説明

真空処理装置および真空処理方法

【課題】高周波放電によってプラズマを励起させ、活性種を生成させる放電室3と、放電室3で生成された活性種による処理対象である基板10を収容する基板処理室4と、プラズマを放電室3に閉じ込めると共に、貫通孔5を介して活性種を放電室3から基板処理室4へと移動させることができる仕切り板2とを備えた真空処理装置において、放電室3内に生ずる活性種の数を増大させることで、基板処理室4へ移動する活性種の数を増大させて、もって処理効率を向上させる。
【解決手段】放電室3において高周波放電を生じさせる電極間の間隔を15〜25mmとし、高電力の高周波でプラズマを形成する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、貫通孔を有する仕切り板で仕切られた放電室と基板処理室とを有し、放電室で生成した活性種を仕切り板の貫通孔を介して基板処理室へ送り、基板処理室内に収容した基板にこの活性種を用いて処理を施す真空処理装置及び真空処理方法に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、特許文献1に示されるように、活性種を生成させる放電室と、活性種を用いた処理対象である基板を収容する基板処理室とを、貫通孔を備えた仕切り板で仕切った真空処理装置及びこの装置を用いた真空処理方法が知られている。
【0003】
さらに特許文献1に記載の真空処理装置及びこの装置を用いた真空処理方法について説明する。処理は、基板処理室側から排気すると共に、放電室に活性種生成ガスを供給し、放電室内で電極間の高周波放電によりプラズマを励起させることで行われる。プラズマは仕切り板で放電室内に閉じ込められる一方、生成された活性種は貫通孔を介して基板処理室へと流れ、基板処理室へ供給した反応ガスと反応して基板に成膜処理が施される。この成膜処理は、放電室の圧力が基板処理室の圧力よりも高い状態で行われる。例えば、放電室の圧力を58Paとし、基板処理室の圧力を30Paとすることや、放電室の圧力を38Paとし、基板処理室の圧力を30Paとすることが特許文献1に開示されている(段落0068、段落0077参照)。また、13.56MHzの高周波電力を1W/cm3程度印加することも開示されている(段落0054参照)。
【0004】
【特許文献1】特開2002−16056号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
しかしながら、上記従来の真空処理装置及び真空処理方法では、放電室の圧力が比較的高く、低出力の高周波で放電させており、高周波放電を発生させる電極間の間隔も比較的短いと考えられる。このため、放電室内で生ずる活性種の数が少なく、基板処理室へ移動する活性種の数も少なくなるので、処理効率が悪い問題がある。なお、特許文献1は電極間の間隔については明示していないが、10mm程度であると推測する。
【0006】
本発明は、上記従来の問題点を解消するもので、放電室内に生ずる活性種の数を増大させることで、基板処理室へ移動する活性種の数を増大させて、もって処理効率を向上させることができるようにすることを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明の第一は、高周波放電によってプラズマを励起させ、活性種を生成させる放電室と、放電室で生成された活性種による処理対象である基板を収容する基板処理室と、プラズマを放電室に閉じ込めると共に、貫通孔を介して活性種を放電室から基板処理室へと移動させることができる仕切り板とを備えた真空処理装置において、放電室において高周波放電を生じさせる電極間の間隔が15〜25mmであることを特徴とする真空処理装置を提供するものである。
【0008】
また、本発明の第二は、上記本発明の第一に係る真空処理装置を用いた真空処理方法において、放電室の圧力を16.5〜6.5Paとし、基板処理室の圧力をこの放電室の圧力より低くして、放電室と基板処理室間の圧力差を15〜25Paとし、出力500W以上のの高周波によりプラズマを励起させることを特徴とする真空処理方法を提供するものである。
【発明の効果】
【0009】
本発明の第一に係る真空処理装置は、電極間の間隔が15〜25mmと長くなっていることから、放電室が低圧の状態で、電極に高出力の高周波を供給して放電させることができる。一般に、供給する高周波の出力が高いほど活性種が発生しやすい。従って、本発明の真空処理装置では、放電室中に生じる活性種の数を増やすことができ、これによって基板処理室へ移動する活性種の数が増大し、もって処理効率を向上させることができる。
【0010】
