説明

自動車における自動変速機の運転方法

本発明は、惰走運転段階中に、設定限界速度に到達するまで、例えば自動変速機にクラッチを介して結合し得る駆動エンジンの制動作用を利用するための変速機ダウンシフトが、クラッチの係合によって終了される、自動車における自動変速機の運転方法に関する。惰走運転段階の終了後における車両駆動装置の自発行動性を改善するために、本発明に基づいて、設定限界速度以下では、ダウンシフトがクラッチ解除状態で終了されるようにすることを提案する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は特許請求の範囲の請求項1の上位概念部分に記載の自動車における自動変速機の運転方法に関する。
【背景技術】
【0002】
自動変速機の運転方法は、当該技術者において種々知られている。現在、そのような変速機において、特にいわゆる惰走ダウンシフト(シフトダウン)時に生ずる制御上の問題がある。そのような惰走ダウンシフト時、車速が連続して低下する際、高い速度段から自動的に常に低い速度段にダウンシフトされる。そのために、公知のように、変速機制御装置によって制御されるアクチュエータが作動される。そのアクチュエータによって、変速機速度段が選択され、切り換えられ、且つ、変速機における発進・切離しクラッチが作動される。
【0003】
上述の惰走ダウンシフトは、例えば下り坂走行時に車両駆動エンジンの制動トルク(エンジンブレーキ)を利用するために実施され、これによって、車両の常用ブレーキが過度に負荷されなくされる。また、走行速度に合った変速機速度段の追従によって、クラッチ係合状態における惰走運転段階の終了後に(場合によって)続く正の車両加速段階を実施するために必要とされる速度段が入れられる、ように用意される。
【0004】
また、自動車の通常走行運転時、自動車が徐々に減速した走行速度で、障害物、短時間しゃ断された踏切あるいは赤になった信号灯にさしかかる走行運転段階が生ずる。そのような運転段階中、接続された低速段で発生されたエンジン制動トルクが、車両に過大な制動作用を与えることがある。
【0005】
従って、多段自動変速機の場合、惰走運転段階中におけるダウンシフト時に、変速機における速度に関係して実施可能な各ダウンシフトが、しばしば実際には実施されない。変速機の低速段における上述の大きなエンジン牽引トルクを車両に作用させないようにするために、そのような変速機の場合、低速段への惰走ダウンシフトは、予め定められた車両限界速度に到達するまでしか実施されない。その限界速度以下において、最後に入れられた(比較的高速の)速度段が維持され、この速度段において、走行速度がクラッチ係合状態で一層減少される。
【0006】
駆動エンジンが無負荷回転(アイドリング)状態に到達した際、エンジンストールを防止するために、クラッチが解除される。その場合、車両は、入れられた高速段で、クラッチ解除状態で、停止するまでゆっくり走行し、続いて、適切な発進段が入れられる。
【0007】
しかし、例えば信号灯が瞬間的に青に切り換わったことにより、車両が停止されないとき、続いて駆動エンジンの出力調整要素(アクセル)を操作した際、まだ入れられていた高速段から、走行速度に関係して継続走行(停止せずに進行ないし加速すること)を可能とする速度段へのダウンシフトが実施される。
【0008】
このような自動変速機の運転方式は、今までの速度段が外され、新たな速度段が入れられ、クラッチが係合され、車両が所望の車両加速度で応答するまで、比較的長い時間がかかる、という欠点を有する。
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
このような背景のもとに、本発明の課題は、惰走ダウンシフト過程時にすぐに継続走行に移るために、低速段における低い走行速度および高い伝達比による大きなエンジン制動トルクの欠点が余儀なくされることなしに、常に変速機における適切な速度段が接続されるように作用する自動変速機の制御方法を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0010】
この課題は、特許請求の範囲の請求項1に記載の特徴によって解決される。本発明の有利な実施態様は従属請求項に記載されている。
【0011】
