説明

製造プロセス用の処理槽及びその製造法

【課題】継続的に使用しても内壁面に反応生成物が実質的に付着することはなく、生産効率を格段に伸ばすことができる反応槽を提供することを目的としている。
更に、その製造法によれば、継続的に使用しても内壁面に反応生成物が実質的に付着することのない製造プロセス用処理槽の構造体及びその構造体を用いた製造プロセス用処理槽を容易に提供できる製造プロセス用処理槽の構造体及びその構造体を用いた製造プロセス用処理槽の製造法を提供することを目的としている。
【解決手段】本発明に係る反応槽は、槽本体の内表面にPFAから成る膜を設けたものである。又、反応槽及びその構造体の製造法は、内壁面に溶融・再溶融してPFA膜を設けるものである。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、高分子合成、有機重合、有機分解など化学合成や化学分解などで使用される化学反応槽、有機材料や有機・無機混合材料の混合・混練などで使用される混合槽・混練槽、その他、例えば、半導体装置、液晶表示装置、太陽電池、有機EL装置、LED等の半導体関連技術を利用する機能性電子デバイス(「以降、半導体応用機能性電子デバイス」という)の製造において、成膜プロセスの実施に用いる製造装置、又は、それら電子装置用の電子部品の製造装置において使用される真空処理槽、等々の製造プロセス用の処理槽およびその製造法に関する。
【背景技術】
【0002】
例えば、重合体ラテックスは、乳化重合法によって製造されるが、製造時に攪拌翼により攪拌しながら重合する際、重合体粒子同士が凝集し、これが反応槽内壁や攪拌翼へ付着したりする。反応槽内壁に付着物(「スケール」という)が付着すると反応槽の除熱能力が低下し、放置すると反応制御不能になることがある。そのため、反応槽内のスケールを定期的に除去する必要がある。スケールの除去の際は、その度に重合反応を停止して反応槽内の重合用化学材料を取り出し、次いで、反応槽内壁にクリ−ニング処理を施してスケールを取り除く。そして、重合用化学材料を反応槽内に再投入し、重合を再開する。このような重合の中断と反応槽内壁のスケール除去という煩雑さのために、生産効率を著しく低下させている。
【0003】
一方、半導体やフラットディスプレー、太陽電池などの電子デバイスに於いては、その機能を発揮させるために多くの機能性膜が設けられる。これらの膜は、PVD(Physical Vapor Deposition )法やCVD(Chemical Vapor Deposition)法によって作成されるが、各膜によってその形成に使用されるガス種が異なるため、各膜に応じた個々の成膜槽で形成される。又、必要に応じて採用されるドライエッチング処理も、エッチング対象によって使用されるエッチングガス種が異なるため、個々の反応槽で実施されている。
【0004】
これらの製造プロセス用の処理槽では、例えば、成膜工程を何回か重ねると反応処理槽内壁には反応によって生じた生成物が付着し、その付着した生成物が内壁から剥がれて反応処理槽内を浮遊することがある。そのため、浮遊する生成物が成膜過程で膜中に取り込まれる等、目的とする特性の膜が形成されないということが生ずる恐れがある。
【0005】
更には、ひとつの反応処理槽で、いくつもの異なる膜を形成する提案もなされているが、この提案においては、前工程で形成する膜の成膜工程で生じて内壁に付着した反応生成物が、その後の工程で形成する膜に取り込まれると形成される膜は所期の特性が得られなくなる、更には、前の成膜工程で生じた生成物によって反応処理槽内部が汚染されてしまう懸念があるなど、従来の手法には解決すべき課題も少なくはない。
【0006】
この課題を解決するのに、例えば、反応槽内壁を特定の含フッ素脂肪族環構造を有するポリマーで被覆することで、反応槽内壁へのスケールの付着を防止する提案がある(特許文献1)。
【0007】
反応処理槽内壁面への付着防止の他の例としては、例えば、隔壁部材を内壁面から間隙を設けて出し入れ自由に設置し該隔壁部材の内壁面に反応生成物を付着させることで反応生成物の反応処理槽内壁面への付着を防止する提案がある。内壁面に反応生成物が付着した隔壁部材は反応処理槽から取り出されて別の隔壁部材と交換される。隔壁部材の内壁面に付着した反応生成物は、ドライエッチングや機械的掻きだしによって除去され、反応生成物が除去された隔壁部材は再使用される。
【0008】
また、他には、反応処理槽内壁面を平滑にして反応生成物の付着を防止しようとする提案がある。反応処理槽用の基材は、工業的には、ステンレス、アルミなどが採用されており、内壁面を平滑にする一つの手法としては、比較的良好な平滑面がえられるということで、電界研磨が採用されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0009】
【特許文献1】特開平5−023652号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0010】
しかし、特許文献1に記載の発明では、確かに重合体ラテックスの製造においては、スケールの付着防止に効果があるが、電子デバイスなどに使用する高機能膜を半導体技術で形成する際に用いる真空反応槽の場合には、反応生成物の真空反応槽内壁への付着を必ずしも完全に防止できるものではない。
【0011】
その理由は、特許文献1に記載の特定の含フッ素脂肪族環構造を有するポリマーの被覆膜では、その自由表面の平滑性が十分に得られずに微細な凹凸が残るために、例えばPCVD法による成膜過程での反応生成物の付着を確実に防止できないものと思われる。更に、特許文献1の場合は、反応槽の基材がガラスであるため熱伝導が悪く反応生成熱の放熱が十分に出来ないという懸念がある。
【0012】
隔壁部材を設ける例においては、その都度隔壁部材を取り換えるために成膜プロセスが中断し生産効率を著しく低下させる。また、真空反応槽の場合は、隔壁部材の取り換えのために反応槽内を大気に開放するため、注意深く対応しないと反応槽内が汚染されかねないし、反応槽内を再び成膜雰囲気に減圧しなければならない、など、煩雑さが伴う。
【0013】
電界研磨などによって平滑性を十分に確保する場合においても、以下のような課題が存在する。電界研磨は、均一な表面に対してその効果を最大限に発揮するが、不均一な面に対しては、その特性を活かすのが難しい。実際、物を作る場合には溶接や曲げ加工など多くの加工が加えられるので、その表面は決して均一なものではないという難点がある。
【0014】
一方、機械的研磨では、譬え12000番のラッピングフィルムを用いたとしても電子顕微鏡で観察すれば、非常に細かい条痕が見られる。平滑化といっても機械的研磨では条痕がなくなる訳ではなく、それが小さくなるだけで小さな凹凸は残る。
【0015】
これに対し、電界研磨では、事前に600番程度の固定砥粒による研磨仕上げをし、其の後で電界研磨を施せば、条痕は全くと言っていい程見られない。しかし、大きな平面全体を平坦に研磨するのは、機械的研磨の方が優れている。電界研磨は滑らかにうねった表面をつくることはできるが平坦化は難しい。
【0016】
このような技術的制約のために、反応処理槽の場合、ドーム状のものや円筒状のものが一般的で、被研磨面は形状が比較的単純にされる。そのために、いくつもの部品に分割し、分割された部品の被電界研磨面は、局部的に電界が集中する個所が無いように凹凸の少ない滑らかな面として形成した上で電界研磨を施すのが一般的である。
【0017】
しかし、そのように加工されても、反応槽の内壁面には、付着が少なくなったとはいえ、以前として反応生成物が付着し高機能膜の形成には障害となっていた。特に、今後、20nm、15nm、10nmと微細化が進むに連れ、その障害は大きくなるという課題がある。
【0018】
本願は、以上の点に鑑みてなされたもので、上記の課題を解決することを目的にし、課題を多面的に鋭意検討・研究することで課題解決に至ったものである。
【課題を解決するための手段】
【0019】
本発明の製造プロセス用の処理槽は、その内壁面の少なくとも反応生成物が付着し得る個所の最表面に下記構造式1で示すパーフルオロアルコキシアルカン(以後「PFA」と記す)の膜が設けてあることを特徴とする(第一の処理槽)。
【化1】

(構造式1において、Rfはパーフルオロアルキル基を示し、m及びnは正の整数を示す。)
【0020】
本発明の別の製造プロセス用の処理槽は、前記第一の処理槽において、処理槽の基材が金属であることを特徴とする(第二の処理槽)。
【0021】
本発明の更に別の製造プロセス用の処理槽は、前記第二の処理槽において、金属がアルミ系金属であることを特徴とする(第三の処理槽)。
【0022】
本発明の別のもう一つの製造プロセス用の処理槽は、前記の第一の処理槽乃至第三の処理槽の何れかの処理槽において、前記PFA膜は、NiもしくはNiFからなる膜の上に直接に設けられていることを特徴とする(第四の処理槽)。
【0023】
本発明の更に別のもう一つの製造プロセス用の処理槽は、前記の第一の処理槽乃至第四の処理槽の何れかの処理槽において、前記PFA膜は、再溶融処理を施された膜であることを特徴とする(第五の処理槽)。
【0024】
本発明の製造プロセス用の処理槽の製造法は、製造プロセス用の処理槽の製造法において、処理槽基材の槽内壁面となる面にPFAからなる膜を設けた処理槽用の構造体を用意し、該構造体をPFAの溶融点より高い温度雰囲気に晒して前記膜の少なくとも自由表面領域を溶融し、その後、PFAの溶融点より低い温度に晒して少なくとも自由表面領域となる部分を固化し、次いで、PFAの溶融点若しくはPFAの溶融点を越した辺りの温度の雰囲気に晒して少なくとも自由表面領域となる部分を再溶融し、その後、PFAの溶融点より十分低い温度に下げることで、PFAからなる固体膜の自由表面の平滑性を高める工程を有することを特徴とする(第一の製造法)。
【0025】
本発明の製造プロセス用の処理槽の別の製造法は、上記第一の製造法において、処理槽基材の槽内壁面となる面に、PFAからなる膜を設ける前に、NiもしくはNiFからなる膜を設ける工程を更に有することを特徴とする(第二の製造法)。
【0026】
