説明

蒸着装置およびマスクのクリーニング方法

【課題】シリコンからなるマスクチップを有するマスクを蒸着装置から取り出すことなくクリーニングできる蒸着装置およびマスクのクリーニング方法を提供する。
【解決手段】蒸着装置は、シリコンからなり所定の膜パターンに対応する開口部を有するマスクチップ20と、マスクチップ20が複数取り付けられた支持基板10と、を有するマスク1を介して、ワーク2の被成膜面2aに膜材料32を堆積させる成膜室110,120と、成膜室110,120に接続されており、マスク1をクリーニングするプラズマ処理機構が設けられた処理室と、を備えていることを特徴とする。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、蒸着装置およびマスクのクリーニング方法に関する。
【背景技術】
【0002】
有機EL装置は、2つの電極の間に発光層を含む有機機能層が挟持された構成を有している。これらの電極や有機機能層は、例えば、真空蒸着法により成膜される。真空蒸着法では、膜材料を所定の膜パターンの形状に堆積させるため、マスクが用いられる。有機EL装置の大画面化に対応すべく、大きな被成膜領域に高精度でパターニング可能なマスクが求められている。このようなマスクの一例として、支持基板に複数のシリコンからなるマスクチップを取り付けたマスクが提案されている(例えば特許文献1)。
【0003】
ところで、真空蒸着法による成膜を繰り返し行うと、マスク上に膜材料が堆積する。このような状態のまま成膜を続けると、マスク上に堆積した膜材料により、所望のパターニング精度が得られなくなる。そこで、定期的にマスク上に堆積した膜材料を除去する作業が必要となる。このような除去作業の方法として、マスクを蒸着装置から取り出して洗浄する方法が提案されている(例えば特許文献2)。
【0004】
マスクを蒸着装置から取り出して除去作業を行うには、蒸着装置を一旦大気圧に戻し、マスクを取り出して除去作業を行った後、蒸着装置内にマスクを戻して蒸着装置を再度減圧しなければならない。このため、除去作業に伴い成膜が停止される時間が長くなり生産性の低下を招く。
【0005】
これに対して、マスク上に堆積した膜材料を除去する機構が設けられた処理室を備えた有機EL素子製造装置が提案されている(例えば特許文献3)。この方法によれば、処理室内で粒状のドライアイスを噴射してマスクに堆積した有機物を除去するので、マスクを製造装置から取り出すことなくマスク上に堆積した膜材料を除去できる。
【0006】
【特許文献1】特開2005−276480号公報
【特許文献2】特開2005−161190号公報
【特許文献3】特開2005−129299号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
しかしながら、粒状のドライアイスを噴射する方法では、金属材料の蒸着に用いたマスクに堆積した金属を除去できない。また、シリコンからなるマスクチップを取り付けたマスクの場合、マスクチップが損傷を受けるおそれがある、という課題がある。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明は、上述の課題の少なくとも一部を解決するためになされたものであり、以下の形態または適用例として実現することが可能である。
【0009】
[適用例1]本適用例に係る蒸着装置は、シリコンからなり所定の膜パターンに対応する開口部を有するマスクチップと、前記マスクチップが複数取り付けられた支持基板と、を有するマスクを介して、ワークの被成膜面に膜材料を堆積させる少なくとも一つの成膜室と、前記少なくとも一つの成膜室に接続されており、前記マスクをクリーニングする処理機構が設けられた少なくとも一つの処理室と、を備えていることを特徴とする。
【0010】
この構成によれば、蒸着装置の成膜室に接続された処理室に、マスクをクリーニングする処理機構が設けられている。このため、成膜室で成膜を行った後に、マスクを蒸着装置外に取り出すことなく、マスクに堆積した膜材料の除去やマスクの表面処理を行うクリーニングができる。これにより、マスクのクリーニングのために成膜が停止される時間を短くすることができる。また、マスクの出し入れの際のハンドリングにおいて、マスクチップが破損するリスクを回避できる。
【0011】
[適用例2]上記適用例に係る蒸着装置であって、前記処理機構はプラズマ処理機構であってもよい。
【0012】
この構成によれば、プラズマ処理機構により発生したプラズマをマスクに照射することにより、マスクに堆積した膜材料の除去やマスクの表面処理を行うことができる。
【0013】
[適用例3]上記適用例に係る蒸着装置であって、前記プラズマ処理機構には、塩素系のガスを含むプロセスガスが供給されてもよい。
