説明

異方性ウェットエッチング方法およびMEMSデバイスの製造方法

【課題】特殊な酸化剤を用いることなく微細突起の発生を抑制できる異方性ウェットエッチング方法およびMEMSデバイスの製造方法を提供する。
【解決手段】MEMSデバイスを構成する赤外線センサAは、シリコン基板1aを用いて形成されており、シリコン基板1aの一表面側において熱型赤外線検出部3の一部の直下に空洞部11が形成されている。MEMSデバイスの製造方法において、シリコン基板1の一部を異方性エッチングして空洞部11を形成する異方性エッチング工程では、アルカリ系溶液としてSiを溶解させたTMAH水溶液を用いるようにし、シリコン基板1aを所定深さdpまで異方性エッチングする途中で、シリコン基板1aを乾燥させることなく少なくとも1回の洗浄工程を行う。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、異方性ウェットエッチング方法およびMEMSデバイスの製造方法に関するものである。
【背景技術】
【0002】
従来から、シリコン基板を用いて形成されるMEMS(micro electro mechanical systems)デバイスとして、例えば、加速度センサ、圧力センサ、ジャイロセンサ、光スキャナ、マイクロバルブ、マイクロリレー、赤外線センサなどが広く知られている。
【0003】
ここにおいて、MEMSデバイスは、マイクロマシニング技術を利用して製造されるが、当該マイクロマシニング技術の1つとして、シリコン基板をアルカリ系溶液により異方性エッチングする異方性ウェットエッチング技術がある。この種の異方性ウェットエッチング技術で使用可能なアルカリ系溶液としては、KOH水溶液、TMAH水溶液、EDP水溶液などがあるが、KOH水溶液はSiOに対するエッチング選択比が比較的小さく、EDP水溶液は発がん性があるので、SiOに対するエッチング選択比がKOH水溶液に比べて高く且つ発がん性のないTMAH水溶液が広く用いられている。また、TMAH水溶液は、MEMSデバイスの製造時に、Al膜からなる機能部(パッドや配線など)を浸食しないように、Siを溶解させて用いられることも多い(例えば、特許文献1参照)。
【0004】
ところで、アルカリ系溶液を用いた異方性ウェットエッチングでは、エッチング底面に微細突起が発生してMEMSデバイスの製造歩留まりが低下してしまう場合があることが知られている。
【0005】
上記特許文献1に開示された異方性ウェットエッチング方法では、アルカリ系溶液として、TMAH水溶液にSiと酸化剤とを添加したエッチャントを用いて一表面が(100)面のシリコン基板を上記一表面側から異方性エッチングする際に、上記エッチャントとしてTMAH水溶液に過硫酸アンモニウムからなる酸化剤を添加した後でSiを添加したものを用いると、エッチング底面に大量のピラミッド状の微細突起(マイクロピラミッド)が発生するのに対して、上記エッチャントとしてTMAH水溶液にSiを添加した後で過硫酸アンモニウムからなる酸化剤を添加したものか、もしくは、TMAH水溶液にSiと硝酸アンモニウムからなる酸化剤とを添加したものを用いれば、微細突起がほとんど発生しないことが記載されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【特許文献1】特開2004−119674号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
しかしながら、上記特許文献1に記載されたMEMSデバイスの製造時に行う異方性ウェットエッチングでは、アルカリ系溶液として、TMAH水溶液に対して過硫酸アンモニウムや硝酸アンモニウムのような特殊な酸化剤を添加したものを用いる必要があり、アルカリ系溶液の取り扱いが面倒になり、廃液処理設備などを含めた設備投資が増加し、製造コストが高くなってしまう可能性がある。
【0008】
本発明は上記事由に鑑みて為されたものであり、その目的は、特殊な酸化剤を用いることなく微細突起の発生を抑制できる異方性ウェットエッチング方法およびMEMSデバイスの製造方法を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0009】
請求項1の発明は、シリコン基板をアルカリ系溶液により異方性エッチングする異方性ウェットエッチング方法であって、シリコン基板を所定深さまで異方性エッチングする途中で、シリコン基板を乾燥させることなく少なくとも1回の洗浄工程を行うことを特徴とする。
【0010】
この発明によれば、シリコン基板を所定深さまで異方性エッチングする途中で、シリコン基板を乾燥させることなく少なくとも1回の洗浄工程を行うことにより、微細突起の発生原因となる反応生成物の除去することができ(滞留時間を短くでき)、特殊な酸化剤を用いることなく微細突起の発生を抑制できる。また、シリコン基板を乾燥させずに洗浄工程を行うので、シリコン基板から部分的あるいは完全に分離した構造体がシリコン基板に付着するスティッキングの発生を防止しつつ微細突起の発生を抑制することが可能となる。また、洗浄工程を追加する回数を複数回にすることにより、微細突起の発生をより抑制することができ、シリコン基板の加工形状のばらつきを低減できる。
【0011】
請求項2の発明は、請求項1の発明において、前記洗浄工程で用いる液体が水であることを特徴とする。
【0012】
この発明によれば、前記洗浄工程で特別な液体を用いることなく微細突起の発生を抑制することができ、しかも、液体の取り扱いが容易になる。
【0013】
請求項3の発明は、請求項1または請求項2の発明において、前記洗浄工程では、前記液体の攪拌を行いながら洗浄を行うことを特徴とする。
【0014】
この発明によれば、前記洗浄工程において反応生成物をより確実に除去することができる。
【0015】
請求項4の発明は、請求項1ないし請求項3の発明において、前記アルカリ系溶液がSiを溶解させたTMAH水溶液であることを特徴とする。
【0016】
この発明によれば、前記シリコン基板の上記一表面側にAl膜が露出している場合でもAl膜の浸食を防止しつつ微細突起の発生を抑制できる。また、KOH水溶液を用いる場合に比べて、SiOに対するエッチング選択比を大きくできる。
【0017】
請求項5の発明は、シリコン基板を用いて製造するMEMSデバイスの製造方法であって、シリコン基板の一表面側にAl膜からなる機能部を露出させた後で、シリコン基板の一部を上記一表面側から異方性エッチングする異方性エッチング工程を備え、異方性エッチング工程では、請求項4記載の異方性ウェットエッチング方法によりシリコン基板の前記一部を異方性エッチングすることを特徴とする。
【0018】
この発明によれば、異方性エッチング工程では、請求項4記載の異方性ウェットエッチング方法によりシリコン基板の前記一部を異方性エッチングするので、異方性エッチング工程において特殊な酸化剤を用いることなくAl膜からなる機能部の浸食を防止しつつ微細突起の発生を抑制でき、歩留まりの向上を図れるから、低コストのMEMSデバイスを提供できる。
