表面波プラズマCVD装置及びそれを用いて積層体を製造する方法
【課題】高い透明度を保持し、屈折率が高く、複屈折性が小さいという光学的な特性を有し、電気的絶縁性に優れ、各種基材に密着性良くコーティングでき、かつ低温での形成が可能な炭素膜を提供するプラズマCVD装置を提供すること。
【解決手段】本発明のプラズマCVD装置は、結晶欠陥が、六方晶ダイヤモンド及び積層欠陥を備える積層体を製造するための表面波プラズマCVD装置であり、前記表面波プラズマCVD装置は、試料台と、試料台上の冷却ステージと、表面波プラズマ源とを備え、該表面波プラズマ源を制御して反応器内のガス圧力を5×101から5×102Paに設定し、かつ試料台と冷却ステージと密着させ、前記基板と該表面波プラズマ源との距離を調節して基板温度を450℃以下に設定する。
【解決手段】本発明のプラズマCVD装置は、結晶欠陥が、六方晶ダイヤモンド及び積層欠陥を備える積層体を製造するための表面波プラズマCVD装置であり、前記表面波プラズマCVD装置は、試料台と、試料台上の冷却ステージと、表面波プラズマ源とを備え、該表面波プラズマ源を制御して反応器内のガス圧力を5×101から5×102Paに設定し、かつ試料台と冷却ステージと密着させ、前記基板と該表面波プラズマ源との距離を調節して基板温度を450℃以下に設定する。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、新しい物性を備えた炭素膜、積層体及びそれらを具備する光デバイス、光学ガラス、腕時計、電子回路基板、研磨用工具に関するものである。
【背景技術】
【0002】
炭素系薄膜は、その高い硬度、熱伝導性、電気的絶縁性、透明性、高屈折率、化学的耐性、低摩擦性及び低摩耗性などの多様な優れた諸特性を有し、さらに近年では優れた環境適応性や生体適応性により、各種基材の高機能化のためのコーティングが望まれている。特にダイヤモンドライクカーボン膜やダイヤモンド膜は優れた物性を備えた炭素系薄膜として、さまざまな基材の機械的、光学的、電気的機能を高めるためのコーティング技術の高度化が期待されている。ところが、現状においてダイヤモンドライクカーボンやダイヤモンドの特性に起因する以下のような問題点を有しており、このような問題点を解決する新しい炭素膜の開発が望まれている。
【0003】
基材上に炭素膜を形成させるにあたっては、ガラスを基材とする場合、その高い硬度により表面の傷つき防止や、その高い屈折率により新しい機能を有する光学素子などへの応用が期待されている。例えば、CVD法によりガラス基板上にマイクロクリスタルダイヤモンド(以下、単にMCDとも言う)膜を形成する方法は既に知られている(例えば、特許文献1、非特許文献1参照)。
光学的保護膜として応用するには、ダイヤモンド膜の高い透過率の利用の試みが行われている。ガラス面へコーティングするダイヤモンド粒子の粒径が小さくて、表面粗さが小さいほど透過率が大きくなることが知られている。しかし従来のCVD法では、形成されるMCDはその粒子サイズがおよそ0.3μm〜数μmと大きなものであるため、得られるMCD膜は表面平坦性に欠け、十分な透過率が得られなかった。その透過率を向上させるためには、研磨による平坦表面を形成する必要があり、この費用が普及を妨げる原因のひとつとなっている。
そこで、ダイヤモンド粒子の粒径を小さくし、研磨を必要としない平坦な表面を形成する手法の開発が試みられてきた。ところが、従来の手法では粒径の小さなダイヤモンドの析出と同時に、黒色を呈する非晶質炭素が混入し、表面は平坦となる一方で、逆に透過率が劣化するという問題があった。
【0004】
また、ガラス保護膜として炭素膜コーティングを利用する際には、高い密着性が要求される。例えば、前記特許文献1には、テープ試験で良好な性能を示すガラス基板上へのダイヤモンドコーティングの手法が開示されている。しかし自動車のフロントガラスやメガネレンズのコーティングなどへの利用には、高い透過率と同時に、より高い密着性を保持するコーティングが必要とされている。
さらに、メガネ、カメラ、映写機などのレンズへの光学的な応用については、コーティング層の屈折率が高く、かつ複屈折性を示さないことが重要である。しかし一般的なコーティング手法であるCVD法を利用する場合、熱歪や残留応力のため複屈折性を示さないダイヤモンドの合成はきわめて困難である。また密度も低下することが多く、屈折率も通常かなり低下する。したがってダイヤモンドコーティングは光学的な応用として適さないという問題があった。
【0005】
また、その高硬度、低摩擦・低摩耗特性から鉄、ステンレスを材料とする機械部品の摺動部への炭素系薄膜コーティングが期待されている。しかし鉄系基材へのダイヤモンドライクカーボン膜やダイヤモンド膜のコーティングは、膜の構成元素である炭素原子の鉄系基材中への浸透により、膜が析出しないという問題や、基材の脆化が生じるという問題があるため、実用化はきわめて困難である。一方コーティングに先立って、鉄系基材表面をチタン、クロムまたはそれらの窒化物の薄膜で覆うという中間層形成手法が開発された。しかし、中間層形成のための費用が発生するという問題や、それでもやはりコーティングの密着性が低いなどの問題のため、ダイヤモンドライクカーボンやダイヤモンドにかわるコーティングの開発が望まれている。
【0006】
また、銅を基材とする場合、ダイヤモンドライクカーボン膜やダイヤモンド膜はその高い電気的絶縁性により、銅を表面とする電子回路基板上へのコーティングが望まれている。しかし銅の表面にはそれらの膜の析出は非常に困難である。また析出したとしても膜の銅表面への密着性が低く、すぐに剥がれてしまうという大きな問題がある。これを改善するために、上述の鉄系基板と同様に、チタンおよびその窒化物などの中間層の形成が試みられてきたが、やはり同様に費用が発生するという問題や、密着性が低いという問題がある。さらに通常の手法であるCVD法で特にダイヤモンドコーティングを行う場合、意図的にドーピングしなくても雰囲気中のホウ素が容易に膜中に取り込まれ、これによりダイヤモンドコーティングの電気的絶縁性が低下するという大きな問題がある。
【0007】
さらに、プラスチック基材への炭素膜コーティング法としては、PETボトルへのダイヤモンドライクカーボン膜のコーティングが実用化されている。しかし、より高い温度での使用や、光学的利用のためダイヤモンドによるプラスチックのコーティングが望まれている。例えば、近年メガネレンズは90%以上がプラスチック製である。ダイヤモンドコーティングしたプラスチック製メガネレンズが作成可能となれば、レンズの傷つき防止やダイヤモンドの高屈折率という性質を利用した高機能レンズの作成が可能となる。しかしダイヤモンド膜合成には最低でも600℃以上の高温が必要であり、そのため、現状ではダイヤモンドはプラスチックへのコーティング材料として適していない。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0008】
【特許文献1】特開平10−95694号公報
【非特許文献】
【0009】
【非特許文献1】Diamond and Related Materials Vol. 7, pp. 1639-1646 (1998)
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0010】
本発明は、ダイヤモンドライクカーボンやダイヤモンドに代表される現状の炭素膜における上記した実情に鑑みてなされたものである。すなわち、本発明の目的は、粒子が小さくなっても高い透明度を保持し、屈折率が高く、複屈折性が小さいという光学的な特性を有し、電気的絶縁性に優れ、鉄、銅、プラスチックを含む基材の種類を問わず密着性良くコーティングでき、かつ低温での形成が可能な炭素膜及び積層体を提供すること、並びに、それらを利用した光デバイス、光学ガラス、腕時計、電子回路基板、研磨用工具などを提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0011】
本発明者らは、上記の諸特性を有する炭素膜および積層体の作製に向けて鋭意検討を重ねた結果、CVD処理を特定の条件下で行うことにより、きわめて良好な性能を有する炭素膜および積層体を形成できることを見出し、この知見に基づいて本発明を完成するに至った。
すなわち、本発明の炭素膜は、Cu Kα1線によるX線回折スペクトルにおいて、ブラッグ角(2θ±0.3°)の43.9°のピークフィッティング曲線Aに41.7°のピークフィッティング曲線Bおよびベースラインを重畳して得られる近似スペクトル曲線を有し、かつ膜厚2nm〜100μmからなるものであることを特徴とするものである。
なお、本明細書に言う、フィッティング曲線AはピアソンVII関数の曲線であり、フィッティング曲線Bは非対称正規分布関数の曲線である。また、ベースラインは一次関数によって表されるものである。
その炭素膜は、前記近似スペクトルにおいて、フィッティング曲線Aの強度に対するフィッティング曲線Bの強度が5〜90%であることが好ましい。
それらの炭素膜は、ラマン散乱分光スペクトルにおいて、ラマンシフトが1333±10cm-1にピークを有し、かつそのピークの半値幅が10〜40cm-1であることが好ましい。
本発明の他の炭素膜は、Cu Kα1線によるX線回折スペクトルにおいて、ブラッグ角(2θ±0.3°)の43.9°のピークフィッティング曲線Aに41.7°のピークフィッティング曲線Bおよびベースラインを重畳して得られる近似スペクトル曲線を有し、フィッティング曲線Aの強度に対するフィッティング曲線Bの強度が5〜90%であり、膜厚2nm〜100μmからなり、ラマン散乱分光スペクトルにおいて、ラマンシフトが1333±10cm-1にピークを有し、かつそのピークの半値幅が10〜40cm-1のものである。
上記の炭素膜は、表面粗さ(Ra)が20nm以下の平坦な表面からなるものであることが好ましい。
それらの炭素膜は、前記炭素膜の電気抵抗率が100℃において1×107Ωcm以上であることが好ましく、また波長領域400〜800nmにおける平均透過率が60%以上であることが好ましい。
また、それらの炭素膜は、前記炭素膜の波長589nmに対する屈折率が1.7以上であることが好ましく、また波長589nmに対する複屈折性が1.0nm以下であることが好ましい。さらに、それらの炭素膜は、硬度が20GPa以上であることが好ましい。
【発明の効果】
【0012】
本発明の炭素膜、炭素粒子および積層体は、粒子が小さくなっても高い透明度を保持し、屈折率が高く、複屈折性が小さいという光学的な特性を有し、電気的絶縁性に優れ、鉄、銅、プラスチックを含む基材の種類を問わず密着性良くコーティングでき、かつ低温での形成が可能である。
本発明の炭素膜は、前記した特性を有することから、大面積ガラス保護膜、高屈折率光学材料、高熱伝導ヒートシンク、電極材料、機械工具保護膜、研磨用工具、電子放出材料、高周波デバイス(SAWデバイス)、ガスバリアーコーティング材料、トライボ材料、腕時計・携帯電話等のカバーガラスの保護膜、生体適応材料、バイオセンサー等の用途に用いることができる。
【図面の簡単な説明】
【0013】
【図1】本発明の一例の炭素膜のCu Kα1線によるX線回折スペクトル、およびピークフィッティング結果である。図中白抜きの丸は測定値を示す。
【図2】ダイヤモンドにおけるCu Kα1線による典型的なX線回折スペクトル((111)反射ピーク)、およびピークフィッティング結果である。図中白抜きの丸は測定値を示す。
【図3】本発明で使用した大面積成膜用マイクロ波プラズマCVD装置の外観である。
【図4】本発明で使用した大面積成膜用マイクロ波プラズマCVD装置の反応容器の構成である。
【図5】本発明によりガラス基板(300mm×300mm)上に形成された炭素膜の写真である。
【図6】本発明の一例の炭素膜のラマン散乱分光スペクトル図である。
【図7】本発明におけるガラス基板上の炭素膜断面の高分解能透過型電子顕微鏡(HRTEM)写真である。(a)はガラス基板と炭素膜の界面、(b)は炭素膜の最表面、(c)は炭素膜の電子線回折像、(d)電子エネルギー損失分光(EELS)スペクトル(C-K殻吸収端)図である。
【図8】本発明におけるガラス基板上に形成された一例の炭素膜断面の走査型電子顕微鏡写真である。
【図9】本発明における石英基板(Ra=0.87nm)上に形成した炭素膜(膜厚1.6μm)表面の原子間力顕微鏡(AFM)写真である。
【図10】本発明におけるガラス基板上に形成された一例の炭素膜(膜厚約500nm)の可視光領域における透過率の波長分散図である。
【図11】本発明におけるガラス基板上に形成された一例の炭素膜の屈折率および消衰係数の波長分散図である。
【図12】本発明でガラス基板上に形成された一例の炭素膜の複屈折測定法概略図である。
【図13】本発明でガラス基板上に形成された一例の炭素膜(膜厚約200nm)の位相差およびΔndの波長分散図である。図中のデータは炭素膜が形成されたガラス基板の測定値から、ガラス基板のみの測定値を差し引いてある。
【図14】本発明でガラス基板上に形成された一例の炭素膜(膜厚約600nm)のスクラッチ試験において、ある1測定点における測定結果の一例である。図の横軸はスクラッチ距離、縦軸は押し込み深さを示す。
【図15】本発明でガラス基板上に形成された一例の炭素膜(膜厚約500nm)における、電気抵抗率の温度依存性を示す図である。
【図16】本発明において、基板温度100℃以下の低温(約95℃)でガラス基板上に形成された一例の炭素膜のラマン散乱スペクトル図である。
【図17】本発明において、各種基板上に形成された一例の炭素膜のラマン散乱スペクトル図である。基板はそれぞれ(a) Si、(b)石英ガラス、(c) Ti、(d) WC、(e) Cu、(f) Fe、(g) ソーダライムガラス、(h) ステンレス(SUS430)、(i) Alである。
【図18】本発明において、シリコン基板上に形成された一例の炭素膜のナノインデンターによる硬度測定結果の図である。
【図19】本発明において、ガラス基板上に形成された一例の不連続炭素膜粒子の光学顕微鏡写真である。
【図20】本発明の炭素膜と石英ガラスによる研磨用工具である。
【図21】本発明の炭素膜とガラスによる光デバイスである。
【図22】本発明の炭素膜による、ガラス保護膜効果を示す写真である。(a)は本発明の炭素膜をコーティングしたホウ珪化ガラスであり、(b)は何もコーティングしていないホウ珪化ガラスである。(a)および(b)何れもサンドペーパー(1000番)で100往復こすった跡の写真を示す。
【図23】本発明の炭素膜と石英ガラスとの積層体を風防として備える腕時計のである。
【図24】アルミニウム板と本発明の炭素膜の積層体に、銅で電子回路パターンを形成して得た電子回路基板の模式図である。
【発明を実施するための最良の形態】
【0014】
本発明の炭素膜は、Cu Kα1線による薄膜X線回折スペクトルにおいて、図1に見られるように、ブラッグ角(2θ±0.3°)の43.9°のピークフィッティング曲線Aに41.7±0.3°のピークフィッティング曲線Bおよびベースラインを重畳して得られる近似スペクトル曲線を有し、かつ膜厚2nm〜100μmからなる炭素膜である。本発明においては、フィッティング曲線AはピアソンVII関数の曲線であり、フィッティング曲線Bは非対称正規分布関数の曲線である。また、ベースラインは一次関数をもって表される。
その炭素膜のラマン散乱分光スペクトル測定では、ラマンシフトが1333±10cm-1にピークを有し、かつそのピークの半値幅が10〜40cm-1であること、またその膜は、炭素粒子の面密度としては、好ましくは1×1010cm-2〜4×1013cm-2の範囲のもので、さらに好ましくは1×1011cm-2〜4×1012cm-2の範囲のもので構成されていることが望ましいものである。その表面粗さは、AFM測定により、Raで2〜20nmである。また、その膜は、500nmの膜厚では可視光(波長400〜800nm)に対して平均90%以上の透過率を示すものである。さらにまたその膜は、電気抵抗率が100℃において1×107Ωcm以上である。
【0015】
本発明の炭素膜は、主として特定の製造条件を採用することにより得ることができる。その炭素膜を作製するには、大面積の膜を形成できる表面波プラズマ発生装置を用いること、その操作条件として原料ガスの濃度やモル比、反応時間などを選定すること及び比較的低温下で操作することなどが必要である。
【0016】
本発明における炭素膜の製造方法について、例を挙げて概略を以下に説明する。例えば、ガラス、シリコン、鉄、チタン、銅、プラスチックなどの基板にダイヤモンド微粒子を超音波処理によって付着させ、これを低温表面波プラズマCVD装置にて、水素98%、炭酸ガス1%及びメタンガス1%を含むガスを用いて、圧力1×102Paにて、表面波プラズマ処理を行う。
その処理時間としては、数時間から数十時間であり、またその処理温度としては50〜600℃である。以上の処理により、基材表面に粒径2〜30nmの炭素微粒子が堆積する。表面波プラズマ処理は、時間を長くすることにより炭素粒子は隙間なく非常に緻密に堆積し、厚さ2μm以上の膜を形成することもできる。
【0017】
また銅基板では、このダイヤモンド微粒子の超音波処理による付着なしでも、炭素微粒子が堆積する。さらに、この炭素微粒子堆積層を、各種膜試験法により測定を行ったところ、膜厚500nmのもので可視光の透過率95%以上であり、基材への密着性が高く、高い屈折率(波長589nmに対して2.1以上)を持っており、複屈折性がほとんどなく、厚さ2μmの膜を形成した場合の表面粗さ(Ra)は20nm以下の表面が平坦なものであり、さらに温度100℃おいてその電気抵抗率が107Ωcm以上と非常に高抵抗、等の特出する性質をもつことが明らかとなった。このように本手法で形成された炭素粒子および炭素膜は、従来にない高い透明性、密着性を備え、かつ鉄系や銅基材にも直接堆積コーティングが可能であるという特出する性能を持っている。
【0018】
本発明の炭素膜を製造するには、上記のとおりの基板上に作製することが好ましく、その基板の代表例としてはガラスが用いられる。そのガラス基板としては、従来公知の各種のガラス、例えば、ソーダライムガラスやホウケイ化ガラス等が包含される。ガラスの厚さは、特に制約されず、製品の用途に応じて適宜選ばれる。一般的には100〜0.5mm程度である。
【0019】
本発明においては、先ず、ガラス基板に対して、ナノクリスタルダイヤモンド粒子、クラスターダイヤモンド粒子またはグラファイトクラスターダイヤモンド粒子を付着させるか、またはアダマンタン(C10H16)、その誘導体またはその多量体を付着させる。
【0020】
通常ナノクリスタルダイヤモンド粒子は、爆発合成により、または高温高圧合成されたダイヤモンドを粉砕することにより製造されるダイヤモンドである。クラスターダイヤモンド粒子は、ナノクリスタルダイヤモンド粒子の凝集体であり、グラファイトクラスターダイヤモンド粒子は、グラファイトやアモルファス炭素成分を多量に含むクラスターダイヤモンド粒子である。
【0021】
ナノクリスタルダイヤモンドは、爆発合成によるナノクリスタルダイヤモンドを溶媒に分散させたコロイド溶液が有限会社ナノ炭素研究所等から、また粉砕により製造されたナノクリスタルダイヤモンド粉末、あるいはそれを溶媒に分散させたものがトーメイダイヤ株式会社等から、既に販売されている。本発明で用いるナノクリスタルダイヤモンド粒子は、その平均粒径が4〜100nm、好ましくは4〜10nmである。ナノクリスタルダイヤモンド粒子については、例えば文献で「牧田寛,New Diamond Vol.12 No.3, pp. 8−13 (1996)」に詳述されている。
【0022】
