説明

熱硬化性樹脂組成物、フリップチップ実装用接着剤、半導体装置の製造方法、及び、半導体装置

【課題】製造が容易であり、高い透明性を維持するとともに半導体チップをボンディングする際にはボイドの発生を抑制しながら、貯蔵安定性及び熱安定性にも優れ、更に、耐熱性に優れた硬化物を得ることができる熱硬化性樹脂組成物、該熱硬化性樹脂組成物を含有するフリップチップ実装用接着剤、該フリップチップ実装用接着剤を用いる半導体装置の製造方法、及び、該半導体装置の製造方法を用いて製造される半導体装置を提供する。
【解決手段】エポキシ樹脂と、ビシクロ骨格を有する酸無水物と、常温で液状のイミダゾール硬化促進剤とを含有する熱硬化性樹脂組成物。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、製造が容易であり、高い透明性を維持するとともに半導体チップをボンディングする際にはボイドの発生を抑制しながら、貯蔵安定性及び熱安定性にも優れ、更に、耐熱性に優れた硬化物を得ることができる熱硬化性樹脂組成物に関する。また、本発明は、該熱硬化性樹脂組成物を含有するフリップチップ実装用接着剤、該フリップチップ実装用接着剤を用いる半導体装置の製造方法、及び、該半導体装置の製造方法を用いて製造される半導体装置に関する。
【背景技術】
【0002】
エポキシ樹脂組成物は、その硬化物が優れた接着性、耐熱性、耐薬品性、電気特性等を有することから、各分野で広く用いられている。例えば、半導体装置を製造する際には半導体チップを基板又は他の半導体チップに接着固定するボンディング工程が行われるが、ボンディング工程においては、現在では、硬化剤として例えば酸無水物を配合したエポキシ樹脂系の接着剤、接着シート等が用いられることが多い。
【0003】
酸無水物を配合したエポキシ樹脂組成物は、低粘度で貯蔵安定性に優れ、硬化物が機械的強度、耐熱性、電気特性等に優れることから、ボンディング時に用いられる接着剤として有用である。しかしながら、酸無水物を配合したエポキシ樹脂組成物は、硬化反応が遅く高温で長時間の加熱を必要とするため、一般的に硬化促進剤と併用されることが多い。
【0004】
酸無水物と併用される硬化促進剤として、例えば、イミダゾール硬化促進剤が挙げられる。イミダゾール硬化促進剤を配合することで、貯蔵安定性に優れ、比較的低温で短時間に熱硬化することのできるエポキシ樹脂組成物が得られる。酸無水物とイミダゾール硬化促進剤とを配合したエポキシ樹脂組成物として、例えば、特許文献1には、エポキシ樹脂及び硬化剤を含有すると共に室温で液状であるエポキシ樹脂組成物において、硬化剤として、イミダゾール骨格を有する化合物を核とすると共にこの核の周囲を熱硬化性樹脂による被膜で被覆して得られた微細球粒子、又はアミンアダクト粒子の少なくとも一方と、特定の酸無水物とを用いて成るエポキシ樹脂組成物が開示されている。
【0005】
一方、近年、半導体装置の小型化、高集積化が進展し、例えば、表面に電極として複数の突起(バンプ)を有するフリップチップ、複数の薄研削した半導体チップを積層したスタックドチップ等も生産されている。更に、このような小型化、高集積化した半導体装置を効率よく生産するために製造工程の自動化もますます進展している。
【0006】
近年の自動化されたボンディング工程、特にフリップチップのボンディング工程においては、半導体チップ上に設置されたパターン又は位置表示をカメラが自動認識することよって、半導体チップの位置合わせが行われる。このとき、パターン又は位置表示は半導体チップ上に塗布された接着剤の上から認識されるため、ボンディング時に用いられる接着剤には、カメラがパターン又は位置表示を充分に自動認識することができる程度の透明性が求められる。
しかしながら、このように高い透明性が求められているのに対し、イミダゾール硬化促進剤の多くは常温で固体であり、微小に粉砕されて配合されることから、エポキシ樹脂組成物の透明性低下の原因となっている。また、イミダゾール硬化促進剤を微小に粉砕し、これを配合する工程を必要としたり、エポキシ樹脂組成物を濾過する際にフィルターが詰まりやすくなったりする等、製造時の作業性が悪いことも問題である。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0007】
【特許文献1】特開2006−328246号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
本発明は、製造が容易であり、高い透明性を維持するとともに半導体チップをボンディングする際にはボイドの発生を抑制しながら、貯蔵安定性及び熱安定性にも優れ、更に、耐熱性に優れた硬化物を得ることができる熱硬化性樹脂組成物を提供することを目的とする。また、本発明は、該熱硬化性樹脂組成物を含有するフリップチップ実装用接着剤、該フリップチップ実装用接着剤を用いる半導体装置の製造方法、及び、該半導体装置の製造方法を用いて製造される半導体装置を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明は、エポキシ樹脂と、ビシクロ骨格を有する酸無水物と、常温で液状のイミダゾール硬化促進剤とを含有する熱硬化性樹脂組成物である。以下、本発明を詳述する。
【0010】
本発明者らは、酸無水物とイミダゾール硬化促進剤とを配合した熱硬化性樹脂組成物の透明性を高める目的で、常温で固体のイミダゾール硬化促進剤の代わりに、常温で液状のイミダゾール硬化促進剤を用いることを考えた。そして、本発明者らは、常温で液状のイミダゾール硬化促進剤を用いることで、イミダゾール硬化促進剤を微小に粉砕する必要もなくなり、透明性の高い熱硬化性樹脂組成物をより容易に製造することができ、また、常温で液状のイミダゾール硬化促進剤は均一に分子レベルで分散することができるため、半導体チップをボンディングする際には局所的な発熱を避けることができ、ボイドの発生を抑制することができると考えた。
しかしながら、本発明者らは、常温で液状のイミダゾール硬化促進剤を配合すると熱硬化性樹脂組成物の貯蔵安定性及び熱安定性が低下してしまうことから、透明性、製造性、ボイドの抑制等の性能と、安定性とを両立することは困難であることを見出した。特に、常温又は高温での長時間の安定性が必要とされるフリップチップ実装用接着剤に、このような安定性に劣る熱硬化性樹脂組成物を適用することは困難であった。
