成膜装置および強誘電体膜の製造方法
【課題】基板の温度制御変動を抑制し、高品質の膜を再現性よく成膜することのできる成膜装置を提供する。
【解決手段】蒸発源12およびプラズマ生成空間と、基板保持部に保持された基板14とをシャッター20で隔てた状態で、蒸発源を加熱し、プラズマ105を生成する。基板サセプタ13に内蔵された加熱源13aにより基板を加熱するとともに、シャッターの基板側の面に配置された輻射熱源により、蒸発源およびプラズマからシャッターに到達している熱量と同等の輻射熱量を供給して基板を加熱する。基板の温度が所定の温度に達した状態で、シャッターを開き、蒸発源からの蒸気をプラズマを通過させて、基板上に堆積させる。これにより、シャッターを開いても基板温度の変動を抑制できる。
【解決手段】蒸発源12およびプラズマ生成空間と、基板保持部に保持された基板14とをシャッター20で隔てた状態で、蒸発源を加熱し、プラズマ105を生成する。基板サセプタ13に内蔵された加熱源13aにより基板を加熱するとともに、シャッターの基板側の面に配置された輻射熱源により、蒸発源およびプラズマからシャッターに到達している熱量と同等の輻射熱量を供給して基板を加熱する。基板の温度が所定の温度に達した状態で、シャッターを開き、蒸発源からの蒸気をプラズマを通過させて、基板上に堆積させる。これにより、シャッターを開いても基板温度の変動を抑制できる。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、アーク放電プラズマを使用した成膜装置に関し、特に、酸化物強誘電体の成膜に適した装置に関する。
【背景技術】
【0002】
Pb,Zr,Tiの各元素を含む酸化化合物であるPZT〔Pb(ZrxTi1-x)O3〕やPb,La,Zr,Tiの各元素を含む酸化化合物であるPLZT〔(Pb1-xLax)(ZryTi1-y)1-x/4O3〕等に代表される多元系酸化物強誘電体は、優れた圧電性、焦電性、電気光学特性等を有し、それらのバルク構造体は種々の電子デバイスへ応用されてきている。特に近年では、不揮発性RAM用のメモリ材料、マイクロアクチュエータ、及び集積型センサ等への応用を目指して、これら金属酸化物の薄膜化が検討されてきている。この薄膜化によって、駆動電圧の低電圧化、素子の集積化、分極処理の省略等が可能になり、バルクでは得られないデバイス特性を発揮するものと期待されている。
【0003】
従来、このようなペロブスカイト酸化物薄膜の作製法としては、スパッタリング法、あるいはアーク放電反応性イオンプレーティング法(Arc Discharged Reactive Ion Plating:ADRIP)などが主に用いられている。
【0004】
スパッタリング法は、数Pa程度の圧力に調製されたAr等の希ガス雰囲気中で、基板と対向するターゲット試料との間に直流(DC)あるいは高周波(RF)電圧を印加することにより希ガスの放電を誘起し、そのガス分子の衝突によって試料をはじき飛ばして基板上に堆積させる方法である。この方法は、高エネルギー原子が基板に衝突して堆積するので、一般に薄膜の密着性が良く、また、基本的にはターゲット組成に近い膜組成が得られやすい。スパッタリング法では、PZTの焼結体ターゲットを用いることで基板へ転写できる点、焼結体ターゲットの組成が一定なことにより、再現性が良好である点が特に優れ、成膜時に基板の裏面側から輻射熱で基板加熱をしていることにより、良好なPZTを成膜できることが特許文献1、特許文献2にて報告されている。
【0005】
特許文献3には、スパッタリング装置において、シャッター開閉の前後で、成膜中の基板温度を一定に保つことを目的として、基板シャッターにヒーターを設けることが記載されている。この特許文献3では、通常は、基板の裏面側に配置されているヒーターをシャッターに移設し、基板の裏面からは高温のガス導入で基板を加熱することを提案している。
【0006】
ADRIP法は、特許文献4や特許文献5等において、ペロブスカイト型酸化物からなるPZT等に代表される強誘電体や圧電体の薄膜の作製においても、EB(電子ビーム)加熱蒸発源と高密度の酸素プラズマ発生源を用いることで、基体温度が500℃で5オングストローム/sの高速成膜が可能な点、および、蒸発材料としてメタルを使用できるため材料効率が高い点が特に優れていると報告されている。また、基板裏面(成膜面と反対側)から輻射熱で基板加熱を行なうことにより、比較的低い成膜温度でも速い成膜速度で結晶性の良い優れた薄膜が得られることも報告されている。これはADRIP法が、スパッタ法で用いられるグロー放電よりもプラズマ密度が2〜3桁高いアーク放電プラズマを使用しているため、酸素活性種の生成効率が高いからである。これにより、従来の薄膜の作製温度であった600℃程度の基体温度よりも100℃低温の500℃程度で強誘電体薄膜を形成することができる。得られた薄膜は強誘電性を与えるペロブスカイト型の結晶構造を有しており、誘電的性質もバルク材料と同等の特性を示していることが報告されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0007】
【特許文献1】特開2005−38914号公報
【特許文献2】特開2007−327106号公報
【特許文献3】特開平07−11438号公報
【特許文献4】特開2001−234331号公報
【特許文献5】特開2002−177765号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
しかしながら、上記のような従来の強誘電体薄膜の製造方法にあっては、次のような問題点があった。
【0009】
スパッタ法は、酸化物を焼成して作製したセラミックターゲットを使用する方法と、各金属を適当な面積比になるように配置した金属ターゲットを使用する2つの方法に大別される。何れの方法においても、金属酸化物の薄膜を作製した場合、往々にして堆積した膜の組成ずれや、再スパッタによる堆積速度の低下が発生する。セラミックターゲットでは、熱によるターゲットの破損、アーク(異常放電)の発生などの問題も生じる。金属ターゲットを用いてArに酸素(O2)を添加する反応性スパッタ法を行う場合には、添加量の増減によって堆積速度や放電電圧が変化し、成膜の制御が不安定になる傾向にある。これらの理由で、スパッタ法は一般に薄膜の堆積速度が遅い傾向がある。また、高品質の膜を得るためには、極端に堆積速度を低下させたり、基板温度を600℃以上に高め、基板内で均一な熱分布となるように熱制御を行う必要がある。
【0010】
一方、ADRIP法では、基板の温度制御が容易ではなく、酸化物誘電体の結晶性や電気特性等の再現性が得られにくいという問題があった。
【0011】
また、特許文献3に記載のように、基板裏面のヒーターをシャッターに移設し、基板裏面からは高温ガスを流して加熱する構成をADRIP法に適用した場合、ガスによる昇温には限度があるため、シャッターオープン後に基板の温度を500℃以上に維持することは困難であると考えられ、ペロブスカイト酸化物のように基板温度を高温にする必要のある強誘電体の形成には適用できない。
【0012】
本発明の目的は、基板の温度制御変動を抑制し、高品質の膜を再現性よく成膜することのできる成膜装置を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0013】
上記目的を達成するために、本発明の第1の態様によれば、以下のような成膜装置が提供される。すなわち、成膜容器と、基板を保持する基板保持部と、基板と対向する位置に配置された成膜源と、基板と前記成膜源との間の空間にプラズマを生成するプラズマ源と、開閉可能なシャッターとを有する成膜装置である。シャッターは、プラズマの生成空間と、基板との間を隔てる位置に配置され、基板側の面に輻射熱源を備えている。シャッターの成膜源側には、シャッターの成膜源側の面に入射する熱量を検出する熱量センサが配置されている。輻射熱源および熱量センサには、熱量センサが検出した熱量に応じて輻射熱源から輻射熱を発生させる基板シャッター制御部が接続されている。これにより、シャッターを閉じた状態で、シャッター側の基板面に輻射熱をあらかじめ供給できるため、シャッターを開いた瞬間の基板温度の変動を抑制できる。
【0014】
上記制御部は、例えば成膜源およびプラズマからシャッターの成膜源側の面に到達する輻射熱量と同等の熱量を、輻射熱源から発生させる構成とする。
【0015】
また、例えば、基板保持部には、基板を加熱する加熱源と、基板温度を検出する温度センサとが備えられ、加熱源と温度センサには、温度センサが検出した結果に応じて加熱源を制御する基板保持部制御部が接続されている構成とする。
【0016】
シャッターは、輻射熱源とシャッター裏面とを断熱するための断熱部を備える構成とすることができる。
【0017】
蒸発源は、例えば、電子ビーム加熱源を備える構成とする。
【0018】
プラズマ源としては、例えば、アーク放電プラズマを生成するものを用いる。
【0019】
本発明の第2の態様によれば、以下のような成膜装置が提供される。すなわち、成膜容器と、基板を保持する基板保持部と、基板と対向する位置に配置された成膜源と、開閉可能なシャッターとを有する成膜装置である。シャッターは、成膜源と、基板との間を隔てる位置に配置され、基板側の面に輻射熱源を備えている。シャッターの成膜源側には、シャッターの成膜源側の面に入射する熱量を検出する熱量センサが配置されている。輻射熱源および熱量センサには、熱量センサが検出した熱量に応じて輻射熱源から輻射熱を発生させる制御部が接続されている。
【0020】
成膜源は、例えば、蒸発源またはスパッタターゲットとする。
【0021】
本発明の第3の態様によれば、以下のような強誘電体酸化物膜の製造方法が提供される。すなわち、イオンプレーティング法により強誘電体酸化物膜を製造する方法であって、
