】
本実施形態の微細構造形成用型5を備える表面加工装置10では、空洞部6、環状空洞部7内の流体の圧力を調整することにより、成形面部5aの形状を変化させることができる。このため、例えば、凹レンズ面1aの曲率半径と異なる凹レンズ面に対しても、流体供給部8によって空洞部6、環状空洞部7内の流体の圧力を変更するだけで、成形面部5aを被加工体の表面に密着して押圧することができるため、精度よく反射防止部2を形成することができる。
したがって、レンズ面の形状が異なるレンズ本体に対して、他の微細構造形成用型を用意したり、微細構造形成用型5を他の微細構造形成用型と交換したりすることなく、続けて反射防止部2の形成を行うことができる。このため、被加工体の表面形状が変化しても、被加工体の表面に反射防止構造体を容易かつ迅速に形成することができる。
この結果、反射防止部を備える光学素子の製造コストを低減することができる。
【0050】
[第2の実施形態]
本発明の第2の実施形態の微細構造形成用型について説明する。
図8(a)は、本発明の第2の実施形態の光学素子の製造方法によって製造された光学素子の構成を示す模式的な平面図である。図8(b)、(c)は、それぞれ図8(a)におけるE−E断面図、およびF部詳細図である。図9(a)は、本発明の第1の実施形態の微細構造形成用型および表面加工装置の模式的な構成図である。図9(b)は、図9(a)におけるG−G断面図である。
【0051】
本実施形態の微細構造形成用型25(図9(a)参照)は、上記第1の実施形態と同様に被加工体の表面に反射防止部2を形成する型であるが、上記第1の実施形態におけるレンズ本体1の凹レンズ面1aに代えて、表面に凹凸が混在する形状を有する被加工体に反射防止部2を形成できるようにしたものである。
以下では、被加工体の一例として、図8(a)、(b)、(c)に示すレンズ本体21
を用いる場合の例で説明する。
【0052】
レンズ本体21は、非球面レンズ面21a(曲率を有する表面、光学面)と、平レンズ面1bとを備え、全体として正の屈折力を有する単玉の非球面レンズである。
非球面レンズ面21aは、光軸Oを中心とする部分的な凸面の外周に部分的な凹面が形成され、この凹面の外周に部分的な凸面が形成された、全体として凸面状を有する回転対称非球面である。ここで、部分的な凸面、凹面は、例えば、非球面レンズ面21aの近似球面に対する凹凸関係を意味する。図8(a)、(b)には、これら凸面、凹面、凸面の頂点位置(近似球面に下ろした足の長さが最大となる位置)を、それぞれ面頂P1,谷底線V1、稜線P2として示している。
このような非球面レンズは、例えば、複数枚構成の撮像レンズ系の一部に用いることができる。
また、本実施形態の微細構造形成用型25によれば、上記第1の実施形態の微細構造形成用型5と同様に、平レンズ面1bにも反射防止部2を形成することができるが、以下では、非球面レンズ面21aに反射防止部2を形成する場合の例を中心として説明する。
また、非球面レンズ面21aは、反射防止部2を形成する前に、レンズの設計仕様に基づく面形状、面精度に加工されている。面形状の設計データは、後述する表面加工装置20の流体供給部8Aに予め記憶されている。
レンズ本体21の材質は、ガラスでも合成樹脂でもよい。また、非球面レンズ面21aの形成方法は、研磨でもよいし成形でもよい。
【0053】
このようなレンズ21Aは、本実施形態では、図9(a)に示す表面加工装置20によって、レンズ本体21の非球面レンズ面21aに反射防止部2を形成することによって製造される。
【0054】
表面加工装置20は、上記第1の実施形態の表面加工装置10において、微細構造形成用型5、流体供給部8を、微細構造形成用型25、流体供給部8A(圧力制御手段)に代えたものである。以下、上記第1の実施形態と異なる点を中心に説明する。
【0055】
微細構造形成用型25は、微細構造形成用型5の基体部5A、ベース部材5Bに代えて、基体部25A、ベース部材25Bを備える。
【0056】
基体部25Aは、ゴムやエラストマーなどの変形が容易な弾性体からなり、上記第1の実施形態の基体部5Aと同様の材質により形成されている。ただし、基体部5Aの空洞部6、環状空洞部7に代えて、空洞部26、環状空洞部27、28を備える。
【0057】
空洞部26は、基体部25Aの平面視の中心部に設けられた上下方向に偏平な回転楕円体状の空間である。空洞部26の上部には、金属パイプなどからなる流体供給路26aが貫通され、流体供給路26aを通して、外部との間で流体の流入および排出が可能になっている。本実施形態では、特に流体を排出して、成形面部5aを部分的な凹面形状に変形させる機能を備える。
