説明

感光性多分岐ポリイミド系ハイブリッド前駆体

【課題】硬化せしめた(イミド化せしめた)後に優れた機械特性や耐熱性等を発揮し得る、従来にはない新規な構造を呈するネガ型の感光性多分岐ポリイミド系ハイブリッド前駆体を提供すること。
【解決手段】芳香族テトラカルボン酸二無水物とトリアミン化合物とから得られるデンドリティック構造を基本とする多分岐ポリイミド前駆体と、分子内にアルコキシシリル基及びアミノ基を有するアルコキシシリルアミン化合物とを反応せしめた後、その得られた反応生成物に対して、分子内にアルコキシシリル基及び光重合性官能基を有する重合性化合物を反応せしめる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、感光性多分岐ポリイミド系ハイブリッド前駆体に係り、特に、種々の電子回路や集積回路(LSI)におけるパターンを製造する際に有利に用いられ得るものに関するものである。
【背景技術】
【0002】
従来より、種々の電子回路や集積回路(LSI)におけるパターンを製造する際や、半導体素子における表面保護膜や層間絶縁膜の形成には、耐熱性、電気特性(低誘電性)及び機械特性等に優れるポリイミド樹脂が、広く用いられている。そのようなポリイミド樹脂の中でも、特に、ポリイミド樹脂に感光性を付与した感光性ポリイミド樹脂やその前駆体にあっては、パターン作製工程の簡略化を図ることが出来、煩雑な製造工程の短縮化を図り得ることから、従来より様々なものが使用されている。
【0003】
かかる感光性ポリイミド樹脂又はその前駆体のうち、光の照射によって硬化するもの(ネガ型)やそれを含有する樹脂組成物としては、以下のようなものが提案されている。具体的には、特許文献1(特表2004−3057号公報)においては、末端にカルボキシル基を有する多分岐ポリイミド樹脂(A)、熱硬化性成分(B)、及び硬化触媒(c)を含有することを特徴とする硬化性組成物が提案されており、また、特許文献2(特開2006−308765号公報)においては、(a)末端機にフェノール性水酸基を有する、有機溶剤に可溶のポリイミド、(b)活性光線照射により酸を発生する化合物、及び、(c)酸の作用により架橋または重合し得る化合物を含有してなるネガ型感光性樹脂組成物が、提案されている。
【0004】
しかしながら、近年、半導体素子の高集積化や大型化に伴い、封止樹脂パッケージの薄型化や小型化が要求されており、また、リードオンチップ(LOC)構造の採用や、半田リフローによる表面実装等の方式が採用されるようになってきたことに伴い、従来の(ネガ型)感光性ポリイミド樹脂又はその前駆体と比較して、より優れた機械特性や耐熱性等を発揮し得る新規な感光性ポリイミド樹脂等の開発が、望まれているのである。
【0005】
その一方、本発明者等は、先に、耐熱性、機械的強度、電気的特性及び気体透過性等に優れた、分子内に多分岐構造を有する有機−無機ポリマーハイブリッドからなる多分岐ポリイミド系ハイブリッド材料を、提案している(特許文献3を参照)。
【0006】
【特許文献1】特表2004−3057号公報
【特許文献2】特開2006−308765号公報
【特許文献3】国際公開第06/25327号パンフレット
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
ここにおいて、本発明は、かかる事情を背景にして為されたものであって、その解決すべき課題とするところは、硬化せしめた(イミド化せしめた)後に優れた機械特性や耐熱性等を発揮し得る、従来にはない新規な構造を呈するネガ型の感光性多分岐ポリイミド系ハイブリッド前駆体を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0008】
そして、本発明者等は、先に提案した多分岐ポリイミド系ハイブリッド材料(特許文献3を参照)を基本として、鋭意検討を重ねたところ、デンドリティック構造(樹木状構造)を基本とする多分岐ポリイミド前駆体相とシリカ相とが共有結合によって一体化された多分岐ポリイミド系ハイブリッド前駆体であって、その分子末端が光重合性官能基を有する重合性化合物によって修飾されたものにあっては、上述した課題を有利に解決し得ることを見出し、本発明を完成するに至ったのである。
【0009】
すなわち、本発明は、デンドリティック構造を基本とする多分岐ポリイミド前駆体相とシリカ相とが共有結合によって一体化された複合構造を呈し、且つ、光重合性官能基を有する重合性化合物によって分子末端が修飾されていることを特徴とする感光性多分岐ポリイミド系ハイブリッド前駆体を、その要旨とするものである。
【0010】
また、本発明は、デンドリティック構造を基本とするシロキサン変性多分岐ポリイミド前駆体相とシリカ相とが共有結合によって一体化された複合構造を呈し、且つ、光重合性官能基を有する重合性化合物によって分子末端が修飾されていることを特徴とする感光性多分岐ポリイミド系ハイブリッド前駆体をも、その要旨とするものである。
【0011】
さらに、本発明は、上記何れかの態様の感光性多分岐ポリイミド系ハイブリッド前駆体をイミド化してなる多分岐ポリイミド系ハイブリッドも、その要旨とする。
