説明

成膜装置及び成膜方法

【課題】経時変化に伴う劣化が少ない膜を気相化学成長によって高速で形成することができる成膜装置及び成膜方法を提供する。
【解決手段】互いに異なる原料ガスが供給され、該供給された原料ガスをそれぞれ異なる分解手法によって選択的に分解することにより、膜の形成に寄与する成膜前駆体をそれぞれ生成させる複数の分解室10,20と、前記複数の分解室がそれぞれ独立して連結されており、内部に基板が配置される成膜室30と、を備え、前記複数の分解室でそれぞれ生成した前記成膜前駆体を含むガスを前記成膜室の内部に配置された基板40にそれぞれ供給することにより、該基板の表面に膜を形成することを特徴とする成膜装置1。好ましくは、SiHを含む第1の原料ガスと、NHを含む第2の原料ガスをそれぞれ供給して窒化シリコン膜を形成する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、成膜装置及び成膜方法に関する。
【背景技術】
【0002】
近年、液晶表示装置、有機エレクトロルミネッセンス表示装置、X線撮像装置など、様々な電子デバイスの開発が進んでいる。これらの電子デバイスを製造する場合、絶縁性やガスバリア性を確保するために無機材料からなる薄膜を形成する場合がある。
【0003】
例えば、表示装置や撮像装置におけるスイッチング素子として電界効果型薄膜トランジスタ(TFT:Thin Film Transistor)を作製する場合、ゲート絶縁膜、層間絶縁膜などの絶縁膜を、また、有機エレクトロルミネッセンス表示装置の製造では、有機エレクトロルミネッセンス素子を水分や酸素から保護するための保護膜を、酸化シリコン膜や窒化シリコン膜などによってそれぞれnm〜μmオーダーの厚みで形成する必要がある。
【0004】
このような薄膜を形成する方法として、気相化学成長(CVD:Chemical Vapor Deposition)法がある。1種以上の原料ガスを基板上に供給し、熱エネルギー、プラズマ放電、光(レーザー、紫外線など)、触媒などによりガス分子を励起させて化学反応させることにより基板の表面に薄膜を形成させる。
【0005】
例えば、CVD法によって窒化シリコン膜を形成する場合、励起手法、原料ガスの流量、成膜時の温度、圧力など種々の要因が膜質に影響する。
特許文献1では、水素含有量の少ない窒化シリコン膜を形成するため、SiH、NH、Nを原料としてプラズマCVD法により窒化シリコン膜を形成する際、NHの分解率を一定の範囲に制御することが提案されている。
特許文献2では、減圧CVD法により窒化シリコン膜を形成する際、原料ガスの流量比(SiH/NH)を一定の範囲に制御することが提案されている。
【0006】
非特許文献1では、原料ガスとしてSiHとNHを用いて触媒化学気相成長(Cat−CVD)法により窒化シリコン膜を形成する場合、SiHとNHが主要な成膜前駆体であることが報告されている。
また、非特許文献2では、プラズマCVDによりSiH及びNからSiN膜を成膜する場合にXeランプ照射を行うことにより良好なSiN膜が得られることが報告されている。
【0007】
【特許文献1】特開平8−274089号公報
【特許文献2】特開平6−120157号公報
【非特許文献1】材料 55 (2006) 142
【非特許文献2】Japanese Journal of Applied Physics 28 (1989) L2316
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
本発明は、経時変化に伴う劣化が少ない膜を気相化学成長によって高速で形成することができる成膜装置及び成膜方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0009】
上記目的を達成するため、以下の本発明が提供される。
【0010】
<1> 互いに異なる原料ガスが供給され、該供給された原料ガスをそれぞれ異なる分解手法によって選択的に分解することにより、膜の形成に寄与する成膜前駆体をそれぞれ生成させる複数の分解室と、