ガラス基板上にナノクリスタルダイヤモンド粒子を付着させるには、該粒子を水またはエタノール中に分散させる。この際分散性を向上させるために、界面活性剤(例えばラウリル硫酸エステルナトリウム塩、オレイン酸ナトリウム等)を加え、この分散液に基板を浸して超音波洗浄器にかけ、その後、該基板をエタノール中に浸して超音波洗浄を行った後、該基板を取り出して乾燥させる。
このようにして、表面にナノクリスタルダイヤモンド粒子を付着させたガラス基板を得ることができる。ガラス基板への該ナノクリスタルダイヤモンド粒子の付着は超音波洗浄処理における物理的力により、該粒子の一部が基板表面へ埋没することによるものである。
基板表面に対するナノクリスタルダイヤモンド粒子の付着割合は、好ましくは1cm2当たり109〜1012個、さらに好ましくは1010〜1011個である。ガラス基板に付着するダイヤモンド粒子は、表面波プラズマ処理における炭素膜成長の種結晶として作用する。
【0023】
このとき、分散媒(水、エタノール等)に分散させる、ナノクリスタルダイヤモンド粒子の濃度を希薄にすることにより、基板表面に付着するナノクリスタルダイヤモンド粒子の付着割合を小さくすることができる。これにより、表面波プラズマ処理において炭素粒子の核発生密度を下げ、連続膜ではなく、炭素粒子の集積体から成る不連続膜を得ることができる。この集積体における炭素粒子の面密度は、分散溶液中のナノクリスタルダイヤモンド粒子の濃度によって制御することができる。さらには、表面波プラズマ処理を行う時間によって、炭素粒子の粒径を制御できる。また、その濃度を非常に薄くすることにより、基板上に孤立した炭素粒子からなる集積体を作製することもできる。さらには、この集積体をフッ酸等で処理することなどにより、該集積体から基板を除去することによって、炭素粒子のみを得ることもできる。
【0024】
また、該基板上にナノクリスタルダイヤモンド粒子を付着させる別な方法として、該ナノクリスタルダイヤモンドの分散液を該基板上にスピンコートし、その後乾燥させることによっても、上記超音波洗浄による方法と同様な付着効果が得られる。
【0025】
クラスターダイヤモンド粒子は、爆発合成法により製造されるナノクリスタルダイヤモンドの凝集体であり、透明性に優れており、既に東京ダイヤモンド工具製作所等から販売されている。本発明で用いるクラスターダイヤモンド粒子において、その粒径分布は好ましくは4〜100nm、さらに好ましくは4〜10nmである。このクラスターダイヤモンド粒子については、文献「牧田寛,New Diamond,Vol.12 No.3,p.8−13(1996)」に詳述されている。
【0026】
ガラス基板上にクラスターダイヤモンド粒子を付着させるには、該粒子を水またはエタノール中に分散さる。この際分散性を向上させるために、界面活性剤(例えばラウリル硫酸エステルナトリウム塩、オレイン酸ナトリウム等)を加え、この分散液に基板を浸して超音波洗浄器にかけ、その後、該基板をエタノール中に浸して超音波洗浄を行った後、該基板を取り出して乾燥させる。
このようにして、表面にクラスターダイヤモンド粒子が付着したガラス基板を得ることができる。ガラス基板への該クラスターダイヤモンド粒子の付着は超音波洗浄処理における物理的力により、該粒子の一部が基板表面へ埋没することによるものである。
基板表面に対するクラスターダイヤモンド粒子の付着割合は、1cm2当たり好ましくは109〜1012個、さらに好ましくは1010〜1011個である。ガラス基板に付着するダイヤモンド粒子は、表面波プラズマ処理におけるダイヤモンド膜成長の種結晶として作用する。
【0027】
このとき、分散媒(水、エタノール等)に分散させる、クラスターダイヤモンド粒子の濃度を希薄にすることにより、基板表面に付着するクラスターダイヤモンド粒子の付着割合を小さくすることができる。これにより、表面波プラズマ処理において炭素粒子の核発生密度を下げ、連続膜ではなく、炭素粒子の集積体から成る不連続膜を得ることができる。この集積体における炭素粒子の面密度は、分散溶液中のクラスターダイヤモンド粒子の濃度によって制御することができる。さらには、表面波プラズマ処理を行う時間によって、炭素粒子の粒径を制御できる。また、その濃度を非常に薄くすることにより、基板上に孤立した炭素粒子からなる集積体を作製することもできる。さらには、この集積体をフッ酸等で処理することなどにより、該集積体から基板を除去することによって、炭素粒子のみを得ることもできる。
【0028】
また、該基板上にクラスターダイヤモンド粒子を付着させる別な方法として、該クラスターダイヤモンドの分散液を該基板上にスピンコートし、その後乾燥させることによっても、上記超音波洗浄による方法と同様な付着効果が得られる。
【0029】
ガラス基板上にグラファイトクラスターダイヤモンド粒子を付着させるには、該粒子を水またはエタノール中に分散させる。この際分散性を向上させるために、界面活性剤(例えばラウリル硫酸エステルナトリウム塩、オレイン酸ナトリウム等)を加え、この分散液に基板を浸して超音波洗浄器にかけ、その後、該基板をエタノール中に浸して超音波洗浄を行った後、該基板を取り出して乾燥させる。
このようにして、表面にグラファイトクラスターダイヤモンド粒子が付着したガラス基板を得ることができる。ガラス基板への該グラファイトクラスターダイヤモンド粒子の付着は超音波洗浄処理における物理的力により、該粒子の一部が基板表面へ埋没することによるものである。
基板表面に対するダイヤモンド粒子の付着割合は、1cm2当たり好ましくは109〜1012個、さらに好ましくは1010〜1011個である。ガラス基板に付着するダイヤモンド粒子は、表面波プラズマ処理における炭素膜成長の種結晶として作用する。
【0030】
このとき、分散媒(水、エタノール等)に分散させる、グラファイトクラスターダイヤモンド粒子の濃度を希薄にすることにより、基板表面に付着するグラファイトクラスターダイヤモンド粒子の付着割合を小さくすることができる。これにより、表面波プラズマ処理において炭素粒子の核発生密度を下げ、連続膜ではなく、炭素粒子の集積体から成る不連続膜を得ることができる。この集積体における炭素粒子の面密度は、分散溶液中のグラファイトクラスターダイヤモンド粒子の濃度によって制御することができる。さらには、表面波プラズマ処理を行う時間によって、炭素粒子の粒径を制御できる。また、その濃度を非常に薄くすることにより、基板上に孤立した炭素粒子からなる集積体を作製することもできる。さらには、この集積体をフッ酸等で処理することなどにより、該集積体から基板を除去することによって、炭素粒子のみを得ることもできる。さらに、基板上に連続膜を作製した場合は、この基板除去によって自立膜を作製することができる。
【0031】
また、該基板上にグラファイトクラスターダイヤモンド粒子を付着させる他の方法として、該グラファイトクラスターダイヤモンド分散液を該基板上にスピンコートし、その後乾燥させることによっても、上記超音波洗浄による方法と同様な付着効果が得られる。
【0032】
アダマンタンは、C10H16という分子式で表せられる分子で、ダイヤモンドの基本骨格と同様の立体構造を有する昇華性の分子性結晶(常温・常圧)であり、石油の精製過程より製造される。その粉末およびその誘導体およびそれらの多量体が、既に出光興産株式会社より販売されている。
【0033】
ガラス基板上に、アダマンタンまたはその誘導体あるいはそれらの多量体を付着させるには、該物質を溶媒(例えば、エタノール、ヘキサン、アセトニトリル等)に溶解した後、該基板を該溶液中に浸して超音波洗浄を行った後、該基板を取り出して乾燥させる。このようにして、表面にアダマンタンまたはその誘導体あるいはそれらの多量体を付着させたガラス基板を得ることができる。
【0034】
このとき、溶媒に溶解させる、アダマンタンまたはその誘導体あるいはそれらの多量体の濃度を希薄にすることにより、基板表面に付着するアダマンタンまたはその誘導体あるいはそれらの多量体の付着割合を小さくすることができる。これにより、表面波プラズマ処理において炭素粒子の核発生密度を下げ、連続膜ではなく、炭素粒子の集積体から成る不連続膜を得ることができる。この集積体における炭素粒子の面密度は、溶液中のアダマンタンまたはその誘導体あるいはそれらの多量体の濃度によって制御することができる。さらには、表面波プラズマ処理を行う時間によって、炭素粒子の粒径を制御できる。また、その濃度を非常に薄くすることにより、基板上に孤立した炭素粒子からなる集積体を作製することもできる。さらには、この集積体をフッ酸等で処理することなどにより、該集積体から基板を除去することによって、炭素粒子のみを得ることもできる。
【0035】
また、該基板上に、アダマンタンまたはその誘導体あるいはそれらの多量体を付着させる他の方法として、該物質溶液を該基板上にスピンコートし、その後乾燥させることによっても、上記超音波洗浄による方法と同様な付着効果が得られる。
【0036】
本発明においては、次に、前記のようにして得られた表面にダイヤモンド粒子またはアダマンタン、その多量体あるいはその誘導体の付着したガラス基板(以下、単にガラス基板とも言う)に対して、マイクロ波プラズマCVD装置を用いて処理を施す。
マイクロ波プラズマCVD装置(以下、単にCVD装置とも言う)は、既に公知のものであり、例えば、アプライド・フィルムズ・コーポレーション社から入手可能なものである。このCVD装置の概観を図3に示す。また、その反応器の構成を図4に示す。
【0037】
ガラス基板にCVD処理を施すためには、ガラス基板の歪点より低温において処理することが必要である。通常のダイヤモンドのCVD処理では、圧力が2×103〜1×104Paであるため、基板の温度が800℃以上になり、ガラス基板に対しては適用できない。温度を低くするためには、低圧でのプラズマ処理が必要である。このため、本発明では、1×102Pa程度の圧力で表面波プラズマを発生させ、CVD処理に利用した。表面波プラズマについては、例えば文献「菅井秀郎,プラズマエレクトロニクス,オーム社 2000年,p.124-125」に詳述されている。これにより、ガラス基板のCVD処理温度を歪点より低い温度にする事ができ、かつ380mm×340mm以上の大面積に均一なプラズマを発生させることができた。このプラズマをラングミュアプローブ法(シングルプローブ法)により診断した結果、プラズマ密度が8×1011/cm3であり、周波数2.45GHzのマイクロ波による表面波プラズマの条件である臨界プラズマ密度7.4×1010/cm3を超えていることを確認した。ラングミュアプローブ法については、例えば文献「菅井秀郎,プラズマエレクトロニクス,オーム社 2000年,p.58」に詳述されている。
本発明で用いるCVD処理の条件としては、好ましくは50〜600℃、さらに好ましくは300〜450℃の温度、圧力は好ましくは5×101〜5×102Pa、さらに好ましくは1.0×102〜1.2×102Paが用いられる。処理時間は0.5〜20時間、通常1〜8時間程度である。この処理時間により、100nm〜2μm程度の膜厚が得られる。
【0038】
CVD処理に用いる原料ガス(反応ガス)は、含炭素ガスと水素とからなる混合ガスである。含炭素ガスとしては、メタン、エタノール、アセトン、メタノール等が包含される。
含炭素ガス/水素混合ガスにおいて、その含炭素ガスの濃度は0.5〜10モル%、好ましくは1〜4モル%である。含炭素ガスが前記範囲より多くなると透過率の低下等の問題が生じるので好ましくない。
また、前記混合ガスには、添加ガスとして、CO2やCOを添加することが好ましい。これらのガスは酸素源として作用し、CVD処理においては、不純物を除去する作用を示す。
CO2及び/又はCOの添加量は、全混合ガス中、好ましくは0.5〜10モル%、さらに好ましくは1〜4モル%である。
【0039】
本発明によりガラス基板に対して前記CVD処理を施す場合、ガラス基板と合成された炭素膜との密着性の点から、CVD処理温度(基板温度)をガラスの歪点より低い温度、好ましくは300〜450℃程度の低い温度に調節するのがよい。例えば、ソーダライムガラス基板の場合、その歪点は470℃付近であることから、そのCVD処理温度はそれより低い温度、好ましくは300〜450℃である。パイレックス(登録商標)等のホウケイ化ガラスでは、CVD処理温度は、好ましくは400〜550℃、さらに好ましくは450〜500℃である。
【0040】
本発明により、ガラス基板上に炭素粒子または炭素膜を形成させることができる。この炭素粒子および炭素膜は、Cu Kα1線によるX線回折スペクトルにおいて、図1にみられるように、ブラッグ角(2θ±0.3°)の43.9°のピークフィッティング曲線Aに41.7±0.3°のピークフィッティング曲線Bおよびベースラインを重畳して得られる近似スペクトル曲線を有するという、ダイヤモンド等他の炭素粒子および炭素膜とは異なる著しい特徴を有するものである。
また、ラマン散乱分光スペクトル(励起光波長244nm)において、ラマンシフト1333cm-1付近に明瞭なピークがみられ、その半値全幅(FWHM)は10〜40cm-1である。さらに該膜の場合、平坦性および密着性に優れており、その表面粗さRaは20nm以下であり、場合によっては3nm以下にも達する平坦なものである。また、透明性に優れ屈折率が2.1以上と非常に高く、複屈折も殆ど示さないなど、光学的に優れた性質を持ち、かつ100℃の温度でその抵抗率が107Ωcm以上と非常に高い電気絶縁性を示すなど、電気的にも優れた性質を持つ。
【0041】
また、その膜断面の高分解能透過型電子顕微鏡による観察から、該膜は粒径1nmから数十nmの結晶性炭素粒子が隙間なく詰まって形成されており、しかもその膜と基板との界面、その膜中および膜最表面付近とにおいて、その粒径分布が変化していない(平均粒径がほぼ等しい)ことが特徴的であることがわかった。得られる炭素膜の膜厚は、好ましくは2nm〜100μm、さらに好ましくは50〜500nmであり、その粒子の粒径は、好ましくは1〜100nmであり、さらに好ましくは2〜20nmである。
[実施例]
以下、本発明を実施例等によりさらに具体的に説明するが、本発明はこれらの実施例等によっては何ら限定されるものではない。
【0042】
基板として300mm×300mmに切り出したガラス(ホウケイ化ガラスおよびソーダライムガラス)を使用した。また、評価用試料作製のために4インチ径のウェハ状のガラス基板も用いた。炭素粒子の核形成密度を高め均一な成膜とするために、成膜前の基板に前処理(ナノクリスタルダイヤモンド粒子付着処理)を行った。
この前処理には平均粒径5nmのナノクリスタルダイヤモンド粒子を純水中に分散させたコロイド溶液(有限会社ナノ炭素研究所製 製品名ナノアマンド)または平均粒径30nmまたは40nmのナノクリスタルダイヤモンド粒子(トーメイダイヤ株式会社製 製品名各々MD30およびMD40)を純水中に分散させた溶液、あるいはクラスターダイヤモンド粒子またはグラファイトクラスターダイヤモンド粒子(東京ダイヤモンド工具製作所製 製品名各々CDおよびGCD)を分散させたエタノール、あるいはアダマンタンまたはその誘導体あるいはそれらの誘導体(各々出光興産株式会社製)溶液を用い、これに基板を浸して超音波洗浄器にかけた。
その後、基板をエタノール中に浸して超音波洗浄を行い、乾燥させるか、またはこれらの溶液をスピンコートによって基板上に均一に塗布し、乾燥させる。この前処理の均一性が成膜後の炭素膜の均一性に影響する。この場合、基板上に付着するダイヤモンド粒子は、1cm2当たり、1010〜1011個であった。
【0043】
原料ガスはCH4、CO2およびH2を用い、CH4およびCO2の濃度をそれぞれ1モル%とした。反応容器内ガス圧力は、通常ダイヤモンドのCVD合成で用いられる圧力(103〜104Pa)より低い1.0〜1.2×102Pa(1.0〜1.2mbar)とし、トータル20〜24kWのマイクロ波を投入して基板面積(300×300mm2)より広い領域に大面積かつ均一なプラズマを発生させた。その際、Mo試料台と冷却ステージを密着させ、基板とアンテナの距離を調節することによって、成膜中の基板温度をソーダライムガラスの軟化点付近450℃以下に保つことが可能となった。
以上の成膜条件の下、6〜20時間成膜を行った。成膜後のガラス基板上には、均一かつ透明な炭素膜が形成された。この膜の膜厚は、300nm〜2μmであった。
【0044】
本発明により、300mm×300mmガラス基板上に形成された炭素膜の概観写真を図5に示す。図5において、基板が歪んでいるように見えるのは、写真機の機能によるものであり、実際に基板が歪んでいるわけではない。該膜は膜厚約400nmであり、非常に透明であるが、干渉色により膜の存在を確認できる。
【0045】
この炭素膜をX線回折により観察した。以下、測定の詳細を記す。使用したX線回折装置は株式会社リガク製X線回折測定装置RINT2100 XRD-DSCIIであり、ゴニオメーターは理学社製UltimaIII水平ゴニオメーターである。このゴニオメーターに薄膜標準用多目的試料台を取り付けてある。測定した試料は上記の手法で厚さ1mmのホウケイ化ガラス基板上に作製した膜厚500nmの炭素膜である。ガラス基板ごと30mm角に切り出したものを測定した。X線は銅(Cu)のKα1線を用いた。X線管の印加電圧・電流は40kV・40mAであった。X線の検出器にはシンチレーションカウンターを用いた。まず、シリコンの標準試料を用いて、散乱角(2θ角)の校正を行った。2θ角のズレは+0.02°以下であった。次に測定用試料を試料台に固定し、2θ角を0°、すなわち検出器にX線が直接入射する条件で、X線入射方向と試料表面とが平行となり、かつ、入射するX線の半分が試料によって遮られるように調整した。この状態からゴニオメーターを回転させ、試料表面に対して0.5°の角度でX線を照射した。この入射角を固定して、2θ角を10°から90°まで0.02°きざみで回転し、それぞれの2θ角で試料から散乱するX線の強度を測定した。測定に用いたコンピュータープログラムは、株式会社リガク製RINT2000/PCソフトウェア Windows(登録商標)版である。
【0046】
測定したX線回折のスペクトルを図1に示す。図中の白丸が測定点である。2θが43.9°に明瞭なピークがあることがわかる。ここで興味深いのは、図1からわかるように、43.9°のピークはその低角度側、2θが41〜42°に肩を持っている。(スペクトルの「肩」については「化学大辞典」(東京化学同人)を参照するとよい。)したがってこのピークは、43.9°付近を中心とするピーク(第1ピーク)と、41〜42°あたりに分布するもうひとつのピーク(第2ピーク)の、2成分のピークにより構成されている。CuKα1線によるX線回折で、2θが43.9°にピークをもつ炭素系物質としてはダイヤモンドが知られている。ここで図2は、同様の方法によりダイヤモンドをX線回折測定したスペクトルであり、ピークはダイヤモンドの(111)反射によるものである。本発明の炭素膜とダイヤモンドのX線回折スペクトルの違いは明瞭で、本発明の炭素膜のスペクトルに見られる41〜42°あたりに分布する第2ピークは、ダイヤモンドには見ることができない。このようにダイヤモンドの(111)反射は43.9°を中心とする1成分(第1ピークのみ)で構成され、本発明の炭素膜の様な低角度側の肩は観測されない。したがって本発明の炭素膜のスペクトルに見られる41〜42°あたりに分布する第2ピークは、本発明の炭素膜に特徴的なピークである。
また、図1の本発明の炭素膜のX線回折スペクトルのピークは、図2のダイヤモンドのピークと比較して、大変幅が広いことがわかる。一般に膜を構成する粒子の大きさが小さくなるとX線回折ピークの幅が広くなり、本発明の炭素膜を構成する粒子の大きさが非常に小さいといえる。本発明の炭素膜を構成する炭素粒子の大きさ(平均の直径)を、X線回折で通常用いられるシェラー(Scherrer)の式によりピークの幅から見積もってみると、およそ15nmであった。シェラーの式については、例えば「日本学術振興会・薄膜第131委員会編 薄膜ハンドブック,オーム社1983年,p.375」を参照するとよい。
