説明

車両用モータ駆動装置および自動車

【課題】軸方向寸法と重量の増加を抑えつつ、次変速段のクラッチ係合時の異音・振動の抑制を可能とした車両用モータ駆動装置を提供する。
【解決手段】モータ軸4の回転が入力される入力軸7と、入力軸7に設けられた1速入力ギヤ9Aおよび2速入力ギヤ9Bと、1速入力ギヤ9Aおよび2速入力ギヤ9Bにそれぞれ噛合する1速出力ギヤ10Aおよび2速出力ギヤ10Bとを有し、1速出力ギヤ10Aと出力軸8の間に1速の2ウェイローラクラッチ24Aと、2速出力ギヤ10Bと出力軸8の間に2速の2ウェイローラクラッチ24Bとを設け、モータ軸4の軸端の連結穴15に入力軸7の軸端の連結軸部16を挿入し、連結軸部16の外周の係合突条18を、連結穴15の内周の係合溝20に係合させ、係合突条18と係合溝20の間に弾性部材21,22を設ける。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
この発明は、電動モータの回転を変速して車輪へ伝達する車両用モータ駆動装置およびそのモータ駆動装置を搭載した自動車に関する。
【背景技術】
【0002】
電気自動車およびハイブリッド自動車の駆動装置に用いられる車両用モータ駆動装置として、電動モータと、その電動モータの回転を変速する変速機と、その変速機から出力された回転を左右の車輪に分配するディファレンシャルギヤとからなるものが従来から知られている。
【0003】
この車両用モータ駆動装置を使用すると、走行条件に応じて変速機の変速比を切り換えることにより、駆動および回生時において、効率の高い回転数およびトルク領域で電動モータを使用することが可能となる。また、適切な変速比とすることで、高速走行時の変速機の回転部材の回転速度が下がり、変速機の動力損失が低減して車両のエネルギ効率を向上させることができる。
【0004】
このような車両用モータ駆動装置として、例えば特許文献1に記載のものが知られている。特許文献1に記載の車両用モータ駆動装置は、変速比の異なる2つの回転伝達経路にそれぞれ設けられた摩擦クラッチと、その摩擦クラッチを選択的に係合させる変速アクチュエータを有する。
【0005】
ここで、摩擦クラッチは、回転伝達経路の上流側に接続されたプレッシャプレートと、回転伝達経路の下流側に接続されたクラッチプレートとを軸方向に対向して配置したものであり、プレッシャプレートがクラッチプレートから離反した状態では回転の伝達が遮断され、プレッシャプレートをクラッチプレートに接触させると、その接触面間の摩擦力を介して回転が伝達される。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【特許文献1】特開2010−223298号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
ところで、本願発明の発明者らは、変速比の異なる2つの回転伝達経路を切り換えるクラッチとして、上記の摩擦クラッチではなく、2ウェイローラクラッチまたはドグクラッチを用いた車両用モータ駆動装置を検討し、そのような車両用モータ駆動装置として以下の構成のものを考案した。
【0008】
電動モータと、その電動モータのモータ軸の回転が入力される入力軸と、入力軸に対して間隔をおいて平行に配置された出力軸と、入力軸に設けられた1速入力ギヤおよび2速入力ギヤと、出力軸に設けられ、1速入力ギヤおよび2速入力ギヤにそれぞれ噛合する1速出力ギヤおよび2速出力ギヤと、出力軸の回転を左右の車輪に分配するディファレンシャルギヤとを有し、
1速出力ギヤと2速出力ギヤは軸受を介して出力軸で回転可能に支持され、
1速出力ギヤと出力軸との間でトルクの伝達と遮断の切換えを行なう1速クラッチと、2速出力ギヤと出力軸との間でトルクの伝達と遮断の切換えを行なう2速クラッチと、1速クラッチと2速クラッチとを選択的に係合させる変速アクチュエータを設け、
前記1速クラッチおよび2速クラッチとして、2ウェイローラクラッチまたはドグクラッチを使用した車両用モータ駆動装置。
【0009】
この車両用モータ駆動装置は、変速アクチュエータを作動させて2速クラッチの係合を解除するとともに、1速クラッチを係合させることにより、電動モータの回転を1速の変速比で変速して車輪へ伝達することができる。また、1速クラッチの係合を解除するとともに、2速クラッチを係合させることにより、電動モータの回転を2速の変速比で変速して車輪へ伝達することができる。
【0010】
しかしながら、上記構成の車両用モータ駆動装置においては、変速比を切り換えるときに異音・振動が生じる場合があることが分かった。そこで、本願発明の発明者らは、この異音・振動の原因を調査したところ、車両用モータ駆動装置のモータ軸と入力軸をスプラインまたはキーで直結していることが原因の1つであることを見出した。
【0011】
すなわち、摩擦クラッチを係合するときは、プレッシャプレートとクラッチプレートが滑りながら接触して入力側と出力側の回転差が次第にゼロとなるのに対し、2ウェイローラクラッチやドグクラッチを係合するときは、入力側と出力側の回転差が瞬時にゼロとなる。そのため、車両用モータ駆動装置のモータ軸と入力軸をスプラインまたはキーで直結していると、次変速段のクラッチが係合するときに、モータ軸と入力軸を合計した大きな慣性がクラッチに直接的に作用し、その結果、異音・振動が生じることが分かった。
【0012】
