説明

液滴吐出装置及び液滴吐出方法

【課題】対象物に着弾された液滴の濡れ広がりを防ぐことが可能な液滴吐出装置及び液滴吐出方法を提供すること。
【解決手段】導電性を有する第1材料及び当該第1材料を溶解又は分散する第1媒体と、前記第1媒体に対して撥液性を有する第2材料及び当該第2媒体を溶解又は分散すると共に前記第1媒体よりも沸点の低い第2媒体と含む液状体を保持する液状体保持部を有し、対象物へ向けて前記液状体を吐出する吐出ヘッドと、前記吐出ヘッドから吐出され前記対象物に着弾する前の前記液状体に光を照射可能な光照射装置とを備える。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、液滴吐出装置及び液滴吐出方法に関する。
【背景技術】
【0002】
配線等のパターニング法のひとつとして、液滴吐出装置を用いた手法が知られている。この種のパターニング法においては、まず、液滴吐出装置に設けられる吐出ヘッドから例えば銀粒子等の導電性微粒子を含有する液体材料を液滴化して吐出することで、液滴を基板に塗布する。次いで、基板に塗布された液滴を自然乾燥させた後、基板ごと焼成して、配線を形成する(例えば、特許文献1参照)。
【0003】
液滴の吐出時には、必要十分な厚みを有する配線を形成すべく液滴を重ね打ちすることが多い。吐出時の液滴の粘度が高すぎると、吐出ヘッドが詰ってしまい十分な吐出性能が得られなくなってしまうため、吐出時の液滴の粘度は低めに設定されている。低粘度の液滴が重ね打ちされる場合、基板に塗布された液滴群は基板上で濡れ広がりやすくなり、パターニング精度が低くなってしまうという問題があった。
【0004】
これに対して、吐出ヘッドから吐出された後、基板上に着弾される前の飛行中の液滴にレーザ光を照射することで、液滴中の溶媒の一部を蒸発させ、着弾時の液滴の濡れ広がりを抑えようとする構成が提案されている。
【特許文献1】特開2002−261048号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
しかしながら、飛行中の液滴の溶媒を蒸発させる場合、蒸発した溶媒が基板上で結露する場合がある。このため、粘度を高め濡れ広がりにくくしたにもかかわらず、基板上に着弾された液滴は、結露した溶媒によってぬれ広がってしまう可能性がある。
【0006】
以上のような事情に鑑み、本発明の目的は、対象物に着弾された液滴の濡れ広がりを防ぐことが可能な液滴吐出装置及び液滴吐出方法を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0007】
上記目的を達成するため、本発明に係る液滴吐出装置は、導電性を有する第1材料及び当該第1材料を溶解又は分散する第1媒体と、前記第1媒体に対して撥液性を有する第2材料及び当該第2媒体を溶解又は分散すると共に前記第1媒体よりも沸点の低い第2媒体と含む液状体を保持する液状体保持部を有し、対象物へ向けて前記液状体を吐出する吐出ヘッドと、前記吐出ヘッドから吐出され前記対象物に着弾する前の前記液状体に光を照射可能な光照射装置とを備えることを特徴とする。
【0008】
本発明によれば、導電性を有する第1材料及び当該第1材料を溶解又は分散する第1媒体と、第1媒体に対して撥液性を有する第2材料及び当該第2媒体を溶解又は分散すると共に第1媒体よりも沸点の低い第2媒体とを含む液状体を吐出ヘッドから吐出し、当該液状体が対象物に着弾する前に光を照射することで、飛行中の液状体の第2媒体を蒸発させることができる。第2媒体を蒸発させることにより、当該第2媒体中に溶解又は分散していた第2材料が飛散し、液状体が対象物上に着弾するよりも早く対象物上に付着する。この結果、対象物上に着弾した液状体は、当該対象物上に付着した第2材料によって濡れ広がるのを抑制されることになる。これにより、対象物に着弾された液滴の濡れ広がりを防ぐことが可能となる。
