説明

燃料噴射制御装置

【課題】減圧弁を備える燃料噴射装置を操作することで燃料噴射制御を行なう燃料噴射制御装置にあって、減圧弁の異常の有無の診断を適切に行なうことのできる燃料噴射制御装置を提供する。
【解決手段】イグニッションスイッチがオフされた後(ステップS10;YES)、減圧弁を開操作したときのコモンレール内の燃圧の挙動に基づき、減圧弁の異常の有無の仮の診断がなされる(ステップS14)。その後、所定期間の経過後に、燃圧センサによって検出される燃圧が大気圧近傍となると判断されると(ステップS28;YES)、燃圧センサが正常であると判断される(ステップS30)。そして、これにより、減圧弁の仮の診断結果が、最終的な診断結果として確定される(ステップS34)。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、燃料を高圧状態で蓄える蓄圧室と、該蓄圧室に燃料を加圧供給する燃料ポンプと、前記蓄圧室に蓄えられた燃料を噴射する燃料噴射弁と、前記蓄圧室内の燃料を燃料タンクへと流出させる減圧弁とを備える車載内燃機関の燃料噴射装置について、該噴射装置を操作することで燃料噴射制御を行なう燃料噴射制御装置に関する。
【背景技術】
【0002】
ディーゼル機関の各気筒の燃料噴射弁に高圧の燃料を供給する共通の蓄圧室(コモンレール)を備える燃料噴射装置が周知である。このコモンレール式のディーゼル機関によれば、機関運転状態に応じて、コモンレール内の燃圧を自由に制御することができ、ひいては燃料噴射弁に供給される燃料の圧力を自由に制御することができる。
【0003】
具体的には、通常、アクセルペダルの操作量と燃料噴射弁に対する指令噴射量とに基づき、コモンレール内の燃圧として適切な値が目標値(目標燃圧)として設定される。そして、検出される燃圧が目標燃圧に追従するようにフィードバック制御がなされる。
【0004】
ところで、アクセルペダルが踏み込まれる加速要求時から、アクセルペダルが解放される減速要求時へと移行する際等には、上記態様にて設定される目標燃圧が急激に低下することとなる。このため、検出される燃圧が目標燃圧を大きく上回る状況が生じ得る。
【0005】
そこで従来は、下記特許文献1に見られるように、コモンレール内の燃料を燃料タンクへと流出させる減圧弁を、燃料噴射装置に設けることも提案されている。これにより、コモンレール内の燃圧が目標燃圧を過度に上回ることを回避することができる。
【0006】
ただし、減圧弁を設ける場合には、減圧弁が閉状態で動かなくなる固着異常等の減圧弁そのものの異常や、減圧弁を駆動する駆動回路等の異常等、減圧弁に作動不良が生じるおそれがある。このため、減圧弁を備える燃料噴射装置における燃料噴射制御の信頼性を高く維持するためには、減圧弁の作動不良の有無の診断(減圧弁の異常の有無の診断)を行なうことが望まれる。
【特許文献1】特開2004−011448号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
本発明は、上記課題を解決するためになされたものであり、その目的は、減圧弁を備える燃料噴射装置を操作することで燃料噴射制御を行なう燃料噴射制御装置にあって、減圧弁の異常の有無の診断を適切に行なうことのできる燃料噴射制御装置を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0008】
以下、上記課題を解決するための手段、及びその作用効果について記載する。
【0009】
請求項1記載の発明は、前記蓄圧室内の燃圧を検出する検出手段の検出結果を取り込む手段と、前記検出手段の異常の有無を診断する第1の診断手段と、前記減圧弁を操作したときに前記検出手段によって検出される前記蓄圧室内の燃圧の挙動に基づき前記減圧弁の異常の有無を診断する第2の診断手段とを備え、前記第2の診断手段は、前記検出される燃圧の挙動が前記減圧弁が正常であるときに想定される挙動と異なることと、前記検出手段に異常がない旨判断されることとの論理積条件が成立するときに、前記減圧弁に異常があると判断することを特徴とする。
【0010】
減圧弁に異常があるときには、減圧弁を操作したときの蓄圧室内の燃圧の挙動が、減圧弁が正常であるときに想定される挙動とは異なる。しかし、減圧弁を操作したときの蓄圧室内の燃圧の挙動が、減圧弁が正常であるときに想定される挙動とは異なることは、減圧弁に異常があることの十分条件ではない。これは、燃圧を検出する検出手段自体に異常があるときには、たとえ減圧弁に異常がなくても、検出される燃圧の挙動が減圧弁が正常であるときに想定される挙動とは異なり得るからである。
【0011】
この点、上記構成では、上記論理積条件の成立に基づき減圧弁に異常がある旨判断することで、検出手段の異常を誤って減圧弁の異常と判断することを回避することができ、ひいては減圧弁の異常の有無の診断を適切に行なうことができる。
【0012】
請求項2記載の発明は、請求項1記載の発明において、前記第2の診断手段は、前記車両のイグニッションスイッチがオフとされた後、前記減圧弁を開操作する開手段を備え、前記減圧弁の開操作に伴う燃圧の挙動と前記第1の診断手段による診断結果とに基づき前記減圧弁の異常の有無を診断することを特徴とする。
【0013】
イグニッションスイッチのオフ後の蓄圧室内の燃圧の挙動は、減圧弁の状態以外の他の要因による影響を受けにくい。このため、上記構成によれば、イグニッションスイッチのオフ後の減圧弁の開操作に伴う燃圧の挙動に基づき、減圧弁の異常の有無の診断を高精度で行なうことができる。
【0014】
請求項3記載の発明は、請求項2記載の発明において、前記第1の診断手段は、前記車両のイグニッションスイッチがオフとされた後、診断を行なうために定められる所定期間の経過後に検出される燃圧と大気圧との比較に基づき前記検出手段の異常の有無を診断するものであり、前記第2の診断手段は、前記開手段に加えて、前記減圧弁の開操作に伴う燃圧の挙動に基づき前記減圧弁の異常の有無の仮の診断を行なう仮診断手段と、該仮診断手段により前記減圧弁に異常ある旨の仮の判断がなされることと、前記第1の診断手段により前記検出手段に異常がない旨の判断がなされることとの論理積条件が成立するときに、前記減圧弁に異常があると判断する判断手段とを備えることを特徴とする。
【0015】
