説明

窒化物半導体基板の製造方法

【課題】低転位であり、特に、窒化物半導体基板に内在する応力を抑制させて、反りの少ない窒化物半導体基板の製造方法を提供することを目的とする。
【解決手段】サファイア基板の(0001)面上に、第1の窒化物半導体パターンを形成し、該第1の窒化物半導体パターンを成長核として第2の窒化物半導体層を成長させ、少なくとも前記サファイア基板を除去することを含む窒化物半導体基板の製造方法であって、第1の窒化物半導体パターンは、平面形状が三角形の複数の枠体によって形成され、該枠体の頂点のみを、隣接する枠体と共有するように規則的に配置されて構成される窒化物半導体基板の製造方法。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、窒化物半導体基板の製造方法に関し、より詳細には、転位かつ反りを低減した窒化物半導体基板の製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
一般に、LED、LD等の発光素子又は電子デバイスを形成するために利用され、一般式InxAlyGa1-x-yN(0≦x、0≦y、0≦x+y≦1)で表される窒化物半導体は、バルク単結晶を得るのが困難であることが知られている。そのため、サファイア、炭化ケイ素、スピネル、シリコンのような窒化物半導体と異なる異種基板上に、窒化物半導体を、低転位欠陥で、成長させる研究が種々検討されている(例えば、特許文献1及び2等)。
このような方法により、転位欠陥を低減させるために、種々の材料及び形状のパターンを異種基板上に形成し、その上に窒化物半導体層を成長させることにより(11−22)面を形成し、さらに、成長を続けて、面同士を接合させる。
【0003】
しかし、窒化物半導体層の面接合部には転位が発生する。例えば、ストライプ状のパターンを用いる場合には、基板上において、直線的に生じる接合面に沿って転位が発生することとなるため、転位欠陥を低減させるには限界がある。
また、異種基板と窒化物半導体との、格子定数、熱膨張係数差等から、窒化物半導体層内に応力が発生し、窒化物半導体層を異種基板から切り離して、フリースタンディングの状態とした時に、反りが発生するという問題もある。
【0004】
さらに、図6(a)及び(b)に示すように、正三角形又は正六角形の開口を配列したパターンを用いる場合(例えば、特許文献3)においても、窒化物半導体層の接合面に沿って(つまり、正三角形又は正六角形の交差する頂点部に)発生する転位に起因する転位欠陥を低減させるには至っていない。
【特許文献1】特開平11−191657号公報
【特許文献2】特開2001−102307号公報
【特許文献3】特開2000−223417号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
素子を成長させるために用いる窒化物半導体基板には、低転位であって、かつ基板に内在する応力が抑制されたものが要求される。
しかし、このような要求に応える窒化物半導体基板は実用化されていないのが現状である。
本発明は、上記のような課題に鑑みてなされたものであり、低転位であり、特に、窒化物半導体基板に内在する応力を抑制させて、反りの少ない窒化物半導体基板の製造方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明の窒化物半導体基板の製造方法は、基板上に第1の窒化物半導体を成長させ、該第1の窒化物半導体に、(11−20)面と等価である面で囲まれ、平面形状において相似である2以上の凹部を有するパターンを形成し、該第1の窒化物半導体パターンにおける(11−20)面と等価である面を成長核として第2の窒化物半導体層を成長させることを含むか、あるいは、基板上に、第1の窒化物半導体パターンを形成し、該第1の窒化物半導体パターンを成長核として第2の窒化物半導体層を成長させる窒化物半導体基板の製造方法であって、第1の窒化物半導体パターンは、平面形状が略正三角形の複数の枠体によって形成され、該枠体の頂点のみを隣接する枠体と共有するように規則的に配置されて構成されることを特徴とする。
