説明

薄膜トランジスタの製造方法

【課題】無加熱のスパッタ成膜法で形成でき、かつ高い移動度とアモルファス性を兼備するという特徴を維持したまま、比較的容易な制御により安定的な特性を有する含インジウム金属酸化物膜を得ることができ、安定的な特性を有するTFT素子を得ることができる薄膜トランジスタの製造方法を提供することを目的とする。
【解決手段】基板1の加熱を行わずに上記スパッタを行って上記金属酸化膜3を形成し、上記チャネル層3、ソース電極4、ドレイン電極5及びゲート電極2の各要素を基板上に形成した後、熱処理を施すことを特徴とする薄膜トランジスタの製造方法を提供する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、チャネル層、更にはソース電極、ドレイン電極、ゲート電極などの電極をインジウムを含む金属酸化物膜で形成した薄膜トランジスタの製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、薄膜トランジスタには、アモルファスシリコン(a−Si)を使用することが多く、そのため高温のプロセスや高価な成膜装置が必要である。また、高温のプロセスが必要になることから高分子基材などへの素子作製が困難である。
【0003】
このため、ポリエチレンテレフタレート(PET)上に電子デバイスを低コストで作製するには、複雑な装置を必要としない簡易な低温プロセス、もしくは簡易なプロセスで十分な特性が得られる材料やその材料の有効的な組み合わせ、更には簡易なデバイス構造などの開発が必要不可欠である。
【0004】
ここで、酸化物半導体、特に透明酸化物半導体は新しい特性を持つ電子・光デバイスの実現には必要不可欠の材料である。最近、In−Ga−Zn−O(IGZO)の酸化物半導体をチャネル層として用いたフレキシブルTFT素子がa−Siを凌駕する特性を示すことが報告され(非特許文献1:Nature2004年432巻488ページ)、液晶ディスプレイや有機ELディスプレイなどの駆動用背面板としての利用が試されている。
【0005】
このIGZOがTFT素子用の半導体材料として上記a−Siよりも優れる点として2点挙げることができ、一点はTFT素子として最も重要な特性である移動度が1cm2/Vsecを超え、a−Siの0.1〜1cm2/Vsecを上回ること、もう一点はa−Siの成形プロセス温度が300℃以上であるのに対し、無加熱のプロセスでも上記良好な移動度を有する膜が得られることである。更に、IGZOはアモルファス状態を保つ傾向が高く、安定な特性が容易に得られることや、膜の柔軟性に優れていることも大きな利点となる。
【0006】
しかしながら、IGZOはこのように非常に高い性能を示すものの有害であるGaを含むことや、非常に精密な膜中酸素含有量制御が必要であり、その取り扱い性や成膜制御に不利がある。また、3種類の金属元素を含むために組成が複雑になり、更には従来取り扱われることのなかった材料であるために生産ラインへの新規導入が困難である、などの不利もある。
【0007】
そこで、出願人は、無加熱のスパッタ成膜法で比較的容易に成形することができると共に、1cm2/Vsecを超える高い移動度とアモルファス性も兼備した半導体材料として、先にIn−W−Oを開発している(特許文献1:特開2008−192721号公報)。
【0008】
しかしながら、この無加熱のスパッタ成膜法で作製したIn−W−O膜には、以下の3点の不利が存在することが分かった。
【0009】
まず第1に、成膜時の導入酸素流量が膜の特性に非常に大きく影響し、そのため非常に精密な導入酸素流量の制御が必要となり、またターゲットのエロージョン進行に伴って、導入酸素流量の非常に微妙な調整が必要となる。このため、プラズマエミッションモニターコントロール(PEMコントロール)を有するスパッタ成膜装置を使用すれば比較的容易に酸素流量を調整しながら良好な成膜操作を行うことができるが、従来から汎用されているDCスパッタ法やRFスパッタ法では安定な特性を有するTFT素子を容易に得ることができない。
【0010】
