炭化珪素単結晶の製造装置および製造方法
【課題】SiC単結晶を成長させる際のドーパント濃度のバラツキを抑制する。
【解決手段】SiC原料粉末3とドーパント元素4の配置場所を異ならせると共に、SiC原料粉末3に対してドーパント元素4が種結晶2から離れた位置に配置されるようにする。そして、ドーパント元素4の配置場所をSiC原料粉末3の配置場所よりも低温にできる構成とする。これにより、SiC原料粉末3が昇華し始めるよりも前にドーパント元素4が気化し切ってしまうことを防止することができ、成長させたSiC単結晶のインゴットが成長初期にのみドーパントが偏析したものとなることを抑制できる。したがって、ドーパント濃度のバラツキを抑制できるSiC単結晶を製造することができる。
【解決手段】SiC原料粉末3とドーパント元素4の配置場所を異ならせると共に、SiC原料粉末3に対してドーパント元素4が種結晶2から離れた位置に配置されるようにする。そして、ドーパント元素4の配置場所をSiC原料粉末3の配置場所よりも低温にできる構成とする。これにより、SiC原料粉末3が昇華し始めるよりも前にドーパント元素4が気化し切ってしまうことを防止することができ、成長させたSiC単結晶のインゴットが成長初期にのみドーパントが偏析したものとなることを抑制できる。したがって、ドーパント濃度のバラツキを抑制できるSiC単結晶を製造することができる。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、炭化珪素(以下、SiCという)単結晶の製造装置および製造方法に関するものである。
【背景技術】
【0002】
従来より、SiC単結晶製造装置として、例えば特許文献1に示される構造の製造装置が提案されている。このSiC単結晶製造装置では、黒鉛製の坩堝の下部にSiC原料粉末を設置すると共に、坩堝の蓋部に炭化珪素単結晶の種結晶を配置し、SiC原料粉末が設置された坩堝の下部を加熱することでSiC原料粉末を昇華させ、種結晶に導くことで種結晶表面にSiC単結晶を成長させる。
【0003】
このようにSiC単結晶を成長させる際に、坩堝の下部におけるSiC原料粉末の設置位置に蒸気圧の高いドーパント元素を原料として導入すると、成長するSiC単結晶中にドーパント元素が取り込まれ、所望のドーパント濃度を有するSiC単結晶を成長させることが可能となる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開2008−290885号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
しかしながら、SiCが昇華し始めるよりも前の昇温中にドーパント元素が先に気化し切ってしまい、成長させたSiC単結晶のインゴットが成長初期にのみドーパントが偏析する又はドーピングされないという問題がある。
【0006】
これについて調べたところ、次のような結果となった。図11は、種結晶J1の表面に形成したSiC単結晶J2のインゴットとそれに対応する成長結晶位置に対するドーパント濃度の関係を示してある。この図に示されるように、種結晶J1の表面にSiC単結晶J2が成長させられるが、SiC単結晶J2の成長初期においてドーパント濃度が大きく、その後、徐々にドーパント濃度が低下していることが判る。このようにドーパント濃度に大きなバラツキが発生すると、期待するドーパント濃度のSiC単結晶を得ることができない。
【0007】
本発明は上記点に鑑みて、ドーパント濃度のバラツキを抑制できる炭化珪素単結晶の製造装置および製造方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
上記目的を達成するため、請求項1に記載の発明では、容器本体(1a)のうち炭化珪素原料(3)を配置する領域(A)を高温部、ドーパント元素(4)を配置する領域(B)を低温部として、高温部を低温部よりも高温とする加熱を行う加熱装置(6、9)が備えられていることを特徴としている。
【0009】
このように、ドーパント元素(4)の配置場所をSiC原料(3)の配置場所よりも低温にできるようにしている。このため、SiC原料(3)が昇華し始めるよりも前にドーパント元素(4)が気化し切ってしまうことを防止することができ、成長させたSiC単結晶(5)のインゴットが成長初期にのみドーパントが偏析したものとなることを抑制できる。これにより、ドーパント濃度のバラツキを抑制できるSiC単結晶(5)を製造することができる。
【0010】
具体的には、請求項2に記載したように、加熱装置(6、9)は、容器本体(1a)のうち、種結晶(2)が配置される箇所の側面と対向する位置と、該種結晶(2)が配置される箇所よりも下方である炭化珪素原料(3)が配置される箇所の側面と、該炭化珪素原料(3)が配置される箇所よりも下方であるドーパント元素が配置される箇所の側面それぞれを独立して加熱できるように構成される。
【0011】
この場合、請求項3に記載したように、坩堝(1)の外周を囲み、高温部と低温部とを断熱する仕切壁(7f)が備えられるようにすると好ましい。
【0012】
このように、高温部と低温部とを断熱する仕切壁(7f)を備えることで、よりSiC原料(3)とドーパント元素(4)との間に温度差を発生させ易くすることができる。
【0013】
請求項4に記載の発明では、容器本体(1a)は、炭化珪素原料(3)を配置する主室と、ドーパント元素(4)を配置する副室とに分離されており、加熱装置(6、9)は、主室と副室とを独立して加熱するものであることを特徴としている。
【0014】
このように、主室と副室の二つの室を構成し、主室と副室それぞれにSiC原料(3)とドーパント元素(4)が配置されるようにしても良い。このようにすれば、よりSiC原料(3)とドーパント元素(4)との温度制御が行い易くなり、これらの間に容易に温度差を設けることが可能となる。
【0015】
例えば、請求項5に記載したように、容器本体(1a)を、底部に開口部が形成された主室を構成する第1有底円筒部材(1aa)と、副室を構成すると共に、第1有底円筒部材(1aa)の開口部を通じて気化したドーパント元素(4)を供給する第2有底円筒部材(1ab)とを有した構成とすることができる。このような構成において、加熱装置(6、9)により、第1有底円筒部材(1aa)と第2有底円筒部材(1ab)とを独立して加熱できるようにすれば良い。
【0016】
請求項6に記載の発明では、主室と副室とは、容器本体(1a)のうち副室を構成する部分よりも径が小さい開口部(1ad、1d)にて接続されており、該開口部の開口面積により、ドーパント元素(4)の供給量であるドーパント量が制御されることを特徴としている。
【0017】
このような構成では、開口部(1ad、1d)を通じて気化したドーパント元素(4)が種結晶(2)側に供給されるようにできるため、開口部(1ad、1d)の面積を調整することでドーパント量を調整することができる。したがって、ドーパント量の調整をより適切に行うことが可能となる。
【0018】
請求項7に記載の発明では、容器本体(1a)内における底部にドーパント元素(4)を配置すると共に、ドーパント元素(4)の上に炭化珪素原料(3)を配置し、さらに蓋材(1b)に種結晶(2)を配置した状態で、蓋材(1b)にて容器本体(1a)を蓋閉めする準備工程と、加熱装置(6、9)により、容器本体(1a)のうち炭化珪素原料(3)を配置する領域(A)を高温部、ドーパント元素(4)を配置する領域(B)を低温部として、高温部を低温部よりも高温となるように加熱する加熱工程と、加熱によって炭化珪素原料(3)を加熱昇華させると共にドーパント元素(4)を気化させることで、種結晶(2)の表面にドーパントが含まれた炭化珪素単結晶(5)を成長させる成長工程と、を含んでいることを特徴としている。
【0019】
このように、SiC原料(3)とドーパント元素(4)の配置場所を異ならせると共に、SiC原料(3)に対してドーパント元素(4)が種結晶(2)から離れた位置に配置されるようにしている。そして、ドーパント元素(4)の配置場所をSiC原料(3)の配置場所よりも低温にできるようにしている。このため、SiC原料(3)が昇華し始めるよりも前にドーパント元素(4)が気化し切ってしまうことを防止することができ、成長させたSiC単結晶(5)のインゴットが成長初期にのみドーパントが偏析したものとなることを抑制できる。これにより、ドーパント濃度のバラツキを抑制できるSiC単結晶(5)を製造することができる。
【0020】
請求項8に記載の発明では、加熱工程では、炭化珪素原料(3)が加熱昇華する第1所定温度(Tr)に達するときに、ドーパント元素(4)が気化する第2所定温度(Td)に達するようにすることを特徴としている。
【0021】
このように、SiC原料(4)が昇華温度に達するときにドーパント元素(4)が気化温度に達するようにすることで、SiC単結晶(5)の成長開始に合せてドーパント元素(4)が気化するようにできる。これにより、成長開始からドーパント濃度のバラツキを抑制しながらSiC単結晶(5)を成長させることができる。
【0022】
なお、上記各手段の括弧内の符号は、後述する実施形態に記載の具体的手段との対応関係を示すものである。
【図面の簡単な説明】
【0023】
【図1】本発明の第1実施形態にかかるSiC単結晶製造装置の断面図である。
【図2】図1中の坩堝1によって結晶成長を行ったときの様子を示した拡大断面図である。
【図3】図1に示すSiC単結晶製造装置の軸方向の各部とSiC単結晶5の成長中の温度との関係を説明するための図である。
【図4】第1実施形態の変形例で示すSiC単結晶製造装置に備えられる坩堝1およびヒータ6を示した拡大断面図である。
【図5】本発明の第2実施形態にかかるSiC単結晶製造装置に備えられる坩堝1およびヒータ6を示した拡大断面図である。
【図6】本発明の第3実施形態にかかるSiC単結晶製造装置に備えられる坩堝1およびヒータ6を示した拡大断面図である。
【図7】第3実施形態の変形例で示すSiC単結晶製造装置に備えられる坩堝1およびヒータ6を示した拡大断面図である。
【図8】本発明の第4実施形態にかかるSiC単結晶製造装置に備えられる坩堝1およびヒータ6を示した拡大断面図である。
【図9】第4実施形態の変形例で示すSiC単結晶製造装置に備えられる坩堝1およびヒータ6を示した拡大断面図である。
【図10】本発明の第5実施形態にかかるSiC単結晶製造装置に備えられる坩堝1およびヒータ6を示した拡大断面図である。
【図11】種結晶J1の表面に形成したSiC単結晶J2のインゴットとそれに対応する成長結晶位置に対するドーパント濃度の関係を示した図である。
【発明を実施するための形態】
【0024】
以下、本発明の実施形態について図に基づいて説明する。なお、以下の各実施形態相互において、互いに同一もしくは均等である部分には、図中、同一符号を付してある。
【0025】
(第1実施形態)
図1に、本発明の第1実施形態にかかるSiC単結晶製造装置の断面構成を示す。以下、図1に基づいてSiC単結晶製造装置の構成についての説明を行う。
【0026】
