説明

液状エポキシ樹脂組成物及び該組成物を用いた半導体装置

【課題】流動性に優れ、温度サイクル試験時に生じる端子の接続部保護性向上及びチップへの低応力化が可能な高信頼性の半導体封止材用液状エポキシ樹脂組成物、及びこの液状エポキシ樹脂組成物の硬化物を素子と基板間に介在してなる高信頼性半導体装置を提供する。
【解決手段】(A)液状エポキシ樹脂、(B)硬化剤、(C)無機充填剤及び(D)可撓化剤を成分とする無溶剤型の液状エポキシ樹脂組成物であって、硬化前の揺変指数が25℃で1.0以下であり、硬化後の25℃での弾性率が9.0GPa以下であり、125℃〜−55℃での平均熱膨張係数が5.0×10−5/℃以下であり、25℃での破壊靭性が2.0MPa・m0.5以上である液状エポキシ樹脂組成物。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、流動性に優れ、硬化物が低応力性、高靭性に優れ、接続端子の保護性に優れた液状エポキシ樹脂組成物及び半導体素子の回路形成面が基板の回路形成面とバンプを介して対向するようにフリップチップ実装され、半導体素子と基板の隙間に該樹脂組成物を硬化する構造を有する半導体装置に関する。
【背景技術】
【0002】
半導体は素子を外部環境から保護して各種信頼性を確保すると同時に基板への実装を容易にするためパッケージが必要である。パッケージには種々の形態があるが、一般的には金属製リードフレームに形成されたタブに素子を固着し、素子表面の電極とインナーリード間を金ワイヤで電気的に接続し、素子、金ワイヤ及びリードフレームの一部をエポキシ樹脂組成物を用い低圧トランスファ成形法で封止したパッケージが広く実用に供されている。このような樹脂封止型半導体装置は、素子サイズに比べてパッケージの外形がかなり大きく、高密度実装の観点からは極めて非効率的である。そのため、パッケージ形態はピン挿入型から表面実装型に移行するとともに小型・薄型化が積極的に行われた。しかし、金属製リードフレームに素子を搭載し、ワイヤボンデイングしたものを樹脂封止する構造を採用する以上、実装効率を高めるには限界があった。そこで、COB(Chip on Board)、ハイブリッドIC、モジュール、カードなどの分野では、一部の素子を高密度実装するためベアチップをバンプを介して基板にフェースダウンで実装するいわゆるフリップチップ実装を採用してきた。最近は素子の高集積化、高機能化、多ピン化、システム化、高速化に対応するため、パッケージ用基板に素子を搭載する方法として、実装効率のほか電気特性、多ピン化対応に優れるフリップチップ実装の採用が増えている。
【0003】
ところで、フリップチップ実装を行う場合、素子と基板はそれぞれ熱膨張係数が異なるため接合部に熱応力が発生し接続信頼性の確保が重要な課題である。また、ベアチップは回路形成面が充分に保護されていないため、水分やイオン性不純物が浸入し易く耐湿信頼性の確保も重要な課題である。その対策として、通常素子と基板の間隙にアンダーフィル材と呼ばれるエポキシ樹脂組成物を介在させ、接合部の補強及び素子の保護を行っている。樹脂組成物を介在させる方法には種々の方式があるが、一般的には液状のエポキシ樹脂組成物を素子の周辺に滴下し、毛細管現象により素子と基板の隙間にしみ込ませるキャピラリーフロー方式と、基板上に樹脂を塗布した後に素子を搭載するコンプレッションフロー方式が採用されている。近年、端子の脱鉛化が進み信頼性の確保が難しくなってきている。これまで、各社材料メーカから鉛はんだ対応の材料として、酸無水物硬化系のエポキシ樹脂が提案されていた(非特許文献1参照)。
【特許文献1】特開2006−219601号公報
【非特許文献1】Development of Underfill Material with High Valued Performance ;Masahiro Wada/1999 Electronic Components and Technology Conference.
