説明

薄膜トランジスタとその製造方法

【課題】a−IGZO薄膜の熱処理による閾値電圧が大きく負の値にシフトしてしまう問題の解決とデバイス作製プロセスの最高温度をプラスチック基板の軟化点よりも低く抑える。
【解決手段】基板と、ゲート電極と、ゲート絶縁膜と、チャネル層とを含み、該チャネル層としてIn−Ga−Zn−O系アモルファス酸化物半導体膜を用いた薄膜トランジスタにおいて、オゾンを含む酸化性雰囲気による熱処理後のa−IGZO薄膜の閾値電圧が0±5V以内、電界効果移動度が5cm/Vs以上である薄膜トランジスタ。該半導体膜を製膜した後、乾燥酸素中にオゾンを1.0容積%以下0.01容積%以上含有する乾燥酸素ガス雰囲気中で該半導体膜を100〜200℃の温度範囲内で1〜120分間、熱処理する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、In−Ga−Zn−O系アモルファス酸化物半導体膜をチャネル層とした薄膜
トランジスタ(TFT)とその製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
近年、水素化アモルファスシリコン(a−Si)及び多結晶シリコン(poly−Si)に代
わり、低温で高い電子移動度を有する薄膜が作製できる酸化物半導体をチャネル層とする
薄膜トランジスタ(TFT)の研究開発が活発に行われている[非特許文献1]。
【0003】
多くの酸化物半導体(例えば、酸化亜鉛など)は、高温・耐薬品性に優れていることに加
えて、光学バンドギャップが3.0eV以上を有することから、可視光領域の光を完全に
透過する。よって、透明酸化物半導体をTFTのチャネル層として用いることにより、可
視光に対して光応答性を示さない透明TFTが作製できる。したがって、液晶ディスプレ
イにおける駆動スイッチング用TFTとして応用することにより、液晶素子の開口率の向
上、光遮断マスクが不要になるなどの利点が期待されている。
【0004】
しかし、酸化亜鉛などの代表的な酸化物半導体では、残留電子キャリア濃度の低減が困難
である。また、電子キャリア濃度が小さく、高品質の酸化物薄膜を得るためには、高価な
単結晶基板の使用や高温製膜プロセスが必要である[非特許文献2]。 加えて、酸化亜鉛
は低温(室温)製膜でもアモルファス状態にならず、多くの結晶粒界を含んだ多結晶状態
である。多結晶酸化物からなるチャネル層を用いたTFTでは結晶粒界の欠陥によりTF
T特性は極めて悪くなる。
【0005】
多結晶酸化物をチャネル層としたTFTに共通的に発生する上記の課題を克服するため、
本発明者らは、2004年にアモルファス酸化物半導体材料を開発し、それをチャネル層
としたTFTを発表した[非特許文献3、特許文献1,2]。このTFTのチャネル層は結
晶状態における組成が、例えば、(In1-xx23(ZnO)m [mは、0又は6未満の数
又は自然数、Mは、B,Al,Ga,Y又はLu]で表される化合物のモルファス状態の
金属酸化物である。
【0006】
特に、アモルファスInGaO3(ZnO)m (以下、「a−IGZO」という)膜では、室
温堆積膜でも、ホール効果測定より求めた電子移動度が7cm2(Vs)-1以上の大きな値を
示し、電子キャリア濃度を再現性よく、安定に1015〜1020cm-3に制御することが可能
である[非特許文献4]。そのため、軟化点が300℃以下のプラスチック基板上へもTF
Tや電子回路を作製できる。
【0007】
a−IGZOをチャネル層としたTFT(以下、「a−IGZO-TFT」という)では、
チャネル中の伝導キャリアの動き易さを表す電界効果移動度が約10cm2(Vs)-1、閾値電
圧付近におけるゲート電圧の変動に対するドレイン電流の変化の度合いを示すサブスレシ