【0009】
上記の液滴吐出装置は、前記液状体は、前記第1媒体及び前記第2媒体の両方に対して親和性を有する第3溶媒を含むことを特徴とする。
本発明によれば、液状体が第1媒体及び第2媒体の両方に対して親和性を有する第3溶媒を含むこととしたので、液状体の内部で第1材料及び第1媒体と、第2材料及び第2媒体とが分離するのを防ぐことができる。これにより、吐出される液状体には確実に第1材料、第1媒体、第2材料及び第2媒体が含まれることとなる。
【0010】
上記の液滴吐出装置は、前記液状体は、前記光の照射を受けて発熱する第3材料を含むことを特徴とする。
本発明によれば、液状体が光の照射を受けて発熱する第3材料を含むこととしたので、第2媒体の蒸発効率を高めることができる。これにより、一層早く第2材料を対象物上に付着させることができる。
【0011】
上記の液滴吐出装置は、前記対象物上を洗浄する洗浄装置を更に備えることを特徴とする。
本発明によれば、洗浄装置によって対象物上が洗浄されるため、第2材料を対象物上に付着されやすくすることができる。これにより、対象物上に着弾した液状体の濡れ広がりをより確実に抑えることができる。
【0012】
上記の液滴吐出装置は、前記吐出ヘッド側から前記対象物側へ向けて気流を発生させる気流発生装置を更に備えることを特徴とする。
本発明によれば、気流発生装置によって吐出ヘッド側から対象物側へ気流が発生するため、当該気流に乗って第2材料が対象物上に付着されやすくなる。これにより、対象物上に着弾した液状体の濡れ広がりをより確実に抑えることができる。
【0013】
本発明に係る液滴吐出方法は、導電性を有する第1材料及び当該第1材料を溶解又は分散する第1媒体と、前記第1媒体に対して撥液性を有する第2材料及び当該第2媒体を溶解又は分散すると共に前記第1媒体よりも沸点の低い第2媒体と含む液状体を対象物へ向けて吐出する第1ステップと、吐出された前記液状体が前記対象物に着弾する前に、前記第2材料を蒸発させると共に前記第1材料が蒸発しないように前記液状体に前記光を照射する第2ステップとを備えることを特徴とする。
【0014】
本発明によれば、第1ステップにおいて吐出された飛行中の液状体のうち第2媒体が、第2ステップにおいて蒸発することとなる。第2媒体が蒸発することにより、当該第2媒体中に溶解又は分散していた第2材料が飛散し、液状体が対象物上に着弾するよりも早く対象物上に付着する。この結果、対象物上に着弾した液状体は、当該対象物上に付着した第2材料によって濡れ広がるのを抑制されることになる。これにより、対象物に着弾された液滴の濡れ広がりを防ぐことが可能となる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0015】
本発明の第1実施形態を図面に基づき説明する。
(液滴吐出装置)
図1及び図2を用いて、本実施形態に係る配線パターン形成方法に用いる液滴吐出装置について説明する。図1は、液滴吐出装置の概略的な構成図である。本装置の説明においては、XYZ直交座標系を参照しつつ各部材の位置関係について説明する。水平面内における所定方向をX軸方向、水平面内においてX軸方向と直交する方向をY軸方向、水平面の鉛直方向をZ軸方向とする。本実施形態の場合、後述する液滴吐出ヘッドの非走査方向をX軸方向、液滴吐出ヘッドの走査方向をY軸方向としている。
【0016】
液滴吐出装置300は、液滴吐出ヘッド301から基板12に対して液滴Lを吐出するものであって、液滴吐出ヘッド301と、X方向駆動軸304と、Y方向ガイド軸305と、制御装置306と、ステージ307と、クリーニング機構308と、基台309と、ヒータ315と、レーザ照射装置310と、気流発生装置316とを備えている。
