説明

薄膜トランジスタの製造方法

【課題】小粒径の多結晶シリコン層と、大粒径の多結晶シリコン層を同時に作る手法として、シリコン層の堆積時に小粒径の多結晶シリコン層を形成し、所望の領域のみにCWレーザーを照射し大粒径化する技術が知られている。しかし、この技術を用いる場合、小粒径の多結晶シリコン層中に不対電子を埋める水素を残しての処理が必要となり、製造工程にかかる時間が長くなるという課題がある。
【解決手段】一部に金属層311がある基板310上に窒化珪素層312を形成し、窒化珪素層312上に、酸化珪素層313を形成し、パルスレーザーを照射する。酸化珪素層313の層厚により小粒径の多結晶シリコン層と大粒径の多結晶シリコン層とが入れ替わるように形成されるため、小粒径の多結晶シリコン層と、大粒径の多結晶シリコン層を同時に形成することが可能となる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、薄膜トランジスタの製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
薄膜トランジスタ(以下TFTと記載する)は液晶装置や、有機エレクトロルミネッセンス装置(以下有機EL装置と記載する)等に好適に用いられている。より具体的には、論理演算や信号処理を行う周辺回路を構成する素子や、画素の制御を行う素子としてTFTは用いられてきている。
【0003】
高速動作を要求される昨今では、周辺回路を構成する素子や、画素の明暗を制御する素子として、画素領域内に配置されるTFTを構成する半導体層には、多結晶シリコン層が好適なものとして用いられている。
【0004】
ここで、TFTを構成する多結晶シリコン層としては、周辺回路に対しては高速動作が可能となるよう配向方向が揃えられ、かつTFTの移動度を低下させる結晶粒界密度の低い、すなわち大粒径の多結晶シリコン層を用いることが好ましい。このような多結晶シリコン層の形成方法については、特許文献1に記載されている。
【0005】
一方、画素の制御に対しては、優れた画質を得るためには、TFTの特性が面内で均一となるよう、配向方向が分散され、かつ粒径が揃った小粒径の多結晶シリコン層を用いることが好ましい。
【0006】
多結晶シリコン層の粒径を大きくした場合、配向方向のわずかな差や、粒形状の違いにより、TFTの移動度に分布が生じる。そのため、特に電流駆動型の有機EL装置では、駆動電流が発光面内でばらつくこととなり、画質の低下を招くという課題が生じる。
【0007】
つまり、画素領域と周辺回路が位置する周辺回路領域とでは、多結晶シリコン層に望まれる粒径や配向性は異なったものとなる。
【0008】
具体的には、画素領域には、配向方向を分散し、かつ粒径を揃え均一性を向上させた小粒径の多結晶シリコン層を形成することが好ましい。同時に、周辺回路領域には、配向方向を揃え、かつ粒径を大きくしTFTの移動度を向上させることを可能とする大粒径の多結晶シリコン層を形成することが望ましい。
【0009】
このような複数の特性を含む多結晶シリコン層を得るべく、非特許文献1では、小粒径の多結晶シリコン層を形成し、所望の領域のみにCWレーザーを照射することで、小粒径の多結晶シリコン層と、大粒径の多結晶シリコン層を作成する技術が公開されている。
【0010】
【特許文献1】特開2002−176180号公報
【非特許文献1】2008年秋季応用物理学会学術講演会講演予稿集P729(2008)
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0011】
小粒径の多結晶シリコン層を化学気相成長(CVD)法等により形成する場合、不対電子(ダングリングボンド)は、結晶粒界だけでなく結晶粒内にも存在しており、それらを埋めるために水素を導入することが好適である。更に、製造工程中で結晶粒内の水素が脱離してしまうと粒内の不対電子を修復することは難しく、できる限りこの水素を脱離させないことが求められる。
【0012】
それに対して、CWレーザーによる結晶化では、水素が多量に存在していると小粒径の多結晶シリコン層がアブレーションによって蒸発してしまうため、あらかじめ膜中の水素を1at%以下程度にまで、下げておく必要がある。
【0013】
水素の脱離には一般的には400℃程度のアニールを用いて行なわれるが、この手法では画素領域と対応する小粒径の多結晶シリコン層の水素まで離脱し、この領域に形成されるTFTの電気的な特性(例えば移動度)が低下するため、大粒径の多結晶シリコン層を用いたTFTを作製すべき領域だけに低パワーでのCWレーザーによって水素の脱離を行うことが好ましい。すなわち2回のレーザースキャンを行う必要があり、スループットが低下してしまうという課題がある。更にガラス基板上に位置する周辺回路領域のみにレーザースキャンを行う必要があるため、特に一枚のガラス基板から複数枚の小型有機EL装置を取り出す場合、小型有機EL装置の周辺回路部のみを選択してCWレーザー光を照射することが必要となる。そのため、更に量産性が低下するという課題がある。