ョルド(subthreshold)値が約0.2V/decade、電流オン・オフ(On/Off)比が約108
上という優れたトランジスタ特性を示す[非特許文献5]。また、TFTのチャネル層が、
結晶粒界を一切含まないアモルファス状態であることから、トランジスタ特性に優れ、T
FT素子間のトランジスタ特性のばらつきが少ない [非特許文献6]。したがって、大面
積でも特性が均一なTFTが作製できるので、大面積平面ディスプレイ用の駆動スイッチ
ングTFTとしての応用を目指した開発が精力的に進められている。
【0008】
現在までに、n型アモルファス酸化物半導体として、a−IGZO以外に2成分系In−
Zn−O、In−Ga−O、Zn−Sn−O、3成分系Sn−Ga−Zn−Oなどが報告
されている[非特許文献7]。これらの金属酸化物も室温堆積膜はアモルファス状態であり
、TFTのnチャネル層へ適用できる。これらの金属酸化物では、伝導帯を構成する電子
軌道は金属のns軌道であることから、軌道半径の大きな5s軌道を有するInやSnを
多く含んだ組成系で、高い飽和移動度が得られる[非特許文献8]。しかしながら、デバイ
ス特性の再現性・安定性の観点からは、In−Ga−Zn3成分系アモルファス酸化物の
方が、2成分系アモルファス酸化物よりも、優れた性能、特に閾値電圧、電界効果移動度
の長期安定性を示すことが知られている。
【0009】
よって、アモルファス酸化物半導体の中でも、特に3成分系のa−IGZOが広く研究さ
れている。現在までに、a−IGZO-TFT を用いた発振回路(リングオシレータ)に
おいて410kHzで動作することなどが実証されている[非特許文献9]。また、画素と
駆動回路のスイッチング素子用TFTとしてa−IGZO-TFTを用いた19インチア
クティブマトリクス方式の有機ELディスプレイ(AMOLED)や37インチアクティ
ブマトリクス方式の液晶ディスプレイ(AMLCD)などが 実用試作ディスプレイとし
て開発されている[非特許文献10,11]。
【0010】
AMOLEDでは発光部位に自発光型エレクトロルミネセンス(EL)素子を用いること
から、高輝度・高解像度・高応答性に加えて低消費電力・省スペース化などの有利性から
次世代ディスプレイとして期待されている。AMOLEDにおける発光素子制御用TFT
としては主に二つの条件が要求される。第一の条件は、電流を注入することで得るエレク
トロルミネッセンスを取り出す電流注入型有機発光ディスプレイであることから、高輝度
・高応答性を実現するためには、高移動度・低サブスレッショルド値を示すTFTが望ま
しいことである。第二の条件は、大面積デバイス特性の均一性とデバイス特性、特に長時
間駆動に対する閾値電圧の安定性が必要なことである。
【0011】
現在まで、AMOLED用のTFTのチャネル材料として高移動度を示すpoly−Si
TFTが検討されているが、多結晶状態による素子間におけるTFT特性のばらつきが大
きく、大面積化が非常に困難である[非特許文献12]。よって、大面積ディスプレイ作製
においてはa−Siの方が有利であるが、トランジスタが流せる電流量の指標である移動
度が2cm2/Vs以下と小さいなどの問題がある[非特許文献13]。現在、この問題は
電極幅の大きいa−Si TFT構造を使うことなどで回避されているが、移動度の大きい
TFTを使えば開口率の増大や高速動作の面で大きな利点となる。
【0012】
a−IGZO−TFTでは、チャネル層がアモルファス状態であることから多結晶半導体
デバイスと異なりTFT素子間特性の均一性に優れている。また、a−IGZO-TFT
ではa−Si−TFTと比較して、10倍以上の電界効果移動度、低サブスレショルド値
を有する高性能TFTが作製できる。よって、AMOLED用のスイッチングTFTとし
てa−IGZO−TFTが特に有望である。
【0013】