【0012】
さらにまた、本発明は、上記何れかの態様の感光性多分岐ポリイミド系ハイブリッド前駆体と、光重合開始剤とを含有する感光性樹脂組成物も、その要旨とする。
【0013】
一方、本発明は、上述した感光性多分岐ポリイミド系ハイブリッド前駆体を有利に製造することが出来る以下の製造方法をも、その要旨とするものである。
【0014】
すなわち、芳香族テトラカルボン酸二無水物とトリアミン化合物とから得られるデンドリティック構造を基本とする多分岐ポリイミド前駆体と、分子内にアルコキシシリル基及びアミノ基を有するアルコキシシリルアミン化合物とを反応せしめた後、その得られた反応生成物に対して、分子内にアルコキシシリル基及び光重合性官能基を有する重合性化合物を反応せしめることを特徴とする感光性多分岐ポリイミド系ハイブリッド前駆体の製造方法、及び、芳香族テトラカルボン酸二無水物、トリアミン化合物及び下記一般式(1)で表わされるジアミノシロキサン化合物より得られるデンドリティック構造を基本とするシロキサン変性多分岐ポリイミド前駆体と、分子内にアルコキシシリル基及びアミノ基を有するアルコキシシリルアミン化合物とを反応せしめた後、得られた反応物に対して、分子内にアルコキシシリル基及び光重合性官能基を有する重合性化合物を反応せしめることを特徴とする感光性多分岐ポリイミド系ハイブリッド前駆体の製造方法も、本発明の要旨とするところである。
【0015】
【化1】

【発明の効果】
【0016】
このように、本発明に従う感光性多分岐ポリイミド系ハイブリッド前駆体にあっては、デンドリティック構造を基本とする多分岐ポリイミド前駆体相とシリカ相とが共有結合によって一体化された複合構造を呈するものであるところから、イミド化せしめた後の多分岐ポリイミド系ハイブリッドは、従来の感光性ポリイミド樹脂と比較して、優れた耐熱性や機械特性(機械的強度)を発揮し、また、シリカ相を含有していることから、基板等との密着性がより優れたものとなるのである。
【0017】
従って、そのような優れた特性を有する感光性多分岐ポリイミド系ハイブリッド前駆体と、光重合開始剤とを含有する感光性樹脂組成物は、種々の電子回路や集積回路(LSI)におけるパターンを製造する際や、半導体素子における表面保護膜や層間絶縁膜を形成せしめる際に、有利に用いられ得る。
【0018】
また、本発明に係る感光性多分岐ポリイミド系ハイブリッド前駆体の製造方法に従えば、上述した優れた特性を発揮し得る感光性多分岐ポリイミド系ハイブリッド前駆体を有利に製造することが可能である。
【発明を実施するための最良の形態】
【0019】
上述してきたように、本発明に従う感光性多分岐ポリイミド系ハイブリッド前駆体は、デンドリティック構造(樹木状構造)を基本とする多分岐ポリイミド前駆体相と、シリカ(SiO2 )相とが、共有結合によって一体化された複合構造を呈するものであって、且つ、光重合性官能基を有する重合性化合物によって分子末端が修飾されてなるものである。このような感光性多分岐ポリイミド系ハイブリッド前駆体にあっては、有利には、以下の手法に従って製造されることとなる。
【0020】
先ず、芳香族テトラカルボン酸二無水物とトリアミン化合物とを反応せしめて、デンドリティック構造を基本とする多分岐ポリイミド前駆体(以下、多分岐ポリアミド酸ともいう)を合成する。
【0021】
ここで、本発明の感光性多分岐ポリイミド系ハイブリッド前駆体を製造する際に用いられ得る芳香族テトラカルボン酸二無水物、及び芳香族トリアミンとしては、従来より公知の各種のものであれば、何れも用いることが可能であり、それら公知のものの中から、目的とする感光性多分岐ポリイミド系ハイブリッド前駆体に応じた一種若しくは二種以上のものが、適宜に選択されて、用いられることとなる。
【0022】
具体的には、芳香族テトラカルボン酸二無水物としては、無水ピロメリット酸(PMDA)、オキシジフタル酸二無水物(OPDA)、3,3’,4,4’−ベンゾフェノンテトラカルボン酸二無水物(BTDA)、3,3’,4,4’−ジフェニルスルホンテトラカルボン酸二無水物(DSDA)、4,4’−(ヘキサフルオロイソプロピリデン)ジフタル酸二無水物(6FDA)、2,2’−ビス[(ジカルボキシフェノキシ)フェニル]プロパン二無水物(BSAA)等の化合物を、例示することが出来る。
【0023】
また、芳香族トリアミンとしては、分子内に3個のアミノ基を有する芳香族化合物、例えば、1,3,5−トリアミノベンゼン、トリス(3−アミノフェニル)アミン、トリス(4−アミノフェニル)アミン、トリス(3−アミノフェニル)ベンゼン、トリス(4−アミノフェニル)ベンゼン、1,3,5−トリス(3−アミノフェノキシ)ベンゼン、1,3,5−トリス(4−アミノフェノキシ)ベンゼン、1,3,5−トリス(4−アミノフェノキシ)トリアジン等を挙げることが出来る。
【0024】
ここで、本発明の感光性多分岐ポリイミド系ハイブリッド前駆体を製造するに際しては、上述した芳香族トリアミンと共に、有利には、下記一般式(1)で表わされるジアミノシロキサン化合物が併用される。そのような所定のジアミノシロキサン化合物の併用により、得られる感光性多分岐ポリイミド系ハイブリッド前駆体にあっては、基材(基板)との接着・密着性が向上する。なお、かかるジアミノシロキサン化合物としては、具体的に、特開平2−91124号公報において開示されている如き構造を呈するもの等を、例示することが出来る。