蒸発源およびプラズマ生成空間と、基板保持部に保持された基板とをシャッターで隔てた状態で、蒸発源を加熱し、プラズマを生成し、
基板ホルダに内蔵された加熱源により基板を加熱するとともに、シャッターの基板側の面に配置された輻射熱源により、蒸発源およびプラズマからシャッターに到達している熱量と同じ輻射熱量を供給して基板を加熱し、
基板の温度が所定の温度に達した状態で、シャッターを開き、蒸発源からの蒸気をプラズマを通過させて、基板上に堆積させる強誘電体酸化物膜の製造方法である。
【0022】
シャッターは、輻射熱源と、シャッターの成膜源側の面とを断熱する断熱部を備える構成のものを用いることができる。
【0023】
シャッターよりも成膜源側で、シャッターへ到達する輻射熱量を測定し、輻射熱源を制御する構成とすることが可能である。
【0024】
基板の温度を検出し、基板保持部の加熱源を、輻射熱源とは独立に制御する構成とすることが可能である。
【図面の簡単な説明】
【0025】
【図1】アーク放電イオンプレーティング法において、基板が、基板加熱ヒーターのみならずプラズマやEB蒸発源の輻射熱によって加熱されることを示す説明図。
【図2】従来のアーク放電イオンプレーディング装置において、EB蒸発源のみ、プラズマ源のみ、EB蒸発源とプラズマ源を用いた場合の、シャッター開前後の基板温度の変化を示すグラフ。
【図3】本実施形態の成膜装置の構造を示す説明図。
【図4】本実施の形態の成膜装置において、基板シャッター20から基板14へ輻射熱を与えることを示す説明図。
【図5】本実施形態の成膜装置の基板シャッター20の断面図。
【図6】本実施形態の成膜装置の基板シャッター20(開いた状態)の上面図。
【図7】実施例1において測定した、基板シャッター20の開前後の基板温度の変化を示すグラフ。
【図8】実施例1の10回の成膜で得られたPZT膜の誘電率のばらつきを示すグラフ。
【図9】実施例1の10回の成膜で得られたPZT膜の誘電損失(tanδ)のばらつきを示すグラフ。
【図10】実施例1の10回の成膜で得られたPZT膜の組成xのばらつきを示すグラフ。
【図11】実施例2において異なる種類の基板上に成膜した膜のX線回折像を示すグラフ。
【図12】比較例として異なる種類の基板上に成膜した膜のX線回折像を示すグラフ。
【発明を実施するための形態】
【0026】
本発明の一実施の形態の成膜装置について図面を用いて説明する。
【0027】
発明者らは、従来のアーク放電反応性イオンプレーティング法(ADRIP法)において、基板の温度制御が容易ではなく、酸化物誘電体の結晶性や電気特性等の再現性が得られにくいという問題が生じる原因を探った。その結果、図1に熱源のイメージを示したように、成膜時の基板には、基板加熱のために基板裏面から与えられるヒーター輻射熱の他に、基板表面側から、EB等で加熱された蒸発源からの輻射熱とプラズマ源からの輻射熱の合算されたものが流入するため、基板へ流入してくる熱量が、他の成膜方法と比較して格段に大きく、基板の温度制御が困難になっていることがわかった。
【0028】
すなわち、蒸発源からの輻射熱と、プラズマ源の輻射熱が、基板シャッターを開いた直後に、急激に基板表面に流入し、基板温度を変化させるために、基板シャッターを開いた直後の酸化物誘電体(例えば、PZT等のペロブスカイト酸化物)の初期核成長に大きな影響を与えることがわかった。このため、成膜ロッド毎に膜の結晶性、電気特性等の再現性を低下する。
【0029】
具体的な、基板の温度変化を実験により測定した。この実験には、蒸発源をEBで加熱するADRIP装置を用い、EB蒸発源のみを稼働した場合、プラズマ源のみを稼働した場合、EB源とプラズマ源を同時に稼働した場合について、基板シャッターオープン前後の基板温度を測定した。その結果を図2に示す。図2から明らかなように、基板シャッターオープン直後から、EB蒸発源、プラズマ源から基板に与える熱が基板温度を上昇させ、基板裏面のヒーターのフィードバック制御により、設定温度で再び熱平衡状態に達するまでに20分程度の時間を要していることがわかる。特に、EB蒸発源とプラズマ源を同時に稼働するADRIP法の場合には、基板温度は100℃程度も上昇し、基板裏面のヒーターのフィードバック制御により、設定温度で再び熱平衡状態に達するまでに20分以上の時間を要している。この間も成膜は進んでいるため、成膜初期のPZT膜の初期核形成に影響を及ぼす。初期核の形成の仕方が成膜バッチ毎に揺らぐことが、再現性の低下に繋がっている。
【0030】
また、複数種類の基板を同時に成膜する場合、種類ごとに熱伝導率(熱抵抗)が異なるため、熱平衡に達するまでの時間も異なる。例えば、基板材料が異なる場合や、基板の厚みや積層構造が異なる場合(チューニング用の標準的な厚みの基板と、SOI基板のような貼り合せ基板と、厚さ200μm以下の極薄基板とを同時に成膜する場合)である。このため、シャッターオープン直後の基板表面温度に差が生じ、異なる基板に、同じ組成、結晶構造の膜を作製することが困難であり、基板ごとに条件のチューニングが必要となり、プロセス確立が煩雑になる。
【0031】
一般に、ADRIP装置では、基板加熱ヒーターと温度センサは、基板の裏面側に配置され、フィードバック制御されている。この制御方法では、シャッターオープン直後に、EB蒸発源およびプラズマ源から基板表面へ流れ込む大きな輻射熱による瞬間的な温度上昇に対して、瞬時に対応することができず、熱平衡状態に達するまでに初期核が成長してしまう。
【0032】
同様に、基板の種類が異なる場合も、種類ごとに熱伝導性や断熱効果が異なるため、ヒーターで基板裏面から加熱をしても、各基板の表面温度が熱平衡に達する時間が異なり、PZT初期核形成に違いが生じる。
【0033】
本発明では、簡単な制御回路で、シャッターオープン時に基板温度が上昇する現象を抑制する。
【0034】
具体的には、本発明では、シャッターオープン時の基板温度変化を抑制するために、基板の裏面側に配置された加熱ヒーターに加えて基板シャッターにヒーターを内蔵する。成膜開始前の基板シャッターを閉じた状態で、蒸発源とプラズマ源から発生する熱量の総量を熱量センサで検知して、ヒーター内蔵基板シャッターヘフィードバックすることにより、蒸発源とプラズマ源からの熱量と同等の熱量を、基板シャッター内のヒーターから基板に与える。
【0035】
これにより、基板シャッターのオープン前は、基板シャッターのヒーターからの輻射熱が基板に入射し、シャッターオープン後は、基板シャッターのヒーターの輻射熱に替って、蒸発源とプラズマ源からの熱量が基板に入射する。よって、シャッターを開いた瞬間でも、基板に流入する輻射熱量が変化しないため、成膜開始時の基板温度変動を抑制できる。そのため、初期核の形成が安定し、毎回同じ成長条件で強誘電体膜を成膜することができ、成膜再現性が向上するとともに、初期核の乱れに起因する欠陥の発生や密着力の低下を抑制することができる。
【0036】
本発明の実施形態の成膜装置を図3および図4を用いて説明する。図3に示した成膜装置は、圧力勾配型アーク放電イオンプレーティング装置である。図4には、基板サセプタと基板シャッターの周辺構造を示す。
【0037】
この成膜装置は、電子流を反射させる反射型でかつ圧力勾配型のプラズマガン10と真空容器11とを備えている。
【0038】
真空容器11内には、成膜すべき基板14を支持する基板サセプタ13が配置されている。基板サセプタ13の裏面側には基板14を加熱するためのヒーター13aが内蔵されている。基板サセプタ13内には、熱電対等の温度センサが配置されている。ヒーター13aおよび温度センサ13bには、フィードバック制御回路31が接続されている。フィードバック制御回路31は、温度センサ13bの出力信号をとりこんで、それに応じてヒーター13aに供給する電流値を制御し、基板サセプタ13の温度を所定温度に制御する。
【0039】
真空容器11内の基板14に対向する位置には、複数の蒸発源12が配置される。図3には図示していないが、真空容器11内には、蒸発源12に電子ビームを照射する電子ビーム源(EBガン)が備えられている。
【0040】
蒸発源12と基板14との間には、成膜を開始するまで、蒸発源12の蒸気が基板14に到達するのを遮るための基板シャッター20が配置されている。基板シャッター20の構造については後述する。
【0041】
また、基板14と蒸発源12との間の空間に反応ガスを供給するための反応ガス導入管15が配置されている。
【0042】
真空容器11の側面にはプラズマ引き込み口11aが備えられ、プラズマガン10が取り付けられている。プラズマガン10は、筒状のプラズマガン容器103に、陰極1、第1中間電極2、第2中間電極3、第3中間電極4および陽極5を順に配置した構造である。陰極1、第1中間電極2、第2中間電極3、第3中間電極4および陽極5はガイシによって相互に絶縁されている。陽極の外周側には、プラズマをガイドするための空芯コイル(不図示)が配置されている。
【0043】
陰極1は、アーク放電に適した公知の陰極構造のものを用いる。陰極1には放電ガスの導入口102が備えられている。第1、第2および第3中間電極2,3,4は、いずれも中央に所定の径の貫通孔を有しており、この貫通孔によってプラズマガン容器103の圧力を真空容器11よりも陽圧に維持し、圧力勾配を形成する。第1、第2および第3中間電極2,3,4には、生じたプラズマを収束させて貫通孔を通過させるための磁場を発生する永久磁石または電磁石が必要に応じて内蔵されている。
【0044】
プラズマ発生のための電気配線は、図3に示されるように、陰極1と陽極5との間に直流電源6を配置する。第1、第2および第3の中間電極2,3,4には適切な抵抗値の抵抗を介して陽極5を接続する。陰極1から適切な流量の放電ガスを流して、直流電源により陰極1と陽極5間に電圧を印加することにより、陰極1と陽極5間及び真空容器11内に直流アーク放電プラズマを発生させることができる。