現在までに、a−IGZO−TFTにおける電界効果移動度及びサブスレッショルド値な
どのデバイス特性改善・向上において、a−IGZO薄膜を300℃以上で熱処理するこ
とが非常に有効であることが知られている。容量−電圧(C-V)測定より、a−IGZO
薄膜中のサブギャップ準位は約1017cm-3程度であり、このサブギャップ準位は熱処理
により低減され、TFT特性は向上する[非特許文献14]。また、Nomura et al.,は、露
点温度30〜95℃の水蒸気を含んだ酸素(湿潤酸素)雰囲気中で300℃でa−IGZ
O薄膜の熱処理を行うことにより、a−IGZO−TFTの移動度、サブスレショルド値
を向上させ、安定性も改善できると報告している [非特許文献15]。
【0014】
現在まで、a−IGZO−TFTの特性改善を目的としたa−IGZO薄膜の熱処理にお
ける熱処理雰囲気は、大気中、酸素ラジカル、オゾン、水蒸気、窒素中、乾燥酸素中、又
は湿潤酸素中で実施されている(特許文献3〜5)。しかし、a−IGZOを含む多くの
酸化物半導体では、熱処理による材料特性及びTFT特性に及ぼす影響は非常に大きいと
考えられる。既に、乾燥酸素や湿潤酸素雰囲気中での熱処理によるTFT特性の改善に関
してはいくつかの報告はあるが、200℃以下での熱処理では大きな移動度の改善が得ら
れないこと、閾値電圧が大きく負にシフトすることなどが問題となっている[非特許文献
16,17]。
【先行技術文献】
【非特許文献】
【0015】
【非特許文献1】R. L. Hoffman et al, Appl. Phys. Lett. 82, 733 (2003).
【非特許文献2】K. Nomura et al, Science. 300, 1269 (2003).
【非特許文献3】K. Nomura et al, Nature (London) 432, 488 (2004).
【非特許文献4】A. Takagi et al, Thin Solid Films 486 38(2005).
【非特許文献5】H. Yabuta et al, Appl. Phys. Lett. 89 112123 (2006).
【非特許文献6】R. Hayashi et al, Journal of the SID 15/11 915 (2007).
【非特許文献7】H. Q. Chiang et al, J. Vac. Sci. Technol. B 24, 2702 (2006).
【非特許文献8】H. Kumomi et al, Thin Solid Films 516, 1516 (2008).
【非特許文献9】M. Ofuji et al, IEEE Elect. Device Lett. 28 273 (2007).
【非特許文献10】H.D. Kim et al., IMID2009 DIGEST, 3-1 (2009).
【非特許文献11】M.-C. Hung et al., Abstract of TAOS2010 (2010).
【非特許文献12】R.M.A. Dawson et al, SID 98 Digest. p. 11 (1998).
【非特許文献13】M. J. Powell et al, Phys. Rev. B 87, 4160 (1992).
【非特許文献14】M. Kimura et al, Appl. Phys. Lett. 92, 133512 (2008).
【非特許文献15】K. Nomura et al, Appl. Phys. Lett. 93, 192107 (2006).
【非特許文献16】Y. Kikuchi et al., Abstract of TOEO6, 16p-P164 (2009).
【非特許文献17】K. Nomura et al, Appl. Phys. Lett. 95, 013502 (2009).
