説明

脂肪組織における末梢時計の調節

コア概日振動体を制御する転写因子をコードする遺伝子(BMAL、Clock、NPAS、Per)及びその調節標的(Rev−erbα、Rev−erbβ)を脂肪組織中に見出した。これらの遺伝子の概日パターンは制限給餌を用いて同調された。概日遺伝子発現プロファイルは、核ホルモン受容体リガンド(デキサメタゾン又はチアゾリジンジオン)又は30%ウシ胎仔血清にさらした後のマウス並びに、未分化の、及び脂肪細胞で分化したヒト脂肪幹細胞にて調べられた。3つの薬剤の全てがヒト脂肪幹細胞中にて代表的な概日遺伝子の周期的な発現プロファイルを誘導した。試験した概日遺伝子は振動発現プロファイルを示し、24乃至28時間の位相内にある頂点及び最低点により特徴づけられる。概日遺伝子パターンはグリコーゲンシンターゼキナーゼ3ベータ阻害剤を使用することにより延長された。概日パターンを延長及び短縮する調節は、それぞれ体重の増加又は減少に影響を与えるべく使用され得る。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、体重の増減に関連した疾病、例えば、肥満、糖尿病、免疫機能異常疾患、癌及びAIDSに関連した悪液質、並びに神経性無食欲症、双極性障害及びプラダーウィリー症候群のような代謝障害、を治療するために、脂肪組織の末梢時計を同調するための方法に関する。
【背景技術】
【0002】
2005年6月10日に出願された米国特許仮出願第60/689315号の出願日の利益は、米国特許法§119(e)に基づいて請求される。
アメリカ合衆国において、肥満は多発する症状であり、成人の50%超が、身長と体重に基づく体格指数(BMI)の推奨される値を超えている。肥満におけるこの上昇に関連して、小児及び成人人口の両方において糖尿病の頻度が増加している。同様に、夜間過食症、神経性無食欲症及び双極性障害のような摂食及び睡眠に関連した疾患を有する多くの患者が毎年存在している。また、癌又はAIDS患者も、多くの場合、過度の体重減少、筋肉疲労及び脂肪組織蓄積の損失を併発している。これらの疾患の全てに代謝機能の調節不能が関わっている。
【0003】
エネルギー代謝及び脂肪組織機能は日内変化する昼/夜の周期に関連した顕著な特徴を示し、概日リズムに影響する。例としては、一日のうちで律動的に変化する中核体温や、限定されるものではないが、レプチン、アディポネクチン、PAI−1、アンジオテンシノーゲン及びリポ蛋白質リパーゼを含む蛋白質の脂肪組織及びその他の器官からの分泌と、があり、それらは心臓血管機能及び心臓血管性疾患危険因子の調節に重要な役割を担っている。加えて、限定されるものではないが、例えばSREBP/ADD1及びPPARαを含む主要な含脂肪細胞機能を制御するための転写因子は、肝臓、心臓及びその他の組織において概日パターンの発現を示す。視交叉上核(SCN)に配置されている脳の中枢時計がこれらの事象を調節する上で主要な役割を担っていることは既に周知ではあるが、別の組織内に配置されている末梢時計もまた機能していることが明らかになりつつある。
【0004】
遺伝子発現における概日リズムは、外的環境の生化学的プロセスに同調し、一定に変化する生理学的課題に応答して生物が効果的に機能することを可能にする(R.Alladaらによる特許文献1(2001年))。Clock(又はそのパラログNpas2)、Bmal1、Period(Per)及びCryptochrome(Cry)遺伝子によりコードされる、塩基性helix−loop−helix/Per−Arnt−Simpleminded(bHLH−PAS)ドメインファミリーに属する遺伝子はこのプロセスにおいて中心的な役割を果たす(R.Alladaら(2001年))。CLOCK及びBMAL1のヘテロ二量体は、Per及びCryの転写を推進する(N.Gekakisら(1998年)、T.K.Darlingtonら(1998年)、特許文献2)。細胞質における翻訳後、PER及びCRY蛋白質は、ヘテロ二量体化し、核に転座し、かつCLOCK:BMAL1の活性を調節し、転写/翻訳フィードバックループを完成する(J.A.Rippergerら(2000年)及びE.A.Griffin,Jr.ら(1999年))。その結果として、これら二組の遺伝子の発現レベルは互いに逆位相振動プロファイルを呈する。加えて、CLOCK:BMAL1ヘテロ二量体は、複数の生理学的機能に関連している転写因子DBP(アルブミンD結合蛋白質)及びREV−ERBαをコードするものを含む概日エフェクタ遺伝子の転写を調節する(J.A.Rippergerら(2000年)及びA.Balsalobreら(1998年))。
【0005】
マウスにおいてmPer2プロモータ:ルシフェラーゼレセプターを使用した最近の研究では、生体外で20日超の期間において持続した振動性のルシフェラーゼプロファイルを示し、それらは、視交叉上核(SCN)におけるコア概日振動体のみならず、肝臓及び筋肉の組織片においても示した(S.H.Yooら(2004年))。これらの末梢振動体は、SCNを外科的に切除してしまった動物においてさえも作用し続け、抹消組織内において独立した概日振動体が作用することを示す。繊維芽細胞系における複数のインビトロ試験は更にこの知見を支持するものである。これらの細胞における概日時計遺伝子Clock、Per、Dbp及びBmal1の発現は、デキサメタゾン、高血清濃度又はグルコースにさらすことにより誘導され得る(E.Nagoshiら、(2004年))。加えて、コルチコトロピン放出因子アンタゴニストにて治療することにより患者の概日リズムを変更する方法が提唱されている(特許文献3)。また、近年の研究では、これらの分析がヒトの皮膚繊維芽まで展開されている。Bmal1プロモータ/ルシフェラーゼレポーター構築物で形質導入され、かつデキサメタゾンで誘導された場合、ヒト繊維芽細胞におけるルシフェラーゼ活性は約24.5時間の概日リズムを示した(S.A.Brownら、(2005年))。大部分のドナーの概日周期は24〜25時間の間に分布しているが、19人のドナーでは、その範囲は22.75時間〜26.25時間まで広がった。
【0006】
ヒト疾患の多くの状態では、概日リズムの変化は、脂肪組織機能の変化に関連している。例えば、双極性障害の患者が塩化リチウムのような薬物療法を受けると、急速に体重が増加し、肥満になる(A.Fagioliniら、(2002年)、(2003年))。双極性疾患の臨床上の顕著な特徴に、異常な睡眠パターンと無秩序な概日機能がある。最近の知見では、グリコーゲンシンターゼキナーゼ3における塩化リチウムの阻害効果とRev−erbαの調節とが関係付けられた(L.Yinら、(2006年))。同様に、TNFα、IL−6、アディポネクチン、レプチン及びPAI−1のような多くのアディポカインの血清レベルは強力な概日パターンを示す(A.Gavrilaら(2003年a、2003年b);S.E.la Fleurら(2001年);J.G.van der Bomら(2003年);A.N.Vgontzasら(1999年);A.N.Vgontzasら(2002年)及びA.N.Vgontzasら(2004年a,2004年b))。疫学的な研究により、PAI−1の循環レベルの早朝のピークと、一般的な患者人口における心筋梗塞、突然死及び心臓麻痺の発生とが相関付けられた(A.J.Stunkardら(2004年);G.S.Birketvedtら(1999年))。これと一致して、PAI−1プロモータがCLOCK:BMAL1二量体により認識されたDNA応答要素を含むことが観察された(J.G.van der Bomら(2003年))。興味深いことに、肥満及び2型糖尿病と診断された患者は、心筋梗塞の発生とともに概日リズムの変化を呈さなくなった(J.S.Ranaら(2003年))。これら同一の患者では慢性的にPAI−1のレベルが上昇し、概日変動の減衰をその発現において生じた(J.G.van der Bomら(2003年))。同様に、疫学的研究では、活動期間が昼夜期間に対して逆になる夜間労働者ではメタボリックシンドロームの発生が増大した(U.Holmbackら、(2003年))。
【0007】
関節炎疾患の症状は、概日パターンを呈することが示されてきた(N.G.Arvidsonら(1997年);M.Cutoloら(2003年))。グルココルチコイドを用いた治療のタイミングは、関節リウマチに罹患した患者における朝のこわばりの重症度に有意な効果を有することを示した(N.G.Arvidsonら(1997年))。また、ヒトにおいてプロラクチンリズムを変更するために薬剤を投与するタイミングは、関節リウマチの治療として提唱されてきた(特許文献4)。
【0008】
中枢神経系の視交叉上核及びその他の部位は、概日リズムの制御において主要な役割を呈し、標的となる器官の交感神経支配により直接的に作用し、かつグルココルチコイドの放出及びその他の循環する全身性要因により間接的に作用する(P.L.Lowreyら(2004))。それにも関わらず、最近の結果からは、末梢組織がある程度の概日リズムの自立性を有していることが示唆されている(S.H.Yooら(2004年);L.D.Wilsbacherら(2002年))。単離されたラットの心筋細胞は、グルコースではなく、血清ショック又はノルエピネフリンにさらされた後に活性化される固有の概日装置を示した。(D.J.Durganら、(2005年))。マイクロアレイ及びqRT−PCR分析では、肝臓、心臓及びその他の組織は、概日転写装置をコードする遺伝子を発現することが示された(S.Pandaら(2002年b);K.F.Storchら(2002年);H.R.Uedaら(2002年);M.E.Young(2006年);M.E.Youngら(2002年))。これらの遺伝子の相対的なレベルは日内変動し、一時的に平行な発現プロファイルにおいて、10%までのトランスクリプトームがそれらとともにクラスタする(S.Pandaら(2002年b);K.F.Storchら(2002年);H.R.Uedaら(2002年))。その上、Per2プロモータ/ルシフェラーゼレポーター構築物遺伝子導入マウスから単離された肝臓、心臓及び筋肉は、レポーター遺伝子の独立した振動発現を示し、SCNインプットが不在である場合でも20日まで概日リズムを維持した(S.H.Yooら(2004年))。
【0009】
脂肪代謝を調節する概日転写調節装置に関する文献の数は増大している。インビトロにおけるトランスフェクションの研究では、PASドメインファミリーメンバーであるBMAL1及びEPAS2は脂質生成転写調節因子であることが明らかとなった(S.Shimbaら(2005年);S.Shimbaら(2004年))。同様に、Rev−erbαは、転写標的でもあり、同様に脂質生成調節因子でもある。最近の研究では、グリコーゲンシンターゼキナーゼ3β−媒介機構がRev−erbαを制御することを示している(L.Yinら(2006年))。インビボの研究では、BMAL1及びCLOCK機能の損失は、マウスモデルにおいてグルコース及びトリグリセリドの循環レベルの日周期性の損失に関係していることが示されている(R.D.Rudicら(2004年))。更に、コア概日調節因子Clockが突然変異したマウスでは、これらが過食、肥満になり、かつメタボリック症候群に関連した病的状態となるので、日周的な摂食行動を失う(F.W.Turekら(2005年))。
【0010】