【0017】
液滴吐出ヘッド301は、複数の吐出ノズルを備えたマルチノズルタイプの液滴吐出ヘッドであり、液滴吐出ヘッド301の形状の長手方向とX軸方向とを一致させている。複数の吐出ノズルは、液滴吐出ヘッド301の下面にX軸方向に並んで一定間隔で設けられている。液滴吐出ヘッド301の吐出ノズルからは、ステージ307に支持されている基板12に対し液状体の液滴Lが吐出される。本実施形態では、液状体は配線パターンの形成材料を含む液状体(液状体)であり、撥液材料を含む液状体(撥液インク)であり、絶縁材料を含む液状体(絶縁インク)である。
【0018】
X方向駆動軸304は、基台309に対して動かないように固定されており、X方向駆動モータ302が接続されている。X方向駆動モータ302はステッピングモータ等であり、制御装置306からX方向の駆動信号が供給されると、X方向駆動軸304を回転させる。X方向駆動軸304が回転すると、液滴吐出ヘッド301はX軸方向に移動する。
【0019】
Y方向ガイド軸305は、基台309に対して動かないように固定されており、Y方向駆動モータ303を介してステージ307が接続されている。Y方向駆動モータ303はステッピングモータ等であり、制御装置306からY方向の駆動信号が供給されると、Y方向ガイド軸305に沿ってステージ307をY方向に移動させる。
【0020】
制御装置306は、液滴吐出ヘッド301に液滴Lの吐出制御用の電圧を供給する。また、X方向駆動モータ302には液滴吐出ヘッド301のX方向の移動を制御する駆動パルス信号を、Y方向駆動モータ303にはステージ307のY方向の移動を制御する駆動パルス信号を、それぞれ供給する。また、後述のヒータ315の電源投入及び遮断も制御する。
【0021】
ステージ307は、この液滴吐出装置300により液状体を配置するために後述する基板12を支持するものであって、基板12を基準位置に固定する不図示の固定機構を備えている。また、ステージ307は基板12を固定する面とは反対の面に先述のY方向駆動モータ303を備えている。
【0022】
クリーニング機構(洗浄装置)308は、液滴吐出ヘッド301をクリーニングすると共に、ステージ307上の基板12上についてもクリーニング可能になっている。クリーニング機構308には、図示しないY方向の駆動モータが備えられている。このY方向の駆動モータの駆動により、クリーニング機構は、Y方向ガイド軸305に沿って移動する。クリーニング機構308の移動も制御装置306により制御される。
【0023】
ヒータ315は、ここではランプアニールにより基板12を熱処理する手段であり、基板12上に塗布された液状体に含まれる溶媒の蒸発及び乾燥を行う。
【0024】
図2は、液滴吐出ヘッド301の構成を示す側面図である。
レーザ照射装置310は、液滴吐出ヘッド301の下面に取り付けられている。レーザ照射装置310は、液滴吐出ヘッド301から吐出された液滴が対象物上に着弾される前に、当該液滴にレーザ光を照射する光照射装置である。レーザ照射装置310は、例えば液滴吐出ヘッド301のノズル325の両側に配置された一対の光源310aを有している。このようにノズル325の両側に一対の光源310aが配置されているため、一対の光源310aから照射されたレーザ光は全ノズル325から吐出される液滴Lに対して照射されるようになっている。
【0025】
気流発生装置316は、例えば不図示の支持部材等を介して液滴吐出ヘッド301の上方に設けられている。気流発生装置316は、例えばファン機構を有しており、液滴吐出ヘッド301側から基板12側へとダウンフローを発生させることができるようになっている。
【0026】
