説明

操舵装置

【課題】運転者によるステアリングホイールの保舵状態を安価な構成で把握すること。
【解決手段】ステアリングホイール11に対して振動を加える少なくとも1つの振動源(加振手段16)と、そのステアリングホイール11の振動状態を検出する振動検出手段44と、この振動検出手段44により検出された振動状態に基づいて運転者によるステアリングホイール11の保舵状態を推定する保舵状態推定手段34と、を備えること。ここで、その振動検出手段44は、ステアリングホイール11の左右均等な位置に夫々少なくとも1つずつ設けることが好ましい。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、運転者によるステアリングホイールへの操舵操作に伴い操舵輪に対して操舵力を付与する操舵装置に係り、特に、その運転者によるステアリングホイールの保舵状態を判別可能な操舵装置に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、運転者によるステアリングホイールの保舵状態の検出を行う技術が知られており、例えば、その検出結果に基づいて運転者の緊張状態や弛緩状態を判断することができ、これを利用して居眠り運転か否かの判断が可能になる。また、その検出結果に応じて両手持ちか片手持ちかを判別し、その持ち方に応じて操舵アシストトルク等を調節することができる。
【0003】
例えば、かかる保舵状態の検出技術としては、ステアリングホイールのリム部に多数の圧力センサを配備し、その夫々の検出信号に基づいて運転者によるステアリングホイールの握りの強さを判断するものが下記の特許文献1に開示されている。
【0004】
また、下記の特許文献2にはステアリングホイールのリム部に圧力センサを設け、そのリング部を握る握力に応じて操舵反力を変更する技術が開示されており、また、これと同様に、そのリム部又はその一部に圧力センサを設ける技術が下記の特許文献3又は特許文献4に開示されている。
【0005】
【特許文献1】特開平11−286264号公報
【特許文献2】特開平4−31081号公報
【特許文献3】特表2003−535757号公報
【特許文献4】特開平5−310130号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
しかしながら、従来の特許文献1〜4の如き構成によれば、上下左右等の様々な位置で保舵状態を検出する為には圧力センサをリム部の全周に渡って配設しなければならず、これに伴い多数の圧力センサを用意しなければならないので原価が大幅に高騰してしまう、という不都合があった。
【0007】
尚、CCDカメラ等の撮像装置で運転者を映し出し、その映像から運転者の緊張状態等を判断することもできるのであろうが、その際には大掛かりで且つ高価な設備が必要になり好ましくない。また、そのような映像から運転者の緊張状態等の判断を行う為には、運転者の動きが大きくなるなどの条件が揃わなければならず、常に運転者の緊張状態等を判別することは不可能である。
【0008】
そこで、本発明は、かかる従来例の有する不都合を改善し、運転者によるステアリングホイールの保舵状態を安価に把握可能な操舵装置を提供することを、その目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0009】
上記目的を達成する為、請求項1記載の発明では、ステアリングホイールに対して振動を加える少なくとも1つの振動源と、そのステアリングホイールの振動状態を検出する振動検出手段と、この振動検出手段により検出された振動状態に基づいて運転者によるステアリングホイールの保舵状態を推定する保舵状態推定手段とを備えている。
【0010】
通常、ステアリングホイールが加振されている場合には、運転者がステアリングホイールを保舵しているときと保舵していないときとでステアリングホイールの振動状態に変化が生じる。また、ステアリングホイールに対しての握りの強さが異なれば、その強さに応じてステアリングホイールの振動状態が変化する。従って、この請求項1記載の操舵装置によれば、ステアリングホイールの振動状態の変化から運転者の保舵状態を把握することができる。
【0011】
具体的に、請求項2記載の発明では、上記請求項1記載の操舵装置において、運転者がステアリングホイールを保舵していないときの振動状態を基準未保舵振動状態として設定し、この基準未保舵振動状態と振動検出手段により検出された振動状態との比較により保舵状態を推定すべく保舵状態推定手段を構成している。
【0012】
この請求項2記載の操舵装置によれば、運転者によってステアリングホイールが保舵されているか否かを知ることができる。