【特許文献】
【0016】
【特許文献1】特開2004-103957号公報
【特許文献2】WO2005/088726号公報
【特許文献3】特開2006-165531号公報
【特許文献4】特開2007-311404号公報
【特許文献5】特開2008-53356号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0017】
2004年に、本発明者らがIn−Ga−Zn−O系アモルファス酸化物をチャネル層と
する薄膜トランジスタを報告して以来、そのTFT特性・安定性の改善、向上に関する研
究が活発に研究されている。
【0018】
現在までに、電界効果移動度やサブスレッショルド値などのTFT特性及びその安定性の
向上に関して、300℃以上における空気中又は乾燥酸素雰囲気中でのa−IGZO薄膜
の熱処理が有効なことがよく知られている。また、湿潤酸素雰囲気中での300〜500
℃の範囲におけるa−IGZO薄膜の熱処理では、さらにTFT特性を改善できるが、2
00℃以下におけるa−IGZO薄膜の熱処理では移動度の改善は8cm2/Vs程度に
限られること、閾値電圧が−15V以下と大きく負の値にシフトしてしまう問題がある。
OLEDディスプレイや80インチ以上の画面サイズ・240Hz以上のフレームレート
・フルハイビジョン解像度の液晶ディスプレイには電界効果移動度が5cm2/Vs以上
が必要である。また、閾値電圧シフトを大幅に低減する必要がある。
【0019】
また、プラスチック基板上にディスプレイや電子回路を作製するためには、デバイス作製
プロセスの最高温度をプラスチック基板の軟化点よりも低く抑える必要があり、例えば、
ポリイミド基板の場合で300℃、ポリエチレンテレフタラート(PET)基板の場合で
150℃以下に抑える必要がある。
【課題を解決するための手段】
【0020】
プラスチック基板上にアクティブマトリクス方式の液晶ディスプレイ及び有機ELディス
プレイを形成するためには、300℃以下の、より好ましくは、200℃以下のデバイス
作製プロセスとする必要がある。本発明者は、200℃以下の低温における熱処理によっ
て、処理後のa−IGZO薄膜の閾値電圧が0±5V以内、TFTの移動度が5cm2
Vs以上となる条件を見出した。
【0021】
すなわち、本発明は、基板と、ゲート電極と、ゲート絶縁膜と、チャネル層とを含み、該
チャネル層としてIn−Ga−Zn−O系アモルファス酸化物半導体膜を用いた薄膜トラ
ンジスタにおいて、オゾンを含む乾燥酸素ガス雰囲気による熱処理後のa−IGZO薄膜
の閾値電圧が0±5V以内、電界効果移動度が5cm2/Vs以上であることを特徴とす
る薄膜トランジスタ、である。
【0022】
また、本発明は、基板と、ゲート電極と、ゲート絶縁膜と、チャネル層とを含み、該チャ
ネル層としてIn−Ga−Zn−O系アモルファス酸化物半導体膜を用いた薄膜トランジ
スタの製造方法において、該半導体膜を製膜した後、乾燥酸素中にオゾンを1.0容積%
以下0.01容積%以上含む乾燥酸素ガス雰囲気中で該半導体膜を100〜200℃の温
度範囲内で1〜120分間、熱処理することを特徴とする薄膜トランジスタの製造方法、
である。
【0023】
本発明の製造方法によって、特に、アクティブマトリクス方式の液晶ディスプレイ及び有
機ELディスプレイのバックプレーンとして、実用可能なTFT特性を実現することがで
きる。
【発明の効果】
【0024】
本発明によれば、チャネル層としてa−IGZO薄膜を用いるTFTにおいて、製膜後に
酸化性雰囲気中で熱処理する場合の問題であった閾値電圧が大きく負にシフトしてしまう
問題とデバイス作製プロセスの最高温度をプラスチック基板の軟化点よりも低く抑えると
い問題を、従来の製造プロセスを変更することなく熱処理雰囲気の制御と加熱温度の低温
化により同時に解決することができる。
【図面の簡単な説明】
【0025】
【図1】実施例1のTFTの伝達特性のグラフである。
