説明

水溶性樹脂フィルム、その製造方法、偏光子、その製造方法、偏光板、光学フィルムおよび画像表示装置

【課題】 水溶性樹脂により形成されるマトリクス中に、微小領域が分散された構造の水溶性樹脂フィルムであって、面内均一性の良好な水溶性樹脂フィルムおよびその製造方法を提供すること。
【解決手段】 水溶性樹脂により形成されるマトリクス中に、微小領域が分散された構造の水溶性樹脂フィルムであって、フィルムの幅方向の厚みムラが15%以下であり、かつフィルムの幅方向のヘイズのムラが5%以下であることを水溶性樹脂フィルム。この水溶性樹脂フィルムは、複屈折材料により形成された微小領域が、水溶性樹脂溶液中に分散している混合溶液を、表面粗さ(Ra)が1.5μm以下の金属表面上に塗布、乾燥することにより製膜を行うことにより製造する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、水溶性樹脂フィルムおよびその製造方法に関する。当該水溶性樹脂フィルムは、例えば、偏光子製造用の原反フィルムとして用いることができる。また本発明は、前記水溶性樹脂フィルムを用いた偏光子およびその製造方法、に関する。また本発明は前記偏光子を用いた偏光板、光学フィルムに関する。さらには前記偏光子、偏光板、光学フィルムを用いた液晶表示装置、有機EL表示装置、CRT、PDP等の画像表示装置に関する。
【背景技術】
【0002】
時計、携帯電話、PDA、ノートパソコン、パソコン用モニター、DVDプレイヤー、TVなどでは液晶表示装置が急速に市場展開している。液晶表示装置は、液晶のスイッチングによる偏光状態変化を可視化させたものであり、その表示原理から偏光子が用いられている。近年では、液晶モニターや液晶TVなどが急速に普及している、それに伴いこれらの用途では、高輝度かつ高コントラストな表示が求められ、偏光子にも、より明るく(高透過率)、より高コントラスト(高偏光度)のものが開発され導入されている。また画面の大型化により、大面積においても面内均一性(染色ムラ、偏光特性のバラツキ)等の光学特性の良好な偏光子が求められている。
【0003】
偏光子としては、たとえば、ポリビニルアルコール等の水溶性樹脂にヨウ素を吸着させ、延伸した構造のヨウ素系偏光子が高透過率、高偏光度を有することから広く用いられている(特許文献1)。かかる偏光子において、光学特性の均一性のためには、厚みの均一な原反フィルム(ポリビニルアルコールフィルム等の水溶性樹脂フィルム)を用いること、原反フィルムはヨウ素をはじめとする二色性材料により均一に染色すること、偏光子にトリアセチルセルロースなどの保護フィルムをムラなく貼り合わせることなど、多くの注意点があるが、特に素材である原反フィルムの均一性が重要である。そのため、大面積で面内均一性(染色ムラ、偏光特性のバラツキ)等の光学特性を満足する偏光子を得るために、例えば、原反フィルムの厚み制御を工夫する改善がなされている。
【0004】
原反フィルムを製造する方法としては、例えば、溶液または溶融状態のポリビニルアルコール等の水溶性樹脂を含有する製膜原料を、ダイから、加熱したベルトまたはドラムに吐出し乾燥することにより製膜を行う方法が、工業的に用いられている。
【0005】
しかし、前記原反フィルムは、光学用途の偏光子の製造に用いるものであるため種々の問題がある。例えば、ベルトに溶液または溶融状態の製膜原料を吐出し乾燥する製膜方法では、ベルトの要求品質として、ベルト継ぎ目が均一であること、幅2m以上かつ長さ数十m以上にわたって鏡面光沢であること等が必要とされ、技術的に幅広で長尺のベルトを製造しなければならない点で問題になる場合があった。また製膜時の樹脂付着などによるベルトの汚れ跡が製膜フィルムに転写されたり、汚れ部分のフィルム屈折率が乱れたりするなどにより光学的な均一性が失われる問題が起こる場合もあった。一方、ドラム製膜機では、継ぎ目のない均一なドラムが工業的に生産でき、これを用いた原反フィルムの製膜法も提案されている(特許文献2、特許文献3)。しかし、これらの方法により製膜された原反フィルムを用いて偏光子を作成したとしても、近年の大画面液晶TV向けとして要求される光学特性の均一性は不十分であった。
【0006】
また、ヨウ素系偏光子は短波長側の偏光度が相対的に低いため、短波長側では黒表示での青抜け、白表示での黄色みなどの色相上の問題点を有する。またヨウ素系偏光子は、ヨウ素吸着の際にムラが発生しやすい。そのため、特に黒表示の際には、透過率のムラとして検出され、視認性を低下させるという問題があった。
【0007】
上記問題に対して、本出願人は、偏光子として、ポリビニルアルコール等の水溶性樹脂中に液晶性複屈折材料を微小領域として分散させた溶液をフィルム化した水溶性樹脂フィルムを、さらにヨウ素染色したものを提案した(特願2003−329744号)。当該液晶性複屈折材料を微小領域として分散含有する高分子複合フィルム(水溶性樹脂フィルム)は、延伸すると、液晶性複屈折材料により形成された微小領域も延伸され楕円体としてフィルム中に存在する。かかる偏光子の吸収軸方向の直線偏光が入射されると散乱が起こる。散乱により光路長が増大することにより、吸収軸方向の光がヨウ素に吸収される確率が増し、高偏光度、高透過率、短波長域の色相ニュートラルを達成できる。
【0008】
しかし、前記高分子複合フィルムを用いた偏光子は、異方性散乱効果を利用しているため、フィルム内に分散された液晶性複屈折材料から形成される微小領域の配向状態が不良の場合には、異方性散乱効果が発揮されないばかりか、配向不良の微小領域により偏光解消が起こり、偏光子としての効果を十分には発揮できない場合がある。
【特許文献1】特開2001−296427号公報
【特許文献2】特許第3422759号明細書
【特許文献3】特許第3478532号明細書
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
本発明は、水溶性樹脂により形成されるマトリクス中に、微小領域が分散された構造の水溶性樹脂フィルムであって、面内均一性の良好な水溶性樹脂フィルムおよびその製造方法を提供することを目的とする。
【0010】
また本発明は、前記水溶性樹脂フィルムを用いた偏光子およびその製造方法を提供することを目的とする。
【0011】
また本発明は、当該前記偏光子を用いた偏光板や光学フィルムを提供することを目的とする。さらには当該偏光子、偏光板、光学フィルムを用いた画像表示装置を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0012】
本発明者らは、前記課題を解決すべく鋭意検討を重ねた結果、以下に示す水溶性樹脂フィルム等により前記目的を達成できることを見出し、本発明を完成するに至った。
【0013】
すなわち本発明は、水溶性樹脂により形成されるマトリクス中に、微小領域が分散された構造の水溶性樹脂フィルムであって、フィルムの幅方向の厚みムラが15%以下であり、かつ幅方向のヘイズのムラが5%以下であることを水溶性樹脂フィルム、に関する。
【0014】
本発明の水溶性樹脂フィルムは、フィルムの幅方向の厚みムラが15%以下に制御されており、面内均一性が良好であり、これを原反フィルムとして得られる偏光子は、染色不良等の光学ムラを抑えることができる。フィルムの幅方向の厚みムラが、15%を超える場合には、面内均一性が不十分である。フィルムの幅方向の厚みムラは、小さければ小さいほど好ましく、12%以下、さらには9%以下、さらには6%以下であるのが好ましい。
【0015】
また本発明の水溶性樹脂フィルムは、フィルムの幅方向のヘイズのムラが5%以下に制御されている。ヘイズのムラが大きいことは、微小領域が均一に分散されていない可能性を示している。フィルムの幅方向のムラが、5%より大きいと、当該フィルムを原反フィルムとして偏光子とした場合に、分散された微小領域の配向不良により異方性散乱効果にもムラが生じ、均一な偏光特性を損なう可能性があり好ましくない。フィルムの幅方向のヘイズのムラは、3%以下、さらには1%以下であるのが好ましい。
【0016】
前記水溶性樹脂フィルムにおいて、水溶性樹脂が、ポリビニルアルコール系樹脂であることが好ましい。
【0017】
前記水溶性樹脂フィルムにおいて、微小領域は、複屈折材料により形成されているが好ましい。また前記水溶性樹脂フィルムにおいて、複屈折材料は、少なくとも配向処理時点で液晶性を示すことが好ましい。
【0018】
また本発明は、前記水溶性樹脂フィルムを製造する方法であって、
複屈折材料により形成された微小領域が、水溶性樹脂溶液中に分散している混合溶液を、表面粗さ(Ra)が1.5μm以下の金属表面上に塗布、乾燥することにより製膜を行うことを特徴とする水溶性樹脂フィルムの製造方法、に関する。
【0019】
微小領域の配向は、例えば、水溶性樹脂フィルムの延伸の際に微小領域にかかる応力により制御されていると考えられている。そのため、当該フィルムにかかる応力が不均一であると、当該フィルム内に分散された微小領域にばらつきが生じ、異方性散乱効果が発揮されないことや、配向不良による偏光解消を起こすものと考えられる。
【0020】
微小領域の配向不良について、延伸前の水溶性樹脂フィルムの厚みについて検討した。当該フィルムの厚みが面内で不均一であると、従来のポリビニルアルコール系フィルムにより作製される偏光子と同様に染色工程でヨウ素等の吸着ムラが起きたり、さらには、微小領域の配向不良を引き起こしたりする原因となっていた。水溶性樹脂フィルムは、従来のポリビニルアルコール系フィルムに比べて、染色ムラを低減できているが、微小領域を有しているため、フィルムの厚み均一性が重要であることが分かった。
【0021】
そこで、本発明では、水溶性樹脂フィルムの製造にあたり、混合溶液の製膜を、表面粗さ(Ra)が1.5μm以下の金属表面上に混合溶液を塗布、乾燥することにより行っている。前記製膜を、表面粗さ(Ra)が1.5μm以下の金属表面上で行うことで、フィルムの幅方向の厚みムラが15%以下に制御されており厚み均一性が良好であり、かつフィルムの幅方向のヘイズのムラが5%以下に制御されており、微小領域の分散性のよい水溶性樹脂フィルムが得られる。
【0022】
また、従来、表面粗さが粗い金属表面(金属ドラム、金属ベルト等)上で、水溶性樹脂フィルムの製膜を行った場合には、乾燥後のフィルムを金属表面から剥離した際、液晶性複屈折材料等から形成される微小領域が、金属表面に転写して白濁し、金属表面を汚染していた。金属表面は、連続して動いているため、金属表面が汚染されると、新たに溶液を流延した際に、溶液の弾きが起こる。これは、塗工ムラや新たなフィルム表面への液晶性複屈折材料の転写が起きて、フィルム厚さの不均一の問題を生じる他、フィルム表面への液晶性複屈折材料の付着による光学的不具合の問題を引き起こす原因となっていた。本発明のように、前記製膜を、表面粗さ(Ra)が1.5μm以下の金属表面上で行うことで、金属表面の汚染も防止することができ、当該汚染よる光学的不具合の問題することも解消できる。