【0058】
環状空洞部27は、円状または楕円状の断面を有する環状の空間であり、図9(b)に示すように、空洞部26の中心に対して同心円をなす円C1を中心とする位置に配置されている。また、環状空洞部27の上部には、金属パイプなどからなる流体供給路27aが貫通され、流体供給路27aを通して、外部との間で流体の流入および排出が可能になっている。本実施形態では、特に流体を流入させて、成形面部5aを平面視円状の部分的な凸面形状に変形させる機能を備える。ここで、円C1は、レンズ本体21の谷底線V1と略対向する位置に設定される。
【0059】
環状空洞部28は、円状または楕円状の断面を有する環状の空間であり、図9(b)に示すように、空洞部26の中心に対して同心円をなす、円C1よりも大径の円C2を中心とする位置に配置されている。また、環状空洞部28の上部には、金属パイプなどからなる流体供給路28aが貫通され、流体供給路28aを通して、外部との間で流体の流入および排出が可能になっている。本実施形態では、特に流体を流入させて、成形面部5aを平面視円状の部分的な凸面形状に変形させる機能を備える。ここで、円C2は、レンズ本体21の稜線P2よりも外周側の位置であって、レンズ本体21の外形よりも外周側の位置に設定される。
【0060】
このような構成の基体部25Aは、上記第1の実施形態の基体部5Aと空洞部26、環状空洞部27、28の形状や配置が異なるのみであり、基体部5Aと略同様にして製造することができる。
このような構成により、空洞部26は、保持部3に保持されたレンズ本体21の面頂P1に対向する位置に配置されている。また、環状空洞部27は、非球面レンズ面21aの部分的な凹面に略対向する位置に配置されている。また、環状空洞部27、28は、稜線P2を内周側および外周側から挟む位置関係の同心円状に配置されている。
【0061】
ベース部材25Bは、上記第1の実施形態のベース部材5Bと同様の部材であり、内部に、流体供給路6a、7aに代えて、基体部25Aから上側に延出された流体供給路26a、27a、28aが配管されている点が異なる。
流体供給路26a、27a、28aはそれぞれベース部材25Bの側面に延ばされ、ベース部材25Bの側面において、可撓性を有する流体供給管8a、8b、8cとそれぞれ接続されている。
【0062】
流体供給部8Aは、流体供給管8a、8b、8cを介して、流体供給路26a、27a、28aに流体を送出または吸引するものであり、3系統のポンプ部と、各ポンプ部の動作を制御する圧力制御部とを備える点以外は、流体供給部8と同様な構成を備える。
これにより、流体供給部8Aは空洞部26、環状空洞部27、28に空気を供給し、空気圧を制御することで、空洞部26、環状空洞部27、28の容積を制御できるようになっている。
【0063】
空洞部26、環状空洞部27、28、および流体供給部8Aは、基体部25Aを変形することにより成形面部5aを湾曲させる型変形部を構成している。
また、空洞部26、環状空洞部27、28は容積変化室を、流体供給部8Aは容積変化室内の流体の圧力を変化させる圧力制御手段を構成している。
【0064】
次に、本実施形態の微細構造形成用型25を用いた本実施形態の光学素子の製造方法について、上記第1の実施形態と異なる点を中心に説明する。
図10は、本発明の第2の実施形態の微細構造形成用型の動作説明図である。
【0065】
本方法によりレンズ21Aを製造するには、まず、例えば、切削・研磨、ガラスモールド成形、樹脂成形等の適宜の加工を行って、レンズ本体21を形成する。
次に、図9(a)に示すように、レンズ本体21を、非球面レンズ面21aが微細構造形成用型25の方に向いた姿勢で、表面加工装置20の保持部3に保持させる。
【0066】
次に、上記第1の実施形態と同様にして、非球面レンズ面21a上に、UV硬化樹脂16を塗布する。
一方、UV硬化樹脂16の塗布が完了するまでの間に、流体供給部8Aによって、空洞部26、環状空洞部27、28内の圧力を調整し、成形面部5aが非球面レンズ面21aの形状に沿う形状に変形しておく。
【0067】
本実施形態では、非球面レンズ面21aが凹凸面を含む全体として凸面状の回転対称非球面であるため、図10に示すように、空洞部26を収縮して、成形面部5aの中心部に凹面部を形成し、環状空洞部27、28を膨張させる。
