説明

磁気抵抗素子および磁気メモリ

【課題】磁化反転の際の反転電流をより低減することを可能にする。
【解決手段】第1面およびこの第1面と反対側の第2面を有し磁化の向きが可変の磁化自由層10と、磁化自由層の第1面および第2面のうち第1面側に設けられ磁化の向きが固着された磁化固着層6と、磁化自由層と磁化固着層との間に設けられた第1トンネルバリア層8と、磁化自由層の第2面に設けられた第2トンネルバリア層12と、第2トンネルバリア層の磁化自由層と反対側の面に接するように設けられた非磁性層14とを備え、磁化自由層の磁化の向きは、磁化固着層と非磁性層との間で通電することにより変化可能であり、第1トンネルバリア層と第2トンネルバリア層の抵抗比が1:0.25〜1:4の範囲にある。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、磁気抵抗素子および磁気メモリに関する。
【背景技術】
【0002】
近年、新しい原理に基づいて情報を記録する固体メモリが多数提案されているが、中でも、固体磁気メモリとして、トンネル磁気抵抗(TMR(Tunneling Magnetoresistive))効果を利用する磁気ランダムアクセスメモリ(MRAM(Magnetoresistive Random Access Memory))が脚光を浴びている。MRAMは、データをMTJ((Magnetic Tunnel Junction))素子の磁化状態により記憶する点に特徴を有する。
【0003】
MTJ素子の近傍領域に配線を設けこの配線に流れる電流による磁界でMTJ素子の記憶層の磁化の向きを反転させることにより書き込みを行うMRAMにおいては、MTJ素子のサイズを縮小すると原理的にMTJ素子の保持力Hcが大きくなるために、MTJ素子のサイズ縮小にしたがって、配線に流れる電流によって誘起される磁界の強度を大きくする工夫が必要となり、高密度なメモリを作製することは困難である。
【0004】
このような課題を克服する書き込み方式としてスピン角運動量移動(SMT(Spin Momentum Transfer))によりMTJ素子の記憶層の磁化の向きを反転させる書き込み方式を用いたMRAMが提案されている(例えば、特許文献1、非特許文献1〜2)。
【0005】
スピン角運動量移動(以下、スピン注入と称する)による磁化反転では、磁化反転に必要な電流Icは、MTJ素子の持つ磁気異方性エネルギー(KuV)によって規定される。したがって、MTJ素子の面積が小さくなれば、スピン注入により磁化反転するための注入電流Icも小さくなる。先に述べた、電流によって誘導される磁界による書き込み方式に比べると、原理的にMTJ素子のサイズが小さくなれば書き込み電流も小さくなるために、スケーラビリティ性に優れることが期待される。
【特許文献1】米国特許第6,256,223号明細書
【非特許文献1】C. Slonczewski, “Current-driven ecitation of magnetIc multilayers”, JORNAL OF MAGNETISM AND MAGNETIC MATERIALS, VOLUME 159, 1996, pp.L1-L7
【非特許文献2】L. Berger, “Emission of spin waves by a magnetic multilayer traversed by a current”, PHYSICAL REVIEW B, VOLUME 54, NUMBER 13, 1996, pp.9353-9358
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
しかしながら、現状のMTJ素子のスピン注入の効率は現状では決して高くなく、磁化反転に必要な電流Icをより低減することが望まれている。
【0007】
また高密度なメモリ応用を考える際、単純な構造を有しかつ単純なプロセスで上記電流の低減が行えることが切望されている。
【0008】
本発明は、上記事情を考慮してなされたものであって、磁化反転の際の反転電流をより低減することが可能な磁気抵抗素子およびそれを用いた磁気メモリを提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明の第1の態様による磁気抵抗素子は、第1面およびこの第1面と反対側の第2面を有し磁化の向きが可変の磁化自由層と、前記磁化自由層の第1面および第2面のうち第1面側に設けられ磁化の向きが固着された磁化固着層と、前記磁化自由層と前記磁化固着層との間に設けられた第1トンネルバリア層と、前記磁化自由層の第2面に設けられた第2トンネルバリア層と、前記第2トンネルバリア層の前記磁化自由層と反対側の面に接するように設けられた非磁性層とを備え、前記磁化自由層の磁化の向きは、前記磁化固着層と前記非磁性層との間で通電することにより変化可能であり、前記第1トンネルバリア層と前記第2トンネルバリア層の抵抗比が1:0.25〜1:4の範囲にあることを特徴とする。
【0010】
また、本発明の第2の態様による磁気抵抗素子は、第1面およびこの第1面と反対側の第2面を有し磁化の向きが可変の磁化自由層と、前記磁化自由層の第1面および第2面のうち第1面側に設けられ磁化の向きが固着された磁化固着層と、前記磁化自由層と前記磁化固着層との間に設けられた第1トンネルバリア層と、前記磁化自由層の第2面に設けられた第2トンネルバリア層と、前記第2トンネルバリア層の前記磁化自由層と反対側の面に接するように設けられた非磁性層とを備え、前記磁化自由層の磁化の向きは、前記磁化固着層と前記非磁性層との間に通電することにより変化可能であり、前記第1トンネルバリア層と前記第2トンネルバリア層が同じ材料で形成されかつトンネル接合の面積が実質的に等しいとき、前記第2トンネルバリア層と前記第1トンネルバリア層の膜厚の差は0.14nm以下であることを特徴とする。
【0011】
また、本発明の第3の態様による磁気メモリは、上記のいずれかに記載の磁気抵抗素子と、前記磁気抵抗素子の一端に接続される第1配線と、前記磁気抵抗素子の他端と電気的に接続される第2配線と、を備えたことを特徴とする。
【発明の効果】
【0012】
本発明によれば、磁化反転の際の反転電流をより低減することが可能な磁気抵抗素子及びそれを用いた磁気メモリを提供することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0013】