【0014】
この構成によれば、マスクに堆積した膜材料がアルミニウム等の塩素と反応する材料である場合、塩素プラズマを照射することによりこの膜材料をエッチングして除去できる。
【0015】
[適用例4]上記適用例に係る蒸着装置であって、前記プラズマ処理機構には、酸素を含むプロセスガスが供給されてもよい。
【0016】
この構成によれば、マスクに堆積した膜材料が有機物である場合、酸素プラズマを照射することによりこの膜材料をアッシングして除去できる。
【0017】
[適用例5]上記適用例に係る蒸着装置であって、前記プラズマ処理機構には、フッ素系のガスを含むプロセスガスが供給されてもよい。
【0018】
この構成によれば、マスクにフッ素プラズマを照射することにより、マスクの表面に撥液化処理を施すことができる。マスクの表面が撥液性であると、堆積した膜材料の除去が容易になる。また、堆積した膜材料を除去する際にマスクの表面の撥液性が低下しても、撥液化処理を施すことで再び撥液性を付与できる。
【0019】
[適用例6]上記適用例に係る蒸着装置であって、前記少なくとも一つの処理室に接続されており、スパッタ処理機構またはCVD処理機構が設けられた処理室をさらに備えていてもよい。
【0020】
この構成によれば、スパッタ処理またはCVD処理を施すことにより、マスクを蒸着装置外に取り出すことなくマスクの表面に保護膜を形成することができる。また、堆積した膜材料を除去する際にマスクの表面の保護膜が失われても、保護膜を繰り返し形成できるので、マスクの耐久性を向上できる。
【0021】
[適用例7]本適用例に係るマスクのクリーニング方法は、シリコンからなり所定の膜パターンに対応する開口部を有するマスクチップと、前記マスクチップが複数取り付けられた支持基板と、を有するマスクを介して、少なくとも一つの成膜室内でワークの被成膜面に膜材料を堆積させた後に、前記少なくとも一つの成膜室に接続された少なくとも一つの処理室内で、前記マスクに堆積した前記膜材料を除去する除去工程を備えていることを特徴とする。
【0022】
この構成によれば、マスクを介してワークの被成膜面に成膜を行った後に、マスクを蒸着装置外に取り出すことなく、マスクに堆積した膜材料を除去できる。これにより、マスクのクリーニングのために成膜が停止される時間を短くすることができる。また、マスクの出し入れの際のハンドリングにおいて、マスクチップが破損するリスクを回避できる。
【0023】
[適用例8]上記適用例に係るマスクのクリーニング方法であって、前記除去工程では、塩素プラズマを発生させて前記膜材料をエッチングしてもよい。
【0024】
この構成によれば、アルミニウム等の塩素と反応する膜材料がマスクに堆積した場合、この膜材料をエッチングして除去できる。
【0025】
[適用例9]上記適用例に係るマスクのクリーニング方法であって、前記除去工程では、酸素プラズマを発生させて前記膜材料をアッシングしてもよい。
【0026】
この構成によれば、有機物からなる膜材料がマスクに堆積した場合、この膜材料をアッシングして除去できる。
【0027】
[適用例10]上記適用例に係るマスクのクリーニング方法であって、前記少なくとも一つの処理室内で、前記マスクの表面に保護膜を形成する保護膜形成工程をさらに備えていてもよい。
【0028】
この構成によれば、マスクを蒸着装置外に取り出すことなくマスクの表面に保護膜を形成することができる。また、堆積した膜材料を除去する際にマスクの表面の保護膜が失われても、保護膜を繰り返し形成できるので、マスクチップの耐久性を向上できる。
【0029】
[適用例11]上記適用例に係るマスクのクリーニング方法であって、前記少なくとも一つの処理室内で、前記マスクの表面に撥液化処理を施す撥液化工程をさらに備えていてもよい。
【0030】
この構成によれば、マスクを蒸着装置外に取り出すことなくマスクの表面に撥液化処理を施すことができる。マスクの表面が撥液性であると、堆積した膜材料の除去が容易になる。また、堆積した膜材料を除去する際にマスクの表面の撥液性が低下しても、撥液化処理を施すことで再び撥液性を付与できる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0031】
以下に、本実施の形態について図面を参照して説明する。なお、参照する各図面において、構成をわかりやすく示すため、各構成要素の厚さや寸法の比率等は適宜異ならせてある。
【0032】
(第1の実施形態)
<マスク>
本実施形態に係る蒸着装置を説明する前に、まず、本実施形態に係る蒸着装置で成膜を行う際に用いるマスクについて図を参照して説明する。図1は、マスクの一例の概略構成を示す斜視図である。図1に示すように、マスク1は、支持基板10と、支持基板10に取り付けられた複数のマスクチップ20と、を有している。
