水晶振動片及びその製造方法、振動子、発振器、電子機器
【課題】小型で安定した周波数特性を有する高性能な水晶振動片及びその製造方法、振動子、発振器、電子機器を提供する。
【解決手段】本発明の音叉型水晶振動片1は、基部110と基部110から互いに平行に延出された一対の音叉腕121,122とを有する振動片本体102と、音叉腕121,122の両主面に形成された励振電極123a,124aと音叉腕121,122の両側面に形成された駆動電極123b,124bとを有し、水晶とは異なる組織構造を有する変質部151,152が、音叉腕121,122の少なくとも一部に形成されている。
【解決手段】本発明の音叉型水晶振動片1は、基部110と基部110から互いに平行に延出された一対の音叉腕121,122とを有する振動片本体102と、音叉腕121,122の両主面に形成された励振電極123a,124aと音叉腕121,122の両側面に形成された駆動電極123b,124bとを有し、水晶とは異なる組織構造を有する変質部151,152が、音叉腕121,122の少なくとも一部に形成されている。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、水晶振動片及びその製造方法、振動子、発振器、電子機器に関するものである。
【背景技術】
【0002】
従来より、水晶振動子が様々な電子機器の発振回路に周波数制御素子として採用されている。特に、小型で壊れにくく、正確に振動する省電力の水晶振動子として音叉型振動子が用いられている。このような音叉振動子は、クロック源として時計を含む各種電子機器に発振回路とともに内蔵され、印加された電圧に伴って、逆圧電現象により振動する。
【0003】
近年では、各種電子機器の小型化に対応すべく音叉型振動子の小型化の要求が高まってきている。しかしながら、音叉型振動子を小型化していった場合、Q値が著しく低下するという課題が存在する。
そこで、例えば一対の振動腕部の両主面に溝を設けて熱弾性によるQ値の低下を抑える構造が提案されている(特許文献1、2)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】実開平2−32229号公報
【特許文献2】特開2002−280870号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
しかしながら、音叉水晶振動子をさらに小型化した場合、溝だけではQ値の低下を抑えることができないという問題を有している。Q値が大きいほど発振が安定することから、小型化した場合であっても適正なQ値を得られる構造が求められている。
【0006】
本発明は、上記従来技術の問題点に鑑み成されたものであって、小型で安定した周波数特性を有する水晶振動片及びその製造方法、振動子、発振器、電子機器を提供することを目的としている。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明の水晶振動片は、上記課題を解決するために、基部と基部から互いに平行に延出された一対の振動腕部とを有する振動片本体と、振動腕部の両主面に形成された励振電極と振動腕部の両側面に形成された駆動電極とを有する水晶振動片であって、
水晶とは異なる組織構造を有する変質部が、振動腕部の少なくとも一部に形成されている。
【0008】
本発明によれば、水晶とは異なる組織構造を有する変質部が振動腕部の少なくとも一部に形成されているので、振動腕部の振動に起因する熱弾性等の影響によってQ値が低下してしまうのを防止することができる。これにより、小型であっても適正なQ値が得られ、発振周波数が安定した水晶振動片が得られる。
【0009】
また、変質部が、振動腕部における基部との接続部分に形成されていることが好ましい。
本発明によれば、熱の移動が最も大きい振動腕部における基部との接続部分に変質部を形成することによって、振動に起因する熱弾性等の影響によってQ値が低下してしまうのを効果的に抑えられる。
【0010】
また、変質部が、少なくともアモルファス、多結晶、水晶、空洞などが入り混じった状態であることが好ましい。
本発明によれば、変質部が少なくともアモルファス、多結晶、水晶、空洞などが入り混じった状態であるため、水晶よりも熱伝導性及び熱膨張率が低くなり、Q値の低下を効率よく抑えることが可能である。
【0011】
また、変質部が、振動腕部を厚さ方向に貫通して形成されていることが好ましい。
本発明によれば、変質部が振動腕部の厚さ方向に亘って形成されているので、熱伝導性及び熱膨張率をより低下させることができてQ値の改善効果が向上する。
【0012】
また、変質部が、振動腕部の長さ方向に沿って形成されていることが好ましい。
本発明によれば、振動腕部の長さ方向に沿って形成されているので、熱伝導性及び熱膨張率をより低下させることができてQ値の改善効果が向上する。
【0013】
また、変質部の長さが、振動腕部の長さの1/4以上1/2以下であることが好ましい。
本発明によれば、熱の移動が比較的大きい領域に変質部を形成することによってより効果的にQ値を改善できる。
【0014】
また、変質部の幅が、振動腕部の幅に対して10%〜80%の範囲であることが好ましい。
本発明によれば、変質部の幅が振動腕部の幅に対して10%未満の場合、水晶と略同じような性質であるためQ値を改善する効果があまり期待できない。また、80%以上の場合には、圧電機能を確保できなくなったり機械的強度が低下するおそれがある。よって、振動腕部の幅を上記範囲内で設定することで、圧電機能及び機械的強度を確保しつつ従来よりもQ値を改善することが可能である。
【0015】
また、振動腕部の両主面に、振動腕部の長さ方向に沿って延びる溝がそれぞれ形成されており、変質部が溝の底壁にのみ形成されていることが好ましい。
本発明によれば、振動腕部の振動損失を低くすることができ、振動効率を向上させることができる。
【0016】
本発明の水晶振動片の製造方法は、上記課題を解決するために、基部と基部から互いに平行に延出された一対の振動腕部とを有する振動片本体と、振動腕部の両主面に形成された励振電極と振動腕部の両側面に形成された駆動電極とを有する水晶振動片の製造方法であって、水晶基板をエッチングすることにより基部及び振動腕部を形成する工程と、振動腕部の少なくとも基端部にレーザーを照射することによって水晶とは異なる組織構造を有する変質部を形成する工程と、励振電極及び駆動電極を形成する工程と、を有する。
【0017】
本発明によれば、水晶とは異なる組織構造を有する変質部を振動腕部の少なくとも一部に形成されているので、振動腕部の振動に起因する熱弾性等の影響によってQ値が低下してしまうのを防止することができる。これにより、小型であっても適正なQ値が得られ、発振周波数が安定した水晶振動片が得られる。
【0018】
また、変質部を形成する工程において、振動腕部の基部との接続部分にレーザーを照射することが好ましい。
本発明によれば、熱の移動が最も大きい振動腕部における基部との接続部分に変質部を形成することができるので、振動に起因する熱弾性等の影響によってQ値が低下してしまうのを効果的に抑えられる。
【0019】
また、変質部を形成する工程において、振動腕部の長さ方向に沿ってレーザーを照射することが好ましい。
本発明によれば、振動腕部の熱移動の大きい領域に変質層を形成することができる。
【0020】
また、レーザーが、フェムト秒パルスレーザーであることが好ましい。
本発明によれば、透過性を有する水晶基板に対して変質部を確実に形成することができる。また、変質部(レーザー照射領域)の周囲に損傷を及ぼすおそれがない。また、少なくともアモルファス、多結晶、水晶、空洞などが入り混じった状態の変質部を形成することができる。
【0021】
また、レーザーの出力を、300nJ以上500nJ未満とすることが好ましい。
本発明によれば、変質部分を目視で確認できるので、変質部を所定の領域に確実且つ容易に形成することができる。また、レーザー照射後、水晶基板に亀裂等が入ることを防止できる。
【0022】
また、変質部を形成する工程の前に、振動腕部の両主面に溝を形成する工程を有することが好ましい。
本発明によれば、振動腕部の両主面に溝を形成することによって振動効率を良くすることができる。
【0023】
本発明の振動子は、先に記載の水晶振動片がパッケージ内に収容されてなるものである。
本発明によれば、変質部を有した水晶振動片を備えているので小型化しても安定した周波数発振特性を確保することができ、振動子としての信頼性が向上する。
【0024】
本発明の発振器は、先に記載の水晶振動片と、集積回路とが、パッケージ内に収容されてなるものである。
本発明によれば、変質部を有した水晶振動片を備えているので小型化しても安定した周波数発振特性を確保することができ、発振器としての信頼性が向上する。
【0025】
本発明の電子機器は、先に記載の水晶振動片がパッケージ内に収容されている振動子を有し、振動子を制御部に接続して用いることを特徴とする電子機器。
本発明によれば、変質部を有した水晶振動片を備えているので小型化しても安定した周波数発振特性を確保することができ、電気機器としての信頼性が向上する。
【図面の簡単な説明】
【0026】
【図1】第1実施形態における音叉型水晶振動片を示す平面図。
【図2】図1のE−E’断面図。
【図3】第1実施形態における振動片本体を示す平面図。
【図4】第1実施形態における音叉型水晶振動片の製造工程図。
【図5】第1実施形態における音叉型水晶振動片の製造工程図。
【図6】レーザー照射装置の概略構成図。
【図7】第2実施形態における音叉型水晶振動片を示す平面図。