【0025】
【化2】

【0026】
なお、そのような所定のジアミノシロキサン化合物を用いる場合には、ジアミノシロキサン化合物を反応系内に添加するタイミングによって、構造が異なるシロキサン変性多分岐ポリイミド前駆体(多分岐ポリアミド酸)を得ることが可能である。
【0027】
例えば、芳香族テトラカルボン酸二無水物、芳香族トリアミン及びジアミノシロキサン化合物を、所定の溶媒中に、同時に添加し、或いは、先ず、それら3成分のうちの任意の2成分を添加し、かかる2成分の反応が終了するよりも前に残りの1成分を添加し、得られた溶液を撹拌等すると、溶液内において、芳香族テトラカルボン酸二無水物と芳香族トリアミンとの反応、及び、芳香族テトラカルボン酸二無水物とジアミノシロキサン化合物との反応が、無秩序に進行する。これにより、分子内に不規則的にシロキサン構造を有するシロキサン変性多分岐ポリイミド前駆体(多分岐ポリアミド酸)が得られることとなる。
【0028】
また、先ず、所定の溶媒中に、芳香族テトラカルボン酸二無水物とジアミノシロキサン化合物とを添加し、撹拌等して、かかる2成分を反応させることにより、ジアミノシロキサン化合物由来のシロキサン構造を有する、芳香族テトラカルボン酸二無水物の誘導体(以下、この段落において誘導体という。)を合成し、その後、反応溶液内に芳香族トリアミンを添加し、撹拌等すると、誘導体と芳香族トリアミンとの反応、及び、溶液中における未反応の芳香族テトラカルボン酸二無水物と芳香族トリアミンとの反応が進行する。これにより、先に述べた手法に従って得られたシロキサン変性多分岐ポリイミド前駆体(多分岐ポリアミド酸)と比較して、分子内に規則的にシロキサン構造の繰り返し単位を有するシロキサン変性多分岐ポリイミド前駆体(多分岐ポリアミド酸)が得られることとなる。
【0029】
さらに、先ず、所定の溶媒中に、芳香族テトラカルボン酸二無水物と芳香族トリアミンとを添加し、撹拌等して反応させ、酸無水物末端及び/又はアミン末端を有する多分岐ポリアミド酸を合成し、その後、反応溶液内にシロキサン含有化合物を添加し、撹拌等すると、多分岐ポリアミド酸分子同士をシロキサン含有化合物にて架橋したような構造を有する、シロキサン変性多分岐ポリイミド前駆体(多分岐ポリアミド酸)が得られることとなる。
【0030】
一方、上述した所定のジアミノシロキサン化合物の他に、芳香族ジアミンを併用することも好ましい。芳香族トリアミンと芳香族ジアミンを併用することにより、得られる多分岐ポリイミド前駆体(多分岐ポリアミド酸)、ひいては感光性多分岐ポリイミド系ハイブリッド前駆体の粘度が効果的に向上することとなり、そのような感光性多分岐ポリイミド系ハイブリッド前駆体を含有する感光性樹脂組成物にあっては、基板上に塗布する際に、厚膜化を図ることが容易となる。
【0031】
そのような芳香族ジアミンとしては、フェニレンジアミン、ジアミノジフェニルメタン、ジアミノジフェニルエーテル、ジアミノジフェニール、ジアミノベンゾフェノン、2,2−ビス[(4−アミノフェノキシ)フェニル]プロパン、ビス[4−アミノフェノキシフェニル]スルホン、2,2−ビス[(4−アミノフェノキシ)フェニル]ヘキサフルオロプロパン、ビス(4−アミノフェノキシ)ベンゼン、4,4’−[フェニレンビス(1−メチルエチリデン)]ビスアニリン、2,2−ビス(4−アミノフェニル)ヘキサフルオロプロパンや9,9−ビス(アミノフェニル)フルオレン等を、例示することが出来る。
【0032】
さらに、上述した所定のジアミノシロキサン化合物や芳香族ジアミンの他にも、トリス(3,5−ジアミノフェニル)ベンゼンや、トリス(3,5−ジアミノフェノキシ)ベンゼン等の、分子内にアミノ基を4個以上有する芳香族化合物も、芳香族トリアミンと併用可能である。
【0033】
なお、上述の芳香族テトラカルボン酸二無水物、芳香族トリアミン、芳香族ジアミン、及び分子内にアミノ基を4個以上有する芳香族化合物の各化合物におけるベンゼン環に、炭化水素基(アルキル基、フェニル基、シクロヘキシル基等)、ハロゲン基、アルコキシ基、アセチル基、スルホン酸基等の置換基を有する誘導体であっても、本発明においては、用いることが可能である。
【0034】
多分岐ポリイミド前駆体(多分岐ポリアミド酸)を合成するに当たり、芳香族テトラカルボン酸二無水物と芳香族トリアミン(及び、所定のジアミノシロキサン化合物、芳香族ジアミン、分子内にアミノ基を4個以上有する芳香族化合物。以下、これらを適宜、アミン成分と総称する。)との反応は、比較的低温、具体的には100℃以下、好ましくは50℃以下の温度下において実施することが好ましい。また、芳香族テトラカルボン酸二無水物とアミン成分の反応モル比([芳香族テトラカルボン酸二無水物]:[アミン成分]は、1.0:0.3〜1.0:1.5、好ましくは、1.0:0.3〜1.0:1.3の範囲内となるような量的割合において、反応せしめることが好ましい。
【0035】
