説明

走行作業車両の制御装置

【課題】通常のエンジンを用いて重負荷作業時の作業量を確保しつつ、燃費を向上することができ、しかもエンジンの出力配分に柔軟性を持たせることのできる走行作業車両を提供する。
【解決手段】トルク制御レギ26は、油圧ポンプ22の吸収トルクが予め定めた最大吸収トルクを超えないように制御し、アクセルペダル12は、エンジン1の目標回転数を指令する。回転数偏差演算部52,62、補正トルク演算部53、補正回転数演算部63、速度比演算部54,64、走行状態判定部55,65、作業状態判定部56,66は、走行作業車両の作動状態を判断し、補正トルク演算部53、補正回転数演算部63、乗算部58,68、加算部59,69は、上記判断結果に応じて油圧ポンプ22の最大吸収トルクとエンジン1の目標回転数の両方を補正する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、エンジンにより走行装置を駆動し、走行を行うとともに、エンジンにより油圧ポンプを駆動し、作業アクチュエータを作動して所定の作業を行うホイールローダやテレスコピックハンドラー等の走行作業車両の制御装置に関する。
【背景技術】
【0002】
油圧ポンプと走行装置を備えた走行作業車両において、エンジンの出力特性と油圧ポンプのトルクを段階的に切換えて、燃費を向上させる技術が特公平7−103593号公報に記載されている。以下、この従来技術について説明する。
【0003】
特公平7−103593号公報記載の走行作業車両は、エンジンの出力特性を段階的に変更可能な電子制御式ガバナと、モード選択信号を出力する操作スイッチとを備え、オペレータが操作スイッチを操作してM1モードを選択した場合は、エンジンの出力特性が従来と同じ一般的な特性に設定され、M1モード以外(M2モード及びM3モード)を選択すると、エンジンの出力特性をM1モードよりもエンジン出力トルクが小さい特性に設定される。また、2つの固定容量型の油圧ポンプと、一方の油圧ポンプの吐出油路をドレン回路に切り換え接続する電磁パイロットカットオフバルブを備え、M2モード選択時に掘削作業のために走行装置のトランスミッションが前進2速(F2)から前進1速(F1)に変速されると、電磁パイロットカットオフバルブに電気指令を出力して2つの油圧ポンプの一方の吐出油路をアンロードし、2ポンプ駆動から1ポンプ駆動に切り換える。これにより作業機油圧回路の高圧時(重負荷作業時)は十分な走行牽引力を確保して作業量を維持すると共に、作業機油圧回路の低圧時は2ポンプ駆動時に比べて油圧負荷(ポンプ吸収トルク)を減少させ、走行駆動側にエンジン出力を多く配分し、作業性の確保と燃費の向上を可能としている。
【0004】
特許第2968558号公報には、走行駆動装置とアクチュエータの負荷の和がエンジンの出力トルクより小さいときは油圧ポンプの最大吸収トルクを大きくして作業機側の配分を大きくし、負荷の和がエンジンの出力トルクより大きいときは油圧ポンプの最大吸収トルクを小さくして大きな走行トルクを確保し、大きな牽引力を維持するようにした技術を開示している。
【0005】
【特許文献1】特公平7−103593 特許第2968558
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
しかしながら、上記従来技術には次に述べるような問題点がある。
【0007】
特公平7−103593号公報記載の従来技術は、エンジンの出力特性を変えることでエンジン出力を低下させることができるエンジンを用いて燃費の向上を図るものである。このため、エンジンの出力特性を変えることができない通常のエンジン(汎用エンジン)を用いた場合は、重負荷作業時にポンプ吸収トルクを制御して作業量を確保することはできるが、エンジン出力を低下させることができないため、燃費の向上が得られない。
【0008】
また、2つの固定容量型の油圧ポンプを用い、1ポンプ駆動か2ポンプ駆動かを選択して作業機側の出力を制御するため、ポンプ容量として1ポンプか2ポンプかの選択しかできず、エンジンの出力配分に柔軟性を持たせることができない。
【0009】
特許第2968558号公報記載の従来技術は、負荷状態を見て油圧ポンプの最大吸収トルクを制御しているだけであり、エンジン側は制御していないため、燃費向上の効果は得られない。
【0010】
本発明の目的は、通常のエンジンを用いて重負荷作業時の作業量を確保しつつ、燃費を向上することができ、しかもエンジンの出力配分に柔軟性を持たせることのできる走行作業車両を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0011】
(1)本発明は上記目的を達成するために次のような構成を採用する。つまり、エンジンと、このエンジンの回転数を制御する燃料噴射装置と、前記エンジンにより駆動される走行用のトルクコンバータを含む走行手段と、前記エンジンにより駆動される可変容量型の油圧ポンプと、この油圧ポンプの吐出油により駆動される作業アクチュエータとを備えた走行作業車両の制御装置において、前記油圧ポンプの吸収トルクが予め定めた最大吸収トルクを超えないように制御するポンプトルク制御手段と、前記エンジンの目標回転数を指令する入力手段と、前記走行作業車両の作動状態を判断する状態判断手段と、前記状態判断手段の判断結果に応じて前記油圧ポンプの最大吸収トルクと前記エンジンの目標回転数の両方を補正する補正制御手段とを備えるものとする。
【0012】
状態判断手段は走行作業車両の作動状態を判断し、補正制御手段は、その判断結果に応じて油圧ポンプの最大吸収トルクとエンジンの目標回転数の両方を補正する。これによりエンジンの出力特性を変えることができない通常のエンジンであっても、重負荷作業時に作業機側である油圧ポンプの負荷(吸収トルク)を低下させて、走行駆動側の出力を大きくするとともに、目標エンジン回転数を低下させることによって燃料消費量を減らし、作業量の確保と燃費の向上の両立が可能となる。
【0013】
このように本発明によれば、走行作業車両の作動状態を判断してエンジン出力を走行出力と作業機出力にバランス良く配分することができると同時に、エンジン負荷の軽減も行えるので、重負荷作業時の作業量を確保しつつ低燃費化を図ることができる。
