説明

災害救助ロボット、及び災害救助支援システム

【課題】 居室内に予め設置され、平常時にインターフォンとして機能し、災害時に災害救助機能を有する災害救助ロボットを利用した災害救助支援システムを提供することを課題とする。
【解決手段】 支援システム1は、複数の居室9にクローラ機構部をコンパクトに格納した状態で設置された複数のロボット2と、該ロボット2と無線通信ネットワーク10を介して種々の情報を送受可能に形成され、災害の発生時には、ロボット2を遠隔制御し、居室9に取り残された要救助者11の探索及び発見に利用可能な支援コンピュータ3とによって主に構成されている。ここで、平常時及び災害時に取得され、支援コンピュータ3に記憶された居室情報20等を利用し、要救助者11の早期の発見が可能となる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、災害救助ロボット、及び災害救助支援システムに関するものであり、特に、大規模地震などの災害によって住宅が倒壊した災害現場で使用され、瓦礫に埋まった要救助者の探索及び救出を効果的に支援することが可能な災害救助ロボット、及び災害救助支援システムに関するものである。
【背景技術】
【0002】
従来から、震度6以上の大規模地震、火山の噴火、或いは台風などの自然災害に対する防災対策が国や地方自治体、及び各関係団体などによって行われ、その被害を最小に防ごうとする努力が行われている。特に、近年に入り、東南海地震や東海沖地震などの大規模地震は、非常に高い確率で発生することが予測され、専門家のみならず、一般の住民にとっても大きな関心が持たれる事象である。そのため、自然災害に対応可能な機器や器具の開発が数多く進められている。
【0003】
例えば、地震等の自然災害では、ビルや一般住宅等の建築物が倒壊することが予想される。そして、倒壊した建築物の天井や柱材、或いは室内に設置された家具が横倒し等になることによって、屋外への脱出経路が塞がれたり、倒れた柱材等によって居住者の身体の一部が挟まれることがある。そのため、建築物の倒壊現場では、生存したまま身動きの取ることのできない要救助者が多数存在するケースが想定される。これらの災害発生時における要救助者の生存確率は、災害の発生直後から救助に要するまでの救出時間に大きく依存していることが知られ、一般に生存確率が劇的に変化するリミットタイムは、災害発生から約72時間であるとの報告も成されている。
【0004】
したがって、災害救助活動を行う消防隊、レスキュー隊、及び自衛隊等の隊員は、可能な限り早急に、要救助者を発見し、脱出を不能としている柱材等を撤去し、救出する救出作業を前述の72時間以内に行う必要がある。ところが、柱材等の瓦礫の倒壊によって脱出できない要救助者は、意識を失っていたり、衰弱によって、自ら声を発したり、周囲の柱材を叩いて音を生じさせるような能動的な所作を行うことが困難な場合が多い。さらに、柱材等によって全身が埋もれ、外部の救助隊員等が容易に発見することができない状況におかれ、要救助者の発見が遅れ、救助活動に支障を来す場合も想定されている。
【0005】
そこで、救助隊員等の侵入が困難な狭小なスペースや探索対象の死角となるような場所に、ファイバースコープを挿入し、要救助者の位置を画像として確認可能としたり、瓦礫等が散在した凹凸の激しい不整地でも容易に走行可能なクローラタイプの小型災害救助ロボットを活用し、救助隊員等の遠隔操作によって要救助者を探索することが行われている。
【0006】
上記のファイバースコープを利用した救助方法、及び小型災害救助ロボットの使用は、周知ものとして既に行われているものであり、本願出願人はかかる技術の記載された技術文献を出願時において特に知見していない。
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
しかしながら、上述した災害救助活動は、下記に掲げるような問題を生じることがあった。すなわち、従来の災害救助ロボットは、平常時(災害時以外)は、各消防本部やレスキュー隊本部などの救助隊員の属する組織の本部に保管されていた。そして、災害が発生すると、救助隊員等がこの災害救助ロボットを、災害現場まで搬送し、遠隔操作によって災害救助活動に利用されていた。
【0008】
そのため、救助隊員の到着時間まで使用することができず、救助活動が非効率に行われることがあった。加えて、これらの災害救助ロボットは、未だ実用化が開始された場合であり、特別なレスキュー隊に一台配備されるように、ロボットの絶対数が不足していた。その結果、大規模地震が広範囲に発生し、複数の箇所で同時多発的に生き埋めなどの災害現場がある場合、一部の場所でしか災害救助ロボットを利用した探索及び災害救助活動を行うことができなかった。そのため、要救助者の発見が遅れることがあった。
【0009】
さらに、災害救助ロボットの活動は、救助隊員の長年の経験や勘に基づいて要救助者が存在する確率の高い場所が設定されることが多く、より要救助者の発見が遅延することがあった。そのため、平常時と災害時との間の居住者(要救助者)の間の生活のパターンや居室の在室人数などの精確なデータに基づいた効率的な災害救助活動を行う必要が、要救助者の生存確率を高める上で必要であることが期待されていた。
【0010】
そこで、本発明は、上記実情に鑑み、平常時の居室に予め設置され、災害時に災害救助ロボットとして活動し、平常時にはインターフォンとして機能することが可能な災害救助ロボット、及び該災害救助ロボットを利用した災害救助支援システムの提供を課題とするものである。
【課題を解決するための手段】
【0011】
上記の課題を解決するため、本発明にかかる災害救助ロボットは、「災害の発生を待機する平常時の居室に予め設置され、映像及び音声の少なくともいずれか一方によって居室外との通話が可能なインターフォン機能を有するロボット本体と、前記ロボット本体に取設若しくは内蔵された複数のセンサを利用し、前記平常時及び前記災害が発生した災害時の前記居室の状態を居室情報として取得する居室情報取得手段と、前記ロボット本体に配設され、前記災害時に不整地化した前記居室を走行可能なクローラ機構部と、前記平常時及び前記災害時の前記居室の状況に応じ、前記クローラ機構部を変形させる変形機構部と、前記居室情報取得手段によって取得された前記居室情報を前記居室外に無線通信ネットワークを介して送信する無線送信手段と、前記居室情報の受信先から送信される無線制御信号を、前記無線通信ネットワークを介して受信する無線受信手段と、受信した前記無線制御信号に基づいて、前記クローラ機構部及び前記変形機構部の少なくともいずれか一方を制御する無線制御手段と」を主に具備して構成されている。