本発明の製造プロセス用の処理槽用の構造体のもう一つ別の製造法は、上記第一の製造法において、処理槽基材の槽内壁面となる面に、PFAからなる膜を設ける前に、無孔質陽極酸化に由来するAlからなる膜を設ける工程を更に有することを特徴とする(第三の製造法)。
【0027】
本発明の製造プロセス用の処理槽の構造体の製造法は、処理槽基材の槽内壁面となる面にPFAからなる膜を設けた処理槽用の構造体を用意し、該構造体をPFAの溶融点より高い温度雰囲気に晒して前記固体膜の少なくとも自由表面領域を溶融し、その後、PFAの溶融点より低い温度に晒して少なくとも自由表面領域となる部分を固化し、次いで、PFAの溶融点若しくはPFAの溶融点を越した辺りの温度の雰囲気に晒して少なくとも自由表面領域となる部分を再溶融し、その後、PFAの溶融点より十分低い温度に下げることで、PFAからなる固体膜の自由表面の平滑性を高める工程を有することを特徴とする(第四の製造法)。
【0028】
本発明の製造プロセス用の処理槽用の構造体の更に別の製造法は、上記第四の製造法において、前記構造体の処理槽基材の槽内壁面となる面に、PFAからなる膜を設ける前に、NiもしくはNiFからなる膜を設ける工程を更に有することを特徴とする(第五の製造法)。
【0029】
本発明の製造プロセス用の処理槽用の構造体のもう一つ別の製造法は、上記第四の製造法において、処理槽基材の槽内壁面となる面に、PFAからなる膜を設ける前に、無孔質陽極酸化に由来するAlからなる膜を設ける工程を更に有することを特徴とする(第六の製造法)。
【発明の効果】
【0030】
本発明の構造体(材)で構成される製造プロセス用処理槽によれば、継続的に使用しても内壁面に反応生成物が実質的に付着することはなく、生産効率を格段に伸ばすことができる。また、一つの成膜処理槽で多品種の構造膜を生産しても、内壁面に反応生成物が実質的に付着することはないので、一つ一つの膜は、いつでも所期のクリーンな槽内環境で成膜することができ、得られる構造膜は設計通りの特性が得られる。更に、その製造法によれば、継続的に使用しても内壁面に反応生成物が実質的に付着することのない製造プロセス用処理槽の構造体及びその構造体を用いた製造プロセス用処理槽を容易に提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0031】
【図1】本発明に係る製造プロセス用処理槽の一例を説明するための模式的断面図。
【図2】本発明の実施例において、平滑度の測定を補足的に説明するための説明図。
【図3】本発明に係る製造プロセス用処理槽の別の例を説明するための模式的断面図。
【発明を実施するための形態】
【0032】
本発明に係る製造プロセス用処理槽の一例が図1に示される。
【0033】
図1の処理槽本体100には、アルミ等の金属から成る処理槽用基材101の内壁面に、PFAから成る膜102が設けてある。膜102は、基材101の内壁面にPFAを塗装後、溶融と再溶融の過程を経て形成されることによって、その自由表面に高い平滑性が付与されている。
【0034】
本発明において採用される構造式1のPFA(以後「PFA(1)」と記す)は、多くの企業により製造・販売されている。その中で、本発明においては、好ましくは、融点:298〜310℃、密度:2.12〜2.17のものが望ましい。又、高温で使用する場合を考慮する必要がある際は、最高連続使用温度が、好ましくは、少なくとも260℃であるものから選択するのが望ましい。発熱反応等放熱を考慮する必要がある場合は、熱伝導率として、例えば、0.25W/m・k以上あるのが望ましい。
【0035】
【化2】

(構造式1において、Rfはパーフルオロアルキル基を示し、m及びnは正の整数を示す。)
すなわち、本発明のPFAは、構造式1のような構造を含む、テトラフルオロエチレンとパーフルオロアルキルビニルエーテルとの共重合体である。Rfの例としてはフッ素原子を2以上有するアルキル基、例えば全フッ化アルキル基が挙げられる。Rfの炭素数は特に限定されないが、1以上、好ましくは2以上であり、通常は12以下、好ましくは6以下である。本発明のPFAの重量平均分子量は特に限定されないが、上記のような融点及び密度特性を満たすものであることが好ましい。
【0036】
PFAの溶融粘度は、表面平滑性が高く、うねりのない膜を形成するのに重要なファクターである。溶融粘度が余り高いと、高い表面平滑性が得られ難くなるし、うねりも生じやすくなる。本発明においてのPFAの溶融粘度は、ASTM D3307準拠で、好ましくは、10g/10分以上、より好ましくは、20g/10分以上であるのが望ましい。勿論、塗装を均一とし溶融時間を十分にとれば、ある程度高い溶融粘度のものであっても、うねりのない高い表面平滑性を有するPFA膜を得ることが出来る。
【0037】
PFAとして具体的には、以下に示されるものが、好ましく採用される。
【0038】
(1)ダイキン工業株式会社
AC−5539(静電塗装高分子厚塗り用、紛体)
AC系列としては、この他には、AC−5600、ACX−21、ACX−31、ACX−31WH、ACX−34、ACX−41が挙げられる。
【0039】
この他、AD−2CRE(塗装膜厚:10〜15μm)、AW−5000L(塗装膜厚:30〜40μm)が使用出来る。
【0040】
AD−2CREは、塗料を100〜150メッシュの金網で、AW−5000Lは、塗料を60〜80メッシュの金網で、それぞれ濾過後使用することがメーカーより推奨される。AD−2CREの塗装条件は、好ましくは、エアースプレー条件として、スプレーガンのノズル径1.0mmφ、霧化圧力0.2MPaであるのが望ましい。AW−5000Lの塗装条件は、好ましくは、エアースプレー条件として、スプレーガンのノズル径1.0〜1.2mmφ、霧化圧力0.2〜0.4MPaであるのが望ましい。
【0041】
プライマーとして本発明に於いて好ましく使用されるダイキン工業株式会社製のものでは、以下のものが挙げられる。
【0042】
水系のプライマーとしては、ED−1939D21L、EK−1908S21L、EK−1909S21L、EK−1959S21L、EK−1983S21L、EK−1208M1L、EK−1209BKEL、EK−1209M10L、EK−1283S1L、
溶剤系のプライマーとしては、TC−1509M1、TC−1559M2、TC−11000、などである。
【0043】
これらのプライマーは、例えば、プライマーEK−1909S21Lの場合は、宇治電気化学工業製トサエメリーエキストラ♯80/♯100=50・50で粗面化後、約10μmエアースプレー塗装される。その上に、PFA膜が設けられる。
【0044】
プライマー塗布の塗装条件は、例えば、スプレーガンのノズル径1.0〜1.2mmφ、霧化圧力0.2〜0.4MPa、或いは、スプレーガンのノズル径1.0〜1.5mmφ、霧化圧力0.2〜0.3MPa、とされる。乾燥は、例えば、温度:80〜90℃、時間:10〜15分とされる。
【0045】
(2)三井・デュポンフロロケミカル社
EM−500CL(水性トップコート用),EM−500GN(水性トップコート用)、EM−700CL(水性トップコート用),EM−700GN(水性トップコート用),EM−700GY(水性トップコート用)が挙げられ、これらは、複雑な形状のためで静電塗装が出来ない物品向きである。
【0046】
この他、本発明に於いて使用できるのは、
MP―102(マイクロパウダー、トップコート用)
MP−103(マイクロパウダー、トップコート用)、
MP−300(フッ素化パウダー、トップコート用)、
MP−310(フッ素化パウダー、トップコート用)、
MP−630(導電性パウダー)、
MP−642(導電性パウダー)、
MP−620(熱伝導性が高い)、
MP−621(熱伝導性が高い)、
MP−622(熱伝導性が高い)、
MP−623(熱伝導性が高い)、
MP−501(複雑な形状のためで静電塗装が出来ない物品向き)、
MP−502(複雑な形状のためで静電塗装が出来ない物品向き)、
SL−800BK(カーボンフィラー入り、)
SL−800LT(ガラスフィラー入り)、
等が挙げられる。
【0047】
この中、MP−103、MP−300、MP−310は、得られる膜が平面平滑性に優れているので、本発明に於いて好ましいものである。その中でも、MP−310は、球晶コントロールが約5μmと微小・均一性に於いて優れているので、特に好ましいものである。SL−800BKは、熱伝導が良く放熱性に優れているので、放熱性の点で本発明に於いては好ましい。熱伝導が良く放熱性に優れていという点では、MP−630,642(導電性マイクロパウダー)も好ましいPFA材料として本発明においては使用される。
【0048】
これらの三井・デュポンフロロケミカル社製のPFAの中で、特に好ましく用いられるのは、構造式1におけるRfが、「−CFCFCF」のPFAで、分子量:数10万〜100万で、融点:300〜310℃、粘度:104〜105poise(380℃)、最高連続使用温度:260℃のものである。
【0049】
プライマーとしては、一般水性汎用プライマーとして販売されているPFAプライマーPL−902シリーズ、耐熱性・耐食性に優れたプライマーとして販売されているPFAプライマーPL−910シリーズのものが、好ましい。具体的には、PL−902YL、PL−902BN、PL−902AL、PL−910YL、PL−910BN、PL−910AL、PL−914ALの銘柄で販売されている。
【0050】
(3)株式会社パッキンランド
NK−108(潤滑性、標準膜厚50μm、耐熱温度260℃)、
NK−372(潤滑、帯電防止、標準膜厚100、300μm、耐熱温度260℃),
NK−379(潤滑、帯電防止、標準膜厚100、300μm、耐熱温度260℃)、
NK−013(耐摩耗、標準膜厚300μm、耐熱温度150℃),
NK−013C(耐摩耗、標準膜厚300μm、耐熱温度150℃)、
が挙げられる。
【0051】
(4)日本フッソ工業株式会社
NF−015(標準膜厚50μm)、NF−015EC(標準膜厚40μm、帯電防止)、NF−020AC(標準膜厚600μm、帯電防止)が挙げられる。
【0052】