多くの全身的な特徴が、生物の日内周期及び概日リズムに影響を及ぼす(Czeislerら(1999年))。ヒトにおいて特徴付けられる最良のものの幾らかは、体温、メラトニンレベル及びグルココルチコイドレベルであり、24時間の間に顕著な頂点(ピーク)と最低点とを示し、これは個人において十分に保持される。日周変動に一致する発現プロファイルを呈することが示されている更なる蛋白質が存在する。それらの幾らかを以下の表に要約する。
【0011】
【表1】

中枢概日時計とこれらの末梢系との関係は十分に定義されるに留めた。末梢組織は、中枢時計とのバランスにて幾らか作用しており、中枢時計とバランスをとる及び/又は相殺するように作用するという事実が存在する。これは、睡眠の損失とは無関係な、遠距離旅行においてしばしば経験される不快感(時差ぼけ)の原因となる。末梢時計は、身体の概日リズムをリセットするために、中枢時計と協力して作用する。
【0012】
概日機能の損失及び疾患の発症に何らかの関連があることは明らかではあるが、抹消時計の存在及び脂肪組織の生理学における概日遺伝子の役割は、本発明の出願時には明記されなかった、2005年6月10日の優先日後に公開されて、本願より前に出願された文献において、ある種の時計遺伝子の遺伝子発現が、マウスの歯周脂肪組織において概日パターンを示したことが報告されている(H.Andoら(2005年))。
【特許文献1】米国特許出願公開第2002/0151590号
【特許文献2】米国特許出願公開第2003/0059848号
【特許文献3】米国特許第6432989号
【特許文献4】米国特許第5905083号
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0013】
本発明は上記した懸案を鑑みてなされたものである。
【課題を解決するための手段】
【0014】
本発明の発明者は、コア概日振動体(BMAL、Clock、NPAS、Per)及びその調節すべき標的(Rev−erbα、Rev−erb)を制御する転写因子をコードする遺伝子が脂肪組織中に認められることを発見した。これらの遺伝子の概日パターンは制限給餌を使用することにより同調される。概日遺伝子の発現プロファイルは、核ホルモン受容体リガンド(デキサメタゾン又はチアゾリジンジオン)又は30%のウシ胎仔血清にさらした後、マウスと、未分化ヒトASC及び脂肪細胞分化ヒトASCと、において解析した。三種類の薬剤の全てが、代表的な概日遺伝子の周期的発現プロファイルの開始を誘導した。ウシ胎仔血清の応答は、核ホルモン受容体リガンドの応答より約4時間前進した。同様に、誘導薬剤に対する脂肪細胞分化細胞の応答は、それらのドナーの一致した未分化の対照と比較して加速されていた。全般的に見れば、試験した概日遺伝子は、24−28時間の位相の間に存在する頂点と最低点とにより特徴付けられる振動発現プロファイルを示した。更に、個々のドナーは、概日遺伝子発現の位相の長さに変化を示した。従って、核ホルモン受容体リガンドはヒト脂肪組織内において概日転写装置に影響を与え、かつこれらの化合物に対する応答は、細胞分化の関数として変化し得ることを実証した。概日パターンはまた、グリコーゲンシンターゼキナーゼ3ベータの阻害剤を使用することにより長くなった。概日パターンを長くしたり、短くしたりするという調節は、体重の増加又は減少にそれぞれ影響を与えるために使用できる。
【0015】
本発明は、代謝障害の治療における標的として脂肪組織における概日リズムに関連した「時計」遺伝子を使用する方法を提供する。概日転写装置をコード化する遺伝子がマウスの褐色脂肪組織並びに皮下及び内臓の白色脂肪組織において振動発現プロファイルを示した。餌へのアクセスを一時的に制限するような環境からの刺激により、マウス組織においてこれらの遺伝子の発現の位相を8時間までシフトすることが示された。加えて、マウスの脂肪組織トランスクリプトームの少なくとも20乃至25%が振動発現プロファイルを呈した。また、単離されたヒト脂肪幹細胞を、ヒト脂肪組織における概日機構の解析のための代理のインビトロモデルとして提供することができる可能性も示された。ヒトASCにおける概日遺伝子誘導の一時的な動力学は、それらの分化状態の関数として変化する。マウスの脂肪細胞は、コルチコステロンのような核ホルモン受容体リガンド又は経口抗糖尿病薬のような外因性の薬剤への応答に対して、前脂肪細胞から分化する。チアゾリジンジオンを糖尿病患者に投与する一日のうちの時間は、その治療効果に有意に影響を与えるであろう。脂肪組織における末梢時計の概日パターンを知ることによって、ある種の薬剤を投与するのに最も効果的な時間を容易に決定することができるであろう。本発明の一態様において、肥満又はその他の体重増加を治療及び予防する上の標的として「時計」遺伝子を使用する方法が提供された。本発明の別の態様において、真性糖尿病を治療する方法における標的又はインジケータとして「時計」遺伝子を使用する方法が提供された。本発明の別の態様において、非限定的ではあるが、神経性無食欲症及び夜間過食症を含む摂食障害の治療において、標的として「時計」遺伝子を使用する方法が提供された。本発明の更に別の態様において、非限定的ではあるが、癌性悪液質及び後天性免疫不全症候群(AIDS)に罹患した患者の消耗性症候群を含む栄養欠乏状態の治療において、標的として「時計」遺伝子を使用する方法が提供された。本発明のその他の目的及び特徴は、以下の開示及び添付された特許請求の範囲からより完全に明らかになるであろう。
【0016】
本発明の一実施形態において、「時計」遺伝子は、脂肪組織蓄積部において概日時計の様式にて発現されることが示された。本発明の別の実施形態において、脂肪組織末梢「時計」遺伝子は、非限定的ではあるが、グリコーゲンシンターゼキナーゼ3β阻害剤、グルココルチコイド及びチアゾリジンジオンを含む外因性薬剤の投与により同調される。本発明の別の実施形態において、脂肪組織末梢「時計」遺伝子は、給餌予定を変更することにより同調される。本発明の更に別の実施形態において、非限定的ではあるが、グルココルチコイド、チアゾリジンジオン、甲状腺ホルモン及びその他の核ホルモン受容体リガンドを含む外因性薬剤を使用して脂肪組織末梢「時計」遺伝子を操作することにより、肥満が阻止されるか、又は緩和される。
【発明を実施するための最良の形態】
【0017】
(定義)
「概日リズム」は、生物体により示される事象及び生化学的現象の日内変化するリズムを参照する。これらの事象は、一日の明期/暗期の周期によって調節され、かつ哺乳動物においては、視交叉上核によって中枢的に調節されている。
【0018】
「PASファミリー」は、周期的な/ARNT(アリル炭化水素核トランスポーター)/Sim蛋白質において見出されるドメインと相同する蛋白質のファミリーを参照する。PASドメインは、概日リズムの調節に関与する時計遺伝子と関係している。
【0019】
「HLHファミリー」は、蛋白質の塩基性ヘリックスループヘリックスファミリーを参照する。bHLHは転写調節蛋白質間のヘテロ二量体化を促進するべく機能する。
「CLOCK」は、視交叉上核(SCN)の概日時計の正の調節を行う転写複合体を形成するためにBMAL1とヘテロ二量体化するPASドメイン/bHLH蛋白質を参照する。
【0020】
「BMAL−1」は、視交叉上核(SCN)の概日時計の正の調節を行い、かつ脳及び末梢組織のその他の領域にてNPAS2及びその他の蛋白質と二量体化する転写複合体を形成するためにCLOCKとヘテロ二量体化するPASドメイン/bHLH蛋白質を参照する。
【0021】
「NPAS2」は、脳及びその他の組織にて概日時計の正の調節を行う転写複合体を形成するためにBMAL−1と二量体化するPASドメイン/bHLH蛋白質を参照する。
「PER」は、BMAL1/CLOCK複合体により調節される周期的な蛋白質を参照する。PER蛋白質は、CLOCK及びNPAS2での発現にて振動する負の転写調節複合体を形成するためにCRYとともに作用する。PER蛋白質は中枢時計組織及び末梢時計組織の両方において発現される。
【0022】
「CRY」はBMAL1/CLOCK複合体により調節されるクリプトクロム蛋白質を参照する。CRY蛋白質は、CLOCK及びNPAS2での発現にて振動する負の転写調節複合体を形成するためにPERとともに作用する。CRY蛋白質は中枢時計組織及び末梢時計組織の両方において発現される。
【0023】
「DEC」は、STRA13及びSHARPとしても知られているDeleted in Esophageal Cancer(DEC)蛋白質を参照し、bHLHファミリーのメンバーであり、概日時計の様式にて調節され、かつ低酸素症に応答する。
【0024】
「核ホルモン受容体」は、非限定的ではあるが、グルココルチコイド、トリアゾリジンジオン、ビタミンD3、甲状腺ホルモン、エストロジェン及びアンドロゲンを含む周知の及び未知のリガンドにより活性化される転写調節蛋白質のファミリーを参照する。核ホルモン受容体は複数の代謝機能において主要な役割を呈し、同ファミリーのメンバーは末梢時計組織において概日の発現パターンの徴候を示す。
【0025】
「脂肪組織」は、非限定的ではあるが、皮下部位、網嚢部位、生殖腺部位、肩甲骨部位、骨髄、乳房部位及び機械的部位を含む幼若な生物及び成熟した生物の身体中に配置される脂肪蓄積部を参照する。
【0026】
「成人幹細胞」は分化した胎児後組織に見出される任意の未分化細胞を参照し、それ自体が再生可能であり、かつ(ある種の制限を伴って)分化して、それから始まりかつ広範囲のその他のタイプの細胞になる組織の特定の型の細胞を生成する。
【0027】
「ADC」なる用語は、脂肪由来成人幹細胞を参照し、哺乳動物又はその他の脊椎動物由来の任意の脂肪蓄積部からのコラゲナーゼ消化及び分画遠心法により単離される。
【実施例1】
【0028】
(材料及び方法)
全ての材料は、特に明記されていない限り、シグマ/アルドリッチ(Sigma/Aldrich)社(ミズーリ州セントルイス所在)又はフィッシャー サイエンティフィック(Fisher Scientific)社(ペンシルバニア州ピッツバーグ所在)より入手した。
【0029】
(インビボの概日試験)
試験は、ジャクソン ラボラトリーズ(Jackson Laboratories)社(メーン州バーハーバー所在)から入手した8−10週齢の雄AKR/Jマウスを使用して行った。動物は、2週間の間、12時間は明期:12時間は暗期の厳密な条件にて、標準的な随時の給餌(Purina5015)にて順応させた。この間、全ての動物は、人間との接触により誘導されるストレスを低減するために、スタッフによって頻繁に取り扱われた。順応期間の後、4時間毎に48時間にわたって、1群が3又は5匹の動物が屠殺された。一時的な給餌制限試験の動物は、随時食餌にアクセスできる対照群と、12時間の明所期間のみ食餌にアクセスできる制限給餌(RF)群とに分けた。7日間の制限給餌期間の間、各動物について、個々の体重及び食物摂取量を毎日モニタリングし、動物を24時間にわたり、4時間毎に1群3匹ずつ屠殺した。動物は、COによる窒息及び頸椎脱臼により屠殺され、血清、鼠径部白色脂肪組織(iWAT)、精巣上体WAT(eWAT)、褐色脂肪組織(BAT)及び肝臓を採取した。
【0030】
(マウス組織における定量的リアルタイムRT−PCR(qRT−PCR))