次にこのピークの構成の詳細(それぞれのピークの成分の位置や強度など)を見ることにする。
【0047】
本発明の炭素膜のX線回折測定における2θが43.9°のピークの詳細な構成を知るために、2θ角が39°から48°の間で、ピークフィッティングを用いて解析した。第1ピークのフィッティングには、ピアソンVII関数と呼ばれる関数を用いた。この関数は、X線回折や中性子回折などの回折法のピークのプロファイルを表すものとして、最も一般的に用いられているものである。このピアソンVII関数については、「粉末X線解析の実際-リートベルト法入門」(日本分析化学会X線分析研究懇談会編、朝倉書店)を参照するとよい。また第2ピークのフィッティングには、いろいろな関数を検討した結果、非対称の関数を用いるとよいことが判明した。ここでは非対称正規分布関数(ガウス分布関数)を用いた。この関数はピーク位置の右側と左側で別々の分散(標準偏差)値を持つ正規分布関数であり、非対称ピークのフィッティングに用いる関数としては最も簡単な関数のひとつであるが、非常によくピークフィッティングができた。また、ベースライン(バックグラウンド)関数としては直線関数(一次関数)を用いた。
【0048】
実際のフィッティング作業はいろいろなコンピュータープログラムが利用できるが、ここではORIGINバージョン6日本語版ピークフィッティングモジュール(以下、ORIGIN −PFM)を用いた。ORIGIN−PFMで、ピアソンVII関数は”Pearson7”、非対称正規分布関数は”BiGauss”、直線関数は”Line”と表されている。フィッティングの完了条件は、フィッティングの信頼度を表す相関係数(ORIGIN−PFMで”COR”あるいは”Corr Coef”)が0.99以上となることとした。
【0049】
このピークフィッティングを用いた解析により、図1に示すようにこの測定スペクトルはピアソンVII関数による第1ピーク(図中フィッティング曲線A)、非対称正規分布関数による第2ピーク(図中フィッティング曲線B)、および一次関数によるベースライン(バックグラウンド)の和(図中フィッティング合計曲線)で大変よく近似できることがわかった。この測定でフィッティング曲線Aの中心は2θが43.9°にあり、これに対してフィッティング曲線Bは41.7°で最大となる。それぞれのフィッティング曲線とベースラインで囲まれた面積がそれぞれのピークの強度である。これにより第1ピークの強度に対する第2ピークの強度を解析した。この試料の場合、第2ピーク(フィッティング曲線B)の強度は第1ピーク(フィッティング曲線A)の強度の45.8%であった。
【0050】
本発明の炭素膜の多くの試料についてX線回折測定を行ったところ、すべての試料で2θが43.9°を中心に図1に示すような幅の広いピークが観測された。しかも図1に示すような低角度側に肩をもつ形をしており、第1ピークと第2ピークにより構成されることがわかった。多数の試料で測定したX線回折スペクトルについて同様のピークフィッティングによる解析を行ったところ、上述の関数を用いて非常にうまくフィッティングできることがわかった。第1ピークの中心は2θが43.9±0.3°であった。また第2ピークは2θが41.7±0.3°で最大となることがわかった。第1ピークに対する強度比は最小が5%で、最大が90%であった。この強度比は合成温度依存性が大きく、温度が低いほど大きくなる傾向があった。一方ピークの位置については合成温度によらずほぼ一定であった。
【0051】
このX線回折測定の解析手法の注意すべき点は、X線の強度が小さいと測定データのばらつきが大きくなり、信頼できるフィッティングが不可能となることである。そのため、ピークの最大強度が5000カウント以上のものについて、上述のフィッティングによる解析を行う必要がある。
【0052】
このように本発明の炭素膜には、Cu Kα1線によるX線回折測定において、2θが43.9°を中心に幅の広いピークを持ち、しかもそのピークは低角度側に肩のある構造をもつことが明らかとなった。ピークフィッティングを用いた解析により、このピークは2θが43.9°に中心をもつピアソンVII関数による第1ピークと41.7°で最大となる非対称正規分布関数による第2ピーク、および一次関数によるベースライン(バックグラウンド)の重畳で大変よく近似できることがわかった。
【0053】
同様のピークフィッティングによる解析を図2に示したダイヤモンドのスペクトルについて行った。上述の本発明の炭素膜とはまったく異なり、ダイヤモンドの場合は2θが43.9°に中心をもつピアソンVII関数だけで大変よく近似できることがわかった。したがって本発明の炭素膜はダイヤモンドとは異なる構造をもつ物質であることがわかった。
【0054】
本発明の炭素膜は上述の第2ピークが観測されることが特徴であり、ダイヤモンドとは異なる構造をもつ炭素膜である。本発明の炭素膜の製造工程、およびその他の測定結果を吟味し、その構造を検討した。本発明において用いている炭素膜の合成法を、ダイヤモンドのCVD合成法と比較した場合、以下のような大きな特徴がある。まず、通常のダイヤモンド合成が少なくとも700℃以上の温度で行われているのに対して、本発明の炭素膜は非常に低温で合成を行っている。また従来ダイヤモンド膜の粒径を小さくする場合、原料ガスに含まれる炭素源濃度(メタンガスのモル比)が10%程度の高い濃度により高速成長する方法が用いられてきたが、本発明では炭素源濃度が1%程度とかなり低い。すなわち、本手法では低温において非常にゆっくりと時間をかけ、炭素粒子を析出し、膜を形成している。したがって、炭素粒子はダイヤモンドになるかならないかのぎりぎりの状況で析出する。このため通常の立方晶のダイヤモンドより安定な炭素による結晶である六方晶ダイヤモンドの析出や、さらに安定なグラファイトの析出を促すような力が働き、結晶の析出状況としては非常に不安定である。さらにいったん析出したグラファイトおよび非晶質炭素物質も、原料ガスに含まれる大量の水素プラズマにより、エッチングにより除去される。このような析出機構により、立方晶ダイヤモンドと六方晶ダイヤモンドが入り混じり、かつエッチングによって除去された部分が非常に高濃度の欠陥として残留した構造となっている。この欠陥は原子空孔のような点欠陥であったり、転位のような線状の欠陥であったり、また積層欠陥のような面単位の欠陥も大量に含まれている。このため43.9°のX線回折ピークが低角度側に肩をもつ構造となるのである。
【0055】
しかしながら、以上のようなX線回折ピークの特徴が、本発明の炭素膜の高い機能に結びついている。すなわち、低炭素源濃度での低速合成のため、グラファイトおよびグラファイト様物質のエッチングが促進されるため、高濃度の欠陥を含む構造となるが、その一方で炭素膜の透明度を高く保っている。また、低温で合成しているため立方晶ダイヤモンドと六方晶ダイヤモンドが入り混じり、かつ高濃度の欠陥を含んでいるが、そのような低温のおかげで、鉄系基材にも炭素が浸透することなく析出し、また銅にも直接コーティングが可能となった。さらにかつ低温での合成のため、微小な粒径が揃っており、熱による歪が非常に小さい。すなわち立方晶ダイヤモンドと六方晶ダイヤモンドが入り混じり、かつ非常に高濃度の欠陥を含んだ構造により、熱歪が緩和され、光学的な複屈折性が小さいという特徴が生じている。また同様に、この構造のおかげで、非常に高い電気的絶縁性が発現している。
【0056】
この炭素膜のラマン散乱分光スペクトルの測定を行った。測定には日本分光株式会社製 紫外励起分光計 NRS-1000UVを用い、励起光は波長244nmの紫外レーザー(コヒーレント社製 Arイオンレーザー 90C FreD)を用いた。レーザー源の出力は100mWで減光器は使用しなかった。アパーチャーは200μmとした。露光時間は30秒ないし60秒間で2回の測定を積算してスペクトルを得た。この装置の校正は、ラマン散乱分光用標準試料の高温高圧合成単結晶ダイヤモンド(住友電気工業株式会社製DIAMOND WINDOW,Type:ラマン用DW005,Material:SUMICRYSTAL)により行った。この標準試料におけるラマンスペクトルのピーク位置が、ラマンシフト1333cm-1になるよう調整した。測定および解析には、本装置標準の日本分光株式会社製コンピュータソフトウェアSpectra Manager for Windows(登録商標)95/98 ver.1.00を用いた。
【0057】
測定された典型的なラマン散乱分光スペクトルを図6に示す。測定した試料は直径10cm厚さ1mmのホウケイ化ガラスウェハ上に、前記の方法で作製した厚さ約1μmの炭素膜である。図6に見るように、その炭素膜のラマン散乱スペクトルには、ラマンシフト1333cm-1付近に位置するピークが明瞭に認められた。他の多数の試料についても、同様に測定を行った結果、このピークは1320〜1340cm-1の範囲にあり、1333±10cm-1の範囲に必ず入ることが分かった。また、ラマンシフト1580cm-1付近に見られるブロードなピークは、炭素のsp2結合成分の存在を示す。この成分の割合が多くなると、その膜は不透明な黒色となる。図6の場合、このピークの高さは、1333cm-1のピークの高さに比べ約7分の1と小さく、後で示すように、この膜が透明膜であることが分かる。この場合の半値全幅(FWHM)は約22cm-1であった。他の多数の試料についても、同様に測定を行った結果、FWHMは10〜40cm-1の範囲にあることが分かった。
【0058】
この炭素膜断面を高分解能透過型電子顕微鏡(HRTEM)で観察した。使用したHRTEM装置は(株)日立製作所製H-9000透過型電子顕微鏡であり、加速電圧300kVで観察を行った。また、試料ホルダは該HR-TEM装置の標準傾斜試料ホルダを用いた。観察用試料の作製には、(1)Arイオンミリング処理による薄片化、(2)収束イオンビーム(FIB)加工による薄片化、または(3)膜表面をダイヤモンドペンで剥がし、得られた切片をマイクログリッドに捕集、の何れかの方法で行った
【0059】
図7に観察結果の例を示す。図7はガラス基板上の該膜断面の観察例である。この場合、イオンミリング処理により試料を作製した。a図は該膜と基板の界面、b図は該膜最表面、c図は該膜の電子線回折像、d図は該膜を構成する炭素粒子の炭素K殻吸収端における電子エネルギー損失分光(EELS)スペクトルの測定結果である。aおよびb図から、該膜ほぼ全面で格子像が観察され、膜中隙間なく結晶性の粒子で埋め尽くされていることが分かる。またc図の電子線回折像は、ランダム配向の多結晶ダイヤモンドのリングパターンに近い。しかし、特にダイヤモンド(111)面に対応するリング中には、1つのリングに乗らない回折スポットが多数含まれ、これらは面間隔にしてダイヤモンド(111)面より2〜6%広い面による回折に対応する。この点において、該炭素膜は通常のダイヤモンドと著しく異なる。さらに、該膜は粒径1nmから数十nmの結晶粒子が隙間なく詰まってできており、しかも該膜と基板との界面、該膜中および該膜最表面付近とでその粒径分布は変わらない。また、1個の粒子が1個または複数の結晶子から構成されているのが観察された。またd図のEELSスペクトルから、C-C sp2結合の存在を示すσ-σ*遷移に対応するピークが殆ど無く、sp3結合成分の存在を示すσ-σ*遷移に対応するピークが支配的であることがわかる。すなわち該膜は、sp3結合した炭素原子から成る、結晶性の炭素粒子から構成されていることがわかる。
【0060】
ここで結晶子(crystallite)とは、単結晶とみなせる微結晶のことであり、一般に1個の粒子(grain)は1個または複数個の結晶子から構成されている。HRTEM観察結果から、該膜の炭素粒子(結晶子)の大きさ(平均粒径)は、基板との界面、膜中および最表面について変わりなく、2〜40nmの範囲にあった。
ここで、粒子が隙間なく詰まって膜が構成されていると見なせる場合、平均粒径を求めるためには、以下の手順に従って求めた。
すなわち平均粒径は、炭素膜断面の透過型電子顕微鏡写真において、少なくとも100個以上の異なる粒子(結晶子)について粒径の平均をとって決定した。図7(a)において、白い閉曲線で囲んだ部分が1つの粒子であるが、その閉曲線で囲まれた面積を求め、この値をSとすると、粒径Dは
によって決定した。ここでπは円周率を表す。
また、粒子の面密度dsは、その粒子の平均粒径から
ds = 単位面積/(π×(平均粒径/2)2)
によって決定した。
このようにして、本発明の炭素膜の面密度を求めると、界面、膜中および最表面について変わりなく、8×1010cm-2から4×1012cm-2の範囲にあることが分かった。
【0061】
この炭素膜を走査型電子顕微鏡(SEM)で観察した。試料は直径10cm厚み1mmのホウケイ化ガラス基板上に、膜厚約500nmの炭素膜を形成した後、基板を割り、基板を傾けてその断面を観察した。ガラス基板およびダイヤモンド膜が絶縁体であるため生じるチャージアップを防ぐため、比較的低い加速電圧1kVを用い、比較的低倍率の約7000倍で観察した。その観察結果を図8に示す.図8に見るように、該膜は非常に平坦であり、この倍率では明確な凹凸は全く観察されなかった。
【0062】
この炭素膜表面の原子間顕微鏡(AFM)による観察を行い、表面粗さの評価を行った。この場合、基板の表面荒さが膜の表面粗さに及ぼす影響を可能な限り低く抑えるため、鏡面研磨した表面粗さの小さい(算術平均高さRa=0.9〜1.2nm)石英ディスク基板(直径10mm×厚さ3mm)に膜を形成し、測定用試料とした。使用したAFM装置は、米国Digital Instruments社製Nanoscope走査型プローブ顕微鏡であり、カンチレバーはDigital Instruments社製走査型プローブ顕微鏡用カンチレバーNanoprobe Type NP-1を使用した。測定にはタッピングモードを用い、スキャンサイズ1μm、スキャンレート1.0Hzで観察を行った。
【0063】
図9には、膜表面の原子間力顕微鏡(AFM)による観察結果を示す。観察結果の画像処理および表面粗さの評価には、AFM装置標準の測定および解析コンピュータソフトウェアNanoscope IIIa ver.4.43r8を用いた。その観察結果の解析より、膜の表面粗さは、Raで3.1nmであった。他に多数の試料についても評価を行い、膜の堆積条件によって表面粗さは異なるが、Raで2.6〜15nmの範囲にあることを確認した。その膜を堆積する前の石英ディスク基板の表面粗さの評価についても、同様に測定を行い、Raで0.9〜1.2nmの範囲にあることが分かった。
算術平均高さRaについては、例えば「JIS B 0601-2001」または「ISO4287-1997」に詳述されている。
【0064】
この炭素膜の可視光に対する透過率の測定を行った.試料は直径10cm厚み1mmのホウケイ化ガラスウェハ基板上に、本発明による炭素膜を形成したものを使用した。使用した透過率測定装置は、Perkin Elmer社製UV/Vis/NIR Spectrometer Lambda 900を使用し、波長領域300nm〜800nmでの透過率の測定を行った。測定の際、光源の光を2つの光路に分割し、1つを該膜が形成された試料に当て、他方を炭素膜の形成されていないガラス基板に当てた。これにより試料とガラス基板の透過率スペクトルを同時に測定し、試料のスペクトルからガラス基板のスペクトルを差し引くことにより、該炭素膜自体の透過率スペクトルを求めた。測定および解析には、本装置用測定解析用コンピュータソフトゥエアであるPerkin Elmer社製UV-WinLab ver. X1.7Aを使用した。
【0065】
測定した該膜の透過率スペクトルの例を図10に示す。該膜の膜厚は約500nmである。このスペクトルより可視光領域の波長400nm〜800nmでの平均透過率を求めると、約90%となり、未研磨の炭素膜としては、非常に透明度が高いことが分かった。特に一般的な未研磨のダイヤモンド薄膜と比較しても、圧倒的に高い透過率を持つことが分かった。
【0066】
この炭素膜の位相差測定による屈折率の測定を行った。試料は直径10cm厚さ1mmのホウケイ化ガラスウェハ基板上に、本発明による炭素膜を形成し、基板を約20mm角に切り出したものを用いた。測定装置はニコン社製位相差測定装置NPDM-1000を用い、分光器はM-70を使用した。光源にはキセノンランプを用い、検出器はSi-Geを使用した。また、偏光子および検光子にはグラムトムソンを使用し、検光子回転数は1回とした。入射角は65°および60°とし、測定波長は350〜750nmで5nmピッチで測定を行った。測定された位相差Δと振幅反射率Ψのスペクトルを計算モデルと比較し、測定値(Δ、Ψ)に近づくようにフィッティングして行き、測定値と理論値がベストフィットした結果をもって試料の屈折率、消衰係数および膜厚を決定する。なお、試料各層は等方媒質として計算を行った。
【0067】
図11には、位相差測定における屈折率および消衰係数の波長依存性を示す。膜の膜厚の評価結果は約440nmであった。図11より、該膜は測定波長領域全域で2.1以上の高い屈折率をもつことが分かる。また波長589nm(ナトリウムD線)での屈折率は約2.105であった。
【0068】
この炭素膜の複屈折の測定を行った。試料は直径10cm厚み1mmのホウケイ化ガラスウェハ基板上に、本発明による炭素膜を形成し、基板を約20mm角に切り出したものを用いた。測定は位相差測定法により、測定装置としてニコン製位相差測定装置NPDM-1000を使用した。分光器にはM-70を用い、光源にはハロゲンランプを使用した。また、検出器はSi-Geを、偏光子・検光子にはグラムトムソンを使用した。検光子回転数は1回、入射各0°で波長領域400nm〜800nmを5nmピッチで測定を行った。また波長590nmにおいて回転角依存性の測定を行った。
測定は図12に示す配置で行った。図12において、試料を回転していき、その回転角での位相差Δ=ΔS−ΔP(S偏光およびP偏光の位相差)をモニターし、最大位相差を示す角度を最大位相差方向として波長分散測定を行った。なお、測定光はダイヤモンド膜側から入射した。また、回転角依存性の測定波長は590nmとした。
基板に用いたホウケイ化ガラスについても同様の測定を行い、炭素膜が形成されているガラス基板と比較することにより、該炭素膜の複屈折を評価した。
【0069】
図13に測定結果の典型例を示す。この場合炭素膜の膜厚は約200nmである。先ず、位相差の回転角度依存性を測定した結果、基板に用いたホウケイ化ガラスとほぼ同様の依存性をしめした。この測定より最大位相差方向を求め、試料をこの方向に回転して位相差およびΔndの波長分散を測定した。図13はその測定結果である。a図は位相差の波長分散であり、b図はΔnd(nm)=波長(nm)×位相差/360の計算値を示す。a図およびb図ともに、ガラス基板のみでの測定値あるいは計算値を差し引いた差スペクトルである。これらの図から、位相差およびΔndはほぼ0であり、該膜は複屈折性を殆ど示さないことが分かる。
【0070】
この炭素膜のガラス基板に対する密着性試験を行った。試料は直径10cm厚さ1mmのホウケイ化ガラスウェハ基板上に、膜厚約280nm、600nmおよび2.2μmの炭素膜を形成し、それぞれ基板を約20mm角にカットしたものを用いた。
この3試料についてフラットワイズ試験を行い、密着強度の評価を行った。測定装置にはInstron社製の万能材料試験機 Model 5565を用い、測定方法はクロスヘッド移動量法を使用した。試料のダイヤモンド膜およびガラス基板各々に冶具を接着剤で接着し、測定温度=室温(23℃)でクロスヘッド移動量法により密着強度試験(フラットワイズ試験)を行い、荷重−変位線図を取得した。得られた線図より初期破壊時の加重を読み取り、接着面積で除した値より密着強度を評価した。試験速度は0.5mm/minで行った。またデータ処理にはInstron社製データ処理システム“Merlin”を使用した。