【0007】
また、本発明の窒化物半導体基板は、基板上に、(11−20)面と等価である面で囲まれ、平面形状において相似である2以上の凹部を有するパターンが形成された第1の窒化物半導体と、該第1の窒化物半導体上に形成された第2の窒化物半導体層とを有するか、基板上に、第1の窒化物半導体パターンと、該第1の窒化物半導体パターン上に形成された第2の窒化物半導体層とを有する窒化物半導体基板であって、第1の窒化物半導体パターンは、平面形状が略正三角形の複数の枠体によって形成され、該枠体の頂点のみを、隣接する枠体と共有するように規則的に配置されて構成される。
【発明の効果】
【0008】
本発明によれば、転位を低減させることができ、さらに、窒化物半導体基板に内在する応力を分散させて基板の反りを制御、つまり、反りを緩和したり、反対方向に反らせたりすることができる。このような窒化物半導体基板上に成長させた素子の特性は良好とすることができ、チップ化も容易にすることが可能となる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0009】
本発明の窒化物半導体基板の製造方法は、主として、基板上に、所定形状のパターンを有する第1の窒化物半導体層を成長させ、次いで、この第1の窒化物半導体層を成長核として、第2の窒化物半導体層を成長させることを含む。
【0010】
本発明において用いる基板としては、窒化物半導体を成長させることが可能な基板であればよく、例えば、C面、R面、及びA面のいずれかを主面とするサファイア、シリコン、SiC又はGaAs、ZnS、ZnO等が挙げられる。なかでも、サファイア基板が好ましい。なお、基板には10°以下、さらに0.1°〜1°のオフ角が形成されていることが好ましい。
【0011】
例えば、サファイアであれば窒化物半導体を成長させる面を(0001)面とする。これにより窒化物半導体も(0001)面成長することができるため、第1の窒化物半導体層に(11−20)面と等価である面を容易に形成することができる。また、サファイアの(0001)面以外に(11−20)面や(1−100)面を窒化物半導体を成長させる面としてもよい。
【0012】
まず、基板上に、第1の窒化物半導体層によるパターンを形成する。
本発明における第1の窒化物半導体層は、式InxAlyGa1-x-yN(0≦x、0≦y、0≦x+y≦1)で表される窒化物半導体からなる層を意味する。これに加えて、III族元素としてBを一部に有してもよいし、V族元素としてNの一部をP、Asで置換したものであってもよい。また、この窒化物半導体層はi型として成長させてもよいし、n型不純物として、Si、Ge、Sn、S、O、Ti、Zr、CdなどのIV族元素、あるいはVI族元素等のいずれか1以上を含有していてもよいし、p型不純物として、Mg、Zn、Be、Mn、Ca、Sr等を含有していてもよい。不純物を含有させる場合には、その濃度は、例えば、5×1016/cm3以上、1×1021/cm3以下の範囲とすることが適当である。
【0013】
窒化物半導体の成長方法は、特に限定されないが、例えば、MOVPE(有機金属気相成長法)、MOCVD(有機金属化学気相成長法)、HVPE(ハイドライド気相成長法)、MBE(分子線エピタキシー法)など、窒化物半導体の成長方法として知られている全ての方法を好適に用いることができる。なお、窒化物半導体は、種々の窒化物半導体の成長方法を使用目的により適宜選択して成長させることが好ましい。なかでも、MOCVDは、窒化物半導体を結晶性良く成長させることができるので、好ましい。具体的には、950〜1200℃程度の高温下、第1の窒化物半導体層を構成する元素を含むガス(例えば、アンモニアガス、TMGガス等)を、所定の流量で供給する方法が挙げられる。第1の窒化物半導体層は、例えば、5μm以下の膜厚とすることが好ましい。これにより、第1の窒化物半導体層から成長させる、後述の第2の窒化物半導体層のファセット成長を容易かつ確実に行わせることができる。
【0014】