全RNAは、TriReagent(モレキュラーリサーチセンター(Molecular Research Center))を製造業者の仕様書に従って使用し、回収した組織から精製した。全RNAの約2μgをMoloneyネズミ白血病ウィルス逆転写酵素(MMLV−RT;プロメガ(Promega)社)を使用して、20μLの反応物中にて42℃でOligo dTを用いて1時間、逆転写した。興味のある遺伝子のプライマーはプライマーエキスプレス(Primer Express)ソフトウェア(アプライドバイオシステムズ(Applied Biosystems)社)を使用して確認した。これらの試験にて使用したプライマーの全リストを表1に列挙した。qRT−PCRは7900リアルタイムPCRシステム(アプライドバイオシステムズ社製)を使用して、汎用される周期条件(95℃にて10分間;95℃の40サイクルにて15秒間;そして60℃にて1分間)の下に、SYBR(登録商標)Green PCR Master Mix(アプライドバイオシステムズ社製)を用いて、希釈したcDNAサンプル上にて実施した。全ての結果は、サイクロフィリンB発現対照に対して補正した。
【0031】
【表2】

(血清分析)
メラトニン及びレプチン用の市販のELIZAキット(メラトニンはニュージャージー州フランダーズ所在のリサーチ ダイアゴノスティクス(Research Diagnostics)社製;カタログ番号RE54021、レプチンはミズーリ州セントルイス所在のリンコ リサーチ(Linco Research)社製;カタログ番号EZML−82K)及びコルチコステロン用のラジオイムノアッセイ用キット(ニューヨーク州オレンジバーグ所在のエムピー バイオメディカルズ(Mp Biomedicals)社製;カタログ番号#07−120102)を、製造業者の仕様書に従って使用した。定量は、1群n=3−5匹の動物から個々の時点にて採取され、プールされた血清サンプルについて実施した。コルチコステロンの定量は、プールしたサンプルにて3回実施した。
【0032】
(周期分析)
qRT−PCRにより得られた概日データの周期は、Time Series Analysis−Single Cosinor v.6.0ソフトウェア(エキスパート ソフト テクノロジー(Expert Soft Technologie)社製)を使用して試験した。各データセットは、一般的な以下の余弦式モデルに適合した。
【0033】
【数1】

上式において、Aは振幅であり、Tは期間(24時間)であり、かつMはMESOR(リズム補正平均値)(C.Binghamら(1982年);W.Nelsonら(1979年))である。モデル(ANOVA)は、0.950確率水準にて有効であるものとして設定した。各データセットの適合度はK−S検定(コルモゴロフースミルノフ検定)、k検定、平均及びQ検定(ユングボックスQ統計適合度仮説)を用いて検定し、報告された個々のデータセットはこれらの試験の各々に対する基準に適合した。
【0034】
(Affymetrixオリゴヌクレオチドマイクロアレイ遺伝子発現解析)
RNA強度は、Agilent2100バイオアナライザー(カリフォルニア州パロアルトに所在のアジレント テクノロジーズ(Agilent Technologies)社製)における電気泳動により評価した。二本鎖cDNAは、Superscript cDNA Synthesis Kit(カリフォルニア州カールズバッド所在のインビトロージェン社製)を使用して、T7−(dT)24プライマーと組み合わせて、約9μgの全RNAから合成した。ビオチン付加cRNAは、GeneChip IVT Labeling Kit(カリフォルニア州サンタクララ所在のアフィメトリックス(Affymetrix)社製)を使用してインビトロにて転写され、GeneChip Sample Cleanup Moduleを使用して精製された。10μgの精製したcRNAは94℃にて35分間フラグメンテーションバッファー(200mMのTris−酢酸塩、pH8.1、500mMの酢酸カリウム、150mMの酢酸マグネシウム)中にてインキュベートすることにより断片化し、氷上にて冷却した。6.5μgの断片化したビオチン標識cRNAは、14000を超える実証されたマウス遺伝子と照合できるMouse Genome 430A 2.0Array(アフィメトリックス社製)とハイブリダイズした。アレイは、一定した回転数(60rpm)にて45℃にて16時間インキュベートし、洗浄し、その後、10μg/mLのストレプタビジン−Rフィコエリトリン(カリフォルニア州バーリンガムに所在のベクトル ラボラトリーズ(Vector Laboratories)社製)を用いて25℃にて10分間、次に3μg/mLのビオチン付加ヤギ抗ストレプタビジン抗体(ベクトル ラボラトリーズ社製)にて25℃にて10分間染色した。次にアレイを、ストレプタビジン−Rフィコエリトリンを用いて25℃にて10分間再び染色した。洗浄及び染色後、GeneChip Scanner 3000を使用してアレイをスキャニングした。画素強度を測定し、発現シグナルを解析し、特徴を市販のソフトウェアパッケージである、GeneChip Operating Software v.1.2(アフィメトリックス社製)を使用して抽出した。データマイニング及び統計学的解析は、Data Mining Tool v.3.0(アフィメトリックス社製)アルゴリズムを使用して実施した。個々の試験を比較するために、アレイは、2500の標的強度値まで全体にスケール化した。各サンプル中における各遺伝子発現のAbsolute call(発現がある(present)、境界の(marginal)、発現がない(absent))、変化の方向、及びサンプル間の遺伝子発現の倍率変化は、上述のソフトウェアを使用して特定した。
【0035】
(マイクロアレイデータのスペクトル解析)
遺伝子xのN個のサンプル(x,x,x,・・・xN−1)の一連のマイクロアレイ発現値は、離散フーリエ変換(DFT)アルゴリズムを使用して、時間ドメインから周波数ドメインへと変換した。
【0036】
【数2】

周波数:
【0037】
【数3】

を有する有意な正弦成分を有する時系列は、そのピリオドグラムが平坦な線に近づく純粋なランダム系列と異なり、その周波数にて、高い確率にてピーク(ピリオドグラム)を示した(M.B.Prestley(1981年))。観察された周期性の有意性は、近年推奨されているFisherのg−統計量により評価した(S.Wichertら(2004年))。複数のテストを行うという問題を解決するために、誤検出率(False Discovery Rate(FDR))法を、複数の比較において使用した(Y.Benjaminiら(2001年))。この方法は実際のデータに適応でき、FDRを制御するために示された(S.Wickertら(2004年);Y.Benjaminiら(2001年))。
【0038】
(概日遺伝子の特定及び注釈)
Affymetrixマイクロアレイ解析により検出された概日発現遺伝子は、プローブセット番号をDAVIDデータベース中の遺伝子情報と一致させることにより、特定及び注釈した。
【0039】
(ヒト脂肪由来幹細胞(ASC)の単離及び伸張)
全てのプロトコルは、試験前に、Pennington Biomedical Research Center Institutional Research Board(IRB、ルイジアナ州バトンルージュ所在)にて検討され、かつ承認された。皮下脂肪組織部位からの脂肪吸引による吸引物は地方の形成外科病院によって美容手術を受けた女性被験者から得た。組織は、リン酸緩衝生理食塩水(PBS)にて3−4回洗浄し、予め37℃に加温した1%のウシ血清及び0.1%のコラゲナーゼタイプI(ニュージャージー州レイクウッド所在のワーシントン バイオケミカル コーポレイション(Worthington Biochemical Corporation)社)を加えた当量のPBSに懸濁させた。次に組織を37℃の振盪水浴中に置いて、60分間連続攪拌し、室温にて、300−500Xgにて5分間遠心分離した。成熟した脂肪細胞を含む上澄み液を吸引した。ペレットは、間質血管成分(SVF)として特定した。SVFの一部は、低温保存培地(10%ジメチルスルホキシド、10%のDMEM/F12Ham’s、80%ウシ胎仔血清)に再懸濁させ、エタノール−ジャケット型閉鎖容器中にて−80℃にて凍結させ、液体窒素中にて保存した。SVFの一部は、コロニー形成単位試験(以下に記載)に使用した。SVFの残りの細胞は懸濁させ、直後に、伸張及び培養をするために、1平方センチメートル当たりの表面積に0.156mgの組織消化の密度にて、間質培地(DMEM/F12Ham’s、10%ウシ胎仔血清(ユタ州ローガンに所在のハイクロン(Hyclone)社)、100Uペニシリン/100μgストレプトマイシン/0.25μgフンギゾン)中のT225フラスコ中にて播種した。初代培養細胞のこの初代の継代は「継代0(P0)」と称される。37℃、5%のCOにて最初に48時間インキュベートした後、培養物をPBSを用いて洗浄し、75−90%のコンフルエントに達するまで(おおよそ6日の培養)間質培地中にて維持した。細胞をトリプシン(0.05%)消化にて継代培養し、5000細胞/cmの密度にて播種した(「継代1」)。継代時の細胞の生存率及び数は、トリパンブルー排除及び血球計による細胞数カウントにより決定した。75−90%の密度(おおよそ6日の培養)に達した後も、細胞は、継代2まで繰り返し継代培養した。
【0040】
(脂質生成)
初代脂質由来幹細胞のコンフルエントな培養物(継代2)は、脂質生成のために、米国特許第6153432号明細書に記載されている方法と類似の方法、即ち、間質培地を、3%FBS、33μMのビオチン、17μMのパントテン酸塩、1μMのウシインシュリン、1μMのデキサメタゾン、0.5mMのイソブチルメチルキサンチン(IBMX)、5μMのロシグリタゾン及び100Uペニシリン/100μgストレプトマイシン/0.25μgフンギゾンとDMEM/F−12とから構成された脂質細胞誘導培地、に置き換えることにより誘導された。3日後、培地は、IBMX及びロシグリタゾンの両方が含まれていないことを除いては誘導培地と同じである脂質細胞維持培地に変更した。細胞は、維持培地の90%を3日毎に取り替えた場合に培養物中にて9日まで維持された。
【0041】
(概日誘導)
6ウェルプレート中にある未分化の、又は脂質細胞で分化したヒトASCのコンフルエントな培養物から培地を除去し、DMEM/Ham’sF12培地及び100Uペニシリン/100μgストレプトマイシン/0.25μgフンギゾンのみ、或いは、30%FBS、1μMのデキサメタゾン又は5μMのロシグリタゾン、のうちの一つが補充されたものと置換された。ASCは誘導剤に2時間さらされた。誘導の1時間後、各条件下にある一つのプレートを全RNAのために採取した。2時間後、残りのプレート中の培地は、無血清DMEM/Ham’sF12培地及び100Uペニシリン/100μgストレプトマイシン/0.25μgフンギゾンのみと、置き換えた。最初の誘導から4時間毎に48時間まで、個々のプレートから全RNAが採取された。
【0042】
(ヒトASCに対する定量的リアルタイムRT−PCR(qRT−PCR))
