説明

磁気抵抗効果ヘッド、磁気記録再生装置

【課題】磁化固定層または磁化自由層の膜厚を薄くすることによるMR比の劣化を抑制することができる磁気抵抗効果ヘッドを提供する。
【解決手段】磁化方向が固定されている磁化固定層230と、磁化方向が変化する磁化自由層250と、磁化固定層と磁化自由層との間に配置された絶縁体を用いて形成されているバリア層240と、を備え、磁化固定層または磁化自由層の少なくとも一方は、バリア層側から順に、結晶層233a,233cとアモルファス磁性層233bとの積層構造として、バリア層の反対側にアモルファス磁性層を有する磁気抵抗効果ヘッドとする。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、磁気抵抗効果ヘッドと、磁気抵抗効果ヘッドを搭載した磁気記録再生装置に関するものである。
【背景技術】
【0002】
磁気ディスク装置に用いられる磁気ヘッドは、記録媒体に記録された情報を読み取る再生ヘッドを備える。再生ヘッドには、記録媒体に記録された磁化信号に応答して抵抗値が変化する磁気抵抗効果膜が用いられている。
【0003】
この磁気抵抗効果膜は、磁化方向が一方向に固定されている磁化固定層と、媒体からの信号磁界によって磁化方向が自由に変化する磁化自由層を備え、媒体の磁化信号の作用によって磁化自由層と磁化固定層それぞれの磁化方向の相対角度が変化することで生じる磁気抵抗変化を検出して信号を読み取る。したがって、再生ヘッドの読み取り性能を高めるためには、大きな磁気抵抗変化を示す磁気抵抗効果膜、およびそれを備えた磁気抵抗効果素子が必要となる。
【0004】
磁気抵抗効果素子の膜構成として、磁化固定層と磁化自由層の間に、絶縁体を用いて構成されたトンネルバリア層を配置した構成が知られている。
【0005】
下記特許文献1では、トンネルバリア層としてMgOを使用した磁気抵抗効果素子が非常に大きな磁気抵抗変化率(TMR比)を示すことが記載されている。
【0006】
下記特許文献2では、工業的に広く用いられているスパッタ法で作成されたCoFeB磁性層、およびMgOバリア層を用いたCoFeB/MgO/CoFeB−トンネル磁気抵抗素子が、200%を超える高いTMR比を示したことが記載されている。
【0007】
下記非特許文献1では、CoFeB/MgO/CoFeB−トンネル磁気抵抗素子で高いTMR比が発現する理由が考察されている。同文献によると、高いTMR比が得られる理由は、成膜直後では非結晶質(アモルファス)であるCoFeB層が、熱処理を実施した時に、(001)配向結晶を有するトンネルバリア層に沿って(001)配向結晶となるためであると考えられている。
【0008】
以上から、再生ヘッドに適用するTMR素子が高いTMR比すなわち高い再生出力を得るためには、トンネルバリア層として(001)配向結晶性を有する絶縁層を用い、さらに磁化固定層および磁化自由層にCoFeB層を用いることが非常に有効であると考えられる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0009】
【特許文献1】特許第4082711号公報
【特許文献2】特開2006−80116号公報
【非特許文献】
【0010】
【非特許文献1】J.Hayakawa et al.,Jpn.J.Appl.Phys.,44 L587(2005).