パターンの形成は、当該分野で公知の方法、例えば、フォトリソグラフィ及びエッチング工程によって形成することができる。具体的には、CVD法により、酸化シリコンを成膜し、この上にレジストを塗布し、所定形状のパターンを露光する。その後、現像処理を行ってレジストを所定のパターン形状に形成する。このレジストパターンを用いて、酸化シリコンをエッチングし、さらに、第1の窒化物半導体層をエッチングすることにより、第1の窒化物半導体層を所定の形状の凸部と凹部とを有するパターンにパターニングすることができる。なお、ここで凹部とは、凸部よりも膜厚が小さければよいが、第1の窒化物半導体層が存在しない部分であることが好ましい。また、凸部の上面は(0001)面と等価である面である。凹部の底面に第1の窒化物半導体層が存在する場合には、この面は特に限定されないが、例えば(0001)面と等価である面である。
【0015】
パターンは、第1の窒化物半導体層に(11−20)面と等価である面で囲まれたものとして形成する。ここで、(11−20)面と等価である面とは、いわゆるA面を意味し、(11−20)面のほか、(1−210)、(−2110)が挙げられる。(11−20)面と等価である面で囲まれるとは、例えば、このパターンの縦断面形状、つまり基板表面に垂直な方向の断面形状が略四角形で、その縦断面形状の側面が(11−20)面と等価である面となるように形成されていることを意味する。単にA面を成長面の一部とする第1の窒化物半導体層を形成するのではなく、本願発明の上記パターンを形成することにより、後述する第2の窒化物半導体層を容易にファセット成長させることが可能となる。また、転位を有効に低減することができる。
【0016】
また、別の観点から、パターンの平面形状は、相似である2以上の凹部を有する形状、相似である2以上の凹部が三角形である形状、三角形を形作る複数のパターンがマトリクス状に配置された形状、凸形状のパターンに内周と外周とを有する形状、この内周と外周とが相似である形状、この内周と外周とが正三角形である形状、特に、三角形を形作る複数のパターンに内周と外周とを有する形状であることが適している。ここで、三角形を形作るパターンの側面、内周及び外周を形作るパターンの側面は、いずれも、上述したように、(11−20)面と等価である面で形成されていることが適している。また、相似である2以上の凹部、並びに、相似である内周と外周とは、例えば、150〜50%の間で大きさが異なることが適当である。
【0017】
さらに言い換えると、パターンは、図1に示すように、一単位が、平面形状において、複数の略正三角形の枠体11によって形成され、それらの頂点Pのみを、隣接する枠体11と共有するように規則的に配置されて構成されるか、あるいは、それら複数の略正三角形の三つの頂点がそれぞれ同一方向に向いて配置され(さらに、複数の正三角形の各辺が直線状に配列するように配置され)、かつ、隣接する略正三角形の枠体と頂点のみで接触して構成される。なお、この枠体は、凸状に形成されていることが好ましい。これらの場合、3つの略正三角形の枠体に包囲されて、枠体の外周形状と略同じ形状の凹部が形成されてなることが好ましい。パターン(枠体)の全ての一単位は、図1に示したように、パターンを構成する基本形状(例えば、三角形状又は正三角形状)と同じ形状であり、かつそれぞれ同じ形状となる。これは、図6(a)及び(b)に示すように、三角形状又は六角形状の枠体の各単位が、隣接する枠体とそれぞれその一部を共有するため、その一単位の形状(例えば、図6(a)及び(b)中、破線内X及びY)を取り出した場合に、それに隣接する一単位の形状(XX及びYY)が、必ずしも基本形状とは同じ形状とならず、かつそれぞれが同じ形状でないことと相違する。ここで、「頂点のみでの接触」とは、厳密には接触する領域は「点」を意味するが、パターンの形成方法、その精度等を考慮して、若干のずれがあってもよい。このずれは、例えば、後述する枠の太さの1/2以下を直径とする略円形の領域又は一辺とする多角形の領域、さらに、1/3以下、1/4以下、1/5以下、1/8以下、1/10以下を直径(又は一辺)とする領域である、言い換えると、隣接する枠体(枠自体)の中心線が交差しない程度であることが例示される。
【0018】