マウス組織に対して、上記したようにASCからTriReagent(モレキュラーリサーチセンター)を製造業者の仕様書に従って使用し、全RNAを精製した。おおよそ2μgの全RNAを、20μLの反応物中にて、42℃にて1時間、Oligo dTと共にMoloneyネズミ白血病ウィルス逆転写酵素(MMLV−RT;プロメガ社)を使用して逆転写した。興味のある遺伝子のプライマー(表2に列挙)はプライマーエキスプレスソフトウェア(アプライドバイオシステムズ社)を使用して確認した。全てのプライマーは対応するヒトmRNAの配列に基づいており、少なくとも一つのエクソン/イントロン接合部を超えて振幅するように指定されていた。qRT−PCRは7900リアルタイムPCRシステム(アプライドバイオシステムズ社製)を使用して、汎用される周期条件(95℃にて10分間;95℃の40サイクルにて15秒間;そして60℃にて1分間)の下に、SYBR(登録商標)Green PCR Master Mix(アプライドバイオシステムズ社製)とともに希釈したcDNAサンプル上にて実施した。全ての結果は、サイクロフィリンB発現対照に対して補正した。
【0043】
【表3】

(周期分析)
qRT−PCRにより得られた概日データの周期は、Time Series Analysis−Single Cosinor v.6.0ソフトウェア(エキスパート ソフト テクノロジー社製)を使用して試験した。各データセットは、一般的な余弦式モデル、Acos(2p t/T)+Bsin(2p t/T)+M(ここで、Aは振幅であり、Tは期間(24時間)であり、かつMはMESOR(リズム補正平均値)(C.Binghamら(1982年))である)に適合し、周期的な様式を示すデータ時点の百分率、及びモデル曲線に設定されたデータの適合性に対するr値を提供した。モデルは、0.950確率水準にて有効であるものとして設定した(ANOVA)。各データセットの適合度はK−S検定(コルモゴロフースミルノフ検定)、k検定、平均及びQ検定(ユングボックスQ統計適合度仮説)を用いて検定し、報告された個々のデータセットはこれらの試験の各々に対する基準に適合した。
【実施例2】
【0044】
(脂肪組織は概日振動機構遺伝子を発現する)
脂肪組織中の活性末梢概日時計の存在を研究し、かつ特徴づけるために、qRT−PCRのアプローチを、8週齢のAKR/Jマウスの肝臓、褐色脂肪組織、鼠径部脂肪組織及び精巣上体脂肪組織(それぞれ、BAT、iWAT及びeWAT)における概日遺伝子の発現パターンを調べるために使用した。組織は、3匹の雄の8週齢AKR/Jマウスから、4時間毎に48時間にわたり採取した(13の時点、各時点においてn=3)。全RNAは回収された組織から抽出され、実施例1に記載したように、遺伝子発現の定量RT−PCT解析のために使用した。全ての結果は、対応するサイクロフィリンB発現レベルで補正した。図1において、全ての値は平均値±SDにて報告されている。図1に示されるように、試験された概日振動遺伝子の大部分において、顕著な周期的発現が認められた。Npas2及びBmal1は同調性にて周期化され、同調因子(Zeitgeber)(概日)時間(ZT)0(0、24及び48時間、または12時間の暗期の最後)付近にてその頂点(最も高いレベル)に到達し、ZT12(12及び36時間、または12時間の明期の最後)付近にてその最低点(もっとも低いレベル)に到達した。それらの発現パターンはBAT、iWAT、eWAT及び肝臓の間で一致したが、振幅においては若干の相違があった。これに対し、Clockの発現はこれらの組織のいずれにおいても一貫した概日パターンには従わなかった(図1)。Per1、Per2及びPer3の発現は、同調した24時間の振動を示し、ZT12(12時間及び36時間)付近にて頂点に達し、かつZT0(0、24及び48時間)付近にて最低点に達した(図1)。Cry2の発現において幾らかの矛盾が観察されたが、Cry1及びCry2の全体の遺伝子発現は、ZT20(20及び44時間)付近が頂点であり、かつZT8(8及び32時間)付近が最低点である概日プロファイルに従った(図1)。これらの見解を確認するために、数ヶ月後に同じ試験を繰り返し、図1に示したものに非常に類似する結果を示した(データは図示しない)。観察された遺伝子発現パターンの周期性を有する性質は、発現データが、周期的な振動パターンの数学的なモデルとしての余弦曲線に一致することにより示された(データは図示しない)。
【0045】
これらの結果は、褐色脂肪組織、鼠径部脂肪組織及び精巣上体脂肪組織における活性末梢概日時計の存在を明らかに示すものである。試験された概日振動遺伝子(Npas2、Bmal1、Per1−3及びCry1−2)の顕著な周期的発現は、振幅において若干の相違はあるものの、BAT、iWAT及びeWATにおいて一致した。興味深いことに、発現パターンは肝臓においても反映され、その概日時計は独立して特徴づけられた(S.Pandaら(2002年b);K.A.Stokkanら(2001年))。しかしながら、Clockの発現は肝臓も含むこれらの組織のいずれにおいても一致した概日パターンに従わなかった。少なくともSCNにおけるClockの発現は、周期的というよりもむしろ構成的であるものと思われることを他の研究者が示した。また、その他の末梢組織及び前脳において、CLOCK蛋白質の作用は、NPAS2のようなオルソログによって実施されることが示された(M.Reichら(2001年))。Clockにおいて振動発現プロファイルが欠如しているという事実は、脂肪組織の概日振動体の成分としてこの遺伝子を排除するものではない。Npas2の振動パターンは、それが脂肪組織におけるコア振動体の主要な成分であることを示していない。
【0046】
CryとPerの発現位相の間に観察された僅かな時間のずれは、SCN及び特定の末梢組織において既に報告されている(N.R.Glossopら(2002年))。試験された全てのPer及びCry遺伝子の日内振動は、BAT、iWAT及びeWAT並びに肝臓において、同調的な様式にて起こった。もっとも重要なことは、試験された全ての組織において、Npas2及びBmal1の振動は、Per及びCryの振動とは逆の位相にて起こり、その他の哺乳動物組織において示されるように、活性概日時計の自動調節機構を反復するものである(R.Alladaら(2001年))。
【0047】
この結果は、余弦曲線に適合する解析結果を更に支持するものであり、遺伝子発現が余弦曲線と一致する傾向及び概日時計内の逆位相振動に従うことを明らかに示す。総合すると、これらの知見は、脂肪組織における活性概日時計機構の存在を例示するのみならず、その一致した様式及び再生可能な様式にある周期的な性質を確認するものである。
【実施例3】
【0048】
(脂肪組織において概日制御された出力遺伝子振動)
BAT、iWAT及びeWATにおける活性概日時計の存在は、その他の組織において概日制御されていることが知られている複数の遺伝子の発現レベルを調べることにより更に追求した。実施例2に記載のマウスの末梢組織は、qRT−PCRを使用した更なる遺伝子の発現パターンを調べるために使用した。図2に示されるように、Rev−erbα及びRev−erbβの発現はBAT、iWAT及びeWATにおいてPer遺伝子に備えられた位相にて振動し、肝臓にて観察されたパターンに反映した。Dbpの発現は、Per及びRev−erb遺伝子に類似する振動パターンを示す一方、E4bp4の発現はNpas2及びBmal1に対する位相における概日プロファイルにほぼ従い、かつDbpの位相とはかけ離れていた(図2)。脂肪組織、特にiWATにおけるStra13の発現は、強い振動傾向を示したが、特定の概日パターンには従わなかった。Arnt遺伝子の発現は有意に変動せず、Id2発現の概日パターンは肝臓を含む試験した全ての組織にて観察された(図2)。
【0049】
末梢概日時計の活性は、複数の概日制御出力遺伝子の発現パターンにおける効果によりもっとも明らかとなった。REV−ERBα及びREV−ERBβはオーファン核ホルモン受容体であり、遺伝子プロモータ中においてROR特異的応答要素(RORE)を結合することによる負の転写調節因子として作用し、正の転写調節因子RORαの結合を阻止する。それらは、この機構により、Bmal1、Clock及びCry1の発現を直接調節することが示されている(N.Preitnerら(2002年))。Rev−erbα及びRev−erbβの発現は、CLOCK:BMAL1により正に調節され、PER:CRY二量体により負に調節され、従って、本研究にて観察された発現プロファイルに一致する。Rev−erbαの発現は脂質生成との相関関係が示されており(A.Chawlaら(1993年))、かつその異所性発現はインビトロ及びインビボにおける脂肪細胞の分化を促進する(S.Laitinenら(2005年))。従って、これらの遺伝子の概日調節された発現は、脂肪細胞分化プログラムに重要な役割を担うであろう。
【0050】
DBP(アルブミンD−要素結合蛋白質)は、PARドメイン転写因子であり、その発現は直接的な概日制御下にある(L.Lopez−Molinaら、(1997年))。この研究にて観察されたDbpの発現は、Dbp転写がCLOCK:BMAL1によって推進され、PER:CRY二量体によって抑制されるという知見と一致している(J.A.Rippergerら(2000年))。更に、DBP欠損マウスにおける研究は、これらの動物が変更された活性期間を示し、概日振動機構の制御におけるDbpの役割を提案していることを明らかにした(L.Lopez−Molinaら(1997年))。DBPはまた、Per1転写とシミュレーションすることが示されているので、概日振動機構における調節効果をも有し得る(S.Yamaguchiら(2000年))。
【0051】
E4BP4蛋白質はDBPに非常に関係している。そのプロモータはRORE要素を含み、REV−ERB’sによる転写抑制に影響を受けやすくなっている(H.R.Uderaら(2002年))。従って、E4bp4発現は振動パターンに従っているが、その位相は、Dbpの位相に相対向するものであった(S.Mitsuiら(2001年)もまた、参照されたい)。
【0052】
Stra13(Dec1)は、複数の下流概日出力遺伝子を含む複数の遺伝子の概日制御転写抑制因子/調節因子をコードする(A.Grechez−Cassiauら(2004年))。Stra13転写はCLOCK:BMAL1により活性化される一方、STRA13蛋白質はCLOCK:BMAL1活性の抑制因子として作用する(S.Honmaら(2002年))。肝臓におけるStra13mRNAの最大レベルは、CLOCK:BMAL1の転写活性のピークに一致することが報告されている(S.Pandaら(2002年b))。概日振動は肝臓において観察されたが、Stra13の概日発現は脂肪組織においては観察されなかった。この不一致は、これらの組織におけるStra13の発現が比較的低いことによるものであろう。
【0053】
ARNTは、bHLH−PASドメイン蛋白質であり、PER蛋白質(2)に構造的に類似する。ARNTのレベルは肝臓、肺及び胸腺においては概日振動の傾向に従ったが、脾臓においては従わないことが示されている(V.M.Richardsonら(1998年))。しかしながら、現在の研究において、Arnt遺伝子発現の有意な変動は、いかなる脂肪組織においても、又は肝臓においても認められていない。これは、転写制御機構よりもむしろ翻訳後による蛋白質レベルにおける日内変化を示すものであろう。
【0054】