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0011】
近年は、ハードディスクドライブの高記録密度化にともない記録媒体上のビット幅がますます狭くなっている。このため、記録媒体上に記録されている磁気信号を読み取るためには、再生ヘッドのリードギャップを狭くすることにより、読み取り分解能を向上させることが必要となる。リードギャップは、磁気抵抗効果膜の膜厚に相当する。
【0012】
磁気抵抗効果膜を薄くするためには、磁気抵抗効果膜の多くを占める、磁化固定層を構成するCoFeB層、または磁化自由層を構成するCoFeB層のうち少なくとも一方の膜厚を薄くすることが有効である。
【0013】
しかしながら、CoFeB層を薄くするとTMR比が大きく劣化する可能性がある。これは、磁気抵抗効果膜を形成した後に実施する熱処理過程において、磁化固定層に隣接する非磁性結合層もしくは反強磁性層の整合性に起因するエピタキシャル関係により、CoFeB層がトンネルバリア層の原子配列に沿って結晶化されることが阻害されるためであると考えられる。磁化自由層については、隣接するキャッピング層の原子配列の整合性によるエピタキシャル関係が同様に関連していると思われる。
【0014】
本発明は、上記のような課題を解決するためになされたものであり、磁化固定層または磁化自由層の膜厚を薄くすることによるMR比の劣化を抑制することができる磁気抵抗効果ヘッドを提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0015】
本発明に係る磁気抵抗効果ヘッドにおいて、磁化固定層または磁化自由層の少なくとも一方は、バリア層の反対側にアモルファス磁性層を有する。ここでいうアモルファス磁性層は、磁気抵抗効果ヘッドの製造過程で一般的に行われる、反強磁性層の着磁熱処理、絶縁膜・磁性膜の結晶化熱処理などを経た後に、非結晶質状態を保持しているもののことである。
【発明の効果】
【0016】
本発明に係る磁気抵抗効果ヘッドによれば、アモルファス磁性層の非結晶質性により、CoFeB磁性層におけるアモルファス磁性層側からのエピタキシャル関係が消失すると考えられる。これにより、磁化固定層もしくは磁化自由層の少なくとも一方のCoFeB層の膜厚を薄くした場合でも、CoFeB磁性層のバリア層側とは反対側からの結晶性の影響が低減され、バリア層側の原子配列に沿った結晶化が実現する。したがって、CoFeB磁性層を薄くしても、MR比の劣化を抑制し、磁気抵抗効果膜の薄膜化と高いMR比を両立する磁気抵抗効果ヘッドを構成することができる。
【図面の簡単な説明】
【0017】
【図1】従来の磁気抵抗効果素子の膜構成例を示す側断面図である。
【図2】実施の形態1に係る磁気抵抗効果素子の膜構成を示す側断面図である。
【図3】実施の形態1に係るトンネル磁気抵抗効果膜を備える磁気ヘッドの構成図である。
【図4】実施の形態2に係る磁気抵抗効果素子の膜構成を示す側断面図である。
【図5】実施の形態3に係る磁気抵抗効果素子の膜構成を示す側断面図である。
【図6】実施の形態4に係る磁気記録再生装置50の上面図である。
【発明を実施するための形態】
【0018】
以下、本発明を実施するための最良の形態について、図面を参照して詳細に説明する。なお、以下の説明においては、図面は代表的な例として示されたものであり、本発明の範囲を限定するものではない。図面はボトムタイプスピンバルブ構造を表しているが、本発明はトップタイプスピンバルブ構造、もしくはデュアルスピンバルブ構造にも適用可能である。
【0019】
図1は、従来の磁気抵抗効果素子の膜構成例を示す側断面図である。ここでは、ボトムタイプトンネル磁気抵抗効果素子の膜構成例を示した。
【0020】
磁気抵抗効果素子には、電流を磁気抵抗効果膜面内に流すCIP(Current in Plane)型の素子と、膜面垂直方向に流すCPP(Current Perpendicular to the Plane)型の素子がある。
【0021】
図1に示す磁気抵抗効果素子は、下部シールド層100と上部シールド層300との間にトンネル磁気抵抗効果膜200を有する。トンネル磁気抵抗効果膜200は、下地層210、反強磁性層220、磁化固定層230、トンネルバリア層240、磁化自由層250、キャッピング層260を有する。リードギャップは、下地層210からキャッピング層260までの膜厚を加えたものに相当する。
【0022】
図1に示す膜構成では、磁化固定層230のトンネルバリア層240とは反対側に反強磁性層220が配置され、磁化自由層250のトンネルバリア層240とは反対側にキャッピング層260が配置されている。