一般に、イグニッションスイッチがオフされた後には、蓄圧室内の燃圧が大気圧へと移行する傾向がある。このため、上記構成では、上記所定期間を、蓄圧室内の燃圧の大気圧への移行が完了すると想定される時間に設定することで、検出手段の異常の有無を診断することができる。しかも、上記イグニッションスイッチがオフされた後には、蓄圧室内の燃圧の挙動に影響を与える要因がイグニッションオン状態時よりも少ないため、上記診断を高精度で行なうこともできる。
【0016】
請求項4記載の発明は、請求項3記載の発明において、前記車載内燃機関の冷却水の温度を検出する検出手段の検出結果及び前記燃料の温度を検出する検出手段の検出結果の少なくとも一方を取り込む手段を更に備え、前記第1の診断手段は、前記冷却水の温度が低いほど前記所定期間を長く設定する処理、及び前記燃料の温度が低いほど前記所定期間を長く設定する処理の少なくとも一方を行なうことを特徴とする。
【0017】
一般に、燃料の温度が低いほど燃料の粘性が高くなるため、蓄圧室内の燃料が外部へと流出する流出速度が低下する。この点、上記構成では、燃料の粘性と相関を有するパラメータである燃料の温度そのものや冷却水の温度が低いほど所定期間を長く設定することで、蓄圧室内の燃圧が大気圧へと確実に移行した後に検出手段の異常の有無を診断することができる。
【0018】
請求項5記載の発明は、請求項3又は4記載の発明において、前記仮診断手段は、前記蓄圧室内の燃圧に応じて前記仮の診断における異常がある旨の判断基準を可変設定することを特徴とする。
【0019】
一般に、蓄圧室内の燃圧が高いほど、減圧弁の開弁に伴う燃圧の低下速度は大きくなる傾向にある。この点、上記構成では、蓄圧室内の燃圧の変化により減圧弁の低下速度が変化した場合であれ、異常がある旨の判断基準を適切に設定することができる。
【0020】
請求項6記載の発明は、請求項3〜5のいずれかに記載の発明において、前記車載内燃機関の冷却水の温度を検出する検出手段の検出結果及び前記燃料の温度を検出する検出手段の検出結果の少なくとも一方を取り込む手段を更に備え、前記仮診断手段は、前記冷却水の温度及び前記燃料の温度の少なくとも一方に応じて前記仮の診断における異常がある旨の判断基準を可変設定することを特徴とする。
【0021】
一般に、燃料の温度が低いほど燃料の粘性が高くなるため、減圧弁の開弁に伴う蓄圧室内の燃料の流出速度が低下する。この点、上記構成では、燃料の温度と相関を有するパラメータである燃料の温度そのものや冷却水の温度に応じて異常がある旨の判断基準を可変設定することで、流出速度の変化に応じた適切な判断基準にて異常の有無の診断を行なうことができる。
【0022】
請求項7記載の発明は、請求項3〜6のいずれかに記載の発明において、前記仮診断手段は、前記イグニッションスイッチがオフとされた後、前記第1の診断手段による診断のために定められる前記所定期間の経過以前に前記仮の診断を行なうものであり、前記判断手段は、前記第1の診断手段による診断後に前記判断を行なうものであることを特徴とする。
【0023】
上記構成では、イグニッションスイッチがオフとされた後、まず第1に減圧弁の異常の有無の仮の診断がなされる。そして、この仮の診断の後であって所定期間経過後に、検出手段の異常の有無を診断する。これにより、検出手段に異常がない旨判断されるときには、上記仮の診断結果を、減圧弁の異常診断結果として確定することができる。また、検出手段に異常がある旨判断されるときには、仮の診断結果を無効とすることができる。
【0024】
請求項8記載の発明は、請求項7記載の発明において、前記第1の診断手段は、前記仮診断手段により前記減圧弁に異常がある旨の仮の判断がなされているとき、異常がない旨の仮の判断がなされているときより前記所定時間を長く設定することを特徴とする。
【0025】
上記構成において、減圧弁を開操作したにもかかわらず減圧弁が正常であるときに想定されるようには検出される燃圧が低下しないときには、減圧弁が十分に開状態とならない異常がある可能性がある。そして、実際にこの異常があるときには、減圧弁を開操作したときよりも蓄圧室内の燃圧の低下が緩やかになる。この点、上記構成では、減圧弁に異常があるとの仮の判断がなされるときには異常があるとの仮の判断がなされないときよりも所定期間を長くすることで、燃圧が大気圧へと移行するのに要する時間に応じて所定期間を適切に設定することができ、ひいては、検出手段の異常の有無の診断を適切なタイミングにて行なうことができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0026】
(第1の実施形態)
以下、本発明にかかる燃料噴射制御装置をコモンレール式のディーゼル機関の燃料噴射制御装置に適用した第1の実施形態について、図面を参照しつつ説明する。
【0027】
図1に、本実施形態にかかるエンジンシステムの全体構成を示す。
【0028】
図示されるように、燃料タンク2内の燃料は、燃料フィルタ4を介して燃料ポンプ6によって汲み上げられる。この燃料ポンプ6は、ディーゼル機関の出力軸であるクランク軸から動力を付与されて燃料を吐出するものである。詳しくは、燃料ポンプ6は、吸入調量弁8を備えており、この吸入調量弁8が操作されることで、外部に吐出される燃料量が決定される。また、燃料ポンプ6は、いくつかのプランジャを備えており、これらプランジャが上死点及び下死点間を往復運動することで、燃料が吸入及び吐出される。
【0029】
燃料ポンプ6からの燃料は、コモンレール10に加圧供給(圧送)される。コモンレール10は、燃料ポンプ6から圧送された燃料を高圧状態で蓄え、これを高圧燃料通路12を介して各気筒(ここでは、4気筒を例示)の燃料噴射弁14に供給する。燃料噴射弁14は、低圧燃料通路16を介して燃料タンク2と接続されている。なお、コモンレール10には、減圧弁18が設けられており、この減圧弁18を介してコモンレール10内の燃料が低圧燃料通路16を介して燃料タンク2へと流出可能となっている。
【0030】
上記エンジンシステムは、コモンレール10内の燃圧を検出する燃圧センサ20や、燃料ポンプ6内の燃料の温度を検出する燃温センサ22、ディーゼル機関の冷却水の温度を検出する水温センサ24、ディーゼル機関の排気中の酸素濃度を検出する酸素センサ26等、ディーゼル機関の運転状態や運転環境等を検出する各種センサを備えている。