【0023】
金属表面粗さ(Ra)は、1μm以下、さらには0.7μm以下、さらには0.2μm以下であるのが好ましい。表面粗さ(Ra)は、小さいほど塗工面の均一性が高く、乾燥後のフィルム厚さの均一性も優れる。また、液晶性複屈折材料から形成される微小領域が金属表面に転写するのを抑えることができる。
【0024】
前記水溶性樹脂フィルムの製造方法において、金属表面は、金属メッキにより形成された金属表面であることが好ましい。金属メッキは、金属表面の平滑容易性、耐久性の点で好ましい。金属メッキとしては、クロムメッキが好適である。
【0025】
また本発明は、前記水溶性樹脂フィルムが、延伸されており、かつ、水溶性樹脂により形成されるマトリクス中に、二色性材料を含有することを特徴とする偏光子、に関する。
【0026】
本発明の偏光子は、厚みの均一性、ヘイズの均一性が良好な水溶性樹脂フィルムを原反フィルムとして用いており、光学特性が良好である。また液晶性複屈折材料等により形成された微小領域の配向性がよく、光学特性が良好である。また、大面積で面内均一性(染色ムラ、偏光特性のバラツキ)等の光学特性を満足する偏光子を得られる。
【0027】
また本発明は、前記水溶性樹脂フィルムに、延伸工程および二色性材料による染色工程を施すことを特徴とする偏光子の製造方法、に関する。
【0028】
また本発明は、前記偏光子の少なくとも片面に、透明保護層を設けた偏光板、に関する。
【0029】
また本発明は、前記偏光子、前記偏光板が、少なくとも1枚積層されていることを特徴とする光学フィルム、に関する。
【0030】
さらに本発明は、前記偏光子、前記偏光板または前記光学フィルムが用いられていることを特徴とする画像表示装置、に関する。
【発明を実施するための最良の形態】
【0031】
以下に本発明の水溶性樹脂フィルム、偏光子を説明する。水溶性樹脂フィルムは、水溶性樹脂によりフィルムが形成されており当該フィルムをマトリクスとして、微小領域が分散された構造を有する。偏光子は、前記水溶性樹脂によりフィルムが形成されており当該フィルムをマトリクスとして、微小領域が分散された構造を有し、二色性吸光体がマトリクスとなる前記水溶性樹脂中に分散されている。
【0032】
水溶性樹脂としては、例えば、従来より、偏光子に用いられている、ポリビニルアルコール系樹脂またはその誘導体があげられる。
【0033】
ポリビニルアルコール系樹脂はビニルエステル系モノマーをラジカル重合して得られたポリビニルエステル重合体をケン化し、ビニルエステル系単位を、ビニルアルコール単位としたものを用いることができる。
【0034】
ビニルエステル系モノマーとしては、例えば、ギ酸ビニル、酢酸ビニル、プロピオン酸ビニル、バレリン酸ビニル、ラウリン酸ビニル、ステアリン酸ビニル、安息香酸ビニル、ピバリン酸ビニル、バーサテイツク酸ビニル等を挙げられる。これらのなかでも酢酸ビニルを用いるのが好ましい。
【0035】
上記のビニルエステルモノマーを共重合させる際には、必要に応じて、共重合可能なモノマーを、本発明の目的を損なわない範囲、好ましくは15モル%以下、より好ましくは5モル%以下の割合で共重合させることもできる。
【0036】
このような共重合可能なモノマーとしては、例えば、エチレン、プロピレン、1−ブテン、イソブテン等の炭素数3〜30のオレフィン類;アクリル酸およびその塩;アクリル酸メチル、アクリル酸エチル、アクリル酸n−プロピル、アクリル酸i−プロピル、アクリル酸n−ブチル、アクリル酸i−ブチル、アクリル酸t−ブチル、アクリル酸2−エチルヘキシル、アクリル酸ドデシル、アクリル酸オクタデシル等のアクリル酸エステル類;メタクリル酸およびその塩;メタクリル酸メチル,メタクリル酸エチル、メタクリル酸n−プロピル、メタクリル酸i−プロピル、メタクリル酸n−ブチル、メタクリル酸i−ブチル,メタクリル酸t−ブチル、メタクリル酸2−エチルヘキシル、メタクリル酸ドデシル、メタクリル酸オクタデシル等のメタクリル酸エステル類;アクリルアミド、N−メチルアクリルアミド、N−エチルアクリルアミド、N,N−ジメチルアクリルアミド、ジアセトンアクリルアミド、アクリルアミドプロパンスルホン酸およびその塩、アクリルアミドプロピルジメチルアミンおよびその塩、N−メチロールアクリルアミドおよびその誘導体等のアクリルアミド誘導体;メタクリルアミド、N−メチルメタクリルアミド、N−エチルメタクリルアミド、メタクリルアミドプロパンスルホン酸およびその塩、メタクリルアミドプロピルジメチルアミンおよびその塩またはその4級塩、N−メチロールメタクリルアミドおよびその誘導体等のメタクリルアミド誘導体;メチルビニルエーテル、エチルビニルエーテル、n−プロピルビニルエーテル、i−プロピルビニルエーテル、n−ブチルビニルエーテル、i−ブチルビニルエーテル、t−ブチルビニルエーテル、ドデシルビニルエーテル、ステアリルビニルエーテル等のビニルエーテル類;アクリロニトリル、メタクリロニトリル等のニトリル類;塩化ビニル、塩化ビニリデン、フッ化ビニル、フッ化ビニリデン等のハロゲン化ビニル;、酢酸アリル、塩化アリル等のアリル化合物;マレイン酸およびその塩またはそのエステル;イタコン酸およびその塩またはそのエステル;ビニルトリメトキシシラン等のビニルシリル化合物;酢酸イソプロペニル、N−ビニルホルムアミド、N−ビニルアセトアミド、N−ビニルピロリドン等のN−ビニルアミド類等をあげることができる。
【0037】
ポリビニルアルコール系樹脂の重合度、ケン化度は、フィルム強度、偏光特性、耐久性の点から適宜に選択される。重合度は1000〜10000程度が好ましく、さらには1700〜5000が好ましく、さらには2000〜4000が好ましい。なお、ポリビニルアルコール系樹脂の重合度(P)はJIS−K6726に準じて測定される。すなわち、ポリビニルアルコール系樹脂を再ケン化し、精製した後、30℃の水中で測定した極限粘度[η](単位:dl/g)から次式:P=([η]×103/8.29)(1/0.62)、により求められる。
【0038】
ポリビニルアルコール系樹脂のケン化度は、偏光子の耐久性の点から90モル%以上が好ましく、95モル%以上がより好ましい。さらには98モル%以上、さらには99モル%以上が好ましい。一方、フィルムの染色性の点から99.99モル%以下が好ましい。なお、ケン化度は、ケン化によりビニルアルコール単位に変換されうる単位の中で、実際にビニルアルコール単位にケン化されている単位の割合を示したものである。なお、ポリビニルアルコール系樹脂のケン化度は、JIS記載の方法により測定を行うことができる。
【0039】
微小領域を形成する材料は、等方性であるか、複屈折を有するかは特に限定されるものではないが、複屈折材料を用いるのが好ましい。また複屈折材料は、少なくとも配向処理時点で液晶性を示すもの(以下、液晶性材料という)が好ましく用いられる。すなわち、液晶性材料は、配向処理時点で液晶性を示していれば、形成された微小領域2においては液晶性を示していてもよく、液晶性を喪失していてもよい。
【0040】
微小領域を形成する複屈折材料(液晶性材料)は、ネマチック液晶性、スメクチック液晶性、コレステリック液晶性のいずれでもよく、またリオトロピック液晶性のものでもよい。また、液晶性複屈折材料は、液晶性熱可塑性樹脂でもよく、液晶性単量体の重合により形成されていてもよい。液晶性熱可塑性樹脂の場合には、フィルム化後の耐熱性の観点から、ガラス転移温度の高いものが好ましい。少なくとも室温ではガラス状態であるものを用いるのが好ましい。液晶性熱可塑性樹脂は、通常、加熱により配向し、冷却して固定させて、液晶性を維持したままフィルムにおいて微小領域を形成する。液晶性単量体は配合後に、重合、架橋等により固定した状態でフィルムにおいて微小領域を形成させることができるが、形成した微小領域では液晶性が喪失されてしまうものがある。
【0041】
前記液晶性熱可塑性樹脂としては、主鎖型、側鎖型またはこれらの複合型の各種骨格のポリマーを特に制限なく使用できる。主鎖型の液晶ポリマーとしては、芳香族単位等からなるメソゲン基を結合した構造を有する縮合系のポリマー、たとえば、ポリエステル系、ポリアミド系、ポリカーボネート系、ポリエステルイミド系などのポリマーがあげられる。メソゲン基となる前記芳香族単位としては、フェニル系、ビフェニル系、ナフタレン系のものがあげられ、これら芳香族単位は、シアノ基、アルキル基、アルコキシ基、ハロゲン基等の置換基を有していてもよい。
【0042】
側鎖型の液晶ポリマーとしては、ポリアクリレート系、ポリメタクリレート系、ポリ−α−ハロ−アクリレート系、ポリ−α−ハロ−シアノアクリレート系、ポリアクリルアミド系、ポリシロキサン系、ポリマロネート系の主鎖を骨格とし、側鎖に環状単位等からなるメソゲン基を有するものがあげられる。メソゲン基となる前記環状単位としては、たとえば、ビフェニル系、フェニルベンゾエート系、フェニルシクロヘキサン系、アゾキシベンゼン系、アゾメチン系、アゾベンゼン系、フェニルピリミジン系、ジフェニルアセチレン系、ジフェニルベンゾエート系、ビシクロへキサン系、シクロヘキシルベンゼン系、ターフェニル系等があげられる。なお、これら環状単位の末端は、たとえば、シアノ基、アルキル基、アルケニル基、アルコキシ基、ハロゲン基、ハロアルキル基、ハロアルコキシ基、ハロアルケニル基等の置換基を有していてもよい。またメソゲン基のフェニル基は、ハロゲン基を有するものを用いることができる。
【0043】
また、いずれの液晶ポリマーのメソゲン基も屈曲性を付与するスペーサ部を介して結合していてもよい。スペーサ部としては、ポリメチレン鎖、ポリオキシメチレン鎖等があげられる。スペーサ部を形成する構造単位の繰り返し数は、メソゲン部の化学構造により適宜に決定されるがポリメチレン鎖の繰り返し単位は0〜20、好ましくは2〜12、ポリオキシメチレン鎖の繰り返し単位は0〜10、好ましくは1〜3である。
【0044】
前記液晶性熱可塑性樹脂は、ガラス転移温度が45℃以上、さらには70℃以上であることが好ましい。また、重量平均分子量が2千〜10万程度のものが好ましい。
【0045】
液晶性単量体としては、末端にアクリロイル基、メタクリロイル基等の重合性官能基を有し、これに前記環状単位等からなるメソゲン基、スペーサ部を有するものがあげられる。また重合性官能基として、アクリロイル基、メタアクリロイル基等を2つ以上有するものを用いて架橋構造を導入して耐久性を向上させることもできる。
【0046】
液晶性単量体を用いる場合には、硬化、架橋されるための光重合開始剤、熱重合開始剤、光増感剤、重合禁止剤等を液晶性単量体とともに用いることができる。これら開始剤等は、混合溶液を調製する前の液晶性複屈折材料に含有させることができる他、調製した混合溶液、当該溶液を調製する前の水溶性樹脂溶液、また得られた混合溶液に添加することができる。
【0047】
