説明

熱処理装置の運転方法

【課題】ゲルマニウムを含む薄膜の成膜処理をした後に、ゲルマニウムが汚染物質となる薄膜を成膜処理する場合に、後の成膜処理におけるゲルマニウム汚染を抑える熱処理装置の運転方法を提供する。
【解決手段】被処理体Wを保持具25に保持させて反応容器2内に搬入し、熱処理を行う熱処理装置1の運転方法において、反応容器2内に処理ガスを供給すると共に反応容器2内を加熱して、被処理体Wにゲルマニウムを含む薄膜を成膜する工程と、反応容器2内に被処理体Wが搬入されていない状態クリーニングガスを供給して前記反応容器2内に成膜された薄膜を除去する工程と、酸化ガスと、水素ガスとを反応容器2内に供給すると共に加熱して活性化されたガスにより反応容器2内に存在するゲルマニウムを除去する工程と、反応容器2内に被処理体Wを搬入して処理ガスを供給すると共に加熱して、被処理体にゲルマニウムが汚染物質となる薄膜を成膜する工程、とを含む。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、被処理体を保持具に保持させて、その周囲に加熱手段が設けられた反応容器内に搬入して熱処理を行う熱処理装置を運転する方法であって、ゲルマニウム汚染を避けるための技術分野に関する。
【背景技術】
【0002】
半導体ウエハに対して多数枚を一括して熱処理する縦型熱処理装置にて行われるプロセスの一つとして、シリコンゲルマニウム膜を成膜する手法が知られている(特許文献1)。このシリコンゲルマニウム膜の用途としては、ゲルマニウムが活性化率の高いドーパントであり、バイアス電圧を印加した際に空乏化しにくい利点があることからトランジスタのゲート絶縁膜として用いることが検討されており、あるいはダイオードなど他のデバイスに使用することも検討されている。その成膜プロセスとしては、シラン系のガスとモノゲルマンガスとの混合ガスを反応管内に供給して所定の温度に加熱することにより行われる。
【0003】
一方半導体製造工場では、一つの縦型熱処理装置を用いて種々のプロセスが行われ、あるロットのウエハに対してシリコンゲルマニウム膜を成膜した後、他のロットのウエハに対して他の薄膜、例えばシリコン膜を成膜する場合がある。そして多くの場合、後から行われる熱処理により得ようとする例えばシリコン膜にとって、先の熱処理における処理ガス中のゲルマニウムは汚染物質となり、シリコン膜中にゲルマニウムが含まれることで得ようとするデバイスの特性が低下する。
【0004】
シリコン膜の成膜を例にとると、シリコン膜の成膜処理を実施する前にいわゆるプリコート処理を行って反応容器などの表面をマスクすることにより、反応容器などに先に付着したシリコンゲルマニウム膜からゲルマニウムが処理雰囲気に飛散することが防止される。しかしながらシラン系のガスによりポリシリコン膜を成膜しようとする場合、シリコンゲルマニウムの形成される温度がポリシリコン膜の成膜温度よりも低いことから、例えば反応容器下方の炉口付近など、加熱手段から遠く、温度が低くなってしまう場所では、シリコンゲルマニウムが形成されてもポリシリコン膜が形成されず、シリコンゲルマニウムを十分にマスクできない場合がある。
【0005】
一方、反応容器内をクリーニングするために一般にハロゲンを含むガス例えばフッ素ガスを反応容器内に供給することが行われているが、シリコンゲルマニウム膜の場合には例えばフッ素ガスによりエッチングを行っても反応容器の内壁やウエハボートの表面部にゲルマニウムが残留してしまう。なおクリーニングをしてからプリコート処理を行う場合にも炉口付近など温度が低く、ポリシリコン膜が形成されにくい領域ではシリコンゲルマニウムを十分にマスクすることができない。また特許文献2には、クリーニングガスにより反応容器内に付着した付着膜を除去し、続いて水素ガス及び酸素ガスのラジカルを供給して反応容器の材質である石英中に含まれている銅などの金属を除去することが記載されているが、シリコンゲルマニウム膜の成膜に用いた熱処理装置により他の成膜処理を行う場合の問題については言及されていない。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【特許文献1】特開2003−123532号公報:請求項1、図1