【0045】
プラズマガン10は、陽極4を真空容器11の手前に配置した反射型の構成であるため、プラズマガン10から真空容器11内に導かれた直流アーク放電プラズマ中の電子は空間電荷によって反射されて陽極5に戻る。よって、真空容器11内にはプラズマ105のみが発生し、電子電流が空間を流れない。これによりプラズマ105は、ガイド用の空芯コイルが形成する磁場の影響を受けて歪むことがないため、偏りのない均質なプラズマを、まっすぐに真空容器11に引き出すことができる。
【0046】
図4、図5および図6を用いて、基板シャッター20の構成を説明する。図5は、基板シャッター20の断面図、図6は、基板シャッター20を開いた状態の上面図である。
【0047】
基板シャッター20は、図5のように、蒸発源12側から順に、遮蔽プレート21と断熱プレート22と加熱プレート23とをスペーサー24を挟んで重ね、固定した構造である。遮蔽プレート21は、基板シャッター20を開くまで、蒸発源12からの蒸気を遮蔽するための板状部材であり、例えばステンレスにより構成されている。加熱プレート23は、内部にヒーター25を内蔵し、均一な輻射熱を基板14に照射するために、熱伝導および輻射率の高い材料(例えばステンレス)により構成されている。断熱プレート23は、遮蔽プレート21と加熱プレート23とを相互に断熱するために輻射率の低い材料(例えば、アルミナ)によって構成されている。
【0048】
基板シャッター20は閉じた状態で円形であるが、図6のように、主平面方向について2分割された形状である。2枚の半円形のシャッターはそれぞれの端部に配置された軸26を中心に回転することにより開閉する。
【0049】
シャッター20の下側の空間には、すべての蒸発源12から輻射熱が当たる位置であって、プラズマ105からの輻射熱を受ける位置で、かつ、基板14への成膜の妨げにならない位置に熱量センサ27(例えばサーモパイル式熱量計)が配置されている。熱量センサ27の下部には、蒸発源12からの蒸気が熱量センサ27に堆積するのを防止するためのセンサ用シャッター28が配置されている。
【0050】
熱量センサ27およびヒーター25には、制御回路29が接続されている。制御回路29は、熱量センサ27の出力信号に応じて加熱プレート23のヒーター25に供給する電流量を制御する。これにより、蒸発源12およびプラズマ105からの輻射熱の熱量と同じ熱量を加熱プレート23から基板14に対して輻射するように制御する。
【0051】
断熱プレート23は、蒸発源12およびプラズマ源から輻射熱を遮断するので、シャッターが閉じている状態では、基板14は、基板サセプタ13のヒーター13aと、基板シャッター20に取り付けられた加熱プレート25からの輻射熱によって加熱されることになる。
【0052】
このような構造により、本発明では、シャッターオープン時の基板温度変化を抑制するために、成膜開始前の基板シャッターを閉じた状態で、蒸発源とプラズマ源から発生する熱量の総量を熱量センサで検知して、ヒーター内蔵基板シャッターヘフィードバックすることにより、蒸発源とプラズマ源からの熱量と同等の熱量を、基板シャッター内のヒーターから基板に与えることができる。
【0053】
本実施形態の成膜装置を用いて成膜を行う手順について具体的に説明する。
【0054】
1以上の基板14を基板サセプタ13にセットする。蒸発源12として、所望の1以上の蒸発源をセットする。真空容器11およびプラズマガン容器103を所定の真空度まで排気する。反応ガス供給管15から所定の反応ガス(例えば酸素)を供給する。
【0055】
シャッター20を閉じた状態で、プラズマガン10からアーク放電プラズマ105を生じさせ、真空容器11にプラズマ105を引き出す。蒸発源12に不図示のEBガンから電子ビームを照射し、蒸発源12をそれぞれ加熱する。
【0056】
制御回路29を動作させ、プラズマ105および蒸発源12から基板シャッター20に到達している熱量と同じ熱量が加熱プレート23から輻射されるように制御する。同時に、制御回路31を動作させ、基板14を裏面側からヒーター13aで加熱し、設定温度となるように制御する。
【0057】
このように、基板シャッター20を閉じた状態で、あらかじめ基板シャッター20の加熱プレート23から、プラズマ105および蒸発源12の輻射熱と同じ熱量が基板14に入射するため、基板14は表および裏面からの熱が平衡に達した状態で、制御回路31の動作により所定の温度に制御される。よって、材質や構造の異なる複数種類の基板14をセットしても成膜開始時には全て熱的平衡に達して、同一の基板表面温度にすることができる。
【0058】
プラズマ105の生成および蒸発源12からの蒸発量が安定し、かつ、基板サセプター13のヒーター13aおよび基板シャッター20のヒーター25の輻射熱量が安定し、フィードバック制御により基板14の温度が設定温度で熱平衡に達したならば、基板シャッター20を開き、成膜を開始する。蒸発源12からの蒸気は、放電ガス(例えばヘリウム)および反応ガス(例えば酸素)の混合プラズマ105を通過して、所定の反応を生じながら設定温度の基板14上に堆積する。
【0059】
基板シャッター20のオープン後は、基板シャッター20のヒーター25の輻射熱に替って、蒸発源とプラズマ源からの熱量が基板に入射する。よって、シャッターを開いた瞬間でも、基板14に流入する輻射熱量が変化しないため、基板14の熱平衡状態は変わらず、成膜開始時の基板温度変動を抑制できる。例えば、制御回路31のフィードバック制御のオーバーシュートにより基板温度が上がりすぎる現象を抑制できる。
【0060】
これにより、基板14に蒸発源12からの蒸気が堆積する成膜初期の核形成を安定化することができる。しかも、基板の温度変動が生じないため、毎回同じ成長条件で成膜できる。これにより、例えば、強誘電体膜を成膜する場合において、成膜再現性が向上するとともに、初期核の乱れに起因する欠陥の発生を抑制できる。基板14への膜の密着力の低下も抑制することができる。
【0061】
また、従来の成膜装置では、基板サイズが大きくなると、膜厚や膜特性に分布が生じることがしばしばあった。これは、基板中央と、基板サセプタの開口部とで放熱に差があることに起因するが、本実施形態の成膜装置は、表面側からも加熱し、熱平衡状態に達して、基板シャッターオープン後にも熱平衡は維持され続ける。よって、原理的には基板サイズに依らず、例えば大口径のウェハ(8インチ)でも良好な圧電特性を示すPZT膜等の強誘電体膜を形成することが可能となる。
【0062】
本発明の成膜装置は、基板を裏面側から加熱するヒーター13aおよびその制御回路31と、基板シャッター20のヒーター25およびその制御回路29は、それぞれ独立しており、いずれも簡単なフィードバック制御回路である。このように、本発明は、簡単なフィードバック制御回路でありながら、シャッターオープン前後の基板温度を精度よく制御できる。
【0063】
なお、熱量センサ27としては、熱サーモパイル式熱量計に限らず、熱電対、放射温度計、抵抗温度計、バイメタル温度計、ガラス温度計などを用いることも可能である。
【0064】
上記実施形態では、アーク放電イオンプレーティング装置について説明したが、この装置に限らず、基板シャッター20で基板14と隔てられた空間に、輻射熱の熱源が存在する装置、例えば蒸着装置やスパッタリング装置のような物理蒸着装置についても、同様に本実施形態の基板シャッター20の構造を適用することができる。
【0065】
上述してきたように本発明によれば、成膜開始前後(基板シャッター開閉後)に、基体温度変動を抑えることができるとともに、高品質の膜が得られるため、原料の利用効率を高めることができ、安全性、対環境性に優れた強誘電体薄膜の製造に適している。例えばPZT膜を圧電薄膜して用いて駆動するMEMS光スキャナや、インクジェットプリンタヘッドを製造することができる。
【実施例】
【0066】
(実施例1)
実施例1として、3つの中間電極を持ったプラズマガン10が取り付けられている図3の反射型圧力勾配型アーク放電イオンプレーティング装置を用いて、ペロブスカイト型酸化物で強誘電体および圧電体の特性を示すチタン酸ジルコン酸鉛PZT〔Pb(ZrxTi1-x)O3〕薄膜の形成を実施した。
【0067】
基板14は、(100)面Siウェハ上にSiO2/Ti/Ptの順に各構成材料を堆積したものとした。蒸発源12の材料として、Pb,Zr,Tiの各金属を用いた。
【0068】
圧力勾配型アーク放電プラズマガン10に、キャリアガスとして100sccmのHeガスを導入し、直流バイアス電圧を印加することにより、アーク放電を発生させた。放電電圧は120V、放電電流は70Aで制御した。このアーク放電で生成した高密度プラズマ(プラズマ密度1012cm3以上)を、プラズマ制御用の磁場発生源によって生じた300ガウス程度の磁場によって真空容器内に導いた。
【0069】
この状態で、ガス導入管よりO2ガスを反応ガスとして250sccm導入することにより、真空容器内に高密度の酸素プラズマ及び酸素ラジカルを生成した。
【0070】
基板14は、ヒーター13aを制御回路31で制御し、550℃程度に加熱した。基板シャッター20は、閉じた状態で、上記のHeとO2の混合プラズマの存在下で、蒸発源12を電子ビーム加熱により各々独立に蒸発させた。各金属の蒸発量は、水晶振動式膜厚センサによってモニタし、電子ビーム加熱源の出力をフィードバック制御することにより、所定の蒸発量で一定に制御した。膜組成をx=0.5、すなわちPb(Zr0.5Ti0.5)O3に調製した。成膜時の圧力は0.1Paとした。各原料金属蒸気と混合プラズマ中の酸素ラジカルとを反応させ、水晶振動子式膜厚モニタにて、Pb蒸発量がZrとTiの蒸発量の合計に対して10〜20倍の範囲になるように、かつZrとTiの蒸発量がほぼ同等になるように、蒸発源の出力を制御した。これにより、ペロブスカイト型結晶構造単相のPZT膜が形成可能になる。