【課題を解決するための手段】
【0014】
本発明は、上述の課題の少なくとも一部を解決するためになされたものであり以下の形態又は適用例として実現することが可能である。ここで、「上」とは、基板裏面から基板表面に向かう方向と定義する。また、「能動領域」とは、薄膜トランジスタ(TFT)が形成される領域と定義する。
【0015】
[適用例1]本適用例にかかる薄膜トランジスタの製造方法は、基板表面に位置する能動領域の一部に金属層を形成する工程と、前記能動領域を覆う窒化珪素層を形成する工程と、前記窒化珪素層を覆う、層厚20nm以上100nm未満の酸化珪素層を形成する工程と、前記酸化珪素層を覆うシリコン層を形成する工程と、前記シリコン層にパルス状エキシマレーザー光を走査しながら照射し、前記金属層を覆う領域に第1半導体層を形成し、前記金属層が無い領域に第2半導体層を形成する工程と、前記第1半導体層をチャネルとして用いて、第1薄膜トランジスタを形成し、前記第2半導体層をチャネルとして用いて、第2薄膜トランジスタを形成する工程と、を備えることを特徴とする。
【0016】
これによれば、一度のエキシマレーザー光走査により、異なる特性を有する薄膜トランジスタを形成することが可能となる。この条件で半導体層を形成した場合、金属層を覆う領域に形成される第1半導体層は配向方向が分散され、かつ結晶粒径が揃えられた状態として形成されるため、均質な半導体層が形成される。そのため、第1半導体層をチャネルとして用いる第1薄膜トランジスタの電気的特性は均質性が高い。そのため、典型的な用途となる表示パネルを扱う場合、画素領域に第1薄膜トランジスタを割り当てることで、面内均一性が高い表示を行うことができる。また、金属層が無い領域に形成される第1半導体層は配向方向が揃えられ、かつ結晶粒径が大きい状態で形成されるため、高い移動度を有する半導体層が形成される。そのため、第2半導体層をチャネルとして用いる第2薄膜トランジスタの相互コンダクタンスが高くなる。そのため、周辺回路領域に第2薄膜トランジスタを割り当てることで高速動作させることが可能となる。そのため、高速処理が必要な高精細画像に対して対応することが可能となる。さらに、第1薄膜トランジスタと基板との間には、金属層が配置されることになる。金属層は遮光性が高いため、特に透明基板を用いた場合、画素を駆動する第1薄膜トランジスタは自己整合的に遮光される。そのため、光の侵入により生じるキャリア起因のリーク電流の発生を抑制することが可能となり、高いコントラストを有する表示パネルを形成し得る薄膜トランジスタの製造方法を提供することが可能となる。
【0017】
[適用例2]本適用例にかかる薄膜トランジスタの製造方法は、基板表面に位置する能動領域の一部に金属層を形成する工程と、前記能動領域を覆う窒化珪素層を形成する工程と、前記窒化珪素層を覆う、層厚100nm以上500nm以下の酸化珪素層を形成する工程と、前記酸化珪素層を覆うシリコン層を形成する工程と、前記シリコン層にパルス状エキシマレーザー光を走査しながら照射し、前記金属層が無い領域に第1半導体層を形成し、前記金属層が有る領域に第2半導体層を形成する工程と、前記第1半導体層をチャネルとして用いて、第1薄膜トランジスタを形成し、前記第2半導体層をチャネルとして用いて、第2薄膜トランジスタを形成する工程と、を備えることを特徴とする。
【0018】
これによれば、一度のエキシマレーザー光走査により、異なる特性を有する薄膜トランジスタを形成するための第1半導体層と第2半導体層を同時に形成することが可能となる。この条件で半導体層を形成した場合、金属層が無い領域に形成される第1半導体層は配向方向が分散され、かつ結晶粒径が揃えられた状態として形成されるため、均質な半導体層が形成される。そのため、第1半導体層をチャネルとして用いる第1薄膜トランジスタの電気的特性は均質性が高い。そのため、典型的な用途となる表示パネルを扱う場合、画素領域に第1薄膜トランジスタを割り当てることで、面内均一性が高い表示を行うことができる。また、金属層を覆う領域に形成される第2半導体層は配向方向が揃えられ、かつ結晶粒径が大きい状態で形成されるため、高い移動度を有する半導体層が形成される。そのため、第2半導体層をチャネルとして用いる第2薄膜トランジスタの相互コンダクタンスが高くなる。そのため、周辺回路領域に第2薄膜ランジスタを割り当てることで高速動作させることが可能となる。そのため、高速処理が必要な高精細画像に対して対応することが可能となり、短い工程で表示パネルを形成し得る薄膜トランジスタの製造方法を提供することが可能となる。
【0019】
