説明

試料セルを用いない分光光度計

【課題】
試料セルを用いずに微量な試料の吸光度測定を行なうことのできる分光光度計を提供する。
【解決手段】
測定光を発生させる光源2と、試料4を試料を液滴状で保持する試料保持板6と、試料4からの透過光を検出する検出部8と、試料保持板6に保持されている試料4を撮像するための撮像部10と、撮像部10で得た試料画像から測定光の光路長を算出し、その光路長と検出部8で得た検出データに基づいて吸光度を算出する演算処理部12と、演算処理部12で得られた演算処理結果を表示するための表示部14とが設けられている。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、試料に光を照射して吸光度を測定する分光光度計に関するものである。
【背景技術】
【0002】
従来、試料の吸光度を測定するために、例えば光源からの光を集光レンズを通して集光した後、試料セル中に光を通し、試料セルを透過した光を波長ごとに分光して、分光された光を検出して特定波長での吸光度を測定する方法が用いられ、そのための分光光度計が開発されてきた。この測定で用いる試料セルは透明の石英ガラス材などで形成された容器形セルである。このような試料セルは測定ごとに洗浄を行なって再利用するのが一般的である。
【0003】
試料セルを用いた分光光度計では、試料が微量である場合に試料セルを小さくする必要がある。微小な試料セルは、洗浄に手間と時間がかかってしまうという問題があった。また、微小な試料セルを洗浄するのは困難なため、試料セルの洗浄が充分でなく、コンタミネーションが発生して測定精度が低下するという問題があった。
【0004】
そこで、試料セルを用いることなく吸光度測定を行なうことが提案されている。その一例として、微少な距離を隔てて2つの平面を対向して配置し、表面張力を利用して、それら2枚の平面間で微量の試料を保持する方法を挙げることができる(特許文献1参照。)。この方法では、平面間に保持された試料の中心部に測定光を通過させるために一方の平面の中心に導光用光ファイバを取り付け、他方の平面の中心に試料を透過した測定光を受光する光ガイドを設けている。
【特許文献1】米国特許6628382号明細書
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
提案の表面張力を利用する方法は、試料の保持と測光に複雑な機構を必要とする。
そこで本発明は、試料セルを用いずに微量な試料の吸光度測定を簡単に行なうことのできる分光光度計を提供することを目的としている。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明の分光光度計は、平板状の基板表面に、親水性である試料保持領域と、上記試料保持領域を取り囲んで形成された疎水領域とを備え、上記試料保持領域に試料を液滴状に保持する試料保持板と、測定光を上記試料に対して鉛直方向に照射する光源部と、上記試料を透過した上記測定光を検出する検出部と、側方から上記試料を撮像する試料撮像部と、測定時に上記試料撮像部で得た画像に基づいて上記試料を透過した測定光の光路長を算出する画像解析部と、上記検出部の出力と、上記画像解析部で得た上記光路長に基づいて上記試料の吸光度を算出する算出部と、を備えているものである。
試料保持板に保持される試料は液滴状であるので、測定光の照射部分における液滴試料の高さが試料を透過する測定光の光路長となる。
【0007】
画像解析部は、上記光路長として測定光照射部分における液滴試料の高さの平均値を求めるようにするのが好ましい。
【発明の効果】
【0008】
本発明の分光光度計においては、試料を液滴状に保持し、測定時に側方から試料を撮像して得た試料の画像に基づいて透過光の光路長を算出し、検出部での出力と算出した光路長に基づいて試料の吸光度を測定するようにしたので、試料セルを用いることなく微量の試料の吸光度測定を簡単に行なうことができる。また、洗浄が簡単であるので、不完全な洗浄によるコンタミネーションの発生を防止することができる。
【0009】
光路長として測定光照射部分における試料の高さの平均値を求めるようにすれば、測定光の光路長を簡単に算出することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0010】
以下に、本発明の吸光度測定方法及び分光光度計の好適な態様を図面を参照しながら説明する。但し、この実施例で示す分光光度計の構成は一例であって、本発明はこれに限定されず、他の構成を有する分光光度計に対しても適用することができる。
【0011】
一実施例の分光光度計の概略を説明する。図1は本発明における分光光度計の構成の一例を概略的に示すブロック図である。
