説明

歩行者保護装置

【課題】 不必要なノーズダイブの抑制や装置コストの低減を実現した歩行者保護装置を提供する。
【解決手段】 自動車Vが他の自動車や歩行者に衝突すると、衝突検出装置15から減衰力制御装置20に衝突信号が出力される。すると、ステップS10の判定がYesになるため、減衰力制御装置20は、ステップS11で駆動電流を停止してスタートに戻る。ステップS11で駆動電流が停止されると、各ダンパ4では、磁気流体バルブの励磁が解除されることにより、MRF内の強磁性微粒子が互いに分離して減衰力が殆ど0となる。そのため、衝突の直後に歩行者40がボンネット上に倒れ込んだ場合においても、車体1が容易に沈み込んで歩行者40が受ける衝撃が効果的に抑制される。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、車両との衝突時に歩行者が受ける衝撃を抑制する歩行者保護装置に係り、不必要なノーズダイブの抑制や装置コストの低減を実現する技術に関する。
【背景技術】
【0002】
近年の自動車では、衝突時における乗員の受傷を抑制するシートベルトやエアバッグに加え、歩行者が受ける衝撃を緩和する種々の歩行者保護装置の搭載が進められている(例えば、特許文献1,2)。特許文献1の歩行者保護装置は、歩行者との衝突を検知する歩行者衝突検知手段と、ボンネットをリフトアップするリフトアップ手段とを備え、歩行者衝突検知手段によって歩行者との衝突が検知された場合、リフトアップ手段によってボンネットフードをリフトアップさせてエンジンとの間に空間を確保する構成を採っている。また、特許文献2の歩行者保護装置は、その特性を可変制御できるサスペンションと、車両前方の障害物との衝突を予知する衝突予知手段と、障害物が歩行者であるか否かを判定する歩行者判定手段とを備え、衝突予知手段によって衝突が予知され、且つ歩行者判定手段によって障害物が歩行者であると判定された場合、サスペンションを柔らかくする方向にサスペンション特性を変化させてノーズダイブを生じさせる構成を採っている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特開2008−132950号公報
【特許文献2】特開2007−320496号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
しかしながら、上述した歩行者保護装置は、歩行者衝突検知手段や歩行者判定手段としてレーダやCCDカメラ等を用いる他、複雑な情報処理プログラムが必要となるために構成部品点数や製造コストの増大が避けられず、低価格車等に採用することが難しかった。また、特許文献2の歩行者保護装置では、衝突予知手段の予知精度や歩行者判定手段の判定閾値の設定によっては、実際に歩行者との衝突が生じなかった場合においても、運転者の制動操作によって過大なノーズダイブが生じてしまい、乗員が大きな違和感を覚える虞があった。そして、地上高の高いSUV(Sport Utility Vehicle)等では、ノーズダイブが通常の自動車に較べて大きくなることから、乗員の着座位置が高いことも相俟って上述した違和感が更に強くなる問題があった。
【0005】
本発明は上記状況に鑑みなされたもので、不必要なノーズダイブの抑制や装置コストの低減を実現した歩行者保護装置を提供するものである。
【課題を解決するための手段】
【0006】
第1の発明は、サスペンション特性可変装置を有する車両に搭載された歩行者保護装置であって、障害物との衝突を検出する衝突検出手段と、前記衝突検出手段によって衝突が検出された場合、車体が上下動しやすくなるように前記サスペンション特性可変装置を制御する衝突時制御手段とを備えたことを特徴とする。
【0007】
また、第2の発明は、第1の発明に係る歩行者保護装置において、前記サスペンション特性可変装置が減衰力可変ダンパであり、前記衝突時制御手段は、前記衝突検出手段によって衝突が検出された場合、前記減衰力可変ダンパの減衰力を低下させることを特徴とする。
【0008】
また、第3の発明は、第1または第2の発明に係る歩行者保護装置において、前記車両がエアバッグ装置を有し、前記衝突検出手段が前記エアバッグ装置と共用されることを特徴とする。
【発明の効果】
【0009】
第1の発明によれば、障害物と衝突したときにのみサスペンション特性可変装置が衝突時制御されるため、運転者が制動によって回避した場合等においては、車体の過大なノーズダイブによって乗員が違和感を憶えことがなくなる。また、第2の発明によれば、例えば、減衰力可変ダンパとしてMRF式のもの等を採用すれば、衝突時に減衰力が瞬時に低減されるために歩行者がボンネットに乗り上げた場合に車体が容易に沈み込み、歩行者の受ける衝撃が効果的に緩和される。また、第3の発明によれば、歩行者保護装置のために新たなセンサを設ける必要がなくなり、部品点数や製造コストの低減を実現できる。