本発明に於ける反応容器(本発明においては、「処理槽」ともいう)の形状や、大きさ、側壁の厚み等は、反応容器の使用目的や使用環境に応じて適宜に設定すればよい。また、反応容器の成形法は、特に限定はされず、種々の方法により所定形状に成形される。反応容器が大きい場合や形状が複雑な場合は、いくつかに分割して構造体を作成し最終的に組み立てるようにしてもいい。
【0053】
本発明に於いては、処理容器または処理容器を構成する構造体に加工処理される基材として、好ましくは、ステンレス、アルミやアルミ合金などのアルミ系金属、など、熱伝導が良好で加工に適し得る処理容器構成用の金属基材が採用される。金属基材は、例えば、PCVD用であれば、小さいものは、ドーム状またはベルジャー型の形状とし、ベースプレートと2部材構成で処理容器を構成する。大きいものであれば、上蓋プレート、円筒状側壁部材、ベースプレートの3部材構成で、処理容器が構成される。
【0054】
反応温度が比較的高い反応を扱う反応容器の場合は、放熱効果を一段と高めるために処理容器用の基材には、アルミ系金属を選択するのが望ましい。
【0055】
ステンレス製の基材としては、反応容器の使用目的、使用条件に従って適宜材質のものが選択される。硬度を重視するならば、SCM440、S45、耐食性重視なら、SUS316、低炭素鋼ならSUS316L、表面平滑な基材なら、予め電解研磨で表面を鏡面仕上げしてあるSUS316L−EPなどが本発明に於いては好ましく採用されるが、使用の目的・条件に合致するなら、これらの基材に限られるものではない。
【0056】
アルミ製の基材としては、純アルミの他、他の金属を含有させたアルミ合金が本発明に於いては採用される。
【0057】
本発明に於けるアルミ合金とは、アルミニウムを主成分とする金属からなる。アルミニウムを主成分とする金属とは、アルミニウムを通常50質量%以上含む金属であり、好ましくはこの金属はアルミニウムを80質量%以上含み、より好ましくはアルミニウムを90質量%以上、更に好ましくは94質量%以上含むのが望ましい。
【0058】
アルミ合金に含有される好ましい金属としては、マグネシウム、チタン及びジルコニウムよりなる群から選ばれる少なくとも一種以上の金属が挙げられる。なかでもマグネシウムはアルミ合金の強度を向上できる利点があり特に好ましい。
【0059】
又、本発明に於いては、アルミ合金は、特定元素(鉄、銅、マンガン、亜鉛、クロム)の含有量が抑制された高純度アルミニウムを主成分とする金属であってもよい。これら特定元素の含有量の合計は、1.0質量%以下であることが好ましく、より好ましくは0.5質量%以下、更に好ましくは0.3質量%以下である。
【0060】
高純度アルミニウムを主成分とするアルミ合金は、必要に応じてアルミニウムと合金を形成しうる他の金属を1種以上含有してもよい。そのような金属は、上記特定元素以外であれば特に限定されないが、好ましい金属としては、マグネシウム、チタン及びジルコニウムよりなる群から選ばれる少なくとも一種以上の金属が挙げられる。なかでもマグネシウムはアルミ合金の強度を向上できる利点があり特に好ましい。マグネシウム濃度としては、アルミニウムと合金を形成しうる範囲であれば特に制限はないが、十分な強度向上をもたらすためには、通常0.5質量%以上、好ましくは1.0質量%以上、より好ましくは1.5質量%以上とする。またアルミニウムと均一な固溶体を形成する為には、6.5質量%以下であることが好ましく、より好ましくは5.0質量%、更に好ましくは4.5質量%以下、最も好ましくは3質量%以下である。
【0061】
本発明に於けるアルミ合金は、上記の金属の他、結晶調整剤としてその他の金属成分を含有していてもよい。結晶制御に対する十分な効果を持つものであれば特に制限はないが、好ましくはジルコニウム等が用いられる。
【0062】
本発明に於いては、アルミ合金に積極的に含有されるアルミニウム以外の他の金属の個々の含有量は、アルミ合金全体に対して、通常は、0.01質量%以上、好ましくは、0.05質量%以上、より好ましくは、0.1質量%以上とするのが望ましい。この含有量の下限は含有する金属による特性を十分に発現させるために必要である。ただし、通常20質量%以下、好ましくは10質量%以下、より好ましくは6質量%以下、特に好ましくは4.5質量%以下、最も好ましくは3質量%以下とする。この上限は、アルミニウムとアルミニウム以外の他の金属成分とが均一な固溶体となり、良好な材料特性を維持するために必要である。
【0063】
本発明の処理容器用の被加工部材であるこれらの基材の処理容器内壁になる面には、電解研磨、機械研磨あるいは両者などの手段で平滑加工がされて所望の平滑性が与えられるのが好ましい。この段階での研磨面の平滑度は、PFAのパウダーを研磨面に静電塗着する場合には、好ましくは、PFAパウダーの平均粒径以下とするのが望ましい。ただ、基材の研磨面に直にPFA膜を設けない場合は、この限りでなくとも良い。
【0064】
形成されるPFA膜の自由表面の平滑性及び膜品質の向上をより容易かつ確実にするには、AlやNiもしくはNiFからなる膜103(「下地膜」という)を予め基材の研磨面に設けておくのが望ましい。NiもしくはNiFからなる膜を予め基材の研磨面に設けておくと、その上に設けるPFA膜を溶融したり再溶融したりする際に、PFAの熱分解を抑制する効果が大きいので、他の下地材に比べ品質の良い膜が得られる。更に、Ni膜は高い耐食性がり且つPFA膜との接着性も高いので、PFA膜の下地膜として好ましいものである。
【0065】
Ni膜を基材の研磨面上に設けるには、例えば、無電解ニッケルメッキ法、Niをスパッタリングして成膜するプラズマスパッタリング法が採用され、他には、Niの有機錯体を使用したMOCVDを採用することも出来る。
【0066】
無電解ニッケルメッキ法による場合、メッキ液には、還元剤が含まれているが、使用する還元剤によって、得られるNi膜に、P(燐)またはB(ボロン)を含有させることが出来る。還元剤に、次亜リン酸塩を使用すると、得られるNi膜にP(燐)を含有させることが出来、ジメチルアミンボラン(DMAB)を使用すると、Ni膜中にB(ボロン)を含有させることが出来る。Ni膜中にB(ボロン)を含有させると、Ni膜にP(燐)を含有させる場合と比較して、膜の硬度を高め、膜の電気抵抗を下げることができるので、反応容器の用途に応じて使い分けることができる。
【0067】
還元剤にヒドラジンを使用すると、次亜リン酸やDMABの場合と違って反応中に水素ガスを発生しないので好都合である。
【0068】
Ni膜中に含有されるP(燐)の量は、反応容器の用途に応じて適宜決められるが、化学組成で、好ましくは、Ni:83〜98%,P:2〜15%,その他:0〜2%、とするのが望ましい。
【0069】
B(ボロン)の場合は、化学組成で、Ni:97〜99.7%,B:0.3〜3%,その他:0〜2.7%とするのが望ましい。
【0070】
無電解ニッケルメッキは、所望の仕様に基づいて第3者に加工処理させても本発明の目的は達成されるが、無電解ニッケルメッキ液自身市販されているし自身で調合することも出来るので、自身で行っても良い。市販されている無電解ニッケルメッキ液は、例えば、ツールシステム株式会社、株式会社ワールドメタル、株式会社金属加工技術研究所、等から製造或いは販売されている。無電解ニッケルメッキ加工処理を行う企業としては、日本カニゼン株式会社、日立協和エンジニアリング株式会社、三和メッキ工業株式会社、株式会社コダマ、清水長金属工業株式会社、大和電機工業株式会社、仁科工業株式会社、藤間精練株式会社、等がある。
【0071】
基材の研磨面上にNiF膜を設けるには、基材の研磨面に設けたNi膜の自由表面をフッ化処理すれば良い。フッ化処理は、例えば、表面にNi膜を設けた基材を真空容器内にセットし、所定の真空度に達してから真空容器内にFガスを供給してNi膜表面をFガスに晒せば良い。この場合、Fガスに晒す時間をコントロールすることで、Ni膜全体をNiF膜化することも出来るし、内部がNi膜、最表部がNiF膜というように2層構成にすることも出来る。或いは、F原子の膜の厚み方向の分布を変化させることも可能である。例えば、自由表面から膜内部に向かってF原子の膜中の分布量を連続的に減少させることも可能である。この場合、基材との密着とPFA膜との密着とをより強固にすることが出来る。勿論、上記のようにP(燐)またはB(ボロン)が含有させてNi膜をフッ化処理して得られるNiF膜には、上記化学組成でP(燐)またはB(ボロン)が膜中に含まれることは言うまでもない。
【0072】
Ni膜及びNi系の膜を下地膜として設ける場合は、無電解メッキ処理後、希ガスや窒素ガスなどの雰囲気で所望の温度で所望の時間、アニール処理することによって、膜の基材への付着力と硬度を大幅に高めることが出来るので、この方法は本発明に於いては好ましい下地膜後処理法である。好ましくは、例えば、窒素雰囲気で、260〜350℃の温度範囲で1時間程度アニール処理することが望ましい。
【0073】
アルミ製の基材の表面に、下地膜としてAl膜を設けるには、反応容器の用途や使用条件(反応温度・反応用の原料・反応生成物等)に応じて適宜選択した製法が採用される。
【0074】
本発明において好ましく採用されるのは、無孔質のAl膜が形成できる陽極酸化法である。この陽極酸化膜は、所定組成の化成液中で、アルミ製反応容器自体の内表面、若しくはアルミ製反応容器を構成するアルミ製構造体の少なくとも容器自体の内表面となる表面を後述する陽極酸化法によって形成される。
【0075】
このAl陽極酸化膜は、アルミニウムを主成分とする金属の酸化物からなる膜であって、膜厚は10nm以上の厚さのものが容易に形成できる。この膜は不動態膜であることからアルミ製反応容器本体の内表面に形成すると保護膜として高い性能を示す。
【0076】
Al陽極酸化膜の膜厚は、好ましくは100μm以下であるのが望ましい。膜厚が厚いとクラックが入りやすく、またアウトガスを放出しやすい。したがって、Al陽極酸化膜の膜厚は、より好ましくは10μm以下、更に好ましくは1μm以下、一層好ましくは0.8μm以下、特に好ましくは0.6μm以下であるのが望ましい。膜厚の下限としては、10nm以上とするのが望ましい。これ以上、膜厚が薄すぎると十分な耐食性が得られなくなる。Al陽極酸化膜の膜厚は、より好ましくは20nm以上、より一層好ましくは30nm以上であるのが望ましい。