前記複数の分解室がそれぞれ独立して連結されており、内部に基板が配置される成膜室と、を備え、
前記複数の分解室でそれぞれ生成した前記成膜前駆体を含むガスを前記成膜室の内部に配置された基板にそれぞれ供給することにより、該基板の表面に膜を形成することを特徴とする成膜装置。
<2> 前記複数の分解室として、SiHを含む第1の原料ガスが供給され、前記SiHを選択的に分解してSiHを生成させる第1の分解室と、NHを含む第2の原料ガスが供給され、前記NHを選択的に分解してNHを生成させる第2の分解室と、を備え、
前記第1の分解室で生成した前記SiHを含むガスと、前記第2の分解室で生成した前記NHを含むガスを、前記成膜室の内部に配置された前記基板にそれぞれ供給することにより、該基板の表面に窒化シリコン膜を形成することを特徴とする<1>に記載の成膜装置。
<3> 前記第1の分解室が、RFプラズマ法又はマイクロ波プラズマ法によって前記SiHをSiHに分解することを特徴とする<2>に記載の成膜装置。
<4> 前記第2の分解室が、UHFプラズマ法、Cat−CVD法、又は光CVD法によって前記NHをNHに分解することを特徴とする<2>又は<3>に記載の成膜装置。
<5> 前記成膜室の内部に配置された前記基板の周囲における少なくとも1種のガスの濃度を測定するガス濃度測定手段をさらに備えていることを特徴とする<1>〜<4>のいずれかに記載の成膜装置。
<6> 前記ガス濃度測定手段により測定されたガスの濃度に基づいて、前記複数の分解室にそれぞれ供給される原料ガスの濃度を調整するガス濃度制御手段をさらに備えていることを特徴とする<5>に記載の成膜装置。
<7> 互いに異なる複数の原料ガスを原料ガス毎にそれぞれ異なる分解手法によって選択的に分解して膜の形成に寄与する成膜前駆体を生成する工程と、
前記原料ガス毎に生成した前記成膜前駆体を含むガスをそれぞれ基板に供給することにより、該基板の表面に膜を形成する工程と、を含むことを特徴とする成膜方法。
<8> 前記複数の原料ガスをそれぞれ異なる分解手法によって選択的に分解する工程の前に、前記成膜前駆体と、前記原料ガス毎に選択的に分解して前記成膜前駆体を生成させる前記分解手法を特定する工程をさらに含むことを特徴とする<7>に記載の成膜方法。
<9> 前記複数の原料ガスとして、SiHを含む第1の原料ガスと、NHを含む第2の原料ガスを用い、前記第1の原料ガスに含まれる前記SiHをSiHに、前記第2の原料ガスに含まれる前記NHをNHにそれぞれ選択的に分解し、前記SiHを含むガスと前記NHを含むガスをそれぞれ前記基板に供給することにより、該基板の表面に窒化シリコン膜を形成することを特徴とする<7>又は<8>に記載の成膜方法。
<10> 前記第1の分解室が、RFプラズマ法又はマイクロ波プラズマ法によって前記SiHをSiHに分解することを特徴とする<9>に記載の成膜方法。
<11> UHFプラズマ法、Cat−CVD法、又は光CVD法によって前記NHをNHに分解することを特徴とする<9>又は<10>に記載の成膜方法。
【発明の効果】
【0011】
本発明によれば、経時変化に伴う劣化が少ない膜を気相化学成長によって高速で形成することができる成膜装置及び成膜方法が提供される。
【発明を実施するための最良の形態】
【0012】
以下、添付の図面を参照しながら、本発明について具体的に説明する。
本発明の完成に先立ち、本発明者は、経時変化が少ない窒化シリコン膜を形成することができる気相化学種を見出すため、分子動力学シミュレーション解析を行い、表面反応、すなわち成膜前駆体と膜質との関係を明らかにするとともに、気相反応の検討を行った。
【0013】
その結果、本発明者は、例えばエネルギーの異なる複数のCVD法を組み合わせて、SiHをSiHに、NHをNHにそれぞれ選択的に分解して基板の表面に供給すれば、経時変化の少ない窒化シリコン膜を高速で形成することができることを見出した。
また、上記のように成膜する場合、基板近傍でSiH、NH、Hの各濃度を観測して原料ガスの濃度を調整することで、経時変化による劣化が少なく、均一性の高い窒化シリコン膜をより確実に形成することができることも見出した。
