説明

産業車両の変速制御装置

【課題】作業効率の低下を防止できる産業車両の変速制御装置を提供する。
【解決手段】バケット112の高さが第1設定高さを超えると、変速許可速度を上昇させて、シフトアップが起こり難くなるように構成した。これにより、たとえば、Vシェープローディングにおいてアクセルペダル11を大きく踏み込まない状態であっても、変速許可速度の低下によるオペレータの意図に反するシフトアップ、およびこのシフトアップに起因するホイールローダ100の増速を抑制できる。したがって、ダンプトラックへの積み込みに必要な高さまでバケット112が上昇する前にホイールローダ100がダンプトラックに到達してしまう、という不具合を防止して、作業効率の低下を防止できる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ホイールローダ等の産業車両の変速制御装置に関する。
【背景技術】
【0002】
従来より、ホイールローダ等の産業車両の変速制御装置として、車速が設定速度になった時にトランスミッションの速度段を自動的に変更する装置が知られている。たとえば、ホイールローダでは、ダンプトラックに土砂を積み込む作業を行う場合などに、ダンプトラックへ接近した時点で速度段が変更されてしまうと、意図せず車速が変動する恐れがある。そこで、リフトアームの角度などから算出した作業機装置(バケット)の高さ位置が設定高さ以上となった場合には、その時の速度段を維持するように構成された変速装置が知られている(特許文献1参照)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特許第2529106号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
しかし、上述した変速装置において、エンジンの回転数が低いほど変速タイミングを決定する上述した設定速度を低下させるように構成した場合、たとえばダンプトラックに土砂を積み込む作業を行う時に、アクセルの踏み込み量が少なく、エンジン回転数が低いと、バケットが上述した設定高さに達する前に車速が設定速度に達して、意図せずシフトアップが行われることが起こりうる。このシフトアップによってホイールローダが加速するため、ホイールローダのオペレータの想定よりも早くダンプトラックに接近してしまうこととなる。この場合には、ホイールローダのオペレータは、ブレーキを掛けてホイールローダを停止させて、ダンプトラックに土砂を積み込むことができる高さ位置にまでバケットを上昇させなくてはならない。そのため、作業効率が低下する恐れがある。
【課題を解決するための手段】
【0005】
(1) 請求項1の発明による産業車両の変速制御装置は、車速を検出する車速検出手段と、エンジンの回転速度を検出するエンジン回転速度検出手段と、トランスミッションの速度段をシフトアップおよびシフトダウンする変速手段と、車速検出手段で検出された車速がシフトアップ許可車速以上となると、変速手段によるシフトアップを許可する変速制御手段と、作業機装置の高さ位置を検出する作業機装置高さ位置検出手段と、作業機装置高さ位置検出手段で検出された作業機装置の高さ位置が第1の設定値以上である場合には、シフトアップ許可車速を引き上げるシフトアップ許可車速変更手段とを備えることを特徴とする。
(2) 請求項2の発明は、請求項1に記載の産業車両の変速制御装置において、トランスミッションの速度段は3速以上であり、シフトアップ許可車速は、変速制御手段がトランスミッションの速度段の2速から3速へのシフトアップを許可する際の閾値であることを特徴とする。
(3) 請求項3の発明は、請求項1に記載の産業車両の変速制御装置において、変速制御手段は、作業機装置高さ位置検出手段で検出された作業機装置の高さ位置が第1の設定値よりも高い第2の設定値以上である場合には、変速手段によるシフトアップを禁止することを特徴とする。
【発明の効果】
【0006】
本発明によれば、作業効率の低下を抑制できる。
【図面の簡単な説明】
【0007】
【図1】作業車両の一例であるホイールローダの側面図である。
【図2】変速制御装置の概略構成を示す図である。
【図3】車速vと速度段の関係を示す図である。
【図4】ホイールローダ100の走行性能を示す図である。
【図5】Vシェープローディングについて示す図である。
【図6】従来技術による土砂等の積み込み時におけるトランスミッション3の速度段の変化について説明する図である。