この実施例の分光光度計では、測定光を照射する光源2と、試料4を液滴状に保持する試料保持板6と、試料4からの透過光を検出する検出部8と、試料保持板6に保持されている試料4を撮像するための撮像部10と、撮像部10で得た試料画像から測定光の光路長を算出し、その光路長と検出部8で得た検出データに基づいて吸光度を算出する演算処理部12と、演算処理部12で得られた演算処理結果を表示するための表示部14とが設けられている。
【0012】
光源2からの測定光は、試料保持板6に保持された試料4に対して照射され、透過して検出部8で検出される。測定光は、例えば分光器(図示は省略)によって試料透過前又は試料透過後に分光される。検出部8は、例えばフォトダイオードや光電子増倍管などの検出器によって構成されており、分光された光の強度を検出することができるようになっている。
【0013】
試料4は試料保持板6上で液滴状に保持されている。試料4を液滴状に保持する試料保持板6としては、例えば図2で示されるように、透明な平面状基板に円形に形成され、少なくとも表面が親水性で試料4を液滴状に保持する試料保持領域16と、試料保持領域16を取り囲んで形成された疎水性領域18とを備えているものを挙げることができる。疎水性領域18が試料保持領域16を取り囲んで形成されているので、試料4は液滴になり、余分な試料は測定系の外側に排出される。
ここで、試料保持板6において、疎水性領域18は試料保持領域16以外の領域全面に形成されているようにしてもよい。
試料保持板6としては、例えば透明石英ガラス基板の表面にドーナツ状の疎水性領域18をフッ素樹脂コーティングにより形成したものを挙げることができる。石英ガラスは親水性であるので、疎水性領域18で囲まれた領域16は親水性領域となる。
【0014】
ここで、試料の溶媒としては、試料をよく溶解し、相互作用がなく、測定波長領域で吸収の小さいものを選択するが、試料の溶媒に蒸留水の他、アセトニトリル、メチルアルコールやエチルアルコールなどのアルコール、酢酸などの親水性溶媒を用いた場合においては、上述のように試料保持部を親水性、試料保持部を取り囲んだ領域を疎水性とすることによって試料を液滴状に保持することができる。一方、試料の溶媒に、シクロヘキサン、ベンゼン、トルエンなどの疎水性溶媒を用いた場合においては、試料保持部を疎水性、試料保持部を取り囲んだ領域を親水性とすることで、試料を試料保持部に液滴状に保持することができる。従って、本発明における、親水性である試料保持領域と、前記試料保持領域を取り囲んで形成される疎水領域とは、試料の溶媒が親水性の時の場合であって、試料の溶媒が疎水性である場合には試料保持部が疎水性、それを取り囲んだ領域が親水性となる場合も含む。以後、特に説明はしないが、同様に解釈される。
【0015】
試料保持部に保持される試料の容量は、試料保持部の大きさ、試料保持部とそれを取り囲む領域の親水度の差、試料保持部の形状で変化させることができる。
例えば、測定対象物質がタンパク質、核酸などの生体関連物質である場合は、溶媒として蒸留水、アセトニトリル等の親水性溶媒を用いるが、試料が貴重であるため、1〜5μLという微量の試料量であっても測定を可能とすることが好ましい。
測定に用意できる試料量に制限がない場合には、測定精度を上げるために、試料保持部に保持できる容量を増やすことも可能である。
【0016】
測定時には、撮像部10が側方から試料4を撮像し、試料4と試料4中を透過する測定光が撮像される。撮像部10で得た試料画像データは演算処理部12に送られる。
ここで、ブランクは水を用いて同様の条件で行ない、例えば演算処理部12内に記憶させておくようにしてもよいし、別途記憶部を設けてブランクデータを記憶部に記憶させておくようにしてもよい。
【0017】
図3に撮像部10で撮像した試料4の画像の一例を示す。
試料4を透過する測定光20は円筒状の光束であり、特定の直径(以下、光束幅という。)をもっている。そのため、測定光の試料4中の光路長は光束通過領域中の位置によって異なる。試料4の吸光度は、ブランクデータ、検出部8で得られる光検出強度及び光路長で決定されるものであるので、実際の光路長にバラツキが生じると吸光度測定結果に誤差が生じてしまう。そこで演算処理部12は、測定ごとに撮像部10で得た試料画像の解析処理を行なって、試料4を透過する測定光の平均光路長を算出する。
【0018】
平均光路長は以下のアルゴニズムを用いて算出する。
平均光路長をLAVE、光束幅をW、光束通過領域の断面積をA、測定光をn個に等分割した時の微小光束幅をΔW、分割した光束のうち図面において最も左側を1番目、最も右側をn番目とした場合のX番目の光束における試料4の高さをLXとし、ΔWは十分微小であり、分割された試料4中での光束はΔWを一辺とする長方形と近似できるとすれば、これらは以下の式1及び式2の関係をもっている。
W=ΔW・n (式1)
【数1】