また、本発明の第二に係る真空処理方法によれば、上記本発明の第一に係る装置を用い、放電室の圧力を16.5〜26.5Paという比較的低圧とし、電極に出力500W以上という高パワーの高周波を供給してプラズマを励起していることから、放電室中に生じる活性種の数が増大する。そして、放電室と基板処理室間の圧力差を15〜25Paとし、活性種が放電室から基板処理室へ流れやすくしていることから、基板処理室へ流れ込む活性種の数が増大して処理効率が向上する。
【発明を実施するための最良の形態】
【0011】
まず、図1に基づいて本発明に係る真空処理装置および真空処理方法の一例を説明する。
【0012】
図1は本発明に係る真空処理装置の一例を示す断面模式図である。
【0013】
図中1は真空チャンバで、真空チャンバ1内は、対向電極を兼ねる仕切り板2によって、上部の放電室3と、下部の基板処理室4とに仕切られている。
【0014】
仕切り板2は、多数の貫通孔5(トラップホール)を有する板状をなし、電気的に接地されている。
【0015】
放電室3内の上部には、仕切り板2と対向して高周波印加電極6が設けられている。高周波印加電極6には高周波電源7が接続されている。高周波印加電極6は、内部が空洞の板状で、下面にはこの空洞部に連なる多数の孔が形成されている。高周波印加電極6の空洞部内には活性種生成ガスが導入され、下面の各孔から放電室3内に供給されるものとなっている。なお、図中矢印8で活性種生成ガスの流れを示す。
【0016】
高周波印加電極6と、対向電極を兼ねる仕切り板2との間隔、つまり放電室3内において高周波放電を生じさせる電極間の間隔は15〜25mmである。この電極間の間隔は、高出力の高周波を高周波印加電極6へ投入することで高周波放電によるプラズマを発生させることができるようにするものである。
【0017】
基板処理室4には排気ライン9が接続されており、真空チャンバ1内の排気を基板処理室4側から行うことができるようになっている。また、基板処理室4内には、処理対象である基板10を前記仕切り板2と対向する所定の位置に保持する基板ホルダ11が設けられている。
【0018】
本例の装置は、例えば基板10の表面に形成された金属薄膜12を酸素の活性種で酸化して絶縁膜とする処理などの酸化処理に適した装置である。この酸化処理を例に、本例の装置を用いた処理方法を説明する。
【0019】
まず、真空チャンバ1内を十分に排気した後、基板処理室4側からの排気を継続しながら、高周波印加電極6の下面の孔を介して、活性種生成ガスを図中矢印8で示すように放電室3へ供給する。放電室3の圧力を所定圧力に維持すると共に、放電室3の圧力より基板処理室8の圧力を低く維持しつつ、高周波電源7から高周波を高周波印加電極6へ供給し、高周波印加電極6と対向電極である仕切り板2と間で高周波放電によるプラズマを励起させる。そして、これによって生成された活性種(酸素の活性種)は、矢印13で示されるように、仕切り板5の貫通孔5を介して、圧力の低い基板処理室8へと流れ、基板10表面の金属薄膜12を酸化することになる。
【0020】
活性種生成ガス8は、プラズマによって活性種(ラジカル)を生成するガスである。例えば酸化処理の場合、励起酸素原子、励起酸素分子、オゾンなどの酸素活性種を生じるガス、例えば酸素ガスを用いることができる。活性種生成ガスの供給量は、250〜420sccmであることが好ましい。
【0021】
高周波印加電極6へ供給する高周波は、出力500W以上の高パワーとすることで、15〜25mmという電極間の間隔で、高周波放電によるプラズマを得ることができる。この高出力の高周波を投入してプラズマを形成することにより、生成される活性種の数を増大させることができる。高周波印加電極6へ投入する高周波の出力が小さ過ぎると、生成される活性種の数が減少する。高周波出力の上限は、実用的には2000Wである。また、放電室3で生成される活性種の数と消費エネルギーのバランスをより向上させるために、投入する高周波の出力は500〜1500Wとすることが好ましい。
【0022】
ところで、仕切り板2に設けられている貫通孔5の開口密度(単位表面面積当たりの開口個数)と開口率(単位表面面積当たりの開口面積の占める比率)が大きいほど、放電室3内で生成した活性種が基板処理室4へ移動しやすくなる。その反面、貫通孔5の開口密度と開口率を大きくすると、放電室3の圧力が下がりやすくなり、放電室3と基板処理室4との間の圧力差も小さくなりやすい。放電室3の圧力が高過ぎても低過ぎても生成される活性種の数が減少傾向となる。活性種の基板処理室4への移動のしやすさと、活性種の生成されやすさとのバランスとからすると、放電室3の圧力は16.5〜26.5Pa、放電室3と基板処理室4との間の圧力差は15〜25Paであることが好ましい。
【0023】
上記放電室3の圧力と、放電室3と基板処理室4との間の圧力差とは、排気ライン9の排気能力と放電室3への活性種生成ガスの供給量を一定として、仕切り板2の所定の径の貫通孔5の数を調整することで容易に行うことができる。具体的には、放電室3の圧力と、放電室3と基板処理室4との間の圧力差とが上記の範囲となるよう、従来に比して貫通孔5の数を増大させることで容易に行うことができる。