【図7】本発明を適用した際の、土砂等の積み込み時におけるトランスミッション3の速度段の変化について説明する図である。
【図8】トランスミッション3の変速制御処理の動作を示したフローチャートである。
【発明を実施するための形態】
【0008】
以下、図1〜8を参照して、本発明に係る産業車両の変速制御装置の一実施の形態について説明する。図1は、本実施の形態に係る変速制御装置が適用される作業車両の一例であるホイールローダの側面図である。ホイールローダ100は、アーム111、作業機装置であるバケット112、タイヤ113等を有する前部車体110と、運転室121、エンジン室122、タイヤ123等を有する後部車体120とで構成される。アーム111はアームシリンダ114の駆動により上下方向に回動(俯仰動)し、バケット112はバケットシリンダ115の駆動により上下方向に回動(ダンプまたはクラウド)する。前部車体110と後部車体120はセンタピン101により互いに回動自在に連結され、ステアリングシリンダ(不図示)の伸縮により後部車体120に対し前部車体110が左右に屈折する。
【0009】
図2は、本実施の形態に係る変速制御装置の概略構成を示す図である。エンジン1の出力軸にはトルクコンバータ2(以下、トルコンと呼ぶ)の不図示の入力軸が連結され、トルコン2の不図示の出力軸はトランスミッション3に連結されている。トルコン2は周知のインペラ,タービン,ステータからなる流体クラッチであり、エンジン1の回転はトルコン2を介してトランスミッション3に伝達される。トランスミッション3は、その速度段を1速〜4速に変速する液圧クラッチを有し、トルコン2の出力軸の回転はトランスミッション3で変速される。変速後の回転は、プロペラシャフト4,アクスル5を介してタイヤ113,123に伝達され、ホイールローダが走行する。エンジン1の回転数は、エンジン回転数センサ25で検出される。
【0010】
作業用油圧ポンプ6はエンジン1により駆動され、油圧ポンプ6からの吐出油は方向制御弁7を介して作業用アクチュエータ8(例えばアームシリンダ114)に導かれる。方向制御弁7は操作レバー9の操作により駆動され、操作レバー9の操作量に応じてアクチュエータ8を駆動できる。バケット112の高さは、バケット高さを検出するためのセンサ(バケット高さ検出用センサ)26の検出値に基づいてコントローラ10で算出される。バケット高さ検出用センサ26は、たとえば、前部車体110に対するアーム111の角度を検出するセンサ、および、アーム111に対するバケット112の角度を検出するセンサである。すなわち、バケット112の高さは、これら各センサの検出値と、予め記憶されているアーム111の長さや形状、取付位置などの情報に基づいてコントローラ10で算出される。
【0011】
トルコン2は入力トルクに対し出力トルクを増大させる機能、つまりトルク比を1以上とする機能を有する。トルク比は、トルコン2の入力軸の回転数Niと出力軸の回転数Ntの比であるトルコン速度比e(=Nt/Ni)の増加に伴い小さくなる。たとえばエンジン回転数が一定状態で走行中に走行負荷が大きくなると、トルコン2の出力軸の回転数、つまり車速が減少し、トルコン速度比eが小さくなる。このとき、トルク比は増加するため、より大きな駆動力(牽引力)で車両走行可能となる。
【0012】
トランスミッション3は、各速度段に対応したソレノイド弁を有する自動変速機である。これらソレノイド弁は、コントローラ10からトランスミッション制御装置20へ出力される制御信号によって駆動され、これにより1速〜4速の間で速度段が自動的に変更される。本実施の形態では、トランスミッション3の速度段は、たとえば1速度段から4速度段まで設けられている。
【0013】
自動変速制御には、トルコン速度比eが所定値に達すると変速するトルコン速度比基準制御と、車速が所定値に達すると変速する車速基準制御の2つの方式がある。本実施の形態では、車速基準制御によりトランスミッション3の速度段を制御する。
【0014】