【0013】
ここで、請求項3記載の発明では、上記請求項1又は2に記載の操舵装置において、振動検出手段をステアリングホイールの左右均等な位置に夫々少なくとも1つずつ設けている。
【0014】
従って、この請求項3記載の操舵装置によれば、運転者がステアリングホイールを両手で保舵しているのか片手で保舵しているのかを知ることができる。
【0015】
また、請求項4記載の発明では、上記請求項1,2又は3に記載の操舵装置において、ステアリングホイールの回転方向に振動を付与する振動源を用いている。
【0016】
従って、この請求項4記載の操舵装置によれば、路面からの入力等の影響を受けることのない適切な振動状態を作り出すことができる。
【0017】
また、請求項5記載の発明では、上記請求項1,2,3又は4に記載の操舵装置において、ステアリングホイールの固有振動数と異なる周波数で振動する振動源を用いている。
【0018】
従って、この請求項5記載の操舵装置によれば、共振に伴う振動の増幅を抑制することができるので、運転者に振動を感じさせることのない適切な振動状態を作り出すことができる。
【0019】
更に、請求項6記載の発明では、上記請求項1,2,3,4又は5に記載の操舵装置において、運転者がステアリングホイールを安定状態で保舵しているときに振動検出手段により検出された振動状態を基準保舵振動状態として設定し、この基準保舵振動状態と振動検出手段により検出された振動状態との比較により保舵状態を推定すべく保舵状態推定手段を構成している。
【0020】
この請求項6記載の操舵装置によれば、ステアリングホイールに対する握りの強さを把握することができるので、それから運転者の緊張具合を知ることができる。
【発明の効果】
【0021】
本発明に係る操舵装置は、運転者によるステアリングホイールの保舵状態を把握する為に、従来のような多数のセンサを用いずに少なくとも1つの振動源と振動検出手段とをステアリングホイールに配備している。即ち、本発明に係る操舵装置によれば、従来よりも安価で且つ軽量な構成で運転者の保舵状態を把握することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0022】
以下に、本発明に係る操舵装置の実施例を図面に基づいて詳細に説明する。尚、この実施例によりこの発明が限定されるものではない。
【実施例】
【0023】
本発明に係る操舵装置の実施例を図1から図4に基づいて説明する。
【0024】
最初に、本実施例における操舵装置の構成の一例について詳述する。
【0025】
この操舵装置には、運転者が操作するステアリングホイール11と、このステアリングホイール11に連結されたステアリングシャフト12と、このステアリングシャフト12の操舵トルクを左右の操舵輪20L,20R側へと伝達する操舵トルク伝達手段13及びタイロッド14L,14Rとが設けられている。
【0026】
ここで、その操舵トルク伝達手段13は、ステアリングシャフト12の先端に配設されたピニオンギヤ13aと当該ピニオンギヤ13aに噛み合うラックギヤ13bとで構成された所謂ラック&ピニオン機構である。この操舵装置においては、そのラックギヤ13bの両端に左右のタイロッド14L,14Rが連結され、これら各タイロッド14L,14Rに連結された各操舵輪20L,20Rをラックギヤ13bの移動と共に転舵させる。
【0027】
また、この操舵装置には、少なくとも運転者の操舵操作に応じた操舵アシストトルク(操舵アシスト力)を発生させる操舵アシスト手段15が設けられている。例えば、ここで例示する操舵アシスト手段15は、図示しない電動モータ,この電動モータに駆動電流を供給するモータ駆動回路及び電動モータの出力軸に連結され且つステアリングシャフト12上に取り付けられた減速機を備え、ステアリングシャフト12上に配設される。
【0028】
ところで、ここで例示している車輌には図1に示す如く電子制御装置(ECU)30が配設されており、この電子制御装置30には、その制御機能の1つとして本実施例の操舵装置を制御する為の様々な制御手段が設けられている。即ち、本実施例にあっては、操舵装置の制御を行う操舵制御装置が電子制御装置30における上記の如き各制御手段により構成されている。以下に、その各制御手段について説明する。
【0029】