【図面の簡単な説明】
【0010】
【図1】実施形態に係る車両の装置構成を示す平面図である。
【図2】実施形態に係る減衰力制御装置の概略構成を示すブロック図である。
【図3】実施形態に係る減衰力制御の手順を示すフローチャートである。
【図4】実施形態に係る目標電流マップである。
【図5】実施形態に係る歩行者との衝突時における作用を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0011】
以下、減衰力可変ダンパを搭載した4輪自動車(以下、単に自動車と記す)に本発明を適用した実施形態について、図面を参照して詳細に説明する。
図1は実施形態に係る自動車の装置構成を示す平面図であり、図2は実施形態に係る減衰力制御装置の概略構成を示すブロック図である。
【0012】
≪実施形態の構成≫
<自動車の概略構成>
先ず、図1を参照して、実施形態に係る自動車の概略構成について説明する。説明にあたり、4本の車輪やこれらに対応して配置された部材、すなわち、タイヤやサスペンション等については、それぞれ数字の符号に前後左右を示す添字を付して、例えば車輪3fl(左前)、車輪3fr(右前)、車輪3rl(左後)、車輪3rr(右後)と記し、総称する場合には例えば車輪3と記す。
【0013】
図1に示すように、自動車(車両)Vはタイヤ2が装着された4つの車輪3を備えており、これら各車輪3がサスペンションアームや、スプリング、MRF(Magneto-Rheological Fluid:磁気粘性流体)式の減衰力可変ダンパ(以下、単にダンパと記す)4等からなるサスペンション5によって車体1に懸架されている。また、自動車Vの運転席にはエアバッグ7が内装されたステアリングホイール6が設置され、車体1には加速度センサ等を内装した衝突検出装置15が設置されている。
【0014】
自動車Vには、サスペンションシステムの制御主体であるECU(Electronic Control Unit:電子制御ユニット)8の他、車速を検出する車速センサ9、横加速度を検出する横Gセンサ10、前後加速度を検出する前後Gセンサ11、ヨーレイトを検出するヨーレイトセンサ12等が車体1の適所に設置されている。また、自動車Vには、各ダンパ4の変位を検出するストロークセンサ13と、車体1におけるホイールハウス付近の上下加速度を検出する上下Gセンサ14とが各車輪3ごとに設置されている。なお、衝突検出装置15は、他の自動車や人との衝突を検出した瞬間に、エアバッグ7に展開電流を出力すると同時にECU8にも衝突信号を出力する。
【0015】
ECU8は、マイクロコンピュータやROM、RAM、周辺回路、入出力インタフェース、各種ドライバ等から構成されており、通信回線(本実施形態では、CAN(Controller Area Network))を介して各車輪3のダンパ4や各センサ9〜14、衝突検出装置15と接続されている。
【0016】
<減衰力制御装置の概略構成>
ECU8には、図2にその概略構成を示す減衰力制御装置20が内装されている。減衰力制御装置20は、上述した各センサ9〜14および衝突検出装置15が接続する入力インタフェース21と、センサ9〜13から入力した検出信号に基づき各ダンパ4の目標減衰力を設定する目標減衰力設定部22と、目標減衰力とストロークセンサ14および衝突検出装置15からの入力信号に応じて各ダンパ4への駆動電流を生成する駆動電流生成部23と駆動電流生成部23が生成した駆動電流を各ダンパ4に出力する出力インタフェース25とから構成されている。なお、減衰力設定部22には、スカイフック制御に供されるスカイフック制御部31と、ロール制御に供されるロール制御部32と、ピッチ制御に供されるピッチ制御部33とが収容されている。
【0017】
≪実施形態の作用≫
<減衰力制御>
自動車が走行を開始すると、減衰力制御装置20は、所定の処理インターバル(例えば、2ms)をもって、図3のフローチャートにその手順を示す減衰力制御を実行する。減衰力制御を開始すると、減衰力制御装置20は、図3のステップS1で、横Gセンサ10、前後Gセンサ11、および上下Gセンサ13から得られた車体1の各加速度や、ヨーレイトセンサ12から入力したヨーレイト、車速センサ9から入力した車速、操舵角センサ(図示せず)から入力した操舵速度等に基づき自動車Vの運動状態を推定する。次に、減衰力制御装置20は、自動車Vの運動状態に基づき、ステップS2で各ダンパ4のスカイフック制御目標値Dshを算出し、ステップS3で各ダンパ4のロール制御目標値Drを算出し、ステップS4で各ダンパ4のピッチ制御目標値Dpを算出する。
【0018】