【特許文献2】特開2008−283126号公報:第0030段落〜第0031段落、図1、図2
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
本発明はこのような背景に基づいてなされたものであり、ゲルマニウムを含む薄膜の成膜処理をした後に、ゲルマニウムが汚染物質となる薄膜を成膜処理する場合に、後の成膜処理におけるゲルマニウム汚染を抑えることができる熱処理装置の運転方法を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明に係る熱処理装置の運転方法は、被処理体を保持具に保持させて、その周囲に加熱手段が設けられた反応容器内に搬入して熱処理を行う熱処理装置を運転する方法において、
前記反応容器内に被処理体を搬入して処理ガスを供給すると共に当該反応容器内を前記加熱手段により加熱して、被処理体にゲルマニウムを含む薄膜を成膜する工程と、
次いで反応容器内に被処理体が搬入されていない状態でハロゲンを含むクリーニングガスを当該反応容器内に供給して、前記工程にて前記反応容器内に成膜された薄膜を除去する工程と、
その後、酸素ガス、オゾンガス及び窒素と酸素との化合物ガスから選択される酸化ガスと、水素ガスとを前記反応容器内に供給すると共に当該反応容器内を加熱してこれらガスを活性化し、この活性化されたガスにより反応容器内に存在するゲルマニウムを除去する工程と、
しかる後、前記反応容器内に被処理体を搬入して処理ガスを供給すると共に当該反応容器内を前記加熱手段により加熱して、被処理体にゲルマニウムが汚染物質となる薄膜を成膜する工程と、を含むことを特徴とする。
【0009】
前記熱処理装置の運転方法は、以下に列挙する特徴を備えていてもよい。
(a)前記ゲルマニウムを含む膜はシリコンゲルマニウム膜であること。
(b)前記ゲルマニウムが汚染物質となる薄膜は、シリコン膜であること。
【発明の効果】
【0010】
本発明によれば、ゲルマニウムを含む薄膜の成膜処理をした後に、ハロゲンを含むクリーニングガスにより前記薄膜を除去し、次いで酸素ガス、オゾンガス及び窒素と酸素との化合物ガスから選択される酸化ガスと、水素ガスとを活性化し、この活性化されたガスにより反応容器内に存在するゲルマニウムを除去するようにしているので、その後に行われる成膜処理においてゲルマニウム汚染を抑えることができる。
【図面の簡単な説明】
【0011】
【図1】本実施の形態に係る縦型熱処理装置の構成を示す縦断面図である。
【図2】前記縦型熱処理装置の運転方法を示す第1の説明図である。
【図3】前記縦型熱処理装置の運転方法を示す第2の説明図である。
【図4】本発明の運転方法を適用してゲルマニウムを除去した結果を示す説明図である。
【発明を実施するための形態】
【0012】
以下、本発明に係る熱処理装置の運転方法をシリコンゲルマニウム膜(SiGe膜)とシリコン膜(Si膜)膜との双方を成膜可能な縦型熱処理装置に適用した実施の形態について図1を用いて説明する。縦型熱処理装置1は、例えばCVD(Chemical Vapor Deposition)法によりSiGe膜またはSi膜の成膜を行うことが可能な成膜装置として構成されている。
【0013】
図1中2は、例えば石英により縦長の円筒状に形成された反応容器であり、この反応容器2の下端は、炉口として開口した開口部21となっていて、開口部21の周縁部にはフランジ22が反応容器2と一体に形成されている。反応容器2の下方には、フランジ22の下面に当接して開口部21を気密に閉塞する、例えば石英製の蓋体23が設けられている。蓋体23は、図示しないボートエレベータにより上下方向に昇降させることが可能となっており、これにより前記開口部21を開閉することができる。
【0014】