(第1実施形態)
本発明の第1実施形態による磁気抵抗素子を説明する前に、第1実施形態の磁気抵抗素子を発明するに至った経緯を説明する。
【0014】
まず、本発明者達は、第1の参考例として、図2示す第1の磁気抵抗素子50を作成した。この磁気抵抗素子50は、下部電極2と、この下部電極2上に形成された膜厚が20nmのPtMnからなる反強磁性層4と、この反強磁性層4上に形成され膜厚が2nmCoFe層、膜厚が0.6nmのRu層、および膜厚が2nmのCoFe層の積層構造を有する磁化固着層6と、この磁化固着層6上に形成された膜厚が1nmのMgOからなるトンネルバリア層8と、このトンネルバリア層8上に形成され膜厚が2nmのCoFeからなる磁化自由層(記憶層)10と、この磁化自由層10上に形成された膜厚が5nmのTaからなるキャップ層(図示せず)と、このキャップ層上に形成された上部電極14と、を備えている。なお、反強磁性層4は磁化固着層6の磁化の向きを固着する。図2に示す第1の磁気抵抗素子は、通常、下から上に電流を流した場合、すなわち電子を磁化自由層から磁化固着層へ流した場合の反転電流が大きい。
【0015】
作成した磁気抵抗素子50の磁化固着層6の磁化向きと磁化自由層10の磁化の向きが逆向き、すなわち反平行(AP(Anti-Parallel))状態である場合の、抵抗変化率MRの印加電圧依存性を図3に示し、抵抗Rの印加電圧依存性を図4に示す。なお、印加電圧は上部電極14から下部電極2に電流を流すときを正にとり、下部電極2から上部電極14に電流を流すときを負にとってある。図3からわかるように、抵抗変化率MRは印加電圧の絶対値が0Vの状態から大きくなるにしたがって大きく低下する。これは、図4に示すようにAP状態の抵抗が0Vから電圧印加によって低下することによって起こる。
【0016】
本発明者達が詳しく調査したところ、AP状態において電圧を印加することによる抵抗値の低下は、図5に示すように例えばピン層からの電子がトンネルバリア層を通過した後、透過先のフリー層のなかでエネルギーを放出するため、そのエネルギーによりフリー層が擾乱を受け、磁化方向が乱され、抵抗値が低下することに起因するとわかった。このときの電流Iを2回微分した値(dI/dV)を縦軸にとり、電圧Vを横軸にとったグラフを図6に示す。図6において実線で示すグラフは、Simmonsの式から導き出したものである。このSimmonsの式は、トンネルバリア層を2つの金属電極で挟んだ素子のI−V特性から導かれる。このSimmonsの式から導かれる特性と比較することより、図2に示す磁気抵抗素子50は、おおよそ0.08Vのあたりに極大点を持つことがわかる。これは、0Vから電圧が大きくなるにつれ、0.08Vまでは擾乱が大きくなることを示す。これより0.1V以上の電圧を印加することでトンネルした電子は磁性体の磁化を擾乱させることがわかる。なお、素子に印加される電圧は磁性層が金属なので、ほとんどトンネルバリア層に印加されることになる。
【0017】
次に、第2の参考例として、図2に示す第1の磁気抵抗素子において、トンネルバリア層の膜厚を1.0nmから0.6nmに変えた第2の磁気抵抗素子を作成した。そしてこの第2の磁気抵抗素子を、おおよそ100nm×150nmのサイズに加工した。この第2の磁気抵抗素子に電流を通電しながら、磁化自由層の磁化方向に平行な外部磁界を変化させ、磁化自由層の保持力Hcを測定し評価した結果を図7に示す。
【0018】
図7中の電流の向きは、磁化固着層から磁化自由層へ電流を流す向きを正としてある。なお、グラフgは、電子を磁化固着層から磁化自由層へ注入した際の、磁化自由層の磁化の向きが磁化固着層に対して平行→反平行に変化するときのスイッチング磁界をプロットしたものであり、グラフgは、磁化自由層の磁化の向きが反平行→平行に変化するときのスイッチング磁界をプロットしたものである。また、グラフgは、磁化自由層から磁化固着層へ電子を注入した場合の、磁化自由層の磁化の向きが平行→反平行に変化するときのスイッチング磁界をプロットしたものであり、グラフgは、磁化自由層の磁化の向きが反平行→平行に変化するときのスイッチング磁界をプロットしたものである。
【0019】
図7からわかるように、磁化自由層にトンネルバリア層を介して電子を注入した場合における、磁化自由層の保持力Hc(同じ電流値に対する、グラフgに示すスイッチング磁界と、グラフgに示すスイッチング磁界との差)は、電流の大きさ(電流の絶対値)が大きくなるにつれて約67Oe/mAの割合で減少している。一方、上部電極からドリフトで電子を磁化自由層に注入した場合における、磁化自由層の保持力Hc(同じ電流値に対する、グラフgに示すスイッチング磁界と、グラフgに示すスイッチング磁界との差)は、電流の大きさ(電流の絶対値)が大きくなるにつれて28Oe/mAの割合で減少している。これらの現象を十分検討したところ、トンネルバリア層を介して電子が注入された場合、トンネルバリアに印加している電圧が、室温のエネルギー(おおよそ0.025eV)より十分に大きなエネルギーを電子に与える場合、トンネルバリア層を透過して磁化自由層に注入された電子が放出するエネルギーによって、磁化自由層の磁化(マグノン)が擾乱されることがわかった。
【0020】
前述のように、電子が磁化自由層を散乱する効果が十分得られるエネルギーは0.1eV以上あればよく、上述のスピン角運動量移動による反転エネルギーにこの電子が磁化自由層を擾乱する効果を加えることで、反転電流を低減することができることがわかった。
【0021】
そこで、本発明の第1実施形態による磁気抵抗素子は、磁化自由層の上下にトンネルバリア層を備えるように構成されている。すなわち、図1に示すように、第1実施形態の磁気抵抗素子1は、下部電極2と、この下部電極2上に形成された膜厚が例えば20nmのPtMnからなる反強磁性層4と、この反強磁性層4上に形成され膜厚が例えば2nmCoFe層、膜厚が例えば0.6nmのRu層、および膜厚が例えば2nmのCoFe層の積層構造を有する磁化固着層6と、この磁化固着層6上に形成された膜厚が例えば0.7nmのMgOからなる第1トンネルバリア層8と、この第1トンネルバリア層8上に形成され膜厚が例えば2nmのCoFeからなる磁化自由層(記憶層)10と、この磁化自由層10上に形成された膜厚が例えば0.55nmのアルミナからなる第2トンネルバリア層12と、この第2トンネルバリア層12上に形成された膜厚が例えば5nmのTaからなるキャップ層(図示せず)と、このキャップ層上に形成された上部電極14と、を備えている。