また、芳香族テトラカルボン酸二無水物とアミン成分との反応は、所定の溶媒内にて行なうことが好ましい。かかる溶媒としては、N−メチル−2−ピロリドン、N,N−ジメチルアセトアミド、ジメチルホルムアミド、ジメチルスルホキシド、テトラメチルスルホン、ヘキサメチルスルホン、ヘキサメチルフォスホアミド等の非プロトン性極性溶媒や、m−クレゾール、o−クレゾール、m−クロロフェノール、o−クロロフェノール等のフェノール系溶媒、ジオキサン、テトラヒドロフラン、ジグライム等のエーテル系溶媒等を例示することが出来、これらのうちの一種を単独で、或いは二種以上のものが混合溶媒として、使用される。
【0036】
次いで、芳香族テトラカルボン酸二無水物と芳香族トリアミン等のアミン成分との反応により得られた多分岐ポリイミド前駆体(多分岐ポリアミド酸)に対して、分子内にアルコキシシリル基及びアミノ基を有するアルコキシシリルアミン化合物を反応せしめる。
【0037】
すなわち、多分岐ポリイミド前駆体の末端に存在する酸無水物基の少なくとも一部と、アルコキシシリルアミン化合物中のアミノ基とが反応することにより、複数の末端のうちの少なくとも一部にアルコキシシリル基を有する多分岐ポリイミド前駆体(以下、シラン末端多分岐ポリイミド前駆体ともいう)が得られるのである。
【0038】
ここで、本発明において用いられ得る、分子内にアルコキシシリル基及びアミノ基を有するアルコキシシリルアミン化合物としては、3−アミノプロピルトリメトキシシラン、3−アミノプロピルトリエトキシシラン、アミノフェニルトリメトキシシラン、3−アミノプロピルメチルジエトキシシラン、3−アミノフェニルジメチルメトキシシラン、アミノフェニルトリメトキシシラン、(アミノエチルアミノメチル)フェネチルトリメトキシシラン等を、例示することが出来る。
【0039】
なお、そのようなアルコキシシリルアミン化合物と多分岐ポリイミド前駆体との反応は、先に説明した芳香族テトラカルボン酸二無水物とアミン成分との反応と同様の温度条件にて、また、同様の溶媒中にて実施されることが望ましい。
【0040】
そして、そのようにして得られた、複数の末端のうちの少なくとも一部にアルコキシシリル基を有する多分岐ポリイミド前駆体と、分子内にアルコキシシリル基及び光重合性官能基を有する重合性化合物とを反応せしめることにより、目的とする感光性多分岐ポリイミド系ハイブリッド前駆体が得られるのである。
【0041】
すなわち、複数の末端のうちの少なくとも一部にアルコキシシリル基を有する多分岐ポリイミド前駆体と、分子内にアルコキシシリル基及び光重合性官能基を有する重合性化合物とを、水の存在下において同一系内に存在せしめると、化合物中のアルコキシシリル基は加水分解されてシラノール基となる。そして、両化合物中のシラノール基間の脱水縮合が繰り返されることによって、デンドリティック構造を基本とする多分岐ポリイミド前駆体相と、シリカ(SiO2 単位にて構成される無機重合物)相とが、共有結合によって一体化された構造を呈し、且つ、光重合性官能基を有する重合性化合物によって分子末端が修飾されている感光性多分岐ポリイミド系ハイブリッド前駆体が、得られるのである。
【0042】
ここで、本発明の感光性多分岐ポリイミド系ハイブリッド前駆体を製造する際に用いられる、分子内にアルコキシシリル基及び光重合性官能基を有する重合性化合物としては、光重合性官能基たるビニル基とアルコキシシリル基とを有する(メタ)アクリル化合物やスチニル化合物等を、例示することが出来る。例えば、3−(トリメトキシシリル)プロピルメタクリレート(MPS)、p−スチニルトリメトキシシラン、スチニルエチルトリメトキシシラン、3−(N−スチニルメチル−2−アミノエチルアミノ)−プロピルトリメトキシシラン等を挙げることが出来る。
【0043】
なお、そのような重合性化合物の使用量は、目的とする感光性多分岐ポリイミド系ハイブリッド前駆体の種類や用途等に応じて、適宜に決定される。また、多分岐ポリイミド前駆体の合成や、多分岐ポリイミド前駆体とアルコキシシリルアミン化合物とを反応せしめる場合と同様に、所定の溶媒中において行なうことが望ましい。
【0044】
そのようにして得られた感光性多分岐ポリイミド系ハイブリッド前駆体には、一般に、光重合開始剤が配合され、感光性樹脂組成物として用いられることとなる。
【0045】
本発明の感光性多分岐ポリイミド系ハイブリッド前駆体に配合される光重合開始剤としては、活性エネルギー線の照射によってラジカルを発生し得る化合物であれば、如何なるものであっても使用可能である。具体的には、ベンゾイン型光重合開始剤、ベンジルケタール型光重合開始剤、α−ヒドロキシアセトフェノン型光重合開始剤、α−アミノアセトフェノン、アシルフォスフィンオキサイド、チタノセン類、トリクロロメチルトリアジン、ビスイミダゾール類等に分類される、従来より公知の各種光重合開始剤を一種又は二種以上、用いることが可能である。
【0046】
なお、かかる光重合開始剤は、本発明の感光性多分岐ポリイミド系ハイブリッド前駆体の100重量部に対して、0.1〜30重量部となるような量的割合において、配合される。0.1質量部より少ないと、活性エネルギー線の照射によっても充分に硬化しなかったり、硬化物が所望とする物性を発揮し得ない恐れがあり、一方、30質量部を超える量を配合しても、硬化性に格別の変化は認められず、経済的に好ましくないからである。