【図8】図7のF−F’断面図。
【図9】第2実施形態における振動片本体を示す平面図。
【図10】第2実施形態における音叉型水晶振動片の製造工程図。
【図11】第2実施形態における音叉型水晶振動片の製造工程図。
【図12】本発明に係る振動子であるセラミックパッケージ音叉型振動子を示す図。
【図13】本発明に係る発振器である音叉水晶発振器を示す図。
【図14】本発明に係る振動子であるシリンダータイプ音叉振動子を示す図。
【発明を実施するための形態】
【0027】
以下、本発明の実施形態につき、図面を参照して説明する。なお、以下の説明に用いる各図面では、各部材を認識可能な大きさとするため、各部材の縮尺を適宜変更している。
【0028】
(音叉型水晶振動片の第1実施形態)
図1は、本発明の第1実施形態に係る水晶振動片である音叉型水晶振動片1の概略構成を示す図、図2は、図1のE’−E断面図、図3は、振動片本体102を示す平面図である。
音叉型水晶振動片1は、図1に示すように、基部110と、この基部110から図において上方(y方向)に延出された一対の音叉腕121,122(振動腕部)とを備えた振動片本体102を有している。本実施形態における音叉型水晶振動片1は、音叉腕121,122の幅Wが50μmから100μm、厚さtが50μmから100μmと極めて小さく、例えば32.768kHzで発信する小型振動片となっている。
【0029】
図1および図2に示すように、基部110は、音叉型水晶振動片1を例えばパッケージ等に実装する際に固定領域として機能するもので、その主面に基部電極125a、125aが設けられている。基部電極125aは、外部部品との電気的導通を図るための薄膜電極であって、導電性材料、例えば、Au,Al,Cu,Cr等の金属層、あるいはこれらを積層させた薄膜により形成されている。
【0030】
音叉腕121には、その両主面に励振電極123a,123aが対向配置され、両側面に駆動電極123b,123bが対向配置されている。また、音叉腕122の両主面には励振電極124a,124aが対向配置され、両側面に駆動電極124b,124bが対向配置されている。これら励振電極123a,124aおよび駆動電極123b,124bは、上述した基部電極125aと同じ材料からなる。さらに、各音叉腕121,122の先端部分には、給電を行う電極125bも形成されている。
【0031】
そして、各音叉腕121,122において、励振電極123a,124bに印加される励振電圧が同位相となり、駆動電極123b、124aに印加される駆動電圧が励振電極123a,124bとは逆位相となるよう負図示の駆動回路に結線される。
【0032】
本実施形態における音叉型水晶振動片1には、図1〜図3に示すようにその平面視における一部に変質部151,152が形成されている。これら変質部151,152は、水晶基板のうちレーザーが照射された結晶内部に形成されたもので、音叉型水晶振動片1の圧電振動にはあまり寄与しない領域であって振動時に最も応力の集中する基部110側の領域(変位量の大きい部分)に形成されている。すなわち、熱の移動が最も大きい領域に設けられている。変質部151,152は、各音叉腕121,122の幅方向中央に位置し、音叉腕121,122の延在方向に沿う形状となっている。これら変質部151,152の延在方向における長さは、音叉腕121,122の長さの1/4以上1/2以下であって、振動片の温度特性や周波数の安定性を考慮して範囲が設定される。
【0033】
ここで、本実施形態における変質部151,152とは、レーザーが照射された部分が溶解した後に再結晶化した非結晶状態、少なくともアモルファス、多結晶、水晶、空洞などが入り混じった部分であって、水晶の結晶性が変化している状態を指す。つまり、変質部151,152は、空隙や単結晶が一部に含まれるなどして水晶とは異なる組織構造を有している。
【0034】
レーザーが照射されたことにより多結晶化が進むと、熱伝導率が低下するのと同時に熱膨張係数も低下することが予想される。一般的に、アモルファスの熱伝導率および熱膨張係数が単結晶より当然に低いことは明らかである。このため、多結晶化およびアモルファス化が進むと熱伝導率および熱膨張係数が低下するというのは、単結晶との差異を明確に示すものであると言える。そこで、アモルファスの特性、すなわち本実施形態における変質部151,152の特性を調べた結果を表1に示し、単結晶との違いを明らかにする。
【0035】
表1には、レーザーが照射されたことによって水晶の結晶性が変化した本実施形態における変質部と単結晶部(水晶単結晶)とにおける熱膨張係数(ppm/K)、弾性率(N/m2)、密度(g/cm3)、熱容量(J/Kg)、および熱伝導率(W/mK)の評価が示されている。
【0036】
【表1】
表1に示すように、単結晶部と変質部との比較において、弾性率、密度および熱容量に大きな違いは見受けられないが、熱膨張係数、熱伝導率に関しては単結晶部に比べて変質部の値が大幅に低下しており物性が大きく変化している。単結晶部の熱膨張数が13.7ppm/Kであるのに対して、変質部の熱膨張係数は0.56ppm/K程度である。一方、単結晶部の熱伝導率が10W/mKであるのに対して、変質部の熱伝導率は1.4W/mKである。このことから、本実施形態における変質部は、レーザーが照射されたことによって水晶の結晶構造が変質してアモルファス化したと考えられる。
【0037】
なお、本実施形態において変質部151,152は、上述したように音叉腕121,122の幅全体に形成されているのではなく、変質部151,152の両側に水晶の結晶性が変化していない側部121a,122a(単結晶部)が存在しているため、上記特性を有する変質部151,152を有していても圧電機能および機械的強度が確保された構成となっている。
【0038】
図2に示すように、本実施形態における変質部151,152の幅W1は、音叉腕121,122の幅Wの30%以上50%以下の範囲内で形成されていることが望ましい。例えば変質部151,152の幅W1が小さすぎると熱伝導が水晶とあまり変わらなくなってしまい、逆に音叉腕121,122の側面まで変質部151,152を設けてしまうと圧電性がなくなってしまう。また、変質部151,152の幅W1が大きすぎると音叉腕121,122にクラックが生じる場合もあることから、音叉腕121,122の幅Wにもよるが変質部151,152の幅W1を上記範囲内で形成するようにする。
【0039】
このような構成の音叉型水晶振動片1は、各音叉腕121,122の両主面と両側面との間で生じる互いに逆向きの電界によって屈曲振動を生じ、最終的に、音叉振動を生じることになる。例えば、音叉腕121において、中央部から両側面に向かうx方向の電界が印加されることにより、図2において右側の部分がy方向に伸びるとすると左側部分が収縮し、音叉腕122と対向する方向に変位する。
【0040】
一方、音叉腕122において、両側面から中央部に向かう方向にx方向の電界が印加されることにより、図2において左側の部分がy方向に伸びるとすると右側部分が収縮し、他方の音叉腕121と対向する方向に変位する。また、電界をそれぞれ上記の場合と逆にする電圧が電極123a,124a,123b,124bに印加されることにより、音叉腕121,122は離間する方向に振動し、一対の音叉腕121,122は互いに逆向きの水平方向に振動して、音叉振動を生じることになる。
【0041】
ところが、音叉型水晶振動片を小型化していった場合に、音叉腕121,122の振動に伴う水晶内部の熱の流れが振動を阻害して、その特性、すなわち音叉型水晶振動片1のQ値が著しく低下するおそれがあった。音叉型水晶振動片1のQ値は熱伝導率および熱膨張係数によって決定されるもので、その値が10000以上あることが望ましく、Q値を改善する対策が必要であった。
【0042】
このため、本実施形態においては音叉型水晶振動片1の内部に水晶の結晶構造が変質した変質部151,152を設けることによって、小型化に伴うQ値の低下を大幅に改善できるようにした。すなわち、レーザー照射によって変質を加えられた変質部151,152は結晶構造が崩れて粗な状態となるため、熱の伝導が遮断されるとともに熱膨張係数が小さくなる(表1)。本実施形態では、特に、振動時に最も応力の集中する基部110側の領域、熱移動の大きい領域に変質部151,152が設けられていることから、振動に起因する熱移動の影響を抑えることができる。したがって、変質部151,152を有した音叉型水晶振動片1は、Q値が改善されて発振周波数が安定し、小型で高性能なものとなる。
【0043】
本実施の形態に係る音叉型水晶振動片1は以上のように構成されるが、以下、その製造方法の一例について、図4,5に示す工程図、および図6に示すレーザー照射装置20を参照して説明する。
【0044】
先ず、水晶基板30を用意する。水晶基板30は、水晶ブロックからウェハ状に切り出されて研磨され、平坦な平板形状をなす。図4(a)に示すように、このような水晶基板30の表面に、Cr膜およびAu膜をこの順で積層してなる保護膜31を形成する。
【0045】
次に、図4(b)に示すように保護膜31の表面にレジストReをコーティングし、フォトリソ工程を経て図4(c)に示すような所望形状にパターン化したレジストマスク32を形成する。このレジストマスク32は、音叉型水晶振動片1の外形形状に対応している。
【0046】