【0071】
測定した結果は、何れの試料についてもガラスと炭素膜の界面で剥がれが生じず、接着剤と冶具の界面で剥がれが生じたため、ガラスと該膜との密着強度を評価することは出来なかった。しかし、少なくとも密着強度0.30MPa以上であることが分かった。
【0072】
そこで、ナノインデンター‐スクラッチオプションをもちいて、スクラッチ法により該膜のガラス基板への密着性の評価を行った。スクラッチ法による密着性評価は、ダイヤモンド圧子に荷重を負荷しながら試料表面を引っかき(言い換えると試料にダイヤモンド圧子を押し込みながら引っかく)、膜が剥離したときの垂直荷重(剥離臨界荷重)で評価する。
【0073】
測定装置は、MTS社製ナノインデンター Nano Indenter XPを用い、測定・解析には本装置標準の測定解析用コンピュータソフトウェア、MTS社製Test Works 4を用いた。圧子(Tip)にはXP(ダイヤモンド Cube corner型)を使用した。最大押し込み荷重は20〜250mN、プロファイル荷重20μN、スクラッチ距離500μm、測定ポイント数10、測定点間隔50μm、測定環境温度23℃(室温)で測定を行った。
【0074】
最大押し込み荷重は、スクラッチ試験前に押し込み試験を行い、荷重‐変位(押し込み深さ)曲線から、基板にまで到達する荷重を推定して決定した。
【0075】
プロファイル荷重は、試料表面の形態を検出するために、スクラッチ試験の前に微小な荷重で試料表面を走査する(プロファイル工程)際に、圧子にかける荷重である。
【0076】
測定した試料は、直径10cm厚み1mmのホウケイ化ガラスウェハ基板上に、本発明によるダイヤモンド膜を形成し、基板を約10mm角に切り出したものを用いた。この試料をクリスタルボンド(熱溶融性接着剤)を用いて、試料台に固定して測定を行った。
【0077】
スクラッチ試験は、以下の3つの工程によって行われる。
第1工程:微小荷重で表面プロファイル
この工程により、表面形態を検出する。
第2工程:直前プロファイル→スクラッチ→直後プロファイル
この工程により、実際に荷重を負荷しながらスクラッチ試験を行う。
第3工程:再度表面プロファイル
この工程により、スクラッチ痕の表面性状を把握できる。
各測定ポイント毎にこれらの工程を行い、測定点毎にスクラッチ硬さとして密着強度を評価する。
【0078】
図14に膜厚600nmの炭素膜について、ある1測定ポイントにおけるスクラッチ試験結果の例を示す。図14において、横軸はスクラッチ距離、縦軸は押し込み深さを示す。この場合の最大押し込み荷重は20mNであった。図には測定の3工程が示されている。同図においては、スクラッチ距離500nm〜終点の間で、急激に押し込み深さが深くなっているが、これは剥離現象の典型的な例である。この剥離開始点より、試料のスクラッチ硬さHを以下のように求める。
H = P / A
ここにPは剥離位置での垂直荷重であり、Aは剥離開始点の接触面積である。Aは
A = 2.5981×ht2/3 (ht:剥離開始点の押し込み深さ)
で見積もった。
【0079】
このようにして、各試料10測定ポイント上でスクラッチ試験を行い、有意な測定結果について平均を取り、その試料のスクラッチ硬さとした。図14に示す試料の場合、スクラッチ硬さは110GPaに達し、非常に密着性が高いことが分かった。さらにスクラッチ硬さの標準偏差は約6.2であり、測定点によるばらつきが非常に少なかった。
また他の試料(膜厚約280nm)においては、圧子が基板に達しても炭素膜の剥離が起こらず、この評価法では評価不可能であるほど強い密着性を示した。
【0080】
本発明の炭素膜の電気的特性を知るために、電気抵抗測定およびホール効果測定を行った。以下、測定の詳細を記す。使用した電気抵抗測定装置およびホール効果測定装置は東陽テクニカ製ResiTest8310S型機である。また使用した試料ホルダーは東陽テクニカ製 VHT型である。測定した試料は上記の手法で厚さ1mmのパイレックス(登録商標)ガラス基板上に作製した膜厚500nmの炭素膜である。ガラス基板ごと4mm角に切り出したものを測定した。電極として試料の4角に真空蒸着により直径0.3mmの円形にTiを厚さ50nm堆積した。さらにこの上にPtを50nm、Auを100nm蒸着し、Ti電極の酸化を防止した。電極はアルゴン雰囲気中400℃で熱処理し、安定化を図った。これを高抵抗アルミナ製の試料台に取り付け、φ250μmの金のワイヤーを電極に超音波ボンディングして配線を行った。
電気抵抗測定はヘリウム1ミリバールの雰囲気中で行った。室温から400℃まで25℃きざみで測定を行った。
図15はこの試料の電気抵抗率の温度依存性を示すものである。100℃以下では非常に高抵抗で、測定装置の測定可能範囲の上限である1×109Ωcm以上となり、正確な測定ができなかった。100℃以上での測定データを外挿して、室温での電気抵抗率は1×1010Ωcm以上と考えられる。また400℃においても1×103Ωcm以上と高い抵抗値を示した。
ホール効果測定により電気伝導性のタイプの決定も試みたが、高抵抗のため、p形かn形かの判定はできなかった。
以上のような電気的な性質は、本発明の炭素膜が大変良い電気的絶縁膜として機能することを示している。
【0081】
本発明により、基板温度100℃以下でガラス基板上に炭素膜を形成することを試みた。基板温度約約95℃で7時間の表面波プラズマCVD処理を行った。基板には直径10cm厚み1mmのホウケイ化ガラスウェハを用いた。CVD処理後の基板には透明な膜が形成された。その膜について、ラマン散乱スペクトルを前述の方法によって測定した。その結果を図16に示す。図から、ラマンシフト1333cm-1にダイヤモンドを示すピークが明確に認められ、その半値全幅は約25cm-1であった。これにより、100℃以下の処理温度においても、本発明の方法により、ガラス基板上に炭素膜が形成できることが分かった。
【0082】
本発明の方法により、ホウケイ化ガラス以外のガラス基板、さらに金属、プラスチックなどガラス以外の基板上に炭素膜の成膜を行った。具体的には以下の基板を使用した。
ガラス
・ソーダライムガラス:150×150×t5mmおよび300×300×t3mm
・石英:φ10×t2mmおよび50×26×t0.1mm
金属
・銅:20×20×t3mmおよび150mm×150mm×t2mmおよび300×300×t3mm
・鉄:20×20×t3mmおよび150mm×150mm×t2mm
・ステンレス(SUS430):20×20×t2mmおよび150mm×150mm×t2mm
・チタン:φ10×t2mm
・モリブデン:φ30×t5mm
・アルミニウム:20×20×t2mmおよび150mm×150mm×t2mm
・超硬合金:φ30×t5mm
プラスチック
・ポリエーテルサルフォン(PES):20×20×t1mm
その他
・シリコン(単結晶(001)面):φ100×t5mm
表面波プラズマCVD処理後、何れの基板についてもダイヤモンド膜が形成された。図17にこれ等の基板上に形成された該膜のラマン散乱スペクトルを示す。ラマン散乱分光測定については、前述の方法によって行った。これらのスペクトルには、何れもラマンシフト1333cm-1付近にピークが観測されている。
【0083】
この銅基板およびステンレス基板上のダイヤモンド膜について、スクラッチ試験による密着強度の評価を行った。測定は前述のナノインデンター‐スクラッチオプションを用いたスクラッチ法によるスクラッチ硬さ評価と同様である。評価に用いた試料は、該ダイヤモンド膜を形成した20×20×t3mmの銅基板および20×20×t2mmのステンレス(SUS430)基板であり、どちらもダイヤモンド膜の厚みは約600nmであった。今回最大押し込み荷重は、銅基板上の該膜については1mN、ステンレス基板上の該膜については10mNであった。他の測定条件については、前述の方法と全く同様である。
【0084】
スクラッチ試験を行った結果、圧子を膜厚以上の1μm押し込んでも該膜の剥離が起きず、密着強度の評価が困難であった。しかし、膜厚以上の押し込み深さにおいても剥離を起こさなかったことから、密着性は極めて良好であると解釈できる。
【0085】
ナノインデンターをもちいて、本発明の炭素膜における硬度の測定をおこなった。測定装置は、MTS社製ナノインデンターNano Indenter XPを用い、測定・解析には本装置標準のMTS社製測定解析コンピュータソフトゥエア、Test Works 4 ver. 4.06Aを用いた。圧子(Tip)にはXPを使用した。
測定した試料は、直径10cm厚み1mmの単結晶シリコン(001)ウェハ基板上に本発明の炭素膜を形成し、基板を約10mm角に切り出したものを用いた。この場合の炭素膜の膜厚は、約2.5μmであった。この試料をクリスタルボンド(熱溶融性接着剤)を用いて、試料台に固定して測定を行った。
【0086】
この炭素膜の硬度の測定結果を図18に示す。最大押し込み深さは、300nmとした。また、測定は室温(23℃)で行った。図に見られるように、該炭素膜の硬度は、100GPaにまで達し、通常のダイヤモンドにほぼ等しい硬度を持つことが分かった。
【0087】
本発明による方法によって、基板上に本発明による炭素粒子の集合体から成る炭素不連続膜を形成させた。本発明の方法によって、表面波プラズマCVD処理を行う前に、基板にナノダイヤモンド粒子またはクラスターダイヤモンド粒子またはグラファイトクラスターダイヤモンド粒子またはアダマンタンまたはその誘導体あるいはそれらの多量体を付着させる際、それらを分散または溶解させる分散媒または溶媒に対する濃度を極めて低くすることにより、それらの基板への付着密度を低減させることが出来る。これにより、CVD処理の際ダイヤモンドの核発生面密度を低下させ、基板上に連続膜ではなく、不連続膜を形成させることが出来る。この場合、該不連続膜を構成する炭素粒子の粒径は、表面波プラズマCVD処理の時間によって制御することができる(短ければ小さく、長ければ大きくなる)。
【0088】
このようにして、ホウケイ化ガラス基板上に形成した炭素不連続膜の光学顕微鏡写真を図19に示す。観察はLeica社製光学顕微鏡LEITZ DMRを用いた。写真の撮影には、本顕微鏡標準のLeica社製デジタルカメラ DFC 280およびその撮影・解析用コンピュータソフトウェアである、Leica社製 IM50 ver. 4.0 Release 117を使用した。また、この場合、成膜前処理にはエタノールにグラファイトクラスターダイヤモンド粒子を極薄く分散(濃度約0.01wt.%)させた分散液に、直径10cm厚み1mmのホウケイ化ガラスウェハ基板を浸し、超音波処理によって前処理を行った。その後約7時間の表面波プラズマCVD処理を行った。図19に示すダイヤモンド粒子の平均粒径は約3μmであった。この場合、1つの粒子は平均約200個の炭素粒子(結晶子)の集合体と考えられる。この場合の粒子の面密度は約5×106cm-2であり、前処理によって、基板に付着したグラファイトクラスターダイヤモンド粒子の付着密度とほぼ等しいと考えられる。
図19に示す炭素粒子集合体による不連続膜は、ガラス基板上に孤立した炭素粒子を多く含み、該炭素不連続膜の場合は、フッ酸処理等によって基板を除去することによって、炭素粒子粉末を得ることができる。
【0089】
図20に示すように、本発明の炭素膜を石英ガラスの平板に積層し、研磨用工具としての動作の確認を行った。試験をおこなった石英ガラスはφ30mm、厚さ1mmで、表面に本発明の炭素膜を500nmの厚さで堆積し、積層体を成した。この石英ガラスの表面は炭素膜を堆積する前に研磨し、原子間力顕微鏡(AFM)観察により、表面粗さRaが1nm程度の平坦度を有することを確認した。この積層体に、チタンの板を100回往復してこすりつけ、その前後でのRaの変化をAFMで測定した。こすり付ける前のチタン板のRaは100nmであったのに対して、こすり付けた後でのRaは20nmであり、平坦度の向上を確認した。このように本発明の炭素膜をもちいた積層体が研磨用工具として機能することを確認した。
【0090】
本発明の炭素膜をガラスに積層し、光閉じ込めの効果の検証を行った。通常のスライドガラス(25mm×75mm、厚さおよそ1mm)の表面に本発明の炭素膜を200nmの厚さで堆積し、積層体を成した。図21にこの光デバイスの構造を示す。この積層体の炭素膜の一方の端から、その表面に対して45°程度の角度で水銀ランプからの光を入射したところ、40mmはなれたもう一方の端から光が放出された。このように炭素膜の一方の端から入射した水銀ランプからの光が炭素膜とスライドガラスの境界面、および炭素膜と空気との境界面で全反射を繰り返し、もう一方の端までとじこめられながら進行するのを確認できた。このように本発明の炭素膜は、その高い屈折率を利用することにより光導波路などの光デバイスとして利用できることがわかった。
【0091】
本発明の炭素膜をガラスにコーティングして、傷つき防止効果の検証を行った。直径10cm厚さ1mmのホウ珪化ガラスの表面に本発明の炭素膜を300nmの厚さでコーティングした。そして1000番のサンドペーパーで往復100回こすった。その結果を図22(a)に示す。また、図22(b)は、本発明の炭素膜をコーティングしていないホウ珪化ガラスで、同じ試験を行った結果を示す写真である。このように本発明の炭素膜をコーティングしたガラスには、まったく傷がつかなかった。一方本発明の炭素膜をコーティングしていないガラスには傷がついた。このように本発明の炭素膜は光学用ガラスの傷つき防止効果が高いことがわかった。したがって本発明の炭素膜をコーティングすることにより傷つき防止効果を高めた光学用ガラス、レンズ、メガネなどへの応用が可能である。
【0092】
本発明の炭素膜を石英ガラスに300nmの厚さで堆積して積層体を成し、それを風防として備える腕時計を図23のごとく形成し、風防の傷つき防止としての機能の検証を行った。この風防表面を1000番のサンドペーパーで往復100回こすったが、まったく傷がつかなかった。このように本発明の炭素膜と石英ガラスとの積層体を風防として備える腕時計は、風防表面に傷がつきにくいという特性を有することを確認した。
【0093】
厚さ0.3mmのアルミニウムの薄板に、厚さ500nmの本発明の炭素膜を堆積して積層体をなし、さらに炭素膜上に銅で電子回路パターンを形成して電子回路基板を作製した。図24はこの電子回路基盤の模式図である。炭素膜を挟んで銅とアルミニウムとの電気的絶縁性はきわめて良好であることを確認した。基材はアルミニウムだけでなく、他の材質であってもよい。本発明の炭素膜を用いた積層体が電子回路基板として機能することを確認した。
【技術分野】
【0001】
本発明は、新しい物性を備えた炭素膜、積層体及びそれらを具備する光デバイス、光学ガラス、腕時計、電子回路基板、研磨用工具に関するものである。
【背景技術】
【0002】
炭素系薄膜は、その高い硬度、熱伝導性、電気的絶縁性、透明性、高屈折率、化学的耐性、低摩擦性及び低摩耗性などの多様な優れた諸特性を有し、さらに近年では優れた環境適応性や生体適応性により、各種基材の高機能化のためのコーティングが望まれている。特にダイヤモンドライクカーボン膜やダイヤモンド膜は優れた物性を備えた炭素系薄膜として、さまざまな基材の機械的、光学的、電気的機能を高めるためのコーティング技術の高度化が期待されている。ところが、現状においてダイヤモンドライクカーボンやダイヤモンドの特性に起因する以下のような問題点を有しており、このような問題点を解決する新しい炭素膜の開発が望まれている。
【0003】
基材上に炭素膜を形成させるにあたっては、ガラスを基材とする場合、その高い硬度により表面の傷つき防止や、その高い屈折率により新しい機能を有する光学素子などへの応用が期待されている。例えば、CVD法によりガラス基板上にマイクロクリスタルダイヤモンド(以下、単にMCDとも言う)膜を形成する方法は既に知られている(例えば、特許文献1、非特許文献1参照)。
光学的保護膜として応用するには、ダイヤモンド膜の高い透過率の利用の試みが行われている。ガラス面へコーティングするダイヤモンド粒子の粒径が小さくて、表面粗さが小さいほど透過率が大きくなることが知られている。しかし従来のCVD法では、形成されるMCDはその粒子サイズがおよそ0.3μm〜数μmと大きなものであるため、得られるMCD膜は表面平坦性に欠け、十分な透過率が得られなかった。その透過率を向上させるためには、研磨による平坦表面を形成する必要があり、この費用が普及を妨げる原因のひとつとなっている。
そこで、ダイヤモンド粒子の粒径を小さくし、研磨を必要としない平坦な表面を形成する手法の開発が試みられてきた。ところが、従来の手法では粒径の小さなダイヤモンドの析出と同時に、黒色を呈する非晶質炭素が混入し、表面は平坦となる一方で、逆に透過率が劣化するという問題があった。
【0004】
また、ガラス保護膜として炭素膜コーティングを利用する際には、高い密着性が要求される。例えば、前記特許文献1には、テープ試験で良好な性能を示すガラス基板上へのダイヤモンドコーティングの手法が開示されている。しかし自動車のフロントガラスやメガネレンズのコーティングなどへの利用には、高い透過率と同時に、より高い密着性を保持するコーティングが必要とされている。
さらに、メガネ、カメラ、映写機などのレンズへの光学的な応用については、コーティング層の屈折率が高く、かつ複屈折性を示さないことが重要である。しかし一般的なコーティング手法であるCVD法を利用する場合、熱歪や残留応力のため複屈折性を示さないダイヤモンドの合成はきわめて困難である。また密度も低下することが多く、屈折率も通常かなり低下する。したがってダイヤモンドコーティングは光学的な応用として適さないという問題があった。
【0005】
また、その高硬度、低摩擦・低摩耗特性から鉄、ステンレスを材料とする機械部品の摺動部への炭素系薄膜コーティングが期待されている。しかし鉄系基材へのダイヤモンドライクカーボン膜やダイヤモンド膜のコーティングは、膜の構成元素である炭素原子の鉄系基材中への浸透により、膜が析出しないという問題や、基材の脆化が生じるという問題があるため、実用化はきわめて困難である。一方コーティングに先立って、鉄系基材表面をチタン、クロムまたはそれらの窒化物の薄膜で覆うという中間層形成手法が開発された。しかし、中間層形成のための費用が発生するという問題や、それでもやはりコーティングの密着性が低いなどの問題のため、ダイヤモンドライクカーボンやダイヤモンドにかわるコーティングの開発が望まれている。
【0006】
また、銅を基材とする場合、ダイヤモンドライクカーボン膜やダイヤモンド膜はその高い電気的絶縁性により、銅を表面とする電子回路基板上へのコーティングが望まれている。しかし銅の表面にはそれらの膜の析出は非常に困難である。また析出したとしても膜の銅表面への密着性が低く、すぐに剥がれてしまうという大きな問題がある。これを改善するために、上述の鉄系基板と同様に、チタンおよびその窒化物などの中間層の形成が試みられてきたが、やはり同様に費用が発生するという問題や、密着性が低いという問題がある。さらに通常の手法であるCVD法で特にダイヤモンドコーティングを行う場合、意図的にドーピングしなくても雰囲気中のホウ素が容易に膜中に取り込まれ、これによりダイヤモンドコーティングの電気的絶縁性が低下するという大きな問題がある。
【0007】