光重合開始剤としては各種のものを特に制限なく使用できる。例えば、チバスペシャルティケミカルズ社製のイルガキュア184、イルガキュア907、イルガキュア369、イルガキュア651、イルガキュア819等があげられる。光重合開始剤の配合量は、前記液晶性複屈折材料100重量部に対して、10重量部以下が好ましく、より好ましくは0.01〜10重量部程度、さらに好ましくは0.05〜5重量部である。
【0048】
光増感剤としては、ベンゾイン系光増感剤、アセトフェノン系光増感剤、ベンジルケタール系光増感剤等の光増感剤があげられ。たとえば、アセトフェノン、ベンゾフェノン、4−メトキシベンゾフェノン、ベンゾインメチルエーテル、2,2−ジメトキシ−2−フェニルジメトキシ−2−フェニルアセトフェノン、ベンジル、ベンゾイル、2−メチルベンゾイン、2−ヒドロキシ−2−メチル−1−フェニル−1−オン、1−(4−イソプロピルフェニル−2−ヒドロキシ−2−メチルプロパン−1−オン、トリフェニルホスフィン、2−クロロチオキサントン等が例示される。光増感剤の添加量は、光重合開始剤と同様である。
【0049】
重合禁止剤としては各種のものを特に制限なく使用できる。たとえば、ハイドロキノンモノメチルエーテル、ハイドロキノン、メトキノン、p−ベンゾキノン、フェノチアジン、モノ−t−ブチルハイドロキノン、カテコール、p−t−ブチルカテコール、ベンゾキノン、2,5−ジ−t−ブチルハイドロキノン、アンスラキノン、2,6-ジ−t−ブチルヒドロキシトルエン、t−ブチルカテコール等があげられる。同様の効果を示すものであればいずれのものを用いても良い。重合禁止剤の添加量は、光重合開始剤と同様である。
【0050】
微小領域を形成する材料は、前記液晶性複屈折材料に全てが限定されるものではなく、ポリビニルアルコール系樹脂と異なる素材であれば、非液晶性の樹脂を用いることができる。樹脂としては、ポリビニルアルコールとその誘導体、ポリオレフィン、ポリアリレート、ポリメタクリレート、ポリアクリルアミド、ポリエチレンテレフタレート、アクリルスチレン共重合体などがあげられる。また微小領域を形成する材料としては、複屈折を持たない粒子などを用いることができる。当該微粒子としては、たとえば、ポリアクリレート、アクリルスチレン共重合体などの樹脂があげられる。微粒子のサイズは特に制限されないが、0.05〜500μm、好ましくは0.5〜100μmの粒子径のものが用いられる。微小領域を形成する材料は、前記液晶性複屈折材料が好ましいが、前記液晶性複屈折材料には非液晶性複屈折材料を混入して用いることができる。さらには微小領域を形成する材料として、非液晶性複屈折材料を単独で使用することもできる。
【0051】
本発明の水溶性樹脂フィルムの製造工程は、特に制限されないが、例えば、複屈折材料により形成された微小領域が、水溶性樹脂溶液中に分散している混合溶液を、表面粗さ(Ra)が1.5μm以下の金属表面上に塗布、乾燥することにより製膜を行う。以下、微小領域となる材料として液晶性複屈折材料を用いた場合を代表例として説明する。他の材料の場合も液晶性複屈折材料に準じる。
【0052】
水溶性樹脂溶液は、前記ポリビニルアルコール系樹脂等の水溶性樹脂を水または水と均一混合できる溶媒に常法により溶解することにより調製する。水以外の溶媒としては、水と均一混合できるものを用いることができる。例えば、メタノール、エタノール、プロパノール、ブタノール、イソブタノール、アミルアルコール、オクタノール、エチレングリコール、アルキルセロソルブ等のアルコール系溶媒、ジメチルホルムアミド、ジメチルスルホキシド、蟻酸、酢酸、プロピオン酸等の極性溶媒があげられる。アルコール系溶媒は、脱泡を促進するために用いることができる。
【0053】
液晶性複屈折材料の添加量は、水溶性樹脂100重量部に対して、1〜50重量部、好ましくは2〜20重量部、さらに好ましくは3〜10重量部である。1重量部未満では、異方性散乱効果の点で好ましくない。一方、50重量部を超えると、得られるフィルム中において微小領域を形成する液晶性複屈折材料の割合が大きくなり、フィルムを延伸後に微小領域の配向性が低下する傾向があり、光学特性の点で好ましくない。
【0054】
混合溶液を調製する方法は特に制限されず、例えば、水溶性樹脂溶液に液晶性複屈折材料を添加し、撹拌により液晶性複屈折材料を均一に分散することにより行う。
【0055】
撹拌装置は、液晶性複屈折材料を均一に分散するできるものであれば、汎用撹拌機を使用することができる。また、ホモミキサー、超音波ホモジナイザー等の高剪断撹拌機を用いることができる。撹拌時には、気泡が入らないように条件を制御して行なうのが望ましい。得られる混合溶液に脱泡操作を行う時間を短縮でき、また気泡が入らないフィルムが作製できる。
【0056】
なお、水溶性樹脂溶液の濃度は特に制限されないが、7重量%以上が好ましい。低濃度であると、溶液粘度が低くなり製膜する上で好ましくない。前記溶液濃度は、7〜30重量%、さらには12〜20重量%であるのが好ましい。なお、製膜にあたっては濃度調整を別途行うのであれば、7重量%未満の低濃度の溶液でもよい。また、製膜にあたり塗工方法を制御することにより、7重量%未満の低濃度の溶液を用いることができる。
【0057】
添加時の液晶性複屈折材料は固体、液晶状態、液晶等方転移温度以上の液体状態のいずれの状態で添加してもよい。液晶性複屈折材料の添加時の水溶性樹脂溶液、または添加後の混合溶液は、液晶性複屈折材料の液晶温度以上に加熱した状態とする。これにより、液晶性複屈折材料は液晶状態になる。
【0058】
液晶性複屈折材料は添加にあたり、液晶性複屈折材料を溶解させる溶媒に溶解し、または溶解することなく用いられる。溶媒は使用しないほうが好ましい。溶媒は、微量な溶媒であれば水溶性樹脂溶液の熱により揮発することができる。一方、最終的に得られる混合溶液に溶媒が溶存していると、製膜後に気泡となるおそれがある。したがって、製膜後に気泡の原因とならない、揮発しやすい溶媒を使用することが好ましい。溶媒としては、たとえば、水、トルエン、キシレン、ヘキサン、シクロヘキサン、ジクロロメタン、トリクロロメタン、ジクロロエタン、トリクロロエタン、テトラクロロエタン、トリクロロエチレン、メチルエチルケトン、メチルイソブチルケトン、シクロヘキサノン、シクロペンタノン、テトラヒドロフラン、酢酸エチル等があげられる。水溶性樹脂溶液の溶媒と、液晶性複屈折材料の溶媒とは同一でもよく異種でもよい。
【0059】
混合溶液は、各種添加剤を含有することができる。例えば、可塑剤を含有することが好ましい。可塑剤としては、ポリオールおよびその縮合物等があげられ、たとえばグリセリン、ジグリセリン、トリグリセリン、エチレングリコール、プロピレングリコール、ポリエチレングリコール等の多価アルコールがあげられる。これらは1種または2種以上を組み合わせて用いることができる。可塑剤の使用量は、特に制限されないが、使用量が多くなりすぎると製膜後のフィルムの柔軟性が高くなりすぎ、取り扱い性が低下するため、ポリビニルアルコール系樹脂100重量部に対して、30重量部以下とするのが好適である。好ましくは0.5〜30重量部、さらに好ましくは、2〜20重量部、さらに好ましくは3〜15重量部である。可塑剤の添加により、製膜後のフィルムに柔軟性を付与でき、塗工面からの剥離性やフィルムの巻き取り性を向上できる。また偏光子を作製する際には膨潤性、染色性、延伸性を向上できる。
【0060】
また、混合溶液には、界面活性剤、分散剤、消泡剤、紫外線吸収剤、難燃剤、酸化防止剤、離型剤、滑剤、着色剤、蛍光剤等の各種の添加剤を本発明の目的を阻害しない範囲で含有させることができる。
【0061】
これら添加剤は、水溶性樹脂溶液、液晶性複屈折材料、またこれらを混合した混合溶液に添加することができる。
【0062】
水溶性樹脂溶液中での液晶性複屈折材料の分散は、水溶性樹脂溶液に用いるポリビニルアルコール系樹脂等の水溶性樹脂と液晶性複屈折材料との相分離現象を利用する方法があげられる。例えば、液晶性複屈折材料として水溶性樹脂とは相溶しにくい材料を選択し、水溶性樹脂溶液に液晶性複屈折材料を界面活性剤などの分散剤を介して分散させる方法などあげられる。液晶性複屈折材料と水溶性樹脂の組み合わせによっては分散剤を入れなくてもよい。
【0063】
なお、界面活性剤の種類としては特に限定はないが、アニオン性またはノニオン性の界面活性剤が好ましい。アニオン性界面活性剤としては、例えば、ラウリン酸カリウムなどのカルボン酸型、オクチルサルフェートなどの硫酸エステル型、ドデシルベンゼンスルホネートなどのスルホン酸型のアニオン性界面活性剤が好適である。
【0064】
ノニオン性界面活性剤としては、例えば、ポリオキシエチレンオレイルエーテルなどのアルキルエーテル型、ポリオキシエチレンオクチルフェニルエーテルなどのアルキルフェニルエーテル型、ポリオキシエチレンラウレートなどのアルキルエステル型、ポリオキシエチレンラウリルアミノエーテルなどのアルキルアミン型、ポリオキシエチレンラウリン酸アミドなどのアルキルアミド型、ポリオキシエチレンポリオキシプロピレンエーテルなどのポリプロピレングリコールエーテル型、オレイン酸ジエタノールアミドなどのアルカノールアミド型、ポリオキシアルキレンアリルフェニルエーテルなどのアリルフェニルエーテル型などのノニオン性界面活性剤が好適である。これらの界面活性剤の1種または2種以上の組み合わせで使用することができる。
【0065】
界面活性剤の添加量としては、水溶性樹脂100重量部に対して1重量部以下、さらには、0.01〜1重量部が好ましく、0.02〜0.5重量部がより好ましく、0.05〜0.3重量部が最も好ましい。0.01重量部より少ないと、延伸性向上や染色性向上の効果が現れにくく、1重量部より多いと、フィルム表面に溶出してブロッキングの原因になり、取り扱い性が低下する場合がある。
【0066】
混合溶液の揮発分濃度は特に制限されないが、揮発分濃度が、55〜90重量%、さらには60〜90重量%になるように調製するのが好ましい。揮発分濃度が小さくなると、ポリビニルアルコールの溶解が困難になり、溶液の粘度が高くなることにより液晶性複屈折材料の均一分散性が添加し、また製膜が困難になる。一方、揮発分濃度が大きくなると、溶液の粘度が低くなりすぎ、厚み均一性の良好な製膜が困難になる場合がある。
【0067】
水溶性樹脂フィルムの製造は、前記混合溶液を、表面粗さ(Ra)が1.5μm以下の金属表面上に塗布、乾燥して製膜することにより行う。これによりマトリクス中に微小領域が分散されたフィルムを作製する。
【0068】
混合溶液を塗布する金属の材質に特に制限はないが、通常ステンレスが好適に用いられる。金属表面は、金属メッキにより形成することができる。金属メッキをする対象は、金属でもよく、金属以外でもよい。金属メッキは、表面の傷つき防止をするうえで好ましい。金属メッキの種類としては、例えばクロムメッキ、酸化クロムメッキ、ニッケルメッキ、亜鉛メッキなどが好適である。これらは単独でまたは2種以上の多層の組み合わせで使用することができるが、表面平滑性を得るための容易さや耐久性の点からクロムメッキが特に好ましい。
【0069】
