磁気記憶装置
【課題】書き込み特性の安定した磁気記憶装置を提供する。
【解決手段】第1非磁性膜2は記録層3上に設けられている。第1強磁性膜1dは、第1非磁性膜2上に設けられ、かつ第1の磁化M1dおよび第1の膜厚t1dを有する。第2非磁性膜1cは第1強磁性膜1d上に設けられている。第2強磁性膜1bは、第2非磁性膜1c上に設けられ、かつ第1強磁性膜1dと反平行結合し、かつ第2の磁化M1bおよび第2の膜厚t1bを有する。反強磁性膜1aは第2強磁性膜1b上に設けられている。第1の磁化M1dおよび第1の膜厚t1dの積と第2の磁化M1bおよび第2の膜厚t1bの積との和は、記録層の磁化M3aと記録層の膜厚t3aとの積よりも小さい。
【解決手段】第1非磁性膜2は記録層3上に設けられている。第1強磁性膜1dは、第1非磁性膜2上に設けられ、かつ第1の磁化M1dおよび第1の膜厚t1dを有する。第2非磁性膜1cは第1強磁性膜1d上に設けられている。第2強磁性膜1bは、第2非磁性膜1c上に設けられ、かつ第1強磁性膜1dと反平行結合し、かつ第2の磁化M1bおよび第2の膜厚t1bを有する。反強磁性膜1aは第2強磁性膜1b上に設けられている。第1の磁化M1dおよび第1の膜厚t1dの積と第2の磁化M1bおよび第2の膜厚t1bの積との和は、記録層の磁化M3aと記録層の膜厚t3aとの積よりも小さい。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は磁気記憶装置に関し、特に、記録層および固着層を有する磁気記憶装置に関するものである。
【背景技術】
【0002】
磁気抵抗(MR:magnetoresistive)効果は、磁性体に磁界を加えることにより電気抵抗が変化する現象であり、磁界センサや磁気ヘッドなどに利用されている。特に、非常に大きな磁気抵抗効果を示す巨大磁気抵抗(GMR:giant magnetoresistance)効果材料として、Fe/Cr、Co/Cuなどの人工格子膜などが非特許文献1、2で紹介されている。
【0003】
また、強磁性層間の交換結合作用がなくなる程度に厚い非磁性金属層を持つ強磁性層(フリー層)/非磁性層/強磁性層(ピン層)/反強磁性層からなる積層構造を用いた磁気抵抗効果素子が提案されている。この素子では、ピン層と反強磁性層とが交換結合されて、その強磁性層の磁気モーメントが固定され、フリー層のスピンのみが外部磁場で容易に反転できるようにされている。これが、いわゆるスピンバルブ膜として知られている素子である。この素子では、2つの強磁性層間の交換結合が弱いために小さな磁場でフリー層のスピンが反転される。このため、スピンバルブ膜は上記交換結合膜に比べて高感度の磁気抵抗素子を提供することができる。反強磁性体としては、FeMn、IrMn、PtMnなどが用いられている。このスピンバルブ膜は、用いる際に膜面内方向に電流を流すが、上記のような特徴のために、高密度磁気記録用再生ヘッドに用いられている。
【0004】
また上記のピン層を強磁性膜/非磁性膜/強磁性膜からなる積層膜とし、この2つの強磁性膜の各々の磁化を互いに反平行に結合させる技術が、たとえば特許文献1に示されている。この構造が用いられた場合は、単一の強磁性膜が用いられた場合よりも、ピン層がフリー層に与える影響が小さいことが知られている。
【0005】
一方、膜面に対して垂直方向に電流を流す垂直磁気抵抗効果を利用すると、さらに大きな磁気抵抗効果が得られることが、非特許文献3に示されている。
【0006】
さらには、強磁性トンネル接合によるトンネル磁気抵抗(TMR:tunneling magneto-resistive)効果も、非特許文献4に示されている。このトンネル磁気抵抗は、強磁性層/絶縁層/強磁性層からなる3層膜において、外部磁界によって2つの強磁性層のスピンを互いに平行あるいは反平行にすることにより、膜面垂直方向のトンネル電流の大きさが異なることを利用したものである。
【0007】
近年では、GMRおよびTMR素子を、不揮発性磁気記憶半導体装置(MRAM:magnetic random access memory)に利用する研究が、たとえば非特許文献5〜7に示されている。
【0008】
この場合、保磁力の異なる2つの強磁性層で非磁性金属層を挟んだ擬スピンバルブ素子や強磁性トンネル効果素子が検討されている。MRAMへ利用する場合にはこれらの素子をマトリックス状に配置し、別に設けた配線に電流を流して磁界を印加し、各素子を構成する2つの磁性層を互いに平行、反平行に制御することにより、"1"、"0"が記録される。読み出しはGMRやTMR効果を利用して行なわれる。
【0009】
MRAMにおいては、GMR効果に対しTMR効果を利用した方が低消費電力であるから、主としてTMR素子を用いることが検討されている。TMR素子を利用したMRAMでは、室温でMR変化率が20%以上と大きく、かつトンネル接合における抵抗が大きいので、より大きな出力電圧が得られる。またTMR素子を利用したMRAMでは、読み出し時にスピン反転をする必要がなく、それだけ小さい電流で読み出しが可能である。このため、TMR素子を利用したMRAMは、高速書き込み・読み出し可能な低消費電力型の不揮発性半導体記憶装置として期待されている。
【0010】
MRAMの書き込み動作においては、TMR素子における強磁性層の磁気特性を制御することが望まれる。具体的には、非磁性層を挟む2つの強磁性層の相対的な磁化方向を、平行・反平行に制御する技術、および所望のセルにおける一方の磁性層を確実かつ効率的に磁化反転する技術が望まれる。非磁性層を挟む2つの強磁性層の相対的な磁化方向を、交差する2つの配線を用いて膜面内において均一に平行・反平行に制御する技術は、たとえば特許文献2、4および5に示されている。
【0011】
またMRAMでは、高集積化のためにセルの微細化を実施した場合、磁性層の膜面方向の大きさに依存して反磁界により反転磁界が増大する。これにより書き込み時に大きな磁界が必要となり、消費電力も増大する。このため特許文献3、6、7および8に示されるように、強磁性層の形状を最適化し、磁化反転を容易にする技術が提案されている。
【非特許文献1】D. H. Mosca et al., "Oscillatory interlayer coupling and giant magnetoresistance in Co/Cu multilayers", Journal of Magnetism and Magnetic Materials 94 (1991) pp.L1-L5
【非特許文献2】S. S. P. Parkin et al., "Oscillatory Magnetic Exchange Coupling through Thin Copper Layers", Physical Review Letters, vol.66, No.16, 22 April 1991, pp.2152-2155
【非特許文献3】W. P. Pratt et al., "Perpendicular Giant Magnetoresistances of Ag/Co Multilayers", Physical Review Letters, vol.66, No.23, 10 June 1991, pp.3060-3063
【非特許文献4】T. Miyazaki et al., "Giant magnetic tunneling effect in Fe/Al2O3/Fe junction", Journal of Magnetism and Magnetic Materials 139 (1995), pp.L231-L234
【非特許文献5】S. Tehrani et al., "High density submicron magnetoresistive random access memory (invited)", Journal of Applied Physics, vol.85, No.8, 15 April 1999, pp.5822-5827
【非特許文献6】S. S. P. Parkin et al., "Exchange-biased magnetic tunnel junctions and application to nonvolatile magnetic random access memory (invited)", Journal of Applied Physics, vol.85, No.8, 15 April 1999, pp.5828-5833
【非特許文献7】ISSCC 2001 Dig of Tech. Papers, p.122
【特許文献1】特許第2786601号公報
【特許文献2】特開平11−273337号公報
【特許文献3】特開2002−280637号公報
【特許文献4】特開2000−353791号公報
【特許文献5】米国特許第6005800号明細書
【特許文献6】特開2004−296858号公報
【特許文献7】米国特許第6570783号明細書
【特許文献8】特開2005−310971号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0012】
しかしながら、従来のMRAMでは次のような問題点があった。
特許文献3によれば、MRAMのメモリセルには、交差する2つの配線層と、磁気記憶素子と、トランジスタ素子と、磁気記憶素子およびトランジスタ素子を電気的に接続する接続部材とが必要とされる。磁気記憶素子は、強磁性体である記録層と、ピン層と、記録層およびピン層の間に挟まれる非磁性層とを有している。
【0013】
情報の読み取りでは、磁気記憶装置の抵抗に基づいて、所定の配線を経て磁気記憶素子を流れる電流が検知される。一方、情報の書き換えでは、交差する2つの配線層の双方に電流を流して生じる合成磁界が印加される特定の磁気記憶素子の記録層の磁化方向を選択的に反転するが、この時、磁気記憶素子における記録層の形状を、磁化困難軸に関して対称、磁化容易軸に関して非対称とすることで、書き換えできる磁界範囲を拡大できることが特許文献5および6に開示されている。
【0014】
ここで、MRAMのような高集積化デバイスでは、記録層の形状を、全ての磁気記憶素子に対して同じに仕上げることは事実上困難であり、この問題は記録層の微細化に伴い顕著になる。すなわちフォトリソグラフィの制御性の困難さから、メモリセル間での記録層の形状ばらつきが大きくなる。このためメモリセル間の書き込み特性にばらつきが生じるため、磁気記憶装置の書き込み特性のばらつきが大きくなる。
【0015】
上記非対称性を有する記録層においては、形状により磁化分布を制御しているために、形状のばらつきに伴い、ビット間の書き込み特性がばらつく。このばらつきの存在下で各ビットの書き込みを確実に行なうためには、書き込み電流の設定値をより大きくする必要がある。この結果、特に磁化困難軸に印加される磁界が大きくなることで、ピン層の磁化が回転する。ピン層が強磁性膜/非磁性膜/強磁性膜からなる構造が用いられた場合、この互いに反平行結合した2つの強磁性膜における磁化のバランスが崩れ、結果的にピン層と記録層との相互作用が発生する。この影響によって、さらに書き込み電流の制御が困難となる。
【0016】
すなわち、磁化容易軸に関して非対称となる記録層形状を有する磁気記憶素子は、微細化された場合に、磁気記憶装置の動作が不安定になるという問題があった。
【0017】
本発明は、上記の課題に鑑みてなされたものであり、その目的は、書き込み特性の安定した磁気記憶装置を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0018】
本発明の磁気記憶装置は、基板と、第1および第2配線と、記録層と、第1非磁性層と、固着層とを有する。第1配線は、基板上に設けられ、第1の軸を中心軸として第1の軸に沿って延びる部分を有する。第2配線は、基板上に設けられ、第1の軸と交差する第2の軸を中心軸として第2の軸に沿って延びる部分を有し、基板の厚み方向の間隔を空けて第1配線と交差している。記録層は、平面形状を有し、第1配線および第2配線が間隔を空けて互いに交差する領域において第1配線および第2配線に少なくとも一部が挟まれるように配置され、磁化容易軸を有し、第1配線による磁界と第2配線による磁界との合成磁界によって磁化方向が変化するものである。第1非磁性膜は記録層上に設けられている。固着層は第1非磁性膜上に設けられている。固着層は、第1非磁性膜上に設けられ、かつ第1の磁化および第1の膜厚を有する第1強磁性膜と、第1強磁性膜上に設けられた第2非磁性膜と、第2非磁性膜上に設けられ、かつ第1強磁性膜と反平行結合し、かつ第2の磁化および第2の膜厚を有する第2強磁性膜と、第2強磁性膜上に設けられた反強磁性膜とを含む。第1の磁化および第1の膜厚の積と第2の磁化および第2の膜厚の積との和は、記録層の磁化と記録層の膜厚との積よりも小さい。
【発明の効果】
【0019】
本発明によれば、固着層に含まれる第1および第2強磁性膜の各々の磁化が第1および第2配線による合成磁界によって反平行状態から平行状態により近づいた場合においても、固着層全体としての磁気モーメントが記録層の磁気モーメントを超えるほどに大きくなることが防止される。これにより固着層の磁化状態の変化が記録層に与える影響が抑制されるので、記録層の磁化方向を変化させるのに必要な電流、すなわち書き込み電流のばらつきが抑制される。よって書き込み特性の安定した磁気記憶装置を得ることができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0020】
以下、本発明の実施の形態について図に基づいて説明する。
(実施の形態1)
(メモリセルの回路と構造)
まず、本発明の実施の形態1における磁気記憶装置に関し、磁気記憶装置のメモリセルの回路について説明する。図1は、本発明の実施の形態1における磁気記憶装置のメモリセルの回路図である。
【0021】
図1を参照して、磁気記憶装置では、1つのメモリセルMC(点線枠内)は、素子選択用トランジスタTRと磁気記憶素子(強磁性トンネル接合素子)MMとから構成されている。メモリセルMCはマトリクス状に複数形成されている。
【0022】
その磁気記憶素子MMに対して、情報の書き換えと読み取りを行なうためのライト線WTとビット線BLとが交差する。ビット線BLは、一方向(たとえば行)に並んで配置された磁気記憶素子MMのそれぞれの一端の側に電気的に接続されている。
【0023】
一方、ライト線WTは、他方向(たとえば列)に並んで配置された磁気記憶素子MMのそれぞれに磁界を印加することができるように配置されている。また、その磁気記憶素子MMの他端の側は、素子選択用トランジスタTRのドレイン側と電気的に接続されている。一方向に並んで配置された複数の素子選択用トランジスタTRのそれぞれのソース側が、ソース線SLによって電気的に接続されている。また、他方向に並んで配置された複数の素子選択用トランジスタTRのそれぞれのゲートが、ワード線WDによって互いに電気的に接続されている。
【0024】
次に、本実施の形態における磁気記憶装置の構造について説明する。図2は、本発明の実施の形態1における磁気記憶装置の構成を示す概略断面図である。
【0025】
図2を参照して、半導体基板11におけるメモリセル領域MRでは、素子分離絶縁膜12によって区切られた素子形成領域の表面(半導体基板11の表面)に素子選択用トランジスタTRが形成されている。素子選択用トランジスタTRは、ドレイン領域Dと、ソース領域Sと、ゲート電極Gとを主に有している。ドレイン領域D及びソース領域Sは、互いに所定の距離を開けて半導体基板11の表面に形成されている。ドレイン領域D及びソース領域Sは、互いに所定導電型の不純物領域から形成されている。ゲート電極Gは、ドレイン領域D及びソース領域Sに挟まれる領域上にゲート絶縁膜GIを介在して形成されている。ゲート電極Gの側壁は、サイドウォール状の側壁絶縁膜SIによって覆われている。