ここで、三角形とは、好ましくは正三角形又は略正三角形であり、三角形の一辺の長さは、40〜100μm程度が適当であり、50〜70μm程度がより好ましく、60μm前後がさらに好ましい。また、枠体、つまり、内周と外周とを有する場合は、外周における一辺の長さが上述した範囲が適当である。さらに、内周と外周とを有する場合は、内周における一辺の長さは、20〜60μm程度、40〜55μm程度がより好ましい。つまり、三角形の枠体の枠の太さ(図1中、t)は、10μm以下、好ましくは1〜5μm程度である。また、頂点部分の枠の太さ(図1中、(B−A)/2)は、10μm以下、好ましくは1.5〜6μm程度である。これにより、後述する第2の窒化物半導体層の成長時間を短縮し、得られる窒化物半導体基板の転位欠陥の密度を最小限に抑えることができる。加えて、フリースタンディング状態にした場合の基板の反りを最小限にすることができる。言い換えると、後述するように、LED、LD等の素子を構成する半導体層を積層した後の反りを最小限にすることができる。
【0019】
このパターンは、規則的に、一様に配列されていることが好ましい。これにより、転位欠陥の高密度部分を規則的に、かつ最小限の面積とすることができる。また、パターンにおける三角形状、特に三角形の枠体は、隣接する三角形の枠体と、各頂点でのみ接触し、辺を共有せず又は辺で接触しないように配置されている。言い換えると、三角形の枠体は、頂点部分は若干枠体の幅が太くなるか又はほとんど太くならず、ほとんどの部分において、略均一な太さを有している。このように、成長核である第1の窒化物半導体層の面積を最小限に止めることにより、後述する第2の窒化物半導体層の成長において、ファセット成長、つまり(11−22)面と等価である面を成長面として成長させた場合に、第2の窒化物半導体層に転位が伝播することを抑止することができる。また、第1の窒化物半導体パターンを上述した形状とすることでファセット形成時に転位を止めることができる。そのため、パターン(例えば、三角形)の中心に対応する点にのみ転位を集中させることができ、六角形状等のパターンに比べて、より低転位化が可能となる。
【0020】
なお、本発明においては、第1の窒化物半導体パターンを形成する前に、窒化物半導体層によるバッファ層、中間層等を形成してもよい。このようなバッファ層としては、いわゆる低温バッファ層と呼ばれるもの等が該当する。例えば、このような層は、450〜600℃程度の低温下、得ようとする窒化物半導体層を構成する元素を含むガス(例えば、アンモニアガス、TMGガス等)を、所定の流量で供給する方法が挙げられる。例えば、このような層は、膜厚0.1μm以下が適当である。
【0021】
また、本発明においては、第1の窒化物半導体層を形成した後、露出した基板表面を、例えば、酸化シリコン、窒化ケイ素、酸化チタン、酸化ジルコニウム、窒化ケイ素、これらの多層膜又は1200℃以上の融点の高融点金属(例えば、タングステン、モリブデン等)によって被覆してもよい。つまり、後述する第2の窒化物半導体層を、酸化シリコンと第1の窒化物半導体層との表面に成長させてもよい。このように酸化シリコンを被覆する方法は、第1の窒化物半導体パターンを含む基板上全面に酸化シリコンを所定厚さで形成し、当該分野で公知のエッチング法を用いて、第1の窒化物半導体パターン上の酸化シリコンのみをエッチングする方法が挙げられる。保護膜の形成方法としては、CVD、スパッタリング及び蒸着法が挙げられる。保護膜を除去する方法には、ドライエッチング又はウェットエッチングを用いることができ、どちらの方法も窒化物半導体の結晶性を低下させることなく保護膜を除去することができる。さらに、ドライエッチングは、保護膜を除去する深さを簡単に制御することができる。
【0022】
所定形状にパターニングされた第1の窒化物半導体パターンの上に、第2の窒化物半導体層を成長させる。第2の窒化物半導体層の成長方法は、上述した第1の窒化物半導体層の成長方法と同様のものが挙げられる。ただし、第1の窒化物半導体パターンが形成されているために、第2の窒化物半導体層は、第1の窒化物半導体パターンにおける(11−20)面と等価である面を成長核として成長することとなり、第1の窒化物半導体パターンの中央を頂点とする、いわゆるファセット成長により成長させることができる。ここでファセット成長とは、当初の又は本来の窒化物半導体層の成長方向とは異なる方向に成長することを意味する。通常、c面とは異なる面、好ましくは(11−22)面で窒化物半導体層が成長することである。