【0031】
一方、電子制御装置(ECU30)は、マイクロコンピュータ(マイコン32)を主体として構成され、上記各種センサの検出結果を取り込み、これに基づきディーゼル機関の出力を制御するものである。このECU30には、イグニッションスイッチ40、メインリレー42、給電ラインL1を介してバッテリBの電力が給電されている。
【0032】
ここで、メインリレー42は、イグニッションスイッチ40がオンされるか、信号ラインL2から駆動信号が入力されることで、バッテリBと給電ラインL1とを短絡させる。このため、イグニッションスイッチ40がオンとされると、メインリレー42によってバッテリBと給電ラインL1とが導通状態とされるため、ECU30にバッテリBの電力が供給される。
【0033】
一方、ECU30では、バッテリBにより電力が供給されているときに、信号ラインL3を介してイグニッションスイッチ40のオン・オフ状態を監視する。そして、イグニッションスイッチ40がオフとされると、ECU30の停止の前に行なう後処理を完了するまでECU30への給電を継続するために、信号ラインL2を介してメインリレー42に駆動信号を出力する。これにより、イグニッションスイッチ40がオフとされた後であっても、ECU30において上記後処理が完了するまではバッテリBの電力がメインリレー42及び給電ラインL1を介してECU30に供給される。
【0034】
イグニッションスイッチ40がオンとされると、ECU30は、ディーゼル機関の出力制御を適切に行なうべく、燃料噴射制御を行う。そして、この燃料噴射制御に際しては、コモンレール10内の燃圧を、ディーゼル機関の運転状態や運転環境に応じて設定される目標燃圧にフィードバック制御すべく、燃料ポンプ6(詳しくは吸入調量弁8)を操作する。ただし、目標燃圧が急激に減少するとき等には、コモンレール10内の実際の燃圧が目標燃圧を大きく上回ることがある。このため、本実施形態では、図2(a)に示す態様にて減圧弁18に対する通電操作を行なうことで、図2(b)に示すように減圧弁18を開弁させて、コモンレール10内の燃圧が目標燃圧を過度に上回ることを回避する。
【0035】
次に、この減圧弁18に電流を流しているにもかかわらず減圧弁18が開弁しない等の減圧弁18の作動不良の有無(減圧弁18の異常の有無)の診断にかかる処理について説明する。この減圧弁18の異常の有無の診断は、基本的には、減圧弁18の開操作(減圧弁18に対する通電操作)にもかかわらず、燃圧センサ20によって検出される燃圧が低下しないことに基づき行なうことができる。ただし、燃圧センサ20に異常がある場合には、コモンレール10内の燃圧として精度の良い値を得ることができないため、燃圧センサ20によって検出される燃圧に基づき減圧弁18の異常の有無の診断をしたのでは、その診断を高精度で行なうことができない。
【0036】
そこで本実施形態では、減圧弁18の開操作に伴うコモンレール10内の燃圧の挙動と、燃圧センサ20の異常の有無の診断結果とに基づき、減圧弁18の異常の有無を診断する。図3に、本実施形態にかかる減圧弁18の異常の有無の診断の処理手順を示す。この処理は、ECU30により、例えば所定周期で繰り返し実行される。
【0037】
この一連の処理では、まずステップS10において、イグニッションスイッチ40がオフとされたか否かを判断する。そして、オフとされたと判断されるときには、ステップS12において、燃圧センサ20の異常の有無の診断が完了しているか否かを判断する。初めてこの図3に示す一連の処理が起動されるときには、診断が完了されていないと判断されて、ステップS14に移行する。ステップS14においては、減圧弁18の異常の有無の診断がなされる。
【0038】
ステップS14に示す処理は、詳しくは、図4に示す処理となる。すなわち、ここでは、まずステップS60において、減圧弁18に対する通電により減圧弁18を開操作する。続くステップS62では、減圧弁18の開操作時(好ましくは、開操作直前)の燃圧センサ20の検出値を取り込む。そして、ステップS64では、取り込まれた燃圧センサ20の検出値に基づき、減圧弁18が正常であるときに想定される減圧弁18の開操作に伴う燃圧の低下速度についての閾値αを算出する。この閾値αは、減圧弁18の開弁に伴う燃料の流出による燃圧の低下速度と、静的リークによる燃圧の低下速度との和から所定のマージン量εを減算することで算出される。ここで、上記減圧弁18の開操作に伴う燃圧の低下速度は、減圧弁18の開操作時のコモンレール10内の燃圧が高いほど大きくなるものとして算出される。一方、静的リークに伴う燃圧の低下速度は、燃料噴射弁14のクリアランスを介して高圧燃料通路12から低圧燃料通路16へと燃料が流出することによる燃圧の低下速度である。この低下速度は、コモンレール10内の燃圧が高いほど上記静的リーク量が多くなることに鑑み、減圧弁18の開操作時の燃圧センサ20の検出値に基づき算出される。
【0039】
続くステップS66では、燃圧センサ20の検出値の時系列データに基づき、燃圧の低下速度を算出する。ここでは、少なくとも2つの時系列データを用いることで、燃圧の低下速度を算出することができる。なお、3つ以上の時系列データを用いる場合には、互いに隣接する時系列データにより局所的な低下速度を算出し、これら各低下速度を平均することで、最終的な低下速度を求めるようにすればよい。
【0040】
続くステップS68では、ステップS66にて算出される低下速度がステップS64にて算出される閾値α以上であるか否かを判断する。そして、閾値α以上であると判断されるときには、ステップS70において減圧弁18が正常である旨判断する。一方、閾値α未満であると判断されるときには、ステップS72において減圧弁18が異常である旨判断する。
【0041】
なお、ステップS70、S72の処理が完了するときには、先の図3に示したステップS14の処理が完了したものとして、ステップS16に移行する。ステップS16では、ステップS14の処理により減圧弁18が正常である旨判断されているか否かを判断する。そして、ステップS14において減圧弁18が正常である旨判断されているときには、ステップS18において、減圧弁18が正常である旨の仮の判断を行なう。一方、ステップS14において減圧弁18が異常である旨判断されているときには、ステップS20において減圧弁18が異常である旨の仮の判断を行なう。なお、これらステップS18、S20の処理による仮の診断結果は、マイコン32内のメモリに記憶される。