蓋体23には、その中央部を貫通する回転軸24が設けられており、回転軸24の上端部には保持具であるウエハボート25が搭載されている。ウエハボート25は、3本以上例えば4本の支柱26を備えており、前記支柱26には、複数枚例えば125枚の被処理体であるウエハWを棚状に保持できるように多数の溝(スロット)が形成されている。但し、本例では125枚のウエハWの保持領域のうち、上下両端部については複数枚のダミーウエハが保持され、その間の領域に製品ウエハWが保持されることになる。回転軸24の下端には、当該回転軸24を回転させるための駆動部をなすモータMが設けられており、モータMは回転軸24を介してウエハボート25全体を回転させることができる。また蓋体23の上には前記回転軸24を囲むように保温ユニット27が設けられている。
【0015】
反応容器2の上方には、当該反応容器2内を排気するための排気口4が形成されている。この排気口4の下流には、例えば圧力調節弁などから構成される圧力制御機構24を備えた排気管43が設けられており、この排気管43には真空ポンプ41が接続されている。真空ポンプ41は反応容器2内を所望の真空度に減圧排気する役割を果たす。反応容器2の周囲には、反応容器2内を加熱するための加熱手段であるヒーター31を備えた加熱炉3が設けられている。ヒーター31としては、カーボンワイヤヒーターが採用されており、これによりコンタミネーションの少ない高清浄なプロセスが実現できると共に、急速昇降温が実現できる。
【0016】
反応容器2の下部のフランジ22には、ウエハWに処理ガスを供給するための3本のL字型インジェクター(第1のインジェクター51〜第3のインジェクター53)が挿入、固定されている。ここで図1においては、図示の便宜上、これら3本のインジェクター51〜53がフランジ22の同じ位置から挿入されているように示してあるが、実際にはこれらのインジェクター51〜53はメンテナンス性を考慮してある程度まとまった位置に、例えばフランジ22の周方向に沿って等間隔に配置されている。
【0017】
3本のインジェクター51〜53は、反応容器2内の異なる高さ位置に処理ガスを供給することができるように、各々異なる長さの細管から構成されており、その先端部(上端部)がガス供給孔として開口している。一番低い第1のインジェクター51の先端部は例えばウエハボート25におけるウエハWの保持領域の下端部付近に位置し、真ん中の第2のインジェクター52の先端部は例えば前記ウエハWの保持領域の中段よりも少し低い所に位置しており、また一番高い第3のインジェクター53の先端部は例えば前記ウエハWの保持領域の最上段と第2のインジェクター52の先端部との間に位置している。ここで各インジェクター51〜53の先端部の配置は上述のレイアウトに限定されるものではなく、実験結果などに基づいて適切な位置に設定することができる。
【0018】
各インジェクター51〜53の基端側は、フランジ22の外に伸び出して各々処理ガス供給管611〜613と接続されており、これら処理ガス供給管611〜613にはSiGe膜及びSi膜のシリコン原料となるシラン系の処理ガス、例えばモノシランガス(SiHガス)を供給するためのシランガス供給部62が、各々バルブV11〜V13やマスフローコントローラM11〜M13を介して接続されている。またさらに処理ガス供給管611〜613には、SiGe膜のゲルマニウム原料となるゲルマン系の処理ガス、例えばモノゲルマンガス(GeHガス)を供給するためのゲルマンガス供給部63が、各々バルブV21〜V23やマスフローコントローラM21〜M23を介して接続されている。かかる構成により、各インジェクター51〜53から供給される混合ガスは、各々独立してモノシランガス及びモノゲルマンガスの流量を調整することができる。ここで本例では、ゲルマンガス供給部63からは例えば水素にて10%に希釈されたモノゲルマンガスが供給される。
【0019】