【0014】
また、作業機側の油圧ポンプは可変容量型であるため、最大吸収トルクの補正量を変えることによって、ポンプ容量を任意の値に制御することができ、エンジンの出力配分に柔軟性を持たせることができる。
【0015】
(2)上記(1)において、好ましくは、前記状態判断手段は、前記エンジンの負荷状態を判断する第1判断手段を含み、前記補正制御手段は、前記第1判断手段で前記エンジンが過負荷状態であると判断されると、前記油圧ポンプの最大吸収トルクと前記エンジンの目標回転数をそれぞれ小さくするよう補正する。
【0016】
重負荷作業時はエンジンが過負荷状態となることが多い。走行作業車両の作動状態としてエンジン負荷状態を判断し、エンジンが過負荷状態になると油圧ポンプの最大吸収トルクと目標回転数を低下させることにより、重負荷作業時の作業量の確保と燃費の向上の両立が可能となる。
【0017】
(3)また、上記(1)において、好ましくは、前記状態判断手段は、前記エンジンの負荷状態を判断する第1判断手段と、前記走行手段の作動状況を判断する第2判断手段とを含み、前記補正制御手段は、前記第1判断手段で前記エンジンが過負荷状態であると判断され、前記第2判断手段で前記走行手段がトルクコンバータストールに近い状態にあると判断されると、前記油圧ポンプの最大吸収トルクと前記エンジンの目標回転数をそれぞれ小さくするよう補正する。
【0018】
重負荷作業時はエンジンが過負荷状態となりかつ走行手段がトルクコンバータストールに近い状態になることが多い。走行作業車両の作動状態としてエンジン負荷状態と走行手段の作動状況を判断し、エンジンが過負荷状態になりかつ走行手段がトルクコンバータストールに近い状態になると、油圧ポンプの最大吸収トルクと目標回転数を低下させることにより、重負荷作業時の作業量の確保と燃費の向上の両立が可能となる。
【0019】
また、走行作業車両の作動状態としてエンジン負荷状態だけでなく走行手段の作動状況も判断することにより、より正確に重負荷作業時かどうかを判断することができる。
【0020】
(4)更に、上記(1)において、好ましくは、前記状態判断手段は、前記エンジンの負荷状態を判断する第1判断手段と、前記走行手段の作動状況を判断する第2判断手段と、前記作業アクチュエータの作動状況を判断する第3判断手段とを含み、前記補正制御手段は、前記第1判断手段で前記エンジンが過負荷状態であると判断され、前記第2判断手段で前記走行手段がトルクコンバータストールに近い状態にあると判断され、かつ前記第3判断手段で前記作業アクチュエータが高負荷状態であると判断されると、前記油圧ポンプの最大吸収トルクと前記エンジンの目標回転数をそれぞれ小さくするよう補正する。
【0021】
重負荷作業時はエンジンが過負荷状態となりかつ走行手段がトルクコンバータストールに近い状態になりかつ作業アクチュエータが高負荷状態となる。走行作業車両の作動状態としてエンジン負荷状態と走行手段の作動状況と作業アクチュエータの作動状況を判断し、エンジンが過負荷状態になりかつ走行手段がトルクコンバータストールに近い状態になりかつ作業アクチュエータが高負荷状態になると、油圧ポンプの最大吸収トルクと目標回転数を低下させることにより、重負荷作業時の作業量の確保と燃費の向上の両立が可能となる。
【0022】
また、走行作業車両の作動状態としてエンジン負荷状態だけでなく走行手段の作動状況と作業アクチュエータの作動状況も判断することにより、より正確に重負荷作業時かどうかを判断することができる。
【0023】
(5)上記(2)〜(4)のいずれかにおいて、好ましくは、前記第1判断手段は、前記エンジンの実回転数を検出する手段と、前記目標回転数と実回転数の偏差を計算し、この回転数偏差により前記エンジンの負荷状態を判断する手段とを有する。
【0024】
(6)上記(3)又は(4)において、好ましくは、前記第2判断手段は、前記トルクコンバータの入力側の回転数を検出する手段と、前記トルクコンバータの出力側の回転数を検出する手段と、前記トルクコンバータの入力側の回転数と出力側の回転数に基づきトルクコンバータ速度比を演算し、このトルクコンバータ速度比により前記走行手段の作動状況を判断する手段とを有する。
【0025】
(7)上記(4)において、好ましくは、前記第3判断手段は、前記油圧ポンプの負荷圧力を検出する手段と、この油圧ポンプの負荷圧力により前記作業アクチュエータの作動状況を判断する手段とを有する。
【0026】
(8)また、上記(2)〜(4)のいずれかにおいて、好ましくは、前記補正制御手段は、前記第1判断手段で前記エンジンが過負荷状態であると判断されたときにトルク補正値及び回転数補正値を演算する手段と、基準最大吸収トルクと前記トルク補正値との差を演算して補正後の最大吸収トルクを求める手段と、前記入力手段が指令する前記エンジンの目標回転数と前記回転数補正値との差を演算して補正後の目標回転数を求める手段とを有する。
【0027】
(9)上記(3)又は(4)において、好ましくは、前記補正制御手段は、前記第1判断手段で前記エンジンが過負荷状態であると判断されたときに第1トルク補正値及び第1回転数補正値を演算する手段と、前記第2判断手段で前記走行手段がトルクコンバータストールに近い状態にあると判断されたときに第2トルク補正値及び第2回転数補正値を演算する手段と、前記第1トルク補正値と第2トルク補正値との演算を行い、最終的なトルク補正値を決定する手段と、前記第1回転数補正値と第2回転数補正値との演算を行い、最終的な回転数補正値を決定する手段と、基準最大吸収トルクと前記最終的なトルク補正値との差を演算して補正後の最大吸収トルクを求める手段と、前記入力手段が指令する前記エンジンの目標回転数と前記最終的な回転数補正値との差を演算して補正後の目標回転数を求める手段とを有する。
【0028】