図3は、車速vと速度段の関係を示す図である。本実施の形態では、コントローラ10が車速vに応じてトランスミッション制御装置20に制御信号を出力し、図3に示すように車速vに応じてトランスミッション3を変速する。すなわち車速vが変速許可車速v12に上昇すると、1速から2速にシフトアップし、車速vが変速許可車速v12から変速許可車速v23に上昇すると、2速から3速にシフトアップし、車速vが変速許可車速v23から変速許可車速v34に上昇すると、3速から4速にシフトアップする。一方、車速vが変速許可車速v43に低下すると、4速から3速にシフトダウンし、車速vが変速許可車速v32に低下すると、3速から2速にシフトダウンし、車速vが変速許可車速v21に低下すると、2速から1速にシフトダウンする。なお、シフトチェンジを安定して行うように、変速許可車速v12,v23,v34はそれぞれ変速許可車速v21,v32,v43よりも大きく設定されている。これらの各変速許可車速はシフトアップまたはシフトダウンを許可する閾値であり、予めコントローラ10に設定されている。トランスミッション制御装置20は、各速度段に対応したソレノイド弁で構成されており、コントローラ10からの制御信号によって駆動される。
【0015】
本実施の形態では、コントローラ10は、エンジン1の回転数が低ければ各変速許可車速を低下させ、エンジン1の回転数が高ければ各変速許可車速を上昇させる。このように、コントローラ10がエンジン1の回転数に応じて各変速許可車速を変更することで、燃料消費量低減に効果がある。
【0016】
図4は、本実施の形態のホイールローダ100の走行性能を示す図である。説明の便宜上、図4では、シフトアップ時の変速許可速度(シフトアップ許可速度)のみを記載しているが、シフトダウン時の変速許可速度(シフトダウン許可速度)につても同様である。各速度段における走行性能を示す曲線の交点x1,x2,x3はエンジン1の回転数が下がると矢印a1,a2,a3で示すように移動する。各変速許可速度は、概ねこの交点x1,x2,x3に設定されている。図4において、A,B,Cで示す車速の範囲は、エンジン1の回転数に応じて変速許可速度v12,v23,v34が変化する範囲をそれぞれ示している。
【0017】
本実施の形態では、バケット112の高さとして予め第1設定高さおよび第2設定高さを定めている。そして、バケット112の高さが第1設定高さを超えると、コントローラ10はエンジン1の回転数にかかわらず変速許可速度v23,v34を図4に示す変速許可速度v23a,v34aのように上昇させて(引き上げて)、2速から3速へ、および、3速から4速へのシフトアップが起こり難くなるようにしている。また、バケット112の高さが第1設定高さよりも高い第2設定高さを超えると、コントローラ10は2速から3速へのシフトアップ、および、3速から4速へのシフトアップを禁止する。ここで、変速許可速度v23a,v34aは、エンジン1の回転数に応じて変化する変速許可速度v23,v34の最大値に対して、たとえばそれぞれ10%程度高い値になるように設定されている。なお、バケット112の高さが第2設定高さを超えても、シフトダウンは禁止されない。
【0018】
第1設定高さは、たとえば、運搬姿勢におけるバケット112の高さ、すなわち、バケット112の下端(下面)がホイールローダ100の地上最低高付近に位置する時のバケット112の高さに設定されている。なお、第1設定高さを運搬姿勢におけるバケット112の高さと、アーム111が略水平となる最大リーチ時におけるバケット112の高さとの間の高さに設定してもよい。ここで、アーム111が略水平になる状態とは、アーム111の基端の揺動中心と先端のバケット112の揺動中心とが略水平になる状態のことである。第2設定高さは、たとえば上記最大リーチ時におけるバケット112の高さに設定されている。
【0019】
図2に示すコントローラ10は、CPU,ROM,RAM,その他の周辺回路などを有する演算処理装置を含んで構成される。コントローラ10には、アクセルペダル11の操作量を検出するペダル操作量検出器12と、トルコン2の不図示の入力軸の回転数Niを検出する回転数検出器13と、トルコン2の不図示の出力軸の回転数Ntを検出する回転数検出器14と、トランスミッション3の出力軸の回転速度、つまり車速vを検出する車速検出器15とが接続されている。コントローラ10には、車両の前後進を指令する前後進切換スイッチ17と、1速〜4速の間で最大速度段を指令するシフトスイッチ18と、上述したエンジン回転数センサ25およびバケット高さ検出用センサ26と、トランスミッション3における変速を自動で行うか手動で行うかを切り替えるマニュアル・自動変速手段切替装置27とが接続されている。
【0020】