環状空洞部27の近傍では成形面部5aが図示下方側に突出されるため、平面視円状の部分的な凸面が形成される。
同様に、環状空洞部28の近傍では、成形面部5aが図示下方側に突出されるため、平面視円状の部分的な凸面が形成される。これにより、環状空洞部27、28の間には、平面視円状の部分的な凹面が形成される。
このような変形により、円C2と円C1との間の領域に、レンズ本体21の外縁部の形状が反転した凹状の形状が形成される(図10の二点鎖線のレンズ本体21参照)。
【0068】
このとき、成形面部5aの先端面は、非球面レンズ面21aと同形状の非球面になることが好ましいが、上記第1の実施形態と同様、微細構造形成用型25は変形容易な弾性体で形成されているため、未押圧時の先端面の形状は非球面レンズ面21aに近似する形状であればよい。
好ましい近似形状が得られる空洞部26、環状空洞部27、28の圧力値は、上記第1の実施形態と同様に、反射防止部2の形成後の反射率バラツキの発生位置と、空洞部26、環状空洞部27、28の圧力値との相関を実験的に調べることで、反射率バラツキが許容範囲となる目標圧力値として流体供給部8Aに設定されている。
【0069】
このように、空洞部26は被加工体の凸部に対向して基体部の表面を凹ませる凹変形部を構成している。また、環状空洞部27は、被加工体の凹部に対向して基体部の表面を突出させる凸変形部を構成している。
このため、本実施形態は、被加工体の1つの凸部に対して1つの凹変形部を備え、被加工体の1つの凹部に対して1つの凸変形部を備える場合の例になっている。
また、環状空洞部27、28は、2つの凸変形部の組合せによって、それらの間に凹部を形成することができる場合の例になっている。
【0070】
続いて、上記第1の実施形態と同様にして、微細構造形成用型25を非球面レンズ面21aに押圧する工程と、微細構造形成用型25を非球面レンズ面21a押圧した状態で、UV光源4を点灯して、非球面レンズ面21aと成形面部5aとで挟まれた空間に充填されたUV硬化樹脂16を硬化させる工程とを行い、非球面レンズ面21a上に反射防止部2を形成する。
UV硬化樹脂16の硬化が終了したら、上記第1の実施形態と同様にして、微細構造形成用型25を非球面レンズ面21aから離間させる。
【0071】
このとき、上昇と並行して、空洞部26、環状空洞部27、28の圧力を漸減して、成形面部5aを変形前の形状に戻していくことが好ましい。
本実施形態では、非球面レンズ面21aが全体として凸面であるため、まず、環状空洞部28、27の順に圧力を漸減し、最後に空洞部26の圧力を漸増して、非球面レンズ面21aの外周側から順次離型させていくことが好ましい。
【0072】
このようにして、非球面レンズ面21aに反射防止部2が形成されたレンズ21Aが製造される。なお、表面加工装置20においても、上記第1の実施形態の表面加工装置10と同様にして、平レンズ面1bに反射防止部2を設けることができる。
【0073】
このように、微細構造形成用型25を備える表面加工装置20では、空洞部26、環状空洞部27、28内の流体の圧力を調整することにより、成形面部5aの形状を変化させることができる。このため、例えば、中心から外周に向かって、凸面、凹面、凸面が形成される非球面であれば、曲面の形状が非球面レンズ面21aと異なる場合でも、流体供給部8Aによって空洞部26、環状空洞部27、28内の流体の圧力を変更するだけで、成形面部5aを被加工体の表面に密着して押圧することができるため、精度よく反射防止部2を形成することができる。
したがって、レンズ面の形状が異なるレンズ本体に対して、他の微細構造形成用型を用意したり、微細構造形成用型25を他の微細構造形成用型と交換したりすることなく、続けて反射防止部2の形成を行うことができる。このため、被加工体の表面形状が変化しても、被加工体の表面に反射防止構造体を容易かつ迅速に形成することができる。
この結果、反射防止部を備える光学素子の製造コストを低減することができる。
【0074】
[第1変形例]
次に、本発明の第2の実施形態の変形例(第1変形例)の微細構造形成用型について説明する。
図11(a)は、本発明の第2の実施形態の変形例(第1変形例)の微細構造形成用型の構成を示す断面図である。図11(b)は、図11(a)におけるH―H断面図である。
【0075】
本変形例の微細構造形成用型29は、図11(a)、(b)に示すように、上記第2の実施形態の微細構造形成用型25の基体部25Aに代えて、基体部25Aと同様な外形を備え、下端面に成形面部5aを有する基体部25Dを備える。