図1に示すように、SiC単結晶製造装置には、中空部を有する有底円筒状の容器本体1aと円形状の蓋材1bとによって構成されたグラファイト製の坩堝1が備えられている。図2は、この坩堝1によって結晶成長を行ったときの様子を示した拡大断面図である。図2に示すように、坩堝1内には、蓋材1bの裏面に貼り付けられるように例えば円形状のSiCの種結晶2が配置されている。また、坩堝1のうち容器本体1a内には、昇華ガスの供給源となるSiC原料粉末3およびドーパント元素4が配置されている。SiC原料粉末3としては、例えば所定の粒径とされたSiC、SiとCの混合粉末等を用いることができる。ドーパント元素4としては、p型不純物となるAl等やAlを含む材料、Bを含む材料、n型不純物材料となるPを含む材料などを用いることができる。
【0027】
このような構造のSiC単結晶製造装置を用い、坩堝1内の空間のうち種結晶2とSiC原料粉末3との間を結晶成長室R1として、SiC原料粉末3からの昇華ガスが種結晶2の表面上に再結晶化して、種結晶2の表面にSiC単結晶5を成長させる。また、このSiC単結晶5の成長中にドーパント元素4を気化させて、成長するSiC単結晶5内に取り込ませることで、SiC単結晶5のインゴットが所望のドーパント濃度となるようにする。
【0028】
さらに、坩堝1の外周を囲むように円筒型のヒータ6が配置されている。本実施形態では、ヒータ6は、3つに分離されている。第1ヒータ6aは、坩堝1のうち種結晶2が配置される箇所の側面と対向するように配置される。第2ヒータ6bは、坩堝1のうち種結晶2が配置される箇所よりも下方であって、坩堝1のうちSiC原料粉末3が配置される箇所の側面と対向するように配置される。第3ヒータ6cは、坩堝1のうちSiC原料粉末3が配置される箇所よりも下方であって、坩堝1のうちドーパント元素4が配置される箇所の側面と対向するように配置されている。
【0029】
さらに、ヒータ6の外周を囲み、かつ、ヒータ6および坩堝1を上下から囲むように、黒鉛製の中空円柱形状の断熱部材7が配置されている。この断熱部材7の内部空間のうちヒータ6および坩堝1を囲んでいる空間がガス流動室R2となる。
【0030】
断熱部材7は複数の部品にて構成されている。具体的には、坩堝1やヒータ6の外周を囲む外周部7aと、坩堝1やヒータ6の上方を塞ぐ蓋部7bと、例えばカーボンなどの土台とする板を介して坩堝1を載せる台座部7cと、台座部7cの外周を囲むように配置され、坩堝1やヒータ6の下方を塞ぐ底部7dと、底部7dよりも坩堝1側に配置され、台座部7cの周囲を囲みつつ外周部7aの内壁に形成された凹部内に嵌め込まれた環状部7eとを備えて構成されている。台座部7cは坩堝1を載せた状態で回転可能に構成されていると共に坩堝1の軸方向に沿って上下移動可能に構成されており、結晶成長中に台座部7cを回転もしくは上下移動させることにより、坩堝1も回転もしくは上下移動させられる構造となっている。なお、断熱部材7を構成する各部7a〜7eの厚みや坩堝1との距離(隙間)に関しては、適宜調整可能であるが、坩堝1の形状、坩堝1の内部構造、結晶成長時のヒータ6の温度(ヒータ内の温度分布)等によって最適な形状を選択すると好ましい。
【0031】
そして、坩堝1、ヒータ6および断熱部材7を含めて、これら全体が絶縁材料である石英管8に取り囲まれるように収容されている。この石英管8の外周には高周波駆動される誘導コイル9が配置されており、これに高周波の電流を流すことにより、坩堝1の外周に配置されたヒータ6の誘導加熱を行うが、この誘導加熱の際に、石英管8にて誘導コイル9と坩堝1、ヒータ6および断熱部材7が絶縁できる。
【0032】
誘導コイル9は、ヒータ6と対応した構成とされており、本実施形態ではこれらヒータ6および誘導コイル9により加熱装置が構成されている。具体的には、誘導コイル9は、第1〜第3誘導コイル9a〜9cを有した構成とされ、第1〜第3誘導コイル9a〜9cにより第1〜第3ヒータ6a〜6cをそれぞれ独立して加熱できる構成とされている。このため、第1〜第3ヒータ6a〜6cにより発生させられる温度を独立して制御できる。なお、第1〜3ヒータ6a〜6cのいずれかもしくは複数の加熱には、誘導コイル9を用いずに、図には示していないが外部から電流導入端子を通じて直接電流を流すことで温度を独立して制御することも出来る。
【0033】
また、これら坩堝1、ヒータ6、断熱部材7、石英管8および誘導コイル9は、外部チャンバ10に収容されている。この外部チャンバ10と石英管8との間に形成される部屋がガス導入室R3となる。そして、外部チャンバ10内には、石英管8内に雰囲気ガスとして例えば不活性ガス(Arガス等)や水素、結晶へのドーパントとなる窒素などの混入ガスを導入できるようにガス導入管11が設けられていると共に、混成ガスを排出できるように排気配管12が備えられている。排気配管12は、断熱部材7の蓋部7bおよび石英管8を貫通してガス流動室R2と外部チャンバ10の外部とを連通させるように形成されている。なお、ガス導入管11の位置は任意に決められるが、排気配管12の位置と反対側、つまり排気配管12がガス流動室R2の上方位置に設けられているのであれば、ガス導入管11がガス流動室R2の下方からガスを導入できるように、ガス導入室R3の下方位置に設けるようにすると好ましい。
【0034】
さらに、断熱部材7および石英管8を貫通してガス導入室R3とガス流動室R2とを連通させるように、複数個の孔13が形成されている。孔13は、断熱部材7の外周部7aや蓋部7bに形成され、それぞれ異なる高さ(坩堝1の軸方向に沿って異なる位置)に配置されている。具体的には、孔13aは、坩堝1のうちドーパント元素4が配置される位置の側面と対応する場所に形成されており、孔13bは、坩堝1のうちSiC原料粉末3が配置される位置の側面と対応する場所に形成されており、孔13cは、坩堝1の側面におけるSiC原料粉末3と種結晶2との間、つまり結晶成長室R1と対応する場所に形成されている。孔13d〜13fは、第1〜第3ヒータ9a〜9cと対応する場所に形成されている。また、孔13gは、断熱部材7の蓋部7bに形成され、坩堝1の蓋材1bの中央位置、つまり種結晶2の裏面側と対応する位置に形成されている。なお、各孔13a〜13gだけでも良いが、各孔13a〜13gの内側にアルミナ、カーボンなどで作製した筒を通しておくと好ましい。
【0035】
そして、各孔13a〜13gを通じて坩堝1の各部やヒータ6の温度を測定する温度検出部としての放射温度計14a〜14gが外部チャンバ10の外側に配置されている。ただし、坩堝1の側面の測温に関しては、孔13a〜13cから坩堝1に至るまでの間にヒータ6があるため、ヒータ6に対して穴空けしたり、ヒータ6の隙間と孔13cが一致するように位置合わせをしてある。このような構造により、SiC単結晶製造装置が構成されている。
【0036】
なお、ヒータ6の長さ(坩堝1の軸方向に沿った長さ)、厚み、内径および後述する誘導コイル9を駆動する際の周波数等に関しては特に説明していないが、種結晶2の温度よりもSiC原料粉末3の温度を高くすることや、SiC原料粉末3よりもドーパント元素4の温度を低くすること、および、坩堝1の内部の温度分布の制御性を考慮して適宜設定することになる。
【0037】
このような構造のSiC単結晶製造装置を用い、坩堝1内の空間のうち種結晶2とSiC原料粉末3との間を結晶成長室R1として、SiC原料粉末3からの昇華ガスが種結晶2の表面上に再結晶化して、種結晶2の表面にSiC単結晶5が成長させる。また、このSiC単結晶5の成長中にドーパント元素4を気化させて、成長するSiC単結晶5内に取り込ませることで、SiC単結晶5のインゴットが所望のドーパント濃度となるようにする。
【0038】
以下、この本実施形態のSiC単結晶製造装置によるSiC単結晶5の製造方法の詳細について説明する。図3は、図1に示すSiC単結晶製造装置の軸方向の各部とSiC単結晶5の成長中の温度との関係を説明するための図であり、(a)はSiC単結晶製造装置の断面図、(b)は、SiC単結晶5を成長させるときの(a)に示すSiC単結晶製造装置の各位置と温度との関係を示すグラフ、(c)は、(b)に示す領域A、Bの温度に至るまでに掛ける時間を示したタイミングチャートである。これらの図を参照して、SiC単結晶5の製造方法について説明する。
【0039】
まず、容器本体1a内にドーパント元素4を配置した後、ドーパント元素4の上にSiC原料粉末3を配置する。そして、蓋材1bに種結晶2を貼り付けたのち、種結晶2が貼り付けられた蓋材1bによって容器本体1aの開口部を蓋閉めする(準備工程)。そして、坩堝1をアルゴンガスが導入できる真空容器内に設置した後、図示しない排気機構を用いて、排気配管12を通じたガス排出を行うことで、坩堝1内を含めた外部チャンバ10内を真空にすると共に、誘導コイル9に通電することでヒータ6を誘導加熱し、その輻射熱により坩堝1を加熱することで坩堝1内を所定温度にする(加熱工程)。
【0040】
また、ガス導入管11を通じて、例えば不活性ガス(Arガス等)や水素、結晶へのドーパントとなる窒素などの混入ガスを流入させる。そして、石英管8の内部を所定圧に保ちつつ、種結晶2の表面の温度やSiC原料粉末3の温度を目標温度まで上昇させる。このとき、各誘導コイル9への通電の周波数もしくはパワーを異ならせることにより、ヒータ6で温度差が発生させられる加熱を行えるようにしている。
【0041】
具体的には、第1〜第3誘導コイル9a〜9cへの通電量もしくは電流周波数を調整し、第1〜第3ヒータ6a〜6cをそれぞれ個別に制御することにより、図3(b)に示すように、SiC単結晶5の成長表面が温度Ts、領域Aで示したSiC原料粉末3が温度Tr、領域Bで示したドーパント元素4が温度Tdとなるようにする。
【0042】
温度Ts、Tr、Tdの関係は、Td<Ts<Trとされており、温度TsがSiC単結晶5の成長温度、温度TrがSiC昇華温度、温度Tdがドーパント元素4の気化温度である。例えば、温度Trは2100〜2300℃とされ、温度Tsは温度Tsよりも10〜100℃程度低温とされる。また、温度Tdは、ドーパント元素4を構成する材料および要求されるドーパント濃度によって変わるが、例えば700〜1500℃とされる。
【0043】
また、図3(c)に示すように、領域Aで示したSiC原料粉末3が温度Trに達する時間と、領域Bで示したドーパント元素4が温度Tdに達する時間が一致するように第2、第3ヒータ6b、6cへの通電量を制御する。具体的には、SiC原料粉末3が温度Trに達するとSiC原料粉末3の昇華されてSiC単結晶5の成長が開始されるため、この成長開始時間に合せて領域Bで示したドーパント元素4が温度Tdに達するようにしている。SiC原料粉末3とドーパント元素4の加熱開始タイミングは必ずしも一致させる必要はないため、例えば図3(c)中に破線で示したように、これらの加熱開始タイミングをずらして、SiC原料粉末3が温度Trに達する時間とドーパント元素4が温度Tdに達する時間が一致するようにしても良い。
【0044】