【発明の効果】
【0019】
請求項1の発明は、特殊な酸化剤を用いることなく微細突起の発生を抑制できるという効果がある。
【0020】
請求項5の発明は、異方性エッチング工程において特殊な酸化剤を用いることなくAl膜からなる機能部の浸食を防止しつつ微細突起の発生を抑制でき、低コストのMEMSデバイスを提供できるという効果がある。
【図面の簡単な説明】
【0021】
【図1】実施形態における赤外線センサの画素部の要部を示し、(a)は平面レイアウト図、(b)は(a)のD−D’断面に対応する概略断面図である。
【図2】同上における赤外線センサにおける画素部の平面レイアウト図である。
【図3】同上における赤外線センサの画素部の要部の平面レイアウト図である。
【図4】同上における赤外線センサの画素部の要部の平面レイアウト図である。
【図5】同上における赤外線センサの画素部の平面レイアウト図である。
【図6】同上における赤外線センサの平面レイアウト図である。
【図7】同上における赤外線センサの画素部の要部を示し、(a)は平面レイアウト図、(b)は(a)のD−D’断面に対応する概略断面図である。
【図8】同上における赤外線センサの冷接点を含む要部を示し、(a)は平面レイアウト図、(b)は概略断面図である。
【図9】同上における赤外線センサの温接点を含む要部を示し、(a)は平面レイアウト図、(b)は概略断面図である。
【図10】同上における赤外線センサの画素部の要部の概略断面図である。
【図11】同上における赤外線センサの画素部の要部の概略断面図である。
【図12】同上における赤外線センサの要部説明図である。
【図13】同上における赤外線センサの等価回路図である。
【図14】同上における赤外線センサの製造方法を説明するための主要工程断面図である。
【図15】同上における赤外線センサの製造方法を説明するための主要工程断面図である。
【図16】同上における赤外線センサの製造方法を説明するための主要工程断面図である。
【図17】同上における赤外線センサの製造方法を説明するための主要工程断面図である。
【図18】同上における赤外線センサの製造方法の説明図である。
【発明を実施するための形態】
【0022】
本実施形態では、シリコン基板をアルカリ系溶液により異方性エッチングする異方性ウェットエッチング方法を利用して製造されるMEMSデバイスの一例として赤外線センサについて例示し、その赤外線センサの製造方法の説明の中で異方性ウェットエッチング方法について詳述する。なお、MEMSデバイスは、必ずしも可動部のような機械要素を備えている必要はなく、本実施形態の赤外線センサのように、マイクロマシニング技術を利用して形成され、且つ、電気要素を備えたものであればよい。
【0023】
以下、図1〜図13に基づいて本実施形態における赤外線センサAを説明する。
【0024】
本実施形態における赤外線センサAは、赤外線アレイセンサであって、熱型赤外線検出部3と画素選択用スイッチング素子であるMOSトランジスタ4とを有する複数の画素部2(図6参照)がベース基板1の一表面側においてアレイ状(ここでは、2次元アレイ状)に配列されている。ここで、ベース基板1は、シリコン基板1aを用いて形成されている。本実施形態では、1つのベース基板1の上記一表面側にm×n個(図6および図13に示した例では、8×8個)の画素部2が形成されているが、画素部2の数や配列は特に限定するものではない。また、本実施形態では、熱型赤外線検出部3の感温部30が、複数個(ここでは、6個)のサーモパイル30a(図2参照)を直列接続することにより構成されており、図13では、熱型赤外線検出部3における感温部30の等価回路を、当該感温部30の熱起電力に対応する電圧源Vsで表してある。なお、本実施形態では、シリコン基板1aが、熱型赤外線検出部3を支持する支持基板を構成している。
【0025】
また、本実施形態の赤外線センサAは、図1、図2および図13に示すように、各列の複数の熱型赤外線検出部3の感温部30の一端が上述のMOSトランジスタ4を介して各列ごとに共通接続された複数の垂直読み出し線7と、各行の熱型赤外線検出部3の感温部30に対応するMOSトランジスタ4のゲート電極46が各行ごとに共通接続された複数の水平信号線6と、各列のMOSトランジスタ4のp形ウェル領域41が各列ごとに共通接続された複数のグラウンド線8と、各グラウンド線8が共通接続された共通グラウンド線9と、各列の複数個の熱型赤外線検出部3の感温部30の他端が各列ごとに共通接続された複数の基準バイアス線5とを備えており、全ての熱型赤外線検出部3の感温部30の出力を時系列的に読み出すことができるようになっている。要するに、本実施形態の赤外線センサAは、ベース基板1の上記一表面側に熱型赤外線検出部3と当該熱型赤外線検出部3に並設され当該熱型赤外線検出部3の出力を読み出すためのMOSトランジスタ4とを有する複数の画素部2が形成されている。
【0026】
ここで、MOSトランジスタ4は、ゲート電極46が水平信号線6に接続され、ソース電極48が感温部30を介して基準バイアス線5に接続され、各基準バイアス線5が共通基準バイアス線5aに共通接続され、ドレイン電極47が垂直読み出し線7に接続されており、各水平信号線6それぞれが各別の画素選択用パッドVselに電気的に接続され、各垂直読み出し線7それぞれが各別の出力用パッドVoutに電気的に接続され、共通グラウンド線9がグラウンド用パッドGndに電気的に接続され、共通基準バイアス線5aが基準バイアス用パッドVrefと電気的に接続され、シリコン基板1aが基板用パッドVddに電気的に接続されている。
【0027】
しかして、MOSトランジスタ4が順次オン状態になるように各画素選択用パッドVselの電位を制御することで各画素部2の出力電圧を順次読み出すことができる。例えば、基準バイアス用パッドVrefの電位を1.65、グラウンド用パッドGndの電位を0V、基板用パッドVddの電位を5Vとしておき、画素選択用パッドVselの電位を5Vとすれば、MOSトランジスタ4がオンとなり、出力用パッドVoutから画素部2の出力電圧(1.65V+感温部30の出力電圧)が読み出され、画素選択用パッドVselの電位を0Vとすれば、MOSトランジスタ4がオフとなり、出力用パッドVoutから画素部2の出力電圧は読み出されない。なお、図6では、画素選択用パッドVsel、基準バイアス用パッドVref、グラウンド用パッドGnd、出力用パッドVoutなどを区別せずに全てパッド80として図示してある。
【0028】
以下、熱型赤外線検出部3およびMOSトランジスタ4それぞれの構造について説明する。なお、本実施形態では、上述のシリコン基板1aとして、導電形がn形で上記一表面が(100)面の単結晶シリコン基板を用いている。
【0029】
熱型赤外線検出部3は、シリコン基板1aの上記一表面側の各画素部2それぞれにおける熱型赤外線検出部3の形成用領域A1に形成されており、MOSトランジスタ4は、シリコン基板1aの上記一表面側の各画素部2それぞれにおけるMOSトランジスタ4の形成用領域A2に形成されている。