微細構造形成用型29は、上記第2の実施形態の表面加工装置20において、微細構造形成用型25に代えて用いることができる。
以下、上記第2の実施形態と異なる点を中心に説明する。
【0076】
基体部25Dは、ゴムやエラストマーなどの変形が容易な弾性体からなり、上記第2の実施形態の基体部25Aと同様の材質により形成されている。ただし、基体部25Aの空洞部26、環状空洞部27、28に代えて、空洞部26A、環状空洞部27A、28Bを備える。
空洞部26Aは、空洞部26と同位置に設けられており、上下方向に偏平な円柱状の空間である点が空洞部26と異なる。空洞部26Aの上部には、空洞部26と同様に流体供給路26aが貫通されている。
環状空洞部27A、28Aは、それぞれ環状空洞部27A、28Aと同位置に設けられており、矩形状の断面を有する環状の空間である点が環状空洞部27、28と異なる。環状空洞部27A、28Aの上部には、それぞれ流体供給路27a、28aが貫通されている。
【0077】
このような構成の基体部25Dは、基体部材15Cと表面層部材14とが接合して形成されている。
基体部材15Cは、例えば、シリコン混和物からなるゴム製の円板部材の厚さ方向の一方の面に、空洞部26A、環状空洞部27A、28Aの形状にそれぞれ対応する円穴部17A、環状角溝部17B、17Cを形成した部材である。
円穴部17A、環状角溝部17B、17Cは、上記第1の実施形態の穴部6A、環状溝部7Aと同様に、成形や機械加工によって形成することができる。
表面層部材14は、基体部材15Cの円穴部17A、環状角溝部17B、17Cが形成された側の面に、上記第1の実施形態の第1基体部材15Aおよび第2基体部材15Bと同様にして接合されている。
【0078】
これにより、円穴部17A、環状角溝部17B、17Cの開口が塞がれて、流体供給路26a、27a、28aから供給される流体の圧力に応じて変形可能な空洞部26A、環状空洞部27A、28Bが形成される。
本変形例では、上記第2の実施形態のレンズ21Aを製造するため、空洞部26Aは、流体を流入させて、成形面部5aを平面視円状の部分的な凸面形状に変形させる機能を備える。また、環状空洞部27A、28Aは、流体を流入させて、成形面部5aを平面視円状の部分的な凸面形状に変形させる機能を備える。
【0079】
このような構成の微細構造形成用型29によれば、表面加工装置20の微細構造形成用型25に代えて用いることにより、上記第2の実施形態と同様にして、レンズ本体21の非球面レンズ面21aに反射防止部2を形成することができる。
本変形例は、容積変化室の断面形状が、矩形状の場合の例になっている。
【0080】
[第3の実施形態]
本発明の第3の実施形態の微細構造形成用型について説明する。
図12(a)は、本発明の第3の実施形態の微細構造形成用型および表面加工装置の模式的な構成図である。図12(b)は、図12(a)におけるJ−J断面図である。
【0081】
本実施形態の微細構造形成用型35は、図12(a)に示すように、表面加工装置30に用いることにより、上記第2の実施形態と同様に被加工体の表面に反射防止部2を形成する型である。
表面加工装置30は、上記第2の実施形態の表面加工装置20の微細構造形成用型25、流体供給部8Aに代えて、微細構造形成用型35、圧電素子制御部38を備える。
以下、上記第2の実施形態と異なる点を中心に説明する。
【0082】
微細構造形成用型35は、上記第2の実施形態の微細構造形成用型25の基体部25A、ベース部材25Bに代えて、基体部35A、ベース部材35Bを備える。
基体部35Aは、基体部25Aと同材質の変形が容易な弾性体からなり、同様な略円板状の外形を有している。すなわち、厚さ方向の一方の面に成形面部5aが形成され、他方の面にベース部材35Bの下面と接合する接合面35aが形成されている。
基体部35Aの内部には、平面視の中心部において、成形面部5a寄りの位置に、圧電素子36Aが埋設されている。また、上記第2の実施形態の円C1、C2上において成形面部5a寄りの位置に、各円周を等分する位置に複数の圧電素子36B、36Cが埋設されている。
圧電素子36A、36B、36Cは、電圧印加時の伸縮方向が基体部35Aの厚さ方向に沿う姿勢をとり、基体部35Aに囲まれた状態で埋設されている。
【0083】
各圧電素子36A、36B、36Cには、配線38a、38b、38cが接続されている。各配線38a、38b、38cは、接合面38aからベース部材35Bの内部に導入され、ベース部材35Bの側面から外部に延出され、圧電素子制御部38と電気的に接続されている。