第2に、上記In−W−O膜で形成した半導体膜面(チャネル層)とソース・ドレイン電極やゲート絶縁膜との界面の状態が不安定になりやすく、TFT素子の特性が安定しにくい。更に第3として、上記In−W−O膜には膜中に多くの欠陥が生じやすく、TFT素子の特性が安定しにくい点が挙げられる。
【0011】
そして、第2及び第3の問題が存在すると、バイアスストレスによってTFT素子の伝達特性が大きくシフトすることになる。従って、実際の電子デバイスに上記In−W−Oなどのインジウムを含む金属酸化物膜を使用したTFT素子を適用するためには、より安定的な特性を保つことが必要不可欠であり、その方策の開発が望まれる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0012】
【特許文献1】特開2008−192721号公報
【非特許文献】
【0013】
【非特許文献1】Nature2004年432巻488ページ
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0014】
本発明は、上記事情に鑑みなされたもので、無加熱のスパッタ成膜法で形成でき、かつ高い移動度とアモルファス性を兼備するという特徴を維持したまま、比較的容易な制御により安定的な特性を有する含インジウム金属酸化物膜を得ることができ、安定的な特性を有するTFT素子を得ることができる薄膜トランジスタの製造方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0015】
本発明者らは、上記目的を達成するため、鋭意検討を行った結果、酸素ガスを含む雰囲気下で、インジウムを含むターゲットを用いてスパッタすることにより、所定パターンのインジウムを含む金属酸化物膜を基板上に形成し、このインジウムを含む金属酸化物膜で、TFT素子のチャネル層を含む1又は2以上の要素を形成して、薄膜トランジスタを製造する場合に、上記スパッタにより上記金属酸化物膜を形成してTFT素子の各要素を形成した後に、熱処理を施すことにより、安定的な特性を有し、かつ十分な再現性を有するTFT特性が得られ、かつ大気中150〜300℃の温度で10〜120分程度の簡易な熱処理で良好な効果が得られ、生産性にも優れることが見い出された。
【0016】
従って、本発明は、酸素ガスを含む雰囲気下で、インジウムを含むターゲットを用いてスパッタすることにより、所定パターンのインジウムを含む金属酸化物膜を基板上に形成し、このインジウムを含む金属酸化物膜で、チャネル層、ソース電極、ドレイン電極及びゲート電極のうちの少なくともチャネル層を含む1又は2以上の要素を形成して、薄膜トランジスタを製造する方法であって、基板の加熱を行わずに上記スパッタを行って上記金属酸化膜を形成し、上記チャネル層、ソース電極、ドレイン電極及びゲート電極の各要素を基板上に形成した後、熱処理を施すことを特徴とする薄膜トランジスタの製造方法を提供する。
【0017】
また、本発明者らは、更に検討を進めた結果、インジウムを含む金属酸化物膜としては、インジウムを含むターゲットとして、錫、チタン、タングステン及び亜鉛の1種又は2種以上をドープした酸化インジウムの焼結体をターゲットとして、錫、チタン、タングステン及び亜鉛の1種又は2種以上をドープした酸化インジウム膜を成膜することが好ましいこと、特にIn−W−Zn−O焼結体をターゲットとして用いてIn−W−Zn−O膜を成膜する場合には、W量とZn量を制御することにより、閾電圧や移動度などのTFT特性を容易に調節することができること、更に後述する実施例のように、熱酸化膜を有するシリコーンウエハーからなる基板上に上記In−W−Zn−O膜からなるチャネル層を形成し、このチャネル層上にITO焼結体をターゲットとしてITO膜を成膜してソース電極及びドレイン電極を形成した後、熱処理を施すことにより、容易かつ安定的に高性能な薄膜トランジスタが得られること、などを見い出した。
【0018】
従って、本発明は、好適な実施態様として下記(1)〜(5)の発明を提供する。
(1)少なくとも上記チャネル層を、錫、チタン、タングステン及び亜鉛の1種又は2種以上をドープした酸化インジウムの焼結体をターゲットとして用いて錫、チタン、タングステン及び亜鉛の1種又は2種以上をドープした酸化インジウム膜を成膜することにより形成する上記本発明の薄膜トランジスタの製造方法。
