説明

走行支援装置及び方法

【課題】運転者の意図によって1次操舵後に2次操舵を行う場合に、不要な支援を低減する技術を提供する。
【解決手段】車輌の走行可能な走路からの車輌逸脱時に、車輌を前記走路内で走行させるように警告又は補助の支援を行う走行支援装置であって、1次操舵量が前記支援を停止するか否かの閾値となる第1所定量を超えたことにより、前記支援を停止しているときに、さらに2次操舵量が前記支援の停止を延長するか否かの閾値となる第2所定量を超える場合には、前記支援の停止を延長する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、走行支援装置及び走行支援方法に関する。
【背景技術】
【0002】
操舵角速度が設定閾値以上になってから設定時間後に操舵角が設定操舵角以上である場合に、運転者による操舵介入であると判定し、車線逸脱対応支援機能を停止させる技術が開示されている(例えば特許文献1参照)。特許文献1の技術によると、運転者による操舵介入と外乱の影響とを区別することができ、不要な警報や修正操舵を減らすことができる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特開2003−081115号公報
【特許文献2】特開2003−237610号公報
【特許文献3】特開2004−189140号公報
【特許文献4】特開平11−091606号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
ところで、運転者による車両の操舵として、1次操舵後に2次操舵を伴う場合がある。特許文献1等の従来の技術では、1次操舵に対して警告又は補助の支援を停止させるものであったので、2次操舵中には警告又は補助の支援が再開されていることがあった。このように2次操舵中に警告又は補助の支援が実施されてしまうと、運転者にとって不要支援となり支援が煩わしいものとなる。
【0005】
本発明の目的は、運転者の意図によって1次操舵後に2次操舵を行う場合に、不要な支援を低減する技術を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明にあっては、以下の構成を採用する。すなわち、本発明は、
車輌の走行可能な走路からの車輌逸脱時に、車輌を前記走路内で走行させるように警告又は補助の支援を行う走行支援装置であって、
1次操舵量が前記支援を停止するか否かの閾値となる第1所定量を超えたことにより、前記支援を停止しているときに、さらに2次操舵量が前記支援の停止を延長するか否かの閾値となる第2所定量を超える場合には、前記支援の停止を延長することを特徴とする走行支援装置である。
【0007】
ここで、第1所定量とは、運転者の意図による1次操舵量が走行支援装置による警告又は補助の支援を停止するか否かの閾値となる量であり、1次操舵量が第1所定量を超えると走行支援装置による警告又は補助の支援が停止される。第2所定量とは、運転者の意図による2次操舵量が走行支援装置による警告又は補助の支援の停止を延長するか否かの閾値となる量であり、2次操舵量が第2所定量を超えると走行支援装置による警告又は補助の支援の停止が延長される。
【0008】
本発明によると、1次操舵後に2次操舵を伴う場合に、2次操舵に対して走行支援装置による警告又は補助の支援の停止を延長することができる。これによって、2次操舵中に走行支援装置による警告又は補助の支援が実施されない。したがって、運転者の意図によ
って1次操舵後に2次操舵を行う場合に、不要な支援を低減することができる。
【0009】
前記第2所定量は、車輌の進行方向の走行不可域を検知している場合には、車輌の進行方向の走行不可域を検知していない場合と比較して、より小さい値に変更されるとよい。
【0010】
車輌の進行方向に走行不可域が存在する場合には、運転者は1次操舵で走行不可域を回避し、2次操舵で車輌を走路中心に戻す可能性が高い。つまり、車輌の進行方向に走行不可域が存在する場合には、運転者の意図により1次操舵後に2次操舵を行う可能性が高い。このため、車輌の進行方向の走行不可域を検知している場合には、車輌の進行方向の走行不可域を検知していない場合と比較して、第2所定量をより小さい値に変更し、操舵量の小さい2次操舵中に走行支援装置による警告又は補助の支援が実施されないようにする。