【0084】
ベース部材35Bは、内部に配線38a、38b、38cが挿通されている以外は、ベース部材25Bと同様の部材であり、下面に基体部35Aが接合され、上面に昇降アーム9が接続されている。
【0085】
圧電素子制御部38は、配線38a、38b、38cを介して、各圧電素子36A、36B、36Cに独立に駆動電圧を供給するものである。
これにより、圧電素子制御部38は、各圧電素子36A、36B、36Cに適宜の駆動電圧を印加することで、各圧電素子36A、36B、36Cを独立に伸縮させることができる。この伸縮に伴って、各圧電素子36A、36B、36Cに密着した基体部35Aが変形することで、成形面部5aの形状を変化させることができる。
圧電素子制御部38には、上記第2の実施形態と同様にして、反射防止部2の形成後の反射率バラツキの発生位置と、各圧電素子36A、36B、36Cの駆動電圧との相関を実験的に調べることで、反射率バラツキが許容範囲となる目標電圧値が記憶されている。
【0086】
圧電素子36A、36B、36C、および圧電素子制御部38は、基体部35Aを変形することにより成形面部5aを湾曲させる型変形部を構成している。
また、圧電素子36Aは被加工体の凸部に対向して基体部の表面を凹ませる凹変形部を構成している。また、圧電素子36Bは、被加工体の凹部に対向して基体部の表面を突出させる凸変形部を構成している。
このため、本実施形態は、被加工体の1つの凸部に対して1つの凹変形部を備え、被加工体の1つの凹部に対して1つの凸変形部を備える場合の例になっている。
また、圧電素子36B、36Cは、2つの凸変形部の組合せによって、それらの間に凹部を形成することができる場合の例になっている。
【0087】
次に、本実施形態の微細構造形成用型35を用いた本実施形態の光学素子の製造方法について、上記第2の実施形態と異なる点を中心に説明する。
図13は、本発明の第3の実施形態の微細構造形成用型の動作説明図である。
【0088】
本実施形態の表面加工装置30によれば、型変形部が、基体部35Aに埋設された圧電素子36A、36B、36Cと、これら圧電素子の伸縮量を制御する圧電素子制御部38とからなる点が異なるのみで、上記第2の実施形態と同様にして、成形面部5aの形状を、非球面レンズ面21aに沿う形状に変形させることができる。
すなわち、図13に示すように、微細構造形成用型35をUV硬化樹脂16が塗布された非球面レンズ面21aに押圧するまでの間に、圧電素子制御部38によって、各圧電素子の駆動電圧を制御して、圧電素子36Aを収縮させ、圧電素子36B、36Cを伸長させる。これにより、成形面部5aを非球面レンズ面21aに沿う形状に変形させる。
このとき、各圧電素子36A、36B、36Cの伸縮方向の両端部では弾性体の厚さが異なるため、厚さが薄く、外形が拘束されていない成形面部5a側が顕著に変形する。また、成形面部5aと反対側の弾性体は厚く、ベース部材35Bによって端面が拘束されているため、各圧電素子36A、36B、36Cの変形量が異なっても、成形面部5a側に比べて変形量が少ない。
【0089】
成形面部5aが変形した微細構造形成用型35をUV硬化樹脂16が塗布された非球面レンズ面21aに押圧すると、成形面部5aが、非球面レンズ面21aに密着する。このとき、成形面部5aの形状が非球面レンズ面21aと異なっている場合にも、基体部35Aでは、各圧電素子36A、36B、36Cとベース部材35Bとの間に柔軟な弾性体の厚い層が有しているため、すでに非球面レンズ面21aと当接して押圧力が上昇する部位では、弾性体のひずみとして吸収される。このため、適宜の押圧力を加えることにより、成形面部5aの全体を非球面レンズ面21aに密着させることができる。
これ以外は、上記第2の実施形態と全く同様にして、反射防止部2を有するレンズ21Aを製造することができる。
【0090】
本実施形態によれば、各圧電素子の駆動量を、例えばミクロンオーダ以下の微小な範囲で微調整することができるため、成形面部5aの形状をより細かく制御することができる。
また、複数の圧電素子の伸縮量を独立に変えて、成形面部5aの形状を制御するため、例えば、各圧電素子36B、36Cの伸縮量を微調整することにより、円C1、C2の円周方向に対応する成形面部5aの形状も適宜制御することができる。例えば、各圧電素子36B、36Cの埋設位置の製造誤差などが発生しても、駆動電圧で補正することにより、変形時の形状誤差を低減することができる。