さらに、プラスチック基材への炭素膜コーティング法としては、PETボトルへのダイヤモンドライクカーボン膜のコーティングが実用化されている。しかし、より高い温度での使用や、光学的利用のためダイヤモンドによるプラスチックのコーティングが望まれている。例えば、近年メガネレンズは90%以上がプラスチック製である。ダイヤモンドコーティングしたプラスチック製メガネレンズが作成可能となれば、レンズの傷つき防止やダイヤモンドの高屈折率という性質を利用した高機能レンズの作成が可能となる。しかしダイヤモンド膜合成には最低でも600℃以上の高温が必要であり、そのため、現状ではダイヤモンドはプラスチックへのコーティング材料として適していない。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0008】
【特許文献1】特開平10−95694号公報
【非特許文献】
【0009】
【非特許文献1】Diamond and Related Materials Vol. 7, pp. 1639-1646 (1998)
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0010】
本発明は、ダイヤモンドライクカーボンやダイヤモンドに代表される現状の炭素膜における上記した実情に鑑みてなされたものである。すなわち、本発明の目的は、粒子が小さくなっても高い透明度を保持し、屈折率が高く、複屈折性が小さいという光学的な特性を有し、電気的絶縁性に優れ、鉄、銅、プラスチックを含む基材の種類を問わず密着性良くコーティングでき、かつ低温での形成が可能な炭素膜及び積層体を提供すること、並びに、それらを利用した光デバイス、光学ガラス、腕時計、電子回路基板、研磨用工具などを提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0011】
本発明者らは、上記の諸特性を有する炭素膜および積層体の作製に向けて鋭意検討を重ねた結果、CVD処理を特定の条件下で行うことにより、きわめて良好な性能を有する炭素膜および積層体を形成できることを見出し、この知見に基づいて本発明を完成するに至った。
すなわち、本発明の炭素膜は、Cu Kα1線によるX線回折スペクトルにおいて、ブラッグ角(2θ±0.3°)の43.9°のピークフィッティング曲線Aに41.7°のピークフィッティング曲線Bおよびベースラインを重畳して得られる近似スペクトル曲線を有し、かつ膜厚2nm〜100μmからなるものであることを特徴とするものである。
なお、本明細書に言う、フィッティング曲線AはピアソンVII関数の曲線であり、フィッティング曲線Bは非対称正規分布関数の曲線である。また、ベースラインは一次関数によって表されるものである。
その炭素膜は、前記近似スペクトルにおいて、フィッティング曲線Aの強度に対するフィッティング曲線Bの強度が5〜90%であることが好ましい。
それらの炭素膜は、ラマン散乱分光スペクトルにおいて、ラマンシフトが1333±10cm-1にピークを有し、かつそのピークの半値幅が10〜40cm-1であることが好ましい。
本発明の他の炭素膜は、Cu Kα1線によるX線回折スペクトルにおいて、ブラッグ角(2θ±0.3°)の43.9°のピークフィッティング曲線Aに41.7°のピークフィッティング曲線Bおよびベースラインを重畳して得られる近似スペクトル曲線を有し、フィッティング曲線Aの強度に対するフィッティング曲線Bの強度が5〜90%であり、膜厚2nm〜100μmからなり、ラマン散乱分光スペクトルにおいて、ラマンシフトが1333±10cm-1にピークを有し、かつそのピークの半値幅が10〜40cm-1のものである。
上記の炭素膜は、表面粗さ(Ra)が20nm以下の平坦な表面からなるものであることが好ましい。
それらの炭素膜は、前記炭素膜の電気抵抗率が100℃において1×107Ωcm以上であることが好ましく、また波長領域400〜800nmにおける平均透過率が60%以上であることが好ましい。
また、それらの炭素膜は、前記炭素膜の波長589nmに対する屈折率が1.7以上であることが好ましく、また波長589nmに対する複屈折性が1.0nm以下であることが好ましい。さらに、それらの炭素膜は、硬度が20GPa以上であることが好ましい。
【発明の効果】
【0012】
本発明の炭素膜、炭素粒子および積層体は、粒子が小さくなっても高い透明度を保持し、屈折率が高く、複屈折性が小さいという光学的な特性を有し、電気的絶縁性に優れ、鉄、銅、プラスチックを含む基材の種類を問わず密着性良くコーティングでき、かつ低温での形成が可能である。
本発明の炭素膜は、前記した特性を有することから、大面積ガラス保護膜、高屈折率光学材料、高熱伝導ヒートシンク、電極材料、機械工具保護膜、研磨用工具、電子放出材料、高周波デバイス(SAWデバイス)、ガスバリアーコーティング材料、トライボ材料、腕時計・携帯電話等のカバーガラスの保護膜、生体適応材料、バイオセンサー等の用途に用いることができる。
【図面の簡単な説明】
【0013】
【図1】本発明の一例の炭素膜のCu Kα1線によるX線回折スペクトル、およびピークフィッティング結果である。図中白抜きの丸は測定値を示す。
【図2】ダイヤモンドにおけるCu Kα1線による典型的なX線回折スペクトル((111)反射ピーク)、およびピークフィッティング結果である。図中白抜きの丸は測定値を示す。
【図3】本発明で使用した大面積成膜用マイクロ波プラズマCVD装置の外観である。
【図4】本発明で使用した大面積成膜用マイクロ波プラズマCVD装置の反応容器の構成である。
【図5】本発明によりガラス基板(300mm×300mm)上に形成された炭素膜の写真である。
【図6】本発明の一例の炭素膜のラマン散乱分光スペクトル図である。
【図7】本発明におけるガラス基板上の炭素膜断面の高分解能透過型電子顕微鏡(HRTEM)写真である。(a)はガラス基板と炭素膜の界面、(b)は炭素膜の最表面、(c)は炭素膜の電子線回折像、(d)電子エネルギー損失分光(EELS)スペクトル(C-K殻吸収端)図である。
【図8】本発明におけるガラス基板上に形成された一例の炭素膜断面の走査型電子顕微鏡写真である。
【図9】本発明における石英基板(Ra=0.87nm)上に形成した炭素膜(膜厚1.6μm)表面の原子間力顕微鏡(AFM)写真である。
【図10】本発明におけるガラス基板上に形成された一例の炭素膜(膜厚約500nm)の可視光領域における透過率の波長分散図である。
【図11】本発明におけるガラス基板上に形成された一例の炭素膜の屈折率および消衰係数の波長分散図である。
【図12】本発明でガラス基板上に形成された一例の炭素膜の複屈折測定法概略図である。
【図13】本発明でガラス基板上に形成された一例の炭素膜(膜厚約200nm)の位相差およびΔndの波長分散図である。図中のデータは炭素膜が形成されたガラス基板の測定値から、ガラス基板のみの測定値を差し引いてある。
【図14】本発明でガラス基板上に形成された一例の炭素膜(膜厚約600nm)のスクラッチ試験において、ある1測定点における測定結果の一例である。図の横軸はスクラッチ距離、縦軸は押し込み深さを示す。
【図15】本発明でガラス基板上に形成された一例の炭素膜(膜厚約500nm)における、電気抵抗率の温度依存性を示す図である。
【図16】本発明において、基板温度100℃以下の低温(約95℃)でガラス基板上に形成された一例の炭素膜のラマン散乱スペクトル図である。
【図17】本発明において、各種基板上に形成された一例の炭素膜のラマン散乱スペクトル図である。基板はそれぞれ(a) Si、(b)石英ガラス、(c) Ti、(d) WC、(e) Cu、(f) Fe、(g) ソーダライムガラス、(h) ステンレス(SUS430)、(i) Alである。
【図18】本発明において、シリコン基板上に形成された一例の炭素膜のナノインデンターによる硬度測定結果の図である。
【図19】本発明において、ガラス基板上に形成された一例の不連続炭素膜粒子の光学顕微鏡写真である。
【図20】本発明の炭素膜と石英ガラスによる研磨用工具である。
【図21】本発明の炭素膜とガラスによる光デバイスである。
【図22】本発明の炭素膜による、ガラス保護膜効果を示す写真である。(a)は本発明の炭素膜をコーティングしたホウ珪化ガラスであり、(b)は何もコーティングしていないホウ珪化ガラスである。(a)および(b)何れもサンドペーパー(1000番)で100往復こすった跡の写真を示す。
【図23】本発明の炭素膜と石英ガラスとの積層体を風防として備える腕時計のである。
【図24】アルミニウム板と本発明の炭素膜の積層体に、銅で電子回路パターンを形成して得た電子回路基板の模式図である。
【発明を実施するための最良の形態】
【0014】
本発明の炭素膜は、Cu Kα1線による薄膜X線回折スペクトルにおいて、図1に見られるように、ブラッグ角(2θ±0.3°)の43.9°のピークフィッティング曲線Aに41.7±0.3°のピークフィッティング曲線Bおよびベースラインを重畳して得られる近似スペクトル曲線を有し、かつ膜厚2nm〜100μmからなる炭素膜である。本発明においては、フィッティング曲線AはピアソンVII関数の曲線であり、フィッティング曲線Bは非対称正規分布関数の曲線である。また、ベースラインは一次関数をもって表される。
その炭素膜のラマン散乱分光スペクトル測定では、ラマンシフトが1333±10cm-1にピークを有し、かつそのピークの半値幅が10〜40cm-1であること、またその膜は、炭素粒子の面密度としては、好ましくは1×1010cm-2〜4×1013cm-2の範囲のもので、さらに好ましくは1×1011cm-2〜4×1012cm-2の範囲のもので構成されていることが望ましいものである。その表面粗さは、AFM測定により、Raで2〜20nmである。また、その膜は、500nmの膜厚では可視光(波長400〜800nm)に対して平均90%以上の透過率を示すものである。さらにまたその膜は、電気抵抗率が100℃において1×107Ωcm以上である。
【0015】
本発明の炭素膜は、主として特定の製造条件を採用することにより得ることができる。その炭素膜を作製するには、大面積の膜を形成できる表面波プラズマ発生装置を用いること、その操作条件として原料ガスの濃度やモル比、反応時間などを選定すること及び比較的低温下で操作することなどが必要である。
【0016】
本発明における炭素膜の製造方法について、例を挙げて概略を以下に説明する。例えば、ガラス、シリコン、鉄、チタン、銅、プラスチックなどの基板にダイヤモンド微粒子を超音波処理によって付着させ、これを低温表面波プラズマCVD装置にて、水素98%、炭酸ガス1%及びメタンガス1%を含むガスを用いて、圧力1×102Paにて、表面波プラズマ処理を行う。
その処理時間としては、数時間から数十時間であり、またその処理温度としては50〜600℃である。以上の処理により、基材表面に粒径2〜30nmの炭素微粒子が堆積する。表面波プラズマ処理は、時間を長くすることにより炭素粒子は隙間なく非常に緻密に堆積し、厚さ2μm以上の膜を形成することもできる。
【0017】
また銅基板では、このダイヤモンド微粒子の超音波処理による付着なしでも、炭素微粒子が堆積する。さらに、この炭素微粒子堆積層を、各種膜試験法により測定を行ったところ、膜厚500nmのもので可視光の透過率95%以上であり、基材への密着性が高く、高い屈折率(波長589nmに対して2.1以上)を持っており、複屈折性がほとんどなく、厚さ2μmの膜を形成した場合の表面粗さ(Ra)は20nm以下の表面が平坦なものであり、さらに温度100℃おいてその電気抵抗率が107Ωcm以上と非常に高抵抗、等の特出する性質をもつことが明らかとなった。このように本手法で形成された炭素粒子および炭素膜は、従来にない高い透明性、密着性を備え、かつ鉄系や銅基材にも直接堆積コーティングが可能であるという特出する性能を持っている。
【0018】
本発明の炭素膜を製造するには、上記のとおりの基板上に作製することが好ましく、その基板の代表例としてはガラスが用いられる。そのガラス基板としては、従来公知の各種のガラス、例えば、ソーダライムガラスやホウケイ化ガラス等が包含される。ガラスの厚さは、特に制約されず、製品の用途に応じて適宜選ばれる。一般的には100〜0.5mm程度である。
【0019】
本発明においては、先ず、ガラス基板に対して、ナノクリスタルダイヤモンド粒子、クラスターダイヤモンド粒子またはグラファイトクラスターダイヤモンド粒子を付着させるか、またはアダマンタン(C10H16)、その誘導体またはその多量体を付着させる。
【0020】
通常ナノクリスタルダイヤモンド粒子は、爆発合成により、または高温高圧合成されたダイヤモンドを粉砕することにより製造されるダイヤモンドである。クラスターダイヤモンド粒子は、ナノクリスタルダイヤモンド粒子の凝集体であり、グラファイトクラスターダイヤモンド粒子は、グラファイトやアモルファス炭素成分を多量に含むクラスターダイヤモンド粒子である。
【0021】
ナノクリスタルダイヤモンドは、爆発合成によるナノクリスタルダイヤモンドを溶媒に分散させたコロイド溶液が有限会社ナノ炭素研究所等から、また粉砕により製造されたナノクリスタルダイヤモンド粉末、あるいはそれを溶媒に分散させたものがトーメイダイヤ株式会社等から、既に販売されている。本発明で用いるナノクリスタルダイヤモンド粒子は、その平均粒径が4〜100nm、好ましくは4〜10nmである。ナノクリスタルダイヤモンド粒子については、例えば文献で「牧田寛,New Diamond Vol.12 No.3, pp. 8−13 (1996)」に詳述されている。
【0022】
ガラス基板上にナノクリスタルダイヤモンド粒子を付着させるには、該粒子を水またはエタノール中に分散させる。この際分散性を向上させるために、界面活性剤(例えばラウリル硫酸エステルナトリウム塩、オレイン酸ナトリウム等)を加え、この分散液に基板を浸して超音波洗浄器にかけ、その後、該基板をエタノール中に浸して超音波洗浄を行った後、該基板を取り出して乾燥させる。
このようにして、表面にナノクリスタルダイヤモンド粒子を付着させたガラス基板を得ることができる。ガラス基板への該ナノクリスタルダイヤモンド粒子の付着は超音波洗浄処理における物理的力により、該粒子の一部が基板表面へ埋没することによるものである。
基板表面に対するナノクリスタルダイヤモンド粒子の付着割合は、好ましくは1cm2当たり109〜1012個、さらに好ましくは1010〜1011個である。ガラス基板に付着するダイヤモンド粒子は、表面波プラズマ処理における炭素膜成長の種結晶として作用する。
【0023】
このとき、分散媒(水、エタノール等)に分散させる、ナノクリスタルダイヤモンド粒子の濃度を希薄にすることにより、基板表面に付着するナノクリスタルダイヤモンド粒子の付着割合を小さくすることができる。これにより、表面波プラズマ処理において炭素粒子の核発生密度を下げ、連続膜ではなく、炭素粒子の集積体から成る不連続膜を得ることができる。この集積体における炭素粒子の面密度は、分散溶液中のナノクリスタルダイヤモンド粒子の濃度によって制御することができる。さらには、表面波プラズマ処理を行う時間によって、炭素粒子の粒径を制御できる。また、その濃度を非常に薄くすることにより、基板上に孤立した炭素粒子からなる集積体を作製することもできる。さらには、この集積体をフッ酸等で処理することなどにより、該集積体から基板を除去することによって、炭素粒子のみを得ることもできる。
【0024】
また、該基板上にナノクリスタルダイヤモンド粒子を付着させる別な方法として、該ナノクリスタルダイヤモンドの分散液を該基板上にスピンコートし、その後乾燥させることによっても、上記超音波洗浄による方法と同様な付着効果が得られる。
【0025】
クラスターダイヤモンド粒子は、爆発合成法により製造されるナノクリスタルダイヤモンドの凝集体であり、透明性に優れており、既に東京ダイヤモンド工具製作所等から販売されている。本発明で用いるクラスターダイヤモンド粒子において、その粒径分布は好ましくは4〜100nm、さらに好ましくは4〜10nmである。このクラスターダイヤモンド粒子については、文献「牧田寛,New Diamond,Vol.12 No.3,p.8−13(1996)」に詳述されている。
【0026】
ガラス基板上にクラスターダイヤモンド粒子を付着させるには、該粒子を水またはエタノール中に分散さる。この際分散性を向上させるために、界面活性剤(例えばラウリル硫酸エステルナトリウム塩、オレイン酸ナトリウム等)を加え、この分散液に基板を浸して超音波洗浄器にかけ、その後、該基板をエタノール中に浸して超音波洗浄を行った後、該基板を取り出して乾燥させる。
このようにして、表面にクラスターダイヤモンド粒子が付着したガラス基板を得ることができる。ガラス基板への該クラスターダイヤモンド粒子の付着は超音波洗浄処理における物理的力により、該粒子の一部が基板表面へ埋没することによるものである。
基板表面に対するクラスターダイヤモンド粒子の付着割合は、1cm2当たり好ましくは109〜1012個、さらに好ましくは1010〜1011個である。ガラス基板に付着するダイヤモンド粒子は、表面波プラズマ処理におけるダイヤモンド膜成長の種結晶として作用する。
【0027】
このとき、分散媒(水、エタノール等)に分散させる、クラスターダイヤモンド粒子の濃度を希薄にすることにより、基板表面に付着するクラスターダイヤモンド粒子の付着割合を小さくすることができる。これにより、表面波プラズマ処理において炭素粒子の核発生密度を下げ、連続膜ではなく、炭素粒子の集積体から成る不連続膜を得ることができる。この集積体における炭素粒子の面密度は、分散溶液中のクラスターダイヤモンド粒子の濃度によって制御することができる。さらには、表面波プラズマ処理を行う時間によって、炭素粒子の粒径を制御できる。また、その濃度を非常に薄くすることにより、基板上に孤立した炭素粒子からなる集積体を作製することもできる。さらには、この集積体をフッ酸等で処理することなどにより、該集積体から基板を除去することによって、炭素粒子のみを得ることもできる。
【0028】
また、該基板上にクラスターダイヤモンド粒子を付着させる別な方法として、該クラスターダイヤモンドの分散液を該基板上にスピンコートし、その後乾燥させることによっても、上記超音波洗浄による方法と同様な付着効果が得られる。
【0029】
ガラス基板上にグラファイトクラスターダイヤモンド粒子を付着させるには、該粒子を水またはエタノール中に分散させる。この際分散性を向上させるために、界面活性剤(例えばラウリル硫酸エステルナトリウム塩、オレイン酸ナトリウム等)を加え、この分散液に基板を浸して超音波洗浄器にかけ、その後、該基板をエタノール中に浸して超音波洗浄を行った後、該基板を取り出して乾燥させる。
このようにして、表面にグラファイトクラスターダイヤモンド粒子が付着したガラス基板を得ることができる。ガラス基板への該グラファイトクラスターダイヤモンド粒子の付着は超音波洗浄処理における物理的力により、該粒子の一部が基板表面へ埋没することによるものである。
基板表面に対するダイヤモンド粒子の付着割合は、1cm2当たり好ましくは109〜1012個、さらに好ましくは1010〜1011個である。ガラス基板に付着するダイヤモンド粒子は、表面波プラズマ処理における炭素膜成長の種結晶として作用する。
【0030】
このとき、分散媒(水、エタノール等)に分散させる、グラファイトクラスターダイヤモンド粒子の濃度を希薄にすることにより、基板表面に付着するグラファイトクラスターダイヤモンド粒子の付着割合を小さくすることができる。これにより、表面波プラズマ処理において炭素粒子の核発生密度を下げ、連続膜ではなく、炭素粒子の集積体から成る不連続膜を得ることができる。この集積体における炭素粒子の面密度は、分散溶液中のグラファイトクラスターダイヤモンド粒子の濃度によって制御することができる。さらには、表面波プラズマ処理を行う時間によって、炭素粒子の粒径を制御できる。また、その濃度を非常に薄くすることにより、基板上に孤立した炭素粒子からなる集積体を作製することもできる。さらには、この集積体をフッ酸等で処理することなどにより、該集積体から基板を除去することによって、炭素粒子のみを得ることもできる。さらに、基板上に連続膜を作製した場合は、この基板除去によって自立膜を作製することができる。