特に、1速クラッチおよび2速クラッチとして、2ウェイローラクラッチを使用した場合、2ウェイローラクラッチは、ドグクラッチよりも入力側と出力側の回転差が大きい状態で係合可能なので、クラッチ係合時の衝撃が大きくなりやすい。
【0013】
そこで、本願発明の発明者らは、次変速段のクラッチを係合するときに、モータ軸と入力軸の間で伝達する衝撃トルクを緩衝するため、モータ軸の軸端と入力軸の軸端とを軸継手を介して連結し、その軸継手にモータ軸と入力軸の相対回転変位を許容する弾性部材を組み込んだ構成のものを考案した。
【0014】
しかしながら、この構成を採用した場合、モータ軸と入力軸をスプラインまたはキーで直結した場合と比べて、モータ軸と入力軸の間に軸継手が存在する分、車両用モータ駆動装置の軸方向寸法と重量が増加するという問題がある。
【0015】
この発明が解決しようとする課題は、軸方向寸法と重量の増加を抑えつつ、次変速段のクラッチ係合時の異音・振動の抑制を可能とした車両用モータ駆動装置を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0016】
上記の課題を解決するため、この発明においては、電動モータと、その電動モータのモータ軸の回転が入力される入力軸と、前記入力軸に対して間隔をおいて平行に配置された出力軸と、前記入力軸に設けられた第1入力ギヤおよび第2入力ギヤと、前記出力軸に設けられ、前記第1入力ギヤおよび第2入力ギヤにそれぞれ噛合する第1出力ギヤおよび第2出力ギヤと、前記出力軸の回転を左右の車輪に分配するディファレンシャルギヤとを有し、
前記第1入力ギヤと第2入力ギヤと入力軸の組と、前記第1出力ギヤと第2出力ギヤと出力軸の組とのうち一方を、第1クラッチギヤと第2クラッチギヤとこれらのクラッチギヤを軸受を介して回転可能に支持するクラッチギヤ支持軸とし、
前記第1クラッチギヤとクラッチギヤ支持軸との間でトルクの伝達と遮断の切換えを行なう第1クラッチと、前記第2クラッチギヤとクラッチギヤ支持軸との間でトルクの伝達と遮断の切換えを行なう第2クラッチと、前記第1クラッチと第2クラッチとを選択的に係合させる変速アクチュエータを設け、
前記第1クラッチと第2クラッチは、2ウェイローラクラッチまたはドグクラッチであり、
前記モータ軸と入力軸のうちの一方の軸の軸端に開口する連結穴に、他方の軸の軸端に設けられた連結軸部を挿入し、
前記連結軸部の外周に軸方向に延びる係合突条を設け、前記連結穴の内周に前記係合突条に係合する係合溝を設け、
その係合突条と係合溝の間に、モータ軸と入力軸の間で伝達する衝撃トルクを緩衝する緩衝機構を設けた構成を車両用モータ駆動装置に採用した。
【0017】
この構成を採用した車両用モータ駆動装置は、変速アクチュエータを作動させて現変速段のクラッチの係合を解除するとともに、次変速段のクラッチを係合させることにより、電動モータの回転を次変速段の変速比で変速して車輪へ伝達することができる。そして、次変速段のクラッチが係合するとき、モータ軸の慣性はモータ軸と入力軸の間の緩衝機構を介して間接的にクラッチに作用し、このときモータ軸と入力軸の間で伝達する衝撃トルクが緩衝機構によって緩衝されるので、クラッチ係合時の衝撃が過大となりにくく、異音・振動が生じにくい。また、モータ軸の軸端と入力軸の軸端とを軸継手を介して連結し、その軸継手にモータ軸と入力軸の相対回転変位を許容する弾性部材を組み込んだ場合と比べて、モータ軸と入力軸の間に軸継手を必要としない分、車両用モータ駆動装置の軸方向寸法と重量を抑えることができる。
【0018】
前記緩衝機構としては、前記係合突条と係合溝の間の周方向隙間に収容された弾性部材を採用することができる。このようにすると、モータ軸と入力軸の間で伝達する衝撃トルクは、弾性部材の変形によって緩衝される。
【0019】
この場合、前記弾性部材としては、例えば金属製のスプリングを採用することも可能であるが、ゴムで形成したものを採用すると共振しにくく好ましい。
【0020】
前記弾性部材としては、径方向または軸方向に並列に配置された周方向長さが異なる複数の弾性部材からなるものを採用することができる。このようにすると、衝撃トルクの大きさに応じた好適な緩衝特性を得ることができる。すなわち、モータ軸と入力軸の間で伝達する衝撃トルクが比較的小さいときは、周方向長さの長い弾性部材のみに衝撃トルクが作用するので、衝撃トルクを柔らかく吸収することができるとともに、モータ軸と入力軸の間で伝達する衝撃トルクが比較的大きいときは、周方向長さの長い弾性部材のほか、周方向長さの短い弾性部材にも衝撃トルクが作用するので、短いストロークで大きい衝撃トルクを吸収することが可能となる。
【0021】
また、前記緩衝機構としては、前記係合突条と係合溝の間に組み込まれた液圧緩衝機構を採用することができる。この場合、液圧緩衝機構としては、前記係合突条と係合溝の間の周方向両側の隙間のうち片側の隙間に形成された第1油圧室と、反対側の隙間に形成された第2油圧室と、前記第1油圧室と第2油圧室の間を連通する油路とからなるものを採用することができる。このようにすると、クラッチ係合時に、第1油圧室と第2油圧室のうちの一方の油圧室の容積が縮小して、他方の油圧室の容積が拡大し、前記油路を通って第1油圧室と第2油圧室の間で作動油が流れ、その作動油の粘性抵抗によってクラッチ係合時の衝撃トルクを緩衝することができる。
【0022】
特に、第1クラッチおよび第2クラッチとして2ウェイローラクラッチを使用した場合、2ウェイローラクラッチはドグクラッチよりも入力側と出力側の回転差が大きい状態で係合可能なので、クラッチ係合時の衝撃が大きくなりやすく、この衝撃を緩和するために、上記構成を採用すると効果的である。