【0033】
支持基板10は、長方形状である。支持基板10には、開口部が長方形の貫通穴からなる複数の開口領域12が、互いに平行に、かつ一定間隔で設けられている。支持基板10には、マスク位置決めマーク14が形成されている。マスク位置決めマーク14は、マスク1を使用してワークに蒸着を行うときに、ワークとマスク1との位置合わせを行うためのものである。マスク位置決めマーク14は、マスクチップ20に形成されていてもよい。
【0034】
マスクチップ20は、長方形状である。マスクチップ20には、例えば長孔形状の複数の開口部22が、互いに平行に、かつ一定間隔で設けられている。開口部22の形状は、ワークの被成膜面に成膜される縦ストライプ等の所定の膜パターン形状に対応している。また、各マスクチップ20には、アライメントマーク24が少なくとも2ヶ所形成されている。アライメントマーク24は、支持基板10にマスクチップ20を配置する際に、位置合わせを行うためのものである。
【0035】
各マスクチップ20は、それぞれアライメントされて支持基板10に接着されている。詳しくは、各マスクチップ20は、支持基板10の開口領域12をふさぐように、かつ、開口領域12の長手方向と開口部22の長手方向とが直交する向きで、支持基板10上にマトリクス状に配置されている。図1において、X軸は開口領域12の長手方向に平行な方向であり、Y軸は開口部22の長手方向に平行な方向である。互いに隣り合うマスクチップ20同士は、X軸方向およびY軸方向のそれぞれの方向において、所定の間隔を置いて配置されている。そして、X軸方向に沿って互いに隣り合うマスクチップ20同士の隙間は、開口部22と同様に機能し、所定形状の膜パターンを形成するためのマスク1の開口部として機能する。
【0036】
マスク1は、マスクチップ20が取り付けられた側の面1aがワークの被成膜面に対向するように、ワークの被成膜面に密着配置される。そして、マスク1の面1aとは反対側の面1bが、膜材料を蒸発させる蒸着源の側に配置される。なお、マスク1の面1bは、支持基板10の開口領域12において露出するマスクチップ20の面を含んでいる。
【0037】
マスクチップ20は、シリコンからなる。シリコンは、金属に比べて引張り強度が高い。このため、材料をシリコンとすることで、マスクチップ20の引張り力に対する延び量を小さくすることができ、厚さを低減できる。ワークがシリコン基板である場合、マスクチップ20とワークとの熱膨張率が同じになる。また、ワークがガラス基板である場合、マスクチップ20とワークとの熱膨張率がほぼ同じになる。したがって、シリコンからなるマスクチップ20を用いることにより、周囲温度の影響をほとんど受けることなく高精度に膜パターンを形成できる。
【0038】
マスクチップ20が取り付けられる支持基板10の材料は、マスクチップ20の材料であるシリコンの熱膨張係数と同一または近い熱膨張係数を有するものが好ましい。このような材料として、例えばパイレックス(登録商標)ガラスを用いることができる。支持基板10をこのような材料で構成することにより、支持基板10とマスクチップ20との熱膨張量の違いによる歪みや橈みの発生を抑えることができる。
【0039】
本実施形態に係るマスク1は、シリコンからなる複数のマスクチップ20が支持基板10に取り付けられた構成を有することにより、より大きな膜パターンを形成できる。したがって、マスク1を用いることにより、大画面の表示装置の構成要素となる大きな膜パターンを、高精度に形成することができる。このようなマスク1は、有機エレクトロルミネセンス装置(有機EL装置)の電極や有機機能層を真空蒸着法により形成する場合に適している。
【0040】
本実施形態に係るマスク1を介してワークの被成膜面に膜パターンを成膜すると、ワークの被成膜面に成膜された膜パターンの膜厚とほぼ同じ膜厚の膜材料が、マスク1の面1bおよび開口部22にも堆積する。例えば、ワークの被成膜面にアルミニウム(Al)からなる厚さ500nmの膜パターンを成膜する場合、マスク1にも厚さ500nmのAlが堆積する。この成膜工程を、例えば20回繰り返し行うと、マスク1には10μmのAlが堆積する。このような状態になると、堆積したAlによって開口部22が狭くなることや、堆積したAlの重さによってマスク1に歪みや橈みが発生することにより、ワークの被成膜面に成膜される膜パターンのパターニング精度が低下する。そこで、マスク1を用いて成膜作業を繰り返し行う場合、マスク1に堆積した膜材料を除去する等のクリーニングをある程度の頻度で行う必要がある。
【0041】