次に、図4(d)に示すように、レジストマスク32の形状に従って保護膜31をAu膜、Cr膜の順にエッチングする。保護膜31をパターニングした後、図5(e)に示すように、水晶基板30を音叉型水晶振動片1の外形の形状にエッチングすることによって、基部110(図1)および音叉腕121,122を有した振動片本体102が得られる。そして、この振動片本体102を図6に示すレーザー照射装置20にセットする。
【0047】
本実施形態の製造方法に用いるレーザー照射装置20は、図6に示すようにレーザー光源23、光学系、多軸ステージ28を基本として構成されており、レーザー光源23から発せられたレーザー光が、ハーフミラー26を経て対物レンズ27に入射されて水晶基板30に照射されるようになっている。
【0048】
そして、図6に示すレーザー照射装置20の多軸ステージ28上に載置した振動片本体102(音叉腕121,122)の所定領域に対してフェムト秒レーザー照射を行い、図5(e)に示すようにレーザー照射部分の結晶内部に変質部151,152を形成する。レーザー光を照射すると、その熱エネルギーによって水晶基板30の結晶の相転移などが生じて変質部151,152が形成される。
【0049】
ここで、フェムト秒レーザーとは、パルス幅がフェムト秒(fs:10−15秒)台のパルスレーザーであって、極めて短時間に高エネルギーが照射部位に集中するためその周囲に熱伝導が生じる前に加工が進行し、集光領域のみの加工が誘起される。このため、照射部位の周辺には影響が殆ど及ばない。また、フェムト秒レーザーを使用することで、水晶のような透明部材に対しても集光照射が可能である。
【0050】
本実施形態では、フェムト秒レーザーとして、例えば波長800nm、パルス幅130fs、周波数5kHzのチタン−サファイヤレーザーを使用する。レーザー光線の集光スポット径は0.5〜1μm程度である。
【0051】
また、レーザー出力は150nJ〜450nJ、好ましくは200nJ〜400nJであって、本実施形態では300nJに設定する。なお、レーザー出力を100nJとした場合には変質部分を目視で確認することができず、出力を300nJにすることで変質部分を目視で確認することが可能となる。また、出力を500nJまで高めた場合には、変質部分を目視で確認できるものの、多軸ステージ28の移動方向に亀裂が入ってしまう。
【0052】
水晶基板30に対するレーザー光の照射位置の走査は、水晶基板30を載置した多軸ステージ28を移動させることによって行う。この多軸ステージ28は、X方向、Y方向、Z方向のいずれにも移動できるように構成されている。この多軸ステージ28は、ドライバ9を介してコンピューター装置10によって制御されて移動する。すなわち、コンピューター装置10は、多軸ステージ28を所定のプログラムに従って駆動させることにより、水晶基板30において、レーザー光の集光点が任意の予定された軌跡上を走査されるようにする。さらに、多軸ステージ28の上方には、多軸ステージ28上に載置される水晶基板30のアライメントの整合をとるためのCCDカメラ21が備えられており、このCCDカメラ21の映像に基づいて水晶基板30に対するレーザー光の照射位置等定めることとする。
【0053】
本実施形態では、多軸ステージ28を例えば一方向に移動させることで、水晶基板30の所定領域に対して音叉腕121,122の延在方向に沿った直線状の変質部151,152を形成する。このとき、上述したように多軸ステージ28の移動速度を毎秒2.5mm、レーザー光の照射間隔を5kHzとすることで隣り合う照射ラインの間隔、所謂スポット間隔を0.5μmにし、照射ライン同士が繋がるように加工する。さらに、板厚100μmの水晶基板30の厚み方向に焦点距離を5μmずつ変えて、図5(f)に示すように、水晶基板30の厚み方向全体に変質部151,152を形成する。
なお、図示してはいないが、振動片本体102の表面にレーザー照射領域に対応したマスクパターンを形成しておくことが好ましい。
【0054】
次に、図5(g)に示すように、変質部151,152を有した水晶基板30の表面全体にAu膜,Cr膜を成膜して電極膜33を形成する。そして、電極膜33上に形成したレジストマスク34のパターン形状に従ってCr膜,Au膜をこの順にエッチングすることによって、図5(h)に示すような励振電極123a,124a、駆動電極123b、124b、基部電極125a,125a(図2)および電極125b(図2)を形成する。その後、レジストマスク34を剥離することにより、内部に変質部151,152を有した本実施形態の音叉型水晶振動片1が得られる。
【0055】
このような製造方法によれば、音叉型水晶振動片1における所定領域にのみ変質部151,152を形成することが可能である。また、フェムト秒レーザーを用いることによって、必要な箇所に必要な数だけ確実且つ容易に変質部151,152を形成することができる。
なお、各図において変質部151,152は、連続的に描かれているが、レーザー照射スポットの集まり(規則的、ランダム)であっても構わない。
また、音叉型水晶振動片1はZカット水晶片からなっていてもよい。
【0056】
(第2実施形態)
次に、本発明の第2実施形態の音叉型水晶振動片2について説明する。図7は、第2実施形態の音叉型水晶振動片の概略構成を示す平面図、図8は、図7のF−F’断面図、図9は、第2実施形態における振動片本体を示す平面図である。以下の説明では、先の実施形態と異なる構造について詳しく説明し、共通な箇所の説明は省略する。また、説明に用いる各図面において、図1〜図6と共通の構成要素には同一の符号を付すものとする。
【0057】
本実施形態の音叉型水晶振動片2は、図7に示すように音叉腕121,122の両主面における一部に音叉腕121,122の延在方向に延びる溝141,142が形成されている。この溝141,142は、音叉腕121,122の両主面に同様に形成されていることから、図8の断面図では略H型となっている。溝141,142の長さは、音叉腕121,122の長さLに対して50%〜70%の長さに設定されている。
【0058】
各音叉腕121,122に形成されている溝141,142には、図7,8に示すように励振電極123a,124aが形成されている。
また、各音叉腕121,122の両側面には駆動電極123b,124bが配置され、基部110には基部電極125aが配置されている。
【0059】
本実施形態の音叉型水晶振動片2には、音叉腕121,122の基部110側の領域に、図7〜図9に示すような変質部161,162が形成されている。変質部161,162は、音叉型水晶振動片2の圧電振動にはあまり寄与しない領域であって音叉腕121,122の基部110側の領域、より具体的には溝141,142の底壁のうち基部110側の領域に変質部161,162が形成されている。また、変質部161,162は、溝141,142の底壁の厚さ方向全体に形成されている。
【0060】
次に、図10及び図11を参照して本実施形態の音叉型水晶振動片2の製造方法の一例について説明する。なお、水晶基板30を音叉型水晶振動片2の外形形状に形成することについては先の実施形態と同様である。
本実施形態では、図4(a)〜(d)及び図5(e)を終えた後、水晶基板30上からレジストマスクおよび保護膜を剥離して図10(i)に示すような状態にする。次に、図10(j)に示すように水晶基板30の表面全体にCr膜およびAu膜からなる保護膜41を形成し、さらにこの保護膜41上にパターン化されたレジストマスク42を形成する。このレジストマスク42は各音叉腕121,122に形成する溝パターンに対応している。
【0061】
次に、図10(k)に示すように、レジストマスク42を介してエッチングを行うことによって保護膜41をパターン形成し、水晶基板30の一部を露出させる。その後、この水晶基板30に対して所定時間、エッチング処理を行うことにより、図10(l)に示すように音叉腕121,122の両主面のそれぞれに溝141,142が複数形成される。本実施形態においては、水晶基板30をエッチングすることによって音叉腕121,122の両主面のそれぞれに溝141,142を形成する。ここで、エッチング処理において、所望の溝の深さになるように処理時間を調整する。
【0062】
次に、図11(m)に示すように、レーザー照射装置20により音叉腕121,122の基部110側の所定領域にフェムト秒レーザーを照射し、エッチングによって薄板化された基板の厚み方向全体に変質部161,162を形成する。具体的には、平面視において溝141,142と重なる領域であってそのうちの基部110側の領域にライン状にレーザーを照射することによって水晶を変質させる。
【0063】
次に、図11(n)に示すように、変質部161,162を有した水晶基板30の表面全体にAu膜,Cr膜を成膜して電極膜33を形成する。そして、図11(o)に示すように、電極膜33上に形成したレジストマスク34のパターン形状に従ってCr膜,Au膜をこの順にエッチングすることによって、図11(p)に示すような励振電極123a,124a、駆動電極123b、124b、基部電極125a,125a(図2)および電極125b(図2)を形成する。その後、レジストマスク34を剥離することにより、内部に変質部161,162を有した本実施形態の音叉型水晶振動片2が得られる。
【0064】
このようにして製造された本実施形態の音叉型水晶振動片2は、各溝141、142の底壁における基部110側の領域に変質部161,162を有している。これら変質部161,162によって振動片のQ値の低下を防止することが可能であるとともに、溝141,142によって振動効率の向上や電力損失を抑えることが可能である。したがって、これらの相乗効果によって、振動片全体を小型化した場合にも、安定した周波数特性を得ることができて信頼性に優れたものとなる。