【0030】
ところで、各画素部2は、赤外線を吸収する赤外線吸収部33(図1(b)および図2参照)を備えており、各画素部2では、シリコン基板1aに赤外線吸収部33を当該ベース基板1から熱絶縁するための空洞部(掘込部)11が形成され、シリコン基板1aの上記一表面側で平面視において空洞部11の内周線の内側に赤外線吸収部33を有し空洞部11を覆う薄膜構造部3aが形成されている。また、各画素部2では、薄膜構造部3aが複数の線状のスリット13により空洞部11の内周方向に沿って並設されそれぞれ熱型赤外線検出部3において空洞部11を囲む部位(平面視で空洞部11を囲む部位)から内方へ延長された複数(図2に示した例では、6つ)の小薄膜構造部3aaに分離され、各小薄膜構造部3aaごとにサーモパイル30aが設けられるとともに、各サーモパイル30aごとに出力を取り出す場合に比べて温度変化に対する出力変化が大きくなるように全てのサーモパイル30aが直列接続されており、隣接する小薄膜構造部3aa,3aa同士を連結する連結片3cが形成されている。以下では、赤外線吸収部33のうち各小薄膜構造部3aaそれぞれに対応して分割された各部位を分割赤外線吸収部33aと称する。
【0031】
本実施形態では、薄膜構造部3aに形成された複数のサーモパイル30aの全て、上述の例では、6つ全てのサーモパイル30aを直列接続した接続関係としてあるが、これに限らず、例えば、それぞれ3個のサーモパイル30aの直列回路を並列接続するようにしてもよく、この場合には、6つ全てのサーモパイル30aが並列接続されている場合や各サーモパイル30aごとに出力を取り出す場合に比べて感度を高めることができ、また、6つ全てのサーモパイル30aが直列接続されている場合に比べて、感温部30の電気抵抗を低くできて熱雑音が低減されるから、S/N比が向上する。ここにおいて、薄膜構造部3aにおける小薄膜構造部3aaの数に等しいサーモパイル30aの数は4以上の偶数であればよく、半数のサーモパイル30aを直列接続し、その直列回路を並列接続した接続関係とすれば、同様に感度を高めることができるとともにS/N比を向上できる。
【0032】
ここで、画素部2では、小薄膜構造部3aaごとに、熱型赤外線検出部3において空洞部11を囲む部位と分割赤外線吸収部33aとを連結する2つの平面視短冊状のブリッジ部3bb,3bbが空洞部11の内周方向に離間して形成されており、当該2つのブリッジ部3bb,3bbと分割赤外線吸収部33aとを空間的に分離し空洞部11に連通する平面視コ字状のスリット14が形成されている。ここにおいて、熱型赤外線検出部3のうち平面視において薄膜構造部3aを囲む部位は矩形枠状の形状となっている。なお、ブリッジ部3bbは、赤外線吸収部33および熱型赤外線検出部3において空洞部11を囲む部位それぞれとの連結部位以外の部分が上述の各スリット13,14により分割赤外線吸収部33aおよび熱型赤外線検出部3において空洞部11を囲む部位と空間的に分離されている。ここで、小薄膜構造部3aaの熱型赤外線検出部3において空洞部11を囲む部位からの延長方向の寸法を93μm、小薄膜構造部3aaの延長方向に直交する幅方向の寸法を75μm、各ブリッジ部3bbの幅寸法を23μm、各スリット13,14の幅を5μmに設定してあるが、これらの値は一例であって特に限定するものではない。
【0033】
上述の薄膜構造部3aは、シリコン基板1aの上記一表面側に形成されたシリコン酸化膜1bと、当該シリコン酸化膜1b上に形成されたシリコン窒化膜32と、当該シリコン窒化膜32上に形成された感温部30と、シリコン窒化膜32の表面側で感温部30を覆うように形成されたBPSG膜からなる層間絶縁膜50と、層間絶縁膜50上に形成されたPSG膜と当該PSG膜上に形成されたNSG膜との積層膜からなるパッシベーション膜60との積層構造部をパターニングすることにより形成されている。
【0034】
本実施形態では、シリコン窒化膜32のうち薄膜構造部3aのブリッジ部3bb,3bb以外の部位が上述の赤外線吸収部33を構成し、シリコン基板1aとシリコン酸化膜1bとシリコン窒化膜32と層間絶縁膜50とパッシベーション膜60とでベース基板1を構成している。また、本実施形態では、層間絶縁膜50とパッシベーション膜60との積層膜が、熱型赤外線検出部3の形成用領域A1とMOSトランジスタ4の形成用領域A2とに跨って形成されているが、熱型赤外線検出部3の形成用領域A1に形成された部分が赤外線吸収膜70(図1(b)参照)を兼ねている。ここで、赤外線吸収膜70の屈折率をn、検出対象の赤外線の中心波長をλとするとき、赤外線吸収膜70の厚さt2をλ/4nに設定するようにしているので、検出対象の波長(例えば、8〜12μm)の赤外線の吸収効率を高めることができ、高感度化を図れる。例えば、n=1.4、λ=10μmの場合には、t2≒1.8μmとすればよい。なお、本実施形態では、層間絶縁膜50の膜厚を0.8μm、パッシベーション膜60の膜厚を1μm(PSG膜の膜厚を0.5μm、NSG膜の膜厚を0.5μm)としてある。また、赤外線吸収膜70は、上述の構成に限らず、例えば、シリコン窒化膜により構成してもよい。
【0035】
また、各画素部2では、空洞部11の内周形状が矩形状であり、連結片3cは、平面視十字状に形成されており、小薄膜構造部3aaの延長方向に交差する斜め方向において隣接する小薄膜構造部3aa,3aa同士、小薄膜構造部3aaの延長方向において隣接する小薄膜構造部3aa,3aa同士、小薄膜構造部3aaの延長方向に直交する方向において隣接する小薄膜構造部3aa,3aa同士を連結している。
【0036】
サーモパイル30aは、シリコン窒化膜32上に形成され小薄膜構造部3aaとベース基板1とに跨って形成された細長のn形ポリシリコン層(第1の熱電要素)34と細長のp形ポリシリコン層(第2の熱電要素)35との一端部同士を分割赤外線吸収部33aの赤外線入射面側で金属材料(例えば、Al−Siなど)からなる第1の接続金属部36により電気的に接続した複数個(図2に示した例では、9個)の熱電対を有しており、ベース基板1の上記一表面側で互いに隣り合う熱電対のn形ポリシリコン層34の他端部とp形ポリシリコン層35の他端部とが金属材料(例えば、Al−Siなど)からなる第2の接続金属部37により接合され電気的に接続されている。ここで、サーモパイル30aは、n形ポリシリコン層34の上記一端部とp形ポリシリコン層35の上記一端部と第1の接続金属部36とで分割赤外線吸収部33a側の温接点T1を構成し、n形ポリシリコン層34の上記他端部とp形ポリシリコン層35の上記他端部と第2の接続金属部37とでベース基板1側の冷接点T2を構成している。要するに、サーモパイル30aの各温接点T1は、熱型赤外線検出部3において空洞部11に重なる領域に形成され、各冷接点T2は、熱型赤外線検出部3において空洞部11に重ならない領域に形成されている。なお、本実施形態における赤外線センサAでは、サーモパイル30aの各n形ポリシリコン層34および各p形ポリシリコン層35それぞれにおいて上述のブリッジ部3bb,3bbに形成されている部位およびベース基板1のシリコン窒化膜32上に形成されている部位でも赤外線を吸収することができる。