【0047】
また、本発明の感光性樹脂組成物には、光重合開始剤の他に、感光性多分岐ポリイミド系ハイブリッド前駆体をより有利に硬化せしめるべく、重合性モノマーを配合することが好ましい。かかる重合性モノマーとしては、分子内に(メタ)アクリル基又はビニル基の何れかを有するモノマーを例示することが出来、例えば、イソボニル(メタ)アクリレート、ボルニル(ケタ)アクリレート、トリシクロデカニル(メタ)アクリレート、ジシクロペンタニル(メタ)アクリレート等の脂環式構造含有(メタ)アクリレートや、ベンジル(メタ)アクリレート、4−ブチルシクロヘキシル(メタ)アクリレート、アクリロイルモルホリン等が挙げられる。また、(パーフルオロオクチル)エチレン、クロロトリフルオロエチレンやヘキサフルオロプロペン等のフッ素含有オレフィン類、2,2,3,3,3−ペンタフルオロプロピルメタクリレート、2,2,3,3−テトラフルオロプロピルメタクリレート、2,2,2−トリフルオロエチルメタクリレートや、3−(パーフルオロ−5−メチルヘキシル)−2−ヒドロキシプロピルメタクリレート等のフッ素含有メタクリレート類、更には、2−ヒドロキシエチルメタクリレート(HEMA)、メチル(メタ)アクリレート、エチル(メタ)アクリレート、プロピル(メタ)アクリレート、イソプロピル(メタ)アクリレート、ブチル(メタ)アクリレート、アミル(メタ)アクリレート、イソブチル(メタ)アクリレート、t−ブチル(メタ)アクリレート、ペンチル(メタ)アクリレート、イソアミル(メタ)アクリレート、ヘキシル(メタ)アクリレート、ヘプチル(メタ)アクリレート、オクチル(メタ)アクリレート、イソオクチル(メタ)アクリレート、2−エチルヘキシル(メタ)アクリレート、ノニル(メタ)アクリレート、デシル(メタ)アクリレート、イソデシル(メタ)アクリレート、ウンデシル(メタ)アクリレート、ドデシル(メタ)アクリレート、ラウリル(メタ)アクリレート、ステアリル(メタ)アクリレート、イソステアリル(メタ)アクリレート、テトラヒドロフルフリル(メタ)アクリレート、ブトキシエチル(メタ)アクリレート、エトキシジエチレングリコール(メタ)アクリレート、ベンジル(メタ)アクリレート、フェノキシエチル(メタ)アクリレート、ポリエチレングリコールモノ(メタ)アクリレート、ポリプロピレングリコールモノ(メタ)アクリレート、メトキシエチレングリコール(メタ)アクリレート、エトキシエチル(メタ)アクリレート、メトキシポリエチレングリコール(メタ)アクリレート、メトキシポリプロピレングリコール(メタ)アクリレート、ジアセトン(メタ)アクリルアミド、イソブトキシメチル(メタ)アクリルアミド、N,N−ジメチル(メタ)アクリルアミド、t−オクチル(メタ)アクリルアミド、ジメチルアミノエチル(メタ)アクリレート、ジエチルアミノエチル(メタ)アクリレート、7−アミノ−3,7−ジメチルオクチル(メタ)アクリレート、N,N−ジエチル(メタ)アクリルアミド、N,N−ジメチルアミノプロピル(メタ)アクリルアミド、ヒドロキシブチルビニルエーテル、ラウリルビニルエーテル、セチルビニルエーテル、2−エチルヘキシルビニルエーテル等を、挙げることが出来る。なお、これらの中でも、特に、フッ素含有オレフィン類やフッ素含有メタクリレート類にあっては、最終的に得られる多分岐ポリイミド系ハイブリッドの誘電率を効果的に低くすることが可能である。
【0048】
また、一分子内に複数個の(メタ)アクリル基を有するものも、本発明において使用可能である。具体的には、トリメチロールプロパントリ(メタ)アクリレート、トリメチロールプロパントリオキシエチル(メタ)アクリレート、トリメチロールプロパンエチレノキサイド付加トリアクリレート、ペンタエリスリトールトリ(メタ)アクリレート、エチレングリコールジ(メタ)アクリレート、トリエチレングリコールジアクリレート、テトラエチレングリコールジ(メタ)アクリレート、トリシクロデカンジイルジメチレンジ(メタ)アクリレート、ポリエチレングリコールジ(メタ)アクリレート、1,4−ブタンジオールジ(メタ)アクリレート、1,6−ヘキサンジオールジ(メタ)アクリレート、ネオペンチルグリコールジ(メタ)アクリレート、トリプロピレングリコールジ(メタ)アクリレート、ネオペンチルグリコールジ(メタ)アクリレート、ビスフェノールAジグリシジルエーテルの両末端(メタ)アクリル酸付加体、ペンタエリスリトールトリ(メタ)アクリレート、ペンタエリスリトールテトラ(メタ)アクリレート、ポリエステルジ(メタ)アクリレート、トリス(2−ヒドロキシエチル)イソシアヌレートトリ(メタ)アクリレート、トリス(2−ヒドロキシエチル)イソシアヌレートジ(メタ)アクリレート、トリシクロデカンジメタノールジ(メタ)アクリレート、ビスフェノールAのエチレンオキサイド又はプロピレンオキサイドの付加体のジオール、ジ(メタ)アクリレート、水添ビスフェノールAのエチレンオキサイド又はプロピレンオキサイドの付加体のジオールのジ(メタ)アクリレート、ビスフェノールAのジグリシジルエーテルに(メタ)アクリレートを付加させたエポキシ(メタ)アクリレート、トリエチレングリコールジビニルエーテル等が、挙げられる。