【0042】
続くステップS22では、上記水温センサ24によって検出される冷却水温と、上記燃温センサ22によって検出される燃料の温度を取り込む。そして、ステップS24では、これら燃料ポンプ6内の燃料の温度と冷却水温と、減圧弁18の状態とに基づき、燃圧センサ20の異常の有無の診断のタイミングを設定する。このタイミングは、イグニッションスイッチ40がオフとされてから、コモンレール10内の燃圧が大気圧へと移行するのに要する時間が経過したと考えられるタイミング以降とされる。すなわち、イグニッションスイッチ40がオフとされた後には、通常、コモンレール10内の燃圧は大気圧へと低下していくため、燃圧が大気圧まで低下したと考えられる所定期間の経過後に燃圧センサ20によって検出される燃圧が大気圧よりも高いときには燃圧センサ20に異常があると判断することができる。
【0043】
ここで、燃料ポンプ6内の燃料の温度や冷却水温は、コモンレール10内の燃料の温度と相関を有するパラメータである。そして、コモンレール10内の燃料の温度が低いほど、燃料の粘性が大きくなるため、コモンレール10から燃料タンク2へと流出する燃料の流出速度が低下すると考えられる。このため、燃料ポンプ6内の燃料の温度や冷却水温が低いほど、コモンレール10内の燃圧が大気圧へと移行するのに要する時間が伸長すると考えられる。したがって、燃料ポンプ6内の燃料の温度や冷却水温が低いほど、燃圧センサ20の異常の有無の診断の実施タイミングを遅らせる。
【0044】
また、減圧弁18の状態は、コモンレール10内の燃圧の低下に影響を及ぼす要因となる。すなわち、減圧弁18の開操作がなされないときには、静的リークのみによってコモンレール10内の燃圧が低下していくために、開操作がなされるときよりも燃圧の低下速度が小さくなる。また、減圧弁18の開操作をしたとしても、減圧弁18に異常があるときには、実際には減圧弁18が開弁しないことがあり、この場合には、開操作を行なわない場合と同様の状況となると考えられる。このため、ステップS24では、イグニッションスイッチ40のオフ後に、減圧弁18の開操作をしないときや、減圧弁18に異常があるとの判断がなされているときには、減圧弁18を開操作して且つ減圧弁18が正常であると判断されているときよりも、燃圧センサ20の異常の有無の診断の実施タイミングを遅らせる。
【0045】
続いて、ステップS26において、燃圧センサ20の異常の有無の診断の実施タイミングとなったと判断されると、ステップS28において、燃圧センサ20によって検出される燃圧が大気圧近傍であるか否かを判断する。そして、大気圧近傍であると判断されるときには、ステップS30において燃圧センサ20が正常であると判断する。続くステップS32では、減圧弁18の仮の診断がなされているか否かを、換言すれば、ステップS18又はステップS20の処理が完了しているか否かを判断する。そして、仮の診断がなされていると判断されるときには、ステップS34において、ステップS18又はステップS20によってなされている仮の診断結果を、減圧弁18の最終的な診断結果として確定する。
【0046】
これに対し、ステップS28において、燃圧センサ20によって検出される燃圧が大気圧近傍でないと判断されるときには、ステップS36において燃圧センサ20に異常があると判断する。そして、ステップS34の処理やステップS36の処理が完了すると、ステップS38においてECU30の電源をオフとし、この一連の処理を一旦終了する。
【0047】
一方、ステップS12において燃圧センサ20の診断が完了していると判断されるときには、ステップS39において、燃圧センサ20の診断結果が「正常」であるか否かを判断する。すなわち、イグニッションスイッチ40が前回オフとされたときにステップS28、S30、S36の処理によりなされた燃圧センサ20の異常の有無の診断結果がどうであったかを判断する。
【0048】
そして、ステップS39において、診断結果が「正常」であると判断されるときには、ステップS40において、減圧弁18の異常の有無の診断を行なう。この処理は、上記ステップS14と同様である。ただし、ステップS40において正常であると判断されているときには(ステップS42;YES)、仮ではなく、減圧弁18が正常であると判断する(診断結果の確定)。また、ステップS40において異常であると判断されているときには(ステップS42;NO)、仮ではなく、減圧弁18に異常があると判断する(診断結果の確定)。
【0049】
また、ステップS39において、燃圧センサ20が異常であると判断されると、ステップS48において、減圧弁18の異常の有無の診断結果が既にマイコン32のメモリに記憶されているか否かを判断する。そして記憶されていると判断されるときには、この記憶されている診断結果が保持される(ステップS50)。これに対し、ステップS48において診断結果が記憶されていないときには、減圧弁18の異常の有無が不定とされる(ステップS52)。
【0050】
そして、ステップS44、S46、S50、S52の処理が完了するときには、ステップS22に移行する。
【0051】
なお、上記ステップS10において、イグニッションスイッチ40がオフでないと判断されるときには、この一連の処理を一旦終了する。
【0052】
図5に、図3に示した各種診断の態様を例示する。図5(a)は、イグニッションスイッチ40の状態を示し、図5(b)は、減圧弁18の操作態様を示し、図5(c)〜図5(e)は、燃圧センサ20によって検出される燃圧の挙動を示す。
【0053】
燃圧センサ20が正常である場合、時刻t1にイグニッションスイッチ40がオフ状態とされ、減圧弁18が開操作されることで、図5(c)に示す態様にて、検出される燃圧が低下していく。このため、時刻t1〜時刻t2までの間の燃圧の低下速度「ΔP1/ΔT」は、先の図4のステップS68において、閾値α以上であると判断され、先の図3に示した処理において減圧弁18が正常である旨の仮の判断がなされる。その後、時刻t1から先の図3のステップS24にて定められた所定時間の経過後である時刻t3において検出される燃圧が大気圧となっているため、先の図4のステップS30において燃圧センサ20が正常であると判断されることとなる。このため、先の図3のステップS34において、減圧弁18の仮の診断結果が、最終的な診断結果として確定される。