すなわち、孔13a〜13cを通じて坩堝1の側面のうちドーパント元素4やSiC原料粉末3が配置された部位、および、結晶成長室R1と対応する部位を放射温度計14a〜14cにて測温すると共に、孔13d〜13fを通じて第1〜第3ヒータ6a〜6cを放射温度計14d〜14fにて測温し、さらに孔13gを通じて坩堝1の上面を放射温度計14gにて測温することで、各部の温度が所望温度となるようにする。この測温により、結晶成長室R1やSiC原料粉末3およびドーパント元素4がそれぞれ温度Ts、Tr、Tdとなるように、第1〜第3誘導コイル9a〜9cの通電量を調整して第1〜第3ヒータ6a〜6cの温度を制御している。このとき、坩堝1の測温だけでなく、ヒータ6の測温も行うことができるため、より正確に坩堝1の内部の温度を調整することが可能となる。
【0045】
また、ガス導入管11を通じて雰囲気ガスを導入しているため、この雰囲気ガスがガス導入室R3から各孔13a〜13fを通じてガス流動室R2内に流動していったのち、孔13gおよび排気配管12を通じて排出されることになる。結晶成長中に坩堝1から原料ガスが洩れてくることになるが、この場合にもガス流動室R2から排気配管12側に向かう雰囲気ガスの流れがあるため、原料ガスが各孔13a〜13f側に行くことは殆どなく、結晶析出によって各孔13a〜13fが塞がれてしまうということもない。
【0046】
このような条件によりSiC単結晶5を結晶成長させると、ドーパント元素4の温度がSiC原料粉末3の温度よりも低くなるようにできる。このため、SiC原料粉末3が昇華し始めるよりも前にドーパント元素4が気化し切ってしまうことを防止することができる。特に、SiC原料粉末3が昇華温度に達するときにドーパント元素4が気化温度に達するようにすることで、SiC単結晶5の成長開始に合せてドーパント元素4が気化するようにできる。これにより、ドーパント濃度のバラツキを抑制しながらSiC単結晶5を成長させることができる(成長工程)。
【0047】
以上説明したように、SiC原料粉末3とドーパント元素4の配置場所を異ならせると共に、SiC原料粉末3に対してドーパント元素4が種結晶2から離れた位置に配置されるようにしている。そして、ドーパント元素4の配置場所をSiC原料粉末3の配置場所よりも低温にできる構成としている。このため、SiC原料粉末3が昇華し始めるよりも前にドーパント元素4が気化し切ってしまうことを防止することができ、成長させたSiC単結晶5のインゴットが成長初期にのみドーパントが偏析したものとなることを抑制できる。これにより、ドーパント濃度のバラツキを抑制できるSiC単結晶5を製造することができる。
【0048】
なお、ここでは、ヒータ6および誘導コイル9を共に3つずつ備える場合について説明したが、誘導コイル9を1つにしても良い。すなわち、高い温度にしたい場所ほど第1〜第3誘導コイル9a〜9cの巻回数を多くしたり、太さを太くすることで、上記の温度勾配を設けることができる。また、誘導コイル9の巻回数や太さを一定としても、高い温度にしたい場所ほど第1〜第3ヒータ6a〜6cの厚みを厚くするなど、ヒータ形状を異ならせることで上記の温度分布を設けることができる。このため、誘導コイル9を1つのみとしても良い。
【0049】
また、本実施形態では、誘導加熱方式のSiC単結晶製造装置について説明したが、コイルによって直接坩堝1を加熱する直接加熱方式とすることもできる。この場合、第1〜第3ヒータ6a〜6cと対応する場所に、第1〜第3加熱用コイルを配置し、各加熱用コイルへの通電量を制御することで、SiC単結晶5の成長表面が温度Ts、SiC原料粉末3が温度Tr、ドーパント元素4が温度Tdとなるようにすることができる。
【0050】
(第1実施形態の変形例)
上記した第1実施形態のようにヒータ6を第1〜第3ヒータ6a〜6cとする場合において、図4に示すように、第2ヒータ6bと第3ヒータ6cとの間に断熱部材7として仕切壁7fを備えるようにしても良い。つまり、第2ヒータ6bと第3ヒータ6cとによって加熱するSiC原料粉末3とドーパント元素4との間に大きな温度差を発生させたいため、より温度差が発生させられ易い構造とするのが好ましい。このため、第2ヒータ6bと第3ヒータ6cとの間に仕切壁7fを備えることで、よりSiC原料粉末3とドーパント元素4との間に温度差を発生させ易くすることができる。
【0051】
(第2実施形態)
本発明の第2実施形態について説明する。本実施形態は、第1実施形態に対してヒータ6の構成を変更したものであり、その他に関しては第1実施形態と同様であるため、第1実施形態と異なる部分についてのみ説明する。
【0052】
図5は、本実施形態のSiC単結晶製造装置に備えられる坩堝1およびヒータ6を示した拡大断面図である。この図に示すように、1つのヒータ6として温度分布を形成することもできる。すなわち、第1〜第3誘導コイル9a〜9cへの通電を行ったときに、ヒータ6が単一構造であっても、各誘導コイル9a〜9cへの通電量を調整することにより、ヒータ6内において温度分布を設けることができる。また、第1〜第3誘導コイル9a〜9cのコイル形状を変更すれば、より温度分布を設け易くなり、例えば、高い温度にしたい場所ほど第1〜第3誘導コイル9a〜9cの巻回数を多くしたり、太さを太くすることで、SiC単結晶5の成長表面が温度Ts、SiC原料粉末3が温度Tr、ドーパント元素4が温度Tdとなるようにすることができる。さらに、ヒータ6の厚み等の形状を坩堝1の中心軸方向において変化させ、例えば、高い温度にしたい場所ほど厚みを厚くすることで、より温度分布を設け易くすることができる。これにより、第1実施形態と同様の効果を得ることができる。
【0053】
なお、ここでは、ヒータ6を単一構成とし、誘導コイル9については第1〜第3コイル9a〜9cの3つを備える場合について説明したが、誘導コイル9についても1つにしても良い。すなわち、上記したように、誘導コイル9を1つとしても、加熱場所に対応して誘導コイル9の巻回数を変化させたり、太さを太くすることで温度分布を形成することができるし、ヒータ6の厚みを変化させることによっても、温度分布を形成することができる。このため、ヒータ6および誘導コイル9を共に1つにしても、上記効果を得ることができる。
【0054】
また、本実施形態でも、加熱用コイルによって直接坩堝1を加熱する直接加熱方式とすることもできる。この場合、ヒータ6と対応する場所に、単一構成の加熱用コイルを配置し、高い温度にしたい場所ほど加熱用コイルの巻回数を大きくしたり、太さを太くすることで、SiC単結晶5の成長表面が温度Ts、SiC原料粉末3が温度Tr、ドーパント元素4が温度Tdとなるようにすることができる。
【0055】
(第3実施形態)
本発明の第3実施形態について説明する。本実施形態も、第1実施形態に対してヒータ6の構成を変更したものであり、その他に関しては第1実施形態と同様であるため、第1実施形態と異なる部分についてのみ説明する。
【0056】
図6は、本実施形態のSiC単結晶製造装置に備えられる坩堝1およびヒータ6を示した拡大断面図である。この図に示すように、ヒータ6を第1、第2ヒータ6a、6bの2つとして温度分布を形成することもできる。本実施形態では、第1ヒータ6aは、坩堝1のうち種結晶2が配置された箇所の側面と対向するように配置され、第2ヒータ6bは、坩堝1のうちSiC原料粉末3およびドーパント元素4が配置された箇所の側面と対向するように配置されている。また、誘導コイル9についても、第1、第2ヒータ6a、6bと対応した位置に配置されるものとし、第1、第2ヒータ6a、6bを個別に加熱できる構成とされている。
【0057】
このように、ヒータ6が2つであっても、各誘導コイル9a〜9cへの通電量を調整することにより、ヒータ6内において温度分布を設けることができる。また、第1〜第3誘導コイル9a〜9cのコイル形状を変更すれば、より温度分布を設け易くなり、例えば、高い温度にしたい場所ほど第1〜第3誘導コイル9a〜9cの巻回数を多くしたり、太さを太くすることで、SiC単結晶5の成長表面が温度Ts、SiC原料粉末3が温度Tr、ドーパント元素4が温度Tdとなるようにすることができる。さらに、ヒータ6の厚み等の形状を坩堝1の中心軸方向において変化させ、例えば、高い温度にしたい場所ほど厚みを厚くすることで、より温度分布を設け易くすることができる。
【0058】
なお、ここでは、ヒータ6を第1、第2ヒータ6a、6bの2つとし、誘導コイル9を第1〜第3誘導コイル9a〜9cの3つを備える場合について説明したが、誘導コイル9についても2つまたは1つにしても良い。すなわち、上記したように、誘導コイル9を2つまたは1つとしても、加熱場所に対応して誘導コイル9の巻回数を変化させたり、太さを太くすることで温度分布を形成することができるし、ヒータ6の厚みを変化させることによっても、温度分布を形成することができる。このため、ヒータ6および誘導コイル9を共に2つにしても、誘導コイル9を1つにしても、上記効果を得ることができる。
【0059】
また、本実施形態でも、加熱用コイルによって直接坩堝1を加熱する直接加熱方式とすることもできる。この場合、第1、第2ヒータ6a、6bと対応する場所に、加熱用コイルを配置し、高い温度にしたい場所ほど加熱用コイルの巻回数を大きくしたり、太さを太くすることで、SiC単結晶5の成長表面が温度Ts、SiC原料粉末3が温度Tr、ドーパント元素4が温度Tdとなるようにすることができる。
【0060】
(第3実施形態の変形例)
上記した第3実施形態のようにヒータ6を第1、第2ヒータ6a、6bとする場合において、図7に示すように、第1ヒータ6aは、坩堝1のうち種結晶2およびSiC原料粉末3が配置された箇所の側面と対向するように配置され、第2ヒータ6bは、坩堝1のうちドーパント元素4が配置された箇所の側面と対向するように配置されるようにしても良い。
【0061】
このような構造とする場合でも、誘導コイル9を第1〜第3誘導コイル9a〜9cの3つ備える構成としても良いし、誘導コイル9を2つまたは1つにしても良い。誘導コイル9を2つまたは1つとする場合には、加熱場所に対応して誘導コイル9の巻回数を変化させたり、太さを太くすることで温度分布を形成することができるし、ヒータ6の厚みを変化させることによっても、温度分布を形成することができる。
【0062】
また、このような変形例についても、加熱用コイルによって直接坩堝1を加熱する直接加熱方式とすることもできる。この場合、第1、第2ヒータ6a、6bと対応する場所に、加熱用コイルを配置し、高い温度にしたい場所ほど加熱用コイルの巻回数を大きくしたり、太さを太くすることで、SiC単結晶5の成長表面が温度Ts、SiC原料粉末3が温度Tr、ドーパント元素4が温度Tdとなるようにすることができる。
【0063】
(第4実施形態)
本発明の第4実施形態について説明する。本実施形態も、第1実施形態に対して坩堝1の構成を変更したものであり、その他に関しては第1実施形態と同様であるため、第1実施形態と異なる部分についてのみ説明する。
【0064】
図8は、本実施形態のSiC単結晶製造装置に備えられる坩堝1およびヒータ6を示した拡大断面図である。この図に示すように、坩堝1の容器本体1aを2つの室に分離した構造とし、一方の主室内にSiC原料粉末3が配置され、もう一方の副室内にドーパント元素4が配置された構造としている。具体的には、容器本体1aは、中央に開口部が形成された第1有底円筒部材1aaと、その開口部から先端部が突出させられた第2有底円筒部材1abとによって構成されており、第2有底円筒部材1ab内にドーパント元素4が配置され、第1有底円筒部材1aaのうち第2有底円筒部材1abよりも外側の部分にSiC原料粉末3が配置される。