【0011】
本発明にあっては、以下の構成を採用する。すなわち、本発明は、
車輌の走行可能な走路からの車輌逸脱時に、車輌を前記走路内で走行させるように警告又は補助の支援を行う走行支援方法であって、
1次操舵量が前記支援を停止するか否かの閾値となる第1所定量を超えたことにより、前記支援を停止しているときに、さらに2次操舵量が前記支援の停止を延長するか否かの閾値となる第2所定量を超える場合には、前記支援の停止を延長することを特徴とする走行支援方法である。
【0012】
本発明によっても、運転者の意図によって1次操舵後に2次操舵を行う場合に、不要な支援を低減することができる。
【発明の効果】
【0013】
本発明によると、運転者の意図によって1次操舵後に2次操舵を行う場合に、不要な支援を低減することができる。
【図面の簡単な説明】
【0014】
【図1】本発明の実施例1に係る運転支援装置の構成を機能別に示すブロック図である。
【図2】実施例1に係る1次操舵後に2次操舵を伴う場合の車輌の様子を示す図である。
【図3】実施例1に係る1次操舵後に2次操舵を伴う場合に運転支援処理の実行を制限する状態を示す図である。
【図4】実施例1に係る1次操舵後に2次操舵を伴う場合の運転者意図判定ルーチンを示すフローチャートである。
【発明を実施するための形態】
【0015】
以下に本発明の具体的な実施例を説明する。ここでは、車線や走行不可域を認識し、認識した車線や走行不可域に基づき走路を設定し、自車輌の走路からの逸脱を回避するための運転支援処理を行う運転支援装置(走行支援装置、例えば、LDW、LDP等)について説明する。なおここでいう運転支援処理は、車輌が緊急停止してしまう場合や車輌と障害物との衝突が不可避な場合に実行される衝突被害軽減処理より早く実行され、走行自体は継続できるように支援を行うものである。このため、本発明の運転支援装置は、衝突被害軽減処理を行う運転支援装置(例えば、PCS等)とは異なるものである。また、以下の実施例において説明する構成は、本発明の一実施態様を示すものであり、本発明の構成を限定するものではない。
【0016】
<実施例1>
(運転支援装置)
図1は、本発明の実施例1に係る運転支援装置(走行支援装置)の構成を機能別に示すブロック図である。図1に示すように、車輌には、運転支援装置を構成する運転支援用の電子制御ユニット(ECU)1が搭載されている。
【0017】
ECU1は、CPU、ROM、RAM、バックアップRAM、I/Oインターフェイス等を備えた電子制御ユニットである。ECU1には、レーダ装置2、車外用カメラ3、ドライバー用カメラ4、ヨーレートセンサ5、車輪速センサ6、ブレーキセンサ7、アクセルセンサ8、ウィンカースイッチ9、舵角センサ10、操舵トルクセンサ11等の各種センサが電気的に接続され、それらセンサの出力信号がECU1へ入力される。
【0018】
レーダ装置2は、車輌の前部に取り付けられ、車輌の前方へミリ波を送信すると共に車外の障害物により反射された反射波を受信することにより、車輌に対する障害物の相対位置に関する情報(例えば座標情報)を出力する。車外用カメラ3は、車室内において車輌前方を視野に捉えることができる位置に配置され、車輌前方の画像を出力する。ドライバー用カメラ4は、車室内において運転者を視野に捉えることができる位置に配置され、運転者の画像を出力する。ヨーレートセンサ5は、車体に取り付けられ、車輌のヨーレートに相関する電気信号を出力する。車輪速センサ6は、車輌の車輪に取り付けられ、車輌の走行速度に相関する電気信号を出力する。
【0019】
ブレーキセンサ7は、車室内のブレーキペダルに取り付けられ、ブレーキペダルの操作トルク(踏力)に相関する電気信号を出力する。アクセルセンサ8は、車室内のアクセルペダルに取り付けられ、アクセルペダルの操作トルク(踏力)に相関する電気信号を出力する。ウィンカースイッチ9は、車室内のウィンカーレバーに取り付けられ、ウィンカーレバーが操作されたときにウィンカー(方向指示器)が示す方向に相関する電気信号を出力する。舵角センサ10は、車室内のステアリングホイールに接続されたステアリングロッドに取り付けられ、ステアリングホイールの中立位置からの回転角度に相関する電気信号を出力する。操舵トルクセンサ11は、ステアリングロッドに取り付けられ、ステアリングホイールに入力されるトルク(操舵トルク)に相関する電気信号を出力する。