Id2遺伝子はDNA結合ドメインを欠いたHLH蛋白質をコードする。ID2蛋白質はその他のbHLH蛋白質と二量体化し、そのDNA結合活性を阻害する(K.Neumanら(1995年))。そのプロモータはE−box配列を含み、概日bHLH−PAS転写因子による転写調節の標的の可能性となる。SCN及び肝臓の最近のマイクロアレイ解析において、Id2は大規模クラスタの概日調節された遺伝子のプロトタイプを提供した(H.R.Uedaら(2002年))。これらの知見と一致して、Id2発現においては強い振動パターンが認められ、その位相は、試験されたその他のCLOCK−調節された遺伝子に類似し、それは、Id2発現には正の概日調節因子が含まれていることを意味する。
【実施例4】
【0055】
(概日リズムの血清測定)
二つの独立した試験にて、8週齢AKR/J雄マウスから、4時間毎に48時間にわたり血液サンプルを採取した(13時点)。遠心分離後、各時点からの血清をプールし、実施例1に記載したように、ラジオイムノアッセイ(コルチコステロン)又はELISA(メラトニン及びレプチン)による血清蛋白質の検出に使用した。全ての試験は、(単一の時点内の)プールしたサンプルにて実施した。平均±SDの値を図3に示した。血清コルチコステロンレベルは全身制御として供され、かつPer及びCry遺伝子と類似した、12時間の明期の最後に頂点が存在する概日プロファイルを示した(図3)。しかしながら、メラトニン及びレプチンの血清レベルの測定は有意な振動プロファイルを生じなかった。
【0056】
コルチコステロンレベルは、特徴的な概日リズムを示すことが知られており(C.Allenら(1967年))、対照として使用した。しかしながら、1群5匹の動物におけるメラトニン及びレプチンの血清レベルの測定は、振動プロファイルの傾向を示しはしたが、有意性は達成していない。有意性は、より大きな母集団ベースを使用すれば達成できるかもしれない。
【実施例5】
【0057】
(マイクロアレイ解析は脂肪組織中の多数の周期的発現遺伝子を示す)
脂肪組織における概日遺伝子発現の程度を調べるために、実施例1及び2に記載したように、qRT−PCRにより既に試験された組織からの全RNAサンプルについてAffymetrixマイクロアレイ遺伝子発現解析を実施した。補正後、遺伝子発現の周期性は離散フーリエ変換により検出され、かつ概日期間の有意性は、実施例1に記載したように、Fisherのg検定により確認した。多くの遺伝子は、iWAT(4398遺伝子)、BAT(5061遺伝子)及び肝臓(5386遺伝子)において振動発現パターンを示した。図4に示されるように、これらの遺伝子のうちの650個はBAT、iWAT及び肝臓において保存された概日発現パターンを示し、組織特異的振動トランスクリプトームのそれぞれ14.8%、12.8%及び12%であった(図5)。この遺伝子群は、基礎代謝及び「ハウスキーピング」機能に関与するものから主として構成されており、概日時計振動体遺伝子Npas2、Bmal1(Arnt1)、Per1、Per2、Per3及びCry1並びに出力遺伝子Dbpを含み、我々のqRT−PCRの結果に一致し(図1及び2)、かつコサイン−フィット解析により確認した(データは図示しない)。更に、脂肪機能に関与する複数の遺伝子(Cebpα、Cebpγ、Lp1、Pparα、Pgc1β及びStat5A)の発現は、これら3つの組織において周期化していることが示された。
【0058】
概日トランスクリプトームの別の特徴は、振動遺伝子が特定の一時的な群において周期化することであった。遺伝子の大部分は、ZT0、4、8又は16のいずれかにおけるその振動位相の頂点に基づいて分類され、このパターンがBAT、iWAT及び肝臓における共通の振動体遺伝子のうちから検出可能であることを示す(データ図示しない)。
【0059】
qRT−PCRにより既に検査されたサンプルにおけるAffymetrixマイクロアレイ遺伝子発現解析の結果は、iWAT、BAT及び肝臓において振動体発現パターンを有する多数の遺伝子を示してきた。5300を超える遺伝子の検出は、肝臓においてこれまでに報告されている値(R.A.Akhtarら(2002年);K.Oishiら(2003年))を超えている。実施例1において記載されているように、周期的に発現する全ての遺伝子を、その振幅及び「ノイズ」レベルに関わらず、確実に決定するために周波数変換アプローチを使用した。
【0060】
これらの知見は、これらの異なる組織の代謝活性間における全体的な一致を示唆している。この知見は、BAT、iWAT及び肝臓中の振動遺伝子において明らかなように、特定の一時的な群において振動遺伝子が周期化するという観察結果により更に支持されている。
【実施例6】
【0061】
(一時的な制限給餌療法が脂肪蓄積部における概日発現プロファイルを変える)
BAT、iWAT及びeWATにおける遺伝子発現の振動パターンが実験的に位相シフトされるか否かを決定するために、実験動物群では給餌を12時間の明期に行うように一時的に制限し(制限給餌)、一方、対照動物群は随意に食物を摂取させた。実施例1に更に記載されているように、42匹の8週齢の雄AKR/Jマウスを、給餌制限群(実線)及び対照群(点線)の2つの実験群に分けて、屠殺する前に7日間一つのハウジングにて維持した。肝臓、BAT、iWAT及びeWATを各群3匹の動物から、4時間毎に24時間にわたり採取した(7時点、各時点当たり2つの群、各時点当たり各群n=3)。肝臓、BAT、iWAT及びeWATからの概日遺伝子の発現パターンを実施例2に記載したように決定し報告した。複数の遺伝子の結果を図5及び6に示す。図5において、N/D平均値は決定していない。図5及び6に示されるように、この24時間の試験において、対照動物(点線)は、図1及び2に示されるものに匹敵する発現遺伝子の概日パターンを示した。しかしながら、食物へのアクセスが一時的に制限されている動物(実線)は遺伝子発現の位相が対照動物に対してシフトしていた。
【0062】
付随的な対照として、血清コルチゾン、体重及び食物消費量を、7日間の一時的な制限給餌試験期間中にモニタリングした。血液サンプルは、実施例5において上記したように動物から回収した。遠心分離後、所定の時点内の各群からの血清をプールし、ラジオイムノアッセイによる血清コルチコステロンの一回の検出に使用した。個々の動物の食物摂取量及び体重を屠殺時まで毎日測定し、平均±SDの値を図7に示した。図7に示されるように、一時的な制限給餌療法は、コルチコステロン血清レベルの概日パターンにおいて位相をシフトするとともに振幅を減衰した。最初の調整期間を過ぎて、対照動物と給餌制限動物との間における食物摂取量には有意な差はなかった。両群の間に、体重に関しても有意な差はなかった。とはいえ、体重増加に向かう傾向が給餌制限群では観察された。
【0063】
給餌制限が、肝臓、骨格筋、心臓及び腎臓の末梢組織における概日リズムを調節することはこれまでに示されてきた(K.A.Stokkanら(2001年);N.R.Glossopら(2002年);K.Oishiら(2004年);F.Damiolaら(2000年);N.Le Minhら(2001年)及びS.Yamazakiら(2000年))。この最近の研究において、個々の遺伝子は、肝臓、BAT、iWAT及びeWATの間にて一貫した位相のシフトを示した。しかしながら、観察された位相シフトは個々の組織内の遺伝子の全ての間にて均一ではなかった。個々の概日時計成分は独自の調節機構を有しているので、給餌制限は各遺伝子の位相を異なって調節するのであろう。同様の観察結果が肝臓においても見られた(F.Damiolaら(2000年);N.Le Minhら(2001年))。
【0064】
概日振動体遺伝子間の逆位相の関係は、一時的な給餌制限療法において影響を与えなかった。代わりに、この関係は個々の遺伝子の位相シフト自体を調節し、これらの末梢時計が刺激に同調するように構成された機構を有し、かつ時計自体の振動動作を相殺することなく生理学的な要求を変更することを意味する。同様に、一時的な給餌制限は、その発現を調節する振動体遺伝子と同様の様式にて出力遺伝子の位相をシフトし、それによって振動体機能と出力遺伝子発現との間の関連を繰り返す。
【0065】
現在のデータは、給餌制限が、既に報告されたように血清コルチコステロン濃度の振動位相を変化させることを示す。
【実施例7】
【0066】
(未分化ヒトASCの概日遺伝子発現におけるデキサメタゾンの効果)
デキサメタゾンに一時的にさらされた未分化ヒトASCの応答を調べるために本研究を実施した。継代2のヒトASCを、上記したように形成手術を受けた健常な女性ドナーから得られる脂肪吸引物から単離した。ドナーの年齢は32歳〜59歳の範囲であり、そのBMIは20.9〜30.1の範囲であった(データ図示しない)。コロニー形成単位アッセイにおけるドナーの4人からのASCの解析により、分化カクテルに応答した脂質生成及び骨生成の両方を受ける能力を確認した(J.B.Mitchellら(2006年)に既に記載されているように)。初期の研究は、これら4人のドナーから得られたコンフルエントかつ休止した未分化の継代2のASCを用いて実施した。ASCを、2時間の間、新鮮な無血清培地のみにさらすか、又はデキサメタゾン(1μM)を補充した培地にさらし、その後無血清培地のみに変換して48時間までさらした。誘導後一時間の全RNA及び最初にさらした後、4時間間隔での全RNA用にサンプルを採取した。全RNAは、Bmal1、Npas2、Cry1、Cry2、Per1、Per3、Rev−erbα及びRev−erbβの遺伝子発現のqRT−PCR解析に対して使用され、対応するサイクロフィリンB発現レベルに対して補正した。
【0067】
図8Aは新鮮な血清培地のみにさらしたヒトASCの結果を示す。各線は、個々のドナーからの細胞の結果を示す。図8Bはデキサメタゾンに2時間さらした後に無血清培地にて平坦化させたヒトASCの結果を示す。グルコース及びその他の栄養物を含む新鮮な培地のみにさらした場合、全ての被検者においてPer3及びRev−erbαの顕著な周期的発現が誘導され、ピークのレベルは、それぞれ、28時間、又は20及び44時間であった。遺伝子Bmal1、Cry1、Cry2、Npas2、及びPer1の発現は、振動プロファイルに向かう傾向を示したが、ドナー間においてバラツキがあった。
【0068】
デキサメタゾンの誘導後、Bmal1、Cry1、Cry2、Per1、Per3、及びRev−erbαの遺伝子発現は、図8Bに示されるように、4人のドナーからの未分化ASCにおいて振動プロファイルを示した。概日転写装置の「負」の調節アームに属する遺伝子であるPer1、Per3及びCry2は、1乃至4時間後のmRNAの前初期誘導、誘導後28乃至32時間の間のピーク、及び48時間における上昇が見られた。これに対して、概日転写装置の「正」の調節アームに属する遺伝子であるBmal1は前初期誘導が見られず、誘導後、16乃至20時間及び40時間にピークレベルを示した。これは、Per1、Per3及びCry2に対して約8乃至12時間位相がシフトしたことに反映する。CLOCK同族体及びBMAL1蛋白質ヘテロ二量体性のパートナーであるNPAS2をコードする遺伝子は4人のドナー間において一貫した振動プロファイルを示さなかった。Rev−erbαのデキサメタゾン誘導発現プロファイルは4人のドナー間において厳密に調節されており、誘導後24時間のピークレベル、48時間に上昇が認められた。
【実施例8】
【0069】
(未分化ヒトASC及び脂肪細胞分化ヒトASCにおけるデキサメタゾン、チアゾリジンジオン又は30%血清を用いた概日遺伝子発現の誘導)