(2)少なくとも上記チャネル層を、In−W−Zn−O焼結体をターゲットとして用いてIn−W−Zn−O膜を成膜することにより形成する(1)の薄膜トランジスタの製造方法。
(3)ターゲットとして用いるIn−W−Zn−O焼結体のW含有量及び/又はZn含有量を調整することにより、特性を制御する(2)の薄膜トランジスタの製造方法。
(4)ゲート絶縁膜となる熱酸化膜を有するシリコンウエハーをゲート電極を兼ねた基板として用い、この基板の上記熱酸化膜上にIn−W−Zn−O焼結体をターゲットとしてIn−W−Zn−O膜を成膜してチャネル層を形成し、更にこのチャネル層上にITO焼結体をターゲットとしてITO膜を成膜してソース電極及びドレイン電極を形成する(1)〜(3)のいずれかに記載の薄膜トランジスタの製造方法。
(5)上記熱処理の条件を、大気中、150〜300℃で、10〜120分とする上記本発明の薄膜トランジスタの製造方法。
【発明の効果】
【0019】
本発明によれば、無加熱のスパッタ成膜法で形成でき、かつ高い移動度とアモルファス性を兼備するという特徴を維持したまま、比較的容易な制御により安定的な特性を有する含インジウム金属酸化物膜を得ることができ、安定的な特性を有するTFT素子を得ることができるものである。
【図面の簡単な説明】
【0020】
【図1】本発明にかかるTFT素子(薄膜トランジスタ)の一例を示す概略断面図である。
【図2】実験1の結果を示すもので、実施例1で作製したTFT素子(薄膜トランジスタ)の動作特性を示すグラフである。
【図3】実験1の結果を示すもので、比較例1で作製したTFT素子(薄膜トランジスタ)の動作特性を示すグラフである。
【図4】実験2の結果を示すもので、実施例1で作製したTFT素子(薄膜トランジスタ)の動作特性を示すグラフである。
【図5】実験2の結果を示すもので、比較例1で作製したTFT素子(薄膜トランジスタ)の動作特性を示すグラフである。
【図6】実施例2で作製したTFT素子(薄膜トランジスタ)の動作特性を示すグラフである。
【発明を実施するための形態】
【0021】
以下、本発明につき更に詳しく説明する。
本発明の薄膜トランジスタの製造方法は、上述のように、スパッタによりインジウムを含む金属酸化物膜を基板上に形成し、このインジウムを含む金属酸化物膜で、チャネル層、ソース電極、ドレイン電極及びゲート電極のうちの少なくともチャネル層を含む1又は2以上の要素を形成し、これらの要素を形成した後に熱処理を施すものである。
【0022】
ここで、本発明で製造される薄膜トランジスタとしては、例えば図1に示した構成のものを例示することができる。即ち、この図1の薄膜トランジスタは、ゲート絶縁膜2として熱酸化膜(SiO2)が表面に形成されたSi基板1(ゲート電極)上に、チャネル層3を形成し、更にこのチャネル層3上にソース電極4及びドレイン電極5を形成したものであり、このような薄膜トランジスタにおいて、本発明では、少なくとも上記チャネル層3をスパッタにより成膜したインジウムを含む金属酸化物膜で形成するものである。なお、図1中の6は、Si基板(ゲート電極)と導通をとるための銀ペースト6である。
【0023】
上記チャネル層3を形成するインジウムを含む金属酸化物膜としては、特に制限されるものではないが、酸化インジウム(In23)や錫、チタン、タングステン及び亜鉛から選ばれる1種又は2種以上をドープした酸化インジウム、例えばITO(Tin doped Indium Oxide)、In−Ti−O、In−W−O、In−W−Zn−Oなどが好適に用いられる。これらIn23やITO、In−Ti−O、In−W−O、In−W−Zn−Oによれば透明な導電膜が得られることから透明薄膜トランジスタを作製することができ、この場合In23は酸素とインジウムしか含まないために膜組成の制御が容易であり、一方ITOは元々透明導電膜材料として用いられている為にプロセス管理の知見が蓄積されており、更には10cm2/Vsecもの高い電界効果移動度が得られる、という利点がある。また、In−W−OやIn−W−Zn−Oはアモルファス性を保持する傾向があり、熱安定性や膜平坦性に優れ、特にIn−W−Zn−OはターゲットのW含有量及び/又はZn含有量を調整することにより、TFT特性を容易に制御することができ、特に好ましく用いられる。