【0020】
また、ECU1には、ブザー12、表示装置13、電動パワーステアリング(EPS)14、電子制御式ブレーキ(ECB)15等の各種機器が接続され、それら各種機器がECU1によって電気的に制御されるようになっている。
【0021】
ブザー12は、車室内に取り付けられ、警告音等を出力する。表示装置13は、車室内に取り付けられ、各種メッセージや警告灯を表示する。電動パワーステアリング(EPS)14は、電動モータが発生するトルクを利用して、ステアリングホイールの操作を補助する。電子制御式ブレーキ(ECB)15は、各車輪に設けられた摩擦ブレーキの作動油圧(ブレーキ油圧)を電気的に調整する。
【0022】
ECU1は、上記した各種センサの出力信号を利用して各種機器を制御するために、以下のような機能を有している。すなわち、ECU1は、障害物情報処理部100、車線情報処理部101、意識低下判定部102、運転者意図判定部103、統合認識処理部104、共通支援判定部105、警報判定部106、制御判定部107、及び、制御量演算部108を備えている。
【0023】
障害物情報処理部100は、レーダ装置2から出力される複数の障害物等の走行不可域の座標情報に基づいて、複数の走行不可域を回避することができる回帰直線を近似的に求め、その回帰直線の座標情報や回帰直線に対する車輌のヨー角等を含む情報を生成する。また、レーダ装置2により単体の障害物等の走行不可域が検出された場合は、その走行不
可域の座標情報や走行不可域に対する車輌のヨー角に関する情報も生成する。なお、障害物情報処理部100は、車外用カメラ3により撮像された画像に基づいて、走行不可域に関する情報を生成してもよい。走行不可域とは、ガードレール、柵、側壁、縁石、歩行者、自転車、他車輌等の障害物や、側溝、凹部、段差等の車輌走行平面と高低差のある領域が挙げられる。走行不可域には、車輌が走行できない領域の他に、車輌を走行させたくない領域や車輌の走行が好ましくない領域が含まれる。
【0024】
車線情報処理部101は、車外用カメラ3により撮像された画像に基づいて、車線に関する情報や車線に対する車輌の姿勢に関する情報を生成する。車線に関する情報は、車線境界を示す道路標示に関する情報や、当該道路標示で規定される車線の幅に関する情報である。車線境界を示す道路標示とは、道路表面における、白線、黄線、点線等の線(区画線)、道路鋲、発光体等といった中央分離帯や車線間の仕切り、アスファルトと砂利との境界といった車道と車道以外との境界等が挙げられる。車線に対する車輌の姿勢に関する情報は、車線境界を示す道路標示と車輌との距離に関する情報、車線中央部に対する車輌位置のオフセット量に関する情報、車線境界を示す道路標示に対する車輌進行方向のヨー角に関する情報である。なお、車輌がナビゲーションシステムを搭載している場合には、車線情報処理部101は、ナビゲーションシステムが有する地図情報とGPS情報とから車線に関する情報を生成してもよい。
【0025】
意識低下判定部102は、ドライバー用カメラ4により撮像された画像に基づいて、運転者の意識低下度(覚醒度)を判定する。意識低下判定部102は、ドライバー用カメラ4により撮像された画像から運転者の閉眼時間や閉眼頻度を演算し、閉眼時間又は閉眼頻度が上限値を超えたときに運転者の意識が低下していると判定(覚醒度が低いと判定)する。また、意識低下判定部102は、ドライバー用カメラ4により撮像された画像から運転者の顔の向きや視線の方向が車輌進行方向から逸脱している時間を演算し、算出された時間が上限値を超えたときに運転者が脇見をしていると判定してもよい。
【0026】
運転者意図判定部103は、車輪速センサ6、ブレーキセンサ7、アクセルセンサ8、ウィンカースイッチ9、舵角センサ10、及び操舵トルクセンサ11の出力信号に基づいて、ブレーキペダルの操作量の変化、アクセルペダルの操作量の変化、或いはステアリングホイールの操作(操舵)量の変化が、運転者の意図に因るものであるか否かを判別する。運転者意図判定部103は、舵角センサ10の検出する操舵量が所定量を超えると、運転者の意図による操舵が行われていると判断する。