【0023】
すなわち、前記第1クラッチが、第1クラッチギヤの内周とクラッチギヤ支持軸の外周のうち一方に設けられた円筒面と、他方に設けられたカム面と、そのカム面と前記円筒面の間に組み込まれたローラと、そのローラを保持し、前記カム面と円筒面の間にローラを係合させる係合位置とローラの係合を解除する中立位置との間で前記クラッチギヤ支持軸に対して相対回転可能に設けられた第1保持器と、その第1保持器を前記中立位置に弾性保持する第1スイッチばねとからなる第1の2ウェイローラクラッチであり、
前記第2クラッチが、第2クラッチギヤの内周とクラッチギヤ支持軸の外周のうち一方に設けられた円筒面と、他方に設けられたカム面と、そのカム面と前記円筒面の間に組み込まれたローラと、そのローラを保持し、前記カム面と円筒面の間にローラを係合させる係合位置とローラの係合を解除する中立位置との間で前記クラッチギヤ支持軸に対して相対回転可能に設けられた第2保持器と、その第2保持器を前記中立位置に弾性保持する第2スイッチばねとからなる第2の2ウェイローラクラッチである場合、
次変速段の2ウェイローラクラッチの入力側と出力側の間に回転差が存在している状態においても、次変速段の2ウェイローラクラッチの保持器を中立位置から係合位置に移動させることにより次変速段のクラッチを係合させることができるので、クラッチ係合時の衝撃が大きくなりやすく、この衝撃を緩和するために、上記構成を採用すると効果的である。
【0024】
前記変速アクチュエータとしては、前記第1保持器に対して回り止めされかつ前記第1クラッチギヤの側面に接触する位置と離反する位置との間で軸方向に移動可能に設けられた第1摩擦板と、その第1摩擦板を前記第1クラッチギヤの側面から離反する方向に付勢する第1離反ばねと、前記第2保持器に対して回り止めされかつ前記第2クラッチギヤの側面に接触する位置と離反する位置との間で軸方向に移動可能に設けられた第2摩擦板と、その第2摩擦板を前記第2クラッチギヤの側面から離反する方向に付勢する第2離反ばねと、前記第1摩擦板を押圧して前記第1クラッチギヤの側面に接触させる第1シフト位置と前記第2摩擦板を押圧して前記第2クラッチギヤの側面に接触させる第2シフト位置との間で軸方向に移動可能に設けられたシフトリングと、そのシフトリングを軸方向に移動させるシフト機構とからなるものを採用することができる。
【0025】
この構成の変速アクチュエータを採用すると、シフトリングが第1シフト位置にあるときは、第1摩擦板が第1クラッチギヤの側面に接触し、その接触面間の摩擦力によって第1摩擦板がクラッチギヤ支持軸に対して相対回転し、この摩擦板に回り止めされた第1保持器が中立位置から係合位置に移動するので、第1の2ウェイローラクラッチが係合した状態となる。また、このとき、第2摩擦板は離反ばねの付勢力によって第2クラッチギヤの側面から離反しているので、第2保持器はスイッチばねの弾性力により中立位置に保持され、第2の2ウェイローラクラッチは係合が解除された状態となる。
【0026】
そして、シフト機構の作動により、シフトリングを第1シフト位置から第2シフト位置に向かって軸方向移動させると、離反ばねの付勢力によって第1摩擦板が第1クラッチギヤの側面から離反する方向に移動し、第1摩擦板と第1クラッチギヤの間の摩擦が小さくなるので、スイッチばねの弾性力により第1保持器が係合位置から中立位置に移動し、この第1保持器の移動によって第1の2ウェイローラクラッチの係合が解除される。シフトリングが第2シフト位置に到達すると、第2摩擦板が第2クラッチギヤの側面に接触し、その接触面間の摩擦力によって第2摩擦板がクラッチギヤ支持軸に対して相対回転し、この摩擦板に回り止めされた第2保持器が中立位置から係合位置に移動するので、第2の2ウェイローラクラッチが係合した状態となる。
【0027】
同様にして、シフトリングを第2シフト位置から第1シフト位置に軸方向移動させることにより、第2の2ウェイローラクラッチの係合を解除して、第1の2ウェイローラクラッチを係合させることができる。
【0028】
また、この発明は、第1クラッチおよび第2クラッチとしてドグクラッチを使用した車両用モータ駆動装置にも適用することができる。例えば、前記第1クラッチとして、第1クラッチギヤと第2クラッチギヤの間で軸方向に移動可能に設けられ、かつ、前記クラッチギヤ支持軸に対して回り止めされたドグリングと、そのドグリングの第1クラッチギヤに対する対向面に形成された第1ドグ歯と、その第1ドグ歯に噛み合うように第1クラッチギヤに形成されたドグ歯とからなる第1のドグクラッチを採用し、前記第2クラッチとして、前記ドグリングの第2クラッチギヤに対する対向面に形成された第2ドグ歯と、その第2ドグ歯に噛み合うように第2クラッチギヤに形成されたドグ歯とからなる第2のドグクラッチを採用したものに適用することができる。
【0029】
また、この発明では、上記の車両用モータ駆動装置を用いた電気自動車として、左右一対の前輪と左右一対の後輪のうち少なくとも一方を上記の車両用モータ駆動装置で駆動するようにした電気自動車を提供する。
【0030】
また、この発明では、上記の車両用モータ駆動装置を用いたハイブリッド自動車として、左右一対の前輪と左右一対の後輪のうち一方をエンジンで駆動し、他方を上記の車両用モータ駆動装置で駆動するようにしたハイブリッド自動車を提供する。
【発明の効果】
【0031】