さらに反応容器2のフランジ22には、成膜の際に反応容器2の内部に付着したSiGeやSiなどの付着物(反応生成物など)を除去(クリーニング)するためのクリーニングガスを反応容器2内に供給するクリーニングガスインジェクター54が設けられている。クリーニングガスインジェクター54は例えばL字型に形成され、その先端は、ウエハボート25におけるウエハWの保持領域の下端部付近まで伸び出して開口している。また当該クリーニングガスインジェクター54の後端はフランジ22の外に伸び出してクリーニングガス供給管71に接続されている。クリーニングガス供給管71には、バルブV5やマスフローコントローラM5を介してクリーニングガス供給部74が接続されており、当該部74からは、例えばハロゲン系の酸性ガスである、フッ素(F)とフッ化水素(HF)とを含むガスや、フッ素と水素(H)とを含むガスを窒素(N)で希釈したものなどを供給することができる。ここで図1においては、クリーニングガス供給部74には図示の便宜上「F」とだけ記してある。また本例ではクリーニングガスとしてフッ素、水素及び窒素の混合ガスを用いる場合について説明する。
【0020】
ここで本実施の形態に係る縦型熱処理装置1は、例えばSiGe膜を成膜する工程を含む熱処理を終え、次にGeを含まない膜、例えばSi膜の成膜を行う工程を含む熱処理を実行する際に、背景技術において述べたようにFガスなどのクリーニングガスでは十分に除去することがないゲルマニウム(Ge)を反応容器2内からパージするために、反応容器2内にパージガスを供給する機構を備えている。
【0021】
即ち、例えば既述のクリーニングガスインジェクター54に連なるクリーニングガス供給管71には、バルブV3、V4やマスフローコントローラM3、M4を介してパージガスである水素(H)ガス及び酸化ガスである亜酸化窒素(NO)ガスを供給するための水素供給部72並びに酸化ガス供給部73が接続されている。クリーニングガス供給管71へのこれらのパージガスの導入部には、例えばガス混合部710が設けられており、パージガスは十分に混合された状態で反応容器2内に供給される。本例ではクリーニングガスと共通の配管71やインジェクター54を用いてパージガスを反応容器2内に供給する構成としたが、パージガス専用の供給配管やインジェクターを設けてもよいことは勿論である。
【0022】
またさらに縦型熱処理装置1は、既述のヒーター31や圧力制御部42及び各ガス供給部62、63、72、73、74の動作を制御する制御部8を備えている。制御部8は例えば図示しないCPUとプログラムとを備えたコンピュータからなり、プログラムには当該縦型熱処理装置1によってウエハWへの成膜を行ったり、反応容器2内のクリーニングやGeのパージを実行したりするのに必要な動作、例えばヒーター31の出力コントロールや反応容器2内の圧力調整及び反応容器2への処理ガスやクリーニングガス、パージガスの供給量調整に係る制御等についてのステップ(命令)群が組まれている。このプログラムは、例えばハードディスク、コンパクトディスク、マグネットオプティカルディスク、メモリカード等の記憶媒体に格納され、そこからコンピュータにインストールされる。
【0023】
次に上述の縦型熱処理装置1を用いてウエハWに対してSiGe膜の成膜を行う動作について説明する。
まず、基板であるウエハWを所定枚数ウエハボート25に棚状に載置して、図示しないボートエレベータを上昇させることにより、ウエハWを反応容器2内に搬入する。
【0024】
ウエハボート25の搬入を終え、反応容器2の下端の開口部21が蓋体23により塞がれた後、反応容器2内は排気口4を通じて真空ポンプ41により真空排気され、反応容器2内の圧力は例えば10Pa〜130Paの減圧雰囲気に調整される。また、ヒーター31により反応容器2内は例えば350°C〜650°Cの範囲で設定されたプロセス温度に加熱される。
【0025】
昇温を終えたら、シランガス供給部62及びゲルマンガス供給部63からモノシランガス及びモノゲルマンガスを供給し、3本のインジェクター51〜53を介して反応容器2内にこれらの混合ガスである処理ガスを供給する(図2(a))。処理ガスであるモノシランガスとモノゲルマンガスとの混合比は各インジェクター51〜53でそれぞれ異なっており、例えばモノシランガスとモノゲルマンガスとの混合比は第1のインジェクター51では1200sccm:600sccm、第2のインジェクター52では300sccm:190sccm、第3のインジェクター53では300sccm:220sccmに調整される。
【0026】