【0014】
これらの知見に基づき、本発明では、まず、複数の原料ガスをそれぞれ分解することにより生成し、目的の膜の形成に寄与する複数の成膜前駆体と、原料ガス毎に選択的に分解して前記成膜前駆体を生成させる分解手法を特定する。
目的の膜の形成に寄与する複数の成膜前駆体の同定については、分子動力学シミュレーションにより、成膜前駆体と膜構造の相関を明らかにすることができる。成膜前駆体の作製方法については、原料ガスの分解エネルギーから、分解に適した手法を特定する。例えば、プラズマCVDの場合、汎用のプラズマシミュレータで、そのプラズマが持つ分解エネルギーから、分解生成物を特定できる。
【0015】
具体的には、Journal of Chemical Physics Vol.115,NO.14 (2001) pp.6679−6690 H.Ohtaら;Thin Solid Film 515 (2007) pp.4879−4882 M.Taguchiら、などに開示されている分子動力学シミュレーションやモンテカルロシミュレーションを利用すれば、気相種の付着係数、原子間の結合距離やエネルギーなどを精度良く算出し、これらの計算値に基づいて経時変化による劣化が少なく、均一性の高い膜を与える成膜前駆体を特定(選択)することができる。
また、汎用のプラズマシミュレータ(例えば、Applied Surface Science 192 (2002) 176−200参照)により、望まれる成膜前駆体を与える生成方法を特定することができる。
【0016】
このようにシミュレーションなどによって膜の形成に寄与する適切な成膜前駆体と分解手法を予め特定し、原料ガス毎にそれぞれ異なる分解手法によって選択的に分解して膜の形成に寄与する成膜前駆体を生成させ、原料ガス毎に生成した成膜前駆体を含むガスをそれぞれ基板に供給することにより、該基板の表面に膜を形成する。このような方法により、経時変化に伴う劣化が少ない薄膜を高速で形成することができる。
【0017】
なお、本発明における「原料ガスを選択的に分解する」とは、原料ガスの全てを所望の成膜前駆体に分解することを意味するのではなく、供給した原料ガスの少なくとも一部、好ましくは、40%以上、より好ましくは60%以上、特に好ましくは80%以上を所望の成膜前駆体に分解することを意味する。また、原料ガスを成膜に寄与する所望の成膜前駆体だけに分解する場合に限らず、原料ガスの一部が成膜前駆体とは異なる物質に分解されても、分解生成物のうち成膜前駆体が基板に最も多く供給される場合も含む。例えば、原料ガスの一部が所望の成膜前駆体とは異なる物質に分解される場合には、その物質は気相反応により消費され、ほぼ成膜前駆体だけが基板に導入されるプロセスも含む。
また、本発明における「異なる分解手法」とは、具体的には、原料ガスを分解する方法のエネルギー分布が異なることを意味し、例えば、同じプラズマ法であっても、周波数、電圧、圧力などの違いによりエネルギー分布が異なる場合は、「異なる分解手法」に該当する。
以下、窒化シリコン膜を形成する場合を例として説明する。
【0018】
(1)成膜前駆体の特定(選択)
(a)付着係数の評価
窒化シリコン膜を形成する場合に、気相化学種となり得るSiH及びNHx(x=0,1,2)に関して、α−Siを基板とし、300Kで成膜したときの気相種毎の付着係数を分子動力学シミュレーションから算出した。ここでは、入射分子の組成比(SiH/NHx)を0.33〜3.0、入射エネルギーを0.1〜20eVの範囲でそれぞれ変化させてシミュレーションを行った。その結果を図1に示す。
【0019】
図1に示すように、同じ気相化学種でも組成比や入射エネルギーの違いによって多少バラツキはあるが、SiH、N、NH、NHのそれぞれの平均付着係数として、0.33、0.73、0.55、0.37との結果を得た。付着係数が小さな化学種ほど表面拡散が長く、安定サイトで結合するため、安定性に優れた薄膜が得られ易いと考えられる。すなわち、気相化学種となり得るNHx(x=0,1,2)に関しては、付着係数の点から、NHが最も安定性に優れた経時変化の少ない安定な膜を与えると考えられる。