【0065】
(実施例1)
次に、本発明に係る変質部を有する音叉型水晶振動片と、変質部を有しない従来の音叉型水晶振動片との性能の違いについて調べた。各振動片がそれぞれ、音叉腕121,122の幅W1が50μm、腕の長さLが1100μm、発振周波数が32kHzとされた溝付き音叉型水晶振動片であって、一方の振動片に変質部が音叉腕の長さに亘って形成されている場合、変質部を有しない音叉型水晶振動片のQ値が15000であるのに対して、変質部を有する音叉型水晶振動片のQ値は24000程度にまで大幅に向上した。これにより、変質部がQ値の改善に寄与していることを確認できた。
また、音叉腕の長さ方向の一部に変質部が形成されている場合のQ値が21000であったことから、変質部を音叉腕の長さに亘って設けることでQ値の改善効果が向上することが分かった。よって、振動片の長さに亘って変質部を設けることでより高いQ値が得られると考えられる。
【0066】
(振動子)
図12は、本発明に係る振動子であるセラミックパッケージ音叉型振動子200を示す図である。このセラミックパッケージ音叉型振動子200は、音叉型水晶振動片100として上述の第1、第2実施形態のいずれかの振動片を用いている。したがって、音叉型水晶振動片1,2の構成、作用等については、同一符号を用いてその説明を省略する。
【0067】
図12に示すようにセラミックパッケージ音叉型振動子200は、その内側に空間を有する箱状のパッケージ210を有している。このパッケージ210には、その底部にベース部211を備えている。このベース部211は、例えばアルミナ等のセラミックス等で形成されている。
【0068】
ベース部211上には、封止部212が設けられており、この封止部212は、ベース部211と同様の材料から形成されている。また、封止部212の上端部には、蓋体213が載置され、これらベース部211、封止部212及び蓋体213で、中空の箱体を形成することになる。このように形成されているパッケージ210のベース部211上にはパッケージ側電極214が設けられている。
【0069】
パッケージ側電極214の上には導電性接着剤等を介して音叉型水晶振動片1の基部110が固定されている。音叉型水晶振動片100は、上述したように第1、第2実施形態のいずれかの構成であるため、小型で周波数特性が安定しているので、この振動片を搭載したセラミックパッケージ音叉型振動子200も小型で周波数特性が安定した高性能な振動子となる。
【0070】
図13は、本発明に係る発振器である音叉水晶発振器400を示す図である。この音叉水晶発振器400は、先に記載のセラミックパッケージ音叉型振動子200と多くの部分で構成が共通していることから、セラミックパッケージ音叉型振動子200と同等の構成、作用等については、同一符号を用いてその説明を省略する。
【0071】
図13に示す音叉水晶発振器400は、図12に示すセラミックパッケージ音叉型振動子200における音叉型水晶振動片1の下方、かつベース部211の上に、図13に示すように集積回路410を配置したものである。すなわち、音叉水晶発振器400では、その内部に配置された音叉型水晶振動片100が振動すると、その振動は、集積回路410に入力され、その後、所定の周波数信号を取り出すことで、発振器として機能することになる。すなわち、音叉水晶発振器400に収容されている音叉型水晶振動片100は、第1および第2のいずれかの構成であるため、小型で発振周波数が安定しているので、この振動片を搭載したデジタル音叉水晶発振器400も小型で発振周波数が安定した高性能な発振器となる。
【0072】
図14は、本発明に係る振動子であるシリンダータイプ音叉振動子500を示す図である。このシリンダータイプ音叉振動子500は、上述の第1実施形態または第2実施形態の音叉型水晶振動片1,2を使用している。したがって、音叉型水晶振動片100の構成、作用等については、同一符号を用いる等して、その説明を省略する。図14は、シリンダータイプ音叉振動子500の構成を示す概略図である。図14に示すようにシリンダータイプ音叉振動子500は、その内部に音叉型水晶振動片1を収容するための金属製のキャップ530を有している。このキャップ530は、ステム520に対して圧入され、その内部が真空状態に保持されるようになっている。
【0073】
また、キャップ530に収容された略H型の音叉型水晶振動片1を保持するためのリード510が2本配置されている。このようなシリンダータイプ音叉振動子500に外部より電流等を印加すると音叉型水晶振動片100の音叉腕121,122が振動し、振動子として機能することになる。このとき、音叉型水晶振動片100は、第1、第2実施形態のいずれかの構成であるため、小型で発振周波数が安定しているので、この振動片を搭載したシリンダータイプ音叉振動子500も小型で発振周波数が安定した高性能な振動子となる。
【0074】
以上、添付図面を参照しながら本発明に係る好適な実施形態について説明したが、本発明は係る例に限定されないことは言うまでもなく、上記各実施形態を組み合わせても良い。当業者であれば、特許請求の範囲に記載された技術的思想の範疇内において、各種の変更例または修正例に想到し得ることは明らかであり、それらについても当然に本発明の技術的範囲に属するものと了解される。
【0075】
例えば、先の実施形態に係る音叉型水晶振動片1、2は、上述の例のみならず、他の電子機器、携帯情報端末、さらに、テレビジョン、ビデオ機器、所謂ラジカセ、パーソナルコンピュータ等の時計内蔵機器及び時計にも用いることができる。
【符号の説明】
【0076】
1、2…音叉型水晶振動片(水晶振動片)、121,122…音叉腕(振動腕部)、110…基部、123a、124a…励振電極、123b,124b…駆動電極、125a、125a…基部電極、125b…電極、151,152,161,162…変質部、141,142…溝、200…セラミックパッケージ音叉型振動子、400…音叉水晶発振器(発振器)、500…シリンダータイプ音叉振動子(振動子)
【技術分野】
【0001】
本発明は、水晶振動片及びその製造方法、振動子、発振器、電子機器に関するものである。
【背景技術】
【0002】
従来より、水晶振動子が様々な電子機器の発振回路に周波数制御素子として採用されている。特に、小型で壊れにくく、正確に振動する省電力の水晶振動子として音叉型振動子が用いられている。このような音叉振動子は、クロック源として時計を含む各種電子機器に発振回路とともに内蔵され、印加された電圧に伴って、逆圧電現象により振動する。
【0003】
近年では、各種電子機器の小型化に対応すべく音叉型振動子の小型化の要求が高まってきている。しかしながら、音叉型振動子を小型化していった場合、Q値が著しく低下するという課題が存在する。
そこで、例えば一対の振動腕部の両主面に溝を設けて熱弾性によるQ値の低下を抑える構造が提案されている(特許文献1、2)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】実開平2−32229号公報
【特許文献2】特開2002−280870号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
しかしながら、音叉水晶振動子をさらに小型化した場合、溝だけではQ値の低下を抑えることができないという問題を有している。Q値が大きいほど発振が安定することから、小型化した場合であっても適正なQ値を得られる構造が求められている。
【0006】
本発明は、上記従来技術の問題点に鑑み成されたものであって、小型で安定した周波数特性を有する水晶振動片及びその製造方法、振動子、発振器、電子機器を提供することを目的としている。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明の水晶振動片は、上記課題を解決するために、基部と基部から互いに平行に延出された一対の振動腕部とを有する振動片本体と、振動腕部の両主面に形成された励振電極と振動腕部の両側面に形成された駆動電極とを有する水晶振動片であって、
水晶とは異なる組織構造を有する変質部が、振動腕部の少なくとも一部に形成されている。
【0008】
本発明によれば、水晶とは異なる組織構造を有する変質部が振動腕部の少なくとも一部に形成されているので、振動腕部の振動に起因する熱弾性等の影響によってQ値が低下してしまうのを防止することができる。これにより、小型であっても適正なQ値が得られ、発振周波数が安定した水晶振動片が得られる。
【0009】
また、変質部が、振動腕部における基部との接続部分に形成されていることが好ましい。
本発明によれば、熱の移動が最も大きい振動腕部における基部との接続部分に変質部を形成することによって、振動に起因する熱弾性等の影響によってQ値が低下してしまうのを効果的に抑えられる。
【0010】
また、変質部が、少なくともアモルファス、多結晶、水晶、空洞などが入り混じった状態であることが好ましい。
本発明によれば、変質部が少なくともアモルファス、多結晶、水晶、空洞などが入り混じった状態であるため、水晶よりも熱伝導性及び熱膨張率が低くなり、Q値の低下を効率よく抑えることが可能である。
【0011】
また、変質部が、振動腕部を厚さ方向に貫通して形成されていることが好ましい。
本発明によれば、変質部が振動腕部の厚さ方向に亘って形成されているので、熱伝導性及び熱膨張率をより低下させることができてQ値の改善効果が向上する。
【0012】
また、変質部が、振動腕部の長さ方向に沿って形成されていることが好ましい。