こうして反応容器2内に供給されたモノシランガス及びモノゲルマンガスは熱分解し、ウエハWにはSiGe膜(シリコンゲルマニウム膜)が成膜される。ここでモノゲルマンは活性化エネルギーが低く分解反応性が大きいため、モノゲルマンを単独で反応容器2内の底部から供給すると、上段側にてモノゲルマンが不足してしまう。しかし本例では互いに高さの異なる3本のインジェクター51〜53を設けているので、底部側に設けた第1のインジェクター51から供給したモノゲルマンの不足分が上段側のインジェクター52、53により補給される。
【0027】
また、モノシランガス、モノゲルマンガスを予め混合した状態で供給しているため、モノゲルマンに比べ活性化エネルギーが小さく分解反応性の低いモノシランによりモノゲルマンが希釈され、ウエハボート25の下段側でのモノゲルマンの過剰な分解が抑制されて、ウエハボート25の上下方向におけるウエハW面間の膜厚差が少なく均一なSiGe膜を成膜することができる。また成膜の期間中、ウエハボート25はモータMにより回転しており、各ウエハW面内においても均一なSiGe膜を成膜することができる。
こうして、所定時間成膜を行ったら、処理ガスの供給並びに真空排気を停止し、反応容器2内を例えばNガスなどの不活性ガスで置換した後、反応容器2内からウエハボート25を搬出する。
【0028】
以上に説明した動作により実行されるSiGe膜の成膜においては、反応容器2やウエハボート25など処理ガスが供給される雰囲気に晒される各種部材の表面にSiGeなどの反応生成物が付着し、成膜を繰り返すうちにこうした反応生成物が次第に堆積していくことから、Fガスによる反応容器2内のクリーニングが定期的に行われる。また成膜する膜をSiGe膜から例えばSi膜などの別の膜種に切り替える時などにおいて、切り替え後の膜中へのGeのコンタミネーションを防止する目的などから、Fガスによるクリーニングを行った後、さらにGeのパージを行ってから次の成膜を開始する運転が行われる。以下、これらのクリーニング並びにGeのパージについて説明する。
【0029】
SiGe膜の成膜を終え、例えばウエハWに成膜する膜種をSi膜に切り替える場合には、次の成膜を始める前にFガスによるクリーニングを行う。このクリーニングにおいては、Nガスでパージされた反応容器2内に、ウエハWを保持していない状態のウエハボート25を搬入して蓋体23を閉じ、反応容器2内を例えば13300Paの減圧雰囲気とすると共に、反応容器2内の温度を例えば400℃程度まで昇温する。そしてクリーニングガス供給部74より反応容器2内にFガスを例えば12000sccm供給する。ここで既述のように本例に係るFガスは例えばフッ素(F)と水素(H)と窒素(N)との混合気体であり、各ガスは例えばFが2000sccm、Hが2000sccm、Nが8000sccmで供給される。
【0030】
加熱された反応容器2内にFガスが供給されると、当該ガス中のフッ素が活性化され、この活性化されたフッ素により反応容器2の内面やウエハボート25など、反応容器2内の各種部材の表面に堆積しているSiGeがエッチングされ、これら部材表面に付着した付着物(反応生成物など)を除去することができる(図2(b))。
【0031】
こうして所定時間クリーニングを実行したら、反応容器2内に供給するガスをFガスからNガスに切り替えてクリーニングを終え、反応容器2内を例えば46.55Paまで減圧すると共に、反応容器2内の温度を例えば750℃〜950℃の範囲の例えば850℃まで昇温する。そして、水素供給部72及び酸化ガス供給部73から反応容器2内に、Hガスを例えば1700sccm、NOガスを例えば2000sccm供給することにより、反応容器2内の各種部材上に残存しているGeをパージする(図2(c))。
【0032】
ガスやNOガスを既述の温度範囲に加熱すると、これらのガスが活性化して水素ラジカルや酸素ラジカルなどの活性種が生成され、これらのラジカルが反応容器2内の各種部材上に残存しているGeと反応して当該Geをパージガス内に取り込み、Geを含んだパージガスが反応容器2外へと排出(パージアウト)することができる。
【0033】