【図2】比較例1のTFTの伝達特性のグラフである。
【図3】比較例2のTFTの伝達特性のグラフである。
【図4】本発明の製造方法を適用するa−IGZO薄膜をチャネル層とするTFTの構造の一例を示す模式図である。
【発明を実施するための最良の形態】
【0026】
本発明者は、基板と、ゲート電極と、ゲート絶縁膜と、チャネル層とを含み、該チャネル
層としてIn−Ga−Zn−O系アモルファス酸化物半導体膜を用いた薄膜トランジスタ
において、オゾンを含む乾燥酸素ガス雰囲気による熱処理後のa−IGZO薄膜の閾値電
圧が0±5V以内、電界効果移動度が5cm2/Vs以上である薄膜トランジスタを実現
した。
【0027】
図4に、本発明のTFTの一例である基板1上に形成した熱酸化膜SiO2をゲート絶縁
層2とするボトムゲート構造のトランジスタの模式図を示しているが、本発明のTFTは
、ボトムゲート構造に限らない。ソース電極4、ドレイン電極5、ゲート電極6の形成は
通常採用されている材料、方法を用いればよい。
【0028】
本発明のTFTのチャネル層3は、真空容器中で、例えば、InGaZnO4焼結体又は
In23−Ga23−ZnOを含む3成分酸化物焼結体をターゲットとして用いて、PL
D 法やスパッタ法などで堆積させる製膜工程により形成できる。例えば、RFマグネト
ロンスパッタリング(RFMS)法を用いる場合は、容量結合型プラズマを用いてInG
aZnO4焼結体のターゲットをスパッタリングし、加熱していない基板上に電源出力3
0〜70W、基板−ターゲット間距離40〜90mm、プラズマガスはArとO2の混合
ガス、全圧を0.1〜1Pa、酸素分圧を0.01〜0.1Paで行うことが好ましい。
基板は100〜200℃の温度範囲の熱処理に耐え得る材料であれば制限されない。製膜
工程は酸素分圧を制御できれば、PLD法やスパッタ法など制限されない。
【0029】
a−IGZO薄膜の製膜工程では、残留電子キャリア濃度を1015〜1020cm-3で制御
する目的で製膜室内雰囲気の酸素分圧を適正な範囲に設定する。なお、酸素分圧とは、流
量制御装置により製膜室内に意図的に導入された酸素ガスの分圧のことを意味する。酸素
分圧は、通常0.01〜1Pa程度とする。酸素分圧が小さいときは、酸素欠損を多く含
む伝導性薄膜が作製される。また、酸素分圧を大きくすることにより、半導体及び半絶縁
体薄膜に変化する。
【0030】
a−IGZO薄膜を製膜した後、加熱装置に移して酸化性雰囲気中で熱処理する。紫外線
(UV)ランプ及びプラズマオゾン発生器により発生させたオゾンを1.0容積%以下、
0.01容積%以上添加した乾燥酸素ガスとなるように両者の流量を調整して連通接続し
た供給管を通して加熱装置に導入する。熱処理雰囲気は大気圧下が好ましいが、必要に応
じて減圧下、又は加圧下でもよい。酸素雰囲気中に水分を含むとオゾンと反応してオゾン
含有の効果が減殺されるので乾燥酸素を用いる。オゾン含有量が0.01容積%未満の場
合はオゾン濃度が十分でなく、良好な結果が得られない。また、1.0容積%超では理由
は定かでないがTFT特性の改善効果が乏しい。より好ましくは0.05〜0.5容積%
とする。
【0031】
乾燥酸素ガスは、工業用乾燥酸素ガスを用いる。乾燥酸素ガスは水蒸気分圧が10-3Pa
以下が好ましい。オゾン発生装置は、UVランプ単独、プラズマオゾン発生器単独、これ
らの組み合わせなど制限されない。加熱装置は、抵抗加熱炉、赤外線加熱炉など制限され
ない。炉内温度が熱処理温度になるように制御する。
【0032】
加熱温度が90℃以下ではTFT特性に変化は認められず、また、加熱温度が250℃以
上ではオゾンが自己分解して、オゾンを含有させる効果がなくなるとともに、300℃以
上ではチャネル層の抵抗が大きくなりすぎ、TFT動作しない。そのため、加熱温度は1
00℃〜200℃が好ましく、100℃〜150℃がより好ましい。加熱時間が1分以内