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
しかし、環境保護の観点から、鉛フリーの要求が高まっており、はんだバンプの脱鉛化が進んでいる。これに伴い、端子の接続温度の上昇しまた、はんだ端子材質が脆性化するため、接続性の確保が難しくなってきており、アンダーフィル材の選定によっては、温度サイクル試験などで繰り返し熱衝撃を受ける場合に接合部の保護が不十分なため、低サイクルで接合部が疲労破壊することがある。また、チップの保護のために、チップ側面にフィレットを形成するが、アンダーフィル材とチップとの熱膨張差に起因した熱応力によって、樹脂がクラックを生じ結果として最悪の場合チップを破壊する恐れがある。
【0005】
最近は、素子の高集積度化、多機能化に伴いチップサイズが大型化してきている一方、多ピン化によってバンプの小径化、狭ピッチ化、狭ギャップ化が、また、搭載機器の小型化に伴いチップ厚の薄型化が行われており、上記課題の解決がますます難しくなっている。
【0006】
この発明は、流動性を確保しつつ、半導体素子の接合部の疲労破壊や、チップのクラックの問題を解決するためのものであり、従来のフリップチップ実装パッケージの欠点を克服し、温度サイクル時の接続信頼性に優れ、チップ側面フィレット部の信頼性が高い液状エポキシ樹脂組成物及び樹脂封止型半導体装置を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明は、以下に関する。
1. (A)液状エポキシ樹脂、(B)硬化剤、(C)無機充填剤及び(D)可撓化剤を成分とする無溶剤型の液状エポキシ樹脂組成物であって、硬化前の揺変指数が25℃で1.0以下であり、硬化後の25℃での弾性率が9.0GPa以下であり、125℃〜−55℃での平均熱膨張係数が5.0×10−5/℃以下であり、25℃での破壊靭性が2.0MPa・m0.5以上であることを特徴する液状エポキシ樹脂組成物。
2. (B)硬化剤が、液状芳香族アミンから選ばれる少なくとも1種類の化合物を含む項1記載の液状エポキシ樹脂組成物。
3. (C)無機充填剤が、球状の溶融シリカであり、平均粒径が0.3〜5μmの範囲内にあり、無機充填剤の組成物全体に対する含有量が50重量%から65重量%であることを特徴とする項1または2に記載の液状エポキシ樹脂組成物。
4. (D)可撓化剤が、粒状のシリコーン粉末で平均粒径0.3〜5μmの範囲内にあり、エポキシ樹脂100重量部に対する可撓化剤の含有量が1重量部〜15重量部であることを特徴とする項1〜3いずれかに記載の液状エポキシ樹脂組成物。
5. (A)液状エポキシ樹脂が、液状ビスフェノールF型エポキシ樹脂及びアミノグリシジルエーテル型エポキシ樹脂を含む、項1〜4いずれかに記載の液状エポキシ樹脂組成物。
6. 半導体素子の回路形成面と無機または有機基板の回路形成面を対向させ、素子の電極と基板の回路がバンプを介して電気的に接続され、半導体素子と基板の隙間に項1〜5いずれかに記載の液状エポキシ樹脂組成物にて樹脂封止してなることを特徴とする半導体装置。
【発明の効果】
【0008】
本発明により、従来のフリップチップ実装パッケージの欠点を克服し、温度サイクル時の接続信頼性に優れ、チップ側面フィレット部の信頼性が高い液状エポキシ樹脂組成物及び樹脂封止型半導体装置を提供することが可能となる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0009】
半導体素子をフリップチップ実装したパッケージの接合部の破壊は、接合部にかかる熱応力及び歪に影響を受けると考えられる。チップ側面フィレット部に生じるクラックは、チップ側面フィレット部に生じる応力とアンダーフィル樹脂の破壊強度に影響を受けると考えられる。本発明者らはこれらの影響に着目し、検討を重ねた結果、接合部の信頼性はアンダーフィル材の弾性率及び熱膨張係数に影響を受け、アンダーフィル材の熱膨張係数を5.0×10−5(1/℃)以下にすることで、十分な接続信頼性を確保できることを突き止めた。熱膨張係数が5.0×10−5(1/℃)以上になると、端子の保護効果が低減し、温度サイクル試験の際に、はんだ接続部にクラックが生じ、導通不良が発生する。