この発明の車両用モータ駆動装置は、次変速段の2ウェイローラクラッチが係合するときに、モータ軸の慣性が緩衝機構を介して間接的にローラに作用し、このときモータ軸と入力軸の間で伝達する衝撃トルクが緩衝機構によって緩衝されるので、クラッチ係合時の衝撃が過大となりにくく、異音・振動が生じにくい。また、モータ軸の軸端と入力軸の軸端とを軸継手を介して連結し、その軸継手にモータ軸と入力軸の相対回転変位を許容する弾性部材を組み込んだ場合と比べて、モータ軸と入力軸の間に軸継手を必要としない分、車両用モータ駆動装置の軸方向寸法と重量を抑えることができる。
【図面の簡単な説明】
【0032】
【図1】この発明に係る車両用モータ駆動装置を採用した電気自動車の概略図
【図2】この発明に係る車両用モータ駆動装置を採用したハイブリッド自動車の概略図
【図3】この発明に係る車両用モータ駆動装置の断面図
【図4】図3の入力軸の軸端近傍の拡大断面図
【図5】図4のV−V線に沿った断面図
【図6】図5の要部拡大図
【図7】図6のVII−VII線に沿った断面図
【図8】図3の1速出力ギヤおよび2速出力ギヤ近傍の拡大断面図
【図9】図3のシフトリング近傍の拡大断面図
【図10】図8のX−X線に沿った断面図
【図11】図8のXI−XI線に沿った断面図
【図12】図8のXII−XII線に沿った断面図
【図13】シフト機構を示す断面図
【図14】図8の2速カム部材近傍の分解斜視図
【図15】(a)は図6に示す弾性部材に比較的小さい衝撃トルクが負荷された状態を示す断面図、(b)は図6に示す弾性部材に比較的大きい衝撃トルクが負荷された状態を示す断面図
【図16】図6に示す弾性部材の他の例を示す断面図
【図17】図6に示す弾性部材の更に他の例を示す断面図
【図18】図6に示す弾性部材にかえて液圧緩衝機構を採用した例を示す断面図
【図19】図18に示す液圧緩衝機構の他の例を示す断面図
【発明を実施するための形態】
【0033】
図1は、左右一対の前輪1をこの発明に係る車両用モータ駆動装置Aで駆動される駆動輪とし、左右一対の後輪2を従動輪とした電気自動車EVを示す。
【0034】
図2は、左右一対の前輪1をエンジンEによって駆動される主駆動輪とし、左右一対の後輪2をこの発明に係る車両用モータ駆動装置Aで駆動される補助駆動輪としたハイブリッド自動車HVを示す。ハイブリッド自動車HVには、エンジンEの回転を変速するトランスミッションTと、トランスミッションTから出力された回転を左右の前輪1に分配するディファレンシャルギヤDとが設けられている。
【0035】
この電気自動車EVおよびハイブリッド自動車HVに組み込まれたこの発明に係る車両用モータ駆動装置Aについて以下に説明する。
【0036】
図3に示すように、車両用モータ駆動装置Aは、電動モータ3と、電動モータ3のモータ軸4の回転を変速して出力する変速機5と、その変速機5から出力された回転を図1に示す電気自動車EVの左右一対の前輪1に分配し、または、図2に示すハイブリッド自動車HVの左右一対の後輪2に分配するディファレンシャルギヤ6とからなる。
【0037】
変速機5は、図3に示すように、モータ軸4の回転が入力される入力軸7と、入力軸7に対して間隔をおいて平行に配置された出力軸8と、入力軸7に設けられた1速入力ギヤ9Aおよび2速入力ギヤ9Bと、出力軸8に設けられた1速出力ギヤ10Aおよび2速出力ギヤ10Bとを有する。
【0038】
モータ軸4は、入力軸7と同軸上に直列に配置されており、ハウジング11に固定された電動モータ3のステータ12で回転駆動される。入力軸7は、ハウジング11内に組込まれた対向一対の軸受13により回転可能に支持されている。出力軸8も、ハウジング11内に組込まれた対向一対の軸受14により回転可能に支持されている。
【0039】
図4に示すように、モータ軸4には、モータ軸4の軸端に開口する連結穴15が形成されており、その連結穴15に、入力軸7の軸端に設けられた連結軸部16が挿入されている。図5に示すように、連結軸部16の外周には、入力軸7の回転中心と同軸の円筒面17と、軸方向に延びる係合突条18が形成されている。連結穴15の内周には、連結軸部16の円筒面17に周方向にスライド可能に嵌合する円筒面19と、係合突条18に係合する係合溝20が形成されている。係合突条18は入力軸7の外周を切削して一体に形成してもよく、入力軸7の外周にキー部材等の別部材を固定して形成してもよい。
【0040】
図6、図7に示すように、係合溝20の幅は係合突条18の幅よりも広幅に形成され、係合突条18と係合溝20の間の周方向隙間に弾性部材21と弾性部材22が収容されている。弾性部材22は、弾性部材21に対して軸方向に並列に配置されている。弾性部材21,22はいずれもゴムで形成されており、断面扇形の柱状である。
【0041】
弾性部材21は、係合突条18と係合溝20の間の周方向隙間と同一かそれよりも長い周方向長さを有し、係合突条18と係合溝20の間の周方向隙間に収容された状態で弾性部材21と係合突条18の間に隙間が残らないようになっている。一方、弾性部材22は、係合突条18と係合溝20の間の周方向隙間よりも短い周方向長さを有し、係合突条18と係合溝20の間の周方向隙間に収容された状態で弾性部材22と係合突条18の間に隙間が残るようになっている。
【0042】