【0065】
また、第2ヒータ6bは、坩堝1のうちSiC原料粉末3が配置された箇所の側面と対向するように配置され、第3ヒータ6cは、坩堝1のうちドーパント元素4が配置された箇所の側面と対向するように配置されている。
【0066】
このように、容器本体1aを第1、第2有底円筒部材1aa、1abに分けることで二つの室を構成し、主室と副室それぞれにSiC原料粉末3とドーパント元素4が配置されるようにしても良い。このようにすれば、第1実施形態と同様の効果が得られるのに加えて、よりSiC原料粉末3とドーパント元素4との温度制御を行い易くなり、これらの間に容易に温度差を設けることが可能となる。
【0067】
なお、ここでも、第1実施形態と同様に、ヒータ6および誘導コイル9を共に3つずつ備える場合だけでなく、誘導コイル9を1つにしても良い。この場合も、高い温度にしたい場所ほど第1〜第3誘導コイル9a〜9cの巻回数を多くしたり、太さを太くすることで、上記の温度勾配を設けることができるが、第2有底円筒部材1abから第3ヒータ6cまでの距離が第1有底円筒部材1aaら第2ヒータ6bまでの距離よりも長くなっているため、その関係だけでも上記の温度勾配を設けることができる。また、誘導コイル9の巻回数や太さを一定としても、高い温度にしたい場所ほど第1〜第3ヒータ6a〜6cの厚みを厚くするなど、ヒータ形状を異ならせることで上記の温度分布を設けることもできる。このため、誘導コイル9を1つのみとしても良い。
【0068】
勿論、本実施形態のような構造のSiC単結晶製造装置においても、コイルによって直接坩堝1を加熱する直接加熱方式とすることもできる。
【0069】
(第4実施形態の変形例)
上記した第4実施形態では、第1、第2有底円筒部材1aa、1abが連結された構造について説明したが、図9に示すように、第1、第2有底円筒部材1aa、1abの間に、第3管状部材1acを備え、第1、第2有底円筒部材1aa、1abが第3管状部材1acの開口部1adを介して接続された構造とすることもできる。この場合、第3管状部材1acが第1有底円筒部材1aaの開口部内に嵌め込まれると共に、第2有底円筒部材1abの開口部に嵌め込まれ、第1、第2有底円筒部材1aa、1abによって構成される各室が第3管状部材1acの開口部1adを介して繋がる構造となる。また、SiC原料粉末3は、第1有底円筒部材1aaのうち第3管状部材1acよりも外側の部分に配置される。
【0070】
このような構造とする場合、第3管状部材1acの中空部を通じてドーパント元素4が種結晶2側に供給されることになるため、中空部の径を調整することにより、ドーパント量を調整できる。したがって、第4実施形態と同様の効果が得られるのに加えて、ドーパント量の調整をより適切に行うことが可能となる。
【0071】
(第5実施形態)
本発明の第5実施形態について説明する。本実施形態も、第1実施形態に対して坩堝1の構成を変更したものであり、その他に関しては第1実施形態と同様であるため、第1実施形態と異なる部分についてのみ説明する。
【0072】
図10は、本実施形態のSiC単結晶製造装置に備えられる坩堝1およびヒータ6を示した拡大断面図である。この図に示すように、坩堝1の容器本体1aに仕切壁1cを備えることにより、容器本体1a内をSiC原料粉末3が配置される主室とドーパント元素4が配置される副室とに分離する構造としている。仕切壁1cの中央位置には、容器本体1aのうち副室を構成する部分よりも径が小さな開口部1dが形成されている。この開口部1d内を気化したドーパント元素4が通過させられるようになっており、この開口部1dおよびSiC原料粉末3を通じてドーパント元素4が種結晶2の表面に供給される。例えば、本実施形態のような構造の坩堝1については、2つの同径の有底円筒部材を上下に重ね、上側の有底円筒部材の底部を仕切壁1cにすると共に、その底部の中央位置に開口部1dを形成しておくことで、構成することができる。
【0073】
このような構造の坩堝1を用いることで、開口部1dを通じて気化したドーパント元素4が種結晶2側に供給されるようにできるため、開口部1dの面積を調整することでドーパント量を調整することができる。したがって、第1実施形態と同様の効果が得られるのに加えて、ドーパント量の調整をより適切に行うことが可能となる。
【0074】
(他の実施形態)
上記各実施形態に示したSiC単結晶製造装置の具体的な構造は、単なる一例であり、形状や材質などについて適宜変更することができる。例えば、坩堝1の蓋材1bに直接種結晶2を貼り付ける構造としているが、台座などを介して貼り付けても良い。また、坩堝1を構成する容器本体1aを1部材で構成する必要はなく、複数部材で構成しても良い。
【0075】
また、上記したように、上記各実施形態すべてについて、誘導加熱方式や直接加熱方式の双方に対して本発明が適用できる。誘導加熱方式の場合には、ヒータ6および誘導コイル9が加熱装置を構成し、直接加熱方式の場合には加熱用コイルが加熱装置を構成することになる。いずれの方式であっても、容器本体1aのうちSiC原料粉末3を配置する領域Aの方がドーパント元素4を配置する領域Bよりも高温となるように加熱装置が構成されていれば良い。
【0076】
さらに、第1実施形態の変形例として、第2ヒータ6bと第3ヒータ6cとの間に断熱部材7として仕切壁7fを備える場合について説明した。しかしながら、第1実施形態に限らず、他の実施形態(具体的には図7〜図9の構造)にSiC原料粉末3が配置される高温部とドーパント元素4が配置される低温部とを断熱するように仕切壁7fが備えられるようにしても良い。
【0077】
また、第4実施形態やその変形例で示したように第1有底円筒部材1aaと第2有底円筒部材1abとを有し、これらそれぞれを加熱装置で加熱できる構造とする場合において、第1有底円筒部材1aaを第1、第2ヒータ6a、6bの2つで加熱し、第2有底円筒部材1abを第3ヒータ6cで加熱するようにしている。この構造についても、第1有底円筒部材1aaを第1ヒータ6aのみで加熱し、第2有底円筒部材1abを第2ヒータ6bで加熱するような構造とすることもできる。
【符号の説明】
【0078】
1 坩堝
1a 容器本体
1aa 有底円筒部材
1ab 有底円筒部材
1ac 管状部材
1ad 開口部
1b 蓋材
1c 仕切壁
1d 開口部
2 種結晶
3 SiC原料粉末
4 ドーパント元素
5 SiC単結晶
6 ヒータ
7 断熱部材
9 誘導コイル
【技術分野】
【0001】
本発明は、炭化珪素(以下、SiCという)単結晶の製造装置および製造方法に関するものである。
【背景技術】
【0002】
従来より、SiC単結晶製造装置として、例えば特許文献1に示される構造の製造装置が提案されている。このSiC単結晶製造装置では、黒鉛製の坩堝の下部にSiC原料粉末を設置すると共に、坩堝の蓋部に炭化珪素単結晶の種結晶を配置し、SiC原料粉末が設置された坩堝の下部を加熱することでSiC原料粉末を昇華させ、種結晶に導くことで種結晶表面にSiC単結晶を成長させる。
【0003】
このようにSiC単結晶を成長させる際に、坩堝の下部におけるSiC原料粉末の設置位置に蒸気圧の高いドーパント元素を原料として導入すると、成長するSiC単結晶中にドーパント元素が取り込まれ、所望のドーパント濃度を有するSiC単結晶を成長させることが可能となる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開2008−290885号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
しかしながら、SiCが昇華し始めるよりも前の昇温中にドーパント元素が先に気化し切ってしまい、成長させたSiC単結晶のインゴットが成長初期にのみドーパントが偏析する又はドーピングされないという問題がある。
【0006】
これについて調べたところ、次のような結果となった。図11は、種結晶J1の表面に形成したSiC単結晶J2のインゴットとそれに対応する成長結晶位置に対するドーパント濃度の関係を示してある。この図に示されるように、種結晶J1の表面にSiC単結晶J2が成長させられるが、SiC単結晶J2の成長初期においてドーパント濃度が大きく、その後、徐々にドーパント濃度が低下していることが判る。このようにドーパント濃度に大きなバラツキが発生すると、期待するドーパント濃度のSiC単結晶を得ることができない。
【0007】
本発明は上記点に鑑みて、ドーパント濃度のバラツキを抑制できる炭化珪素単結晶の製造装置および製造方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
上記目的を達成するため、請求項1に記載の発明では、容器本体(1a)のうち炭化珪素原料(3)を配置する領域(A)を高温部、ドーパント元素(4)を配置する領域(B)を低温部として、高温部を低温部よりも高温とする加熱を行う加熱装置(6、9)が備えられていることを特徴としている。
【0009】
このように、ドーパント元素(4)の配置場所をSiC原料(3)の配置場所よりも低温にできるようにしている。このため、SiC原料(3)が昇華し始めるよりも前にドーパント元素(4)が気化し切ってしまうことを防止することができ、成長させたSiC単結晶(5)のインゴットが成長初期にのみドーパントが偏析したものとなることを抑制できる。これにより、ドーパント濃度のバラツキを抑制できるSiC単結晶(5)を製造することができる。
【0010】
具体的には、請求項2に記載したように、加熱装置(6、9)は、容器本体(1a)のうち、種結晶(2)が配置される箇所の側面と対向する位置と、該種結晶(2)が配置される箇所よりも下方である炭化珪素原料(3)が配置される箇所の側面と、該炭化珪素原料(3)が配置される箇所よりも下方であるドーパント元素が配置される箇所の側面それぞれを独立して加熱できるように構成される。
【0011】
この場合、請求項3に記載したように、坩堝(1)の外周を囲み、高温部と低温部とを断熱する仕切壁(7f)が備えられるようにすると好ましい。
【0012】
このように、高温部と低温部とを断熱する仕切壁(7f)を備えることで、よりSiC原料(3)とドーパント元素(4)との間に温度差を発生させ易くすることができる。
【0013】
請求項4に記載の発明では、容器本体(1a)は、炭化珪素原料(3)を配置する主室と、ドーパント元素(4)を配置する副室とに分離されており、加熱装置(6、9)は、主室と副室とを独立して加熱するものであることを特徴としている。
【0014】
このように、主室と副室の二つの室を構成し、主室と副室それぞれにSiC原料(3)とドーパント元素(4)が配置されるようにしても良い。このようにすれば、よりSiC原料(3)とドーパント元素(4)との温度制御が行い易くなり、これらの間に容易に温度差を設けることが可能となる。
【0015】
