説明

有機デバイスとその製造方法

【課題】大気雰囲気下での使用や、デバイスとして駆動するため電界が印加された際に、有機分子層同士を結合している共有結合が切断され、分子層積層構造が崩壊する恐れがない、耐久性に優れた分子層積層膜による有機薄膜を作製して用い、素子寿命が改善された有機デバイスを提供する。
【解決手段】基板11と、該基板11上第一の有機分子層12と、該第一の有機分子層12に積層された第二の有機分子層14とを備え、該第一の有機分子層12と第二の有機分子層14が、第一の結合部13によって接続され、前記第一の結合部13の構成が、前記第一の有機分子層12と前記第二の有機分子層14との間を接続する第一の共有結合部131と、前記第一の有機分子層12および/または前記第二の有機分子層14と、前記第一の共有結合部131の構成原子との間を接続する第一の化学結合132からなる有機デバイス。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、有機分子の薄膜を電子デバイスの構成要素に用いた、いわゆる有機デバイスに関する。
更に詳しくは、有機分子が秩序性を有して配列・配向しており、有機分子間および有機分子と基板・電極間とが化学的に結合した有機薄膜を含む有機デバイスに関する。
【背景技術】
【0002】
有機デバイスは、シリコン等の無機半導体デバイスの作製において、一般的に用いられる真空プロセスや、200℃以上の高温プロセスを用いることなく、インクジェット法やスクリーン法などの印刷技術やスピンコート法、キャスト法などの溶液プロセスを用いて素子作製が可能であることから、大面積基板対応や、プラスチック等からなるフレキシブル基板上での素子作製が可能であり、更にデバイス作製における製造コストや環境負荷の低減が可能であることから近年注目されている。
【0003】
その一方で、有機デバイスは、耐久性や寿命等の特性および、キャリア移動度や導電性等の電気特性の観点では、従来の無機半導体デバイスに劣っており、特性の改善が課題となっている。
【0004】
耐久性や寿命の特性が低い原因としては、従来の有機薄膜は無機半導体のように原子同士が共有結合で3次元的ネットワークを組んだ結晶構造ではなく、主に炭素や水素からなる分子の集合体から構成され、その分子間同士は弱いファンデルワールス力により相互作用を受けているためだと考えられる。つまり、このような有機薄膜に電界が印加された時や抵抗熱が生じた際、分子構造の変化や薄膜のモルフォロジー変化が起こり、種々の特性劣化が引き起こされるものと考えられる。
【0005】
そこで、有機デバイスに高い耐久性や長寿命化を導入するためには、薄膜内の有機分子同士および、基板表面と有機分子を共有結合で連結することが一つの解決手段である。
【0006】
一方で、キャリア移動度や導電性が低い原因としては、従来の一般的な作製方法(真空蒸着やスピンコート、キャスト)で形成された有機薄膜では一般に有機分子がランダムに配向しているため、本来、有機分子が持っている異方的な導電性やキャリアの輸送方向が分散され、キャリア移動度や導電性の特性を低下させていることが考えられる。
【0007】
そこで、有機デバイスに高い導電性やキャリア移動度を導入するためには、有機薄膜中の有機分子の配向性・秩序性を導入することが一つの解決手段である。
【0008】
特許文献1では、上記のような、開発指針に基づいて、基板表面から、有機分子を一層ずつ共有結合で結合させて、積層した層構造を構築することで、有機薄膜内に有機分子の配向性を導入した分子層積層膜を用いた有機デバイスを考案している。
【0009】
【特許文献1】特開2003−92411号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0010】
しかしながら、特許文献1のような分子層積層膜を用いた有機デバイスでは、配向性の導入によってキャリア移動度や導電性等の特性向上は期待できるものの、更なる、耐久性や寿命の改善を行うことは困難であった。
具体的には、特許文献1で有機分子同士の結合に用いられている共有結合は、積層体の有機分子にπ共役を伸展させるため、大気雰囲気下の水分により加水分解されるイミン結合を用いている。このように、有機分子同士の結合に加水分解や酸化、還元、光化学反応を起こし易いイミン結合のような共有結合を用いている場合、大気雰囲気下での使用や、デバイスとして駆動するため電界が印加された際に、有機分子層同士を結合している共有結合が切断され、分子層積層構造が崩壊する恐れがあった。
【0011】
本発明は上記課題を解決するために考案されたものであり、耐久性に優れた分子層積層膜による有機薄膜を作製し、この有機薄膜を用いて、素子寿命が改善された有機デバイスを提供することを目的とするものである。
【課題を解決するための手段】
【0012】
しかるに、本発明によれば、基板と、該基板上第一の有機分子層と、該第一の有機分子層に積層された第二の有機分子層とを備え、該第一の有機分子層と第二の有機分子層が、第一の結合部によって接続され、
前記第一の結合部の構成が、前記第一の有機分子層と前記第二の有機分子層との間を接続する第一の共有結合部と、前記第一の有機分子層および/または前記第二の有機分子層と、前記第一の共有結合部の構成原子との間を接続する第一の化学結合からなることを特徴とした有機デバイスが提供される。
【0013】
また、本発明によれば、基板上に第一の有機分子層を形成する第一の工程と、
前記第一の有機分子層と、第二の有機分子層との間に第一の共有結合部を形成する第二の工程と、
前記第一の有機分子層および/または前記第二の有機分子層と前記第一の共有結合部の構成原子との間に第一の化学結合を形成させて第一の結合部を形成する第三の工程と
を含むことを特徴とした有機デバイスの製造方法が提供される。
【発明の効果】
【0014】
本発明の有機デバイスおよび、その製造方法によれば、第一の有機分子層と第二の有機分子層とを少なくとも一つの共有結合部と、それ以外の化学結合とからなる結合部によって結び付けることによって、複数の有機分子層からなる有機薄膜の化学的、物理的強度や電界が印加された時の有機分子のマイグレーションに対する耐性が向上し、この有機薄膜を用いたデバイスの寿命が向上する。
【0015】
また、第二の有機分子層を複数層備えることで、膜厚の制御や、デバイス機能に応じて種々の機能を持った有機分子を有機薄膜内に導入することができるため、有機薄膜の自由な設計が可能になる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0016】
本発明において用いられている用語「結合部」は、前記第一の有機分子層と前記第二の有機分子層との間を接続する第一の共有結合部と、前記第一の有機分子層および/または前記第二の有機分子層と、前記第一の共有結合部の構成原子との間を接続する第一の化学結合とからなり、本発明の特徴をなす。
【0017】