(10)上記(4)において、好ましくは、前記補正制御手段は、前記第1判断手段で前記エンジンが過負荷状態であると判断されたときに第1トルク補正値及び第1回転数補正値を演算する手段と、前記第2判断手段で前記走行手段がトルクコンバータストールに近い状態にあると判断されたときに第2トルク補正値及び第2回転数補正値を演算する手段と、前記第3判断手段で前記作業アクチュエータが高負荷状態であると判断されたときに第3トルク補正値及び第3回転数補正値を演算する手段と、前記第1トルク補正値と第2トルク補正値と第3トルク補正値との演算を行い、最終的なトルク補正値を決定する手段と、前記第1回転数補正値と第2回転数補正値と第3回転数補正値との演算を行い、最終的な回転数補正値を決定する手段と、基準最大吸収トルクと前記最終的なトルク補正値との差を演算して補正後の最大吸収トルクを求める手段と、前記入力手段が指令する前記エンジンの目標回転数と前記最終的な回転数補正値との差を演算して補正後の目標回転数を求める手段とを有する。
【発明の効果】
【0029】
本発明によれば、走行作業車両の作動状態を判断してエンジン出力を走行出力と作業機出力にバランス良く配分することができると同時に、エンジン負荷の軽減も行えるので、重負荷作業時の作業量を確保しつつ低燃費化を図ることができる。
【0030】
また、作業機側の油圧ポンプは可変容量型であるため、最大吸収トルクの補正量を変えることによって、ポンプ容量を任意の値に制御することができ、エンジンの出力配分に柔軟性を持たせることができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0031】
以下、本発明の実施の形態を図面を用いて説明する。
【0032】
図1は、本発明の一実施の形態による走行作業車両の制御装置を備えた全体システムを示す図である。
【0033】
図1において、本実施の形態に係わる走行作業車両は、原動機であるディーゼルエンジン(以下単にエンジンという)1と、エンジン1により駆動される作業系2及び走行系3と、制御系4とを備えている。
【0034】
エンジン1は電子ガバナ(燃料噴射装置)11を備え、電子ガバナ11はアクセルペダル12の操作量(アクセル量)に応じて燃料噴射量が調整され、エンジン1の回転数を調整する。アクセルペダル12はオペレータにより操作され、その踏み込み量(アクセル量)に応じて目標とするエンジン回転数(以下、目標回転数という)を指令する。
【0035】
作業系2は、エンジン1にトランスミッション21を介して接続され、エンジン1により駆動される油圧ポンプ22と、油圧ポンプ22から吐出される圧油によって作動する複数の油圧アクチュエータ(作業機アクチュエータ)23a…23nと、油圧ポンプ22と油圧アクチュエータ23a…23nとの間に設けられ対応するアクチュエータに供給される圧油の流れを制御する方向切換弁24a…24nを備えた弁装置25とを有している。複数の油圧アクチュエータ23a…23nに対しては図示しない操作レバー装置が設けられ、この操作レバー装置を操作するとそれに応じたパイロット圧(操作信号)が発生して方向切換弁24a…24nを切り換え、油圧アクチュエータ23a…23nのそれぞれを駆動制御する。
【0036】
油圧ポンプ22は可変容量型であり、トルク制御レギュレータ26が備えられている。トルク制御レギュレータ26は、油圧ポンプ22の吐出圧力がある値を超えて上昇すると、それに応じて油圧ポンプ22の傾転(容量)を減少させ、油圧ポンプ22の吸収トルクが設定値(最大ポンプ吸収トルク)を超えないよう制御する。トルク制御レギュレータ26の設定値(最大ポンプ吸収トルク)は可変であり、トルク制御電磁弁27により制御される。トルク制御電磁弁27は電気的な指令信号により作動し、エンジン1により駆動されるパイロット油圧ポンプ28の吐出圧を油圧源として指令信号に応じた制御圧力を出力する。
【0037】
走行系3は、エンジン1の出力軸31に連結されたトルクコンバータ32と、このトルクコンバータ32の出力軸33に連結された走行装置34とを有し、走行装置34はトランスミッション、ディファレンシャルギヤ、車軸、前輪及び後輪等を備え、出力軸33の動力がトランスミッション、ディファレンシャルギヤ、車軸等を介して後輪に伝えられ、走行力を発生する。
【0038】
制御系4は、アクセルペタル12の踏み込み量(アクセル量)を検出する位置センサー41と、油圧アクチュエータ23a…23nの作動状況として油圧ポンプ22の吐出圧を検出する圧力センサー42と、エンジン1の出力回転数(実回転数)としてトルクコンバータ32の入力回転数(出力軸31の回転数)を検出する回転センサー43と、トルクコンバータ32の出力回転数(出力軸33の回転数)を検出する回転センサー44と、コントローラ45とを有している。コントローラ45は、位置センサー41、圧力センサー42、回転センサー43,44からの信号を入力し、所定の演算処理を行い、電子ガバナ11とトルク制御電磁弁27に指令信号を出力し、エンジン1の出力及び回転数と油圧ポンプ12の最大吸収トルクを制御する。
【0039】
図2は図1に示したシステムが搭載される走行作業車両の一例としてホイールローダの外観を示す図である。
【0040】
図2において、100はホイールローダであり、ホイールローダ100は、車体前部101と車体後部102とを有し、車体前部101と車体後部102は、ステアリングシリンダ103により車体後部102に対して車体前部101の向きが変わるように相対回動白在に連結されている。車体前部101にはフロント作業機104と前輪105が設けられ、車体後部102には運転席106と後輪107が設けられている。フロント作業機104はバケット111とリフトアーム112からなり、バケット111はバケットシリンダ113の伸縮によりチルト・ダンプ動作し、リフトアーム112はアームシリンダ114の伸縮により上下に動作する。なお、以下の説明では、フロント作業機104を適宜、単に作業機という。
【0041】
図1に戻り、油圧アクチュエータ23a…23nはステアリングシリンダ103、バケットシリンダ113、アームシリンダ114等であり、走行装置34は後輪106を駆動する。アクセルペダル12や図示しない操作レバー装置は運転席106のフロアに設けられ、はエンジン1,油圧ポンプ22,コントローラ45等の主要機器は車体後部102に搭載されている。
【0042】
図3はコントローラ45のポンプ制御に係わる処理機能を示す機能ブロック図である。
【0043】
図3において、コントローラ45は、ベーストルク演算部51、回転数偏差演算部52、補正トルク演算部53、速度比演算部54、走行状態判定部55、作業状態判定部56、選択部57、乗算部58、加算部59の各機能を有している。