金属表面は、工業的には金属ドラムや金属ベルトが使用されるが、平面形状であってもよい。生産性を考慮すると、金属ドラムが好ましい。
【0070】
混合溶液の製膜方法としては、例えば、前記溶液を、流延製膜法、湿式製膜法(貧溶媒中への吐出)、乾湿式製膜法、ゲル製膜法(前記溶液を一旦冷却ゲル化した後、溶媒を抽出除去し、フィルム化する方法)、さらにはこれらの組み合わせによる方法があげられる。これらのなかでも流延製膜法が透明性の高いフィルムが得られ好ましい。前記溶液中の溶媒は、加熱乾燥により除去される。このようにして得られた水溶性樹脂フィルムの厚みは、特に制限されるものではないが、通常、15〜3000μm程度、さらには30〜1500μmである。
【0071】
微小領域が分散された水溶性樹脂フィルムのヘイズは、通常、0.5〜100%であり、微小領域の分散量や、フィルムの製膜方法等により調整できる。製膜したフィルムを加工して偏光子等の光学フィルムとして用いる場合、光の分散性能等の光学特性を考慮すれば、前記水溶性樹脂フィルムのヘイズは1%以上のものを用いるのが好ましく、5%以上のものを用いるのがより好ましく、10%以上のものを用いるのがさらに好ましい。
【0072】
水溶性樹脂フィルムを偏光子として用いる場合には、さらに、
(I)前記で得られたフィルムを配向(延伸)する工程、
(II)前記マトリクスとなるポリビニルアルコール系樹脂に、ヨウ素系吸光体等の二色性材料を分散させる(染色する)工程、
を施す。なお、工程(I)乃至(II)の順序は適宜に決定できる。
【0073】
前記フィルムを配向する工程(I)は、フィルムを延伸することにより行うことができる。延伸は、一軸延伸、二軸延伸、斜め延伸などがあげられるが、通常、一軸延伸を行う。延伸方法は、空気中での乾式延伸、水系浴中での湿式延伸のいずれでもよい。湿式延伸延を採用する場合には、水系浴中に、適宜に添加剤(ホウ酸等のホウ素化合物,アルカリ金属のヨウ化物等)を含有させることができる。延伸倍率は特に制限されないが、通常、2〜10倍程度とするのが好ましい。
【0074】
かかる延伸により、微小領域を形成する液晶性複屈折材料は、延伸方向に配向され複屈折を発現させる。また工程(II)は、二色性材料を延伸軸方向に配向させることができる。なお、二色性材料としては、ヨウ素系吸光体の代わりに吸収二色性染料を用いることができる。
【0075】
微小領域は延伸に応じて変形することが望ましい。微小領域が非液晶性複屈折材料の場合は延伸温度が樹脂のガラス転移温度付近、微小領域が液晶性複屈折材料の場合は延伸時の温度で液晶性複屈折材料がネマチック相またはスメクチック相等の液晶状態または等方相状態になる温度を選択するのが望ましい。延伸時点で配向が不十分な場合には、別途、加熱配向処理などの工程を加えてもよい。
【0076】
液晶性複屈折材料の配向には上記延伸に加え、電場や磁場などの外場を用いてもよい。また液晶性複屈折材料にアゾベンゼンなどの光反応性物質を混合したり、液晶性複屈折材料にシンナモイル基等の光反応性基を導入したものを用い、これを光照射などの配向処理によって配向させてもよい。さらには延伸処理と以上に述べた配向処理を併用することもできる。液晶性複屈折材料が、液晶性熱可塑性樹脂の場合には、延伸時に配向させた後、室温に冷却させることにより配向が固定化され安定化される。液晶性単量体は、配向していれば目的の光学特性が発揮されるため、必ずしも硬化している必要はない。だたし、液晶性単量体で等方転移温度が低いものは、少し温度がかかることにより等方状態になってしまう。こうなると異方散乱でなくなって、逆に偏光性能が悪くなくので、このような場合には硬化させるのが好ましい。また液晶性単量体には室温で放置すると結晶化するものが多くあり、こうなると異方散乱でなくなって、逆に偏光性能が悪くなくので、このような場合にも硬化させるのが好ましい。かかる観点からすれば、配向状態をどのような条件下においても安定に存在させるためには、液晶性単量体を硬化することが好ましい。液晶性単量体の硬化は、たとえば、光重合開始剤と混合してマトリクス成分の溶液中に分散し、配向後、いずれかのタイミング(ヨウ素系吸光体等の二色性材料による染色前、染色後)において紫外線等を照射して硬化し、配向を安定化させる。望ましくは、二色性材料による染色前である。
【0077】
前記マトリクスとなるポリビニルアルコール系樹脂に、ヨウ素系吸光体を分散させる工程(II)は、一般には、ヨウ素をヨウ化カリウム等のアルカリ金属のヨウ化物等の助剤とともに溶解させた水系浴に前記フィルムを浸漬する方法があげられる。マトリクス中に分散されたヨウ素とマトリクス樹脂との相互作用によりヨウ素系吸光体が形成される。浸漬させるタイミングとしては、前記延伸工程(I)の前でも後でもよい。ヨウ素系吸光体は、一般に延伸工程を経ることによって著しく形成される。ヨウ素を含有する水系浴の濃度、アルカリ金属のヨウ化物などの助剤の割合は特に制限されず、一般的なヨウ素染色法を採用でき、前記濃度等は任意に変更することができる。
【0078】
また得られる偏光子中におけるヨウ素の割合は特に制限されないが、ポリビニルアルコール系樹脂とヨウ素の割合が、ポリビニルアルコール系樹脂100重量部に対して、ヨウ素が0.05〜50重量部程度、さらには0.1〜10重量部となるように制御するのが好ましい。
【0079】
偏光子の作製にあたっては、前記工程(I)乃至(II)の他に、様々な目的のための工程(III)を施すことができる。工程(III)としては、たとえば、主にフィルムのヨウ素染色効率を向上させる目的として、水浴にフィルムを浸漬して膨潤させる工程があげられる。また、任意の添加物を溶解させた水浴に浸漬する工程等があげられる。主に水溶性樹脂(マトリクス)に架橋を施す目的のため、ホウ酸、ホウ砂などの添加剤を含有する水溶液にフィルムを浸漬する工程があげられる。また、主に、分散したヨウ素系吸光体の量バランスを調節し、色相を調節することを目的として、アルカリ金属のヨウ化物などの添加剤を含有する水溶液にフィルムを浸漬する工程があげられる。
【0080】
前記フィルムを配向(延伸)延伸する工程(I)、マトリクス樹脂にヨウ素系吸光体を分散染色する工程(II)および上記工程(III)は、工程(I)、(II)が少なくとも1回ずつあれば、工程の回数、順序、条件(浴温度や浸漬時間など)は任意に選択でき、各工程は別々に行ってもよく、複数の工程を同時に行ってもよい。例えば、工程(III)の架橋工程と延伸工程(I)を同時に行ってもよい。
【0081】
また、染色に用いるヨウ素系吸光体や、架橋に用いるホウ酸などは、上記のようにフィルムを水溶液へ浸漬させることによって、フィルム中へ浸透させる方法の代わりに、混合溶液の調製に際し、または調整後、フィルム化前に任意の種類、量を添加する方法を採用することもできる。また両方法を併用してもよい。ただし、工程(I)において、延伸時等に高温(例えば80℃以上)にする必要がある場合であって、ヨウ素系吸光体が該温度で劣化してしまう場合には、ヨウ素系吸光体を分散染色する工程(II)は工程(I)の後にするのが望ましい。
【0082】
以上の処理をしたフィルムは、適当な条件で乾燥されることが望ましい。乾燥は常法に従って行われる。
【0083】
得られた偏光子(フィルム)の厚さは特に制限されないが、通常、1μmから3mm、好ましくは5μmから1mm、さらに好ましくは10〜500μmである。
【0084】
前記偏光子は、ヨウ素系吸光体を含有するポリビニルアルコール系樹脂により形成されるマトリクス中に、液晶性複屈折材料により形成された微小領域が分散された構造のフィルムからなる。かかる偏光子は、ヨウ素系吸光体による吸収二色性の機能に加えて、散乱異方性の機能を合わせ持たせることにより、2つの機能の相乗効果によって偏光性能が向上し、透過率と偏光度を両立した視認性の良好な偏光子を得ている。
【0085】
なお、ヨウ素系吸光体は、ヨウ素からなる、可視光を吸収する種のことを意味し、一般には、透光性の水溶性樹脂(特にポリビニルアルコール系樹脂)とポリヨウ素イオン(I3-,I6-等)との相互作用によって生じると考えられている。ヨウ素系吸光体はヨウ素錯体ともいわれる。ポリヨウ素イオンは、ヨウ素とヨウ化物イオンから生成させると考えられている。ヨウ素系吸収体は、少なくとも400〜700nmの波長帯域に吸収領域を有するものが用いられる。
【0086】
異方散乱の散乱性能は、マトリクスと微小領域の屈折率差に起因する。微小領域を形成する材料が、たとえば、液晶性材料であれば、マトリクスの透光性の水溶性樹脂に比べて、Δnの波長分散が高いため、散乱する軸の屈折率差が短波長側ほど大きくなり、短波長ほど散乱量が多い。そのため、短波長ほど偏光性能の向上効果が大きくなり、ヨウ素系偏光子のもつ短波長側の偏光性能の相対的低さを補って、高偏光かつ色相がニュートラルな偏光子を実現できる。
【0087】
前記微小領域の複屈折は0.02以上であることが好ましい。微小領域に用いる材料は、より大きい異方散乱機能を獲得するという観点から前記複屈折を有するものが好ましく用いられる。
【0088】
前記微小領域を形成する複屈折材料と、透光性の水溶性樹脂との各光軸方向に対する屈折率差は、
最大値を示す軸方向における屈折率差(△n1)が0.03以上であり、
かつ△n1方向と直交する二方向の軸方向における屈折率差(△n2)が、前記△n1の50%以下であることが好ましい。
【0089】
各光軸方向に対する前記屈折率差(△n1)、(△n2)を、前記範囲に制御することで、米国特許第2123902号明細書で提案されるような、△n1方向の直線偏光のみを選択的に散乱させた機能を有する散乱異方性フィルムとすることができる。すなわち、△n1方向では屈折率差が大きいため、直線偏光を散乱させ、一方、△n2方向では屈折率差が小さいため、直線偏光を透過させることができる。なお、△n1方向と直交する二方向の軸方向における屈折率差(△n2)はともに等しいことが好ましい。
【0090】
散乱異方性を高くするには、△n1方向の屈折率差(△n1)を、0.03以上、好ましくは0.05以上、特に好ましくは0.10以上とするのが好ましい。また△n1方向と直交する二方向の屈折率差(△n2)は、前記△n1の50%以下、さらには30%以下であるのが好ましい。
【0091】
前記ヨウ素系吸光体は、当該材料の吸収軸が、△n1方向に配向していることが好ましい。
【0092】
マトリクス中のヨウ素系吸光体を、その材料の吸収軸が前記△n1方向に平行になるように配向させることにより、散乱偏光方向である△n1方向の直線偏光を選択的に吸収させることができる。その結果、入射光のうち△n2方向の直線偏光成分は、異方散乱性能を有しない従来型のヨウ素系偏光子と同じく、散乱されることなく、かつヨウ素吸光体による吸収も殆どない。一方、△n1方向の直線偏光成分は散乱され、かつヨウ素系吸光体によって吸収される。通常、吸収は、吸収係数と厚みによって決定される。このように光が散乱された場合、散乱がない場合に比べて光路長が飛躍的に長くなる。結果として△n1方向の偏光成分は従来のヨウ素系偏光子と比べ、余分に吸収される。つまり同じ透過率でより高い偏光度が得られる。