【0049】
一方、ビニル基を有する重合性モノマーとしては、スチレン、p−メチルスチレン、p−ヒドロキシスチレン、(メタ)クリロニトリル、アクリルアミド、塩化ビニル、酢酸ビニル、無水マレイン酸等を挙げることが出来る。
【0050】
なお、本発明においては、上述した重合性モノマーのうちの2種以上が共重合したものであっても使用可能であり、そのような共重合したもの(共重合体)としては、メチルメタクリレート等の(メタ)アクリル系モノマーと、スチレンやp−メチルスチレン等のスチレン系モノマーとの共重合体等を、例示することが出来る。
【0051】
また、重合性モノマーは、感光性多分岐ポリイミド系ハイブリッド前駆体の100重量部に対して、1〜100重量部となるような量的割合において、好ましくは3〜50重量部となるような量的割合において、使用される。重合性モノマーの使用量が1重量部未満では、その配合効果が認められない恐れがある一方、100重量部を超える量を配合すると、現像性に好ましくない影響を及ぼす恐れがあるからである。
【0052】
本発明の感光性樹脂組成物には、上述した重合性モノマー以外にも、活性エネルギー線の照射による硬化を促進させるための硬化促進剤や増感剤、更には、熱重合禁止剤、充填剤、着色顔料、消泡剤、密着付与剤、レベリング剤等の従来のネガ型感光性樹脂組成物に配合されるものであれば、本発明の目的を阻害しない量的範囲内において、使用可能である。
【0053】
上述した重合性モノマー等を、感光性多分岐ポリイミド系ハイブリッド前駆体及び光重合開始剤と共に溶媒内にて混合し、粘度を調整することにより、本発明の感光性樹脂組成物が得られる。なお、その際に用いられる溶媒としては、上述した芳香族テトラカルボン酸二無水物とアミン成分との反応の際に用いられるものと同様のもの、具体的には、N−メチル−2−ピロリドン、N,N−ジメチルアセトアミド、ジメチルホルムアミド、ジメチルスルホキシド、テトラメチルスルホン、ヘキサメチルスルホン、ヘキサメチルフォスホアミド等の非プロトン性極性溶媒や、m−クレゾール、o−クレゾール、m−クロロフェノール、o−クロロフェノール等のフェノール系溶媒、ジオキサン、テトラヒドロフラン、ジグライム等のエーテル系溶媒等を例示することが出来、これらのうちの一種、若しくは二種以上の混合物が用いられる。
【0054】
そのようにして調製された感光性樹脂組成物は、スクリーン印刷法、カーテンコーティング法、ロールコーティング法、ディップコーティング法やスピンコーティング法等の、従来より公知の各種塗布方法によって基材(基板)に塗布された後、例えば60〜120℃程度の温度にて仮乾燥せしめられ、溶媒が除去される。
【0055】
次いで、生成した塗膜上に、所望とする露光パターンを有するフォトマスクを載置し、その状態において活性エネルギー線を照射する。なお、活性エネルギー線の照射光源としては、低圧水銀灯、中圧水銀灯、高圧水銀灯、超高圧水銀灯、キセノンランプ、メタルハライドランプ等が有利に用いられる。また、レーザー光線や電子線、α線、β線、γ線、X線、中性子線等も、活性エネルギー線として使用可能である。
【0056】
かかる照射の後、塗膜上の未露光部分を、水酸化ナトリウム、水酸化カリウム、炭酸ナトリウム、炭酸カリウム、珪酸ナトリウム、アンモニア、有機アミン、テトラメチルアンモニウムハライド等の水溶液(アルカリ水溶液)により除去し、レジストパータンを形成(現像)する。
【0057】
そして、その後、所定温度にて加熱し、熱硬化(イミド化)せしめることにより、優れた耐熱性及び機械的特性を発揮し、また、基材(基板)との密着性にも優れている多分岐ポリイミド系ハイブリッドからなるパターンが得られるのである。
【実施例】
【0058】
以下に、本発明の実施例を幾つか示し、本発明を更に具体的に明らかにすることとするが、本発明が、そのような実施例の記載によって、何らの制約をも受けるものでないことは、言うまでもないところである。また、本発明には、以下の実施例の他にも、更には上記した具体的記述以外にも、本発明の趣旨を逸脱しない限りにおいて、当業者の知識に基づいて、種々なる変更、修正、改良等が加え得るものであることが、理解されるべきである。
【0059】
−実験例1−
かき混ぜ棒、窒素導入管及び塩化カルシウム管を備えた100mLの三つ口フラスコに、4,4’−(ヘキサフルオロイソプロピリデン)ジフタル酸二無水物(6FDA)の7.10g(16mmol)を入れ、N−メチル−2−ピロリドン(NMP)の40mLを加えて、6FDAを溶解した。この溶液を撹拌しながら、20mLのNMPに溶解した1,3,5−トリス(アミノフェノキシ)ベンゼン(TAPOB):2.24g(5.6mmol)を徐々に加えた後、25℃で2時間、撹拌し、酸無水物末端の多分岐ポリイミド前駆体(多分岐ポリアミド酸)を合成した。
【0060】
かかる多分岐ポリイミド前駆体のNMP溶液に、3−アミノプロピルトリメトキシシラン(APTrMOS)の2.73g(15.2mmol)を加えて、30分撹拌し、シラン末端多分岐ポリイミド前駆体のNMP溶液(固形分濃度:17重量%)を得た。