なお、マスクチップ20の表面には、撥液化処理が施されていてもよい。マスクチップ20の表面が撥液性であると、マスクチップ20とワークとの密着力が弱められるので、ワークへのマスク1の着脱を容易にすることができる。ワークへのマスク1の着脱が容易であると、着脱の際にマスクチップ20が破損するリスクを低減できる効果もある。また、マスクチップ20の表面が撥液性であると、ワークへの成膜の際にマスクチップ20に堆積した膜材料の除去が容易になる。
【0042】
また、マスクチップ20の表面には、例えば、SiO2、SiON、SiN等からなる保護膜が形成されていてもよい。後述するが、マスクチップ20に堆積した金属等を塩素系のガスを含むプロセスガスを用いてドライエッチングして除去する際に、シリコンからなるマスクチップ20の表面もエッチングされる。マスクチップ20の表面に保護膜が形成されていると、エッチング等の際にマスクチップ20の表面を保護できるので、マスクチップ20の耐久性を向上することができる。
【0043】
例えば、Alをエッチングして除去する場合、Alとシリコンとの選択比は10程度である。ここで、選択比とは、シリコンのエッチング速度に対するAlのエッチング速度の比の値のことである。これに対して、AlとSiO2との選択比は20程度である。例えば、マスクチップ20の表面に厚さ1μmのSiO2からなる保護膜が形成されていれば、20μmまでのAlのエッチングに耐え得る。1回のエッチングで厚さ5μmのAlを除去するとすれば、4回までのエッチングに耐え得ることになる。
【0044】
<蒸着装置>
次に、第1の実施形態に係る蒸着装置について図を参照して説明する。図2は、第1の実施形態に係る蒸着装置の概略構成を示す図である。図3は、第1の実施形態に係る蒸着装置が備える成膜室の構成例を模式的に示す図である。図4は、第1の実施形態に係る蒸着装置が備える処理室の構成例を模式的に示す図である。
【0045】
図2に示すように、本実施形態に係る蒸着装置100は、成膜室110,120と、処理室130と、ストック室140と、搬送室150と、を備えている。成膜室110,120と、処理室130と、ストック室140とは、搬送室150の周囲に配置されており、それぞれが搬送室150に接続されている。したがって、成膜室110,120と、処理室130と、ストック室140とは、搬送室150を介して互いに接続されている。
【0046】
図3に示すように、成膜室110には、蒸着源30と、保持部34と、真空ポンプ36と、が備えられている。蒸着源30は、成膜室110の底部側に位置している。蒸着源30には膜材料32が収容され、蒸着源30から蒸発した膜材料32の粒子は、成膜室110の上部側に向かって放出される。保持部34は、ワーク2の被成膜面2aが蒸着源30に対向するように、ワーク2を保持する。真空ポンプ36は、成膜室110内を排気して減圧する。
【0047】
ワーク2の被成膜面2aには、マスクチップ20が取り付けられた側の面1aが対向するように、マスク1が密着配置される。マスク1の面1bは、蒸着源30の側に配置される。成膜室110では、ワーク2の被成膜面2aに、例えばAl等の金属からなる電極または配線が成膜される。そのため、蒸着源30には、電極または配線となる金属の膜材料32が収容される。なお、ここで用いられるマスク1は、ワーク2上に成膜される電極または配線の膜パターンに対応した開口部22(図1参照)を有している。
【0048】
成膜室110では、蒸着源30から蒸発した膜材料32をマスク1を介してワーク2の被成膜面2aに堆積させることにより、開口部22に対応して所定形状の膜パターンがワーク2上に成膜される。
【0049】
図3に示すように、成膜室120には、成膜室110と同様に、蒸着源30と、保持部34と、真空ポンプ36と、が備えられている。成膜室120では、ワーク2の被成膜面に、発光層等の有機機能層が成膜される。そのため、蒸着源30には、有機機能層となる有機物の膜材料32が収容される。また、ここで用いられるマスク1は、ワーク2上に成膜される有機機能層の膜パターンに対応した開口部22を有している。
【0050】
図4に示すように、処理室130には、マスク1のクリーニングを行うためのプラズマ処理機構50が設けられている。プラズマ処理機構50は、例えば、誘導結合プラズマ発生源を有するドライエッチング機構である。プラズマ処理機構50は、誘電板52と、誘導結合コイル54と、電極60と、マッチングコントローラ56,62と、高周波電源58,64と、載置部66と、を備えている。
【0051】
誘電板52は、処理室130の上部側に位置している。誘導結合コイル54は、誘電板52上に位置している。誘導結合コイル54は、マッチングコントローラ56を介して、高周波電源58に接続されている。高周波電源58は、誘導結合コイル54に高周波電力を供給する。マッチングコントローラ56は、誘導結合コイル54のインピーダンスと、誘導結合コイル54と高周波電源58とを接続するケーブルのインピーダンスとを整合させるためのものである。