【0027】
統合認識処理部104は、障害物情報処理部100により生成された情報と、車線情報処理部101により生成された情報とに基づいて、車輌が走行可能な走路を設定し、走路境界に対する車輌のヨー角や、走路中央部に対する車輌のオフセット量を求める。基本的には、走路としては、車線幅そのものに設定される。つまり、車線そのものが走路の境界に相当する。なお、車線の幅が狭い道路においては、運転者は、車輌を車線から逸脱させざるを得ない場合がある。これに対し、統合認識処理部104は、車線の幅が狭い道路については、車線境界を示す道路標示に関する情報と、車線の周囲に存在する走行不可域に関する情報と、に基づいて、車線を逸脱して走路を設定するようにしてもよい。つまり、統合認識処理部104は、車線境界を示す道路標示から当該道路標示を逸脱する仮の走路を設定し、その仮の走路と走行不可域とから当該道路標示を逸脱する正規の走路を設定するようにしてもよい。また、統合認識処理部104は、障害物情報処理部100から単体の走行不可域に関する情報を受け取った場合は、その走行不可域の長さを道路と平行に延長することにより、走路を設定するようにしてもよい。すなわち、統合認識処理部104は、座標上の点として検出された走行不可域について、座標上の線とみなして走路の設定を行うようにしてもよい。その際の延長量(線の長さ)は、車輪速センサ6の出力信号(車速)が高い時や線に対する車輌のヨー角が大きい時は、車速が低い時や線に対するヨー
角が小さい時より長くされてもよい。
【0028】
また、統合認識処理部104によって設定される走路には、認識度LRが付与される。この走路の認識度LRとは、障害物情報処理部100により生成された情報による走行不可域の精度(存在の確かさ)と、車線情報処理部101により生成された情報による車線境界を示す道路標示の精度(存在の確かさ)と、を組み合わせて設定される走路の精度(確かさ)を数値化して表したものであり、高い程、良いとされる。つまり、走路の認識度LRは、警告又は補助を行うか否かを判別するための度合であり、認識度LRが第1閾値(所定の閾値)以上であると警告又は補助を行い、認識度LRが第1閾値(所定の閾値)よりも低いと警告又は補助を行わないものである。統合認識処理部104による走路の認識度LRの具体的な算出方法は、走路の認識度LRと検出エッジ点数との関係を表したマップを用いる。障害物情報処理部100により生成された情報による走行不可域の精度(存在の確かさ)と、車線情報処理部101により生成された情報による車線境界を示す道路標示の精度(存在の確かさ)と、は、夫々の検出時の検出エッジ点数に比例する。つまり、走行不可域の精度及び車線境界を示す道路標示の精度は、検出エッジ点数が多い程、高いとされる。このため、走路を設定する際に用いられた走行不可域及び車線境界を示す道路標示の検出エッジ点数をマップに取り込むことで、走路の認識度LRを算出することができる。また、検出エッジ点数が所定点数以上とならない場合には、走路自体が設定されないようにしてもよい。
【0029】
共通支援判定部105は、統合認識処理部104により生成された情報と、意識低下判定部102の判定結果と、運転者意図判定部103の判定結果と、に基づいて、運転支援処理を実行するか否かを判別する。共通支援判定部105は、意識低下判定部102により運転者の意識が低下している、或いは運転者が脇見をしていると判定された場合に、運転支援処理の実行を許可してもよい。また、共通支援判定部105は、運転者意図判定部103により運転者が意図的な操作を行っていると判定された場合には、運転支援処理の実行を制限してもよい。また、共通支援判定部105は、統合認識処理部104により算出された走路の認識度LRが予め定めた第1閾値Rth以上の場合に、無条件で運転支援処理を実行する。一方、走路の認識度LRが予め定めた第1閾値Rthよりも低い場合には、運転支援処理を実行しない。或いは、走路の認識度LRが予め定めた第1閾値Rthよりも低い場合には、ある特別な条件が成立する場合に運転支援処理を実行できるようにしてもよい。ここで、第1閾値Rthは、走路の認識度LRだけで無条件で運転支援処理を実行するか否かを判別するために設けられた閾値であり、それよりも走路の認識度LRが高いと無条件で運転支援処理を実行することができる。よって、走路の認識度LRが第1閾値Rthよりも低いと、通常では、運転支援処理の実行を制限する。しかしながら、走路の認識度LRが第1閾値Rthよりも低く、運転支援処理の実行を制限する条件であっても、運転者の覚醒度と運転操作の度合との少なくともいずれかが低い場合等には、運転支援処理を実行させるようにしてもよい。