【0054】
これに対し、図5(d)に示すように、燃圧センサ20によって検出される燃圧が固定される固着異常が生じている場合、イグニッションスイッチ40のオフ操作にもかかわらず検出される燃圧は変化しない。このため、先の図3のステップS14の処理において、一旦減圧弁18が異常である旨の仮の診断がなされる。しかし、減圧弁18が異常である旨の仮の診断がなされることで、減圧弁18が閉弁状態であるとの前提の下でコモンレール10内の燃圧が大気圧へと移行するのに要する所定期間の経過後に、燃圧センサ20の異常の有無の診断がなされることとなる。しかし、この所定期間の経過後の時刻t4においても、燃圧センサ20によって検出される燃圧が大気圧へと収束しない。このため、先の図4のステップS36において燃圧センサ20が異常であると判断され、減圧弁18の仮の診断結果が最終的な診断結果として確定されない。このため、燃圧センサ20に異常があることによる減圧弁18の誤診断を回避することができる。
【0055】
また、図5(e)に、燃圧センサ20によって検出される燃圧が実際の燃圧に対して所定のオフセット値を加算したものとなるオフセット異常が生じている場合を示す。この場合、時刻t1〜t2までの間の燃圧の低下速度は、先の図5(c)に示したものと同一となる。しかし、この場合、減圧弁18の開操作直前に検出される燃圧が先の図5(c)に示した場合よりも高いために、先の図4のステップS64において算出される閾値αが、図5(c)に示した場合よりも大きくなる。このため、先の図3のステップS14に示した処理において減圧弁18が異常であるとの仮の診断がなされるおそれがある。しかし、この場合であっても、上記所定期間経過後の時刻t4においても検出される燃圧が大気圧近傍とならないために、先の図3のステップS36において燃圧センサ20が異常であると判断され、減圧弁18の仮の診断結果が最終的な診断結果として確定されない。このため、燃圧センサ20に異常があることによる減圧弁18の誤診断を回避することができる。
【0056】
ちなみに、上記説明では、先の図3のステップS12で否定判断される場合を想定したが、図5(d)、図5(e)に示す場合において、一旦燃圧センサ20に異常があると判断された後は、上記ステップS12において肯定判断がなされ、減圧弁18の診断がなされないこととなる。
【0057】
なお、燃圧センサ20の異常診断においては、図5(d)に例示する固着異常と、図5(e)に例示するオフセット異常とを識別することが望ましい。これらは、イグニッションスイッチ40のオフ直後に検出される燃圧と、先の図3のステップS28において用いられる燃圧との双方を用いることで識別することができる。これにより、オフセット異常である場合には、燃圧センサ20によって検出される燃圧を、図5(e)に示すオフセット値ΔP2にて補正をすることができる。そして、この補正のなされた燃圧を用いることで、減圧弁18の異常診断を的確に行なうこともできる。
【0058】
以上詳述した本実施形態によれば、以下の効果が得られるようになる。
【0059】
(1)減圧弁18を開操作したときに燃圧センサ20によって検出される燃圧の挙動が減圧弁18が正常であるときに想定される挙動と異なることと、燃圧センサ20に異常がない旨判断されることとの論理積条件が成立するときに、減圧弁18に異常がある旨判断した。これにより、燃圧センサ20の異常に起因した減圧弁18が異常である旨の誤判断を回避することができ、ひいては、減圧弁18の異常の有無の診断を適切に行なうことができる。
【0060】
(2)イグニッションスイッチ40がオフとされた後、所定期間の経過後に検出される燃圧と大気圧との比較に基づき燃圧センサ20の異常の有無を診断した。これにより、燃圧センサ20の異常の有無を診断することができる。しかも、イグニッションスイッチ40のオフ後には、コモンレール10内の燃圧の挙動に影響を与える要因がイグニッションスイッチ40のオン状態時よりも少ないため、上記診断を高精度で行なうこともできる。
【0061】
(3)イグニッションスイッチ40がオフとされた後に減圧弁18の異常の有無の診断をした。イグニッションスイッチ40のオフ後には、コモンレール10内の燃圧の挙動に影響を与える要因がイグニッションスイッチ40のオン状態時よりも少ないため、上記診断を高精度で行なうことができる。
【0062】
(3)冷却水の温度が低いほど、また、燃料ポンプ6内の燃料の温度が低いほど、燃圧センサ20の異常の有無の診断を行なうまでの所定期間を長く設定した。これにより、コモンレール10内の燃圧が大気圧へと確実に移行した後に燃圧センサ20の異常の有無を診断することができる。
【0063】
(4)コモンレール10内の燃圧に応じて減圧弁18の診断における異常がある旨の判断基準(閾値α)を可変設定した。これにより、コモンレール10内の燃圧の変化により減圧弁18の低下速度が変化した場合であれ、異常がある旨の判断基準を適切に設定することができる。
【0064】
(5)イグニッションスイッチ40がオフとされた後、まず減圧弁18の仮の診断を行い、その後、燃圧センサ20の異常の有無の診断を行なって同診断により燃圧センサ20に異常がない旨の判断がなされたときに仮の診断結果を最終的な診断結果として確定させた。これにより、減圧弁18の仮の診断結果を、燃圧センサ20の異常の有無にかかわらず最終的な診断結果として確定させる場合と比較して、減圧弁18の異常の有無の診断を高精度に行なうことができる。
【0065】
(6)減圧弁18に異常があるとの判断がなされているとき、異常がない旨の判断がなされているときより、燃圧センサ20の異常の有無の診断を開始するまでの所定期間を長く設定した。これにより、燃圧が大気圧へと移行するのに要する時間に応じて所定期間を適切に設定することができ、ひいては、燃圧センサ20異常の有無の診断を適切なタイミングにて行なうことができる。
【0066】
(第2の実施形態)
以下、第2の実施形態について、先の第1の実施形態との相違点を中心に図面を参照しつつ説明する。
【0067】