【0044】
ベーストルク演算部51は、目標エンジン回転数Nmを入力し、これをメモリに記憶してあるテーブルに参照させ、そのときの目標エンジン回転数Nmに応じたポンプベーストルクTbを算出する。メモリのテーブルには、目標エンジン回転数Nmが上昇するに従ってポンプベーストルクTbが増大し、目標エンジン回転数Nmがある値以上になるとポンプベーストルクを最大の一定値とするNmとTbの関係が設定されている。目標エンジン回転数Nmはコントローラ45のエンジン制御機能により補正されたエンジン回転数である(後述)。
【0045】
回転数偏差演算部52は、回転センサー43により検出された実エンジン回転数Naからアクセルペダル角目標回転数Npを差し引いてエンジン回転数偏差ΔN(=Na−Np)を算出する。アクセルペダル角目標回転数Npはアクセルペダル12の踏み込み量(アクセル角)に応じて設定された目標回転数である(後述)。
【0046】
補正トルク演算部53は、回転数偏差演算部52で演算された回転数偏差ΔNを入力し、これをメモリに記憶してあるテーブルに参照させ、そのときの回転数偏差ΔNに対応する補正トルクΔTmを演算する。補正トルクΔTmは、油圧ポンプ22が最大吸収トルクを消費し、そのポンプ吸収トルク(作業負荷)とトルクコンバータ32の入力トルク(走行トルク)との和がエンジン1の出力トルクを超えるような高負荷の運転状態となったときに油圧ポンプ22の最大吸収トルクを下げるためのものであり、メモリのテーブルには、実エンジン回転数Naが目標エンジン回転数Npに一致し、回転数偏差ΔNが0であるときはΔTm=0であり、実エンジン回転数Naが低下し、回転数偏差ΔNが負の値になると、ΔTm=ΔTc(<0)となるようにΔNとΔTmの関係が設定されている。
【0047】
速度比演算部54は、回転数センサー43,44からのトルクコンバータ32の入出力回転数の検出信号を入力し、e=出力回転数/入力回転数の演算を行い、トルクコンバータ速度比eを算出する。
【0048】
走行状態判定部55は、速度比演算部53で演算されたトルクコンバータ速度比eを入力し、これをメモリに記憶してあるテーブルに参照させ、そのときのトルクコンバータ速度比eに対応する第1判定係数α1を演算する。第1判定係数α1は、トルクコンバータ速度比eが小さいとき(トルクコンバータ31がストールに近い状態にあるとき)、つまり走行系3が大きな走行力(走行トルク)を必要とする作動状況にあるときに、補正トルクΔTmによるポンプ吸収トルクの補正(ポンプ最大吸収トルクの減少)を行わせるためのものであり、メモリのテーブルには、トルクコンバータ速度比eが第1設定値よりも小さいときはα1=1であり、トルクコンバータ速度比eが第2設定値(>第1設定値)以上になるとα1=0であり、トルクコンバータ速度比eが第1設定値と第2設定値の間にあるときは、所定の割合(ゲイン)でトルクコンバータ速度比eが上昇するに従いα1が小さくなるようeとα1の関係が設定されている。
【0049】
作業状態判定部56は、圧力センサー42からのポンプ圧の検出信号を入力し、これをメモリに記憶してあるテーブルに参照させ、そのときのポンプ圧に対応する第2判定係数α2を演算する。第2判定係数α2は、油圧ポンプ22の吐出圧が高いとき(作業負荷が大きいとき)、つまり作業系2が重負荷作業を行う作動状況にあるときに、補正トルクΔTmによるポンプ吸収トルクの補正(ポンプ最大吸収トルクの減少制御)を行わせるためのものであり、メモリのテーブルには、ポンプ圧が第1設定値よりも低いときはα2=0であり、ポンプ圧が第2設定値(>第1設定値)以上になるとα2=1であり、ポンプ圧が第1設定値と第2設定値の間にあるときは、所定の割合(ゲイン)でポンプ圧が上昇するに従いα2が大きくなるようポンプ圧とα2の関係が設定されている。
【0050】
選択部57は、第1判定係数α1と第2判定係数α2の小さい方の値を選択し、第3判定係数α3とする。ここで、第1判定係数α1と第2判定係数α2が等しい場合は、選択部57は予め決めた論理によりそのうちの1つ、例えばα1を選択する。
【0051】
乗算部58は、補正トルク演算部53で演算した補正トルクΔTmに選択部57の出力である第3判定係数α3を乗じ、補正トルクΔTmaとする。
【0052】
加算部59は、ベーストルク演算部51で演算したポンプベーストルクTbに補正トルクΔTma(負の値)を加算し、補正したポンプベーストルクTmを算出する。このポンプベーストルクTmは既知の方法によりトルク制御電磁弁27の指令信号に変換され、トルク制御電磁弁27に出力される。これによりトルク制御電磁弁27は指令信号に応じた制御圧力をトルク制御レギュレータ26に出力し、トルク制御レギュレータ26に設定される最大ポンプ吸収トルクがTmとなるように調整する。
【0053】
図4はコントローラ45のエンジン制御に係わる処理機能を示す機能ブロック図である。
【0054】
図4において、コントローラ45は、アクセルペダル角目標回転数演算部61、回転数偏差演算部62、補正回転数演算部63、速度比演算部64、走行状態判定部65、作業状態判定部66、選択部67、乗算部68、加算部69の各機能を有している。
【0055】
アクセルペダル角目標回転数演算部61は、位置センサー41からのアクセルペダル角の検出信号を入力し、これをメモリに記憶してあるテーブルに参照させ、そのときのアクセルペダル角に対応する目標エンジン回転数(アクセルペダル角目標回転数)Npを演算する。目標回転数Npは作業時にオペレータが意図するエンジン回転数であり、メモリのテーブルには、アクセルペダル角が増大するに従って目標回転数Npが増大するように両者の関係が設定されている。
【0056】
回転数偏差演算部62は、図3の回転数偏差演算部62と同等の機能を有するものであり、回転センサー43により検出された実エンジン回転数Naからアクセルペダル角目標回転数Npを差し引いてエンジン回転数偏差ΔN(=Na−Np)を算出する。
【0057】