【0031】
また、該基板上にグラファイトクラスターダイヤモンド粒子を付着させる他の方法として、該グラファイトクラスターダイヤモンド分散液を該基板上にスピンコートし、その後乾燥させることによっても、上記超音波洗浄による方法と同様な付着効果が得られる。
【0032】
アダマンタンは、C10H16という分子式で表せられる分子で、ダイヤモンドの基本骨格と同様の立体構造を有する昇華性の分子性結晶(常温・常圧)であり、石油の精製過程より製造される。その粉末およびその誘導体およびそれらの多量体が、既に出光興産株式会社より販売されている。
【0033】
ガラス基板上に、アダマンタンまたはその誘導体あるいはそれらの多量体を付着させるには、該物質を溶媒(例えば、エタノール、ヘキサン、アセトニトリル等)に溶解した後、該基板を該溶液中に浸して超音波洗浄を行った後、該基板を取り出して乾燥させる。このようにして、表面にアダマンタンまたはその誘導体あるいはそれらの多量体を付着させたガラス基板を得ることができる。
【0034】
このとき、溶媒に溶解させる、アダマンタンまたはその誘導体あるいはそれらの多量体の濃度を希薄にすることにより、基板表面に付着するアダマンタンまたはその誘導体あるいはそれらの多量体の付着割合を小さくすることができる。これにより、表面波プラズマ処理において炭素粒子の核発生密度を下げ、連続膜ではなく、炭素粒子の集積体から成る不連続膜を得ることができる。この集積体における炭素粒子の面密度は、溶液中のアダマンタンまたはその誘導体あるいはそれらの多量体の濃度によって制御することができる。さらには、表面波プラズマ処理を行う時間によって、炭素粒子の粒径を制御できる。また、その濃度を非常に薄くすることにより、基板上に孤立した炭素粒子からなる集積体を作製することもできる。さらには、この集積体をフッ酸等で処理することなどにより、該集積体から基板を除去することによって、炭素粒子のみを得ることもできる。
【0035】
また、該基板上に、アダマンタンまたはその誘導体あるいはそれらの多量体を付着させる他の方法として、該物質溶液を該基板上にスピンコートし、その後乾燥させることによっても、上記超音波洗浄による方法と同様な付着効果が得られる。
【0036】
本発明においては、次に、前記のようにして得られた表面にダイヤモンド粒子またはアダマンタン、その多量体あるいはその誘導体の付着したガラス基板(以下、単にガラス基板とも言う)に対して、マイクロ波プラズマCVD装置を用いて処理を施す。
マイクロ波プラズマCVD装置(以下、単にCVD装置とも言う)は、既に公知のものであり、例えば、アプライド・フィルムズ・コーポレーション社から入手可能なものである。このCVD装置の概観を図3に示す。また、その反応器の構成を図4に示す。
【0037】
ガラス基板にCVD処理を施すためには、ガラス基板の歪点より低温において処理することが必要である。通常のダイヤモンドのCVD処理では、圧力が2×103〜1×104Paであるため、基板の温度が800℃以上になり、ガラス基板に対しては適用できない。温度を低くするためには、低圧でのプラズマ処理が必要である。このため、本発明では、1×102Pa程度の圧力で表面波プラズマを発生させ、CVD処理に利用した。表面波プラズマについては、例えば文献「菅井秀郎,プラズマエレクトロニクス,オーム社 2000年,p.124-125」に詳述されている。これにより、ガラス基板のCVD処理温度を歪点より低い温度にする事ができ、かつ380mm×340mm以上の大面積に均一なプラズマを発生させることができた。このプラズマをラングミュアプローブ法(シングルプローブ法)により診断した結果、プラズマ密度が8×1011/cm3であり、周波数2.45GHzのマイクロ波による表面波プラズマの条件である臨界プラズマ密度7.4×1010/cm3を超えていることを確認した。ラングミュアプローブ法については、例えば文献「菅井秀郎,プラズマエレクトロニクス,オーム社 2000年,p.58」に詳述されている。
本発明で用いるCVD処理の条件としては、好ましくは50〜600℃、さらに好ましくは300〜450℃の温度、圧力は好ましくは5×101〜5×102Pa、さらに好ましくは1.0×102〜1.2×102Paが用いられる。処理時間は0.5〜20時間、通常1〜8時間程度である。この処理時間により、100nm〜2μm程度の膜厚が得られる。
【0038】
CVD処理に用いる原料ガス(反応ガス)は、含炭素ガスと水素とからなる混合ガスである。含炭素ガスとしては、メタン、エタノール、アセトン、メタノール等が包含される。
含炭素ガス/水素混合ガスにおいて、その含炭素ガスの濃度は0.5〜10モル%、好ましくは1〜4モル%である。含炭素ガスが前記範囲より多くなると透過率の低下等の問題が生じるので好ましくない。
また、前記混合ガスには、添加ガスとして、CO2やCOを添加することが好ましい。これらのガスは酸素源として作用し、CVD処理においては、不純物を除去する作用を示す。
CO2及び/又はCOの添加量は、全混合ガス中、好ましくは0.5〜10モル%、さらに好ましくは1〜4モル%である。
【0039】
本発明によりガラス基板に対して前記CVD処理を施す場合、ガラス基板と合成された炭素膜との密着性の点から、CVD処理温度(基板温度)をガラスの歪点より低い温度、好ましくは300〜450℃程度の低い温度に調節するのがよい。例えば、ソーダライムガラス基板の場合、その歪点は470℃付近であることから、そのCVD処理温度はそれより低い温度、好ましくは300〜450℃である。パイレックス(登録商標)等のホウケイ化ガラスでは、CVD処理温度は、好ましくは400〜550℃、さらに好ましくは450〜500℃である。
【0040】
本発明により、ガラス基板上に炭素粒子または炭素膜を形成させることができる。この炭素粒子および炭素膜は、Cu Kα1線によるX線回折スペクトルにおいて、図1にみられるように、ブラッグ角(2θ±0.3°)の43.9°のピークフィッティング曲線Aに41.7±0.3°のピークフィッティング曲線Bおよびベースラインを重畳して得られる近似スペクトル曲線を有するという、ダイヤモンド等他の炭素粒子および炭素膜とは異なる著しい特徴を有するものである。
また、ラマン散乱分光スペクトル(励起光波長244nm)において、ラマンシフト1333cm-1付近に明瞭なピークがみられ、その半値全幅(FWHM)は10〜40cm-1である。さらに該膜の場合、平坦性および密着性に優れており、その表面粗さRaは20nm以下であり、場合によっては3nm以下にも達する平坦なものである。また、透明性に優れ屈折率が2.1以上と非常に高く、複屈折も殆ど示さないなど、光学的に優れた性質を持ち、かつ100℃の温度でその抵抗率が107Ωcm以上と非常に高い電気絶縁性を示すなど、電気的にも優れた性質を持つ。
【0041】
また、その膜断面の高分解能透過型電子顕微鏡による観察から、該膜は粒径1nmから数十nmの結晶性炭素粒子が隙間なく詰まって形成されており、しかもその膜と基板との界面、その膜中および膜最表面付近とにおいて、その粒径分布が変化していない(平均粒径がほぼ等しい)ことが特徴的であることがわかった。得られる炭素膜の膜厚は、好ましくは2nm〜100μm、さらに好ましくは50〜500nmであり、その粒子の粒径は、好ましくは1〜100nmであり、さらに好ましくは2〜20nmである。
[実施例]
以下、本発明を実施例等によりさらに具体的に説明するが、本発明はこれらの実施例等によっては何ら限定されるものではない。
【0042】
基板として300mm×300mmに切り出したガラス(ホウケイ化ガラスおよびソーダライムガラス)を使用した。また、評価用試料作製のために4インチ径のウェハ状のガラス基板も用いた。炭素粒子の核形成密度を高め均一な成膜とするために、成膜前の基板に前処理(ナノクリスタルダイヤモンド粒子付着処理)を行った。
この前処理には平均粒径5nmのナノクリスタルダイヤモンド粒子を純水中に分散させたコロイド溶液(有限会社ナノ炭素研究所製 製品名ナノアマンド)または平均粒径30nmまたは40nmのナノクリスタルダイヤモンド粒子(トーメイダイヤ株式会社製 製品名各々MD30およびMD40)を純水中に分散させた溶液、あるいはクラスターダイヤモンド粒子またはグラファイトクラスターダイヤモンド粒子(東京ダイヤモンド工具製作所製 製品名各々CDおよびGCD)を分散させたエタノール、あるいはアダマンタンまたはその誘導体あるいはそれらの誘導体(各々出光興産株式会社製)溶液を用い、これに基板を浸して超音波洗浄器にかけた。
その後、基板をエタノール中に浸して超音波洗浄を行い、乾燥させるか、またはこれらの溶液をスピンコートによって基板上に均一に塗布し、乾燥させる。この前処理の均一性が成膜後の炭素膜の均一性に影響する。この場合、基板上に付着するダイヤモンド粒子は、1cm2当たり、1010〜1011個であった。
【0043】
原料ガスはCH4、CO2およびH2を用い、CH4およびCO2の濃度をそれぞれ1モル%とした。反応容器内ガス圧力は、通常ダイヤモンドのCVD合成で用いられる圧力(103〜104Pa)より低い1.0〜1.2×102Pa(1.0〜1.2mbar)とし、トータル20〜24kWのマイクロ波を投入して基板面積(300×300mm2)より広い領域に大面積かつ均一なプラズマを発生させた。その際、Mo試料台と冷却ステージを密着させ、基板とアンテナの距離を調節することによって、成膜中の基板温度をソーダライムガラスの軟化点付近450℃以下に保つことが可能となった。
以上の成膜条件の下、6〜20時間成膜を行った。成膜後のガラス基板上には、均一かつ透明な炭素膜が形成された。この膜の膜厚は、300nm〜2μmであった。
【0044】
本発明により、300mm×300mmガラス基板上に形成された炭素膜の概観写真を図5に示す。図5において、基板が歪んでいるように見えるのは、写真機の機能によるものであり、実際に基板が歪んでいるわけではない。該膜は膜厚約400nmであり、非常に透明であるが、干渉色により膜の存在を確認できる。
【0045】
この炭素膜をX線回折により観察した。以下、測定の詳細を記す。使用したX線回折装置は株式会社リガク製X線回折測定装置RINT2100 XRD-DSCIIであり、ゴニオメーターは理学社製UltimaIII水平ゴニオメーターである。このゴニオメーターに薄膜標準用多目的試料台を取り付けてある。測定した試料は上記の手法で厚さ1mmのホウケイ化ガラス基板上に作製した膜厚500nmの炭素膜である。ガラス基板ごと30mm角に切り出したものを測定した。X線は銅(Cu)のKα1線を用いた。X線管の印加電圧・電流は40kV・40mAであった。X線の検出器にはシンチレーションカウンターを用いた。まず、シリコンの標準試料を用いて、散乱角(2θ角)の校正を行った。2θ角のズレは+0.02°以下であった。次に測定用試料を試料台に固定し、2θ角を0°、すなわち検出器にX線が直接入射する条件で、X線入射方向と試料表面とが平行となり、かつ、入射するX線の半分が試料によって遮られるように調整した。この状態からゴニオメーターを回転させ、試料表面に対して0.5°の角度でX線を照射した。この入射角を固定して、2θ角を10°から90°まで0.02°きざみで回転し、それぞれの2θ角で試料から散乱するX線の強度を測定した。測定に用いたコンピュータープログラムは、株式会社リガク製RINT2000/PCソフトウェア Windows(登録商標)版である。
【0046】
測定したX線回折のスペクトルを図1に示す。図中の白丸が測定点である。2θが43.9°に明瞭なピークがあることがわかる。ここで興味深いのは、図1からわかるように、43.9°のピークはその低角度側、2θが41〜42°に肩を持っている。(スペクトルの「肩」については「化学大辞典」(東京化学同人)を参照するとよい。)したがってこのピークは、43.9°付近を中心とするピーク(第1ピーク)と、41〜42°あたりに分布するもうひとつのピーク(第2ピーク)の、2成分のピークにより構成されている。CuKα1線によるX線回折で、2θが43.9°にピークをもつ炭素系物質としてはダイヤモンドが知られている。ここで図2は、同様の方法によりダイヤモンドをX線回折測定したスペクトルであり、ピークはダイヤモンドの(111)反射によるものである。本発明の炭素膜とダイヤモンドのX線回折スペクトルの違いは明瞭で、本発明の炭素膜のスペクトルに見られる41〜42°あたりに分布する第2ピークは、ダイヤモンドには見ることができない。このようにダイヤモンドの(111)反射は43.9°を中心とする1成分(第1ピークのみ)で構成され、本発明の炭素膜の様な低角度側の肩は観測されない。したがって本発明の炭素膜のスペクトルに見られる41〜42°あたりに分布する第2ピークは、本発明の炭素膜に特徴的なピークである。
また、図1の本発明の炭素膜のX線回折スペクトルのピークは、図2のダイヤモンドのピークと比較して、大変幅が広いことがわかる。一般に膜を構成する粒子の大きさが小さくなるとX線回折ピークの幅が広くなり、本発明の炭素膜を構成する粒子の大きさが非常に小さいといえる。本発明の炭素膜を構成する炭素粒子の大きさ(平均の直径)を、X線回折で通常用いられるシェラー(Scherrer)の式によりピークの幅から見積もってみると、およそ15nmであった。シェラーの式については、例えば「日本学術振興会・薄膜第131委員会編 薄膜ハンドブック,オーム社1983年,p.375」を参照するとよい。
次にこのピークの構成の詳細(それぞれのピークの成分の位置や強度など)を見ることにする。
【0047】
本発明の炭素膜のX線回折測定における2θが43.9°のピークの詳細な構成を知るために、2θ角が39°から48°の間で、ピークフィッティングを用いて解析した。第1ピークのフィッティングには、ピアソンVII関数と呼ばれる関数を用いた。この関数は、X線回折や中性子回折などの回折法のピークのプロファイルを表すものとして、最も一般的に用いられているものである。このピアソンVII関数については、「粉末X線解析の実際-リートベルト法入門」(日本分析化学会X線分析研究懇談会編、朝倉書店)を参照するとよい。また第2ピークのフィッティングには、いろいろな関数を検討した結果、非対称の関数を用いるとよいことが判明した。ここでは非対称正規分布関数(ガウス分布関数)を用いた。この関数はピーク位置の右側と左側で別々の分散(標準偏差)値を持つ正規分布関数であり、非対称ピークのフィッティングに用いる関数としては最も簡単な関数のひとつであるが、非常によくピークフィッティングができた。また、ベースライン(バックグラウンド)関数としては直線関数(一次関数)を用いた。
【0048】
実際のフィッティング作業はいろいろなコンピュータープログラムが利用できるが、ここではORIGINバージョン6日本語版ピークフィッティングモジュール(以下、ORIGIN −PFM)を用いた。ORIGIN−PFMで、ピアソンVII関数は”Pearson7”、非対称正規分布関数は”BiGauss”、直線関数は”Line”と表されている。フィッティングの完了条件は、フィッティングの信頼度を表す相関係数(ORIGIN−PFMで”COR”あるいは”Corr Coef”)が0.99以上となることとした。
【0049】
このピークフィッティングを用いた解析により、図1に示すようにこの測定スペクトルはピアソンVII関数による第1ピーク(図中フィッティング曲線A)、非対称正規分布関数による第2ピーク(図中フィッティング曲線B)、および一次関数によるベースライン(バックグラウンド)の和(図中フィッティング合計曲線)で大変よく近似できることがわかった。この測定でフィッティング曲線Aの中心は2θが43.9°にあり、これに対してフィッティング曲線Bは41.7°で最大となる。それぞれのフィッティング曲線とベースラインで囲まれた面積がそれぞれのピークの強度である。これにより第1ピークの強度に対する第2ピークの強度を解析した。この試料の場合、第2ピーク(フィッティング曲線B)の強度は第1ピーク(フィッティング曲線A)の強度の45.8%であった。
【0050】
本発明の炭素膜の多くの試料についてX線回折測定を行ったところ、すべての試料で2θが43.9°を中心に図1に示すような幅の広いピークが観測された。しかも図1に示すような低角度側に肩をもつ形をしており、第1ピークと第2ピークにより構成されることがわかった。多数の試料で測定したX線回折スペクトルについて同様のピークフィッティングによる解析を行ったところ、上述の関数を用いて非常にうまくフィッティングできることがわかった。第1ピークの中心は2θが43.9±0.3°であった。また第2ピークは2θが41.7±0.3°で最大となることがわかった。第1ピークに対する強度比は最小が5%で、最大が90%であった。この強度比は合成温度依存性が大きく、温度が低いほど大きくなる傾向があった。一方ピークの位置については合成温度によらずほぼ一定であった。
【0051】
このX線回折測定の解析手法の注意すべき点は、X線の強度が小さいと測定データのばらつきが大きくなり、信頼できるフィッティングが不可能となることである。そのため、ピークの最大強度が5000カウント以上のものについて、上述のフィッティングによる解析を行う必要がある。
【0052】
このように本発明の炭素膜には、Cu Kα1線によるX線回折測定において、2θが43.9°を中心に幅の広いピークを持ち、しかもそのピークは低角度側に肩のある構造をもつことが明らかとなった。ピークフィッティングを用いた解析により、このピークは2θが43.9°に中心をもつピアソンVII関数による第1ピークと41.7°で最大となる非対称正規分布関数による第2ピーク、および一次関数によるベースライン(バックグラウンド)の重畳で大変よく近似できることがわかった。
【0053】
同様のピークフィッティングによる解析を図2に示したダイヤモンドのスペクトルについて行った。上述の本発明の炭素膜とはまったく異なり、ダイヤモンドの場合は2θが43.9°に中心をもつピアソンVII関数だけで大変よく近似できることがわかった。したがって本発明の炭素膜はダイヤモンドとは異なる構造をもつ物質であることがわかった。
【0054】
本発明の炭素膜は上述の第2ピークが観測されることが特徴であり、ダイヤモンドとは異なる構造をもつ炭素膜である。本発明の炭素膜の製造工程、およびその他の測定結果を吟味し、その構造を検討した。本発明において用いている炭素膜の合成法を、ダイヤモンドのCVD合成法と比較した場合、以下のような大きな特徴がある。まず、通常のダイヤモンド合成が少なくとも700℃以上の温度で行われているのに対して、本発明の炭素膜は非常に低温で合成を行っている。また従来ダイヤモンド膜の粒径を小さくする場合、原料ガスに含まれる炭素源濃度(メタンガスのモル比)が10%程度の高い濃度により高速成長する方法が用いられてきたが、本発明では炭素源濃度が1%程度とかなり低い。すなわち、本手法では低温において非常にゆっくりと時間をかけ、炭素粒子を析出し、膜を形成している。したがって、炭素粒子はダイヤモンドになるかならないかのぎりぎりの状況で析出する。このため通常の立方晶のダイヤモンドより安定な炭素による結晶である六方晶ダイヤモンドの析出や、さらに安定なグラファイトの析出を促すような力が働き、結晶の析出状況としては非常に不安定である。さらにいったん析出したグラファイトおよび非晶質炭素物質も、原料ガスに含まれる大量の水素プラズマにより、エッチングにより除去される。このような析出機構により、立方晶ダイヤモンドと六方晶ダイヤモンドが入り混じり、かつエッチングによって除去された部分が非常に高濃度の欠陥として残留した構造となっている。この欠陥は原子空孔のような点欠陥であったり、転位のような線状の欠陥であったり、また積層欠陥のような面単位の欠陥も大量に含まれている。このため43.9°のX線回折ピークが低角度側に肩をもつ構造となるのである。