【0024】
このチャネル層3は、特に制限されるものではないが、通常は10-1〜106Ωcm、特に1〜105Ωcmの電気抵抗率に調整される。この場合、上記In23やITO、In−Ti−O、In−W−O、In−W−Zn−Oは、成膜時に酸素欠損の度合いを調節することにより、比較的容易に電気抵抗率を調整することができる。
【0025】
本発明では、このチャネル層3を構成する上記In23膜、ITO膜、In−Ti−O膜、In−W−O膜、In−W−Zn−O膜などの金属酸化物膜をスパッタ法により形成する。この場合のスパッタ法としては、酸素ガスを含む雰囲気下でインジウム含むターゲットを用い、汎用のDC反応性スパッタ法やRFスパッタ法を採用すればよい。その際、酸素ガスの流量を調整変化させることにより、In23膜やITO膜、In−Ti−O膜、In−W−O膜、In−W−Zn−O膜の酸素欠損量を調整して、電気抵抗率をチャネル層3に適した上記抵抗率に調整することができる。
【0026】
このようにスパッタ法による成膜を行う際に用いられるターゲットとしては、In23膜を成膜する場合にはIn金属ターゲットやIn23セラミックターゲットを用いることができ、また、ITO膜を成膜する場合にはInSn金属ターゲットやITOセラミックターゲットを、In−Ti−O膜を成膜する場合にはInTi金属ターゲットやIn−Ti−Oセラミックターゲットを、In−W−Oを成膜する場合にはInW金属ターゲットやIn−W−Oセラミックターゲットを、In−W−Zn−O膜を成膜する場合にはInWZn金属ターゲットやIn−W−Zn−Oセラミックターゲットをそれぞれ用いることができる。
【0027】
ここで、DC反応性スパッタ法やRFスパッタ法で上記インジウムを含む金属酸化膜を成膜する際、本発明では基板の加熱を行う必要なく、常温でスパッタを行うことにより良好に上記金属酸化物膜を形成することができる。また、特に制限するものではないが、複数のカソードにパルス状の電圧を交互に印加して、高速で上記金属酸化物膜を成膜するデュアルカソードスパッタ法を適用して生産性を向上させることもでき、またプラズマ中のイオン濃度を測定することによって導入酸素量をリアルタイムで制御するPEM(Plasma Emission Monitor)コントロールによるフィードバックシステムを用いて、薄膜の安定な組成制御及び酸素含有量制御を行うようにすることもできるが、本発明の製造方法では、後述する熱処理を行うことにより、このようなデュアルカソードスパッタ法やPEMコントロールを用いる必要なく良好な生産性をもって安定な特性を有する薄膜トランジスタを得ることができるものである。
【0028】
次に、上記ソース電極4及びドレイン電極5は、ITO,FTOなどの透明電極材料や、透明性を求めなければAu,Pt,Ti,Alなどの金属材料、各種導電性高分子材料などの公知の材料を用いることができる。また、場合によっては、これらソース電極又はドレイン電極の一方又は両方を上記チャネル層3と同様にIn23膜やITO膜、In−Ti−O膜、In−W−O膜、In−W−Zn−O膜などのインジウムを含む金属酸化物膜で形成することもでき、この場合にはチャネル層3とソース電極4やドレイン電極5とを同じ成膜装置を用いて形成することができ、コストの削減を図ることができる。また、可視光領域での透明性が得られることから幅広いアプリケーションへの対応が可能となる。
【0029】
このソース電極4やドレイン電極5には良好な導電性が求められ、通常は電気抵抗率10-5〜10-1Ωcm、特に10-5〜10-3Ωcmに調整される。この場合、上記チャネル層3と同様に上記スパッタ法によりIn23膜やITO膜、ITO膜、In−Ti−O膜、In−W−Zn−O膜を成膜してソース電極4やドレイン電極5を形成する場合には、酸素導入量を調整して酸素欠損を積極的に導入することによってこのような低抵抗率を達成することができる。また、水素や水を添加しながら成膜を行うことも低抵抗率化に有効である。
【0030】