さらに、チップ側面フィレット部に生じるクラックについて検討を重ねた結果、フィレットクラック低減にはチップフィレット部に生じる応力を低減するために、アンダーフィル材の弾性率を9.0GPa以下かつ熱膨張係数を5.0×10−5(1/℃)以下に設定し、かつ樹脂の破壊靭性を2.0MPa・m0.5以上にすることが必要であることを突き止めた。また、硬化前の樹脂の揺変指数が大きい場合、液状封止が含浸する際に空気を巻き込みボイドを生じることがあり、ボイド発生を抑制するためには揺変指数を1.0以下に設定する必要があり、ボイドを抑制することで信頼性を確保できることを見出した。これらのことから、温度サイクル試験時の信頼性を確保するには、アンダーフィル材特性として、弾性率を9.0GPa以下、熱膨張係数を5.0×10−5(1/℃)以下、かつ樹脂の破壊靭性を2.0MPa・m0.5以上、硬化前の揺変度を1.0以下に設定することが必要であることを見出し、本発明をなすに至ったものである(尚、本特性は後述する実施例の方法で測定した数値である。)。
【0010】
本発明の半導体封止用液状エポキシ樹脂組成物は、(A)液状エポキシ樹脂、(B)硬化剤、(C)無機充填剤(D)可撓化剤を成分として含有する。本発明に用いる(A)液状エポキシ樹脂は、25℃で液状のエポキシ樹脂であれば特に制限はなく、例えば、ビスフェノールA、ビスフェノールF、ビスフェノールAD、ビスフェノールS、ナフタレンジオール、水添ビスフェノールA等とエピクロルヒドリンの反応により得られるグリシジルエーテル型エポキシ樹脂、オルソクレゾールノボラック型エポキシ樹脂をはじめとするフェノール類とアルデヒド類とを縮合又は共縮合させて得られるノボラック樹脂をエポキシ化したもの、フタル酸、ダイマー酸等の多塩基酸とエピクロルヒドリンの反応により得られるグリシジルエステル型エポキシ樹脂、ジアミノジフェニルメタン、イソシアヌル酸等のポリアミンとエピクロルヒドリンの反応により得られるグリシジルアミン型エポキシ樹脂、オレフィン結合を過酢酸等の過酸で酸化して得られる線状脂肪族エポキシ樹脂、及び脂環族エポキシ樹脂などを用いることができる。特に、本発明では、ビスフェノールA型エポキシ樹脂、ビスフェノールF型エポキシ樹脂、ビスフェノールAD型エポキシ樹脂、ビスフェノールS型エポキシ樹脂、ナフタレンジオール型エポキシ樹脂、水添ビスフェノールA型エポキシ樹脂、グリシジルアミン型エポキシ樹脂から選ばれる少なくとも1種を用いることが望ましく、これらは単独で用いても2種以上を組み合わせて用いてもよい。流動性の観点からは、ビスフェノールF型エポキシ樹脂及びグリシジルアミン型エポキシ樹脂を併用することが好ましい。併発明の目的を損なわない範囲であれば固形のエポキシ樹脂を併用しても良い。さらには粘度調整のためエポキシ基を有する反応性希釈剤を混合しても良い。エポキシ基を有する反応性希釈剤としては例えばn-ブチルグリシジルエーテル、バーサティック酸グリシジルエーテル、スチレンオキサイド、エチルヘキシルグリシジルエーテル、フェニルグリシジルエーテル、ブチルフェニルグリシジルエーテル、1,6-ヘキサンジオールジグリシジルエーテル、ネオペンチルグリコールジグリシジルエーテル、ジエチレングリコールジグリシジルエーテル、トリメチロールプロパントリグリシジルエーテルがあり、これらの内の1種類あるいは複数種と併用しても良い。これらのエポキシ樹脂は、十分に精製されたもので、イオン性不純物が少ないものが好ましい。例えば、遊離Naイオン、遊離Clイオンは500ppm以下であることが好ましい。
【0011】
本発明に用いる(B)硬化剤は、特に制限はなく、エポキシ樹脂の硬化剤として一般に使用されている酸無水物、フェノール樹脂、芳香族アミン、各種イミダゾール誘導体などを用いることができるが、低粘度化の観点からは酸無水物、保存安定性の観点からはフェノール樹脂及びイミダゾール誘導体、耐湿接着性の観点からは芳香族アミンがより好ましい。また、組成物が液状であれば硬化剤は固形の化合物を使用しても良いし液状及び固形の化合物を併用しても良い。
【0012】