【0023】
反強磁性層220とキャッピング層260からのエピタキシャル関係により、磁化固定層230または磁化自由層250のCoFeB層が、トンネルバリア層240の原子配列に沿って(001)配向結晶化することが阻害されると考えられる。
【0024】
<実施の形態1>
図2は、本発明の実施の形態1に係る磁気抵抗効果素子の膜構成を示す側断面図である。以下、図2の膜構成について説明する。
【0025】
下部シールド層100は、例えばメッキ法により形成されたパーマロイで構成される。
【0026】
下部シールド層100上に形成される下地層210は、下部シールド層100側からTaとRuとの積層構造となっている(図示せず)。
【0027】
下地層210上には、反強磁性層220が形成されている。反強磁性層220は、その上に形成される第1磁化固定層230の磁化方向を一方向に固定させるものであり、例えばMnIrにより構成される。反強磁性層220は、MnPt、PdPtMn、NiMn、FeMn、RhMn、RuMn、RuRhMnなどによって構成することもできる。
【0028】
反強磁性層220上に形成される磁化固定層230は、積層フェリ構造となっている。具体的には磁化固定層230は、第1磁化固定層231/非磁性結合層232/第2磁化固定層233の3層構造で構成される。第1磁化固定層231と第2磁化固定層233の間は、非磁性結合層232を介して反強磁性結合が実現している。
【0029】
第1磁化固定層231は、例えばCoとFeからなる合金材料により構成される。非磁性結合層232は、例えばRu、Cr、Ir、Rhのうち1種もしくは2種以上からなる合金を用いて構成することができる。
【0030】
第2磁化固定層233は、トンネルバリア層240と接する側から順に、CoFe磁性層233c、CoFeB磁性層233a、アモルファス磁性層233bの3層からなる積層構造で構成される。アモルファス磁性層233bは、CoFeBとTa、Hf、Zr、Nbからなる群から選択された元素とを含む層である。
【0031】
CoFe磁性層233cのCoとFeの組成比は、面心立方構造もしくは六方最密構造を有する、Co:Feが75:25から100:0の組成範囲が好適である。また、CoFe磁性層233cの膜厚は、TMR比の観点から、0.5nm〜1.4nmとすることが好ましい。
【0032】
CoFeB磁性層233aのCoとFeの組成比は、結晶化後に面心立方構造を有する100:0から75:25の組成範囲、もしくは体心立方構造を有する75:25から0:100の組成範囲が好適である。特に、体心立方構造を有する75:25から0:100の組成範囲が好適である。
【0033】
アモルファス磁性層233bの膜厚は、0.25〜1.5nm程度が好適である。
【0034】
磁化固定層230上には、絶縁体で構成されるトンネルバリア層240が形成されている。トンネルバリア層240を構成する材料としては、例えばMg、Ca、Zn、Sr、Al、Tiのうち1種もしくは2種以上からなる酸化物、窒化物等の絶縁材料を使用することができる。
【0035】
トンネルバリア層240は、岩塩構造の(001)配向結晶性を有する絶縁体を用いて構成するときに最良の効果を得ることができる。このようなトンネルバリア層240は、スパッタリング法や蒸着法により成膜された金属膜を酸化、または窒化することにより得ることができる。もしくは、酸化物、窒化物ターゲットを用いて形成することもできる。
【0036】
トンネルバリア層240上に形成される磁化自由層250は、トンネルバリア層240側から順に、CoFe磁性層250c、CoFeB磁性層250a、アモルファス磁性層250bの3層からなる積層構造で構成される。アモルファス磁性層250bは、CoFeBとTa、Hf、Zr、Nbからなる群から選択された元素とを含む層である。
【0037】
CoFeB磁性層250aのCoとFeの組成比は、結晶化後に面心立方構造を有する100:0から75:25の組成範囲、もしくは体心立方構造を有する75:25から0:100の組成範囲が好適である。特に、面心立方構造を有する100:0から90:10の範囲内が好適である。また、CoFe磁性層250cの膜厚は、TMR比の観点から0.5nm〜1.0nm程度であることが好ましい。
【0038】
磁化自由層250は、磁歪を最小化することが好ましいため、例えばNiFe層をアモルファス磁性層250b上に形成することもできる(図示せず)。
【0039】
トンネル磁気抵抗効果膜200の最上部に形成されるキャッピング層260は、例えばRuとTaの積層構造からなる。
【0040】