先ず、この電子制御装置30には、少なくとも運転者の操舵操作に応じて(ここでは、車速及び運転者の操舵トルクに応じて)操舵アシストトルクの設定を行う操舵アシストトルク設定手段31が設けられている。この操舵アシストトルク設定手段31は、例えば、路面反力の大きい低速走行の場合には大きな値の操舵アシストトルクを設定し、高速走行の場合には走行安定性を確保する為に小さな値の操舵アシストトルクを設定するよう構成されている。また、この操舵アシストトルク設定手段31は、運転者の操舵トルクが大きいほど大きな値の操舵アシストトルクが設定されるよう構成されている。ここで、かかる設定時に用いる車速と運転者の操舵トルクは、例えば、各々に、車輌に具備されている車速センサ41の検出信号、ステアリングシャフト12上に配設された操舵トルクセンサ42の検出信号から検出することができる。
【0030】
一方、この電子制御装置30には、操舵アシストトルク発生時の操舵安定性や操舵感を向上させる為の操舵減衰トルク(操舵減衰力)の設定を行う操舵減衰トルク設定手段32が設けられている。この操舵減衰トルクとは、車速及び運転者の操舵速度に応じて設定される値であり、操舵アシストトルクとは反対方向のトルクとして求められるものである。この操舵減衰トルク設定手段32は、例えば、低速走行の場合には小さな減衰量となる操舵減衰トルクを設定し、高速走行の場合には大きな減衰量となる操舵減衰トルクを設定するよう構成されている。また、この操舵減衰トルク設定手段32は、運転者の操舵速度が速いほど大きな減衰量となる操舵減衰トルクを設定するよう構成されている。ここで、かかる設定時に用いる運転者の操舵速度は、例えば、ステアリングシャフト12上に配設された操舵角センサ43の検出信号に基づいて算出することができる。
【0031】
また、本実施例の電子制御装置30には、上述した操舵アシスト手段15の駆動制御を行う操舵アシスト制御手段33が設けられている。ここで、その操舵アシスト手段15が上述したが如く構成されたものである場合、その操舵アシスト制御手段33は、操舵アシスト手段15の電動モータを駆動制御するように構成される。従って、この操舵アシスト制御手段33は、上述した操舵アシストトルク設定手段31及び操舵減衰トルク設定手段32による操舵アシストトルクと操舵減衰トルクに応じた駆動信号を算出し、この駆動信号を操舵アシスト手段15のモータ駆動回路に送信する。これにより、操舵アシスト手段15においては、その駆動信号に応じた駆動電流がモータ駆動回路から電動モータへと供給されて当該電動モータを駆動させ、その駆動力をステアリングシャフト12に減速機を介して伝達させる。
【0032】
ところで、運転者によるステアリングホイール11の持ち位置及び両手持ちや片手持ち等の持ち方は、運転者毎に様々である。また、同じ運転者であっても、例えば道路状況等の周辺環境や気分に応じてステアリングホイール11の持ち位置や持ち方を変える場合がある。これが為、上述した操舵アシストトルクや操舵減衰トルクをステアリングホイール11の持ち位置等の保舵状態に拘わらず一律のものとすると、ある保舵状態においては良好な操舵感を得られるが、別の保舵状態では良好な操舵感を得られない場合もある。例えば、操舵アシストトルク等がステアリングホイール11のリム部11aの左右を両手で保持しているときに良好な操舵感が得られるよう設定されている場合、その何れか一方を片手で保持しているときには、その設定された操舵アシストトルク等ではトルク不足となって良好な操舵感を得られない。
【0033】
更に、ステアリングホイール11の保舵状態としては、上記の如き持ち位置や持ち方以外にリム部11aの握りの強さも含まれる。従って、そのような握りの強さを明らかにすることによって運転者の緊張状態や弛緩状態の別を判断することができ、例えば、その判断結果に基づいて居眠り運転状態か否かの判定を行うことができる。
【0034】
そこで、本実施例にあっては、運転者によるステアリングホイール11の保舵状態の推定を可能にすべく操舵装置を構成する。本実施例においては、かかる構成を具現化する為に、ステアリングホイール11に振動源を設けて積極的に振動させ、その振動状態の変化を検知して運転者の保舵状態を推定する。即ち、運転者の持ち位置や持ち方、握りの強さに応じて各々に振動状態(周波数)が変化するので、この変化を検出することにより保舵状態の判別が可能になる。これが為、本実施例にあっては、ステアリングホイール11を振動させる加振手段16と当該ステアリングホイール11の振動を検出する振動検出手段44とをリム部11aに配備し、その検出結果に基づいて運転者によるステアリングホイール11の保舵状態の推定を行う保舵状態推定手段34を電子制御装置30に設ける。
【0035】
その加振手段16と振動検出手段44は、ステアリングホイール11のリム部11aの内部に埋設する。先ず、加振手段16は、リム部11aの左右における未保舵時の振動状態の均衡が保てる位置に配設することが好ましい。例えば、ステアリングセンタの状態にてリム部11aにおける上下の何れか一方に少なくとも1つ配置してもよく(図1においては下側に1つ配置)、そのリム部11aにおける左右夫々に左右対称となるべく少なくとも1つずつ埋設してもよい。一方、振動検出手段44は、少なくともリム部11aの左右における各々の振動状態を検出できる位置に配設することが好ましい。