弾性部材21,22は、モータ軸4と入力軸7の間で伝達する衝撃トルクを、弾性部材21,22の変形によって緩衝する。すなわち、モータ軸4と入力軸7が回転している状態で、モータ軸4と入力軸7のうちのいずれか一方の回転速度が急に変化すると、弾性部材21,22が弾性変形してモータ軸4と入力軸7の間の相対回転変位を許容し、その相対回転変位により衝撃トルクを吸収する。係合突条18と係合溝20と弾性部材21,22は周方向で一箇所にのみ設けてもよいが、回転中心まわりの力のバランスをとるため、周方向に等ピッチとなるように複数箇所に設けると好ましい。
【0043】
図3に示すように、1速入力ギヤ9Aと2速入力ギヤ9Bは軸方向に間隔をおいて配置され、入力軸7を中心として入力軸7と一体に回転するように入力軸7に固定されている。1速出力ギヤ10Aと2速出力ギヤ10Bも軸方向に間隔をおいて配置されている。
【0044】
図8に示すように、1速出力ギヤ10Aは、出力軸8を貫通させる環状に形成され、軸受23を介して出力軸8で支持されており、出力軸8を中心として出力軸8に対して回転可能となっている。同様に、2速出力ギヤ10Bも、軸受23を介して出力軸8で回転可能に支持されている。
【0045】
1速入力ギヤ9Aと1速出力ギヤ10Aは互いに噛合しており、その噛合によって1速入力ギヤ9Aと1速出力ギヤ10Aの間で回転が伝達するようになっている。2速入力ギヤ9Bと2速出力ギヤ10Bも噛合しており、その噛合によって2速入力ギヤ9Bと2速出力ギヤ10Bの間で回転が伝達するようになっている。2速入力ギヤ9Bと2速出力ギヤ10Bの減速比は、1速入力ギヤ9Aと1速出力ギヤ10Aの減速比よりも小さい。
【0046】
1速出力ギヤ10Aと出力軸8の間には、1速出力ギヤ10Aと出力軸8の間でトルクの伝達と遮断の切換えを行なう1速の2ウェイローラクラッチ24Aが組込まれている。また、2速出力ギヤ10Bと出力軸8の間には、2速出力ギヤ10Bと出力軸8の間でトルクの伝達と遮断の切換えを行なう2速の2ウェイローラクラッチ24Bが組込まれている。
【0047】
1速の2ウェイローラクラッチ24Aと2速の2ウェイローラクラッチ24Bは、左右対称の同一構成なので、2速の2ウェイローラクラッチ24Bを以下に説明し、1速の2ウェイローラクラッチ24Aについては、2速の2ウェイローラクラッチ24Bに対応する部分に同一の符号または末尾のアルファベットBをAに置き換えた符号を付して説明を省略する。
【0048】
図8〜図11に示すように、2速の2ウェイローラクラッチ24Bは、2速出力ギヤ10Bの内周に設けられた円筒面25と、出力軸8の外周に回り止めした環状の2速カム部材26Bに形成されたカム面27と、カム面27と円筒面25の間に組み込まれたローラ28と、ローラ28を保持する2速保持器29Bと、2速スイッチばね30Bとからなる。カム面27は、円筒面25との間で周方向中央から周方向両端に向かって次第に狭くなるくさび形空間を形成するような面であり、例えば、図10に示すように円筒面25と対向する平坦面である。
【0049】
図8、図14に示すように、2速保持器29Bは、ローラ28を収容する複数のポケット31が周方向に間隔をおいて形成された円筒部32と、円筒部32の一端から径方向内方に延び出す内向きフランジ部33とを有する。内向きフランジ部33の径方向内端は、2速カム部材26Bの外周で周方向にスライド可能に支持され、この周方向のスライドによって、2速保持器は、カム面27と円筒面25の間にローラ28を係合させる係合位置とローラ28の係合を解除する中立位置との間で出力軸8に対して相対回転可能となっている。また、2速保持器29Bの内向きフランジ部33は軸方向両側への移動が規制され、これにより2速保持器29Bが軸方向に非可動とされている。
【0050】
図11、図14に示すように、2速スイッチばね30Bは、鋼線をC形に巻いたC形環状部34と、C形環状部34の両端からそれぞれ径方向外方に延出する一対の延出部35,35とからなる。C形環状部34は、2速カム部材26Bの軸方向端面に形成された円形のスイッチばね収容凹部36に嵌め込まれ、一対の延出部35,35は、2速カム部材26Bの軸方向端面に形成された径方向溝37に挿入されている。
【0051】
径方向溝37は、スイッチばね収容凹部36の内周縁から径方向外方に延びて2速カム部材26Bの外周に至るように形成されている。2速スイッチばね30Bの延出部35は、径方向溝37の径方向外端から突出しており、その延出部35の径方向溝37からの突出部分が、2速保持器29Bの円筒部32の軸方向端部に形成された切欠き38に挿入されている。径方向溝37と切欠き38は同じ幅に形成されている。
【0052】
延出部35,35は、径方向溝37の周方向で対向する内面と、切欠き38の周方向で対向する内面にそれぞれ接触しており、その接触面に作用する周方向の力によって2速保持器29Bを中立位置に弾性保持している。
【0053】
すなわち、2速保持器29Bを出力軸8に対して相対回転させて、図11に示す中立位置から周方向に移動させると、径方向溝37の位置と切欠き38の位置が周方向にずれるので、一対の延出部35,35の間隔が狭まる方向にC形環状部34が弾性変形し、その弾性復元力によって2速スイッチばね30Bの一対の延出部35,35が径方向溝37の内面と切欠き38の内面を押圧し、その押圧によって2速保持器29Bを中立位置に戻す方向の力が作用するようになっている。
【0054】
図8に示すように、1速カム部材26Aと2速カム部材26Bの出力軸8に対する回り止めは、スプライン嵌合によって行なわれている。1速カム部材26Aのカム面27と2速カム部材26Bのカム面27は同数かつ同位相となっている。また、1速カム部材26Aと2速カム部材26Bは、出力軸8の外周に嵌合した一対の止め輪39によって軸方向に非可動となっている。1速カム部材26Aと2速カム部材26Bの間には間座40が組み込まれている。