【0019】
上記の式1及び式2より、平均光路長LAVEは式3で算出することができる。
【数2】

【0020】
演算処理部12は、算出した平均光路長LAVE、検出器8で得られた光検出強度及びブランクデータに基づいて試料4の吸光度を算出し、表示部14に表示させる。
上記式3は試料4の一面からの画像に基づいて平均光路長を求めるものであるが、例えば撮像部10を試料4のまわりに回転させて試料4の他の角度から撮像し、2つの画像を解析して平均光路長を算出するようにしてもよいし、撮像部10としてカメラを2つ異なる位置に設置して試料4を透過する測定光の位置や奥行きを測定するようにしてもよい。そうすることで、測定光が試料4に対して中心よりずれて照射されている場合や試料4の形状が中心を軸に対象となっていない場合であっても正確な平均光路長を算出することができるようになり、光源2や試料4の位置合わせを精密に行なわなくても平均光路長を算出できるので、測定にかかる手間を減らす効果がある。
【0021】
次に、上記で説明した分光光度計のより詳細な構成の一例を図4を参照して説明する。図4は分光光度計の構成の一例を示す図である。
この分光光度計には、鉛直下向きに光を発する光源2と、光源2の下方に設けられて光源2からの光を集光する集光レンズ24と、集光レンズ24の下方に設けられ、液滴状の試料4を保持する試料保持板6(図2を参照。)と、試料保持板6の下方に設けられたスリット28と、スリット28を経た光を分光する凹面分光器30と、凹面分光器30で分光された光を検出するフォトダイオードアレイ32と、試料保持板6に液滴状に保持された試料4を側方から撮像するための撮像カメラ34と、撮像カメラ34で得た液滴画像を解析して試料4を透過した光束の平均光路長を算出し、算出した平均光路長とフォトダイオードアレイ32で得た光検出強度に基づいて試料4の吸光度を算出する演算処理部12と、PC(パーソナルコンピュータ)用モニタなど、演算処理部12で算出された試料4の吸光度を表示することができる表示部14と、が設けられている。
【0022】
凹面分光器30は入射した測定光を分光してフォトダイオードアレイ32に導く。
フォトダイオードアレイ32は凹面分光器30で分光された光をそれぞれ受光するために、一列に配列された複数の受光素子32aを備え、それぞれの受光素子32aに受光した光の強度を検出するようになっている。
【0023】
撮像カメラ34は、試料保持板6に液滴状に保持された試料1を側方から撮影するために試料保持板6の側方に設けられており、試料を撮像後、演算処理部12に試料画像データを送信するようになっている。
【0024】
演算処理部12としては、例えば試料4の画像を解析して平均光路長を算出する画像解析部と、フォトダイオードアレイ32で得た光検出強度のデータ及びブランクデータを記憶しておく記憶部と、光検出強度データ、ブランクデータ及び画像解析部で得た平均光路長とに基づいて吸光度を算出する算出部とから構成されているものを挙げることができる。演算処理部12は、例えばPCやマイクロプロセッサーにより実施することができる。
【0025】
吸光度測定を行なう際には、試料保持板6が開放系であるため、試料4の周辺の温度・湿度を一定条件に維持して乾燥を防止するようにするのが好ましい。
また、撮像カメラ34にて試料4を撮像する際は、液滴試料4をより鮮明に浮き上がらせるために、撮像に支障のない位置からストロボ照明を発光させるようにしてもよい。