【0023】
第2の窒化物半導体層の成長を続けることで、いわゆるファセット成長面が徐々に平坦な面へと変化する。この際、第2の窒化物半導体層において、ファセット成長の頂点で転移の進行を有効に阻止することができる(図2(b)参照)。また、隣接するファセット成長面同士が接合される部分で、空洞を構成する(図2(e)参照)又は接合面が密着することによって、貫通転移が存在したとしてもあるいは貫通転移が新たに発生したとしても、その空洞又は接合した点の直上にのみ貫通転位が進行することとなる。最終的に、平坦で、基板表面に水平、つまり、いわゆるc面方向を全面に成長させることができる。なお、第2の窒化物半導体に上記パターンを形成して、新たに第3の窒化物半導体を再成長させてもよい。これによりさらに転位を低減することができる。第2の窒化物半導体層の膜厚は、例えば、50μm以上、好ましくは100μm以上である。この膜厚があれば、基板剥離を容易に行うことができる。
【0024】
上述したように、基板上に、第1の窒化物半導体層のパターンと、第2の窒化物半導体層とを形成した窒化物半導体基板は、光学的顕微鏡等による裏面観察、この基板の上に素子が形成されている場合には電極等を除去した表面観察、断面観察等、種々の方法により、ファセット成長、成長面の接合面及び/又は転位の方向等を観察することにより、上述した所定形状の第1の窒化物半導体層によるパターンを用いて形成したものであると判断することができる。
【0025】
なお、第2の窒化物半導体層を形成した後、基板を除去することが好ましい。これにより、フリースタンディングの窒化物半導体基板を得ることができる。基板の除去の方法は、当該分野で公知の方法のいずれを利用してもよい。例えば、研磨、エッチング、レーザ照射等により除去することができる。この際、基板のみならず、任意に、上述したバッファ層、中間層、第1の窒化物半導体層、さらに第2の窒化物半導体層の一部を除去してもよい。また、上述した観察によって、所定形状の第1の窒化物半導体層によるパターンを用いて形成した層であることを認識できる層を完全に除去してもよい。
【0026】
このようにして得られたフリースタンディングの窒化物半導体基板(つまり、少なくとも窒化物半導体層の成膜のために使用した基板を除去したもの)は、通常、マイナス方向に反り(表に凸)が生じる。この場合の反りは、例えば、−300μm程度以下が適している。これにより、LED及びLD等を構成する半導体層がこの窒化物半導体基板上に積層された場合に、窒化物半導体層自体の反りをこの基板によって相殺又は緩和することができる。
【0027】
以下に、本発明の窒化物半導体基板の製造方法の実施例を詳細に説明する。
実施例
C面を主面とし、オリフラ面をA面とし、約0.5°のオフ角を有するサファイア基板を準備した。
このサファイア基板上に、MOCVD装置を用いて、500℃にて、キャリアガスとして水素、原料ガスとして、NH3を8slm、TMG(トリメチルガリウム)を35μmol/分で供給しながら、3分間、バッファ層を成長させた。得られたバッファ層の膜厚は0.02μmであった。
【0028】
次に、上記と同様に、1100℃にて、NH3を4slm、TMGを230μmol/分供給しながら、60分間、第1の窒化物半導体であるGaNを成長させた。得られたGaN層の膜厚は2μmであった。
【0029】
次いで、このGaN層の上に、CVD装置を用いて、膜厚1μmでSiO2膜を成膜した。その上にレジストを塗布し、ステッパにより、マスクパターンを露光した。その後、レジストの現像処理を行い、ドライエッチングにより、SiO2膜、続いて、第1の窒化物半導体層であるGaN層をエッチングした。残留したSiO2膜を除去することにより、図2(a)に示すように、基板14上に、図1に示す形状のGaN層からなるパターン10を形成した。