【0030】
警報判定部106は、共通支援判定部105により運転支援処理の実行が許可された場合に、ブザー12の鳴動タイミングや、表示装置13による警告メッセージ又は警告灯の表示タイミングを決定する。警報判定部106は、車輌幅方向において車輌と走路境界との距離が予め定めた距離以下になった時や0になった時や、車輌が走路境界を越えた時に、ブザー12の鳴動や、表示装置13による警告メッセージ又は警告灯に表示を行うようにしてもよい。なお、警報判定部106は、走路境界を基準にブザー12の鳴動や、表示装置13による警告メッセージ又は警告灯に表示を行うだけでなく、走路境界をポテンシャル的に幅広く捉え、走路から外れる方向程ブザー12の鳴動を大きくしたり表示装置13による警告メッセージ又は警告灯に表示を大きくしたりしてもよい。また、警報判定部106は、車輌幅方向において車輌が走路境界に到達するまでの時間(TLC(Time to lane crossing))が予め定めた時間以下となった時に、ブザー12の鳴動や、表示装置
13による警告メッセージ又は警告灯に表示を行うようにしてもよい。また、車輌がカーブに進入する場合や車輌がカーブを走行している場合には、警報判定部106は、車輌進行方向において車輌と走路境界との距離が予め定めた距離以下になった時や0になった時や、車輌が走路境界を越えた時に、ブザー12の鳴動や、表示装置13による警告メッセージ又は警告灯に表示を行うようにしてもよい。また、車輌がカーブに進入する場合や車輌がカーブを走行している場合には、警報判定部106は、車輌進行方向において車輌が走路境界に到達するまでの時間が予め定めた時間以下となった時に、ブザー12の鳴動や、表示装置13による警告メッセージ又は警告灯に表示を行うようにしてもよい。これら警報判定部106がブザー12の鳴動や、表示装置13による警告メッセージ又は警告灯に表示を行うタイミングが支援実施タイミングに対応する。
【0031】
ここで、警報判定部106がブザー12の鳴動や、表示装置13による警告メッセージ又は警告灯に表示を行うようにさせる、予め定めた距離や予め定めた時間は、車輪速センサ6の出力信号(車速)やヨーレートセンサ5の出力信号(ヨーレート)に応じて変更される値である。車速が高い時は低い時に比べ、予め定めた距離が長く設定され、又は予め定めた時間が長く設定される。また、ヨーレートが大きい時は小さい時に比べ、予め定めた距離が長く設定され、又は予め定めた時間が長く設定される。
【0032】
なお、運転者に対する警告の方法は、ブザー12の鳴動や表示装置13における警告メッセージ又は警告灯の表示に限られず、シートベルトの締め付けトルクを断続的に変化させる方法等を採用してもよい。
【0033】
制御判定部107は、共通支援判定部105により運転支援処理の実行が許可された場合に、走路からの逸脱を回避するために、電動パワーステアリング(EPS)14や電子制御式ブレーキ(ECB)15を作動させるか否かを決定する。制御判定部107は、車輌幅方向において車輌と走路境界との距離が予め定めた距離以下になった時や0になった時や、車輌が走路境界を越えた時に、電動パワーステアリング(EPS)14や電子制御式ブレーキ(ECB)15を作動させるようにしてもよい。また、制御判定部107は、車輌幅方向において車輌が走路境界に到達するまでの時間が予め定めた時間以下となった時に、電動パワーステアリング(EPS)14や電子制御式ブレーキ(ECB)15を作動させるようにしてもよい。また、車輌がカーブに進入する場合や車輌がカーブを走行している場合には、制御判定部107は、車輌進行方向において車輌と走路境界との距離が予め定めた距離以下になった時や0になった時や、車輌が走路境界を越えた時に、電動パワーステアリング(EPS)14や電子制御式ブレーキ(ECB)15を作動させるようにしてもよい。また、車輌がカーブに進入する場合や車輌がカーブを走行している場合には、制御判定部107は、車輌進行方向において車輌が走路境界に到達するまでの時間が予め定めた時間以下となった時に、電動パワーステアリング(EPS)14や電子制御式ブレーキ(ECB)15を作動させるようにしてもよい。これら制御判定部107が電動パワーステアリング(EPS)14や電子制御式ブレーキ(ECB)15を作動させるタイミングが支援実施タイミングに対応する。