【0026】
素子選択用トランジスタTRを覆うように層間絶縁膜13が形成されている。この層間絶縁膜13にはその上面からドレイン領域Dに達する孔が設けられている。この孔内には接続部材14が形成されている。層間絶縁膜13上には、層間絶縁膜15が形成されている。この層間絶縁膜15にはその上面から接続部材14に達する孔と層間絶縁膜13に達する孔とが形成されている。これらの孔の各々にはライト線WTと配線層16とが形成されている。配線層16は、接続部材14によってドレイン領域Dと電気的に接続されている。
【0027】
ライト線WTと配線層16とを覆うように、層間絶縁膜13上に層間絶縁膜17が形成されている。この層間絶縁膜17にはその上面から配線層16に達する孔が設けられている。この孔内には接続部材18が形成されている。層間絶縁膜17上には、導電層19と、磁気記憶素子MMとが形成されている。その導電層19は、接続部材18、配線層16、および接続部材14によってドレイン領域Dと電気的に接続されている。
【0028】
磁気記憶素子MMは磁気抵抗効果素子であり、下から順に積層された、固着層1と、非磁性層であるトンネル絶縁層2(第1非磁性膜)と、記録層3とを有している。固着層1は、導電層19に接するように形成されている。
【0029】
磁気記憶素子MMを覆うように保護膜20が形成されており、その保護膜20上に層間絶縁膜21が形成されている。この保護膜20および層間絶縁膜21には、これらの膜20、21を貫通して記録層3に達する孔が設けられている。この孔内には、接続部材23が形成されている。層間絶縁膜21上には、ビット線BLが形成されている。このビット線BLは、接続部材23によって磁気記憶素子MMに電気的に接続されている。
【0030】
ビット線BLを覆うように層間絶縁膜26が形成されている。その層間絶縁膜21上には、所定の配線層29および絶縁膜28が形成されている。
【0031】
一方、半導体基板11における周辺(論理)回路領域RRでは、論理回路を構成するトランジスタTRAが形成されている。このトランジスタTRAは、半導体基板11の表面に互いに所定の距離を置いて形成された1対のソース/ドレイン領域S/Dと、その1対のソース/ドレイン領域S/Dに挟まれる領域上にゲート絶縁膜GIを介して形成されたゲート電極Gとを有している。ゲート電極Gの側壁は、サイドウォール状の側壁絶縁膜SIによって覆われている。
【0032】
このトランジスタTRAの上には、所定の配線層16、25、29と、その各配線層16、25、29を電気的に接続する為の接続部材14、23、27と、層間絶縁膜13、15、17、21、24、26、28とが形成されている。
【0033】
次に、メモリセルの構造についてさらに詳しく説明する。
図3は本発明の実施の形態1における磁気記憶装置の磁気記憶素子の付近の構成を概略的に示す斜視図である。また図4は、本発明の実施の形態1における磁気記憶素子の構成を示す断面図である。
【0034】
図3および図4を参照して、情報としての磁化が行われる磁気記憶素子MMは、ライト線WTおよびビット線BL(第1配線および第2配線)が間隔を空けて互いに交差する領域において、ライト線WTおよびビット線BLに少なくとも一部が上下方向から挟み込まれるように配置されている。磁気記憶素子MMは、たとえば固着層1、トンネル絶縁層2および記録層3の積層構造とされる。
【0035】
固着層1は、図4に示されるように、固着層を固定するための反強磁性膜1a、強磁性膜1b(第2強磁性膜)、非磁性膜1c(第2非磁性膜)、強磁性膜1d(第1強磁性膜)が順次積層された構造である。強磁性膜1bは反強磁性膜1aによって磁化の方向が固定されている。強磁性膜1bと1dは非磁性膜1cを介して反平行方向に磁化が結合しており、それぞれの磁化が概ね打消しあっている。
【0036】
また、記録層3を構成する強磁性膜3a(第3強磁性膜)上には、非磁性の金属膜3bが形成されている。所定の配線(たとえばビット線BL)に流れる電流によって生じる磁界やスピン偏極した電子の注入によって記録層3の磁化方向が変化する。
【0037】
ここで、本実施の形態における固着層1の強磁性膜1bおよび1dの単位体積あたりの磁化をそれぞれM1b、M1dとし、厚さをt1b、t2dとし、記録層3の強磁性膜3aの磁化と厚さをそれぞれM3a、t3aとした場合、以下を充たしている。
【0038】
M3a・t3a>M1b・t1b+M1d・t1d ・・・(1)
その磁気記憶素子MMの固着層1が、図2に示すように導電層19、接続部材18、配線層16、および接続部剤14を介して素子選択用トランジスタTRのドレイン領域Dに電気的に接続されている。一方、磁気記憶素子MMの記録層3側は、接続部材23を介してビット線BLに電気的に接続されている。
【0039】
第1配線による磁界と第2配線による磁界との合成磁界によって磁化の向きが変化する記録層3については、一般に、結晶構造や形状などによって磁化しやすい方向がある。この方向はエネルギが低い状態であり、磁化しやすい方向は磁化容易軸(Ea:Easy-axis)と呼ばれる。これに対して、磁化されにくい方向は、磁化困難軸(Ha:Hard-axis)と呼ばれる。
【0040】
図5は、本発明の実施の形態1における磁気記憶装置の記録層の平面形状を概略的に示す平面図である。
【0041】
図5を参照して、記録層3は、磁化容易軸91に沿った第1の直線63上で磁化容易軸の方向における最大の長さLを有する。記録層3は第1の直線63上で長さLの全体に渡って存在している。また記録層3は、磁化容易軸91と垂直な方向、すなわち磁化困難軸の方向に、上記の最大の長さLの半分よりも小さい長さWに渡って位置している。
【0042】
また記録層3は、第1の直線63の一方側(図中右側)および他方側(図中左側)のそれぞれにおいて、第1の部分PTaおよび第2の部分PTbを有している。第1の部分PTaは、磁化容易軸91と垂直な方向に長さaに渡って位置している。第2の部分PTbは、磁化容易軸と垂直な方向に長さbに渡って位置している。長さbは長さaよりも小さい。第1の部分PTaの外縁は、外縁の外側に向かって凸の滑らかな曲線のみからなる。なお「第1の部分PTaの外縁」とは、記録層3の外縁のうちの第1の部分PTaに含まれる部分のことである。
【0043】
平面形状において、第1の部分PTaは円弧701からなり、ここではL/2=aである。第2の部分PTbは、直線部705を有する。直線部705は、その上下において同一の曲率を有する曲線部704aおよび704bの各々の一方側と接続されている。曲線部704aおよび704bの各々の他方側は、円弧701と接続されている。
【0044】
また記録層3は、第1の直線63の一方側(図中右側)および他方側(図中左側)のそれぞれにおいて、第1の部分PTaおよび第2の部分PTbを有している。第1の部分PTaは、磁化容易軸91と垂直な方向に長さaに渡って位置している。第2の部分PTbは、磁化容易軸と垂直な方向に長さbに渡って位置している。長さbは長さaよりも小さい。第1の部分PTaの外縁は、外縁の外側に向かって凸の滑らかな曲線のみからなる。なお「第1の部分PTaの外縁」とは、記録層3の外縁のうちの第1の部分PTaに含まれる部分のことである。
【0045】
好ましくは、第1の部分PTaは、第2の直線64を対称軸として有している。
なお図5においては、曲線部704aおよび704bが同一の曲率を有する場合を示しているが、この曲率は必ずしも同一である必要はない。すなわち、第2の部分PTbは、第2の直線64に対して非対称性を有していてもよい。
【0046】
また本実施の形態においては、固着層1およびトンネル絶縁層2も、図5に示した平面形状を有しているが、トンネル絶縁層2および固着層1は、平面形状が記録層3と同じ形状であってもよいし、記録層3の平面形状を含んで、記録層3よりも大きい面積を有する任意の平面形状であってもよい。
【0047】
図6は、本発明の実施の形態1における磁気記憶素子MMの位置の説明図であり、磁気記憶素子を平面的に透視したときの図である。主に図6を参照して、ライト線WTは、第1の軸AWを中心軸としてこの軸に沿って延びる部分を有している。ビット線BLは、第2の軸BWを中心軸としてこの軸に沿って延びる部分を有している。磁気記憶素子MMは、磁化容易軸91(図5)が第1の軸AWとほぼ平行になるように配置されている。すなわち、磁気記憶素子MMは、長手方向が、ライト線WTの延在方向とほぼ平行になるように配置されている。また、磁気記憶素子MMの磁化困難軸の方向と、第2の軸BWとがほぼ平行になるように配置されている。本実施の形態においては、ライト線WTとビット線BLとのそれぞれの延在方向が互いにほぼ垂直になるように形成されている。
【0048】
(メモリセルの動作)
次に、メモリセルの動作について説明する。
【0049】
図2を参照して、読み出し動作は、特定のメモリセルの磁気記憶素子MMに所定の電流を流し、磁化の向きによる抵抗値の違いを検知することによって行われる。まず、特定のメモリセルの選択用トランジスタTRがON状態とされて、所定のセンス信号がビット線BLから特定の磁気記憶素子MMを経て、接続部材18、配線層16、接続部材14、および選択用トランジスタTRを介してソース線SLに伝わる。
【0050】
このとき、磁気記憶素子MMにおける記録層3と固着層1の磁化の向きが同じ向き(平行)の場合では抵抗値が相対的に低く、記録層3と固着層1の磁化の向きが互いに反対向き(反平行)の場合では抵抗値が相対的に高くなる。トンネル磁気抵抗効果素子は、記録層3と固着層1との各磁化方向が平行の場合には抵抗値が小さくなり、かつ記録層3と固着層1との各磁化方向が反平行の場合には抵抗値が大きくなる特性を有している。
【0051】
これにより、磁気記憶素子MMの磁化の向きが平行の場合では、ソース線SLに流れるセンス信号の強度は所定の参照メモリセルの信号強度より大きくなる。一方、磁気記憶素子MMの磁化の向きが反平行の場合では、センス信号の強度は所定の参照メモリセルの信号強度より小さくなる。こうして、センス信号の強度が所定の参照メモリセルの信号強度よりも大きいか小さいかによって、特定のメモリセルに書き込まれた情報が「0」であるか「1」であるかが判定されることになる。
【0052】
書き込み(書き換え)動作については、ビット線BLとライト線WTに所定の電流を流し、磁気記憶素子MMを磁化(磁化反転)することによって行われる。まず、選択されたビット線BLとライト線WTのそれぞれに所定の電流を流すことによってビット線BLとライト線WTのまわりにはそれぞれ電流の流れの方向に対応した磁界(図6の矢印53aおよび54a)が生じる。選択されたビット線BLとライト線WTとが交差する領域に位置する磁気記憶素子MMには、ビット線BLを流れる電流によって生じた磁界とライト線WTを流れる電流によって生じた磁界との合成磁界(図6の矢印55a)が作用することになる。
【0053】
このとき、その合成磁界によって、磁気記憶素子MMの記録層3が固着層1の磁化の方向と同じ向きに磁化される態様と、記録層3が固着層1の磁化の方向とは反対の向きに磁化される態様とがある。こうして、記録層3と固着層1の磁化の向きが同じ向き(平行)の場合と互いに反対向き(反平行)の場合とが実現されて、この磁化の向きが「0」または「1」に対応する情報として記録されることになる。
【0054】
(磁気記憶装置の製造方法)
次に、上述した磁気記憶素子および磁気記憶装置の製造方法の一例について説明する。
【0055】
図7〜図11は、本発明の実施の形態1における磁気記憶装置の製造方法を工程順に示す概略断面図である。まず、図7を参照して、半導体基板11の主表面における所定の領域に素子分離絶縁膜12を形成することによって、メモリセル領域MRおよび周辺回路領域RRが形成される。そのメモリセル領域MRおよび周辺回路領域RRに位置する半導体基板11の表面にゲート絶縁膜GIを介してゲート電極Gが形成される。そのゲート電極Gなどをマスクとして半導体基板11の表面に所定導電型の不純物を導入することにより、不純物領域からなるドレイン領域Dおよびソース領域Sと、1対のソース/ドレイン領域S/Dが形成される。こうして、メモリセル領域MRでは、ゲート電極G、ドレイン領域Dおよびソース領域Sを含む素子選択用トランジスタTRが形成され、周辺回路領域RRでは、論理回路を構成するトランジスタTRAが形成される。
【0056】
その素子選択用トランジスタTRおよびトランジスタTRAを覆うように、たとえばCVD(Chemical Vapor Deposition)法により層間絶縁膜13が形成される。その層間絶縁膜13に対して所定の写真製版およびエッチングを施すことによって、半導体基板11の表面を露出するコンタクトホール13a、13bが形成される。そのコンタクトホール13a、13bを充填するように層間絶縁膜13上にたとえばタングステン層(図示せず)が形成される。そのタングステン層に対してCMP(Chemical Mechanical Polishing)処理を施すことによって、層間絶縁膜13の上面上に位置するタングステン層の部分が除去される。
【0057】
図8を参照して、上記のタングステン層の除去により、コンタクトホール13a、13b内の各々にタングステン層が残存されて接続部材14が形成される。
【0058】
図9を参照して、たとえばCVD法により層間絶縁膜13上にさらに層間絶縁膜15が形成される。その層間絶縁膜15に所定の写真製版およびエッチングを施すことにより、メモリセル領域MRでは、ライト線および所定の配線層を形成するための開口部15a、15bが形成される。また、周辺回路領域RRでは、所定の配線層を形成するための開口部15cが層間絶縁膜15に形成される。その開口部15a、15b、15cを充填するように、層間絶縁膜15上にたとえば銅層(図示せず)が形成される。その銅層にCMP処理を施すことによって、層間絶縁膜15の上面上に位置する銅層が除去されて、開口部15a、15b、15c内に銅層が残存される。これにより、メモリセル領域MRでは開口部15a内にライト線WT、開口部15b内に配線層16が形成される。また周辺回路領域RRでは開口部15c内に配線層16が形成される。
【0059】
なお、開口部15a、15b、15cを充填する銅層の形成においては、銅層と層間絶縁膜との反応を防止するための反応防止層が積層される場合がある。さらに、ライト線WTの形成時には、配線電流磁界を所定の磁気記憶素子へ集中させるため、銅層は高透磁率膜と積層される場合がある。
【0060】
図10(a)、(b)を参照して、層間絶縁膜15上にたとえばCVD法によりさらに層間絶縁膜17が形成される。その層間絶縁膜17に所定の写真製版およびエッチングを施すことにより、配線層16の表面を露出するコンタクトホール17aが形成される。そのコンタクトホール17a内を充填するように層間絶縁膜17上にたとえば銅層(図示せず)が形成される。その銅層にたとえばCMP処理等を施すことによって層間絶縁膜17の上面上に位置する銅層が除去され、コンタクトホール17a内に銅層が残存されて接続部材18が形成される。
【0061】
次に、メモリセル領域MRにおける層間絶縁膜17の上に、導電層19と磁気記憶素子MMとが形成される。その磁気記憶素子MMは、固着層1と、トンネル絶縁層2と、記録層3との積層膜から構成される。
【0062】
まず固着層1として、反強磁性膜1a(反強磁性層)、強磁性膜1b(強磁性層)、非磁性膜1cおよび強磁性膜1d(強磁性層)が順次形成される。反強磁性膜1a、強磁性膜1b、非磁性膜1cおよび強磁性膜1dのそれぞれは、たとえば、膜厚約20nmの白金マンガン膜、膜厚1.4nmのコバルト合金膜、0.7nmのルテニウム膜、および膜厚1.6nmのコバルト合金膜である。ここでの2つのコバルト合金膜が有する単位体積あたりの磁化は、ともに1,100,000A/m(1100emu/cm3)であり、前述したように非磁性膜を介して反平行方向に磁化している。上記は、前述した(1)式を充たしている。