【0024】
次に、図2に基づいて本発明に係る真空処理装置および真空処理方法の他の例を説明する。
【0025】
図2は本発明に係る真空処理装置の他の例を示す断面模式図である。図示されるように、基本的には図1で説明した例と同様であるが、仕切り板2が貫通孔5とは仕切られた中空構造となっており、下面にはこの中空部に連なる多数の孔が形成されている。仕切り板2の中空部内には反応ガスが導入され、下面の各孔から基板処理室4内に供給されるものとなっている。なお、図中矢印14で反応ガスの流れを示す。
【0026】
本例における放電室3の圧力と、放電室3と基板処理室4との間の圧力差とは、排気ライン9の排気能力と、放電室3への活性種生成ガスの供給量と、基板処理室4への反応ガスの供給量を一定として、仕切り板2の所定の径の貫通孔5の数を調整することで容易に行うことができる。
【0027】
上記の点以外は図1の例と同様であるので、ここでの説明は省略する。なお、図1と同じ符号は同じ部材を示す。
【0028】
本例における高周波印加電極6と、対向電極を兼ねる仕切り板2との間隔、つまり放電室3内において高周波放電を生じさせる電極間の間隔は図1の例と同様である。また、高周波印加電極6へ供給する高周波の出力、放電室3の圧力、放電室3と基板処理室4との間の圧力差も図1の例と同様である。
【0029】
本例の装置は基板10への成膜処理に適した装置である。例えば、活性種生成ガスとして酸素を用い、反応ガスとしてモノシランガスを用い、基板10に酸化シリコン膜を成膜することができる。
【実施例】
【0030】
実施例1
図1に示されるような真空処理装置を用い、予め基板に成膜した厚さ1.3nmのアルミニウム膜の酸化処理を行った。
【0031】
主な条件は以下の通りである。
【0032】
・活性種生成ガス:酸素
・活性種生成ガス供給量:300sccm
・電極間の間隔(高周波印加電極と仕切り板間の間隔):15mm
・投入高周波出力:1000W
・放電室の圧力:20Pa
・放電室と基板処理室との間の圧力差:20Pa
・仕切り板の貫通孔の総数:625個
【0033】
上記条件下で前記アルミニウム膜の酸化処理を行ったところ、135secで処理を完了することができた。
【0034】
比較例1
下記の条件とした以外は、実施例1と同じ酸化処理を行った。
【0035】
・活性種生成ガス供給量:600sccm
・電極間の間隔(高周波印加電極と仕切り板間の間隔):10mm
・投入高周波出力:200W
・放電室の圧力:35Pa
・放電室と基板処理室との間の圧力差:30Pa
・仕切り板の貫通孔の総数:285個
【0036】
上記条件下で前記アルミニウム膜の酸化処理を行ったところ、処理完了まで270secを要した。
【図面の簡単な説明】
【0037】
【図1】本発明に係る真空処理装置の一例を示す断面模式図である。
【図2】本発明に係る真空処理装置の他の例を示す断面模式図である。
【符号の説明】
【0038】
1 真空チャンバ
2 仕切り板
3 放電室
4 基板処理室
5 貫通孔
6 高周波印加電極
7 高周波電源
8 活性種生成ガスの流れを示す矢印
9 排気ライン
10 基板
11 基板ホルダ
12 金属膜
13 活性種の流れを示す矢印
14 反応ガスの流れを示す矢印

【特許請求の範囲】
【請求項1】
高周波放電によってプラズマを励起させ、活性種を生成させる放電室と、放電室で生成された活性種による処理対象である基板を収容する基板処理室と、プラズマを放電室に閉じ込めると共に、貫通孔を介して活性種を放電室から基板処理室へと移動させることができる仕切り板とを備えた真空処理装置において、放電室において高周波放電を生じさせる電極間の間隔が15〜25mmであることを特徴とする真空処理装置。
【請求項2】
請求項1記載の真空処理装置を用いた真空処理方法において、放電室の圧力を16.5〜26.5Paとし、基板処理室の圧力をこの放電室の圧力より低くして、放電室と基板処理室との間の圧力差を15〜25Paとし、出力が500W以上の高周波によりプラズマを励起させることを特徴とする真空処理方法。

【図1】
image rotate

【図2】
image rotate


【公開番号】特開2008−282888(P2008−282888A)
【公開日】平成20年11月20日(2008.11.20)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2007−124047(P2007−124047)
【出願日】平成19年5月9日(2007.5.9)
【出願人】(000227294)キヤノンアネルバ株式会社 (564)
【Fターム(参考)】