【0091】
[第2変形例]
次に、本発明の第3の実施形態の変形例(第2変形例)の微細構造形成用型について説明する。
図14は、本発明の第3の実施形態の変形例(第2変形例)の微細構造形成用型の構成を示す模式的な構成図である。
【0092】
本変形例の微細構造形成用型45は、図14に示すように、上記第3の実施形態の微細構造形成用型35の基体部35Aに代えて、基体部45Aを備える。
微細構造形成用型45は、上記第3の実施形態の表面加工装置30において、微細構造形成用型35に代えて用いることができる。
以下、上記第3の実施形態と異なる点を中心に説明する。
【0093】
基体部45Aは、上記第3の実施形態の圧電素子36A、36B、36Cの基端部をベース部材35Bに当接した状態で埋設している点が、上記基体部35Aと異なる。
本変形例によれば、圧電素子36A、36B、36Cの一端側の位置がベース部材35Bに固定されるため、伸縮量の全体が、成形面部5aを変形させるのに用いられる。このため、圧電素子制御部38に記憶される目標電圧値は、上記第3の実施形態とは異なる値が設定されている。
本変形例によれば、各圧電素子36A、36B、36Cの基端部がベース部材35Bに固定されているのみで、上記第3の実施形態と略同様にして、レンズ21Aを製造することができる。
ただし、本変形例では、各圧電素子36A、36B、36Cの基端部がベース部材35Bに固定されているため、非球面レンズ面21aと成形面部5aとの形状の相違がある場合に、成形面部5aと圧電素子36A、36B、36Cの先端部との間の弾性変形によって、形状の相違を吸収する構成としている。
【0094】
[第3変形例]
次に、本発明の第3の実施形態の他の変形例(第3変形例)の微細構造形成用型について説明する。
図15(a)、(b)は、本発明の第3の実施形態の他の変形例(第3変形例)の微細構造形成用型の主要部の模式的な構成図、およびそのK−K断面図である。
【0095】
本変形例の微細構造形成用型55は、図15(a)、(b)に示すように、上記第3の実施形態の微細構造形成用型35の基体部35A、圧電素子制御部38に代えて、基体部55A、圧電素子制御部39を備える。
微細構造形成用型55は、上記第3の実施形態の表面加工装置30において、微細構造形成用型35に代えて用いることができる。
以下、上記第3の実施形態と異なる点を中心に説明する。
【0096】
基体部55Aは、外形および材質が基体部35Aと同様で、圧電素子36A、36B、36Cに代えて、より多くの圧電素子37が圧電素子36A、36B、36Cと同様な姿勢で格子状に密集して配置されている。
各圧電素子37には、それぞれ配線39aが接続されている。各配線39aは、上記第3の実施形態の配線38a、38b、38c同様に、ベース部材35Bの内部に導入され、ベース部材35Bの側面から外部に延出され、圧電素子制御部39と電気的に接続されている。
【0097】
圧電素子制御部39は、配線39aを介して、各圧電素子37に独立に駆動電圧を供給するものである。
これにより、圧電素子制御部39は、各圧電素子37に適宜の駆動電圧を印加することで、各圧電素子37を独立に伸縮させることができる。この伸縮に伴って、各圧電素子36A、36B、36Cに密着した基体部55Aが変形することで、成形面部5aの形状を変化させることができる。
圧電素子制御部39には、上記第2の実施形態と同様に非球面レンズ面21aの形状データが記憶され、非球面レンズ面21aに沿う形状に成形面部5aを変形させるための個々の圧電素子37の駆動電圧の目標電圧値が記憶されている。
【0098】
圧電素子37および圧電素子制御部39は、基体部55Aを変形することにより成形面部5aを湾曲させる型変形部を構成している。
【0099】
本変形例によれば、上記第3の実施形態と同様にしてレンズ21Aを製造することができる。
ただし、本変形例では、上記第3の実施形態に比べて、圧電素子37の配置数が多いため、非球面レンズ面21a上の凹部および凸部に対して、凹凸の変化する方向にそれぞれ複数の圧電素子37が対向して配置されている。このため、成形面部5aの変形の分解能が高くなっており、複数の圧電素子37の伸縮量の組合せによって、より非球面レンズ面21aの形状に近似した形状に、成形面部5aの形状を変化させることができる。