【0055】
1速の2ウェイローラクラッチ24Aと2速の2ウェイローラクラッチ24Bは、変速アクチュエータ41により選択的に係合することができるようになっている。
【0056】
図9に示すように、変速アクチュエータ41は、1速出力ギヤ10Aと2速出力ギヤ10Bの間に軸方向に移動可能に設けられたシフトリング42と、1速出力ギヤ10Aとシフトリング42の間に組み込まれた1速摩擦板43Aと、2速出力ギヤ10Bとシフトリング42の間に組み込まれた2速摩擦板43Bとを有する。
【0057】
ここで、1速摩擦板43Aと2速摩擦板43Bは、左右対称の同一構成となっているので、2速摩擦板43Bを以下に説明し、1速摩擦板43Aについては、2速摩擦板43Bに対応する部分に同一の符号または末尾のアルファベットBをAに置き換えた符号を付して説明を省略する。
【0058】
2速摩擦板43Bには、2速保持器29Bの切欠き38に係合する突片44が設けられ、この突片44と切欠き38の係合によって、2速摩擦板43Bが2速保持器29Bに回り止めされている。2速保持器29Bの切欠き38は、2速摩擦板43Bの突片44を軸方向にスライド可能に収容しており、このスライドによって、2速摩擦板43Bは、2速保持器29Bに回り止めされた状態のまま、2速出力ギヤ10Bの側面に接触する位置と離反する位置との間で、2速保持器29Bに対して軸方向に移動可能となっている。
【0059】
2速摩擦板43Bの突片44の先端に凹部45が形成されて、間座40の外周には、凹部45に係合する凸部46が形成されている。そして、凹部45と凸部46は、2速摩擦板43Bが2速出力ギヤ10Bの側面から離反した位置にある状態では、凹部45と凸部46が係合することで、2速摩擦板43Bを間座40を介して出力軸8に回り止めし、このとき、2速摩擦板43Bに回り止めされた2速保持器29Bが中立位置に保持されるようになっている。また、2速摩擦板43Bが2速出力ギヤ10Bの側面に接触する位置にある状態では、凹部45と凸部46の係合が解除することで、2速摩擦板43Bの回り止めが解除されるようになっている。
【0060】
2速摩擦板43Bと2速カム部材26Bの間には、軸方向に圧縮された状態で2速離反ばね47Bが組み込まれており、この2速離反ばね47Bの弾性復元力によって2速摩擦板43Bが2速出力ギヤ10Bの側面から離反する方向に付勢されている。
【0061】
2速離反ばね47Bは、間座40の外周に沿って巻回されたコイルスプリングであり、その一端が2速ワッシャ48Bを介して2速カム部材26Bの軸方向端面で支持されている。2速ワッシャ48Bは、2速カム部材26Bの軸方向端面の径方向溝37を覆うように環状に形成されている。
【0062】
シフトリング42は、1速摩擦板43Aを押圧して1速出力ギヤ10Aの側面に接触させる1速シフト位置と、2速摩擦板43Bを押圧して2速出力ギヤ10Bの側面に接触させる2速シフト位置との間で軸方向に移動可能に支持されている。また、シフトリング42を1速シフト位置と2速シフト位置の間で軸方向に移動させるシフト機構49が設けられている。
【0063】
図12、図13に示すように、シフト機構49は、シフトリング42を転がり軸受50を介して回転可能に支持するシフトスリーブ51と、そのシフトスリーブ51の外周に設けられた環状溝52に係合する二股状のシフトフォーク53と、シフトフォーク53が固定されたシフトロッド54と、シフトモータ55と、シフトモータ55の回転をシフトロッド54の直線運動に変換する運動変換機構56(送りねじ機構等)とからなる。
【0064】
図13に示すように、シフトロッド54は、出力軸8に対して間隔をおいて平行に配置され、ハウジング11内に組み込まれた一対の滑り軸受57で軸方向にスライド可能に支持されている。シフトリング42とシフトスリーブ51の間に組み込まれた転がり軸受50は、シフトリング42とシフトスリーブ51のいずれに対しても軸方向に非可動となるように組み付けられている。
【0065】
このシフト機構49は、シフトモータ55の回転が運動変換機構56により直線運動に変換されてシフトフォーク53に伝達し、そのシフトフォーク53の直線運動が転がり軸受50を介してシフトリング42に伝達することにより、シフトリング42を軸方向に移動させる。
【0066】
図9に示すように、シフトフォーク53と環状溝52の間の両側の軸方向隙間には、軸方向に圧縮可能な予圧ばね58が組み込まれている。これにより、シフトリング42で1速摩擦板43Aを押圧して1速出力ギヤ10Aの側面に接触させるときに、シフトスリーブ51に対するシフトフォーク53の軸方向の相対位置を調節することによって予圧ばね58のばね力を調節し、1速摩擦板43Aと1速出力ギヤ10Aの接触面間の摩擦力を調整することが可能となっている。また、シフトリング42で2速摩擦板43Bを押圧して2速出力ギヤ10Bの側面に接触させるときも、2速摩擦板43Bと2速出力ギヤ10Bの接触面間の摩擦力を調整することが可能となっている。
【0067】
図3に示すように、出力軸8には、出力軸8の回転をディファレンシャルギヤ6に伝達するディファレンシャル駆動ギヤ59が固定されている。
【0068】