【0022】
このように、本実施形態の磁気抵抗素子は、磁化自由層の両側にトンネルバリア層を備える構成を有しているので、正負どちらの電流方向においても磁化自由層にトンネルバリア層を介して、高エネルギーの電子を注入することが可能となり、磁化反転の際の反転電流をより低減することができる。
【0023】
なお、本実施形態の磁気抵抗素子は、デュアルピン構造の磁気抵抗素子と構成が似ている。このデュアルピン構造の磁気抵抗素子は、第1磁化固着層、第1トンネルバリア層、磁化自由層、第2トンネルバリア層、および第2磁化固着層が順次積層された積層構造を有している。すなわち、デュアルピン構造の磁気抵抗素子は、本実施形態において、第2トンネルバリア層12と上部電極14との間に第2磁化固着層を設けた構成となっている。
【0024】
このデュアルピン構造の磁気抵抗素子は、図2に示す通常のシングルピン構造の磁気抵抗素子に比べ、第1磁化固着層から第2磁化固着層に向けて電流を流した場合の書き込み電流が低減する。しかしながら、デュアルピン構造の磁気抵抗素子は上下のトンネルバリア層の磁気抵抗効果が抵抗変化を打ち消す方向に働く。このため、本実施形態の磁気抵抗素子に比べて直列の磁気抵抗効果の大きさは低下し、出力が低下する問題がある。また磁気抵抗効果の大きさは、製造上のバラツキが大きく、結果として素子の抵抗バラツキが増えるといった問題がある。また、本実施形態に比べて積層膜数が増え、工程的にも長くなる問題もある。
【0025】
なお、本実施形態の磁気抵抗効果素子は、下部電極2と、後述する図9に示すプラグ45との間に、これらを電気的に接続する引き出し電極を設ければ、磁気メモリのメモリ素子として使用することができる。
【0026】
(第2実施形態)
次に、本発明の第2実施形態による磁気メモリを図8乃至図13を参照して説明する。本実施形態に磁気メモリは、図8に示すようにマトリクス状に配列された複数のメモリセルを有し、各メモリセルは、磁気抵抗素子1Aと、選択トランジスタ20と、列毎に設けられたビット線BLおよびソース線SLと、行毎に設けられたワード線WLとを備えている。磁気抵抗素子1の一端は対応する列のビット線BLに接続され、他端は同じメモリセルの選択トランジスタ20のドレインに接続される。選択トランジスタ20のゲートは対応する行のワード線WLに接続される。また、同一列の隣接する2組のメモリセルの選択トランジスタ20のソースが共通に接続されて、対応する列のソース線SLに接続される。
【0027】
本実施形態の磁気メモリに係る磁気抵抗素子1Aの断面を図9に示し、上からみた平面図を図10に示す。
【0028】
基板40に選択トランジスタ20等が形成され、この選択トランジスタ20に一端が接続されたプラグ45が設けられている。そして、磁気抵抗素子1Aは、プラグ45の他端に接続される下部電極2と、下部電極2上に形成される反強磁性層4と、反強磁性層4上に形成される磁化固着層6と、磁化固着層6上に形成される第1トンネルバリア層8と、第1トンネルバリア層8上に形成される磁化自由層(記憶層)10と、磁化自由層10上に形成される第2トンネルバリア層12と、第2トンネルバリア層12上に形成されるキャップ層(図示せず)と、このキャップ層上に形成される上部電極14とを備えている。磁化自由層10から上部電極14までの積層膜は、下部電極2から第1トンネルバリア層8までの積層膜よりも膜面面積が小さくなるように構成されている。また、上部電極14は、対応するビット線BLに接続されている。また、本実施形態においては、図10に示すように、磁化自由層10とプラグ45とのそれぞれの中心を結ぶ線は、ビット線BLまたは磁化固着層6の長軸方向に平行となっている。
【0029】
本実施形態に係る磁気抵抗素子1Aは、以下のように形成される。
【0030】
まず、基板40に選択トランジスタ20等を形成し、この選択トランジスタ20に一端が接続されたプラグ45を設ける。続いて、プラグ45の他端に接続される下部電極2として膜厚が10nmのTa層と、反強磁性層4として膜厚20nmのPtMn層と、磁化固着層6として膜厚2nmCoFe層と膜厚0.6nmのRu層と膜厚2nmのCoFe層とからなる積層膜と、第1トンネルバリア層8として膜厚0.7nmのMgO層、磁化自由層10として膜厚2nmのCoFe層と、第2トンネルバリア層12として膜厚0.55nmのアルミナ層と、キャップ層(図示せず)として膜厚5nmのTa層と、上部電極14として膜厚60nmのTa層とを順次積層する。なお、アルミナ層12はAlを0.42nm堆積したのち、真空中で酸素ラジカルを用いてAlを酸化させることにより形成する。続いて、磁化固着層6の磁化を固着させるため、磁界中において330℃でアニールを行った。
【0031】
次に、図11(a)に示すように、フォトリソグラフィー技術を用い、上部電極14から磁化自由層10までを100nm×150nmの所定の形状に加工する。このときの磁化自由層の長辺方向は図10に示すように磁化固着層の磁化の固着方向と平行にする。この後、保護膜16として膜厚30nmのSiNを堆積し、続いてフォトリソグラフィー技術を用い、保護膜16から下部電極2までを所定の形状に加工する。下部電極2の形状も、少しでも磁化固着層6の磁気異方性を高めるために、下部電極2の長辺を磁化固着層6の磁化の方向と平行にし、形状異方性を利用するとよい。磁化固着層6の異方性を強めることで磁化固着層6の磁化の擾乱を抑制することができ、反転電流を低減させることができる。
【0032】
次に、図11(b)に示すように、層間絶縁膜としてSiOからなる絶縁膜(図示せず)を全面に堆積した後、CMP(Chemical Mechanical Polishing)を用いて、平坦化を施し、上部電極14の上面を露出させる。続いて、ビット線として、膜厚10nmのTi層、膜厚400nmのAl層、膜厚10nmのTi層、膜厚10nmのTiN層を順次積層して、所定の形状に加工することによりビット線BLを形成する(図11(c)参照)。その後、磁気抵抗素子を保護する保護膜や、ボンディング用の電極等を形成する。
【0033】
本実施形態においては、第1トンネルバリア層8の面積規格化抵抗は10Ω/μm、第2トンネルバリア層12の面積規格化抵抗は10Ω/μmである。
