説明

有機半導体装置

【課題】 高移動度を有するN型有機トランジスタ、さらには電子をキャリヤとする高性能の有機半導体装置を実現するための電極を提供することを目的とする。
【解決手段】 有機半導体層40と、有機半導体層との電気的接点を構成する電極であって、該有機半導体への電子の注入効率を高めるため、該電極、又は有機半導体と接する側の電極の一部が、該有機半導体を構成する分子材料と同一又は類似のイオン化エネルギーを持つ電子受容性分子材料に、電子供与性分子材料を組み合わせることによって導電性電荷移動型錯体を形成した電極2、3とを少なくとも有する有機半導体装置によって解決される。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、有機半導体装置における電極に関し、さらに詳しくは、有機半導体装置を構成する有機半導体に電流を流すための電気的接点となる電極が導電性の高い電荷移動錯体系の有機材料を構成要素とし、有機半導体への優れた電子注入効率を有する有機半導体装置用の電極に関する。
【背景技術】
【0002】
有機半導体からなる電子装置は、シリコン半導体装置の安価な代替品として注目されている。特に、著しく製造コストのかかる工程が必要なシリコン半導体装置と比べ有機半導体装置は、安価に製造することが可能であり、経済性が優先される場合には有用である。
また有機半導体装置のその他の利点として、大面積の電子装置を作ることが容易であること、製造工程に高温プロセスを必要としないことからプラスチック基板上への形成が可能であること、また機械的な折り曲げに対し素子特性を劣化させないなどの特性を持つため、シリコン半導体装置では不可能な、大面積で機械的にフレキシブルな電子装置を製造することが可能である点が挙げられる。
【0003】
有機半導体装置の中でも、有機半導体薄膜トラジスタは近年研究開発が大きく進展し、その構成要素となる有機半導体材料として、分子量1000以下の種々の低分子系有機材料が提案されている。
中でも、有機半導体としてペンタセンを用いた有機半導体薄膜トラジスタでは、1cm2/Vs以上の高いホール移動度を示すP型電界効果トランジスタが得られている。
しかしながら、キャリヤが負の電荷を持つ電子であるN型電界効果トランジスタに関しては例が少なく、空気中で安定ではないことや、1cm2/Vs以上の高い電子移動度を示すものがないこともあって十分な開発が進んでいない。
【0004】
上述の理由から、有機半導体のみを用いて、P型電界効果トランジスタとN型電界効果トランジスタの両者からなる相補型論理回路を構築することは困難である。相補型論理回路は、エネルギー効率がよく小型化に有利なため、現在の集積回路では欠かすことができないことから、これまではP型有機半導体電界効果トランジスタに、アモルファスシリコンによるN型電界効果トランジスタを組み合わせて構築するなどの工夫がなされている。
しかしながら、アモルファスシリコンによるN型電界効果トランジスタを組み合わせる方法では、安価な製造コストや機械的なフレキシビリティなどの有機半導体装置が持つ利点がほぼ失われてしまうことから、有機半導体装置において、高性能のN型電界効果トランジスタを実現することが大きな課題となっている。
【0005】
有機半導体を用いたN型電界効果トランジスタを実現するための必要条件は、有機半導体との電気的接点を構成する電極から有機半導体への電子の注入を高い効率で実現することである。そのためには、Nチャネルとして用いる有機半導体材料と、電界効果トランジスタのソース・ドレイン電極として用いる伝導性の高い材料の間の特性を整合させる、すなわち有機半導体においてキャリヤとなる電子が収容される伝導帯と、電極のフェルミ準位が、半導体−電極界面で整合している必要がある。しかしながら、通常有機半導体の伝導帯はバンド幅が小さく、種類の限られた通常の金属材料によって、電極のフェルミ準位を有機半導体の伝導帯に整合させることは困難である。