また、本発明において用いられる用語「化学結合」とは、分子と分子との間に生じる相互作用の関係を意味し、具体的には共有結合、配位結合、金属結合、イオン結合、水素結合などの総称であり、複数の結合の種類が含まれていても良い。
また、本発明において用いられている用語「共有結合部」とは、共有結合、π共役結合、すなわち、エチレン結合またはイミン結合を含む結合を意味する。
【0018】
また、本発明は、本発明による有機デバイスにおいて、第一の有機分子層および第二の有機分子層の主鎖骨格がπ共役構造である場合には、第一の有機分子層と第二の有機分子層の間で、π電子の非局在化が起こるため、第一の共有結合部により接続された積層体の有機分子のバンドギャップを狭くすることが可能である。このことによって、有機薄膜中での分子鎖方向の導電性の向上や、分子鎖方向に対し垂直方向で隣接する分子へのキャリアホッピング確率が向上するため、キャリアの伝導に係る有機薄膜の性能が向上できる特徴を有する。
【0019】
また、本発明は、第一の共有結合部がエチレン結合を含み、第一の有機分子層および第二の有機分子層の主鎖骨格がπ共役構造であり、第一の化学結合がスルフィド結合(−S−)であることによって、上記の第一の化学結合による有機薄膜の強度向上の効果に加え、エチレン結合、スルフィド結合によりチオフェン構造をとるため、第一の有機分子層と第二の有機分子層の間の平面性が向上し、更なるバンドギャップの低エネルギー化を可能にできる特徴を有する。
【0020】
また、本発明は、第一の共有結合部がイミン結合を含み、第一の化学結合が水素結合である場合には、単独では水との平衡反応により加水分解を生じ易いイミン結合が安定化するため、有機薄膜の耐久性の向上と、デバイスの長寿命化を可能にできる特徴を有する。
【0021】
また、本発明は、本発明の有機デバイスの製造方法の、第二の有機分子層に接続した、更なる第二の有機分子層を第一の共有結合部および第一の化学結合により形成する工程を一回以上、繰り返す場合には、膜厚の制御や、デバイス機能に応じて種々の機能を持った有機分子を有機薄膜内に導入することできるため、有機薄膜の自由な設計が可能になる。
【0022】
また、本発明は、第二の工程が、ヒドロキシ基を有するアルデヒドと、アミンとの反応により第一の共有結合部としてイミン結合を形成する工程であり、第三の工程が、ヒドロキシ基とイミン結合の窒素原子との間に、第一の化学結合として水素結合を形成させる工程である場合には、簡便に、自発的に水素結合を形成し、単独では水との平衡反応により加水分解を生じ易いイミン結合が安定化するため、有機薄膜の耐久性の向上と、デバイスの長寿命化を可能にできる特徴を有する。
【0023】
また、本発明は、前記第二の工程が、アルキルチオ基からなる官能基を有するアルデヒドと、リンイリドまたはホスホン酸エステルとの反応により第一の共有結合部としてエチレン結合を形成する工程であり、第三の工程が、前記エチレン結合の炭素原子のうちいずれかと、第一の化学結合として、スルフィド結合(−S−)を形成する工程である場合には、上記の第一の化学結合による有機薄膜の強度向上の効果に加え、エチレン結合、スルフィド結合によりチオフェン構造をとるため、第一の有機分子層と第二の有機分子層の間の平面性が向上し、更なるバンドギャップの低エネルギー化を可能にできる特徴を有する。
【0024】
また、本発明は、第一から第三の工程のうち、少なくとも一つの工程が液相中で行うことで、真空や200℃以上の高温を用いないプロセスで素子作製が可能なため製造コスト、環境負荷の低減が可能にできる特徴を有する。
【0025】
図1は本発明の有機デバイスを構成する有機薄膜を模式的に描いたものである。
本発明の有機デバイスを構成する有機薄膜は、図1−1a)〜c)に示すように基板11と、基板上の第一の有機分子層12と、第一の共有結合部131と、第一の化学結合132より構成された第一の結合部13と、該結合部で接続された第二の有機分子層14とから構成される。
【0026】
さらに、第一の結合部13は、図1−1a)に示すように、上記の第一の有機分子層12と第二の有機分子層14との間を接続する第一の共有結合部131と、第一の有機分子層12と、形成された第一の共有結合部131の構成原子との間を接続する第一の化学結合132から構成される。
【0027】
また、別の構成として、第一の結合部13は、図1−1b)に示すように、第二の有機分子層14と、形成された第一の共有結合部131の構成原子との間を接続する第一の化学結合132からから構成される。
【0028】
また、別の構成として、図1−1c)に示すように、第一の結合部13は、形成された第一の共有結合部131の構成原子と、第一の有機分子層12および第二の有機分子層14とをそれぞれ結ぶ第一の化学結合132から構成される。
【0029】
このように第一の結合部13が、第一の共有結合部131に加えて、第一の化学結合132を設けた複数の化学結合から構成されることにより、有機薄膜の化学的、物理的強度や電界が印加された時の有機分子のマイグレーションに対する耐性が向上し、この有機薄膜を用いたデバイスの寿命が向上する。
【0030】
第一の共有結合部
第一の共有結合部131は第一の有機分子層12と第二の有機分子層14との間に形成される共有結合を含む結合を意味し、この共有結合の例としては、イミン結合、エチレン結合、アミド結合、アセチレン結合、エステル結合、ウレタン結合、ウレア結合が挙げられる。なかでも、これらの共有結合を形成する原子と、第一の有機分子層および/または第二の有機分子層との間に、第一の化学結合を形成させ易さの観点から、エチレン結合、イミン結合またはアミド結合であることが好ましい。
【0031】
また、第一の共有結合部131はデバイスの機能に応じて選択されることも望ましく、例えば、有機トランジスタのゲート絶縁層や、各有機デバイスにおける封止層として用いる場合は、絶縁性が高く、光や酸素、水に対する耐候性の高い共有結合を選択することが望ましく、具体的には、アミド結合、エステル結合、ウレタン結合およびウレア結合などが挙げられる。
【0032】
一方、接続される有機分子層がπ共役構造を有し、有機トランジスタの半導体層、有機ELのホール輸送層、電子輸送層、発光層、有機太陽電池のp層、n層のような、キャリアの輸送機能層として用いられる場合には、主鎖にπ電子をもつ共有結合を有するものが好ましく、具体的には、イミン結合、エチレン結合、アセチレン結合が挙げられる。
【0033】
第一の化学結合
第一の化学結合132は、図1−1d)に示すように、共有結合または水素結合であることが好ましい。
【0034】
第一の化学結合として共有結合を選択した場合には、同種また異種の二つ以上の共有結合により、第一の有機分子層または第二の有機分子層と、第一の共有結合部を結合させることができるため、積層体の有機分子構造が安定化し、更なる有機薄膜の耐久性向上と、デバイスの長寿命化が図れるという効果を生じる。