【0011】
本発明者らは、ビシクロ骨格を有する酸無水物と、常温で液状のイミダゾール硬化促進剤との組み合わせを用いることで、熱硬化性樹脂組成物の透明性を維持するとともに半導体チップをボンディングする際にはボイドの発生を抑制しながら、貯蔵安定性及び熱安定性の低下を抑制できることを見出した。更に、本発明者らは、このような熱硬化性樹脂組成物は、硬化物の耐熱性にも優れることを見出した。
即ち、本発明者らは、エポキシ樹脂と、ビシクロ骨格を有する酸無水物と、常温で液状のイミダゾール硬化促進剤とを含有する熱硬化性樹脂組成物は、製造が容易であり、高い透明性を維持するとともに半導体チップをボンディングする際にはボイドの発生を抑制しながら、貯蔵安定性及び熱安定性にも優れ、更に、耐熱性に優れた硬化物を得ることができることを見出し、本発明を完成させるに至った。
【0012】
本発明の熱硬化性樹脂組成物は、エポキシ樹脂を含有する。
上記エポキシ樹脂は特に限定されないが、多環式炭化水素骨格を主鎖に有するエポキシ樹脂を含有することが好ましい。上記多環式炭化水素骨格を主鎖に有するエポキシ樹脂を含有することで、得られる熱硬化性樹脂組成物の硬化物は、剛直で分子の運動が阻害されるため優れた機械的強度及び耐熱性を発現し、また、吸水性が低くなるため優れた耐湿性を発現する。
【0013】
上記多環式炭化水素骨格を主鎖に有するエポキシ樹脂は特に限定されず、例えば、ジシクロペンタジエンジオキシド、ジシクロペンタジエン骨格を有するフェノールノボラックエポキシ樹脂等のジシクロペンタジエン骨格を有するエポキシ樹脂(以下、ジシクロペンタジエン型エポキシ樹脂ともいう)、1−グリシジルナフタレン、2−グリシジルナフタレン、1,2−ジグリジジルナフタレン、1,5−ジグリシジルナフタレン、1,6−ジグリシジルナフタレン、1,7−ジグリシジルナフタレン、2,7−ジグリシジルナフタレン、トリグリシジルナフタレン、1,2,5,6−テトラグリシジルナフタレン等のナフタレン骨格を有するエポキシ樹脂(以下、ナフタレン型エポキシ樹脂ともいう)、テトラヒドロキシフェニルエタン型エポキシ樹脂、テトラキス(グリシジルオキシフェニル)エタン、3,4−エポキシ−6−メチルシクロヘキシルメチル−3,4−エポキシ−6−メチルシクロヘキサンカルボネート等が挙げられる。なかでも、ジシクロペンタジエン型エポキシ樹脂、ナフタレン型エポキシ樹脂が好ましい。
これらの多環式炭化水素骨格を主鎖に有するエポキシ樹脂は、単独で用いられてもよく、2種類以上が併用されてもよく、また、ビスフェノールA型エポキシ樹脂、ビスフェノールF型エポキシ樹脂等の汎用されるエポキシ樹脂と併用されてもよい。
【0014】
上記ナフタレン型エポキシ樹脂は、下記一般式(1)で表される構造を有する化合物を含有することが好ましい。下記一般式(1)で表される構造を有する化合物を含有することで、得られる熱硬化性樹脂組成物の硬化物の線膨張係数を下げることができ、硬化物の耐熱性及び接着性が向上して、より高い接続信頼性を実現することができる。
【0015】
【化1】

【0016】
一般式(1)中、R及びRは、それぞれ、水素原子、ハロゲン原子、アルキル基、アリール基又はフェニル基を表し、n及びmは、それぞれ、0又は1である。
【0017】
上記エポキシ樹脂が上記一般式(1)で表される構造を有する化合物を含有する場合、上記一般式(1)で表される構造を有する化合物の配合量は特に限定されないが、上記エポキシ樹脂中の好ましい下限が3重量%、好ましい上限が90重量%である。上記一般式(1)で表される構造を有する化合物の配合量が3重量%未満であると、熱硬化性樹脂組成物の硬化物の線膨張係数を下げる効果が充分に得られなかったり、接着力が低下したりすることがある。上記一般式(1)で表される構造を有する化合物の配合量が90重量%を超えると、該一般式(1)で表される構造を有する化合物と他の配合成分とが相分離し、得られる熱硬化性樹脂組成物を用いてフィルム等を作製する場合に、塗工性が低下したり接着剤層の吸水率が高くなったりすることがある。上記一般式(1)で表される構造を有する化合物の配合量は、上記エポキシ樹脂中のより好ましい下限が5重量%、より好ましい上限が80重量%である。
【0018】
本発明の熱硬化性樹脂組成物は、更に、高分子化合物を含有することが好ましい。上記高分子化合物を含有することで、得られる熱硬化性樹脂組成物に製膜性又は可撓性を付与することができ、接合信頼性に優れた熱硬化性樹脂組成物が得られる。
上記高分子化合物は特に限定されないが、エポキシ樹脂と反応する官能基を有する高分子化合物が好ましい。
上記エポキシ樹脂と反応する官能基を有する高分子化合物は特に限定されず、例えば、アミノ基、ウレタン基、イミド基、水酸基、カルボキシル基、エポキシ基等を有する高分子化合物が挙げられる。なかでも、エポキシ基を有する高分子化合物が好ましい。
【0019】
本発明の熱硬化性樹脂組成物が、上記多環式炭化水素骨格を主鎖に有するエポキシ樹脂と上記エポキシ基を有する高分子化合物とを含有する場合、熱硬化性樹脂組成物の硬化物は、上記多環式炭化水素骨格を主鎖に有するエポキシ樹脂に由来する優れた機械的強度、耐熱性及び耐湿性と、上記エポキシ基を有する高分子化合物に由来する優れた可撓性とを有し、耐冷熱サイクル性、耐ハンダリフロー性、寸法安定性等に優れ、高い接合信頼性及び導通信頼性を実現することができる。
【0020】
上記エポキシ基を有する高分子化合物は、末端及び/又は側鎖(ペンダント位)にエポキシ基を有する高分子化合物であれば特に限定されず、例えば、エポキシ基含有アクリルゴム、エポキシ基含有ブタジエンゴム、ビスフェノール型高分子量エポキシ樹脂、エポキシ基含有フェノキシ樹脂、エポキシ基含有アクリル樹脂、エポキシ基含有ウレタン樹脂、エポキシ基含有ポリエステル樹脂等が挙げられる。これらのエポキシ基を有する高分子化合物は、単独で用いられてもよく、2種以上が併用されてもよい。なかでも、エポキシ基を多く含み、得られる熱硬化性樹脂組成物の硬化物の機械的強度、耐熱性をより高められることから、エポキシ基含有アクリル樹脂が好ましい。