【0093】
以下、理想的なモデルについて詳細に説明する。一般に直線偏光子に用いられる二つの主透過率(第1主透過率k1(透過率最大方位=△n2方向の直線偏光透過率)、第2主透過率k2(透過率最小方向=△n1方向の直線偏光透過率))を用いて以下議論する。
【0094】
市販のヨウ素系偏光子ではヨウ素系吸光体が一方向に配向しているとすれば、平行透過率、偏光度はそれぞれ、
平行透過率=0.5×((k12+(k22)、
偏光度=(k1−k2)/(k1+k2)、で表される。
【0095】
一方、本発明の偏光子では△n1方向の偏光は散乱され、平均光路長はα(>1)倍になっていると仮定し、散乱による偏光解消は無視できると仮定すると、その場合の主透過率はそれぞれ、k1、k2’=10X (但し、xはαlogk2である)、で表される。
【0096】
つまり、この場合の平行透過率、偏光度は、
平行透過率=0.5×((k12+(k2’)2)、
偏光度=(k1−k2)/(k1+k2)、で表される。
【0097】
例えば、市販のヨウ素系偏光子(平行透過率0.385,偏光度0.965:k1=0.877,k2=0.016)と同条件(染色量、作製手順が同じ)で本発明の偏光子を作成したとすると、計算上ではαが2倍の時、k2=0.0003まで低くなり、結果として平行透過率は0.385のまま、偏光度は0.999に向上する。上記は、計算上であり、もちろん散乱による偏光解消や表面反射および後方散乱の影響などにより幾分機能が低下する。上式から分かるようにαが高い程良く、ヨウ素系吸光体の二色比が高いほど高機能が期待できる。αを高くするには、散乱異方性機能をできるだけ高くし、△n1方向の偏光を選択的に強く散乱させればよい。また、後方散乱は少ない方が良く、入射光強度に対する後方散乱強度の比率は30%以下が好ましく、さらには20%以下が好ましい。
【0098】
前記微小領域は、△n2方向の長さが0.05〜500μmであることが好ましい。
【0099】
可視光領域の波長のうち、振動面を△n1方向に有する直線偏光を強く散乱させるためには、分散分布している微小領域は、△n2方向の長さが0.05〜500μm、好ましくは0.5〜100μmとなるように制御されることが好ましい。微小領域の△n2方向の長さが波長に比べて短すぎると十分に散乱が起こらない。一方、微小領域の△n2方向の長さが長すぎるとフィルム強度が低下したり、微小領域を形成する液晶性材料が、微小領域中で十分に配向しないなどの問題が生じるおそれがある。
【0100】
前記偏光子は、透過方向の直線偏光に対する透過率が80%以上、かつヘイズ値が5%以下であり、吸収方向の直線偏光に対するヘイズ値が30%以上であることが好ましい。
【0101】
前記透過率、ヘイズ値を有する本発明のヨウ系偏光子は、透過方向の直線偏光に対しては高い透過率と良好な視認性を保有し、かつ吸収方向の直線偏光に対しては強い光拡散性を有している。したがって、簡便な方法にて、他の光学特性を犠牲にすることなく、高透過率、かつ高偏光度を有し、黒表示の際の透過率のムラを抑えることができる。
【0102】
本発明の偏光子は、透過方向の直線偏光、すなわち前記ヨウ素系吸光体の最大吸収方向とは直交する方向の直線偏光に対しては、可及的に高い透過率を有するものが好ましく、入射した直線偏光の光強度を100としたとき80%以上の光線透過率を有することが好ましい。光線透過率は85%以上がより好ましく、さらには光線透過率88%以上であるのが好ましい。ここで光線透過率は、積分球付き分光光度計を用いて測定された380nm〜780nmの分光透過率よりCIE1931 XYZ表色系に基づき算出したY値に相当する。なお、偏光子の表裏面の空気界面により約8%〜10%が反射されるため、理想的極限は100%からこの表面反射分を差し引いたものとなる。
【0103】
また、偏光子は透過方向の直線偏光は表示画像の視認性の明瞭性の観点より散乱されないことが望ましい。そのため、透過方向の直線偏光に対するヘイズ値は、5%以下であることが好ましい。より好ましくは3%以下、さらに好ましくは1%以下である。一方、偏光子は吸収方向の直線偏光、すなわち前記ヨウ素系吸光体の最大吸収方向の直線偏光は局所的な透過率バラツキによるムラを散乱により隠蔽する観点より強く散乱されることが望ましい。そのため、吸収方向の直線偏光に対するヘイズ値は30%以上であることが好ましい。より好ましくは40%以上、さらに好ましくは50%以上である。なお、ヘイズ値は、JIS K 7136 (プラスチック−透明材料のへーズの求め方)に基づいて測定した値である。
【0104】
前記、光学特性は、偏光子の吸収二色性の機能に加えて、散乱異方性の機能が複合化されたことによって引き起こされるものである。同様のことが、米国特許第2123902号明細書や、特開平9−274108号公報や特開平9−297204号公報に記載されている、直線偏光のみを選択的に散乱させる機能を有した散乱異方性フィルムと、二色性吸収型偏光子とを散乱最大の軸と吸収最大の軸が平行となるような軸配置にて重畳することによっても達成可能と考えられる。しかし、これらは、別途、散乱異方性フィルムを形成する必要性があることや、重畳の際の軸合わせ精度が問題となること、さらに単に、重ね置いた場合は、前述した吸収される偏光の光路長増大効果が期待できず、高透過、高偏光度が達成されにくい。
【0105】
本発明によって得られた偏光子は、既存の吸収型偏光板と同様の機能を有するため、吸収型偏光板を用いた様々な応用分野へ何ら変更することなく用いることができる。
【0106】
得られた偏光子は、常法に従って、その少なくとも片面に透明保護層を設けた偏光板とすることができる。透明保護層はポリマーによる塗布層として、またはフィルムのラミネート層等として設けることができる。透明保護層を形成する、透明ポリマーまたはフィルム材料としては、適宜な透明材料を用いうるが、透明性や機械的強度、熱安定性や水分遮断性などに優れるものが好ましく用いられる。前記透明保護層を形成する材料としては、例えばポリエチレンテレフタレートやポリエチレンナフタレート等のポリエステル系ポリマー、二酢酸セルロースや三酢酸セルロース等のセルロース系ポリマー、ポリメチルメタクリレート等のアクリル系ポリマー、ポリスチレンやアクリロニトリル・スチレン共重合体(AS樹脂)等のスチレン系ポリマー、ポリカーボネート系ポリマーなどがあげられる。また、ポリエチレン、ポリプロピレン、シクロ系ないしはノルボルネン構造を有するポリオレフィン、エチレン・プロピレン共重合体の如きポリオレフィン系ポリマー、塩化ビニル系ポリマー、ナイロンや芳香族ポリアミド等のアミド系ポリマー、イミド系ポリマー、スルホン系ポリマー、ポリエーテルスルホン系ポリマー、ポリエーテルエーテルケトン系ポリマー、ポリフェニレンスルフィド系ポリマー、ビニルアルコール系ポリマー、塩化ビニリデン系ポリマー、ビニルブチラール系ポリマー、アリレート系ポリマー、ポリオキシメチレン系ポリマー、エポキシ系ポリマー、あるいは前記ポリマーのブレンド物なども前記透明保護層を形成するポリマーの例としてあげられる。
【0107】
また、特開2001−343529号公報(WO01/37007)に記載のポリマーフィルム、たとえば、(A)側鎖に置換および/または非置換イミド基を有する熱可塑性樹脂と、(B)側鎖に置換および/非置換フェニルならびにニトリル基を有する熱可塑性樹脂を含有する樹脂組成物があげられる。具体例としてはイソブチレンとN−メチルマレイミドからなる交互共重合体とアクリロニトリル・スチレン共重合体とを含有する樹脂組成物のフィルムがあげられる。フィルムは樹脂組成物の混合押出品などからなるフィルムを用いることができる。
【0108】
偏光特性や耐久性などの点より、特に好ましく用いることができる透明保護層は、表面をアルカリなどでケン化処理したトリアセチルセルロースフィルムである。透明保護層の厚さは、任意であるが一般には偏光板の薄型化などを目的に500μm以下、さらには1〜300μm、特に5〜300μmが好ましい。なお、偏光子の両側に透明保護層を設ける場合は、その表裏で異なるポリマー等からなる透明保護フィルムを用いることができる。
【0109】
また、透明保護フィルムは、できるだけ色付きがないことが好ましい。したがって、Rth=(nx−nz)・d(ただし、nxはフィルム平面内の遅相軸方向の屈折率、nzはフィルム厚方向の屈折率、dはフィルム厚みである)で表されるフィルム厚み方向の位相差値が−90nm〜+75nmである保護フィルムが好ましく用いられる。かかる厚み方向の位相差値(Rth)が−90nm〜+75nmのものを使用することにより、保護フィルムに起因する偏光板の着色(光学的な着色)をほぼ解消することができる。厚み方向位相差値(Rth)は、さらに好ましくは−80nm〜+60nm、特に−70nm〜+45nmが好ましい。
【0110】
前記透明保護フィルムの偏光子を接着させない面には、ハードコート層や反射防止処理、スティッキング防止や、拡散ないしアンチグレアを目的とした処理を施したものであってもよい。
【0111】
ハードコート処理は偏光板表面の傷付き防止などを目的に施されるものであり、例えばアクリル系、シリコーン系などの適宜な紫外線硬化型樹脂による硬度や滑り特性等に優れる硬化皮膜を透明保護フィルムの表面に付加する方式などにて形成することができる。反射防止処理は偏光板表面での外光の反射防止を目的に施されるものであり、従来に準じた反射防止膜などの形成により達成することができる。また、スティッキング防止処理は隣接層との密着防止を目的に施される。
【0112】
またアンチグレア処理は偏光板の表面で外光が反射して偏光板透過光の視認を阻害することの防止等を目的に施されるものであり、例えばサンドブラスト方式やエンボス加工方式による粗面化方式や透明微粒子の配合方式などの適宜な方式にて透明保護フィルムの表面に微細凹凸構造を付与することにより形成することができる。前記表面微細凹凸構造の形成に含有させる微粒子としては、例えば平均粒径が0.5〜50μmのシリカ、アルミナ、チタニア、ジルコニア、酸化錫、酸化インジウム、酸化カドミウム、酸化アンチモン等からなる導電性のこともある無機系微粒子、架橋又は未架橋のポリマー等からなる有機系微粒子などの透明微粒子が用いられる。表面微細凹凸構造を形成する場合、微粒子の使用量は、表面微細凹凸構造を形成する透明樹脂100重量部に対して一般的に2〜50重量部程度であり、5〜25重量部が好ましい。アンチグレア層は偏光板透過光を拡散して視角などを拡大するための拡散層(視角拡大機能など)を兼ねるものであってもよい。
【0113】
なお、前記反射防止層、スティッキング防止層、拡散層やアンチグレア層等は、透明保護フィルムそのものに設けることができるほか、別途光学層として透明保護層とは別体のものとして設けることもできる。
【0114】