[適用例3]上記適用例にかかる薄膜トランジスタの製造方法であって、前記パルス状エキシマレーザー光は前記シリコン層の同一箇所に40回以上150回以下の回数照射されることを特徴とする。
【0020】
上記した適用例によれば、パルス状エキシマレーザー光を40回以上の回数照射することで、第2半導体層の粒径を大きくし、かつ配向方向を揃えることが可能となる。そのため、第2半導体層をチャネルとして用いることで、大きな相互コンダクタンスを有する第2薄膜トランジスタを形成することが可能となる。また、150回以下の回数に抑えることで、シリコン層が受ける損傷を抑えて第1半導体層、第2半導体層を得ることができる。加えて、150回以下の回数に抑えることで、第1半導体層、第2半導体層を得る工程に要する時間を抑えることができ、スループットを大きくすることが可能となる。
【0021】
[適用例4]上記適用例にかかる薄膜トランジスタの製造方法であって、前記金属層の厚さは、30nm以上500nm以下であることを特徴とする。
【0022】
上記した適用例によれば、金属層の厚さを30nm以上にすることで、パルス状エキシマレーザー光の照射に伴い生じる熱を吸収することが可能となる。また、500nm以下に抑えることで、金属材料を堆積する際に発生する応力による金属材料のクラックの発生を抑制することができる。また、500nm以下に抑えることで、金属層を覆う窒化珪素層や、酸化珪素層の段差被覆性が低い条件でも金属層を被覆することが可能となる。
【0023】
[適用例5]上記適用例にかかる薄膜トランジスタの製造方法であって、前記窒化珪素層の厚さは、50nm以上500nm以下であることを特徴とする。
【0024】
上記した適用例によれば、窒化珪素層の厚さを50nm以上とすることで、金属層や基板からの不純物侵入を防止することができる。また、500nm以下にすることで、窒化珪素層を堆積する際に発生する応力によるクラックの発生を抑制することができる。また、500nm以下に抑えることで、金属層とシリコン層との熱的結合を密にすることが可能となる。
【0025】
[適用例6]上記適用例にかかる薄膜トランジスタの製造方法であって、前記シリコン層の厚さは、20nm以上100nm以下であることを特徴とする。
【0026】
上記した適用例によれば、シリコン層の厚さが20nm以上あることで、パルス状エキシマレーザー光の照射を行った際でのシリコン層の層切れを防止することができる。また、100nm以下に抑えることで、パルス状エキシマレーザー光の照射による完全熔融条件を満たすことが可能となる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0027】
以下、本発明を具体化した各実施形態を図面に基づいて説明する。
(第1の実施形態:薄膜トランジスタの適用例)
以下、本実施形態にかかる薄膜トランジスタ(以下TFTと呼称する)の適用例について図面を用いて説明する。図1は、有機ELパネルを例とした場合に、周辺回路領域と画素領域に対して、後述する第3の実施形態や第4の実施形態に示されるTFTの製造方法を用いて形成された、互いに特性の異なるTFTを形成した場合の等価回路図である。画素領域100には第1TFT108が形成され、周辺回路領域140には第2TFT112が形成される。
【0028】
図1に示す有機ELパネル10は、周辺回路領域140に形成された走査線駆動回路120及び信号線駆動回路130、第2TFT112、画素領域100、走査線102、信号線106、単位セル200(R,G,B)、そして単位セル200内にある第1TFT108、保持容量110、有機EL素子202を含む。
【0029】
周辺回路領域140に形成された走査線駆動回路120及び信号線駆動回路130は、走査線102及び信号線106に有機EL素子202(R,G,B)の輝度を制御する信号を出力する機能を有している。
【0030】
第2TFT112は、走査線駆動回路120及び信号線駆動回路130中に形成され、画像信号を処理し、走査線102及び信号線106に、有機EL素子202(R,G,B)の輝度を制御する信号を出力する機能を有している。第2TFT112は、画像信号を高速で処理する必要があるため、相互コンダクタンスが高いことが好ましい。そのためには、結晶粒径が大きく、かつ配向方向が揃えられた第2半導体層302(図2(b)参照)を用いて第2TFT112を形成することが好適となる。このように作り分けることで、第1TFT108よりも相互コンダクタンスが高い第2TFT112を提供することが可能となる。
【0031】
単位セル200(R,G,B)は、画素領域100内に設けられ、走査線102及び信号線106の電気的情報を受けて、有機EL素子202の輝度を制御するための電気的情報を保持容量110に保持させ、有機EL素子202を輝度の情報に基づき、発光させる機能を有している。
【0032】