【0063】
次にトンネル絶縁層2が形成される。トンネル絶縁層2は、たとえば膜厚約1nmのアルミニウム酸化膜である。
【0064】
次に記録層3として、強磁性膜3aおよび非磁性の金属膜3bが形成される。強磁性膜3aおよび非磁性の金属膜3bのそれぞれは、たとえば膜厚約5nmのニッケル合金膜と、50nmのタンタル膜とである。このニッケル合金膜が有する単位体積あたりの磁化は、800,000A/m(800emu/cm3)である。
【0065】
なお、白金マンガン膜、コバルト合金膜、ルテニウム膜、アルミニウム酸化膜、ニッケル合金膜、およびタンタル膜は、たとえばスパッタ法によって形成される。
【0066】
その後、そのニッケル合金膜、アルミニウム酸化膜、コバルト合金膜、ルテニウム膜、コバルト合金膜、および白金マンガン膜に所定の写真製版およびエッチングを施すことによって、固着層1、トンネル絶縁層2および記録層3を備えた所定形状の磁気記憶素子MMが形成されることになる。一般的に、エッチング後のレジストパターン除去においてドライプロセス(アッシング)を用いる場合には酸素を主成分とするガスが使用される。好ましくは、固着層1、記録層3の構成材料に対して酸化性でないガス、たとえば水素、窒素、アンモニア、およびそれらの混合ガスを用い、固着層1、記録層3の酸化が抑制される。
【0067】
図11を参照して、磁気記憶素子MMがその後のプロセスによってダメージを受けないように、磁気記憶素子MMを覆うように保護膜20が形成される。その保護膜20を覆うように層間絶縁膜17上にたとえばCVD法によりさらに層間絶縁膜21が形成される。メモリセル領域MRでは、その層間絶縁膜21および保護膜20に所定の写真製版およびエッチングを施すことにより、記録層3の表面を露出するコンタクトホール21aが形成される。また周辺回路領域RRでは、その層間絶縁膜21および層間絶縁膜17に所定の写真製版およびエッチングを施すことにより、配線層16の表面に達するコンタクトホール21bが形成される。これらのコンタクトホール21a、21b内を充填するように層間絶縁膜21上にたとえば銅層(図示せず)が形成される。その銅層にたとえばCMP処理等を施すことによって層間絶縁膜21の上面上に位置する銅層が除去され、コンタクトホール21a、21b内の各々に銅層が残存されて接続部材23が形成される。
【0068】
その層間絶縁膜21を覆うように層間絶縁膜21上にたとえばCVD法によりさらに層間絶縁膜24が形成される。その層間絶縁膜24に所定の写真製版およびエッチングを施すことにより、メモリセル領域MRでは層間絶縁膜24にビット線を形成するための開口部が形成され、周辺回路領域RRでは層間絶縁膜24に開口部24aが形成される。これらの開口部内を充填するように層間絶縁膜24上にたとえば銅層(図示せず)が形成される。その銅層にたとえばCMP処理等を施すことによって層間絶縁膜24の上面上に位置する銅層が除去され、ビット線用の開口部内に銅層が残存されてビット線BLが形成され、開口部24a内には銅層が残存されて配線層25が形成される。
【0069】
なお上記においてはシングルダマシン法について説明したが、層間絶縁膜21の形成後に、さらに層間絶縁膜24を形成し、それらの層間絶縁膜21、24に対して、デュアルダマシン法により所定の接続部材と配線層が形成されてもよい。この場合、まず層間絶縁膜24に対して所定の写真製版およびエッチングを施すことにより、メモリセル領域MRでは、ビット線を形成するための開口部(図示せず)が形成される。周辺回路領域RRでは、配線層を形成するための開口部24aが形成される。次に、層間絶縁膜21に対して所定の写真製版およびエッチングを施すことにより、メモリセル領域MRでは、磁気記憶素子MMの記録層3の表面に達するコンタクトホール21aが形成される。周辺回路領域RRでは、配線層16の表面に達するコンタクトホール21bが形成される。なお、層間絶縁膜21、24にコンタクトホールを形成した後に、層間絶縁膜24に開口部24aなどが形成されてもよい。
【0070】
次に、コンタクトホール21a、21bおよび開口部24aなどの内部を充填するように層間絶縁膜24上にたとえば銅層(図示せず)が形成される。その銅層にたとえばCMP処理等を施すことによって層間絶縁膜24の上面上に位置する銅層の部分が除去される。これにより、メモリセル領域MRでは、コンタクトホール21a内を埋め込んで記録層3に電気的に接続される接続部材23が形成されると共に、開口部内にはその接続部材23に電気的に接続されるビット線BLが形成される。なお、接続部材23を用いなくても、ビット線BLと記録層3とが電気的に接続できれば問題はない。一方、周辺回路領域RRでは、コンタクトホール21b内に配線層16に電気的に接続される接続部材23が形成されるとともに、開口部24a内には接続部材23に電気的に接続される配線層25が形成される。
【0071】
図2を参照して、上記で形成されたビット線BLおよび配線層25を覆うように、層間絶縁膜24上に、さらに層間絶縁膜26が形成される。周辺回路領域RRにおいては層間絶縁膜26に孔が形成され、その孔に接続部材27が形成される。この層間絶縁膜26上にさらに層間絶縁膜28が形成される。その層間絶縁膜28に開口部が形成され、その開口部に配線層29が形成される。
【0072】
なお上記においてはシングルダマシン法について説明したが、層間絶縁膜26の形成後に、さらに層間絶縁膜28を形成し、それらの層間絶縁膜26、28に対して、上記と同様にデュアルダマシン法により接続部材27と配線層29が形成されてもよい。
【0073】
以上により、本実施の形態の磁気記憶装置が製造される。
なお、上述した磁気記憶装置の製造方法では、接続部材14などとして、タングステン層を例に挙げて説明したが、たとえばシリコンが適用されてもよい。また、銅、チタンあるいはタンタルなどの金属が適用されてもよい。さらに、このような金属の合金やこのような金属の窒化物なども適用することができる。また、接続部材14などの形成方法としてCMP法あるいはRIE法を例に挙げて説明したが、たとえばメッキ法、スパッタリング法、CVD法などが適用されてもよい。金属として銅を適用する場合には、いわゆるダマシン法を適用することができ、接続部材14と並行して配線層を形成することもできる。
【0074】
また、ライト線WTの形成方法としてシングルダマシン法を例に挙げて説明したが、ライト線WTを接続部材14と同時に形成する場合には、デュアルダマシン法を適用することもできる。さらに、配線材料としてシリコン、タングステン、アルミニウム、チタンなどの金属、そのような金属の合金あるいはそのような金属の化合物を適用することによって、ドライエッチングによる配線の形成も可能になる。
【0075】
また配線層と配線層との間に介在する層間絶縁膜の膜厚は適用デバイスによって異なることになるが、この磁気記憶装置では、当該膜厚はたとえば約40nmである。
【0076】
また磁気記憶素子MMのトンネル絶縁層2としてアルミニウム酸化物を例に挙げて説明したが、トンネル絶縁層2としては非磁性材料が好ましい。たとえばアルミニウム、シリコン、タンタル、マグネシウムなどの金属の酸化物、その金属の窒化物、シリケートなどに代表されるその金属の合金酸化物、あるいはその合金の窒化物などがトンネル絶縁層2として好ましい。また、そのトンネル絶縁層2は、膜厚約0.3〜5nm程度の比較的薄い膜として形成されることが好ましい。なお、トンネル絶縁層2に換えて非磁性金属材料を用いる場合には、いわゆる膜面に対して垂直方向の巨大磁気抵抗効果を利用することもできる。
【0077】
さらに、磁気記憶素子MMの固着層1として白金マンガン合金膜とコバルト鉄合金膜との積層構造を例に挙げ、記録層3としてニッケル鉄合金膜を例に挙げたが、固着層1および記録層3については、たとえばニッケル、鉄および/またはコバルトを主成分とする強磁性材料が好ましい。さらに、その強磁性材料の磁気特性向上と熱的安定性のため、それら強磁性材料にホウ素、窒素、シリコン、モリブデンなどの添加物が導入されてもよい。特に、記録層3に対しては、記録層3上に記録層3の磁気特性を改善する体心立方型、ルチル型、塩化ナトリウム型、閃亜鉛鉱型の結晶構造を有する結晶性材料薄膜を積層する、および/またはタンタル、ルテニウムなどの酸化防止膜を積層するなどして、磁気特性の向上・安定化を図ることも可能である。さらに、ハーフメタルと呼ばれるNiMnSb、Co2Mn(Ge,Si)、Co2Fe(Al,Si)、(Zn,Mn)Fe2O4などを適用することも可能である。ハーフメタルでは一方のスピンバンドにエネルギギャップが存在するので、非常に大きな磁気効果を得ることができ、その結果、大きな信号出力を得ることができる。
【0078】
固着層1では、反強磁性層と強磁性層との積層構造とすることで、磁化方向をより固定することができる。つまり、反強磁性層が強磁性層のスピンの向きを固定することで、強磁性層の磁化の方向が一定に保たれる。反強磁性層としては、鉄などの強磁性材料または貴金属の少なくとも1つと、マンガンとの化合物が好ましい。
【0079】
なお、上述した製造方法では、この磁気記憶素子を構成する固着層1、トンネル絶縁層2および記録層3をそれぞれスパッタリング法によって形成する場合を例に挙げた。しかし、固着層1、トンネル絶縁層2および記録層3のそれぞれは、スパッタリング法の他にも、たとえばMBE(Molecular Beam Epitaxy)法、化学気相成長法あるいは蒸着法などにより形成することも可能である。
【0080】
また、上述した磁気記憶装置の製造方法では、磁気記憶素子MMの固着層1と接続部材18との間に導電層19がある場合について説明したが、固着層1と接続部材18とが直接接続されていてもよい。また、接続部材18を介さずに配線層16とその導電層19とを直接接続させた構造としてもよい。この場合、その導電層19は、固着層1と平面視において重なるように固着層1の平面形状と同じ形状に形成されてもよい。その導電層19の材料として、低抵抗の金属、たとえば白金、ルテニウム、銅、アルミニウム、タンタル等を適用することが好ましい。また、導電層19の膜厚としては、その導電層の上に形成される固着層1、トンネル絶縁層2および記録層3の平坦性が損なわれないように、たとえば300nm以下にすることが好ましい。
【0081】
なお、固着層1を記録層3と平面視において同じ大きさに形成する場合には、導電層19が接続部材14と接続されるように導電層19を固着層1よりも平面視において大きく形成する必要がある。このように導電層19が固着層1よりも平面的に大きく形成されたとしても、磁気記憶素子として何ら問題はない。
【0082】
このように層間絶縁膜15と磁気記憶素子MMとの間に所定の導電層19を介在させることによって、接続部材18をたとえば銅により形成した場合には、磁気記憶素子MMをエッチングによってパターニングする際に、銅の接続部材18が腐食するのを阻止することもできる。また、その導電層19に磁気記憶素子MMの固着層1の抵抗よりも低い抵抗からなる材料を適用することで、読み出しの際の電流の経路の抵抗を下げることができ、読み出し速度の向上を図ることもできる。
【0083】
また、さらに、上述した本実施の形態の磁気記憶装置では、磁気記憶素子MMが形成された後の工程において磁気記憶素子MMがダメージを受けるのを防止するために、磁気記憶素子MMを覆うように保護膜20を形成する場合を例に挙げて説明した。製造工程において磁気記憶素子MMが被る可能性のあるダメージとしては、たとえば層間絶縁膜を形成する際の熱処理がある。層間絶縁膜としてシリコン酸化膜を形成する場合、約400℃程度の酸化雰囲気のもとでシリコン酸化膜が形成されることになる。
【0084】
このとき、酸化雰囲気のもとで磁性膜が酸化するおそれがあり、これによって、磁気記憶素子MMの磁気特性が劣化してしまうことがある。磁気記憶素子MMを、シリコン窒化膜や酸化アルミニウム膜等の保護膜20により被覆することで、保護膜20はこの酸化のバリアとして機能して磁気記憶素子MMを保護することができる。
【0085】
また、このような酸化を防ぐために、層間絶縁膜が、シリコン窒化膜などの非酸化性雰囲気のもとで成膜可能な薄膜と、酸化性絶縁膜との2層構造とされてもよい。この場合、2層構造の層間絶縁膜のうち、シリコン窒化膜が磁気記憶素子MMの保護膜となる。
【0086】
さらに、保護膜20としては、絶縁性金属窒化物、絶縁性金属炭化物およびFeよりも酸化物生成自由エネルギが低い金属の酸化処理によって形成した金属酸化物のうち少なくとも1つの材料を含む膜が好ましい。このような材料を用いることにより、少なくとも、Feを含む磁性材料薄膜を用いた磁気記憶装置の製造工程における酸化工程中に磁気記憶素子MMが酸化するのを抑制することができる。その結果、製造が容易でかつ動作特性が安定した磁気記憶装置を得ることができる。
【0087】
次に磁気記憶装置の書き込み特性と、記録層3の平面形状との関係について、以下に詳しく説明する。
【0088】
図12は、図5に示される記録層における磁気記憶装置のアステロイド曲線を示す図である。図12の横軸は、磁化困難軸方向の磁界Hxを生じさせるためにライト線WTに流す電流IWTを示し、縦軸は、磁化容易軸方向の磁界Hyを生じさせるためにビット線BLに流す電流IBLを示す。
【0089】
図12を参照して、グラフにプロットされているそれぞれの測定点は、記録層3の磁化の向きが磁界Hyの負の向きの状態で、一定のライト線電流IWTを印加して、磁化の向きが反転するのに必要なビット線電流IBLを計測した結果である。すなわち、それぞれのプロット35〜37を結ぶ曲線は、それぞれの記録層3のアステロイド曲線を示す。
【0090】
図5に実線で示される曲線部704aおよび704bをともに有する磁化困難軸方向に対称な形状では、図12におけるアステロイド曲線はプロット35で示される。図5に示す形状を有する記録層3を採用すると、後述するようにプロット35においてライト線電流IWTが一定の値(以下、「磁化困難軸方向しきい値」という)より小さくなれば、磁化容易軸方向の反転に必要なビット線電流IBLは、急激に大きくなる。すなわち、ライト線電流IWTが磁化困難軸方向しきい値よりも小さい領域においてのみ、磁化反転に大きなビット線電流が必要になる。ここでは図示しないが、この場合は逆向きに書き込みを行なう場合も、書き込み電流はIBLの符号が逆となるだけである。
【0091】
ここで、上記の効果が得られる理由について説明のために、変形例について説明する。図13は、第1の変形例における磁気記憶装置の記録層の平面形状を概略的に示す平面図である。
【0092】
図13を参照して、本変形例の記録層3Dは、平面形状において、第1の直線63方向(磁化容易軸方向)に直線状の直線部707、705を有し、第2の直線64方向(磁化容易軸に垂直な軸方向)に直線状の直線部709a、709bを有している。これらの直線部705と直線部709bとは交点が垂直になるように形成され、また、直線部705と直線部709aとは交点が垂直になるように形成されている。これに対して、直線部709aと直線部707とは曲線部708aを介して接続され、直線部709bと直線部707とは曲線部708bを介して接続されている。直線部707と直線部705とは互いに平行であり、また、直線部709aと直線部709bとは互いに平行である。曲線部708aおよび曲線部708bは、それぞれ円弧になるように形成されている。すなわち、記録層3の平面形状が、第1の直線63に対して非対称かつ第2の直線64に対して線対称になるように形成されている。