【0034】
制御判定部107が使用する予め定めた距離や予め定めた時間は、警報判定部106が使用する予め定めた距離や予め定めた時間と同様に車速やヨーレートに応じて変更されるが、警報判定部106が使用する予め定めた距離や予め定めた時間よりも短く設定されるとよい。
【0035】
制御量演算部108は、制御判定部107により電動パワーステアリング(EPS)14や電子制御式ブレーキ(ECB)15の作動要求が発生した時に、電動パワーステアリング(EPS)14や電子制御式ブレーキ(ECB)15の制御量を演算すると共に、算出された制御量に従って電動パワーステアリング(EPS)14や電子制御式ブレーキ(
ECB)15を作動させる。制御量演算部108は、統合認識処理部104により生成された情報と、車輪速センサ6の出力信号(車速)と、ヨーレートセンサ5の出力信号(ヨーレート)と、をパラメータとして、走路逸脱を回避するために必要な目標ヨーレートを演算する。詳細には、制御量演算部108は、走路境界との相対距離をD、車輌の速度(車速)をV、走路境界に対する車輌のヨー角をθとした場合に、以下の式により目標ヨーレートYtrgを演算する。
Ytrg=(θ・Vsinθ)/D
【0036】
制御量演算部108は、目標ヨーレートYtrgを引数として、電動パワーステアリング(EPS)14の制御量(操舵トルク)と電子制御式ブレーキ(ECB)15の制御量(ブレーキ油圧)とを求める。その際、目標ヨーレートYtrgと操舵トルクとの関係、及び目標ヨーレートYtrgとブレーキ油圧との関係は、予めマップ化されていてもよい。なお、目標ヨーレートYtrgが予め定めた値(走路逸脱の回避を操舵のみで達成し得るヨーレートの最大値)より小さい時には、電子制御式ブレーキ(ECB)15のブレーキ油圧は0に設定されてもよい。また、電子制御式ブレーキ(ECB)15が作動する際に、車輌の左右輪の摩擦ブレーキに対して異なるブレーキ油圧が印加されると、電動パワーステアリング(EPS)14により発生させられるヨーレートと干渉するヨーレートが発生してしまう。そのため、左右輪の摩擦ブレーキに対して同等のブレーキ油圧が印加されることが望ましい。なお、制御量演算部108は、走路境界を基準に電動パワーステアリング(EPS)14や電子制御式ブレーキ(ECB)15を作動させるだけでなく、走路境界をポテンシャル的に幅広く捉え、走路から外れる方向程その制御量を大きくするものでもよい。
【0037】
なお、車輌を減速させる方法は、電子制御式ブレーキ(ECB)15により摩擦ブレーキを作動させる方法に限られず、車輌の運動エネルギを電気エネルギに変換(回生)させる方法や、変速機の変速比を変更させてエンジンブレーキを増大させる方法を用いてもよい。
【0038】
以上述べた運転支援装置によれば、障害物等の走行不可域や車線に基づいて設定された走路からの逸脱を運転者に警告したり、走路逸脱を回避するための操作を補助したりすることができる。
【0039】
(1次操舵後に2次操舵を伴う場合の運転者意図判定)
運転者意図判定部103は、舵角センサ10の検出する操舵量が第1所定量を超えると、運転者の意図による操舵が行われていると判断する。これにより、運転者の意図による操舵が行われていると判断した場合には、共通支援判定部105が運転支援処理の実行を制限する。なおここで、第1所定量とは、運転者の意図による操舵量(1次操舵量)が走行支援装置による警告又は補助の支援を停止するか否かの閾値となる量であり、操舵量(1次操舵量)が第1所定量を超えると運転支援装置による警告又は補助の支援が停止される。
【0040】