コントローラ10は、アクセルペダル11の操作量に応じてエンジン1の回転速度(回転数)を制御する。また、上述したように、コントローラ10は、エンジン回転数センサ25で検出したエンジン1の回転数、および、バケット高さ検出用センサ26の検出値に基づいて算出されるバケット112の高さに応じて各変速許可車速を変更する。さらに、コントローラ10は、後述するように、トランスミッション制御装置20にシフトアップ信号を出力しないことによって、トランスミッション3におけるシフトアップを禁止する。
【0021】
図5は、土砂等をダンプトラックへ積み込む方法の1つであるVシェープローディングについて示す図である。Vシェープローディングでは、まず、矢印aで示すように、ホイールローダ100を前進させて土砂等をすくい込み、その後、矢印bで示すように、ホイールローダ100を一旦後退させる。そして、矢印cで示すように、ダンプトラックに向けてホイールローダ100を前進させて、すくい込んだ土砂等をダンプトラックに積み込み、矢印dで示すように、ホイールローダ100を元の位置に後退させる。
【0022】
図5の矢印cで示す土砂等のダンプトラックへの積み込みの際に、従来のホイールローダ100ではトランスミッション3の速度段がどのように変化するのかを、図6を参照して説明する。ダンプトラックへ土砂等を積み込む際には、バケット112を上昇させながらダンプトラックに向かってホイールローダ100を前進させている。ダンプトラックに向かって前進し始めたとき(スタート時)の速度段は、1速または2速である。アクセルペダル11の踏み込み量が少なくエンジン1の回転数が低いと、上述したように変速許可車速v23が低下する。そのため、ダンプトラックへの積み込みに必要な高さまでバケット112が上昇する前に車速が変速許可車速v23に達して、2速から3速へシフトアップすることになる。
【0023】
このシフトアップによって車速がさらに増すこととなるため、ダンプトラックへの積み込みに必要な高さまでバケット112が上昇する前にホイールローダ100がダンプトラックに到達してしまう恐れがある。この場合には、ホイールローダ100のオペレータは、ブレーキを掛けてホイールローダ100を停止させてバケット112を上昇させなければならない。そのため、作業効率が低下するだけでなく、ホイールローダ100のオペレータに煩わしさを感じさせてしまう。
【0024】
従来技術として、バケット112の高さが設定高さ以上となった場合には、その時の速度段を維持するように構成された変速装置が知られている。しかし、ホイールローダ100に当該変速装置を用いたとしても、図6に示すように、バケット112が設定高さに達する前に車速が変速許可車速v23に達して、2速から3速へシフトアップしてしまうと、上述した不具合を解消できない。また、設定高さを低くしてしまうと、バケット112を低い高さ位置として行う掘削作業や高速走行時に、オペレータの意図とは異なる速度段に保持されてしまうという別の不具合を招くこととなる。
【0025】
これに対して、本実施の形態のホイールローダ100では、図5の矢印cで示す土砂等のダンプトラックへの積み込みの際に、トランスミッション3の速度段が次のように変化する。以下、図7を参照して説明する。本実施の形態のホイールローダ100では、上述したように、バケット112の高さが第1設定高さを超えると、変速許可速度v23,v34を図4に示す変速許可速度v23a,v34aのように上昇させている。また、バケット112の高さが第2設定高さを超えると、2速から3速へのシフトアップ、および、3速から4速へのシフトアップを禁止している。
【0026】
第1設定高さが上述したようにバケット112の下端がホイールローダ100の地上最低高付近に位置するときのバケット112の高さに設定されているため、ホイールローダ100がダンプトラックに向かって前進し始めるとともに、バケット112が上昇し始めると、バケット112はすぐに第1設定高さに達する。バケット112の高さが第1設定高さを超えると、変速許可速度v23がv23aへ上昇するので、2速から3速へのシフトアップのタイミングが従来のホイールローダ100と比べて遅延し、シフトアップに伴う車速上昇を抑制できる。すなわち、ホイールローダ100がダンプトラックに向かって前進し始めてからすぐに、2速から3速へのシフトアップのタイミングが従来のホイールローダ100と比べて遅延するようになる。また、バケット112の高さが第2設定高さを超えると2速から3速へのシフトアップが禁止されるので、ダンプトラックへの積み込みに必要な高さまでバケット112が上昇する前にシフトアップによる増速によってホイールローダ100がダンプトラックに到達してしまう、という不具合を防止できる。