【0077】
本発明に於ける無孔質のAl膜は、従来用いられていたポーラス構造を有する多孔質のAl膜に対して、薄膜でありながら耐食性に優れ、微細孔や気孔を全くか、或いは殆ど有しない(実質的に有しない)ので水分等を吸着しないか殆ど吸着しないという利点がある。
【0078】
Al陽極酸化膜は、アルミ製容器本体若しくは構造体の内表面を、pH4〜10の化成液を用いて、陽極酸化することで得られる。この方法によれば、緻密で無孔質の陽極酸化被膜を容易に得ることができる利点がある。
【0079】
また、この方法は、金属表面の不均一性に起因する欠陥を修復する機能を有するために、緻密で平滑な陽極酸化膜を形成することができる利点がある。化成液のpH値の下限は、上述した通り4以上であるが、好ましくは5以上、より好ましくは6以上であるのが望ましい。また、化成液のpH値の上限は、通常は、10以下、好ましくは9以下、より好ましくは8以下であるのが望ましい。陽極酸化により生成したAl陽極酸化膜の化成液への溶解を確実に防止するには、pH値は中性か中性に近いpH値、若しくは中性に出来るだけ近いpH値にすることが望ましい。
【0080】
本発明に於いては、化成液は、陽極酸化中の各種物質の濃度変動を緩衝してpHを所定範囲に保つ(緩衝作用)ためにも、pH4〜10の範囲とするのが望ましい。このため緩衝作用を示す酸や塩などの化合物(以後「化合物(A)」と記す場合がある)を含むことが望ましい。このような化合物の種類は特に限定されないが、化成液への溶解性が高く溶解安定性もよい点で、好ましくは硼酸、燐酸及び有機カルボン酸並びにそれらの塩よりなる群から選ばれる少なくとも一種である。より好ましくは陽極酸化被膜2中に硼素、燐元素の残留がほとんどない有機カルボン酸又はその塩である。
【0081】
これら化合物(A)の濃度は、目的に応じて適宜選択すればよいが、化成液全体に対して、通常0.01質量%以上、好ましくは0.1質量%以上、より好ましくは1質量%以上とする。電気伝導率を上げ陽極酸化膜の形成を十分に行うためには多くすることが望ましい。ただし通常30質量%以下、好ましくは15質量%以下、より好ましくは10質量%以下とする。陽極酸化膜の性能を高く保ち、またコストを抑えるためにはこれ以下が望ましい。
【0082】
本発明に於ける化成液は、非水溶媒を含有することが好ましい。非水溶媒を含む化成液を用いると、水溶液系の化成液に比べて、定電流化成に要する時間が短くて済むため、高いスループットで処理できる利点がある。また、水溶液を化成液として用いると、水の電気分解によって生じたOHイオンが陽極酸化膜をエッチングして多孔質にしてしまうので、水の電気分解を抑制できるような誘電率の小さい主溶媒を用いることが好ましい。
【0083】
非水溶媒の種類は、良好に陽極酸化ができ、溶質に対する十分な溶解度を持つものであれば特に制限はないが、1以上のアルコール性水酸基及び/又は1以上のフェノール性水酸基を有する溶媒、若しくは非プロトン性有機溶媒が好ましい。なかでも、保存安定性の点でアルコール性水酸基を有する溶媒が好ましい。
【0084】
アルコール性水酸基を有する化合物としては、例えば、メタノール、エタノール、プロパノール、イソプロパノール、1−ブタノール、2−エチル−1−ヘキサノール、シクロヘキサノール等の1価アルコール;エチレングリコール、プロピレングリコール、ブタン−1,4−ジオール、ジエチレングリコール、トリエチレングリコール、テトラエチレングリコール等の2価アルコール;グリセリン、ペンタエリスリトール等の3価以上の多価アルコール等を用いることができる。また、分子内にアルコール性水酸基以外の官能基を有する溶媒も使用することができる。なかでも水との混和性及び蒸気圧の点で二つ以上のアルコール性水酸基を有するものが好ましく、2価アルコールや3価アルコールがより好ましく、エチレングリコール、プロピレングリコール、ジエチレングリコールが特に好ましい。
【0085】
これらアルコール性水酸基及び/又はフェノール性水酸基を有する化合物は、さらに分子内に他の官能基を有していてもよい。例えば、メチルセロソルブやセロソルブ等のように、アルコール性水酸基とともにアルコキシ基を有する溶媒も用いることができる。
【0086】
非プロトン性有機溶媒としては、極性溶媒又は非極性溶媒のいずれを使用してもよい。
【0087】
極性溶媒としては、特に限定はされないが例えば、γ−ブチロラクトン、γ−バレロラクトン、δ−バレロラクトン等の環状カルボン酸エステル類;酢酸メチル、酢酸エチル、プロピオン酸メチル等の鎖状カルボン酸エステル類;エチレンカーボネート、プロピレンカーボネート、ブチレンカーボネート、ビニレンカーボネート等の環状炭酸エステル類;ジメチルカーボネート、エチルメチルカーボネート、ジエチルカーボネート等の鎖状炭酸エステル類、N−メチルホルムアミド、N−エチルホルムアミド、N,N−ジメチルホルムアミド、N,N−ジエチルホルムアミド、N−メチルアセトアミド、N,N−ジメチルアセトアミド、N−メチルピロリドン等のアミド類、アセトニトリル、グルタロニトリル、アジポニトリル、メトキシアセトニトリル、3−メトキシプロピオニトリル等のニトリル類;トリメチルフォスフェート、トリエチルフォスフェート等の燐酸エステル類が挙げられる。
【0088】
非極性溶媒としては、特に限定はされないが例えば、ヘキサン、トルエン、シリコーンオイルなどが挙げられる。
【0089】
これらの溶媒は、1種を単独で使用しても、2種以上を組み合わせて使用してもよい。陽極酸化膜の形成に用いる化成液の非水溶媒として特に好ましいのは、エチレングリコール、プロピレングリコール、又はジエチレングリコールであり、これらを単独又は組み合わせて用いてもよい。また非水溶媒を含有していれば、水を含有していてもよい。
【0090】
非水溶媒は、化成液全体に対して通常10質量%以上、好ましくは30質量%以上、さらに好ましくは50質量%以上、特に好ましくは55質量%以上の割合で含まれ、通常95質量%以下、好ましくは90質量%以下、特に好ましくは85質量%以下の割合で含まれる。
【0091】
化成液が非水溶媒に加えて水を含む場合、その含有量は化成液全体に対して、通常1質量%以上、好ましくは5質量%以上、さらに好ましくは10質量%以上、特に好ましくは15質量%以上であり、通常85質量%以下、好ましくは50質量%以下、特に好ましくは40質量%以下である。
【0092】
非水溶媒に対する水の割合は、好ましくは1質量%以上、好ましくは5質量%以上、さらに好ましくは7質量%以上、特に好ましくは10質量%以上であり、通常90質量%以下、好ましくは60質量%以下、さらに好ましくは50質量%以下、特に好ましくは40質量%以下である。
【0093】
化成液は、必要に応じて他の添加剤を含んでいてもよい。例えば、陽極酸化膜の成膜性及び膜特性を向上させるための添加剤を含有していてもよい。添加剤としては、特に制限されず、公知の化成液で用いられる添加剤やそれ以外の物質の中から選択する一種以上の物質を添加して用いることができる。このとき、添加剤の添加量には特段の制限はなく、その効果とコスト等を勘案して適切な量とすればよい。
【0094】
陽極酸化のための電解法は、特に制限はない。電流波形としては、例えば直流の他に、印加電圧が周期的に断続するパルス法、極性が反転するPR法、その他交流や交直重畳、不完全整流、三角波などの変調電流等を用いることができるが、好ましくは直流を用いる。
【0095】
陽極酸化の電流及び電圧の制御方法は特に制限はなく、アルミ合金製容器本体1の内表面に酸化物膜が形成される条件を適宜組み合わせることができる。通常は定電流及び定電圧にて陽極酸化処理することが好ましい。即ちあらかじめ定められた化成電圧Vfまで定電流にて化成し、化成電圧に達した後にその電圧に一定時間保持して陽極酸化を行うことが好ましい。
【0096】
この際、効率的に酸化膜を形成する為に、電流密度は、通常0.001mA/cm以上とし、好ましくは0.01mA/cm以上とする。ただし表面平坦性の良好な酸化膜を得る為に、電流密度は、通常100mA/cm以下とし、好ましくは10mA/cm以下とする。
【0097】
また、化成電圧Vfは通常3V以上とし、好ましくは10V以上、より好ましくは20V以上とする。得られる酸化膜厚は化成電圧Vfと関連するので、酸化物膜に一定の厚みを付与するために、前記電圧以上を印加することが好ましい。ただし通常1000V以下とし、好ましくは700V以下とし、より好ましくは500V以下とする。得られる酸化物膜は高絶縁性を有するので、高絶縁破壊を起こすことなく、良質な酸化膜を形成する為には、前記の電圧以下で行うことが好ましい。なお、化成電圧に至るまで直流電源の代わりにピーク電流値が一定の交流を使用し、化成電圧に達したところで直流電圧に切り替えて一定時間保持する方法を用いてもよい。
【0098】
陽極酸化の他の条件は特に制限されるものではない。ただし陽極酸化時の温度は、化成液が安定に液体として存在する温度範囲とする。通常、−20℃以上であり、好ましくは5℃以上であり、より好ましくは10℃以上である。陽極酸化時の生産・エネルギー効率等を勘案して、前記温度以上にて処理することが好ましい。ただし通常150℃以下であり、好ましくは100℃以下であり、より好ましくは80℃以下である。化成液の組成を保持して均一な陽極酸化を行う為に、前記温度以下にて処理することが好ましい。
【0099】
前記陽極酸化は、前記アルミ製反応容器本体若しくはその構造体の内表面と対向電極(たとえば白金)とを前記化成液中に配置する第1の工程と、前記アルミ製反応容器本体若しくはその構造体にプラスを、前記電極にマイナスを印加して一定の電流を所定の時間流す第2の工程と、前記アルミ製反応容器本体若しくはその構造体と前記電極との間に一定の電圧を所定の時間印加する第3の工程とを含むのが好ましい。
【0100】