ではTFT特性に変化は認められず、また、120分以上では処理に要する時間(タクト
タイム)が長くなる。好ましくは10分〜60分とする。
【0033】
上記の熱処理により、a−IGZO薄膜のバンドギャップ内の欠陥準位密度が減り、TF
Tのサブスレッショルド値を減少させると共に、閾値電圧が大きな負の値にシフトするこ
とを防ぐことができる。よって、熱処理後のa−IGZO薄膜の閾値電圧が0±5V以内
、電界効果移動度が5cm2/Vs以上である薄膜トランジスタが得られる。
【0034】
さらに詳しく、本発明を実施例に基いて説明する。
【実施例1】
【0035】
a−IGZO薄膜をチャネル層として、図4に示す構造のボトムゲート型TFTを作製し
た。初めに、TFTのチャネル層として、n+-Si基板1上に製膜したSiO2熱酸化膜
2上に厚さ30nmのa−IGZO層3を製膜した。
【0036】
a−IGZO薄膜層3はRFマグネトロンスパッタリング(RFMS)法により堆積した
。RFMS装置としては、CANON ANELVA社製RFMS製膜装置を用いた。平
行平板電極に13.56MHzのラジオ波電力を引加する容量結合型プラズマを用いてI
nGaZnO4焼結体のターゲットをスパッタリングし、加熱していないSiO2熱酸化膜
2上にa−IGZO薄膜を製膜した。RF電源出力は30〜70W、基板−ターゲット間
距離は40〜90mm、プラズマガスはArとO2の混合ガス、全圧を0.1〜1Pa、酸
素分圧を0.01〜0.1Paの範囲とした。
【0037】
製膜後に試料をRFMS装置から取り出し、サムコ社製UVオゾンクリーナー(型式 U
V−1)に搬送した。次に、1気圧のオゾン含有乾燥酸素(オゾン含有量0.5容積%)
雰囲気中で100℃(実施例1−1)、130℃(実施例1−2)、150℃(実施例1
−3)、で各15分の熱処理を行った。乾燥酸素は工業用酸素を上記装置に供給し、UV
ランプ及びプラズマオゾン発生器を用いてオゾンを生成した。試料温度はヒーターによる
基板加熱機構により上記温度に設定した。
【0038】
その後、フォトリソグラフィーと電子線蒸着法によりAu(30nmt) /Ti(5nmt)
層からなるソース電極4及びドレイン電極5を作製した。また、基板1にAl層からなる
ゲート電極6を作製した。チャネル長(L)及びチャネル幅(W)はL/W=50/300μm
とした。
[比較例1、2]
【0039】
実施例1と同じ方法でa−IGZO層を製膜した。次に、オゾンを含まない1気圧の乾燥
酸素中で100℃(比較例1−1)、150℃(比較例1−2)、200℃(比較例1−
3)の温度で熱処理を行った。また、1気圧、露点温度50℃の湿潤酸素中で100℃(
比較例2−1)、150℃(比較例2−2)、200℃(比較例2−3)の温度で熱処理
を行ってa−IGZO薄膜をチャネル層とするボトムゲート型TFTを作製した。なお、
加熱条件は加熱雰囲気を変更した以外は、実施例1と同じ条件である。
【0040】
作製したTFTは大気中、暗所にて、出力特性、伝達特性の解析を行った。図1に、実施
例1のTFTの伝達特性を示す。比較のために、150℃で0.5分の短時間熱処理した
結果の伝達特性を図1に示す。実施例1−1のTFTの移動度は6.7cm2/Vs、閾
値電圧は1.5Vであったが、サブスレッショルド値は0.78V/decadeであっ
た。実施例1−2のTFTの移動度は8.9cm2/Vs、閾値電圧は0.3Vであり、
サブスレッショルド値も0.4V/decadeへ改善した。実施例1−3のTFTの移
動度は10.3cm2/Vs、サブスレッショルド値は0.26V/decadeであり
、閾値電圧−2.0Vが得られた。実施例1では、閾値電圧は0±2Vの範囲にあること
が分かる。
【0041】
図2に、比較例1のa−IGZO薄膜をチャネル層としたTFTの伝達特性を示す。比較
例1−1のTFTの移動度は4.1cm2/Vs、サブスレッショルド値は0.53V/