【0026】
この実施例の構成により、試料保持板6に少量の試料を滴下するだけで測定を行なうことができるので、微量にしか存在しない試料に対して正確に測定を行なうことができる。また、試料セルが不要であるため、測定後は試料保持板6を軽くふき取るだけでよく、洗浄でのコンタミネーションを防止することができ、測定の手間を短縮することができる。
【0027】
光路長の算出は測定と同時又は測定後に行なうようになっているので、精密な試料分注を不要とすることができる。また、試料を滴下する位置が開放系であるので、試料4を試料保持板6に分注するのが容易であり、使用者の利便性が向上する。
【0028】
この実施例(図4を参照。)では、測定光が試料4を透過した後に分光を行なってフォトダイオードアレイ32に透過光を導くようになっているが、本発明はこれに限定されるものではなく、測定光を試料4に照射する前に分光するようにしてもよい。
この実施例においては、撮像カメラ34が試料保持板6の側方に1つだけ設けられているが、2以上の撮像カメラを異なる位置に配置して、試料4中を透過する測定光を立体的に認識するようにしてもよい。
【図面の簡単な説明】
【0029】
【図1】一実施例の分光光度計の構成を概略的に示すブロック図である。
【図2】同実施例の試料保持板の一例を示す図であり、(A)は上面図、(B)は(A)のX−X位置での断面図である。
【図3】平均光路長を算出するためのアルゴニズムを説明するための図である。
【図4】同実施例における分光光度計の詳細例を説明するための概略構成図である。
【符号の説明】
【0030】
2 光源
4 試料
6 試料保持板
8 検出部
10 撮像部
12 演算処理部
14 表示部
16 試料保持領域
18 疎水性領域
20 測定光
24 集光レンズ
28 スリット
30 凹面分光器
32 フォトダイオードアレイ
34 撮像カメラ

【特許請求の範囲】
【請求項1】
平板状の基板表面に、親水性である試料保持領域と、前記試料保持領域を取り囲んで形成された疎水領域とを備え、前記試料保持領域に試料を液滴状に保持する試料保持板と、
測定光を前記試料に対して鉛直方向に照射する光源部と、
前記試料を透過した前記測定光を検出する検出部と、
側方から前記試料を撮像する試料撮像部と、
測定時に、前記試料撮像部で得た画像に基づいて前記試料を透過した測定光の光路長を算出する画像解析部と、
前記検出部の出力と、前記画像解析部で得た前記光路長に基づいて前記試料の吸光度を算出する算出部と、を備えていることを特徴とする分光光度計。
【請求項2】
前記画像解析部は、前記光路長として測定光照射部分における前記試料の高さの平均値を求めるものである請求項1に記載の分光光度計。

【図1】
image rotate

【図2】
image rotate

【図3】
image rotate

【図4】
image rotate


【公開番号】特開2006−258538(P2006−258538A)
【公開日】平成18年9月28日(2006.9.28)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2005−74789(P2005−74789)
【出願日】平成17年3月16日(2005.3.16)
【出願人】(000001993)株式会社島津製作所 (3,708)
【Fターム(参考)】