【0012】
ここで、ロボット本体のインターフォン機能とは、現在の住宅やマンション等で一般的に利用される音声等による通話技術を応用することが可能であり、例えば、玄関と居室との双方に設けられた通話端末によって、来客者を映像(来客者の顔)及び音声(来客者の声)によって確認し、互いに会話することが可能なものが挙げられる。なお、本発明の災害救助ロボットの場合、平常時に上記のようなインターフォンとして使用するために、住宅の個々の居室に各々の一台ずつ設置されることが望ましい。
【0013】
また、居室情報取得手段とは、ロボット本体に取付け、或いは内蔵された各種センサを利用し、平常時及び災害時の居室の状態を把握可能な居室情報を取得するものである。例えば、予め居室の間取りや家具の配置等に係る情報がカメラ等の撮像手段によって取得されれば、災害の発生時にこの間取りに従って災害救助ロボットを移動させるように制御したり、探索時の経路を設定することが可能となる。さらに、災害の発生が深夜帯であれば、予め認識された寝室付近で要救助者を探索することを第一目標として要救助者が設定することが容易となる。
【0014】
ここで、ロボット本体に取付等されるセンサ類は、居室の状態を視覚的に捉える小型カメラ、赤外線等の反射率の違いによって人の存在や物体の移動を検知する赤外線センサ、ドアの開閉の状態を電気的または磁気的変化によって検出する電磁気センサなどを例示することが可能である。また、前述したように災害の発生時刻によって要救助者の探索範囲が異なることが想定されるため、災害発生を検知し、その時刻を計測する時計機能或いは災害の発生からの経過時刻を計測するタイマー機能を備えた時刻計測手段を含むものであっても構わない。
【0015】
一方、クローラ機構部は、家具や瓦礫等が散在し、不整地化した災害現場であっても支障無く走行可能にする移動手段の一つとして従来から周知のものである。具体的に説明すると、ロボット本体の側面に取付けられた複数の車輪に対して環状のベルトを架渡し、駆動手段によって車輪を回転させることにより、それに連動したベルトを回転させるものであり、現在では、戦車等の軍用車両、ブルドーザー等の工事用作業車、トラクター等の農機、スノーモービルや雪上車などの幅広い分野で採用されている走行安定性の高い機構である。また、変形機構部は、ロボット本体に取付けられるクローラ機構部の形態を平常時及び災害時に合わせて適宜変化させるものである。具体的には、平常時はほぼロボット本体と同一形状となるようにコンパクトに折り畳んだ状態に変形し、居室の壁面等に架けても邪魔にならない程度にし、一方、災害時はクローラ機構部を最大長さまで伸張し、大きな瓦礫等の間でも自在に走行可能な形態に変化させることが可能となる。特に、段差が大きな場合には、クローラ機構部のロボット本体に対する取設角度を、ベルトの回転を常に不整地面に伝わるように変形させながら走行することにより、通常のタイヤ等の移動手段では走破不能な災害現場であっても容易に移動することが可能となる。
【0016】
さらに、取得した居室情報を送信する無線送信手段、及び居室外から送信される無線制御信号を受信する無線受信手段は、既存の無線通信技術を応用することが可能であり、現在ではインターネットの通信手段として広く採用されている無線LAN技術を活用することが可能となる。この場合、居室外との連絡は、住宅内或いは住宅外に設置された無線アクセスポイントを経由して行われることがある。
【0017】
したがって、本発明の災害救助ロボットによれば、インターフォン機能を有したロボット本体を含んで、居室内に設置されることにより、地震等の災害の発生がない平常時には、通常のインターフォンとして利用することが可能となる。これにより、平常時の居室内にあっても入居者の邪魔になることがない。さらに、インターフォンとしての使用頻度が高くなるため、居室内の壁面やテーブル状など、入居者の身近な範囲に設置されることが多く、災害が発生した災害直後であっても、災害救助ロボットが被災した要救助者の近辺に存在している可能性が高くなる。そのため、災害救助ロボットによる探索範囲を救助活動の開始からある程度の範囲まで絞り込むことが可能となり、住宅が倒壊し、瓦礫等に埋もれた状態の要救助者の発見が速やかに行われる。
【0018】
さらに、従来のように、災害の発生した後にレスキュー隊等が当該災害現場まで災害救助ロボットを搬送し、要救助者の探索等の災害救助活動を開始するまでに要する時間に比べ、予め居室に設置された災害救助ロボットを利用するため、災害救助ロボットの稼働が速やかに行われ、要救助者の早期救助の確率が高くなる。
【0019】
さらに、平常時及び災害時の居室の状態を居室情報取得手段によって予め取得することが可能なため、要救助者の探索に対し、救助者に予備的な情報を提供することが可能となる。すなわち、深夜に災害が発生し、停電などの困難な状況であっても、予め居室情報によって居室内の家具の配置等の間取りに関する予備的な情報に基づいて救助者が災害救助ロボットを遠隔操作し、要救助者の探索及び発見をすることが可能となる。そのため、従来のように、救助者の経験や勘に頼って、ほとんど手探りの状態で救助活動を行っていたものに比べ、効率的な活動を行えるようになる。さらにクローラ機構部及び変形機構部を有することにより、レスキュー隊員等の救助者が侵入不可能な狭小地であっても、自らの形態を周囲の状況に合わせて適宜変化(変形)させながら不整地を走行することが可能となり、要救助者の近辺に到達が容易となる。
【0020】