【0052】
電極60は、処理室130の底部側に位置している。電極60は、マッチングコントローラ62を介して、高周波電源64に接続されている。高周波電源64は、電極60にバイアス用の高周波電力を供給する。載置部66は、処理室130の底部側に位置している。載置部66は、電極60の上部に位置する載置面を有している。マスク1は、マスクチップ20が取り付けられた側の面1aが電極60に対向するように、載置部66の載置面に載置される。
【0053】
処理室130には、真空ポンプ70と、マスフローコントローラ72と、マスフローコントローラ72を介して接続されたガスボンベ74とが、さらに備えられている。真空ポンプ70は、処理室130内を排気して減圧するためのものである。ガスボンベ74には、プラズマ処理機構50でクリーニングを行うためのプロセスガスが収容される。マスフローコントローラ72は、ガスボンベ74から処理室130内に導入されるプロセスガスの流量を制御するためのものである。ここで、プロセスガスとは、エッチング等の反応に使用されるガスと、反応プロセス中に使用されるその他のガスとの総称である。
【0054】
処理室130では、成膜室110または成膜室120において成膜した際にマスク1に堆積した膜材料32が、プラズマ処理機構50でクリーニングされることにより除去される。ここで用いられるプロセスガスは、マスク1に堆積した膜材料32に応じて選択される。プロセスガスには、例えば、Al等の塩素と反応する膜材料32である場合は塩素系ガスが含まれ、膜材料32が有機物である場合は酸素が含まれる。したがって、処理室130には、これらのプロセスガスの種類のそれぞれに対応したガスボンベ74およびマスフローコントローラ72が複数備えられていてもよい。また、蒸着装置100が、複数の処理室130を備えていてもよい。
【0055】
図示しないが、ストック室140には、交換用のマスク1や複数の異なる膜パターンに対応したマスク1が収容される。また、ストック室140から、マスク1およびワーク2を蒸着装置100に出し入れできるようになっている。搬送室150には、ロボットアーム等の搬送機構が備えられている。この搬出機構により、成膜室110,120、処理室130、ストック室140と搬送室150との間で、マスク1やワーク2の搬出または搬入を行う。また、この搬出機構により、マスク1やワーク2の向きを変えることも可能である。
【0056】
<マスクのクリーニング方法>
次に、第1の実施形態に係るマスクのクリーニング方法について、図を参照して説明する。第1の実施形態に係るマスクのクリーニング方法は、図2に示す蒸着装置100において、成膜室110,120内でマスク1を介してワーク2表面に成膜を行った後に、処理室130内で、マスク1に堆積した膜材料32を除去する除去工程を備えている。
【0057】
まず、成膜室110内でワーク2に金属の成膜を行った後の除去工程について、金属がAlである場合を例に取り説明する。
【0058】
ワーク2への成膜が終了したら、マスク1を、成膜室110から搬出し、搬送室150を経由して処理室130に搬入する。そして、図4に示すように、マスク1を、マスクチップ20が取り付けられた側の面1aが電極60に対向するように、載置部66の載置面に載置する。マスク1の面1bおよび開口部22には、成膜室110内でワーク2に成膜を行った際のAlが堆積している。真空ポンプ70により、処理室130内を排気して、処理室130内を所定の圧力にする。反応時における処理室130内の圧力は、例えば0.7Paとする。
【0059】
プロセスガスには、例えば、BCl3およびCl2の塩素系ガスとN2とを混合したものが含まれる。処理室130には、BCl3、Cl2、N2のそれぞれが個別に収容されたガスボンベ74が、それぞれに対応するマスフローコントローラ72を介して接続されている。BCl3、Cl2、N2は、それぞれに対応するマスフローコントローラ72により、個別に流量が制御されて処理室130に導入される。BCl3、Cl2、N2のそれぞれの流量は、例えば、20sccm、40sccm、20sccmである。
【0060】
高周波電源58により誘導結合コイル54に、例えば300Wの高周波電力を供給するとともに、高周波電源64により電極60に、例えば120Wのバイアス用高周波電力を供給する。これにより、処理室130内に塩素プラズマが発生する。この塩素プラズマがAlと反応することにより、マスク1に堆積したAlがエッチングされる。上述の条件におけるAlのエッチングレートは、0.5μm/min程度である。これによれば、マスク1にAlが5μmの厚さで堆積している場合、10分程度で除去することができる。
【0061】