図3は、本実施の形態1に係るトンネル磁気抵抗効果膜を備える磁気ヘッドの構成図である。ここでは、ABS面(A−A線位置)に対して垂直な面方向の断面図を示した。
【0041】
この磁気ヘッドは、再生ヘッド35と記録ヘッド40を有する。再生ヘッド35は、下部シールド層100と上部シールド層300に挟まれて形成されている磁気抵抗効果膜200を備える。
【0042】
記録ヘッド40は、主磁極41、第1リターンヨーク42、第2リターンヨーク43を備える。第2リターンヨーク43の前端部には、トレーリングシールド44が設けられている。主磁極41の後方のヨーク部にはコイル45が巻回されている。
【0043】
以上、本実施の形態1に係る磁気抵抗効果膜および磁気ヘッドの構成を説明した。本実施の形態1では、磁化固定層230と磁化自由層250の双方にアモルファス磁性層を配置した例を説明したが、いずれか一方のみにアモルファス磁性層を配置しても、その分に相応する効果を発揮することができる。
【0044】
以上のように、本実施の形態1に係る磁気抵抗効果膜において、第2磁化固定層233および磁化自由層250は、トンネルバリア層240側から順に、CoFe磁性層/CoFeB磁性層/アモルファス磁性層からなる積層構造を有する。アモルファス磁性層の非結晶質性により、CoFeB磁性層におけるアモルファス磁性層側からのエピタキシャル関係が消失すると考えられる。そのため、磁化固定層230または磁化自由層250のCoFeB層がトンネルバリア層240の原子配列に沿って(001)配向結晶になり易くなる。これにより、磁化固定層230と磁化自由層250のCoFeB磁性層の膜厚を薄くしても、TMR比の劣化を抑制することができる。
【0045】
また、本実施の形態1に係る磁気ヘッドによれば、CoFeB磁性層の膜厚を薄くすることによりリードギャップを小さくして読み取り分解能を向上させつつ、TMR比の劣化を抑制して高い再生出力を得ることができる。
【0046】
<実施の形態2>
図4は、本発明の実施の形態2に係る磁気抵抗効果素子の膜構成を示す側断面図である。図4に示す膜構成は、実施の形態1の図2で説明した構成に加え、非磁性結合層232とアモルファス磁性層233bの間にCoFe層233dを有する。CeFe層233dの膜厚は、例えば0.5nm〜1.0nm程度である。
【0047】
本実施の形態2に係る膜構成を用いても、実施の形態1と同様の効果を発揮することができる。
【0048】
<実施の形態3>
図5は、本発明の実施の形態3に係る磁気抵抗効果素子の膜構成を示す側断面図である。図5に示す膜構成は、磁化固定層230が第2磁化固定層233のみで構成されている点が図4とは異なる。その他の構成は図4と同様である。
【0049】
このトンネル磁気抵抗効果膜の構成では、磁化固定層230が第2磁化固定層233のみで形成される、いわゆるシングルピンタイプ構造を有する。シングルピンタイプの磁気抵抗効果膜では、反強磁性層220と第2磁化固定層233の間にはたらく一方向異方性磁界Hpが磁化固定層230の外部磁界耐性に直接的に反映される。
【0050】
Hpは、一方向異方性定数Jk、第2磁化固定層233の飽和磁化量Ms、膜厚tを用いて、下記(式1)で表される。
【0051】
Hp=Jk/(Ms・t) ・・・(式1)
【0052】
上記(式1)によれば、Hpは(Ms・t)が小さいほど大きくなり、第2磁化固定層233は強固に固着されることが分かる。
【0053】
本実施の形態3において、磁化固定層230は、トンネルバリア層240と接する側から順に、CoFe磁性層233c、CoFeB磁性層233a、アモルファス磁性層233bからなる積層構造を有する。アモルファス磁性層233bは、CoFeB層233aと比較してMsが小さい。そのため、本実施の形態4における磁化固定層230の(Ms・t)は小さくなる。したがって、アモルファス磁性層233bを用いない従来のシングルピンタイプの磁気抵抗効果膜に比べてHpが増大し、磁化固定層230の外部磁界耐性が向上する。
【0054】
以上のように、本実施の形態3によれば、磁化固定層230をトンネルバリア層240側から順に、CoFe磁性層233c、CoFeB磁性層233a、アモルファス磁性層233bの積層構造としたので、実施の形態1〜2と同様の効果が得られる。
【0055】
なお、上記実施の形態1〜2では、トンネル磁気抵抗効果膜を形成した後に熱処理が施される。例えば、数KOeから数10KOeの一定方向に印加された磁場中内で、240℃から350℃程度の温度で数10分から数時間の熱処理が施される。
【0056】
<実施の形態4>