【0055】
しかしながら、以上のようなX線回折ピークの特徴が、本発明の炭素膜の高い機能に結びついている。すなわち、低炭素源濃度での低速合成のため、グラファイトおよびグラファイト様物質のエッチングが促進されるため、高濃度の欠陥を含む構造となるが、その一方で炭素膜の透明度を高く保っている。また、低温で合成しているため立方晶ダイヤモンドと六方晶ダイヤモンドが入り混じり、かつ高濃度の欠陥を含んでいるが、そのような低温のおかげで、鉄系基材にも炭素が浸透することなく析出し、また銅にも直接コーティングが可能となった。さらにかつ低温での合成のため、微小な粒径が揃っており、熱による歪が非常に小さい。すなわち立方晶ダイヤモンドと六方晶ダイヤモンドが入り混じり、かつ非常に高濃度の欠陥を含んだ構造により、熱歪が緩和され、光学的な複屈折性が小さいという特徴が生じている。また同様に、この構造のおかげで、非常に高い電気的絶縁性が発現している。
【0056】
この炭素膜のラマン散乱分光スペクトルの測定を行った。測定には日本分光株式会社製 紫外励起分光計 NRS-1000UVを用い、励起光は波長244nmの紫外レーザー(コヒーレント社製 Arイオンレーザー 90C FreD)を用いた。レーザー源の出力は100mWで減光器は使用しなかった。アパーチャーは200μmとした。露光時間は30秒ないし60秒間で2回の測定を積算してスペクトルを得た。この装置の校正は、ラマン散乱分光用標準試料の高温高圧合成単結晶ダイヤモンド(住友電気工業株式会社製DIAMOND WINDOW,Type:ラマン用DW005,Material:SUMICRYSTAL)により行った。この標準試料におけるラマンスペクトルのピーク位置が、ラマンシフト1333cm-1になるよう調整した。測定および解析には、本装置標準の日本分光株式会社製コンピュータソフトウェアSpectra Manager for Windows(登録商標)95/98 ver.1.00を用いた。
【0057】
測定された典型的なラマン散乱分光スペクトルを図6に示す。測定した試料は直径10cm厚さ1mmのホウケイ化ガラスウェハ上に、前記の方法で作製した厚さ約1μmの炭素膜である。図6に見るように、その炭素膜のラマン散乱スペクトルには、ラマンシフト1333cm-1付近に位置するピークが明瞭に認められた。他の多数の試料についても、同様に測定を行った結果、このピークは1320〜1340cm-1の範囲にあり、1333±10cm-1の範囲に必ず入ることが分かった。また、ラマンシフト1580cm-1付近に見られるブロードなピークは、炭素のsp2結合成分の存在を示す。この成分の割合が多くなると、その膜は不透明な黒色となる。図6の場合、このピークの高さは、1333cm-1のピークの高さに比べ約7分の1と小さく、後で示すように、この膜が透明膜であることが分かる。この場合の半値全幅(FWHM)は約22cm-1であった。他の多数の試料についても、同様に測定を行った結果、FWHMは10〜40cm-1の範囲にあることが分かった。
【0058】
この炭素膜断面を高分解能透過型電子顕微鏡(HRTEM)で観察した。使用したHRTEM装置は(株)日立製作所製H-9000透過型電子顕微鏡であり、加速電圧300kVで観察を行った。また、試料ホルダは該HR-TEM装置の標準傾斜試料ホルダを用いた。観察用試料の作製には、(1)Arイオンミリング処理による薄片化、(2)収束イオンビーム(FIB)加工による薄片化、または(3)膜表面をダイヤモンドペンで剥がし、得られた切片をマイクログリッドに捕集、の何れかの方法で行った
【0059】
図7に観察結果の例を示す。図7はガラス基板上の該膜断面の観察例である。この場合、イオンミリング処理により試料を作製した。a図は該膜と基板の界面、b図は該膜最表面、c図は該膜の電子線回折像、d図は該膜を構成する炭素粒子の炭素K殻吸収端における電子エネルギー損失分光(EELS)スペクトルの測定結果である。aおよびb図から、該膜ほぼ全面で格子像が観察され、膜中隙間なく結晶性の粒子で埋め尽くされていることが分かる。またc図の電子線回折像は、ランダム配向の多結晶ダイヤモンドのリングパターンに近い。しかし、特にダイヤモンド(111)面に対応するリング中には、1つのリングに乗らない回折スポットが多数含まれ、これらは面間隔にしてダイヤモンド(111)面より2〜6%広い面による回折に対応する。この点において、該炭素膜は通常のダイヤモンドと著しく異なる。さらに、該膜は粒径1nmから数十nmの結晶粒子が隙間なく詰まってできており、しかも該膜と基板との界面、該膜中および該膜最表面付近とでその粒径分布は変わらない。また、1個の粒子が1個または複数の結晶子から構成されているのが観察された。またd図のEELSスペクトルから、C-C sp2結合の存在を示すσ-σ*遷移に対応するピークが殆ど無く、sp3結合成分の存在を示すσ-σ*遷移に対応するピークが支配的であることがわかる。すなわち該膜は、sp3結合した炭素原子から成る、結晶性の炭素粒子から構成されていることがわかる。
【0060】
ここで結晶子(crystallite)とは、単結晶とみなせる微結晶のことであり、一般に1個の粒子(grain)は1個または複数個の結晶子から構成されている。HRTEM観察結果から、該膜の炭素粒子(結晶子)の大きさ(平均粒径)は、基板との界面、膜中および最表面について変わりなく、2〜40nmの範囲にあった。
ここで、粒子が隙間なく詰まって膜が構成されていると見なせる場合、平均粒径を求めるためには、以下の手順に従って求めた。
すなわち平均粒径は、炭素膜断面の透過型電子顕微鏡写真において、少なくとも100個以上の異なる粒子(結晶子)について粒径の平均をとって決定した。図7(a)において、白い閉曲線で囲んだ部分が1つの粒子であるが、その閉曲線で囲まれた面積を求め、この値をSとすると、粒径Dは
によって決定した。ここでπは円周率を表す。
また、粒子の面密度dsは、その粒子の平均粒径から
ds = 単位面積/(π×(平均粒径/2)2)
によって決定した。
このようにして、本発明の炭素膜の面密度を求めると、界面、膜中および最表面について変わりなく、8×1010cm-2から4×1012cm-2の範囲にあることが分かった。
【0061】
この炭素膜を走査型電子顕微鏡(SEM)で観察した。試料は直径10cm厚み1mmのホウケイ化ガラス基板上に、膜厚約500nmの炭素膜を形成した後、基板を割り、基板を傾けてその断面を観察した。ガラス基板およびダイヤモンド膜が絶縁体であるため生じるチャージアップを防ぐため、比較的低い加速電圧1kVを用い、比較的低倍率の約7000倍で観察した。その観察結果を図8に示す.図8に見るように、該膜は非常に平坦であり、この倍率では明確な凹凸は全く観察されなかった。
【0062】
この炭素膜表面の原子間顕微鏡(AFM)による観察を行い、表面粗さの評価を行った。この場合、基板の表面荒さが膜の表面粗さに及ぼす影響を可能な限り低く抑えるため、鏡面研磨した表面粗さの小さい(算術平均高さRa=0.9〜1.2nm)石英ディスク基板(直径10mm×厚さ3mm)に膜を形成し、測定用試料とした。使用したAFM装置は、米国Digital Instruments社製Nanoscope走査型プローブ顕微鏡であり、カンチレバーはDigital Instruments社製走査型プローブ顕微鏡用カンチレバーNanoprobe Type NP-1を使用した。測定にはタッピングモードを用い、スキャンサイズ1μm、スキャンレート1.0Hzで観察を行った。
【0063】
図9には、膜表面の原子間力顕微鏡(AFM)による観察結果を示す。観察結果の画像処理および表面粗さの評価には、AFM装置標準の測定および解析コンピュータソフトウェアNanoscope IIIa ver.4.43r8を用いた。その観察結果の解析より、膜の表面粗さは、Raで3.1nmであった。他に多数の試料についても評価を行い、膜の堆積条件によって表面粗さは異なるが、Raで2.6〜15nmの範囲にあることを確認した。その膜を堆積する前の石英ディスク基板の表面粗さの評価についても、同様に測定を行い、Raで0.9〜1.2nmの範囲にあることが分かった。
算術平均高さRaについては、例えば「JIS B 0601-2001」または「ISO4287-1997」に詳述されている。
【0064】
この炭素膜の可視光に対する透過率の測定を行った.試料は直径10cm厚み1mmのホウケイ化ガラスウェハ基板上に、本発明による炭素膜を形成したものを使用した。使用した透過率測定装置は、Perkin Elmer社製UV/Vis/NIR Spectrometer Lambda 900を使用し、波長領域300nm〜800nmでの透過率の測定を行った。測定の際、光源の光を2つの光路に分割し、1つを該膜が形成された試料に当て、他方を炭素膜の形成されていないガラス基板に当てた。これにより試料とガラス基板の透過率スペクトルを同時に測定し、試料のスペクトルからガラス基板のスペクトルを差し引くことにより、該炭素膜自体の透過率スペクトルを求めた。測定および解析には、本装置用測定解析用コンピュータソフトゥエアであるPerkin Elmer社製UV-WinLab ver. X1.7Aを使用した。
【0065】
測定した該膜の透過率スペクトルの例を図10に示す。該膜の膜厚は約500nmである。このスペクトルより可視光領域の波長400nm〜800nmでの平均透過率を求めると、約90%となり、未研磨の炭素膜としては、非常に透明度が高いことが分かった。特に一般的な未研磨のダイヤモンド薄膜と比較しても、圧倒的に高い透過率を持つことが分かった。
【0066】
この炭素膜の位相差測定による屈折率の測定を行った。試料は直径10cm厚さ1mmのホウケイ化ガラスウェハ基板上に、本発明による炭素膜を形成し、基板を約20mm角に切り出したものを用いた。測定装置はニコン社製位相差測定装置NPDM-1000を用い、分光器はM-70を使用した。光源にはキセノンランプを用い、検出器はSi-Geを使用した。また、偏光子および検光子にはグラムトムソンを使用し、検光子回転数は1回とした。入射角は65°および60°とし、測定波長は350〜750nmで5nmピッチで測定を行った。測定された位相差Δと振幅反射率Ψのスペクトルを計算モデルと比較し、測定値(Δ、Ψ)に近づくようにフィッティングして行き、測定値と理論値がベストフィットした結果をもって試料の屈折率、消衰係数および膜厚を決定する。なお、試料各層は等方媒質として計算を行った。
【0067】
図11には、位相差測定における屈折率および消衰係数の波長依存性を示す。膜の膜厚の評価結果は約440nmであった。図11より、該膜は測定波長領域全域で2.1以上の高い屈折率をもつことが分かる。また波長589nm(ナトリウムD線)での屈折率は約2.105であった。
【0068】
この炭素膜の複屈折の測定を行った。試料は直径10cm厚み1mmのホウケイ化ガラスウェハ基板上に、本発明による炭素膜を形成し、基板を約20mm角に切り出したものを用いた。測定は位相差測定法により、測定装置としてニコン製位相差測定装置NPDM-1000を使用した。分光器にはM-70を用い、光源にはハロゲンランプを使用した。また、検出器はSi-Geを、偏光子・検光子にはグラムトムソンを使用した。検光子回転数は1回、入射各0°で波長領域400nm〜800nmを5nmピッチで測定を行った。また波長590nmにおいて回転角依存性の測定を行った。
測定は図12に示す配置で行った。図12において、試料を回転していき、その回転角での位相差Δ=ΔS−ΔP(S偏光およびP偏光の位相差)をモニターし、最大位相差を示す角度を最大位相差方向として波長分散測定を行った。なお、測定光はダイヤモンド膜側から入射した。また、回転角依存性の測定波長は590nmとした。
基板に用いたホウケイ化ガラスについても同様の測定を行い、炭素膜が形成されているガラス基板と比較することにより、該炭素膜の複屈折を評価した。
【0069】
図13に測定結果の典型例を示す。この場合炭素膜の膜厚は約200nmである。先ず、位相差の回転角度依存性を測定した結果、基板に用いたホウケイ化ガラスとほぼ同様の依存性をしめした。この測定より最大位相差方向を求め、試料をこの方向に回転して位相差およびΔndの波長分散を測定した。図13はその測定結果である。a図は位相差の波長分散であり、b図はΔnd(nm)=波長(nm)×位相差/360の計算値を示す。a図およびb図ともに、ガラス基板のみでの測定値あるいは計算値を差し引いた差スペクトルである。これらの図から、位相差およびΔndはほぼ0であり、該膜は複屈折性を殆ど示さないことが分かる。
【0070】
この炭素膜のガラス基板に対する密着性試験を行った。試料は直径10cm厚さ1mmのホウケイ化ガラスウェハ基板上に、膜厚約280nm、600nmおよび2.2μmの炭素膜を形成し、それぞれ基板を約20mm角にカットしたものを用いた。
この3試料についてフラットワイズ試験を行い、密着強度の評価を行った。測定装置にはInstron社製の万能材料試験機 Model 5565を用い、測定方法はクロスヘッド移動量法を使用した。試料のダイヤモンド膜およびガラス基板各々に冶具を接着剤で接着し、測定温度=室温(23℃)でクロスヘッド移動量法により密着強度試験(フラットワイズ試験)を行い、荷重−変位線図を取得した。得られた線図より初期破壊時の加重を読み取り、接着面積で除した値より密着強度を評価した。試験速度は0.5mm/minで行った。またデータ処理にはInstron社製データ処理システム“Merlin”を使用した。
【0071】
測定した結果は、何れの試料についてもガラスと炭素膜の界面で剥がれが生じず、接着剤と冶具の界面で剥がれが生じたため、ガラスと該膜との密着強度を評価することは出来なかった。しかし、少なくとも密着強度0.30MPa以上であることが分かった。
【0072】
そこで、ナノインデンター‐スクラッチオプションをもちいて、スクラッチ法により該膜のガラス基板への密着性の評価を行った。スクラッチ法による密着性評価は、ダイヤモンド圧子に荷重を負荷しながら試料表面を引っかき(言い換えると試料にダイヤモンド圧子を押し込みながら引っかく)、膜が剥離したときの垂直荷重(剥離臨界荷重)で評価する。
【0073】
測定装置は、MTS社製ナノインデンター Nano Indenter XPを用い、測定・解析には本装置標準の測定解析用コンピュータソフトウェア、MTS社製Test Works 4を用いた。圧子(Tip)にはXP(ダイヤモンド Cube corner型)を使用した。最大押し込み荷重は20〜250mN、プロファイル荷重20μN、スクラッチ距離500μm、測定ポイント数10、測定点間隔50μm、測定環境温度23℃(室温)で測定を行った。
【0074】
最大押し込み荷重は、スクラッチ試験前に押し込み試験を行い、荷重‐変位(押し込み深さ)曲線から、基板にまで到達する荷重を推定して決定した。
【0075】
プロファイル荷重は、試料表面の形態を検出するために、スクラッチ試験の前に微小な荷重で試料表面を走査する(プロファイル工程)際に、圧子にかける荷重である。
【0076】
測定した試料は、直径10cm厚み1mmのホウケイ化ガラスウェハ基板上に、本発明によるダイヤモンド膜を形成し、基板を約10mm角に切り出したものを用いた。この試料をクリスタルボンド(熱溶融性接着剤)を用いて、試料台に固定して測定を行った。
【0077】
スクラッチ試験は、以下の3つの工程によって行われる。
第1工程:微小荷重で表面プロファイル
この工程により、表面形態を検出する。
第2工程:直前プロファイル→スクラッチ→直後プロファイル
この工程により、実際に荷重を負荷しながらスクラッチ試験を行う。
第3工程:再度表面プロファイル
この工程により、スクラッチ痕の表面性状を把握できる。
各測定ポイント毎にこれらの工程を行い、測定点毎にスクラッチ硬さとして密着強度を評価する。
【0078】
図14に膜厚600nmの炭素膜について、ある1測定ポイントにおけるスクラッチ試験結果の例を示す。図14において、横軸はスクラッチ距離、縦軸は押し込み深さを示す。この場合の最大押し込み荷重は20mNであった。図には測定の3工程が示されている。同図においては、スクラッチ距離500nm〜終点の間で、急激に押し込み深さが深くなっているが、これは剥離現象の典型的な例である。この剥離開始点より、試料のスクラッチ硬さHを以下のように求める。
H = P / A
ここにPは剥離位置での垂直荷重であり、Aは剥離開始点の接触面積である。Aは
A = 2.5981×ht2/3 (ht:剥離開始点の押し込み深さ)
で見積もった。
【0079】
このようにして、各試料10測定ポイント上でスクラッチ試験を行い、有意な測定結果について平均を取り、その試料のスクラッチ硬さとした。図14に示す試料の場合、スクラッチ硬さは110GPaに達し、非常に密着性が高いことが分かった。さらにスクラッチ硬さの標準偏差は約6.2であり、測定点によるばらつきが非常に少なかった。
また他の試料(膜厚約280nm)においては、圧子が基板に達しても炭素膜の剥離が起こらず、この評価法では評価不可能であるほど強い密着性を示した。
【0080】
本発明の炭素膜の電気的特性を知るために、電気抵抗測定およびホール効果測定を行った。以下、測定の詳細を記す。使用した電気抵抗測定装置およびホール効果測定装置は東陽テクニカ製ResiTest8310S型機である。また使用した試料ホルダーは東陽テクニカ製 VHT型である。測定した試料は上記の手法で厚さ1mmのパイレックス(登録商標)ガラス基板上に作製した膜厚500nmの炭素膜である。ガラス基板ごと4mm角に切り出したものを測定した。電極として試料の4角に真空蒸着により直径0.3mmの円形にTiを厚さ50nm堆積した。さらにこの上にPtを50nm、Auを100nm蒸着し、Ti電極の酸化を防止した。電極はアルゴン雰囲気中400℃で熱処理し、安定化を図った。これを高抵抗アルミナ製の試料台に取り付け、φ250μmの金のワイヤーを電極に超音波ボンディングして配線を行った。
電気抵抗測定はヘリウム1ミリバールの雰囲気中で行った。室温から400℃まで25℃きざみで測定を行った。
図15はこの試料の電気抵抗率の温度依存性を示すものである。100℃以下では非常に高抵抗で、測定装置の測定可能範囲の上限である1×109Ωcm以上となり、正確な測定ができなかった。100℃以上での測定データを外挿して、室温での電気抵抗率は1×1010Ωcm以上と考えられる。また400℃においても1×103Ωcm以上と高い抵抗値を示した。
ホール効果測定により電気伝導性のタイプの決定も試みたが、高抵抗のため、p形かn形かの判定はできなかった。
以上のような電気的な性質は、本発明の炭素膜が大変良い電気的絶縁膜として機能することを示している。
【0081】
本発明により、基板温度100℃以下でガラス基板上に炭素膜を形成することを試みた。基板温度約約95℃で7時間の表面波プラズマCVD処理を行った。基板には直径10cm厚み1mmのホウケイ化ガラスウェハを用いた。CVD処理後の基板には透明な膜が形成された。その膜について、ラマン散乱スペクトルを前述の方法によって測定した。その結果を図16に示す。図から、ラマンシフト1333cm-1にダイヤモンドを示すピークが明確に認められ、その半値全幅は約25cm-1であった。これにより、100℃以下の処理温度においても、本発明の方法により、ガラス基板上に炭素膜が形成できることが分かった。
【0082】
本発明の方法により、ホウケイ化ガラス以外のガラス基板、さらに金属、プラスチックなどガラス以外の基板上に炭素膜の成膜を行った。具体的には以下の基板を使用した。
ガラス
・ソーダライムガラス:150×150×t5mmおよび300×300×t3mm
・石英:φ10×t2mmおよび50×26×t0.1mm
金属
・銅:20×20×t3mmおよび150mm×150mm×t2mmおよび300×300×t3mm