また、ロボット本体のインターフォン機能を活用することにより、要救助者に対して映像または音声を送信し、さらに要救助者の発する声等の応答を居室外で受けることが可能となる。そのため、要救助者の意識レベルの確認や、骨折等の重傷の程度、居室内で火災や煙の充満の様子など、詳細な被災状況を確認することができる。そのため、これらに対応した的確な災害救助活動をレスキュー隊員等が行えるようになる。特に、救助者及び要救助者が互いにコミュニケーションを図ることにより、救助を待つ間の要救助者の意識を安定させ、かつ心理的な不安を解消することが可能となる。そのため、要救助者が精神的な圧迫を受けるようなことがなくなる。
【0021】
さらに、本発明にかかる災害救助ロボットは、上記構成に加え、「前記居室に入室する入居者を個々に識別する識別装置が前記入居者に予め装着され、前記居室情報取得手段は、前記平常時における前記居室への入出状況及び入退出時間を含む入退出情報を、前記識別装置に基づいて個々の前記入居者毎に取得する入退出情報取得手段を」具備するものであっても構わない。
【0022】
ここで、入居者とは、当該居室を含む住居に住む住人(居住者)を主な対象とするが、その居室に一時的に入退出する居住者の友人及び知人等を含むものと、本明細書中においては定義する。
【0023】
また、入居者を識別する識別装置は、例えば、入居者の基礎的な情報(氏名、年齢、性別等)を電子情報として予め記憶したICタグなどを利用することが可能となる。このICタグは、非接触の状態で記憶された電子情報を読取ることが可能なものであり、工場の出荷管理等の種々の分野で現在では利用されている技術である。この場合、災害救助ロボットは、このICタグ等の識別装置の情報を読取り可能なリーダー機能を有している必要がある。なお、この識別装置のリーダ機能は、災害救助ロボットと別体に設けられ、電気的に接続されているものであっても構わない。
【0024】
したがって、本発明の災害救助ロボットによれば、居室に在室している入居者の数等の入出状況及び入退出時間を含む入退出情報が取得される。そのため、災害発生時に誰が被災し、居室内に取り残されていたか等の安否の確認が要因となる。これにより、災害救助活動を行う必要のある居室の特定が速やかに判断可能となり、救助者の人員や救助機材の配分を効率的に行えるようになる。
【0025】
さらに、本発明にかかる災害救助ロボットは、上記構成に加え、「前記無線通信ネットワークを介して前記災害に関する災害情報を取得する災害情報取得手段と、取得した前記災害情報を被災した要救助者に対して提供する災害情報提供手段と」を具備するものであっても構わない。
【0026】
したがって、本発明の災害救助ロボットによれば、災害に関する情報を被災した要救助者の近辺に到達した災害救助ロボットによって提供することが可能となる。これにより、要救助者は救助を待つまでの間に災害の状況を確認することができる。
【0027】
一方、本発明にかかる災害救助支援システムは、「予め居室に設置された災害救助ロボット及び前記災害救助ロボットと無線通信ネットワークを介して接続した災害救助支援コンピュータを利用し、被災した要救助者の探索及び災害救助活動を支援する災害救助支援システムであって、前記災害救助コンピュータは、前記居室に設置された前記災害救助ロボットから送出され、前記平常時及び災害時の前記居室の状態を示す居室情報を、前記通信ネットワークを介して受信する居室情報受信手段と、受信した前記居室情報を居室情報データベースに記憶する居室情報記憶手段と、記憶した前記居室情報に基づいて決定された前記災害救助ロボットの探索経路を指示する操作情報の入力を受付ける操作情報受付手段と、入力された前記操作情報を、前記無線通信ネットワークを介して無線無線制御信号として前記災害救助ロボットに送信し、前記災害救助ロボットを遠隔制御する無線制御信号送信手段と」を主に具備して構成されている。
【0028】
したがって、本発明の災害救助支援システムによれば、災害救助支援コンピュータと災害救助ロボットとが無線通信技術を利用した通信ネットワークによって接続され、送信される居室情報に基づいて、災害救助支援コンピュータを利用して、災害現場の災害救助ロボットを制御する無線制御信号を送信し、災害救助活動を行うものである。ここで、災害救助支援コンピュータの操作は、レスキュー隊などの救助者によって行われる。このとき、災害救助ロボットは、災害の発生を待機する平常時に予め設置され、逐次居室の情報を居室情報として通信ネットワークを介して災害救助支援コンピュータに送信している。そして、該災害救助支援コンピュータは、送信された居室情報を受信し、これを居室情報データベースに記憶している。ここで、居室情報は前述したものと略同様であるため、ここでは説明を省略する。
【0029】
そして、災害救助支援コンピュータを操作する救助員は、記憶された居室情報を参考にして、災害救助ロボットによる探索動作を決定し、これをデータ入力する。そして、災害救助支援コンピュータは、入力された操作情報を受付け、災害救助ロボットに対して無線制御信号として通信ネットワークを介して送信する。これにより、災害救助ロボットが遠隔制御される。すなわち、予め平常時の居室情報を受信し、記憶することにより、災害発生時の要救助者の探索等の参考に利用することができ、早期の要救助者の発見等に繋げられる。
【0030】
さらに、本発明にかかる災害救助支援システムは、上記構成に加え、「前記災害救助ロボットから送信される前記居室情報を利用して、前記入居者の個々の生活パターンを解析し、生活パターン情報を取得する生活パターン解析手段」を具備するものであっても構わない。
【0031】
したがって、本発明の災害救助支援システムによれば、居室情報に基づいて入居者の生活パターンが解析され、生活パターン情報として災害救助コンピュータに記憶される。これにより、災害時に当該生活パターン情報を参照し、個々の要救助者の居室内における存在確率を算出し、予測することが可能となる。例えば、入居者(要救助者)が主婦の場合、一日のそれぞれの時間帯における大凡の家事の実施パターン(掃除→洗濯→炊事→買い物等)が時系列とともに認識され、さらにその家事を行う場所も特定され、平常時の生活パターン情報が解析される。そのため、災害発生の時刻が洗濯の時間に該当する場合、洗濯機の近隣や物干し台のあるベランダなどの付近を災害救助ロボットで重点的に探索したり、炊事の時間に該当すれば台所付近を探索するように、災害救助ロボットを救助者が操作することができる。その結果、要救助者の発見の確率が高くなり、効率的な運用が可能となる。