補正回転数演算部63は、回転数偏差演算部62で演算された回転数偏差ΔNを入力し、これをメモリに記憶してあるテーブルに参照させ、そのときの回転数偏差ΔNに対応する補正回転数ΔNmを演算する。補正回転数ΔNmは、油圧ポンプ22が最大吸収トルクを消費し、そのポンプ吸収トルク(作業負荷)とトルクコンバータ32の入力トルク(走行トルク)との和がエンジン1の出力トルクを超えるような高負荷の運転状態となったときにエンジン1の目標回転数を下げるためのものであり、メモリのテーブルには、実エンジン回転数Naが目標エンジン回転数Npに一致し、回転数偏差ΔNが0であるときはΔNm=0であり、実エンジン回転数Naが低下し、回転数偏差ΔNが負の値になると、ΔNm=ΔNc(<0)となるようにΔNとΔNmの関係が設定されている。
【0058】
速度比演算部64、走行状態判定部65、作業状態判定部66、選択部67は、図3の速度比演算部54、走行状態判定部55、作業状態判定部56、選択部57と同等の機能を有するものであり、それぞれ、トルクコンバータ速度比e、第1判定係数β1、第2判定係数β2、第3判定係数β3を算出する。
【0059】
第1判定係数β1は、トルクコンバータ速度比eが小さいとき(トルクコンバータ31がストールに近い状態にあるとき)、つまり走行系3が大きな走行力(走行トルク)を必要とする作動状況にあるときに、補正回転数ΔNmによる目標エンジン回転数の補正(目標エンジン回転数の低下制御)を行わせるためのものであり、メモリのテーブルには、トルクコンバータ速度比eとα1との関係と同様、トルクコンバータ速度比eが第1設定値よりも小さいときはβ1=1であり、トルクコンバータ速度比eが第2設定値(>第1設定値)以上になるとβ1=0であり、トルクコンバータ速度比eが第1設定値と第2設定値の間にあるときは、所定の割合(ゲイン)でトルクコンバータ速度比eが上昇するに従いβ1が小さくなるようeとβ1の関係が設定されている。
【0060】
第2判定係数β2は、油圧ポンプ22の吐出圧が高いとき(作業負荷が大きいとき)、つまり作業系2が重負荷作業を行う作動状況にあるときに、補正回転数ΔNmによる目標エンジン回転数の補正(目標エンジン回転数の低下制御)を行わせるためのものであり、メモリのテーブルには、ポンプ圧とα2との関係と同様、ポンプ圧が第1設定値よりも低いときはβ2=0であり、ポンプ圧が第2設定値(>第1設定値)以上になるとβ2=1であり、ポンプ圧が第1設定値と第2設定値の間にあるときは、所定の割合(ゲイン)でポンプ圧が上昇するに従いβ2が大きくなるようポンプ圧とβ2の関係が設定されている。
【0061】
乗算部68は、補正回転数演算部63で演算した補正回転数ΔNmに選択部67の出力である第3判定係数β3を乗じ、補正回転数ΔNmaとする。
【0062】
加算部69は、目標回転数演算部61で演算したアクセルペダル角目標回転数Npに補正回転数ΔNma(負の値)を加算し、補正した目標回転数Nmを算出する。この目標回転数Nmは、既知の方法により目標燃料噴射量に変換され、その指令信号が電子ガバナ11に出力される。これにより電子ガバナ11は指令信号に応じた燃料を噴射し、エンジン回転数がNmとなるよう制御する。
【0063】
以上において、トルク制御レギ26は、油圧ポンプ22の吸収トルクが予め定めた最大吸収トルクを超えないように制御するポンプトルク制御手段を構成し、アクセルペダル12は、エンジン1の目標回転数を指令する入力手段を構成し、回転数偏差演算部52,62、補正トルク演算部53、補正回転数演算部63、速度比演算部54,64、走行状態判定部55,65、作業状態判定部56,66は、走行作業車両の作動状態を判断する状態判断手段を構成し、補正トルク演算部53、補正回転数演算部63、乗算部58,68、加算部59,69は、上記状態判断手段の判断結果に応じて油圧ポンプ22の最大吸収トルクとエンジン1の目標回転数の両方を補正する補正制御手段を構成する。補正トルク演算部53と補正回転数演算部63は状態判断手段と補正制御手段を兼ねている。
【0064】
また、回転数偏差演算部52,62、補正トルク演算部53、補正回転数演算部63は、エンジン1の負荷状態を判断する第1判断手段を構成し、速度比演算部54,64、走行状態判定部55,65は、走行装置34(走行手段)の作動状況を判断する第2判断手段を構成し、走行状態判定部55,65は、油圧アクチュエータ(作業アクチュエータ)23a…23nの作動状況を判断する第3判断手段を構成し、上記補正制御手段(補正トルク演算部53、補正回転数演算部63、乗算部58,68、加算部59,69)は、第1判断手段でエンジン1が過負荷状態であると判断され、第2判断手段で走行手段34がトルクコンバータストールに近い状態にあると判断され、かつ第3判断手段で作業アクチュエータ23a…23nが高負荷状態であると判断されると、油圧ポンプ22の最大吸収トルクとエンジン1の目標回転数をそれぞれ小さくするよう補正する。
【0065】
次に、本実施の形態の動作を説明する。
【0066】
図5及び図6は、作業機力(油圧ポンプ22の負荷圧力)増加時のポンプ吸収トルクとトルコントルクとエンジン回転数の変化を示す図であり、図5は従来のシステムによるものを示し、図6は本発明のシステムによるものを示す。図中、横軸はエンジン1の回転数であり、縦軸はトルクである。また、TEは電子ガバナ11の燃料噴射量が最大となる全負荷領域におけるエンジン1の出力トルク(以下、適宜エンジントルクという)を示す特性線、TRは電子ガバナ11の燃料噴射量が最大となる前のレギュレーション領域(燃料噴射量の制御領域)におけるエンジン1の出力トルク(以下、適宜エンジントルクという)を示す特性線、TTはトルクコンバータ32の入力トルク(トルコントルク)を示す特性線である。図示のトルコントルク特性線TTはトルクコンバータ32がストール状態に近い状態(出力回転数が0に近く速度比e≒0)にある時のものである。
【0067】
走行作業車両(ホイールローダ)の作業として、アクセルペダル12をフル操作して行う作業であって、走行牽引力と作業機力の両方を用いて行う作業を考える。このような作業としては例えば地山掘削作業がある。地山の掘削作業では、最初は、走行牽引力でバケットを地山に押し込み、その後、作業機力でバケットを上方に持ち上げる。バケットが完全に持ち上がると、走行して場所を移動し放土する。走行牽引力でバケットを地山に押し込む作業の後半では、走行牽引力だけでなく作業機力も併用しながら行うことが多い。その後の作業機力でバケットを上方に持ち上げる作業の前半では、バケットを地山に押し込みながら行うことが多い。以下の説明では、前者の作業(走行牽引力と作業機力を併用しながら行うバケットを押し込む作業)を重負荷作業1といい、後者の作業(バケットを地山に押し込みながら作業機力でバケットを上方に持ち上げる作業)を重負荷作業2という。