前記第2の工程の前記所定の時間は、前記アルミ製反応容器本体若しくはその構造体と所定の電極との間の電圧が所定の値になるまで(例えば、エチレングリコールを用いた場合は200Vになるまで)とするのが好ましい。前記第3の工程の前記所定の時間は、好ましくは、前記アルミ合金製容器本体若しくはその構造体と所定の電極との間の電流が所定の値になるまでとするのが望ましい。電流値は、電圧が上記の所定値になると急激に減少し、後は時間とともに徐々に減少する(「残留電流」という)が、定電圧処理終了の所定の電流値以下になるには、例えば、24時間を要する。しかし、得られるAl陽極酸化膜の膜質は熱処理をしたものと同等になる。又、この残留電流が少ないほど、Al陽極酸化膜の膜質は向上する。これらのことを考慮すると、生産性を上げるためには、適当な時間で定電圧処理を打ち切り、次工程で熱処理(アニール)を施すのが望ましい。熱処理は、好ましくは、150℃以上、より好ましくは、300℃程度で0.5〜1時間行うのが望ましい。残留電流の継続にもよるが、残留電流の継続時間がそれ程長くなければ、継続して定電圧処理を施せばよいし、長ければ、熱処理に切り替えてもよい。
【0101】
前記第2の工程において平方cm当たり0.01〜100mA、好ましくは0.1〜10mAの電流、さらに好ましくは0.5〜2mAの電流を流すのが望ましい。先に述べたように前記第3の工程において前記電圧は前記化成液が電気分解を起こさないような電圧とする。
【0102】
如何なる理論にも拘束されるものではないが、本発明者らが得た知見からでは、化成処理時に形成された無孔質のAl陽極酸化膜は、膜全体がアモルファス構造となっており、結晶等の粒界がほとんど存在しないと考えられる。また、更に緩衝作用を有する化合物を添加したり、溶媒として非水溶媒を用いたりすることにより、陽極酸化膜中に微量の炭素成分が取り込まれてAl−Oの結合強度が弱くなっており、これにより膜全体のアモルファス構造が安定化されているものと推定される。
【0103】
以上のように製造されたAl陽極酸化膜は、膜中の水分の完全除去を行うなどの目的で、加熱処理を行うのが望ましい。特に、前記特定元素をほぼ含まない高純度アルミニウムを主成分とするアルミ合金製基材上に形成したAlの陽極酸化膜は、熱安定性が高く、ボイドやガス溜まり等が形成されにくいという特性がある。このため300℃程度以上のアニール処理によってもAlの陽極酸化膜にボイドやシームが殆ど発生しないので、パーティクルの発生やアルミニウムの露出に起因する反応液中へのアルミニウムの溶出が抑えられる。
【0104】
加熱処理の温度は、特に制限はないが、通常100℃以上であり、好ましくは200℃以上であり、より好ましくは250℃以上である。加熱処理によるAl陽極酸化膜の表面及び内部の水分を十分に除去するためには、前記温度以上で処理することが望ましい。ただし、通常600℃以下であり、好ましくは550℃以下であり、より好ましくは500℃以下とするのが望ましい。Al陽極酸化膜のアモルファス構造を保持して、表面の平坦性を維持するためにも前記温度で処理することが望ましい。
【0105】
加熱処理の時間は、特に制限はないが、加熱処理による表面荒れ、生産性等を勘案して適宜設定すればよいが、通常1分以上、好ましくは5分以上、特に好ましくは15分以上である。Al陽極酸化膜の表面及び内部の水分を十分に除去するためには、前記時間以上で処理することが好ましい。ただし通常180分以下、好ましくは120分以下、より好ましくは60分以下である。Al陽極酸化膜構造及び表面平坦性を維持するためにも前記時間内で処理することが望ましい。
【0106】
アニール処理の際の炉内ガス雰囲気は、特に制限はないが、通常、窒素、酸素あるいはこれらの混合ガスなどを適宜用いることができる。なかでも酸素濃度が18vol%以上の雰囲気が好ましく、20vol%以上の条件がより好ましく、酸素濃度が100vol%の条件が最も好ましい。
【0107】
PFAの膜を直に設ける下地面には、該下地面との接着性を増す為にPFA膜を設ける際にPFAのプライマー処理を施すのが望ましい。
【0108】
本発明に於いて、下地膜の厚みは、PFA膜が設けられる面の平滑性が所望通り十分確保できるように、基材の研磨面の平滑度、使用されるPFAパウダーの平均粒径またはPFA塗料中に分散するPFA粒子の平均粒径などに鑑みて適時所望に従って選択される。
本発明に於いては、好ましくは、0.1〜30μm、より好ましくは、1〜20μm、より一層好ましくは、2〜15μmであるのが望ましい。
【0109】
基材の研磨面上或いは下地膜面上(両者を合わせて「PFA膜形成面」という)に、PFA膜を設けるには、後述の実験1,2及び実施例にも記載されているが、以下の通りにするのが好ましい。
【0110】
PFA膜を形成するに際し、用意されるPFAは、静電塗着用に微粉末状とされたもの、一般の塗料と同じく液状とされたものがある。本発明に於いては、処理容器の構造体の形状に多少複雑な凹凸形状があっても均一厚みに塗膜しやすいということから静電塗着用の微粉末状のものを用いるのが好ましい。
【0111】
塗装方法としては、一般の塗料と同じく液状塗料の場合は、スプレーコーティングにより塗装加工されるのが望ましいが、基材によってはディップコーティング、ディップスピンコーティング、ロールコーティング、及びスピンフローコーティングにより塗装加工することも適宜採用される。また粉体塗料は静電粉体コーティングや静電流動浸漬法により塗装加工するのが望ましい。
【0112】
そして、そのようにして塗装されたPFA塗料は、処理容器用の基材のPFA膜形成面に焼付けされるが、その際に、溶融、再溶融の工程が付与されて最後に所望の平滑性能をもつPFA塗膜が得られる。
【0113】
処理容器基材のPFA膜形成面への塗膜加工方法は、基材の種類、用途、選択する塗料の種類によって異なるが、好ましくは、以下に記す工程の加工処理を施すのが望ましい。
(1)金属基材(被塗装材)(電解研磨処理済)の準備 ⇒ (2)脱脂またはカラ焼き ⇒ (3)粗面化処理(ブラスト処理)又は/及び下地膜形成 ⇒ (4)清浄化⇒ (5)プライマー塗装 ⇒ (6)予備乾燥 ⇒ (7)トップコート(PFA)塗装 ⇒ (8)予備乾燥 ⇒ (9)一次焼成(溶融) ⇒ (10)一次冷却(使用するPFAの融点より低くする) ⇒ (11)二次焼成(再溶融) ⇒ (12)二次冷却(室温)
【0114】
厚めのトップコート層を設ける場合は、上記工程に於いて、「(7)トップコート(PFA)塗装 ⇒ (8)予備乾燥 ⇒ (9)一次焼成(溶融)」を繰り返し行うことで所望の厚さにトップコート層を形成することができる。この場合の一回当たりの塗装厚は、使用するPFAの形態(パウダーか塗料か)、溶融処理時の粘度、塗料の場合はPFAの分散濃度と粒径、パウダーの場合はパウダーの粒径、等によって適宜決められる。本発明の場合、好ましくは1〜100μmとするのが望ましい。
【0115】
複数回の塗装の場合、初回、中間の塗装における一次焼成温度は、中間一次焼成温度として設定され、最終回の塗装における一次焼成温度は、最終一次焼成温度として設定される。PFAの種類、塗装回数によっては、前記中間一次焼成温度と前記最終一次焼成温度とを同じ温度に設定されることもあるが、好ましくは、前記中間一次焼成温度は前記最終一次焼成温度より低く設定されるのが望ましい。
【0116】
(3)(5)(6)の加工処理は、場合によっては省略される。例えば、基材の表面に直にトップコートを設けても基材表面とトップコート面との間に接着力が十分あるならば、(3)(5)(6)の加工処理は省略できるし、プライマー塗装を行うことで基材とトップコートがプライマーによって強固に接着されるなら(3)の加工処理は省略できる。
【0117】
本発明における一次焼成温度と焼成時間は、二次焼成において、本発明の目的を達成するに十分な平滑性を得るのに重要なファクターであり、使用するPFAと金属基材、必要に応じて採用するプライマーの特定化に応じて適宜決められる。
【0118】
本発明における一次焼成の温度及び時間は、塗装されたPFA膜から、一次焼成によってPFA材料(パウダー状や塗料状で入手できる)中に含まれる不純物(低分子量成分、未フッ素化末端基を有する成分、合成途中での生成物、及び界面活性剤などの添加物等)を膜外に排出させるために十分な温度と時間とされることが望ましい。一次焼成の温度の上限は、高い平滑性を与えるPFA膜を構成するのに必要な分子量を有するPFAが分解しない温度(「PFA分解温度」と記す)、若しくはその分解温度よりやや高い温度(「Th」と記す)とされるのが望ましい。Thは、一次焼成において、その温度でPFA塗装膜を保持する時間との関係で決められる。
【0119】
本発明におけるThとしては、使用するPFAの融点より30〜70℃高めに設定するのが好ましい。設定温度が低すぎると二次焼成において十分な平滑性が得られない場合が生じ、高すぎるとPFAの分解を助長することになる場合がある。より好ましくは、35〜60℃、より一層好ましくは、40〜50℃とするのが望ましい。
【0120】
本発明における一次焼成時間は、一次焼成温度まで昇温する時間(一次焼成昇温時間)と一次焼成温度を保持する時間(一次焼成温度保持時間)からなる。一次焼成昇温時間においては、PFA塗装膜のいかなるところにも万遍なく熱が伝わりPFA塗装膜が均一に焼成されるように昇温スピードが制御装置によって制御される。一次焼成温度保持時間は、PFA塗装膜の自由表面全体が出来るだけ均一に溶融し場所的不均一さが視覚的にも見て取れないようにする時間である。本発明においては、一次焼成温度保持時間は、PFA塗装膜の厚さや大きさに左右されるので、PFA塗装膜の厚さや大きさに応じてその都度適宜決められるが、好ましくは、10〜50分、より好ましくは、15〜40分とするのが望ましい。
【0121】
一次焼成における、焼成温度、焼成温度に至る昇温スピード及び焼成温度での保持時間の設定次第で、二次焼成を経て得られる膜の平滑性が左右されることから、一次焼成における、焼成温度、焼成温度に至る昇温スピード及び焼成温度での保持時間は、基材、PAFの種類,PFA塗装膜の厚さや塗装面積を十分考慮して適宜決められる。
【0122】