【0037】
また、本実施形態における赤外線センサAでは、上述の空洞部11の形状が四角錘状であり、平面視における中央部の方が周部に比べて深さ寸法が大きくなっているので、薄膜構造部3aの中央部に温接点T1が集まるように各画素部2におけるサーモパイル30aの平面レイアウトを設計してある。すなわち、図2の上下方向における真ん中の2つの小薄膜構造部3aaでは、図2および図3に示すように、3つの小薄膜構造部3aaの並設方向に沿って温接点T1を並べて配置してあるのに対し、当該上下方向における上側の2つの小薄膜構造部3aaでは、図2および図4に示すように、3つの小薄膜構造部3aaの並設方向において真ん中の小薄膜構造部3aaに近い側に温接点T1を集中して配置してあり、当該上下方向における下側の2つの小薄膜構造部3aaでは、図2に示すように、3つの小薄膜構造部3aaの並設方向において真ん中の小薄膜構造部3aaに近い側に温接点T1を集中して配置してある。しかして、本実施形態における赤外線センサAでは、図2の上下方向における上側、下側の小薄膜構造部3aaの複数の温接点T1の配置が、真ん中の小薄膜構造部3aaの複数の温接点T1の配置と同じである場合に比べて、温接点T1の温度変化を大きくできるので、感度を向上できる。なお、本実施形態では、空洞部11の最深部の深さを所定深さdp(図1(b)参照)とするとき、所定深さdpを200μmに設定してあるが、この値は一例であり、特に限定するものではない。
【0038】
また、小薄膜構造部3aaは、シリコン窒化膜32の赤外線入射面側においてサーモパイル30aを形成していない領域に、小薄膜構造部3aaの反りを抑制するとともに赤外線を吸収するn形ポリシリコン層からなる赤外線吸収層39(図1、図2および図10参照)が形成されている。また、隣接する小薄膜構造部3aa,3aa同士を連結する連結片3cには、当該連結片3cを補強するn形ポリシリコン層からなる補強層39b(図7参照)が設けられている。ここで、補強層39bは、赤外線吸収層39と連続一体に形成されている。しかして、本実施形態における赤外線センサAでは、連結片3cが補強層39bにより補強されているので、使用中の外部の温度変化や衝撃に起因して発生する応力による破損を防止でき、また、製造時の破損を低減でき、製造歩留まりの向上を図れる。なお、本実施形態では、図7に示す連結片3cの長さ寸法L1を24μm、幅寸法L2を5μm、補強層39bの幅寸法L3を1μmに設定してあるが、これらの数値は一例であり、特に限定するものではない。ただし、本実施形態のようにベース基板1がシリコン基板1aを用いて形成され、補強層39bがn形ポリシリコン層により形成される場合には、空洞部11の形成時に補強層39bがエッチングされるのを防止するために、補強層39bの幅寸法は、連結片3cの幅寸法よりも小さく設定し、平面視において補強層39bの両側縁が連結片3cの両側縁よりも内側に位置する必要がある。
【0039】
また、本実施形態における赤外線センサAは、図7および図12(b)に示すように、連結片3cの両側縁と小薄膜構造部3aaの側縁との間にそれぞれ面取り部3d,3dが形成され、十字状の連結片3cの略直交する側縁間にも面取り部3eが形成されている。しかして、本実施形態における赤外線センサAでは、図12(a)に示すように面取り部が形成されていない場合に比べて連結片3cと小薄膜構造部3aaとの連結部位での応力集中を緩和でき、製造時に発生する残留応力を低減できるとともに製造時の破損を低減でき、製造歩留まりの向上を図れる。また、使用中の外部の温度変化や衝撃に起因して発生する応力による破損を防止できる。なお、図7に示した例では、各面取り部3d,3eをRが3μmのR面取り部としてあるが、R面取り部に限らず、例えば、C面取り部としてもよい。
【0040】
ところで、本実施形態における赤外線センサAは、通電されることにより発生するジュール熱により温接点T1を温める自己診断用ヒータ部(故障診断用配線)139を備えている。ここにおいて、自己診断用ヒータ部139は、熱型赤外線検出部3においてシリコン基板1aの空洞部11に重なる領域でサーモパイル30aと重ならないように配置されている。ここで、熱型赤外線検出部3は、全ての小薄膜構造部3aaに跨って自己診断用ヒータ部139が形成されている。
【0041】
具体的には、本実施形態における赤外線センサAは、各画素部2に、熱型赤外線検出部3において空洞部11を囲む部位と一方のブリッジ部3bbと分割赤外線吸収部33aと他方のブリッジ部3bbと熱型赤外線検出部3において空洞部11を囲む部位とに跨るように引き回された自己診断用ヒータ部139を設けて、全ての自己診断用ヒータ部139を直列接続してある。しかして、本実施形態における赤外線センサAでは、製造途中での検査時や使用時において、m×n個の自己診断用ヒータ部139の直列回路への通電の有無によって、ブリッジ部3bbの折れや自己診断用ヒータ部139の断線などを検出することができる。また、本実施形態における赤外線センサでは、上述の検査時や使用時において、m×n個の自己診断用ヒータ部139の直列回路へ通電して各感温部30の出力を検出することにより、感温部30の断線の有無や感度のばらつき(感温部30の出力のばらつき)などを検知することが可能となる。ここにおいて、感度のばらつきに関しては、画素部2ごとの感度のばらつきを検知することが可能であり、例えば、薄膜構造部3aの反りや薄膜構造部3aのシリコン基板1aへのスティッキングなどに起因した感度のばらつきを検知することが可能となる。ここで、本実施形態における赤外線センサAでは、平面視において、自己診断用ヒータ部139を複数の温接点T1の群の付近において折り返され蛇行した形状としてあるので、自己診断用ヒータ部139へ通電することにより発生するジュール熱によって、各温接点T1を効率良く温めることができる。ここにおいて、自己診断用ヒータ部139は、n形ポリシリコン層34およびp形ポリシリコン層35と同一平面上に同一厚さで形成されている。
【0042】
上述の赤外線吸収層39、補強層39bおよび自己診断用ヒータ部139は、第1の熱電要素であるn形ポリシリコン層34と同じn形不純物(例えば、リンなど)を同じ不純物濃度(例えば、1018〜1020cm−3)で含んでおり、n形ポリシリコン層34に同時に形成されている。また、p形ポリシリコン層35のp形不純物として例えばボロンを採用すればよく、不純物濃度を例えば1018〜1020cm−3程度の範囲で適宜設定すればよい。本実施形態では、n形ポリシリコン層34およびp形ポリシリコン層35それぞれの不純物濃度が1018〜1020cm−3であり、熱電対の抵抗値を低減でき、S/N比の向上を図れる。なお、赤外線吸収層39、補強層39bおよび自己診断用ヒータ部139は、n形ポリシリコン層34と同じn形不純物を同じ不純物濃度でドーピングしてあるが、これに限らず、例えば、第2の熱電要素であるp形ポリシリコン層35と同じ不純物を同じ不純物濃度でドーピングするようにしてもよい。