それに応じて、本発明は、惰走運転段階中に、設定限界(下限)速度に到達するまで、変速機におけるダウンシフトが、クラッチの係合(接続)によって終了されるように実施される、自動車における自動変速機の運転方法から出発している。これに対して、その設定限界速度以下で、ダウンシフトが、クラッチ解除(切断)状態で終了される。
【0012】
これによって、走行速度に関係しておよび/または走行状態に関係して、継続走行が短時間だけ正の駆動トルクで実施される速度段が、いつでも入れられる。惰走ダウンシフト過程時に上述の設定限界速度以下で解除されたクラッチは、低速段が入れられているにもかかわらず、駆動エンジン例えば内燃機関によって制動トルクが発生されないことを保証する。
【0013】
上述の設定限界速度は、特に個々の速度段の伝達比に関係する車両特有の大きさである。
即ち、従来と異なって、惰走運転段階中、上述の設定限界速度以下でも、引き続きダウンシフトが実施される。しかし、このいわゆる快適ダウンシフトの際、新しい速度段の接続後、クラッチが再び係合されることなく、解除されたままにされる。これによって、従来公知の過大なエンジン制動作用による不利な影響が生じなくなる利点がある。そのギヤステップは、好適には、車両減速度に関係して選択され、その車両減速度は、例えば変速機出力軸回転数の変化の測定によって求められる。
【0014】
運転者が継続走行することを希望し、その正の駆動トルクについての要望を車両の出力調整要素の変位によって変速機制御装置に報せたときには、クラッチが遅滞なく係合される。走行速度に関して正しい速度段が既に入れられているとき、運転者は時間的遅れを感ぜずに、所望の車両加速度を実感する。
【0015】
変速機部品並びにクラッチの摩耗を高める不必要なダウンシフトを防止するために、本発明の有利な実施態様において、上述の設定限界速度以下におけるダウンシフトは、継続走行、および従って、正の駆動トルクについての運転者要望が所定の時間にわたって比較的高い確率で予想されるときだけ実施される。
【0016】
本発明の方法の実施態様において、正の駆動トルクについての運転者要望の確率を求めるために、特に指標が利用される。
【0017】
その指標は、例えば常用ブレーキの作動を表示するセンサ信号である。運転者が常用ブレーキを作動している限りにおいて、快適ダウンシフトは開始されない。運転者が常用ブレーキを解除したときにはじめて、即ち、車両のブレーキぺダルが解放されたときにはじめて、上述の快適ダウンシフトが常にクラッチ解除状態において実施される。
【0018】
そのために特に、ブレーキ作動の監視が適している。これは、運転者が通常状態において出力調整要素を操作するために足をブレーキぺダルから離すからである。即ち、運転者は、赤を表示している信号灯にさしかかった際に車両をブレーキぺダルの作動によって減速し、青に切り換わった際、継続走行を可能にするために、常用ブレーキのブレーキぺダルを解放する。
【0019】
運転者が続いて出力調整要素を操作したとき、この時点で早くも、停止状態から発進するために、あるいは非常に低速で走行を続けるために、走行速度および/または走行状態に合った適切な速度段が入れられる。出力調整要素の操作時、ただクラッチが係合されるだけで済み、継続走行がすぐにできる。
【0020】
本発明の他の2つの実施態様において、正の駆動トルクについての運転者要望を求めるため、および従って、惰走運転段階を終了するための指標として、方向指示器における操作レバーの振れ、および/または、車両ステアリング装置における舵取り角の所定舵取り角超過を表す信号も利用できる。
【0021】
比較的大きな舵取り角が、目下の車両減速に関連して、方向変更過程終了後に遅滞なく継続走行を行いたいという運転者の要望を表している、ことを意味することは、当該技術者において本発明の知識で容易に理解できる。
【0022】
この関連において、幾分弱い説得力であるが、車両が路肩に駐車するために減速されるときも、方向指示器における操作レバーが公知のように転向されるので、その操作レバーの位置の測定が目的に適っている。
【0023】
しかし、駆動トルク要望についての運転者挙動の分析時における的中精度は、2つないしそれ以上の上述した指標ないし他の指標が一緒に利用される、ことによってかなり高められる。
【0024】