【0093】
まず、図12のプロット35に示すように、磁化容易軸方向において、磁化反転に必要なビット線電流IBLの大きさがライト線電流IWTの大きさに依存して顕著に異なる現象は、磁化状態の差異に起因する。図14および図15は、磁化容易軸方向の磁界と磁化困難軸方向の磁界との合成磁界が、反転磁界よりも小さい場合と大きい場合との磁化分布を示す図であり、本発明の実施の形態1における磁気記憶素子の記録層の平面図である。図14および図15中のそれぞれの矢印は、それぞれの位置における磁化の向きを示している。図14および図15は、それぞれの磁界Hyが同じ大きさで、磁界Hxの大きさが異なるように磁界が印加されている。図14にて印加されている磁界Hxは磁化困難軸方向しきい値よりも小さく、図15にて印加されている磁界Hxは磁化困難軸方向しきい値よりも大きい。
【0094】
図14に示されるような磁化分布の形態はC型(第1の磁化分布)と呼ばれ、安定な磁化状態であるため磁化容易軸方向の磁化反転磁界は大きくなる。これに対し、図15に示されるような磁化分布の形態はS型(第2の磁化分布)と呼ばれ、外部磁界によるトルクを受けやすく磁化反転磁界が急激に小さくなる。このS型とC型との磁化分布状態の概念図を図16(a)(b)に示す。本実施の形態の記録層3は、このS型とC型との磁化分布状態を外部磁界によって制御できる平面形状を有している。図5に示される記録層3も同様な磁化分布状態となる。
【0095】
図5に戻って、磁化困難軸方向に対して形状が非対称となった場合を考えるため、曲線部704aおよび704bがそれぞれ、曲線部704apと704bpとなる場合を考える。曲線部704apと704bpの何れか一方のみを有する形状では、図12におけるプロット36と37で示されるアステロイド曲線となる。この場合は逆向きに書き込みを行なう場合は、書き込み電流はプロット36に対応して37のIBLの符号が逆とした電流であり、プロット37に対応して36のIBLの符号を逆とした電流となる。すなわち同一ビット内においても方向によって書き込み電流が異なる。
【0096】
このように、形状の磁化困難軸方向の非対称性に起因して磁化反転に必要な電流値が変動した場合(プロット36、37)では、記録層3の磁化反転を行なうことができる領域(図中ハッチング領域)46が狭くなり、これらのビット全てを書き込むために必要とされる電流IBLと電流IWTとが大きくなる。
【0097】
以上のように、磁気記憶装置の書き込み特性と、記録層3の平面形状とは密接に関連している。このため記録層3の形状のばらつきに伴い、ビット間の書き込み特性がばらつく。このばらつきの存在下で各ビットの書き込みを確実に行なうためには、書き込み電流の設定値をより大きくする必要がある。この書き込み電流の増大に伴い、書き込み時に固着層1が受ける影響も大きくなる。すなわち書き込み電流によって発生した磁界が固着層1の磁化に与える回転力が無視できなくなる。この際に、固着層1の強磁性膜/非磁性膜/強磁性膜間に作用する交換力と同等若しくは大きい磁界が印加される場合、固着層1を形成する2層の強磁性膜1bおよび1dの磁化M1bおよびM1dは、反平行方向から磁界印加方向への飽和に向かう。これによって記録層1と磁気的な結合が発生し、記録層3の特性が変化し得る。
【0098】
本実施の形態によれば、記録層に形状ばらつきが生じた場合においても、固着層の磁化が記録層に与える影響が小さく、従来の構造と比較し、書き込み動作の安定化が可能である。すなわち、式(1)が満たされることによって、磁化M1bおよびM1d(図4)がライト線WTおよびビット線BL(図3)による合成磁界によって反平行状態から平行状態により近づいた場合においても、固着層1全体としての磁気モーメントが記録層3の磁気モーメントを超えるほどに大きくなることが防止される。これにより固着層1の磁化状態の変化が記録層3に与える影響が抑制されるので、記録層3の強磁性膜3aの磁化M3aの方向を変化させるのに必要な電流、すなわち書き込み電流のばらつきが抑制される。よって書き込み特性の安定した磁気記憶装置を得ることができる。
【0099】
好ましくは、式(1)の右辺の2項間に以下の大小関係が存在する。
M1b・t1b>M1d・t1d ・・・(3)
これにより固着層1(図4)のうち記録層3に近い部分から発生する磁化M1dの影響が抑制されるので、固着層1の磁化が記録層3におよぼす影響をさらに抑制することができる。
【0100】
また記録層3の平面形状は磁化容易軸91に対して非対称性を有する。これにより、動作可能な書き換え電流の領域を大きく確保することが可能であり、安定した書き込み動作が可能となる。
【0101】
なお、先にも説明したように、図5に示される記録層3は、磁化容易軸63の右側部分は円弧701からなっている。MRAMを高集積化した場合、記録層3を形成するためのフォトリソグラフィやエッチング工程などに起因して、曲率の小さい形状の制御は困難となる。しかしながら、図5における曲線部701は、磁化容易軸91方向に沿って記録層3の最大長さLと同じ長さを有する円弧であり、制御が容易でばらつきの影響は小さい。ここでは円弧を示したが、他の2次関数で記述される曲線であってもよい。また図17〜図20のそれぞれは、本発明の実施の形態1の第2〜第5の変形例における記録層の平面形状を概略的に示す平面図である。図17〜図20を参照して、これらの図に示される形状の記録層が用いられる場合であっても、図4に示される積層構造とすることで、同様な効果が得られる。
【0102】
(実施の形態2)
図21は、本発明の実施の形態2における磁気記憶装置の記録層の平面形態を概略的に示す平面図である。なお、断面構造は実施の形態1と同様である。
【0103】
曲線部704aと704bの曲率は異なっており、磁化困難軸方向に対して非対称である。この記録層においては、実質的な形状容易軸は第1の直線63に対し、傾斜する。この場合のアステロイド曲線は、図12のプロット36で説明したように“1”および“0”の書き込みの際に、電流向きとともに大きさも異なる。しかしながら、このような場合においても、図4に示される積層構造とすることで、固着層の磁化の影響を抑制することが可能である。
【0104】
この記録層形状を活用することで、“1”および“0”の書き込み時電流の大きさの違いを補正することが可能である。
【0105】
なお、上記以外の構成については、上述した実施の形態1の構成とほぼ同じであるため、同一または対応する要素について同一の符号を付し、その説明を繰り返さない。
【0106】
本実施の形態によれば、第2の部分PTbが第2の直線64に対して非対称性を有している。この場合においても、実施の形態1において説明したように、磁気記憶装置の書き込み特性のばらつきが抑制される。よって記録層3が対称性を有する場合であっても、磁気記憶装置の書き込み特性を安定化することができる。
【0107】
(実施の形態3)
図22は、本発明の実施の形態3における磁気記憶装置の記録層の積層構造を概略的に示す断面図である。なお平面形態は実施の形態1と同様である。
【0108】
主に図22を参照して、本実施の形態の磁気記憶装置は、磁気記憶素子MM(図4)の代わりに、磁気記憶素子MMvを有する。磁気記憶素子MMvは、磁気記憶素子MM(図4)における記録層3の代わりに、記録層3vを有する。
【0109】
記録層3vは、強磁性膜3a、非磁性膜3c(第3非磁性膜)、強磁性膜3d(第4強磁性膜)、および非磁性の金属膜3bがトンネル絶縁層2上に順次積層された構造を有する。強磁性膜3aはコバルト合金膜からなり厚さは2nmであり、非磁性膜3cは厚さ0.7nmのルテニウム膜からなる。強磁性膜3dはコバルト合金膜からなり厚さは4nmであり、1,100,000A/m(1100emu/cm3)である。この記録層1’では、固着層1と同様にルテニウム膜3cを介して、強磁性膜3aと3dの磁化が反平行方向に結合している。この場合の記録層においても大きな磁界が印加された場合は、磁界方向に磁化が飽和するために、実施の形態1と同様な効果を得るためには、以下の関係を充たす必要がある。
【0110】
M3a・t3a+M3d・t3d>M1b・t1b+M1d・t1d ・・・(2)
なお、上記以外の構成については、上述した実施の形態1の構成とほぼ同じであるため、同一または対応する要素について同一の符号を付し、その説明を繰り返さない。
【0111】
本実施の形態によれば、磁化反転に寄与する記録層の実効的な磁化を、2層の強磁性膜で調整することが可能である。また、記録層全体の体積を大きくすることが可能であるため、微細化した際の熱擾乱による、情報の損失を抑制することが可能である。
【0112】
なお上記の各実施の形態の磁気記憶装置は、メモリセルMC(図1)と混載された論理回路を有する混載デバイスであってもよい。この場合、書き込み特性の安定化により高速動作が可能となるので、ネットワーク環境や移動体通信における情報のインタラクティブな取り扱い環境が改善される。さらに、コンピュータや携帯端末等へ当該磁気記憶装置を適用することによって、消費電力の低減や動作環境の改善などを大幅に図ることができることになる。
【0113】
また上記の各実施の形態においては、磁気記憶装置について説明したが、磁気記憶素子MMなどの磁気抵抗効果素子とライト線およびビット線に係る配線層との関係は、情報の記憶に限定されるものではなく、たとえば磁気センサ、磁気記録ヘッド、または磁気記録媒体などのパターン化された磁気素子などの磁気デバイスにも適用することが可能である。
【0114】
また1つのメモリセルMCに1つの磁気記憶素子MMが設けられた磁気記憶装置について説明したが、1つのメモリセルMCに複数の磁気記憶素子MMが設けられてもよく、またこの複数の磁気記憶素子MMが互いに積層されていてもよい。
【0115】
今回開示された実施の形態はすべての点で例示にすぎず、これに制限されるものではない。本発明は上記で説明した範囲ではなく、特許請求の範囲によって示されるもので、特許請求の範囲と均等の意味および範囲でのすべての変更が含まれることが意図される。
【産業上の利用可能性】
【0116】
本発明は、記録層および固着層を有する磁気記憶装置に特に有利に適用され得る。
【図面の簡単な説明】
【0117】
【図1】本発明の実施の形態1における磁気記憶装置のメモリセルの回路図である。
【図2】本発明の実施の形態1における磁気記憶装置の構成を示す概略断面図である。
【図3】本発明の実施の形態1における磁気記憶装置の磁気記憶素子の付近の構成を概略的に示す斜視図である。
【図4】本発明の実施の形態1における磁気記憶装置の磁気記憶素子の構成を概略的に示す断面図である。
【図5】本発明の実施の形態1における磁気記憶装置の記録層の平面形状を概略的に示す平面図である。
【図6】本発明の実施の形態1における磁気記憶素子の位置の説明図であり、磁気記憶素子を平面的に透視したときの図である。
【図7】本発明の実施の形態1における磁気記憶装置の製造方法の第1工程を示す概略断面図である。
【図8】本発明の実施の形態1における磁気記憶装置の製造方法の第2工程を示す概略断面図である。
【図9】本発明の実施の形態1における磁気記憶装置の製造方法の第3工程を示す概略断面図である。
【図10】本発明の実施の形態1における磁気記憶装置の製造方法の第4工程を示す概略断面図(a)、および磁気記憶素子部分を拡大して示す拡大断面図(b)である。
【図11】本発明の実施の形態1における磁気記憶装置の製造方法の第5工程を示す概略断面図である。
【図12】本発明の実施の形態1における磁気記憶装置のアステロイド曲線を示す図である。
【図13】第1の変形例における磁気記憶装置の記録層の平面形状を概略的に示す平面図である。
【図14】図16の記録層がC型の磁化分布を有する場合の磁化の様子を示す平面図である。
【図15】図16の記録層がS型の磁化分布を有する場合の磁化の様子を示す平面図である。
【図16】S型の磁化分布状態の概念図(a)、およびC型の磁化分布状態の概念図(b)である。
【図17】本発明の実施の形態1の第2の変形例における記録層の平面形状を概略的に示す平面図である。
【図18】本発明の実施の形態1の第3の変形例における記録層の平面形状を概略的に示す平面図である。
【図19】本発明の実施の形態1の第4の変形例における記録層の平面形状を概略的に示す平面図である。
【図20】本発明の実施の形態1の第5の変形例における記録層の平面形状を概略的に示す平面図である。
【図21】本発明の実施の形態2における磁気記憶装置の記録層の平面形状を概略的に示す平面図である。
【図22】本発明の実施の形態3における磁気記憶装置の磁気記憶素子の構成を概略的に示す断面図である。
【符号の説明】
【0118】
1 固着層、1a 反強磁性膜、1b 強磁性膜(第2強磁性膜)、1c 非磁性膜(第2非磁性膜)、1d 強磁性膜(第1強磁性膜)、2 トンネル絶縁層(第1非磁性膜)、3,3v 記録層、3a 強磁性膜(第3強磁性膜)、3c 非磁性膜(第3非磁性膜)、3d 強磁性膜(第4強磁性膜)、11 半導体基板、12 素子分離絶縁膜、13,15,17,21,24,26,28 層間絶縁膜、13a,17a,21a,21b コンタクトホール、14,18,23,27 接続部材、15a,15b,15c,24a 開口部、16,25,29 配線層、19 導電層、20 保護膜、BL ビット線、D ドレイン領域、G ゲート電極、GI ゲート絶縁膜、MC メモリセル、MM,MMv 磁気記憶素子、MR メモリセル領域、RR 周辺回路領域、S ソース領域、S/D ソース/ドレイン領域、SL ソース線、TR 素子選択用トランジスタ、TRA トランジスタ、WD ワード線、WT ライト線。
【技術分野】
【0001】
本発明は磁気記憶装置に関し、特に、記録層および固着層を有する磁気記憶装置に関するものである。
【背景技術】
【0002】
磁気抵抗(MR:magnetoresistive)効果は、磁性体に磁界を加えることにより電気抵抗が変化する現象であり、磁界センサや磁気ヘッドなどに利用されている。特に、非常に大きな磁気抵抗効果を示す巨大磁気抵抗(GMR:giant magnetoresistance)効果材料として、Fe/Cr、Co/Cuなどの人工格子膜などが非特許文献1、2で紹介されている。
【0003】
また、強磁性層間の交換結合作用がなくなる程度に厚い非磁性金属層を持つ強磁性層(フリー層)/非磁性層/強磁性層(ピン層)/反強磁性層からなる積層構造を用いた磁気抵抗効果素子が提案されている。この素子では、ピン層と反強磁性層とが交換結合されて、その強磁性層の磁気モーメントが固定され、フリー層のスピンのみが外部磁場で容易に反転できるようにされている。これが、いわゆるスピンバルブ膜として知られている素子である。この素子では、2つの強磁性層間の交換結合が弱いために小さな磁場でフリー層のスピンが反転される。このため、スピンバルブ膜は上記交換結合膜に比べて高感度の磁気抵抗素子を提供することができる。反強磁性体としては、FeMn、IrMn、PtMnなどが用いられている。このスピンバルブ膜は、用いる際に膜面内方向に電流を流すが、上記のような特徴のために、高密度磁気記録用再生ヘッドに用いられている。
【0004】
また上記のピン層を強磁性膜/非磁性膜/強磁性膜からなる積層膜とし、この2つの強磁性膜の各々の磁化を互いに反平行に結合させる技術が、たとえば特許文献1に示されている。この構造が用いられた場合は、単一の強磁性膜が用いられた場合よりも、ピン層がフリー層に与える影響が小さいことが知られている。
【0005】
一方、膜面に対して垂直方向に電流を流す垂直磁気抵抗効果を利用すると、さらに大きな磁気抵抗効果が得られることが、非特許文献3に示されている。
【0006】