例えば、請求項5に記載したように、容器本体(1a)を、底部に開口部が形成された主室を構成する第1有底円筒部材(1aa)と、副室を構成すると共に、第1有底円筒部材(1aa)の開口部を通じて気化したドーパント元素(4)を供給する第2有底円筒部材(1ab)とを有した構成とすることができる。このような構成において、加熱装置(6、9)により、第1有底円筒部材(1aa)と第2有底円筒部材(1ab)とを独立して加熱できるようにすれば良い。
【0016】
請求項6に記載の発明では、主室と副室とは、容器本体(1a)のうち副室を構成する部分よりも径が小さい開口部(1ad、1d)にて接続されており、該開口部の開口面積により、ドーパント元素(4)の供給量であるドーパント量が制御されることを特徴としている。
【0017】
このような構成では、開口部(1ad、1d)を通じて気化したドーパント元素(4)が種結晶(2)側に供給されるようにできるため、開口部(1ad、1d)の面積を調整することでドーパント量を調整することができる。したがって、ドーパント量の調整をより適切に行うことが可能となる。
【0018】
請求項7に記載の発明では、容器本体(1a)内における底部にドーパント元素(4)を配置すると共に、ドーパント元素(4)の上に炭化珪素原料(3)を配置し、さらに蓋材(1b)に種結晶(2)を配置した状態で、蓋材(1b)にて容器本体(1a)を蓋閉めする準備工程と、加熱装置(6、9)により、容器本体(1a)のうち炭化珪素原料(3)を配置する領域(A)を高温部、ドーパント元素(4)を配置する領域(B)を低温部として、高温部を低温部よりも高温となるように加熱する加熱工程と、加熱によって炭化珪素原料(3)を加熱昇華させると共にドーパント元素(4)を気化させることで、種結晶(2)の表面にドーパントが含まれた炭化珪素単結晶(5)を成長させる成長工程と、を含んでいることを特徴としている。
【0019】
このように、SiC原料(3)とドーパント元素(4)の配置場所を異ならせると共に、SiC原料(3)に対してドーパント元素(4)が種結晶(2)から離れた位置に配置されるようにしている。そして、ドーパント元素(4)の配置場所をSiC原料(3)の配置場所よりも低温にできるようにしている。このため、SiC原料(3)が昇華し始めるよりも前にドーパント元素(4)が気化し切ってしまうことを防止することができ、成長させたSiC単結晶(5)のインゴットが成長初期にのみドーパントが偏析したものとなることを抑制できる。これにより、ドーパント濃度のバラツキを抑制できるSiC単結晶(5)を製造することができる。
【0020】
請求項8に記載の発明では、加熱工程では、炭化珪素原料(3)が加熱昇華する第1所定温度(Tr)に達するときに、ドーパント元素(4)が気化する第2所定温度(Td)に達するようにすることを特徴としている。
【0021】
このように、SiC原料(4)が昇華温度に達するときにドーパント元素(4)が気化温度に達するようにすることで、SiC単結晶(5)の成長開始に合せてドーパント元素(4)が気化するようにできる。これにより、成長開始からドーパント濃度のバラツキを抑制しながらSiC単結晶(5)を成長させることができる。
【0022】
なお、上記各手段の括弧内の符号は、後述する実施形態に記載の具体的手段との対応関係を示すものである。
【図面の簡単な説明】
【0023】
【図1】本発明の第1実施形態にかかるSiC単結晶製造装置の断面図である。
【図2】図1中の坩堝1によって結晶成長を行ったときの様子を示した拡大断面図である。
【図3】図1に示すSiC単結晶製造装置の軸方向の各部とSiC単結晶5の成長中の温度との関係を説明するための図である。
【図4】第1実施形態の変形例で示すSiC単結晶製造装置に備えられる坩堝1およびヒータ6を示した拡大断面図である。
【図5】本発明の第2実施形態にかかるSiC単結晶製造装置に備えられる坩堝1およびヒータ6を示した拡大断面図である。
【図6】本発明の第3実施形態にかかるSiC単結晶製造装置に備えられる坩堝1およびヒータ6を示した拡大断面図である。
【図7】第3実施形態の変形例で示すSiC単結晶製造装置に備えられる坩堝1およびヒータ6を示した拡大断面図である。
【図8】本発明の第4実施形態にかかるSiC単結晶製造装置に備えられる坩堝1およびヒータ6を示した拡大断面図である。
【図9】第4実施形態の変形例で示すSiC単結晶製造装置に備えられる坩堝1およびヒータ6を示した拡大断面図である。
【図10】本発明の第5実施形態にかかるSiC単結晶製造装置に備えられる坩堝1およびヒータ6を示した拡大断面図である。
【図11】種結晶J1の表面に形成したSiC単結晶J2のインゴットとそれに対応する成長結晶位置に対するドーパント濃度の関係を示した図である。
【発明を実施するための形態】
【0024】
以下、本発明の実施形態について図に基づいて説明する。なお、以下の各実施形態相互において、互いに同一もしくは均等である部分には、図中、同一符号を付してある。
【0025】
(第1実施形態)
図1に、本発明の第1実施形態にかかるSiC単結晶製造装置の断面構成を示す。以下、図1に基づいてSiC単結晶製造装置の構成についての説明を行う。
【0026】
図1に示すように、SiC単結晶製造装置には、中空部を有する有底円筒状の容器本体1aと円形状の蓋材1bとによって構成されたグラファイト製の坩堝1が備えられている。図2は、この坩堝1によって結晶成長を行ったときの様子を示した拡大断面図である。図2に示すように、坩堝1内には、蓋材1bの裏面に貼り付けられるように例えば円形状のSiCの種結晶2が配置されている。また、坩堝1のうち容器本体1a内には、昇華ガスの供給源となるSiC原料粉末3およびドーパント元素4が配置されている。SiC原料粉末3としては、例えば所定の粒径とされたSiC、SiとCの混合粉末等を用いることができる。ドーパント元素4としては、p型不純物となるAl等やAlを含む材料、Bを含む材料、n型不純物材料となるPを含む材料などを用いることができる。
【0027】
このような構造のSiC単結晶製造装置を用い、坩堝1内の空間のうち種結晶2とSiC原料粉末3との間を結晶成長室R1として、SiC原料粉末3からの昇華ガスが種結晶2の表面上に再結晶化して、種結晶2の表面にSiC単結晶5を成長させる。また、このSiC単結晶5の成長中にドーパント元素4を気化させて、成長するSiC単結晶5内に取り込ませることで、SiC単結晶5のインゴットが所望のドーパント濃度となるようにする。
【0028】
さらに、坩堝1の外周を囲むように円筒型のヒータ6が配置されている。本実施形態では、ヒータ6は、3つに分離されている。第1ヒータ6aは、坩堝1のうち種結晶2が配置される箇所の側面と対向するように配置される。第2ヒータ6bは、坩堝1のうち種結晶2が配置される箇所よりも下方であって、坩堝1のうちSiC原料粉末3が配置される箇所の側面と対向するように配置される。第3ヒータ6cは、坩堝1のうちSiC原料粉末3が配置される箇所よりも下方であって、坩堝1のうちドーパント元素4が配置される箇所の側面と対向するように配置されている。
【0029】
さらに、ヒータ6の外周を囲み、かつ、ヒータ6および坩堝1を上下から囲むように、黒鉛製の中空円柱形状の断熱部材7が配置されている。この断熱部材7の内部空間のうちヒータ6および坩堝1を囲んでいる空間がガス流動室R2となる。
【0030】
断熱部材7は複数の部品にて構成されている。具体的には、坩堝1やヒータ6の外周を囲む外周部7aと、坩堝1やヒータ6の上方を塞ぐ蓋部7bと、例えばカーボンなどの土台とする板を介して坩堝1を載せる台座部7cと、台座部7cの外周を囲むように配置され、坩堝1やヒータ6の下方を塞ぐ底部7dと、底部7dよりも坩堝1側に配置され、台座部7cの周囲を囲みつつ外周部7aの内壁に形成された凹部内に嵌め込まれた環状部7eとを備えて構成されている。台座部7cは坩堝1を載せた状態で回転可能に構成されていると共に坩堝1の軸方向に沿って上下移動可能に構成されており、結晶成長中に台座部7cを回転もしくは上下移動させることにより、坩堝1も回転もしくは上下移動させられる構造となっている。なお、断熱部材7を構成する各部7a〜7eの厚みや坩堝1との距離(隙間)に関しては、適宜調整可能であるが、坩堝1の形状、坩堝1の内部構造、結晶成長時のヒータ6の温度(ヒータ内の温度分布)等によって最適な形状を選択すると好ましい。
【0031】
そして、坩堝1、ヒータ6および断熱部材7を含めて、これら全体が絶縁材料である石英管8に取り囲まれるように収容されている。この石英管8の外周には高周波駆動される誘導コイル9が配置されており、これに高周波の電流を流すことにより、坩堝1の外周に配置されたヒータ6の誘導加熱を行うが、この誘導加熱の際に、石英管8にて誘導コイル9と坩堝1、ヒータ6および断熱部材7が絶縁できる。
【0032】
誘導コイル9は、ヒータ6と対応した構成とされており、本実施形態ではこれらヒータ6および誘導コイル9により加熱装置が構成されている。具体的には、誘導コイル9は、第1〜第3誘導コイル9a〜9cを有した構成とされ、第1〜第3誘導コイル9a〜9cにより第1〜第3ヒータ6a〜6cをそれぞれ独立して加熱できる構成とされている。このため、第1〜第3ヒータ6a〜6cにより発生させられる温度を独立して制御できる。なお、第1〜3ヒータ6a〜6cのいずれかもしくは複数の加熱には、誘導コイル9を用いずに、図には示していないが外部から電流導入端子を通じて直接電流を流すことで温度を独立して制御することも出来る。
【0033】
また、これら坩堝1、ヒータ6、断熱部材7、石英管8および誘導コイル9は、外部チャンバ10に収容されている。この外部チャンバ10と石英管8との間に形成される部屋がガス導入室R3となる。そして、外部チャンバ10内には、石英管8内に雰囲気ガスとして例えば不活性ガス(Arガス等)や水素、結晶へのドーパントとなる窒素などの混入ガスを導入できるようにガス導入管11が設けられていると共に、混成ガスを排出できるように排気配管12が備えられている。排気配管12は、断熱部材7の蓋部7bおよび石英管8を貫通してガス流動室R2と外部チャンバ10の外部とを連通させるように形成されている。なお、ガス導入管11の位置は任意に決められるが、排気配管12の位置と反対側、つまり排気配管12がガス流動室R2の上方位置に設けられているのであれば、ガス導入管11がガス流動室R2の下方からガスを導入できるように、ガス導入室R3の下方位置に設けるようにすると好ましい。
【0034】
さらに、断熱部材7および石英管8を貫通してガス導入室R3とガス流動室R2とを連通させるように、複数個の孔13が形成されている。孔13は、断熱部材7の外周部7aや蓋部7bに形成され、それぞれ異なる高さ(坩堝1の軸方向に沿って異なる位置)に配置されている。具体的には、孔13aは、坩堝1のうちドーパント元素4が配置される位置の側面と対応する場所に形成されており、孔13bは、坩堝1のうちSiC原料粉末3が配置される位置の側面と対応する場所に形成されており、孔13cは、坩堝1の側面におけるSiC原料粉末3と種結晶2との間、つまり結晶成長室R1と対応する場所に形成されている。孔13d〜13fは、第1〜第3ヒータ9a〜9cと対応する場所に形成されている。また、孔13gは、断熱部材7の蓋部7bに形成され、坩堝1の蓋材1bの中央位置、つまり種結晶2の裏面側と対応する位置に形成されている。なお、各孔13a〜13gだけでも良いが、各孔13a〜13gの内側にアルミナ、カーボンなどで作製した筒を通しておくと好ましい。