図6は、本発明の実施の形態4に係る磁気記録再生装置50の上面図である。磁気記録再生装置50は、実施の形態1〜3いずれかで説明した磁気抵抗効果膜200の構成を有する磁気ヘッドを備える。
【0057】
磁気記録再生装置50は、矩形の箱状に形成されたケーシング51内に、スピンドルモータによって回転駆動される複数の磁気記録媒体52を備える。磁気記録媒体52の側方には、媒体面に平行に揺動可能に支持されたアクチュエータアーム53が配されている。アクチュエータアーム53の先端には、アクチュエータアーム53の延長方向にサスペンション54が取り付けられ、サスペンション54の先端にヘッドスライダ55が磁気ヘッドを媒体面に向けて取り付けられている。
【0058】
ヘッドスライダ55には、前述した磁気抵抗効果膜200を備える再生ヘッド35が形成された磁気ヘッドが形成されている。
【0059】
磁気ヘッドは、サスペンション54に形成された配線、およびアクチュエータアーム53に付設されたフレキシブルケーブル56を介して、制御回路に接続される。制御回路は、磁気記録媒体52に信号を記録し、磁気記録媒体52に記録された信号を再生する。
【0060】
磁気ヘッドにより磁気記録媒体52に情報を記録し、情報を再生する処理は、アクチュエータ57により、アクチュエータアーム53を所定位置に揺動させる操作(シーク動作)とともになされる。
【実施例】
【0061】
以下では、本発明の実施例および比較のための参考実施例を説明する。
【0062】
<実施例1>
本実施例1では、トンネル磁気抵抗効果膜を構成するアモルファス磁性層のアモルファス性を検証した例を説明する。本実施例1では、アモルファス磁性層の構成としてCoFeBTaを採用し、その熱処理前後におけるアモルファス性を実験により調査した。下記に本実施例1で用いたサンプルの膜構成を示す。左側が基板側(図1等における下側)に相当し、()内は各層の膜厚を示す。
【0063】
Ta(3nm)/Ru(2nm)/Mn75Ir25(6nm)/Ru(0.8nm)/(Co40Fe40B20)100−xTa(10nm)/Ta(3nm)
上記層構成のうち、アモルファス磁性層を構成する(Co40Fe40B20)100−xTaのxは原子%(at.%)の組成比を示す。括弧内の(Co40Fe40B20)はCoとFeとBが40:40:20の組成比であることを示している。(Co40Fe40B20)とTaの組成比は、それぞれの成膜レートから換算した。Taの組成xは、それぞれ3、6、9、13、17at.%と変化させた。
【0064】
作成したサンプルに対して、アモルファス性を同定するため、振動試料型磁力計(VSM)およびX線回折装置(XRD)を用いて成膜した直後、280℃熱処理後および320℃熱処理後それぞれの単位面積あたりの飽和磁化と回折ピークを測定した。
【0065】
CoFeB磁性層が熱処理により結晶化すると、Bの拡散の影響でCoFeB磁性層の磁化量が増加する。したがって、CoFeBTaアモルファス磁性層の熱処理前後での飽和磁化に変化がないことを確認することにより、アモルファス磁性層のアモルファス性を同定することができる。また、X線による回折ピークが観測されないことでもアモルファス性を同定することができる。上記2種類の手法でCoFeBTaアモルファス磁性層のアモルファス性を同定した。これらの結果を表1に示す。表中のTはテスラを表す。
【0066】
【表1】

【0067】
表1に示すように、Ta組成3at.%から17at.%すべてのサンプルで回折ピークは観測されなかった。また、Ta組成3at.%のサンプルと、6at.%のサンプルで、成膜直後に対する280℃熱処理後および320℃熱処理後の飽和磁化の変化量はいずれも1%以下であった。
【0068】
すなわち、CoFeBTa磁性層は、Ta組成3at.%から17at.%の範囲において、少なくとも320℃の熱処理後に良好なアモルファス性を発揮したといえる。
【0069】
なお、アモルファス磁性層に関して、下記非特許文献2には、合金を構成する元素の原子半径比が12%以上の場合にアモルファス合金として安定に存在することが記載されている。したがって、本実施例1に示したTaの代わりに、例えばHf、Zr、Nbなどを用いても、同様の結果になることが容易に推定される。
【0070】
非特許文献2:『日本金属学会報 まてりあ』第37巻,第5号,p339(1998)
【0071】
<実施例2>
本実施例2では、従来のトンネル磁気抵抗効果膜として、下記サンプル1を作成した。
【0072】