ディファレンシャルギヤ6は、一対の軸受60で回転可能に支持されたデフケース61と、デフケース61の回転中心と同軸にデフケース61に固定され、ディファレンシャル駆動ギヤ59に噛合するリングギヤ62と、デフケース61の回転中心と直角な方向にデフケース61に固定されたピニオン軸63と、ピニオン軸63に回転可能に支持された一対のピニオン64と、その一対のピニオン64に噛合する左右一対のサイドギヤ65とからなる。左側のサイドギヤ65には、左側の車輪に接続されたアクスル66の軸端部が接続され、右側のサイドギヤ65には、右側の車輪に接続されたアクスル66の軸端部が接続されている。出力軸8が回転するとき、出力軸8の回転はディファレンシャル駆動ギヤ59を介してデフケース61に伝達され、そのデフケース61の回転がピニオン64とサイドギヤ65を介して左右の車輪に分配される。
【0069】
以下に、車両用モータ駆動装置Aの動作例を説明する。
【0070】
まず、図9に示すように、1速摩擦板43Aが1速出力ギヤ10Aの側面から離反し、かつ、2速摩擦板43Bも2速出力ギヤ10Bの側面から離反した状態では、1速保持器29Aは1速スイッチばね30Aのばね力により中立位置に保持され、2速保持器29Bも2速スイッチばね30Bのばね力により中立位置に保持されるので、1速の2ウェイローラクラッチ24Aはローラ28の係合が解除された状態となり、2速の2ウェイローラクラッチ24Bもローラ28の係合が解除された状態となる。
【0071】
この状態では、図3に示す電動モータ3のモータ軸4が回転し、入力軸7が回転しても、1速の2ウェイローラクラッチ24Aと2速の2ウェイローラクラッチ24Bによって回転の伝達が遮断されるので、1速出力ギヤ10Aおよび2速出力ギヤ10Bは空転し、入力軸7の回転は出力軸8に伝達されない。
【0072】
次に、シフト機構49を作動させて、図8に示すシフトリング42を1速出力ギヤ10Aに向けて移動させると、1速摩擦板43Aが1速出力ギヤ10Aの側面に接触し、その接触面間の摩擦力によって1速摩擦板43Aが出力軸8に対して相対回転するので、1速摩擦板43Aに回り止めされた1速保持器29Aが中立位置から係合位置に移動し、1速保持器29Aに保持されたローラ28が円筒面25とカム面27の間のくさび形空間の狭小部分に押し込まれ、1速の2ウェイローラクラッチ24Aが係合した状態となる。
【0073】
この状態では、1速出力ギヤ10Aの回転は、1速の2ウェイローラクラッチ24Aを介して出力軸8に伝達され、出力軸8の回転が、ディファレンシャルギヤ6を介してアクスル66に伝達される。その結果、図1に示す電気自動車EVにおいては、駆動輪としての前輪1が回転駆動され、図2に示すハイブリッド自動車においては補助駆動輪としての後輪2が回転駆動される。
【0074】
次に、シフト機構49の作動により、シフトリング42を1速シフト位置から2速シフト位置に向かって軸方向移動させると、1速摩擦板43Aと1速出力ギヤ10Aの接触面間の摩擦力が小さくなるので、1速スイッチばね30Aのばね力により1速保持器29Aが係合位置から中立位置に移動し、この1速保持器29Aの移動によって1速の2ウェイローラクラッチ24Aの係合が解除される。
【0075】
シフトリング42が2速シフト位置に到達すると、2速摩擦板43Bがシフトリング42で押圧されて2速出力ギヤ10Bの側面に接触するので、その接触面間の摩擦力によって2速摩擦板43Bが出力軸8に対して相対回転し、2速摩擦板43Bに回り止めされた2速保持器29Bが中立位置から係合位置に移動し、この2速保持器29Bの移動によって2速の2ウェイローラクラッチ24Bが係合した状態となる。
【0076】
この状態では、2速出力ギヤ10Bの回転は、2速の2ウェイローラクラッチ24Bを介して出力軸8に伝達され、出力軸8の回転がディファレンシャルギヤ6を介してアクスル66に伝達される。
【0077】
同様に、シフトリング42を2速シフト位置から1速シフト位置に軸方向移動させることにより、2速の2ウェイローラクラッチ24Bの係合を解除して、1速の2ウェイローラクラッチ24Aを係合させることができる。
【0078】
ところで、入力軸7が回転している状態で、次変速段として1速の2ウェイローラクラッチ24Aを係合させると、カム面27と円筒面25の間にローラ28が押し込まれて入力側と出力側の回転差が瞬時にゼロとなる。このとき、仮に、モータ軸4と入力軸7をスプラインまたはキーで直結していると、次変速段として1速の2ウェイローラクラッチ24Aが係合するときに、モータ軸4と入力軸7を合計した大きな慣性がローラ28に直接的に作用し、その結果、異音・振動が生じるおそれがある。
【0079】
これに対し、この実施形態の車両用モータ駆動装置Aにおいては、モータ軸4と入力軸7の間に弾性部材21,22を設けているので、次変速段として1速の2ウェイローラクラッチ24Aが係合するときに、モータ軸4の慣性が弾性部材21,22を介して間接的にローラ28に作用し、このときモータ軸4と入力軸7の間で伝達する衝撃トルクが弾性部材21,22によって緩衝されるのでローラ28をカム面27と円筒面25の間に押し込む力が過大となりにくく、異音・振動が生じにくい。2速の2ウェイローラクラッチ24Bが係合するときも同様である。
【0080】
また、1速の2ウェイローラクラッチ24Aを係合させた状態で、電動モータ3による回生制動を開始すると、カム面27と円筒面25の間で伝達するトルクの方向が逆になるので、カム面27と円筒面25の間へのローラ28の押し込み方向が正逆で切り替わる。このときも、仮に、モータ軸4と入力軸7をスプラインまたはキーで直結していると、モータ軸4と入力軸7の間で伝達する衝撃トルクが直接的にローラ28に作用し、その結果、異音・振動が生じるおそれがあるが、この実施形態の車両用モータ駆動装置Aにおいては、モータ軸4と入力軸7の間で伝達する衝撃トルクが弾性部材21,22によって緩衝されるので、異音・振動が生じにくい。