本発明によれば、振動腕部の長さ方向に沿って形成されているので、熱伝導性及び熱膨張率をより低下させることができてQ値の改善効果が向上する。
【0013】
また、変質部の長さが、振動腕部の長さの1/4以上1/2以下であることが好ましい。
本発明によれば、熱の移動が比較的大きい領域に変質部を形成することによってより効果的にQ値を改善できる。
【0014】
また、変質部の幅が、振動腕部の幅に対して10%〜80%の範囲であることが好ましい。
本発明によれば、変質部の幅が振動腕部の幅に対して10%未満の場合、水晶と略同じような性質であるためQ値を改善する効果があまり期待できない。また、80%以上の場合には、圧電機能を確保できなくなったり機械的強度が低下するおそれがある。よって、振動腕部の幅を上記範囲内で設定することで、圧電機能及び機械的強度を確保しつつ従来よりもQ値を改善することが可能である。
【0015】
また、振動腕部の両主面に、振動腕部の長さ方向に沿って延びる溝がそれぞれ形成されており、変質部が溝の底壁にのみ形成されていることが好ましい。
本発明によれば、振動腕部の振動損失を低くすることができ、振動効率を向上させることができる。
【0016】
本発明の水晶振動片の製造方法は、上記課題を解決するために、基部と基部から互いに平行に延出された一対の振動腕部とを有する振動片本体と、振動腕部の両主面に形成された励振電極と振動腕部の両側面に形成された駆動電極とを有する水晶振動片の製造方法であって、水晶基板をエッチングすることにより基部及び振動腕部を形成する工程と、振動腕部の少なくとも基端部にレーザーを照射することによって水晶とは異なる組織構造を有する変質部を形成する工程と、励振電極及び駆動電極を形成する工程と、を有する。
【0017】
本発明によれば、水晶とは異なる組織構造を有する変質部を振動腕部の少なくとも一部に形成されているので、振動腕部の振動に起因する熱弾性等の影響によってQ値が低下してしまうのを防止することができる。これにより、小型であっても適正なQ値が得られ、発振周波数が安定した水晶振動片が得られる。
【0018】
また、変質部を形成する工程において、振動腕部の基部との接続部分にレーザーを照射することが好ましい。
本発明によれば、熱の移動が最も大きい振動腕部における基部との接続部分に変質部を形成することができるので、振動に起因する熱弾性等の影響によってQ値が低下してしまうのを効果的に抑えられる。
【0019】
また、変質部を形成する工程において、振動腕部の長さ方向に沿ってレーザーを照射することが好ましい。
本発明によれば、振動腕部の熱移動の大きい領域に変質層を形成することができる。
【0020】
また、レーザーが、フェムト秒パルスレーザーであることが好ましい。
本発明によれば、透過性を有する水晶基板に対して変質部を確実に形成することができる。また、変質部(レーザー照射領域)の周囲に損傷を及ぼすおそれがない。また、少なくともアモルファス、多結晶、水晶、空洞などが入り混じった状態の変質部を形成することができる。
【0021】
また、レーザーの出力を、300nJ以上500nJ未満とすることが好ましい。
本発明によれば、変質部分を目視で確認できるので、変質部を所定の領域に確実且つ容易に形成することができる。また、レーザー照射後、水晶基板に亀裂等が入ることを防止できる。
【0022】
また、変質部を形成する工程の前に、振動腕部の両主面に溝を形成する工程を有することが好ましい。
本発明によれば、振動腕部の両主面に溝を形成することによって振動効率を良くすることができる。
【0023】
本発明の振動子は、先に記載の水晶振動片がパッケージ内に収容されてなるものである。
本発明によれば、変質部を有した水晶振動片を備えているので小型化しても安定した周波数発振特性を確保することができ、振動子としての信頼性が向上する。
【0024】
本発明の発振器は、先に記載の水晶振動片と、集積回路とが、パッケージ内に収容されてなるものである。
本発明によれば、変質部を有した水晶振動片を備えているので小型化しても安定した周波数発振特性を確保することができ、発振器としての信頼性が向上する。
【0025】
本発明の電子機器は、先に記載の水晶振動片がパッケージ内に収容されている振動子を有し、振動子を制御部に接続して用いることを特徴とする電子機器。
本発明によれば、変質部を有した水晶振動片を備えているので小型化しても安定した周波数発振特性を確保することができ、電気機器としての信頼性が向上する。
【図面の簡単な説明】
【0026】
【図1】第1実施形態における音叉型水晶振動片を示す平面図。
【図2】図1のE−E’断面図。
【図3】第1実施形態における振動片本体を示す平面図。
【図4】第1実施形態における音叉型水晶振動片の製造工程図。
【図5】第1実施形態における音叉型水晶振動片の製造工程図。
【図6】レーザー照射装置の概略構成図。
【図7】第2実施形態における音叉型水晶振動片を示す平面図。
【図8】図7のF−F’断面図。
【図9】第2実施形態における振動片本体を示す平面図。
【図10】第2実施形態における音叉型水晶振動片の製造工程図。
【図11】第2実施形態における音叉型水晶振動片の製造工程図。
【図12】本発明に係る振動子であるセラミックパッケージ音叉型振動子を示す図。
【図13】本発明に係る発振器である音叉水晶発振器を示す図。
【図14】本発明に係る振動子であるシリンダータイプ音叉振動子を示す図。
【発明を実施するための形態】
【0027】
以下、本発明の実施形態につき、図面を参照して説明する。なお、以下の説明に用いる各図面では、各部材を認識可能な大きさとするため、各部材の縮尺を適宜変更している。
【0028】
(音叉型水晶振動片の第1実施形態)
図1は、本発明の第1実施形態に係る水晶振動片である音叉型水晶振動片1の概略構成を示す図、図2は、図1のE’−E断面図、図3は、振動片本体102を示す平面図である。
音叉型水晶振動片1は、図1に示すように、基部110と、この基部110から図において上方(y方向)に延出された一対の音叉腕121,122(振動腕部)とを備えた振動片本体102を有している。本実施形態における音叉型水晶振動片1は、音叉腕121,122の幅Wが50μmから100μm、厚さtが50μmから100μmと極めて小さく、例えば32.768kHzで発信する小型振動片となっている。
【0029】
図1および図2に示すように、基部110は、音叉型水晶振動片1を例えばパッケージ等に実装する際に固定領域として機能するもので、その主面に基部電極125a、125aが設けられている。基部電極125aは、外部部品との電気的導通を図るための薄膜電極であって、導電性材料、例えば、Au,Al,Cu,Cr等の金属層、あるいはこれらを積層させた薄膜により形成されている。
【0030】
音叉腕121には、その両主面に励振電極123a,123aが対向配置され、両側面に駆動電極123b,123bが対向配置されている。また、音叉腕122の両主面には励振電極124a,124aが対向配置され、両側面に駆動電極124b,124bが対向配置されている。これら励振電極123a,124aおよび駆動電極123b,124bは、上述した基部電極125aと同じ材料からなる。さらに、各音叉腕121,122の先端部分には、給電を行う電極125bも形成されている。
【0031】
そして、各音叉腕121,122において、励振電極123a,124bに印加される励振電圧が同位相となり、駆動電極123b、124aに印加される駆動電圧が励振電極123a,124bとは逆位相となるよう負図示の駆動回路に結線される。
【0032】
本実施形態における音叉型水晶振動片1には、図1〜図3に示すようにその平面視における一部に変質部151,152が形成されている。これら変質部151,152は、水晶基板のうちレーザーが照射された結晶内部に形成されたもので、音叉型水晶振動片1の圧電振動にはあまり寄与しない領域であって振動時に最も応力の集中する基部110側の領域(変位量の大きい部分)に形成されている。すなわち、熱の移動が最も大きい領域に設けられている。変質部151,152は、各音叉腕121,122の幅方向中央に位置し、音叉腕121,122の延在方向に沿う形状となっている。これら変質部151,152の延在方向における長さは、音叉腕121,122の長さの1/4以上1/2以下であって、振動片の温度特性や周波数の安定性を考慮して範囲が設定される。
【0033】
ここで、本実施形態における変質部151,152とは、レーザーが照射された部分が溶解した後に再結晶化した非結晶状態、少なくともアモルファス、多結晶、水晶、空洞などが入り混じった部分であって、水晶の結晶性が変化している状態を指す。つまり、変質部151,152は、空隙や単結晶が一部に含まれるなどして水晶とは異なる組織構造を有している。
【0034】
レーザーが照射されたことにより多結晶化が進むと、熱伝導率が低下するのと同時に熱膨張係数も低下することが予想される。一般的に、アモルファスの熱伝導率および熱膨張係数が単結晶より当然に低いことは明らかである。このため、多結晶化およびアモルファス化が進むと熱伝導率および熱膨張係数が低下するというのは、単結晶との差異を明確に示すものであると言える。そこで、アモルファスの特性、すなわち本実施形態における変質部151,152の特性を調べた結果を表1に示し、単結晶との違いを明らかにする。
【0035】
表1には、レーザーが照射されたことによって水晶の結晶性が変化した本実施形態における変質部と単結晶部(水晶単結晶)とにおける熱膨張係数(ppm/K)、弾性率(N/m2)、密度(g/cm3)、熱容量(J/Kg)、および熱伝導率(W/mK)の評価が示されている。
【0036】