脂質生成はPPARγ2の増大したレベルに伴うものであるので、脂質細胞分化ヒトASCが、PPARγ2又はグルココルチコイド受容体リガンドに異なって応答するかどうかを決定するために更なる研究を実施した。げっ歯類の繊維芽細胞(6)における概日遺伝子発現を誘導することが知られている血清ショック(30%ウシ胎仔血清)を対照として使用した。3人の別々のドナーから得られた継代2のヒトASCを、実施例1及び7に記載したように、コンフルエントかつ休止するまで培養した。概日遺伝子の発現は、未分化の状態のASC、或いはデキサメタゾン又はチアゾリジンジオンを含んだ誘導カクテルにさらし、その後、9日間の脂肪細胞の分化の後のASCを使用して決定した。未分化細胞及び脂肪細胞分化細胞から培地を除去し、30%ウシ胎仔血清(図9)、デキサメタゾン(1μM)(図10)又はロシグリタゾン(5μM)(図11)のいずれかを補充した無血清培地と交換した。サイクロフィリンBに対して補正されたBmal1、Per3、Rev−erbα及びRev−erbβの一時的な発現プロファイルを試験した。個々の線は3人の異なるドナーからの値を示す。試験は3回実施し、示された値は平均値±S.D.である。
【0070】
個々のドナーは、3種類の異なる薬剤で誘導された遺伝子発現の振幅に変動を示した。未分化ASC及び脂肪細胞で分化したASCにおいて、各刺激はBmal1の発現を誘導した。最も迅速な誘導は、30%血清処置にて達成され、遺伝子発現の上昇及びピークレベル(頂点)はデキサメタゾン及びトリアゾリジンジオンにて誘導された場合(8乃至12時間)に対して約4時間早く(4乃至8時間)起こった。連続するピーク間の長さは、約24乃至28時間であった。個々の刺激に対するPer3の応答は変化した。図8Bに明記されているように、未分化ASCにおいて、デキサメタゾンは、前初期応答を誘導し、続いて24乃至28時間にピークが認められた。前初期応答の程度は、引き続くピークが20乃至24時間に起こる脂肪細胞分化ASCにおいては緩やかであった。30%血清もトリアゾリジンジオンも前初期応答を開始しなかったが、ピーク発現は未分化ASCでは24乃至28時間、脂肪細胞分化ASCではその約4時間前に起こった。未分化ASCにおいてデキサメタゾン又はトリアゾリジンジオンにて誘導された後のRev−erbα及びRev−erbβ発現の開始は類似しており、24時間にて頂点に到達し、48時間にて上昇を示した。これに対し、未分化ASCにおける30%血清にて処置した後の未分化ASCのRev−erbα及びRev−erbβ誘導はより迅速であり、12乃至20時間にて頂点に到達した。脂肪細胞分化ASCにおいて、全ての刺激は、16乃至20時間にてRev−erbα及びRev−erbβのピーク誘導を誘発し、40乃至44時間に第二のピークが観察され、それは、デキサメタゾン及びトリアゾリジンジオンによる誘導では、未分化ASC場合よりも約8時間位相が前進していることに対応する。
【0071】
データの周期性は、コサイナー(Cosinor)解析を使用してより厳密に評価した(データは図示しない)。コサイナー「リズム」はリズム様式に振舞うデータ時点の百分率を決定する。未分化ASC及び脂肪細胞分化ASCのいずれに対しても、データの50%以上が統計学的に有意な振動リズムを示した。Bmal1、Rev−erbα及びRev−erbβデータセットの3分の2が、95%のANOVA確率限界に適合した。
【実施例9】
【0072】
(ヒトASCの概日遺伝子発現プロファイルにおけるGSK3B阻害剤SB415286の効果)
ヒト脂肪由来幹細胞のデキサメタゾンでの処置は、上記したようにインビトロにおける概日リズムの誘導を示し、かつこの誘導がグリコーゲンシンターゼキナーゼ3ベータ阻害剤の添加によって遮断されるかどうかを調べるための実験を実施した。
【0073】
ヒトASCのコンフルエントな培養物は、1μモルのデキサメタゾンに2時間さらすことにより誘導した。培地を、無血清培地(SF)又は30μMSB415286(SB415、グリコーゲンシンターゼキナーゼ3ベータ阻害剤)を含んだ無血清培地に変更した。個々の培養物は表示した時間において全RNAを採取し、Bmal1、Per3及びRev−erbαの遺伝子発現のqRT−PCR解析に使用し、対応するサイクロフィリンBのレベルに対して補正した。試験は3回実施し、示された値は平均値±S.D.である。
【0074】
図12に示されるように、細胞をSB415とともに培養した場合、概日周期がシフトし、かつ長くなった。SB415286が存在しない場合、デキサメタゾンで誘導された細胞は、概日転写因子遺伝子BMAL1及びPer3並びに下流標的であるRev−erbα及びRev−erbβのmRNAレベルの発現において、時間依存性の増加を示した(ev−erbβのデータは図示しない)。グリコーゲンシンターゼキナーゼ3ベータ阻害剤の存在において、mRNA誘導プロファイルは遅延し、かつ6乃至9時間シフトし、概日周期(タウ)の延長と一致した。これらの結果は、脂肪細胞における遺伝子発現の概日周期は、グリコーゲンシンターゼキナーゼ3ベータ阻害剤を使用することによりシフトし得ることを示す。グリコーゲンシンターゼキナーゼ3ベータのその他公知の阻害剤は、SB−216763、リチウム、インスリン及びフェニレフリンを含む(M.P.Coghlan他(2000年);D.A.Crossら(2001年);K.MacAulayら(2003年);及びL.M.Ballouら(2001年))。
【実施例10】
【0075】
(SB415286による概日期間の延長による体重増加の誘導)
グリコーゲンシンターゼキナーゼ3ベータ阻害剤(SB415286)でのマウスの処置は、平均概日期間(タウ)の延長により肥満を誘導する。実験はAKR/Jマウスにて実施する。動物群は、通常の給餌状態に置かれ、一定した12時間の明期と12時間の暗期の条件(LD)又は恒暗条件(DD)下に維持される。動物は、4乃至8週間の間、チューブによる強制的な投与により、毎日、プラセボ又はGSK3ベータ阻害剤(SB415286)で処置される。動物の体重は毎日監視される。活性及び概日リズムに対する代替的なマーカとして回し車での運動が連続的に観察される。GSK3ベータ阻害剤での処置は、対照と比較して、恒暗条件(DD)で一日の概日周期を一日当たり3乃至10%増大させる。動物の体重における統計学的に有意な増大は、DD条件で、対照群とGSK3ベータ阻害剤の群との間では、8週間の最後までに起こる。
【0076】
第二の実験において、マウスを、同マウスが高脂肪食(脂肪から45%のカロリー)を摂取することを除いては同一の条件下に配置する。GSK3ベータ阻害剤での処置は、プラセボ対照群に対して、8週間の最後までに体重の有意な上昇を引き起こす。脂肪組織からのRNAを得て、かつ時間の関数として抹消時計遺伝子の遺伝子発現を調べるために、動物を周期的に屠殺する。GSK3ベータ阻害剤の添加は、脂肪細胞蓄積部及び肝臓での概日コア転写装置mRNA発現プロファイルの対照に対する実験群の位相シフトと関連する。
【実施例11】
【0077】
(概日期間が塩化リチウムにて延長されることによる体重増加の誘導)
別のグリコーゲンシンターゼキナーゼ3ベータ阻害剤(塩化リチウム)でのマウスの処置により肥満が誘導され、平均概日期間(概日周期)(タウ)が延長する。研究は、AKR/Jマウスで実施される。動物群は、通常の給餌状態に置かれ、一定した12時間の明期と12時間の暗期(LD)又は恒暗条件(DD)下に維持される。動物は、4乃至8週間の間、通常の飲料水(対照)を受けるか、又は塩化リチウムを含む飲料水(濃縮)を受ける。動物の体重は毎日監視される。活性及び概日リズムに対する代替的なマーカとして回し車での運動が連続的に観察される。塩化リチウムでの処置は、対照と比較して、恒暗条件(DD)で一日の概日周期を一日当たり3乃至10%増大させる。動物の体重における統計学的に有意な増大は、DD条件で、対照群と塩化リチウム群との間では、8週間の最後までに起こる。塩化リチウムでの処置は、8週間の最後までに、プラセボ対照群に対して体重を有意に上昇させる。脂肪組織からのRNAを得て、かつ時間の関数として抹消時計遺伝子の遺伝子発現を調べるために、動物を周期的に屠殺する。塩化リチウムの添加は、脂肪細胞蓄積部及び肝臓での概日コア転写装置mRNA発現プロファイルの対照に対する実験群の位相シフトと関連する。
【実施例12】
【0078】
(双極性障害の治療に使用される薬剤であるバルプロ酸にて概日期間が延長されることによる体重増加の誘導)
双極性障害の治療に使用される薬剤でのマウスの処置により肥満が誘導され、平均概日期間(概日周期)(タウ)が延長する。研究は、AKR/Jマウスで実施される。動物群は、通常の給餌状態に置かれ、一定した12時間の明期と12時間の暗期(LD)又は恒暗条件(DD)下に維持される。動物は、4乃至8週間の間、チューブによる強制的な投与により、毎日、プラセボ又はバルプロ酸(濃縮)を受ける。動物の体重は毎日監視される。活性及び概日リズムに対する代替的なマーカとして回し車での運動が連続的に観察される。バルプロ酸又はその他の抗双極性障害薬での処置は、対照と比較して、恒暗条件(DD)で一日の概日周期を一日当たり3乃至10%増大させる。動物の体重における統計学的に有意な増大は、DD条件で、対照群とバルプロ酸群との間では、8週間の最後までに起こる。双極性障害治療用化合物での処置は、プラセボ対照群と比較して、体重増加における有意な増大が8週間の最後までに起こる。脂肪組織からのRNAを得て、かつ時間の関数として抹消時計遺伝子の遺伝子発現を調べるために、動物を周期的に屠殺する。バルプロ酸の添加は、脂肪細胞蓄積部及び肝臓での概日コア転写装置mRNA発現プロファイルの対照に対する実験群の位相シフトと関連する。
【0079】
第二の実験において、マウスを、同マウスが高脂肪食(脂肪から45%のカロリー)を摂取することを除いては同一の条件下に配置する。GSK3ベータ阻害剤での処置は、プラセボ対照群に対して、8週間の最後までに体重の有意な上昇を引き起こす。これは、脂肪細胞蓄積部及び肝臓での概日コア転写装置mRNA発現プロファイルの対照に対する実験群の位相シフトと関連する。
【実施例13】
【0080】
(概日期間がGSK3ベータ活性化剤にて短縮されることによる体重減少の誘導))
グリコーゲンシンターゼキナーゼ3ベータ活性化剤での処置は、肥満を低減し、かつ平均概日期間(タウ)を短縮する。研究は、AKR/Jマウスで実施される。動物群は、通常の給餌状態に置かれ、一定した12時間の明期と12時間の暗期(LD)又は恒暗条件(DD)下に維持される。動物は、4乃至8週間の間、チューブによる強制的な経口投与により、毎日、プラセボ(対照)又はGSK3ベータ活性化剤(濃縮)で処置される。動物の体重は毎日監視される。活性及び概日リズムに対する代替的なマーカとして回し車での運動が連続的に観察される。GSK3ベータ活性化剤での処置は、対照と比較して、恒暗条件(DD)で一日の概日周期を一日当たり3乃至10%低減させる。動物の体重における統計学的に有意な減少は、DD条件で、対照群とGSK3ベータ活性化剤の群との間では、8週間の最後までに起こる。GSK3ベータ活性化剤での処置は、プラセボ対照群と比較して、体重増加における有意な増大が8週間の最後までに起こる。脂肪組織からのRNAを得て、かつ時間の関数として抹消時計遺伝子の遺伝子発現を調べるために、動物を周期的に屠殺する。また、GSK3ベータ活性化剤の添加は、脂肪細胞蓄積部及び肝臓での概日コア転写装置mRNA発現プロファイルの対照に対する実験群の位相シフトと関連する。周知のGSK3ベータ活性化剤の例は、オクトレオチド(ソマトスタチン類似体)、ソマトスタチン、エンザスタウリン及びアスピリンを含む(M.Theodoropoulouら(2006年);J.R.Graffら(2005年);A.di Palmaら(2006年))。