また、被加工体の面形状が異なる場合にも、予め面形状のデータを圧電素子制御部39に入力しておくことで、成形面部5aの形状を容易に変更することができ、より汎用的な微細構造形成用型となっている。このため、被加工体の面形状が変更になる場合でも、他の微細構造形成用型に変えることなく、迅速に製造を続けることができる。
また、本変形例によれば、圧電素子37が格子状に密集して配置されているため、回転対称の面形状以外の形状、例えば自由曲面などでも容易に成形面部5aの形状を合わせることができる。
【0100】
なお、上記の各実施形態、各変形例の説明では、被加工体である光学素子がレンズの場合の例で説明したが、本発明の光学素子の製造方法によって製造される光学素子は、レンズには限定されない。例えば、ミラー、プリズム、フィルタなどの光学素子でもよい。
また、本発明の微細構造形成用型によって微細構造を形成する被加工体は、光学素子には限定されず、光学素子以外の機械部品を被加工体としてもよい。
【0101】
また、上記の各実施形態、各変形例の説明では、微細構造が、円錐状の突起2aによる反射防止部2である場合の例で説明したが、反射防止構造を形成するには、レンズ表面の近傍で屈折率が変化する形状であればよく、円錐状に限らず、三角錐状、四角錐状等の錘体を好適に採用することができる。
【0102】
また、上記の各実施形態、各変形例の説明では、微細構造が反射防止構造の場合の例で説明したが、微細構造は、ナノインプリント技術によって形成される凹凸形状であれば、錘体には限定されず、例えば、円柱、円柱穴、錘体の反転した穴形状、蓮の葉の表面のようなランダムな突起を持つ構造体(フラクタル構造)等の凹凸形状を採用することができる。
このため、微細構造は、反射防止構造には限定されない
【0103】
また、上記の各実施形態、各変形例の説明では、基体部において成形面部が、基体部の変形前に平面の部位に形成された場合の例で説明したが、成形面部は曲率を有した面に形成されていてもよい。
例えば、型変形部によって凸(凹)形状に変形される成形面部を、変形後の凸(凹)形状の曲率半径より大きな曲率半径の凸(凹)形状の曲面上に形成すれば、変形後の成形面部のひずみが小さくて済むため、形状精度を向上することができる。また、耐久性を向上することができる。
【0104】
また、上記の各実施形態、各変形例の説明では、成形面部5aが、基体部の表面に基体部と同材質で形成された場合の例で説明したが、基体部とともに変形することができれば、成形面部5aは、基体部の表面に基体部と異なる材質で設けられていてもよい。
また、成形面部5aが表面層部材14に形成され、基体部を構成する他の部材に接合される場合、基体部および成形面部5aが変形可能であれば、表面層部材14の材質と、基体部を構成する他の部材との材質は異なっていてもよい。
【0105】
また、上記の各実施形態、各変形例の説明では、保持部3に被加工体を固定し、微細構造形成用型を昇降させて微細構造形成用型を被加工体に押圧する場合の例で説明したが、微細構造形成用型の位置を固定して、保持部3を昇降できるようにしておき、保持部3に保持された被加工体を微細構造形成用型に押圧するようにしてもよい。
【0106】
また、上記の各実施形態、各変形例の説明では、UV光源4が保持部3の下方に配置され、被加工体を透過するUV光によって、UV硬化樹脂16を硬化させる場合の例で説明したが、例えば、被加工体の側方からUV光を照射してもよい。
また、微細構造形成用型をUV光透過性の材料で作成した場合には、例えば、UV光源を微細構造形成用型の上方または微細構造形成用型の内部に設けておき、微細構造形成用型を透過させたUV光によってUV硬化樹脂16を硬化させるようにしてもよい。
【0107】
また、上記の各実施形態、各変形例の説明では、基体部を変形させる型変形部として、流体圧力によって基体部を変形させる場合と、圧電素子の伸縮により基体部を変形させる場合の例で説明したが、型変形部はこれらに限定されるものではない。例えば、圧電素子に代えて成形面部の方に進退する押圧部材を備え、押圧部材から基体部に機械的な圧力を加えて基体部を変形させてもよい。
【0108】
また、上記の実施形態で説明したすべての構成要素は、本発明の技術的思想の範囲で適宜組み合わせたり、削除したりして実施することができる。
例えば、上記第2、第3の実施形態および各変形例の微細構造形成用型の構成によれば、上記第1の実施形態の微細構造形成用型5に比べて、型変形部の数が多いため、上記第1の実施形態と同様の凹球面や、凸球面等のより凹凸形状の少ない形状の被加工体にも好適に用いることができる。