【0035】
また、第一の化学結合として水素結合を選択した場合には、簡便にかつ、自発的に第一の化学結合を形成できるという利点がある。
【0036】
上記の第一の化学結合の具体例として、第一の共有結合部がエチレン結合を含む場合には、エーテル結合(−O−)、スルフィド結合(−S−)、セレニド結合(−Se−)、イミノ結合(−NH−、−NR−)、カルボニル結合(−CO−)、メチレン結合(−CH2−、−CHR−、−CR2−)などが挙げられる(ここで、Rは水素原子またはメチル、エチル基を意味する)。この中でも、スルフィド結合、セレニド結合、イミノ結合はヘテロ原子による有機薄膜の最高被占軌道(HOMO)レベルや最低空軌道(LUMO)レベルの調整を可能にする効果や、隣接するヘテロ原子同士の相互作用により、分子の平面性や配向性を向上させる効果を与えるため好ましい。また、補強の効果やヘテロ原子の効果をさらに発揮させるため、二つのエチレン炭素のうち、未結合の炭素と、別の更なる第一の化学結合を形成した構造も好ましい。
【0037】
さらに、図1−2e)に示すように第一の共有結合部を形成する官能基Xおよび官能基Yと、第一の化学結合を形成する官能基Zが芳香環に存在し、第一の化学結合が第一の共有結合部に対し、オルト位に位置している場合、芳香環と第一の共有結合部(エチレン結合)と各ヘテロ原子との間に、5員環の複素環構造(硫黄の場合はチオフェン、セレンの場合はセレノフェン、窒素の場合はピロール)を形成し、構造安定化や、π電子系を広げる効果を生じるため、有機トランジスタの半導体層や有機ELのキャリア輸送層、有機太陽電池のp層、n層など、高い導電性や高いキャリア移動度が必要な機能層に好適である。
【0038】
また、図1−2f)に示すように第一の共有結合部を形成する官能基Xおよび官能基Yと、第一の化学結合を形成する官能基Zが芳香環に付与され、第一の化学結合が、第一の共有結合部に対してオルト位に位置している場合、芳香環と第一の共有結合部(アミド結合)と第一の化学結合(アミド結合)との間に、構造的に安定な5員環のイミド結合を形成することができるため、更なる有機薄膜の耐久性向上と、デバイスの長寿命化が可能になる。
【0039】
次に、第一の共有結合部がイミン結合を含む場合には、第一の共有結合部におけるイミン結合の窒素原子と第一または第二の有機分子層の水素供与性官能基との間に水素結合が形成されることが好ましい。具体的な水素供与性の官能基としては、ヒドロキシ基、アミノ基、チオール基が挙げられる。尚、上記のヒドロキシ基とはアルコール、カルボン酸、オキシムなどに含まれた−OH基を含む。
【0040】
このように、イミン結合の窒素原子と第一の化学結合を形成することで、単独では水との平衡反応により加水分解を生じ易かったイミン結合が安定化し、有機薄膜の耐久性の向上と、デバイスの長寿命化が可能になる。また、アミンとアルデヒドからイミン結合を形成する際の平衡反応において、イミン結合の安定化により、高収率で積層反応が進行するという効果も生じる。
【0041】
さらに、図1−2g)に示すように第一の共有結合部(イミン結合)および第一の化学結合(水素結合)を形成する官能基が芳香環に存在し、第一の化学結合が第一の共有結合部に対してオルト位に位置する場合、上記の官能基が存在する芳香環、イミン結合および第一の化学結合とで、構造的に安定な6員環構造を形成するため、更なる有機薄膜の耐久性向上と、デバイスの長寿命化が可能になる。また、通常のイミン結合はイミン結合を介した二つの芳香環が有する平面で、捩れを生じるが(ベンジリデンアニリンの場合、芳香環と芳香環の二面角は約52°(J.Mol.Struct.1978,48,395 M.Treattebergら))、イミン結合が水素結合で架橋されることにより、二面角が減少し、イミン結合を介した二つの芳香環同士の平面性が向上するため、積層体の有機分子のπ電子の非局在化が大きくなる。よって、有機トランジスタの半導体層など高い導電性や高いキャリア移動度が必要な機能層に好適である。
【0042】
次に、図2に示すように、第二の有機分子層14と更なる第二の有機分子層14−2を備えた構造について説明する。
第二の有機分子層14の基板に対し反対側の未反応の官能基と、更なる第二の有機分子層14−2の官能基との間に第一の結合部13−2を形成することで、第二の有機分子層14−2を形成することができる。このように、第一の結合部13−2により、接続された第二の有機分子層14−2を1層以上備えた構造にすることで、有機薄膜の膜厚の制御や、デバイス機能に応じて種々の機能を持った有機分子を有機薄膜内に導入することできるため、有機薄膜の自由な設計が可能になる。
【0043】
次に、本発明の有機デバイスを構成する有機薄膜の製造方法について図3を用いて説明する。
まず、図3a)−1に示すように基板31を準備する。基板31に用いることのできる材料としては、シリコン基板、石英基板、ガラス基板や、ポリカーボネート、ポリエーテルエーテルケトン、ポリイミド、ポリエステル、ポリエーテルスルホン等の材料からなる樹脂基板が挙げられる。
【0044】
一方で、図3a)−2に示すように、上記の基板は必ずしも基板と同一材料である必要はなく、デバイス構成や、基板表面と接続する第一の有機分子層の官能基との組み合わせに応じて任意に選択することができる。
例えば、基板表面材料311は有機トランジスタ、有機EL、有機太陽電池の場合には、電極として機能させるため、導電性の高い材料が好ましく、例えば、金(Au)、銀(Ag)、銅(Cu)、白金(Pt)、パラジウム(Pd)、鉄(Fe)、アルミニウム(Al),タンタル(Ta)、インジウム・錫酸化物(ITO)、インジウム・亜鉛酸化物(IZO)、酸化亜鉛(ZnO)および酸化錫(SnO2)等が好ましい。
【0045】
また、基板が有機トランジスタのゲート電極およびゲート絶縁層を担う場合には基板31を電極として機能させ、基板表面材料311を絶縁層として機能させることが好ましい。
絶縁性材料としては、例えば、酸化ケイ素(SiO2)、酸化アルミニウム(Al23)、酸化タンタル(Ta25)、酸化ジルコニウム(ZrO2)、酸化チタン(TiO2)および窒化シリコン(Si34)等が挙げられる。
【0046】
また上記材料の基板への堆積方法としては、当業者に周知のスパッタリング、真空蒸着法、イオンプレーティング法、化学気相堆積法(CVD法)の他、例えば前述の手法で堆積した材料表面を酸素プラズマ処理やUV−オゾン酸化処理、陽極酸化処理といった手法を用いて酸化物とする等の方法を用いることができる。
【0047】
次に、図3b)に示すように、基板31および/または基板表面材料311上に第一の有機分子層32を形成する。第一の有機分子層の形成方法としては、ラングミュア・ブロジェット法(LB法)や、液相中または気相中で化学的に基板表面に吸着させる方法(化学吸着法)があるが、有機トランジスタの耐久性や寿命の観点から、基板表面と有機薄膜を強固に接続することのできる化学吸着法が好ましい。