【0043】
ところで、本実施形態では、n形ポリシリコン層34、p形ポリシリコン層35、赤外線吸収層39、補強層39bおよび自己診断用ヒータ部139の屈折率をn、検出対象の赤外線の中心波長をλとするとき、n形ポリシリコン層34、p形ポリシリコン層35、赤外線吸収層39、補強層39bおよび自己診断用ヒータ部139それぞれの厚さt1をλ/4nに設定するようにしているので、検出対象の波長(例えば、8〜12μm)の赤外線の吸収効率を高めることができ、高感度化を図れる。例えば、n=3.6、λ=10μmの場合には、t1≒0.69μmとすればよい。
【0044】
また、本実施形態では、n形ポリシリコン層24、p形ポリシリコン層35、赤外線吸収層39、補強層39bおよび自己診断用ヒータ部139それぞれの不純物濃度が1018〜1020cm−3であるので、赤外線の吸収率を高くしつつ赤外線の反射を抑制することができて、感温部30の出力のS/N比を高めることができ、また、赤外線吸収層39、補強層39bおよび自己診断用ヒータ部139をn形ポリシリコン層34と同一工程で形成できるから、低コスト化を図れる。
【0045】
ここで、感温部30の第1の接続金属部36と第2の接続金属部37とは、シリコン基板1aの上記一表面側において上述の層間絶縁膜50により絶縁分離されている(図8および図9参照)。すなわち、温接点T1側の第1の接続金属部36は、層間絶縁膜50に形成したコンタクトホール50a,50aを通して両ポリシリコン層34,35の上記各一端部と電気的に接続され、冷接点T2側の第2の接続金属部37は、層間絶縁膜50に形成されたコンタクトホール50a,50aを通して両ポリシリコン層34,35の上記各他端部と電気的に接続されている。
【0046】
また、MOSトランジスタ4は、上述のように、シリコン基板1aの上記一表面側における各画素部2それぞれにおけるMOSトランジスタ4の形成用領域A2に形成されている。ここで、MOSトランジスタ4は、図1および図11に示すように、シリコン基板1aの上記一表面側にp形ウェル領域41が形成され、p形ウェル領域41内に、n形ドレイン領域43とn形ソース領域44とが離間して形成されている。また、p形ウェル領域41内には、n形ドレイン領域43とn形ソース領域44とを囲むp++形チャネルストッパ領域42が形成されている。また、p形ウェル領域41においてn形ドレイン領域43とn形ソース領域44との間に位置する部位の上には、シリコン酸化膜(熱酸化膜)からなるゲート絶縁膜45を介してn形ポリシリコン層からなるゲート電極46が形成されている。また、n形ドレイン領域43上には金属材料(例えば、Al−Siなど)からなるドレイン電極47が形成され、n形ソース領域44上には金属材料(例えば、Al−Siなど)からなるソース電極48が形成されている。ここで、ゲート電極46、ドレイン電極47およびソース電極48は、上述の層間絶縁膜50により絶縁分離されている。すなわち、ドレイン電極47は、層間絶縁膜50に形成したコンタクトホール50dを通してn形ドレイン領域43と電気的に接続され、ソース電極48は、層間絶縁膜50に形成したコンタクトホール50eを通してn形ソース領域44と電気的に接続されている。
【0047】
ところで、本実施形態における赤外線センサAの各画素部2では、MOSトランジスタ4のソース電極48と感温部30の一端とが電気的に接続され、感温部30の他端が基準バイアス線5に電気的に接続されている。また、各画素部2では、MOSトランジスタ4のドレイン電極47が垂直読み出し線7と電気的に接続され、ゲート電極46が当該ゲート電極46と連続一体に形成されたn形ポリシリコン配線からなる水平信号線6と電気的に接続されている。また、各画素部2では、MOSトランジスタ4のp++形チャネルストッパ領域42上に金属材料(例えば、Al−Siなど)からなるグラウンド用電極49が形成されており、当該グラウンド用電極49が、当該p++形チャネルストッパ領域42をn形ドレイン領域43およびn形ソース領域44よりも低電位にバイアスして素子分離するための共通グラウンド線8と電気的に接続されている。なお、グラウンド用電極49は、層間絶縁膜50に形成したコンタクトホール50fを通してp++形チャネルストッパ領域42と電気的に接続されている。
【0048】
以上説明した本実施形態における赤外線センサAによれば、通電されることにより発生するジュール熱によって温接点T1を温める自己診断用ヒータ部139を備えているので、自己診断用ヒータ部139へ通電してサーモパイル30aの出力を測定することにより、サーモパイル30aの断線などの故障の有無を判断することが可能となって、信頼性の向上を図れ、しかも、自己診断用ヒータ部139は、熱型赤外線検出部3において支持基板であるシリコン基板1aの空洞部11に重なる領域でサーモパイル30aと重ならないように配置されているので、自己診断用ヒータ部139によるサーモパイル30aの温接点T1の熱容量の増大を防止でき、感度および応答速度の向上を図れる。
【0049】
ここで、本実施形態における赤外線センサAは、使用時において自己診断を行わない通常時は、自己診断用ヒータ部139も外部からの赤外線を吸収するので、複数の温接点T1の温度の均一化を図れ、感度の向上を図れる。なお、本実施形態における赤外線センサAでは、赤外線吸収層39および補強層39bも外部からの赤外線を吸収するので、複数の温接点T1の温度の均一化を図れ、感度の向上を図れる。また、本実施形態における赤外線センサAの使用時の自己診断は、別途の信号処理ICチップ(図示せず)などに設けられた自己診断回路(図示せず)により定期的に行われるが、必ずしも定期的に行う必要はない。
【0050】
また、本実施形態における赤外線センサAでは、薄膜構造部3aが、複数の線状のスリット13により空洞部11の内周方向に沿って並設されそれぞれ熱型赤外線検出部3において空洞部11を囲む部位から内方へ延長された複数の小薄膜構造部3aaに分離され、各小薄膜構造部3aaごとにサーモパイル30aの温接点T1が設けられるとともに、各サーモパイル30aごとに出力を取り出す場合に比べて温度変化に対する出力変化が大きくなる接続関係で全てのサーモパイル30aが電気的に接続されているので、応答速度および感度の向上を図れ、しかも、全ての小薄膜構造部3aaに跨って自己診断用ヒータ部139が形成されているので、熱型赤外線検出部3の全てのサーモパイル30aを一括して自己診断することが可能となる。また、本実施形態の赤外線センサAでは、隣接する小薄膜構造部3aa,3aa同士を連結する連結片3cが形成されていることにより、各小薄膜構造部3aaの反りを低減でき、構造安定性の向上を図れ、感度が安定する。
【0051】
また、本実施形態における赤外線センサAでは、n形ポリシリコン層34とp形ポリシリコン層35と赤外線吸収層39と補強層39bと自己診断用ヒータ部139とが同一の厚さに設定されているので、小薄膜構造部3aaの応力バランスの均一性が向上し、小薄膜構造部3aaの反りを抑制することができ、製品ごとの感度のばらつきや、画素部2ごとの感度のばらつきを低減できる。