【0036】
以下においては、リム部11aの左右夫々に1つずつ加振手段16及び振動検出手段44を配置した図2に示すステアリングホイール11を用いて説明する。具体的に、本実施例にあっては、図2に示す如く、ステアリングセンタの状態にて運転者が最も握る可能性の高いリム部11aの左右夫々の位置に振動検出手段44,44を1つずつ配置し、運転者の保舵状態に依存する振動状態の変化を適切に検出させる。また、本実施例の加振手段16については、その夫々の振動検出手段44,44の上方(又は下方)に加振手段16,16を1つずつ配置する。
【0037】
本実施例の加振手段16としては、リム部11aの内部に埋め込むことが可能で且つ電子制御装置30の保舵状態推定手段34により駆動制御可能な小型の振動子を用いる。
【0038】
この加振手段16は、リム部11aに振動を加えることができるものであればステアリングホイール11に対して如何様な方向に加振させるものを用いてもよい。しかしながら、ステアリングホイール11には機関振動や走行中の路面からの入力が伝達されるので、その上下左右方向(ステアリングホイール11の平面方向)や前後方向(ステアリングシャフト12の軸線方向)に加振させる加振手段16を適用した場合には、その伝達された機関振動等によって加振手段16から加えた振動が相殺又は増幅されてしまい、その加振手段16で作り出した所望の振動状態を検知し難くなってしまう。これが為、本実施例にあっては、かかる不都合を極力回避する為に、ステアリングホイール11の周方向に加振させる加振手段16を利用する。例えば、本実施例の保舵状態推定手段34は、左右夫々の加振手段16,16をステアリングホイール11の周方向に同相で加振させるよう駆動制御し、ステアリングホイール11が操舵された際にも同様に周方向に加振させるよう駆動制御する。ところで、そのステアリングホイール11の部材の剛性や加振手段16の取付位置によっては、同相で加振手段16を加振させた際の振動の位相が変化してその振動が打ち消されてしまう可能性があるので、かかる場合には加振手段16を逆相で加振させる方が好ましい。そこで、この保舵状態推定手段34については、ステアリングホイール11の部材等に応じて加振手段16を同相又は逆相で加振させるよう構成する。
【0039】
ここで、本実施例にあっては、左右2箇所のみにしか加振手段16,16を配備していないので、これらの振動がステアリングホイール11のリム部11aの周方向全体に伝わらない可能性がある。そこで、本実施例においては、その加振手段16,16と各々対になる弾性部材17,17をリム部11aの内部に埋設する。これにより、その弾性部材17,17にて加振手段16,16からの振動が増幅され、リム部11aの周方向全体を振動させることができる。本実施例にあっては、図2に示す如く、振動検出手段44を中心にして上下に加振手段16に対向させて弾性部材17を配置する。
【0040】
また、運転者はリム部11aから振動が伝わると不快に感じてしまうので、運転者に振動を感じ取らせない周波数でステアリングホイール11を振動させることが好ましい。更に、加振手段16からの振動に伴いステアリングホイール11が共振すると、その振動が増幅されて不快な振動を運転者が感知してしまう虞があり、また、適切な振動状態を作り出せない可能性もある。これが為、ステアリングホイール11の共振を回避して適切な所望の振動状態を作り出す為に、ステアリングホイール11の固有振動数とは異なる周波数で加振手段16を加振させる。即ち、本実施例の加振手段16は、ステアリングホイール11の固有振動数(≒共振周波数)以外の周波数で且つ運転者が振動を感知できない周波数で加振させる。尚、本実施例にあっては加振手段16の振動が弾性部材17で増幅されるので、その加振手段16と弾性部材17の対により増幅された振動の周波数が、ステアリングホイール11の固有振動数(≒共振周波数)以外の周波数で且つ運転者が振動を感知できない周波数となるようにする。
【0041】
一方、本実施例の振動検出手段44としては、リム部11aの内部に埋め込むことが可能な小型の加速度センサを用いる。この振動検出手段44の検出信号は、電子制御装置30に送信されて保舵状態推定手段34に渡される。
【0042】
続いて、その保舵状態推定手段34について説明する。
【0043】