【0061】
このNMP溶液に、3−(トリメトキシシリル)プロピルメタクリレート(MPS):10.2g、及び水:3.3gを加えて、更に30分撹拌した。
【0062】
得られた溶液に、所定の光重合開始剤及び熱重合禁止剤を加えて撹拌した後、シリコンウェハー上にスピンコートし、80℃で3分間、予備乾燥した結果、膜厚が約4μmの塗膜を得た。そのような塗膜を4枚準備し、それぞれの塗膜に、露光部幅が20μm、10μm、6μm又は4μmのフォトマスクを密着させ、高圧水銀灯を用いて紫外線(g,h,i混合線)を照射した。
【0063】
かかる照射の後、このシリコンウェハーを炭酸ナトリウム水溶液(濃度:1.0重量%)に浸漬して現像した後、イオン交換水でリンスし、更に250℃で2時間、加熱し、イミド化せしめた。そして、得られたシリコーンウエハー上のパターンを走査型電子顕微鏡(SEM)にて観察したところ、明瞭な多分岐ポリイミド系ハイブリッドからなるパターンが認められた。露光部幅が20μmのフォトマスクを用いて得られたパターンのSEM写真を図1、露光部幅が10μmのフォトマスクを用いて得られたパターンのSEM写真を図2、露光部幅が6μmのフォトマスクを用いて得られたパターンのSEM写真を図3、露光部幅が4μmのフォトマスクを用いて得られたパターンのSEM写真を図4として、それぞれ示す。
【0064】
なお、得られた多分岐ポリイミド系ハイブリッド中には、二酸化ケイ素換算で16重量%のシリカが含まれていた。また、得られた多分岐ポリイミド系ハイブリッドについて、昇温速度:10℃/分にて示差走査熱量測定(DSC測定)及び熱重量測定(TGA測定)を行なったところ、ガラス転移温度は250℃、熱分解温度(5%重量減少温度)は363℃であった。更に、昇温速度:5℃/分にて熱機械測定(TMA測定)を行ない、100〜150℃における平均線膨張係数を求めたところ、86ppm/℃であった。
【0065】
−実験例2−
かき混ぜ棒、窒素導入管及び塩化カルシウム管を備えた100mLの三つ口フラスコに、4,4’−(ヘキサフルオロイソプロピリデン)ジフタル酸二無水物(6FDA)の7.10g(16mmol)を入れ、N−メチル−2−ピロリドン(NMP)の40mLを加えて、6FDAを溶解した。この溶液を撹拌しながら、20mLのNMPに溶解した1,3,5−トリス(アミノフェノキシ)ベンゼン(TAPOB):2.4g(6.0mmol)を徐々に加えた後、25℃で2時間、撹拌し、酸無水物末端の多分岐ポリイミド前駆体(多分岐ポリアミド酸)を合成した。
【0066】
かかる多分岐ポリイミド前駆体のNMP溶液に、3−アミノプロピルトリメトキシシラン(APTrMOS)の2.73g(15.2mmol)を加えて、30分撹拌し、シラン末端多分岐ポリイミド前駆体のNMP溶液(固形分濃度:17重量%)を得た。
【0067】
このNMP溶液に、3−(トリメトキシシリル)プロピルメタクリレート(MPS):10.2g、及び水:3.3gを加えて、更に30分撹拌した。
【0068】
得られた溶液に、所定の光重合開始剤及び熱重合禁止剤を加えて撹拌した後、シリコンウェハー上にスピンコートし、80℃で3分間、予備乾燥した結果、膜厚が約4μmの塗膜を得た。そのような塗膜を4枚準備し、それぞれの塗膜に、露光部幅が20μm、10μm、6μm又は4μmのフォトマスクを密着させ、高圧水銀灯を用いて紫外線(g,h,i混合線)を照射した。
【0069】
かかる照射の後、このシリコンウェハーを炭酸ナトリウム水溶液(濃度:1.0重量%)に浸漬して現像した後、イオン交換水でリンスし、更に250℃で2時間、加熱し、イミド化せしめた。そして、得られたシリコーンウエハー上のパターンを走査型電子顕微鏡(SEM)にて観察したところ、明瞭な多分岐ポリイミド系ハイブリッドからなるパターンが認められた。
【0070】
−実験例3−
実験例1で得られた多分岐ポリイミド前駆体のNMP溶液に、2−ヒドロキシエチルメタクリレート(HEMA)を、多分岐ポリイミド前駆体の100重量部に対して25重量部となるような量的割合において添加し、混合した。その混合溶液に、溶液中に所定の光重合開始剤及び熱重合禁止剤を加えて撹拌した後、シリコンウェハー上にスピンコートし、80℃で3分間、予備乾燥した結果、膜厚が約4μmの塗膜を得た。そのような塗膜を4枚準備し、それぞれの塗膜に、露光部幅が20μm、10μm、6μm又は4μmのフォトマスクを密着させ、高圧水銀灯を用いて紫外線(g,h,i混合線)を照射した。
【0071】
かかる照射の後、このシリコンウェハーを炭酸ナトリウム水溶液(濃度:1.0重量%)に浸漬して現像した後、イオン交換水でリンスし、更に250℃で2時間、加熱し、イミド化せしめた。そして、得られたシリコーンウエハー上のパターンを走査型電子顕微鏡(SEM)にて観察したところ、明瞭な多分岐ポリイミド系ハイブリッドからなるパターンが認められた。
【0072】
−実験例4−
実験例1で得られた多分岐ポリイミド前駆体のNMP溶液に代えて、実験例2で得られたNMP溶液を用いた以外は実験例3と同様にして、シリコーンウエハー上にパターンを形成せしめた。かかるパターンを走査型電子顕微鏡(SEM)にて観察したところ、明瞭な多分岐ポリイミド系ハイブリッドからなるパターンが認められた。