【0048】
また化学吸着法により第一の有機分子層を形成する場合の基板表面の官能基と第一の有機分子層の官能基の組合せとしては、例えば、基板表面が金、銀、白金のような金属原子自身の場合、有機分子層を形成する材料はチオール基、ジスルフィド基を備えていることが好ましい。上記組合せによれば、導電性の金属材料と有機分子層が直接化学結合を形成するため、有機ELや有機太陽電池のように、有機薄膜内にキャリア注入を行う場合は接触抵抗を低下することができる。
【0049】
また、基板表面に、例えば、Si−OH(シリコン、ガラス、石英、酸化ケイ素由来)、Al−OH(アルミニウム、酸化アルミニウム由来)、Ta−OH(酸化タンタル由来)、In−OH(ITO、IZO由来)、Zn−OH(酸化亜鉛由来)、Sn−OH(酸化錫由来)、Zr−OH(酸化ジルコニウム由来)、Ti−OH(酸化チタン由来)C−OH(樹脂材料由来)のようにヒドロキシ基を導入できる材料の場合は、第一の有機分子層の官能基はシリルヒドロキシ基(Si−OH)、カルボキシ基(−COOH)、ホスホン酸基(−PO32)、シリルアルコキシ基(Si−OR)、シリルクロライド基(Si−Cl)、カルボン酸クロライド基(−COCl)などを備えていることが好ましい。上記の組み合わせによれば、基板表面と有機分子層が共有結合で接続されるため、基板材料と有機薄膜が強固に接続し、熱安定性が高く、耐久性の高い有機デバイスを構築することができる。
【0050】
また、第一の有機分子層32の主鎖骨格に用いることの出来る構造としては、有機トランジスタの半導体層、有機ELのキャリア輸送層、有機太陽電池のp層、n層のように、高いキャリア移動度や高い導電性が必要な場合には、主鎖骨格の中にπ電子を多く備えているものが好ましい。
例えば、ベンゼンのような単環性芳香族化合物や、ビフェニル、p−ターフェニルなどのベンゼンが互いにパラ位で結合した骨格や、ナフタレン、アントラセン、ナフタセン、ペンタセンのような縮合多環式芳香族骨格や、スチルベン、ジスチリルベンゼンのようなベンゼンが互いにパラ位でエチレン結合を介して連結した骨格が挙げられる。
【0051】
その他にも、π共役構造の複素環式化合物も好ましく、具体的には5員環構造ではチオフェン、ピロール、フラン、イミダゾール、セレノフェン、オキソジアゾールなどが挙げられ、6員環構造ではピリジン、ピリミジン、ピラジンが挙げられる。また、これらの2,5‐位またはパラ位で連結した骨格、(例えば、ビチオフェン、ターチオフェン、ビピリジンなど)や縮合多環式骨格を用いても良い。これらの中でも、第一の有機分子層を形成するプロセスを考慮すると、材料の溶解性が高く、昇華温度や沸点の低い低分子量体が好ましく、芳香環、または複素環が1〜3個連結されたものが好ましい。具体的には、ベンゼン骨格、スチルベン骨格が好ましい。
【0052】
また、同様に、有機ELの発光層に用いる場合は、電界が印加された時に発光を示す材料の基本骨格を有していることが好ましく、例えば、アルミニウムキノリン錯体(Alq3)、イリジウム錯体、アントラセン、スチルベン、ジスチリルベンゼンなどの骨格が挙げられる。
【0053】
さらに、有機トランジスタの絶縁層や各デバイスの封止層のように、高い絶縁性や高い耐候性が必要な場合は、主鎖骨格の中にσ電子を多く備えているものが好ましく、例えば、直鎖状または分枝鎖状のC1〜C20アルカン骨格を備えていることが好ましい。その中でも、自己組織的に基板上に配列させることを考慮すると、直鎖状アルキル化合物が好ましい。また、主鎖骨格がアルカン骨格で、両末端に芳香環が付与された構造や、両末端がエチレンになっているものも好ましく、このような構造であれば、末端が剛直な構造のため、第一の共有結合部を形成する官能基と第一の化学結合を形成する官能基を立体障害なく配置することができるため好ましい。
【0054】
また、第一の有機分子層32の原料となる有機分子中の官能基の位置は、第一の有機分子層32が略垂直方向に配列させることを考慮すると、基板31と接続する官能基と第一の共有結合部を形成する官能基331'は互いに離れていることが好ましく、具体的には6員環構造であればパラ位、5員環構造であれば2,5−位、直鎖アルキル骨格であればα,ω−位であることが好ましい。
なお、本発明で用いられる用語「略垂直」とは、基板表面に対して45°〜135°の範囲、好ましくは、60°〜120°の範囲の方向を意味する。
【0055】
また、第一の化学結合を形成する官能基332'の位置は、隣接する有機分子との立体障害を避ける観点からも、第一の共有結合部を形成する官能基に隣接する位置に位置していることが好ましい。具体的には、6員環構造であれば第一の共有結合部を形成した官能基に対してオルト位が好ましく、5員環構造であれば、例えば2−位および5−位に第一の共有結合部を形成した官能基が位置している場合には、第一の化学結合を形成する官能基は3−位および4−位に位置することが好ましく、直鎖アルキル骨格であれば第一の共有結合部を形成する官能基と同様のα,ω−位であることが好ましい。
【0056】
次に、図3c)に示すように第一の有機分子層の官能基331'と第二の有機分子層の官能基との間に第一の共有結合部331を形成する。
【0057】
第一の共有結合部331を形成するための官能基の組合せとしては、第一の共有結合部が有する結合が、イミン結合であればアミノ基とホルミル基、エチレン結合であればホルミル基とリンイリドまたはホスホン酸エステル、アミド結合であればアミノ基とカルボン酸、無水カルボン酸またはカルボン酸クロライド、アセチレン結合であればアリールハライドと末端アセチレン、エステル結合であればヒドロキシ基とカルボン酸、無水カルボン酸またはカルボン酸クロライド、ウレタン結合であればヒドロキシ基とイソシアナート、ウレア結合であればアミノ基とイソシアナートであることが望ましい。
【0058】
次に、図3d)に示すように、第一の化学結合332を形成する。
第一の化学結合がスルフィド結合、セレニド結合、イミノ結合であり、第一の共有結合部がエチレン結合を含む場合には、第一の有機分子層の官能基332'は、それぞれ、アルキルチオ基(−SR)、アルキルセレノ基(−SeR)(ここで、Rはメチル基、エチル基またはtert−ブチル基を意味する)またはアジド基(−N3)であることが好ましい。
また、第一の化学結合がアミド結合であり、第一の共有結合部がアミド結合を含む場合には、第一の有機分子層の官能基332'はカルボキシ基やカルボン酸無水物基、カルボン酸クロライド基などであることが好ましい。
【0059】
また、第一の化学結合が水素結合であり、第一の共有結合部がイミン結合を含む場合には、第一の有機分子層の官能基332'は上述した水素供与性の官能基であることが好ましい。
【0060】
また、図3d)では第一の有機分子層に第一の化学結合を形成する官能基332'が付与された構造を開示しているが、第二の有機分子層が第一の化学結合を形成する官能基を備えていても構わない。