【0032】
さらに、本発明にかかる災害救助支援システムは、上記構成に加え、「前記災害救助支援コンピュータは、記憶された前記居室情報に基づいて前記要救助者の探索経路を算出する探索経路算出手段をさらに具備し、前記災害救助ロボットは、前記無線通信ネットワークを介し、前記探索経路算出手段によって算出された前記探索経路に係る経路情報を取得する経路情報取得手段と、取得した前記経路情報に基づいて前記クローラ機構部及び前記変形機構部を制御し、自律的に前記要救助者を探索する自律制御手段と」を具備するものであっても構わない。
【0033】
ここで、探索経路算出手段とは、取得した居室情報及び解析した前述の生活パターン情報に基づいて、災害発生時に要救助者の存在確率の高い場所を判断し、救助の際の探索経路を災害救助支援コンピュータによって経路情報として算出するものである。
【0034】
したがって、本発明の災害救助支援システムによれば、災害救助支援コンピュータから、救助者の入力に基づいて送信される無線制御信号に遠隔制御されることなく、災害救助ロボットが独立してクローラ機構部等を制御し、自律的に要救助者を探索することが可能となる。これにより、救助者による遠隔制御を待つことなく、救助活動を開始することが可能となり、災害発生直後からの速やかな救助が行える。
【発明の効果】
【0035】
本発明の災害救助ロボット、及び災害救助支援システムによる効果として、災害の発生前の平常時から予め居室内に災害救助ロボットを配し、平常時及び災害時の状態を居室情報として取得し、外部に送信することができる。これにより、外部から救助を行う救助者に災害救助活動に係る有益な情報を提供することができる。特に、平常時からインターフォンとして居室内に予め設置されているため、災害の発生から救助活動の開始までの時間的損失を大幅に減少させ、速やかな救助活動が行えるようになる。その結果、要救助者の早期発見及び生存率の向上を図ることができる。
【0036】
また、インターフォンとしての使用が可能となり、該災害救助ロボットが平常時であっても邪魔になることがない。また、不整地を走行可能なクローラ機構部の形態が変形可能に形成されているため、平常時の居室ではコンパクトに折り畳んだ状態で取付けられ、居室の雰囲気を損なうことがない。さらに、居室外に設けられた災害救助支援コンピュータと連携させ、災害救助支援システムを構築することにより、災害救助ロボットを外部から遠隔制御し、要救助者の発見等を行うことができる。また、自律制御手段を備えることにより、災害救助ロボットが自らの判断で災害を検知し、要救助者の探索を開始することも可能となる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0037】
以下、本発明の一実施形態である災害救助支援システム1(以下、単に「支援システム1」と称す)、及び支援システム1に使用される災害救助ロボット2(以下、単に「ロボット2」と称す)について、図1乃至図8に基づいて説明する。ここで、図1は本実施形態の支援システム1の概略構成を示す説明図であり、図2はロボット2の構成を示す正面図であり、図3及び図4は支援システム1におけるロボット2及び災害救助支援コンピュータ3(以下、単に「支援コンピュータ3」と称す)の機能的構成をそれぞれ示すブロック図であり、図5(a)及び図5(b)はロボット2のクローラ機構部4の形態の変化の様子を模式的に示す説明図であり、図6(a)及び図6(b)は入居者5の生活パターン情報6の解析の一例を示す模式図であり、図7及び図8はロボット2及び支援コンピュータ3のそれぞれの処理の流れを示すフローチャートである。
【0038】
本実施形態の支援システム1は、図1に模式的に示されるように、住宅7の玄関8及び複数の居室9のそれぞれに、クローラ機構部4をコンパクトに格納した状態で設置された複数のロボット2と、該ロボット2と無線通信ネットワーク10を介して種々の情報を送受可能に形成され、災害の発生時には、ロボット2を遠隔制御し、或いはロボット2の自律制御を支援し、居室9に取り残された要救助者11の探索及び発見に活用される支援コンピュータ3とによって主に構成されている。さらに詳細に説明すると、ロボット2は、平常時の居室9の壁面等に予め設置され、各ロボット2間及び支援コンピュータ3の間で音声及び映像を相互に通信し、入居者5同士等の間で通話可能に形成されている。すなわち、平常時には、玄関8及び各居室9の間で、従来から周知のインターフォン(内線電話)として活用することができるものである。ここで、無線通信ネットワーク10において利用される無線アクセスポイント10aは、現在のインターネット接続環境において各パーソナルコンピュータと接続し、インターネットNとの間で種々の情報を提供するための機器として周知のものが使用されている。
【0039】
ここで、ロボット2の構造及びその機能的構成について、図2、図4及び図5に基づいて説明すると、外観形状の主要骨格をなす略直方体形状のロボット本体12と、ロボット本体12の本体前面12aに一部が露出するように形成され、平常時のインターフォン及び災害時のコミュニケーション手段として利用される音声入力用のマイク13a、音声出力用のスピーカ13b、映像入力用の小型カメラ14a、映像出力用の2.5インチ液晶モニタ14bとからなる映像音声入出力部15と、居室9の所定空間9aに対して赤外線16を照射し、その反射率等から居室9の入居者5の入出状況を検出する赤外線センサ18、及び個々の入居者5を識別するために予め装着されたICタグ32の情報を読取り、入居者5毎の行動履歴を示す入退出情報17を取得するICタグリーダ19等の各種計測センサを利用して、入居者5に係る情報を含む居室情報20を取得する居室情報取得手段21と、ロボット本体12の本体裏面12bに突出して設けられた駆動部本体22、駆動部本体22に内蔵された駆動モータ(図示しない)の駆動軸22aに軸支された駆動輪24aを含む複数の車輪の車輪外側周面を金属製のベルト25によって被覆するように連結し、不整地化した居室9内を自在に走破可能な一対の第一クローラ26及び第一クローラ26に連結された第二クローラ27を有するクローラ機構部4と、互いのクローラ26,27の一部を回動連結部29を介して回動可能に連結し、第一クローラ26に対する第二クローラ27の相対角度を変化させ、クローラ機構部4の形態を変形させる変形機構部30と、取得した居室情報20を、無線通信ネットワーク10を介して支援コンピュータ3に無線アクセスポイント10aを経由して送信する無線送信手段31及び支援コンピュータ3から送信されるロボット2を遠隔制御するための無線制御信号36を受信する無線受信手段33に接続されたロボット通信手段34と、受信した無線制御信号36によってクローラ機構部4及び変形機構部30を制御する無線制御手段35とを具備して主に構成されている。ここで、ICタグリーダ19が本発明における入退出情報取得手段に相当する。