酸無水物としては例えば、無水フタル酸、テトラヒドロ無水フタル酸、3−メチルテトラヒドロ無水フタル酸、無水ハイミック酸、無水コハク酸、無水トリメリット酸、無水ピロメリット酸等が挙げられ、これらを単独で用いても2種以上を組み合わせて用いてもよい。
【0013】
フェノール樹脂としては、分子中に2個以上のフェノール性水酸基を有するものであれば特に制限はなく、例えば、フェノール、クレゾール、レゾルシン、カテコール、ビスフェノールA、ビスフェノールF、フェニルフェノール、アミノフェノール等のフェノール類及び/又はα−ナフトール、β−ナフトール、ジヒドロキシナフタレン等のナフトール類とホルムアルデヒド等のアルデヒド基を有する化合物とを酸性触媒下で縮合又は共縮合させて得られるノボラック型フェノール樹脂、アリル化ビスフェノールA、アリル化ビスフェノールF、アリル化ナフタレンジオール、フェノールノボラック、フェノール等のフェノール類及び/又はナフトール類とジメトキシパラキシレン又はビス(メトキシメチル)ビフェニルから合成されるフェノール・アラルキル樹脂、ナフトール・アラルキル樹脂などが挙げられ、これらを単独で用いても2種以上を組み合わせて用いてもよい。
【0014】
芳香族アミンとしては、例えば、エピキュアW、エピキュアZ(いずれも油化シェルエポキシ株式会社製商品名)、カヤハードA−A、カヤハードA−B、カヤハードA−S(いずれも日本化薬株式会社製商品名)、トートアミンHM−205(東都化成株式会社製商品名)、アデカハードナーEH−101(旭電化工業株式会社製商品名)、エポミックQ−640、エポミックQ−643(いずれも三井化学株式会社製商品名)、DETDA80(Lonza社製商品名)等が挙げられ、これらを単独で用いても2種以上を組み合わせて用いてもよい。
【0015】
耐湿性及び流動性の観点から、硬化剤としては液状芳香族アミンを使用することが好ましい。硬化剤の選定によって、樹脂の流動性を向上させることができる。イミダゾール誘導体としては、2−メチルイミダゾール、2−ウンデシルイミダゾール、2−ヘプタデシルイミダゾール、1,2−ジメチルイミダゾール、2−エチル−4−メチルイミダゾール、2−フェニルイミダゾール、2−フェニル−4−メチルイミダゾール、1−ベンジル−2−メチルイミダゾール、1−シアノエチル−2−メチルイミダゾール、1−シアノエチル−2−エチル−4−メチルイミダゾール、1-シアノエチル−2−ウンデシルイミダゾール、1−シアノエチル−2−フェノルイミダゾール、1−シアノエチル−2−エチル−4−メチルイミダゾリウムトリメリテイト、1−シアノエチル−2−ウンデシルイミダゾリウムトリメリテイト、1−シアノエチル−2−フェニルイミダゾリウムトリメリテイト、2,4−ジアミノ−6−[2’−メチルイミダゾリル−(1’)] −エチル−sトリアジン、2,4−ジアミノ−6−(2’−ウンデシルイミダゾリル)−エチル−s−トリアジン、2,4−ジアミノ-−6−[2’−エチル−4−メチルイミダゾリル−(1’)]−エチル−s−トリアジン、2,4−ジアミノ−6−[2’−メチルイミダゾリル−(1’)]−エチル-s−トリアジン イソシアヌル酸付加物、2−フェニルイミダゾール イソシアヌル酸付加物、2−メチルイミダゾール イソシアヌル酸付加物、2−フェニル−4,5−ジヒドロキシジメチルイミダゾール、2−フェニル−4−メチル−5−ヒドロキシメチルイミダゾール、1−シアノエチル−2−フェニル−4,5−ジ(2−シアノエトキシ)メチルイミダゾールなどが挙げられ、これらは2種以上併用しても良い。
【0016】
(A)エポキシ樹脂と(B)硬化剤との当量比は特に制限はないが、それぞれの未反応分を少なくするため、エポキシ樹脂に対して硬化剤を0.6〜1.6当量の範囲に設定することが好ましく、0.7〜1.4当量がより好ましく、0.8〜1.2当量がさらに好ましい。0.6.〜1.6当量の範囲からはずれた場合、未反応分が多くなり信頼性が低下する傾向がある。
【0017】