一次焼成に於いては、PFA材料(パウダー状や塗料状で入手できる)中に含まれる不純物が分解されてPFA膜から除去されるものと考えられる。余計な不純物が一次焼成でPFA膜から除かれることで、二次焼成を経たPFA膜の平滑性が格段に良くなるものと思われる。
【0123】
本発明においては、一次焼成は、20vol%O/Arガス雰囲気など、希ガスに酸素を混合したガス雰囲気で行われる。一次焼成の雰囲気ガスは、希ガス・酸素混合ガスの使用が望ましいが、本発明においてはこれに限定される訳ではなく、酸素ガス単独でも良いし、窒素・酸素混合ガスでも良い。窒素の代わりにNOやNOを酸素と混合した混合ガスを使用してもよい。NOやNOは、単独で使用してもよい。酸素ガスの代わりにオゾンも使用できる。
【0124】
一次焼成が終了した段階で、試料は、使用するPFAの融点以下の温度(「Tl」という)まで降温されて固化される(一次冷却・固化)。この際の融点以下の温度Tlとしては、使用するPFAの融点より、好ましくは、5〜60℃、より好ましくは、10〜50℃、より一層好ましくは、20〜50℃低くするのが望ましい。PFAの分子量分布具合、分子量の異なる複数のPFAの混合等によって融点に幅がある場合は、その幅の温度範囲の最低温度に対して一次焼成温度が上記の範囲で所望に従って適宜選択される。PFAの融点より低くする温度の幅が、小さ過ぎるとスムースな固化が望めないし、大き過ぎると再溶融に至たる時間がかかり過ぎ生産効率が低下する。
【0125】
上記の融点以下の温度(一次冷却・固化温度)Tlから二次焼成温度まで昇温する昇温スピード及び二次焼成温度での保持時間は、室温まで二次冷却されて得られるPFA膜の自由表面の平滑性が十分確保されるように設定される。
【0126】
二次焼成温度は、一次焼成処理を経て一旦固化されたPFA膜を再溶融するための温度であり、一次焼成処理を受けたPFA塗装膜が次に施される室温までの降温過程を経て固化する際の平滑化を促進させる温度である。
【0127】
二次焼成は、使用するPFAの融点又はこの融点より15℃以内の高い温度で行うのが好ましい。より好ましいのは使用するPFAの融点若しくはその前後の融点と僅かな差がある温度で行うのが望ましい。
【0128】
次に、溶融、再溶融の工程の一例を以下に説明する。
【0129】
構造式1におけるRfが、「−CFCFCF」の場合(融点は、310℃)、例えば、処理容器基材のPFA膜形成面に静電塗着によってPFA微粉末を所定の厚さに塗膜し、プログラムされた加熱速度で345℃まで加熱して、この345℃の状態を30分間保持する(溶融工程)。この溶融工程は、20vol%O/Arガス雰囲気で行われる。次いで、100vol%アルゴン雰囲気に切り替えて、280℃まで所定の速度で温度を下げ、280℃になったらその温度で30分間保持する。引き続き、再び所定の速度で310℃まで加熱し(再溶融工程)、この温度を30分間保持する。30分間保持後、加熱を停止し自然放置することで室温まで温度を下げる。このような工程を経ることで自由表面が極めて良好な平滑性を有するPFA膜が形成され得る。
【0130】
Rfが、「−CFCFCF」のPFAの場合、融点が310℃といわれるが、295℃から305℃の間ですでに溶融が開始される。従って、再溶融工程の温度としては、295℃から315℃の範囲の温度を選択することができる。好ましくは、305℃から315℃の範囲の温度を選択するのが望ましい。
【0131】
又、平滑性が一番良好なのは、310℃若しくはその前後の融点と僅かな差がある温度であるが、本発明の目的に適う平滑性を得るのには、305℃から315℃の範囲の温度で再溶融するのが望ましい。
【実施例】
【0132】
以下、実験、実施例で、本発明を具体的に説明するが、これらの実験、実施例に本発明は限定されるものではない。尚、本実験、実施例における部および%は、特記しない限り質量基準である。
【0133】
[実験1]板状基材でのPFAの溶融、再溶融の実験と平滑度測定
鏡面研磨処理した後、所定の洗浄処理を施した板状のSUS基材(SUS316LーEP:10cm×10cm、厚さ2mm)を2枚(基材1,2)、用意した。これらの基材の鏡面加工面の表面平滑度を市販の面粗さ測定装置(Veeco社製 dektak 6M)で測定したところ、何れも面粗度Raは、0.006μmであった。
【0134】
その中の1枚(基材1)の表面平滑度を測定した面には、無電解メッキによってNiの膜(厚さ:2μm)を設けた。無電解メッキの条件を、以下に記す。
無電解メッキ液(A):
硫酸ニッケル・・・・・・・26.3g/L
次亜リン酸ナトリウム・・・21.2g/L
クエン酸・・・・・・・・・25.0g/L
酢酸・・・・・・・・・・・12.5g/L
ロッセル塩・・・・・・・・16.0g/L
尿素・・・・・・・・・・・12.5g/L
pH・・・・・・・・6.0
浴温・・・・・・・・80℃
【0135】
基材1の鏡面加工面には、以下の処理を施した後、上記無電解メッキ液(A)の浴槽に浸漬してNi膜を形成した。
【0136】
基材1を市販の脱脂剤(OPC−370コンディクリーンM/商標名:奥野製薬工業株式会社製)中に60℃で5分間浸した。次いで、脱脂剤中より引き上げて半導体用の超純水で鏡面加工面を十分洗浄した。その後、市販の触媒付与剤(OPC−80キャタリスト/商標名:奥野製薬工業株式会社製)中に25℃で5分間浸した。次いで、触媒付与剤中より引き上げて半導体用の超純水で鏡面加工面を十分洗浄した。この洗浄の後に、市販の活性化液(OPC−505アクセレータ/商標名:奥野製薬工業株式会社製)中に35℃で5分間浸した。次いで、活性化液中より引き上げて半導体用の超純水で鏡面加工面を十分洗浄した。
【0137】
この様に処理を施した基材1を無電解メッキ液(A)に、70分間浸漬した。次いで、無電解メッキ液(A)より引き上げて半導体用の超純水で十分洗浄した。目視観察したところ鏡面加工面全体にNi膜が均一に形成されており、その自由表面は、極めて滑らかであった。Ni膜の自由表面の平滑度を前記の市販の装置で測定したところ、Ra=0.006μmと基材の鏡面加工面と変わらない面粗度であった。
【0138】
上記のようにしてNi膜を設けた基材1と、基材2とを、市販の脱脂剤(OPC−370コンディクリーンM/商標名:奥野製薬工業株式会社製)中に60℃で5分間浸して脱脂処理を施した。次いで、脱脂剤中より引き上げて半導体用の超純水で十分洗浄した。
【0139】
このような処理を施した基材1のNi膜表面(Ni膜の自由表面)と基材2の平滑度を測定した面(鏡面加工面)に、以下の条件でプレコート材(プライマー)を塗布し、乾燥させた。
・プレコート材(プライマー):EK−1908S21L(ダイキン工業株式会社製)
・塗装条件:スプレーガンのノズル径・・・・・1.2mmφ
霧化圧力・・・・・0.3MPa
・乾燥条件:85℃、15分
【0140】
次いで、基材1,2のプレコート材処理面に、以下の条件で、静電塗装によりPFAパウダーの膜を約120μm厚に設けた後、これら基材を赤外線加熱炉内に収容してある石英製の容器(石英容器)に設置した。
・トップコート材:AC−5600(ダイキン工業株式会社製)
・静電塗装装置(ランズバーグ株式会社製):
ハンドガン・・・REA90/L
高圧コントローラー・・・9040
重ね塗り回数・・・・3回
一回当たりの塗装量・・・・120±10μm
塗装間での中間焼成・・・・・約340℃、15分
【0141】
本実験で使用した赤外線加熱炉は、非使用時でも、石英容器の設置された内部に常に100%アルゴンを1L/minの流量で流して内部の清浄度を保っている。この赤外線加熱炉は、石英容器の外周に熱伝対が取り付けられており、この熱伝対からの温度情報をもとにプログラムした温度通りになるよう温調器により赤外光源の出力を制御する構成となっている。石英製の容器には、炉外からガスを導入するためのガス管が配設されており、例えば、100vol%アルゴン、酸素を20vol%混ぜたアルゴンなどのガスを炉内に導入することで炉内を所望の雰囲気に調整できる構造になっている。
【0142】
PFA塗装処理した2枚の基材1,2を石英容器内に設置し、開閉扉を閉じて大気遮断状態にして、20vol%O/Arガスを1L/minの流量で赤外線加熱炉内へ供給開始した。この状態を保持して石英容器設置近傍の空間の雰囲気温度及び石英容器の温度が一定になるのを待った。温度が一定になった後、赤外光源をONにした。赤外光源ON直前の石英容器の温度は、25℃であった。
【0143】
続いて、赤外光源の出力を徐々に上げて1時間で345℃にまで略一次関数的に昇温した。次いで、この345℃の状態を30分維持した。その後、Ar100vol%ガスに切替えて、このガスを5L/minの流量で10分間流し、石英容器の温度を280℃にした。この状態を30分保持した。基材1、2のPFA処理表面を目視観察すると、表面の凹凸が見られた。この30分の保持後Ar100vol%ガスの流量を1L/minにして、6分間で280℃から310℃にまで昇温した。310℃になった段階で、赤外光源の出力を制御してその状態を30分間保持した。その後、石英容器内の赤外光のあたらない場所に基板1,2を移動し、自然放冷させた。
【0144】
自然放冷によって室温まで降温させた後、基板1,2を外部に取り出した。この時の基材1,2のPFA処理表面を目視観察すると鏡面に近い状態であった。
【0145】
基材1,2を、実験1で使用した表面平滑度測定装置にセットして、PFA表面の平滑度を測定した。この時、便宜上、基材1を試料1−1、基材2を試料1−2と呼ぶことにした。測定は、各資料のPFA膜の自由表面を2cm毎に1辺に平行(便宜上X軸方向という)に5分割し各分割面を試料の端から端まで直線上を測定した。次いで、該直線に垂直方向(便宜上Y軸方向という)の平滑度も各資料のPFA膜の自由表面を2cm毎に5分割して各分割領域において測定した(図2参照)。測定結果は、表1に示される。
【0146】
【表1】

【0147】
[実験2]曲面基材でのPFAの溶融、再溶融の実験と平滑度測定
実験1における板状基材に代えて、内面が円筒凹面(曲率半径:20cmΦ、10cm×10cm)の基材にした以外は、実験1と同様にして、各基材をNi処理やPFA処理を施して平滑度測定用の試料2−1(Ni処理が施されている)、2−2(Ni処理が施されてない)を得た。これらについて、実験1と同様にして平滑度を測定した。その結果を表2−1,2−2に示す。