本実施例の保舵状態推定手段34は、上述したが如く、振動検出手段44により検出された振動状態に基づいて運転者によるステアリングホイール11の保舵状態を推定するものである。ここで、運転者による保舵状態とは、そもそも保舵しているのか否かという状態もあれば、両手での保舵なのか片手での保舵なのかという状態もある。また、運転者の緊張具合に関係する握りの強さについても保舵状態として捉えることができる。従って、その様々な事象に応じた保舵状態を把握する為には、現状での運転者の保舵状態に伴い検出された振動状態と比較される基準値を用意する必要がある。
【0044】
そこで、先ず、この保舵状態推定手段34には、運転者がステアリングホイール11を保舵していないときの基準となる振動状態(以下、「基準未保舵振動状態」という。)Ar,Alの設定機能を設ける。この基準未保舵振動状態Ar,Alは、左右夫々の振動検出手段44,44が各々検出した検出信号に相当するものであり、運転者がステアリングホイール11を保舵しているか否かを保舵状態推定手段34に判断させる際に使用するものである。
【0045】
この保舵状態推定手段34には、大別すると、左右夫々における基準未保舵振動状態Ar,Alと現状の振動状態Cr,Clとが各々一致していれば(Cr=Ar,Cl=Al)運転者が手放し状態であると推定させ、その何れか一方が一致し且つ他方が不一致であれば{(Cr=Ar,Cl≠Al)又は(Cr≠Ar,Cl=Al)}片手保舵の状態であると推定させ、その双方が不一致であれば(Cr≠Ar,Cl≠Al)両手保舵の状態であると推定させる。
【0046】
また、この保舵状態推定手段34には、安定状態(即ち、平静な状態)で運転者がステアリングホイール11を保舵しているときの基準となる振動状態(以下、「基準保舵振動状態」という。)の設定機能を設ける。即ち、運転者の緊張具合が高くなるほど握りの強さは強くなるので、平静状態を示す基準保舵振動状態が明らかになっていれば、これとの比較により弛緩状態や緊張状態などの緊張具合を保舵状態推定手段34に判断させることができる。本実施例の保舵状態推定手段34においては、その基準保舵振動状態と現状の振動状態との差分の大きさに応じて緊張具合を判断させる。
【0047】
ここで、一般に、ステアリングホイール11を両手で持った時と片手で持った時とでは、片手保舵時の方がステアリングホイール11を強く握る傾向にある。従って、この保舵状態推定手段34には、両手持ち時における左右夫々の基準保舵振動状態Br1,Bl1と右片手持ち時における基準保舵振動状態Br2と左片手持ち時における基準保舵振動状態Bl2とを夫々設定させる。
【0048】
以下に、本実施例の操舵装置における保舵状態推定手段34の動作について図3及び図4のフローチャートに基づき説明する。
【0049】
最初に、この保舵状態推定手段34による基準未保舵振動状態及び基準保舵振動状態の設定動作について図3を用いて詳述する。
【0050】
先ず、本実施例の保舵状態推定手段34は、加振手段16を作動させてステアリングホイール11に振動を加える(ステップST1)。ここで、この加振手段16の作動開始時期としては、例えばイグニッションON信号検出後や機関始動後などの種々の態様が考えられる。
【0051】
次に、この保舵状態推定手段34は、運転者に対してステアリングホイール11から両手を離すよう指示する(ステップST2)。例えば、この保舵状態推定手段34は、その旨を図示しない車内のモニタやインストルメントパネルに表示させるべく構成してもよく、その旨を音声で運転者に伝えるべく構成してもよい。そして、この保舵状態推定手段34は、左右夫々の振動検出手段44,44から検出信号を取得し、この各検出信号を左右夫々の基準未保舵振動状態Ar,Alの情報として設定する(ステップST3)。
【0052】
ここで、この基準未保舵振動状態Ar,Alの情報は、アイドル回転が不安定な機関始動直後のものよりも暖機運転終了後のものの方が高精度である。従って、保舵状態推定手段34には、暖機運転終了後の最適な時期に再度上記のステップST2,ST3を実行させることが好ましい。例えば、その最適な時期としては、暖機運転終了後の車輌停車時で且つ機関回転数がアイドル回転のときが適している。
【0053】
一方、そのような時期に検出される基準未保舵振動状態Ar,Alの情報は、基本的に不変の値であるので、その都度検出せずとも予め設定しておくことができる。これが為、左右夫々の基準未保舵振動状態Ar,Alの情報を予め電子制御装置30の記憶装置等に用意している場合には、上記のステップST2,ST3の処理動作を省略してもよい。尚、各種部品の経時劣化等によって基準未保舵振動状態Ar,Alが変化してしまう可能性もあるので、そのステップST2,ST3の処理動作を実行する有用性はある。