本実施形態では、減圧弁18の異常の有無の診断に際し、異常がある旨の判断基準を、燃圧のみならず、燃料ポンプ6内の燃料の温度及び冷却水温に応じて可変設定する。
【0068】
図6に、本実施形態にかかる減圧弁18の異常の有無の診断にかかる処理の手順を示す。この処理は、先の図4に示した処理に代わるものであり、先の図3のステップS14、S40の処理の詳細である。
【0069】
この一連の処理においても、まず先の図4のステップS60、S62の処理を行なう。続いてステップS64aにおいて、減圧弁18の開操作時において検出される燃圧、冷却水温、燃料ポンプ6内の燃料の温度に基づき閾値αを算出する。ここで、燃料ポンプ6内の燃料の温度や冷却水温は、コモンレール10内の燃料の温度と相関を有するパラメータである。そして、コモンレール10内の燃料の温度が低いほど、同燃料の粘性が増大し、ひいては、減圧弁18を開弁したときの燃料の流出速度が低下する。このため、燃料ポンプ6内の温度が低いほど、また、冷却水の温度が低いほど、閾値αを小さく設定する。
【0070】
こうして閾値αが設定されると、先の図4のステップS66〜S72の処理を行なう。
【0071】
以上説明した本実施形態によれば、先の第1の実施形態の上記(1)〜(6)の効果に加えて、更に以下の効果が得られるようになる。
【0072】
(7)燃料ポンプ6内の燃料の温度及び冷却水の温度に応じて減圧弁18の異常の有無の診断における異常がある旨の判断基準を可変設定した。これにより、コモンレール10からの燃料の流出速度の変化に応じた適切な判断基準にて異常の有無の診断を行なうことができる。
【0073】
(第3の実施形態)
以下、第3の実施形態について、先の第1の実施形態との相違点を中心に図面を参照しつつ説明する。
【0074】
図7に、本実施形態にかかるエンジンシステムの全体構成を示す。なお、図7では、先の図1に示した部材と同様の機能を有する部材については、便宜上同一の符号を付した。
【0075】
図示されるように、本実施形態では、ECU30が、予めマイコン32によって設定された時間の経過後にECU30を起動するソークタイマ34を備えている。すなわち、ソークタイマ34は、イグニッションスイッチ40のオフ操作に伴い、ECU30に対する通電の停止がなされた後にも通電がなされ、ECU30のオフ後の時間を計時する。そして、計時される時間が、マイコン32により予め設定された時間となると、ECU30を起動させる。
【0076】
図8に、このソークタイマ34を用いた減圧弁18及び燃圧センサ20の異常の有無の診断にかかる処理の手順を示す。この処理は、ECU30により、例えば所定周期で繰り返し実行される。なお、図8に示す処理のうち、先の図3に示した処理と同一の処理については、便宜上、同一のステップ番号を付している。
【0077】
この一連の処理においては、ステップS24aにおいて、燃圧センサ20の異常の有無の診断の実施までの所定期間が設定されると、この所定期間をソークタイマ34にセットする。そして、ステップS25において、ECU25の電源をオフとする。すなわち、ステップS10においてイグニッションスイッチ40がオフとされたと判断された後は、ECU30では信号ラインL2を介してメインリレー42に駆動信号を出力することで、バッテリBからの給電を確保していたのであるが、このステップS40において、駆動信号の出力を停止する。
【0078】
これにより、ソークタイマ34は、ECU30がオフとされてからの時間の計時を開始する。そして、所定期間が経過すると、ステップS26aにおいて、ソークタイマ34は、ECU30を起動する。すなわち、ソークタイマ34は、信号ラインL2を介してメインリレー42に駆動信号を出力することで、ECU30(マイコン32)を給電状態とする。こうしてECU30が起動されると、先の図3のステップS28〜S36と同様の処理を行なう。
【0079】
以上説明した本実施形態によっても、先の第1の実施形態の上記(1)〜(6)の効果に加えて、更に以下の効果が得られるようになる。
【0080】
(8)ソークタイマ34を用いることで、燃圧センサ20の診断が完了するまでECU30をオン状態とし続けた場合と比較して、バッテリBの消費電力を低減することができる。
【0081】
(第4の実施形態)
以下、第4の実施形態について、先の第1の実施形態との相違点を中心に図面を参照しつつ説明する。
【0082】
本実施形態では、減圧弁18を、通電操作がなされないときに開弁状態となるノーマリーオープン型のものとする。そして、図9(a)に示すように、減圧弁18に対する通電量に応じて、減圧弁18を開弁させるコモンレール10内の燃圧(開弁圧)が調整されるものとする。そして、図9(b)に一点鎖線にて示す目標燃圧に対し実線にて示す検出される燃圧が所定値Δだけ高くなると(図中、2点鎖線)減圧弁18が開弁するように、減圧弁18に対する通電量を調整する。
【0083】
また、本実施形態では、燃料噴射に伴うディーゼル機関の出力に基づき燃圧センサ20の異常の有無を診断する。以下、これについて説明する。
【0084】
図10に、本実施形態にかかる燃圧センサ20の異常の有無の診断の処理手順を示す。この処理は、ECU30により行なわれる。
【0085】
この一連の処理においては、まずディーゼル機関の出荷直後に、ステップS80において、噴射量と酸素濃度との関係を計測する。すなわち、図11に三角印にて測定点を示すように、燃料噴射弁14に対する指令噴射量と、酸素センサ26によって検出される酸素濃度との関係を測定する。続いて、ステップS82において、この関係の測定結果をECU30内の適宜のメモリに記憶する。
【0086】
続くステップS84〜S90にかかる処理は、ECU30において、所定周期で繰り返し実行される処理である。ここでは、まずステップS84において、指令噴射量を変化させつつ酸素センサ26により酸素濃度を検出する。続いて、ステップS86において、上記ステップS82において記憶された関係に基づき、酸素濃度から実際の噴射量を推定する。すなわち、図11に示すように、酸素濃度がQO1であるときには、噴射量はQ1と推定される。
【0087】