【0034】
参考までに、トンネルバリア層の材料がMgOとアルミナ(Al)の場合のトンネルバリア層の厚さ(nm)と面積規格化抵抗Ra(Ω/μm)の関係を図12に示す。界面の磁性体の酸化等の影響で多少のバラツキが生じる。特にAlは上述のように、Alを堆積させた後、酸化することでAlからなるバリアトンネル層を形成しているため、酸化工程の条件によっては大きく変化する。これに対して、MgOからなるトンネルバリア層は直接MgOを堆積することによって形成されるため、比較的安定している。
【0035】
本実施形態に係る磁気抵抗素子の場合、書き込みに必要な電圧は、正および負の電圧でおおよそ0.4Vであった。読み出しをする際に、ある程度実用的な速度で読み出しを行おうとすると、回路的な容量時定数や感度の問題で、磁気抵抗素子にかける電圧を0.1V以上に設定する必要がある。一方、書き込みと読み出しは同じ電流経路であるため、読み出し時に磁気抵抗素子が誤書き込みされないためには、磁気抵抗素子のバラツキにもよるが、最低でも読み出しの3倍以上の電圧で書き込みできるように設計する必要がある。これらの制限から、書き込み電圧は0.4V以上で設計する必要がある。
【0036】
0.4Vの書き込み電圧で書き込みをする際、擾乱を大きくするために与える0.08V以上の電圧(図6参照)を二つのトンネルバリア層に分配するには、第1トンネルバリア層8と第2トンネルバリア層のそれぞれの抵抗比は1:0.25〜1:4の範囲に設定することが必要となる。これは、図12に示す傾向から算出すると、トンネルバリア層8、12が同じ材料でかつそれぞれのトンネル接合の面積が実質的に同じである場合(例えば、第1実施形態の磁気抵抗効果素子の場合)、二つのトンネルバリア層の膜厚の差を0.14nm以内に設定することになる。0.14nmは、以下のように導かれる。MgOのRa(Ω/cm)と膜厚dとの関係は、図12から、近似式として、
log(Ra)= 4.18×d−2.09
すなわち、 Ra=104.18×d−2.09
が得られる。ここで、二つのトンネル接合の面積が同じ場合、抵抗比はRaの比となる。第1トンネルバリア層8の膜厚をd1、第2トンネルバリア層12の膜厚をd2とすると、
104.18×d1−2.09/104.18×d2−2.09=1/4
となる。すなわち、
104.18×(d1−d2)=1/4
となり、
d1−d2≒0.14
が得られる。
本実施形態に係る磁気抵抗素子1Aは、第1実施形態と同様に、磁化自由層の両側にトンネルバリア層を備える構成を有しているので、正負どちらの電流方向においても磁化自由層にトンネルバリア層を介して、高エネルギーの電子を注入することが可能となり、磁化反転の際の反転電流をより低減することができる。
【0037】
また、本実施形態においては、前述したように、磁化自由層10とプラグ45とのそれぞれの中心を結ぶ線は、ビット線BLまたは下部電極2の長軸方向に平行となっている(図10参照)。しかし、図13の平面図に示すように、磁化自由層10とプラグ45とのそれぞれの中心を結ぶ線は、ビット線BLまたは磁化固着層6の長軸方向(磁化固着層6の磁化の方向)に対して傾けることにより、
磁化固着層6と下部電極2に流れる電流磁界が磁化自由層10の磁化反転を助けることができる。例えば、図13に示すような構成にすることにより、ビット線BLに正の電圧を印加し、ビット線BLから電流を、磁気抵抗素子1Aを介してプラグ45に流すと、図13の矢印に示す方向に主に電流が流れる。この電流によって下部電極2上に生じる磁界の向きは、矢印の方向となる。元々スピン角運動量移動による反転を引き起こす力は、基本的に磁気抵抗素子内で無秩序な方向の力であるため、効率が悪いことが知られている。したがって、上記矢印の方向の磁界によって磁化自由層10の磁化の方向と90度直交する磁界の成分が生じ、この成分によって磁化自由層10の磁化方向と90度直交する磁界をアシストすることで、反転する際の方向が揃い、反転電流を下げることが可能となる。ここで重要なことは磁化自由層10の磁化の方向と90度直交する磁界をアシストすることである。図13に示すように磁気抵抗素子の中心(図13では、磁化自由層10の中心)と下部のトランジスタにつなぐためのプラグ45の中心とを結ぶ線を、磁化固着層の磁化の方向に対して傾ける角度は、本発明者達の実験によれば、0度〜45度が好ましかった。上記のように作製した磁気抵抗素子は、反転電流が低減し、バラツキも少なく、メモリとして良好に動作させることができた。
【0038】
(第3実施形態)
次に、本発明の第3実施形態による磁気メモリを、図14乃至図17(b)を参照して説明する。本実施形態の磁気メモリは、第2実施形態の磁気メモリと基本的な構成が同じであるため、変更した部分のみ説明する。大きく変更した部分は二点である。第1の点は、磁気抵抗素子の第2トンネルバリア層12の材料としてMgOを用いたこと、第2の点は、磁気抵抗素子の微細化を行ったことである。
【0039】
磁化自由層10の堆積までは第2実施形態と同様に行う。磁化自由層として膜厚2nmのCoFe層を堆積させた後、第2トンネルバリア層13として、膜厚0.6nmのMgO層を堆積し、引き続き第2実施形態と同様にキャップ層を堆積し、その後、第1上部電極14として膜厚15nmのTa層を積層した。一般的に金属の微細加工は難しく、その原因はRIE(Reactive Ion Etching)での加工時、反応生成物が磁気抵抗素子の側壁等に再付着し、形状にテーパーが生じサイズが大きくなることが原因である。そのため、微細加工するTaの膜厚をできるだけ薄くすることが重要となる。また、磁化固着層6の磁化を固着させるための磁界中アニールは360℃で行った。
【0040】
続いて、上部電極14から磁化自由層10までをフォトリソグラフィー技術を用いて40nm×60nmのサイズに加工した。その後、図14(a)に示すように保護膜16として膜厚20nmのSiN層を堆積し、続いて層間絶縁膜(図示せず)として膜厚20nmSiO層を堆積した。本実施形態では、第1上部電極14から第1トンネルバリア層8までの段差hは高々15nm程度であり、平坦化して第1上部電極14の上面を露出するためには、段差の2倍以上絶縁膜を堆積することが望ましい。堆積膜の膜厚が大きくなると、第1上部電極14の上面を露出させるまでの研磨量が大きくなり、研磨不足、過剰等、製造上のバラツキにより歩留まりが低下する。このため、本実施形態では、SiN、SiOの合計膜厚を段差hの2倍強とした。