さらには、強磁性トンネル接合によるトンネル磁気抵抗(TMR:tunneling magneto-resistive)効果も、非特許文献4に示されている。このトンネル磁気抵抗は、強磁性層/絶縁層/強磁性層からなる3層膜において、外部磁界によって2つの強磁性層のスピンを互いに平行あるいは反平行にすることにより、膜面垂直方向のトンネル電流の大きさが異なることを利用したものである。
【0007】
近年では、GMRおよびTMR素子を、不揮発性磁気記憶半導体装置(MRAM:magnetic random access memory)に利用する研究が、たとえば非特許文献5〜7に示されている。
【0008】
この場合、保磁力の異なる2つの強磁性層で非磁性金属層を挟んだ擬スピンバルブ素子や強磁性トンネル効果素子が検討されている。MRAMへ利用する場合にはこれらの素子をマトリックス状に配置し、別に設けた配線に電流を流して磁界を印加し、各素子を構成する2つの磁性層を互いに平行、反平行に制御することにより、"1"、"0"が記録される。読み出しはGMRやTMR効果を利用して行なわれる。
【0009】
MRAMにおいては、GMR効果に対しTMR効果を利用した方が低消費電力であるから、主としてTMR素子を用いることが検討されている。TMR素子を利用したMRAMでは、室温でMR変化率が20%以上と大きく、かつトンネル接合における抵抗が大きいので、より大きな出力電圧が得られる。またTMR素子を利用したMRAMでは、読み出し時にスピン反転をする必要がなく、それだけ小さい電流で読み出しが可能である。このため、TMR素子を利用したMRAMは、高速書き込み・読み出し可能な低消費電力型の不揮発性半導体記憶装置として期待されている。
【0010】
MRAMの書き込み動作においては、TMR素子における強磁性層の磁気特性を制御することが望まれる。具体的には、非磁性層を挟む2つの強磁性層の相対的な磁化方向を、平行・反平行に制御する技術、および所望のセルにおける一方の磁性層を確実かつ効率的に磁化反転する技術が望まれる。非磁性層を挟む2つの強磁性層の相対的な磁化方向を、交差する2つの配線を用いて膜面内において均一に平行・反平行に制御する技術は、たとえば特許文献2、4および5に示されている。
【0011】
またMRAMでは、高集積化のためにセルの微細化を実施した場合、磁性層の膜面方向の大きさに依存して反磁界により反転磁界が増大する。これにより書き込み時に大きな磁界が必要となり、消費電力も増大する。このため特許文献3、6、7および8に示されるように、強磁性層の形状を最適化し、磁化反転を容易にする技術が提案されている。
【非特許文献1】D. H. Mosca et al., "Oscillatory interlayer coupling and giant magnetoresistance in Co/Cu multilayers", Journal of Magnetism and Magnetic Materials 94 (1991) pp.L1-L5
【非特許文献2】S. S. P. Parkin et al., "Oscillatory Magnetic Exchange Coupling through Thin Copper Layers", Physical Review Letters, vol.66, No.16, 22 April 1991, pp.2152-2155
【非特許文献3】W. P. Pratt et al., "Perpendicular Giant Magnetoresistances of Ag/Co Multilayers", Physical Review Letters, vol.66, No.23, 10 June 1991, pp.3060-3063
【非特許文献4】T. Miyazaki et al., "Giant magnetic tunneling effect in Fe/Al2O3/Fe junction", Journal of Magnetism and Magnetic Materials 139 (1995), pp.L231-L234
【非特許文献5】S. Tehrani et al., "High density submicron magnetoresistive random access memory (invited)", Journal of Applied Physics, vol.85, No.8, 15 April 1999, pp.5822-5827
【非特許文献6】S. S. P. Parkin et al., "Exchange-biased magnetic tunnel junctions and application to nonvolatile magnetic random access memory (invited)", Journal of Applied Physics, vol.85, No.8, 15 April 1999, pp.5828-5833
【非特許文献7】ISSCC 2001 Dig of Tech. Papers, p.122
【特許文献1】特許第2786601号公報
【特許文献2】特開平11−273337号公報
【特許文献3】特開2002−280637号公報
【特許文献4】特開2000−353791号公報
【特許文献5】米国特許第6005800号明細書
【特許文献6】特開2004−296858号公報
【特許文献7】米国特許第6570783号明細書
【特許文献8】特開2005−310971号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0012】
しかしながら、従来のMRAMでは次のような問題点があった。
特許文献3によれば、MRAMのメモリセルには、交差する2つの配線層と、磁気記憶素子と、トランジスタ素子と、磁気記憶素子およびトランジスタ素子を電気的に接続する接続部材とが必要とされる。磁気記憶素子は、強磁性体である記録層と、ピン層と、記録層およびピン層の間に挟まれる非磁性層とを有している。
【0013】
情報の読み取りでは、磁気記憶装置の抵抗に基づいて、所定の配線を経て磁気記憶素子を流れる電流が検知される。一方、情報の書き換えでは、交差する2つの配線層の双方に電流を流して生じる合成磁界が印加される特定の磁気記憶素子の記録層の磁化方向を選択的に反転するが、この時、磁気記憶素子における記録層の形状を、磁化困難軸に関して対称、磁化容易軸に関して非対称とすることで、書き換えできる磁界範囲を拡大できることが特許文献5および6に開示されている。
【0014】
ここで、MRAMのような高集積化デバイスでは、記録層の形状を、全ての磁気記憶素子に対して同じに仕上げることは事実上困難であり、この問題は記録層の微細化に伴い顕著になる。すなわちフォトリソグラフィの制御性の困難さから、メモリセル間での記録層の形状ばらつきが大きくなる。このためメモリセル間の書き込み特性にばらつきが生じるため、磁気記憶装置の書き込み特性のばらつきが大きくなる。
【0015】
上記非対称性を有する記録層においては、形状により磁化分布を制御しているために、形状のばらつきに伴い、ビット間の書き込み特性がばらつく。このばらつきの存在下で各ビットの書き込みを確実に行なうためには、書き込み電流の設定値をより大きくする必要がある。この結果、特に磁化困難軸に印加される磁界が大きくなることで、ピン層の磁化が回転する。ピン層が強磁性膜/非磁性膜/強磁性膜からなる構造が用いられた場合、この互いに反平行結合した2つの強磁性膜における磁化のバランスが崩れ、結果的にピン層と記録層との相互作用が発生する。この影響によって、さらに書き込み電流の制御が困難となる。
【0016】
すなわち、磁化容易軸に関して非対称となる記録層形状を有する磁気記憶素子は、微細化された場合に、磁気記憶装置の動作が不安定になるという問題があった。
【0017】
本発明は、上記の課題に鑑みてなされたものであり、その目的は、書き込み特性の安定した磁気記憶装置を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0018】
本発明の磁気記憶装置は、基板と、第1および第2配線と、記録層と、第1非磁性層と、固着層とを有する。第1配線は、基板上に設けられ、第1の軸を中心軸として第1の軸に沿って延びる部分を有する。第2配線は、基板上に設けられ、第1の軸と交差する第2の軸を中心軸として第2の軸に沿って延びる部分を有し、基板の厚み方向の間隔を空けて第1配線と交差している。記録層は、平面形状を有し、第1配線および第2配線が間隔を空けて互いに交差する領域において第1配線および第2配線に少なくとも一部が挟まれるように配置され、磁化容易軸を有し、第1配線による磁界と第2配線による磁界との合成磁界によって磁化方向が変化するものである。第1非磁性膜は記録層上に設けられている。固着層は第1非磁性膜上に設けられている。固着層は、第1非磁性膜上に設けられ、かつ第1の磁化および第1の膜厚を有する第1強磁性膜と、第1強磁性膜上に設けられた第2非磁性膜と、第2非磁性膜上に設けられ、かつ第1強磁性膜と反平行結合し、かつ第2の磁化および第2の膜厚を有する第2強磁性膜と、第2強磁性膜上に設けられた反強磁性膜とを含む。第1の磁化および第1の膜厚の積と第2の磁化および第2の膜厚の積との和は、記録層の磁化と記録層の膜厚との積よりも小さい。
【発明の効果】
【0019】
本発明によれば、固着層に含まれる第1および第2強磁性膜の各々の磁化が第1および第2配線による合成磁界によって反平行状態から平行状態により近づいた場合においても、固着層全体としての磁気モーメントが記録層の磁気モーメントを超えるほどに大きくなることが防止される。これにより固着層の磁化状態の変化が記録層に与える影響が抑制されるので、記録層の磁化方向を変化させるのに必要な電流、すなわち書き込み電流のばらつきが抑制される。よって書き込み特性の安定した磁気記憶装置を得ることができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0020】
以下、本発明の実施の形態について図に基づいて説明する。
(実施の形態1)
(メモリセルの回路と構造)
まず、本発明の実施の形態1における磁気記憶装置に関し、磁気記憶装置のメモリセルの回路について説明する。図1は、本発明の実施の形態1における磁気記憶装置のメモリセルの回路図である。
【0021】
図1を参照して、磁気記憶装置では、1つのメモリセルMC(点線枠内)は、素子選択用トランジスタTRと磁気記憶素子(強磁性トンネル接合素子)MMとから構成されている。メモリセルMCはマトリクス状に複数形成されている。
【0022】
その磁気記憶素子MMに対して、情報の書き換えと読み取りを行なうためのライト線WTとビット線BLとが交差する。ビット線BLは、一方向(たとえば行)に並んで配置された磁気記憶素子MMのそれぞれの一端の側に電気的に接続されている。
【0023】
一方、ライト線WTは、他方向(たとえば列)に並んで配置された磁気記憶素子MMのそれぞれに磁界を印加することができるように配置されている。また、その磁気記憶素子MMの他端の側は、素子選択用トランジスタTRのドレイン側と電気的に接続されている。一方向に並んで配置された複数の素子選択用トランジスタTRのそれぞれのソース側が、ソース線SLによって電気的に接続されている。また、他方向に並んで配置された複数の素子選択用トランジスタTRのそれぞれのゲートが、ワード線WDによって互いに電気的に接続されている。
【0024】
次に、本実施の形態における磁気記憶装置の構造について説明する。図2は、本発明の実施の形態1における磁気記憶装置の構成を示す概略断面図である。
【0025】
図2を参照して、半導体基板11におけるメモリセル領域MRでは、素子分離絶縁膜12によって区切られた素子形成領域の表面(半導体基板11の表面)に素子選択用トランジスタTRが形成されている。素子選択用トランジスタTRは、ドレイン領域Dと、ソース領域Sと、ゲート電極Gとを主に有している。ドレイン領域D及びソース領域Sは、互いに所定の距離を開けて半導体基板11の表面に形成されている。ドレイン領域D及びソース領域Sは、互いに所定導電型の不純物領域から形成されている。ゲート電極Gは、ドレイン領域D及びソース領域Sに挟まれる領域上にゲート絶縁膜GIを介在して形成されている。ゲート電極Gの側壁は、サイドウォール状の側壁絶縁膜SIによって覆われている。
【0026】
素子選択用トランジスタTRを覆うように層間絶縁膜13が形成されている。この層間絶縁膜13にはその上面からドレイン領域Dに達する孔が設けられている。この孔内には接続部材14が形成されている。層間絶縁膜13上には、層間絶縁膜15が形成されている。この層間絶縁膜15にはその上面から接続部材14に達する孔と層間絶縁膜13に達する孔とが形成されている。これらの孔の各々にはライト線WTと配線層16とが形成されている。配線層16は、接続部材14によってドレイン領域Dと電気的に接続されている。
【0027】
ライト線WTと配線層16とを覆うように、層間絶縁膜13上に層間絶縁膜17が形成されている。この層間絶縁膜17にはその上面から配線層16に達する孔が設けられている。この孔内には接続部材18が形成されている。層間絶縁膜17上には、導電層19と、磁気記憶素子MMとが形成されている。その導電層19は、接続部材18、配線層16、および接続部材14によってドレイン領域Dと電気的に接続されている。
【0028】
磁気記憶素子MMは磁気抵抗効果素子であり、下から順に積層された、固着層1と、非磁性層であるトンネル絶縁層2(第1非磁性膜)と、記録層3とを有している。固着層1は、導電層19に接するように形成されている。
【0029】
磁気記憶素子MMを覆うように保護膜20が形成されており、その保護膜20上に層間絶縁膜21が形成されている。この保護膜20および層間絶縁膜21には、これらの膜20、21を貫通して記録層3に達する孔が設けられている。この孔内には、接続部材23が形成されている。層間絶縁膜21上には、ビット線BLが形成されている。このビット線BLは、接続部材23によって磁気記憶素子MMに電気的に接続されている。
【0030】
ビット線BLを覆うように層間絶縁膜26が形成されている。その層間絶縁膜21上には、所定の配線層29および絶縁膜28が形成されている。
【0031】
一方、半導体基板11における周辺(論理)回路領域RRでは、論理回路を構成するトランジスタTRAが形成されている。このトランジスタTRAは、半導体基板11の表面に互いに所定の距離を置いて形成された1対のソース/ドレイン領域S/Dと、その1対のソース/ドレイン領域S/Dに挟まれる領域上にゲート絶縁膜GIを介して形成されたゲート電極Gとを有している。ゲート電極Gの側壁は、サイドウォール状の側壁絶縁膜SIによって覆われている。
【0032】
このトランジスタTRAの上には、所定の配線層16、25、29と、その各配線層16、25、29を電気的に接続する為の接続部材14、23、27と、層間絶縁膜13、15、17、21、24、26、28とが形成されている。
【0033】
次に、メモリセルの構造についてさらに詳しく説明する。
図3は本発明の実施の形態1における磁気記憶装置の磁気記憶素子の付近の構成を概略的に示す斜視図である。また図4は、本発明の実施の形態1における磁気記憶素子の構成を示す断面図である。
【0034】
図3および図4を参照して、情報としての磁化が行われる磁気記憶素子MMは、ライト線WTおよびビット線BL(第1配線および第2配線)が間隔を空けて互いに交差する領域において、ライト線WTおよびビット線BLに少なくとも一部が上下方向から挟み込まれるように配置されている。磁気記憶素子MMは、たとえば固着層1、トンネル絶縁層2および記録層3の積層構造とされる。
【0035】