【0061】
また、第二の有機分子層34の主鎖骨格は第一の有機分子層で用いることのできる骨格と同様の骨格を用いることができ、デバイスの機能層の用途に応じて、所望の骨格を選択することができる。
【0062】
また、第二の有機分子層34の原料となる有機分子中の官能基の位置は、第一の有機分子層と単層の第二の有機分子層からなる合計2層構造の場合には、第一の共有結合部を形成する官能基は任意であるが、第一の化学結合を形成する官能基は、第一の共有結合部とほぼ平行に第一の化学結合を形成することが好ましため、第一の共有結合部を形成する官能基に隣接する位置に付与されていることが好ましい。
また、第二の有機分子層の基板と反対側(大気側)の末端は、光や酸素、水などの外界の影響を受け易いため、例えばメチル基、フェニル基などの不活性な末端基であることが好ましい。
【0063】
一方で、複数層の第二の有機分子層から構成される多層膜構造の場合には、第一の有機分子層と同様に、第一の共有結合部を形成する二つの官能基は互いに離れていることが好ましい。
【0064】
また、複数層の第二の有機分子層から構成される場合も、第二の有機分子層の最末端部は不活性な末端基にしておくことが好ましい。
【0065】
次に、図3e)に示すように、第二の有機分子層を繰り返し積層し、複数層からなる第二の有機分子層34nを形成する。
【0066】
まず、第二の有機分子層34の未反応官能基341'と、更なる第二の有機分子層34−2の官能基との間に第一の共有結合部341を形成する。さらに、第二の有機分子層34の未反応官能基342'と、前記の第一の共有結合部の構成原子との間に第一の化学結合342を形成する。第一の共有結合部341と第一の化学結合342を形成する手法は、第一の有機分子層上に第二の有機分子層を形成した手法と同様に種々の化学反応を用いることができる。
【0067】
また、複数層の第二の有機分子層34nを絶縁層として用いる場合には、絶縁性を確保する観点から複数層の第二の有機分子層34nを、2nm以上積層することが好ましく、半導体層や、キャリア輸送層、発光層、p層、n層の場合には、導電パスを確保する観点から5nm〜100nm程度であることが好ましい。上記のように、第二の有機分子層を複数層備えることで、膜厚の制御や、デバイス機能に応じて種々の機能を持った有機分子を有機薄膜内に導入することできるため、有機薄膜の自由な設計が可能になる。
【0068】
また、上記のような、有機分子層を形成する工程図3b)から図3e)のうち、いずれかの工程を液相中で行うことで、真空や200℃以上の高温を用いずに素子を作製することができるため製造コスト、環境負荷の低減が可能になるため好ましい。
【0069】
次に上記の手法で作製した有機薄膜(分子層積層膜)を各種有機デバイスとして用いる場合について説明する。
【0070】
まず、図4a)は、有機トランジスタを模式的に描いた図である。有機トランジスタを構成する場合には、基板41a)と、ゲート電極411a)と、絶縁層42a)と、半導体層43a)と、ソース、ドレイン電極44a)から構成されることが好ましく、本発明の分子層積層膜はこれらのうち、少なくとも絶縁層または半導体層に含まれていることが好ましい。本発明の分子層積層膜を含むことで、耐久性が高く、長寿命な有機トランジスタを構成することができる。
【0071】
また、図4b)は、有機ELを模式的に描いた図である。有機ELを構成する場合には、基板41b)と、第一電極411b)と、ホール輸送層42b)と、発光層43b)と、電子輸送層44b)と、第二電極45b)とから構成されることが好ましく、本発明の分子層積層膜はこれらのうち、ホール輸送層、発光層、電子輸送層の何れかに含まれていることが好ましい。本発明の分子層積層膜を含むことで、耐久性が高く、長寿命な有機EL素子を構成することができる。
【0072】
また、図4c)は有機太陽電池を模式的に描いた図である。有機太陽電池を構成する場合には、基板41c)と、第一電極411c)と、p型半導体層42c)と、p型とn型半導体が混在したバルクへテロ層43c)と、n層半導体層44c)と、第二電極45c)とから構成されることが好ましく、本発明の分子層積層膜はこれらのうち、n型半導体層、p型半導体層、バルクへテロ層の何れかに含まれていることが好ましい。本発明の分子層積層膜を含むことで、耐久性が高く、長寿命な有機太陽電池を構成することができる。
【実施例】
【0073】
以下の実施例および比較例は本発明を説明するものであり、本発明は、以下の実施例および比較例に限定されるものではない。
以下に実施例および比較例で使用した処理装置、測定装置および試薬のメーカーを記す。
【0074】
装置:
UVオゾン処理装置:SAMCO社製(UV−1)
分光エリプソメーター:J.A.Woollam社製(M−2000U)
紫外可視分光光度計:島津製作所社製(UV−3600)
FT−IR:Bruker社製(IFS66V)
半導体パラメーター:アジレント社製(B1500A)
【0075】
試薬:
・p−アミノフェニルトリメトキシシラン:Gelest
・無水テトラヒドロフラン:関東化学(水分量0.005%以下)
・2,5−ジヒドロキシテレフタルアルデヒド:Chemistry of material 1991,3,878に従い合成した。
・二塩酸ジアミノスチルベン:アルドリッチ(95%)
【0076】
ジアミノスチルベンの精製
二塩酸ジアミノスチルベンを水に溶解し、少量の水酸化ナトリウム水溶液を加えることで中和した。さらにジクロロメタンを加え、有機相を抽出した。有機相を乾燥後、ジクロロメタン/ヘキサン系で再結晶することにより精製を行った。
【0077】
・サリチルアルデヒド:東京化成工業
・アセトン:シグマアルドリッチジャパン
・無水エタノール:関東化学(水分量0.005%以下)
【0078】
・p−トリエトキシシリルベンジルホスホン酸ジメチレート:特開2007−210975に従い合成した。
【0079】
・2,5−ビス(t-ブチルチオ)−1,4−ベンゼンジカルボアルデヒド:Liebigs Annalen 1996,2,281に従い合成した。
【0080】
・テトラエチル p−キシレンジホスホネート:東京化成工業
・o-メチルチオベンズアルデヒド:アルドリッチ
・無水クロロホルム:関東化学(水分量0.005%以下)
・無水トルエン:関東化学(水分量0.002%)
・無水テトラヒドロフラン:関東化学(水分量0.005%以下)
【0081】
物性値の算出方法:
膜厚:分光エリプソメーターにより250〜1000nmの波長範囲で、入射角70°で測定した。有機膜の屈折率は1.5として膜厚を求めた。
【0082】
移動度:半導体パラメーターによりVg-Id特性を得た後、Vg-(Id)1/2プロットに変形し、その直線部分の傾きから算出した。尚、FETにおける飽和領域では、以下の式に従う。
【数1】