【0040】
さらに、ロボット2は、自律制御によって要救助者11を探索するために、支援コンピュータ3に対して経路情報47等を要求する経路情報要求手段37と、要求した経路情報47を取得する経路情報取得手段38と、経路情報47及び居室情報20に応じ、ロボット2を自律制御させる自律制御手段39とを具備している。ここで、経路情報取得手段38は、居室情報取得手段21と直接接続し、リアルタイムで取得した居室情報20を参酌し、クローラ機構部4等を自律制御することが可能となっている。このとき、ロボット2には人工知能が搭載され、該人工知能によって適宜制御がなされている。また、災害時にスピーカ13b及び2.5インチ液晶画面14b等を利用して、インターネットNから得た災害情報DDを、映像及び音声により要救助者11に対して提供可能な災害情報提供手段40をロボット2はさらに具備している。
【0041】
ここで、クローラ機構部4及び変形機構部30について、さらに説明すると、平常時は第一クローラ26及び第二クローラ27を折り畳むような形態となり、ほぼロボット本体12と同じ長さ(図1における紙面上下方向に相当)で格納されている。すなわち、平常時は略最小となるようにコンパクトに畳まれた状態となり、居室9に設置したとしてもそれほど設置場所を必要とするものではない(図5(a)参照)。さらに、インターフォンとして活用するため、テーブルの上や壁などに架けられ、入居者5の比較的近傍に常に存在していることになる。
【0042】
そして、災害の発生時には、駆動輪24aを回転させることにより、ベルト25に駆動力を伝達し、ベルト25が回転し、不整地化した居室9内を走破することができる。なお、ロボット本体12に取設された駆動部本体22は、駆動モータの他、駆動モータを回転させるための駆動用バッテリ(図示しない)及びその他の制御回路等の必要な設備が収容されている。また、駆動部本体22には、これらの構成と別に、第一クローラ26に対する第二クローラ27の相対角度を変化させ、その状態を維持するための形態変化用モータ(図示しない)及び駆動伝達ギア(図示しない)も収容されている。これにより、平常時の格納状態(図5(a)参照)及び災害時の種々の状況においてクローラ機構部4の形態を適宜変化させることができる。例えば、図5(b)に示されるように、不整地化した居室9に階段状の段差Dがある場合は、折り畳まれた第二クローラ27を、回動連結部29を回動軸として、前方に回転させることによって延出し、段差Dの一部に第二クローラ27のベルト25を当てる。これにより、ベルト25に駆動力が伝達され、通常のタイヤ等の移動手段では走破不能な段差Dであっても走行することができる。
【0043】
一方、本実施形態の支援システム1に利用される支援コンピュータ3は、その機能的構成として、図4に主に示されるように、居室9に設置された複数のロボット2から送信される平常時及び災害時における居室情報20を無線アクセスポイント10aを含む無線通信ネットワーク10を介して受信する居室情報受信手段41と、受信した居室情報20を居室情報データベース23に記憶する居室情報記憶手段43と、居室情報データベース23に記憶された居室情報20に含まれる入居者5毎の生活の行動パターンに基づいて、入居者5の生活パターン情報6を解析する生活パターン解析手段44と、記憶された居室情報20及び解析された生活パターン情報6に基づいて救助者が決定した探索経路にしたがって、ロボット2を操作する操作情報45の入力を受付ける操作情報受付手段46と、受付けた操作情報45を無線制御信号36として送信する無線制御信号送信手段49と、解析された生活パターン情報6に基づいて要救助者11の探索経路を算出し、自律制御のための経路情報47を得る探索経路算出手段48と、ロボット2からの経路情報47の送信要求を受付けるとともに、送信要求先の経路情報47を送信する経路情報要求受付手段50とを主に具備して構成されている。
【0044】
ここで、支援コンピュータ3は、無線アクセスポイント10aを経由して、複数のロボット2と種々の情報の送受を行うものであり、本実施形態では、ロボット2が取付けられる住宅7毎に一台ずつ設置されている。この場合、地震等の災害によって支援コンピュータ3自体が瓦礫に埋没することのないように、住宅7の家屋から離れ、さらに耐震性及び耐火性に優れた収容スペースに収容されることが特に好適である。また、災害時にはレスキュー隊員や消防隊員等の救助者によって操作されることを想定し、災害現場の近くまで速やかに移動させ、ロボット2の遠隔制御を行う必要がある。そのため、災害時の停電に対応し、バッテリー駆動可能で、かつ携帯性に優れるノート型パーソナルコンピュータの利用が好適と考えられる。ここで、居室情報記憶手段43には、ハードディスクドライブや半導体メモリ等の記憶媒体が用いられ、居室情報受信手段41及び無線制御信号送信手段49等の各種情報及び信号は、無線通信が可能な無線LAN端末からなるコンピュータ通信手段51を介して行われている。また、無線通信ネットワーク10を介して種々の情報及び信号が送出されるため、有線制御に比べ、ロボット2の移動にかかる自由度が確保される。さらに、操作情報受付手段46には、キーボード及びマウス等の情報入力機器が用いられている。なお、取得及び解析した居室情報20等を、救助者に対して表示するための液晶ディスプレイ等の表示手段(図示しない)や災害時の要救助者11に対してコミュニケーションを図るためのマイク及びスピーカー等の音声入出力手段(図示しない)に対して各種信号制御を行う映像音声出力制御手段52を有している。