【0054】
続いて、この保舵状態推定手段34は、運転者に対してステアリングホイール11を両手で保持するよう指示を行う(ステップST4)。そして、この保舵状態推定手段34は、左右夫々の振動検出手段44,44から検出信号を取得し、この各検出信号を両手持ち時における左右夫々の基準保舵振動状態Br1,Bl1の情報として設定する(ステップST5)。
【0055】
また、この保舵状態推定手段34は、運転者に対してステアリングホイール11を右手で保持するよう指示を行う(ステップST6)。そして、この保舵状態推定手段34は、右側の振動検出手段44から検出信号を取得し、この検出信号を右片手持ち時における基準保舵振動状態Br2の情報として設定する(ステップST7)。
【0056】
更に、この保舵状態推定手段34は、運転者に対してステアリングホイール11を左手で保持するよう指示を行う(ステップST8)。そして、この保舵状態推定手段34は、左側の振動検出手段44から検出信号を取得し、この検出信号を左片手持ち時における基準保舵振動状態Bl2の情報として設定する(ステップST9)。
【0057】
次に、この保舵状態推定手段34による保舵状態の推定動作について図4を用いて詳述する。この推定動作は、上述した設定動作に続いて実行されるものとする。従って、ここでは、加振手段16,16が既に作動しているものとして説明する。
【0058】
最初に、この保舵状態推定手段34は、左右夫々の振動検出手段44,44から検出信号を取得し、この各検出信号を現状における左右夫々の振動状態Cr,Clの情報として検出する(ステップST11)。
【0059】
そして、この保舵状態推定手段34は、例えば車速センサ41の検出信号に基づいて車輌が走行中であるか否か判断する(ステップST12)。ここで、走行中でない(即ち、停車中である)との判断が為されたときには、安全性や操舵性の観点から何ら懸念される事項はないので再びステップST11に戻って現状の振動状態Cr,Clを検出させる。一方、この保舵状態推定手段34は、走行中との判断が為された場合、左右夫々における現状の振動状態Cr,Clの情報と上記ステップST3にて設定した(又は予め設定されている)基準未保舵振動状態Ar,Alの情報とを各々比較し、その夫々において違いがあるか否か判断する(ステップST13)。即ち、ここでは、その各々の振動状態に係る検出信号の波形の一致/不一致を判断する。
【0060】
先ず、そのステップST13にて左右夫々の振動状態が一致している(Cr=Ar,Cl=Al)と判断された場合には、保舵状態推定手段34により運転者がステアリングホイール11から両手を離している状態と推定される(ステップST14)。従って、この保舵状態推定手段34は、「居眠り運転」と判断する(ステップST15)。
【0061】
一方、上記ステップST13にて左右何れか一方の振動状態が一致し且つ他方の振動状態が不一致である{(Cr=Ar,Cl≠Al)又は(Cr≠Ar,Cl=Al)}と判断された場合には、保舵状態推定手段34により運転者が左右何れか一方の手でステアリングホイール11を保舵している状態と推定される(ステップST16)。かかる場合、この保舵状態推定手段34は、保舵されている側の現状の振動状態Cr(Cl)の情報と上記ステップST7(ステップST9)にて設定した基準保舵振動状態Br2(Bl2)の情報との差分{(Dr=Cr−Br2)又は(Dl=Cl−Bl2)}を演算する(ステップST17)。
【0062】
そして、この保舵状態推定手段34は、その差分Dr(Dl)に応じて運転者の緊張状態を推定する(ステップST18)。例えば、本実施例にあっては、上述したが如く運転者が平静状態のときに基準保舵振動状態Br2,Bl2を設定している。従って、その差分Dr(Dl)が殆ど無いときには、運転者が平静状態であると推定される。また、差分Dr(Dl)が平静状態から外れた負の値のときには弛緩状態と推定される一方、その平静状態から外れた正の値のときには緊張状態と推定される。ここで、保舵状態推定手段34は、その正の値が所定値よりも小さければ適度な緊張状態であると推定し、その所定値以上であれば極度の緊張状態であると推定する。
【0063】
また、上記ステップST13にて左右夫々の振動状態が不一致である(Cr≠Ar,Cl≠Al)と判断された場合、本実施例の保舵状態推定手段34は、現状における左右の振動状態Cr,Clの情報を比較し、これらに違いがあるか否か判断する(ステップST19)。即ち、ここでは、その各々の現状における振動状態Cr,Clに係る検出信号の波形の一致/不一致を判断する。
【0064】