次に、減衰力制御装置20は、ステップS5で各ダンパ4のストローク速度Ssが正の値であるか否かを判定し、この判定がYesであった場合(すなわち、ダンパ4が伸び側に作動している場合)、ステップS6で3つの制御目標値Dsh,Dr,Dpのうち値が最も大きいものを目標減衰力Dtgtに設定する。また、減衰力制御装置20は、ステップS5の判定がNoであった場合(すなわち、ダンパ4が縮み側に作動している場合)、ステップS7で3つの制御目標値Dsh,Dr,Dpのうち値が最も小さいもの(絶対値が最も大きいもの)を目標減衰力Dtgtに設定する。
【0019】
ステップS6またはステップS7で目標減衰力Dtgtを設定すると、減衰力制御装置20は、ステップS8で図4の目標電流マップから目標減衰力Dtgtおよびストローク速度に対応する目標電流Itgtを検索/設定した後、ステップS9で衝突検出装置15からの衝突信号が入力したか否かを判定し、この判定がNoであればステップS10で目標電流Itgtに基づき各ダンパ4に駆動電流Idrを出力する。
【0020】
<衝突発生時>
自動車Vが他の自動車や歩行者に衝突すると、衝突検出装置15から展開電流が出力されることでエアバッグ7が瞬時に展開し、ステアリングホイール6に2次衝突しなくなることによって運転者が受ける衝撃が効果的に緩和される。
【0021】
一方、衝突検出装置15からは、エアバッグ7への展開電流と同時に、減衰力制御装置20にも衝突信号が出力される。すると、図3の減衰力制御におけるステップS10の判定がYesになるため、減衰力制御装置20は、ステップS11で駆動電流を停止してスタートに戻る。なお、本実施形態では、衝突検出装置15から減衰力制御装置20には、衝突検出後に所定期間(例えば、1sec)にわたって衝突信号が出力されるものとするが、減衰力制御装置20側でタイマ等を用いることにより、衝突信号が1度入力した後、所定期間にわたってステップS10の判定をYesにするようにしてもよい。
【0022】
ステップS11で駆動電流が停止されると、各ダンパ4では、磁気流体バルブの励磁が行われなくなり、MRF内の強磁性微粒子が互いに分離して減衰力が殆ど0となる。その結果、図5に示すように、衝突の直後に歩行者40がボンネット上に倒れ込んだ場合においても、車体1が容易に沈み込んで歩行者40が受ける衝撃が効果的に抑制される。また、ダンパ4の減衰力は実際に衝突が生じたときにのみ0となるため、運転者の制動操作によって過大なノーズダイブが生じるようなことがない。なお、本実施形態では、ダンパ4がMRF式であるために減衰力は瞬時に低減し、衝突後にステップS10の判定がYesになっても実用上は問題ない。
【0023】
以上で具体的実施形態の説明を終えるが、本発明の態様は上記実施形態に限られるものではない。例えば、上記実施形態では、サスペンション特性可変装置として減衰力可変ダンパを採用し、衝突検出装置をエアバッグ装置と共用するようにしたが、サスペンション特性可変装置として流体制御式のアクティブサスペンションを採用し、衝突時にアクティブサスペンションの作動流体を車体が上下動する方向に流れやすくするようにしてもよいし、衝突検出装置をボンネットリフト式歩行者保護装置やシートベルト・プリテンショナ等と共用するようにしてもよい。また、車両や制御装置の具体的構成や制御の具体的手順等についても、本発明の主旨を逸脱しない範囲で適宜変更可能である。
【符号の説明】
【0024】
1 車体
2 タイヤ
3 車輪
4 減衰力可変ダンパ(サスペンション特性可変装置)
7 エアバッグ
8 ECU
15 衝突検出装置
20 減衰力制御装置(衝突時制御手段)
40 歩行者
V 自動車

【特許請求の範囲】
【請求項1】
サスペンション特性可変装置を有する車両に搭載された歩行者保護装置であって、
障害物との衝突を検出する衝突検出手段と、
前記衝突検出手段によって衝突が検出された場合、車体が上下動しやすくなるように前記サスペンション特性可変装置を制御する衝突時制御手段と
を備えたことを特徴とする歩行者保護装置。
【請求項2】
前記サスペンション特性可変装置が減衰力可変ダンパであり、
前記衝突時制御手段は、前記衝突検出手段によって衝突が検出された場合、前記減衰力可変ダンパの減衰力を低下させることを特徴とする、請求項1に記載された歩行者保護装置。
【請求項3】
前記車両がエアバッグ装置を有し、前記衝突検出手段が前記エアバッグ装置と共用されることを特徴とする、請求項1または請求項2に記載された歩行者保護装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【公開番号】特開2010−241277(P2010−241277A)
【公開日】平成22年10月28日(2010.10.28)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−92576(P2009−92576)
【出願日】平成21年4月7日(2009.4.7)
【出願人】(000005326)本田技研工業株式会社 (23,863)
【Fターム(参考)】