続くステップS88では、実際の噴射量と、ステップS84にて行った燃料噴射時の燃料噴射弁14に対する指令噴射期間とから、実際の燃圧を推定する。すなわち、ECU30は、通常、指令噴射量と燃圧とから指令噴射期間を定めるマップを備えているため、このマップを用いて、指令噴射期間とそのときの噴射量の推定値とから燃圧を推定する。
【0088】
こうして燃圧が推定されると、ステップS90において、この燃圧と、上記指令噴射期間を設定する際に用いた燃圧センサ20の検出値との比較に基づき、燃圧センサ20の異常の有無を診断する。なお、このステップS90の処理が完了すると、ステップS84〜S90までの処理を一旦終了する。
【0089】
次に、本実施形態にかかる減圧弁18の異常の有無の診断について説明する。図12に、減圧弁18の異常の有無の診断の処理手順を示す。この処理は、ECU30により、例えば所定周期で繰り返し実行される。
【0090】
この一連の処理においては、まずステップS100において、コモンレール10内の目標燃圧を取り込む。この目標燃圧は、図示しない別の処理において、例えばアクセルペダルの操作量と指令噴射量とに基づき算出される。続くステップS102においては、減圧弁18を開弁させる燃圧の下限値である閾値βを算出する。これは、目標燃圧に、先の図9(b)に示した所定値Δを加算することで算出される。こうして閾値βが算出されると、ステップS104において、先の図9(a)に示した関係から、開弁圧が閾値βとなるときの通電量を算出する。続いてステップS106においては、ステップS104において算出された通電量によって、減圧弁18に対する通電操作がなされる。
【0091】
続くステップS108においては、先の図10に示した燃圧センサ20の異常の有無の診断により、燃圧センサ20が正常である旨判断されているか否かを判断する。そして、正常であると判断されているときには、ステップS110において、燃圧センサ20によって検出される燃圧を取り込む。続くステップS112においては、検出される燃圧が閾値βを上回る状態が所定時間継続しているか否かを判断する。すなわち、実際の燃圧が閾値βを上回るときには、減圧弁18が開弁されるため、コモンレール10内の燃圧が低下する。このため、減圧弁18の開弁によりコモンレール10内の燃圧が閾値β以下となると想定される時間に基づき、上記所定時間を定めることで、閾値βを上回る状態が所定時間継続することで減圧弁18に異常があるとの判断をすることができる。
【0092】
そして、所定時間継続していないと判断されるときには、ステップS114において減圧弁18が正常であると判断し、所定時間継続していると判断されるときには、ステップS116において減圧弁18が異常であると判断する。
【0093】
なお、ステップS108において燃圧センサ20が正常であるとの判断がなされていないと判断されるときや、ステップS114、S116の処理が完了するときには、この一連の処理を一旦終了する。
【0094】
以上詳述した上記実施形態によっても、先の第1の実施形態の上記(1)の効果を得ることができる。
【0095】
(その他の実施形態)
なお、上記各実施形態は、以下のように変更して実施してもよい。
【0096】
・先の第1の実施形態では、前回イグニッションスイッチ40がオフとされた際に燃圧センサ20が正常であると判断されると、今回イグニッションスイッチ40がオフとされるときの減圧弁18の異常の有無の診断結果が最終的なものとして確定される(ステップS44、S46)。しかし、厳密には、イグニッションスイッチ40が前回オフされてから今回オフされるまでの間に燃圧センサ20に異常が生じるおそれがある。そして、この場合、先の図3に示した処理によれば、燃圧センサ20の異常に起因して減圧弁18に異常がある旨の誤判断がなされることが懸念される。
【0097】
減圧弁18の診断についての上記要因による信頼性の低下は、例えば先の図3のステップS50において、減圧弁18の診断結果を消去するようにすることで抑制することができる。また、これに代えて、先の図3に示した処理において、ステップS12、S39〜S52、ステップS32の処理を削除するようにしてもよい。これにより、イグニッションスイッチ40がオフとされる度に、まず減圧弁18の仮の診断がなされ、その後、燃圧センサ20の診断が行なわれて、燃圧センサ20が正常と判断されることを条件に、減圧弁18についての仮の診断結果が最終的な診断結果として確定される。
【0098】
・先の第3の実施形態において、先の図6に示した処理を行なってもよい。
【0099】
・先の第1〜第3の実施形態において、燃圧センサ20の異常の有無の診断を、イグニッションスイッチ40がオンとされた直後に行なってもよい。すなわち、イグニッションスイッチ40がオンとされた直後には、コモンレール10内の燃圧が大気圧近傍となっていると考えられるため、燃圧センサ20によって検出される燃圧が大気圧近傍であるか否かによって、燃圧センサ20の異常の有無の診断を行なうことができる。
【0100】
また、先の第1〜第3の実施形態において、燃圧センサ20の異常の有無の診断を、先の図10に例示した態様にて行なってもよい。
【0101】
・先の第4の実施形態において、燃圧センサ20の異常の有無の診断に際して、実際の燃圧を推定するために、噴射量と酸素濃度との関係を測定したが、これに限らない。例えば、フューエルカットを行なう車両の減速時において、単発噴射を行なったときの機関出力軸の回転上昇量に基づき噴射量を推定し、この単発噴射の時の指令噴射期間と推定される噴射量とに基づき燃圧を推定してもよい。ちなみに、単発噴射と噴射量との関係については、特開2005−36788号公報等に記載されている。
【0102】
・先の第4の実施形態において、燃圧センサ20の異常の有無の診断を、先の第1〜第3の実施形態で例示した態様にて行なってもよい。
【0103】
・先の第4の実施形態において、減圧弁18の異常の有無の診断を、イグニッションスイッチ40がオフされた後に、減圧弁18に対する通電操作をゼロとすることで行なってもよい。
【0104】
・燃圧センサ20の異常の有無の診断としては、上述したものに限らず、例えば燃圧センサ20を2つ備えて相互監視することにより、燃圧センサ20の異常の有無を診断するようにしてもよい。
【0105】