液滴吐出装置300は、液滴吐出ヘッド301と基板12を支持するステージ307とを相対的に走査しつつ基板12に対して液状体を吐出する。本実施形態では、液滴吐出ヘッド301の吐出ノズルは、非走査方向であるX方向に一定間隔で並んで設けられている。なお、図1では、液滴吐出ヘッド301は、基板12の進行方向に対し直角に配置されているが、液滴吐出ヘッド301の角度を調整し、基板12の進行方向に対して交差させるようにしてもよい。このようにすれば、液滴吐出ヘッド301の角度を調整することで、ノズル間のピッチを調節することが出来る。また、基板12とノズル面との距離を任意に調節することが出来るようにしてもよい。
【0027】
図3は、液滴吐出ヘッド301の断面図である。
液滴吐出ヘッド301には、液状体を収容する液体室(液体保持部)321に隣接してピエゾ素子322が設置されている。液体室321には、液状体を収容する材料タンクを含む液状体供給系323を介して液状体が供給される。
【0028】
ピエゾ素子322は駆動回路324に接続されており、この駆動回路324を介してピエゾ素子322に電圧を印加し、ピエゾ素子322を変形させることにより、液体室321が変形して内圧が高まり、ノズル325から液状体の液滴Lが吐出される。この場合、印加電圧の値を変化させることにより、ピエゾ素子322の歪み量を制御し、液状体の吐出量を制御する。また、印加電圧の周波数を変化させることにより、ピエゾ素子322の歪み速度を制御する。ピエゾ方式による液滴吐出は材料に熱を加えないため、材料の組成に影響を与えにくいという利点を有する。
【0029】
液滴吐出法の吐出技術としては、上記の電気機械変換式の他に、帯電制御方式、加圧振動方式、電気熱変換方式、静電吸引方式などが挙げられる。帯電制御方式は、材料に帯電電極で電荷を付与し、偏向電極で材料の飛翔方向を制御してノズルから吐出させるものである。また、加圧振動方式は、材料に例えば30kg/cm2程度の超高圧を印加してノズル先端側に材料を吐出させるものであり、制御電圧をかけない場合には材料が直進してノズルから吐出され、制御電圧をかけると材料間に静電的な反発が起こり、材料が飛散してノズルから吐出されない。
【0030】
電気熱変換方式は、材料を貯留した空間内に設けたヒータにより、材料を急激に気化させてバブル(泡)を発生させ、バブルの圧力によって空間内の材料を吐出させるものである。静電吸引方式は、材料を貯留した空間内に微小圧力を加え、ノズルに材料のメニスカスを形成し、この状態で静電引力を加えてから材料を引き出すものである。また、この他に、電場による流体の粘性変化を利用する方式や、放電火花で飛ばす方式などの技術も適用可能である。液滴吐出法は、材料の使用に無駄が少なく、しかも所望の位置に所望の量の材料を的確に配置できるという利点を有する。なお、液滴吐出法により吐出される液状材料(流動体)の一滴の量は、例えば1〜300ナノグラムである。
【0031】
(液状体の構成材料)
本実施形態では、配線パターンの形成材料を含む液状体を所定の領域に塗布することで配線を形成する。この液状体は、導電性を有する第1材料、当該第1材料を溶解又は分散する第1媒体と、第1媒体に対して撥液性を有する第2材料と、当該第2媒体を溶解又は分散すると共に第1媒体よりも沸点の低い第2媒体と、レーザ光を吸収して発熱する第3材料と、第1媒体及び第2媒体の両方に親和性を有する第3媒体とを含んでいる。
【0032】
導電性を有する第1材料として、例えば金、銀、銅、パラジウム、ニッケル及びITOなどの金属、若しくはこれらの酸化物などが挙げられる。また、第1材料としては、他に導電性ポリマーや超電導体などを含む導電性微粒子などが挙げられる。これらの導電性微粒子は、分散性を向上させるために表面に有機物などをコーティングして使うこともできる。
【0033】