本実施形態では、膜材料32がAlである場合についての除去工程を説明したが、他の金属を材料としてワーク2に蒸着した場合においても、プロセスガスの選択および条件設定を適宜行うことで、マスク1に堆積したその金属材料を除去することが可能である。
【0062】
次に、成膜室120内でワーク2に有機機能層の蒸着を行った後の除去工程について説明する。
【0063】
ワーク2への蒸着が終了したら、マスク1を、成膜室120から搬出し、搬送室150を経由して処理室130に搬入する。処理室130内でマスク1に堆積した有機物を除去する場合は、プロセスガスには酸素が含まれる。これにより、処理室130内に酸素プラズマが発生する。この酸素プラズマによって、マスク1に堆積した有機物がアッシングされ除去される。この工程における条件は、公知の条件を適用することができる。
【0064】
上記第1の実施形態の構成によれば、以下の効果が得られる。
【0065】
(1)蒸着装置100の成膜室110,120に接続された処理室130に、マスク1をクリーニングするプラズマ処理機構50が設けられている。このため、成膜室110,120で蒸着を行った後に、マスク1を蒸着装置100外に取り出すことなく、マスク1をクリーニングできる。マスク1を蒸着装置100から取り出してクリーニングする場合、蒸着装置100を一旦大気圧に戻し、マスク1を取り出してクリーニングした後、蒸着装置100内にマスク1を戻して蒸着装置100を再度減圧しなければならない。これに対して、マスク1を蒸着装置100外に取り出す必要がないので、クリーニングのために成膜が停止される時間を大幅に短縮することができる。
【0066】
(2)マスク1を蒸着装置100外に取り出さないので、マスク1の出し入れの際のハンドリングにおいてマスクチップ20が破損するリスクを回避できる。また、マスク1を蒸着装置100外に取り出さないので、蒸着装置100外にある埃、ゴミ等の異物がマスク1に付着するのを防止できる。これにより、マスクチップ20とワーク2との間に異物が挟まってマスクチップ20が破損するリスクを低減できる。
【0067】
なお、成膜に使用したマスク1を成膜室110から搬出しクリーニングを行う間に、ストック室140から交換用のマスク1を成膜室110に搬入して次のワーク2の蒸着を行うようにしてもよい。
【0068】
(第2の実施形態)
次に、第2の実施形態に係る蒸着装置、およびマスクのクリーニング方法について説明する。第1の実施形態と共通する構成要素については同一の符号を付しその説明を省略する。
【0069】
<蒸着装置>
図5は、第2の実施形態に係る蒸着装置の概略構成を示す図である。本実施形態に係る蒸着装置200は、第1の実施形態の蒸着装置100の構成に加えて、マスクチップ20の表面に保護膜を形成する処理室160を備えている。処理室160を除くその他の構成は、蒸着装置100の構成と同じである。
【0070】
本実施形態に係る蒸着装置200は、図5に示すように、成膜室110,120と、処理室130と、ストック室140と、搬送室150と、処理室160と、を備えている。成膜室110,120と、処理室130と、ストック室140と、処理室160とは、搬送室150の周囲に配置されており、それぞれが搬送室150に接続されている。したがって、成膜室110,120と、処理室130と、ストック室140と、処理室160とは、搬送室150を介して互いに接続されている。
【0071】
図示しないが、処理室160には、スパッタ処理機構が備えられている。スパッタ処理機構の構成は、公知の構成を適用することができる。処理室160では、スパッタ処理機構でスパッタ処理することにより、膜材料32が除去されたマスクチップ20の表面に、SiO2、SiON、SiN等からなる保護膜が形成される。なお、処理室160には、スパッタ処理機構の代わりにCVD処理機構が設けられていてもよい。
【0072】
<マスクのクリーニング方法>
次に、本実施形態に係るマスクのクリーニング方法について説明する。本実施形態に係るマスクのクリーニング方法は、蒸着装置200において、処理室160内でマスクチップ20の表面に保護膜を形成する保護膜形成工程をさらに備えている。
【0073】
保護膜形成工程では、処理室160内でスパッタ処理機構を用いてスパッタ処理を施し、例えば、厚さ1μmのSiO2からなる保護膜をマスクチップ20の表面に形成する。保護膜形成工程は、マスク1を初めて使用する前に行ってもよいし、除去工程を複数回行った後に行ってもよい。保護膜形成工程における条件は、公知の条件を適用することができる。なお、保護膜形成工程はマスク1の状態で行うが、マスク1全体に保護膜が形成されてもよい。
【0074】