・減圧弁18の異常の有無の診断手法としては、先の図4、図6、図12に例示したものに限らない。例えば、燃圧センサ20の異常の有無の診断を先の図10に例示した態様にて行なう場合において、イグニッションスイッチ40がオフとされたときに減圧弁18を開操作し、減圧弁18が開弁しているとの前提でコモンレール10内の燃圧が大気圧となると想定される時間の経過後、検出される燃圧が大気圧よりも高いことに基づき、減圧弁18が異常であるとの判断を行なってもよい。
【図面の簡単な説明】
【0106】
【図1】第1の実施形態におけるエンジンシステムの全体構成を示す図。
【図2】同実施形態における減圧弁の特性を示す図。
【図3】同実施形態における減圧弁及び燃圧センサの異常の有無の診断にかかる処理の手順を示すフローチャート。
【図4】同実施形態における減圧弁の異常の有無の診断にかかる処理の詳細を示すフローチャート。
【図5】同実施形態における上記診断の態様を示すタイムチャート。
【図6】第2の実施形態における減圧弁の異常の有無の診断にかかる処理の詳細を示すフローチャート。
【図7】第3の実施形態におけるエンジンシステムの全体構成を示す図。
【図8】同実施形態における減圧弁及び燃圧センサの異常の有無の診断にかかる処理の手順を示すフローチャート。
【図9】第4の実施形態にかかる減圧弁の作動特性を示す図。
【図10】同実施形態にかかる燃圧センサの異常の有無の診断の処理手順を示すフローチャート。
【図11】上記燃圧センサの異常の有無の診断の処理の一部を示す図。
【図12】上記実施形態にかかる減圧弁の異常の有無の診断の処理手順を示すフローチャート。
【符号の説明】
【0107】
2…燃料タンク、4…燃料フィルタ、6…燃料ポンプ、10…コモンレール、12…高圧燃料通路、14…燃料噴射弁、16…低圧燃料通路、18…減圧弁、20…燃圧センサ、30…ECU。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
燃料を高圧状態で蓄える蓄圧室と、該蓄圧室に燃料を加圧供給する燃料ポンプと、前記蓄圧室に蓄えられた燃料を噴射する燃料噴射弁と、前記蓄圧室内の燃料を燃料タンクへと流出させる減圧弁とを備える車載内燃機関の燃料噴射装置について、該噴射装置を操作することで燃料噴射制御を行なう燃料噴射制御装置において、
前記蓄圧室内の燃圧を検出する検出手段の検出結果を取り込む手段と、
前記検出手段の異常の有無を診断する第1の診断手段と、
前記減圧弁を操作したときに前記検出手段によって検出される前記蓄圧室内の燃圧の挙動に基づき前記減圧弁の異常の有無を診断する第2の診断手段とを備え、
前記第2の診断手段は、前記検出される燃圧の挙動が前記減圧弁が正常であるときに想定される挙動と異なることと、前記検出手段に異常がない旨判断されることとの論理積条件が成立するときに、前記減圧弁に異常があると判断することを特徴とする燃料噴射制御装置。
【請求項2】
前記第2の診断手段は、前記車両のイグニッションスイッチがオフとされた後、前記減圧弁を開操作する開手段を備え、前記減圧弁の開操作に伴う燃圧の挙動と前記第1の診断手段による診断結果とに基づき前記減圧弁の異常の有無を診断することを特徴とする請求項1記載の燃料噴射制御装置。
【請求項3】
前記第1の診断手段は、前記車両のイグニッションスイッチがオフとされた後、診断を行なうために定められる所定期間の経過後に検出される燃圧と大気圧との比較に基づき前記検出手段の異常の有無を診断するものであり、
前記第2の診断手段は、前記開手段に加えて、前記減圧弁の開操作に伴う燃圧の挙動に基づき前記減圧弁の異常の有無の仮の診断を行なう仮診断手段と、該仮診断手段により前記減圧弁に異常ある旨の仮の判断がなされることと、前記第1の診断手段により前記検出手段に異常がない旨の判断がなされることとの論理積条件が成立するときに、前記減圧弁に異常があると判断する判断手段とを備えることを特徴とする請求項2記載の燃料噴射制御装置。
【請求項4】
前記車載内燃機関の冷却水の温度を検出する検出手段の検出結果及び前記燃料の温度を検出する検出手段の検出結果の少なくとも一方を取り込む手段を更に備え、
前記第1の診断手段は、前記冷却水の温度が低いほど前記所定期間を長く設定する処理、及び前記燃料の温度が低いほど前記所定期間を長く設定する処理の少なくとも一方を行なうことを特徴とする請求項3記載の燃料噴射制御装置。
【請求項5】
前記仮診断手段は、前記蓄圧室内の燃圧に応じて前記仮の診断における異常がある旨の判断基準を可変設定することを特徴とする請求項3又は4記載の燃料噴射制御装置。
【請求項6】
前記車載内燃機関の冷却水の温度を検出する検出手段の検出結果及び前記燃料の温度を検出する検出手段の検出結果の少なくとも一方を取り込む手段を更に備え、
前記仮診断手段は、前記冷却水の温度及び前記燃料の温度の少なくとも一方に応じて前記仮の診断における異常がある旨の判断基準を可変設定することを特徴とする請求項3〜5のいずれかに記載の燃料噴射制御装置。
【請求項7】
前記仮診断手段は、前記イグニッションスイッチがオフとされた後、前記第1の診断手段による診断のために定められる前記所定期間の経過以前に前記仮の診断を行なうものであり、前記判断手段は、前記第1の診断手段による診断後に前記判断を行なうものであることを特徴とする請求項3〜6のいずれかに記載の燃料噴射制御装置。
【請求項8】
前記第1の診断手段は、前記仮診断手段により前記減圧弁に異常がある旨の仮の判断がなされているとき、異常がない旨の仮の判断がなされているときより前記所定時間を長く設定することを特徴とする請求項7記載の燃料噴射制御装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【図11】
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【図12】
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【公開番号】特開2007−100624(P2007−100624A)
【公開日】平成19年4月19日(2007.4.19)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2005−293153(P2005−293153)
【出願日】平成17年10月6日(2005.10.6)
【出願人】(000004260)株式会社デンソー (27,639)
【Fターム(参考)】