各層はDCマグネトロンスパッタ法を用いて成膜した。トンネルバリア層のMgOは、まず金属Mg膜をスパッタ法により堆積させ、その後酸素とアルゴンの混合比を5:95とし、チャンバーガス圧を0.1mTorrとしたチャンバー内で自然酸化させることにより形成した。酸化時間は10秒とした。金属Mg膜は基板に対して傾斜をつけて成膜することにより基板内で異なる膜厚のトンネルバリア層を形成し、異なる面積抵抗(RA)が得られるようにした。各層を成膜した後に、磁場中熱処理炉で、50kOe、280℃、3時間の熱処理を施した。
【0073】
下記サンプル1は、図4におけるアモルファス磁性層233bおよび250bを削除したものに概ね相当する。サンプル1の左側の「Ta(1nm)/Ru(2nm)」が下地層210に相当し、右に進むにつれて1段ずつ上の層に相当する。「MgO(0.8nm)」は、トンネルバリア層240に相当する。トンネルバリア層240の右側は磁化自由層250に相当する。
【0074】
(サンプル1)
Si/Ta(1nm)/Ru(2nm)/Mn75Ir25(5nm)/Co75Fe25(2nm)/Ru(0.8nm)/Co90Fe10(0.5nm)/Co40Fe40B20(2nm)/Co90Fe10(1.4nm)/MgO(0.8nm)/Co90Fe10(0.9nm)/Co40Fe40B20(3nm)/Ru(3nm)/Ta(3nm)/Ru(4nm)
【0075】
(サンプル2)
CoFeB磁性層233a(C040Fe40B20(2nm))の膜厚を1nmとした以外は、サンプル1と同様に作製した。
【0076】
(サンプル3)
CoFeB磁性層250a(C040Fe40B20(3nm))の膜厚を2nmとした以外は、サンプル1と同様に作製した。
【0077】
表2に、RA値を固定したときのTMR比の値をサンプル毎に測定した結果を示す。測定方法は、CIPT(Current in plane tunneling)法を用いた。
【0078】
【表2】

【0079】
表2に示すように、サンプル1に比べて、サンプル2およびサンプル3ではTMR比が減少した。以上の結果から、従来例においては、磁化固定層、磁化自由層の少なくとも一方のCoFeB磁性層の膜厚を薄くすると、TMR比が劣化することが分かる。
【0080】
<実施例3>
本実施例3では、磁化固定層230にアモルファス磁性層233bを配置した下記サンプル4を作成した。また、比較のためのサンプル5〜14を作成した。本実施例3では、磁化固定層230にアモルファス磁性層233bを配置することの効果を検証するため、磁化自由層250は従来例と同様の構成とした。
【0081】
サンプル4、およびサンプル9〜12におけるCoFeBTaアモルファス磁性層は、XRDおよびVSMの結果からTa組成が3at.%以上であり、280℃熱処理後においてアモルファス構造を保持していることが同定されている。また、サンプル14は、CoFeBTaアモルファス磁性層との比較のため、第2磁化固定層233の一部をCoFeTaアモルファス磁性層とした。
【0082】
(サンプル4)
Si/Ta(1nm)/Ru(2nm)/Mn75Ir25(5nm)/Co75Fe25(2nm)/Ru(0.8nm)/Co90Fe10(0.5nm)/(Co40Fe40B20)94Ta(0.5nm)/Co40Fe40B20(0.5nm)/Co90Fe10(1.4nm)/MgO(0.8nm)/Co90Fe10(0.9nm)/Co40Fe40B20(3nm)/Ru(3nm)/Ta(3nm)/Ru(4nm)
【0083】
(サンプル5)
CoFeB磁性層233a(C040Fe40B20(0.5nm))の膜厚を1.0nmとした以外はサンプル4と同様に作製した。
【0084】
(サンプル6)
CoFeB磁性層233a(C040Fe40B20(0.5nm))の膜厚を1.5nmとした以外はサンプル4と同様に作製した。
【0085】
(サンプル7)
アモルファス磁性層233b((Co40Fe40B20)94Ta)の膜厚を1.0nmとした以外はサンプル4と同様に作製した。
【0086】
(サンプル8)
アモルファス磁性層233b((Co40Fe40B20)94Ta)の膜厚を1.5nmとした以外はサンプル4と同様に作製した。
【0087】
(サンプル9)
アモルファス磁性層233bを(Co40Fe40B20)97Taとした以外はサンプル4と同様に作製した。
【0088】
(サンプル10)
アモルファス磁性層233bを(Co40Fe40B20)90Ta10とした以外はサンプル4と同様に作製した。
【0089】
(サンプル11)
アモルファス磁性層233bを(Co40Fe40B20)87Ta13とした以外はサンプル4と同様に作製した。
【0090】
(サンプル12)
アモルファス磁性層233bを(Co40Fe40B20)83Ta17とした以外はサンプル4と同様に作製した。
【0091】