ここで、舵角センサ10の検出する操舵量が第1所定量を超える場合が1次操舵であると、その後連続して運転者が反対方向に操舵(2次操舵)を行う場合がある。図2は、本実施例に係る1次操舵後に2次操舵を伴う場合の車輌の様子を示す図である。図2に示すように、車輌の走行方向に走行不可域が存在する場合には、運転者は1次操舵で走行不可域を回避し、2次操舵で車輌を走路中心に戻す。従来は、このような2次操舵を行う場合にあっても、1次操舵が運転者の意図と判断し、運転支援装置の警告又は補助の支援を停止させるものであった。このとき2次操舵を考慮しないため、1次操舵による支援停止時間が経過してしまうと、2次操舵中に警告又は補助の支援が再開されていることがあった。
【0041】
そこで、本実施例では、1次操舵量が第1所定量を超えたことにより、運転支援処理の実行を制限して支援を停止しているときに、さらに2次操舵量が第2所定量を超える場合には、運転支援処理の実行を制限して支援の停止を延長するようにした。ここで、第2所定量とは、運転者の意図による2次操舵量が走行支援装置による警告又は補助の支援の停止を延長するか否かの閾値となる量であり、2次操舵量が第2所定量を超えると走行支援装置による警告又は補助の支援の停止が延長される。
【0042】
図3は、本実施例に係る1次操舵後に2次操舵を伴う場合に運転支援処理の実行を制限する状態を示す図である。図3に示すように、時刻t0で1次操舵量が第1所定量τ1を超えると、運転者意図判定部103は、1次操舵が運転者の意図と判断し、運転支援処理の実行を制限する禁止フラグ1を成立させる。そうすると、共通支援判定部105は、時刻t1まで支援を禁止する。一方、共通支援判定部105が支援を禁止した時刻t1に至る前に、2次操舵量が第2所定量τ2を超えると、運転者意図判定部103は、2次操舵が運転者の意図と判断し、運転支援処理の実行の制限を延長する禁止延長フラグ2を成立させ、共通支援判定部105は、時刻t2まで支援を禁止する。
【0043】
ここで、禁止フラグ1の運転支援処理の実行を制限する期間や、禁止延長フラグ2の運転支援処理の実行の制限を延長する期間は、予め実験や検証等によって固定して定めてもよいし、操舵量や車輌速度等に応じて変化させてもよい。
【0044】
また、図2に示すように車輌の進行方向に走行不可域が存在する場合には、運転者は1次操舵で走行不可域を回避し、2次操舵で車輌を走路中心に戻す可能性が高い。つまり、車輌の進行方向に走行不可域が存在する場合には、運転者の意図により1次操舵後に2次操舵を行う可能性が高い。このため、車輌の進行方向の走行不可域を検知している場合には、第2所定量を、車輌の進行方向の走行不可域を検知していない場合と比較して、より小さい値に変更し、操舵量の小さい2次操舵中であっても走行支援装置による警告又は補助の支援が実施されないようにするとよい。なお、第2所定量をより小さい値に変更することは、予め実験や検証等によって固定して定めてもよいし、操舵量や車輌速度等に応じて変化させてもよい。
【0045】
以上の本実施例によると、1次操舵後に2次操舵を伴う場合に、2次操舵を運転者の意図と判断して2次操舵に対して走行支援装置による警告又は補助の支援の停止を延長することができる。これによって、2次操舵中に走行支援装置による警告又は補助の支援が実施されない。したがって、運転者の意図によって1次操舵後に2次操舵を行う場合に、不要な支援を低減することができる。
【0046】
(1次操舵後に2次操舵を伴う場合の運転者意図判定ルーチン)
運転者意図判定部103における1次操舵後に2次操舵を伴う場合の運転者意図判定ルーチンについて、図4に示すフローチャートに基づいて説明する。図4は、本実施例に係る1次操舵後に2次操舵を伴う場合の運転者意図判定ルーチンを示すフローチャートである。本ルーチンは、所定の時間毎に繰り返しECU1の運転者意図判定部103によって実行される。
【0047】
図4に示すルーチンが開始されると、S101では、1次操舵量となる操舵量が第1所定量τ1を超えるか否かを判別する。S101で肯定判定された場合には、S102へ移行する。S101で否定判定された場合には、本ルーチンを一旦終了する。
【0048】
S102では、1次操舵が運転者の意図と判断し、運転支援処理の実行を制限する禁止フラグ1を成立させる。禁止フラグ1は、時刻t0で1次操舵量が第1所定量τ1を超え
た場合に、時刻t1まで運転支援処理の実行を制限させるフラグである。禁止フラグ1が成立した場合には、共通支援判定部105が時刻t1まで運転支援処理の実行を制限する。