・鉄:20×20×t3mmおよび150mm×150mm×t2mm
・ステンレス(SUS430):20×20×t2mmおよび150mm×150mm×t2mm
・チタン:φ10×t2mm
・モリブデン:φ30×t5mm
・アルミニウム:20×20×t2mmおよび150mm×150mm×t2mm
・超硬合金:φ30×t5mm
プラスチック
・ポリエーテルサルフォン(PES):20×20×t1mm
その他
・シリコン(単結晶(001)面):φ100×t5mm
表面波プラズマCVD処理後、何れの基板についてもダイヤモンド膜が形成された。図17にこれ等の基板上に形成された該膜のラマン散乱スペクトルを示す。ラマン散乱分光測定については、前述の方法によって行った。これらのスペクトルには、何れもラマンシフト1333cm-1付近にピークが観測されている。
【0083】
この銅基板およびステンレス基板上のダイヤモンド膜について、スクラッチ試験による密着強度の評価を行った。測定は前述のナノインデンター‐スクラッチオプションを用いたスクラッチ法によるスクラッチ硬さ評価と同様である。評価に用いた試料は、該ダイヤモンド膜を形成した20×20×t3mmの銅基板および20×20×t2mmのステンレス(SUS430)基板であり、どちらもダイヤモンド膜の厚みは約600nmであった。今回最大押し込み荷重は、銅基板上の該膜については1mN、ステンレス基板上の該膜については10mNであった。他の測定条件については、前述の方法と全く同様である。
【0084】
スクラッチ試験を行った結果、圧子を膜厚以上の1μm押し込んでも該膜の剥離が起きず、密着強度の評価が困難であった。しかし、膜厚以上の押し込み深さにおいても剥離を起こさなかったことから、密着性は極めて良好であると解釈できる。
【0085】
ナノインデンターをもちいて、本発明の炭素膜における硬度の測定をおこなった。測定装置は、MTS社製ナノインデンターNano Indenter XPを用い、測定・解析には本装置標準のMTS社製測定解析コンピュータソフトゥエア、Test Works 4 ver. 4.06Aを用いた。圧子(Tip)にはXPを使用した。
測定した試料は、直径10cm厚み1mmの単結晶シリコン(001)ウェハ基板上に本発明の炭素膜を形成し、基板を約10mm角に切り出したものを用いた。この場合の炭素膜の膜厚は、約2.5μmであった。この試料をクリスタルボンド(熱溶融性接着剤)を用いて、試料台に固定して測定を行った。
【0086】
この炭素膜の硬度の測定結果を図18に示す。最大押し込み深さは、300nmとした。また、測定は室温(23℃)で行った。図に見られるように、該炭素膜の硬度は、100GPaにまで達し、通常のダイヤモンドにほぼ等しい硬度を持つことが分かった。
【0087】
本発明による方法によって、基板上に本発明による炭素粒子の集合体から成る炭素不連続膜を形成させた。本発明の方法によって、表面波プラズマCVD処理を行う前に、基板にナノダイヤモンド粒子またはクラスターダイヤモンド粒子またはグラファイトクラスターダイヤモンド粒子またはアダマンタンまたはその誘導体あるいはそれらの多量体を付着させる際、それらを分散または溶解させる分散媒または溶媒に対する濃度を極めて低くすることにより、それらの基板への付着密度を低減させることが出来る。これにより、CVD処理の際ダイヤモンドの核発生面密度を低下させ、基板上に連続膜ではなく、不連続膜を形成させることが出来る。この場合、該不連続膜を構成する炭素粒子の粒径は、表面波プラズマCVD処理の時間によって制御することができる(短ければ小さく、長ければ大きくなる)。
【0088】
このようにして、ホウケイ化ガラス基板上に形成した炭素不連続膜の光学顕微鏡写真を図19に示す。観察はLeica社製光学顕微鏡LEITZ DMRを用いた。写真の撮影には、本顕微鏡標準のLeica社製デジタルカメラ DFC 280およびその撮影・解析用コンピュータソフトウェアである、Leica社製 IM50 ver. 4.0 Release 117を使用した。また、この場合、成膜前処理にはエタノールにグラファイトクラスターダイヤモンド粒子を極薄く分散(濃度約0.01wt.%)させた分散液に、直径10cm厚み1mmのホウケイ化ガラスウェハ基板を浸し、超音波処理によって前処理を行った。その後約7時間の表面波プラズマCVD処理を行った。図19に示すダイヤモンド粒子の平均粒径は約3μmであった。この場合、1つの粒子は平均約200個の炭素粒子(結晶子)の集合体と考えられる。この場合の粒子の面密度は約5×106cm-2であり、前処理によって、基板に付着したグラファイトクラスターダイヤモンド粒子の付着密度とほぼ等しいと考えられる。
図19に示す炭素粒子集合体による不連続膜は、ガラス基板上に孤立した炭素粒子を多く含み、該炭素不連続膜の場合は、フッ酸処理等によって基板を除去することによって、炭素粒子粉末を得ることができる。
【0089】
図20に示すように、本発明の炭素膜を石英ガラスの平板に積層し、研磨用工具としての動作の確認を行った。試験をおこなった石英ガラスはφ30mm、厚さ1mmで、表面に本発明の炭素膜を500nmの厚さで堆積し、積層体を成した。この石英ガラスの表面は炭素膜を堆積する前に研磨し、原子間力顕微鏡(AFM)観察により、表面粗さRaが1nm程度の平坦度を有することを確認した。この積層体に、チタンの板を100回往復してこすりつけ、その前後でのRaの変化をAFMで測定した。こすり付ける前のチタン板のRaは100nmであったのに対して、こすり付けた後でのRaは20nmであり、平坦度の向上を確認した。このように本発明の炭素膜をもちいた積層体が研磨用工具として機能することを確認した。
【0090】
本発明の炭素膜をガラスに積層し、光閉じ込めの効果の検証を行った。通常のスライドガラス(25mm×75mm、厚さおよそ1mm)の表面に本発明の炭素膜を200nmの厚さで堆積し、積層体を成した。図21にこの光デバイスの構造を示す。この積層体の炭素膜の一方の端から、その表面に対して45°程度の角度で水銀ランプからの光を入射したところ、40mmはなれたもう一方の端から光が放出された。このように炭素膜の一方の端から入射した水銀ランプからの光が炭素膜とスライドガラスの境界面、および炭素膜と空気との境界面で全反射を繰り返し、もう一方の端までとじこめられながら進行するのを確認できた。このように本発明の炭素膜は、その高い屈折率を利用することにより光導波路などの光デバイスとして利用できることがわかった。
【0091】
本発明の炭素膜をガラスにコーティングして、傷つき防止効果の検証を行った。直径10cm厚さ1mmのホウ珪化ガラスの表面に本発明の炭素膜を300nmの厚さでコーティングした。そして1000番のサンドペーパーで往復100回こすった。その結果を図22(a)に示す。また、図22(b)は、本発明の炭素膜をコーティングしていないホウ珪化ガラスで、同じ試験を行った結果を示す写真である。このように本発明の炭素膜をコーティングしたガラスには、まったく傷がつかなかった。一方本発明の炭素膜をコーティングしていないガラスには傷がついた。このように本発明の炭素膜は光学用ガラスの傷つき防止効果が高いことがわかった。したがって本発明の炭素膜をコーティングすることにより傷つき防止効果を高めた光学用ガラス、レンズ、メガネなどへの応用が可能である。
【0092】
本発明の炭素膜を石英ガラスに300nmの厚さで堆積して積層体を成し、それを風防として備える腕時計を図23のごとく形成し、風防の傷つき防止としての機能の検証を行った。この風防表面を1000番のサンドペーパーで往復100回こすったが、まったく傷がつかなかった。このように本発明の炭素膜と石英ガラスとの積層体を風防として備える腕時計は、風防表面に傷がつきにくいという特性を有することを確認した。
【0093】
厚さ0.3mmのアルミニウムの薄板に、厚さ500nmの本発明の炭素膜を堆積して積層体をなし、さらに炭素膜上に銅で電子回路パターンを形成して電子回路基板を作製した。図24はこの電子回路基盤の模式図である。炭素膜を挟んで銅とアルミニウムとの電気的絶縁性はきわめて良好であることを確認した。基材はアルミニウムだけでなく、他の材質であってもよい。本発明の炭素膜を用いた積層体が電子回路基板として機能することを確認した。
【特許請求の範囲】
【請求項1】
試料台と、試料台上の冷却ステージと、表面波プラズマ源とを備え、該表面波プラズマ源を制御して反応器内のガス圧力を5×101から5×102Paに設定し、かつ試料台と冷却ステージと密着させ、前記基板と該表面波プラズマ源との距離を調節して基板温度を450℃以下に設定して、
炭素粒子を集合してなる炭素膜を基板上に厚さ2nm−100μm設けた積層体を形成するための表面波プラズマCVD装置であり、ここで前記炭素膜が、CuKα1線によるX線回折スペクトルにおいて、ブラッグ角(2θ±0.3°)の43.9°のピークフィッティング曲線Aに41.7°のピークフィッティング曲線B及びベースラインを重畳して得られる近似スペクトル曲線を有し、ピークフィッティング曲線Aの強度に対するピークフィッティング曲線Bの強度が5〜90%であり、ラマン散乱分光スペクトルにおいて、ラマンシフトが1333±10cm−1にピークを有し、かつそのピークの半値幅が10〜40cm−1であり、かつX線回折スペクトルの2θが43.9°にピークを形成する立方晶ダイヤモンドと、低角側の41.7°にピークを形成する結晶欠陥を備え、結晶欠陥が、六方晶ダイヤモンド及び積層欠陥を備えることを特徴とする積層体を製造するための表面波プラズマCVD装置。
【請求項2】
炭素粒子を集合してなる炭素膜を基板上に厚さ2nm−100μm設け、前記炭素膜が、CuKα1線によるX線回折スペクトルにおいて、ブラッグ角(2θ±0.3°)の43.9°のピークフィッティング曲線Aに41.7°のピークフィッティング曲線B及びベースラインを重畳して得られる近似スペクトル曲線を有し、ピークフィッティング曲線Aの強度に対するピークフィッティング曲線Bの強度が5〜90%であり、ラマン散乱分光スペクトルにおいて、ラマンシフトが1333±10cm−1にピークを有し、かつそのピークの半値幅が10〜40cm−1であり、かつX線回折スペクトルの2θが43.9°にピークを形成する立方晶ダイヤモンドと、低角側の41.7°にピークを形成する結晶欠陥を備え、結晶欠陥が、六方晶ダイヤモンド及び積層欠陥を備える積層体を製造するための表面波プラズマCVD装置であり、
前記表面波プラズマCVD装置は、試料台と、試料台上の冷却ステージと、表面波プラズマ源とを備え、該表面波プラズマ源を制御して反応器内のガス圧力を5×101から5×102Paに設定し、かつ試料台と冷却ステージと密着させ、前記基板と該表面波プラズマ源との距離を調節して基板温度を450℃以下に設定することを特徴とする表面波プラズマCVD装置。
【請求項3】
前記基板は、プラスチックであることを特徴とする請求項1又は2記載の表面波プラズマCVD装置。
【請求項4】
前記基板は、銅、鉄、ステンレス、アルミニウムのいずれか1つであることを特徴とする請求項1又は2記載の表面波プラズマCVD装置。
【請求項5】
前記基板は、ソーダライムガラス、石英、チタン、モリブデン、超硬合金のいずれか1つであることを特徴とする請求項1又は2記載の表面波プラズマCVD装置。
【請求項6】
試料台と、試料台上の冷却ステージと、表面波プラズマ源とを備える表面波プラズマCVD装置を用いて、該表面波プラズマCVD装置の前記表面波プラズマ源を制御して反応器内のガス圧力を5×101から5×102Paに調整し、かつ前記試料台と前記冷却ステージと密着させ、基板と前記表面波プラズマ源との距離を制御して基板温度を450℃以下に調整して、炭素粒子を集合してなる炭素膜を前記基板上に厚さ2nm−100μm設けた積層体を形成する積層体の製造方法であり、ここで前記炭素膜が、CuKα1線によるX線回折スペクトルにおいて、ブラッグ角(2θ±0.3°)の43.9°のピークフィッティング曲線Aに41.7°のピークフィッティング曲線B及びベースラインを重畳して得られる近似スペクトル曲線を有し、ピークフィッティング曲線Aの強度に対するピークフィッティング曲線Bの強度が5〜90%であり、ラマン散乱分光スペクトルにおいて、ラマンシフトが1333±10cm−1にピークを有し、かつそのピークの半値幅が10〜40cm−1であり、かつX線回折スペクトルの2θが43.9°にピークを形成する立方晶ダイヤモンドと、低角側の41.7°にピークを形成する結晶欠陥を備え、結晶欠陥が、六方晶ダイヤモンド及び積層欠陥を備えることを特徴とする表面波プラズマCVD装置を用いて積層体を製造する方法。
【請求項7】
前記基板は、プラスチックであることを特徴とする請求項6記載の表面波プラズマCVD装置を用いて積層体を製造する方法。
【請求項8】
前記基板は、銅、鉄、ステンレス、アルミニウムのいずれか1つであることを特徴とする請求項6記載の表面波プラズマCVD装置を用いて積層体を製造する方法。
【請求項9】
前記基板は、ソーダライムガラス、石英、チタン、モリブデ、超硬合金のいずれか1つであることを特徴とする請求項6記載の表面波プラズマCVD装置を用いて積層体を製造する方法。
【請求項1】
試料台と、試料台上の冷却ステージと、表面波プラズマ源とを備え、該表面波プラズマ源を制御して反応器内のガス圧力を5×101から5×102Paに設定し、かつ試料台と冷却ステージと密着させ、前記基板と該表面波プラズマ源との距離を調節して基板温度を450℃以下に設定して、
炭素粒子を集合してなる炭素膜を基板上に厚さ2nm−100μm設けた積層体を形成するための表面波プラズマCVD装置であり、ここで前記炭素膜が、CuKα1線によるX線回折スペクトルにおいて、ブラッグ角(2θ±0.3°)の43.9°のピークフィッティング曲線Aに41.7°のピークフィッティング曲線B及びベースラインを重畳して得られる近似スペクトル曲線を有し、ピークフィッティング曲線Aの強度に対するピークフィッティング曲線Bの強度が5〜90%であり、ラマン散乱分光スペクトルにおいて、ラマンシフトが1333±10cm−1にピークを有し、かつそのピークの半値幅が10〜40cm−1であり、かつX線回折スペクトルの2θが43.9°にピークを形成する立方晶ダイヤモンドと、低角側の41.7°にピークを形成する結晶欠陥を備え、結晶欠陥が、六方晶ダイヤモンド及び積層欠陥を備えることを特徴とする積層体を製造するための表面波プラズマCVD装置。
【請求項2】
炭素粒子を集合してなる炭素膜を基板上に厚さ2nm−100μm設け、前記炭素膜が、CuKα1線によるX線回折スペクトルにおいて、ブラッグ角(2θ±0.3°)の43.9°のピークフィッティング曲線Aに41.7°のピークフィッティング曲線B及びベースラインを重畳して得られる近似スペクトル曲線を有し、ピークフィッティング曲線Aの強度に対するピークフィッティング曲線Bの強度が5〜90%であり、ラマン散乱分光スペクトルにおいて、ラマンシフトが1333±10cm−1にピークを有し、かつそのピークの半値幅が10〜40cm−1であり、かつX線回折スペクトルの2θが43.9°にピークを形成する立方晶ダイヤモンドと、低角側の41.7°にピークを形成する結晶欠陥を備え、結晶欠陥が、六方晶ダイヤモンド及び積層欠陥を備える積層体を製造するための表面波プラズマCVD装置であり、
前記表面波プラズマCVD装置は、試料台と、試料台上の冷却ステージと、表面波プラズマ源とを備え、該表面波プラズマ源を制御して反応器内のガス圧力を5×101から5×102Paに設定し、かつ試料台と冷却ステージと密着させ、前記基板と該表面波プラズマ源との距離を調節して基板温度を450℃以下に設定することを特徴とする表面波プラズマCVD装置。
【請求項3】
前記基板は、プラスチックであることを特徴とする請求項1又は2記載の表面波プラズマCVD装置。
【請求項4】
前記基板は、銅、鉄、ステンレス、アルミニウムのいずれか1つであることを特徴とする請求項1又は2記載の表面波プラズマCVD装置。
【請求項5】
前記基板は、ソーダライムガラス、石英、チタン、モリブデン、超硬合金のいずれか1つであることを特徴とする請求項1又は2記載の表面波プラズマCVD装置。
【請求項6】
試料台と、試料台上の冷却ステージと、表面波プラズマ源とを備える表面波プラズマCVD装置を用いて、該表面波プラズマCVD装置の前記表面波プラズマ源を制御して反応器内のガス圧力を5×101から5×102Paに調整し、かつ前記試料台と前記冷却ステージと密着させ、基板と前記表面波プラズマ源との距離を制御して基板温度を450℃以下に調整して、炭素粒子を集合してなる炭素膜を前記基板上に厚さ2nm−100μm設けた積層体を形成する積層体の製造方法であり、ここで前記炭素膜が、CuKα1線によるX線回折スペクトルにおいて、ブラッグ角(2θ±0.3°)の43.9°のピークフィッティング曲線Aに41.7°のピークフィッティング曲線B及びベースラインを重畳して得られる近似スペクトル曲線を有し、ピークフィッティング曲線Aの強度に対するピークフィッティング曲線Bの強度が5〜90%であり、ラマン散乱分光スペクトルにおいて、ラマンシフトが1333±10cm−1にピークを有し、かつそのピークの半値幅が10〜40cm−1であり、かつX線回折スペクトルの2θが43.9°にピークを形成する立方晶ダイヤモンドと、低角側の41.7°にピークを形成する結晶欠陥を備え、結晶欠陥が、六方晶ダイヤモンド及び積層欠陥を備えることを特徴とする表面波プラズマCVD装置を用いて積層体を製造する方法。
【請求項7】
前記基板は、プラスチックであることを特徴とする請求項6記載の表面波プラズマCVD装置を用いて積層体を製造する方法。
【請求項8】
前記基板は、銅、鉄、ステンレス、アルミニウムのいずれか1つであることを特徴とする請求項6記載の表面波プラズマCVD装置を用いて積層体を製造する方法。
【請求項9】
前記基板は、ソーダライムガラス、石英、チタン、モリブデ、超硬合金のいずれか1つであることを特徴とする請求項6記載の表面波プラズマCVD装置を用いて積層体を製造する方法。
【図6】
【図10】
【図18】
【図20】
【図21】
【図24】
【図1】
【図2】
【図3】
【図4】
【図5】
【図7】
【図8】
【図9】
【図11】
【図12】
【図13】
【図14】
【図15】
【図16】
【図17】
【図19】
【図22】
【図23】
【図10】
【図18】
【図20】
【図21】
【図24】
【図1】
【図2】
【図3】
【図4】
【図5】
【図7】
【図8】
【図9】
【図11】
【図12】
【図13】
【図14】
【図15】
【図16】
【図17】
【図19】
【図22】
【図23】
【公開番号】特開2013−40408(P2013−40408A)
【公開日】平成25年2月28日(2013.2.28)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2012−224631(P2012−224631)
【出願日】平成24年10月9日(2012.10.9)
【分割の表示】特願2009−259520(P2009−259520)の分割
【原出願日】平成17年4月15日(2005.4.15)
【出願人】(301021533)独立行政法人産業技術総合研究所 (6,529)
【Fターム(参考)】
【公開日】平成25年2月28日(2013.2.28)
【国際特許分類】
【出願日】平成24年10月9日(2012.10.9)
【分割の表示】特願2009−259520(P2009−259520)の分割
【原出願日】平成17年4月15日(2005.4.15)
【出願人】(301021533)独立行政法人産業技術総合研究所 (6,529)
【Fターム(参考)】
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