前記偏光子と透明保護フィルムとの接着処理には、接着剤が用いられる。接着剤としては、イソシアネート系接着剤、ポリビニルアルコール系接着剤、ゼラチン系接着剤、ビニル系ラテックス系、水系ポリエステル等を例示できる。前記接着剤は、通常、水溶液からなる接着剤として用いられ、通常、0.5〜60重量%の固形分を含有してなる。
【0115】
本発明の偏光板は、前記透明保護フィルムと偏光子を、前記接着剤を用いて貼り合わせることにより製造する。接着剤の塗布は、透明保護フィルム、偏光子のいずれに行ってもよく、両者に行ってもよい。貼り合わせ後には、乾燥工程を施し、塗布乾燥層からなる接着層を形成する。偏光子と透明保護フィルムの貼り合わせは、ロールラミネーター等により行うことができる。接着層の厚さは、特に制限されないが、通常0.1〜5μm程度である。
【0116】
本発明の偏光板は、実用に際して他の光学層と積層した光学フィルムとして用いることができる。その光学層については特に限定はないが、例えば反射板や半透過板、位相差板(1/2や1/4等の波長板を含む)、視角補償フィルムなどの液晶表示装置等の形成に用いられることのある光学層を1層または2層以上用いることができる。特に、本発明の偏光板に更に反射板または半透過反射板が積層されてなる反射型偏光板または半透過型偏光板、偏光板に更に位相差板が積層されてなる楕円偏光板または円偏光板、偏光板に更に視角補償フィルムが積層されてなる広視野角偏光板、あるいは偏光板に更に輝度向上フィルムが積層されてなる偏光板が好ましい。
【0117】
反射型偏光板は、偏光板に反射層を設けたもので、視認側(表示側)からの入射光を反射させて表示するタイプの液晶表示装置などを形成するためのものであり、バックライト等の光源の内蔵を省略できて液晶表示装置の薄型化を図りやすいなどの利点を有する。反射型偏光板の形成は、必要に応じ透明保護層等を介して偏光板の片面に金属等からなる反射層を付設する方式などの適宜な方式にて行うことができる。
【0118】
反射型偏光板の具体例としては、必要に応じマット処理した透明保護フィルムの片面に、アルミニウム等の反射性金属からなる箔や蒸着膜を付設して反射層を形成したものなどがあげられる。また前記透明保護フィルムに微粒子を含有させて表面微細凹凸構造とし、その上に微細凹凸構造の反射層を有するものなどもあげられる。前記した微細凹凸構造の反射層は、入射光を乱反射により拡散させて指向性やギラギラした見栄えを防止し、明暗のムラを抑制しうる利点などを有する。また微粒子含有の透明保護フィルムは、入射光及びその反射光がそれを透過する際に拡散されて明暗ムラをより抑制しうる利点なども有している。透明保護フィルムの表面微細凹凸構造を反映させた微細凹凸構造の反射層の形成は、例えば真空蒸着方式、イオンプレーティング方式、スパッタリング方式等の蒸着方式やメッキ方式などの適宜な方式で金属を透明保護層の表面に直接付設する方法などにより行うことができる。
【0119】
反射板は前記の偏光板の透明保護フィルムに直接付与する方式に代えて、その透明フィルムに準じた適宜なフィルムに反射層を設けてなる反射シートなどとして用いることもできる。なお反射層は、通常、金属からなるので、その反射面が透明保護フィルムや偏光板等で被覆された状態の使用形態が、酸化による反射率の低下防止、ひいては初期反射率の長期持続の点や、保護層の別途付設の回避の点などより好ましい。
【0120】
なお、半透過型偏光板は、上記において反射層で光を反射し、かつ透過するハーフミラー等の半透過型の反射層とすることにより得ることができる。半透過型偏光板は、通常液晶セルの裏側に設けられ、液晶表示装置などを比較的明るい雰囲気で使用する場合には、視認側(表示側)からの入射光を反射させて画像を表示し、比較的暗い雰囲気においては、半透過型偏光板のバックサイドに内蔵されているバックライト等の内蔵光源を使用して画像を表示するタイプの液晶表示装置などを形成できる。すなわち、半透過型偏光板は、明るい雰囲気下では、バックライト等の光源使用のエネルギーを節約でき、比較的暗い雰囲気下においても内蔵光源を用いて使用できるタイプの液晶表示装置などの形成に有用である。
【0121】
偏光板に更に位相差板が積層されてなる楕円偏光板または円偏光板について説明する。直線偏光を楕円偏光または円偏光に変えたり、楕円偏光または円偏光を直線偏光に変えたり、あるいは直線偏光の偏光方向を変える場合に、位相差板などが用いられる。特に、直線偏光を円偏光に変えたり、円偏光を直線偏光に変える位相差板としては、いわゆる1 /4波長板(λ/4板とも言う)が用いられる。1/2波長板(λ/2板とも言う)は、通常、直線偏光の偏光方向を変える場合に用いられる。
【0122】
楕円偏光板はスーパーツイストネマチック(STN)型液晶表示装置の液晶層の複屈折により生じた着色(青又は黄)を補償(防止)して、前記着色のない白黒表示する場合などに有効に用いられる。更に、三次元の屈折率を制御したものは、液晶表示装置の画面を斜め方向から見た際に生じる着色も補償(防止)することができて好ましい。円偏光板は、例えば画像がカラー表示になる反射型液晶表示装置の画像の色調を整える場合などに有効に用いられ、また、反射防止の機能も有する。上記した位相差板の具体例としては、ポリカーボネート、ポリビニルアルコール、ポリスチレン、ポリメチルメタクリレート、ポリプロピレンやその他のポリオレフィン、ポリアリレート、ポリアミドの如き適宜なポリマーからなるフィルムを延伸処理してなる複屈折性フィルムや液晶ポリマーの配向フィルム、液晶ポリマーの配向層をフィルムにて支持したものなどがあげられる。位相差板は、例えば各種波長板や液晶層の複屈折による着色や視角等の補償を目的としたものなどの使用目的に応じた適宜な位相差を有するものであってよく、2種以上の位相差板を積層して位相差等の光学特性を制御したものなどであってもよい。
【0123】
また上記の楕円偏光板や反射型楕円偏光板は、偏光板又は反射型偏光板と位相差板を適宜な組合せで積層したものである。かかる楕円偏光板等は、(反射型)偏光板と位相差板の組合せとなるようにそれらを液晶表示装置の製造過程で順次別個に積層することによっても形成しうるが、前記の如く予め楕円偏光板等の光学フィルムとしたものは、品質の安定性や積層作業性等に優れて液晶表示装置などの製造効率を向上させうる利点がある。
【0124】
視角補償フィルムは、液晶表示装置の画面を、画面に垂直でなくやや斜めの方向から見た場合でも、画像が比較的鮮明にみえるように視野角を広げるためのフィルムである。このような視角補償位相差板としては、例えば位相差フィルム、液晶ポリマー等の配向フィルムや透明基材上に液晶ポリマー等の配向層を支持したものなどからなる。通常の位相差板は、その面方向に一軸に延伸された複屈折を有するポリマーフィルムが用いられるのに対し、視角補償フィルムとして用いられる位相差板には、面方向に二軸に延伸された複屈折を有するポリマーフィルムとか、面方向に一軸に延伸され厚さ方向にも延伸された厚さ方向の屈折率を制御した複屈折を有するポリマーや傾斜配向フィルムのような二方向延伸フィルムなどが用いられる。傾斜配向フィルムとしては、例えばポリマーフィルムに熱収縮フィルムを接着して加熱によるその収縮力の作用下にポリマーフィルムを延伸処理又は/及び収縮処理したものや、液晶ポリマーを斜め配向させたものなどが挙げられる。位相差板の素材原料ポリマーは、先の位相差板で説明したポリマーと同様のものが用いられ、液晶セルによる位相差に基づく視認角の変化による着色等の防止や良視認の視野角の拡大などを目的とした適宜なものを用いうる。
【0125】
また良視認の広い視野角を達成する点などより、液晶ポリマーの配向層、特にディスコティック液晶ポリマーの傾斜配向層からなる光学的異方性層をトリアセチルセルロースフィルムにて支持した光学補償位相差板が好ましく用いうる。
【0126】
偏光板と輝度向上フィルムを貼り合わせた偏光板は、通常液晶セルの裏側サイドに設けられて使用される。輝度向上フィルムは、液晶表示装置などのバックライトや裏側からの反射などにより自然光が入射すると所定偏光軸の直線偏光または所定方向の円偏光を反射し、他の光は透過する特性を示すもので、輝度向上フィルムを偏光板と積層した偏光板は、バックライト等の光源からの光を入射させて所定偏光状態の透過光を得ると共に、前記所定偏光状態以外の光は透過せずに反射される。この輝度向上フィルム面で反射した光を更にその後ろ側に設けられた反射層等を介し反転させて輝度向上フィルムに再入射させ、その一部又は全部を所定偏光状態の光として透過させて輝度向上フィルムを透過する光の増量を図ると共に、偏光子に吸収させにくい偏光を供給して液晶表示画像表示等に利用しうる光量の増大を図ることにより輝度を向上させうるものである。
【0127】
輝度向上フィルムと上記反射層等の間に拡散板を設けることもできる。輝度向上フィルムによって反射した偏光状態の光は上記反射層等に向かうが、設置された拡散板は通過する光を均一に拡散すると同時に偏光状態を解消し、非偏光状態となる。すなわち、拡散板は偏光を元の自然光状態にもどす。この非偏光状態、すなわち自然光状態の光が反射層等に向かい、反射層等を介して反射し、再び拡散板を通過して輝度向上フィルムに再入射することを繰り返す。このように輝度向上フィルムと上記反射層等の間に、偏光を元の自然光状態にもどす拡散板を設けることにより表示画面の明るさを維持しつつ、同時に表示画面の明るさのむらを少なくし、均一で明るい画面を提供することができる。かかる拡散板を設けることにより、初回の入射光は反射の繰り返し回数が程よく増加し、拡散板の拡散機能と相俟って均一の明るい表示画面を提供することができたものと考えられる。
【0128】
前記の輝度向上フィルムとしては、例えば誘電体の多層薄膜や屈折率異方性が相違する薄膜フィルムの多層積層体の如き、所定偏光軸の直線偏光を透過して他の光は反射する特性を示すもの、コレステリック液晶ポリマーの配向フィルムやその配向液晶層をフィルム基材上に支持したものの如き、左回り又は右回りのいずれか一方の円偏光を反射して他の光は透過する特性を示すものなどの適宜なものを用いうる。
【0129】
従って、前記した所定偏光軸の直線偏光を透過させるタイプの輝度向上フィルムでは、その透過光をそのまま偏光板に偏光軸を揃えて入射させることにより、偏光板による吸収ロスを抑制しつつ効率よく透過させることができる。一方、コレステリック液晶層の如く円偏光を投下するタイプの輝度向上フィルムでは、そのまま偏光子に入射させることもできるが、吸収ロスを抑制する点よりその円偏光を位相差板を介し直線偏光化して偏光板に入射させることが好ましい。なお、その位相差板として1/4波長板を用いることにより、円偏光を直線偏光に変換することができる。
【0130】
可視光域等の広い波長範囲で1/4波長板として機能する位相差板は、例えば波長550nmの淡色光に対して1/4波長板として機能する位相差層と他の位相差特性を示す位相差層、例えば1/2波長板として機能する位相差層とを重畳する方式などにより得ることができる。従って、偏光板と輝度向上フィルムの間に配置する位相差板は、1層又は2層以上の位相差層からなるものであってよい。
【0131】