ここで、フェノール樹脂の当量はエポキシ基1個に対しフェノール性水酸基1個が反応するものとして計算され、芳香族アミンの当量はエポキシ基1個に対しアミノ基の活性水素1個が反応するものとして計算され、酸無水物の当量はエポキシ基1個に対し酸無水物基1個が反応するものとして計算される。イミダゾール誘導体はエポキシ樹脂の重合触媒として働くため配合量は組成物の硬化速度及びポットライフを考慮して決められる。
【0018】
本発明の液状エポキシ樹脂組成物は、弾性率を9.0GPa以下、熱膨張係数を5.0×10−5(1/℃)以下にすることで、チップフィレット部の低応力化と接続信頼性の確保を両立することを特徴とするが、エポキシ樹脂組成物にこのような性質を付与するうえで重要な役割を果たすのが無機充填剤である。無機充填剤の配合量で樹脂硬化物の弾性率及び熱膨張係数を調整できる。本発明で用いられる(C)無機充填剤としては、例えば、溶融シリカ、結晶シリカ等のシリカ、炭酸カルシウム、クレー、酸化アルミナ等のアルミナ、窒化珪素、炭化珪素、窒化ホウ素、珪酸カルシウム、チタン酸カリウム、窒化アルミ、ベリリア、ジルコニア、ジルコン、フォステライト、ステアタイト、スピネル、ムライト、チタニア等の粉体、又はこれらを球形化したビーズ、ガラス繊維などが挙げられる。これらの無機充填剤は単独で用いても2種以上を組み合わせて用いてもよい。なかでもシリカが好ましく、流動性の観点からは球形シリカがより好ましい。
【0019】
平均粒径が小さ過ぎると充填剤の比表面積の増大によってエポキシ樹脂組成物の粘度上昇やチキソトロピック性の発現が起こり、充填剤の増量ができなくなり、平均粒径が大きすぎると狭い隙間への含浸性が悪化したり、充填剤沈降の問題が発生するため、無機充填剤の平均粒径は、0.1〜5μmの範囲が好ましい。
【0020】
無機充填剤の配合量は、エポキシ樹脂組成物の50〜65重量%の範囲に設定されることが好ましい。配合量が50重量%未満では熱膨張係数の低減効果が低くなり温度サイクル性に劣る傾向、及び耐湿信頼性に劣る傾向にある。また、65重量%を超えると弾性率が高くなりフィレットやチップにクラックが生じる傾向、及び液状エポキシ樹脂組成物の粘度が上昇することで、流動性、浸透性及びディスペンス性の低下を招く傾向がある。
【0021】
また、本発明では、フィレットクラック及びチップクラックの発生を抑制するために、液状エポキシ樹脂組成物の硬化後の破壊靭性を2.0以上に設定することを特徴とするが、液状エポキシ樹脂組成物にこのような特性を付与するうえで重要な役割を果たすのが可撓化剤である。可撓化剤の量を調整することで、樹脂硬化物の破壊靱性を向上できる。可撓化剤としては液状可撓化剤の適用も考えられるが、液状の可撓化剤を含有すると液状エポキシ樹脂組成物にチキソ性が発現し樹脂組成物の含浸性及び流動性を著しく低下させるため、粒状の可撓化剤が好ましい。可撓化剤としては、シリコーン系、アクリル系及びブタジエン系の粒状粉末を使用できるが、なかでも弾性率の調整及び流動性の向上上最も低弾性なシリコーン系の可撓化剤が好ましい。
【0022】
無機充填材と同様に平均粒径が小さ過ぎると充填剤の比表面積の増大によってエポキシ樹脂組成物の粘度上昇やチキソトロピック性の発現が起こり、増量ができなくなり、平均粒径が大きすぎると狭い隙間への含浸性が悪化の問題が発生するため、平均粒径は、0.1〜5μmの範囲が好ましい。
【0023】
(D)可撓化剤の配合量は、エポキシ樹脂100重量部に対して1〜15重量部の範囲に設定されることが好ましい。配合量が1重量部未満では破壊靭性の向上効果が低くなり、また充填材の沈降が起こる等の問題があり、温度サイクル時の耐フィレットクラック性に劣る傾向にある。含有量が15重量部を超えるとエポキシ樹脂組成物の粘度上昇やチキソトロピック性の発現が起こり、流動性、浸透性及びディスペンス性の低下を招く傾向がある。
【0024】
本発明には必要に応じて、硬化促進剤、カップリング剤、着色剤などを用いることができる。硬化促進剤としては、各種アミン系化合物、イミダゾール系化合物、オルガノホスフィン系化合物、四級アンモニウムまたはホスホニウム系化合物などを使用することができる。カップリング剤は無機充填材と樹脂の濡れ、被着体との接着性改善効果があり、具体的には、γ−(2−アミノエチル)アミノプロピルトリメトキシシラン、γ−(2−アミノエチル)アミノプロピルジメトキシシラン、γ−グリシドキシプロピルトリメトキシシラン、γ−メルカプトプロピルトリメトキシシラン、γ−アニリノプロピルトリメトキシシラン、γ−ウレイドトリメトキシシラン、γ−ジブチルアミノプロピルトリメトキシシラン、イミダゾールシランなどを用いることができる。着色剤としてはカーボンブラック、有機染料、有機顔料、酸化チタン、鉛丹、ベンガラなどを用いることができる。