【0071】
このとき、基板シャッター20を閉じた状態のまま、加熱プレート23を制御回路29により制御し、熱量センサ27で検出した、蒸発源12およびプラズマ105からシャッター20に到達する輻射熱量と同等の熱量が、加熱プレート23から基板14へ輻射されるようにした。よって、基板14は、基板シャッター20からの輻射熱を受けた状態で、裏面からのヒーター13aの加熱により熱平衡に達し、550℃に制御されている。
【0072】
この状態で、基板シャッター20をオープンし、各原料金属蒸気と混合プラズマ中の酸素ラジカルとを反応したものを基板14上に堆積させ、ペロブスカイト型結晶構造単相のPZT膜を形成した。成膜速度は1nm/s以上で、膜厚は4μmの厚膜である。
【0073】
この成膜方法で、再現性を確認するため、PZT膜を10回成膜した。
【0074】
また、比較例として、基板シャッター20の加熱プレート23からの加熱を行わず、他の条件は実施例1と同じにして、10回の成膜を行った。
【0075】
成膜開始(基板シャッター開)の前後の基板14の温度をモニターしたところ、図7に示したように実施例では、基板シャッター開の前後で温度変化はほとんど生じないことが確認された。これに対して、比較例では、基板温度が一時的に100℃も上昇していた。
【0076】
つぎに、10回の成膜でそれぞれ得られた実施例1および比較例のPZT膜について、誘電率、誘電損失、組成を測定した。
【0077】
誘電率の再現性の違いを図8に示す。目標の誘電率εを1050に定めて成膜を行ったところ、比較例のヒーターなし基板シャッターの手法でPZTを成膜すると10回の成膜で誘電率ε=500〜1100の範囲にばらつき、ロッド間のばらつき率は30%以上であった。一方、本実施例のPZT膜は、10回の成膜で誘電率はε=1000〜1100の範囲に入り、ロッド間ばらつき率は、5%以内に抑制できた。
【0078】
また、誘電損失(tanδ)のロッド間ばらつきを図9に示す。目標の誘電損失を3.00%に定めて成膜を行ったところ、比較例のヒーターなし基板シャッターの手法では、tanδ=3.30%〜8.30%の範囲にばらつき、10回の成膜ロッド間ばらつき率40%以上であった。一方、本実施例では、tanδ=2.95%〜3.15%の範囲に入り、10回の成膜ロッド間ばらつき率は、5%以内に抑制できた。
【0079】
また、組成のばらつきを図10に示す。PZTの組成をx=0.5、すなわちPb(Zr0.5Ti0.5)O3を目標にし場合、比較例では、x=0.33〜0.75と、35%以上のばらつきが生じた。一方、本実施例ではx=0.48〜0.52と、5%以内に組成を安定化させることができた。
【0080】
(実施例2)
実施例2では、基板種類の違いによる結晶構造の変化を測定するため、複数種類の基板上にPZT膜を成膜した。用いた基板は、ベアSi(厚さ500μm)、SOI(厚さ50μm/2.0μm/450μm)、ベアSi(厚さ625μm)の3種類である。成膜方法は、実施例1と同じとした。得られた本実施例のPZT膜のX線回折像を図11に、比較例のPZT膜のX線回折像を図12に示す。
【0081】
本実施例2の3種類の基板上にそれぞれ形成したPZT膜は、図11の(a),(b),(c)にそれぞれ回折像を示したように、同じ結晶構造であり、ペロブスカイト単相が得られることが確認できた。よって、実施例1の成膜方法で成膜することにより、成膜条件を基板の種類ごとにチューニングする必要がないことがわかった。
【0082】
一方、比較例で3種類の基板上にそれぞれ形成したPZT膜の回折像を、図12にそれぞれ示した。図12の(a)は、ベアSi基板(500μm)上に成膜したPZTのX線回折像である。これにより、(001)に強く配向した結晶性であることが分かった。
【0083】
図12の(b)は、SOI(50μm/2.0μm/450μm)の基板上に成膜したPZTの回折像である。(001)、(110)が観測されたことからペロブスカイトが形成されていることは確認できたが、30度付近にPbOの異相が出現していた。すなわち、ベアSi基板とは異なり、ペロブスカイト単相にはなっていなかった。これは、SOI基板は、中間層にSiO2層が2.0μm挿入されており、SiO2層はSiに比べて熱伝導率が100倍小さいために、蒸発源とプラズマ源から入射した熱量を基板14上でSiO2層が断熱し、基板シャッター20を開いたときに、基板14の表面温度が瞬間的に高くなる現象が生じたためと推測される。この現象により、初期核の成長に影響が生じたと考えられる。
【0084】
また、図12の(c)は、厚さ625μmのベアSi基板に成膜したPZT膜の回折像である。この回折像から明らかなようにペロブスカイト単相にはならなかった。これは、基板の厚みが500μmと比較して、125μm厚いため、厚さ625μm基板の方が厚さ500μmmの基板よりも熱抵抗が大きくなり、その結果表面温度の上昇が起こったため、30度付近のPbOの異相のピークが出現したためであると考えられる。
【0085】
このように、本実施例では、EB蒸発源12とプラズマ105が基板に与える熱量をセンサで感知し、同等の熱量を基板シャッター20に内蔵したヒーター25から基板に与えた。これにより、シャッター開閉の前後で、基板14に入射する熱量の総量に変化が生じないため、膜特性の再現性が向上することを確認できた。
【0086】
成膜条件を基板の種類ごとにチューニングする必要がなくなることも確認できた。
【符号の説明】
【0087】
1…陰極、2,3,4…中間電極、5…陽極、6…直流電源、10…プラズマガン、11…真空容器、12…蒸発源、13…基板サセプタ、13a…ヒーター、13b…温度センサ、14…基板、15…反応ガス供給管、20…基板シャッター、21…遮蔽プレート、22…断熱プレート、23…加熱プレート、24…スペーサー、25…ヒーター、26…軸、27…熱量センサ、28…センサ用シャッター、29…制御回路、31…制御回路、103…プラズマ容器、105…プラズマ
【技術分野】
【0001】
本発明は、アーク放電プラズマを使用した成膜装置に関し、特に、酸化物強誘電体の成膜に適した装置に関する。
【背景技術】
【0002】
Pb,Zr,Tiの各元素を含む酸化化合物であるPZT〔Pb(ZrxTi1-x)O3〕やPb,La,Zr,Tiの各元素を含む酸化化合物であるPLZT〔(Pb1-xLax)(ZryTi1-y)1-x/4O3〕等に代表される多元系酸化物強誘電体は、優れた圧電性、焦電性、電気光学特性等を有し、それらのバルク構造体は種々の電子デバイスへ応用されてきている。特に近年では、不揮発性RAM用のメモリ材料、マイクロアクチュエータ、及び集積型センサ等への応用を目指して、これら金属酸化物の薄膜化が検討されてきている。この薄膜化によって、駆動電圧の低電圧化、素子の集積化、分極処理の省略等が可能になり、バルクでは得られないデバイス特性を発揮するものと期待されている。
【0003】
従来、このようなペロブスカイト酸化物薄膜の作製法としては、スパッタリング法、あるいはアーク放電反応性イオンプレーティング法(Arc Discharged Reactive Ion Plating:ADRIP)などが主に用いられている。
【0004】
スパッタリング法は、数Pa程度の圧力に調製されたAr等の希ガス雰囲気中で、基板と対向するターゲット試料との間に直流(DC)あるいは高周波(RF)電圧を印加することにより希ガスの放電を誘起し、そのガス分子の衝突によって試料をはじき飛ばして基板上に堆積させる方法である。この方法は、高エネルギー原子が基板に衝突して堆積するので、一般に薄膜の密着性が良く、また、基本的にはターゲット組成に近い膜組成が得られやすい。スパッタリング法では、PZTの焼結体ターゲットを用いることで基板へ転写できる点、焼結体ターゲットの組成が一定なことにより、再現性が良好である点が特に優れ、成膜時に基板の裏面側から輻射熱で基板加熱をしていることにより、良好なPZTを成膜できることが特許文献1、特許文献2にて報告されている。
【0005】
特許文献3には、スパッタリング装置において、シャッター開閉の前後で、成膜中の基板温度を一定に保つことを目的として、基板シャッターにヒーターを設けることが記載されている。この特許文献3では、通常は、基板の裏面側に配置されているヒーターをシャッターに移設し、基板の裏面からは高温のガス導入で基板を加熱することを提案している。
【0006】
ADRIP法は、特許文献4や特許文献5等において、ペロブスカイト型酸化物からなるPZT等に代表される強誘電体や圧電体の薄膜の作製においても、EB(電子ビーム)加熱蒸発源と高密度の酸素プラズマ発生源を用いることで、基体温度が500℃で5オングストローム/sの高速成膜が可能な点、および、蒸発材料としてメタルを使用できるため材料効率が高い点が特に優れていると報告されている。また、基板裏面(成膜面と反対側)から輻射熱で基板加熱を行なうことにより、比較的低い成膜温度でも速い成膜速度で結晶性の良い優れた薄膜が得られることも報告されている。これはADRIP法が、スパッタ法で用いられるグロー放電よりもプラズマ密度が2〜3桁高いアーク放電プラズマを使用しているため、酸素活性種の生成効率が高いからである。これにより、従来の薄膜の作製温度であった600℃程度の基体温度よりも100℃低温の500℃程度で強誘電体薄膜を形成することができる。得られた薄膜は強誘電性を与えるペロブスカイト型の結晶構造を有しており、誘電的性質もバルク材料と同等の特性を示していることが報告されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0007】
【特許文献1】特開2005−38914号公報
【特許文献2】特開2007−327106号公報