また、このようにチャネル層3と共にソース電極4やドレイン電極5をスパッタ法により上記インジウムを含む金属酸化物膜で形成する場合、膜中の酸素含有量を徐々に変化させた組成傾斜膜(導電率傾斜膜)をソース電極4及びドレイン電極5とチャネル層3との界面に形成適用することもでき、これによりソース電極4及びドレイン電極5とチャネル層3との界面でのバリアが低減化してキャリアの注入が容易になり、特性の向上が期待できる。
【0031】
上記図1の薄膜トランジスタ(TFT素子)では、基板1としてSiO2のゲート絶縁膜2を有するSi基板を用いたが、基板はこれに限定されるものではなく、従来からトランジスタ等の電子デバイスの基板として公知のものを用いることができる。例えば、上記Si基板の外に、白板ガラス,青板ガラス,石英ガラス等のガラス基板、ポリエチレンテレフタレート(PET)を始めとする高分子フィルム基材などの透明基板や、デバイスに対して透明性が求められない場合であれば、各種金属基板やプラスチック基板、ポリイミド等の非透明高分子基板などを用いることもできる。
【0032】
また、上記図1のTFT素子では、Si基板1をゲート電極とし銀ペースト6でこのゲート電極と導通をとるようになっているが、絶縁性の基板を用い別途にゲート電極及びゲート絶縁膜を基板上に形成してもよい。
【0033】
この場合、ゲート電極を形成する材料としては、上記ソース電極4やドレイン電極5と同様の電極材料を例示することができ、勿論チャネル層3の形成時と同様の成膜装置を用いてIn23膜やITO膜、In−Ti−O膜、In−W−O膜、In−W−Zn−O膜で形成することもできる。なお、ゲート電極の電気抵抗率は、上記ソース電極4やドレイン電極5と同様に、10-5〜10-1Ωcm、特に10-5〜10-3Ωcmとすることができる。
【0034】
また、上記ゲート絶縁膜は、SiO2,Y23,Ta25,Hf酸化物などの金属酸化物や、ポリイミドを初めとする絶縁性高分子材料などの公知の材料を用い、公知の方法で形成すればよい。このゲート絶縁膜の電気抵抗率は、通常は1×106〜1×1015Ωcm、特に1×1010〜1×1015Ωcmとすればよい。
【0035】
本発明の製造方法は、このように、上記スパッタ法によってインジウムを含む金属酸化物膜を成膜して基板1上にチャネル層3を形成し、更にソース電極4、ドレイン電極5、更には上記ゲート電極を形成しTFT素子の各要素を形成した後、熱処理を施す。
【0036】
この熱処理を行う際の加熱温度は、チャネル層を形成する金属酸化物膜の種類や大きさ,厚さ等に応じて適宜設定され、特に制限されるものではないが、通常は150〜300℃、特に150〜200℃とすることができ、処理時間は10〜120分、特に30〜60分とすればよい。また、加熱処理雰囲気も大気中で問題ない。
【0037】
本発明では、この熱処理を行うことにより、特にIn−W−Zn−O膜に熱処理を施すことにより、以下の3点の効果を得ることができる。
まず第1に、スパッタ成膜時の酸素導入量が最適な値ではなく、必ずしも満足なTFT特性が得られなかった場合でも、この熱処理によってTFT特性を最適な状態にすることが可能である。従って、スパッタリングターゲットのエロージョン進行に伴い酸素導入量の微妙な調整が不要となり、またスパッタ成膜時の到達真空度に由来するTFT特性の変化もなくなり、安定な特性を有するTFT素子を容易に製造することができる。
【0038】
第2に、界面や半導体膜中の欠陥が大幅に減少し、TFT素子として使用する際の特性変化が非常に少なくなる。
更に第3として、スパッタ成膜時に使用するターゲット中のW含有量及び/又はZn含有量を制御することにより、閾電圧や移動度などのTFT特性を容易に調整することができる。
【0039】
なお、本発明の製造方法で製造される薄膜トランジスタは、図1に示したボトムゲート・トップコンタクト型のものに限定されるものではなく、ボトムゲート・ボトムコンタクト、トップゲート・ボトムコンタクト、トップゲート・トップコンタクトなど、その他の形態とすることもできる。
【実施例】
【0040】
以下、実施例及び比較例を示し、本発明をより具体的に説明するが、本発明は下記実施例に制限されるものではない。
【0041】
[実施例1]