【0025】
本発明の液状エポキシ樹脂組成物の製造方法は特に限定されないが、上記各種成分を均一に分散混合できる方法であれば良い。一般的な方法としては、三本ロール、らいかい機、プラネタリミキサー等による分散混練を挙げることができる。本発明の液状エポキシ樹脂組成物による半導体素子の樹脂封止は通常ディスペンス方式によって行われる。
【実施例】
【0026】
次に実施例により本発明を説明するが、本発明の範囲はこれらの実施例に限定されるものではない。なお、ボイドの観察、各種信頼性の評価は以下の方法及び条件で行った。信頼性の評価に使用した半導体装置の諸元は、チップサイズ10.04×10.04×0.725tmm(パッシベーション:ポリイミド膜)、バンプ:Sn-Ag-Cuはんだボール(Φ80μm、1936pin)、バンプピッチ:200μm、基板:FR−4(40×40×0.8tmm)、チップ/基板間のギャップ:45μmである。
【0027】
(1)粘度及び揺変指数
E型粘度計(株式会社東京計器製)を用いて、25℃の粘度(Pa・s)をロータ回転数 10rpmで測定した。揺変指数はロータ回転数2.5rpmで測定した粘度と10rpmで測定した粘度の比で表した。
(2)ガラス転移温度及び熱膨張係数
液状エポキシ樹脂組成物を直径4mm、長さ20mmの円柱状に成形し、熱機械分析装置TMA8140(理学電気製)を用い、昇温速度3℃/min、測定温度範囲−70〜250℃で熱膨張量を測定し、低温側の直線の接線と高温側の直線の接線との交点をガラス転移温度とし、−55℃〜125℃の直線の勾配を熱膨張係数として表した。
(3)弾性率
液状エポキシ樹脂組成物を厚さ0.4mmのシート状に成形し、このシートを5mm×30mmの短冊状に切り取ったものを試験片とし、動的粘弾性測定装置DVE型(株式会社レオロジ製)を用いて昇温速度3℃/min、測定温度−70〜250℃、周波数10Hzで動的粘弾性特性を測定し、25℃の弾性率(GPa)を読取った。
(4)破壊靭性
液状エポキシ樹脂組成物を48mm(長さ)×3mm(幅)×12mm(厚み)に成形後、2mmの亀裂を作製し、マイクロフォース精密試験装置5548型(インストロン製)を用い、測定温度25℃、速度0.5mm/minで3点曲げ試験を行い、破壊靭性を求めた。
(5)ボイド観察
液状エポキシ樹脂組成物をアンダーフィルした半導体装置の内部を超音波探傷装置AT−5500(株式会社日立建機製)で観察し、ボイドの有無を調べた。
【0028】
(6)信頼性評価
(耐リフロー性)
液状エポキシ樹脂組成物をアンダーフィルした半導体装置を120℃/12時間加熱乾燥した後、85℃、60%RH下で168時間吸湿させ、遠赤外線加熱方式のリフロー炉(265℃加熱時間10秒)中を5回通した後、内部を超音波探傷装置で観察し、液状エポキシ樹脂組成物とチップ及び基板との剥離、エポキシ樹脂組成物のクラックの有無を調べた。
(耐温度サイクル性)
液状エポキシ樹脂組成物をアンダーフィルした半導体装置を−55℃〜125℃、各30分のヒートサイクルで1000サイクル処理し、導通試験を行いアルミ配線及び接続端子の断線不良を調べるとともに、チップクラック及び樹脂とのはく離を超音波探傷装置で観察し、不良パッケージ数/評価パッケージ数で評価した。
(耐HAST性)
液状エポキシ樹脂組成物をアンダーフィルした半導体装置を130℃、85%RHのPCT条件で200h処理後、アルミ配線及びパッドの断線有無を導通試験より確認し、不良パッケージ数/評価パッケージ数で評価した。
【0029】
(実施例1〜6、比較例1〜7)