【特許文献1】米国特許第5347144号明細書
【特許文献2】米国特許第5625199号明細書
【特許文献3】米国特許第652816号明細書
【非特許文献1】Appl.Phys.Lett.82, 4581 (2003) 論文題目:"Fabricationand characterization of C60 thin-film transistors with high field-effect mobility" 著者: S.Kobayashi, T.Takenobu, and S.Mori, A.Fujiwara, Y.Iwasa
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
上記の従来の問題点に鑑み、本発明は、高移動度を有するN型有機トランジスタ、さらには電子をキャリヤとする高性能の有機半導体装置を実現するための電極を提供することを課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
上記課題を解決するために、本発明は、様々な有機半導体装置に適用が可能な有機半導体層との電気的接点を構成する電極であって、該有機半導体層への電子の注入効率を高めるため、該電極、又はその一部が、該有機半導体層を構成する分子材料と同一又は類似のイオン化エネルギーを持つ電子受容性分子材料に、電子供与性分子材料を組み合わせることにより電荷移動型錯体を形成して得られた、導電性の高い有機材料を構成要素とする電極を少なくとも有する有機半導体装置を提供する。
【0008】
また本発明は、上記電子受容性分子材料及び電子供与性分子材料の分子量が1000以下である有機半導体装置を提供する。
【0009】
また本発明は、上記電極が、100Ωcmよりも導電性の高い有機半導体装置を提供する。
【0010】
また本発明は、上記電極を構成する導電性電荷移動型錯体が、真空蒸着法、キャスト法又はスタンプ法によって形成されている有機半導体装置を提供する。
【0011】
さらに本発明は、N型有機半導体層と、該N型有機半導体層との電気的接点を構成するソース及びドレイン電極であって、該有機半導体層への電子の注入効率を高めるため、該ソース及びドレイン電極、又はN型有機半導体と接する側のソース及びドレイン電極の一部が、該有機半導体層を構成する分子材料と同一又は類似のイオン化エネルギーを持つ電子受容性分子材料に、電子供与性分子材料を組み合わせることによって導電性電荷移動型錯体を形成したソース及びドレイン電極とを少なくとも有する電界効果型有機半導体装置を提供する。
【0012】
また本発明は、上記N型有機半導体層が、N型有機半導体単結晶層又はN型有機半導体多結晶層である有機半導体装置を提供する。
【0013】
また本発明は、P型有機薄膜電界効果トランジスタをさらに含み、上記N型有機半導体層からなるN型有機薄膜電界効果トランジスタとともに相補型論理回路を構成した電界効果型有機半導体装置を提供する。
【0014】
さらに本発明は、有機半導体層への高い電子注入効率の実現により、有機太陽電池あるいは有機エレクトロルミネッセンスダイオードを提供する。
【発明の効果】
【0015】
本発明は、有機半導体材料への高い電子注入効率を有する電極の形成を可能とするため、電子をキャリヤとする高性能のN型有機薄膜電界効果トランジスタを始めとする高性能有機半導体装置を提供することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0016】
一般に、有機半導体からなる電子装置は、図1〜図4に示すような構造を有する。これらの有機半導体装置は、ガラス、シリコン、プラスチックなどよりなる基板10を備えている。安価な又はフレキシブルなデバイスが求められる場合には、通常ポリエチレンナフタレート(PEN)などのプラスチック基板が用いられる。
【0017】