【0021】
上記高分子化合物は、上記エポキシ樹脂と反応する官能基に加えて、光硬化性官能基を有していてもよい。
上記高分子化合物が上記光硬化性官能基を有することで、得られる熱硬化性樹脂組成物に光硬化性を付与し、光照射によって半硬化することが可能となり、このような熱硬化性樹脂組成物から形成される接着剤層等の粘着力又は接着力を光照射によって制御することが可能となる。
上記光硬化性官能基は特に限定されず、例えば、アクリル基、メタクリル基等が挙げられる。
【0022】
上記高分子化合物の重量平均分子量は特に限定されないが、好ましい下限は1万、好ましい上限は100万である。上記高分子化合物の重量平均分子量が1万未満であると、得られる熱硬化性樹脂組成物の硬化物の接着力が不足したり、熱硬化性樹脂組成物をフィルム化する場合に、フィルム化が困難となったり、熱硬化性樹脂組成物の造膜性が不充分となって、硬化物の可撓性が充分に向上しなかったりすることがある。上記高分子化合物の重量平均分子量が100万を超えると、得られる熱硬化性樹脂組成物は、接着工程での表面濡れ姓が劣り、接着強度に劣ることがある。
【0023】
本発明の熱硬化性樹脂組成物が上記高分子化合物を含有する場合、上記高分子化合物の配合量は特に限定されないが、上記エポキシ樹脂100重量部に対する好ましい下限が20重量部、好ましい上限が100重量部である。上記高分子化合物の配合量が20重量部未満であると、得られる熱硬化性樹脂組成物の硬化物は、可撓性が低下し、高い接合信頼性及び導通信頼性が得られないことがある。上記高分子化合物の配合量が100重量部を超えると、得られる熱硬化性樹脂組成物の硬化物は、機械的強度、耐熱性及び耐湿性が低下し、高い接合信頼性及び導通信頼性が得られないことがある。
【0024】
本発明の熱硬化性樹脂組成物は、ビシクロ骨格を有する酸無水物を含有する。
本発明の熱硬化性樹脂組成物は、立体的に嵩高い上記ビシクロ骨格を有する酸無水物を含有するため、硬化反応の反応性が抑えられる。そのため、本発明の熱硬化性樹脂組成物は、後述するような常温で液状のイミダゾール硬化促進剤を含有していても優れた貯蔵安定性及び熱安定性を発現することができる。
また、上記ビシクロ骨格を有する酸無水物は上記エポキシ樹脂及び溶剤に対する溶解性が高く、均一に溶解することから、本発明の熱硬化性樹脂組成物は高い透明性を発現することができ、例えば、半導体チップをボンディングする際、カメラによるパターン又は位置表示の自動認識が容易となる。
更に、本発明の熱硬化性樹脂組成物は、上記ビシクロ骨格を有する酸無水物を含有することで、硬化物が優れた機械的強度、耐熱性、電気特性等を発現することができる。
【0025】
上記ビシクロ骨格を有する酸無水物は特に限定されないが、下記一般式(a)で表される構造を有する化合物が好ましい。
【0026】
【化2】

【0027】
一般式(a)中、Xは単結合又は二重結合の連結基を表し、Rはメチレン基又はエチレン基を表し、R及びRは水素原子、ハロゲン基、アルコキシ基又は炭化水素基を表す。
【0028】
上記一般式(a)で表される構造を有する化合物として、具体的には、例えば、ナジック酸無水物、メチルナジック酸無水物等が挙げられる。これらは単独で用いられてもよく、2種以上が併用されてもよい。
【0029】
上記ビシクロ骨格を有する酸無水物の市販品は特に限定されず、例えば、YH−307及びYH−309(ジャパンエポキシレジン社製)、リカシッドHNA−100(新日本理化社製)等が挙げられる。これらは単独で用いられてもよく、2種以上が併用されてもよい。
【0030】
上記ビシクロ骨格を有する酸無水物の配合量は特に限定されないが、本発明の熱硬化性樹脂組成物中に含まれるエポキシ基の総量に対して理論的に必要とされる当量に対して、好ましい下限が60%、好ましい上限が110%である。上記ビシクロ骨格を有する酸無水物の配合量が上記理論的に必要とされる当量に対して60%未満であると、得られる熱硬化性樹脂組成物は、充分に硬化しなかったり、硬化物の機械的強度、耐熱性、電気特性等が低下したりすることがある。上記ビシクロ骨格を有する酸無水物の配合量は、上記理論的に必要とされる当量に対して110%を超えても特に硬化性に寄与しない。上記ビシクロ骨格を有する酸無水物の配合量は、本発明の熱硬化性樹脂組成物中に含まれるエポキシ基の総量に対して理論的に必要とされる当量に対して、より好ましい下限が70%、より好ましい上限が100%である。
【0031】
本発明の熱硬化性樹脂組成物は、常温で液状のイミダゾール硬化促進剤を含有する。
本明細書中、常温で液状であるとは、10〜30℃における少なくとも一部の温度領域において、液体状態であることを意味する。
【0032】
一般に、イミダゾール硬化促進剤を配合することで、得られる熱硬化性樹脂組成物を比較的低温で短時間に熱硬化させることができるが、イミダゾール硬化促進剤の多くは常温で固体であり、微小に粉砕されて配合されることから、透明性低下の原因となっている。これに対し、上記常温で液状のイミダゾール硬化促進剤を含有することで、本発明の熱硬化性樹脂組成物は高い透明性を発現することができ、例えば、半導体チップをボンディングする際、カメラによるパターン又は位置表示の自動認識が容易となる。
また、上記常温で液状のイミダゾール硬化促進剤は均一に分子レベルで分散することができるため、本発明の熱硬化性樹脂組成物は、半導体チップをボンディングする際には局所的な発熱を避けることができ、ボイドの発生を抑制することができる。
また、上記常温で液状のイミダゾール硬化促進剤は、立体的に嵩高い上述のようなビシクロ骨格を有する酸無水物と併用して使用されるため、本発明の熱硬化性樹脂組成物は、上記常温で液状のイミダゾール硬化促進剤を含有していても優れた貯蔵安定性及び熱安定性を発現することができる。
更に、上記常温で液状のイミダゾール硬化促進剤を用いることで、イミダゾール硬化促進剤を微小に粉砕する必要がなく、また、濾過する際のフィルターの詰まりも抑制され、本発明の熱硬化性樹脂組成物はより容易に製造される。
【0033】