固着層1は、図4に示されるように、固着層を固定するための反強磁性膜1a、強磁性膜1b(第2強磁性膜)、非磁性膜1c(第2非磁性膜)、強磁性膜1d(第1強磁性膜)が順次積層された構造である。強磁性膜1bは反強磁性膜1aによって磁化の方向が固定されている。強磁性膜1bと1dは非磁性膜1cを介して反平行方向に磁化が結合しており、それぞれの磁化が概ね打消しあっている。
【0036】
また、記録層3を構成する強磁性膜3a(第3強磁性膜)上には、非磁性の金属膜3bが形成されている。所定の配線(たとえばビット線BL)に流れる電流によって生じる磁界やスピン偏極した電子の注入によって記録層3の磁化方向が変化する。
【0037】
ここで、本実施の形態における固着層1の強磁性膜1bおよび1dの単位体積あたりの磁化をそれぞれM1b、M1dとし、厚さをt1b、t2dとし、記録層3の強磁性膜3aの磁化と厚さをそれぞれM3a、t3aとした場合、以下を充たしている。
【0038】
M3a・t3a>M1b・t1b+M1d・t1d ・・・(1)
その磁気記憶素子MMの固着層1が、図2に示すように導電層19、接続部材18、配線層16、および接続部剤14を介して素子選択用トランジスタTRのドレイン領域Dに電気的に接続されている。一方、磁気記憶素子MMの記録層3側は、接続部材23を介してビット線BLに電気的に接続されている。
【0039】
第1配線による磁界と第2配線による磁界との合成磁界によって磁化の向きが変化する記録層3については、一般に、結晶構造や形状などによって磁化しやすい方向がある。この方向はエネルギが低い状態であり、磁化しやすい方向は磁化容易軸(Ea:Easy-axis)と呼ばれる。これに対して、磁化されにくい方向は、磁化困難軸(Ha:Hard-axis)と呼ばれる。
【0040】
図5は、本発明の実施の形態1における磁気記憶装置の記録層の平面形状を概略的に示す平面図である。
【0041】
図5を参照して、記録層3は、磁化容易軸91に沿った第1の直線63上で磁化容易軸の方向における最大の長さLを有する。記録層3は第1の直線63上で長さLの全体に渡って存在している。また記録層3は、磁化容易軸91と垂直な方向、すなわち磁化困難軸の方向に、上記の最大の長さLの半分よりも小さい長さWに渡って位置している。
【0042】
また記録層3は、第1の直線63の一方側(図中右側)および他方側(図中左側)のそれぞれにおいて、第1の部分PTaおよび第2の部分PTbを有している。第1の部分PTaは、磁化容易軸91と垂直な方向に長さaに渡って位置している。第2の部分PTbは、磁化容易軸と垂直な方向に長さbに渡って位置している。長さbは長さaよりも小さい。第1の部分PTaの外縁は、外縁の外側に向かって凸の滑らかな曲線のみからなる。なお「第1の部分PTaの外縁」とは、記録層3の外縁のうちの第1の部分PTaに含まれる部分のことである。
【0043】
平面形状において、第1の部分PTaは円弧701からなり、ここではL/2=aである。第2の部分PTbは、直線部705を有する。直線部705は、その上下において同一の曲率を有する曲線部704aおよび704bの各々の一方側と接続されている。曲線部704aおよび704bの各々の他方側は、円弧701と接続されている。
【0044】
また記録層3は、第1の直線63の一方側(図中右側)および他方側(図中左側)のそれぞれにおいて、第1の部分PTaおよび第2の部分PTbを有している。第1の部分PTaは、磁化容易軸91と垂直な方向に長さaに渡って位置している。第2の部分PTbは、磁化容易軸と垂直な方向に長さbに渡って位置している。長さbは長さaよりも小さい。第1の部分PTaの外縁は、外縁の外側に向かって凸の滑らかな曲線のみからなる。なお「第1の部分PTaの外縁」とは、記録層3の外縁のうちの第1の部分PTaに含まれる部分のことである。
【0045】
好ましくは、第1の部分PTaは、第2の直線64を対称軸として有している。
なお図5においては、曲線部704aおよび704bが同一の曲率を有する場合を示しているが、この曲率は必ずしも同一である必要はない。すなわち、第2の部分PTbは、第2の直線64に対して非対称性を有していてもよい。
【0046】
また本実施の形態においては、固着層1およびトンネル絶縁層2も、図5に示した平面形状を有しているが、トンネル絶縁層2および固着層1は、平面形状が記録層3と同じ形状であってもよいし、記録層3の平面形状を含んで、記録層3よりも大きい面積を有する任意の平面形状であってもよい。
【0047】
図6は、本発明の実施の形態1における磁気記憶素子MMの位置の説明図であり、磁気記憶素子を平面的に透視したときの図である。主に図6を参照して、ライト線WTは、第1の軸AWを中心軸としてこの軸に沿って延びる部分を有している。ビット線BLは、第2の軸BWを中心軸としてこの軸に沿って延びる部分を有している。磁気記憶素子MMは、磁化容易軸91(図5)が第1の軸AWとほぼ平行になるように配置されている。すなわち、磁気記憶素子MMは、長手方向が、ライト線WTの延在方向とほぼ平行になるように配置されている。また、磁気記憶素子MMの磁化困難軸の方向と、第2の軸BWとがほぼ平行になるように配置されている。本実施の形態においては、ライト線WTとビット線BLとのそれぞれの延在方向が互いにほぼ垂直になるように形成されている。
【0048】
(メモリセルの動作)
次に、メモリセルの動作について説明する。
【0049】
図2を参照して、読み出し動作は、特定のメモリセルの磁気記憶素子MMに所定の電流を流し、磁化の向きによる抵抗値の違いを検知することによって行われる。まず、特定のメモリセルの選択用トランジスタTRがON状態とされて、所定のセンス信号がビット線BLから特定の磁気記憶素子MMを経て、接続部材18、配線層16、接続部材14、および選択用トランジスタTRを介してソース線SLに伝わる。
【0050】
このとき、磁気記憶素子MMにおける記録層3と固着層1の磁化の向きが同じ向き(平行)の場合では抵抗値が相対的に低く、記録層3と固着層1の磁化の向きが互いに反対向き(反平行)の場合では抵抗値が相対的に高くなる。トンネル磁気抵抗効果素子は、記録層3と固着層1との各磁化方向が平行の場合には抵抗値が小さくなり、かつ記録層3と固着層1との各磁化方向が反平行の場合には抵抗値が大きくなる特性を有している。
【0051】
これにより、磁気記憶素子MMの磁化の向きが平行の場合では、ソース線SLに流れるセンス信号の強度は所定の参照メモリセルの信号強度より大きくなる。一方、磁気記憶素子MMの磁化の向きが反平行の場合では、センス信号の強度は所定の参照メモリセルの信号強度より小さくなる。こうして、センス信号の強度が所定の参照メモリセルの信号強度よりも大きいか小さいかによって、特定のメモリセルに書き込まれた情報が「0」であるか「1」であるかが判定されることになる。
【0052】
書き込み(書き換え)動作については、ビット線BLとライト線WTに所定の電流を流し、磁気記憶素子MMを磁化(磁化反転)することによって行われる。まず、選択されたビット線BLとライト線WTのそれぞれに所定の電流を流すことによってビット線BLとライト線WTのまわりにはそれぞれ電流の流れの方向に対応した磁界(図6の矢印53aおよび54a)が生じる。選択されたビット線BLとライト線WTとが交差する領域に位置する磁気記憶素子MMには、ビット線BLを流れる電流によって生じた磁界とライト線WTを流れる電流によって生じた磁界との合成磁界(図6の矢印55a)が作用することになる。
【0053】
このとき、その合成磁界によって、磁気記憶素子MMの記録層3が固着層1の磁化の方向と同じ向きに磁化される態様と、記録層3が固着層1の磁化の方向とは反対の向きに磁化される態様とがある。こうして、記録層3と固着層1の磁化の向きが同じ向き(平行)の場合と互いに反対向き(反平行)の場合とが実現されて、この磁化の向きが「0」または「1」に対応する情報として記録されることになる。
【0054】
(磁気記憶装置の製造方法)
次に、上述した磁気記憶素子および磁気記憶装置の製造方法の一例について説明する。
【0055】
図7〜図11は、本発明の実施の形態1における磁気記憶装置の製造方法を工程順に示す概略断面図である。まず、図7を参照して、半導体基板11の主表面における所定の領域に素子分離絶縁膜12を形成することによって、メモリセル領域MRおよび周辺回路領域RRが形成される。そのメモリセル領域MRおよび周辺回路領域RRに位置する半導体基板11の表面にゲート絶縁膜GIを介してゲート電極Gが形成される。そのゲート電極Gなどをマスクとして半導体基板11の表面に所定導電型の不純物を導入することにより、不純物領域からなるドレイン領域Dおよびソース領域Sと、1対のソース/ドレイン領域S/Dが形成される。こうして、メモリセル領域MRでは、ゲート電極G、ドレイン領域Dおよびソース領域Sを含む素子選択用トランジスタTRが形成され、周辺回路領域RRでは、論理回路を構成するトランジスタTRAが形成される。
【0056】
その素子選択用トランジスタTRおよびトランジスタTRAを覆うように、たとえばCVD(Chemical Vapor Deposition)法により層間絶縁膜13が形成される。その層間絶縁膜13に対して所定の写真製版およびエッチングを施すことによって、半導体基板11の表面を露出するコンタクトホール13a、13bが形成される。そのコンタクトホール13a、13bを充填するように層間絶縁膜13上にたとえばタングステン層(図示せず)が形成される。そのタングステン層に対してCMP(Chemical Mechanical Polishing)処理を施すことによって、層間絶縁膜13の上面上に位置するタングステン層の部分が除去される。
【0057】
図8を参照して、上記のタングステン層の除去により、コンタクトホール13a、13b内の各々にタングステン層が残存されて接続部材14が形成される。
【0058】
図9を参照して、たとえばCVD法により層間絶縁膜13上にさらに層間絶縁膜15が形成される。その層間絶縁膜15に所定の写真製版およびエッチングを施すことにより、メモリセル領域MRでは、ライト線および所定の配線層を形成するための開口部15a、15bが形成される。また、周辺回路領域RRでは、所定の配線層を形成するための開口部15cが層間絶縁膜15に形成される。その開口部15a、15b、15cを充填するように、層間絶縁膜15上にたとえば銅層(図示せず)が形成される。その銅層にCMP処理を施すことによって、層間絶縁膜15の上面上に位置する銅層が除去されて、開口部15a、15b、15c内に銅層が残存される。これにより、メモリセル領域MRでは開口部15a内にライト線WT、開口部15b内に配線層16が形成される。また周辺回路領域RRでは開口部15c内に配線層16が形成される。
【0059】
なお、開口部15a、15b、15cを充填する銅層の形成においては、銅層と層間絶縁膜との反応を防止するための反応防止層が積層される場合がある。さらに、ライト線WTの形成時には、配線電流磁界を所定の磁気記憶素子へ集中させるため、銅層は高透磁率膜と積層される場合がある。
【0060】
図10(a)、(b)を参照して、層間絶縁膜15上にたとえばCVD法によりさらに層間絶縁膜17が形成される。その層間絶縁膜17に所定の写真製版およびエッチングを施すことにより、配線層16の表面を露出するコンタクトホール17aが形成される。そのコンタクトホール17a内を充填するように層間絶縁膜17上にたとえば銅層(図示せず)が形成される。その銅層にたとえばCMP処理等を施すことによって層間絶縁膜17の上面上に位置する銅層が除去され、コンタクトホール17a内に銅層が残存されて接続部材18が形成される。
【0061】
次に、メモリセル領域MRにおける層間絶縁膜17の上に、導電層19と磁気記憶素子MMとが形成される。その磁気記憶素子MMは、固着層1と、トンネル絶縁層2と、記録層3との積層膜から構成される。
【0062】
まず固着層1として、反強磁性膜1a(反強磁性層)、強磁性膜1b(強磁性層)、非磁性膜1cおよび強磁性膜1d(強磁性層)が順次形成される。反強磁性膜1a、強磁性膜1b、非磁性膜1cおよび強磁性膜1dのそれぞれは、たとえば、膜厚約20nmの白金マンガン膜、膜厚1.4nmのコバルト合金膜、0.7nmのルテニウム膜、および膜厚1.6nmのコバルト合金膜である。ここでの2つのコバルト合金膜が有する単位体積あたりの磁化は、ともに1,100,000A/m(1100emu/cm3)であり、前述したように非磁性膜を介して反平行方向に磁化している。上記は、前述した(1)式を充たしている。
【0063】
次にトンネル絶縁層2が形成される。トンネル絶縁層2は、たとえば膜厚約1nmのアルミニウム酸化膜である。
【0064】
次に記録層3として、強磁性膜3aおよび非磁性の金属膜3bが形成される。強磁性膜3aおよび非磁性の金属膜3bのそれぞれは、たとえば膜厚約5nmのニッケル合金膜と、50nmのタンタル膜とである。このニッケル合金膜が有する単位体積あたりの磁化は、800,000A/m(800emu/cm3)である。
【0065】
なお、白金マンガン膜、コバルト合金膜、ルテニウム膜、アルミニウム酸化膜、ニッケル合金膜、およびタンタル膜は、たとえばスパッタ法によって形成される。
【0066】
その後、そのニッケル合金膜、アルミニウム酸化膜、コバルト合金膜、ルテニウム膜、コバルト合金膜、および白金マンガン膜に所定の写真製版およびエッチングを施すことによって、固着層1、トンネル絶縁層2および記録層3を備えた所定形状の磁気記憶素子MMが形成されることになる。一般的に、エッチング後のレジストパターン除去においてドライプロセス(アッシング)を用いる場合には酸素を主成分とするガスが使用される。好ましくは、固着層1、記録層3の構成材料に対して酸化性でないガス、たとえば水素、窒素、アンモニア、およびそれらの混合ガスを用い、固着層1、記録層3の酸化が抑制される。
【0067】
図11を参照して、磁気記憶素子MMがその後のプロセスによってダメージを受けないように、磁気記憶素子MMを覆うように保護膜20が形成される。その保護膜20を覆うように層間絶縁膜17上にたとえばCVD法によりさらに層間絶縁膜21が形成される。メモリセル領域MRでは、その層間絶縁膜21および保護膜20に所定の写真製版およびエッチングを施すことにより、記録層3の表面を露出するコンタクトホール21aが形成される。また周辺回路領域RRでは、その層間絶縁膜21および層間絶縁膜17に所定の写真製版およびエッチングを施すことにより、配線層16の表面に達するコンタクトホール21bが形成される。これらのコンタクトホール21a、21b内を充填するように層間絶縁膜21上にたとえば銅層(図示せず)が形成される。その銅層にたとえばCMP処理等を施すことによって層間絶縁膜21の上面上に位置する銅層が除去され、コンタクトホール21a、21b内の各々に銅層が残存されて接続部材23が形成される。
【0068】
その層間絶縁膜21を覆うように層間絶縁膜21上にたとえばCVD法によりさらに層間絶縁膜24が形成される。その層間絶縁膜24に所定の写真製版およびエッチングを施すことにより、メモリセル領域MRでは層間絶縁膜24にビット線を形成するための開口部が形成され、周辺回路領域RRでは層間絶縁膜24に開口部24aが形成される。これらの開口部内を充填するように層間絶縁膜24上にたとえば銅層(図示せず)が形成される。その銅層にたとえばCMP処理等を施すことによって層間絶縁膜24の上面上に位置する銅層が除去され、ビット線用の開口部内に銅層が残存されてビット線BLが形成され、開口部24a内には銅層が残存されて配線層25が形成される。
【0069】