Geのパージを終えたらパージガスの供給を止め、ウエハボート25にウエハWを載置していない状態のまま、反応容器2内の圧力及び温度をSi膜の成膜時の条件に調整し、図3(a)に示すように反応容器2内にモノシランガスを供給して、反応容器2内の部材の表面を、ポリシリコン膜でプリコートする。Fクリーニングやラジカルによるパージ後において、各種部材表面に微量に金属分などが残存する場合であっても、これらのコンタミネーション物質はプリコートにより覆い隠され、反応容器2内は清浄な状態となる。 こうしてプリコートを終えたら、再びウエハボート25にウエハWを棚状に保持して反応容器2内に搬入し、例えばモノシランガスによるSi膜の成膜を開始して膜種の切り替えを完了する(図3(b))。
【0034】
以上、図2、図3を参照しながら説明したように成膜される膜種の切り替えは、SiGe膜の成膜→Fガスによるクリーニング→Hガス及びNOガスによるGeのパージ→ポリシリコン膜のプリコート→Si膜の成膜の順に各種の工程が実行される。ここでポリシリコン膜のプリコートは例えば450℃程度の温度にて行われるのに対し、SiGeはこのプリコート時の温度よりも低い例えば300℃〜400℃の温度にて形成する。
【0035】
このため上述の一連の切り替え動作において、例えばFクリーニングを行った後に、Geのパージを行わずにポリシリコン膜のプリコートを行ってしまうと、背景技術にて説明したように反応容器2の炉口付近など、温度が低く、ポリシリコン膜が形成されにくい領域ではシリコンゲルマニウムを十分にマスクすることができないことから、当該部材表面に残っているGeにより、後段で成膜されるSi膜が汚染されてしまう。
【0036】
また、Fガスによるクリーニングを行ってからGeのパージを行う順番についても、この順番を入れ替えて先にGeのパージを行うと、各部材の表面に堆積しているSiGe膜が例えば酸素ラジカルにより酸化されて、酸化膜が形成されてしまうためFガスではエッチングされずクリーニングができなくなってしまう。
以上に説明した観点から、縦型熱処理装置1での膜種切り替え時に、反応容器2内に残存しているGeを効果的に除去するためには、図2、図3に示した順番にFガスによるクリーニング、Geのパージ、ポリシリコン膜のプリコートを実行することが好ましいといえる。
【0037】
本実施の形態に係る縦型熱処理装置1の運転方法によれば以下の効果がある。ゲルマニウムを含む例えばSiGe膜の成膜をした後に、ハロゲンを含むクリーニングガス(例えばFガス)により前記SiGe膜を除去し、次いで酸化ガスである亜酸化窒素ガスと、水素ガスとを活性化し、この活性化されたガスにより反応容器2内に存在するGeを除去するようにしているので、その後に行われる例えばSi膜の成膜においてゲルマニウム汚染を抑えることができる。
【0038】
ここでGeのパージの際にNOガスを用いている理由は、Si膜を成膜する縦型熱処理装置1においては、Si膜のグレインの粒径を小さくするアニール処理に用いる目的で当該ガスの供給ラインを予め設けている場合があるためであるが、Geのパージに利用可能な酸化ガスはこの例に限定されるものではない。例えば、Geをパージするための酸化ガスとして、NOやNOなど他の種類の窒素と酸素の化合物ガスや酸素ガス、オゾンガスなどを用いてもよい。
【実施例】
【0039】
上述の実施の形態中に示した縦型熱処理装置1において、ウエハボート25の上段側と下段側とに保持した石英基板の表面に約5μmのSiGeを成膜した後に、以下の各実施例、比較例に係る処置を実行し、各処置後の基板に残存する単位表面積当たりのGe原子数[個/cm]を計測した。各処置の実施条件は、図2、図3にて説明した条件と同様とした。またGeの原子数の計測にはICP−MS(Inductively Coupled Plasma Mass Spectrometer)を用いた。
A.実験条件
(比較例1)
SiGe成膜後の基板をフッ硝酸液中に数分間浸漬するウェット洗浄を行った。
(比較例2)
石英板表面に1μmの膜厚のポリシリコン膜を成膜するコーティングを行った。
(比較例3)
反応容器2内にFガスを供給し、ウエハボート25上に載置した石英基板に対するクリーニングを約1時間実施した。
(実施例1)