(サンプル13)
第2磁化固定層233からCoFeB磁性層233a(C040Fe40B20(0.5nm))を除いた構造とした以外はサンプル4と同様に作製した。
【0092】
(サンプル14)
アモルファス磁性層233bを(Co40Fe40)85Ta15とした以外はサンプル4と同様に作製した。
【0093】
表3に、RA値を固定したときのTMR比の値をサンプル毎に測定した結果を示す。測定方法は、CIPT法を用いた。
【0094】
【表3】

【0095】
表3に示すように、従来例のサンプル1と本実施例のサンプル4〜サンプル8の比較から、第2磁化固定層230をトンネルバリア層240側から順にCoFe磁性層233c/CoFeB磁性層233a/CoFeBTaアモルファス磁性層233bの積層構造とすることにより、第2磁化固定層230の膜厚を薄くしてもTMR比の劣化が抑制されることがわかる。
【0096】
また、サンプル9〜サンプル12の比較から、Ta組成が3at.%〜13at.%、特に3at.%〜10at.%の範囲において高いTMR比を示していることがわかる。
【0097】
なお表1に示すように、Ta組成3at.%から10at.%の組成範囲では、CoFeBTaアモルファス磁性層は約0.75Tから1.3Tの高い飽和磁化を示し、CoFeBTaアモルファス磁性層233bとCoFe磁性層233cの間の磁気的結合は強いものと考えられる。
【0098】
したがって、CoFeBTaアモルファス磁性層233bとCoFe磁性層233cの積層構造とする磁性層はひとつの磁性体として良好に機能し、各層の磁化方向が単独に動作して磁気抵抗効果素子としての機能が損なわれることはないものと考えられる。
【0099】
なお、サンプル4とサンプル13の比較から、第2磁化固定層233がCoFe磁性層233cとCoFeBTaアモルファス磁性層233bのみからなるトンネル磁気抵抗効果膜は、TMR比が大きく減少することが分かる。よって、CoFe磁性層233cあるいはCoFeB磁性層233aからなる結晶層とアモルファス磁性層233bとの積層構造を有する場合に本発明の効果が期待できる。したがって、以下の特許文献3から特許文献8に開示されている膜構造は積層構造ではないので、本発明の効果は得られないと考えられる。
【0100】
特許文献3:特開2001−068760号公報
特許文献4:特開2004−071714号公報
特許文献5:特開2006−134950号公報
特許文献6:特開2008−198792号公報
特許文献7:特開2008−227388号公報
特許文献8:特開2009−004784号公報
【0101】
また、サンプル4とサンプル14との比較から、B元素を含まないCoFeTaアモルファス磁性層は、TMR比が大きく低下することが分かる。B元素を含まないアモルファス磁性層で本発明の効果が得られない理由、すなわちB元素を含むアモルファス磁性層で本発明の効果が得られる理由として、次の点が挙げられる。
【0102】
アモルファス構造によってトンネルバリア層240以外からのエピタキシャル関係を切り、かつ熱処理により拡散するB原子の一部が、CoFeB磁性層233aおよびCoFe磁性層233cの結晶化に寄与すると考えられる。したがって、Bを含むアモルファス磁性層233bは、Bを含まないアモルファス磁性層よりも優れた磁化特性が得られるものと考えられる。
【0103】
本実施例3では、アモルファス磁性層233bの膜厚として0.5nm〜1.5nmの範囲のサンプルを作成したが、0.25nm程度の膜厚であれば本実施例3と同等の効果を発揮するものと想定される。
【0104】
また、本実施例3では、CoFeB層233aの構成としてCo40Fe40B20を採用したが、(CoFe)100−x(10≦x≦30at.%)で表される組成の範囲内であれば、本実施例3と同等の効果を発揮するものと想定される。
【0105】
<実施例4>
本実施例4では、磁化自由層250にアモルファス磁性層250bを配置したサンプル15、16を作成した。磁化固定層230は従来例と同様の構成とした。表4に、RA値を固定したときのTMR比の値をサンプル毎に測定した結果を示す。測定方法は、CIPT法を用いた。
【0106】
【表4】

【0107】
表4に示すように、従来例であるサンプル1と、本実施例のサンプル15、16との比較から、磁化自由層250をトンネルバリア層240側から順にCoFeB磁性層250a/CoFeBTaアモルファス磁性層250bの積層構造とすることで、磁化自由層250の膜厚を薄くしても、TMR比の劣化が抑制されることがわかる。
【0108】