上記常温で液状のイミダゾール硬化促進剤は、常温で液状であれば特に限定されず、単一化合物であってもよく、組成物であってもよい。また、上記常温で液状のイミダゾール硬化促進剤が組成物である場合には、常温で液状のイミダゾール化合物を他の1つ以上の化合物と混合して得られた組成物であってもよく、常温で固体のイミダゾール化合物を他の1つ以上の化合物と混合することにより液状にした組成物であってもよい。
【0034】
上記常温で液状のイミダゾール硬化促進剤が単一化合物である場合、上記常温で液状のイミダゾール硬化促進剤として、例えば、2−エチル−4−メチルイミダゾール、1―メチルイミダゾール、1−シアノエチル−2−エチル−4−メチルイミダゾ−ル、1−ベンジル−2−メチルイミダゾ−ル、1−シアノエチル−2−メチルイミダゾ−ル、1−ベンジル−2−エチルイミダゾ−ル、1−ベンジル−2−フェニルイミダゾ−ル、1−シアノエチル−2−フェニル−4,5−ジ−(シアノエトキシメチル)イミダゾ−ル、1,8−ジアザビシクロ(5.4.0)ウンデセン−7等のイミダゾール化合物、及び、これらの誘導体等が挙げられる。
上記誘導体は特に限定されず、例えば、カルボン酸塩、イソシアヌル酸塩、リン酸塩、亜リン酸塩、ホスホン酸塩等の塩、エポキシ化合物との付加物等が挙げられる。
これらは単独で用いられてもよく、2種以上が併用されてもよい。
【0035】
上記常温で液状のイミダゾール硬化促進剤が組成物である場合、上記常温で液状のイミダゾール硬化促進剤は、常温で液状又は常温で固体のイミダゾール化合物と、亜リン酸化合物とを含有することが好ましい。
この場合、上記常温で液状又は常温で固体のイミダゾール化合物中のイミダゾール基が上記亜リン酸化合物中の水酸基によって安定化されるため、上記常温で液状のイミダゾール硬化促進剤は安定性及び硬化性に優れ、その結果、得られる熱硬化性樹脂組成物は、貯蔵安定性及び熱安定性に更に優れ、半導体チップをボンディングする際には、より充分に、局所的な発熱を避けてボイドの発生を抑制することができる。
【0036】
上記常温で液状又は常温で固体のイミダゾール化合物として、例えば、イミダゾール、2−メチルイミダゾール、2−ウンデシルイミダゾール、2−ヘプタデシルイミダゾール、1,2−ジメチルイミダゾール、2−エチル−4−メチルイミダゾール、2−フェニルイミダゾール、2−フェニル−4−メチルイミダゾール、1−ベンジル−2−メチルイミダゾール、1−ベンジル−2−フェニルイミダゾール、1−シアノエチル−2−メチルイミダゾール、1−シアノエチル−2−ウンデシルイミダゾール、1−シアノエチル−2−エチル−4−メチルイミダゾール、1−シアノエチル−2−フェニルイミダゾール、1−アミノメチル−2−メチルイミダゾール等が挙げられる。これらは単独で用いられてもよく、2種以上が併用されてもよい。
【0037】
上記亜リン酸化合物として、例えば、亜リン酸、亜リン酸モノエステル、亜リン酸ジエステル等が挙げられる。
上記亜リン酸モノエステルとして、例えば、亜リン酸モノメチル、亜リン酸モノエチル、亜リン酸モノブチル、亜リン酸モノラウリル、亜リン酸モノオレイル、亜リン酸モノフェニル、亜リン酸モノナフチル等が挙げられる。上記亜リン酸ジエステルとして、例えば、亜リン酸ジメチル、亜リン酸ジエチル、亜リン酸ジブチル、亜リン酸ジラウリル、亜リン酸ジオレイル、亜リン酸ジフェニル、亜リン酸ジナフチル、亜リン酸ジ−o−トリル、亜リン酸ジ−m−トリル、亜リン酸ジ−p−トリル、亜リン酸ジ−p−クロロフェニル、亜リン酸ジ−p−ブロモフェニル、亜リン酸ジ−p−フルオロフェニル等が挙げられる。
これらは単独で用いられてもよく、2種以上が併用されてもよい。
【0038】
上記常温で液状又は常温で固体のイミダゾール化合物と、上記亜リン酸化合物との配合比率は特に限定されないが、上記常温で液状又は常温で固体のイミダゾール化合物中のイミダゾール基に対する上記亜リン酸化合物中の水酸基のモル比は、好ましい下限が0.05、好ましい上限が3.3である。上記モル比が0.05未満であると、上記亜リン酸化合物中の水酸基によりイミダゾール基を安定化させることが困難になり、熱硬化性樹脂組成物の貯蔵安定性又は熱安定性が損なわれることがある。上記モル比が3.3を超えると、上記常温で液状のイミダゾール硬化促進剤の硬化性が低下することがある。上記常温で液状又は常温で固体のイミダゾール化合物中のイミダゾール基に対する上記亜リン酸化合物中の水酸基のモル比のより好ましい下限は0.07、より好ましい上限は3.2である。
【0039】
上記常温で液状のイミダゾール硬化促進剤の市販品は特に限定されず、例えば、2E4MZ、1B2MZ、1B2PZ、2MZ−CN、2E4MZ−CN、2PHZ−CN、1M2EZ、1B2EZ(以上、四国化成社製)、EMI24(ジャパンエポキシレジン社製)、フジキュアー7000(富士化成社製)等が挙げられる。なかでも、フジキュアー7000(富士化成社製)が好ましい。これらは単独で用いられてもよく、2種以上が併用されてもよい。
【0040】
上記常温で液状のイミダゾール硬化促進剤の配合量は特に限定されないが、上記ビシクロ骨格を有する酸無水物100重量部に対する好ましい下限が5重量部、好ましい上限が50重量部である。上記常温で液状のイミダゾール硬化促進剤の配合量が5重量部未満であると、得られる熱硬化性樹脂組成物は、熱硬化するために高温で長時間の加熱を必要とすることがある。上記常温で液状のイミダゾール硬化促進剤の配合量が50重量部を超えると、得られる熱硬化性樹脂組成物は、貯蔵安定性及び熱安定性が低下することがある。
上記常温で液状のイミダゾール硬化促進剤の配合量は、上記ビシクロ骨格を有する酸無水物100重量部に対するより好ましい下限が10重量部、より好ましい上限が30重量部である。
【0041】
本発明の熱硬化性樹脂組成物は、必要に応じて、無機フィラーを含有してもよい。
上記無機フィラーを用いることで、硬化物の機械的強度及び耐熱性を高めることができ、また、得られる熱硬化性樹脂組成物の線膨張率を低下させて、高い接合信頼性を実現することができる。
上記無機フィラーは特に限定されず、例えば、シリカ、アルミナ、窒化アルミニウム、窒化ホウ素、窒化珪素、炭化珪素、酸化マグネシウム、酸化亜鉛等が挙げられる。