【0052】
また、本実施形態における赤外線センサAは、自己診断用ヒータ部139が、第1の熱電要素であるn形ポリシリコン層34もしくは第2の熱電要素であるp形ポリシリコン層35と同じ材料により形成されているので、自己診断用ヒータ部139を第1の熱電要素もしくは第2の熱電要素と同時に形成することが可能となり、製造プロセスの簡略化による低コスト化を図れる。
【0053】
また、本実施形態における赤外線センサAは、赤外線吸収部33および自己診断用ヒータ部139を備えた複数の画素部2が支持基板であるシリコン基板1aの上記一表面側でアレイ状に設けられているので、製造時や使用時の自己診断に際して各画素部2それぞれの自己診断用ヒータ部139に通電することにより各画素部2それぞれの感温部30の感度のばらつきを把握することが可能となる。
【0054】
また、本実施形態の赤外線センサAは、各画素部2ごとに感温部30の出力を読み出すためのMOSトランジスタ4を有しているので、出力用パッドVout(図13参照)の数を少なくでき、小型化および低コスト化を図れる。
【0055】
以下、本実施形態における赤外線センサAの製造方法について図14〜図17を参照しながら簡説明する。
【0056】
まず、シリコン基板1aの上記一表面側に第1の所定膜厚(例えば、0.3μm)の第1のシリコン酸化膜31と第2の所定膜厚(例えば、0.1μm)のシリコン窒化膜32との積層膜からなる絶縁層を形成する絶縁層形成工程を行い、その後、フォトリソグラフィ技術およびエッチング技術を利用して当該絶縁層のうち熱型赤外線検出部3の形成用領域A1に対応する部分の一部を残してMOSトランジスタ4の形成用領域A2に対応する部分をエッチング除去する絶縁層パターニング工程を行うことによって、図14(a)に示す構造を得る。ここにおいて、シリコン酸化膜31は、シリコン基板1aを所定温度(例えば、1100℃)で熱酸化することにより形成し、シリコン窒化膜32は、LPCVD法により形成している。
【0057】
上述の絶縁層パターニング工程の後、シリコン基板1aの上記一表面側にp形ウェル領域41を形成するウェル領域形成工程を行い、続いて、シリコン基板1の上記一表面側におけるp形ウェル領域41内にp++形チャネルストッパ領域42を形成するチャネルストッパ領域形成工程を行うことによって、図14(b)に示す構造を得る。ここで、ウェル領域形成工程では、シリコン基板1aの上記一表面側の露出部位を所定温度で熱酸化することにより第2のシリコン酸化膜(熱酸化膜)51を選択的に形成し、その後、p形ウェル領域41を形成するためのマスクを利用したフォトリソグラフィ技術およびエッチング技術を利用してシリコン酸化膜51をパターニングし、続いて、p形不純物(例えば、ボロンなど)のイオン注入を行ってから、ドライブインを行うことにより、p形ウェル領域41を形成する。また、チャネルストッパ領域形成工程では、シリコン基板1aの上記一表面側を所定温度で熱酸化することにより第3のシリコン酸化膜(熱酸化膜)52を選択的に形成し、その後、p++形チャネルストッパ領域42を形成するためのマスクを利用したフォトリソグラフィ技術およびエッチング技術を利用して第3のシリコン酸化膜52をパターニングし、続いて、p形不純物(例えば、ボロンなど)のイオン注入を行ってから、ドライブインを行うことにより、p++形チャネルストッパ領域42を形成する。なお、第1のシリコン酸化膜31と第2のシリコン酸化膜51と第3のシリコン酸化膜52とでシリコン基板1aの上記一表面側のシリコン酸化膜1bを構成している。
【0058】
上述のチャネルストッパ領域形成工程の後、p形ウェル領域41におけるn形ドレイン領域43およびn形ソース領域44それぞれの形成予定領域にn形不純物(例えば、リンなど)のイオン注入を行ってからドライブを行うことによりn形ドレイン領域43およびn形ソース領域44を形成するソース・ドレイン形成工程を行い、当該ソース・ドレイン形成工程の後、シリコン基板1aの上記一表面側に熱酸化により所定膜厚(例えば、600Å)のシリコン酸化膜(熱酸化膜)からなるゲート絶縁膜45を形成するゲート絶縁膜形成工程を行い、続いて、シリコン基板1aの上記一表面側の全面にゲート電極46、水平信号線6(図2参照)、n形ポリシリコン層34、p形ポリシリコン層35、赤外線吸収層39、補強層39bおよび自己診断用ヒータ部139の基礎となる所定膜厚(例えば、0.69μm)のノンドープポリシリコン層をLPCVD法により形成するポリシリコン層形成工程を行い、その後、フォトリソグラフィ技術およびエッチング技術を利用して上記ノンドープポリシリコン層のうちゲート電極46、水平信号線6、n形ポリシリコン層34、p形ポリシリコン層35、赤外線吸収層39、補強層39bおよび自己診断用ヒータ部139それぞれに対応する部分が残るようにパターニングするポリシリコン層パターニング工程を行い、続いて、上記ノンドープポリシリコン層のうちp形ポリシリコン層35に対応する部分にp形不純物(例えば、ボロンなど)のイオン注入を行ってからドライブを行うことによりp形ポリシリコン層35を形成するp形ポリシリコン層形成工程を行い、その後、上記ノンドープポリシリコン層のうちn形ポリシリコン層34、赤外線吸収層39、補強層39b、自己診断用ヒータ部139、ゲート電極46および水平信号線6に対応する部分にn形不純物(例えば、リンなど)のイオン注入を行ってからドライブを行うことによりn形ポリシリコン層34、赤外線吸収層39、補強層39b、自己診断用ヒータ部139、ゲート電極46および水平信号線6を形成するn形ポリシリコン層形成工程を行うことによって、図15(a)に示す構造を得る。なお、p形ポリシリコン層形成工程とn形ポリシリコン層形成工程との順序は逆でもよい。
【0059】
上述のp形ポリシリコン層形成工程およびn形ポリシリコン層形成工程が終了した後、シリコン基板1aの上記一表面側に層間絶縁膜50を形成する層間絶縁膜形成工程を行い、続いて、フォトリソグラフィ技術およびエッチング技術を利用して層間絶縁膜50に上記各コンタクトホール50a,50a,50a,50a,50d,50e,50f(図8、図9および図11参照)を形成するコンタクトホール形成工程を行うことによって、図15(b)に示す構造を得る。ここで、層間絶縁膜形成工程では、シリコン基板1aの上記一表面側に所定膜厚(例えば、0.8μm)のBPSG膜をCVD法により堆積させてから、所定温度(例えば、800℃)でリフローすることにより平坦化された層間絶縁膜50を形成する。
【0060】