第1TFT108は、有機EL素子202を輝度の情報に基づき、有機EL素子202の発光状態を制御する機能を有している。第1TFT108の電気的特性は、移動度を含む電気的特性の均一性が高いことが好ましい。そのためには、配向方向が分散されかつ結晶粒径が揃えられた第1半導体層301(図2(a)参照)を用いて第1TFT108を形成することが好適となる。上記したように、有機ELパネル10等のアプリケーションでは、特性の異なる第1TFT108と第2TFT112があることで、高速信号処理機能と、むらの無い高い画質の画像を表示する機能とを両立することが可能となる。
【0033】
(第2の実施形態:TFTの構成)
以下、本実施形態にかかるTFTの構成について図面を用いて説明する。図2(a),(b)は、本実施形態にかかるTFTの断面図である。本実施形態にかかるTFTは、後述する第3の実施形態の製造方法を用いて形成されている。図2(a)に示す第1TFT108は、基板310、金属層311、窒化珪素層312、酸化珪素層313、第1半導体層301、チャネル領域315、ソース領域316、ドレイン領域317、ゲート絶縁層318、ゲート電極319、層間絶縁層320、ソース電極321、ドレイン電極322を含む。
【0034】
基板310を構成する物質としては、典型的にはガラスや樹脂が用いられる。本実施形態では、無アルカリガラス基板を用いている。また、基板310上に緩衝層として酸化珪素層や酸窒化珪素層、窒化珪素層等、ガラス系の層を形成しても良い。また、緩衝層として、ポリイミドやアクリル等の有機物系の層を形成しても良い。
【0035】
基板310上には、金属層311が形成されている。金属層311としては、例えばMo(モリブデン)等の金属を用い、30nm以上500nm以下の層厚を用いることができる。
【0036】
金属層311上には、窒化珪素層312が形成されている。窒化珪素層312は、たとえば50nm以上500nm以下程度の層厚を用いることができる。
【0037】
窒化珪素層312上には、酸化珪素層313が形成されている。酸化珪素層313はたとえば20nm以上100nm未満の層厚を用いることができる。この層厚条件を満たす場合、金属層311上には、配向方向が分散されかつ結晶粒径が揃えられた第1半導体層301が形成される。
【0038】
第1半導体層301は、多結晶シリコンを用いて構成され、チャネル領域315やソース領域316、ドレイン領域317を作成する際の母体として機能する。
【0039】
ゲート絶縁層318は、ゲート電極319と協働してチャネル領域315に電界を印加し、チャネル領域315にキャリアを誘起する機能を有している。
【0040】
ソース領域316、ドレイン領域317は、協働してチャネル領域315に電流や電圧を印加する機能を有している。
【0041】
層間絶縁層320は、ソース電極321、ドレイン電極322とゲート電極319とがショートせぬよう絶縁する機能を有している。
【0042】
ソース電極321、ドレイン電極322はそれぞれ、ソース領域316、ドレイン領域317に電流や電圧を印加する機能を有している。
【0043】
第1半導体層301は多結晶シリコンを用いて構成され、配向方向が分散されかつ結晶粒径は、各製造条件により数nm〜数十nm程度の値を有する。第1半導体層301の製造条件が定められた場合、結晶粒径は前述した範囲で揃えられ、ほぼ均一な粒径分布を有する。このような構成を有する第1半導体層301を用いることで、電気的特性に関して均一性が高い第1TFT108を構成することができる。そのため、画素領域100(図1参照)内でむらの無い高い画質の画像を付与することを可能としている。
【0044】
図2(b)に示す第2TFT112は、基板310、窒化珪素層312、酸化珪素層313、第2半導体層302、チャネル領域315A、ソース領域316A、ドレイン領域317A、ゲート絶縁層318、ゲート電極319、層間絶縁層320、ソース電極321、ドレイン電極322を含む。
【0045】
第1TFT108との主な差は、金属層311を含まないこと、第2半導体層302における結晶粒径と第1半導体層301における結晶粒径の相違が挙げられる。金属層311を含まない領域に形成される多結晶シリコンを用いた第2半導体層302の粒径は、第1半導体層301よりも大きな数百nm〜数μm程度の結晶粒径を持っている。第2半導体層302を用いた第2TFT112は、画像信号を高速で処理する必要があるため、相互コンダクタンスが高いことが好ましい。そのためには、結晶粒径が大きく、かつ配向方向が揃えられた第2半導体層302を用いて第2TFT112を形成することが好適となる。このように作り分けることで、第1TFT108よりも相互コンダクタンスが高い第2TFT112を提供することが可能となる。
【0046】