【0081】
第二の実験において、マウスを、同マウスが高脂肪食(脂肪から45%のカロリー)を摂取することを除いては同一の条件下に配置する。GSK3ベータ活性化剤での処置は、プラセボ対照群に対して、8週間の最後までに体重の有意な減少を引き起こす。脂肪組織からのRNAを得て、かつ時間の関数として抹消時計遺伝子の遺伝子発現を調べるために、動物を周期的に屠殺する。ここでも、GSK3ベータ活性化剤の添加は、対照に対して実験群におおいて、脂肪細胞蓄積部及び肝臓での概日コア転写装置mRNA発現プロファイルの位相シフトと関連する。
【実施例14】
【0082】
(高脂肪食は脂肪組織における周期的な概日時計遺伝子装置を変更する)
研究は、高脂肪食での処置が複数の蓄積部からの脂肪組織における「時計」遺伝子ファミリーの概日発現プロファイルを変化させることを確認するために実施される。雄ARK/Jマウス(6乃至8週齢)をジャクソン ラボラトリーズ社から購入し、Pennington Biomedical Research Center Comparative Animal Facilityにて、2週間の間、12時間明期/12時間暗期の周期を厳格に維持しながら、収容される。32乃至40匹の動物群を2週間の間、好きなだけ給餌できる通常の状態、又は高脂肪食の状態に、置く。各群から3乃至4匹の動物群を、3乃至4時間間隔にて36乃至48時間まで、頸椎脱臼にて安楽死させる。以下の組織を採取した:血清、脂肪組織(皮下、精巣上体、大網、肩甲骨間、後腹膜)、心臓、肝臓、骨格筋、骨/軟骨)。組織サンプルは、急速冷凍され、続いて全RNA及び蛋白質用に採取される。血清サンプルは、ELISAアッセイによりアディポネクチン、レプチン及び/又はアグーチ関連蛋白質の発現が解析される。サンプルは、ウェスタンイムノブロットにより蛋白質が、リアルタイムPCRによりRNAが、及び/又はノーザンブロット解析により「時計」遺伝子の発現が解析されるが、同「時計」遺伝子は、以下の遺伝子Cry1、Cry2、Per1、Per2、Per3、Clock、BMAL1、NPAS2、DEC1、DEC2、Rev−Erbα、Rev−Erbβ;の幾らか又は全てを含むが、それらに限定されるものではない。適切な対照(アクチン、サイクロフィリン及び/又はGAPDH)が平行して実施される。加えて、アディポネクチン、レプチン、リポ蛋白質リパーゼ、PPARγ及びPPARαの脂肪細胞発現も決定される。対照試験は、肝臓組織における同一遺伝子産物の発現プロファイルを調べる。その他の組織は、更なる分析用に保存される。遺伝子産物の誘導プロファイルの証拠が特定され、上記したような振動パターンの証拠が数学的に解析される。
【実施例15】
【0083】
(ヒト被験者はインビボで脂肪組織内に末梢概日時計を有する)
ヒト被験者が、インビボにて、皮下脂肪組織において概日時計装置を発現するかどうかを確認するための試験が実施される。肥満の被験者(BMI>30)を試験に採用する(10<n<20)。被験者は7日間の間、厳格な12時間明期/12時間暗期である周期と随意の食事の条件にて維持される。最後の36時間の後に、患者は、適切な静脈のアクセス部位に留置カテーテルが配置される。血液サンプルは、20乃至30分間隔にて血清から採取される。3時間間隔にて、患者は、ランダムな採取パターン及び予めプログラムされた採取パターンにて、大腿部、上腕部、腹部及び臀部の皮下脂肪蓄積部にて針生検が実施される。組織サンプルは急速冷凍され、続いて全RNA用に採取される。血清サンプルは、ELISAアッセイによりアディポネクチン、レプチン及び/又はアグーチ関連蛋白質の発現が解析される。組織サンプルは、「時計」遺伝子の発現を解析するために、リアルタイムPCRによりRNAが解析され、同「時計」遺伝子は、以下の遺伝子Cry1、Cry2、Per1、Per2、Per3、Clock、BMAL1、NPAS2、DEC1、DEC2、Rev−Erbα、Rev−Erbβ;の幾らか又は全てを含むが、それらに限定されるものではない。適切な対照(アクチン、サイクロフィリン及び/又はGAPDH)が平行して実施される。加えて、アディポネクチン、レプチン、リポ蛋白質リパーゼ、PPARγ及びPPARαの脂肪細胞発現も決定される。遺伝子産物の発現プロファイルが特定され、振動パターンの証拠が数学的に解析される。
【実施例16】
【0084】
(ヒト被検者の脂肪組織における末梢概日時計遺伝子装置は同調され得る)
肥満の被験者(BMI>30)を試験に採用する(20<n<40)。被験者は14日間の間、厳格な12時間明期/12時間暗期である周期にて維持される。この期間中、被検者の半分は、12時間の明期周期時に通常の間隔にてこの間に通常の随意の食事を受ける。年齢及び性別が一致した群は、12時間の暗期周期時に同一の間隔にて同様の食事を受ける。最後の36時間の後に、患者は、適切な静脈のアクセス部位に留置カテーテルが配置される。血液サンプルは、20乃至30分間隔にて血清から採取される。3時間間隔にて、患者は、ランダムな採取パターン及び予めプログラムされた採取パターンにて、大腿部、上腕部、腹部及び臀部の皮下脂肪蓄積部にて針生検が実施される。組織サンプルは、急速冷凍され、続いて全RNA用に採取される。血清サンプルは、RIAによりグルココルチコイドの発現が、ELISAアッセイによりアディポネクチン、レプチン及び/又はアグーチ関連蛋白質の発現が解析される。組織サンプルは、「時計」遺伝子の発現を解析するために、リアルタイムPCRによりRNAが解析され、同「時計」遺伝子は、以下の遺伝子Cry1、Cry2、Per1、Per2、Per3、Clock、BMAL1、NPAS2、DEC1、DEC2、Rev−Erbα、Rev−Erbβ;の幾らか又は全てを含むが、それらに限定されるものではない。適切な対照(アクチン、サイクロフィリン及び/又はGAPDH)が平行して実施される。加えて、アディポネクチン、レプチン、リポ蛋白質リパーゼ、PPARγ及びPPARαの脂肪細胞発現も決定される。遺伝子産物の発現プロファイルが特定され、振動パターンの証拠が数学的に解析される。二つの群は、概日リズムに対して、時計遺伝子の発現プロファイル及びその他の脂肪組織産物に関して比較される。
【0085】
本発明の発明者は、脂肪組織蓄積部中での活性末梢概日時計の存在を示してきたが、それは脂肪組織機能を調節する一時的な成分の存在を示唆する。肥満及びメタポリック症候群と概日機能不全とを関連付ける新たな根拠もこの概念を支持する。ヒトASCが、皮下脂肪組織の一時的な分子解析の強力なインビトロモデルを提供することも示した。ASCを血清ショック又は核ホルモン受容体リガンドに一時的にさらすことにより、コア概日転写装置(Bmal1、Per、Cry)及びそれらの直接のエフェクタ(Rev−erbα&β)に関与する遺伝子の発現を誘導した。一般に、血清ショックは、核ホルモン受容体リガンドに同様にさらした場合と比較して約4時間早く周期的な遺伝子発現を誘導する。更に、脂肪細胞分化ASCによる核ホルモン受容体リガンドに対する応答は、未分化のASCよりも約4乃至8時間先行する。しかしながら、デキサメタゾン及びロシグリタゾンがASCにおいて脂質生成を開始するために使用されていたので、分化細胞は核ホルモン受容体リガンドに感作され得るであろう。加えて、チオアゾリジンジオン受容体、PPARγ2のレベルは、ASC脂肪細胞分化時に増大することが知られている(Y.D.Halvorsenら(2001年))。これらの事実の一方又は両方は、未分化ASCと比較した脂肪細胞分化ASCの迅速な核ホルモン受容体リガンド応答を説明するであろう。
【0086】
これらの結果はさらに、概日機構が個々のドナーから単離された細胞間でも変動することを確認する。本発明の発明者は、脂肪組織蓄積部におけるコア概日転写装置の振動を最初に実証した。食餌へのアクセスを一時的に制限するというような外因性の刺激によりこの発現プロファイルの位相がシフトすることを見出した。また、本発明者は、GSK3β阻害剤が概日発現プロファイルを延長するために使用され、かつ悪液質に罹患する患者の体重増加を誘導するために使用できることを見出した。また、単離したASCは、ヒト脂肪組織の概日機構の解析における代替的なインビトロモデルに使用できる可能性も示した。ヒトASCにおける概日遺伝子誘導の一時的な動力学はその分化状態の関数として変化した。従って、成熟した脂肪細胞は、核ホルモン受容体リガンドに対するインビボでの応答に関して、それらが、コルチコステロンのような外因性のホルモン又は経口抗糖尿病薬のような外因性の投薬であるか否かに関して、未成熟な脂肪細胞とは異なる。時間生物学的なモデルと一致して、チアゾリジンジオンが糖尿病患者に投与される日内時間は、脂肪組織における概日時計によりその治療効果に重要な影響を与えるであろう。
【0087】
(その他)
本明細書にて使用される用語「治療上有効な量」は、脂肪組織中に見出されるある時計遺伝子の遺伝子発現の概日パターンを統計学上有意な程度(p<0.05)に延長又は短縮する化合物の量を参照する。従って、用語「治療上有効な量」は、例えば、悪液質又は神経性無食欲症に罹患した患者のような体重増加の必要な患者の体重を増加させるのに有効な遺伝子発現パターンを延長するのに有効な量を含む。化合物の投与量の範囲は、所望の効果が得られる範囲である。一般的に、用量は送達の形態に応じて変更されるであろう。本明細書の示唆が与えられた当業者は、適切な用量範囲を容易に決定できるであろう。用量は禁忌の場合には個々の医師によって調整される。いずれにしても、治療の効果は、概日パターンの変化の程度、及び当業者に周知の方法による体重の変化の程度をモニタリングすることにより決定される。本化合物の適用は、経口投与、注射、又は局所投与であり得るが、同化合物は、同化合物又はその担体を脂溶性とすることにより脂肪組織に標的化される。特に、化合物は、脂溶性クリーム又は徐放性の皮下インプラントの形態にて、皮下脂肪組織に直接経皮的に送達され得る。代替的に、同化合物は、皮下脂肪組織に直接注射され得る。
【0088】
(参考文献)
【0089】
【表4】







本明細書中にて引用された全ての参考文献の完全な開示は、本明細書において参照により援用される。また、参照により援用されたものは、以下の文献の完全な開示であり、それらはいずれも本明細書における従来技術ではない:S.Zvonicら「Characterization of peripheral circadian clocks in adipose tissues」、Diabetes、第55巻、962−970頁(2006年)。A.A.Ptitsynら、「Circadian clocks are resounding in peripheral tissues」、PLoS Computational Biology、第2巻、e16、1−10頁(2006年)及びX.Wuら、「Circadian gene expression in human subcutaneous adipose−derived stem cells:Induction by dexamethasone、serum、and thazolidinedione in the undifferentiated and adipogenic states」、2006年5月31日に「Endocrinology」提出された原稿。しかしながら、そうでなければ一致しない点がある場合、本明細書は調整するであろう。