【0068】
従来は、アクセルペダル12をフル操作した場合、アクセルペダル角目標回転数Npは常に最大目標回転数Nmaxであった。また、エンジン1の出力回転数(実回転数)が低下しても、油圧ポンプ22の最大吸収トルクTmaxは一定であった。その結果、図5において、重負荷作業1と重負荷作業2ではポンプ吸収トルクとトルコントルクとエンジン回転数は次のように変化していた。
【0069】
<重負荷作業1>
エンジン回転数(実回転数)=Nh≒Nmax
ポンプトルクTph
トルコントルク(走行牽引力)TTh
<重負荷作業2>
ポンプトルクTph→Tpi=Tpmaxに増
トルコントルク(走行牽引力)TTh→TTiに減
エンジン回転数(実回転数)=Nh≒Nmax→Niに減
これに対し、本実施の形態では、図3及び図4に示すように最大吸収トルクと目標エンジン回転数は可変である。その結果、図6において、重負荷作業1と重負荷作業2ではポンプ吸収トルクとトルコントルクとエンジン回転数は次のように変化する。
【0070】
<重負荷作業1>
エンジン回転数(実回転数)=Nh≒Nmax
目標エンジン回転数Nm=アクセルペダル角目標回転数Np(=Nmax)
ポンプトルクTph
トルコントルク(走行牽引力)TTh
<重負荷作業2>
ポンプトルクTph→Tpi≒Tph(ほとんど変わらず)
トルコントルク(走行牽引力)TTh→TTiに減
エンジン回転数(実回転数)=Nh≒Nmax→Niに減
目標エンジン回転数Nm=Np(Nmax)→Niに減
本実施の形態における重負荷作業1から重負荷作業2への上記状態の変化を図6と図3及び図4を用いて詳述する。
【0071】
<重負荷作業1>
重負荷作業1での油圧ポンプ22の吸収トルクTphはポンプ最大吸収トルクTmaxより小さく、ポンプ吸収トルクTph(作業負荷)とトルクコンバータ32の入力トルクであるトルコントルクTThとの和はエンジン1の出力トルクとほぼ釣り合っている。この場合は、図3において、回転数偏差演算部52で演算されるエンジン回転数偏差ΔN(=Na−Np)はほぼ0であり、補正トルク演算部53で演算される補正トルクΔTmもほぼ0である。よって、加算部59では、ベーストルク演算部51で演算したポンプベーストルクTbがそのまま補正ポンプベーストルクTmとして演算され、ポンプ最大吸収トルクTmax(=Tm)は変化しない。同様に、図4において、回転数偏差演算部62で演算されるエンジン回転数偏差ΔN(=Na−Np)はほぼ0であり、補正回転数演算部63で演算される補正回転数ΔNmもほぼ0である。よって、加算部69では、アクセルペダル角目標回転数演算部61で演算されるアクセルペダル角目標回転数Npがそのまま補正目標回転数Nmとして演算され、目標エンジン回転数Nm(Nmax)も変化しない。この場合は、エンジン回転数はNh(≒Nmax)に維持される。
【0072】
<重負荷作業2>
以上の状態から重負荷作業2に移行し、油圧ポンプ22が最大吸収トルクTmaxを消費し、ポンプ吸収トルクとトルコントルクの和がエンジン1の出力トルクを超えると、図3及び図4の回転数偏差演算部52,62で補正トルクΔTm及び補正回転数ΔNmが計算される。また、このときは、トルクコンバータ31はストールに近い状態にあり、油圧ポンプ22の吐出圧は図示しないメインリリーフ弁のリリーフ圧近辺の高圧であるため、図3及び図4の速度比演算部54,64で演算されるトルクコンバータ速度比eはほぼ0であり、走行状態判定部55,65で演算される第1判定係数α1,β1はほぼ1であるとともに、作業状態判定部56,66で演算される第2判定係数α2,β2もほぼ1である。このため図3及び図4の選択部57,67では第3判定係数α3,β3がほぼ1となり、乗算部58,68では補正トルクΔTm及び補正回転数ΔNmがそのまま補正トルクΔTmaとして演算され、加算部59ではポンプベーストルクTbに補正トルクΔTmが加算された値が補正ポンプベーストルクTmとして演算され、加算部69ではアクセルペダル角目標回転数Npに補正回転数ΔNmが加算された値が補正目標回転数Nmとして演算される。その結果、油圧ポンプ22の最大吸収トルクはTbからTb+ΔTmへと減少し、エンジン1の目標回転数はNpからNp+ΔNmへと低下する。このため図6において、エンジン1の特性線TE+TRは図示の如くXからYに変化し、油圧ポンプ22の最大吸収トルクTphは図5の如く増大せずに、Tphとほぼ同じ値のTpiに変化し、トルクコンバータ32の入力トルク(トルコントルク)はTThからTTiへと減少する。その結果、ポンプ吸収トルクTpiとトルコントルクTTiの和はエンジン1の出力トルクとレギュレーション領域の特性線TR上でバランスし、エンジン回転数は従来の場合と同様にNhからNiへと低下する。
【0073】
従って、本実施の形態によれば、次の作用効果が得られる。
<作用1>
重負荷作業2でのトルコントルク(走行牽引力)はTThからTTiへと減少する。しかし、この点は従来と同じである。一方、ポンプトルクはTpi≒Tphで従来のTpiより小さくなるため、油圧ポンプ22の吐出流量は従来に比べ少なくなる。しかし、重負荷作業2では油圧ポンプ22の吐出圧は高圧となるが、フロント作業機104の動きはゆっくりである場合が多い。よって、従来に比べ作業量が落ちることはない。
<作用2>
ポンプトルクはTpi≒Tphで従来のTpiより小さくなる。トルコントルク(走行牽引力)はTThからTTiに低減する。その結果、エンジン負荷(Tpi+TTi)は従来より減少する。このため目標回転数NmはNp(Nmax)からNiに低下する。このエンジン負荷の低減と目標回転数の低下により燃費が向上する。
【0074】
従って、本実施の形態によれば、走行作業車両の作動状態を判断してエンジン出力を走行出力と作業機出力にバランス良く配分することができると同時に、エンジン負荷の軽減も行えるので、重負荷作業時の作業量を確保しつつ低燃費化を図ることができる。