【0041】
続けて、CMPにより平坦化を行うが、通常のSiO用のスラリーでは研磨速度が速く、今回のような精度が必要な研磨に不向きなため、本実施形態では、SiO、Ta、SiNの研磨レートがおおよそ同程度である、Ta用のスラリーを用いて研磨を行った。本実施形態での研磨レートはSiOでおおよそ、20nm/分であるため、おおよそ1.5分研磨することで、上部電極14の上面を露出することができた(図14(b)参照)。
【0042】
しかる後、図14(c)に示すように、第2上部電極15として膜厚80nmのTa層を堆積し、フォトリソグラフィー技術を用い所定の形状に加工する。その後、第2上部電極15をマスクとして、下部電極2までエッチング除去し、自己整合的に下部電極2を所定の形状に加工し、本実施形態に係る磁気抵抗素子1Bを形成した(図15(a)参照)。
【0043】
続けて、図15(b)に示すように、層間絶縁膜18を堆積し、CMP工程で第2上部電極15の上面を露出させる。その後、膜厚10nmのTi層、膜厚400nmのAl層、膜厚10nmのTi層、膜厚10nmのTiN層を積層し、所定の形状に加工して、ビット配線BLを形成する。
【0044】
第2実施形態の第2の点のポイントは、磁化自由層10を微細加工するために上部電極14の厚さを薄く設定することと、CMP工程での最初の第1上部電極14の露出工程を、他の段差がない、言い換えれば、下部電極2の加工前に行うことが肝心となる。その他の工程は適時、変更して作製することができる。例えば、第2上部電極15の上面の露出は、CMPによる平坦化ではなく、磁化自由層10のサイズより大きく加工した第2上部電極15へのビアを層間絶縁膜に形成することでもかまわない。
【0045】
こうして作製した、磁気抵抗素子の特性を調べたところ、第3実施形態に係る磁気抵抗素子1Bの特性(実線で示す)は、図16に示すように第2実施形態に係る磁気抵抗素子1Aの特性(破線で示す)よりも電流をビット線からプラグ側に流した場合(正の電流を流した場合)の反転電流が低減していることが判った。この現象を詳しく調査したところ、この現象は、磁化自由層の上側の第2トンネルバリア層13にMgOを用いたことに起因することがわかった。
【0046】
論文(W.H.Butler et al.,PHYSICAL REVIEW B, VOLUME 63,054416)に示されるように、CoFe系の磁性層とMgOを積層にした場合、電子が供給される磁性体内のマジョリティーのスピンとトンネル先の磁性体のマジョリティーのスピンが同方向の場合の電子のトンネル透過率が高いことが論じられている(図17(a)参照)。しかしながら、トンネル先の金属が非磁性の場合の効果については触れられていない。本実施形態に関連した実験によると図17(b)に示すように、電子を供給する磁性層のマジョリティーの電子スピンの透過率が、トンネル先が非磁性であっても高いことが新たにわかった。
【0047】
上記現象は、磁性体が金属の非磁性体と接触する場合、磁性体は非磁性体とスピン電子を交換しあう。そうすると界面近傍の磁性体のスピン偏極率が低下し、磁性体から出て行くスピンの偏極率を下げている可能性がある。金属に比べ、抵抗が高く(すなわち、電子のやりとりの少ない)、結晶系を揃えたMgOは、界面近傍の磁性体を劣化させず、高い偏極率の電子を磁性体から放出するのによい。
【0048】
したがって、本実施形態の構造において、トンネルバリア層13にMgOを用いた場合、磁化固着層6と磁化自由層10の磁化の向きがお互いに反平行(逆の向き)の場合に、電流を上部電極14から下部電極2の方向、すなわち電子が磁化固着層6から磁化自由層10に注入される場合、磁化固着層6から磁化自由層10に対して、磁化自由層10をより擾乱させるエネルギーを持った反対方向のスピンを持った電子が注入される。反転するまでは、主に注入される電子と反対のスピンを持った電子がマジョリティーであるから、磁化自由層10から上部電極14にはMgOからなるトンネルバリア層13を介して、磁化固着層6から主に注入される電子と逆のスピンを持った電子が選択的に通過する。結果として、磁化固着層6からのエネルギーを持った逆向きのスピンの注入と上部電極14への磁化自由層10のマジョリティースピンの透過によって、磁化自由層10が反転することになる。なお、上記、効果を顕著にするためには、トンネルバリア層13のMgOは、<100>方向へ優先配向させることで効果をより大きくできることがわかった。
【0049】
以上説明したように、本実施形態によれば、磁化反転の際の反転電流をより低減することができる。さらに、第2実施形態の場合と同様に、図13に示すような構成とすることにより、バラツキも少なく、メモリとして良好に動作させることができた。
【0050】
(第4実施形態)
本発明の第4実施形態の磁気抵抗素子を、図18を参照して説明する。第1乃至第3実施形態に係る磁気抵抗素子は、磁化固着層6および磁化自由層10の磁化の方向は、膜面に平行であった。これに対して本実施形態の磁気抵抗素子は、磁化固着層6Aおよび磁化自由層10Aとして、磁化の方向を膜面に対して垂直な方向へ磁化させたいわゆる垂直磁化材料を用いた構成となっている。したがって、本実施形態の磁気抵抗素子は、下部電極2と、磁化固着層6Aと、第1トンネルバリア層8と、磁化自由層10Aと、第2トンネルバリア層13と、上部電極14を備えており、第1乃至第3実施形態に係る磁気抵抗素子とは反強磁性層を備えていない点で異なっている。
【0051】
本実施形態の磁気抵抗素子は、以下のように形成される。まず、選択トランジスタ等を形成した基板上に、下部電極2として膜厚が10nmのTa層と、CrTi系合金からなる膜厚20nmのバッファー層(図示せず)と、磁化固着層6Aとして膜厚5nmのFePt層と、第1トンネルバリア層8として膜厚0.7nmのMgO層と、磁化自由層10Aとして膜厚が1nmのFe層および膜厚が3nmのFePt層の積層膜と、第2トンネルバリア層13として膜厚が0.6nmのMgO層を順次堆積し、その後、キャップ層兼上部電極14として、膜厚が80nmのTi層を積層した後、磁化固着層、磁化自由層を垂直方向へ磁化させるために、400℃で規則化アニールを行い、第1乃至第3実施形態と同様に磁気抵抗素子を完成させた。なお、本実施形態においては、磁化の方向は膜面に垂直であるので、磁化固着層6Aの磁化の向きを固着する磁性材料が存在しない。このため、磁化固着層6Aの磁化の固着は行わず、保持力差をつけるため、磁化自由層10Aに対して磁化固着層6Aの磁化容易軸方向の保持力Hcおよび磁化困難軸方向の保持力Hkを大きくしている。