上記したように、有機ELパネル10(図1参照)等を形成する場合に特性の異なる第1TFT108と第2TFT112が備えられることで、高速信号処理機能と、むらの無い高い画質の画像を表示する機能とを両立させることが可能となる。
【0047】
(変形例:第2の実施形態)
以下、第2の実施形態についての変形例について説明する。酸化珪素層313を、前述した層厚20nm以上100nm未満の厚さから、100nm以上500nm以下に変更することで、後述する第4の実施形態の製造方法を用いて形成することができる。この場合、金属層311が有る領域に、結晶粒径が大きく、かつ配向方向が揃えられた第2半導体層302を用いて第2TFT112が形成される。そして、金属層311が無い領域に、配向方向が分散されかつ結晶粒径が揃えられた第1半導体層301を用いて第1TFT108が形成される。この場合にも、第2の実施形態同様、有機ELパネル10(図1参照)等のアプリケーションでは、相互コンダクタンスの均一性が高い第1TFT108と、第1TFT108よりも相互コンダクタンスが高い第2TFT112があることで、高速信号処理機能と、むらの無い高い画質の画像を表示する機能との両立が可能となる。
【0048】
(第3の実施形態:薄い酸化珪素層を下地に用いた場合のTFTの製造方法)
以下、本実施形態にかかるTFTの製造方法について図面を用いて説明する。図3(a)〜(d)、図4(a)〜(c)は、本実施形態にかかるTFTの製造工程を説明するための工程断面図である。
【0049】
まず、工程1として、基板310を洗浄する。基板310を構成する物質としては、典型的にはガラスや樹脂が用いられる。本実施形態では、基板310に無アルカリガラスを用いている。ここで、基板310上に緩衝層を形成しても良く、酸化珪素層や酸窒化珪素層、窒化珪素層等、ガラス系の層を形成しても良い。また、ポリイミドやアクリル等の有機物系の層を形成しても良い。特に、基板310に樹脂系の物質を用いた場合には、有機物系の層を緩衝層として用いると、成層温度を下げることができる。
【0050】
次に、金属層311をスパッタ法等を用いて堆積し、所望の部分にレジストマスク等を形成した後エッチングを施し、金属層311を形成する。金属層311を構成する金属としては、たとえばMo、Cr、Ni、Cu、Ta、W、AlNd(ネオジムを添加したアルミニウム)、Alを用いて良い。本実施形態ではMoを用いている。金属層311は、熱容量や熱伝導性を確保するためには30nm以上の層厚であることが望ましい。また、後述する窒化珪素の段差被覆性を考慮した場合、500nm以下の層厚であることが望ましい。本実施形態ではMoを50nmの層厚となるよう形成している。ここまでの工程を終えた状態での断面図を図3(a)に示す。ここで、金属層311の製造方法として、一旦全面に金属層311を形成した後、エッチングを施すことで所望のパターンを有する金属層311を形成したが、これは物理蒸着法を用いて、メタルマスクやシリコンマスクを蒸着マスクとして用い、エッチング工程なしで形成しても良い。物理蒸着法の例としては、真空蒸着、イオンプレーティング、イオンビーム蒸着、コンベンショナルスパッタリング、マグネトロンスパッタリング、イオンビームスパッタリング、ECRスパッタリング等を挙げることができる。
【0051】
次に、工程2として、窒化珪素層312を成層する。窒化珪素層312は、たとえばシラン−アンモニア系のガスを用いたCVD法や、スパッタ法を用いて形成される。窒化珪素層312の厚さは、金属層311からの金属汚染を防ぐためには50nm以上の厚さであることが望ましい。また、層形成時の応力により窒化珪素層にクラックが発生するおそれがあることから、500nm以下の厚さであることが好ましい。本実施形態では、100nmの厚さとなるよう形成している。ここまでの工程を終えた状態での断面図を図3(b)に示す。
【0052】
次に、工程3として、酸化珪素層313を形成する。酸化珪素層313は、20nm以上100nm未満の層厚を用いることが可能で、ここでは30nmの層厚を用いている。この層厚条件を満たす場合、後述する工程で示されるように、金属層311がある領域には、配向方向が分散されかつ結晶粒径が揃えられた第1半導体層301が形成される。そして金属層311が配置されていない領域では、第1半導体層301よりも粒径が大きく、配向も(111)に揃えられている第2半導体層302が形成される。ここで、酸化珪素層313の形成にはCVD法を用いている。ここまでの工程を終えた状態での断面図を図3(c)に示す。
【0053】
次に、工程4として、シリコン層としてのアモルファスシリコン(α−Si)層333をプラズマCVD(PECVD)法等を用いて形成する。α−Si層333の層厚としては、後述するα−Siにパルス状エキシマレーザー光を照射し、溶解/再結晶工程を行う際に凝集して隙間が発生する現象を抑えるために、20nm以上の層厚を有していることが好ましい。また、パルス状エキシマレーザー光により深部まで溶解させるためには100nm以下の層厚を有していることが好ましい。本実施形態では、30nmの層厚となるよう形成している。ここまでの工程を終えた状態での断面図を図3(d)に示す。なお、α−Si層333を形成した後、水素を脱離させるためのアニール工程を挿入することも好適である。