【表1】
表1に示すように、単結晶部と変質部との比較において、弾性率、密度および熱容量に大きな違いは見受けられないが、熱膨張係数、熱伝導率に関しては単結晶部に比べて変質部の値が大幅に低下しており物性が大きく変化している。単結晶部の熱膨張数が13.7ppm/Kであるのに対して、変質部の熱膨張係数は0.56ppm/K程度である。一方、単結晶部の熱伝導率が10W/mKであるのに対して、変質部の熱伝導率は1.4W/mKである。このことから、本実施形態における変質部は、レーザーが照射されたことによって水晶の結晶構造が変質してアモルファス化したと考えられる。
【0037】
なお、本実施形態において変質部151,152は、上述したように音叉腕121,122の幅全体に形成されているのではなく、変質部151,152の両側に水晶の結晶性が変化していない側部121a,122a(単結晶部)が存在しているため、上記特性を有する変質部151,152を有していても圧電機能および機械的強度が確保された構成となっている。
【0038】
図2に示すように、本実施形態における変質部151,152の幅W1は、音叉腕121,122の幅Wの30%以上50%以下の範囲内で形成されていることが望ましい。例えば変質部151,152の幅W1が小さすぎると熱伝導が水晶とあまり変わらなくなってしまい、逆に音叉腕121,122の側面まで変質部151,152を設けてしまうと圧電性がなくなってしまう。また、変質部151,152の幅W1が大きすぎると音叉腕121,122にクラックが生じる場合もあることから、音叉腕121,122の幅Wにもよるが変質部151,152の幅W1を上記範囲内で形成するようにする。
【0039】
このような構成の音叉型水晶振動片1は、各音叉腕121,122の両主面と両側面との間で生じる互いに逆向きの電界によって屈曲振動を生じ、最終的に、音叉振動を生じることになる。例えば、音叉腕121において、中央部から両側面に向かうx方向の電界が印加されることにより、図2において右側の部分がy方向に伸びるとすると左側部分が収縮し、音叉腕122と対向する方向に変位する。
【0040】
一方、音叉腕122において、両側面から中央部に向かう方向にx方向の電界が印加されることにより、図2において左側の部分がy方向に伸びるとすると右側部分が収縮し、他方の音叉腕121と対向する方向に変位する。また、電界をそれぞれ上記の場合と逆にする電圧が電極123a,124a,123b,124bに印加されることにより、音叉腕121,122は離間する方向に振動し、一対の音叉腕121,122は互いに逆向きの水平方向に振動して、音叉振動を生じることになる。
【0041】
ところが、音叉型水晶振動片を小型化していった場合に、音叉腕121,122の振動に伴う水晶内部の熱の流れが振動を阻害して、その特性、すなわち音叉型水晶振動片1のQ値が著しく低下するおそれがあった。音叉型水晶振動片1のQ値は熱伝導率および熱膨張係数によって決定されるもので、その値が10000以上あることが望ましく、Q値を改善する対策が必要であった。
【0042】
このため、本実施形態においては音叉型水晶振動片1の内部に水晶の結晶構造が変質した変質部151,152を設けることによって、小型化に伴うQ値の低下を大幅に改善できるようにした。すなわち、レーザー照射によって変質を加えられた変質部151,152は結晶構造が崩れて粗な状態となるため、熱の伝導が遮断されるとともに熱膨張係数が小さくなる(表1)。本実施形態では、特に、振動時に最も応力の集中する基部110側の領域、熱移動の大きい領域に変質部151,152が設けられていることから、振動に起因する熱移動の影響を抑えることができる。したがって、変質部151,152を有した音叉型水晶振動片1は、Q値が改善されて発振周波数が安定し、小型で高性能なものとなる。
【0043】
本実施の形態に係る音叉型水晶振動片1は以上のように構成されるが、以下、その製造方法の一例について、図4,5に示す工程図、および図6に示すレーザー照射装置20を参照して説明する。
【0044】
先ず、水晶基板30を用意する。水晶基板30は、水晶ブロックからウェハ状に切り出されて研磨され、平坦な平板形状をなす。図4(a)に示すように、このような水晶基板30の表面に、Cr膜およびAu膜をこの順で積層してなる保護膜31を形成する。
【0045】
次に、図4(b)に示すように保護膜31の表面にレジストReをコーティングし、フォトリソ工程を経て図4(c)に示すような所望形状にパターン化したレジストマスク32を形成する。このレジストマスク32は、音叉型水晶振動片1の外形形状に対応している。
【0046】
次に、図4(d)に示すように、レジストマスク32の形状に従って保護膜31をAu膜、Cr膜の順にエッチングする。保護膜31をパターニングした後、図5(e)に示すように、水晶基板30を音叉型水晶振動片1の外形の形状にエッチングすることによって、基部110(図1)および音叉腕121,122を有した振動片本体102が得られる。そして、この振動片本体102を図6に示すレーザー照射装置20にセットする。
【0047】
本実施形態の製造方法に用いるレーザー照射装置20は、図6に示すようにレーザー光源23、光学系、多軸ステージ28を基本として構成されており、レーザー光源23から発せられたレーザー光が、ハーフミラー26を経て対物レンズ27に入射されて水晶基板30に照射されるようになっている。
【0048】
そして、図6に示すレーザー照射装置20の多軸ステージ28上に載置した振動片本体102(音叉腕121,122)の所定領域に対してフェムト秒レーザー照射を行い、図5(e)に示すようにレーザー照射部分の結晶内部に変質部151,152を形成する。レーザー光を照射すると、その熱エネルギーによって水晶基板30の結晶の相転移などが生じて変質部151,152が形成される。
【0049】
ここで、フェムト秒レーザーとは、パルス幅がフェムト秒(fs:10−15秒)台のパルスレーザーであって、極めて短時間に高エネルギーが照射部位に集中するためその周囲に熱伝導が生じる前に加工が進行し、集光領域のみの加工が誘起される。このため、照射部位の周辺には影響が殆ど及ばない。また、フェムト秒レーザーを使用することで、水晶のような透明部材に対しても集光照射が可能である。
【0050】
本実施形態では、フェムト秒レーザーとして、例えば波長800nm、パルス幅130fs、周波数5kHzのチタン−サファイヤレーザーを使用する。レーザー光線の集光スポット径は0.5〜1μm程度である。
【0051】
また、レーザー出力は150nJ〜450nJ、好ましくは200nJ〜400nJであって、本実施形態では300nJに設定する。なお、レーザー出力を100nJとした場合には変質部分を目視で確認することができず、出力を300nJにすることで変質部分を目視で確認することが可能となる。また、出力を500nJまで高めた場合には、変質部分を目視で確認できるものの、多軸ステージ28の移動方向に亀裂が入ってしまう。
【0052】
水晶基板30に対するレーザー光の照射位置の走査は、水晶基板30を載置した多軸ステージ28を移動させることによって行う。この多軸ステージ28は、X方向、Y方向、Z方向のいずれにも移動できるように構成されている。この多軸ステージ28は、ドライバ9を介してコンピューター装置10によって制御されて移動する。すなわち、コンピューター装置10は、多軸ステージ28を所定のプログラムに従って駆動させることにより、水晶基板30において、レーザー光の集光点が任意の予定された軌跡上を走査されるようにする。さらに、多軸ステージ28の上方には、多軸ステージ28上に載置される水晶基板30のアライメントの整合をとるためのCCDカメラ21が備えられており、このCCDカメラ21の映像に基づいて水晶基板30に対するレーザー光の照射位置等定めることとする。
【0053】
本実施形態では、多軸ステージ28を例えば一方向に移動させることで、水晶基板30の所定領域に対して音叉腕121,122の延在方向に沿った直線状の変質部151,152を形成する。このとき、上述したように多軸ステージ28の移動速度を毎秒2.5mm、レーザー光の照射間隔を5kHzとすることで隣り合う照射ラインの間隔、所謂スポット間隔を0.5μmにし、照射ライン同士が繋がるように加工する。さらに、板厚100μmの水晶基板30の厚み方向に焦点距離を5μmずつ変えて、図5(f)に示すように、水晶基板30の厚み方向全体に変質部151,152を形成する。
なお、図示してはいないが、振動片本体102の表面にレーザー照射領域に対応したマスクパターンを形成しておくことが好ましい。
【0054】
次に、図5(g)に示すように、変質部151,152を有した水晶基板30の表面全体にAu膜,Cr膜を成膜して電極膜33を形成する。そして、電極膜33上に形成したレジストマスク34のパターン形状に従ってCr膜,Au膜をこの順にエッチングすることによって、図5(h)に示すような励振電極123a,124a、駆動電極123b、124b、基部電極125a,125a(図2)および電極125b(図2)を形成する。その後、レジストマスク34を剥離することにより、内部に変質部151,152を有した本実施形態の音叉型水晶振動片1が得られる。
【0055】
このような製造方法によれば、音叉型水晶振動片1における所定領域にのみ変質部151,152を形成することが可能である。また、フェムト秒レーザーを用いることによって、必要な箇所に必要な数だけ確実且つ容易に変質部151,152を形成することができる。
なお、各図において変質部151,152は、連続的に描かれているが、レーザー照射スポットの集まり(規則的、ランダム)であっても構わない。