【0045】
なお、本実施形態の支援コンピュータ3を、居室情報記憶手段43及び生活パターン解析手段44等の各種データの収集及び解析を主たる機能とする記憶解析用端末と、災害現場で実際にロボット2を遠隔制御するための操作情報受付手段46等を含む操作端末とをそれぞれ個別に形成し、操作端末のみを災害現場に持ち込んで救助活動に使用するものであってもよい。すなわち、記憶解析端末に含まれる救助活動のための貴重な予備的情報となる居室情報20等を比較的安全な場所(例えば、消防本部等)で集中的に管理し、居室情報データベース23の保全等を図るものであってもよい。これにより、災害救助活動の機動性を損なうことなく、不可避の事態による居室情報20の消失を防ぐことができる。
【0046】
次に、本実施形態の支援システム1を利用した災害救助活動の一例を主に図7及び図8のフローチャートに基づいてロボット2及び支援コンピュータ3のそれぞれの処理の流れについて説明する。はじめに、災害の発生を待機する平常時の居室9に本実施形態のロボット2を取付ける。そして、ロボット2のスイッチを入れ、稼働状態にする(ステップS1)。そして、稼働状態となったロボット2は、居室9の状態を示す居室情報20を内蔵された種々のセンサによって取得する(ステップS2)。具体的に示すと、ロボット本体12の本体前面12aに設けられた小型カメラ14aを利用して入居者5の動きや家具の配置等の視覚的な情報を動画若しくは静止画によって撮影する(ステップS3)、マイク13aを利用して居室9内で発生した音(入居者5の声など)を録音する(ステップS4)、居室9に赤外線センサ18から赤外線16を照射し、反射率の変化等から入居者5の存在有無等を検出する(ステップS5)、ICタグ32の情報を読取り、個々の入居者5を識別し、行動履歴等の生活パターンを含む入退出情報17を得る(ステップS6)などの複数の情報を得る処理を行う。そして、取得した居室情報20を無線通信ネットワーク10上に設けられた無線アクセスポイント10aを経由して支援コンピュータ3まで送信する(ステップS7)。そして、災害が発生するまで(ステップS8においてYES)、ロボット2は上述したステップS2からステップS7までの処理を繰り返し継続する。さらに、それぞれの居室9に取付けられたロボット2同士は、小型カメラ14a等を利用して、互いに通話可能なインターフォンとして使用することができる。
【0047】
一方、支援コンピュータ3は、稼働状態になると、複数の居室9に設置されたそれぞれのロボット2から、前述した居室情報20の送信有無を検出し(ステップT1)、送信が検出される場合(ステップT1においてYES)、係る情報を受信し、居室情報データベース23に記憶する(ステップT2)。一方、送信が検出されない場合(ステップT1においてNO)、居室情報20の送信が検出されるまで待機し、ステップT1の処理を繰り返す。その後、支援コンピュータ3は、記憶した居室情報20に含まれ、個々の入居者5に装着されたICタグ32からの情報に基づき、当該入居者5の一日の生活パターンの解析を行う(ステップT3)。
【0048】
ここで、ICタグ32を装着した入居者5が専業主婦の場合、平日の午前10時ごろは、朝食の後片づけ等のために台所に存在している確率(例えば、80%)が高くなり、居間に存在する確率(例えば、20%)は低いというような大まかな予測が行われる(図6(a)参照)。一方、平日の午後3時には、掃除や洗濯との家事を一通り終了し、夕食の準備まで余裕があるため、居間でくつろいでいる確率が高い等(例えば、居間:90%、台所10%等)の予測が行われる(図6(b)参照)。また、入居者5が会社員の場合、平日の午前7時から午後8時までは、居室9に存在している可能性が低く、この時間に災害があった場合であっても居室9で被災した可能性がほとんどないなどの災害救助活動の予備的な情報を提供することが可能となる。そして、解析の結果として算出された存在確率等を含む生活パターン情報6を記憶する(ステップT4)。なお、支援コンピュータ3は、災害が発生するまで(ステップT5においてYES)、上述のステップT1からステップT4の処理を繰り返し継続する。
【0049】
その後、地震等の災害が発生し、居室9の中で被災し、救助が必要な要救助者11がいる場合、支援コンピュータ3を操作する救助者によって、ロボット2による救助活動の支援の方法が決定される。このとき、支援コンピュータ3は、平常時に取得した居室情報20、解析及び算出した存在確率等に基づいて要救助者11の被災位置の特定の情報を救助者に提供する。そして、ロボット2を居室9の外から遠隔操作によって操縦するか、ロボット2に搭載された人工知能による制御機能によって自律的探索するかが救助者によって判断され、その決定がロボット2に対して送信される(ステップT6)。
【0050】
このとき、ロボット2は、支援コンピュータ3から送信される指示の有無を検出する(ステップS8)。ここで、指示がない場合(ステップS8においてNO)、災害の発生若しくは要救助者の探索等が必要がないと判断し、ステップS2の処理に戻る。一方、指示がある場合(ステップS8においてYES)、制御のタイプを判断する(ステップS9)。係る指示が支援コンピュータ3から送信される無線制御信号36に基づいて、ロボット2を遠隔制御によって操作する場合(ステップS9においてYES)、その後に送信される無線制御信号36を受信し(ステップS10)、受信した無線制御信号36によってクローラ機構部4及び変形機構部30の各機構の動きを制御する(ステップS11,ステップS12)。これにより、居室9に閉じこめられた要救助者11の近辺にロボット2を移動させ、マイク13a等の映像音声入出力部15を利用し、要救助者11に対して居室9の外から呼びかけを行い、さらに要救助者11の応答を聴取することができる。これにより、居室9の外から要救助者11の負傷の程度や意識レベルを確認することができる。さらに、要救助者11に装着されたICタグ32によってどの入居者5が被災したか等の特定も速やかに行えるようになる。なお、ロボット2による災害救助の支援活動を実施している間も、ステップS2乃至ステップS6に係る居室情報20の取得は、継続して行われ、随時支援コンピュータ3にステップS7の処理によって送信され、支援コンピュータ3はこれを受信している(ステップT1,ステップT2)。