図1及び図2に示す有機半導体薄膜トランジスタは、基板10上に誘電体層20が形成される。誘電体材料には、周知の材料である例えば二酸化珪素、窒化珪素、ポリイミド、ポリエチレン、ポリパラキシリレン(パリレン)、酸化アルミニウムなどが使用される。
また図3に示す有機半導体単結晶薄膜トランジスタは、有機半導体単結晶層30上に誘電体層20が形成される。
【0018】
上記の有機半導体薄膜トランジスタならびに有機半導体単結晶薄膜トランジスタは、3個の空間的に離間された接点1、2、3を有する。そして、ゲート電極に相当する接点1は、基板又は基板上に形成された導体膜を介して、あるいは直接、誘電体層20と接触している。図1の薄膜トランジスタでは、ソース・ドレイン電極に相当する二つの空間的に離間された接点(2、3)が、誘電体層20上に直接形成されている。図2の有機半導体薄膜トランジスタでは、接点(2、3)が有機半導体層40上に形成されている。図1、図2の有機半導体薄膜トランジスタにおける有機半導体層40の厚みは通常、約150nm〜約5nmである。また有機半導体単結晶薄膜トランジスタを示す図3の構造では、接点(2、3)が有機半導体単結晶層30上に形成されている。
【0019】
一方、図4に示すような有機エレクトロルミネッセンスダイオードでは、基板10上にインジウム−スズ酸化物(ITO)からなる接点を形成する透明電極層50、有機半導体からなるホール輸送層60、60とは異なる有機半導体からなる電子輸送層70、及び接点を形成する電極層4の多層構造をとる。
有機半導体単結晶層30及び有機半導体層40ならびに電子輸送層70を構成する有機材料としては、例えばペンタセン、ルブレン、テトラシアノキノジメタン(TCNQ)、フタロシアニン、Alq3のような単成分有機半導体、あるいはジベンゾテトラチアフルバレン−テトラシアノキノジメタン(DBTTF−TCNQ)、ビスエチレンジチオテトラチアフルバレン−ジフルオロテトラシアノキノジメタン(BEDTTTF−F2TCNQ)のような有機電荷移動型錯体系の有機半導体が用いられる。
【0020】
本発明に係る接点(2、3)は、有機半導体単結晶層30、あるいは有機半導体層40、あるいは電子輸送層70に対応して、その材料に整合した導電性の高い電荷移動型錯体系の有機材料が選択される。すなわち、図5に示すように、有機半導体でキャリヤとなる電子が収容される伝導帯は、構成要素である有機分子の最低非占有分子軌道(LUMO)から構成される。有機半導体−電極界面において、電極から有機半導体の伝導帯に高効率で電子を注入するためには、電極をなす材料のフェルミ面のエネルギー準位が伝導帯のエネルギー準位と一致している必要がある。この条件を満足するため、電極又はその一部として、有機半導体層を構成する分子材料と同一又は類似のイオン化エネルギーを持つ分子材料に、電子供与性分子材料を組み合わせて電荷移動型錯体を形成し、有機半導体層を構成する分子材料と同一又は類似のイオン化エネルギーを持つ分子材料を部分電荷移動状態にすれば、電極のフェルミエネルギー準位が有機半導体の伝導帯のエネルギー準位と一致しているだけでなく、電極として適当な導電性の高い有機材料が得られることから、最も適当である。
【0021】
例えば、有機半導体層がテトラシアノキノジメタン(TCNQ)、あるいはジベンゾテトラチアフルバレン−テトラシアノキノジメタン(DBTTF−TCNQ)で構成されている場合には、電極又はその一部として、テトラシアノキノジメタン(TCNQ)に電子供与性分子テトラチアフルバレン(TTF)を組み合わせた電荷移動型錯体テトラチアフルバレン−テトラシアノキノジメタン(TTF−TCNQ)、あるいはその類似物質を用いることにより、電荷移動型錯体内での部分的な電荷移動(TTF−TCNQの電荷移動量は約0.59、すなわちTTF+0.59−TCNQ-0.59)のため、該電極又はその一部のフェルミエネルギー準位がTCNQの最低非占有分子軌道(LUMO)からなる伝導帯内にあって有機半導体層の伝導帯のエネルギー準位と整合し、かつ導電性の極めて高い金属的な材料であることから適当である。