第1媒体である分散媒としては、上記の導電性微粒子を分散できるものであり、凝集を起こさないものを用いることができる。加えて、沸点が高い材料であればより好ましい。このような材料としては、例えばテトラデカン、ドデカン、プロパンジオール、ブチルグリコールアセテートなどの化合物を例示できる。テトラデカンは、常温での蒸気圧が1.35mmHgであり、沸点が254℃である。ドデカンは、常温での蒸気圧が1.0mmHgであり、沸点が214℃である。プロパンジオールは、常温での蒸気圧が0.075mmHgであり、沸点が214℃である。ブチルグリコールアセテートは、常温での蒸気圧が0.3mmHgであり、沸点が188℃である。これらの材料は、いずれも沸点が高い材料である。
【0034】
図5は第1媒体及び第2材料の蒸気圧曲線を示すグラフである。グラフの横軸が温度であり、グラフの縦軸が蒸気圧である。第1媒体の蒸気圧を実線で示し、第2材料の蒸気圧を破線で示してある。第1媒体に対して撥水性を有する第2材料としては、例えば図5のグラフに示すように常温(25℃)での蒸気圧が第1媒体の5倍以上である材料であることが好ましい。このような材料としては、例えばフッ素樹脂などが挙げられる。
【0035】
フッ素樹脂は、常温での蒸気圧が45mmHgであり、沸点が98℃である。例えば第1媒体としてテトラデカンを用いた場合、蒸気圧が24倍となる。第1媒体としてドデカンを用いた場合、蒸気圧は89倍となる。第1媒体としてプロパンジオールを用いた場合、蒸気圧は156倍となる。第1媒体としてブチルグリコールアセテートを用いた場合、蒸気圧は5倍となる。
【0036】
第2材料を分散させる第2媒体としては、第2材料に対して親和性を有し、第1媒体よりも沸点が低い材料を用いることができる。このような材料としては、例えばハイドロフルオロエーテルなどが挙げられる。第1媒体及び第2媒体の両方に親和性を有する第3媒体としては、例えばシクロヘキサンや乳酸ブチルなどの化合物が挙げられる。また、この液状体にレーザ光を吸収して発熱する第3材料として、フタロシアニン系染料などの色素を添加しても構わない。
【0037】
(液滴吐出方法)
次に、上記のように構成された液滴吐出装置300を用いた液滴吐出方法を説明する。まず、基板12へ向けて液滴を吐出する前に、必要に応じてクリーニング機構308を用いて基板12上をクリーニングする。また、気流発生装置316によって液滴吐出ヘッド301側から基板12側へダウンフローを発生させておく。
【0038】
このように吐出環境を整えた後、基板12へ向けて液滴吐出ヘッド301から液滴Lを吐出する。この吐出された液滴Lに対して、基板12の表面に着弾する前に、レーザ照射装置310の光源310aからレーザ光を照射する(例えば図2参照)。レーザ光を受けた液滴Lは、レーザ光のエネルギーによって第2媒体が蒸発する。第2媒体の蒸発により、第2媒体中に分散されていた第2材料が揮発し、液滴Lよりも早く基板12の表面に付着する。第2材料の付着によって基板12上は第1媒体に対して撥液性となる。第2材料が付着した後、撥液性となった基板12上に液滴Lが着弾する。当該撥液性によって、着弾した液滴Lは、基板12上で濡れ広がることなく配置されることとなる。
【0039】
液滴吐出ヘッド301から連続的に吐出された液滴Lは、図4に示すように、レーザ光を受けて第2溶媒が蒸発した後、基板12の表面に次々と着弾する。このとき液滴Lは、隣接する液滴同士で重なり合う位置に吐出・塗布される。これにより、液滴吐出ヘッド301と基板12との1回の走査で、塗布した液滴Lが描く塗布パターンが、途切れることなく形成されることになる。また、吐出される液滴Lの吐出量及び隣接する液滴Lとのピッチにより所望の塗布パターンの制御が可能である。図では塗布パターンは線状になる場合を示しているが、隣接する塗布パターンの隙間(図に示す幅W)を無くすことで、面状に液滴Lを塗布することもできる。
【0040】