なお、コレステリック液晶層についても、反射波長が相違するものの組み合わせにして2層又は3層以上重畳した配置構造とすることにより、可視光領域等の広い波長範囲で円偏光を反射するものを得ることができ、それに基づいて広い波長範囲の透過円偏光を得ることができる。
【0132】
また偏光板は、上記の偏光分離型偏光板の如く、偏光板と2層又は3層以上の光学層とを積層したものからなっていてもよい。従って、上記の反射型偏光板や半透過型偏光板と位相差板を組み合わせた反射型楕円偏光板や半透過型楕円偏光板などであってもよい。
【0133】
偏光板に前記光学層を積層した光学フィルムは、液晶表示装置等の製造過程で順次別個に積層する方式にても形成することができるが、予め積層して光学フィルムとしたものは、品質の安定性や組立作業等に優れていて液晶表示装置などの製造工程を向上させうる利点がある。積層には粘着層等の適宜な接着手段を用いうる。前記の偏光板やその他の光学フィルムの接着に際し、それらの光学軸は目的とする位相差特性などに応じて適宜な配置角度とすることができる。
【0134】
前述した偏光板や、偏光板を少なくとも1層積層されている光学フィルムには、液晶セル等の他部材と接着するための粘着層を設けることもできる。粘着層を形成する粘着剤は特に制限されないが、例えばアクリル系重合体、シリコーン系ポリマー、ポリエステル、ポリウレタン、ポリアミド、ポリエーテル、フッ素系やゴム系などのポリマーをベースポリマーとするものを適宜に選択して用いることができる。特に、アクリル系粘着剤の如く光学的透明性に優れ、適度な濡れ性と凝集性と接着性の粘着特性を示して、耐候性や耐熱性などに優れるものが好ましく用いうる。
【0135】
また上記に加えて、吸湿による発泡現象や剥がれ現象の防止、熱膨張差等による光学特性の低下や液晶セルの反り防止、ひいては高品質で耐久性に優れる液晶表示装置の形成性などの点より、吸湿率が低くて耐熱性に優れる粘着層が好ましい。
【0136】
粘着層は、例えば天然物や合成物の樹脂類、特に、粘着性付与樹脂や、ガラス繊維、ガラスビーズ、金属粉、その他の無機粉末等からなる充填剤や顔料、着色剤、酸化防止剤などの粘着層に添加されることの添加剤を含有していてもよい。また微粒子を含有して光拡散性を示す粘着層などであってもよい。
【0137】
偏光板や光学フィルムの片面又は両面への粘着層の付設は、適宜な方式で行いうる。その例としては、例えばトルエンや酢酸エチル等の適宜な溶剤の単独物又は混合物からなる溶媒にベースポリマーまたはその組成物を溶解又は分散させた10〜40重量%程度の粘着剤溶液を調製し、それを流延方式や塗工方式等の適宜な展開方式で偏光板上または光学フィルム上に直接付設する方式、あるいは前記に準じセパレータ上に粘着層を形成してそれを偏光板上または光学フィルム上に移着する方式などがあげられる。
【0138】
粘着層は、異なる組成又は種類等のものの重畳層として偏光板や光学フィルムの片面又は両面に設けることもできる。また両面に設ける場合に、偏光板や光学フィルムの表裏において異なる組成や種類や厚さ等の粘着層とすることもできる。粘着層の厚さは、使用目的や接着力などに応じて適宜に決定でき、一般には1〜500μmであり、5〜200μmが好ましく、特に10〜100μmが好ましい。
【0139】
粘着層の露出面に対しては、実用に供するまでの間、その汚染防止等を目的にセパレータが仮着されてカバーされる。これにより、通例の取扱状態で粘着層に接触することを防止できる。セパレータとしては、上記厚さ条件を除き、例えばプラスチックフィルム、ゴムシート、紙、布、不織布、ネット、発泡シートや金属箔、それらのラミネート体等の適宜な薄葉体を、必要に応じシリコーン系や長鏡アルキル系、フッ素系や硫化モリブデン等の適宜な剥離剤でコート処理したものなどの、従来に準じた適宜なものを用いうる。
【0140】
なお本発明において、上記した偏光板を形成する偏光子や透明保護フィルムや光学フィルム等、また粘着層などの各層には、例えばサリチル酸エステル系化合物やべンゾフェノール系化合物、ベンゾトリアゾール系化合物やシアノアクリレート系化合物、ニッケル錯塩系化合物等の紫外線吸収剤で処理する方式などの方式により紫外線吸収能をもたせたものなどであってもよい。
【0141】
本発明の偏光板または光学フィルムは液晶表示装置等の各種装置の形成などに好ましく用いることができる。液晶表示装置の形成は、従来に準じて行いうる。すなわち液晶表示装置は一般に、液晶セルと偏光板または光学フィルム、及び必要に応じての照明システム等の構成部品を適宜に組立てて駆動回路を組込むことなどにより形成されるが、本発明においては本発明による偏光板または光学フィルムを用いる点を除いて特に限定はなく、従来に準じうる。液晶セルについても、例えばTN型やSTN型、π型などの任意なタイプのものを用いうる。
【0142】
液晶セルの片側又は両側に偏光板または光学フィルムを配置した液晶表示装置や、照明システムにバックライトあるいは反射板を用いたものなどの適宜な液晶表示装置を形成することができる。その場合、本発明による偏光板または光学フィルムは液晶セルの片側又は両側に設置することができる。両側に偏光板または光学フィルムを設ける場合、それらは同じものであってもよいし、異なるものであってもよい。さらに、液晶表示装置の形成に際しては、例えば拡散板、アンチグレア層、反射防止膜、保護板、プリズムアレイ、レンズアレイシート、光拡散板、バックライトなどの適宜な部品を適宜な位置に1層又は2層以上配置することができる。
【0143】
次いで有機エレクトロルミネセンス装置(有機EL表示装置)について説明する。一般に、有機EL表示装置は、透明基板上に透明電極と有機発光層と金属電極とを順に積層して発光体(有機エレクトロルミネセンス発光体)を形成している。ここで、有機発光層は、種々の有機薄膜の積層体であり、例えばトリフェニルアミン誘導体等からなる正孔注入層と、アントラセン等の蛍光性の有機固体からなる発光層との積層体や、あるいはこのような発光層とペリレン誘導体等からなる電子注入層の積層体や、またあるいはこれらの正孔注入層、発光層、および電子注入層の積層体等、種々の組み合わせをもった構成が知られている。
【0144】
有機EL表示装置は、透明電極と金属電極とに電圧を印加することによって、有機発光層に正孔と電子とが注入され、これら正孔と電子との再結合によって生じるエネルギーが蛍光物資を励起し、励起された蛍光物質が基底状態に戻るときに光を放射する、という原理で発光する。途中の再結合というメカニズムは、一般のダイオードと同様であり、このことからも予想できるように、電流と発光強度は印加電圧に対して整流性を伴う強い非線形性を示す。
【0145】
有機EL表示装置においては、有機発光層での発光を取り出すために、少なくとも一方の電極が透明でなくてはならず、通常酸化インジウムスズ(ITO)などの透明導電体で形成した透明電極を陽極として用いている。一方、電子注入を容易にして発光効率を上げるには、陰極に仕事関数の小さな物質を用いることが重要で、通常Mg−Ag、Al−Liなどの金属電極を用いている。
【0146】
このような構成の有機EL表示装置において、有機発光層は、厚さ10nm程度ときわめて薄い膜で形成されている。このため、有機発光層も透明電極と同様、光をほぼ完全に透過する。その結果、非発光時に透明基板の表面から入射し、透明電極と有機発光層とを透過して金属電極で反射した光が、再び透明基板の表面側へと出るため、外部から視認したとき、有機EL表示装置の表示面が鏡面のように見える。
【0147】
電圧の印加によって発光する有機発光層の表面側に透明電極を備えるとともに、有機発光層の裏面側に金属電極を備えてなる有機エレクトロルミネセンス発光体を含む有機EL表示装置において、透明電極の表面側に偏光板を設けるとともに、これら透明電極と偏光板との間に位相差板を設けることができる。
【0148】
位相差板および偏光板は、外部から入射して金属電極で反射してきた光を偏光する作用を有するため、その偏光作用によって金属電極の鏡面を外部から視認させないという効果がある。特に、位相差板を1/4波長板で構成し、かつ偏光板と位相差板との偏光方向のなす角をπ/4に調整すれば、金属電極の鏡面を完全に遮蔽することができる。
【実施例】
【0149】
以下に、この発明の実施例を記載してより具体的に説明する。なお、以下において、部とあるのは重量部を意味する。
【0150】
表面粗さ(Ra):JIS B0601−1994、に準じ、触針式表面粗さ測定機として株式会社東京精密製のサーフコム470Aを用いて測定した。なお、測定はダイヤモンドからなる先端部を頂角55度の円錐形とした直径1mmの測定針を介して凹凸面上を一定方向に3mmの長さで走査し、その場合の測定針の上下方向の移動変化を測定することにより、中心線平均表面粗さ(Ra)を求めた。
【0151】
フィルムの厚み特性:フィルムの厚み(μm)を、アンリツ株式会社製のFilm Thickness Tester KG601B、により、フィルムの幅方向に測定した。測定は、当該フィルムの幅方向の厚みを1cm間隔で測定した。平均厚みはこれらの平均値である。フィルムの厚み差は、最大厚みと最小厚みの差を算出した。厚みムラ(%)は、フィルムの最大厚みと最小厚みの厚み差を、平均厚みで除した値に100を乗じて、%表示とした。
【0152】
フィルムのヘイズ特性:村上色彩研究所製のヘイズメーターHM−150を用いて、JIS K7136に準じて、フィルムの幅方向のヘイズを測定した。測定は、当該フィルムの幅方向のヘイズを1cm間隔で測定した。平均ヘイズはこれらの平均値である。ヘイズのムラ(%)は、ヘイズの最も高い部分の値と最も低い部分の値の差を算出し、その差を平均ヘイズで除した値に100を乗じて、%表示とした。
【0153】
実施例1
(混合溶液の調製)
重合度2400、ケン化度99.9%のポリビニルアルコールを溶解した固形分15重量%のポリビニルアルコール水溶液と、メソゲン基の両末端に一つずつアクリロイル基を有する液晶性単量体(ネマチック液晶温度範囲が55〜75℃)とグリセリンを、ポリビニルアルコール:液晶性単量体:グリセリン=100:5:15(重量比)で、混合した溶液を調製した。前記溶液を、特殊機化工業(株)製のホモミキサーで6000rpm×20分間、撹拌して、液晶性単量体を分散させた混合溶液を調製した。この際、溶液の温度は80℃となるように恒温で行った。溶液中に混在している気泡は、室温(23℃)放置することにより脱泡した。
【0154】
(水溶性樹脂フィルムの作製)
前記溶液を90℃にした後、これを、ステンレス板表面にクロムメッキ処理を施した、表面粗さ(Ra)が0.1μmの金属ドラム表面上に流延して製膜を行った。金属ドラム表面に形成されたフィルムは、110℃の熱風で乾燥させて、白濁した平均厚さ75μmの水溶性樹脂フィルムを得た。厚みの差は0.89μmであり、厚みムラは0.1%であった。平均ヘイズは80、ヘイズのムラは0.4%であった。
【0155】
実施例2
(混合溶液の調製)