なお本発明では、電子受容性分子材料及び電子供与性分子材料としては、真空蒸着などによる薄膜形成に有利で、かつ分子合成が容易で高い伝導性を得られることが知られる、ともに分子量1000以下である分子材料である方が電極としてより好適である。また電極の比抵抗は、当該有機半導体装置の応答速度を高め、かつエネルギー消費を低減させるためには100Ωcmよりも導電性の高い方がより好適である。
【実施例】
【0022】
以下本発明の実施例について説明する。
ここでは、有機半導体薄膜トランジスタと全く同一の原理で動作する有機半導体結晶薄膜トランジスタ、とりわけ、チャネル部分が単一の結晶からなるため結果の再現性が良好で電極の効果を判別することが容易な、図3の構造を持つ有機半導体単結晶薄膜トランジスタに関する実施例について説明する。
【0023】
本実施例で用いた有機半導体単結晶であるジベンゾテトラチアフルバレン−テトラシアノキノジメタン(DBTTF−TCNQ)単結晶は、各原料分子、すなわちジベンゾテトラチアフルバレン(DBTTF)分子とテトラシアノキノジメタン(TCNQ)分子を20mbarの窒素ガスを封入したガラス管内で共に昇華することによって得た。
電極として用いた導電性の極めて高い電荷移動型錯体は、テトラチアフルバレン(TTF)とテトラシアノキノジメタン(TCNQ)をそれぞれ有機溶媒、たとえばアセトニトリル中に溶解させた後、二つの溶液を混合して錯形成反応させることによって粉末状の試料として得た。
【0024】
図3に示す有機半導体単結晶薄膜トランジスタを、上記のプロセスによって調製した有機半導体単結晶ならびに有機金属材料を用いて製造した。図3の単結晶薄膜トランジスタの製造の際に、接点2、3の接点チャネルをシャドウマスクによって画定し、単結晶の平滑な結晶成長面の上に調整したテトラチアフルバレン−テトラシアノキノジメタン(TTF−TCNQ)薄膜を厚さ約100nm程度になるように、真空蒸着によって形成した。なお、上記薄膜の形成は、キャスト法又はスタンプ法によっても可能である。
この単結晶薄膜トランジスタのチャンネルの幅は、約250μmで、チャンネルの長さは25〜200μmであった。
【0025】
次にゲート絶縁層として、1μmの厚みを持つパリレン高分子絶縁膜を公知の気相重合法を用いて付着させた。さらに絶縁層の上に30nm程度の厚みの銀を蒸着してゲート電極を形成し、金線を繋ぐ事によって電界効果トランジスタを得た。直流の電界効果特性を常温・常圧下、あるいはクライオスタット中にサンプルを封入し、アジレントテクノロジー社半導体評価解析装置E5270を用いて評価した。得られた電極−半導体間の電気的な接触は、テトラチアフルバレン−テトラシアノキノジメタン(TTF−TCNQ)薄膜の代わりに金薄膜あるいは銀薄膜を電極として用いた有機半導体結晶薄膜トランジスタと比べ、はるかに小さかった。
【0026】
ジベンゾテトラチアフルバレン−テトラシアノキノジメタン(DBTTF−TCNQ)単結晶薄膜トランジスタで、(a)TTF−TCNQ、(b)銀、(c)金のソース・ドレイン電極を持つ三種類の上記単結晶薄膜トランジスタについて、ドレイン電圧を5Vに固定してb軸方向のゲート電圧依存性を測定した結果を図6に示す。
標準的な電界効果トランジスタの方程式:μ=(dID/dVG)[L/(WCiVD)]を用いて線形領域で移動度を評価したところ、テトラチアフルバレン−テトラシアノキノジメタン(TTF−TCNQ)を電極材料に用いたものの移動度は、1.1cm2/Vsと見積もられた。但し、Ci はゲート絶縁層の絶縁容量、LとWはそれぞれチャネル長とチャネル幅、VG はゲート電圧、VD はドレイン電圧、IDはソース−ドレイン電流、μは移動度である。
この図6から、ドレイン電圧一定のもとでゲート電圧を掃引すると、ドレイン電流がゼロ付近から、正のゲート電圧の印加とともに急激に立ち上がる様子が確認できる。
【0027】