【図面の簡単な説明】
【0090】
【図1】マウスから単離された4つ末梢組織(肝臓、褐色脂肪組織(BAT)、鼠径部脂肪組織(iWAT)及び精巣上体脂肪組織(eWAT))からの、4時間毎に48時間にわたり実施されたRNAの定量RT−PCR分析により解析された8つの遺伝子(Npas2、Bmal1、Clock、Per1、Per2、Per3、Cry1及びCry2)の概日振動遺伝子発現パターンを示す。全ての値は、平均値±S.D.にて報告されている。
【図2】マウスから単離された4つ末梢組織(肝臓、褐色脂肪組織(BAT)、鼠径部脂肪組織(iWAT)及び精巣上体脂肪組織(eWAT))からの、4時間毎に48時間にわたり実施された定量RT−PCR分析により解析された7つの遺伝子(Rev−erbα、Rev−erbβ、Arnt、Stra13、Dbp、E4bp4及びId2)の概日振動遺伝子発現パターンを示す。全ての値は、平均値±S.D.にて報告されている。
【図3】プールされたマウス血清から4時間毎に48時間にわたり測定された血清バイオマーカ(コルチコステロン、メラトニン及びレプチン)の概日振動を示す。全ての値は、平均値±S.D.にて報告されている。
【図4】離散フーリエ変換により検出された周期性を用いた、マイクロアレイ分析により解析された、肝臓、BAT及びiWATにおける周期的に発現した遺伝子の重複する数を示す。
【図5】2群のマウスから単離された4つ末梢組織(肝臓、褐色脂肪組織(BAT)、鼠径部脂肪組織(iWAT)及び精巣上体脂肪組織(eWAT))から4時間毎に24時間にわたり実施されたRNAの定量RT−PCR分析により解析された8つの遺伝子(Npas2、Bmal1、Clock、Per1、Per2、Per3、Cry1及びCry2)の概日振動遺伝子発現パターンを示す。対照群(点線)は給餌が制限されておらず、制限給餌群(実線)は夜のみ給餌した。全ての値は、平均値±S.D.にて報告されている。
【図6】2群のマウスから単離された4つ末梢組織(肝臓、褐色脂肪組織(BAT)、鼠径部脂肪組織(iWAT)及び精巣上体脂肪組織(eWAT))から4時間毎に24時間にわたり実施されたRNAの定量RT−PCR分析により解析された5つの遺伝子(Rev−erbα、Rev−erbβ、Dbp、E4bp4及びId2)の概日振動遺伝子発現パターンを示す。対照群(点線)は給餌が制限されておらず、制限給餌群(実線)は夜のみ給餌した。全ての値は、平均値±S.D.にて報告されている。
【図7】血清コルチコステロン(回収された血清中にて4時間毎に24時間にわたり測定した)の一日の振動パターン、7日間にわたり測定された食物の一日摂取量及び体重における制限給餌の影響を示す。対照群(点線)は給餌が制限されておらず、制限給餌群(実線)は夜のみ給餌した。全ての値は、平均値±S.D.にて報告されている。
【図8A】新鮮な血清培地のみにさらされた未分化のヒト脂肪幹細胞からのRNAにおける定量RT−PCR分析により解析された8つの遺伝子(Npas2、Cry1、Cry2、Per1、Rev−erbα、Npas2、Per3、及びRev−erbβ)の概日振動遺伝子発現パターンを示す。細胞は、4時間毎に48時間にわたり採取された。各グラフは個々のヒトドナーを示す。
【図8B】デキサメタゾン(1回に1μM)に2時間さらされ、その後無血清培地中のみにて維持された未分化のヒト脂肪幹細胞からのRNAにおける定量RT−PCR分析により解析された8つの遺伝子(Npas2、Cry1、Cry2、Per1、Rev−erbα、Npas2、Per3、及びRev−erbβ)の概日振動遺伝子発現パターンを示す。細胞は、4時間毎に48時間にわたり採取された。各グラフは個々のヒトドナーを示す。
【図9】3人のドナーからの未分化のヒト脂肪幹細胞及び分化したヒト脂肪幹細胞(各ラインは個々のドナーである)からのRNAにおける定量RT−PCR分析により解析された4つの遺伝子(Bmal1、Per3、Rev−erbα及びRev−erbβ)の概日振動遺伝子発現パターンを示す。ここで、細胞は30%ウシ胎仔血清アルブミンを含んだ培地に2時間さらされた後に48時間無血清培地中のみにて維持されている。同細胞は、4時間毎に48時間にわたり採取された。全ての値は、平均値±S.D.にて報告されている。
【図10】3人のドナーからの未分化のヒト脂肪幹細胞及び分化したヒト脂肪幹細胞(各ラインは個々のドナーである)からのRNAにおける定量RT−PCR分析により解析された4つの遺伝子(Bmal1、Per3、Rev−erbα及びRev−erbβ)の概日振動遺伝子発現パターンを示す。ここで、細胞はデキサメタゾン(1μM)を含んだ培地に2時間さらされた後に48時間無血清培地中のみにて維持されている。同細胞は、4時間毎に48時間にわたり採取された。全ての値は、平均値±S.D.にて報告されている。
【図11】3人のドナーからの未分化のヒト脂肪幹細胞及び分化したヒト脂肪幹細胞(各ラインは個々のドナーである)からのRNAにおける定量RT−PCR分析により解析された4つの遺伝子(Bmal1、Per3、Rev−erbα及びRev−erbβ)の概日振動遺伝子発現パターンを示す。ここで、細胞はロシグリタゾン(5μM)を含んだ培地に2時間さらされた後に48時間無血清培地中のみにて維持されている。同細胞は、4時間毎に48時間にわたり採取された。全ての値は、平均値±S.D.にて報告されている。
【図12】1μMのデキサメタゾンが補充された無血清培地に2時間さらされ、その後無血清培地(SF)又は30μMのSB415286(SB415;グリコーゲンシンターゼキナーゼ3ベータ(GSK3β)の阻害剤)を含む無血清培地に変換された脂肪細胞で分化されたヒト脂肪細胞幹細胞からのRNAにおける定量RT−PCR分析により解析された3つの遺伝子(Bmal1、Per3及びRev−erbα)の概日振動遺伝子発現パターンを図面に示した時間に対して示す。定量は3回実施して、示された値は平均±S.D.である。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
体重増加を必要とする哺乳動物において体重増加を増大させるための方法において、前記方法は、脂肪組織中の一つ以上の末梢時計遺伝子の概日遺伝子発現を延長する化合物を治療上有効な量にて前記哺乳動物に投与する工程を含む、方法。
【請求項2】
前記末梢時計遺伝子は、BMAL1、Cry1、Cry2、Per1、Per2、Rev−erbα、Rev−erbβ及びPer3からなる群より選択される、請求項1に記載の方法。
【請求項3】
前記化合物は、グリコーゲンシンターゼキナーゼ3ベータを阻害することが知られている化合物である、請求項1に記載の方法。
【請求項4】
前記化合物は、塩化リチウム、SB216763、SB415286、塩化リチウム、インスリン、フェニレフリン、バルプロ酸及びヒスタミンからなる群より選択される、請求項1に記載の方法。
【請求項5】
前記哺乳動物は、糖尿病、免疫不全疾患、悪液質、神経性無食欲症、双極性疾患及びプラダーウィリー症候群に罹患している、請求項1に記載の方法。
【請求項6】
前記化合物は、皮下脂肪組織に経皮的に投与される、請求項1に記載の方法。
【請求項7】
前記化合物は、脂肪組織に直接注射される、請求項1に記載の方法。
【請求項8】
前記化合物は、薬理学的に許容される担体と組み合わせられ、組み合わせられたものは脂溶性である、請求項1に記載の方法。
【請求項9】
体重減少を必要とする哺乳動物において体重減少を増大させるための方法において、前記方法は、脂肪組織の末梢時計遺伝子の概日遺伝子発現を短縮する化合物を治療上有効な量にて前記哺乳動物に投与する工程を含む、方法。
【請求項10】
前記末梢時計遺伝子は、BMAL1、Cry1、Cry2、Per1、Per2、Rev−erbα、Rev−erbβ及びPer3からなる群より選択される、請求項9に記載の方法。
【請求項11】
前記化合物は、グリコーゲンシンターゼキナーゼ3ベータを活性化することが知られている化合物である、請求項9に記載の方法。
【請求項12】
前記化合物は、ソマトスタチン、オクトレオチド、ソマトスタチン類似体、アスピリン及びエンザスタウリンからなる群より選択される、請求項9に記載の方法。
【請求項13】
前記哺乳動物は、糖尿病、体重疾患、又はメタボリック症候群である、請求項9に記載の方法。
【請求項14】
前記化合物は、皮下脂肪組織に経皮的に投与される、請求項9に記載の方法。
【請求項15】
前記化合物は、脂肪組織に直接注射される、請求項9に記載の方法。
【請求項16】
前記化合物は、薬理学的に許容される担体と組み合わせられ、組み合わせられたものは脂溶性である、請求項9に記載の方法。
【請求項17】
脂肪細胞中にある末梢時計遺伝子の遺伝子発現の概日パターンを調節するのに有効な化合物をスクリーニングする方法であって、前記方法は、
脂肪由来の成人幹細胞を得る工程と、
前記細胞を、活性を試験されるべき化合物にさらす工程と、
前記細胞から、複数の時点においてRNAを得る工程と、
遺伝子発現レベルのパターンを時間の関数として測定する工程と、
前記遺伝子発現のパターンを、化合物にさらされていない脂肪由来の成人幹細胞からの遺伝子発現のパターンと比較する工程と、
を含む、方法。
【請求項18】
前記遺伝子発現は、BMAL1、Cry1、Cry2、Per1、Per2、Rev−erbα、Rev−erbβ及びPer3からなる群より選択される遺伝子から測定される、請求項9に記載の方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8A】
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【図8B】
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【図9】
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【図10】
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【図11】
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【図12】
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【公表番号】特表2008−545799(P2008−545799A)
【公表日】平成20年12月18日(2008.12.18)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−515963(P2008−515963)
【出願日】平成18年6月9日(2006.6.9)
【国際出願番号】PCT/US2006/022454
【国際公開番号】WO2006/135733
【国際公開日】平成18年12月21日(2006.12.21)
【出願人】(507405212)ボード オブ スーパーバイザーズ オブ ルイジアナ ステイト ユニバーシティー アンド アグリカルチュラル アンド メカニカル カレッジ (3)
【氏名又は名称原語表記】BOARD OF SUPERVISORS OF LOUISIANA STATE UNIVERSITY AND AGRICULTURAL AND MECHANICAL COLLEGE
【Fターム(参考)】