先に述べた通り、塩素系のプロセスガスを用いてドライエッチングする際に、マスクチップ20の表面もエッチングされる。そこで、マスクチップ20の表面に予め保護膜を形成しておくことが望ましい。また、保護膜もエッチングされるため、除去工程を複数回行ったら、保護膜を再び形成することが望ましい。除去工程における1回のエッチングで、例えば厚さ5μmのAlを除去する場合であれば、除去工程を4回繰り返す毎に保護膜を再形成すればよい。
【0075】
上記第2の実施形態の構成によれば、以下の効果が得られる。
【0076】
処理室160内でスパッタ処理またはCVD処理を施すことにより、マスク1を蒸着装置200外に取り出すことなく、マスクチップ20の表面に保護膜を形成することができる。これにより、保護膜を形成するために成膜が停止される時間を大幅に短縮することができるとともに、出し入れの際にマスクチップ20が破損するリスクを回避できる。また、堆積した膜材料32を除去する際にマスクチップ20の表面の保護膜が失われても、保護膜を繰り返し形成できるので、マスクチップ20の耐久性を向上できる。
【0077】
(第3の実施形態)
次に、第3の実施形態に係る蒸着装置、およびマスクのクリーニング方法について説明する。上述の実施形態と共通する構成要素については同一の符号を付しその説明を省略する。
【0078】
<蒸着装置>
図6は、第3の実施形態に係る蒸着装置の概略構成を示す図である。本実施形態に係る蒸着装置300は、第2の実施形態の蒸着装置200の構成に加えて、マスクチップ20の表面を撥液化処理する処理室170を備えている。処理室170を除くその他の構成は、蒸着装置200の構成と同じである。
【0079】
本実施形態に係る蒸着装置300は、図6に示すように、成膜室110,120と、処理室130と、ストック室140と、搬送室150と、処理室160と、処理室170と、を備えている。成膜室110,120と、処理室130と、ストック室140と、処理室160と、処理室170とは、搬送室150の周囲に配置されており、それぞれが搬送室150に接続されている。したがって、成膜室110,120と、処理室130と、ストック室140と、処理室160と、処理室170とは、搬送室150を介して互いに接続されている。
【0080】
処理室170には、処理室130と同様に、プラズマ処理機構50と、真空ポンプ70と、マスフローコントローラ72と、マスフローコントローラ72を介して接続されたガスボンベ74と、が備えられている。処理室170では、マスクチップ20の表面に撥液化処理が施される。そのため、ガスボンベ74には、撥液化処理のためのプロセスガスが収容される。プロセスガスとしては、例えば、CHF3、CF4、SF6等のフッ素またはフッ素化合物を含んだガスが用いられる。
【0081】
<マスクのクリーニング方法>
次に、本実施形態に係るマスクのクリーニング方法について説明する。本実施形態に係るマスクのクリーニング方法は、蒸着装置300において、処理室170内でマスクチップ20の表面に撥液化処理を施す撥液化工程をさらに備えている。
【0082】
撥液化工程では、ガスボンベ74から処理室170内に、プロセスガスとしてフッ素系ガスが導入される。そうすると、プラズマ処理機構50により、処理室170内にフッ素プラズマが発生する。このフッ素プラズマによって、マスクチップ20の表面に撥液性が付与される。撥液化工程は、マスク1を初めて使用する前に行ってもよいし、除去工程の後に行ってもよい。第2の実施形態のように、除去工程の後に保護膜形成工程を行う場合は、撥液化工程を保護膜形成工程の後に行ってもよい。撥液化工程における条件は、公知の条件を適用することができる。
【0083】
マスクチップ20の表面に予め撥液化処理が施されていても、除去工程において撥液性が低下する。そのため、除去工程または保護膜形成工程の後に撥液化工程を行うことが望ましい。なお、撥液化工程はマスク1の状態で行うが、マスク1全体に撥液化処理が施されてもよい。
【0084】
上記第3の実施形態の構成によれば、以下の効果が得られる。
【0085】
処理室170内で撥液化処理を施すことにより、マスク1を蒸着装置300外に取り出すことなく、マスクチップ20の表面を撥液化できる。マスクチップ20の表面が撥液性であると、マスクチップ20の表面に堆積した膜材料32の除去が容易になる。また、マスク1の表面に撥液化処理を施すためにマスク1を蒸着装置300外に取り出さなくてよいので、成膜が停止される時間を大幅に短縮することができるとともに、出し入れの際にマスクチップ20が破損するリスクを回避できる。
【0086】
上記実施形態に対しては、様々な変形を加えることが可能である。変形例としては、例えば以下のようなものが考えられる。
【0087】
(変形例)