【特許文献3】特開平07−11438号公報
【特許文献4】特開2001−234331号公報
【特許文献5】特開2002−177765号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
しかしながら、上記のような従来の強誘電体薄膜の製造方法にあっては、次のような問題点があった。
【0009】
スパッタ法は、酸化物を焼成して作製したセラミックターゲットを使用する方法と、各金属を適当な面積比になるように配置した金属ターゲットを使用する2つの方法に大別される。何れの方法においても、金属酸化物の薄膜を作製した場合、往々にして堆積した膜の組成ずれや、再スパッタによる堆積速度の低下が発生する。セラミックターゲットでは、熱によるターゲットの破損、アーク(異常放電)の発生などの問題も生じる。金属ターゲットを用いてArに酸素(O2)を添加する反応性スパッタ法を行う場合には、添加量の増減によって堆積速度や放電電圧が変化し、成膜の制御が不安定になる傾向にある。これらの理由で、スパッタ法は一般に薄膜の堆積速度が遅い傾向がある。また、高品質の膜を得るためには、極端に堆積速度を低下させたり、基板温度を600℃以上に高め、基板内で均一な熱分布となるように熱制御を行う必要がある。
【0010】
一方、ADRIP法では、基板の温度制御が容易ではなく、酸化物誘電体の結晶性や電気特性等の再現性が得られにくいという問題があった。
【0011】
また、特許文献3に記載のように、基板裏面のヒーターをシャッターに移設し、基板裏面からは高温ガスを流して加熱する構成をADRIP法に適用した場合、ガスによる昇温には限度があるため、シャッターオープン後に基板の温度を500℃以上に維持することは困難であると考えられ、ペロブスカイト酸化物のように基板温度を高温にする必要のある強誘電体の形成には適用できない。
【0012】
本発明の目的は、基板の温度制御変動を抑制し、高品質の膜を再現性よく成膜することのできる成膜装置を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0013】
上記目的を達成するために、本発明の第1の態様によれば、以下のような成膜装置が提供される。すなわち、成膜容器と、基板を保持する基板保持部と、基板と対向する位置に配置された成膜源と、基板と前記成膜源との間の空間にプラズマを生成するプラズマ源と、開閉可能なシャッターとを有する成膜装置である。シャッターは、プラズマの生成空間と、基板との間を隔てる位置に配置され、基板側の面に輻射熱源を備えている。シャッターの成膜源側には、シャッターの成膜源側の面に入射する熱量を検出する熱量センサが配置されている。輻射熱源および熱量センサには、熱量センサが検出した熱量に応じて輻射熱源から輻射熱を発生させる基板シャッター制御部が接続されている。これにより、シャッターを閉じた状態で、シャッター側の基板面に輻射熱をあらかじめ供給できるため、シャッターを開いた瞬間の基板温度の変動を抑制できる。
【0014】
上記制御部は、例えば成膜源およびプラズマからシャッターの成膜源側の面に到達する輻射熱量と同等の熱量を、輻射熱源から発生させる構成とする。
【0015】
また、例えば、基板保持部には、基板を加熱する加熱源と、基板温度を検出する温度センサとが備えられ、加熱源と温度センサには、温度センサが検出した結果に応じて加熱源を制御する基板保持部制御部が接続されている構成とする。
【0016】
シャッターは、輻射熱源とシャッター裏面とを断熱するための断熱部を備える構成とすることができる。
【0017】
蒸発源は、例えば、電子ビーム加熱源を備える構成とする。
【0018】
プラズマ源としては、例えば、アーク放電プラズマを生成するものを用いる。
【0019】
本発明の第2の態様によれば、以下のような成膜装置が提供される。すなわち、成膜容器と、基板を保持する基板保持部と、基板と対向する位置に配置された成膜源と、開閉可能なシャッターとを有する成膜装置である。シャッターは、成膜源と、基板との間を隔てる位置に配置され、基板側の面に輻射熱源を備えている。シャッターの成膜源側には、シャッターの成膜源側の面に入射する熱量を検出する熱量センサが配置されている。輻射熱源および熱量センサには、熱量センサが検出した熱量に応じて輻射熱源から輻射熱を発生させる制御部が接続されている。
【0020】
成膜源は、例えば、蒸発源またはスパッタターゲットとする。
【0021】
本発明の第3の態様によれば、以下のような強誘電体酸化物膜の製造方法が提供される。すなわち、イオンプレーティング法により強誘電体酸化物膜を製造する方法であって、
蒸発源およびプラズマ生成空間と、基板保持部に保持された基板とをシャッターで隔てた状態で、蒸発源を加熱し、プラズマを生成し、
基板ホルダに内蔵された加熱源により基板を加熱するとともに、シャッターの基板側の面に配置された輻射熱源により、蒸発源およびプラズマからシャッターに到達している熱量と同じ輻射熱量を供給して基板を加熱し、
基板の温度が所定の温度に達した状態で、シャッターを開き、蒸発源からの蒸気をプラズマを通過させて、基板上に堆積させる強誘電体酸化物膜の製造方法である。
【0022】
シャッターは、輻射熱源と、シャッターの成膜源側の面とを断熱する断熱部を備える構成のものを用いることができる。
【0023】
シャッターよりも成膜源側で、シャッターへ到達する輻射熱量を測定し、輻射熱源を制御する構成とすることが可能である。
【0024】
基板の温度を検出し、基板保持部の加熱源を、輻射熱源とは独立に制御する構成とすることが可能である。
【図面の簡単な説明】
【0025】
【図1】アーク放電イオンプレーティング法において、基板が、基板加熱ヒーターのみならずプラズマやEB蒸発源の輻射熱によって加熱されることを示す説明図。
【図2】従来のアーク放電イオンプレーディング装置において、EB蒸発源のみ、プラズマ源のみ、EB蒸発源とプラズマ源を用いた場合の、シャッター開前後の基板温度の変化を示すグラフ。
【図3】本実施形態の成膜装置の構造を示す説明図。
【図4】本実施の形態の成膜装置において、基板シャッター20から基板14へ輻射熱を与えることを示す説明図。
【図5】本実施形態の成膜装置の基板シャッター20の断面図。
【図6】本実施形態の成膜装置の基板シャッター20(開いた状態)の上面図。
【図7】実施例1において測定した、基板シャッター20の開前後の基板温度の変化を示すグラフ。
【図8】実施例1の10回の成膜で得られたPZT膜の誘電率のばらつきを示すグラフ。
【図9】実施例1の10回の成膜で得られたPZT膜の誘電損失(tanδ)のばらつきを示すグラフ。
【図10】実施例1の10回の成膜で得られたPZT膜の組成xのばらつきを示すグラフ。
【図11】実施例2において異なる種類の基板上に成膜した膜のX線回折像を示すグラフ。
【図12】比較例として異なる種類の基板上に成膜した膜のX線回折像を示すグラフ。
【発明を実施するための形態】
【0026】
本発明の一実施の形態の成膜装置について図面を用いて説明する。
【0027】
発明者らは、従来のアーク放電反応性イオンプレーティング法(ADRIP法)において、基板の温度制御が容易ではなく、酸化物誘電体の結晶性や電気特性等の再現性が得られにくいという問題が生じる原因を探った。その結果、図1に熱源のイメージを示したように、成膜時の基板には、基板加熱のために基板裏面から与えられるヒーター輻射熱の他に、基板表面側から、EB等で加熱された蒸発源からの輻射熱とプラズマ源からの輻射熱の合算されたものが流入するため、基板へ流入してくる熱量が、他の成膜方法と比較して格段に大きく、基板の温度制御が困難になっていることがわかった。
【0028】
すなわち、蒸発源からの輻射熱と、プラズマ源の輻射熱が、基板シャッターを開いた直後に、急激に基板表面に流入し、基板温度を変化させるために、基板シャッターを開いた直後の酸化物誘電体(例えば、PZT等のペロブスカイト酸化物)の初期核成長に大きな影響を与えることがわかった。このため、成膜ロッド毎に膜の結晶性、電気特性等の再現性を低下する。
【0029】
具体的な、基板の温度変化を実験により測定した。この実験には、蒸発源をEBで加熱するADRIP装置を用い、EB蒸発源のみを稼働した場合、プラズマ源のみを稼働した場合、EB源とプラズマ源を同時に稼働した場合について、基板シャッターオープン前後の基板温度を測定した。その結果を図2に示す。図2から明らかなように、基板シャッターオープン直後から、EB蒸発源、プラズマ源から基板に与える熱が基板温度を上昇させ、基板裏面のヒーターのフィードバック制御により、設定温度で再び熱平衡状態に達するまでに20分程度の時間を要していることがわかる。特に、EB蒸発源とプラズマ源を同時に稼働するADRIP法の場合には、基板温度は100℃程度も上昇し、基板裏面のヒーターのフィードバック制御により、設定温度で再び熱平衡状態に達するまでに20分以上の時間を要している。この間も成膜は進んでいるため、成膜初期のPZT膜の初期核形成に影響を及ぼす。初期核の形成の仕方が成膜バッチ毎に揺らぐことが、再現性の低下に繋がっている。
【0030】
また、複数種類の基板を同時に成膜する場合、種類ごとに熱伝導率(熱抵抗)が異なるため、熱平衡に達するまでの時間も異なる。例えば、基板材料が異なる場合や、基板の厚みや積層構造が異なる場合(チューニング用の標準的な厚みの基板と、SOI基板のような貼り合せ基板と、厚さ200μm以下の極薄基板とを同時に成膜する場合)である。このため、シャッターオープン直後の基板表面温度に差が生じ、異なる基板に、同じ組成、結晶構造の膜を作製することが困難であり、基板ごとに条件のチューニングが必要となり、プロセス確立が煩雑になる。
【0031】