(ここでId:ドレイン電流、W:チャネル幅、L:チャネル長、μ:移動度、Ci:ゲート絶縁層の容量、Vg:ゲート電圧、Vth:閾値電圧)
【0083】
ON/OFF比:
半導体パラメーターによりVg-Id特性を得た後、(最大Id値)/(最小Id値)から算出した。
【0084】
最大発光強度:
印加電圧に対する発光特性を評価し、最大の値を最大発光強度とした。
【0085】
光電変換効率:
AM1.5の光を照射し、電圧−電流特性から変換効率を算出した。
【0086】
実施例1
図5−1a)〜図5−3h)は本発明の有機トランジスタの作製方法を模式的に示したものである。
まず、図5−1a)に示すようにガラス基板上51(基板サイズ25mm×25mm)にゲート電極511としてアルミニウム60nmを真空蒸着により成膜した。次に、ゲート絶縁層512として酸化ケイ素100nmをスパッタリングにより成膜した。その基板をアセトンに浸漬し超音波洗浄した後、UVオゾン処理を行うことで、表面に水酸基を持った基板を準備した。
【0087】
次に、図5−1b)に示すように半導体層の1層目として、第一の有機分子層52を形成した。
【0088】
具体的には、p−アミノフェニルトリメトキシシランとゲート絶縁層を形成した基板を窒素雰囲気下でテフロン(登録商標)容器に封入し、100℃、180分間、オーブンにて加熱することで、p−アミノフェニルトリメトキシシランの単分子膜を得た。この単分子膜の膜厚をエリプソメーターにより測定したところ0.8nmであり、p−アミノフェニルトリメトキシシランの分子長と同程度であり、目的の単分子膜であることを確認した。
【0089】
次に、図5−1c)に示すように半導体層の2層目として、第二の有機分子層54−1を第一の共有結合部531が含むイミン結合と第一の化学結合532である水素結合で形成し、第一の結合部53−1を形成した。
【0090】
具体的には、2,5−ジヒドロキシテレフタルアルデヒドの1mmol/L無水エタノール溶液(50mL)を調製し、第一の有機分子層52が形成された基板を浸漬し、窒素雰囲気下で室温、48時間攪拌することで、第二の有機分子層とイミン結合を形成した。また、第二の有機分子層54−1のヒドロキシ基とイミン結合の窒素原子との間には自発的に水素結合が形成していることをFT−IRのO−H伸縮振動の吸収ピークの低波数シフトから確認した。
【0091】
次に、図5−1d)に示すように半導体層の3層目として、第二の有機分子層54−2を第一の共有結合部531が含むイミン結合と第一の化学結合532である水素結合で形成し、第一の結合部53−2を形成した。
【0092】
具体的には4,4'−ジアミノスチルベンの1mmol/L無水エタノール溶液(50mL)を調製し、第二の有機分子層54−1が形成された基板を浸漬し、窒素雰囲気下で室温、48時間攪拌することで、第二の有機分子層とイミン結合を形成した。また、第二の有機分子層54−1のヒドロキシ基とイミン結合の窒素原子との間には自発的に水素結合が形成していることをFT−IRのO−H伸縮振動の吸収ピークの低波数シフトから確認した。
【0093】
次に、図5−1e)に示すように、半導体層として、さらに7層の第二の有機分子層を積層し、複数層の第二の有機分子層54−9を形成した。
【0094】
具体的には、2,5−ジヒドロキシテレフタルアルデヒドの1mmol/L無水エタノール溶液(50mL)に室温で48時間浸漬し、さらに、4,4'−ジアミノスチルベンの1mmol/L無水エタノール溶液(50mL)に室温で48時間浸漬する工程を3回行い、第二の有機分子層54−2上に第二の有機分子層を6層積層した。そして半導体層の末端としてサリチルアルデヒドを、サリチルアルデヒドの2mmol/L無水エタノール溶液(50mL)に室温、48時間浸漬することで積層し、第一の有機分子層1層と第二の有機分子層9層を有する有機半導体層を形成した。
【0095】
この有機薄膜の膜厚を分光エリプソメーターで測定したところ8.5nmであり、形成された有機分子の分子鎖長と同程度であった。また、この有機薄膜の紫外可視分光光度計による吸収スペクトルの測定を行ったところ、同骨格のポリイミンの溶液中の吸収スペクトルと同様に400nm〜500nmの吸収を示し、吸収端は600nmであった。これらの測定より得られた有機薄膜が目的の分子層積層膜であることを確認した。
【0096】
尚、この有機薄膜を大気雰囲気下での2ヶ月放置しておいたところ、膜厚の損失や吸収の変化は見られなかった。しかし、以下の比較例1として作製した、図5−3g)に示すような第一の化学結合である水素結合を持たない同骨格の有機薄膜では、2ヶ月放置後、膜厚の損失と吸収の低下が確認され、大気雰囲気下の水によりイミン結合が加水分解されていることが示唆された。このようなことからも、第一の化学結合を導入することで、有機薄膜の耐久性の向上を確認することができた。
【0097】
最後に、図5−2f)に示すように、ソース、ドレイン電極55、56を積層した。具体的には金を蒸着速度0.2nm/sで60nm真空蒸着した。
【0098】
上記のような手法でトップコンタクト型トランジスタを作製した。
【0099】
このデバイスのトランジスタ特性は、移動度:1.2×10-3、ON/OFF:104を示した。さらに、このデバイスを1週間の連続駆動を行い、経時変化を追跡したが、これらの値に変化は見られなかった。
【0100】
比較例1
比較例として、図5−3g)に示すように、第一の化学結合である水素結合を持たない分子層積層膜を作製し、図5−3h)に示すように、ソース、ドレイン電極を実施例1と同様の手法により形成した有機トランジスタを作製した。このデバイスのトランジスタ特性は、測定開始時では、移動度:0.95×10-3、ON/OFF:104を示したが、1日の連続駆動を行った後の特性は移動度:0.84×10-3、ON/OFF:103と移動度は約10%の低下と、ON/OFF比は1桁の低下が確認された。
【0101】
つまり、第一の化学結合を導入することで有機デバイスの長寿命化が可能であることを確認することができた。
【0102】
実施例2
図6−1a)〜図6−2i)は本発明の有機ELの作製方法を模式的に示したものである。
【0103】
まず、図6−1a)に示すようにガラス基板61(基板サイズ25mm×25mm)上に透明電極としてITO60nmをスパッタにより成膜し、アセトンに浸漬し超音波洗浄した後、UVオゾン処理を行うことで、表面に水酸基を持った基板を準備した。
【0104】
次に、図6−1b)に示すようにホール輸送層の第1層目として、第一の有機分子層62を形成した。具体的には、p−トリエトキシシリルベンジルホスホン酸ジメチレートの5mmol/L無水トルエン溶液(50mL)を調製し、その溶液にITOが成膜された基板61を浸漬し、窒素雰囲気下で室温、24時間攪拌することで、p−トリエトキシシリルシリルベンジルホスホン酸ジメチレートの単分子膜を得た。この単分子膜の膜厚をエリプソメーターにより測定したところ1.0nmであり、p−トリエトキシシリルベンジルホスホン酸メチレートの分子長と同程度であり、目的の単分子膜であることを確認した。
【0105】
次に、図6−1c)に示すようにホール輸送層の第2層目として、第二の有機分子層64を第一の共有結合部631としてエチレン結合を形成した。具体的には、2,5−ビス(t−ブチルチオ)−1,4−ベンゼンジカルボアルデヒド(TPA(SBu))の1mmol/L無水テトラヒドロフラン溶液(50mL)を調製し、その溶液に第一の有機分子層63が形成された基板を浸漬し、窒素雰囲気下で室温、24時間攪拌することで、第二の有機分子層とエチレン結合を形成した。
【0106】
次に、図6−1d)に示すように第一の化学結合632としてスルフィド結合を形成し、第一の結合部63−1を形成した。
【0107】
具体的には、ヨウ素の1mmol/L無水クロロホルム(50mL)に第一の共有結合部631を形成した基板を浸漬し、溶液を窒素雰囲気下で70℃に加熱して、24時間還流することで、第一の共有結合部が含むエチレン結合631を構成する炭素原子と第二の有機分子層の官能基632'であるアルキルチオ基との間に更なる第一の化学結合632であるスルフィド結合を形成した。
【0108】
この二層積層膜の膜厚をエリプソメーターにより測定したところ2.0nmであり、TPA(SBu)の分子長に相当する膜厚分である1.0nmの増加を確認した。
【0109】
次に、図6−1e)に示すようにホール輸送層の第3層目として、第二の有機分子層64−2を第一の共有結合部631が含むエチレン結合を構成する炭素原子と第一の化学結合632であるスルフィド結合を形成し、第一の結合部63−2を形成した。
【0110】