(比較例3)のFガスクリーニングを行った後の石英基板を再度反応容器2内に載置し、HガスとNOガスとを供給してGeのパージを5時間実施した。
【0040】
B.実験結果
各実施例、比較例におけるGeの計測結果を図4に示す。図4の横軸に示したTの符号はウエハボート25の上段側に保持された基板の計測結果を示し、Bの符号はウエハボート25の下段側での結果を示している。
【0041】
図4の結果によれば、(比較例1)のウェット洗浄では、ウエハボート25の上段側、下段側のいずれにおいても基板表面には1.0×1012[個/cm]以上のGe原子が残存しており、ウェット洗浄のみではGeを十分に除去できないことが分かる。また、洗浄槽内の洗浄液もGeにより汚染されてしまう。
【0042】
また(比較例2)のポリシリコン膜によるコーティングを行った場合においても、ウエハボート25の上段側では3.0×1012[個/cm]以上、下段側では1.0×1011[個/cm]以上のGe原子が残存したままとなっている。このことから、Geが残存している状態にてプリコートを行ってもGe汚染を防止する効果は殆どないといえる。
【0043】
次に(比較例3)のFガスによるクリーニングでは、ウエハボート25の上段側、下段側いずれについても1.0×1011〜2.0×1011[個/cm]以上のGe原子が残存しており、この場合にもGeの十分な除去効果は見られない。
【0044】
以上のように(比較例1)〜(比較例3)の各処置を行っても、基板表面のGeを除去する効果は見られなかったが、Fガスクリーニングを実施した後の石英基板に対して(実施例1)としてHガスとNOガスとを用いてパージを行うと、基板表面のGeは上段側、下段側共に3.0×10[個/cm]程度となって、ICP−MSの計測下限値近くまで除去され、Geの除去効果は劇的に改善されている。これらの実験結果から、反応容器内に残存するGeの除去にはHガスとNOガスとを用いたパージが有効であることを確認できた。
【符号の説明】
【0045】
W ウエハ
1 縦型熱処理装置
2 反応容器
25 ウエハボート
3 加熱炉
31 ヒーター
4 排気口
51 第1のインジェクター
52 第2のインジェクター
53 第3のインジェクター
54 クリーニングガスインジェクター
611〜613
処理ガス供給管
62 モノシラン供給部
63 モノゲルマン供給部
71 クリーニングガス供給管
710 ガス混合部
72 水素供給部
73 酸化ガス供給部
74 クリーニングガス供給部
8 制御部

【特許請求の範囲】
【請求項1】
被処理体を保持具に保持させて、その周囲に加熱手段が設けられた反応容器内に搬入して熱処理を行う熱処理装置を運転する方法において、
前記反応容器内に被処理体を搬入して処理ガスを供給すると共に当該反応容器内を前記加熱手段により加熱して、被処理体にゲルマニウムを含む薄膜を成膜する工程と、
次いで反応容器内に被処理体が搬入されていない状態でハロゲンを含むクリーニングガスを当該反応容器内に供給して、前記工程にて前記反応容器内に成膜された薄膜を除去する工程と、
その後、酸素ガス、オゾンガス及び窒素と酸素との化合物ガスから選択される酸化ガスと、水素ガスとを前記反応容器内に供給すると共に当該反応容器内を加熱してこれらガスを活性化し、この活性化されたガスにより反応容器内に存在するゲルマニウムを除去する工程と、を含むことを特徴とする熱処理装置の運転方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【公開番号】特開2012−238885(P2012−238885A)
【公開日】平成24年12月6日(2012.12.6)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2012−168445(P2012−168445)
【出願日】平成24年7月30日(2012.7.30)
【分割の表示】特願2009−36831(P2009−36831)の分割
【原出願日】平成21年2月19日(2009.2.19)
【出願人】(000219967)東京エレクトロン株式会社 (5,184)
【Fターム(参考)】