【0052】
本実施形態の磁気抵抗素子も、第1実施形態と同様に、磁化自由層の両側にトンネルバリア層を備える構成を有しているので、正負どちらの電流方向においても磁化自由層にトンネルバリア層を介して、高エネルギーの電子を注入することが可能となり、磁化反転の際の反転電流をより低減することができる。
【0053】
(第5実施形態)
次に、本発明の第5実施形態による磁気抵抗素子を説明する。本実施形態の磁気抵抗素子は、第4実施形態の磁気抵抗素子とは、磁化固着層6Aおよび磁化自由層10Aの垂直磁化材料が異なっている。本実施形態の磁気抵抗素子は以下の構成となっている。選択トランジスタ等を形成した基板上に、下部電極として膜厚が10nmのTa層と、TbCoFe系合金からなる膜厚が10nmの磁化固着層と、界面層として膜厚1nmのCo層と、第1トンネルバリア層として膜厚が0.7nmのMgO層、磁化自由層として膜厚が1nmのCo層および膜厚が3nmのTbCoFe層との積層膜と、第2トンネルバリア層として膜厚0.6nmのMgO層と、を堆積し、続いて、キャップ層兼上部電極として膜厚が80nmのTi層を積層し、以降は第4実施形態例と同様に磁気抵抗素子を完成させた。
【0054】
本実施形態の磁気抵抗素子も、第1実施形態と同様に、磁化自由層の両側にトンネルバリア層を備える構成を有しているので、正負どちらの電流方向においても磁化自由層にトンネルバリア層を介して、高エネルギーの電子を注入することが可能となり、磁化反転の際の反転電流をより低減することができる。
【0055】
(第6実施形態)
次に、本発明の第6実施形態による磁気抵抗素子を説明する。本実施形態の磁気抵抗素子は、スピントルクを発生する第1トンネルバリア層の面積を大きくした構成となっている。磁化自由層(記憶層)にCoFe(B)やNiFe等の軟磁性材料を用いたスピン注入型の磁気抵抗素子の場合、スイッチング電流は、磁気抵抗素子の熱擾乱耐性を表す熱擾乱指数に比例する。したがって、磁気抵抗素子に必要な熱擾乱指数が決まると電流がおのずと決まる。
【0056】
一方、トンネルバリア層の耐性を考えると、トンネルバリア層に流す電流密度は小さい程よく、同じ電流を流すなら、トンネルバリア層の面積を大きくした方が信頼性上、有利となる。しかし、通常の方法では、トンネルバリア層の面積は磁性体の面積と同じになり、同じ熱擾乱指数を保ったまま(すなわち、スイッチング電流を保ったまま)面積を大きくするためには、磁性体の膜厚を減らさなければならない。また、磁化固着層および磁化自由層の磁化の方向は、磁性体の形状によって誘起された形状異方性を利用しているため、形状に制限もある。本発明者達が用いたCoFeからなる磁性材料の場合、膜厚が1.5nmよりも小さくなると良好な形状異方性が発生せず、良好なヒステリシス特性を示さなくなった。
【0057】
本実施形態では、このような問題を解決できる構成となっている。以下、本実施形態の磁気抵抗素子の製造方法を図19(a)乃至図21を参照して説明する。
【0058】
まず、図19(a)に示すように、選択トランジスタ等を形成した基板(図示せず)上に、膜厚が10nmのTaからなる下部電極2と、PtMnからなる膜厚が20nmの反強磁性層4と、膜厚が2nmのCoFe層、膜厚が0.6nmのRu層、および膜厚が2nmのCoFe層の積層構造の磁化固着層6と、MgOからなる膜厚が0.8nmの第1トンネルバリア層8と、CoFeからなる膜厚が1.5nmの第1磁化自由層10と、NiFeからなる膜厚が6nmの第2磁化自由層10と、CoFeからなる膜厚が1nmの界面層(図示せず)と、MgOからなる膜厚が0.6nmの第2トンネルバリア層13と、を順次形成し、続いて、Taからなる膜厚が60nmの上部電極14を形成する。この後、磁化固着層6の磁化の向きを固着し、磁化固着層6と、第1トンネルバリア層との界面のCoFe層の結晶性を向上させるため、磁界中において360℃でアニールを行った。
【0059】
その後、フォトリソグラフィー技術を用いて、まず上部電極14から第2磁化自由層10までを30nm×100nmの所定の形状に加工する(図19(b)参照)。続いて、図19(c)に示すように、保護膜20として膜厚が30nmのSiN膜を堆積し、その後、フォトリソグラフィー技術を用いて、保護膜20から第1磁化自由層10までを所定の形状に加工する。
【0060】
次に、図20(a)に示すように、保護膜22として膜厚が30nmのSiN膜を堆積し、フォトリソグラフィー技術を用いて保護膜22から下部電極2までを所定の形状に加工する。
【0061】
次に、図20(b)に示すように、SiOからなる層間絶縁膜24を形成したのち、CMPを用いて、平坦化を施し、上部電極14の上面を露出させる。この後、図20(c)に示すように、ビット線BLとして膜厚が10nmのTi層、膜厚が400nmのAl層、膜厚が10nmのTi層、膜厚が10nmのTiN層を積層し、所定の形状に加工して、磁気抵抗素子を完成する。
【0062】
本実施形態での、第1磁化自由層101と第2磁化自由層102の平面図を図21に示す。第1磁化自由層10はある程度の形状異方性が誘起されるようにアスペクトをとっておくとよい。また、第2磁化自由層10は十分な形状異方性を付与させるために、アスペクトは3以上が望ましい。さらに、第1磁化自由層10と第2磁化自由層10は 磁化モーメントがおおよそ同じになるように設計するとよい。本実施形態の場合、第1磁化自由層10の磁化モーメントが1000emu/cc、第2磁化自由層10の磁化モーメント(界面層の磁化モーメントも含む)が800emu/ccであるので、比は17:15程度である。この場合、第1磁化自由層10が中間値等をとることなく、安定してスピン反転させることができた。また、第1磁化自由層10と第2磁化自由層10の膜面の面積比は4.8倍であるので、第1トンネルバリア層8に必要な電流密度を、例えば第1磁化自由層10と第2磁化自由層10の膜面面積が同一である場合に比べて、1/4.8にすることができ、信頼性が向上した。
【0063】