そのステップST19にて現状における左右の振動状態Cr,Clが一致していると判断された場合には、保舵状態推定手段34により運転者がステアリングホイール11を両手で保舵している状態と推定される(ステップST20)。かかる場合、この保舵状態推定手段34は、その現状の振動状態Cr,Clの情報と上記ステップST5にて設定した基準保舵振動状態Br1,Bl1の情報の左右夫々の差分(Dr=Cr−Br1、Dl=Cl−Bl1)を演算する(ステップST21)。
【0065】
そして、この保舵状態推定手段34は、その夫々の差分Dr,Dlに応じて運転者の緊張状態を推定する(ステップST22)。本実施例にあっては、上述した片手持ち時の基準保舵振動状態Br2,Bl2と同様に、運転者が平静状態のときに両手持ち時の基準保舵振動状態Br1,Bl1を設定している。従って、この両手保舵の状態においても、上述した片手保舵の状態のときと同様に、その差分Dr,Dlの大きさによって平静状態,弛緩状態,適度な緊張状態又は極度の緊張状態と推定する。
【0066】
ここで、上記ステップST19にて現状における左右の振動状態Cr,Clが不一致であると判断された場合とは、左右夫々の手による握りの強さが各々に異なる場合を表している。これが為、かかる判断のみを以て即座に「片手保舵」とは推定し得ないが、かかる場合の操舵性等は強く握っている方の手に依存するものであるので、そのような判断が為された際には「片手保舵」と近似して考えることができる。従って、本実施例にあっては、かかる判断が為された場合、上記ステップST16に進んで「片手保舵」と推定させる。
【0067】
本実施例にあっては、以上示した如くして運転者によるステアリングホイール11の保舵状態を推定する。そして、本実施例の電子制御装置30は、その推定結果に応じて様々な制御を実行する。
【0068】
例えば、上記ステップST15にて「居眠り運転」と判断された場合、電子制御装置30は、警告音等で運転者に注意を喚起したり、車輌に制動力を発生させる。また、上記ステップST18,ST22にて「弛緩状態」と推定された場合には、現状では運転者が覚醒しているが、いずれ居眠り状態に陥ることが懸念される。これが為、かかる推定が為された場合には、警告音等による運転者への注意喚起などを実行させるべく電子制御装置30を構成してもよい。
【0069】
ところで、上述した本実施例の操舵アシストトルク設定手段31と操舵減衰トルク設定手段32には、平静状態にてステアリングホイール11を両手で保舵しているときに運転者が良好な操舵感を得られるような操舵アシストトルク及び操舵減衰トルクを設定させている。従って、かかる保舵状態のときには、その設定された操舵アシストトルクと操舵減衰トルクを発生させることが好ましい。
【0070】
一方、運転者は、必ずしもステアリングホイール11を両手で保舵するとは限らず、片手で保舵するときもある。これが為、片手保舵の場合には、設定された操舵アシストトルクや操舵減衰トルクではトルク不足となるので、これらを増大させなければ良好な操舵感を得ることができない。
【0071】
また、運転者は、いつ如何なるときも平静状態でいられるわけではなく、その時々に応じて弛緩状態や緊張状態になる場合もあるので、その状態によって握りの強さやステアリングホイール11に伝わる腕の剛性が相違する。これが為、上記の設定された操舵アシストトルク等は、運転者の緊張具合に応じて変更することが好ましい。
【0072】
そこで、本実施例の電子制御装置30には、図1に示す如く、そのような様々な保舵状態に応じて、その操舵アシストトルク及び操舵減衰トルクの設定値の補正を各々行う操舵アシストトルク補正手段35及び操舵減衰トルク補正手段36を設けている。
【0073】
例えば、その操舵アシストトルク補正手段35と操舵減衰トルク補正手段36は、保舵状態に応じた所定の補正係数を予め定めておき、これを設定された操舵アシストトルクと操舵減衰トルクに乗算することによって補正値を求めるものであってもよく、また、保舵状態に応じた所定の補正項を予め定めておき、これを設定された操舵アシストトルクと操舵減衰トルクに加算することによって補正値を求めるものであってもよい。また、この操舵アシストトルク補正手段35と操舵減衰トルク補正手段36は、上述した差分Dr,Dl等に応じて所定のマップから補正係数や補正項を求め、これに基づいて補正値を算出するものであってもよい。
【0074】