【0051】
このとき、遠隔制御によってロボット2を操作する場合(ステップT6においてYES)、支援コンピュータ3は、算出された存在確率から求められた要救助者11を探索するための探索経路に係る経路情報47を救助者に提供し、これを参照した救助者によって入力される操作情報45を受付ける(ステップT7)。ここで、経路情報47は、要救助者11が存在している可能性が高い位置までロボット2を移動させるための経路が示され、さらに小型カメラ14aによって災害時の居室9の状態を視覚的に提示するものが含まれる。これにより、救助者は居室9の状態を確認しながら遠隔制御のための操作情報45を入力することができる。その後、入力を受付けた操作情報45を無線制御信号36としてロボット2に対して送信する(ステップT8)。これにより、前述したロボット2の遠隔制御が行われ、搭載された各種のセンサを駆使しながら要救助者11の探索及び発見が行われる。
【0052】
一方、支援コンピュータ3による指示が、ロボット2によって自律的に要救助者11を探索する場合(ステップS9においてNO)、ロボット2は支援コンピュータ3に対して、これまでに居室情報データベース23に記憶された居室情報20及び経路情報47を、無線通信ネットワーク10を介して要求する(ステップS13)。この場合(ステップT6においてNO)、ロボット2による自律的探索を指示する支援コンピュータ3は、ロボット2からの経路情報47等の送信要求の有無を検出し(ステップT9)、係る要求が有る場合(ステップT9においてYES)、必要な情報を送信する(ステップT10)。一方、係る要求がない場合(ステップT9においてNO)、要求があるまで待機する。そして、送信要求を行ったロボット2は、受信した経路情報47に基づいて、ロボット2の自らの判断で自律的に探索活動を行う(ステップS14)。なお、この場合のクローラ機構部4等の制御は、遠隔制御の場合と略同様であるため、詳細な説明は省略する。
【0053】
ここで、遠隔制御及び自律制御のいずれの場合であっても、ロボット2のインターフォン機能を利用し、救助者からの呼びかけ、及び要救助者11の応答等の通話が可能となっている。さらに、ロボット2が要救助者11の近辺に到達した場合、2.5インチ液晶画面14b等によって、インターネットNを通じて取得した災害に関する災害情報DD(例えば、図2参照)を映像及び音声として提供することができる。これにより、要救助者11は、正確な情報によって救助を待つまでの間、心理的な不安を和らげることができ、災害時であってもパニック状態となることがなく、冷静な対応をとることができる。
【0054】
そして、要救助者11の救助が完了すると、支援コンピュータ3はその指示の入力を救助者から受付ける(ステップT11)。ここで、係る指示が有る場合(ステップT11においてYES)、支援コンピュータ3による当該災害現場でのロボット2を使用した災害救助活動の支援を終了する(ステップT12)。さらに、遠隔制御等を行ったロボット2に対しても支援終了の指示を送信する。一方、係る指示がない場合、ステップT7若しくはステップT9の処理に復帰し、探索及び救助活動の支援を継続する。
【0055】
また、ロボット2は、支援コンピュータ3から送信される支援終了の指示の有無を検出し(ステップS15)、指示が有る場合(ステップS15においてYES)、当該災害現場における支援を終了する(ステップS16)。この場合、ロボット2は居室9の外、或いは次の災害現場まで待避、移動させられる。一方、指示がない場合(ステップS15においてNO)、ステップS10若しくはステップS13の処理に復帰し、探索及び救助活動の支援を継続する。
【0056】
その後、システムの終了及びロボット2の稼働の終了を検出し(ステップS17、ステップT13)、係る指示がある場合(ステップS17においてYES、ステップT13においてYES)、支援コンピュータ3による本実施形態のシステムの終了(ステップT14)、及びロボット2の稼働停止(ステップS18)が行われる。一方、係る指示がない場合(ステップS17においてNO、ステップT13においてNO)、ステップS2及びステップT1にそれぞれ復帰し、本システムを継続する。
【0057】
上記に説明したように、本実施形態の支援システム1及びロボット2によれば、平常時の居室9に予め設置されたロボット2を利用することにより、災害発生直後の要救助者11の近辺にロボット2が存在し、速やかな救助活動を開始することができる。これにより、早期の救助が可能となり、要救助者11の生存の可能性を高くすることができる。特に、平常時はインターフォンとして日常生活における有用な機器として利用し、災害時のみ災害救助用のロボット2として活用することができるため、平常時に設置が入居者5に受入やすくなり、設置台数を増加させることができる。
【0058】
加えて、種々のセンサによって平常時及び災害時の居室9の状態を居室情報20として取得することができる。これにより、救助活動の際の有益な情報、在室状況や要救助者11の特定が速やかに行われ、不確定要素を排除した救助計画の立案が容易となる。
【0059】
以上、本発明について好適な実施形態を挙げて説明したが、本発明はこれらの実施形態に限定されるものではなく、以下に示すように、本発明の要旨を逸脱しない範囲において、種々の改良及び設計の変更が可能である。
【0060】
例えば、本実施形態のロボット2に災害の発生を検知する重力センサ等の災害発生検知手段を設け、救助者の指示を待つことなく、災害の発生と同時に要救助者11の探索及び救助を自律的に開始するものであってもよい。これにより、さらに早期の発見及び救助が可能となる。この場合、探索の結果として要救助者11を発見した場合、音声及び光の点滅、無線などの種々の情報伝達手段によって周囲の人、或いは救助者にその旨を報知する必要がある。また、警察及び消防等の組織PF(図1参照)に直接、かかる旨を連絡するような手段を設けたものであっても構わない。さらに、本実施形態のロボット2において、クローラ機構部4及び変形機構部30を一対のクローラ26,27を組合わせて構築したものを示したが、係る形状に限定されるものではなく、不整地化した居室9内を走破可能な形態であればよい。さらに、本実施形態のロボット2において、インターフォン機能を備えるものを例示したが、一般家庭に設置されている日用品(例えば、小型の家電製品等)と災害救助に係る機能を融合したものであってもよい。