【0020】
(b)N−H結合の評価
非晶質窒化シリコン膜(a−SiN:H膜)中のN−H結合は反応性が高く、酸化などにより劣化に繋がると考えられる。例えば、反応に伴う構造変化によってクラックが生成し、バリア膜としての性能が低下し、また、クラックを通じて導電性の元素がSiN中に拡散することで絶縁膜としての性能も低下する。そのため、形成された膜中にはN−H結合が少ないほど経時変化に伴うバリア性や絶縁性の低下を抑制することができると考えられる。
【0021】
そこで、SiH及びNHx(x=0,1,2)を用いてシミュレーションにより作成したa−SiN:H膜のSi−H結合/N−H結合比を動径分布関数(RDF:Radial Distribution Function)で評価した。図2(A)〜(C)は、気相化学種となり得るSiH及びNHx(x=0,1,2)に関して、水素含有量及び膜中のSi/N比が同等の膜についてそれぞれ評価したものである。
このシミュレーションの結果から、窒素成分に関しては、N、NH、及びNHのうちNHを用いた場合にN−H結合が最も少なく、従って、NHを成膜前駆体とすることがバリア性や絶縁性の低下が少ない膜を得られると考えられる。
【0022】
(2)分解手法の特定(選択)
上記付着係数とN−H結合の算出結果から、SiHからSiHを、NHからNHをそれぞれ選択的に分解して生成させることで、経時変化に伴う劣化の少ない窒化シリコン膜を形成することができると考えられる。
ここで、原料ガスとなるSiH、NH、Hの分解エネルギーはそれぞれ以下のとおりである。
【0023】
【表1】

【0024】
(a)SiHからSiHへの分解手法
このような分解エネルギーの関係から、SiHからSiHを選択的に生成させるには、8.8eV以上9.5eV未満のエネルギーでSiHを分解させてSiHを優先的に生成させることが好ましい。
例えば、光CVDのような分解エネルギーを特定することができるCVDではこのような選択生成が可能であるが、成膜速度が遅いという工業的な問題がある。
【0025】
一方、図3(A)(B)は、それぞれプラズマ化学気相成長(PE−CVD:Plasma Enhanced Chemical Vapor Deposition)法のエネルギー分布の例を概略的に示している。周波数、電圧、圧力等によってエネルギー分布は異なるが、通常、超高周波(UHF:Ultra High Frequency)プラズマでは図3(A)に示すように低い電子エネルギーの割合が多いエネルギー分布を有し、誘電結合型プラズマ(ICP:Inductive Coupled Plasma)では図3(B)に示すように高い電子エネルギーの割合が多いエネルギー分布を有している(寒川、「プラズマ・核融合学会誌」77(2001)666−667頁参照)。
【0026】
図3(B)に示すICPでは、5〜10eVの間にピークがあり、50eV付近までブロードなエネルギー分布を持っているため、このような高エネルギーのプラズマでSiHを分解した場合、1次分解生成物としてSiHなども生じ得る。しかし、SiHは気相での反応確率が非常に高く、気相化学反応により消費され易く、成膜にほとんど寄与しないと考えられる。そのため、プラズマエネルギーを上げることと成膜前駆体に相関は少なく、SiHの分解に関しては成膜速度を上げるために高エネルギーのプラズマを用いることが望ましい。すなわち、SiHの分解にはICPなどの高エネルギープラズマ(RFプラズマ法又はマイクロ波プラズマ法)が好適である。
【0027】
なお、Hについても同様であり、分解エネルギーが成膜前駆体に関与しないため、高エネルギープラズマで分解することで、高濃度にH原子を生成することが可能である。Hを高濃度に保つことは、経時変化が少ないa−SiN膜を形成する上で重要と考えられている。
【0028】
(b)NHからNHへの分解手法