【0027】
−−−フローチャート−−−
図8は、本実施の形態のホイールローダ100におけるトランスミッション3の変速制御処理の動作を示したフローチャートである。ホイールローダ100の不図示のイグニッションスイッチがオンされると、図8に示す処理を行うプログラムが起動され、コントローラ10で繰り返し実行される。ステップS1において、エンジン回転数センサ25で検出したエンジン1の回転数を読み込んでステップS3へ進む。ステップS3において、ステップS1で読み込んだエンジン1の回転数に応じて、図4で示すように各変速許可速度を変更して設定し、ステップS5へ進む。
【0028】
ステップS5において、バケット高さ検出用センサ26の検出値に基づいてバケット112の高さを算出してステップS7へ進む。ステップS7において、ステップS5で算出したバケット112の高さが第1設定高さを超えたか否かを判断する。ステップS7が肯定判断されるとステップ9へ進み、変速許可速度v23,v34を上述した変速許可速度v23a,v34aに変更して設定し、ステップS11へ進む。ステップS11において、ステップS5で算出したバケット112の高さが第2設定高さを超えたか否かを判断する。ステップS11が肯定判断されるとステップ13へ進み、トランスミッション制御装置20から出力される速度段の選択状態の情報に基づいて、現在トランスミッション3で選択されている速度段が2速または3速であるか否かを判断する。
【0029】
ステップS13が肯定判断されると、すなわち、トランスミッション3の速度段が2速または3速である場合には、シフトアップを禁止するように設定してステップS17へ進む。ステップS17において、ステップS3で設定された各変速許可速度に基づいて、周知の変速制御演算を行い、変速の必要があればシフトアップまたはシフトダウンを指示する制御信号をトランスミッション制御装置20に出力してリターンする。なお、ステップS17では、ステップS9が実行されていれば、その実行結果を反映した変速制御演算を行う。これにより、上述したように、2速から3速へ、および、3速から4速へのシフトアップが起こり難くなる。また、ステップS17では、ステップS15が実行されていれば、その実行結果を反映した変速制御演算を行う。これにより、2速から3速へのシフトアップ、および、3速から4速へのシフトアップが禁止される。
【0030】
ステップS7,S11,S13のいずれかが否定判断されるとステップS17へ進む。
【0031】
本実施の形態によれば以下のような作用効果を奏することができる。
(1) バケット112の高さが第1設定高さを超えると、変速許可速度を上昇させて、シフトアップが起こり難くなるように構成した。これにより、たとえば、Vシェープローディングにおいてアクセルペダル11を大きく踏み込まない状態であっても、変速許可速度の低下によるオペレータの意図に反するシフトアップ、およびこのシフトアップに起因するホイールローダ100の増速を抑制できる。したがって、ダンプトラックへの積み込みに必要な高さまでバケット112が上昇する前にホイールローダ100がダンプトラックに到達してしまう、という不具合を防止して、作業効率の低下を防止できる。
【0032】
(2) バケット112の高さが第1設定高さを超えると、1速度段から4速度段まで設けられているトランスミッション3における、2速から3速へのシフトアップが起こり難くなるように構成した。これにより、たとえば、Vシェープローディングのダンプトラックへの接近時に多用する2速走行時にオペレータの意図に反するシフトアップを効果的に抑制できるので、上述した不具合を効果的に防止できる。
【0033】
(3) シフトアップによる増速や、この増速を抑えるためのブレーキングによる減速でホイールローダ100のピッチングが誘発されるが、バケット112の高さが高いと、このピッチングが大きくなって、ホイールローダ100が不安定となる傾向にある。しかし、本実施の形態のホイールローダ100では、バケット112の高さが第2設定高さを超えると、2速から3速へのシフトアップ、および、3速から4速へのシフトアップを禁止するように構成した。したがって、たとえば、Vシェープローディングのダンプトラックへの接近時に、ホイールローダ100がダンプトラックに接近するまでオペレータの意図に反するシフトアップを禁止できる。これにより、上述したピッチングによる不具合を防止できる。
【0034】