なお上記においてはシングルダマシン法について説明したが、層間絶縁膜21の形成後に、さらに層間絶縁膜24を形成し、それらの層間絶縁膜21、24に対して、デュアルダマシン法により所定の接続部材と配線層が形成されてもよい。この場合、まず層間絶縁膜24に対して所定の写真製版およびエッチングを施すことにより、メモリセル領域MRでは、ビット線を形成するための開口部(図示せず)が形成される。周辺回路領域RRでは、配線層を形成するための開口部24aが形成される。次に、層間絶縁膜21に対して所定の写真製版およびエッチングを施すことにより、メモリセル領域MRでは、磁気記憶素子MMの記録層3の表面に達するコンタクトホール21aが形成される。周辺回路領域RRでは、配線層16の表面に達するコンタクトホール21bが形成される。なお、層間絶縁膜21、24にコンタクトホールを形成した後に、層間絶縁膜24に開口部24aなどが形成されてもよい。
【0070】
次に、コンタクトホール21a、21bおよび開口部24aなどの内部を充填するように層間絶縁膜24上にたとえば銅層(図示せず)が形成される。その銅層にたとえばCMP処理等を施すことによって層間絶縁膜24の上面上に位置する銅層の部分が除去される。これにより、メモリセル領域MRでは、コンタクトホール21a内を埋め込んで記録層3に電気的に接続される接続部材23が形成されると共に、開口部内にはその接続部材23に電気的に接続されるビット線BLが形成される。なお、接続部材23を用いなくても、ビット線BLと記録層3とが電気的に接続できれば問題はない。一方、周辺回路領域RRでは、コンタクトホール21b内に配線層16に電気的に接続される接続部材23が形成されるとともに、開口部24a内には接続部材23に電気的に接続される配線層25が形成される。
【0071】
図2を参照して、上記で形成されたビット線BLおよび配線層25を覆うように、層間絶縁膜24上に、さらに層間絶縁膜26が形成される。周辺回路領域RRにおいては層間絶縁膜26に孔が形成され、その孔に接続部材27が形成される。この層間絶縁膜26上にさらに層間絶縁膜28が形成される。その層間絶縁膜28に開口部が形成され、その開口部に配線層29が形成される。
【0072】
なお上記においてはシングルダマシン法について説明したが、層間絶縁膜26の形成後に、さらに層間絶縁膜28を形成し、それらの層間絶縁膜26、28に対して、上記と同様にデュアルダマシン法により接続部材27と配線層29が形成されてもよい。
【0073】
以上により、本実施の形態の磁気記憶装置が製造される。
なお、上述した磁気記憶装置の製造方法では、接続部材14などとして、タングステン層を例に挙げて説明したが、たとえばシリコンが適用されてもよい。また、銅、チタンあるいはタンタルなどの金属が適用されてもよい。さらに、このような金属の合金やこのような金属の窒化物なども適用することができる。また、接続部材14などの形成方法としてCMP法あるいはRIE法を例に挙げて説明したが、たとえばメッキ法、スパッタリング法、CVD法などが適用されてもよい。金属として銅を適用する場合には、いわゆるダマシン法を適用することができ、接続部材14と並行して配線層を形成することもできる。
【0074】
また、ライト線WTの形成方法としてシングルダマシン法を例に挙げて説明したが、ライト線WTを接続部材14と同時に形成する場合には、デュアルダマシン法を適用することもできる。さらに、配線材料としてシリコン、タングステン、アルミニウム、チタンなどの金属、そのような金属の合金あるいはそのような金属の化合物を適用することによって、ドライエッチングによる配線の形成も可能になる。
【0075】
また配線層と配線層との間に介在する層間絶縁膜の膜厚は適用デバイスによって異なることになるが、この磁気記憶装置では、当該膜厚はたとえば約40nmである。
【0076】
また磁気記憶素子MMのトンネル絶縁層2としてアルミニウム酸化物を例に挙げて説明したが、トンネル絶縁層2としては非磁性材料が好ましい。たとえばアルミニウム、シリコン、タンタル、マグネシウムなどの金属の酸化物、その金属の窒化物、シリケートなどに代表されるその金属の合金酸化物、あるいはその合金の窒化物などがトンネル絶縁層2として好ましい。また、そのトンネル絶縁層2は、膜厚約0.3〜5nm程度の比較的薄い膜として形成されることが好ましい。なお、トンネル絶縁層2に換えて非磁性金属材料を用いる場合には、いわゆる膜面に対して垂直方向の巨大磁気抵抗効果を利用することもできる。
【0077】
さらに、磁気記憶素子MMの固着層1として白金マンガン合金膜とコバルト鉄合金膜との積層構造を例に挙げ、記録層3としてニッケル鉄合金膜を例に挙げたが、固着層1および記録層3については、たとえばニッケル、鉄および/またはコバルトを主成分とする強磁性材料が好ましい。さらに、その強磁性材料の磁気特性向上と熱的安定性のため、それら強磁性材料にホウ素、窒素、シリコン、モリブデンなどの添加物が導入されてもよい。特に、記録層3に対しては、記録層3上に記録層3の磁気特性を改善する体心立方型、ルチル型、塩化ナトリウム型、閃亜鉛鉱型の結晶構造を有する結晶性材料薄膜を積層する、および/またはタンタル、ルテニウムなどの酸化防止膜を積層するなどして、磁気特性の向上・安定化を図ることも可能である。さらに、ハーフメタルと呼ばれるNiMnSb、Co2Mn(Ge,Si)、Co2Fe(Al,Si)、(Zn,Mn)Fe2O4などを適用することも可能である。ハーフメタルでは一方のスピンバンドにエネルギギャップが存在するので、非常に大きな磁気効果を得ることができ、その結果、大きな信号出力を得ることができる。
【0078】
固着層1では、反強磁性層と強磁性層との積層構造とすることで、磁化方向をより固定することができる。つまり、反強磁性層が強磁性層のスピンの向きを固定することで、強磁性層の磁化の方向が一定に保たれる。反強磁性層としては、鉄などの強磁性材料または貴金属の少なくとも1つと、マンガンとの化合物が好ましい。
【0079】
なお、上述した製造方法では、この磁気記憶素子を構成する固着層1、トンネル絶縁層2および記録層3をそれぞれスパッタリング法によって形成する場合を例に挙げた。しかし、固着層1、トンネル絶縁層2および記録層3のそれぞれは、スパッタリング法の他にも、たとえばMBE(Molecular Beam Epitaxy)法、化学気相成長法あるいは蒸着法などにより形成することも可能である。
【0080】
また、上述した磁気記憶装置の製造方法では、磁気記憶素子MMの固着層1と接続部材18との間に導電層19がある場合について説明したが、固着層1と接続部材18とが直接接続されていてもよい。また、接続部材18を介さずに配線層16とその導電層19とを直接接続させた構造としてもよい。この場合、その導電層19は、固着層1と平面視において重なるように固着層1の平面形状と同じ形状に形成されてもよい。その導電層19の材料として、低抵抗の金属、たとえば白金、ルテニウム、銅、アルミニウム、タンタル等を適用することが好ましい。また、導電層19の膜厚としては、その導電層の上に形成される固着層1、トンネル絶縁層2および記録層3の平坦性が損なわれないように、たとえば300nm以下にすることが好ましい。
【0081】
なお、固着層1を記録層3と平面視において同じ大きさに形成する場合には、導電層19が接続部材14と接続されるように導電層19を固着層1よりも平面視において大きく形成する必要がある。このように導電層19が固着層1よりも平面的に大きく形成されたとしても、磁気記憶素子として何ら問題はない。
【0082】
このように層間絶縁膜15と磁気記憶素子MMとの間に所定の導電層19を介在させることによって、接続部材18をたとえば銅により形成した場合には、磁気記憶素子MMをエッチングによってパターニングする際に、銅の接続部材18が腐食するのを阻止することもできる。また、その導電層19に磁気記憶素子MMの固着層1の抵抗よりも低い抵抗からなる材料を適用することで、読み出しの際の電流の経路の抵抗を下げることができ、読み出し速度の向上を図ることもできる。
【0083】
また、さらに、上述した本実施の形態の磁気記憶装置では、磁気記憶素子MMが形成された後の工程において磁気記憶素子MMがダメージを受けるのを防止するために、磁気記憶素子MMを覆うように保護膜20を形成する場合を例に挙げて説明した。製造工程において磁気記憶素子MMが被る可能性のあるダメージとしては、たとえば層間絶縁膜を形成する際の熱処理がある。層間絶縁膜としてシリコン酸化膜を形成する場合、約400℃程度の酸化雰囲気のもとでシリコン酸化膜が形成されることになる。
【0084】
このとき、酸化雰囲気のもとで磁性膜が酸化するおそれがあり、これによって、磁気記憶素子MMの磁気特性が劣化してしまうことがある。磁気記憶素子MMを、シリコン窒化膜や酸化アルミニウム膜等の保護膜20により被覆することで、保護膜20はこの酸化のバリアとして機能して磁気記憶素子MMを保護することができる。
【0085】
また、このような酸化を防ぐために、層間絶縁膜が、シリコン窒化膜などの非酸化性雰囲気のもとで成膜可能な薄膜と、酸化性絶縁膜との2層構造とされてもよい。この場合、2層構造の層間絶縁膜のうち、シリコン窒化膜が磁気記憶素子MMの保護膜となる。
【0086】
さらに、保護膜20としては、絶縁性金属窒化物、絶縁性金属炭化物およびFeよりも酸化物生成自由エネルギが低い金属の酸化処理によって形成した金属酸化物のうち少なくとも1つの材料を含む膜が好ましい。このような材料を用いることにより、少なくとも、Feを含む磁性材料薄膜を用いた磁気記憶装置の製造工程における酸化工程中に磁気記憶素子MMが酸化するのを抑制することができる。その結果、製造が容易でかつ動作特性が安定した磁気記憶装置を得ることができる。
【0087】
次に磁気記憶装置の書き込み特性と、記録層3の平面形状との関係について、以下に詳しく説明する。
【0088】
図12は、図5に示される記録層における磁気記憶装置のアステロイド曲線を示す図である。図12の横軸は、磁化困難軸方向の磁界Hxを生じさせるためにライト線WTに流す電流IWTを示し、縦軸は、磁化容易軸方向の磁界Hyを生じさせるためにビット線BLに流す電流IBLを示す。
【0089】
図12を参照して、グラフにプロットされているそれぞれの測定点は、記録層3の磁化の向きが磁界Hyの負の向きの状態で、一定のライト線電流IWTを印加して、磁化の向きが反転するのに必要なビット線電流IBLを計測した結果である。すなわち、それぞれのプロット35〜37を結ぶ曲線は、それぞれの記録層3のアステロイド曲線を示す。
【0090】
図5に実線で示される曲線部704aおよび704bをともに有する磁化困難軸方向に対称な形状では、図12におけるアステロイド曲線はプロット35で示される。図5に示す形状を有する記録層3を採用すると、後述するようにプロット35においてライト線電流IWTが一定の値(以下、「磁化困難軸方向しきい値」という)より小さくなれば、磁化容易軸方向の反転に必要なビット線電流IBLは、急激に大きくなる。すなわち、ライト線電流IWTが磁化困難軸方向しきい値よりも小さい領域においてのみ、磁化反転に大きなビット線電流が必要になる。ここでは図示しないが、この場合は逆向きに書き込みを行なう場合も、書き込み電流はIBLの符号が逆となるだけである。
【0091】
ここで、上記の効果が得られる理由について説明のために、変形例について説明する。図13は、第1の変形例における磁気記憶装置の記録層の平面形状を概略的に示す平面図である。
【0092】
図13を参照して、本変形例の記録層3Dは、平面形状において、第1の直線63方向(磁化容易軸方向)に直線状の直線部707、705を有し、第2の直線64方向(磁化容易軸に垂直な軸方向)に直線状の直線部709a、709bを有している。これらの直線部705と直線部709bとは交点が垂直になるように形成され、また、直線部705と直線部709aとは交点が垂直になるように形成されている。これに対して、直線部709aと直線部707とは曲線部708aを介して接続され、直線部709bと直線部707とは曲線部708bを介して接続されている。直線部707と直線部705とは互いに平行であり、また、直線部709aと直線部709bとは互いに平行である。曲線部708aおよび曲線部708bは、それぞれ円弧になるように形成されている。すなわち、記録層3の平面形状が、第1の直線63に対して非対称かつ第2の直線64に対して線対称になるように形成されている。
【0093】
まず、図12のプロット35に示すように、磁化容易軸方向において、磁化反転に必要なビット線電流IBLの大きさがライト線電流IWTの大きさに依存して顕著に異なる現象は、磁化状態の差異に起因する。図14および図15は、磁化容易軸方向の磁界と磁化困難軸方向の磁界との合成磁界が、反転磁界よりも小さい場合と大きい場合との磁化分布を示す図であり、本発明の実施の形態1における磁気記憶素子の記録層の平面図である。図14および図15中のそれぞれの矢印は、それぞれの位置における磁化の向きを示している。図14および図15は、それぞれの磁界Hyが同じ大きさで、磁界Hxの大きさが異なるように磁界が印加されている。図14にて印加されている磁界Hxは磁化困難軸方向しきい値よりも小さく、図15にて印加されている磁界Hxは磁化困難軸方向しきい値よりも大きい。
【0094】
図14に示されるような磁化分布の形態はC型(第1の磁化分布)と呼ばれ、安定な磁化状態であるため磁化容易軸方向の磁化反転磁界は大きくなる。これに対し、図15に示されるような磁化分布の形態はS型(第2の磁化分布)と呼ばれ、外部磁界によるトルクを受けやすく磁化反転磁界が急激に小さくなる。このS型とC型との磁化分布状態の概念図を図16(a)(b)に示す。本実施の形態の記録層3は、このS型とC型との磁化分布状態を外部磁界によって制御できる平面形状を有している。図5に示される記録層3も同様な磁化分布状態となる。
【0095】
図5に戻って、磁化困難軸方向に対して形状が非対称となった場合を考えるため、曲線部704aおよび704bがそれぞれ、曲線部704apと704bpとなる場合を考える。曲線部704apと704bpの何れか一方のみを有する形状では、図12におけるプロット36と37で示されるアステロイド曲線となる。この場合は逆向きに書き込みを行なう場合は、書き込み電流はプロット36に対応して37のIBLの符号が逆とした電流であり、プロット37に対応して36のIBLの符号を逆とした電流となる。すなわち同一ビット内においても方向によって書き込み電流が異なる。
【0096】
このように、形状の磁化困難軸方向の非対称性に起因して磁化反転に必要な電流値が変動した場合(プロット36、37)では、記録層3の磁化反転を行なうことができる領域(図中ハッチング領域)46が狭くなり、これらのビット全てを書き込むために必要とされる電流IBLと電流IWTとが大きくなる。
【0097】
以上のように、磁気記憶装置の書き込み特性と、記録層3の平面形状とは密接に関連している。このため記録層3の形状のばらつきに伴い、ビット間の書き込み特性がばらつく。このばらつきの存在下で各ビットの書き込みを確実に行なうためには、書き込み電流の設定値をより大きくする必要がある。この書き込み電流の増大に伴い、書き込み時に固着層1が受ける影響も大きくなる。すなわち書き込み電流によって発生した磁界が固着層1の磁化に与える回転力が無視できなくなる。この際に、固着層1の強磁性膜/非磁性膜/強磁性膜間に作用する交換力と同等若しくは大きい磁界が印加される場合、固着層1を形成する2層の強磁性膜1bおよび1dの磁化M1bおよびM1dは、反平行方向から磁界印加方向への飽和に向かう。これによって記録層1と磁気的な結合が発生し、記録層3の特性が変化し得る。
【0098】