【0042】
上記無機フィラーは、得られる熱硬化性樹脂組成物の透明性を維持する観点から、上記エポキシ樹脂との屈折率差が0.1以下であることが好ましい。
このような無機フィラーとして、例えば、チタン、アルミニウム、カルシウム、ホウ素、マグネシウム及びジルコニアの酸化物、並びに、これらの複合物等が挙げられ、より具体的には、例えば、ケイ素−アルミニウム−ホウ素複合酸化物、ケイ素−チタン複合酸化物、シリカ−チタニア複合酸化物等が挙げられる。
【0043】
上記無機フィラーと上記エポキシ樹脂との屈折率差が0.1を超える場合には、得られる熱硬化性樹脂組成物の透明性を維持する観点から、上記無機フィラーは、平均粒子径が0.3μm未満であることが好ましい。
更に、得られる熱硬化性樹脂組成物の接合信頼性と透明性とを両立する観点から、本発明の効果を損なわない範囲内で、粒子径の異なる無機フィラーが複数種類併用されてもよい。このような無機フィラーとして、特に、表面を疎水化処理した球状シリカが好ましい。
【0044】
上記無機フィラーの平均粒子径の上限は特に限定されないが、好ましい上限は10μmである。上記無機フィラーの平均粒子径が10μmを超えると、得られる熱硬化性樹脂組成物の透明性が低下し、半導体チップをボンディングする際、カメラによるパターン又は位置表示の自動認識が困難となることがある。また、上記無機フィラーの平均粒子径が10μmを超えると、無機フィラーの平均粒子径が大きいために電極接合不良が生じることがある。
上記無機フィラーの平均粒子径は、より好ましい上限が5μmである。
【0045】
本発明の熱硬化性樹脂組成物が上記無機フィラーを含有する場合、上記無機フィラーの配合量は特に限定されないが、本発明の熱硬化性樹脂組成物中の好ましい上限が70重量%である。上記無機フィラーの含有量が70重量%を超えると、得られる熱硬化性樹脂組成物の硬化物は、弾性率が上昇するため熱応力を緩和することができず、高い接合信頼性を実現できないことがある。上記無機フィラーの含有量は、本発明の熱硬化性樹脂組成物中のより好ましい上限が60重量%である。
【0046】
本発明の熱硬化性樹脂組成物は、更に、必要に応じて、アクリル樹脂、ポリイミド、ポリアミド、フェノキシ樹脂等の一般的な樹脂を含有してもよく、シランカップリング剤、チタンカップリング剤、増粘剤、消泡剤等の添加剤を含有してもよい。また、本発明の熱硬化性樹脂組成物に光硬化性を付与する場合には、例えば、多官能(メタ)アクリレート化合物、光開始剤等を含有してもよい。
【0047】
本発明の熱硬化性樹脂組成物を製造する方法は特に限定されず、例えば、上記エポキシ樹脂、上記ビシクロ骨格を有する酸無水物、上記常温で液状のイミダゾール硬化促進剤及び必要に応じて添加される各材料を、ホモディスパー等を用いて攪拌混合する方法が挙げられる。なお、上記常温で液状のイミダゾール硬化促進剤が常温で液状のイミダゾール化合物と亜リン酸化合物とを含有する場合には、予めこれらを混合して得られた組成物を配合してもよいし、これらを別々に配合してもよい。
【0048】
本発明の熱硬化性樹脂組成物は、硬化物の耐熱性及び機械強度、更に、フリップチップ実装用接着剤として用いられる場合の接合信頼性等の観点から、硬化後のガラス転移温度が高いほど好ましい。ガラス転移温度が高いほど、硬化物は広範囲の温度領域においてガラス状態が維持され、高弾性率かつ低線膨張率、低吸水率となるため、フリップチップ実装用接着剤として用いられる場合に高い接合信頼性を発現することができる。
本発明の熱硬化性樹脂組成物のガラス転移温度は特に限定されないが、充分に接合信頼性の高い実装体を得るためには、175℃以上であることが好ましい。
【0049】
本発明の熱硬化性樹脂組成物の用途は特に限定されないが、半導体チップを基板又は他の半導体チップにボンディングする際に用いられる半導体接合用接着剤に用いられることが好ましい。なかでも、本発明の熱硬化性樹脂組成物は、表面に電極として複数の突起(バンプ)を有するフリップチップを実装するためのフリップチップ実装用接着剤、アンダーフィル材等に用いられることが更に好ましい。特に、本発明の熱硬化性樹脂組成物は、ウエハ又は半導体チップに先塗布するタイプ、いわゆる先塗布型のフリップチップ実装用接着剤に用いられることが好ましい。
【0050】
先塗布型のフリップチップ実装においては、ウエハ又は半導体チップ表面のパターン又は位置表示及び突起電極が接着剤層に覆われてしまい、これらを直接観察できない。このため、接着剤には高い透明性が必要とされる。また、先塗布型のフリップチップ実装においては、ウエハ又は半導体チップと対向基板との間に予め接着剤層が存在する状態でボンディングされるため、ボンディングした後に供給される後入れタイプのアンダーフィル材に比べ、一旦ボイドが発生すると排除されにくい。更に、先塗布型のフリップチップ実装においては、接着剤の供給からボンディングまでの間に長時間がかかる。このため、接着剤には常温又は高温での長時間の安定性が必要とされる。
本発明の熱硬化性樹脂組成物は、高い透明性を維持するとともに、半導体チップをボンディングする際にはボイドの発生を抑制しながら、貯蔵安定性及び熱安定性にも優れるという利点を有する。このため、本発明の熱硬化性樹脂組成物は、フリップチップ実装用接着剤に用いられる場合に、特にその利点を発揮できる。
【0051】
なお、上述のような半導体接合用接着剤及びフリップチップ実装用接着剤は、ペースト状(非導電性ペースト、NCP)であってもよく、シート状又はフィルム状(非導電性フィルム、NCF)であってもよい。
【0052】
また、本発明の熱硬化性樹脂組成物は、バックグラインドテープ機能を備えた非導電性フィルム(BG−NCF)等に用いられることも好ましい。
なお、本明細書中、バックグラインドテープ機能を備えた非導電性フィルム(BG−NCF)とは、少なくとも基材フィルムと接着剤層とを有するフィルムであって、表面に電極として複数の突起(バンプ)を有するウエハに貼付されてバックグラインドテープとして用いられ、その後、基材フィルムだけが剥離され、ウエハ上に残った接着剤層は半導体チップを基板又は他の半導体チップにボンディングする際に用いられるフィルムをいう。