【0075】
また、走行状態判定部55には、トルクコンバータ速度比eが第1設定値と第2設定値の間にあるときは、所定の割合(ゲイン)でトルクコンバータ速度比eが上昇するに従いα1が小さくなるようeとα1の関係が設定され、作業状態判定部56には、ポンプ圧が第1設定値と第2設定値の間にあるときは、所定の割合(ゲイン)でポンプ圧が上昇するに従いα2が大きくなるようポンプ圧とα2の関係が設定されている。作業機側の油圧ポンプ22は可変容量型である。このため、トルクコンバータ速度比eが第1設定値と第2設定値の間にあるとき、或いはポンプ圧が第1設定値と第2設定値の間にあるときは、それらの大きさに応じて補正トルクΔTmの大きさが補正され、走行装置34の作動状況或いは作業アクチュエータ23a…23nの作動状況に応じて油圧ポンプ22の最大吸収トルクの補正量を変えることができる。このように最大吸収トルクの補正量を変えることによって、ポンプ容量を任意の値に制御することができ、エンジン1の出力配分に柔軟性を持たせることができる。
【0076】
更に、本実施の形態では、走行状態判定部65には、トルクコンバータ速度比eが第1設定値と第2設定値の間にあるときは、所定の割合(ゲイン)でトルクコンバータ速度比eが上昇するに従いβ1が小さくなるようeとβ1の関係が設定され、作業状態判定部66には、それぞれ、ポンプ圧が第1設定値と第2設定値の間にあるときは、所定の割合(ゲイン)でポンプ圧が上昇するに従いβ2が大きくなるようポンプ圧とβ2の関係が設定されている。このため、トルクコンバータ速度比eが第1設定値と第2設定値の間にあるとき、或いはポンプ圧が第1設定値と第2設定値の間にあるときは、それらの大きさに応じて補正回転数ΔNmの大きさが補正され、走行装置34の作動状況或いは作業アクチュエータ23a…23nの作動状況に応じて目標エンジン回転数或の補正量も変えることができる。このように目標エンジン回転数の補正量を変えることによって、エンジン1の出力配分に更に柔軟性を持たせることができる。
【0077】
なお、以上述べた実施の形態は、本発明の精神の範囲内で種々の変形が可能である。例えば、上記実施の形態では、走行作業車両としてホイールローダについて説明したが、トルクコンバータ付きのものであればそれ以外の走行式油圧作業機に適用しても、同様の効果が得られる。ホイールローダ以外のトルクコンバータ付き走行作業車両としては、テレスコピックハンドラー、ホイールショベル等がある。
【0078】
また、コントローラ4のポンプ制御部(図3)とエンジン制御部(図4)のそれぞれに回転数偏差演算部52,62、速度比演算部54,64、走行状態判定部55,65、作業状態判定部56,66、選択部57,67を設けたが、それらは1づつ設け、兼用してもよい。
【0079】
また、ポンプベーストルクTb、アクセルペダル角目標回転数Npの補正方法として、補正トルクΔTm、補正回転数ΔNm、第3判定係数α3,β3を計算し、それらの乗算値をポンプベーストルクTb、アクセルペダル角目標回転数Npに加算したが、同等の結果が得られるのであれば、他の方法でもよい。他の方法としては、例えば、選択部57,67の出力を補正トルク或いは補正回転数にし、演算部53,63側で補正係数を計算する、或いは両方とも補正トルク、補正回転数を出力して加算する、或いは両方とも補正係数を出力してポンプベーストルクTb、アクセルペダル角目標回転数Npに乗算するなどがある。
【0080】
更に、作業アクチュエータの作動状況を判断するのに油圧ポンプ22の吐出圧を検出したが、それに代え、或いはそれと併用し、図示しない作業機用操作手段の操作信号を検出してもよく、この場合より正確に作業アクチュエータの作動状況を把握することができる。
【図面の簡単な説明】
【0081】
【図1】本発明の一実施の形態による走行作業車両の制御装置を備えた全体システムを示す図である。
【図2】図1に示したシステムが搭載される走行作業車両の一例としてホイールローダの外観を示す図である。
【図3】コントローラのポンプ制御に係わる処理機能を示す機能ブロック図である。
【図4】コントローラのエンジン制御に係わる処理機能を示す機能ブロック図である。
【図5】作業機力増加時のポンプ吸収トルクとトルコントルクとエンジン回転数の変化を示す図であって、従来のシステムによるものを示す図である。
【図6】作業機力増加時のポンプ吸収トルクとトルコントルクとエンジン回転数の変化を示す図であって、本発明のシステムによるものを示す図である。
【符号の説明】
【0082】
1 エンジン
2 作業系
3 走行系
4 制御系
11 電子ガバナ(燃料噴射装置)
12 アクセルペダル
21 トランスミッション
22 油圧ポンプ
23a…23n 油圧アクチュエータ
24a…24n 方向切換弁
25 弁装置
26 トルク制御レギュレータ
27 トルク制御電磁弁
28 パイロット油圧ポンプ
31 出力軸
32 トルクコンバータ
33 出力軸
34 走行装置
41 位置センサー
42 圧力センサー
43 回転センサー
44 回転センサー
45 コントローラ
51 ベーストルク演算部
52 回転数偏差演算部
53 補正トルク演算部
54 速度比演算部
55 走行状態判定部
56 作業状態判定部
57 選択部
58 乗算部
59 加算部
61 アクセルペダル角目標回転数演算部
62 回転数偏差演算部
63 補正回転数演算部
64 速度比演算部
65 走行状態判定部
66 作業状態判定部
67 選択部
68 乗算部
69 加算部
100 ホイールローダ
101 車体前部
102 車体後部
103 ステアリングシリンダ
104 フロント作業機
105 前輪
106 運転席
107 後輪
111 バケット
112 リフトアーム
113 バケットシリンダ
114 アームシリンダ

【特許請求の範囲】
【請求項1】
エンジンと、
このエンジンの回転数を制御する燃料噴射装置と、
前記エンジンにより駆動される走行用のトルクコンバータを含む走行手段と、
前記エンジンにより駆動される可変容量型の油圧ポンプと、
この油圧ポンプの吐出油により駆動される作業アクチュエータとを備えた走行作業車両の制御装置において、
前記油圧ポンプの吸収トルクが予め定めた最大吸収トルクを超えないように制御するポンプトルク制御手段と、