具体的にはテトラエチル p−キシレンジホスホネート(Xy(PO))の1mmol/L無水テトラヒドロフラン溶液(50mL)を調製し、第二の有機分子層64−2が形成された基板を浸漬し、窒素雰囲気下で室温、24時間攪拌することで、第二の有機分子層64−2とエチレン結合631を形成した。さらに、上記の第一の化学結合632を形成する手法と同様の手法で、第二の有機分子層64−2のアルキルチオ基とエチレン結合を構成する炭素原子との間に、スルフィド結合632を形成し、第一の結合部63−2を形成した。
【0111】
この三層積層膜の膜厚をエリプソメーターにより測定したところ3.0nmであり、Xy(PO)の分子長に相当する膜厚分である1.0nmの増加を確認した。
【0112】
次に、図6−1f)に示すようにホール輸送層として、さらに7層の第二の有機分子層を積層し、複数層の第二の有機分子層64−9を形成した。
【0113】
具体的には、TPA(SBu)とXy(PO)をそれぞれ上記第一の結合部63−1および63−2を形成する手法と同様の手法により積層し、この工程を合計3回繰り返すことにより、第二の有機分子層64−2の上に第二の有機分子層をさらに6層積層した。そして、半導体層の末端としてo-メチルチオベンズアルデヒド(BzA(SMe))を積層するために、BzA(SMe)の1mmol/L無水テトラヒドロフラン溶液(50mL)を調製し、第二の有機分子層が8層積層された基板を浸漬し、窒素雰囲気下で室温、24時間浸漬することでエチレン結合を含む第一の共有結合部を形成し、さらに、ヨウ素の1mmol/L無水クロロホルム(50mL)に第一の共有結合部を形成した基板を浸漬し、溶液を窒素雰囲気下で70℃に加熱し、24時間還流することで、第一の化学結合であるスルフィド結合を形成した。
【0114】
この第一の有機分子層と9層積層された第二の有機分子層からなるホール輸送層の膜厚を分光エリプソメーターで測定したところ10.5nmであり、計算から見積もった積層体の有機分子の分子鎖長と同程度であった。また、この有機薄膜のUV−vis分光光度計による吸収スペクトルの測定を行ったところ、同骨格のスルフィド結合で架橋されたポリフェニレンビニレンの溶液で測定した吸収スペクトルと同様に500nm〜600nmの吸収を示し、吸収端は650nmであった。これらの測定より、得られた有機薄膜が目的の分子層積層膜であることを確認した。
【0115】
尚、この有機薄膜を大気雰囲気下で2ヶ月放置しておいたところ、膜厚の損失や吸収の変化は見られなかった。しかし、以下の比較例2として作製した、図6−2h)に示すような第一の化学結合(スルフィド結合)を持たない同骨格(無置換のポリフェニレンビニレン構造)の有機薄膜では、2ヶ月放置後、吸収の減少が確認され、大気雰囲気下の酸素によりエチレン結合が酸化されていることが示唆された。このようなことからも、第一の化学結合を導入することで、有機薄膜の耐久性の向上を確認することができた。
【0116】
また、無置換のポリフェニレンビニレンの有機薄膜の吸収端は600nmを示したことから、スルフィド結合で架橋されたポリフェニレンビニレン構造になることによって、バンドギャップの低エネルギー化が確認され、エチレン結合を挟んだ芳香環同士の平面性の向上が示された。
【0117】
最後に、図6−2g)に示すように、発光層65と、対向電極66を形成した。
【0118】
具体的には、発光層としてアルミ-キノリン錯体Alq3を真空蒸着法により0.1nm/sの蒸着速度で、30nm蒸着した。次に、対向電極として、フッ化リチウム(1nm)とアルミニウム(50nm)を真空蒸着法にて、それぞれ0.5nm/sと1.0nm/sの蒸着速度で、形成し有機EL素子を作製した。
【0119】
上記有機ELの最大発光強度は4100Cd/m2を示した。さらに、このデバイスを1週間の連続駆動を行い経時変化を追跡したが、値に変化は見られなかった。
【0120】
比較例2
比較例として、図6−2h)に示すように、第一の化学結合を持たない分子層積層膜を作製し、図6−2i)に示すように、実施例2と同様の手法により発光層65と、対向電極66を形成した有機EL素子を作製した。上記有機ELの最大発光強度は測定開始時では、3900Cd/m2を示したが、1日の連続駆動を行った後の最大発光強度は2000Cd/m2と51%減少した。このようなことからも第一の化学結合を導入することで有機デバイスの長寿命化が可能であることを確認することができた。
【0121】
実施例3
図7−1a)は本発明の有機太陽電池の作製方法を模式的に示したものである。
まず、図7−1a)に示すように、実施例2と同様の材料および手法を用いて、基板71(基板サイズ25mm×25mm)上に、透明電極材料711と、第一の有機分子層72と複数層の第二の有機分子層74−9からなるp型半導体層を形成した。
【0122】
次に、図7−1b)に示すように、バルクへテロ層75として、ポリ(3−ヘキシルチオフェン)(P3HT)と、〔6,6〕−フェニルC61 ブチル酸メチレート(PCBM)の混合層をそれぞれのクロロベンゼン溶液からスピンコート法により50nm製膜した。さらに、n型半導体層76として、フラーレンC60を真空蒸着法にて、蒸着速度0.1nm/sで10nm形成した。最後に、対向電極77としてアルミニウムを真空蒸着法にて1.0nm/sの蒸着速度で、50nm形成し、有機太陽電池を作製した。
【0123】
上記有機太陽電池にAM1.5の光を照射したところ、変換効率2.5%を示した。さらに、1週間、光を照射し、変換効率の変化を追跡したが、変化は見られなかった。
【0124】
しかし、比較例として作製した、図7−2c)に示すような第一の化学結合を持たない分子層積層膜を有機太陽電池のp型半導体層として用いた場合には、測定開始時には、変換効率2.2%を示したが、3日後には、変換効率が1.0%になり、45%減少した。このようなことからも第一の化学結合を導入することで有機デバイスの長寿命化が可能であることを確認することができた。
【産業上の利用可能性】
【0125】
本発明によれば、耐久性に優れた分子層積層膜による有機薄膜を作製し、この有機薄膜を用いて、素子寿命が改善された有機デバイスが提供される。
【図面の簡単な説明】
【0126】
【図1−1】本発明の有機薄膜の概略図である。
【図1−2】本発明の有機薄膜の概略図である。
【図2】本発明の有機薄膜の概略図である。
【図3】本発明の有機薄膜の製造工程を示す概略図である。
【図4】本発明の有機デバイスの構造を示す概略図である。
【図5−1】本発明の有機トランジスタの製造工程を示す概略図である。
【図5−2】本発明の有機トランジスタの製造工程を示す概略図である。
【図5−3】本発明の有機トランジスタの製造工程を示す概略図である。
【図6−1】本発明の有機EL素子の製造工程を示す概略図である。
【図6−2】本発明の有機EL素子の製造工程を示す概略図である。
【図7−1】本発明の有機太陽電池の製造工程を示す概略図である。
【図7−2】本発明の有機太陽電池の製造工程を示す概略図である。
【符号の説明】
【0127】
11:基板、
12:第一の有機分子層、
13:第一の結合部、
131:第一の共有結合部、
132:第一の化学結合、
14:第二の有機分子層、
13−2:第一の結合部
14−2:第二の有機分子層
【0128】
31:基板、
311:基板表面材料
32:第一の有機分子層、
33:第一の結合部、
331':第一の共有結合部を形成する官能基、
332':第一の化学結合を形成する官能基、
331:第一の共有結合部、
332:第一の化学結合、
【0129】
34:第二の有機分子層、
34−2:第二の有機分子
341:第一の共有結合部、
341':第一の共有結合部を形成する官能基、
342':第一の化学結合を形成する官能基、
342:第一の化学結合、
34n:複数層の第二の有機分子層
【0130】
41a):基板
411a):ゲート電極
42a):ゲート絶縁層
43a):半導体層
44a):ソース、ドレイン電極
41b):基板
411b):第一電極
42b):ホール輸送層
43b):発光層
44b):電子輸送層
45b):第二電極
41c):基板
411c):第一電極
42c):p型半導体層
43c):バルクヘテロ層
44c):n型半導体層
45c):第二電極
【0131】
51:基板、
511:ゲート電極
512:ゲート絶縁層
52:第一の有機分子層、
53−1:第一の結合部、
53−2:第一の結合部
531:第一の共有結合部、
532:第一の化学結合、
54−1:第二の有機分子層、
54−2:第二の有機分子層
54−9:複数層の第二の有機分子層
55、56:ソース、ドレイン電極
【0132】
61:基板、
611:透明電極
62:第一の有機分子層、
63−1:第一の結合部、
632':第一の化学結合を形成する官能基、
631:第一の共有結合部、
632:第一の化学結合、
64:第二の有機分子層、
64−2:第二の有機分子層
63−2:第一の結合部
64−9:複数層の第二の有機分子層
65:発光層
66:対向電極
【0133】
71:基板、
711:透明電極
72:第一の有機分子層
74−9:複数層の第二の有機分子層
75:バルクへテロ層
76:n型半導体層
77:対向電極