一方、NHからNHを選択的に生成させるには、前記の分解エネルギーの関係から、4.5eV以上8.3eV未満のエネルギーでNHを分解してNHを優先的に生成させることが好ましい。従って、エネルギー分布のピークがSiHの分解に用いる手法よりも低いエネルギーにおいて現れる手法によってNHをNHに分解させることが好ましい。
ここで、NHx系ラジカルと原料ガス(SiH、NH、H)との反応速度定数は例えば以下の文献(1)〜(6)によれば表2の通りである。
(1)A. Tezaki, et al., J. Phys. Chem., 99 (1995) 1466
(2)V. Ya. Basevich, Khim. Fiz., 7 (1998) 1552
(3)C. Zetzsch, et al., Ber. Bunsenges. Phys. Chem., 85 (1981)
(4)R. Z. Pascual, et al., J. Phys. Chem. A, 106 (2002) 4125
(5)A. Fontiji, et al., Combust. Flame, 145 (2006) 543
(6)A. M. Mebel, et al., J. Mol. Struct. THEOCHEM, 461 (1999) 223
【0029】
【表2】

【0030】
反応速度定数が小さいほど基板まで到達して成膜に寄与し易いが、上記NHx系ラジカルの反応速度定数はいずれも10−13以下であり、NHから一次分解生成物となるN、NH、NHは比較的気相での反応確率が低く、気相反応前に基板に到達すると考えられる。従って、NHの分解に高エネルギープラズマを用い、相対的にNやNHの濃度を上げることは適当ではない。そこで、例えば、図3(A)に示すように低エネルギーかつエネルギー分散の小さいUHFプラズマを用いることにより、NHを選択的に高濃度に生成することが好ましい。
【0031】
以上の評価及び検討結果から、SiHはICPによって選択的に分解してSiHを生成させ、NHはUHFプラズマ法によって選択的に分解してNHを生成させてそれぞれ基板に供給することで、経時変化に伴う劣化の少ない窒化シリコン膜を気相成長によって高速で形成することができると推測される。なお、NHはCat−CVD法又は光CVD法によってもNHに選択的に分解することができ、好ましい。
【0032】
<窒化シリコン膜の成膜装置>
次に、上記のように各原料ガスを選択的に分解して成膜を行う装置について説明する。
図4は、本発明に係る窒化シリコン膜の成膜装置の構成の一例を示している。本実施形態に係る成膜装置1は、SiHをSiHに選択的に分解する第1の分解室10と、NHをNHに選択的に分解する第2の分解室20と、第1の分解室10及び第2の分解室20がそれぞれ独立して連結されており、内部に基板40が配置される成膜室30と、を備えている。そして、第1の分解室10で生成したSiHを含むガスと第2の分解室20で生成したNHを含むガスが、成膜室30の内部に配置した基板40にそれぞれ供給されることにより、基板40の表面に窒化シリコン膜が形成される。
【0033】
−第1の分解室−
第1の分解室10は、SiHを含む第1の原料ガスが供給され、ICP法によってSiHをSiHに選択的に分解する。
石英管からなる本体12には、SiHを含む第1の原料ガスを導入するためのガス導入口14が設けられ、外側には原料ガスの濃度を調整するガス濃度制御手段13が設けられている。
【0034】
本体12の周囲には高周波電源と接続した高周波印加用の電極(アンテナ)16が螺旋状に配置され、RFの高周波電源11と接続されている。なお、電極(アンテナ)16の形状や配置は適宜設定すればよい。
【0035】
−第2の分解室−
第2の分解室20は、NHを含む第2の原料ガスが供給され、UHFプラズマによってNHをNHに選択的に分解する。本体22にはNHを含む第2の原料ガスを導入するためのガス導入口24が設けられ、外側には原料ガスの濃度を調整するガス濃度制御手段23が設けられている。
【0036】
第2の分解室20の上部は、石英窓27となっており、その外部に電極(アンテナ)26が設置されている。電極26は高周波電源21に接続し、UHF帯の周波数によってプラズマが生成される。第2の分解室20における各電極(アンテナ)26の形状や配置も適宜設定すればよい。