図7は、上記の有機半導体単結晶薄膜トランジスタにおいて、電流−電圧特性を様々なゲート電圧において測定した結果を示したものである。電流−電圧特性においてバルク電流が余分にあることを考えると、TTF−TCNQ電極を用いた素子に対する結果は、高ドレイン電圧領域で電流飽和を示す典型的なN型シリコン電界効果トランジスタの特性とよく一致していることが分かる。一方で、金または銀電極を用いた素子は、非線形な電流−電圧特性を示す。その特徴は、金属−半導体接合における電子注入に対する障壁ポテンシャルと関連したものであることが分かる。
【0028】
以上の結果から、TTF−TCNQを用いた電極は、その他の通常の金属電極と比較して、有機半導体層と極めて良く整合性が取れ、高い電子注入効率を示していることが分かる。
活性層である有機半導体結晶DBTTF−TCNQの伝導バンドは、主にTCNQの最低非占有分子軌道(LUMO)から構成されており、電子はTCNQのLUMO準位に注入あるいは熱励起される。図5に模式的に示したバンド図と同様、TTF−TCNQのフェルミエネルギーは、TCNQのLUMO準位にあることから、TTF−TCNQ電極を用いることによって、DBTTF−TCNQの伝導バンドに対する効率的な電子注入が可能になったものと考えられる。このことから、電荷移動型錯体系材料は、同一の分子からなるシステムのフェルミ準位を、相手となる分子の種類を変えることによって、半導体的なものから金属的なものへと調節することが可能なことから、効率的なキャリヤ注入を実現する上で最も有望な材料である。
【0029】
図6に示したゲート電圧依存性の測定結果から、バルクの伝導度と電界効果伝導度を区別することが可能である。
図8に、伝導度の温度依存性を活性化型プロット(温度の逆数に対して電流の対数をプロット)で示す。TTF−TCNQを電極として用いたトランジスタでは、バルク伝導度の活性化エネルギー(0.157 eV)は、電界効果による移動度(0.065 eV)よりもはるかに大きいことが分かる。これは、バルク伝導度が熱励起されたキャリヤの数に依存する一方、電界効果による伝導度は、名目上、ゲート電圧によって制御されたキャリヤ数のみに依存するからである。このことから、活性化エネルギーが異なるのは、上記のように伝導度を支配するキャリヤ数が異なる機構によって決定されているとみることができる。
【0030】
一方で、金あるいは銀を電極として用いたトランジスタでは、図8で分かるように、電界効果による伝導度の活性化エネルギーは、バルクの伝導度の活性化エネルギーとほぼ同一であるという結果が得られている。すなわち、電界効果によるキャリヤの数は、金属−半導体接合における障壁ポテンシャルに由来した低い電子注入効率のために、現実には名目上のものよりもはるかに小さいことに由来しているものである。
以上のことから、電子注入に対するコンタクトポテンシャルは、TTF−TCNQ電極を用いたトランジスタでは格段に抑制されていることが分かる。すなわち、TTF−TCNQ電極が、N型有機半導体薄膜電界効果トランジスタを含む有機半導体装置の性能向上に有用であることが分かる。
なお、上記の実施例は、あくまで本発明の理解を容易にするためのものであり、この実施例に限定されるものではない。すなわち、本発明の技術思想に基づく変形、他の態様は、当然本発明に包含されるものである。
【産業上の利用可能性】
【0031】
本発明による有機半導体装置は、従来よりも簡便な方法により製造が可能であり、安価な有機半導体薄膜トランジスタとして利用できる。特に、エレクトロニクス分野における小型・大型画面表示(ディスプレー)装置のためのスイッチングデバイス、あるいはその駆動回路に用いられる相補型論理演算回路用の有機半導体薄膜電界効果トランジスタを製造する上で極めて有用である。
また有機半導体層への高い電子注入効率が実現されていることから、有機太陽電池あるいは有機エレクトロルミネッセンスダイオードへも利用が可能である。
【図面の簡単な説明】
【0032】