【0148】
【表2−1】

【0149】
【表2−2】

【0150】
[実験3]PFA膜の再溶融の有無の実験と平滑度測定
鏡面研磨がされている板状SUS基板(SUS316L−EP:2cm×5cm)を2枚(試料3−1,3−2)用意し、実験1と同様にしてSUS基板の鏡面研磨した面上にNi膜を設けた。実験1と同様に、2枚のSUS基板の鏡面研磨面とNi膜面の表面粗さを測定したところ、実験1と略同様の結果を得た。
【0151】
2枚の表面にNi膜を設けたSUS基板のNi膜上に、外部委託により仕様に従ってPFAを塗装した。
委託先:日本フッソ工業株式会社
トップコート材:ACX−31(ダイキン工業株式会社製)
塗装法:静電塗装
PFA塗装厚:20μm
【0152】
次いで、PFAを塗装した2枚のSUS基板に、以下の工程で焼成処理を施した。焼成炉は、実験1で使用したのと同じ炉を使用した。
【0153】
2つの試料に対して、石英製の簀の子にPFAパウダーを静電塗着したSUA基板を設置して石英容器内に入れ、以下の手順で焼成を行った。
(1)20%O/Arを1L/minの流量で流し室温から345℃まで1時間で昇温する。
(2)雰囲気はそのままで345℃を30分間保持する。
(3)Ar100%を5L/minの流量で流し10分で280℃に下げる。この段階で、試料3−2は、不加熱位置に移動させ、その後の加熱履歴(再溶融)が生じないようにする。
(4)雰囲気はそのままで280℃を30分間保持する。
(5)雰囲気をAr100%、1L/minの流量に変えて6分で280℃から310℃まで昇温する。
(6)雰囲気はそのままで310℃を30分間保持する。
(7)加熱をOFFにし石英製の簀の子(試料3−1の)を不加熱位置に移動させて自然放冷させる。
【0154】
以下に温度プログラムを示す。
【表3】

【0155】
このようにしてPFA膜を形成した試料3−1(再溶融履歴あり)、試料3−2(再溶融履歴なし)のPFA膜の自由表面の平滑度を実験1と同様に測定したところ、以下の結果が示すように試料3−1は極めて良好な平滑性で、且つうねりは全く観察されなかった。
試料3−1:Ra=0.061μm、PV=0.302μm
試料3−2:Ra=0.354μm、PV=2.141μm
【0156】
[実験4]PFAのバリエーションの実験
トップコート材を変えて、表4に記載の条件にした以外は、実験1と同様にして板状SUS基材の鏡面研磨面上にPFA膜を設けて、実験1と同様にしてPFA膜表面の平滑度を測定した。結果は、表4に示す。
トップコート材:
MP−310(三井・デュポンフロロケミカル社),
EM−500CL(三井・デュポンフロロケミカル社),
EM−700CL(三井・デュポンフロロケミカル社)
AW−5000L(ダイキン工業株式会社)
【0157】
【表4】

【0158】
[実施例A]
【0159】
SUS基材(SUS316L−EP)を精密機械加工して、反応炉用の構造部材として、上蓋プレート302(径:100cm、厚み:15mm)、円筒状側壁部材303(径:100cm、高さ:50cm、厚み15mm)、ベースプレート304(径:150cm、厚み:20mm)、を用意した。
【0160】
これらを、実験1と同様に、前処理を施した後これらの内壁となる面に無電界メッキによりNiメッキ膜を2μm厚に設けた。その上で、実験1と同様にして各部材のNi膜面上にPFA膜を設けた。この様にしてPFA膜を設けた3構造部材のPFA自由表面の平滑度を実験1と同様にして測定したとこら、実験1と同様の結果を得た。
【0161】
その後、市販製品のプラズマCVD(PCVD)用の処理装置を実験用に改造したプラズマ処理装置300に上記のPFA膜を設けた3構造部材をセットして反応炉301を形成した。305は、Oリング等の真空装置用シール材である。反応炉301の模式図を図3に示す。
【0162】
この反応炉301を用いて、表5−1に示す条件でSi膜(膜厚:2μm)/P Si膜(膜厚:0.2μm)/SiO膜(膜厚:2μm)/P Si膜(膜厚:0.2μm)/SiN膜(膜厚:2μm)の3層構造膜を表面にAu電極を設けたガラス基板(3cm×3cm)上に形成した。この成膜を繰り返し連続して行うことで5枚の同種のガラス基板上にそれぞれ同種の3層構造膜を形成した。
【0163】
その後、反応炉301内の真空を破り、炉301内壁を観察したところ、生成物の付着は全く見られなかった。
【0164】
又、各試料は、得られた3層構造膜の最上層上にAu電極を設けて電気特性が測れるようにした。表5−2に示す様に各試料とも所期の特性があることが確認され、膜間でのバラツキは見られなかった。
【0165】
【表5−1】

マイクロ波パワー:Si、P・・・820W
SiO、SiN・・・・1500W
【0166】
【表5−2】

【0167】
[実施例B1]
(反応容器の作成)
<容器本体の作成>
アルミニウム合金A5083の板材(3mm厚)を曲げ加工・アーク溶接により円筒形の容器本体を作成した。
【0168】
<陽極酸化被膜の形成>
水39.5部に酒石酸1.8部を溶解させた後、エチレングリコール(EG)158部を加えて撹拌混合した。この溶液を撹拌しながら溶液のpHが7.1になるまで29%アンモニア水を添加して化成液aを調製した。
【0169】
この化成液中で前記容器本体を化成電圧50Vまで1mA/cmの定電流にて化成し、50Vに達した後、定電圧で30分間保持して陽極酸化を行った。
【0170】
反応後、純水で十分洗浄した後、室温で乾燥させた。得られた酸化膜付きアルミ試料片をIR炉中300℃で1時間アニール処理した後、大気開放して室温で48時間放置した。無孔質の金属酸化膜の膜厚を測定したところ、0.08μmであった。
【0171】
<PFA膜の形成>
陽極酸化皮膜表面を有機溶剤で脱脂処理し、デュポン社製PES系プライマー462−Z−68501を焼成後の厚さで8μmとなるようにスプレー塗装し、100℃で10分間乾燥する。この上に、ダイキン工業社製PFA塗料AC−5600を焼成後の厚さで25μmになるように実験1と同様にして塗装し、その後、実験1と同様にしてPFA膜を形成した。
【0172】
かくして、本発明のアルミ合金製反応容器を得た。また、上記とは別に、反応容器の蓋として、ガラス製の5つ口(くち)セパラブルカバーを準備し、これに冷却機と温度計、攪拌翼を装着し、反応装置を構成した。
【0173】
(重合体の製造:テスト例1)
攪拌器付きの乳化タンクに、水50部、ブタジエン31部、スチレン32部、メチルメタクリレート10.5部、アクリロニトリル6部、アクリル酸0.5部、t−ドデシルメルカプタン0.6部及びドデシルベンゼンスルフォン酸ナトリウム0.3部を仕込み、攪拌して単量体乳化液を得た。
【0174】
上記単量体乳化液の調製とは別個に、実施例B1で作成したアルミ合金製反応容器(内容積3リットル)中に、水70部、ブタジエン4部、スチレン7部、メチルメタクリレート4部、アクリロニトリル2部、イタコン酸2部、アクリル酸1部、ドデシルベンゼンスルフォン酸ナトリウム0.3部、過硫酸カリウム1部及びn−ドデシルメルカプタン0.6部を投入し、70℃で2時間反応を行なった。
【0175】
次いで、上記で調製した単量体乳化液を5時間かけて上記反応装置に連続的に供給して重合を行なった。重合を完結させるため、単量体乳化物の供給終了後も更に4時間反応を継続し、重合転化率98%の共重合体ラテックスを得た。冷却後、5%水酸化ナトリウムを用いてpHを8.5に調整した。固形分濃度45.2%、粘度80mPa・sの共重合体ラテックスを得た。重合スケール量は0.0003%、微細凝固物量は0.0015%であった。
【0176】
(重合体の製造:テスト例2)
攪拌器付きの乳化タンクに、水30部、ブタジエン35部、スチレン39部、メチルメタクリレート14.5部、アクリロニトリル8部、アクリル酸0.5部、t−ドデシルメルカプタン0.6部及びドデシルベンゼンスルフォン酸ナトリウム0.3部を仕込み、攪拌して単量体乳化液を得た。
【0177】
上記単量体乳化液の調製とは別個に、実施例B1で作成したアルミ合金製反応容器(内容積3リットル)中に、水70部、ドデシルベンゼンスルフォン酸ナトリウム0.3部、イタコン酸2部、アクリル酸1部及びスチレン−アクリル酸共重合体ラテックス(平均粒子径0.05ミクロン)5.5部を仕込み70℃に昇温した。次に、過硫酸カリウム1部を添加して、重合を開始した。次いで上記で調製した単量体乳化液を5時間かけて上記反応装置に連続的に供給して重合を行なった。重合を完結させるため、単量体乳化物供給終了後も更に4時間反応を継続し、重合転化率98%の共重合体ラテックスを得た。冷却後、5%水酸化ナトリウムを用いてpHを8.5に調整した。固形分濃度50.5%、粘度120mPa・sの共重合体ラテックスを得た。重合スケール量は0.0004%、微細凝固物量は0.0018%であった。
【0178】
[重合スケール量]
重合反応終了後、反応容器壁及び攪拌羽根に付着した重合スケールを収集し、その乾燥後の質量(スケール量)を測定する。重合に使用した単量体の合計質量に対するスケール量の割合を百分率で表す。
【0179】
[微細凝固物量]
精秤した固形分濃度45%の共重合体ラテックス(W2)を325メッシュの金網で濾過し、金網に残る凝固物を赤外線オーブン中で20分間乾燥後、その重量(W3)を精秤し、W3のW2に対する割合で表した。
【0180】
[実施例B2]
実施例B1の反応容器の作成において、陽極酸化被膜を形成せずに、容器本体に直接PFA被膜を形成して、アルミ合金製反応容器を作成した。
【0181】
得られた反応容器を使用した以外は、実施例B1と同様にして重合反応を行なった。重合転化率98%で固形分濃度45.1%、粘度80mPa・sの共重合体ラテックスを得た。ラテックスのpHを5%水酸化ナトリウムを用いて8.5に調整した。重合スケール量は0.0005%、微細凝固物量は1.5%であった。
【0182】
[実施例B3]