上述の実施形態では、成膜室110,120と、処理室130と、ストック室140と、処理室160と、処理室170とが、搬送室150の周囲に配置されていたが、このような形態に限定されない。成膜室110,120と、処理室130と、ストック室140と、処理室160と、処理室170とが連結され、それぞれの間で搬送機構が移動可能に構成されていてもよい。
【図面の簡単な説明】
【0088】
【図1】マスクの一例の概略構成を示す斜視図。
【図2】第1の実施形態に係る蒸着装置の概略構成を示す図。
【図3】第1の実施形態に係る蒸着装置が備える成膜室の構成例を模式的に示す図。
【図4】第1の実施形態に係る蒸着装置が備える処理室の構成例を模式的に示す図。
【図5】第2の実施形態に係る蒸着装置の概略構成を示す図。
【図6】第3の実施形態に係る蒸着装置の概略構成を示す図。
【符号の説明】
【0089】
1…マスク、1a,1b…面、2…ワーク、2a…被成膜面、10…支持基板、12…開口領域、14…マスク位置決めマーク、20…マスクチップ、22…開口部、24…アライメントマーク、30…蒸着源、32…膜材料、34…保持部、36,70…真空ポンプ、50…プラズマ処理機構、52…誘電板、54…誘導結合コイル、56,62…マッチングコントローラ、58,64…高周波電源、60…電極、66…載置部、72…マスフローコントローラ、74…ガスボンベ、100,200,300…蒸着装置、110,120…成膜室、130,160,170…処理室、140…ストック室、150…搬送室。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
シリコンからなり所定の膜パターンに対応する開口部を有するマスクチップと、前記マスクチップが複数取り付けられた支持基板と、を有するマスクを介して、ワークの被成膜面に膜材料を堆積させる少なくとも一つの成膜室と、
前記少なくとも一つの成膜室に接続されており、前記マスクをクリーニングする処理機構が設けられた少なくとも一つの処理室と、
を備えていることを特徴とする蒸着装置。
【請求項2】
請求項1に記載の蒸着装置であって、
前記処理機構はプラズマ処理機構であることを特徴とする蒸着装置。
【請求項3】
請求項2に記載の蒸着装置であって、
前記プラズマ処理機構には、塩素系のガスを含むプロセスガスが供給されることを特徴とする蒸着装置。
【請求項4】
請求項2に記載の蒸着装置であって、
前記プラズマ処理機構には、酸素を含むプロセスガスが供給されることを特徴とする蒸着装置。
【請求項5】
請求項2に記載の蒸着装置であって、
前記プラズマ処理機構には、フッ素系のガスを含むプロセスガスが供給されることを特徴とする蒸着装置。
【請求項6】
請求項1から5のいずれか1項に記載の蒸着装置であって、
前記少なくとも一つの処理室に接続されており、スパッタ処理機構またはCVD処理機構が設けられた処理室をさらに備えていることを特徴とする蒸着装置。
【請求項7】
シリコンからなり所定の膜パターンに対応する開口部を有するマスクチップと、前記マスクチップが複数取り付けられた支持基板と、を有するマスクを介して、少なくとも一つの成膜室内でワークの被成膜面に膜材料を堆積させた後に、
前記少なくとも一つの成膜室に接続された少なくとも一つの処理室内で、前記マスクに堆積した前記膜材料を除去する除去工程を備えていることを特徴とするマスクのクリーニング方法。
【請求項8】
請求項7に記載のマスクのクリーニング方法であって、
前記除去工程では、塩素プラズマを発生させて前記膜材料をエッチングすることを特徴とするマスクのクリーニング方法。
【請求項9】
請求項7に記載のマスクのクリーニング方法であって、
前記除去工程では、酸素プラズマを発生させて前記膜材料をアッシングすることを特徴とするマスクのクリーニング方法。
【請求項10】
請求項7から9のいずれか1項に記載のマスクのクリーニング方法であって、
前記少なくとも一つの処理室内で、前記マスクの表面に保護膜を形成する保護膜形成工程をさらに備えていることを特徴とするマスクのクリーニング方法。
【請求項11】
請求項7から10のいずれか1項に記載のマスクのクリーニング方法であって、
前記少なくとも一つの処理室内で、前記マスクの表面に撥液化処理を施す撥液化工程をさらに備えていることを特徴とするマスクのクリーニング方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【公開番号】特開2009−185362(P2009−185362A)
【公開日】平成21年8月20日(2009.8.20)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−28500(P2008−28500)
【出願日】平成20年2月8日(2008.2.8)
【出願人】(000002369)セイコーエプソン株式会社 (51,324)
【Fターム(参考)】