【0053】
本発明の熱硬化性樹脂組成物をBG−NCFに用いる場合には、本発明の熱硬化性樹脂組成物から形成される接着剤層が付着したウエハをダイシングする工程が行われ、このとき、ダイシングする箇所を示すウエハ表面の切断線の認識もまた、パターン又は位置表示と同様に接着剤層の上からカメラにより行われる。従って、本発明の熱硬化性樹脂組成物から形成される接着剤層は透明性が高いことから、ウエハをダイジングする際のカメラによる切断線の自動認識もまた容易となり、半導体装置の生産性を向上させることができる。
【0054】
本発明の熱硬化性樹脂組成物は、ヘイズ値が70%以下であることが好ましい。上記ヘイズ値が70%を超えると、熱硬化性樹脂組成物の透明性が低下して、半導体チップをボンディングする際、カメラによるパターン又は位置表示の自動認識が困難となり、また、ウエハをダイシングする際、カメラによる切断線の自動認識が困難となり、半導体装置の生産性が低下することがある。本発明の熱硬化性樹脂組成物は、ヘイズ値が65%以下であることがより好ましい。
なお、本明細書中、ヘイズ値とは、熱硬化性樹脂組成物から形成される厚み40μmの接着剤層の両面を、2枚の厚み25μmのPETフィルム間に挟み込んで得られた接着フィルムを、村上色彩技術研究所社製「HM−150」等のヘーズメータを用いて測定したヘイズ値(%)を意味する。
【0055】
本発明の熱硬化性樹脂組成物を含有するフリップチップ実装用接着剤もまた、本発明の1つである。なお、本発明のフリップチップ実装用接着剤は、ペースト状であってもよく、シート状又はフィルム状であってもよい。
本発明のフリップチップ実装用接着剤は、高い透明性を維持するとともに半導体チップをボンディングする際にはボイドの発生を抑制しながら、貯蔵安定性及び熱安定性にも優れることから、例えば、表面に突起電極を有するウエハの突起電極を有する面に接着剤層を設けた後に、個別の半導体チップに分割する半導体装置の製造方法に用いられることが好ましい。
【0056】
本発明のフリップチップ実装用接着剤を用いる半導体装置の製造方法であって、表面に突起電極を有するウエハの突起電極を有する面に、本発明のフリップチップ実装用接着剤を供給して接着剤層を設ける工程と、前記ウエハを前記接着剤層ごとダイシングして、前記接着剤層を有する半導体チップに分割する工程と、前記接着剤層を有する半導体チップを、前記接着剤層を介して基板又は他の半導体チップに熱圧着により実装する工程とを有する半導体装置の製造方法もまた、本発明の1つである。
【0057】
本発明の半導体装置の製造方法では、まず、表面に突起電極を有するウエハの突起電極を有する面に、本発明のフリップチップ実装用接着剤を供給して接着剤層を設ける工程を行う。
上記工程では、上記ウエハの突起電極を有する面に、ペースト状のフリップチップ実装用接着剤を塗布してもよく、シート状又はフィルム状のフリップチップ実装用接着剤を熱ラミネート等によって貼り付けてもよい。
【0058】
上記ペースト状のフリップチップ実装用接着剤を塗布する方法は特に限定されず、例えば、溶剤としてプロピレングリコールメチルエーテルアセテート等の120〜250℃程度の沸点を有する中沸点溶剤又は高沸点溶剤を用いて、ペースト状のフリップチップ実装用接着剤を溶解して接着剤溶液を調製した後、得られた接着剤溶液を、スピンコーター、スクリーン印刷等を使用して上記ウエハの突起電極を有する面に直接印刷し、溶剤を乾燥する方法等が挙げられる。
また、上記ペースト状のフリップチップ実装用接着剤を塗布する方法として、例えば、溶剤を含有しないペースト状のフリップチップ実装用接着剤を、上記ウエハの突起電極を有する面に塗布した後、Bステージ化剤又は露光によってフィルム化する方法等も挙げられる。
【0059】
本発明の半導体装置の製造方法では、次いで、上記ウエハを裏面から研削して薄化する工程を行ってもよい。
上記接着剤層を設けた後に研削を行うことにより、上記ウエハは上記接着剤層で補強されるため薄片化しても割れにくくなり、また、上記接着剤層により突起電極を保護することができる。
【0060】
本発明の半導体装置の製造方法では、次いで、上記ウエハを上記接着剤層ごとダイシングして、上記接着剤層を有する半導体チップに分割する工程を行う。
上記工程において、ダイシングする箇所を示すウエハ表面の切断線の認識は、パターン又は位置表示と同様に接着剤層の上からカメラにより行われる。従って、上記工程では、本発明のフリップチップ実装用接着剤が高い透明性を発現できることから、カメラによる切断線の自動認識が容易となる。
【0061】
本発明の半導体装置の製造方法では、更に、上記接着剤層を有する半導体チップを、上記接着剤層を介して基板又は他の半導体チップに熱圧着により実装する工程を行う。
上記工程では、本発明のフリップチップ実装用接着剤が高い透明性を発現できることから、カメラによるパターン又は位置表示の自動認識が容易となる。
また、上記工程では、既に半導体チップ表面に接着剤層が一体化しているために一旦ボイドが発生すると排除されにくいが、本発明のフリップチップ実装用接着剤を用いることにより、局所的な発熱を避けることができ、ボイドの発生を抑制することができる。
【0062】
本発明の半導体装置の製造方法では、上述のように、接着剤の供給からボンディングまでの間に長時間がかかり、また、上記接着剤層には、ダイシング時の発熱等の様々な熱履歴がかかる。従って、本発明の半導体装置の製造方法では、常温又は高温での長時間での安定性に優れた接着剤を用いる必要があるが、貯蔵安定性及び熱安定性に優れた本発明のフリップチップ実装用接着剤を用いることにより、良好に半導体装置の製造を行うことができる。
本発明の半導体装置の製造方法により製造される半導体装置もまた、本発明の1つである。
【発明の効果】
【0063】
本発明によれば、製造が容易であり、高い透明性を維持するとともに半導体チップをボンディングする際にはボイドの発生を抑制しながら、貯蔵安定性及び熱安定性にも優れ、更に、耐熱性に優れた硬化物を得ることができる熱硬化性樹脂組成物を提供することができる。また、本発明によれば、該熱硬化性樹脂組成物を含有するフリップチップ実装用接着剤、該フリップチップ実装用接着剤を用いる半導体装置の製造方法、及び、該半導体装置の製造方法を用いて製造される半導体装置を提供することができる。