【0073】
−実験例5−
かき混ぜ棒、窒素導入管及び塩化カルシウム管を備えた100mLの三つ口フラスコに、6FDAの7.10g(16mmol)を入れ、NMPの40mLを加えて6FDAを溶解した。この溶液を撹拌しながら、TAPOB:2.24g(5.6mmol)及び1,3−(3−アミノプロピル)テトラメチルジシロキサン:0.15g(0.6mmol)が溶解している20mLのNMP溶液を、徐々に加えた後、25℃で2時間、撹拌し、シロキサン変性酸無水物末端多分岐ポリイミド前駆体を合成した。
【0074】
かかるポリイミド前駆体のNMP溶液に、APTrMOS:2.51g(14mmol)を加えて、30分撹拌し、シラン末端シロキサン変性多分岐ポリイミド前駆体のNMP溶液(固形分濃度:17重量%)を得た。
【0075】
このNMP溶液に、MPS:10.2g、及び水:3.3gを加えて、更に30分撹拌した。
【0076】
得られた溶液に、所定の光重合開始剤及び熱重合禁止剤を加えて撹拌した後、シリコンウェハー上にスピンコートし、80℃で3分間、予備乾燥した結果、膜厚が約4μmの塗膜を得た。そのような塗膜を4枚準備し、それぞれの塗膜に、露光部幅が20μm、10μm、6μm又は4μmのフォトマスクを密着させ、高圧水銀灯を用いて紫外線(g,h,i混合線)を照射した。
【0077】
かかる照射の後、このシリコンウェハーを炭酸ナトリウム水溶液(濃度:1.0重量%)に浸漬して現像した後、イオン交換水でリンスし、更に250℃で2時間、加熱し、イミド化せしめた。そして、得られたシリコーンウエハー上のパターンを走査型電子顕微鏡(SEM)にて観察したところ、明瞭な多分岐ポリイミド系ハイブリッドからなるパターンが認められた。
【図面の簡単な説明】
【0078】
【図1】実施例において、露光部幅が20μmのフォトマスクを用いて得られた多分岐ポリイミド系ハイブリッドからなるパターンのSEM写真である。
【図2】実施例において、露光部幅が10μmのフォトマスクを用いて得られた多分岐ポリイミド系ハイブリッドからなるパターンのSEM写真である。
【図3】実施例において、露光部幅が6μmのフォトマスクを用いて得られた多分岐ポリイミド系ハイブリッドからなるパターンのSEM写真である。
【図4】実施例において、露光部幅が4μmのフォトマスクを用いて得られた多分岐ポリイミド系ハイブリッドからなるパターンのSEM写真である。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
デンドリティック構造を基本とする多分岐ポリイミド前駆体相とシリカ相とが共有結合によって一体化された複合構造を呈し、且つ、光重合性官能基を有する重合性化合物によって分子末端が修飾されていることを特徴とする感光性多分岐ポリイミド系ハイブリッド前駆体。
【請求項2】
デンドリティック構造を基本とするシロキサン変性多分岐ポリイミド前駆体相とシリカ相とが共有結合によって一体化された複合構造を呈し、且つ、光重合性官能基を有する重合性化合物によって分子末端が修飾されていることを特徴とする感光性多分岐ポリイミド系ハイブリッド前駆体。
【請求項3】
請求項1又は請求項2に記載の感光性多分岐ポリイミド系ハイブリッド前駆体をイミド化してなる多分岐ポリイミド系ハイブリッド。
【請求項4】
請求項1又は請求項2に記載の感光性多分岐ポリイミド系ハイブリッド前駆体と、光重合開始剤とを含有する感光性樹脂組成物。
【請求項5】
芳香族テトラカルボン酸二無水物とトリアミン化合物とから得られるデンドリティック構造を基本とする多分岐ポリイミド前駆体と、分子内にアルコキシシリル基及びアミノ基を有するアルコキシシリルアミン化合物とを反応せしめた後、その得られた反応生成物に対して、分子内にアルコキシシリル基及び光重合性官能基を有する重合性化合物を反応せしめることを特徴とする感光性多分岐ポリイミド系ハイブリッド前駆体の製造方法。
【請求項6】
芳香族テトラカルボン酸二無水物、トリアミン化合物及び下記一般式(1)で表わされるジアミノシロキサン化合物より得られるデンドリティック構造を基本とするシロキサン変性多分岐ポリイミド前駆体と、分子内にアルコキシシリル基及びアミノ基を有するアルコキシシリルアミン化合物とを反応せしめた後、得られた反応物に対して、分子内にアルコキシシリル基及び光重合性官能基を有する重合性化合物を反応せしめることを特徴とする感光性多分岐ポリイミド系ハイブリッド前駆体の製造方法。
【化1】


【図1】
image rotate

【図2】
image rotate

【図3】
image rotate

【図4】
image rotate


【公開番号】特開2008−231170(P2008−231170A)
【公開日】平成20年10月2日(2008.10.2)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2007−69882(P2007−69882)
【出願日】平成19年3月19日(2007.3.19)
【出願人】(805000018)財団法人名古屋産業科学研究所 (55)
【Fターム(参考)】