【0054】
次に、工程5として、α−Si層333にパルス状エキシマレーザー光を照射し、α−Si層333を結晶化させる。パルス状エキシマレーザー光の強度は、α−Si層333の層厚等で最適値が異なるが、1ショットあたり350mJ/cm2〜450mJ/cm2程度のエネルギー密度で照射することが好ましい。
【0055】
結晶化は、パルス状エキシマレーザー光をα−Si層333に複数回ショット照射することで行われる。ショット数としては、40回以上照射することが好ましい。40回以上照射することで、金属層311がある領域では、配向方向が分散されかつ結晶粒径は、数nm〜数十nm程度の範囲内で、第1半導体層301の製造条件が定められた場合、ほぼ均一な粒径分布を有する揃えられた第1半導体層301が形成される。
【0056】
同時に、金属層311がない領域では、配向方向が(111)に揃えられ、かつ結晶粒径が第1半導体層301よりも大きく、数百nm〜数μmの値を有する第2半導体層302が形成される。
【0057】
また、ショット数を150回以下の回数に抑えることで、α−Si層333が受ける損傷を抑えて第1半導体層301、第2半導体層302を得ることができる。加えて、150回以下の回数に抑えることで、第1半導体層301、第2半導体層302を得る工程に要する時間を抑えることができ、スループットを大きくとることが可能となる。本実施形態では、台形の光形状を有し、短辺が0.4mmのXeClエキシマレーザーを用いて6μmピッチで送ることで、一箇所あたりのショット数がおよそ67回になるように照射している。この条件で形成した第1半導体層301と第2半導体層302の逆極点図を図5(a),(b)に示す。図5(a)は、第1半導体層301の逆極点図であり、図5(b)は、第2半導体層302の逆極点図である。なお逆極点図とは、多結晶体を構成する各結晶が配向している方向の分布を示す図である。図5(a)に示されるように、第1半導体層301の配向方向はほぼ均一に分布している。そして、粒径は数nm〜数十nm程度の範囲内で、第1半導体層301の製造条件が定められた場合、ほぼ均一な粒径分布を有する。そして、図5(b)に示されるように、第2半導体層302の配向方向はほぼ(111)に揃えられている。そして、粒径は第1半導体層301よりも大きく、数百nm〜数μmの値を有している。そのため、第1半導体層301は、面内分布が抑制された均一性が高い多結晶シリコン層となり、第2半導体層302は、高い移動度を有するTFTを供給しうる多結晶シリコン層となる。ここまでの工程を終えた状態での断面図を図4(a)に示す。この現象が現れる機構については、未だ明らかではないが、酸化珪素層313の層厚と金属層311の有無によりα−Si層333が改質されて小粒径の第1半導体層301が現れる領域と、大粒径の第2半導体層302が現れる領域とを分けることができることから、パルス状エキシマレーザー光を受けた後の放熱特性に依存する現象と推測している。なお、第1半導体層301は粒径が小さい多結晶シリコンにより構成され、かつパルス状エキシマレーザー光による溶解/再結晶工程や、水素を脱離させるためのアニール工程により排出されているが、パルス状エキシマレーザー光による再結晶化を経て形成された多結晶シリコンは、不対電子(ダングリングボンド)が結晶粒界に局在しており、粒内にはほとんど存在しないため、製造工程中のアニールや水素終端化処理によって容易に終端することが可能であり、電気的特性に大きな影響は発生しない。
【0058】
次に、工程6として、第1半導体層301、第2半導体層302をレジストマスクを用いてエッチングし、素子分離を行う。そして、PECVD法等を用いてゲート絶縁層318を形成する。ゲート絶縁層318の層厚としては、後述する第1TFT108、第2TFT112の耐圧設計に依存するが、たとえば100nm程度の層厚を有する酸化珪素層を用いられる。
【0059】
次に、アルミニウム(Al)、チタン(Ti)、タンタル(Ta)、モリブデン(Mo)等の金属材料を、スパッタリング法等によって堆積する。次に、レジストマスクを用いてエッチングし、ゲート電極319を形成する。次に、ゲート電極319をマスクとしてイオン注入を行い、ソース領域316,316A、ドレイン領域317,317A、チャネル領域315,315Aを形成する。イオン注入後、400℃程度の熱処理を行い、イオン注入した領域にある不純物を活性化させる。ここまでの工程を終えた状態での断面図を図4(b)に示す。
【0060】