【特許請求の範囲】
【請求項1】
基板と、該基板上第一の有機分子層と、該第一の有機分子層に積層された第二の有機分子層とを備え、該第一の有機分子層と第二の有機分子層が、第一の結合部によって接続され、
前記第一の結合部の構成が、前記第一の有機分子層と前記第二の有機分子層との間を接続する第一の共有結合部と、前記第一の有機分子層および/または前記第二の有機分子層と、前記第一の共有結合部の構成原子との間を接続する第一の化学結合からなることを特徴とした有機デバイス。
【請求項2】
前記第二の有機分子層が、前記第一の結合部を介して更なる第二の有機分子層を1層以上備えることを特徴とした請求項1に記載の有機デバイス。
【請求項3】
前記第一の共有結合部がπ共役結合を含み、前記第一の化学結合が共有結合であり、前記第一の有機分子層および第二の有機分子層の主鎖骨格が、π共役構造であることを特徴とした請求項1または2に記載の有機デバイス。
【請求項4】
前記第一の共有結合部がπ共役結合を含み、前記第一の化学結合が水素結合であり、前記第一の有機分子層および第二の有機分子層の主鎖骨格が、π共役構造であることを特徴とした請求項1または2記載の有機デバイス。
【請求項5】
前記第一の共有結合部がエチレン結合を含み、前記第一の有機分子層および第二の有機分子層の主鎖骨格が、芳香環構造であり、前記第一の化学結合がスルフィド結合(−S−)である請求項1〜4いずれか記載の有機デバイス。
【請求項6】
前記第一の共有結合部がイミン結合を含み、前記第一の有機分子層および第二の有機分子層の主鎖骨格が、芳香環またはスチルベン構造であり、第一の化学結合が水素結合である請求項1〜4のいずれか一つに記載の有機デバイス。
【請求項7】
基板上に第一の有機分子層を形成する第一の工程と、
前記第一の有機分子層と、第二の有機分子層との間に第一の共有結合部を形成する第二の工程と、
前記第一の有機分子層および/または前記第二の有機分子層と前記第一の共有結合部の構成原子との間に第一の化学結合を形成させて第一の結合部を形成する第三の工程と
を含むことを特徴とした有機デバイスの製造方法。
【請求項8】
前記第二の有機分子層に、前記第一の共有結合部および第一の化学結合からなる第一の結合部を介して、更なる第二の有機分子層を形成する工程を、一回以上繰り返す請求項7記載の有機デバイスの製造方法。
【請求項9】
前記第二の工程が、アルキルチオ基を有するアルデヒドと、リンイリドまたはホスホン酸エステルとの反応により第一の共有結合部としてエチレン結合を含む結合を形成する工程であり、第三の工程が、前記エチレン結合を形成する炭素原子のうちいずれかと、第一の化学結合としてスルフィド結合を形成させる工程である請求項7または8記載の有機デバイスの製造方法。
【請求項10】
前記第二の工程が、ヒドロキシ基を有するアルデヒドと、アミンとの反応により第一の共有結合部としてイミン結合を含む結合を形成する工程であり、第三の工程が、ヒドロキシ基とイミン結合を形成する窒素原子との間に、第一の化学結合として水素結合を形成させる工程である請求項7または8記載の有機デバイスの製造方法。
【請求項11】
前記第一から第三の工程のうち、少なくとも一つの工程が液相中で行われる請求項7〜10のいずれか一つに記載の有機デバイスの製造方法。

【図1−1】
image rotate

【図1−2】
image rotate

【図2】
image rotate

【図3】
image rotate

【図4】
image rotate

【図5−1】
image rotate

【図5−2】
image rotate

【図5−3】
image rotate

【図6−1】
image rotate

【図6−2】
image rotate

【図7−1】
image rotate

【図7−2】
image rotate


【公開番号】特開2010−80759(P2010−80759A)
【公開日】平成22年4月8日(2010.4.8)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−248740(P2008−248740)
【出願日】平成20年9月26日(2008.9.26)
【新規性喪失の例外の表示】特許法第30条第1項適用申請有り 平成20年3月27日 社団法人 応用物理学会発行の「2008年(平成20年)春季 第55回応用物理学関係連合講演会予稿集第3分冊」に発表
【出願人】(000005049)シャープ株式会社 (33,933)
【Fターム(参考)】