【発明を実施するための形態】
【0064】
以下に実施例を掲げて本発明の態様を更に詳しく説明するが、本発明はこれら実施例のみに限定されない。
【0065】
(実施例1〜11、比較例1〜10)
(1)接着フィルムの製造
表1又は2に示す組成に従って下記に示す材料を固形分濃度50重量%となるようにメチルエチルケトンに加え、ホモディスパーを用いて攪拌混合して、熱硬化性樹脂組成物の配合液を調製した。
【0066】
(エポキシ樹脂)
・HP−7200HH(ジシクロペンタジエン型エポキシ樹脂、DIC社製)
・HP−7200(ジシクロペンタジエン型エポキシ樹脂、DIC社製)
・EXA−4710(ナフタレン型エポキシ樹脂、DIC社製)
・EXA−4816(脂肪鎖変性エポキシ樹脂、DIC社製)
・EXA−850CRP(ビスフェノールA型エポキシ樹脂、DIC社製)
【0067】
(エポキシ基含有アクリル樹脂)
・SK−2−78(2−エチルヘキシルアクリレートと、イソボルニルアクリレートと、ヒドロキシエチルアクリレートと、グリシジルメタクリレートとの共重合体に2−メタクリロイルオキシエチルイソシアネートを付加させたもの、分子量52万、二重結合当量0.9meq/g、エポキシ当量1650、新中村化学社製)
・G−2050M(グリシジル基含有アクリル樹脂、重量平均分子量20万、エポキシ当量340、日油社製)
・G−017581(グリシジル基含有アクリル樹脂、重量平均分子量1万、エポキシ当量240、日油社製)
【0068】
(酸無水物)
・YH−306(ビシクロ骨格をもたない酸無水物、三菱化学社製)
・リカシッドDDSA(ビシクロ骨格をもたない酸無水物、新日本理化社製)
・BTDA(ビシクロ骨格をもたない酸無水物、ダイセル化学工業社製)
・YH−309(ビシクロ骨格を有する酸無水物、三菱化学社製)
・リカシッドHNA−100(ビシクロ骨格を有する酸無水物、新日本理化社製)
【0069】
(イミダゾール硬化促進剤)
・2MA−OK(常温で固体、四国化成社製)
・2P4MZ(常温で固体、四国化成社製)
・2MZ−CN(常温で固体、四国化成社製)
・C11Z−CN(常温で固体、四国化成社製)
・2PZ−CN(常温で固体、四国化成社製)
・フジキュアー7000(常温で液状、富士化成社製)
・2E4MZ−CN(常温で液状、四国化成社製)
・イミダゾール硬化促進剤A(常温で液状、2−エチル−4−メチルイミダゾールと亜リン酸ジラウリルとをモル比1:1で含有する組成物)
・イミダゾール硬化促進剤B(常温で液状、2E4MZ−CNと亜リン酸ジラウリルとをモル比1:1で含有する組成物)
【0070】
(その他)
・MT−10(フュームドシリカ、トクヤマ社製)
・SE−1050−SPT(フェニルトリメトキシシラン表面処理球状シリカ、平均粒子径0.3μm、アドマテックス社製)
・SX009−MJF(フェニルトリメトキシシラン表面処理球状シリカ、平均粒子径0.5μm、アドマテックス社製)
・AC4030(応力緩和ゴム系高分子、ガンツ化成社製)
・J−5800(コアシェル型応力緩和剤、三菱レイヨン社製)
【0071】
得られた熱硬化性樹脂組成物の配合液を、5μmメッシュで遠心濾過した後、離型処理したPETフィルム上にアプリケーター(テスター産業社製)を用いて塗工し、100℃5分で乾燥させて、厚み40μmの接着フィルムを得た。
【0072】
(2)半導体チップの実装
表面に正方形の銅バンプ(高さ40μm、幅100μm×100μm)が400μmピッチで多数形成されているシリコンウエハ(直径20cm、厚み700μm)を用意した。真空ラミネーターを用いて、真空下(1torr)、70℃でシリコンウエハの銅バンプを有する面に接着フィルムを貼り付けた。
次いで、接着フィルムが貼り付けられたシリコンウエハを研磨装置に取りつけ、シリコンウエハの厚さが約100μmになるまで裏面から研磨した。このとき、研磨の摩擦熱によりシリコンウエハの温度が上昇しないように、シリコンウエハに水を散布しながら作業を行った。研磨後はアルカリのシリカ分散水溶液を用いたCMP(Chemical Mechanical Polishing)プロセスにより鏡面化加工を行った。
【0073】
接着フィルムが貼り付けられた研磨済みのシリコンウエハを研磨装置から取り外し、接着フィルムが貼り付けられていない側の面にダイシングテープ「PEテープ♯6318−B」(積水化学社製、厚み70μm、基材ポリエチレン、粘着材ゴム系粘着材10μm)を貼り付け、ダイシングフレームにマウントした。接着フィルムの接着剤層からPETフィルムを剥離して、接着剤層が設けられた研磨済みのシリコンウエハを得た。ダイシング装置「DFD651」(DISCO社製)を用いて、送り速度50mm/秒で、接着剤層が設けられたシリコンウエハを接着剤層ごと10mm×10mmのチップサイズにダイシングして、接着剤層を有する半導体チップに分割した。
得られた接着剤層を有する半導体チップを、自動ボンディング装置(東レエンジニアリング社製、FC3000S)を用いて荷重0.15MPa、温度280℃で10秒間、基板上に熱圧着し、次いで、190℃で30分間かけて接着剤層を硬化させ、半導体チップ実装体を得た。
【0074】
(評価)
実施例、比較例で得られた熱硬化性樹脂組成物の配合液、接着フィルム及び半導体チップ実装体について、以下の評価を行った。結果を表1及び2に示す。
【0075】
(1)製造性
得られた熱硬化性樹脂組成物の配合液を5μmメッシュで遠心濾過した後、メッシュ上に残った残留物を乾燥させ、乾燥重量を測定した。
遠心濾過前の配合液の固形分重量に対し、残留物の乾燥重量が5%未満であった場合を○、5%以上10%未満であった場合を△、10%以上であった場合を×として評価した。
なお、本評価において製造性が×であった実施例又は比較例については、(2)以降の評価は行わなかった。
【0076】
(2)貯蔵安定性
貯蔵安定性は、下記手順にて初期のゲル分率(重量%)及び室温で2週間保管した後のゲル分率(重量%)を測定することにより評価を行った。