【0035】
そして、各孔13a〜13gを通じて坩堝1の各部やヒータ6の温度を測定する温度検出部としての放射温度計14a〜14gが外部チャンバ10の外側に配置されている。ただし、坩堝1の側面の測温に関しては、孔13a〜13cから坩堝1に至るまでの間にヒータ6があるため、ヒータ6に対して穴空けしたり、ヒータ6の隙間と孔13cが一致するように位置合わせをしてある。このような構造により、SiC単結晶製造装置が構成されている。
【0036】
なお、ヒータ6の長さ(坩堝1の軸方向に沿った長さ)、厚み、内径および後述する誘導コイル9を駆動する際の周波数等に関しては特に説明していないが、種結晶2の温度よりもSiC原料粉末3の温度を高くすることや、SiC原料粉末3よりもドーパント元素4の温度を低くすること、および、坩堝1の内部の温度分布の制御性を考慮して適宜設定することになる。
【0037】
このような構造のSiC単結晶製造装置を用い、坩堝1内の空間のうち種結晶2とSiC原料粉末3との間を結晶成長室R1として、SiC原料粉末3からの昇華ガスが種結晶2の表面上に再結晶化して、種結晶2の表面にSiC単結晶5が成長させる。また、このSiC単結晶5の成長中にドーパント元素4を気化させて、成長するSiC単結晶5内に取り込ませることで、SiC単結晶5のインゴットが所望のドーパント濃度となるようにする。
【0038】
以下、この本実施形態のSiC単結晶製造装置によるSiC単結晶5の製造方法の詳細について説明する。図3は、図1に示すSiC単結晶製造装置の軸方向の各部とSiC単結晶5の成長中の温度との関係を説明するための図であり、(a)はSiC単結晶製造装置の断面図、(b)は、SiC単結晶5を成長させるときの(a)に示すSiC単結晶製造装置の各位置と温度との関係を示すグラフ、(c)は、(b)に示す領域A、Bの温度に至るまでに掛ける時間を示したタイミングチャートである。これらの図を参照して、SiC単結晶5の製造方法について説明する。
【0039】
まず、容器本体1a内にドーパント元素4を配置した後、ドーパント元素4の上にSiC原料粉末3を配置する。そして、蓋材1bに種結晶2を貼り付けたのち、種結晶2が貼り付けられた蓋材1bによって容器本体1aの開口部を蓋閉めする(準備工程)。そして、坩堝1をアルゴンガスが導入できる真空容器内に設置した後、図示しない排気機構を用いて、排気配管12を通じたガス排出を行うことで、坩堝1内を含めた外部チャンバ10内を真空にすると共に、誘導コイル9に通電することでヒータ6を誘導加熱し、その輻射熱により坩堝1を加熱することで坩堝1内を所定温度にする(加熱工程)。
【0040】
また、ガス導入管11を通じて、例えば不活性ガス(Arガス等)や水素、結晶へのドーパントとなる窒素などの混入ガスを流入させる。そして、石英管8の内部を所定圧に保ちつつ、種結晶2の表面の温度やSiC原料粉末3の温度を目標温度まで上昇させる。このとき、各誘導コイル9への通電の周波数もしくはパワーを異ならせることにより、ヒータ6で温度差が発生させられる加熱を行えるようにしている。
【0041】
具体的には、第1〜第3誘導コイル9a〜9cへの通電量もしくは電流周波数を調整し、第1〜第3ヒータ6a〜6cをそれぞれ個別に制御することにより、図3(b)に示すように、SiC単結晶5の成長表面が温度Ts、領域Aで示したSiC原料粉末3が温度Tr、領域Bで示したドーパント元素4が温度Tdとなるようにする。
【0042】
温度Ts、Tr、Tdの関係は、Td<Ts<Trとされており、温度TsがSiC単結晶5の成長温度、温度TrがSiC昇華温度、温度Tdがドーパント元素4の気化温度である。例えば、温度Trは2100〜2300℃とされ、温度Tsは温度Tsよりも10〜100℃程度低温とされる。また、温度Tdは、ドーパント元素4を構成する材料および要求されるドーパント濃度によって変わるが、例えば700〜1500℃とされる。
【0043】
また、図3(c)に示すように、領域Aで示したSiC原料粉末3が温度Trに達する時間と、領域Bで示したドーパント元素4が温度Tdに達する時間が一致するように第2、第3ヒータ6b、6cへの通電量を制御する。具体的には、SiC原料粉末3が温度Trに達するとSiC原料粉末3の昇華されてSiC単結晶5の成長が開始されるため、この成長開始時間に合せて領域Bで示したドーパント元素4が温度Tdに達するようにしている。SiC原料粉末3とドーパント元素4の加熱開始タイミングは必ずしも一致させる必要はないため、例えば図3(c)中に破線で示したように、これらの加熱開始タイミングをずらして、SiC原料粉末3が温度Trに達する時間とドーパント元素4が温度Tdに達する時間が一致するようにしても良い。
【0044】
すなわち、孔13a〜13cを通じて坩堝1の側面のうちドーパント元素4やSiC原料粉末3が配置された部位、および、結晶成長室R1と対応する部位を放射温度計14a〜14cにて測温すると共に、孔13d〜13fを通じて第1〜第3ヒータ6a〜6cを放射温度計14d〜14fにて測温し、さらに孔13gを通じて坩堝1の上面を放射温度計14gにて測温することで、各部の温度が所望温度となるようにする。この測温により、結晶成長室R1やSiC原料粉末3およびドーパント元素4がそれぞれ温度Ts、Tr、Tdとなるように、第1〜第3誘導コイル9a〜9cの通電量を調整して第1〜第3ヒータ6a〜6cの温度を制御している。このとき、坩堝1の測温だけでなく、ヒータ6の測温も行うことができるため、より正確に坩堝1の内部の温度を調整することが可能となる。
【0045】
また、ガス導入管11を通じて雰囲気ガスを導入しているため、この雰囲気ガスがガス導入室R3から各孔13a〜13fを通じてガス流動室R2内に流動していったのち、孔13gおよび排気配管12を通じて排出されることになる。結晶成長中に坩堝1から原料ガスが洩れてくることになるが、この場合にもガス流動室R2から排気配管12側に向かう雰囲気ガスの流れがあるため、原料ガスが各孔13a〜13f側に行くことは殆どなく、結晶析出によって各孔13a〜13fが塞がれてしまうということもない。
【0046】
このような条件によりSiC単結晶5を結晶成長させると、ドーパント元素4の温度がSiC原料粉末3の温度よりも低くなるようにできる。このため、SiC原料粉末3が昇華し始めるよりも前にドーパント元素4が気化し切ってしまうことを防止することができる。特に、SiC原料粉末3が昇華温度に達するときにドーパント元素4が気化温度に達するようにすることで、SiC単結晶5の成長開始に合せてドーパント元素4が気化するようにできる。これにより、ドーパント濃度のバラツキを抑制しながらSiC単結晶5を成長させることができる(成長工程)。
【0047】
以上説明したように、SiC原料粉末3とドーパント元素4の配置場所を異ならせると共に、SiC原料粉末3に対してドーパント元素4が種結晶2から離れた位置に配置されるようにしている。そして、ドーパント元素4の配置場所をSiC原料粉末3の配置場所よりも低温にできる構成としている。このため、SiC原料粉末3が昇華し始めるよりも前にドーパント元素4が気化し切ってしまうことを防止することができ、成長させたSiC単結晶5のインゴットが成長初期にのみドーパントが偏析したものとなることを抑制できる。これにより、ドーパント濃度のバラツキを抑制できるSiC単結晶5を製造することができる。
【0048】
なお、ここでは、ヒータ6および誘導コイル9を共に3つずつ備える場合について説明したが、誘導コイル9を1つにしても良い。すなわち、高い温度にしたい場所ほど第1〜第3誘導コイル9a〜9cの巻回数を多くしたり、太さを太くすることで、上記の温度勾配を設けることができる。また、誘導コイル9の巻回数や太さを一定としても、高い温度にしたい場所ほど第1〜第3ヒータ6a〜6cの厚みを厚くするなど、ヒータ形状を異ならせることで上記の温度分布を設けることができる。このため、誘導コイル9を1つのみとしても良い。
【0049】
また、本実施形態では、誘導加熱方式のSiC単結晶製造装置について説明したが、コイルによって直接坩堝1を加熱する直接加熱方式とすることもできる。この場合、第1〜第3ヒータ6a〜6cと対応する場所に、第1〜第3加熱用コイルを配置し、各加熱用コイルへの通電量を制御することで、SiC単結晶5の成長表面が温度Ts、SiC原料粉末3が温度Tr、ドーパント元素4が温度Tdとなるようにすることができる。
【0050】
(第1実施形態の変形例)
上記した第1実施形態のようにヒータ6を第1〜第3ヒータ6a〜6cとする場合において、図4に示すように、第2ヒータ6bと第3ヒータ6cとの間に断熱部材7として仕切壁7fを備えるようにしても良い。つまり、第2ヒータ6bと第3ヒータ6cとによって加熱するSiC原料粉末3とドーパント元素4との間に大きな温度差を発生させたいため、より温度差が発生させられ易い構造とするのが好ましい。このため、第2ヒータ6bと第3ヒータ6cとの間に仕切壁7fを備えることで、よりSiC原料粉末3とドーパント元素4との間に温度差を発生させ易くすることができる。
【0051】
(第2実施形態)
本発明の第2実施形態について説明する。本実施形態は、第1実施形態に対してヒータ6の構成を変更したものであり、その他に関しては第1実施形態と同様であるため、第1実施形態と異なる部分についてのみ説明する。
【0052】
図5は、本実施形態のSiC単結晶製造装置に備えられる坩堝1およびヒータ6を示した拡大断面図である。この図に示すように、1つのヒータ6として温度分布を形成することもできる。すなわち、第1〜第3誘導コイル9a〜9cへの通電を行ったときに、ヒータ6が単一構造であっても、各誘導コイル9a〜9cへの通電量を調整することにより、ヒータ6内において温度分布を設けることができる。また、第1〜第3誘導コイル9a〜9cのコイル形状を変更すれば、より温度分布を設け易くなり、例えば、高い温度にしたい場所ほど第1〜第3誘導コイル9a〜9cの巻回数を多くしたり、太さを太くすることで、SiC単結晶5の成長表面が温度Ts、SiC原料粉末3が温度Tr、ドーパント元素4が温度Tdとなるようにすることができる。さらに、ヒータ6の厚み等の形状を坩堝1の中心軸方向において変化させ、例えば、高い温度にしたい場所ほど厚みを厚くすることで、より温度分布を設け易くすることができる。これにより、第1実施形態と同様の効果を得ることができる。
【0053】
なお、ここでは、ヒータ6を単一構成とし、誘導コイル9については第1〜第3コイル9a〜9cの3つを備える場合について説明したが、誘導コイル9についても1つにしても良い。すなわち、上記したように、誘導コイル9を1つとしても、加熱場所に対応して誘導コイル9の巻回数を変化させたり、太さを太くすることで温度分布を形成することができるし、ヒータ6の厚みを変化させることによっても、温度分布を形成することができる。このため、ヒータ6および誘導コイル9を共に1つにしても、上記効果を得ることができる。