表面にゲート絶縁膜として熱酸化膜(SiO2、厚さ300nm)が形成されたシリコンウエハー上に、DCマグネトロンスパッタ法によって厚さ30nmのIn−W−Zn−O膜をチャネル層として成膜した。この場合、スパッタ条件は下記の通りであり、成膜時の酸素導入量を下記の通り変化させて5種類のIn−W−Zn−O膜を成膜した。
【0042】
(スパッタ条件)
ターゲット:In−W−Zn−O焼結体(W=5wt%,Zn=0.5wt%、サイズ75mmφ)
到達真空度:1.0×10-3Pa
成膜時圧力:0.5Pa
印加電力:150W
スパッタ時間:約5分
成膜時のガス流量:
(1)Ar/O2=96/4.0sccm
(2)Ar/O2=95/5.0sccm
(3)Ar/O2=94/6.0sccm
(4)Ar/O2=93/7.0sccm
(5)Ar/O2=92/8.0sccm
【0043】
得られた上記チャネル層上に、DCマグネトロンスパッタ法によって厚さ30nmのITO膜をソース電極及びドレイン電極として成膜し、図1に示した構成の薄膜トランジスタ(TFT素子)を作製した。この場合、ソース電極及びドレイン電極の成膜にはシャドーマスクを用いてパターニングを行い、チャネル長0.1mm、チャネル幅6.4mmとした。ソース電極及びドレイン電極の成膜条件(スパッタ条件)は下記の通りである。
【0044】
(スパッタ条件)
ターゲット:In−Sn−O焼結体(Sn=5wt%、サイズ75mmφ)
到達真空度:1.0×10-3Pa
成膜時圧力:0.5Pa
印加電力:150W
スパッタ時間:約3分
成膜時のガス流量:Ar/O2=99/0.7sccm
【0045】
上記ソース電極及びドレイン電極を形成した後、これらに大気中150℃、30分の条件で熱処理を施し、5種類の薄膜トランジスタを作製した。
【0046】
[比較例1]
最後の熱処理を行わないこと以外は、実施例1と同様にして5種類の薄膜トランジスタを作製した。
【0047】
[実験1]
上記実施例1及び比較例1で得られた各薄膜トランジスタにつき、アジレント社製の半導体パラメータアナライザー「4155C」を用いてTFT特性を評価した。上記実施例1の薄膜トランジスタについての結果を図2のグラフに、比較例1の薄膜トランジスタについての結果を図3のグラフにそれぞれ示す。
【0048】
上記実施例1の薄膜トランジスタと比較例1の薄膜トランジスタで伝達特性とを比較すると、熱処理を行わない方法で製造された比較例1の薄膜トランジスタは、図3の通り、伝達特性がIn−W−Zn−O膜形成時の酸素導入量で大きく変化するのに対して、最後に熱処理を施した実施例1の薄膜トランジスタは、図2の通り、In−W−Zn−O膜形成時の酸素導入量が変化しても伝達特性にほとんど影響はなく、TFT特性が成膜時の酸素導入量の変化にほとんど依存しないことが認められる。
【0049】
このことから、最後に熱処理を施す本発明の製造方法によれば、半導体膜形成時の酸素導入量に依存することなく安定なTFT特性を有する薄膜トランジスタが得られることが認められる。
【0050】
[実験2]
上記実施例1及び比較例1で、In−W−Zn−O膜成膜時の酸素導入量をAr/O2=94/6.0sccmとして作製した薄膜トランジスタにつき、それぞれ実験1と同様にして伝達特性を100回連続で測定し、その1回目、10回目、100回目の測定結果を比較した。実施例1の薄膜トランジスタについての結果を図4のグラフに、比較例1の薄膜トランジスタについての結果を図5のグラフにそれぞれ示す。
【0051】
図4,5に示されているように、実施例1の方法で得られた薄膜トランジスタの伝達特性は、100回の繰り返し測定に対しても閾電圧のシフトはほとんど観察されない(図4)のに対し、比較例1の方法で得られた薄膜トランジスタの伝達特性は、繰り返し測定により閾電圧が大きくマイナス側にシフトしていくのが観察された。
【0052】
[実施例2]
下記スパッタ条件により、実施例1と同様にして、シリコンウエハー上にIn−W−Zn−O膜からなるチャネル層を形成した。この場合、下記スパッタ条件の通りIn−W−Zn−O焼結体ターゲットとしてW含有量の異なる4種類のターゲットを用い、4種類のIn−W−Zn−O膜を成膜した。
【0053】
(スパッタ条件)