本実施の形態によれば、記録層に形状ばらつきが生じた場合においても、固着層の磁化が記録層に与える影響が小さく、従来の構造と比較し、書き込み動作の安定化が可能である。すなわち、式(1)が満たされることによって、磁化M1bおよびM1d(図4)がライト線WTおよびビット線BL(図3)による合成磁界によって反平行状態から平行状態により近づいた場合においても、固着層1全体としての磁気モーメントが記録層3の磁気モーメントを超えるほどに大きくなることが防止される。これにより固着層1の磁化状態の変化が記録層3に与える影響が抑制されるので、記録層3の強磁性膜3aの磁化M3aの方向を変化させるのに必要な電流、すなわち書き込み電流のばらつきが抑制される。よって書き込み特性の安定した磁気記憶装置を得ることができる。
【0099】
好ましくは、式(1)の右辺の2項間に以下の大小関係が存在する。
M1b・t1b>M1d・t1d ・・・(3)
これにより固着層1(図4)のうち記録層3に近い部分から発生する磁化M1dの影響が抑制されるので、固着層1の磁化が記録層3におよぼす影響をさらに抑制することができる。
【0100】
また記録層3の平面形状は磁化容易軸91に対して非対称性を有する。これにより、動作可能な書き換え電流の領域を大きく確保することが可能であり、安定した書き込み動作が可能となる。
【0101】
なお、先にも説明したように、図5に示される記録層3は、磁化容易軸63の右側部分は円弧701からなっている。MRAMを高集積化した場合、記録層3を形成するためのフォトリソグラフィやエッチング工程などに起因して、曲率の小さい形状の制御は困難となる。しかしながら、図5における曲線部701は、磁化容易軸91方向に沿って記録層3の最大長さLと同じ長さを有する円弧であり、制御が容易でばらつきの影響は小さい。ここでは円弧を示したが、他の2次関数で記述される曲線であってもよい。また図17〜図20のそれぞれは、本発明の実施の形態1の第2〜第5の変形例における記録層の平面形状を概略的に示す平面図である。図17〜図20を参照して、これらの図に示される形状の記録層が用いられる場合であっても、図4に示される積層構造とすることで、同様な効果が得られる。
【0102】
(実施の形態2)
図21は、本発明の実施の形態2における磁気記憶装置の記録層の平面形態を概略的に示す平面図である。なお、断面構造は実施の形態1と同様である。
【0103】
曲線部704aと704bの曲率は異なっており、磁化困難軸方向に対して非対称である。この記録層においては、実質的な形状容易軸は第1の直線63に対し、傾斜する。この場合のアステロイド曲線は、図12のプロット36で説明したように“1”および“0”の書き込みの際に、電流向きとともに大きさも異なる。しかしながら、このような場合においても、図4に示される積層構造とすることで、固着層の磁化の影響を抑制することが可能である。
【0104】
この記録層形状を活用することで、“1”および“0”の書き込み時電流の大きさの違いを補正することが可能である。
【0105】
なお、上記以外の構成については、上述した実施の形態1の構成とほぼ同じであるため、同一または対応する要素について同一の符号を付し、その説明を繰り返さない。
【0106】
本実施の形態によれば、第2の部分PTbが第2の直線64に対して非対称性を有している。この場合においても、実施の形態1において説明したように、磁気記憶装置の書き込み特性のばらつきが抑制される。よって記録層3が対称性を有する場合であっても、磁気記憶装置の書き込み特性を安定化することができる。
【0107】
(実施の形態3)
図22は、本発明の実施の形態3における磁気記憶装置の記録層の積層構造を概略的に示す断面図である。なお平面形態は実施の形態1と同様である。
【0108】
主に図22を参照して、本実施の形態の磁気記憶装置は、磁気記憶素子MM(図4)の代わりに、磁気記憶素子MMvを有する。磁気記憶素子MMvは、磁気記憶素子MM(図4)における記録層3の代わりに、記録層3vを有する。
【0109】
記録層3vは、強磁性膜3a、非磁性膜3c(第3非磁性膜)、強磁性膜3d(第4強磁性膜)、および非磁性の金属膜3bがトンネル絶縁層2上に順次積層された構造を有する。強磁性膜3aはコバルト合金膜からなり厚さは2nmであり、非磁性膜3cは厚さ0.7nmのルテニウム膜からなる。強磁性膜3dはコバルト合金膜からなり厚さは4nmであり、1,100,000A/m(1100emu/cm3)である。この記録層1’では、固着層1と同様にルテニウム膜3cを介して、強磁性膜3aと3dの磁化が反平行方向に結合している。この場合の記録層においても大きな磁界が印加された場合は、磁界方向に磁化が飽和するために、実施の形態1と同様な効果を得るためには、以下の関係を充たす必要がある。
【0110】
M3a・t3a+M3d・t3d>M1b・t1b+M1d・t1d ・・・(2)
なお、上記以外の構成については、上述した実施の形態1の構成とほぼ同じであるため、同一または対応する要素について同一の符号を付し、その説明を繰り返さない。
【0111】
本実施の形態によれば、磁化反転に寄与する記録層の実効的な磁化を、2層の強磁性膜で調整することが可能である。また、記録層全体の体積を大きくすることが可能であるため、微細化した際の熱擾乱による、情報の損失を抑制することが可能である。
【0112】
なお上記の各実施の形態の磁気記憶装置は、メモリセルMC(図1)と混載された論理回路を有する混載デバイスであってもよい。この場合、書き込み特性の安定化により高速動作が可能となるので、ネットワーク環境や移動体通信における情報のインタラクティブな取り扱い環境が改善される。さらに、コンピュータや携帯端末等へ当該磁気記憶装置を適用することによって、消費電力の低減や動作環境の改善などを大幅に図ることができることになる。
【0113】
また上記の各実施の形態においては、磁気記憶装置について説明したが、磁気記憶素子MMなどの磁気抵抗効果素子とライト線およびビット線に係る配線層との関係は、情報の記憶に限定されるものではなく、たとえば磁気センサ、磁気記録ヘッド、または磁気記録媒体などのパターン化された磁気素子などの磁気デバイスにも適用することが可能である。
【0114】
また1つのメモリセルMCに1つの磁気記憶素子MMが設けられた磁気記憶装置について説明したが、1つのメモリセルMCに複数の磁気記憶素子MMが設けられてもよく、またこの複数の磁気記憶素子MMが互いに積層されていてもよい。
【0115】
今回開示された実施の形態はすべての点で例示にすぎず、これに制限されるものではない。本発明は上記で説明した範囲ではなく、特許請求の範囲によって示されるもので、特許請求の範囲と均等の意味および範囲でのすべての変更が含まれることが意図される。
【産業上の利用可能性】
【0116】
本発明は、記録層および固着層を有する磁気記憶装置に特に有利に適用され得る。
【図面の簡単な説明】
【0117】
【図1】本発明の実施の形態1における磁気記憶装置のメモリセルの回路図である。
【図2】本発明の実施の形態1における磁気記憶装置の構成を示す概略断面図である。
【図3】本発明の実施の形態1における磁気記憶装置の磁気記憶素子の付近の構成を概略的に示す斜視図である。
【図4】本発明の実施の形態1における磁気記憶装置の磁気記憶素子の構成を概略的に示す断面図である。
【図5】本発明の実施の形態1における磁気記憶装置の記録層の平面形状を概略的に示す平面図である。
【図6】本発明の実施の形態1における磁気記憶素子の位置の説明図であり、磁気記憶素子を平面的に透視したときの図である。
【図7】本発明の実施の形態1における磁気記憶装置の製造方法の第1工程を示す概略断面図である。
【図8】本発明の実施の形態1における磁気記憶装置の製造方法の第2工程を示す概略断面図である。
【図9】本発明の実施の形態1における磁気記憶装置の製造方法の第3工程を示す概略断面図である。
【図10】本発明の実施の形態1における磁気記憶装置の製造方法の第4工程を示す概略断面図(a)、および磁気記憶素子部分を拡大して示す拡大断面図(b)である。
【図11】本発明の実施の形態1における磁気記憶装置の製造方法の第5工程を示す概略断面図である。
【図12】本発明の実施の形態1における磁気記憶装置のアステロイド曲線を示す図である。
【図13】第1の変形例における磁気記憶装置の記録層の平面形状を概略的に示す平面図である。
【図14】図16の記録層がC型の磁化分布を有する場合の磁化の様子を示す平面図である。
【図15】図16の記録層がS型の磁化分布を有する場合の磁化の様子を示す平面図である。
【図16】S型の磁化分布状態の概念図(a)、およびC型の磁化分布状態の概念図(b)である。
【図17】本発明の実施の形態1の第2の変形例における記録層の平面形状を概略的に示す平面図である。
【図18】本発明の実施の形態1の第3の変形例における記録層の平面形状を概略的に示す平面図である。
【図19】本発明の実施の形態1の第4の変形例における記録層の平面形状を概略的に示す平面図である。
【図20】本発明の実施の形態1の第5の変形例における記録層の平面形状を概略的に示す平面図である。
【図21】本発明の実施の形態2における磁気記憶装置の記録層の平面形状を概略的に示す平面図である。
【図22】本発明の実施の形態3における磁気記憶装置の磁気記憶素子の構成を概略的に示す断面図である。
【符号の説明】
【0118】
1 固着層、1a 反強磁性膜、1b 強磁性膜(第2強磁性膜)、1c 非磁性膜(第2非磁性膜)、1d 強磁性膜(第1強磁性膜)、2 トンネル絶縁層(第1非磁性膜)、3,3v 記録層、3a 強磁性膜(第3強磁性膜)、3c 非磁性膜(第3非磁性膜)、3d 強磁性膜(第4強磁性膜)、11 半導体基板、12 素子分離絶縁膜、13,15,17,21,24,26,28 層間絶縁膜、13a,17a,21a,21b コンタクトホール、14,18,23,27 接続部材、15a,15b,15c,24a 開口部、16,25,29 配線層、19 導電層、20 保護膜、BL ビット線、D ドレイン領域、G ゲート電極、GI ゲート絶縁膜、MC メモリセル、MM,MMv 磁気記憶素子、MR メモリセル領域、RR 周辺回路領域、S ソース領域、S/D ソース/ドレイン領域、SL ソース線、TR 素子選択用トランジスタ、TRA トランジスタ、WD ワード線、WT ライト線。
【特許請求の範囲】
【請求項1】
基板と、
前記基板上に設けられ、第1の軸を中心軸として前記第1の軸に沿って延びる部分を有する第1配線と、
前記基板上に設けられ、前記第1の軸と交差する第2の軸を中心軸として前記第2の軸に沿って延びる部分を有し、前記基板の厚み方向の間隔を空けて前記第1配線と交差する第2配線と、
平面形状を有し、前記第1配線および前記第2配線が前記間隔を空けて互いに交差する領域において前記第1配線および前記第2配線に少なくとも一部が挟まれるように配置され、磁化容易軸を有し、前記第1配線による磁界と前記第2配線による磁界との合成磁界によって磁化方向が変化する記録層と、
前記記録層上に設けられた第1非磁性膜と、
前記第1非磁性膜上に設けられた固着層とを備え、
前記固着層は、前記第1非磁性膜上に設けられ、かつ第1の磁化および第1の膜厚を有する第1強磁性膜と、前記第1強磁性膜上に設けられた第2非磁性膜と、前記第2非磁性膜上に設けられ、かつ前記第1強磁性膜と反平行結合し、かつ第2の磁化および第2の膜厚を有する第2強磁性膜と、前記第2強磁性膜上に設けられた反強磁性膜とを含み、
前記第1の磁化および前記第1の膜厚の積と前記第2の磁化および前記第2の膜厚の積との和は、前記記録層の磁化と前記記録層の膜厚との積よりも小さい、磁気記憶装置。
【請求項2】
前記第1の磁化および前記第1の膜厚の積は、前記第2の磁化および前記第2の膜厚の積よりも小さい、請求項1に記載の磁気記憶装置。
【請求項3】
前記平面形状は、前記磁化容易軸に関して非対称性を有する、請求項1または2に記載の磁気記憶装置。
【請求項4】
前記記録層は、第3強磁性膜と、前記第3強磁性膜上に設けられた第3非磁性膜と、前記第3非磁性膜上に設けられた第4強磁性膜とを有する、請求項1〜3のいずれかに記載の磁気記憶装置。
【請求項5】
前記記録層および前記固着層の少なくともいずれかは、コバルト、鉄、およびニッケルの少なくともいずれかを主成分として含有する強磁性膜を含む、請求項1〜4のいずれかに記載の磁気記憶装置。
【請求項6】
前記第2非磁性膜はルテニウムを含有する、請求項1〜5のいずれかに記載の磁気記憶装置。
【請求項1】
基板と、
前記基板上に設けられ、第1の軸を中心軸として前記第1の軸に沿って延びる部分を有する第1配線と、
前記基板上に設けられ、前記第1の軸と交差する第2の軸を中心軸として前記第2の軸に沿って延びる部分を有し、前記基板の厚み方向の間隔を空けて前記第1配線と交差する第2配線と、
平面形状を有し、前記第1配線および前記第2配線が前記間隔を空けて互いに交差する領域において前記第1配線および前記第2配線に少なくとも一部が挟まれるように配置され、磁化容易軸を有し、前記第1配線による磁界と前記第2配線による磁界との合成磁界によって磁化方向が変化する記録層と、
前記記録層上に設けられた第1非磁性膜と、
前記第1非磁性膜上に設けられた固着層とを備え、
前記固着層は、前記第1非磁性膜上に設けられ、かつ第1の磁化および第1の膜厚を有する第1強磁性膜と、前記第1強磁性膜上に設けられた第2非磁性膜と、前記第2非磁性膜上に設けられ、かつ前記第1強磁性膜と反平行結合し、かつ第2の磁化および第2の膜厚を有する第2強磁性膜と、前記第2強磁性膜上に設けられた反強磁性膜とを含み、
前記第1の磁化および前記第1の膜厚の積と前記第2の磁化および前記第2の膜厚の積との和は、前記記録層の磁化と前記記録層の膜厚との積よりも小さい、磁気記憶装置。
【請求項2】
前記第1の磁化および前記第1の膜厚の積は、前記第2の磁化および前記第2の膜厚の積よりも小さい、請求項1に記載の磁気記憶装置。
【請求項3】
前記平面形状は、前記磁化容易軸に関して非対称性を有する、請求項1または2に記載の磁気記憶装置。
【請求項4】
前記記録層は、第3強磁性膜と、前記第3強磁性膜上に設けられた第3非磁性膜と、前記第3非磁性膜上に設けられた第4強磁性膜とを有する、請求項1〜3のいずれかに記載の磁気記憶装置。
【請求項5】
前記記録層および前記固着層の少なくともいずれかは、コバルト、鉄、およびニッケルの少なくともいずれかを主成分として含有する強磁性膜を含む、請求項1〜4のいずれかに記載の磁気記憶装置。
【請求項6】
前記第2非磁性膜はルテニウムを含有する、請求項1〜5のいずれかに記載の磁気記憶装置。
【図1】
【図2】
【図3】
【図4】
【図5】
【図6】
【図7】
【図8】
【図9】
【図10】
【図11】
【図12】
【図13】
【図14】
【図15】
【図16】
【図17】
【図18】
【図19】
【図20】
【図21】
【図22】
【図2】
【図3】
【図4】
【図5】
【図6】
【図7】
【図8】
【図9】
【図10】
【図11】
【図12】
【図13】
【図14】
【図15】
【図16】
【図17】
【図18】
【図19】
【図20】
【図21】
【図22】
【公開番号】特開2010−141258(P2010−141258A)
【公開日】平成22年6月24日(2010.6.24)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−318617(P2008−318617)
【出願日】平成20年12月15日(2008.12.15)
【出願人】(503121103)株式会社ルネサステクノロジ (4,790)
【Fターム(参考)】
【公開日】平成22年6月24日(2010.6.24)
【国際特許分類】
【出願日】平成20年12月15日(2008.12.15)
【出願人】(503121103)株式会社ルネサステクノロジ (4,790)
【Fターム(参考)】
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