液滴Lが配置された後には、液状体の液滴に含まれる第1媒体、第2材料、第3媒体あるいはコーティング剤を除去するため熱処理及び/又は光処理を行い、配線を形成する。導電性微粒子の表面に分散性を向上させるために有機物などのコーティング剤がコーティングされている場合には、このコーティング剤も合わせて除去する。本実施形態では電気炉(不図示)による加熱により熱処理を行い、配線を形成する。
【0041】
熱処理及び/又は光処理は通常大気中で行なわれるが、必要に応じて、窒素、アルゴン、ヘリウムなどの不活性ガス雰囲気中で行ってもよい。熱処理及び/又は光処理の処理温度は、分散媒の沸点(蒸気圧)、雰囲気ガスの種類や圧力、微粒子の分散性や酸化性等の熱的挙動、コーティング剤の有無や量、基材の耐熱温度などを考慮して適宜決定される。
【0042】
例えば、有機物からなるコーティング剤を除去するためには、約300℃で焼成することが必要である。また、プラスチックなどの基板を使用する場合には、室温以上100℃以下で行なうことが好ましい。本実施形態では250℃、60分で焼成する。
【0043】
熱処理及び/又は光処理は、例えばホットプレート、電気炉などの加熱手段を用いた一般的な加熱処理の他に、ランプアニールを用いて行ってもよい。ランプアニールに使用する光の光源としては、特に限定されないが、赤外線ランプ、キセノンランプ、YAGレーザー、アルゴンレーザー、炭酸ガスレーザー、XeF、XeCl、XeBr、KrF、KrCl、ArF、ArClなどのエキシマレーザーなどを使用することができる。これらの光源は一般には、出力10W以上5000W以下の範囲のものが用いられるが、本実施形態では100W以上1000W以下の範囲で十分である。上記熱処理及び/又は光処理により、微粒子間の電気的接触が確保され配線が形成される。
【0044】
このように、本実施形態によれば、第1材料及び当該第1材料を分散する第1媒体と、第1媒体に対して撥液性を有する第2材料及び当該第2媒体を分散すると共に第1媒体よりも沸点の低い第2媒体とを含む液状体を液滴吐出ヘッド301から吐出し、当該液状体が基板12に着弾する前にレーザ光を照射することで、飛行中の液滴Lの第2媒体を蒸発させることができる。第2媒体を蒸発させることにより、当該第2媒体中に分散されていた第2材料が飛散し、液滴Lが対象物上に着弾するよりも早く基板12上に付着する。この結果、基板12上に着弾した液滴Lは、当該基板12上に付着した第2材料によって濡れ広がるのを抑制されることになる。これにより、基板12に着弾された液滴の濡れ広がりを防ぐことが可能となる。
【0045】
また、本実施形態によれば、液状体が第1媒体及び第2媒体の両方に対して親和性を有する第3溶媒を含むこととしたので、液状体の内部で第1材料及び第1媒体と、第2材料及び第2媒体とが分離するのを防ぐことができる。これにより、液滴吐出ヘッド301から吐出される液滴Lには確実に第1材料、第1媒体、第2材料及び第2媒体が含まれることとなる。
【0046】
また、本実施形態によれば、液状体がレーザ光の照射を受けて発熱する第3材料を含むこととしたので、レーザ光を受けた際に第2媒体の蒸発効率を高めることができる。これにより、一層早く第2材料を基板12上に付着させることができる。
【0047】
また、本実施形態によれば、クリーニング装置308によって基板12上が洗浄されるため、第2溶媒を蒸発させる際に第2材料を基板12上に付着されやすくすることができる。これにより、基板12上に着弾した液滴Lの濡れ広がりをより確実に抑えることができる。
【0048】
また、本実施形態によれば、気流発生装置316によって液滴吐出ヘッド301側から基板12側へ気流を発生させておくこととしたので、第2溶媒が蒸発した際に当該気流に乗って第2材料が基板12上に付着されやすくなる。これにより、基板12上に着弾した液状体の濡れ広がりをより確実に抑えることができる。