【0054】
また、本実施形態でも、加熱用コイルによって直接坩堝1を加熱する直接加熱方式とすることもできる。この場合、ヒータ6と対応する場所に、単一構成の加熱用コイルを配置し、高い温度にしたい場所ほど加熱用コイルの巻回数を大きくしたり、太さを太くすることで、SiC単結晶5の成長表面が温度Ts、SiC原料粉末3が温度Tr、ドーパント元素4が温度Tdとなるようにすることができる。
【0055】
(第3実施形態)
本発明の第3実施形態について説明する。本実施形態も、第1実施形態に対してヒータ6の構成を変更したものであり、その他に関しては第1実施形態と同様であるため、第1実施形態と異なる部分についてのみ説明する。
【0056】
図6は、本実施形態のSiC単結晶製造装置に備えられる坩堝1およびヒータ6を示した拡大断面図である。この図に示すように、ヒータ6を第1、第2ヒータ6a、6bの2つとして温度分布を形成することもできる。本実施形態では、第1ヒータ6aは、坩堝1のうち種結晶2が配置された箇所の側面と対向するように配置され、第2ヒータ6bは、坩堝1のうちSiC原料粉末3およびドーパント元素4が配置された箇所の側面と対向するように配置されている。また、誘導コイル9についても、第1、第2ヒータ6a、6bと対応した位置に配置されるものとし、第1、第2ヒータ6a、6bを個別に加熱できる構成とされている。
【0057】
このように、ヒータ6が2つであっても、各誘導コイル9a〜9cへの通電量を調整することにより、ヒータ6内において温度分布を設けることができる。また、第1〜第3誘導コイル9a〜9cのコイル形状を変更すれば、より温度分布を設け易くなり、例えば、高い温度にしたい場所ほど第1〜第3誘導コイル9a〜9cの巻回数を多くしたり、太さを太くすることで、SiC単結晶5の成長表面が温度Ts、SiC原料粉末3が温度Tr、ドーパント元素4が温度Tdとなるようにすることができる。さらに、ヒータ6の厚み等の形状を坩堝1の中心軸方向において変化させ、例えば、高い温度にしたい場所ほど厚みを厚くすることで、より温度分布を設け易くすることができる。
【0058】
なお、ここでは、ヒータ6を第1、第2ヒータ6a、6bの2つとし、誘導コイル9を第1〜第3誘導コイル9a〜9cの3つを備える場合について説明したが、誘導コイル9についても2つまたは1つにしても良い。すなわち、上記したように、誘導コイル9を2つまたは1つとしても、加熱場所に対応して誘導コイル9の巻回数を変化させたり、太さを太くすることで温度分布を形成することができるし、ヒータ6の厚みを変化させることによっても、温度分布を形成することができる。このため、ヒータ6および誘導コイル9を共に2つにしても、誘導コイル9を1つにしても、上記効果を得ることができる。
【0059】
また、本実施形態でも、加熱用コイルによって直接坩堝1を加熱する直接加熱方式とすることもできる。この場合、第1、第2ヒータ6a、6bと対応する場所に、加熱用コイルを配置し、高い温度にしたい場所ほど加熱用コイルの巻回数を大きくしたり、太さを太くすることで、SiC単結晶5の成長表面が温度Ts、SiC原料粉末3が温度Tr、ドーパント元素4が温度Tdとなるようにすることができる。
【0060】
(第3実施形態の変形例)
上記した第3実施形態のようにヒータ6を第1、第2ヒータ6a、6bとする場合において、図7に示すように、第1ヒータ6aは、坩堝1のうち種結晶2およびSiC原料粉末3が配置された箇所の側面と対向するように配置され、第2ヒータ6bは、坩堝1のうちドーパント元素4が配置された箇所の側面と対向するように配置されるようにしても良い。
【0061】
このような構造とする場合でも、誘導コイル9を第1〜第3誘導コイル9a〜9cの3つ備える構成としても良いし、誘導コイル9を2つまたは1つにしても良い。誘導コイル9を2つまたは1つとする場合には、加熱場所に対応して誘導コイル9の巻回数を変化させたり、太さを太くすることで温度分布を形成することができるし、ヒータ6の厚みを変化させることによっても、温度分布を形成することができる。
【0062】
また、このような変形例についても、加熱用コイルによって直接坩堝1を加熱する直接加熱方式とすることもできる。この場合、第1、第2ヒータ6a、6bと対応する場所に、加熱用コイルを配置し、高い温度にしたい場所ほど加熱用コイルの巻回数を大きくしたり、太さを太くすることで、SiC単結晶5の成長表面が温度Ts、SiC原料粉末3が温度Tr、ドーパント元素4が温度Tdとなるようにすることができる。
【0063】
(第4実施形態)
本発明の第4実施形態について説明する。本実施形態も、第1実施形態に対して坩堝1の構成を変更したものであり、その他に関しては第1実施形態と同様であるため、第1実施形態と異なる部分についてのみ説明する。
【0064】
図8は、本実施形態のSiC単結晶製造装置に備えられる坩堝1およびヒータ6を示した拡大断面図である。この図に示すように、坩堝1の容器本体1aを2つの室に分離した構造とし、一方の主室内にSiC原料粉末3が配置され、もう一方の副室内にドーパント元素4が配置された構造としている。具体的には、容器本体1aは、中央に開口部が形成された第1有底円筒部材1aaと、その開口部から先端部が突出させられた第2有底円筒部材1abとによって構成されており、第2有底円筒部材1ab内にドーパント元素4が配置され、第1有底円筒部材1aaのうち第2有底円筒部材1abよりも外側の部分にSiC原料粉末3が配置される。
【0065】
また、第2ヒータ6bは、坩堝1のうちSiC原料粉末3が配置された箇所の側面と対向するように配置され、第3ヒータ6cは、坩堝1のうちドーパント元素4が配置された箇所の側面と対向するように配置されている。
【0066】
このように、容器本体1aを第1、第2有底円筒部材1aa、1abに分けることで二つの室を構成し、主室と副室それぞれにSiC原料粉末3とドーパント元素4が配置されるようにしても良い。このようにすれば、第1実施形態と同様の効果が得られるのに加えて、よりSiC原料粉末3とドーパント元素4との温度制御を行い易くなり、これらの間に容易に温度差を設けることが可能となる。
【0067】
なお、ここでも、第1実施形態と同様に、ヒータ6および誘導コイル9を共に3つずつ備える場合だけでなく、誘導コイル9を1つにしても良い。この場合も、高い温度にしたい場所ほど第1〜第3誘導コイル9a〜9cの巻回数を多くしたり、太さを太くすることで、上記の温度勾配を設けることができるが、第2有底円筒部材1abから第3ヒータ6cまでの距離が第1有底円筒部材1aaら第2ヒータ6bまでの距離よりも長くなっているため、その関係だけでも上記の温度勾配を設けることができる。また、誘導コイル9の巻回数や太さを一定としても、高い温度にしたい場所ほど第1〜第3ヒータ6a〜6cの厚みを厚くするなど、ヒータ形状を異ならせることで上記の温度分布を設けることもできる。このため、誘導コイル9を1つのみとしても良い。
【0068】
勿論、本実施形態のような構造のSiC単結晶製造装置においても、コイルによって直接坩堝1を加熱する直接加熱方式とすることもできる。
【0069】
(第4実施形態の変形例)
上記した第4実施形態では、第1、第2有底円筒部材1aa、1abが連結された構造について説明したが、図9に示すように、第1、第2有底円筒部材1aa、1abの間に、第3管状部材1acを備え、第1、第2有底円筒部材1aa、1abが第3管状部材1acの開口部1adを介して接続された構造とすることもできる。この場合、第3管状部材1acが第1有底円筒部材1aaの開口部内に嵌め込まれると共に、第2有底円筒部材1abの開口部に嵌め込まれ、第1、第2有底円筒部材1aa、1abによって構成される各室が第3管状部材1acの開口部1adを介して繋がる構造となる。また、SiC原料粉末3は、第1有底円筒部材1aaのうち第3管状部材1acよりも外側の部分に配置される。
【0070】
このような構造とする場合、第3管状部材1acの中空部を通じてドーパント元素4が種結晶2側に供給されることになるため、中空部の径を調整することにより、ドーパント量を調整できる。したがって、第4実施形態と同様の効果が得られるのに加えて、ドーパント量の調整をより適切に行うことが可能となる。
【0071】
(第5実施形態)
本発明の第5実施形態について説明する。本実施形態も、第1実施形態に対して坩堝1の構成を変更したものであり、その他に関しては第1実施形態と同様であるため、第1実施形態と異なる部分についてのみ説明する。
【0072】
図10は、本実施形態のSiC単結晶製造装置に備えられる坩堝1およびヒータ6を示した拡大断面図である。この図に示すように、坩堝1の容器本体1aに仕切壁1cを備えることにより、容器本体1a内をSiC原料粉末3が配置される主室とドーパント元素4が配置される副室とに分離する構造としている。仕切壁1cの中央位置には、容器本体1aのうち副室を構成する部分よりも径が小さな開口部1dが形成されている。この開口部1d内を気化したドーパント元素4が通過させられるようになっており、この開口部1dおよびSiC原料粉末3を通じてドーパント元素4が種結晶2の表面に供給される。例えば、本実施形態のような構造の坩堝1については、2つの同径の有底円筒部材を上下に重ね、上側の有底円筒部材の底部を仕切壁1cにすると共に、その底部の中央位置に開口部1dを形成しておくことで、構成することができる。
【0073】
このような構造の坩堝1を用いることで、開口部1dを通じて気化したドーパント元素4が種結晶2側に供給されるようにできるため、開口部1dの面積を調整することでドーパント量を調整することができる。したがって、第1実施形態と同様の効果が得られるのに加えて、ドーパント量の調整をより適切に行うことが可能となる。
【0074】
(他の実施形態)
上記各実施形態に示したSiC単結晶製造装置の具体的な構造は、単なる一例であり、形状や材質などについて適宜変更することができる。例えば、坩堝1の蓋材1bに直接種結晶2を貼り付ける構造としているが、台座などを介して貼り付けても良い。また、坩堝1を構成する容器本体1aを1部材で構成する必要はなく、複数部材で構成しても良い。
【0075】
また、上記したように、上記各実施形態すべてについて、誘導加熱方式や直接加熱方式の双方に対して本発明が適用できる。誘導加熱方式の場合には、ヒータ6および誘導コイル9が加熱装置を構成し、直接加熱方式の場合には加熱用コイルが加熱装置を構成することになる。いずれの方式であっても、容器本体1aのうちSiC原料粉末3を配置する領域Aの方がドーパント元素4を配置する領域Bよりも高温となるように加熱装置が構成されていれば良い。
【0076】
さらに、第1実施形態の変形例として、第2ヒータ6bと第3ヒータ6cとの間に断熱部材7として仕切壁7fを備える場合について説明した。しかしながら、第1実施形態に限らず、他の実施形態(具体的には図7〜図9の構造)にSiC原料粉末3が配置される高温部とドーパント元素4が配置される低温部とを断熱するように仕切壁7fが備えられるようにしても良い。
【0077】