次に、工程7として、層間絶縁層320を堆積する。そして、レジストマスクを用いてエッチングし、コンタクトホールを開孔する。次に、スパッタリング法等によってアルミニウム(Al)、チタン(Ti)、タンタル(Ta)、モリブデン(Mo)等の金属材料を堆積し、レジストマスクを用いてエッチングすることでソース電極321、ドレイン電極322を形成して、図4(c)に示す第1TFT108、第2TFT112が形成される。
【0061】
上記したように、有機ELパネル10(図1参照)等のアプリケーションで望まれる、相互コンダクタンスの均一性が高い第1TFT108と、相互コンダクタンスが第1TFT108よりも高い第2TFT112を同時に形成することが可能となり、高速信号処理機能と、むらの無い高い画質の画像を表示する機能とを両立させるTFTの製造方法を提供することが可能となる。
【0062】
(第4の実施形態:厚い酸化珪素層を下地に用いた場合のTFTの製造方法)
以下、本実施形態にかかるTFTの製造方法について図面を用いて説明する。図6(a)〜(c)は、本実施形態にかかるTFTの製造工程を説明するための工程断面図である。本実施形態では、第3の実施形態と類似点があるため、共通部分に対しては、第3の実施形態を用いて説明し、重複を避ける。まず、前述した工程1、工程2を行う。
【0063】
次に、工程3Aとして、酸化珪素層313を形成する。酸化珪素層313は、100nm以上500nm以下の層厚を用いることが可能で、ここでは200nmの層厚を用いている。この層厚条件を満たす場合、後述する工程で示されるように、金属層311が配置されない領域には、配向方向が分散されかつ結晶粒径が揃えられた第1半導体層301が形成される。そして金属層311が配置された領域では、第1半導体層301よりも粒径が大きく、配向も(111)に揃えられている第2半導体層302が形成される。ここで、酸化珪素層313の形成にはCVD法を用いている。後述するように酸化珪素層313の層厚を第3の実施形態と変えることで、大粒径の多結晶シリコン層ができる領域と小粒径の多結晶シリコン層ができる領域とが入れ替わる現象が現れる。この機構については、未だ明らかではないが、酸化珪素層313の層厚と金属層311の有無によりα−Si層333が改質されて小粒径の第1半導体層301(図6(b)参照)が現れる領域と、大粒径の第2半導体層302(図6(b)参照)が現れる領域とを分けることができることから、パルス状エキシマレーザー光を受けた後の放熱特性に依存する現象と推測している。そして、次に、工程4を行う。ここまでの工程を終えた状態での断面図を図6(a)に示す。
【0064】
次に、工程5Aとしてα−Si層333にパルス状エキシマレーザー光を照射し、α−Si層333を結晶化させる。パルス状エキシマレーザー光の強度は、α−Si層333の層厚等で最適値が異なるが、1ショットあたり300mJ/cm2〜400mJ/cm2程度のエネルギー密度で照射することが好ましい。その他の条件については、工程5に準じた条件を適用することができる。この場合、金属層311が配置されない領域には、配向方向が分散されかつ結晶粒径が揃えられた第1半導体層301が形成される。そして金属層311が配置された領域では、第1半導体層301よりも粒径が大きく、配向が(111)に揃えられている第2半導体層302が形成される。即ち、第3の実施形態と入れ替わるように第1半導体層301と第2半導体層302が形成される。ここまでの工程を終えた状態での断面図を図6(b)に示す。本実施形態では、台形の光形状を有し、短辺が0.4mmのXeClエキシマレーザーを用いて6μmピッチで送ることで、一箇所あたりのショット数がおよそ67回になるように照射している。この条件で形成した第1半導体層301と第2半導体層302の逆極点図を図7(a),(b)に示す。図7(a)は、第1半導体層301の逆極点図であり、図7(b)は、第2半導体層302の逆極点図である。図7(a)に示されるように、第1半導体層301の配向方向はほぼ均一に分布している。そして、粒径は数nm〜数十nm程度の範囲内で、第1半導体層301の製造条件が定められた場合、ほぼ均一な粒径分布を有する。そして、図7(b)に示されるように、第2半導体層302の配向方向はほぼ(111)に揃えられている。そして、粒径は第1半導体層301よりも大きく、数百nm〜数μmの値を有している。そのため、第1半導体層301は、面内分布が抑制された均一性が高い多結晶シリコン層となり、第2半導体層302は、高い移動度を有するTFTを供給しうる多結晶シリコン層となる。なお、第1半導体層301での水素の挙動についても、前述した工程5中の記載と同様の様態を示すものとなる。
【0065】
次に、工程6、工程7を行うことで、図6(c)に示す第1TFT108、第2TFT112が形成される。
【0066】