実施例B1の反応容器の作成において、アルミニウム合金A5083の板材に代えて、SUS電解研磨板(3mm厚)を用いて、曲げ加工・アーク溶接により円筒形の容器本体を作成した。この容器本体を用いた以外は、実施例B1と同様にして、SUS製反応容器を作成した。
【0183】
得られた反応容器を使用した以外は、実施例B1と同様にして重合反応を行なった。重合転化率98%で固形分濃度44.8%、粘度80mPa・sの共重合体ラテックスを得た。ラテックスのpHを5%水酸化ナトリウムを用いて8.5に調整した。重合スケール量は0.0005%、微細凝固物量は0.0025%であり、実施例B1と同程度に良好であった。
【0184】
[比較例B1]
実施例B1の反応容器の作成において、陽極酸化被膜を形成した後、PFA被膜を形成せずに、アルミ合金製反応容器を作成した。
【0185】
得られた反応容器を使用した以外は、実施例B1と同様にして重合反応を行なった。重合転化率95%で固形分濃度44.3%、粘度80mPa・sの共重合体ラテックスを得た。ラテックスのpHを5%水酸化ナトリウムを用いて8.5に調整した。重合スケール量は0.5%、微細凝固物量は0.20%であった。
【0186】
上記の結果を表6に示す。
【表6】

【0187】
[実施例C1]
(二次電池負極用スラリー組成物の製造)
増粘剤として、カルボキシメチルセルロース(CMC、第一工業製薬株式会社製「BSH−12」)を準備した。増粘剤の重合度は、1700、エーテル化度は0.65であった。
【0188】
実施例B1で作成した反応容器に、負極活物質として人造黒鉛(平均粒子径:24.5μm)を100部、上記増粘剤の1%水溶液1部をそれぞれ加え、イオン交換水で固形分濃度55%に調整した後、25℃で60分混合した。次に、イオン交換水で固形分濃度52%に調整した後、さらに25℃で15分混合し混合液を得た。
【0189】
上記混合液に、実施例B1のテスト例1で調整した重合体ラテックスを1部(固形分基準)、及びイオン交換水を入れ、最終固形分濃度42%となるように調整し、さらに10分間混合した。これを減圧下で脱泡処理して流動性の良い二次電池負極用スラリー組成物を得た。
【0190】
(電池の製造)
上記二次電池負極用スラリー組成物を、コンマコーターで、厚さ20μmの銅箔の上に、乾燥後の膜厚が200μm程度になるように塗布し、2分間乾燥(0.5m/分の速度、60℃)し、2分間加熱処理(120℃)して電極原反を得た。この電極原反をロールプレスで圧延して負極活物質層の厚みが80μmの二次電池負極を得た。
【0191】
上記負極を直径15mmの円盤状に切り抜き、この負極の負極活物質層面側に直径18mm、厚さ25μmの円盤状のポリプロピレン製多孔膜からなるセパレータ、正極として用いる金属リチウム、エキスパンドメタルを順に積層し、これをポリプロピレン製パッキンを設置したステンレス鋼製のコイン型外装容器(直径20mm、高さ1.8mm、ステンレス鋼厚さ0.25mm)中に収納した。この容器中に電解液を空気が残らないように注入し、ポリプロピレン製パッキンを介して外装容器に厚さ0.2mmのステンレス鋼のキャップをかぶせて固定し、電池缶を封止して、直径20mm、厚さ約2mmのハーフセル(二次電池)を作製した。
【0192】
なお、電解液としてはエチレンカーボネート(EC)とジエチルカーボネート(DEC)とをEC:DEC=1:2(20℃での容積比)で混合してなる混合溶媒にLiPFを1モル/リットルの濃度で溶解させた溶液を用いた。このハーフセルの充放電サイクル特性の評価結果を表7に示す。
【0193】
[実施例C2]
スラリー組成物の調製に用いる反応容器および重合体ラテックスとして、実施例B2で作成した反応容器および重合体ラテックスを使用した以外は、実施例C1と同様にして、ハーフセルを作成した。結果を表7に示す。
【0194】
[比較例C1]
スラリー組成物の調製に用いる反応容器および重合体ラテックスとして、比較例B1で作成した反応容器および重合体ラテックスを使用した以外は、実施例C1と同様にして、ハーフセルを作成した。結果を表7に示す。
【0195】
[実施例C3]
スラリー組成物の調製に用いる反応容器および重合体ラテックスとして、実施例B3で作成した反応容器および重合体ラテックスを使用した以外は、実施例C1と同様にして、ハーフセルを作成した。結果を表7に示す。
【0196】
[充放電サイクル特性]
実施例、比較例で得られた二次電池を用いて、それぞれ25℃で0.1Cの定電流定電圧充電法方式で、4.2Vになるまで定電流で充電、その後定電圧で充電し、また0.1Cの定電流で3.0Vまで放電する充放電サイクルを行った。充放電サイクルは100サイクルまで行い、初期放電容量に対する50サイクル目の放電容量の比を容量維持率とし、この容量維持率が80%以下となる電池の発生個数で判定した。なお、50サイクル目の放電容量を電池容量とし、試験は各50個の電池を作製して行った。この個数が少ないほど、充放電サイクル特性に優れることを示す。
【0197】
【表7】

【符号の説明】
【0198】
100・・・反応槽本体
101・・・基材
102・・・PFA膜
300・・・プラズマ処理装置
301・・・処理炉
302・・・上蓋プレート
303・・・円筒状側壁部材
304・・・ベースプレート
305・・・シール部材
【産業上の利用可能性】
【0199】
本発明の構造体(材)で構成される製造プロセス用処理槽は、継続的に使用しても内壁面に反応生成物が実質的に付着することはなく、生産効率を格段に伸ばすことができるので、産業上の利用可能成性は極めて高い。
【0200】
また、一つの成膜処理槽で多品種の構造膜を生産しても、内壁面に反応生成物が実質的に付着することはないので、一つ一つの膜は、いつでも所期のクリーンな容器内環境で成膜することができ、得られる構造膜は設計通りの特性が得られることから、成膜処理装置やそれを組み込んだ生産システムを格段に小型化でき、省エネや省スペース、省資源の点でも産業上の利用可能性は極めて高い。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
製造プロセス用の処理槽において、処理槽の内壁面の少なくとも反応生成物が付着し得る個所の最表面に下記構造式1で示すパーフルオロアルコキシアルカン(以後「PFA」と記す)の膜が設けてあることを特徴とする製造プロセス用の処理槽。
【化1】

(構造式1において、Rfはパーフルオロアルキル基を示し、m及びnは正の整数を示す。)
【請求項2】
前記処理槽は、基材が金属である請求項1に記載の製造プロセス用の処理槽。
【請求項3】
前記金属がアルミ系金属である請求項2に記載の製造プロセス用の処理槽。
【請求項4】
前記PFA膜は、NiもしくはNiFからなる膜の上に直接に設けられている請求項1乃至3のいずれか1項に記載の製造プロセス用の処理槽。
【請求項5】
前記PFA膜は、無孔質陽極酸化に由来するAlからなる膜の上に直接に設けられている請求項1乃至3のいずれか1項に記載の製造プロセス用の処理槽。
【請求項6】
前記PFA膜は、再溶融処理を施された膜である請求項1乃至5のいずれか1項に記載の製造プロセス用の処理槽。
【請求項7】
製造プロセス用の処理槽の製造法において、処理槽基材の槽内壁面となる面にPFAからなる膜を設けた処理槽用の構造体を用意し、該構造体をPFAの溶融点より高い温度雰囲気に晒して前記膜の少なくとも自由表面領域を溶融し、その後、PFAの溶融点より低い温度に晒して少なくとも自由表面領域となる部分を固化し、次いで、PFAの溶融点若しくはPFAの溶融点を越した辺りの温度の雰囲気に晒して少なくとも自由表面領域となる部分を再溶融し、その後、PFAの溶融点より十分低い温度に下げることで、PFAからなる固体膜の自由表面の平滑性を高める工程を有することを特徴とする製造プロセス用の処理槽の製造法。
【請求項8】
前記処理槽基材の槽内壁面となる面にPFAからなる膜を設ける前に、NiもしくはNiFからなる膜を設ける工程を更に有する請求項7に記載の製造プロセス用の処理槽の製造法。
【請求項9】
前記処理槽基材の槽内壁面となる面にPFAからなる膜を設ける前に、無孔質陽極酸化によってAlからなる膜を設ける工程を更に有する請求項7に記載の製造プロセス用の処理槽の製造法。
【請求項10】
製造プロセス用の処理槽の構造体の製造法において、処理槽基材の槽内壁面となる面にPFAからなる膜を設けた処理槽用の構造体を用意し、該構造体をPFAの溶融点より高い温度雰囲気に晒して前記膜の少なくとも自由表面領域を溶融し、その後、PFAの溶融点より低い温度に晒して少なくとも自由表面領域となる部分を固化し、次いで、PFAの溶融点若しくはPFAの溶融点を越した辺りの温度の雰囲気に晒して少なくとも自由表面領域となる部分を再溶融し、その後、PFAの溶融点より十分低い温度に下げることで、PFAからなる固体膜の自由表面の平滑性を高める工程を有することを特徴とする製造プロセス用の処理槽の構造体の製造法。
【請求項11】
前記処理槽基材の槽内壁面となる面に、PFAからなる膜を設ける前に、NiもしくはNiFからなる膜を設ける工程を更に有する請求項10に記載の製造プロセス用の処理槽の構造体の製造法。
【請求項12】
前記処理槽基材の槽内壁面となる面にPFAからなる膜を設ける前に、無孔質陽極酸化によってAlからなる膜を設ける工程を更に有する請求項7に記載の製造プロセス用の処理槽の構造体の製造法。
【請求項13】
請求項10乃至12の何れか1項に記載の製造プロセス用の処理槽の構造体の製造法であって、形状が異なる複数の構造体を用意し、これら構造体を組み合わせて製造プロセス用の処理槽を製造することを特徴とする製造プロセス用の処理槽の製造法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【公開番号】特開2013−21130(P2013−21130A)
【公開日】平成25年1月31日(2013.1.31)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−153240(P2011−153240)
【出願日】平成23年7月11日(2011.7.11)
【出願人】(504157024)国立大学法人東北大学 (2,297)
【Fターム(参考)】