また、本実施形態の場合、MgOからなる第1トンネルバリア層8の膜厚は0.8nm、Raは約17.9Ω/μm、面積は約0.0127μm、MgOからなる第2トンネルバリア層13の膜厚は0.6nm、Raは約2.6Ω/μm、面積は約0.00236μmであるから、第1および第2トンネルバリア層8、13の抵抗値はそれぞれ1409Ω、1101Ωとなる。したがって、第1および第2トンネルバリア層8、13の抵抗値の比は1:0.79となる。すなわち、1:0.25〜4の範囲に入っている。
【0064】
本実施形態の磁気抵抗素子も、第1実施形態と同様に、磁化自由層の両側にトンネルバリア層を備える構成を有しているので、正負どちらの電流方向においても磁化自由層にトンネルバリア層を介して、高エネルギーの電子を注入することが可能となり、磁化反転の際の反転電流をより低減することができる。
【0065】
(第7実施形態)
次に、本発明の第7実施形態による磁気抵抗素子を図22(a)乃至図23(c)を参照して説明する。
【0066】
本実施形態の磁気抵抗素子は、磁化自由層の熱擾乱耐性を軟磁気特性膜によって得た構成となっている。第4および第5実施形態では、材料の特性を活かして大きな垂直磁気異方性を利用して、微細化素子にして熱擾乱耐性を持たせることに対して、軟磁性体を用いた場合は、形状でほとんどの磁気特性を制御することができ、膜質のバラツキ等に左右されない、均一性の高い素子を作製することが可能である。ただし、大きな軟磁気特性膜で大きな磁気異方性を得るためには、出来るだけ大きな体積を有し、かつ形状異方性を利用するためにアスペクト比(膜面に平行な面における縦の長さ(紙面に垂直な方向の長さ)と横の長さ(紙面の左右方向の長さ)の比)の大きな形状にすることが望ましく、棒状が望ましい。本実施形態は以下の作製方法で磁化自由層を棒状に加工し、磁気抵抗素子を作製した。
【0067】
まず、図22(a)に示すように、選択トランジスタ等を形成した基板上に、膜厚が10nmのTaからなる下部電極2と、膜厚が20nmのPtMnからなる反強磁性層4と、膜厚が2nmのCoFe層、膜厚が0.6nmのRu層、および膜厚が2nmのCoFe層の積層構造を有する磁化固着層6と、膜厚が0.7nmのMgOからなる第1トンネルバリア層8と、膜厚が1.5nmのCoFeからなる第1磁化自由層10を順次堆積する。続いて図22(b)に示すように、膜厚が30nmのSiNからなる保護膜26を堆積し、フォトリソグラフィー技術を用いて保護膜26を平面形状として30nm×100nmの溝状に加工する。このとき、レジスト剥離工程で、露出した下地のCoFeからなる第1磁化自由層10を酸化させないようにする。
【0068】
図22(c)に示すように、溝にNiFeをスパッタリング等で埋め込み、図22(c)に示すようにCMPを用いて、NiFeを棒状に加工する。このとき、棒状に加工されたNiFe膜28の膜厚は20nmとなるようにCMPを用いて調整した。この棒状に加工されたNiFe膜28は第2磁化自由層となり、第1磁化自由層10よりも幅(磁化困難軸方向(紙面の左右方向)の長さ)が狭い。
【0069】
次に、図23(a)に示すように、膜厚1.5nmのCoFeからなる界面層30、膜厚0.6nmのMgOからなる第2トンネルバリア層13、膜厚が80nmのTaからなる上部電極14を順次堆積する。しかる後に、図23(b)に示すように、上部電極14から、下部電極2までを所定の形状に加工した。
【0070】
次に、図23(c)に示すように、SiOからなる層間絶縁膜32を形成した後、CMPを用いて層間絶縁膜32を平坦化し、上部電極14の上面を露出させる。続いて、膜厚10nmのTi層、膜厚400nmのAl層、膜厚10nmのTi層、膜厚10nmのTiN層を順次積層し、所定の形状に加工することによりビット線BLを形成し、磁気抵抗素子を完成する。
【0071】
本実施形態の磁気抵抗素子も、第1実施形態と同様に、磁化自由層の両側にトンネルバリア層を備える構成を有しているので、正負どちらの電流方向においても磁化自由層にトンネルバリア層を介して、高エネルギーの電子を注入することが可能となり、磁化反転の際の反転電流をより低減することができる。
【0072】
なお、第4乃至第7実施形態の磁気抵抗素子は、第2乃至第3実施形態の磁気メモリの磁気抵抗素子として用いることができることは云うまでもない。
【図面の簡単な説明】
【0073】
【図1】第1実施形態による磁気抵抗素子の断面図。
【図2】第1の参考例による第1の磁気抵抗素子の断面図。
【図3】第1の磁気抵抗素子のMRのバイアス依存性を示す図。
【図4】第1の磁気抵抗素子の抵抗の印加電圧依存性を示す図。
【図5】第1の磁気抵抗素子の動作を説明するエネルギーバンド図。
【図6】第1の磁気抵抗素子の電流の2回微分値の印加電圧依存性を示す図。
【図7】第2の参考例による第2の磁気抵抗素子の電流とスイッチング磁界との関係を示す図。
【図8】第2実施形態による磁気メモリの回路図。
【図9】第2実施形態の磁気メモリのメモリセルを示す断面図。
【図10】第2実施形態の磁気メモリのメモリセルを示す平面図。
【図11】第2実施形態の磁気メモリの製造工程を示す断面図。
【図12】トンネルバリア層の材質の違いによる面積規格化抵抗の相違を示す図。
【図13】第2実施形態の変形例による磁気メモリの平面図。
【図14】第3実施形態の磁気メモリの製造工程を示す断面図。
【図15】第3実施形態の磁気メモリの製造工程を示す断面図。
【図16】第2および第3実施形態の磁気メモリの書き込み特性を示す図。
【図17】第3実施形態の磁気メモリの効果を説明するエネルギーバンド図。
【図18】第4実施形態の磁気抵抗素子の断面図。
【図19】第6実施形態の磁気抵抗素子の製造工程を示す断面図。
【図20】第6実施形態の磁気抵抗素子の製造工程を示す断面図。
【図21】第6実施形態の磁気抵抗素子の第1および第2磁化自由層の平面図。
【図22】第7実施形態の磁気抵抗素子の製造工程を示す断面図。
【図23】第7実施形態の磁気抵抗素子の製造工程を示す断面図。
【符号の説明】
【0074】
1 磁気抵抗素子
1A 磁気抵抗素子
1B 磁気抵抗素子
2 下部電極
4 反強磁性層
6 磁化固着層
8 第1トンネルバリア層
10 磁化自由層(記憶層)
12 第2トンネルバリア層
13 第2トンネルバリア層
14 上部電極

【特許請求の範囲】
【請求項1】