この場合においても上記したように、有機ELパネル10(図1参照)等のアプリケーションで望まれる、相互コンダクタンスの均一性が高い第1TFT108と、相互コンダクタンスが第1TFT108よりも高い第2TFT112を同時に形成すすることが可能となり、高速信号処理機能と、むらの無い高い画質の画像を表示する機能とを両立させるTFTの製造方法を提供することが可能となる。
【図面の簡単な説明】
【0067】
【図1】周辺回路領域と画素領域に対して、互いに特性の異なるTFTを形成した場合の等価回路図。
【図2】(a),(b)は、第2の実施形態にかかるTFTの断面図。
【図3】(a)〜(d)は、第3の実施形態にかかるTFTの製造工程を説明するための工程断面図。
【図4】(a)〜(c)は、第3の実施形態にかかるTFTの製造工程を説明するための工程断面図。
【図5】(a),(b)は、第3の実施形態にかかる第1半導体層と第2半導体層の逆極点図。
【図6】(a)〜(c)は、第4の実施形態にかかるTFTの製造工程を説明するための工程断面図。
【図7】(a),(b)は、第4の実施形態にかかる第1半導体層と第2半導体層の逆極点図。
【符号の説明】
【0068】
10…有機ELパネル、100…画素領域、102…走査線、106…信号線、108…第1TFT、110…保持容量、112…第2TFT、120…走査線駆動回路、130…信号線駆動回路、140…周辺回路領域、200…単位セル、202…有機EL素子、301…第1半導体層、302…第2半導体層、310…基板、311…金属層、312…窒化珪素層、313…酸化珪素層、315…チャネル領域、315A…チャネル領域、316…ソース領域、316A…ソース領域、317…ドレイン領域、317A…ドレイン領域、318…ゲート絶縁層、319…ゲート電極、320…層間絶縁層、321…ソース電極、322…ドレイン電極、333…α−Si層。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
基板表面に位置する能動領域の一部に金属層を形成する工程と、
前記能動領域を覆う窒化珪素層を形成する工程と、
前記窒化珪素層を覆う、層厚20nm以上100nm未満の酸化珪素層を形成する工程と、
前記酸化珪素層を覆うシリコン層を形成する工程と、
前記シリコン層にパルス状エキシマレーザー光を走査しながら照射し、前記金属層を覆う領域に第1半導体層を形成し、前記金属層が無い領域に第2半導体層を形成する工程と、
前記第1半導体層をチャネルとして用いて、第1薄膜トランジスタを形成し、前記第2半導体層をチャネルとして用いて、第2薄膜トランジスタを形成する工程と、
を備えることを特徴とする薄膜トランジスタの製造方法。
【請求項2】
基板表面に位置する能動領域の一部に金属層を形成する工程と、
前記能動領域を覆う窒化珪素層を形成する工程と、
前記窒化珪素層を覆う、層厚100nm以上500nm以下の酸化珪素層を形成する工程と、
前記酸化珪素層を覆うシリコン層を形成する工程と、
前記シリコン層にパルス状エキシマレーザー光を走査しながら照射し、前記金属層が無い領域に第1半導体層を形成し、前記金属層が有る領域に第2半導体層を形成する工程と、
前記第1半導体層をチャネルとして用いて、第1薄膜トランジスタを形成し、前記第2半導体層をチャネルとして用いて、第2薄膜トランジスタを形成する工程と、
を備えることを特徴とする薄膜トランジスタの製造方法。
【請求項3】
請求項1又は2に記載の薄膜トランジスタの製造方法であって、前記パルス状エキシマレーザー光は前記シリコン層の同一箇所に40回以上150回以下の回数照射されることを特徴とする薄膜トランジスタの製造方法。
【請求項4】
請求項1から3のいずれか一項に記載の薄膜トランジスタの製造方法であって、前記金属層の厚さは、30nm以上500nm以下であることを特徴とする薄膜トランジスタの製造方法。
【請求項5】
請求項1から4のいずれか一項に記載の薄膜トランジスタの製造方法であって、前記窒化珪素層の厚さは、50nm以上500nm以下であることを特徴とする薄膜トランジスタの製造方法。
【請求項6】
請求項1から5のいずれか一項に記載の薄膜トランジスタの製造方法であって、前記シリコン層の厚さは、20nm以上100nm以下であることを特徴とする薄膜トランジスタの製造方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【公開番号】特開2010−140934(P2010−140934A)
【公開日】平成22年6月24日(2010.6.24)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−312992(P2008−312992)
【出願日】平成20年12月9日(2008.12.9)
【出願人】(000002369)セイコーエプソン株式会社 (51,324)
【Fターム(参考)】