【0049】
本発明の技術範囲は上記実施形態に限定されるものではなく、本発明の趣旨を逸脱しない範囲で適宜変更を加えることができる。
例えば、上記実施形態においては、第1材料として、金属、金属化合物、導電性微粒子などを例として挙げたが、これに限られることは無く、他の導電性材料を用いることとしても構わない。
【0050】
また、第1溶媒として、テトラデカン、ドデカン、プロパンジオール、ブチルグリコールアセテートの4種類の化合物を例としてあげて説明したが、これに限られることは無く、他の化合物であっても構わない。
【0051】
また、第2材料として、フッ素樹脂を例に挙げて説明したが、これに限られることは無く、他の材料であっても構わない。同様に、第2溶媒としてハイドロフルオロエーテルに限られず、他の材料であっても構わない。
【図面の簡単な説明】
【0052】
【図1】液滴吐出装置の概略的な構成図である。
【図2】液滴吐出装置のうち液滴吐出ヘッド近傍の構成を示す図である。
【図3】液滴吐出装置に備わる液滴吐出ヘッドの断面図である。
【図4】液滴吐出装置によって形成される配線パターンを示す概略図である。
【図5】第1媒体及び第2材料の蒸気圧を示すグラフである。
【符号の説明】
【0053】
L…液滴 12…基板 300…液滴吐出装置 301…液滴吐出ヘッド 306…制御装置 308…クリーニング機構 310…レーザ照射装置 310a…光源 316…気流発生装置 321…液体室 325…ノズル

【特許請求の範囲】
【請求項1】
導電性を有する第1材料及び当該第1材料を溶解又は分散する第1媒体と、前記第1媒体に対して撥液性を有する第2材料及び当該第2媒体を溶解又は分散すると共に前記第1媒体よりも沸点の低い第2媒体と含む液状体を保持する液状体保持部を有し、対象物へ向けて前記液状体を吐出する吐出ヘッドと、
前記吐出ヘッドから吐出され前記対象物に着弾する前の前記液状体に光を照射可能な光照射装置と
を備えることを特徴とする液滴吐出装置。
【請求項2】
前記液状体は、前記第1媒体及び前記第2媒体の両方に対して親和性を有する第3溶媒を含む
ことを特徴とする請求項1に記載の液滴吐出装置。
【請求項3】
前記液状体は、前記光の照射を受けて発熱する第3材料を含む
ことを特徴とする請求項1又は請求項2に記載の液滴吐出装置。
【請求項4】
前記対象物上を洗浄する洗浄装置を更に備える
ことを特徴とする請求項1から請求項3のうちいずれか一項に記載の液滴吐出装置。
【請求項5】
前記吐出ヘッド側から前記対象物側へ向けて気流を発生させる気流発生装置を更に備える
ことを特徴とする請求項1から請求項4のうちいずれか一項に記載の液滴吐出装置。
【請求項6】
導電性を有する第1材料及び当該第1材料を溶解又は分散する第1媒体と、前記第1媒体に対して撥液性を有する第2材料及び当該第2媒体を溶解又は分散すると共に前記第1媒体よりも沸点の低い第2媒体と含む液状体を対象物へ向けて吐出する第1ステップと、
吐出された前記液状体が前記対象物に着弾する前に、前記第2材料を蒸発させると共に前記第1材料が蒸発しないように前記液状体に前記光を照射する第2ステップと
を備えることを特徴とする液滴吐出方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【公開番号】特開2010−94651(P2010−94651A)
【公開日】平成22年4月30日(2010.4.30)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−269837(P2008−269837)
【出願日】平成20年10月20日(2008.10.20)
【出願人】(000002369)セイコーエプソン株式会社 (51,324)
【Fターム(参考)】