一般に、ADRIP装置では、基板加熱ヒーターと温度センサは、基板の裏面側に配置され、フィードバック制御されている。この制御方法では、シャッターオープン直後に、EB蒸発源およびプラズマ源から基板表面へ流れ込む大きな輻射熱による瞬間的な温度上昇に対して、瞬時に対応することができず、熱平衡状態に達するまでに初期核が成長してしまう。
【0032】
同様に、基板の種類が異なる場合も、種類ごとに熱伝導性や断熱効果が異なるため、ヒーターで基板裏面から加熱をしても、各基板の表面温度が熱平衡に達する時間が異なり、PZT初期核形成に違いが生じる。
【0033】
本発明では、簡単な制御回路で、シャッターオープン時に基板温度が上昇する現象を抑制する。
【0034】
具体的には、本発明では、シャッターオープン時の基板温度変化を抑制するために、基板の裏面側に配置された加熱ヒーターに加えて基板シャッターにヒーターを内蔵する。成膜開始前の基板シャッターを閉じた状態で、蒸発源とプラズマ源から発生する熱量の総量を熱量センサで検知して、ヒーター内蔵基板シャッターヘフィードバックすることにより、蒸発源とプラズマ源からの熱量と同等の熱量を、基板シャッター内のヒーターから基板に与える。
【0035】
これにより、基板シャッターのオープン前は、基板シャッターのヒーターからの輻射熱が基板に入射し、シャッターオープン後は、基板シャッターのヒーターの輻射熱に替って、蒸発源とプラズマ源からの熱量が基板に入射する。よって、シャッターを開いた瞬間でも、基板に流入する輻射熱量が変化しないため、成膜開始時の基板温度変動を抑制できる。そのため、初期核の形成が安定し、毎回同じ成長条件で強誘電体膜を成膜することができ、成膜再現性が向上するとともに、初期核の乱れに起因する欠陥の発生や密着力の低下を抑制することができる。
【0036】
本発明の実施形態の成膜装置を図3および図4を用いて説明する。図3に示した成膜装置は、圧力勾配型アーク放電イオンプレーティング装置である。図4には、基板サセプタと基板シャッターの周辺構造を示す。
【0037】
この成膜装置は、電子流を反射させる反射型でかつ圧力勾配型のプラズマガン10と真空容器11とを備えている。
【0038】
真空容器11内には、成膜すべき基板14を支持する基板サセプタ13が配置されている。基板サセプタ13の裏面側には基板14を加熱するためのヒーター13aが内蔵されている。基板サセプタ13内には、熱電対等の温度センサが配置されている。ヒーター13aおよび温度センサ13bには、フィードバック制御回路31が接続されている。フィードバック制御回路31は、温度センサ13bの出力信号をとりこんで、それに応じてヒーター13aに供給する電流値を制御し、基板サセプタ13の温度を所定温度に制御する。
【0039】
真空容器11内の基板14に対向する位置には、複数の蒸発源12が配置される。図3には図示していないが、真空容器11内には、蒸発源12に電子ビームを照射する電子ビーム源(EBガン)が備えられている。
【0040】
蒸発源12と基板14との間には、成膜を開始するまで、蒸発源12の蒸気が基板14に到達するのを遮るための基板シャッター20が配置されている。基板シャッター20の構造については後述する。
【0041】
また、基板14と蒸発源12との間の空間に反応ガスを供給するための反応ガス導入管15が配置されている。
【0042】
真空容器11の側面にはプラズマ引き込み口11aが備えられ、プラズマガン10が取り付けられている。プラズマガン10は、筒状のプラズマガン容器103に、陰極1、第1中間電極2、第2中間電極3、第3中間電極4および陽極5を順に配置した構造である。陰極1、第1中間電極2、第2中間電極3、第3中間電極4および陽極5はガイシによって相互に絶縁されている。陽極の外周側には、プラズマをガイドするための空芯コイル(不図示)が配置されている。
【0043】
陰極1は、アーク放電に適した公知の陰極構造のものを用いる。陰極1には放電ガスの導入口102が備えられている。第1、第2および第3中間電極2,3,4は、いずれも中央に所定の径の貫通孔を有しており、この貫通孔によってプラズマガン容器103の圧力を真空容器11よりも陽圧に維持し、圧力勾配を形成する。第1、第2および第3中間電極2,3,4には、生じたプラズマを収束させて貫通孔を通過させるための磁場を発生する永久磁石または電磁石が必要に応じて内蔵されている。
【0044】
プラズマ発生のための電気配線は、図3に示されるように、陰極1と陽極5との間に直流電源6を配置する。第1、第2および第3の中間電極2,3,4には適切な抵抗値の抵抗を介して陽極5を接続する。陰極1から適切な流量の放電ガスを流して、直流電源により陰極1と陽極5間に電圧を印加することにより、陰極1と陽極5間及び真空容器11内に直流アーク放電プラズマを発生させることができる。
【0045】
プラズマガン10は、陽極4を真空容器11の手前に配置した反射型の構成であるため、プラズマガン10から真空容器11内に導かれた直流アーク放電プラズマ中の電子は空間電荷によって反射されて陽極5に戻る。よって、真空容器11内にはプラズマ105のみが発生し、電子電流が空間を流れない。これによりプラズマ105は、ガイド用の空芯コイルが形成する磁場の影響を受けて歪むことがないため、偏りのない均質なプラズマを、まっすぐに真空容器11に引き出すことができる。
【0046】
図4、図5および図6を用いて、基板シャッター20の構成を説明する。図5は、基板シャッター20の断面図、図6は、基板シャッター20を開いた状態の上面図である。
【0047】
基板シャッター20は、図5のように、蒸発源12側から順に、遮蔽プレート21と断熱プレート22と加熱プレート23とをスペーサー24を挟んで重ね、固定した構造である。遮蔽プレート21は、基板シャッター20を開くまで、蒸発源12からの蒸気を遮蔽するための板状部材であり、例えばステンレスにより構成されている。加熱プレート23は、内部にヒーター25を内蔵し、均一な輻射熱を基板14に照射するために、熱伝導および輻射率の高い材料(例えばステンレス)により構成されている。断熱プレート23は、遮蔽プレート21と加熱プレート23とを相互に断熱するために輻射率の低い材料(例えば、アルミナ)によって構成されている。
【0048】
基板シャッター20は閉じた状態で円形であるが、図6のように、主平面方向について2分割された形状である。2枚の半円形のシャッターはそれぞれの端部に配置された軸26を中心に回転することにより開閉する。
【0049】
シャッター20の下側の空間には、すべての蒸発源12から輻射熱が当たる位置であって、プラズマ105からの輻射熱を受ける位置で、かつ、基板14への成膜の妨げにならない位置に熱量センサ27(例えばサーモパイル式熱量計)が配置されている。熱量センサ27の下部には、蒸発源12からの蒸気が熱量センサ27に堆積するのを防止するためのセンサ用シャッター28が配置されている。
【0050】
熱量センサ27およびヒーター25には、制御回路29が接続されている。制御回路29は、熱量センサ27の出力信号に応じて加熱プレート23のヒーター25に供給する電流量を制御する。これにより、蒸発源12およびプラズマ105からの輻射熱の熱量と同じ熱量を加熱プレート23から基板14に対して輻射するように制御する。
【0051】
断熱プレート23は、蒸発源12およびプラズマ源から輻射熱を遮断するので、シャッターが閉じている状態では、基板14は、基板サセプタ13のヒーター13aと、基板シャッター20に取り付けられた加熱プレート25からの輻射熱によって加熱されることになる。
【0052】
このような構造により、本発明では、シャッターオープン時の基板温度変化を抑制するために、成膜開始前の基板シャッターを閉じた状態で、蒸発源とプラズマ源から発生する熱量の総量を熱量センサで検知して、ヒーター内蔵基板シャッターヘフィードバックすることにより、蒸発源とプラズマ源からの熱量と同等の熱量を、基板シャッター内のヒーターから基板に与えることができる。
【0053】
本実施形態の成膜装置を用いて成膜を行う手順について具体的に説明する。
【0054】
1以上の基板14を基板サセプタ13にセットする。蒸発源12として、所望の1以上の蒸発源をセットする。真空容器11およびプラズマガン容器103を所定の真空度まで排気する。反応ガス供給管15から所定の反応ガス(例えば酸素)を供給する。
【0055】
シャッター20を閉じた状態で、プラズマガン10からアーク放電プラズマ105を生じさせ、真空容器11にプラズマ105を引き出す。蒸発源12に不図示のEBガンから電子ビームを照射し、蒸発源12をそれぞれ加熱する。
【0056】
制御回路29を動作させ、プラズマ105および蒸発源12から基板シャッター20に到達している熱量と同じ熱量が加熱プレート23から輻射されるように制御する。同時に、制御回路31を動作させ、基板14を裏面側からヒーター13aで加熱し、設定温度となるように制御する。
【0057】
このように、基板シャッター20を閉じた状態で、あらかじめ基板シャッター20の加熱プレート23から、プラズマ105および蒸発源12の輻射熱と同じ熱量が基板14に入射するため、基板14は表および裏面からの熱が平衡に達した状態で、制御回路31の動作により所定の温度に制御される。よって、材質や構造の異なる複数種類の基板14をセットしても成膜開始時には全て熱的平衡に達して、同一の基板表面温度にすることができる。
【0058】
プラズマ105の生成および蒸発源12からの蒸発量が安定し、かつ、基板サセプター13のヒーター13aおよび基板シャッター20のヒーター25の輻射熱量が安定し、フィードバック制御により基板14の温度が設定温度で熱平衡に達したならば、基板シャッター20を開き、成膜を開始する。蒸発源12からの蒸気は、放電ガス(例えばヘリウム)および反応ガス(例えば酸素)の混合プラズマ105を通過して、所定の反応を生じながら設定温度の基板14上に堆積する。
【0059】