【0037】
−成膜室−
成膜室30は、第1の分解室10と第2の分解室20がそれぞれ独立して連結されている。第1の分解室10で生成したSiHを含むガス、第2の分解室20で生成したNHを含むガスは、ガス輸送及び拡散によって、それぞれ成膜室30の内部に供給される。なお、それぞれ放出されたガスが支持台32上に配置された基板40に接触し易いように、第1の分解室10と第2の分解室20の各中心軸が支持台32の方向に向けられている。
【0038】
成膜室30の内部には、第1の分解室10と第2の分解室20の付近で、各分解室10,20からほぼ等距離の位置で基板40を支持する支持台32が設けられている。支持台32はモータ(不図示)によって回転軸34を介して回転することができる。支持台32を回転させたときに基板40が脱落しないように支持台32に基板40が固定される。固定手段は特に限定されず、機械的に固定してもよいし、静電的チャックによって固定してもよい。
【0039】
支持台32は高周波電源31と接続されている。この高周波電源31は、第1の分解室10と第2の分解室20でそれぞれプラズマを発生させる高周波電源11,21から独立して制御される。
また、支持台32の近くには、基板40の周囲における少なくとも1種のガスの濃度を測定するガス濃度測定手段38が設けられている。
【0040】
成膜室30の底部には、成膜室30からガスを排出するための排気口36が設けられている。排気口36は減圧用の真空ポンプ(不図示)に接続されている。
【0041】
<窒化シリコン膜の成膜方法>
次に、本実施形態の成膜装置1を用いて基板40の表面に窒化シリコン膜を形成する方法について説明する。
まず、窒化シリコン膜を成膜する基板40を用意する。基板40は、最終的に製造するデバイス(半導体デバイス、表示装置、撮像装置など)に応じて選択すればよく、既に他の膜などが形成されている製造工程中のものでもよい。
【0042】
例えば、有機エレクトロルミネッセンス表示装置を製造する場合は、ジルコニア安定化酸化イットリウム(YSZ)、ガラス等の無機材料からなる基板が好適である。また、基板側から光を取り出す必要がない場合は、例えば、ステンレス、Fe、Al、Ni、Co、Cuやこれらの合金等の金属基板を用いることもできる。
一方、半導体デバイスを製造する場合は、Siなどの半導体基板を用いることができる。
【0043】
また、本実施形態では、いずれの原料ガスもプラズマCVDによって分解して成膜するため、熱CVDに比べて低温で成膜することができる。そのため、ポリエチレンテレフタレート、ポリブチレンフタレート、ポリエチレンナフタレート等のポリエステル、ポリスチレン、ポリカーボネート、ポリエーテルスルホン、ポリアリレート、ポリイミド、ポリシクロオレフィン、ノルボルネン樹脂、ポリ(クロロトリフルオロエチレン)等の樹脂フィルムを用いてもよい。
【0044】
基板40を、成膜する側とは反対側の面を支持台32に向けて固定した後、排気口36を通じて成膜室30内を減圧する。そして、支持台32を所定の方向に回転させるとともに、第1の分解室10にはNH及びArを含む第1の原料ガスを、第2の分解室20にはSiH、H、及びArを含む第2の原料ガスをそれぞれ供給する。
なお、各分解室10,20及び成膜室30内の圧力、基板温度、原料ガスの流量等は、成膜すべき窒化シリコン膜の目的、基板の材質等にもよるが、例えば、圧力:1.0〜100Pa、基板温度:100〜400℃、SiH/NHの流量比:0.5〜2.0に設定する。
【0045】
第1の分解室10では、第1の原料ガスを供給するとともに、コイル(アンテナ)に例えば27MHzの高周波を印加する。これにより、第1の原料ガスに含まれるSiHがICPプラズマによってSiHとHに選択的に分解される。
一方、第2の分解室20では、第2の原料ガスを供給するとともに、例えば500MHzの超高周波を印加する。これにより、第2の原料ガスに含まれるNHがUHFプラズマによってNHとHに選択的に分解される。