上述のコンタクトホール形成工程の後、シリコン基板1aの上記一表面側の全面に第1の接続金属部36、第2の接続金属部37、ドレイン電極47、ソース電極48、基準バイアス線5、垂直読み出し線7、グラウンド線8、共通グラウンド線9および各パッドVout,Vsel,Vref,Vdd,Gndなど(図13参照)の基礎となる所定膜厚(例えば、2μm)の金属膜(例えば、Al−Si膜)をスパッタ法などにより形成する金属膜形成工程を行い、続いて、フォトリソグラフィ技術およびエッチング技術を利用して金属膜をパターニングすることで第1の接続金属部36、第2の接続金属部37、ドレイン電極47、ソース電極48、基準バイアス線5、垂直読み出し線7、グラウンド線8、共通グラウンド線9および各パッドVout,Vsel,Vref,Vdd,Gndなどを形成する金属膜パターニング工程を行うことによって、図16(a)に示す構造を得る。なお、金属膜パターニング工程におけるエッチングはRIEにより行っている。また、この金属膜パターニング工程を行うことにより、温接点T1および冷接点T2が形成される。
【0061】
上述の金属膜パターニング工程の後、シリコン基板1aの上記一表面側(つまり、層間絶縁膜50の表面側)に所定膜厚(例えば、0.5μm)のPSG膜と所定膜厚(例えば、0.5μm)のNSG膜との積層膜からなるパッシベーション膜60をCVD法により形成するパッシベーション膜形成工程を行うことによって、図16(b)に示す構造を得る。なお、パッシベーション膜60は、PSG膜とNSG膜との積層膜に限らず、例えば、シリコン窒化膜でもよい。
【0062】
上述のパッシベーション膜形成工程の後、シリコン酸化膜31とシリコン窒化膜32との積層膜からなる熱絶縁層と、当該熱絶縁層上に形成された感温部30と、熱絶縁層の表面側で感温部30を覆うように形成された層間絶縁膜50と、層間絶縁膜50上に形成されたパッシベーション膜60との積層構造部をパターニングすることにより上述の小薄膜構造部3aaを形成する積層構造部パターニング工程を行うことによって、図17(a)に示す構造を得る。なお、積層構造部パターニング工程において、上述の各スリット13,14を形成している。
【0063】
上述の積層構造部パターニング工程の後、フォトリソグラフィ技術およびエッチング技術を利用して各パッドVout,Vsel,Vref,Vdd,Gndを露出させるパッド用開口部(図示せず)を形成するパッド用開口部形成工程を行い、続いて、上述の各スリット13,14をエッチャント導入孔としてアルカリ系溶液を導入してシリコン基板1aを異方性エッチングすることによりシリコン基板1aに空洞部11を形成する空洞部形成工程を行うことによって、図17(b)に示す構造の画素部2が2次元アレイ状に配列された赤外線センサAを得る。ここで、パッド用開口部形成工程におけるエッチングはRIEにより行っている。また、空洞部形成工程では、アルカリ系溶液として、Siが溶解されたTMAH水溶液(TMAHの11.5%水溶液)を用い、液温を所定温度(例えば、85℃)に設定しているが、アルカリ系溶液はTMAH水溶液に限らず、KOH水溶液やEDP水溶液などを用いてもよい。なお、空洞部形成工程が終了するまでの全工程はウェハレベルで行うので、空洞部形成工程が終了した後、個々の赤外線センサAに分離する分離工程を行えばよい。また、上述の説明から分かるように、MOSトランジスタ4の製造方法に関してみれば、周知の一般的なMOSトランジスタの製造方法を採用しており、熱酸化による熱酸化膜の形成、フォトリソグラフィ技術およびエッチング技術による熱酸化膜のパターニング、不純物のイオン注入、ドライブイン(不純物の拡散)の基本工程を繰り返すことにより、p形ウェル領域41、p++形チャネルストッパ領域42、n形ドレイン領域43とn形ソース領域44を形成している。
【0064】
上述の赤外線センサAでは、シリコン基板1aとして上記一表面が(100)面の単結晶シリコン基板を用いて、エッチング速度の結晶面方位依存性を利用した異方性エッチングにより形成する空洞部11を四角錘状の形状としてあるが、四角錘状の形状に限らず、四角錘台状の形状でもよい。また、シリコン基板1aの上記一表面の面方位は特に限定するものではなく、例えば、シリコン基板1aとして上記一表面が(110)面の単結晶シリコン基板を用いてもよい。
【0065】
ところで、上述の空洞部形成工程では、シリコン基板1aをアルカリ系溶液により異方性エッチングする異方性ウェットエッチング方法を採用しているが、所定深さdpまで連続して異方性エッチングを行う製造プロセスを採用した場合、図18に示すように多数のピラミッド状の微細突起1dが発生して深さ方向へのエッチングの進行が妨げられた不良品(エッチングが自動的にストップしてしまった不良品)の発生が懸念される。このような微細突起1dの発生原因は、エッチング中に発生する反応生成物であるSi(OH)やHがエッチング底面へ滞留することにあると考えられ、微細突起1dが発生してしまうと、赤外線センサAの感度の低下、製品間の感度のばらつきの増大、製造歩留まりの低下、などの原因となってしまう。
【0066】
これに対し、本願発明者は、鋭意研究の結果、上記特許文献1のような特殊な酸化剤を用いずとも、シリコン基板1aを上記一表面から所定深さdpまで異方性エッチングする途中で、洗浄工程を少なくとも1回行うことにより、微細突起1dの密度を大幅に低減できるという知見を得た。例えば、アルカリ系溶液として、Siが溶解された所定温度(85℃)のTMAH水溶液(TMAHの11.5%水溶液)を用いた場合、エッチング時間を3時間として連続して異方性エッチングを行った場合には、10μm以上のサイズの微細突起1dの密度が数100〜1000個/mmであるのに対して、0.5時間の異方性エッチングと0.5時間の水洗(洗浄工程)とを繰り返してトータルで3時間の異方性エッチングを行った場合には10μm以上のサイズの微細突起の密度が0個/mmであった。
【0067】
そこで、本実施形態の異方性ウェットエッチング方法では、シリコン基板1aを上記一表面から所定深さdpまで異方性エッチングする途中で、シリコン基板1aを乾燥させることなく5回の洗浄工程を行うようにしている。具体的には、シリコン基板1aをエッチング用処理槽のアルカリ系溶液中に所定時間だけ浸漬することによりシリコン基板1aをエッチングするエッチング過程と、シリコン基板1aをエッチング用処理槽のアルカリ系溶液中から取り出した後に、乾燥工程を行うことなくシリコン基板1aの上記一表面の露出部位がアルカリ系溶液で覆われた状態で、洗浄工程で用いる洗浄用処理槽の液体中に浸漬して洗浄する洗浄過程とを繰り返すようにしている。ここで、洗浄工程で用いる液体として、HF系溶液(HF、BHFなど)や水を用いれば、ピラミッド状の微細突起1dの発生を抑制できるが、HF系溶液を用いる場合には、コストが高くなるだけでなく、HFに対するエッチング耐性を有するマスク層を設ける必要があり、赤外線センサAの製造プロセスの工程数が増加し、製造コストが高くなってしまう。これに対して、本実施形態では、液体として水を用いているので、洗浄工程で特別な液体を用いることなく微細突起1dの発生を抑制することができ、しかも、液体の取り扱いが容易になる。
【0068】