【0049】
S103では、時刻t1を経過したか否かを判別する。S103で否定判定された場合には、S104へ移行する。S103で肯定判定された場合には、本ルーチンを一旦終了する。
【0050】
S104では、2次操舵量が第2所定量τ2を超えるか否かを判別する。S104で肯定判定された場合には、S105へ移行する。S104で否定判定された場合には、S103へ移行する。ここで、第2所定量τ2は、車輌の進行方向の走行不可域を検知している場合には、より小さい値に変更され、操舵量の小さい2次操舵中に運転支援装置による警告又は補助の支援が実施されないようにするとよい。
【0051】
S105では、2次操舵が運転者の意図と判断し、運転支援処理の実行の制限を延長する禁止延長フラグ2を成立させる。禁止延長フラグ2は、時刻t1となる以前に2次操舵量が第2所定量τ2を超えた場合に、時刻t2まで運転支援処理の実行の制限を延長させるフラグである。禁止延長フラグ2が成立した場合には、共通支援判定部105が時刻t2まで運転支援処理の実行を制限する。
【0052】
以上の本ルーチンにより、運転者の意図によって1次操舵後に2次操舵を行う場合に、不要な支援を低減することができる。
【0053】
<その他>
本発明に係る走行支援装置は、上述の実施例に限定されるものではなく、本発明の要旨を逸脱しない範囲内において種々の変更を加えてもよい。また、上記実施例は、走行支援装置だけでなく走行支援方法の実施例でもある。上記実施例は、車線や走行不可域を認識して車輌の走路を設定し、設定された走路からの逸脱を回避するための運転支援処理を行う運転支援装置について説明したが、本発明はこの運転支援装置以外の装置にも適用できる。例えば、車線を規定する白線内で車輌を走行させるように警告又は補助するLKA(レーンキーピングアシスト)装置等にも適用できる。
【符号の説明】
【0054】
1 ECU
2 レーダ装置
3 車外用カメラ
4 ドライバー用カメラ
5 ヨーレートセンサ
6 車輪速センサ
7 ブレーキセンサ
8 アクセルセンサ
9 ウィンカースイッチ
10 舵角センサ
11 操舵トルクセンサ
12 ブザー
13 表示装置
14 EPS
15 ECB
100 障害物情報処理部
101 車線情報処理部
102 意識低下判定部
103 運転者意図判定部
104 統合認識処理部
105 共通支援判定部
106 警報判定部
107 制御判定部
108 制御量演算部

【特許請求の範囲】
【請求項1】
車輌の走行可能な走路からの車輌逸脱時に、車輌を前記走路内で走行させるように警告又は補助の支援を行う走行支援装置であって、
1次操舵量が前記支援を停止するか否かの閾値となる第1所定量を超えたことにより、前記支援を停止しているときに、さらに2次操舵量が前記支援の停止を延長するか否かの閾値となる第2所定量を超える場合には、前記支援の停止を延長することを特徴とする走行支援装置。
【請求項2】
前記第2所定量は、車輌の進行方向の走行不可域を検知している場合には、車輌の進行方向の走行不可域を検知していない場合と比較して、より小さい値に変更されることを特徴とする請求項1に記載の走行支援装置。
【請求項3】
車輌の走行可能な走路からの車輌逸脱時に、車輌を前記走路内で走行させるように警告又は補助の支援を行う走行支援方法であって、
1次操舵量が前記支援を停止するか否かの閾値となる第1所定量を超えたことにより、前記支援を停止しているときに、さらに2次操舵量が前記支援の停止を延長するか否かの閾値となる第2所定量を超える場合には、前記支援の停止を延長することを特徴とする走行支援方法。



【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【公開番号】特開2012−232639(P2012−232639A)
【公開日】平成24年11月29日(2012.11.29)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−101491(P2011−101491)
【出願日】平成23年4月28日(2011.4.28)
【出願人】(000003207)トヨタ自動車株式会社 (59,920)
【Fターム(参考)】