【図面の簡単な説明】
【0061】
【図1】本実施形態の支援システムの概略構成を示す説明図である。
【図2】ロボットの構成を示す正面図である。
【図3】支援システムにおけるロボットの機能的構成を示すブロック図である。
【図4】支援システムにおける支援コンピュータの機能的構成を示すブロック図である。
【図5】ロボットのクローラ機構部の形態の変化の様子を模式的に示す説明図である。
【図6】入居者の生活パターン情報の解析の一例を示す模式図であり、
【図7】ロボット及び支援コンピュータのそれぞれの処理の流れを示すフローチャートである。
【図8】ロボット及び支援コンピュータのそれぞれの処理の流れを示すフローチャートである。
【符号の説明】
【0062】
1 支援システム(災害救助支援システム)
2 ロボット(災害救助ロボット)
3 支援コンピュータ(災害救助支援コンピュータ)
4 クローラ機構部
5 入居者
6 生活パターン情報
9 居室
11 要救助者
12 ロボット本体
15 映像音声入出力部(インターフォン機能、居室情報取得手段)
18 赤外線センサ(居室情報取得手段)
19 ICタグリーダ(居室情報取得手段、入退出情報取得手段)
20 居室情報
21 居室情報取得手段
23 居室情報データベース
30 変形機構部
31 無線送信手段
32 ICタグ(識別装置)
33 無線受信手段
35 無線制御手段
36 無線制御信号
41 居室情報受信手段
43 居室情報記憶手段
44 生活パターン解析手段
45 操作情報
46 操作情報受付手段
47 経路情報
48 探索経路算出手段
49 無線制御信号送信手段

【特許請求の範囲】
【請求項1】
災害の発生を待機する平常時の居室に予め設置され、映像及び音声の少なくともいずれか一方によって居室外との通話が可能なインターフォン機能を有するロボット本体と、
前記ロボット本体に取設若しくは内蔵された複数のセンサを利用し、前記平常時及び前記災害が発生した災害時の前記居室の状態を居室情報として取得する居室情報取得手段と、
前記ロボット本体に配設され、前記災害時に不整地化した前記居室を走行可能なクローラ機構部と、
前記平常時及び前記災害時の前記居室の状況に応じ、前記クローラ機構部を変形させる変形機構部と、
前記居室情報取得手段によって取得された前記居室情報を前記居室外に無線通信ネットワークを介して送信する無線送信手段と、
前記居室情報の受信先から送信される無線制御信号を、前記無線通信ネットワークを介して受信する無線受信手段と、
受信した前記無線制御信号に基づいて、前記クローラ機構部及び前記変形機構部の少なくともいずれか一方を制御する無線制御手段と
を具備することを特徴とする災害救助ロボット。
【請求項2】
前記居室に入室する入居者を個々に識別する識別装置が前記入居者に予め装着され、
前記居室情報取得手段は、
前記平常時における前記居室への入出状況及び入退出時間を含む入退出情報を、前記識別装置に基づいて個々の前記入居者毎に取得する入退出情報取得手段をさらに具備することを特徴とする請求項1に記載の災害救助ロボット。
【請求項3】
前記無線通信ネットワークを介して前記災害に関する災害情報を取得する災害情報取得手段と、
取得した前記災害情報を被災した要救助者に対して提供する災害情報提供手段と
をさらに具備することを特徴とする請求項1または請求項2に記載の災害救助ロボット。
【請求項4】
予め居室に設置された災害救助ロボット及び前記災害救助ロボットと無線通信ネットワークを介して接続した災害救助支援コンピュータを利用し、被災した要救助者の探索及び災害救助活動を支援する災害救助支援システムであって、
前記災害救助コンピュータは、
前記居室に設置された前記災害救助ロボットから送出され、前記平常時及び災害時の前記居室の状態を示す居室情報を、前記通信ネットワークを介して受信する居室情報受信手段と、
受信した前記居室情報を居室情報データベースに記憶する居室情報記憶手段と、
記憶した前記居室情報に基づいて決定された前記災害救助ロボットの探索経路を指示する操作情報の入力を受付ける操作情報受付手段と、
入力された前記操作情報を、前記無線通信ネットワークを介して無線無線制御信号として前記災害救助ロボットに送信し、前記災害救助ロボットを遠隔制御する無線制御信号送信手段と
を具備することを特徴とする災害救助支援システム。
【請求項5】
前記災害救助ロボットから送信される前記居室情報を利用して、前記入居者の個々の生活パターンを解析し、生活パターン情報を取得する生活パターン解析手段をさらに具備することを特徴とする請求項4に記載の災害救助支援システム。
【請求項6】
前記災害救助支援コンピュータは、
記憶された前記居室情報に基づいて前記要救助者の探索経路を算出する探索経路算出手段をさらに具備し、
前記災害救助ロボットは、
前記無線通信ネットワークを介し、前記探索経路算出手段によって算出された前記探索経路に係る経路情報を取得する経路情報取得手段と、
取得した前記経路情報に基づいて前記クローラ機構部及び前記変形機構部を制御し、自律的に前記要救助者を探索する自律制御手段と
をさらに具備することを特徴とする請求項4または請求項5に記載の災害救助支援システム。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【公開番号】特開2006−171893(P2006−171893A)
【公開日】平成18年6月29日(2006.6.29)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2004−360236(P2004−360236)
【出願日】平成16年12月13日(2004.12.13)
【出願人】(504237050)独立行政法人国立高等専門学校機構 (656)
【出願人】(599144734)財団法人ソフトピアジャパン (4)
【出願人】(500452569)幸栄精機株式会社 (1)
【Fターム(参考)】