正の駆動トルクについての運転者要望を検出するために指標が利用されることによって、惰走ダウンシフト時における切換頻度がかなり減少され、摩耗がかなり少なくなる、という大きな利点が得られる。
【0025】
自動変速機の運転の一層の改善は、惰走運転段階の終わりにおける自動変速機の発進速度段の接続が、その速度段がなお継続走行を可能にする限りにおいて、常にクラッチ解除状態で終了される、ことによって生ずる。
【0026】
当該技術者において本発明の知識で、上述の制御方法が、好適には、変速機制御装置にソフトウエアとして記憶されている、ことは明白である。この変速機制御装置は、そのために上述したように、クラッチを作動するためのアクチュエータおよび速度段を選択して入れるためのアクチュエータに、制御配線を介して接続されている。また、変速機制御装置は、変速機入力回転数、変速機出力回転数、常用ブレーキや出力調整要素や方向指示レバーの操作、並びに車両の舵取り角を検出するセンサに、信号技術的に接続されている。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
惰走運転段階中、設定限界速度に到達するまで、変速機におけるダウンシフトが、車両駆動エンジンと変速機との間に配置されたクラッチの係合によって終了されるように実施される、自動車における自動変速機の運転方法において、
設定限界速度以下では、ダウンシフトがクラッチ解除状態で終了されるようにした、ことを特徴とする自動車における自動変速機の運転方法。
【請求項2】
運転者がすぐに正の駆動トルクについての要望すなわち継続走行についての要望を持つ確率が比較的高いときだけ、ダウンシフトが常にクラッチ解除状態で実施されるようにした、ことを特徴とする請求項1記載の方法。
【請求項3】
正の駆動トルクについての要望が指標によって検出されるようにした、ことを特徴とする請求項2記載の方法。
【請求項4】
正の駆動トルクについての要望に対する指標として、常用ブレーキの解除、方向指示器における操作レバーの振れ、並びに車両舵取り装置の舵取り角が利用されるようにした、ことを特徴とする請求項3記載の方法。
【請求項5】
正の駆動トルクについての運転者要望の存在が、設定舵取り角に対する測定舵取り角の超過によって検出されるようにした、ことを特徴とする請求項4記載の方法。
【請求項6】
正の駆動トルクについての運転者要望の確率を確定するために、2つないしそれ以上の上述した指標ないし他の指標が一緒に利用されるようにした、ことを特徴とする請求項1ないし5のいずれか1つに記載の方法。
【請求項7】
常用ブレーキが作動されているときには、惰走ダウンシフトが実施されないようにした、ことを特徴とする請求項1ないし6のいずれか1つに記載の方法。
【請求項8】
自動車の出力調整要素が操作されたときにはじめて、クラッチが惰走運転を終了するために係合されるようにした、ことを特徴とする請求項1ないし7のいずれか1つに記載の方法。
【請求項9】
惰走運転段階の終わりにおける自動変速機の発進速度段の接続が、常にクラッチ解除状態で終了されるようにした、ことを特徴とする請求項1ないし8のいずれか1つに記載の方法。
【請求項10】
惰走運転段階中における変速機ダウンシフト時にギヤステップが、車両減速度に関係して選択されるようにした、ことを特徴とする請求項1ないし9のいずれか1つに記載の方法。
【請求項11】
自動化マニュアルトランスミッションが当該方法で運転されるようにした、ことを特徴とする請求項1ないし10のいずれか1つに記載の方法。

【公表番号】特表2007−500824(P2007−500824A)
【公表日】平成19年1月18日(2007.1.18)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2006−521418(P2006−521418)
【出願日】平成16年7月6日(2004.7.6)
【国際出願番号】PCT/EP2004/007345
【国際公開番号】WO2005/018978
【国際公開日】平成17年3月3日(2005.3.3)
【出願人】(500045121)ツェットエフ、フリードリッヒスハーフェン、アクチエンゲゼルシャフト (312)
【氏名又は名称原語表記】ZF FRIEDRICHSHAFEN AG
【Fターム(参考)】