【0046】
第1の分解室10で生成したSiHとHを含むガスと、第2の分解室20で生成したNHとHを含むガスは、それぞれガス輸送及び拡散によって成膜室30内に供給される。各分解室10,20からそれぞれ成膜室30内に導入されたガスは、支持台32に保持され、回転している基板40上で混合するとともに基板40の表面に接触する。これにより気相化学反応によって基板40の表面に窒化シリコン膜が形成される。
【0047】
成膜の際、ガス濃度測定手段38によって基板40付近のガス、例えばSiH及びNHの各濃度を測定することが好ましい。測定されたSiH及びNHの各濃度に基づいて、ガス濃度制御手段13,23により第1の分解室10に供給するSiHの濃度と、第2の分解室20に供給するNHの濃度をそれぞれ調整する。このように基板付近の成膜前駆体(SiH及びNH)の濃度を測定して供給する原料ガスの濃度を調整すれば、経時変化が小さく、組成及び膜厚の均一性が高いa−SiN:H膜をより確実に形成することができる。
なお、各原料ガス全体の流量を調整してSiH及びNHの濃度比を調整してもよいし、第1の原料ガスに含まれるSiHの濃度、又は、第2の原料ガスに含まれるNHの濃度をそれぞれ調整してもよい。
【0048】
また、原料ガスは手動で調整してもよいが、ガス濃度測定手段38とガス濃度制御手段13,23を連動させて自動制御を行ってもよい。例えば、ガス濃度測定手段38によるSiH及びNHの測定値をガス濃度制御手段13,23に自動的にフィードバックして原料ガスの濃度を調整すれば、組成の均一性が高いa−SiN:H膜をより確実に、かつ、より容易に形成することができる。
このように複数のプラズマCVD法を組み合わせ、原料ガスごとに分解エネルギーを制御して選択的に分解して成膜前駆体を生成することにより、良質なa−SiN:H膜を高速に形成することが可能となる。
【0049】
以上、本発明について説明したが、本発明は上記実施形態に限定されるものではない。
例えば、各高周波電源の周波数等は適宜設定すればよい。また、各原料ガスを分解する手法は、実施形態で挙げたプラズマ法に限定されず、原料ガスの種類及び形成すべき膜に応じて特定して選択すればよい。例えば、容量結合プラズマ(CCP:Capacitively Coupled Plasma)、電子サイクロトン共鳴プラズマ(ECR:Electron Cyclotron resonance Plasma)、ヘリコン波励起プラズマ(HWP:Helicon Wave Plasma)、マイクロ波励起表面波プラズマ(SWP:Surface Wave Plasma)などの各種プラズマ法を用いてもよい。また、プラズマによる分解に限らず、例えば、光、熱などにより原料ガスを分解させてもよい。
【0050】
また、本発明により形成する膜も窒化シリコン膜に限定されず、複数の原料ガスを用いて気相化学成長法で形成する他の無機膜又は有機膜の成膜に適用することができる。また、膜の機能も特に限定されず、例えば、半導体膜や導電膜の成膜に本発明を適用することもできる。
【図面の簡単な説明】
【0051】
【図1】組成比及び入射エネルギーを変えて分子動力学シミュレーションから算出したSiH及びNHx(x=0,1,2)の付着係数を示す図である。
【図2】分子動力学シミュレーションから算出したa−SiN:H膜のSi−H結合/N−H結合比を動径分布関数で評価した図である。(A)Nを用いた場合 (B)NHを用いた場合 (C)NHを用いた場合
【図3】プラズマ化学気相成長法のエネルギー分布の例を概略的に示す図である。(A)UHFプラズマのエネルギー分布 (B)ICPのエネルギー分布
【図4】本発明に係る成膜装置の構成の一例を示す概略図である。
【符号の説明】
【0052】
1 成膜装置
10 第1の分解室
11 高周波電源
12 第1の分解室本体
13 ガス濃度制御手段
14 ガス導入口
16 電極(アンテナ)
20 第2の分解室
21 高周波電源
22 第2の分解室本体
23 ガス濃度制御手段
24 ガス導入口
26 電極(アンテナ)
27 石英窓