【0030】
このパターン10は、凸形状の正三角形の枠体11が均一に配列している。言い換えると、平面形状において相似である2つの凹部Q、Wを有する。全ての正三角形の枠体11は、3つの頂点が、それぞれ同じ方向に向いて配置している。正三角形の外周の一辺の長さBは約60μm、内周の一辺の長さAは約50μm、枠体の幅tは約3μmとした。このパターン10では、隣接する三角形の枠体11とは、頂点Pのみで点接触している。つまり、3つの三角形の枠体11が、頂点Pのみで点接触している。さらに言い換えると、平面形状において、3つの正三角形の枠体11に包囲されて、枠体11の外周形状と略同じ形状の凹部Qが形成されている。
【0031】
次に、図2(b)に示すように、この第1の窒化物半導体によるパターン10を成長核として、上記と同様に、1000℃にて、NH3を4slm、TMGを60μmol/分供給しながら、6時間、第2の窒化物半導体層12であるGaNを成長させた。このとき、パターン10を成長核とすることにより、第2の窒化物半導体層12は、ファセット面、つまり(11−22)面と等価である面を形成するように成長した。この際、貫通転位の進行がファセット面の頂点で阻止される。
【0032】
引き続き、1100℃にて、NH3を4slm、TMGを200μmol/分供給しながら、12時間、GaNを成長させることにより、図2(c)及び(d)に示すように、徐々に第2の窒化物半導体層12の表面がc面に変化しながら、ファセット面が成長し、最終的に、図2(e)に示すように、接合部分において空洞13を形成しながら、平坦な面が得られた。
【0033】
その後、裏面側からレーザを照射することにより、サファイア基板を除去し、膜厚150μmの窒化物半導体基板を得た。
得られた窒化物半導体基板について、転位密度と反りを測定するとともに、CL(カソードルミネセンス)像を撮影した。
【0034】
なお、比較のために、第1の窒化物半導体層によるパターン形状を、線幅10μm、ピッチ20μmのストライプ状としたもの、図6(b)に示すように、正六角形のパターンを隣接する正六角形のパターンとの距離を50μmで規則正しく配置したものとする以外、上記実施例と同様にして、窒化物半導体基板を形成した。
それらの結果を表1に示す。また、CL像は、実施例のものを図3、ストライプ状のパターンを用いたものを図4、正六角形のパターンを用いたものを図5に示す。
【0035】
【表1】

【0036】
表1から明らかなように、パターンが、ストライプ状である場合には、ファセット結合が線状で行われるために、転位が直線状に、連続的に発生し、十分な低転位化が図れなかった。また、基板を剥離後の反りが増大した。
また、六角形形状のパターンでは、基板剥離後の反りは減少するが、六角形の頂点にそれぞれ貫通転位が発生するために、ストライプ状のものよりも転位が少ないものの、やはり、十分な低転位化が図れなかった。
【0037】
一方、実施例1のパターンでは、横方向成長のためのファセット成長を等方的に結合させることができ、これにより、結合が、例えば、三角形の枠体の中心点に集中することにより、貫通転位が存在するとしても、その転位自体が三角形の枠体の中心点に集中することとなり、低転位化を十分に図ることができた。また、基板剥離後の反りも、ゼロからマイナス方向への反り(表に凸)を実現することができた。
【0038】
これにより、このような基板上に、窒化物半導体層(例えば、30〜1000μm程度、好ましくは100〜900μm程度)を積層して、LED、LD等の半導体素子を形成する場合、窒化物半導体層自体の反りをこの基板によって相殺又は緩和することができるため、基板自体の形状安定性が良好となり、あるいは基板上に形成された半導体素子のハンドリング、安定性を改善し、半導体素子のチップ化等の工程の歩留まりを向上させることができる。
【産業上の利用可能性】
【0039】
本発明の窒化物半導体基板の製造方法は、窒化物半導体を用いる全ての半導体装置の製造に用いることが適用することができる。
【図面の簡単な説明】
【0040】