−−−変形例−−−
(1) 上述の説明では、トランスミッション3における選択可能な速度段の段数は4段であったが、本発明はこれに限定されず、3段でもよく、5段以上であってもよい。なお、トランスミッション3における選択可能な速度段の段数が4段以外である場合に、たとえば、ダンプトラックへの接近時に多用する速度段が2速以外となる時には、当該多用する速度段において、オペレータの意図に反するシフトアップを抑制できるようにすればよい。
【0035】
(2) 上述の説明では、作業車両の一例としてホイールローダ100を例に説明したが、本発明はこれに限定されず、たとえば、フォークリフト等、他の作業車両であってもよい。
【0036】
(3) 上述の説明では、変速許可速度v23a,v34aが、エンジン1の回転数に応じて変化する変速許可速度v23,v34の最大値に対して、たとえばそれぞれ10%程度高い値になるように設定されているが、本発明はこれに限定されない。たとえば、変速許可速度v23aを、エンジン1の回転数に応じて変化する変速許可速度v23の最大値と、2速における最大車速V2(図4参照)との略中間程度に設定してもよい。同様に、たとえば、変速許可速度v34aを、エンジン1の回転数に応じて変化する変速許可速度v34の最大値と、3速における最大車速V3(図4参照)との略中間程度に設定してもよい。
(4) 上述した各実施の形態および変形例は、それぞれ組み合わせてもよい。
【0037】
なお、本発明は、上述した実施の形態のものに何ら限定されず車速を検出する車速検出手段と、エンジンの回転速度を検出するエンジン回転速度検出手段と、トランスミッションの速度段をシフトアップおよびシフトダウンする変速手段と、車速検出手段で検出された車速がシフトアップ許可車速以上となると、変速手段によるシフトアップを許可する変速制御手段と、作業機装置の高さ位置を検出する作業機装置高さ位置検出手段と、作業機装置高さ位置検出手段で検出された作業機装置の高さ位置が第1の設定値以上である場合には、シフトアップ許可車速を引き上げるシフトアップ許可車速変更手段とを備えることを特徴とする各種構造の変速制御装置を含むものである。
【符号の説明】
【0038】
1 エンジン 3 トランスミッション
10 コントローラ 11 アクセルペダル
15 車速検出器 20 トランスミッション制御装置
25 エンジン回転数センサ 26 バケット高さ検出用センサ
100 ホイールローダ 111 アーム
112 バケット

【特許請求の範囲】
【請求項1】
車速を検出する車速検出手段と、
エンジンの回転速度を検出するエンジン回転速度検出手段と、
トランスミッションの速度段をシフトアップおよびシフトダウンする変速手段と、
前記車速検出手段で検出された前記車速がシフトアップ許可車速以上となると、前記変速手段によるシフトアップを許可する変速制御手段と、
作業機装置の高さ位置を検出する作業機装置高さ位置検出手段と、
前記作業機装置高さ位置検出手段で検出された前記作業機装置の高さ位置が第1の設定値以上である場合には、前記シフトアップ許可車速を引き上げるシフトアップ許可車速変更手段とを備えることを特徴とする産業車両の変速制御装置。
【請求項2】
請求項1に記載の産業車両の変速制御装置において、
前記トランスミッションの速度段は3速以上であり、
前記シフトアップ許可車速は、前記変速制御手段が前記トランスミッションの速度段の2速から3速へのシフトアップを許可する際の閾値であることを特徴とする産業車両の変速制御装置。
【請求項3】
請求項1に記載の産業車両の変速制御装置において、
前記変速制御手段は、前記作業機装置高さ位置検出手段で検出された前記作業機装置の高さ位置が前記第1の設定値よりも高い第2の設定値以上である場合には、前記変速手段によるシフトアップを禁止することを特徴とする産業車両の変速制御装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【公開番号】特開2011−1712(P2011−1712A)
【公開日】平成23年1月6日(2011.1.6)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−144090(P2009−144090)
【出願日】平成21年6月17日(2009.6.17)
【出願人】(000003241)TCM株式会社 (319)
【出願人】(000005522)日立建機株式会社 (2,611)
【Fターム(参考)】