接着フィルムから50mm×100mmの平面長方形状の試験片を切り出し、重量を測定した。この試験片を酢酸エチル中に投入し、室温で24時間浸漬した後、試験片を酢酸エチルから取り出して、110℃の条件下で1時間乾燥させた。乾燥後の試験片の重量を測定し、下記式(1)を用いてゲル分率(重量%)を算出した。
ゲル分率(重量%)=W2/W1×100 (1)
式(1)中、W1は浸漬前の試験片の重量を表し、W2は浸漬、乾燥後の試験片の重量を表す。
【0077】
室温で2週間保管する前後でのゲル分率を測定し、下記式(2)を用いてゲル分率上昇率(重量%)を算出した。
ゲル分率上昇率(重量%)
=(室温で2週間保管した後のゲル分率)−(初期のゲル分率) (2)
ゲル分率上昇率(重量%)が10重量%未満であった場合を○、10重量%以上20重量%未満であった場合を△、20重量%以上であった場合を×として評価した。
【0078】
(3)熱安定性
得られた接着フィルムを一部採取し、測定装置「DSC6220」(Seiko Instruments社製)を用いて、30〜300℃(5℃/min)、N=50ml/minの測定条件でDSC測定を行った。
発熱ピークの立ち上がりを観測し、発熱開始温度が100℃以上であった場合を○、100℃未満であった場合を×として評価した。
【0079】
(4)透明性
(4−1)ヘイズ値
得られた厚み40μmの接着フィルムの両面を、2枚の厚み25μmのPETフィルム間に挟み込んで試片を得た。得られた試片について、ヘーズメータ(HM−150、村上色彩技術研究所社製)を用いてヘイズ値(%)を測定した。
【0080】
(4−2)アライメントマーク(位置表示)自動認識
接着剤層を有する半導体チップを自動ボンディング装置を用いて基板上に熱圧着する際、10個の半導体チップのうち、半導体チップ上のアライメントマーク(位置表示)が自動認識可能であった半導体チップの数が10個であった場合を○、7〜9個であった場合を△、6個以下であった場合を×として評価した。
【0081】
(5)耐熱性
得られた接着フィルムを、オーブン中、190℃1時間で硬化してテストサンプルを得た。得られたテストサンプルについて、動的粘弾性測定装置(DVA−200、アイティー計測制御社製)を用いて引張りモード、チャック間距離30mm、昇温速度5℃/分、測定周波数10Hzの条件で動的粘弾性測定を行い、tanδの最大ピーク温度をガラス転移温度(Tg)とした。なお、一般的に、Tgが高いほど耐熱性が高いとみなすことができる。
【0082】
(6)ボイド
得られた半導体チップ実装体を、超音波探傷装置(SAT)を用いて観察した。
半導体チップ面積に対するボイド発生部分の面積が5%未満であった場合を○、5%以上10%未満であった場合を△、10%以上であった場合を×として評価した。
【0083】
【表1】

【0084】
【表2】

【産業上の利用可能性】
【0085】
本発明によれば、製造が容易であり、高い透明性を維持するとともに半導体チップをボンディングする際にはボイドの発生を抑制しながら、貯蔵安定性及び熱安定性にも優れ、更に、耐熱性に優れた硬化物を得ることができる熱硬化性樹脂組成物を提供することができる。また、本発明によれば、該熱硬化性樹脂組成物を含有するフリップチップ実装用接着剤、該フリップチップ実装用接着剤を用いる半導体装置の製造方法、及び、該半導体装置の製造方法を用いて製造される半導体装置を提供することができる。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
エポキシ樹脂と、ビシクロ骨格を有する酸無水物と、常温で液状のイミダゾール硬化促進剤とを含有することを特徴とする熱硬化性樹脂組成物。
【請求項2】
常温で液状のイミダゾール硬化促進剤は、常温で液状又は常温で固体のイミダゾール化合物と、亜リン酸化合物とを含有することを特徴とする請求項1記載の熱硬化性樹脂組成物。
【請求項3】
ビシクロ骨格を有する酸無水物は、下記一般式(a)で表される構造を有する化合物であることを特徴とする請求項1又は2記載の熱硬化性樹脂組成物。
【化1】

一般式(a)中、Xは単結合又は二重結合の連結基を表し、Rはメチレン基又はエチレン基を表し、R及びRは水素原子、ハロゲン基、アルコキシ基又は炭化水素基を表す。
【請求項4】
エポキシ樹脂は、多環式炭化水素骨格を主鎖に有するエポキシ樹脂を含有することを特徴とする請求項1、2又は3記載の熱硬化性樹脂組成物。
【請求項5】
請求項1、2、3又は4記載の熱硬化性樹脂組成物を含有することを特徴とするフリップチップ実装用接着剤。
【請求項6】
請求項5記載のフリップチップ実装用接着剤を用いる半導体装置の製造方法であって、
表面に突起電極を有するウエハの突起電極を有する面に、前記フリップチップ実装用接着剤を供給して接着剤層を設ける工程と、
前記ウエハを前記接着剤層ごとダイシングして、前記接着剤層を有する半導体チップに分割する工程と、
前記接着剤層を有する半導体チップを、前記接着剤層を介して基板又は他の半導体チップに熱圧着により実装する工程とを有する
ことを特徴とする半導体装置の製造方法。
【請求項7】
表面に突起電極を有するウエハの突起電極を有する面に、フリップチップ実装用接着剤を供給して接着剤層を設ける工程の後、更に、前記ウエハを裏面から研削して薄化する工程を有することを特徴とする請求項6記載の半導体装置の製造方法。
【請求項8】
請求項6又は7記載の半導体装置の製造方法を用いて製造されることを特徴とする半導体装置。

【公開番号】特開2012−167278(P2012−167278A)
【公開日】平成24年9月6日(2012.9.6)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2012−68147(P2012−68147)
【出願日】平成24年3月23日(2012.3.23)
【分割の表示】特願2011−504075(P2011−504075)の分割
【原出願日】平成23年1月19日(2011.1.19)
【出願人】(000002174)積水化学工業株式会社 (5,781)
【Fターム(参考)】