30 成膜室
31 高周波電源
32 支持台
34 回転軸
36 排気口
38 ガス濃度測定手段
40 基板

【特許請求の範囲】
【請求項1】
互いに異なる原料ガスが供給され、該供給された原料ガスをそれぞれ異なる分解手法によって選択的に分解することにより、膜の形成に寄与する成膜前駆体をそれぞれ生成させる複数の分解室と、
前記複数の分解室がそれぞれ独立して連結されており、内部に基板が配置される成膜室と、を備え、
前記複数の分解室でそれぞれ生成した前記成膜前駆体を含むガスを前記成膜室の内部に配置された基板にそれぞれ供給することにより、該基板の表面に膜を形成することを特徴とする成膜装置。
【請求項2】
前記複数の分解室として、SiHを含む第1の原料ガスが供給され、前記SiHを選択的に分解してSiHを生成させる第1の分解室と、NHを含む第2の原料ガスが供給され、前記NHを選択的に分解してNHを生成させる第2の分解室と、を備え、
前記第1の分解室で生成した前記SiHを含むガスと、前記第2の分解室で生成した前記NHを含むガスを、前記成膜室の内部に配置された前記基板にそれぞれ供給することにより、該基板の表面に窒化シリコン膜を形成することを特徴とする請求項1に記載の成膜装置。
【請求項3】
前記第1の分解室が、RFプラズマ法又はマイクロ波プラズマ法によって前記SiHをSiHに分解することを特徴とする請求項2に記載の成膜装置。
【請求項4】
前記第2の分解室が、UHFプラズマ法、Cat−CVD法、又は光CVD法によって前記NHをNHに分解することを特徴とする請求項2又は請求項3に記載の成膜装置。
【請求項5】
前記成膜室の内部に配置された前記基板の周囲における少なくとも1種のガスの濃度を測定するガス濃度測定手段をさらに備えていることを特徴とする請求項1〜請求項4のいずれか一項に記載の成膜装置。
【請求項6】
前記ガス濃度測定手段により測定されたガスの濃度に基づいて、前記複数の分解室にそれぞれ供給される原料ガスの濃度を調整するガス濃度制御手段をさらに備えていることを特徴とする請求項5に記載の成膜装置。
【請求項7】
互いに異なる複数の原料ガスを原料ガス毎にそれぞれ異なる分解手法によって選択的に分解して膜の形成に寄与する成膜前駆体を生成する工程と、
前記原料ガス毎に生成した前記成膜前駆体を含むガスをそれぞれ基板に供給することにより、該基板の表面に膜を形成する工程と、を含むことを特徴とする成膜方法。
【請求項8】
前記複数の原料ガスをそれぞれ異なる分解手法によって選択的に分解する工程の前に、前記成膜前駆体と、前記原料ガス毎に選択的に分解して前記成膜前駆体を生成させる前記分解手法を特定する工程をさらに含むことを特徴とする請求項7に記載の成膜方法。
【請求項9】
前記複数の原料ガスとして、SiHを含む第1の原料ガスと、NHを含む第2の原料ガスを用い、前記第1の原料ガスに含まれる前記SiHをSiHに、前記第2の原料ガスに含まれる前記NHをNHにそれぞれ選択的に分解し、前記SiHを含むガスと前記NHを含むガスをそれぞれ前記基板に供給することにより、該基板の表面に窒化シリコン膜を形成することを特徴とする請求項7又は請求項8に記載の成膜方法。
【請求項10】
RFプラズマ法又はマイクロ波プラズマ法によって前記SiHをSiHに分解することを特徴とする請求項9に記載の成膜方法。
【請求項11】
UHFプラズマ法、Cat−CVD法、又は光CVD法によって前記NHをNHに分解することを特徴とする請求項9又は請求項10に記載の成膜方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【公開番号】特開2010−225792(P2010−225792A)
【公開日】平成22年10月7日(2010.10.7)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−70674(P2009−70674)
【出願日】平成21年3月23日(2009.3.23)
【出願人】(306037311)富士フイルム株式会社 (25,513)
【Fターム(参考)】