【図1】有機半導体薄膜トランジスタの断面模式図である。
【図2】別の有機半導体薄膜トランジスタの断面模式図である。
【図3】有機半導体単結晶薄膜トランジスタの断面模式図である。
【図4】有機エレクトロルミネッセンスダイオードの断面概略説明図である。
【図5】本発明に係る導電性の高い有機材料を電極として用いた場合の有機半導体−電極界面のバンド図である。
【図6】三種類の有機半導体結晶薄膜トランジスタにおける、一定のドレイン電圧を加えた状態でゲート電圧の変化に対するドレイン電流の変化を示すグラフである。
【図7】三種類の有機半導体結晶薄膜トランジスタにおける、一定のゲート電圧を加えた状態で電流−電圧特性を測定した結果を示すグラフである。
【図8】三種類の有機半導体結晶薄膜トランジスタにおける、ゲートがオフの状態の電流とゲートがオンの状態での電流が温度によって変化する様子を示すグラフである。
【符号の説明】
【0033】
1 ゲート電極となる電気的接点
2、3 ソース、ドレイン電極となる電気的接点
4 電子注入電極となる電気的接点
10 基板
20 誘電体層
30 有機半導体単結晶層
40 有機半導体層
50 透明電極層
60 有機半導体からなるホール輸送層
70 有機半導体からなる電子輸送層

【特許請求の範囲】
【請求項1】
有機半導体層と、該有機半導体層との電気的接点を構成する電極であって、該有機半導体への電子の注入効率を高めるため、該電極、又は該有機半導体と接する側の電極の一部が、該有機半導体を構成する分子材料と同一又は類似のイオン化エネルギーを持つ電子受容性分子材料に、電子供与性分子材料を組み合わせることによって導電性電荷移動型錯体を形成した電極とを少なくとも有する有機半導体装置。
【請求項2】
上記電子受容性分子材料及び電子供与性分子材料は、分子量が1000以下であることを特徴とする請求項1記載の有機半導体装置。
【請求項3】
上記電極は、100Ωcmよりも導電性の高い請求項1又は2記載の有機半導体装置。
【請求項4】
上記電極を構成する導電性電荷移動型錯体は、真空蒸着法、キャスト法又はスタンプ法によって形成されている請求項1、2又は3記載の有機半導体装置
【請求項5】
N型有機半導体層と、該N型有機半導体層との電気的接点を構成するソース及びドレイン電極であって、該N型有機半導体層への電子の注入効率を高めるため、該ソース及びドレイン電極、又は該N型有機半導体層と接する側のソース及びドレイン電極の一部が、該N型有機半導体を構成する分子材料と同一又は類似のイオン化エネルギーを持つ電子受容性分子材料に、電子供与性分子材料を組み合わせることによって導電性電荷移動型錯体を形成したソース及びドレイン電極とを少なくとも有する電界効果型有機半導体装置。
【請求項6】
上記N型有機半導体層は、N型有機半導体単結晶層又はN型有機半導体多結晶層であることを特徴とする請求項5記載の有機半導体装置。
【請求項7】
P型有機薄膜電界効果トランジスタをさらに含み、上記N型有機半導体層からなるN型有機薄膜電界効果トランジスタとともに相補型論理回路を構成した、請求項5記載の電界効果型有機半導体装置。
【請求項8】
上記有機半導体装置は、有機太陽電池であることを特徴とする請求項1記載の有機半導体装置。
【請求項9】
上記有機半導体装置は、有機エレクトロルミネッセンスダイオードであることを特徴とする請求項1記載の有機半導体装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【公開番号】特開2006−49578(P2006−49578A)
【公開日】平成18年2月16日(2006.2.16)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2004−228575(P2004−228575)
【出願日】平成16年8月4日(2004.8.4)
【出願人】(301021533)独立行政法人産業技術総合研究所 (6,529)
【Fターム(参考)】