重合度3500、ケン化度99.9%のポリビニルアルコールを溶解した固形分14重量%のポリビニルアルコール水溶液と、メソゲン基の両末端に一つずつアクリロイル基を有する液晶性単量体(ネマチック液晶温度範囲が55〜75℃)とグリセリンを、ポリビニルアルコール:液晶性単量体:グリセリン=100:7:105(重量比)で、混合した溶液を調製した。前記溶液を、特殊機化工業(株)製のホモミキサーで6000rpm×20分間、撹拌して、液晶性単量体を分散させた混合溶液を調製した。この際、溶液の温度は80℃となるように恒温で行った。溶液中に混在している気泡は、室温(23℃)放置することにより脱泡した。
【0156】
(水溶性樹脂フィルムの作製)
前記溶液を90℃にした後、これを、ステンレス板表面にクロムメッキ処理を施した、表面粗さ(Ra)が0.1μmの金属ドラム表面上に流延して製膜を行った。金属ドラム表面に形成されたフィルムは、120℃の熱風で乾燥させて、白濁した平均厚さ80μmの水溶性樹脂フィルムを得た。厚みの差は1.15μmであり、厚みムラは1.3%であった。平均ヘイズは85、ヘイズのムラは0.9%であった。
【0157】
実施例3
(水溶性樹脂フィルムの作製)
実施例1において調製した混合溶液を90℃にした後、これを、ステンレス板表面にクロムメッキ処理を施した、表面粗さ(Ra)が0.5μmの金属ドラム表面上に流延して製膜を行った。金属ドラム表面に形成されたフィルムは、110℃の熱風で乾燥させて、白濁した平均厚さ75μmの水溶性樹脂フィルムを得た。厚みの差は1.37μmであり、厚みムラは1.8%であった。平均ヘイズは81、ヘイズのムラは1.5%であった。
【0158】
実施例4
(水溶性樹脂フィルムの作製)
実施例1において調製した混合溶液を90℃にした後、これを、ステンレス板表面にクロムメッキ処理を施した、表面粗さ(Ra)が1.0μmの金属ドラム表面上に流延して製膜を行った。金属ドラム表面に形成されたフィルムは、110℃の熱風で乾燥させて、白濁した平均厚さ75μmの水溶性樹脂フィルムを得た。厚みの差は2.51μmであり、厚みムラは3.3%であった。平均ヘイズは81、ヘイズのムラは2.7%であった。
【0159】
実施例5
(水溶性樹脂フィルムの作製)
実施例1において調製した混合溶液を90℃にした後、これを、ステンレス板表面にクロムメッキ処理を施した、表面粗さ(Ra)が1.0μmの金属ドラム表面上に流延して製膜を行った。金属ドラム表面に形成されたフィルムは、110℃の熱風で乾燥させて、白濁した平均厚さ73μmの水溶性樹脂フィルムを得た。厚みの差は2.04μmであり、厚みムラは2.8%であった。平均ヘイズは82、ヘイズのムラは2.5%であった。
【0160】
比較例1
(水溶性樹脂フィルムの作製)
実施例1において調製した混合溶液を90℃にした後、これを、ステンレス板表面にクロムメッキ処理を施した、表面粗さ(Ra)が2.0μmの金属ドラム表面上に流延して製膜を行った。金属ドラム表面に形成されたフィルムは、110℃の熱風で乾燥させて、白濁した平均厚さ75μmの水溶性樹脂フィルムを得た。厚みの差は4.98μmであり、厚みムラは6.6%であった。平均ヘイズは81、ヘイズのムラは6.0%であった。
【0161】
比較例2
(水溶性樹脂フィルムの作製)
実施例5において調製した混合溶液を90℃にした後、これを、キャスト法により厚さ100μmのポリエチレンテタレートフィルム(Ra=0.1μm)上に塗工したこと以外は実施例5と同様にして、白濁した平均厚さ70μmの水溶性樹脂フィルムを得た。しかしながら、製膜後の乾燥時に高さ2mmの熱ジワが発生した。厚みの差は11.69μmであり、厚みムラは16.7%であった。平均ヘイズは82、ヘイズのムラは10.7%であった。
【0162】
実施例および比較例で得られた水溶性樹脂フィルムについて下記工程を施して偏光子および偏光板を作製した。
【0163】
(偏光子の作製)
前記フィルムを30℃の温水浴にて膨湿させた後、30℃のヨウ素:ヨウ化カリウム=1:7(重量比)で溶解された水溶液(濃度0.32重量%)に浸漬して約3倍に一軸延伸処理した。次いで、50℃のホウ酸3重量%水溶液浴で架橋しながら総延伸倍率が6倍になるように延伸した後、さらに、50℃のホウ酸4重量%水溶液浴で架橋した。次いで、30℃のヨウ化カリウム水溶液中に15秒間浸漬して色相の調整を行った。さらに、水洗、乾燥して、偏光子を得た。
【0164】
得られた偏光子は散乱異方性を有しており、延伸方向に平行な振動面を持つ偏光を入射した場合には光は散乱され、これに垂直な振動面を持つ偏光を入射した場合は光は散乱されなかった。また偏光子を偏光顕微鏡観察したところ、ポリビニルアルコールマトリクス中に無数に分散された液晶性単量体の微小領域が形成されていることが確認できた。この液晶性単量体は延伸方向に配向しており、微小領域の延伸方向(△n2方向)の平均サイズは5〜10μmであった。
【0165】
マトリクスと微小領域の屈折率については、各々別々に測定した。測定は20℃で行なった。まず、同一延伸条件(110℃で3倍延伸)で延伸したポリビニルアルコールフィルム単独の屈折率をアッベ屈折計(測定光589nm)で測定したところ、延伸方向(△n1方向)の屈折率=1.54,△n2方向の屈折率=1.52であった。また液晶性単量体の屈折率(ne:異常光屈折率およびno:常光屈折率)を測定した。noは、垂直配向処理を施した高屈折率ガラス上に液晶性単量体を配向塗設し、アッベ屈折計(測定光589nm)で測定した。一方、水平配向処理した液晶セルに液晶性単量体を注入し、自動複屈折測定装置(王子計測機器株式会社製,自動複屈折計KOBRA21ADH)にて位相差(Δn×d)を測定し、また別途、光干渉法によりセルギャップを(d)を測定し、位相差/セルギャップからΔnを算出し、このΔnとnoの和をneとした。ne(△n1方向の屈折率に相当)=1.64、no(△n2方向の屈折率に相当)=1.52,であった。従って、△n1=1.64−1.54=0.10、△n2=1.52−1.52=0.00と算出された。
【0166】
(偏光板の作製)
得られた偏光子の両面に、厚さ80μmのトリアセチルセルロースフィルムを水溶性接着剤により接着して、偏光板を得た。
【0167】
(評価)
実施例及び比較例で得られた偏光板について下記評価を行った。また、水溶性樹脂フィルムを作製した後の金属表面について下記評価を行った。結果を表1に示す。
【0168】
<光学ムラ>
作製した偏光板を、クロスニコル状態に配置した2枚の偏光板(日東電工製,NPF-SEG1224DU)の間に、クロスニコル状態に配置した2枚の偏光板の吸収軸に対して、作製した偏光板の吸収軸が45°になるように配置して、下記基準で光学的ムラ(染色ムラ)を観察評価した。
◎:光学的ムラは確認されなかった。
○:光学的ムラは僅かに確認されたが、表示装置に装着して使用しても問題のないレベルである。
△:光学的ムラが僅かに確認され、表示装置に装着した場合、表示装置として特性が劣るレベルである。
×:光学的ムラが確認された。
【0169】
<輝点>
作製した偏光板をその吸収軸が、(株)ニコン社製の偏光顕微鏡(ECRIPES E600 POL)の検光子または偏光子のいずれか一方の吸収軸と平行になるように配置して、下記基準で目視観察した。観察倍率は400倍であり、観察領域は640μm×480μmである。微小領域の配向性がよい場合には、偏光解消が起こらず黒く観察されるが、微小領域の配向が不良の場合には、偏光解消が起こり輝点として観察される。
◎:観察領域内の微小領域に輝点は全く観察されなかった。
○:観察領域内に、微小領域に輝点のあるものが10個以下観察された。
△:微小領域内に、微小領域に輝点のあるものが僅かに観察された。
×:微小領域内の微小領域に輝点のあるものが多く観察された。
【0170】
<金属表面の汚れ>
水溶性樹脂フィルムを作製した後に、フィルムを剥離した後の金属表面の状態を下記基準で評価した。
◎:液晶性複屈折材料の残存による汚染は確認されなかった。
○:フィルム特性に影響を与えない程度の液晶性複屈折材料の残存が確認された。汚染にはならない程度である。
△:フィルム特性がやや劣る程度の液晶性複屈折材料の残存が確認された。汚染にはならない程度である。
×:金属表面の全域に液晶性複屈折材料の残存による白濁した汚染が確認された。
【0171】
【表1】

表中*は、ポリエチレンテタレートフィルムのRaである。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
水溶性樹脂により形成されるマトリクス中に、微小領域が分散された構造の水溶性樹脂フィルムであって、フィルムの幅方向の厚みムラが15%以下であり、かつフィルムの幅方向のヘイズのムラが5%以下であることを水溶性樹脂フィルム。
【請求項2】
水溶性樹脂が、ポリビニルアルコール系樹脂であることを請求項1記載の水溶性樹脂フィルム。
【請求項3】
微小領域は、複屈折材料により形成されていることを特徴とする請求項1または2記載の水溶性樹脂フィルム。
【請求項4】
複屈折材料は、少なくとも配向処理時点で液晶性を示すことを特徴とする請求項3記載の水溶性樹脂フィルム。
【請求項5】
請求項1〜4のいずれかに記載の水溶性樹脂フィルムを製造する方法であって、
複屈折材料により形成された微小領域が、水溶性樹脂溶液中に分散している混合溶液を、表面粗さ(Ra)が1.5μm以下の金属表面上に塗布、乾燥することにより製膜を行うことを特徴とする水溶性樹脂フィルムの製造方法。
【請求項6】
金属表面が、金属メッキにより形成された金属表面であることを特徴とする請求項5記載の水溶性樹脂フィルムの製造方法。
【請求項7】
金属メッキがクロムメッキであることを特徴とする請求項6記載の水溶性樹脂フィルムの製造方法。
【請求項8】
請求項1〜4のいずれかに記載の水溶性樹脂フィルムが、延伸されており、かつ、水溶性樹脂により形成されるマトリクス中に、二色性材料を含有することを特徴とする偏光子。
【請求項9】
請求項1〜4のいずれかに記載の水溶性樹脂フィルムに、延伸工程および二色性材料による染色工程を施すことを特徴とする偏光子の製造方法。
【請求項10】
請求項8記載の偏光子の少なくとも片面に、透明保護層を設けた偏光板。
【請求項11】
請求項8記載の偏光子または請求項10記載の偏光板が、少なくとも1枚積層されていることを特徴とする光学フィルム。
【請求項12】
請求項8記載の偏光子、請求項10記載の偏光板または請求項11記載の光学フィルムが用いられていることを特徴とする画像表示装置。


【公開番号】特開2006−225496(P2006−225496A)
【公開日】平成18年8月31日(2006.8.31)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2005−40263(P2005−40263)
【出願日】平成17年2月17日(2005.2.17)
【出願人】(000003964)日東電工株式会社 (5,557)
【Fターム(参考)】