基板シャッター20のオープン後は、基板シャッター20のヒーター25の輻射熱に替って、蒸発源とプラズマ源からの熱量が基板に入射する。よって、シャッターを開いた瞬間でも、基板14に流入する輻射熱量が変化しないため、基板14の熱平衡状態は変わらず、成膜開始時の基板温度変動を抑制できる。例えば、制御回路31のフィードバック制御のオーバーシュートにより基板温度が上がりすぎる現象を抑制できる。
【0060】
これにより、基板14に蒸発源12からの蒸気が堆積する成膜初期の核形成を安定化することができる。しかも、基板の温度変動が生じないため、毎回同じ成長条件で成膜できる。これにより、例えば、強誘電体膜を成膜する場合において、成膜再現性が向上するとともに、初期核の乱れに起因する欠陥の発生を抑制できる。基板14への膜の密着力の低下も抑制することができる。
【0061】
また、従来の成膜装置では、基板サイズが大きくなると、膜厚や膜特性に分布が生じることがしばしばあった。これは、基板中央と、基板サセプタの開口部とで放熱に差があることに起因するが、本実施形態の成膜装置は、表面側からも加熱し、熱平衡状態に達して、基板シャッターオープン後にも熱平衡は維持され続ける。よって、原理的には基板サイズに依らず、例えば大口径のウェハ(8インチ)でも良好な圧電特性を示すPZT膜等の強誘電体膜を形成することが可能となる。
【0062】
本発明の成膜装置は、基板を裏面側から加熱するヒーター13aおよびその制御回路31と、基板シャッター20のヒーター25およびその制御回路29は、それぞれ独立しており、いずれも簡単なフィードバック制御回路である。このように、本発明は、簡単なフィードバック制御回路でありながら、シャッターオープン前後の基板温度を精度よく制御できる。
【0063】
なお、熱量センサ27としては、熱サーモパイル式熱量計に限らず、熱電対、放射温度計、抵抗温度計、バイメタル温度計、ガラス温度計などを用いることも可能である。
【0064】
上記実施形態では、アーク放電イオンプレーティング装置について説明したが、この装置に限らず、基板シャッター20で基板14と隔てられた空間に、輻射熱の熱源が存在する装置、例えば蒸着装置やスパッタリング装置のような物理蒸着装置についても、同様に本実施形態の基板シャッター20の構造を適用することができる。
【0065】
上述してきたように本発明によれば、成膜開始前後(基板シャッター開閉後)に、基体温度変動を抑えることができるとともに、高品質の膜が得られるため、原料の利用効率を高めることができ、安全性、対環境性に優れた強誘電体薄膜の製造に適している。例えばPZT膜を圧電薄膜して用いて駆動するMEMS光スキャナや、インクジェットプリンタヘッドを製造することができる。
【実施例】
【0066】
(実施例1)
実施例1として、3つの中間電極を持ったプラズマガン10が取り付けられている図3の反射型圧力勾配型アーク放電イオンプレーティング装置を用いて、ペロブスカイト型酸化物で強誘電体および圧電体の特性を示すチタン酸ジルコン酸鉛PZT〔Pb(ZrxTi1-x)O3〕薄膜の形成を実施した。
【0067】
基板14は、(100)面Siウェハ上にSiO2/Ti/Ptの順に各構成材料を堆積したものとした。蒸発源12の材料として、Pb,Zr,Tiの各金属を用いた。
【0068】
圧力勾配型アーク放電プラズマガン10に、キャリアガスとして100sccmのHeガスを導入し、直流バイアス電圧を印加することにより、アーク放電を発生させた。放電電圧は120V、放電電流は70Aで制御した。このアーク放電で生成した高密度プラズマ(プラズマ密度1012cm3以上)を、プラズマ制御用の磁場発生源によって生じた300ガウス程度の磁場によって真空容器内に導いた。
【0069】
この状態で、ガス導入管よりO2ガスを反応ガスとして250sccm導入することにより、真空容器内に高密度の酸素プラズマ及び酸素ラジカルを生成した。
【0070】
基板14は、ヒーター13aを制御回路31で制御し、550℃程度に加熱した。基板シャッター20は、閉じた状態で、上記のHeとO2の混合プラズマの存在下で、蒸発源12を電子ビーム加熱により各々独立に蒸発させた。各金属の蒸発量は、水晶振動式膜厚センサによってモニタし、電子ビーム加熱源の出力をフィードバック制御することにより、所定の蒸発量で一定に制御した。膜組成をx=0.5、すなわちPb(Zr0.5Ti0.5)O3に調製した。成膜時の圧力は0.1Paとした。各原料金属蒸気と混合プラズマ中の酸素ラジカルとを反応させ、水晶振動子式膜厚モニタにて、Pb蒸発量がZrとTiの蒸発量の合計に対して10〜20倍の範囲になるように、かつZrとTiの蒸発量がほぼ同等になるように、蒸発源の出力を制御した。これにより、ペロブスカイト型結晶構造単相のPZT膜が形成可能になる。
【0071】
このとき、基板シャッター20を閉じた状態のまま、加熱プレート23を制御回路29により制御し、熱量センサ27で検出した、蒸発源12およびプラズマ105からシャッター20に到達する輻射熱量と同等の熱量が、加熱プレート23から基板14へ輻射されるようにした。よって、基板14は、基板シャッター20からの輻射熱を受けた状態で、裏面からのヒーター13aの加熱により熱平衡に達し、550℃に制御されている。
【0072】
この状態で、基板シャッター20をオープンし、各原料金属蒸気と混合プラズマ中の酸素ラジカルとを反応したものを基板14上に堆積させ、ペロブスカイト型結晶構造単相のPZT膜を形成した。成膜速度は1nm/s以上で、膜厚は4μmの厚膜である。
【0073】
この成膜方法で、再現性を確認するため、PZT膜を10回成膜した。
【0074】
また、比較例として、基板シャッター20の加熱プレート23からの加熱を行わず、他の条件は実施例1と同じにして、10回の成膜を行った。
【0075】
成膜開始(基板シャッター開)の前後の基板14の温度をモニターしたところ、図7に示したように実施例では、基板シャッター開の前後で温度変化はほとんど生じないことが確認された。これに対して、比較例では、基板温度が一時的に100℃も上昇していた。
【0076】
つぎに、10回の成膜でそれぞれ得られた実施例1および比較例のPZT膜について、誘電率、誘電損失、組成を測定した。
【0077】
誘電率の再現性の違いを図8に示す。目標の誘電率εを1050に定めて成膜を行ったところ、比較例のヒーターなし基板シャッターの手法でPZTを成膜すると10回の成膜で誘電率ε=500〜1100の範囲にばらつき、ロッド間のばらつき率は30%以上であった。一方、本実施例のPZT膜は、10回の成膜で誘電率はε=1000〜1100の範囲に入り、ロッド間ばらつき率は、5%以内に抑制できた。
【0078】
また、誘電損失(tanδ)のロッド間ばらつきを図9に示す。目標の誘電損失を3.00%に定めて成膜を行ったところ、比較例のヒーターなし基板シャッターの手法では、tanδ=3.30%〜8.30%の範囲にばらつき、10回の成膜ロッド間ばらつき率40%以上であった。一方、本実施例では、tanδ=2.95%〜3.15%の範囲に入り、10回の成膜ロッド間ばらつき率は、5%以内に抑制できた。
【0079】
また、組成のばらつきを図10に示す。PZTの組成をx=0.5、すなわちPb(Zr0.5Ti0.5)O3を目標にし場合、比較例では、x=0.33〜0.75と、35%以上のばらつきが生じた。一方、本実施例ではx=0.48〜0.52と、5%以内に組成を安定化させることができた。
【0080】
(実施例2)
実施例2では、基板種類の違いによる結晶構造の変化を測定するため、複数種類の基板上にPZT膜を成膜した。用いた基板は、ベアSi(厚さ500μm)、SOI(厚さ50μm/2.0μm/450μm)、ベアSi(厚さ625μm)の3種類である。成膜方法は、実施例1と同じとした。得られた本実施例のPZT膜のX線回折像を図11に、比較例のPZT膜のX線回折像を図12に示す。
【0081】
本実施例2の3種類の基板上にそれぞれ形成したPZT膜は、図11の(a),(b),(c)にそれぞれ回折像を示したように、同じ結晶構造であり、ペロブスカイト単相が得られることが確認できた。よって、実施例1の成膜方法で成膜することにより、成膜条件を基板の種類ごとにチューニングする必要がないことがわかった。
【0082】
一方、比較例で3種類の基板上にそれぞれ形成したPZT膜の回折像を、図12にそれぞれ示した。図12の(a)は、ベアSi基板(500μm)上に成膜したPZTのX線回折像である。これにより、(001)に強く配向した結晶性であることが分かった。
【0083】
図12の(b)は、SOI(50μm/2.0μm/450μm)の基板上に成膜したPZTの回折像である。(001)、(110)が観測されたことからペロブスカイトが形成されていることは確認できたが、30度付近にPbOの異相が出現していた。すなわち、ベアSi基板とは異なり、ペロブスカイト単相にはなっていなかった。これは、SOI基板は、中間層にSiO2層が2.0μm挿入されており、SiO2層はSiに比べて熱伝導率が100倍小さいために、蒸発源とプラズマ源から入射した熱量を基板14上でSiO2層が断熱し、基板シャッター20を開いたときに、基板14の表面温度が瞬間的に高くなる現象が生じたためと推測される。この現象により、初期核の成長に影響が生じたと考えられる。
【0084】
また、図12の(c)は、厚さ625μmのベアSi基板に成膜したPZT膜の回折像である。この回折像から明らかなようにペロブスカイト単相にはならなかった。これは、基板の厚みが500μmと比較して、125μm厚いため、厚さ625μm基板の方が厚さ500μmmの基板よりも熱抵抗が大きくなり、その結果表面温度の上昇が起こったため、30度付近のPbOの異相のピークが出現したためであると考えられる。
【0085】