(A)液状エポキシ樹脂としてビスフェノールFをエポキシ化して得られるエポキシ当量160の液状ジエポキシ樹脂(液状エポキシ1、ジャパンエポキシレジン株式会社製商品名jER806)、アミノフェノールをエポキシ化して得られるエポキシ当量95の3官能液状エポキシ樹脂(液状エポキシ2、ジャパンエポキシレジン株式会社製商品名jER630)、(B)硬化剤として活性水素当量45のジエチルトルエンジアミン(液状アミン1、ジャパンエポキシレジン株式会社製商品名jERキュアW)、活性水素当量63のジエチル−ジアミノ−ジフェニルメタン(液状アミン2、日本化薬株式会社製商品名カヤハードAA)、活性水素当量63の固形アミン(日本化薬株式会社製商品名カヤボンドC−200S)、酸無水物当量168の液状酸無水物(日立化成工業製商品名HN5500)、(C)シリコーン重合体粒子としてジメチル型固形シリコーンゴム粒子の表面がエポキシ基で修飾された、平均粒径2μmの球状のシリコーン微粒子1(東レ・ダウコーニング・シリコーン社製商品名トレフィルE−601)を用意した。
【0030】
無機充填剤として平均粒径1μmの球状溶融シリカ、硬化促進剤として2−フェニル−4−メチル−5−ヒドロキシメチルイミダゾール、イオントラップ剤としてビスマス系イオントラップ剤IXE500(東亞合成株式会社製商品名)、カップリング剤としてγ−グリシドキシプロピルトリメトキシシラン(チッソ株式会社製商品名サイラエースS510)及び着色剤としてカーボンブラック(三菱化学株式会社製商品名MA‐100)を用意した。これらを、それぞれ表1、2に示す組成で配合(重量部)し、三本ロール及び真空擂潰機にて混練分散した後、実施例1〜6及び比較例1〜7の電子部品用液状樹脂組成物を作製した。
【0031】
【表1】

【0032】
【表2】

【0033】
表1及び表2から明らかなように、本発明の液状エポキシ樹脂組成物では端子部の疲労破壊やチップクラックが発生せず、温度サイクル性に優れている。また、充填剤の沈降、ボイドなどの欠陥がないため、耐リフロー性、耐湿性などの信頼性も良好である。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
(A)液状エポキシ樹脂、(B)硬化剤、(C)無機充填剤及び(D)可撓化剤を成分とする無溶剤型の液状エポキシ樹脂組成物であって、硬化前の揺変指数が25℃で1.0以下であり、硬化後の25℃での弾性率が9.0GPa以下であり、125℃〜−55℃での平均熱膨張係数が5.0×10−5/℃以下であり、25℃での破壊靭性が2.0MPa・m0.5以上であることを特徴する液状エポキシ樹脂組成物。
【請求項2】
(B)硬化剤が、液状芳香族アミンから選ばれる少なくとも1種類の化合物を含む請求項1記載の液状エポキシ樹脂組成物。
【請求項3】
(C)無機充填剤が、球状の溶融シリカであり、平均粒径が0.3〜5μmの範囲内にあり、無機充填剤の組成物全体に対する含有量が50重量%から65重量%であることを特徴とする請求項1または2に記載の液状エポキシ樹脂組成物。
【請求項4】
(D)可撓化剤が、粒状のシリコーン粉末で平均粒径0.3〜5μmの範囲内にあり、エポキシ樹脂100重量部に対する可撓化剤の含有量が1重量部〜15重量部であることを特徴とする請求項1〜3いずれかに記載の液状エポキシ樹脂組成物。
【請求項5】
(A)液状エポキシ樹脂が、液状ビスフェノールF型エポキシ樹脂及びアミノグリシジルエーテル型エポキシ樹脂を含む、請求項1〜4いずれかに記載の液状エポキシ樹脂組成物。
【請求項6】
半導体素子の回路形成面と無機または有機基板の回路形成面を対向させ、素子の電極と基板の回路がバンプを介して電気的に接続され、半導体素子と基板の隙間に請求項1〜5いずれかに記載の液状エポキシ樹脂組成物にて樹脂封止してなることを特徴とする半導体装置。

【公開番号】特開2009−91510(P2009−91510A)
【公開日】平成21年4月30日(2009.4.30)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2007−265561(P2007−265561)
【出願日】平成19年10月11日(2007.10.11)
【出願人】(000004455)日立化成工業株式会社 (4,649)
【Fターム(参考)】