第1面およびこの第1面と反対側の第2面を有し磁化の向きが可変の磁化自由層と、前記磁化自由層の第1面および第2面のうち第1面側に設けられ磁化の向きが固着された磁化固着層と、前記磁化自由層と前記磁化固着層との間に設けられた第1トンネルバリア層と、前記磁化自由層の第2面に設けられた第2トンネルバリア層と、前記第2トンネルバリア層の前記磁化自由層と反対側の面に接するように設けられた非磁性層とを備え、
前記磁化自由層の磁化の向きは、前記磁化固着層と前記非磁性層との間で通電することにより変化可能であり、
前記第1トンネルバリア層と前記第2トンネルバリア層の抵抗比が1:0.25〜1:4の範囲にあることを特徴とする磁気抵抗素子。
【請求項2】
第1面およびこの第1面と反対側の第2面を有し磁化の向きが可変の磁化自由層と、前記磁化自由層の第1面および第2面のうち第1面側に設けられ磁化の向きが固着された磁化固着層と、前記磁化自由層と前記磁化固着層との間に設けられた第1トンネルバリア層と、前記磁化自由層の第2面に設けられた第2トンネルバリア層と、前記第2トンネルバリア層の前記磁化自由層と反対側の面に接するように設けられた非磁性層とを備え、
前記磁化自由層の磁化の向きは、前記磁化固着層と前記非磁性層との間に通電することにより変化可能であり、
前記第1トンネルバリア層と前記第2トンネルバリア層が同じ材料で形成されかつトンネル接合の面積が実質的に等しいとき、前記第2トンネルバリア層と前記第1トンネルバリア層の膜厚の差は0.14nm以下であることを特徴とする磁気抵抗素子。
【請求項3】
前記第2トンネルバリア層は<100>方向へ配向したMgOからなることを特徴とする請求項1または2に記載の磁気抵抗素子。
【請求項4】
前記第1トンネルバリア層は<100>方向へ配向したMgOからなることを特徴とする請求項1乃至3のいずれかに記載の磁気抵抗素子。
【請求項5】
前記磁化固着層および前記磁化自由層の磁化の向きは、膜面に実質的に平行であることを特徴とする請求項1乃至4のいずれかに記載の磁気抵抗素子。
【請求項6】
前記磁化固着層の前記第1トンネルバリア層と反対側に前記磁化固着層の磁化の向きを固着する反強磁性層を更に備えたことを特徴とする請求項1乃至5のいずれかに記載の磁気抵抗素子。
【請求項7】
前記磁化固着層および前記磁化自由層の磁化の向きは、膜面に実質的に垂直であることを特徴とする請求項1乃至4のいずれかに記載の磁気抵抗素子。
【請求項8】
前記磁化自由層は、前記第1トンネルバリア層側に設けられた第1軟磁性層と、前記第2トンネルバリア層側に設けられ前記第1軟磁性層よりも膜面の面積が狭い第2軟磁性層とを備えていることを特徴とする請求項1乃至6のいずれかに記載の磁気抵抗素子。
【請求項9】
前記磁化自由層は、前記第1トンネルバリア層側に設けられた第1軟磁性層と、前記第2トンネルバリア層側に設けられ前記第1軟磁性層よりも磁化困難軸方向の長さが狭い第2軟磁性層とを備えていることを特徴とする請求項1乃至6のいずれかに記載の磁気抵抗素子。
【請求項10】
請求項1乃至9のいずれかに記載の磁気抵抗素子と、
前記磁気抵抗素子の一端に接続される第1配線と、
前記磁気抵抗素子の他端と電気的に接続される第2配線と、
を備えたことを特徴とする磁気メモリ。
【請求項11】
前記磁気抵抗素子の他端と前記第2配線との間に選択トランジスタが設けられていることを特徴とする請求項10記載の磁気メモリ。
【請求項12】
前記磁気抵抗素子の他端と前記選択トランジスタとの間に膜面に実質的に垂直に延在する接続部が設けられ、前記磁気抵抗素子を上面からみたときに前記磁化自由層の中心と前記接続部の中心とを結ぶ直線は、前記磁化固着層の磁化の向きに対して傾いていることを特徴とする請求項11記載の磁気メモリ。
【請求項13】
前記磁化自由層の中心と前記接続部の中心とを結ぶ直線の、前記磁化固着層の磁化の向きに対する傾き角は45度以下であることを特徴とする請求項12記載の磁気メモリ。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【図11】
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【図12】
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【図13】
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【図14】
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【図15】
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【図16】
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【図17】
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【図18】
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【図19】
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【図20】
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【図21】
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【図22】
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【図23】
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【公開番号】特開2008−186861(P2008−186861A)
【公開日】平成20年8月14日(2008.8.14)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2007−16930(P2007−16930)
【出願日】平成19年1月26日(2007.1.26)
【国等の委託研究の成果に係る記載事項】(出願人による申告)平成18年度独立行政法人新エネルギー・産業技術総合開発機構「スピントロニクス不揮発性機能技術プロジェクト」委託研究、産業活力再生特別措置法第30条の適用を受ける特許出願
【出願人】(000003078)株式会社東芝 (54,554)
【Fターム(参考)】