前記エンジンの目標回転数を指令する入力手段と、
前記走行作業車両の作動状態を判断する状態判断手段と、
前記状態判断手段の判断結果に応じて前記油圧ポンプの最大吸収トルクと前記エンジンの目標回転数の両方を補正する補正制御手段とを備えることを特徴とする走行作業車両の制御装置。
【請求項2】
請求項1記載の走行作業車両の制御装置において、
前記状態判断手段は、前記エンジンの負荷状態を判断する第1判断手段を含み、
前記補正制御手段は、前記第1判断手段で前記エンジンが過負荷状態であると判断されると、前記油圧ポンプの最大吸収トルクと前記エンジンの目標回転数をそれぞれ小さくするよう補正することを特徴とする走行作業車両の制御装置。
【請求項3】
請求項1記載の走行作業車両の制御装置において、
前記状態判断手段は、前記エンジンの負荷状態を判断する第1判断手段と、前記走行手段の作動状況を判断する第2判断手段とを含み、
前記補正制御手段は、前記第1判断手段で前記エンジンが過負荷状態であると判断され、前記第2判断手段で前記走行手段がトルクコンバータストールに近い状態にあると判断されると、前記油圧ポンプの最大吸収トルクと前記エンジンの目標回転数をそれぞれ小さくするよう補正することを特徴とする走行作業車両の制御装置。
【請求項4】
請求項1記載の走行作業車両の制御装置において、
前記状態判断手段は、前記エンジンの負荷状態を判断する第1判断手段と、前記走行手段の作動状況を判断する第2判断手段と、前記作業アクチュエータの作動状況を判断する第3判断手段とを含み、
前記補正制御手段は、前記第1判断手段で前記エンジンが過負荷状態であると判断され、前記第2判断手段で前記走行手段がトルクコンバータストールに近い状態にあると判断され、かつ前記第3判断手段で前記作業アクチュエータが高負荷状態であると判断されると、前記油圧ポンプの最大吸収トルクと前記エンジンの目標回転数をそれぞれ小さくするよう補正することを特徴とする走行作業車両の制御装置。
【請求項5】
請求項2〜4のいずれか1項記載の走行作業車両の制御装置において、
前記第1判断手段は、
前記エンジンの実回転数を検出する手段と、
前記目標回転数と実回転数の偏差を計算し、この回転数偏差により前記エンジンの負荷状態を判断する手段とを有することを特徴とする走行作業車両の制御装置。
【請求項6】
請求項3又は4記載の走行作業車両の制御装置において、
前記第2判断手段は、
前記トルクコンバータの入力側の回転数を検出する手段と、
前記トルクコンバータの出力側の回転数を検出する手段と、
前記トルクコンバータの入力側の回転数と出力側の回転数に基づきトルクコンバータ速度比を演算し、このトルクコンバータ速度比により前記走行手段の作動状況を判断する手段とを有することを特徴とする走行作業車両の制御装置。
【請求項7】
請求項4記載の走行作業車両の制御装置において、
前記第3判断手段は、
前記油圧ポンプの負荷圧力を検出する手段と、この油圧ポンプの負荷圧力により前記作業アクチュエータの作動状況を判断する手段とを有することを特徴とする走行作業車両の制御装置。
【請求項8】
請求項2〜4のいずれか1項記載の走行作業車両の制御装置において、
前記補正制御手段は、前記第1判断手段で前記エンジンが過負荷状態であると判断されたときにトルク補正値及び回転数補正値を演算する手段と、基準最大吸収トルクと前記トルク補正値との差を演算して補正後の最大吸収トルクを求める手段と、前記入力手段が指令する前記エンジンの目標回転数と前記回転数補正値との差を演算して補正後の目標回転数を求める手段とを有することを特徴とする走行作業車両の制御装置。
【請求項9】
請求項3又は4記載の走行作業車両の制御装置において、
前記補正制御手段は、前記第1判断手段で前記エンジンが過負荷状態であると判断されたときに第1トルク補正値及び第1回転数補正値を演算する手段と、前記第2判断手段で前記走行手段がトルクコンバータストールに近い状態にあると判断されたときに第2トルク補正値及び第2回転数補正値を演算する手段と、前記第1トルク補正値と第2トルク補正値との演算を行い、最終的なトルク補正値を決定する手段と、前記第1回転数補正値と第2回転数補正値との演算を行い、最終的な回転数補正値を決定する手段と、基準最大吸収トルクと前記最終的なトルク補正値との差を演算して補正後の最大吸収トルクを求める手段と、前記入力手段が指令する前記エンジンの目標回転数と前記最終的な回転数補正値との差を演算して補正後の目標回転数を求める手段とを有することを特徴とする走行作業車両の制御装置。
【請求項10】
請求項4記載の走行作業車両の制御装置において、
前記補正制御手段は、前記第1判断手段で前記エンジンが過負荷状態であると判断されたときに第1トルク補正値及び第1回転数補正値を演算する手段と、前記第2判断手段で前記走行手段がトルクコンバータストールに近い状態にあると判断されたときに第2トルク補正値及び第2回転数補正値を演算する手段と、前記第3判断手段で前記作業アクチュエータが高負荷状態であると判断されたときに第3トルク補正値及び第3回転数補正値を演算する手段と、前記第1トルク補正値と第2トルク補正値と第3トルク補正値との演算を行い、最終的なトルク補正値を決定する手段と、前記第1回転数補正値と第2回転数補正値と第3回転数補正値との演算を行い、最終的な回転数補正値を決定する手段と、基準最大吸収トルクと前記最終的なトルク補正値との差を演算して補正後の最大吸収トルクを求める手段と、前記入力手段が指令する前記エンジンの目標回転数と前記最終的な回転数補正値との差を演算して補正後の目標回転数を求める手段とを有することを特徴とする走行作業車両の制御装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【公開番号】特開2006−169974(P2006−169974A)
【公開日】平成18年6月29日(2006.6.29)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2004−359648(P2004−359648)
【出願日】平成16年12月13日(2004.12.13)
【出願人】(000005522)日立建機株式会社 (2,611)
【Fターム(参考)】