例えば、微細構造形成用型25によって、凹レンズ面1aに沿う形状を形成するには、空洞部26、環状空洞部27を膨張させ、環状空洞部28を収縮させることで、凸球面の形状を形成すればよい。
【符号の説明】
【0109】
1、21 レンズ本体(被加工体、光学素子本体)
1A、21A レンズ(光学素子)
1a 凹レンズ面(曲率を有する表面、光学面)
2 反射防止部(微細構造、反射防止構造)
2a 突起(錘体)
3 保持部
4 UV光源
5、25、29、35、45、55 微細構造形成用型
5A、25A、25D、35A、45A、55A 基体部
5a 成形面部
6、26、26A 空洞部(容積変化室、型変形部)
7、27、28 環状空洞部(容積変化室、型変形部)
8、8A 流体供給部(型変形部)
9 昇降アーム
10、20、30 表面加工装置
14 表面層部材
15 基体部本体
15C 基体部材
16 UV硬化樹脂(成形用樹脂)
21 レンズ本体
21a 非球面レンズ面(曲率を有する表面、光学面)
36A、36B、36C、37 圧電素子(型変形部)
38、39 圧電素子制御部(型変形部)
C1、C2 円
O 光軸
P1 面頂
P2 稜線
V1 谷底線
Z 中心軸線

【特許請求の範囲】
【請求項1】
曲率を有する表面を備える被加工体の前記表面に凹凸形状の微細構造を形成する微細構造形成用型であって、
前記微細構造を転写する成形面部と、
該成形面部を湾曲可能に支持する基体部と、
該基体部を変形することにより前記成形面部を湾曲させる型変形部と、を備える
ことを特徴とする、微細構造形成用型。
【請求項2】
前記成形面部は、前記基体部の表面に前記微細構造を転写する形状が加工されてなる
ことを特徴とする請求項1に記載の微細構造形成用型。
【請求項3】
前記型変形部は、前記被加工体の凹部に対向して前記基体部の表面を突出させる凸変形部および前記被加工体の凸部に対向して前記基体部の表面を凹ませる凹変形部の少なくとも一方を備える
ことを特徴とする請求項1または2に記載の微細構造形成用型。
【請求項4】
前記型変形部は、
前記基体部の内部に流体を収容し、該流体の圧力変化により容積の増大および縮小の少なくとも一方が可能とされた容積変化室と、
該容積変化室内の流体の圧力を変化させる圧力制御手段と、を備える
ことを特徴とする請求項1〜3のいずれか1項に記載の微細構造形成用型。
【請求項5】
前記基体部は、前記容積変化室を形成する複数の部材が貼り合わされて形成された
ことを特徴とする請求項1〜4のいずれか1項に記載の微細構造形成用型。
【請求項6】
前記微細構造は、錘体が集合した反射防止構造である
ことを特徴とする請求項1〜5のいずれか1項に記載の微細構造形成用型。
【請求項7】
曲率を有する光学面を表面に備える被加工体である光学素子本体を形成する工程と、
前記光学面に成形用樹脂を塗布する工程と、
請求項1〜6のいずれか1項に記載の微細構造成形用型の前記型変形部によって、前記成形面部を前記光学面の形状に沿う形状に変形させた状態で、前記微細構造成形用型の前記成形面部を、前記成形用樹脂を介して前記光学面に押圧し、前記微細構造成形用型の前記成形面部の形状を前記成形用樹脂に転写することにより、前記光学面上に前記微細構造を成形するする工程と、を備える
ことを特徴とする光学素子の製造方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【図11】
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【図12】
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【図13】
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【図14】
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【図15】
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【公開番号】特開2013−64836(P2013−64836A)
【公開日】平成25年4月11日(2013.4.11)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−203004(P2011−203004)
【出願日】平成23年9月16日(2011.9.16)
【出願人】(000000376)オリンパス株式会社 (11,466)
【Fターム(参考)】