decade、比較例1−2のTFTの移動度は8.9cm2/Vs、サブスレッショル
ド値は0.38V/decadeと、実施例1のTFTよりも悪い。また、閾値電圧は、
比較例1−1では8.8V、比較例2−1では−5Vとなり、大きく負の値にシフトした
。比較例1−3のTFTの移動度は11cm2/Vs、サブスレッショルド値は0.29
V/decadeであったが、閾値電圧は−10Vと、やはり大きく負の値にシフトした

【0042】
図3に、比較例2のa−IGZO薄膜をチャネル層としたTFTの伝達特性を示す。比較
例2−1のTFTの移動度は4.1cm2/Vs、サブスレッショルド値は0.53V/
decade、比較例2−2のTFTの移動度は8.9cm2/Vs、サブスレッショル
ド値は0.4V/decadeと、実施例1のTFTよりも悪い。また、閾値電圧は、比
較例2−1では−3.1V、比較例2−2では−40Vとなり、大きく負の値にシフトし
た。比較例2−3では閾値電圧は−50V以下となり、TFTの移動度もサブスレッショ
ルド値も測定不能であった。よって、TFT特性は、実施例1のTFTでは比較例1、2
よりも大幅に改善され、特に、閾値電圧を−2 〜 2Vの範囲で制御できたことが分かる

【0043】
実施例及び比較例の結果を表1にまとめて示す。
【0044】
【表1】

【産業上の利用可能性】
【0045】
本発明によれば、熱処理の影響による閾値電圧シフトを低減して、In−Ga−Zn−O
系アモルファス酸化物半導体膜を用いた薄膜トランジスタにおいて、a−IGZO薄膜の
閾値電圧 が0±5V以内、電界効果移動度が5cm2/Vs以上であるTFTを提供でき
る。また、大面積有機LED(OLED)ディスプレイ及び液晶ディスプレイにおいて、
TFT作製プロセスの低温化は、廉価なガラス基板を使用できる、昇温・降温時間の低減
、熱コストの削減、熱膨張によるパターン合わせ精度の低下の抑制など、メリットが多い
。また、プラスチック基板上にこれらディスプレイや電子回路を作製する場合は、軟化点
の高いポリイミドを使っても300℃、軟化点の低いPETを使う場合は150℃以下に
することが必要である。本発明の方法は、a−IGZO薄膜を100〜200℃で熱処理
することによって、製作したTFTの閾値電圧を0V近辺で制御できることにより、単純
な回路を用い、TFTがオフ時の印加電圧を下げることが可能となる。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
基板と、ゲート電極と、ゲート絶縁膜と、チャネル層とを含み、該チャネル層としてIn
−Ga−Zn−O系アモルファス酸化物半導体膜を用いた薄膜トランジスタにおいて、オ
ゾンを含む乾燥酸素ガス雰囲気による熱処理後のa−IGZO薄膜の閾値電圧が0±5V
以内、電界効果移動度が5cm2/Vs以上であることを特徴とする薄膜トランジスタ。
【請求項2】
基板と、ゲート電極と、ゲート絶縁膜と、チャネル層とを含み、該チャネル層としてIn
−Ga−Zn−O系アモルファス酸化物半導体膜を用いた薄膜トランジスタの製造方法に
おいて、該半導体膜を製膜した後、乾燥酸素中にオゾンを1.0容積%以下0.01容積
%以上含む乾燥酸素ガス雰囲気中で該半導体膜を100〜200℃の温度範囲内で1〜1
20分間、熱処理することを特徴とする薄膜トランジスタの製造方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【公開番号】特開2011−216574(P2011−216574A)
【公開日】平成23年10月27日(2011.10.27)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−81588(P2010−81588)
【出願日】平成22年3月31日(2010.3.31)
【出願人】(503360115)独立行政法人科学技術振興機構 (1,734)
【Fターム(参考)】