なお、本実施例4において、アモルファス磁性層250bの膜厚として0.5nm〜1.0nmの範囲のサンプルを作成したが、0.25nm〜1.5程度の膜厚であれば本実施例4と同等の効果を発揮するものと想定される。
【0109】
また、本実施例4では、CoFeB層250aの構成として実施例3と同様にCo40Fe40B20を採用したが、(CoFe)100−x(10≦x≦30at.%)で表される組成の範囲内であれば、本実施例4と同等の効果を発揮するものと想定される。
【0110】
また、本実施例4では、CoFeBTaアモルファス磁性層250bのTa組成比として6at.%を採用したが、実施例3と同様に3〜13at.%の範囲内であれば、本実施例4と同等の効果を発揮するものと想定される。
【符号の説明】
【0111】
35:再生ヘッド、40:記録ヘッド、41:主磁極、42:第1リターンヨーク、43:第2リターンヨーク、44:トレーリングシールド、45:コイル、50:磁気記録再生装置、51:ケーシング、52:磁気記録媒体、53:アクチュエータアーム、54:サスペンション、55:ヘッドスライダ、56:フレキシブルケーブル、57:アクチュエータ、100:下部シールド層、200:トンネル磁気抵抗効果膜、210:下地層、220:反強磁性層、230:磁化固定層、231:第1磁化固定層、232:非磁性結合層、233:第2磁化固定層、233a:CoFeB磁性層、233b:アモルファス磁性層、233c:CoFe磁性層、233d:CoFe層、240:トンネルバリア層、250:磁化自由層、250a:CoFeB磁性層、250b:アモルファス磁性層、250c:CoFe磁性層、260:キャッピング層、300:上部シールド層。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
磁化方向が固定されている磁化固定層と、
磁化方向が変化する磁化自由層と、
前記磁化固定層と前記磁化自由層の間に配置され絶縁体を用いて形成されているバリア層と、
を備え、
前記磁化固定層または前記磁化自由層の少なくとも一方は、前記バリア層側から順に、
CoFe磁性層もしくはCoFeB磁性層からなる結晶層と、
CoFeBと、Ta、Hf、Zr、Nbからなる群から選択された元素と、を含むアモルファス磁性層と、
を有する積層構造になっている
ことを特徴とする磁気抵抗効果ヘッド。
【請求項2】
前記磁化固定層は前記積層構造を有することを特徴とする請求項1記載の磁気抵抗効果ヘッド。
【請求項3】
前記磁化固定層を構成する前記アモルファス磁性層の膜厚は0.25nm〜1.5nmの範囲であることを特徴とする請求項2記載の磁気抵抗効果ヘッド。
【請求項4】
前記磁化固定層を構成する前記CoFeB磁性層は、(CoFe)100−x(10≦x≦30at.%)で表される組成を有することを特徴とする請求項2記載の磁気抵抗効果ヘッド。
【請求項5】
前記磁化固定層を構成する前記アモルファス磁性層は、(CoFe)100−x (AはTa、Hf、Zr、Nbからなる群から選択された元素、10≦x≦30、3≦y≦13at.%)で表される組成を有することを特徴とする請求項2記載の磁気抵抗効果ヘッド。
【請求項6】
前記磁化自由層は前記積層構造を有することを特徴とする請求項1記載の磁気抵抗効果ヘッド。
【請求項7】
前記磁化自由層を構成する前記アモルファス磁性層の膜厚は0.25nm〜1.5nmの範囲であることを特徴とする請求項6記載の磁気抵抗効果ヘッド。
【請求項8】
前記磁化自由層を構成する前記CoFeB磁性層は、(CoFe)100−x(10≦x≦30at.%)で表される組成を有することを特徴とする請求項6記載の磁気抵抗効果ヘッド。
【請求項9】
前記磁化自由層を構成する前記アモルファス磁性層は、(CoFe)100−x (AはTa、Hf、Zr、Nbからなる群から選択された元素、10≦x≦30、3≦y≦13at.%)で表される組成を有することを特徴とする請求項6記載の磁気抵抗効果ヘッド。
【請求項10】
請求項1から9までのいずれか1項に記載の磁気抵抗効果ヘッドを搭載した磁気記録再生装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【公開番号】特開2011−123923(P2011−123923A)
【公開日】平成23年6月23日(2011.6.23)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−278388(P2009−278388)
【出願日】平成21年12月8日(2009.12.8)
【出願人】(503116280)ヒタチグローバルストレージテクノロジーズネザーランドビーブイ (1,121)
【Fターム(参考)】