このように、本実施例では、EB蒸発源12とプラズマ105が基板に与える熱量をセンサで感知し、同等の熱量を基板シャッター20に内蔵したヒーター25から基板に与えた。これにより、シャッター開閉の前後で、基板14に入射する熱量の総量に変化が生じないため、膜特性の再現性が向上することを確認できた。
【0086】
成膜条件を基板の種類ごとにチューニングする必要がなくなることも確認できた。
【符号の説明】
【0087】
1…陰極、2,3,4…中間電極、5…陽極、6…直流電源、10…プラズマガン、11…真空容器、12…蒸発源、13…基板サセプタ、13a…ヒーター、13b…温度センサ、14…基板、15…反応ガス供給管、20…基板シャッター、21…遮蔽プレート、22…断熱プレート、23…加熱プレート、24…スペーサー、25…ヒーター、26…軸、27…熱量センサ、28…センサ用シャッター、29…制御回路、31…制御回路、103…プラズマ容器、105…プラズマ
【特許請求の範囲】
【請求項1】
成膜容器と、基板を保持する基板保持部と、前記基板と対向する位置に配置された成膜源と、前記基板と前記成膜源との間の空間にプラズマを生成するプラズマ源と、開閉可能なシャッターとを有し、
前記シャッターは、前記プラズマの生成空間と、前記基板との間を隔てる位置に配置され、前記基板側の面に輻射熱源を備え、
前記シャッターの前記成膜源側には、前記シャッターの前記成膜源側の面に入射する熱量を検出する熱量センサが配置され、
前記輻射熱源および熱量センサには、前記熱量センサが検出した熱量に応じて前記輻射熱源から輻射熱を発生させる基板シャッター制御部が接続されていることを特徴とする成膜装置。
【請求項2】
請求項1に記載の成膜装置において、前記制御部は、前記成膜源および前記プラズマから前記シャッターの前記成膜源側の面に入射する輻射熱量と同等の熱量を、前記輻射熱源から発生させることを特徴とする成膜装置。
【請求項3】
請求項1または2に記載の成膜装置において、前記基板保持部には、前記基板を加熱する加熱源と、前記基板温度を検出する温度センサとが備えられ、
前記加熱源と前記温度センサには、前記温度センサが検出した結果に応じて前記加熱源を制御する基板保持部制御部が接続されていることを特徴とする成膜装置。
【請求項4】
請求項1ないし3のいずれか1項に記載の成膜装置において、前記シャッターは、前記輻射熱源と前記シャッター裏面とを断熱するための断熱部を備えることを特徴とする成膜装置。
【請求項5】
請求項1ないし4のいずれか1項に記載の成膜装置において、前記蒸発源は、電子ビーム加熱源を備えることを特徴とする成膜装置。
【請求項6】
請求項1ないし5のいずれか1項に記載の成膜装置において、前記プラズマ源は、アーク放電プラズマを生成することを特徴とする成膜装置。
【請求項7】
成膜容器と、基板を保持する基板保持部と、前記基板と対向する位置に配置された成膜源と、開閉可能なシャッターとを有し、
前記シャッターは、前記成膜源と、前記基板との間を隔てる位置に配置され、前記基板側の面に輻射熱源を備え、
前記シャッターの前記成膜源側には、前記シャッターの前記成膜源側の面に入射する熱量を検出する熱量センサが配置され、
前記輻射熱源および熱量センサには、前記熱量センサが検出した熱量に応じて前記輻射熱源から輻射熱を発生させる制御部が接続されていることを特徴とする成膜装置。
【請求項8】
請求項7に記載の成膜装置において、
前記成膜源は、蒸発源またはスパッタターゲットであることを特徴とする成膜装置。
【請求項9】
イオンプレーティング法により強誘電体膜を製造する方法であって、
蒸発源およびプラズマ生成空間と、基板保持部に保持された基板とをシャッターで隔てた状態で、前記蒸発源を加熱し、前記プラズマを生成し、
前記基板ホルダに内蔵された加熱源により前記基板を加熱するとともに、前記シャッターの前記基板側の面に配置された輻射熱源により、前記蒸発源および前記プラズマから前記シャッターに到達している熱量と同等の輻射熱量を供給して前記基板を加熱し、
前記基板の温度が所定の温度に達した状態で、前記シャッターを開き、前記蒸発源からの蒸気を前記プラズマを通過させて、前記基板上に堆積させることを特徴とする強誘電体膜の製造方法。
【請求項10】
請求項9に記載の強誘電体膜の製造方法において、前記シャッターは、前記輻射熱源と、前記シャッターの前記成膜源側の面とを断熱する断熱部を備えることを特徴とする強誘電体膜の製造方法。
【請求項11】
請求項9ないし10のいずれか1項に記載の強誘電体膜の製造方法において、前記シャッターよりも前記成膜源側で、前記シャッターへ到達する輻射熱量を測定し、前記輻射熱源を制御することを特徴とする強誘電体膜の製造方法。
【請求項12】
請求項9ないし11のいずれか1項に記載の強誘電体膜の製造方法において、前記基板の温度を検出し、前記基板保持部の加熱源を、前記輻射熱源とは独立に制御することを特徴とする強誘電体膜の製造方法。
【請求項1】
成膜容器と、基板を保持する基板保持部と、前記基板と対向する位置に配置された成膜源と、前記基板と前記成膜源との間の空間にプラズマを生成するプラズマ源と、開閉可能なシャッターとを有し、
前記シャッターは、前記プラズマの生成空間と、前記基板との間を隔てる位置に配置され、前記基板側の面に輻射熱源を備え、
前記シャッターの前記成膜源側には、前記シャッターの前記成膜源側の面に入射する熱量を検出する熱量センサが配置され、
前記輻射熱源および熱量センサには、前記熱量センサが検出した熱量に応じて前記輻射熱源から輻射熱を発生させる基板シャッター制御部が接続されていることを特徴とする成膜装置。
【請求項2】
請求項1に記載の成膜装置において、前記制御部は、前記成膜源および前記プラズマから前記シャッターの前記成膜源側の面に入射する輻射熱量と同等の熱量を、前記輻射熱源から発生させることを特徴とする成膜装置。
【請求項3】
請求項1または2に記載の成膜装置において、前記基板保持部には、前記基板を加熱する加熱源と、前記基板温度を検出する温度センサとが備えられ、
前記加熱源と前記温度センサには、前記温度センサが検出した結果に応じて前記加熱源を制御する基板保持部制御部が接続されていることを特徴とする成膜装置。
【請求項4】
請求項1ないし3のいずれか1項に記載の成膜装置において、前記シャッターは、前記輻射熱源と前記シャッター裏面とを断熱するための断熱部を備えることを特徴とする成膜装置。
【請求項5】
請求項1ないし4のいずれか1項に記載の成膜装置において、前記蒸発源は、電子ビーム加熱源を備えることを特徴とする成膜装置。
【請求項6】
請求項1ないし5のいずれか1項に記載の成膜装置において、前記プラズマ源は、アーク放電プラズマを生成することを特徴とする成膜装置。
【請求項7】
成膜容器と、基板を保持する基板保持部と、前記基板と対向する位置に配置された成膜源と、開閉可能なシャッターとを有し、
前記シャッターは、前記成膜源と、前記基板との間を隔てる位置に配置され、前記基板側の面に輻射熱源を備え、
前記シャッターの前記成膜源側には、前記シャッターの前記成膜源側の面に入射する熱量を検出する熱量センサが配置され、
前記輻射熱源および熱量センサには、前記熱量センサが検出した熱量に応じて前記輻射熱源から輻射熱を発生させる制御部が接続されていることを特徴とする成膜装置。
【請求項8】
請求項7に記載の成膜装置において、
前記成膜源は、蒸発源またはスパッタターゲットであることを特徴とする成膜装置。
【請求項9】
イオンプレーティング法により強誘電体膜を製造する方法であって、
蒸発源およびプラズマ生成空間と、基板保持部に保持された基板とをシャッターで隔てた状態で、前記蒸発源を加熱し、前記プラズマを生成し、
前記基板ホルダに内蔵された加熱源により前記基板を加熱するとともに、前記シャッターの前記基板側の面に配置された輻射熱源により、前記蒸発源および前記プラズマから前記シャッターに到達している熱量と同等の輻射熱量を供給して前記基板を加熱し、
前記基板の温度が所定の温度に達した状態で、前記シャッターを開き、前記蒸発源からの蒸気を前記プラズマを通過させて、前記基板上に堆積させることを特徴とする強誘電体膜の製造方法。
【請求項10】
請求項9に記載の強誘電体膜の製造方法において、前記シャッターは、前記輻射熱源と、前記シャッターの前記成膜源側の面とを断熱する断熱部を備えることを特徴とする強誘電体膜の製造方法。
【請求項11】
請求項9ないし10のいずれか1項に記載の強誘電体膜の製造方法において、前記シャッターよりも前記成膜源側で、前記シャッターへ到達する輻射熱量を測定し、前記輻射熱源を制御することを特徴とする強誘電体膜の製造方法。
【請求項12】
請求項9ないし11のいずれか1項に記載の強誘電体膜の製造方法において、前記基板の温度を検出し、前記基板保持部の加熱源を、前記輻射熱源とは独立に制御することを特徴とする強誘電体膜の製造方法。
【図1】
【図2】
【図3】
【図4】
【図5】
【図6】
【図7】
【図8】
【図9】
【図10】
【図11】
【図12】
【図2】
【図3】
【図4】
【図5】
【図6】
【図7】
【図8】
【図9】
【図10】
【図11】
【図12】
【公開番号】特開2011−84768(P2011−84768A)
【公開日】平成23年4月28日(2011.4.28)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−237528(P2009−237528)
【出願日】平成21年10月14日(2009.10.14)
【出願人】(000002303)スタンレー電気株式会社 (2,684)
【Fターム(参考)】
【公開日】平成23年4月28日(2011.4.28)
【国際特許分類】
【出願日】平成21年10月14日(2009.10.14)
【出願人】(000002303)スタンレー電気株式会社 (2,684)
【Fターム(参考)】
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