また、音叉型水晶振動片1はZカット水晶片からなっていてもよい。
【0056】
(第2実施形態)
次に、本発明の第2実施形態の音叉型水晶振動片2について説明する。図7は、第2実施形態の音叉型水晶振動片の概略構成を示す平面図、図8は、図7のF−F’断面図、図9は、第2実施形態における振動片本体を示す平面図である。以下の説明では、先の実施形態と異なる構造について詳しく説明し、共通な箇所の説明は省略する。また、説明に用いる各図面において、図1〜図6と共通の構成要素には同一の符号を付すものとする。
【0057】
本実施形態の音叉型水晶振動片2は、図7に示すように音叉腕121,122の両主面における一部に音叉腕121,122の延在方向に延びる溝141,142が形成されている。この溝141,142は、音叉腕121,122の両主面に同様に形成されていることから、図8の断面図では略H型となっている。溝141,142の長さは、音叉腕121,122の長さLに対して50%〜70%の長さに設定されている。
【0058】
各音叉腕121,122に形成されている溝141,142には、図7,8に示すように励振電極123a,124aが形成されている。
また、各音叉腕121,122の両側面には駆動電極123b,124bが配置され、基部110には基部電極125aが配置されている。
【0059】
本実施形態の音叉型水晶振動片2には、音叉腕121,122の基部110側の領域に、図7〜図9に示すような変質部161,162が形成されている。変質部161,162は、音叉型水晶振動片2の圧電振動にはあまり寄与しない領域であって音叉腕121,122の基部110側の領域、より具体的には溝141,142の底壁のうち基部110側の領域に変質部161,162が形成されている。また、変質部161,162は、溝141,142の底壁の厚さ方向全体に形成されている。
【0060】
次に、図10及び図11を参照して本実施形態の音叉型水晶振動片2の製造方法の一例について説明する。なお、水晶基板30を音叉型水晶振動片2の外形形状に形成することについては先の実施形態と同様である。
本実施形態では、図4(a)〜(d)及び図5(e)を終えた後、水晶基板30上からレジストマスクおよび保護膜を剥離して図10(i)に示すような状態にする。次に、図10(j)に示すように水晶基板30の表面全体にCr膜およびAu膜からなる保護膜41を形成し、さらにこの保護膜41上にパターン化されたレジストマスク42を形成する。このレジストマスク42は各音叉腕121,122に形成する溝パターンに対応している。
【0061】
次に、図10(k)に示すように、レジストマスク42を介してエッチングを行うことによって保護膜41をパターン形成し、水晶基板30の一部を露出させる。その後、この水晶基板30に対して所定時間、エッチング処理を行うことにより、図10(l)に示すように音叉腕121,122の両主面のそれぞれに溝141,142が複数形成される。本実施形態においては、水晶基板30をエッチングすることによって音叉腕121,122の両主面のそれぞれに溝141,142を形成する。ここで、エッチング処理において、所望の溝の深さになるように処理時間を調整する。
【0062】
次に、図11(m)に示すように、レーザー照射装置20により音叉腕121,122の基部110側の所定領域にフェムト秒レーザーを照射し、エッチングによって薄板化された基板の厚み方向全体に変質部161,162を形成する。具体的には、平面視において溝141,142と重なる領域であってそのうちの基部110側の領域にライン状にレーザーを照射することによって水晶を変質させる。
【0063】
次に、図11(n)に示すように、変質部161,162を有した水晶基板30の表面全体にAu膜,Cr膜を成膜して電極膜33を形成する。そして、図11(o)に示すように、電極膜33上に形成したレジストマスク34のパターン形状に従ってCr膜,Au膜をこの順にエッチングすることによって、図11(p)に示すような励振電極123a,124a、駆動電極123b、124b、基部電極125a,125a(図2)および電極125b(図2)を形成する。その後、レジストマスク34を剥離することにより、内部に変質部161,162を有した本実施形態の音叉型水晶振動片2が得られる。
【0064】
このようにして製造された本実施形態の音叉型水晶振動片2は、各溝141、142の底壁における基部110側の領域に変質部161,162を有している。これら変質部161,162によって振動片のQ値の低下を防止することが可能であるとともに、溝141,142によって振動効率の向上や電力損失を抑えることが可能である。したがって、これらの相乗効果によって、振動片全体を小型化した場合にも、安定した周波数特性を得ることができて信頼性に優れたものとなる。
【0065】
(実施例1)
次に、本発明に係る変質部を有する音叉型水晶振動片と、変質部を有しない従来の音叉型水晶振動片との性能の違いについて調べた。各振動片がそれぞれ、音叉腕121,122の幅W1が50μm、腕の長さLが1100μm、発振周波数が32kHzとされた溝付き音叉型水晶振動片であって、一方の振動片に変質部が音叉腕の長さに亘って形成されている場合、変質部を有しない音叉型水晶振動片のQ値が15000であるのに対して、変質部を有する音叉型水晶振動片のQ値は24000程度にまで大幅に向上した。これにより、変質部がQ値の改善に寄与していることを確認できた。
また、音叉腕の長さ方向の一部に変質部が形成されている場合のQ値が21000であったことから、変質部を音叉腕の長さに亘って設けることでQ値の改善効果が向上することが分かった。よって、振動片の長さに亘って変質部を設けることでより高いQ値が得られると考えられる。
【0066】
(振動子)
図12は、本発明に係る振動子であるセラミックパッケージ音叉型振動子200を示す図である。このセラミックパッケージ音叉型振動子200は、音叉型水晶振動片100として上述の第1、第2実施形態のいずれかの振動片を用いている。したがって、音叉型水晶振動片1,2の構成、作用等については、同一符号を用いてその説明を省略する。
【0067】
図12に示すようにセラミックパッケージ音叉型振動子200は、その内側に空間を有する箱状のパッケージ210を有している。このパッケージ210には、その底部にベース部211を備えている。このベース部211は、例えばアルミナ等のセラミックス等で形成されている。
【0068】
ベース部211上には、封止部212が設けられており、この封止部212は、ベース部211と同様の材料から形成されている。また、封止部212の上端部には、蓋体213が載置され、これらベース部211、封止部212及び蓋体213で、中空の箱体を形成することになる。このように形成されているパッケージ210のベース部211上にはパッケージ側電極214が設けられている。
【0069】
パッケージ側電極214の上には導電性接着剤等を介して音叉型水晶振動片1の基部110が固定されている。音叉型水晶振動片100は、上述したように第1、第2実施形態のいずれかの構成であるため、小型で周波数特性が安定しているので、この振動片を搭載したセラミックパッケージ音叉型振動子200も小型で周波数特性が安定した高性能な振動子となる。
【0070】
図13は、本発明に係る発振器である音叉水晶発振器400を示す図である。この音叉水晶発振器400は、先に記載のセラミックパッケージ音叉型振動子200と多くの部分で構成が共通していることから、セラミックパッケージ音叉型振動子200と同等の構成、作用等については、同一符号を用いてその説明を省略する。
【0071】
図13に示す音叉水晶発振器400は、図12に示すセラミックパッケージ音叉型振動子200における音叉型水晶振動片1の下方、かつベース部211の上に、図13に示すように集積回路410を配置したものである。すなわち、音叉水晶発振器400では、その内部に配置された音叉型水晶振動片100が振動すると、その振動は、集積回路410に入力され、その後、所定の周波数信号を取り出すことで、発振器として機能することになる。すなわち、音叉水晶発振器400に収容されている音叉型水晶振動片100は、第1および第2のいずれかの構成であるため、小型で発振周波数が安定しているので、この振動片を搭載したデジタル音叉水晶発振器400も小型で発振周波数が安定した高性能な発振器となる。
【0072】
図14は、本発明に係る振動子であるシリンダータイプ音叉振動子500を示す図である。このシリンダータイプ音叉振動子500は、上述の第1実施形態または第2実施形態の音叉型水晶振動片1,2を使用している。したがって、音叉型水晶振動片100の構成、作用等については、同一符号を用いる等して、その説明を省略する。図14は、シリンダータイプ音叉振動子500の構成を示す概略図である。図14に示すようにシリンダータイプ音叉振動子500は、その内部に音叉型水晶振動片1を収容するための金属製のキャップ530を有している。このキャップ530は、ステム520に対して圧入され、その内部が真空状態に保持されるようになっている。
【0073】
また、キャップ530に収容された略H型の音叉型水晶振動片1を保持するためのリード510が2本配置されている。このようなシリンダータイプ音叉振動子500に外部より電流等を印加すると音叉型水晶振動片100の音叉腕121,122が振動し、振動子として機能することになる。このとき、音叉型水晶振動片100は、第1、第2実施形態のいずれかの構成であるため、小型で発振周波数が安定しているので、この振動片を搭載したシリンダータイプ音叉振動子500も小型で発振周波数が安定した高性能な振動子となる。