しかして、本実施形態の異方性ウェットエッチング方法では、シリコン基板1aを所定深さまで異方性エッチングする途中で、シリコン基板1aを乾燥させることなく洗浄工程を行うことにより、微細突起1dの発生原因となる反応生成物であるSi(OH)やHを除去することができ(反応生成物の滞留時間を短くでき)、上記特許文献1に記載された特殊な酸化剤を用いることなく微細突起の発生を抑制できる。また、シリコン基板1aを乾燥させずに洗浄工程を行うので、シリコン基板1aから部分的に分離した構造体(上述の赤外線センサAでは、薄膜構造部3a)がシリコン基板1aに付着するスティッキングの発生を防止しつつ微細突起1dの発生を抑制することが可能となる。また、洗浄工程を追加する回数を複数回にすることにより、微細突起1dの発生をより抑制することができ、シリコン基板1aの加工形状のばらつきを低減できる。なお、MEMSデバイスの構造によっては、シリコン基板1aから完全に分離した構造体がシリコン基板1aに付着するスティッキングの発生を防止することができる。
【0069】
また、本実施形態では、アルカリ系溶液としてSiを溶解させたTMAH水溶液を用いるので、シリコン基板1aの上記一表面側にAl膜(AlにSiを添加したAl−Si膜を含む)が露出している場合でもAl膜の浸食を防止しつつ微細突起1dの発生を抑制できる。また、KOH水溶液を用いる場合に比べて、SiOに対するエッチング選択比を大きくできる。
【0070】
なお、本実施形態では、所定深さdpが200μmに設定してあり、洗浄工程を5回行っているが、洗浄工程の回数は特に限定するものではなく、所定深さdpに応じて適宜設定すればよく、少なくとも1回の洗浄工程を行うようにすればよい。ただし、所定深さdpが深いほど、洗浄工程の回数は多いほうが好ましい。
【0071】
また、上述の洗浄工程では、液体の攪拌を行いながら洗浄を行うことが好ましく、攪拌を行うことで、洗浄工程において反応生成物をより確実に除去することができる。ここにおいて、洗浄工程で、液体を攪拌する攪拌手段としては、例えば、洗浄用処理槽内に配置するスターラ(回転翼)を採用してもよいし、シリコン基板1aを揺動させてもよいし、超音波を印加するようにしてもよい。
【0072】
上述の赤外線センサの製造方法は、シリコン基板1aを用いて製造するMEMSデバイスの製造方法であって、シリコン基板1aの上記一表面側にAl膜からなる機能部であるパッドVout,Vsel,Vref,Vdd,Gndを露出させた後で、シリコン基板1aの一部を上記一表面側から異方性エッチングする異方性エッチング工程(空洞部形成工程)を備え、異方性エッチング工程では、上述の異方性ウェットエッチング方法によりシリコン基板1aの上記一部をSiを溶解させたTMAH水溶液により異方性エッチングするので、異方性エッチング工程において特殊な酸化剤を用いることなくAl膜からなる機能部の浸食を防止しつつ微細突起1dの発生を抑制でき、歩留まりの向上を図れるから、低コストのMEMSデバイスを提供できる。要するに、空洞部11の深さが安定し(本実施形態では、空洞部11の最深部の深さが所定深さdpよりも浅くなるのを防止することができ)、感度が安定するとともに、製造歩留まりが向上する。
【0073】
ところで、上述の赤外線センサAは、各画素部2にMOSトランジスタ4を設けてあるが、MOSトランジスタ4は必ずしも設ける必要はない。また、赤外線センサAは、必ずしも画素部2をアレイ状に備えた赤外線アレイセンサである必要はなく、少なくとも1つのサーモパイル30aを備えたものであればよい。また、感温部30をサーモパイル30aにより構成する例に限らず、例えば、抵抗ボロメータ、サーミスタ、焦電素子などにより構成してもよい。
【0074】
また、上述の実施形態では、MEMSデバイスの一例として赤外線センサを例示したが、MEMSデバイスは、赤外線センサに限らず、例えば、加速度センサ、圧力センサ、ジャイロセンサ、光スキャナ、マイクロバルブ、マイクロリレーなどでもよく、これらのMEMSデバイスの製造方法に関して、異方性エッチング工程で、上述の異方性ウェットエッチング方法を適用することが可能である。
【符号の説明】
【0075】
A 赤外線センサ(MEMSデバイス)
dp 所定深さ
1a シリコン基板
3 熱型赤外線検出部
11 空洞部

【特許請求の範囲】
【請求項1】
シリコン基板をアルカリ系溶液により異方性エッチングする異方性ウェットエッチング方法であって、シリコン基板を所定深さまで異方性エッチングする途中で、シリコン基板を乾燥させることなく少なくとも1回の洗浄工程を行うことを特徴とする異方性ウェットエッチング方法。
【請求項2】
前記洗浄工程で用いる液体が水であることを特徴とする請求項1記載の異方性ウェットエッチング方法。
【請求項3】
前記洗浄工程では、前記液体の攪拌を行いながら洗浄を行うことを特徴とする請求項1または請求項2記載の異方性ウェットエッチング方法。
【請求項4】
前記アルカリ系溶液がSiを溶解させたTMAH水溶液であることを特徴とする請求項1ないし請求項3のいずれか1項に記載の異方性ウェットエッチング方法。
【請求項5】
シリコン基板を用いて製造するMEMSデバイスの製造方法であって、シリコン基板の一表面側にAl膜からなる機能部を露出させた後で、シリコン基板の一部を上記一表面側から異方性エッチングする異方性エッチング工程を備え、異方性エッチング工程では、請求項4記載の異方性ウェットエッチング方法によりシリコン基板の前記一部を異方性エッチングすることを特徴とするMEMSデバイスの製造方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【図11】
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【図12】
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【図13】
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【図14】
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【図15】
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【図16】
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【図17】
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【図18】
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【公開番号】特開2011−151215(P2011−151215A)
【公開日】平成23年8月4日(2011.8.4)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−11389(P2010−11389)
【出願日】平成22年1月21日(2010.1.21)
【出願人】(000005832)パナソニック電工株式会社 (17,916)
【Fターム(参考)】