ターゲット:
(1)In−W−Zn−O焼結体(W=1wt%,Zn=0.5wt%、サイズ75mmφ)
(2)In−W−Zn−O焼結体(W=3wt%,Zn=0.5wt%、サイズ75mmφ)
(3)In−W−Zn−O焼結体(W=5wt%,Zn=0.5wt%、サイズ75mmφ)
(4)In−W−Zn−O焼結体(W=10wt%,Zn=0.5wt%、サイズ75mmφ)
到達真空度:1.0×10-3Pa
成膜時圧力:0.5Pa
印加電力:150W
スパッタ時間:約5分
成膜時のガス流量:Ar/O2=94/6.0sccm
【0054】
得られた上記チャネル層上に、実施例1と同様にしてITO膜からなるソース電極及びドレイン電極を形成し、同様に大気中150℃で30分熱処理して4種類の薄膜トランジスタを作製した。得られた各薄膜トランジスタにつき、上記実験1と同様に伝達特性を測定してTFT特性を評価した。結果を図6のグラフに示す。
【0055】
図6の通り、ターゲットのIn−W−Zn−O焼結体のW含有量によってTFT特性が連続的に変化することが確認された。この場合、閾電圧はW量が増加するにしたがってプラス側にシフトし、半導体膜(チャネル層)のキャリア量がターゲット中のW含有量に依存することが認められる。
【0056】
従って、In−W−Zn−O膜を成膜する場合に、ターゲットのW含有量を調整することにより、TFT特性を容易に制御することができることが確認された。
【符号の説明】
【0057】
1 基板(ゲート電極)
2 ゲート絶縁膜
3 チャネル層
4 ソース電極
5 ドレイン電極
6 銀ペースト

【特許請求の範囲】
【請求項1】
酸素ガスを含む雰囲気下で、インジウムを含むターゲットを用いてスパッタすることにより、所定パターンのインジウムを含む金属酸化物膜を基板上に形成し、このインジウムを含む金属酸化物膜で、チャネル層、ソース電極、ドレイン電極及びゲート電極のうちの少なくともチャネル層を含む1又は2以上の要素を形成して、薄膜トランジスタを製造する方法であって、
基板の加熱を行わずに上記スパッタを行って上記金属酸化物膜を形成し、上記チャネル層、ソース電極、ドレイン電極及びゲート電極の各要素を基板上に形成した後、熱処理を施すことを特徴とする薄膜トランジスタの製造方法。
【請求項2】
少なくとも上記チャネル層を、錫、チタン、タングステン及び亜鉛の1種又は2種以上をドープした酸化インジウムの焼結体をターゲットとして用いて錫、チタン、タングステン及び亜鉛の1種又は2種以上をドープした酸化インジウム膜を成膜することにより形成する請求項1記載の薄膜トランジスタの製造方法。
【請求項3】
少なくとも上記チャネル層を、In−W−Zn−O焼結体をターゲットとして用いてIn−W−Zn−O膜を成膜することにより形成する請求項2記載の薄膜トランジスタの製造方法。
【請求項4】
ターゲットとして用いるIn−W−Zn−O焼結体のW含有量及び/又はZn含有量を調整することにより、特性を制御する請求項3記載の薄膜トランジスタの製造方法。
【請求項5】
ゲート絶縁膜となる熱酸化膜を有するシリコンウエハーをゲート電極を兼ねた基板として用い、この基板の上記熱酸化膜上にIn−W−Zn−O焼結体をターゲットとしてIn−W−Zn−O膜を成膜してチャネル層を形成し、更にこのチャネル層上にITO焼結体をターゲットとしてITO膜を成膜してソース電極及びドレイン電極を形成する請求項2〜4のいずれか1項記載の薄膜トランジスタの製造方法。
【請求項6】
上記熱処理の条件を、大気中、150〜300℃で、10〜120分とする請求項1〜5のいずれか1項記載の薄膜トランジスタの製造方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【公開番号】特開2010−251604(P2010−251604A)
【公開日】平成22年11月4日(2010.11.4)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−101005(P2009−101005)
【出願日】平成21年4月17日(2009.4.17)
【出願人】(000005278)株式会社ブリヂストン (11,469)
【Fターム(参考)】