【図1】本発明の窒化物半導体基板の製造方法で用いるパターンを示す平面図である。
【図2】図1のパターンのc−c'線断面図であり、このパターン上に第2窒化物半導体層を成長させた場合の窒化物半導体層の断面図である。
【図3】実施例のパターンを用いて形成された窒化物半導体基板表面のCL像を示す写真である。
【図4】比較例のストライプ形状のパターンを用いて形成された窒化物半導体基板表面のCL像を示す写真である。
【図5】別の比較例の正六角形のパターンを用いて形成された窒化物半導体基板表面のCL像を示す写真である。
【図6】従来のパターンの平面図を示す図である。
【符号の説明】
【0041】
10 パターン(第1の窒化物半導体パターン)
11 枠体
12 第2の窒化物半導体層
13 空洞
14 基板

【特許請求の範囲】
【請求項1】
サファイア基板の(0001)面上に、第1の窒化物半導体パターンを形成し、該第1の窒化物半導体パターンを成長核として第2の窒化物半導体層を成長させ
少なくとも前記サファイア基板を除去することを含む窒化物半導体基板の製造方法であって、
第1の窒化物半導体パターンは、平面形状が三角形の複数の枠体によって形成され、該枠体の頂点のみを、隣接する枠体と共有するように規則的に配置されて構成される窒化物半導体基板の製造方法。
【請求項2】
第1の窒化物半導体パターンは、平面形状において枠体の内周及び外周が、大きさが異なる互いに相似である2以上の凹部を構成している請求項1に記載の窒化物半導体基板の製造方法。
【請求項3】
第1の窒化物半導体パターンは、平面形状において枠体の内周及び外周が正三角形である請求項1又は2に記載の窒化物半導体基板の製造方法。
【請求項4】
第2の窒化物半導体層を、ファセット成長させる請求項1〜3のいずれか1つに記載の窒化物半導体基板の製造方法。
【請求項5】
ファセット成長は、(11−22)面と等価である面を成長面とするものである請求項4に記載の窒化物半導体基板の製造方法。
【請求項6】
第2の窒化物半導体層を成長させた後、基板を除去する請求項1〜5のいずれか1つに記載の窒化物半導体基板の製造方法。
【請求項7】
サファイア基板の(0001)面上に形成された第1の窒化物半導体パターンと、該第1の窒化物半導体パターン上に成長させた第2の窒化物半導体層とを有する窒化物半導体基板であって、
第1の窒化物半導体パターンは、平面形状が三角形の複数の枠体によって形成され、該枠体の頂点のみを、隣接する枠体と共有するように規則的に配置されて構成された窒化物半導体基板。
【請求項8】
第1の窒化物半導体パターンは、平面形状において枠体の内周及び外周が相似である請求項7に記載の窒化物半導体基板。
【請求項9】
第1の窒化物半導体パターンにおける枠体の一単位が、平面形状において内周及び外周が正三角形である請求項7又は8に記載の窒化物半導体基板。
【請求項10】
前記第2の窒化物半導体層が、ファセット成長面の接合部位と、該接合部位の近傍に位置する空洞とを含む請求項7〜9のいずれか1つに記載の窒化物半導体基板。
【請求項11】
前記第1の窒化物半導体パターンと、前記第2の窒化物半導体層とを含んでなる窒化物半導体基板が、ゼロからマイナス方向への反りを有する請求項7〜10のいずれか1つに記載の窒化物半導体基板。
【請求項12】
請求項7〜11のいずれか1つに記載の窒化物半導体基板と、窒化物半導体層とを備えることを特徴とする発光素子。


【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【公開番号】特開2013−16856(P2013−16856A)
【公開日】平成25年1月24日(2013.1.24)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2012−212398(P2012−212398)
【出願日】平成24年9月26日(2012.9.26)
【分割の表示】特願2006−224023(P2006−224023)の分割
【原出願日】平成18年8月21日(2006.8.21)
【出願人】(000226057)日亜化学工業株式会社 (993)
【Fターム(参考)】