以上示した如く、本実施例の操舵装置は、運転者によるステアリングホイール11の保舵状態を把握する為に、ステアリングホイール11のリム部11aの周方向全体に数多くのセンサを配備せずとも、少なくとも1つの加振手段16と少なくとも2つの振動検出手段44とをリム部11aに配備するだけでよい。尚、その加振手段16がどの程度までの加振が可能なのかにも依るが、加振手段16からの振動を増幅させる必要がある場合でも、その加振手段16と対になる弾性部材17を少なくとも1つ配備するだけで済む。従って、本実施例の操舵装置によれば、運転者によるステアリングホイール11の保舵状態を安価な構成で把握することができる。また、従来よりもステアリングホイール11の重量が増加しないので、ステアリングホイール11の慣性モーメントの増加を抑制することができる。
【0075】
尚、上述した本実施例においては車輌が走行し始める前に基準保舵振動状態Br1,Bl1,Br2,Bl2を設定させるよう構成しているが、その基準保舵振動状態Br1,Bl1,Br2,Bl2については走行開始後の所定の時期に設定させてもよい。例えば、その所定の時期としては、信号待ち等の停車時であってもよく、また、車輌の走行状態が安定状態のときであってもよい。ここで、車輌の走行状態が安定状態にあるか否かは、車速センサ41,横加速度センサ45やヨーレートセンサ46等の検出信号、車輪のスリップ角などから電子制御装置30に判断させることができる。
【0076】
ところで、上述した本実施例のステアリングホイール11は、運転者の操舵感の評価を行う操舵評価装置の如き技術にも利用することができる。即ち、上述したステアリングホイール11は、リム部11aに加振手段16を少なくとも1つ設けることによって、そのリム部11aに左右均等な大きさの振動を与えることができるものである。従って、その振動の大きさを様々に変化させることによって、運転者がステアリングホイール11を介して感じる操舵感を評価検討することができる。
【産業上の利用可能性】
【0077】
以上のように、本発明に係る操舵装置は、運転者によるステアリングホイールの保舵状態を安価な構成で把握させる技術に適している。
【図面の簡単な説明】
【0078】
【図1】本発明に係る操舵装置の実施例の構成を示す図である。
【図2】本実施例におけるステアリングホイールの正面図である。
【図3】本実施例の操舵装置の動作を説明するフローチャートであって、基準未保舵振動状態及び基準保舵振動状態の設定動作について示す図である。
【図4】本実施例の操舵装置の動作を説明するフローチャートであって、運転者の保舵状態の推定動作について示す図である。
【符号の説明】
【0079】
11 ステアリングホイール
11a リム部
16 加振手段
17 弾性部材
30 電子制御装置
34 保舵状態推定手段
44 振動検出手段

【特許請求の範囲】
【請求項1】
ステアリングホイールに対して振動を加える少なくとも1つの振動源と、
前記ステアリングホイールの振動状態を検出する振動検出手段と、
この振動検出手段により検出された振動状態に基づいて運転者による前記ステアリングホイールの保舵状態を推定する保舵状態推定手段と、
を備えることを特徴とした操舵装置。
【請求項2】
前記保舵状態推定手段は、運転者が前記ステアリングホイールを保舵していないときの振動状態を基準未保舵振動状態として設定し、該基準未保舵振動状態と前記振動検出手段により検出された振動状態との比較により前記保舵状態を推定すべく構成したことを特徴とする請求項1記載の操舵装置。
【請求項3】
前記振動検出手段を前記ステアリングホイールの左右均等な位置に夫々少なくとも1つずつ設けたことを特徴とする請求項1又は2に記載の操舵装置。
【請求項4】
前記振動源は、前記ステアリングホイールの回転方向に振動を付与するものであることを特徴とした請求項1,2又は3に記載の操舵装置。
【請求項5】
前記振動源は、前記ステアリングホイールの固有振動数と異なる周波数で振動するものであることを特徴とした請求項1,2,3又は4に記載の操舵装置。
【請求項6】
前記保舵状態推定手段は、運転者が前記ステアリングホイールを安定状態で保舵しているときに前記振動検出手段により検出された振動状態を基準保舵振動状態として設定し、該基準保舵振動状態と前記振動検出手段により検出された振動状態との比較により前記保舵状態を推定すべく構成したことを特徴とする請求項1,2,3,4又は5に記載の操舵装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【公開番号】特開2007−204005(P2007−204005A)
【公開日】平成19年8月16日(2007.8.16)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2006−28511(P2006−28511)
【出願日】平成18年2月6日(2006.2.6)
【出願人】(000003207)トヨタ自動車株式会社 (59,920)
【Fターム(参考)】