また、第4実施形態やその変形例で示したように第1有底円筒部材1aaと第2有底円筒部材1abとを有し、これらそれぞれを加熱装置で加熱できる構造とする場合において、第1有底円筒部材1aaを第1、第2ヒータ6a、6bの2つで加熱し、第2有底円筒部材1abを第3ヒータ6cで加熱するようにしている。この構造についても、第1有底円筒部材1aaを第1ヒータ6aのみで加熱し、第2有底円筒部材1abを第2ヒータ6bで加熱するような構造とすることもできる。
【符号の説明】
【0078】
1 坩堝
1a 容器本体
1aa 有底円筒部材
1ab 有底円筒部材
1ac 管状部材
1ad 開口部
1b 蓋材
1c 仕切壁
1d 開口部
2 種結晶
3 SiC原料粉末
4 ドーパント元素
5 SiC単結晶
6 ヒータ
7 断熱部材
9 誘導コイル
【特許請求の範囲】
【請求項1】
上方が開口する有底円筒状の容器本体(1a)と、前記容器本体(1a)の上方の開口を蓋閉めする蓋材(1b)とを備え、前記容器本体(1a)内に炭化珪素原料(3)およびドーパント元素(4)を配置すると共に、前記蓋材(1b)に対して炭化珪素単結晶基板にて構成された種結晶(2)を配置し、前記炭化珪素原料(3)を加熱昇華させると共に前記ドーパント元素(4)を気化させることで、前記種結晶(2)の表面にドーパントが含まれた炭化珪素単結晶(5)を成長させる炭化珪素単結晶の製造装置において、
前記容器本体(1a)のうち前記炭化珪素原料(3)を配置する領域(A)を高温部、前記ドーパント元素(4)を配置する領域(B)を低温部として、前記高温部を前記低温部よりも高温とする加熱を行う加熱装置(6、9)が備えられていることを特徴とする炭化珪素単結晶の製造装置。
【請求項2】
前記加熱装置(6、9)は、前記容器本体(1a)のうち、前記種結晶(2)が配置される箇所の側面と対向する位置と、該種結晶(2)が配置される箇所よりも下方である前記炭化珪素原料(3)が配置される箇所の側面と、該炭化珪素原料(3)が配置される箇所よりも下方である前記ドーパント元素が配置される箇所の側面それぞれを独立して加熱するものであることを特徴とする請求項1に記載の炭化珪素単結晶の製造装置。
【請求項3】
前記坩堝(1)の外周を囲み、前記高温部と前記低温部とを断熱する仕切壁(7f)が備えられていることを特徴とする請求項1または2に記載の炭化珪素単結晶の製造装置。
【請求項4】
前記容器本体(1a)は、前記炭化珪素原料(3)を配置する主室と、前記ドーパント元素(4)を配置する副室とに分離されており、
前記加熱装置(6、9)は、前記主室と前記副室とを独立して加熱するものであることを特徴とする請求項1ないし3のいずれか1つに記載の炭化珪素単結晶の製造装置。
【請求項5】
前記容器本体(1a)は、
底部に開口部が形成された前記主室を構成する第1有底円筒部材(1aa)と、
前記副室を構成すると共に、前記第1有底円筒部材(1aa)の前記開口部を通じて気化した前記ドーパント元素(4)を供給する第2有底円筒部材(1ab)とを有し、
前記加熱装置(6、9)は、前記第1有底円筒部材(1aa)と前記第2有底円筒部材(1ab)とを独立して加熱するものであることを特徴とする請求項4に記載の炭化珪素単結晶の製造装置。
【請求項6】
前記主室と前記副室とは、前記容器本体(1a)のうち前記副室を構成する部分よりも径が小さい開口部(1ad、1d)にて接続されており、該開口部の開口面積により、前記ドーパント元素(4)の供給量であるドーパント量が制御されることを特徴とする請求項4または5に記載の炭化珪素単結晶の製造装置。
【請求項7】
上方が開口する有底円筒状の容器本体(1a)と、前記容器本体(1a)の上方の開口を蓋閉めする蓋材(1b)とを備え、前記容器本体(1a)内に炭化珪素原料(3)およびドーパント元素(4)を配置すると共に、前記蓋材(1b)に対して炭化珪素単結晶基板にて構成された種結晶(2)を配置し、前記炭化珪素原料(3)を加熱昇華させると共に前記ドーパント元素(4)を気化させることで、前記種結晶(2)の表面にドーパントが含まれた炭化珪素単結晶(5)を成長させる炭化珪素単結晶の製造方法において、
前記容器本体(1a)内における底部に前記ドーパント元素(4)を配置すると共に、前記ドーパント元素(4)の上に前記炭化珪素原料(3)を配置し、さらに前記蓋材(1b)に前記種結晶(2)を配置した状態で、前記蓋材(1b)にて前記容器本体(1a)を蓋閉めする準備工程と、
加熱装置(6、9)により、前記容器本体(1a)のうち前記炭化珪素原料(3)を配置する領域(A)を高温部、前記ドーパント元素(4)を配置する領域(B)を低温部として、前記高温部を前記低温部よりも高温となるように加熱する加熱工程と、
前記加熱によって前記炭化珪素原料(3)を加熱昇華させると共に前記ドーパント元素(4)を気化させることで、前記種結晶(2)の表面にドーパントが含まれた炭化珪素単結晶(5)を成長させる成長工程と、を含んでいることを特徴とする炭化珪素単結晶の製造方法。
【請求項8】
前記加熱工程では、前記炭化珪素原料(3)が加熱昇華する第1所定温度(Tr)に達するときに、前記ドーパント元素(4)が気化する第2所定温度(Td)に達するようにすることを特徴とする請求項7に記載の炭化珪素単結晶の製造方法。
【請求項1】
上方が開口する有底円筒状の容器本体(1a)と、前記容器本体(1a)の上方の開口を蓋閉めする蓋材(1b)とを備え、前記容器本体(1a)内に炭化珪素原料(3)およびドーパント元素(4)を配置すると共に、前記蓋材(1b)に対して炭化珪素単結晶基板にて構成された種結晶(2)を配置し、前記炭化珪素原料(3)を加熱昇華させると共に前記ドーパント元素(4)を気化させることで、前記種結晶(2)の表面にドーパントが含まれた炭化珪素単結晶(5)を成長させる炭化珪素単結晶の製造装置において、
前記容器本体(1a)のうち前記炭化珪素原料(3)を配置する領域(A)を高温部、前記ドーパント元素(4)を配置する領域(B)を低温部として、前記高温部を前記低温部よりも高温とする加熱を行う加熱装置(6、9)が備えられていることを特徴とする炭化珪素単結晶の製造装置。
【請求項2】
前記加熱装置(6、9)は、前記容器本体(1a)のうち、前記種結晶(2)が配置される箇所の側面と対向する位置と、該種結晶(2)が配置される箇所よりも下方である前記炭化珪素原料(3)が配置される箇所の側面と、該炭化珪素原料(3)が配置される箇所よりも下方である前記ドーパント元素が配置される箇所の側面それぞれを独立して加熱するものであることを特徴とする請求項1に記載の炭化珪素単結晶の製造装置。
【請求項3】
前記坩堝(1)の外周を囲み、前記高温部と前記低温部とを断熱する仕切壁(7f)が備えられていることを特徴とする請求項1または2に記載の炭化珪素単結晶の製造装置。
【請求項4】
前記容器本体(1a)は、前記炭化珪素原料(3)を配置する主室と、前記ドーパント元素(4)を配置する副室とに分離されており、
前記加熱装置(6、9)は、前記主室と前記副室とを独立して加熱するものであることを特徴とする請求項1ないし3のいずれか1つに記載の炭化珪素単結晶の製造装置。
【請求項5】
前記容器本体(1a)は、
底部に開口部が形成された前記主室を構成する第1有底円筒部材(1aa)と、
前記副室を構成すると共に、前記第1有底円筒部材(1aa)の前記開口部を通じて気化した前記ドーパント元素(4)を供給する第2有底円筒部材(1ab)とを有し、
前記加熱装置(6、9)は、前記第1有底円筒部材(1aa)と前記第2有底円筒部材(1ab)とを独立して加熱するものであることを特徴とする請求項4に記載の炭化珪素単結晶の製造装置。
【請求項6】
前記主室と前記副室とは、前記容器本体(1a)のうち前記副室を構成する部分よりも径が小さい開口部(1ad、1d)にて接続されており、該開口部の開口面積により、前記ドーパント元素(4)の供給量であるドーパント量が制御されることを特徴とする請求項4または5に記載の炭化珪素単結晶の製造装置。
【請求項7】
上方が開口する有底円筒状の容器本体(1a)と、前記容器本体(1a)の上方の開口を蓋閉めする蓋材(1b)とを備え、前記容器本体(1a)内に炭化珪素原料(3)およびドーパント元素(4)を配置すると共に、前記蓋材(1b)に対して炭化珪素単結晶基板にて構成された種結晶(2)を配置し、前記炭化珪素原料(3)を加熱昇華させると共に前記ドーパント元素(4)を気化させることで、前記種結晶(2)の表面にドーパントが含まれた炭化珪素単結晶(5)を成長させる炭化珪素単結晶の製造方法において、
前記容器本体(1a)内における底部に前記ドーパント元素(4)を配置すると共に、前記ドーパント元素(4)の上に前記炭化珪素原料(3)を配置し、さらに前記蓋材(1b)に前記種結晶(2)を配置した状態で、前記蓋材(1b)にて前記容器本体(1a)を蓋閉めする準備工程と、
加熱装置(6、9)により、前記容器本体(1a)のうち前記炭化珪素原料(3)を配置する領域(A)を高温部、前記ドーパント元素(4)を配置する領域(B)を低温部として、前記高温部を前記低温部よりも高温となるように加熱する加熱工程と、
前記加熱によって前記炭化珪素原料(3)を加熱昇華させると共に前記ドーパント元素(4)を気化させることで、前記種結晶(2)の表面にドーパントが含まれた炭化珪素単結晶(5)を成長させる成長工程と、を含んでいることを特徴とする炭化珪素単結晶の製造方法。
【請求項8】
前記加熱工程では、前記炭化珪素原料(3)が加熱昇華する第1所定温度(Tr)に達するときに、前記ドーパント元素(4)が気化する第2所定温度(Td)に達するようにすることを特徴とする請求項7に記載の炭化珪素単結晶の製造方法。
【図1】
【図2】
【図3】
【図4】
【図5】
【図6】
【図7】
【図8】
【図9】
【図10】
【図11】
【図2】
【図3】
【図4】
【図5】
【図6】
【図7】
【図8】
【図9】
【図10】
【図11】
【公開番号】特開2012−30994(P2012−30994A)
【公開日】平成24年2月16日(2012.2.16)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−170404(P2010−170404)
【出願日】平成22年7月29日(2010.7.29)
【出願人】(000004260)株式会社デンソー (27,639)
【出願人】(301021533)独立行政法人産業技術総合研究所 (6,529)
【出願人】(000003609)株式会社豊田中央研究所 (4,200)
【出願人】(000003207)トヨタ自動車株式会社 (59,920)
【Fターム(参考)】
【公開日】平成24年2月16日(2012.2.16)
【国際特許分類】
【出願日】平成22年7月29日(2010.7.29)
【出願人】(000004260)株式会社デンソー (27,639)
【出願人】(301021533)独立行政法人産業技術総合研究所 (6,529)
【出願人】(000003609)株式会社豊田中央研究所 (4,200)
【出願人】(000003207)トヨタ自動車株式会社 (59,920)
【Fターム(参考)】
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