【0074】
以上、添付図面を参照しながら本発明に係る好適な実施形態について説明したが、本発明は係る例に限定されないことは言うまでもなく、上記各実施形態を組み合わせても良い。当業者であれば、特許請求の範囲に記載された技術的思想の範疇内において、各種の変更例または修正例に想到し得ることは明らかであり、それらについても当然に本発明の技術的範囲に属するものと了解される。
【0075】
例えば、先の実施形態に係る音叉型水晶振動片1、2は、上述の例のみならず、他の電子機器、携帯情報端末、さらに、テレビジョン、ビデオ機器、所謂ラジカセ、パーソナルコンピュータ等の時計内蔵機器及び時計にも用いることができる。
【符号の説明】
【0076】
1、2…音叉型水晶振動片(水晶振動片)、121,122…音叉腕(振動腕部)、110…基部、123a、124a…励振電極、123b,124b…駆動電極、125a、125a…基部電極、125b…電極、151,152,161,162…変質部、141,142…溝、200…セラミックパッケージ音叉型振動子、400…音叉水晶発振器(発振器)、500…シリンダータイプ音叉振動子(振動子)
【特許請求の範囲】
【請求項1】
基部と前記基部から互いに平行に延出された一対の振動腕部とを有する振動片本体と、前記振動腕部の両主面に形成された励振電極と前記振動腕部の両側面に形成された駆動電極とを有する水晶振動片であって、
水晶とは異なる組織構造を有する変質部が、前記振動腕部の少なくとも一部に形成されている
ことを特徴とする水晶振動片。
【請求項2】
前記変質部が、前記振動腕部における前記基部との接続部分に形成されている
ことを特徴とする請求項1記載の水晶振動片。
【請求項3】
前記変質部が、少なくともアモルファス、多結晶、水晶、空洞などが入り混じった状態である
ことを特徴とする請求項1または2記載の水晶振動片。
【請求項4】
前記変質部が、前記振動腕部を厚さ方向に貫通して形成されている
ことを特徴とする請求項1ないし3のいずれか一項に記載の水晶振動片。
【請求項5】
前記変質部が、前記振動腕部の長さ方向に沿って形成されている
ことを特徴とする請求項1ないし4のいずれか一項に記載の水晶振動片。
【請求項6】
前記変質部の長さが、前記振動腕部の長さの1/4以上1/2以下である
ことを特徴とする請求項1ないし5のいずれか一項に記載の水晶振動片。
【請求項7】
前記変質部の幅が、前記振動腕部の幅に対して10%〜80%の範囲である
ことを特徴とする請求項1ないし6のいずれか一項に記載の水晶振動片。
【請求項8】
前記振動腕部の両主面に、前記振動腕部の長さ方向に沿って延びる溝がそれぞれ形成されており、前記変質部が前記溝の底壁にのみ形成されている
ことを特徴とする請求項1ないし7のいずれか一項に記載の水晶振動片。
【請求項9】
基部と前記基部から互いに平行に延出された一対の振動腕部とを有する振動片本体と、前記振動腕部の両主面に形成された励振電極と前記振動腕部の両側面に形成された駆動電極とを有する水晶振動片の製造方法であって、
水晶基板をエッチングすることにより前記基部及び前記振動腕部を形成する工程と、
前記振動腕部の少なくとも一部にレーザーを照射することによって水晶とは異なる組織構造を有する変質部を形成する工程と、
前記励振電極及び前記駆動電極を形成する工程と、を有する
ことを特徴とする水晶振動片の製造方法。
【請求項10】
前記変質部を形成する工程において、
前記振動腕部の前記基部との接続部分に前記レーザーを照射する
ことを特徴とする請求項9記載の水晶振動片の製造方法。
【請求項11】
前記変質部を形成する工程において、
前記振動腕部の長さ方向に沿って前記レーザーを照射する
ことを特徴とする請求項9または10記載の水晶振動片の製造方法。
【請求項12】
前記レーザーが、フェムト秒パルスレーザーである
ことを特徴とする請求項9または11記載の水晶振動片の製造方法。
【請求項13】
前記レーザーの出力を、300nJ以上500nJ未満とする
ことを特徴とする請求項9ないし12のいずれか一項に記載の水晶振動片の製造方法。
【請求項14】
前記変質部を形成する工程の前に、
前記振動腕部の両主面に溝を形成する工程を有する
ことを特徴とする請求項9ないし13のいずれか一項に記載の水晶振動片の製造方法。
【請求項15】
請求項1ないし請求項8のいずれかに記載の水晶振動片が、パッケージ内に収容されていることを特徴とする振動子。
【請求項16】
請求項1ないし請求項8いずれかに記載の水晶振動片と、集積回路とが、パッケージ内に収容されることを特徴とする発振器。
【請求項17】
請求項1ないし請求項8いずれかに記載の水晶振動片がパッケージ内に収容されている振動子を有し、前記振動子を制御部に接続して用いることを特徴とする電子機器。
【請求項1】
基部と前記基部から互いに平行に延出された一対の振動腕部とを有する振動片本体と、前記振動腕部の両主面に形成された励振電極と前記振動腕部の両側面に形成された駆動電極とを有する水晶振動片であって、
水晶とは異なる組織構造を有する変質部が、前記振動腕部の少なくとも一部に形成されている
ことを特徴とする水晶振動片。
【請求項2】
前記変質部が、前記振動腕部における前記基部との接続部分に形成されている
ことを特徴とする請求項1記載の水晶振動片。
【請求項3】
前記変質部が、少なくともアモルファス、多結晶、水晶、空洞などが入り混じった状態である
ことを特徴とする請求項1または2記載の水晶振動片。
【請求項4】
前記変質部が、前記振動腕部を厚さ方向に貫通して形成されている
ことを特徴とする請求項1ないし3のいずれか一項に記載の水晶振動片。
【請求項5】
前記変質部が、前記振動腕部の長さ方向に沿って形成されている
ことを特徴とする請求項1ないし4のいずれか一項に記載の水晶振動片。
【請求項6】
前記変質部の長さが、前記振動腕部の長さの1/4以上1/2以下である
ことを特徴とする請求項1ないし5のいずれか一項に記載の水晶振動片。
【請求項7】
前記変質部の幅が、前記振動腕部の幅に対して10%〜80%の範囲である
ことを特徴とする請求項1ないし6のいずれか一項に記載の水晶振動片。
【請求項8】
前記振動腕部の両主面に、前記振動腕部の長さ方向に沿って延びる溝がそれぞれ形成されており、前記変質部が前記溝の底壁にのみ形成されている
ことを特徴とする請求項1ないし7のいずれか一項に記載の水晶振動片。
【請求項9】
基部と前記基部から互いに平行に延出された一対の振動腕部とを有する振動片本体と、前記振動腕部の両主面に形成された励振電極と前記振動腕部の両側面に形成された駆動電極とを有する水晶振動片の製造方法であって、
水晶基板をエッチングすることにより前記基部及び前記振動腕部を形成する工程と、
前記振動腕部の少なくとも一部にレーザーを照射することによって水晶とは異なる組織構造を有する変質部を形成する工程と、
前記励振電極及び前記駆動電極を形成する工程と、を有する
ことを特徴とする水晶振動片の製造方法。
【請求項10】
前記変質部を形成する工程において、
前記振動腕部の前記基部との接続部分に前記レーザーを照射する
ことを特徴とする請求項9記載の水晶振動片の製造方法。
【請求項11】
前記変質部を形成する工程において、
前記振動腕部の長さ方向に沿って前記レーザーを照射する
ことを特徴とする請求項9または10記載の水晶振動片の製造方法。
【請求項12】
前記レーザーが、フェムト秒パルスレーザーである
ことを特徴とする請求項9または11記載の水晶振動片の製造方法。
【請求項13】
前記レーザーの出力を、300nJ以上500nJ未満とする
ことを特徴とする請求項9ないし12のいずれか一項に記載の水晶振動片の製造方法。
【請求項14】
前記変質部を形成する工程の前に、
前記振動腕部の両主面に溝を形成する工程を有する
ことを特徴とする請求項9ないし13のいずれか一項に記載の水晶振動片の製造方法。
【請求項15】
請求項1ないし請求項8のいずれかに記載の水晶振動片が、パッケージ内に収容されていることを特徴とする振動子。
【請求項16】
請求項1ないし請求項8いずれかに記載の水晶振動片と、集積回路とが、パッケージ内に収容されることを特徴とする発振器。
【請求項17】
請求項1ないし請求項8いずれかに記載の水晶振動片がパッケージ内に収容されている振動子を有し、前記振動子を制御部に接続して用いることを特徴とする電子機器。
【図1】
【図2】
【図3】
【図4】
【図5】
【図6】
【図7】
【図8】
【図9】
【図10】
【図11】
【図12】
【図13】
【図14】
【図2】
【図3】
【図4】
【図5】
【図6】
【図7】
【図8】
【図9】
【図10】
【図11】
【図12】
【図13】
【図14】
【公開番号】特開2010−183139(P2010−183139A)
【公開日】平成22年8月19日(2010.8.19)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−22308(P2009−22308)
【出願日】平成21年2月3日(2009.2.3)
【出願人】(000002369)セイコーエプソン株式会社 (51,324)
【Fターム(参考)】
【公開日】平成22年8月19日(2010.8.19)
【国際特許分類】
【出願日】平成21年2月3日(2009.2.3)
【出願人】(000002369)セイコーエプソン株式会社 (51,324)
【Fターム(参考)】
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