【0081】
ここで、モータ軸4と入力軸7の間で伝達する衝撃トルクを緩衝するため、モータ軸4の軸端と入力軸7の軸端とを軸継手を介して連結し、その軸継手にモータ軸4と入力軸7の相対回転変位を許容する弾性部材を組み込んだ構成のものを採用することが考えられるが、この構成を採用した場合、モータ軸4と入力軸7をスプラインまたはキーで直結した場合と比べて、モータ軸4と入力軸7の間に軸継手が存在する分、車両用モータ駆動装置の軸方向寸法と重量が増加するという問題がある。
【0082】
これに対し、上記構成の車両用モータ駆動装置Aは、モータ軸4と入力軸7の間で伝達する衝撃トルクを緩衝するため、モータ軸4の軸端に開口する連結穴15に、入力軸7の軸端に設けた連結軸部16を挿入し、その連結軸部16の外周の係合突条18と連結穴15の内周の係合溝20との間の緩衝機構(弾性部材21,22)で衝撃トルクを緩衝するようにしているので、モータ軸4と入力軸7の間に軸継手を必要としない分、車両用モータ駆動装置Aの軸方向寸法と重量を抑えることができる。
【0083】
また、この車両用モータ駆動装置Aは、衝撃トルクの緩衝機構として、並列に配置された周方向長さが異なる複数の弾性部材21,22を採用しているので、衝撃トルクの大きさに応じた好適な緩衝特性を発揮することができる。すなわち、図15(a)に示すように、モータ軸4と入力軸7の間で伝達する衝撃トルクが比較的小さいときは、周方向長さの長い弾性部材21のみに衝撃トルクが作用するので、衝撃トルクを柔らかく吸収することができる。一方、図15(b)に示すように、モータ軸4と入力軸7の間で伝達する衝撃トルクが比較的大きいときは、周方向長さの長い弾性部材21のほか、周方向長さの短い弾性部材22にも衝撃トルクが作用するので、短いストロークで大きい衝撃トルクを吸収することができる。
【0084】
衝撃トルクを緩衝する弾性部材としては、図17に示すように、金属製のスプリング21を採用することも可能であるが、この実施形態で示すように、ゴムで形成したものを採用すると、弾性部材21が共振せず、異音が生じない。
【0085】
上記実施形態では、モータ軸4に連結穴15を設け、入力軸7に連結軸部16を設けたが、連結穴15と連結軸部16の関係を反対にして、モータ軸4に連結軸部16を設け、入力軸7に連結穴15を設けてもよい。
【0086】
また、上記実施形態では、周方向長さの異なる弾性部材21,22を軸方向に並列に配置したものを例に挙げて説明したが、図16に示すように、周方向長さの異なる弾性部材21,22を径方向に並列に配置するようにしてもよい。
【0087】
また、上記実施形態では、モータ軸4と入力軸7の間で伝達する衝撃トルクを緩衝する緩衝機構として、係合突条18と係合溝20の間の周方向隙間に収容した弾性部材21,22を例に挙げて説明したが、図18に示すように、係合突条18と係合溝20の間に組み込んだ液圧緩衝機構67を採用することもできる。
【0088】
図18において、液圧緩衝機構67は、係合突条18と係合溝20の間の周方向両側の隙間のうち片側の隙間に形成された第1油圧室68と、反対側の隙間に形成された第2油圧室69と、第1油圧室68と第2油圧室69の間を連通する油路70とからなる。第1油圧室68と第2油圧室69は、それぞれ作動油が充填され、周方向に摺動可能なピストン71で密封されている。そして、次変速段として1速の2ウェイローラクラッチ24Aが係合するとき、第1油圧室68と第2油圧室69のうちの一方の油圧室の容積が縮小して、他方の油圧室の容積が拡大し、油路70を通って第1油圧室68と第2油圧室69の間で作動油が流れ、その作動油の粘性抵抗によって、モータ軸4と入力軸7の間で伝達する衝撃トルクを緩衝する。
【0089】
ここで、第1油圧室68と第2油圧室69の間を連通する油路70は、図18に示すように、周方向に隣り合う係合溝20同士を隔てる隔壁部分を間にして周方向に隣り合う第1油圧室68と第2油圧室69の間を連通するように形成してもよく、図19に示すように係合突条18を間にして周方向に隣り合う第1油圧室68と第2油圧室69の間を連通するように形成してもよい。
【0090】
モータ軸4と入力軸7の間で伝達する衝撃トルクを緩衝する緩衝機構として、弾性部材21,22と液圧緩衝機構67とを組み合わせて使用してもよい。
【0091】
上記実施形態に示すように、1速クラッチおよび2速クラッチとして2ウェイローラクラッチ24A,24Bを使用する場合、2ウェイローラクラッチ24A,24Bは、ドグクラッチよりも入力側と出力側の回転差が大きい状態で係合可能なので、クラッチ係合時の衝撃が大きくなりやすく、この衝撃を緩和するために本発明は好適であるが、本発明は、ドグクラッチを使用した車両用モータ駆動装置Aにも適用することができる。
【0092】
すなわち、1速クラッチとして、1速出力ギヤ10Aと2速出力ギヤ10Bの間で軸方向に移動可能に設けられ、かつ、出力軸8に対して回り止めされたドグリングと、そのドグリングの1速出力ギヤ10Aに対する対向面に周方向に間隔をおいて形成された複数の1速ドグ歯と、その1速ドグ歯に噛み合うように1速出力ギヤ10Aに形成された複数のドグ歯とからなる1速のドグクラッチを採用し、2速クラッチとして、ドグリングの2速出力ギヤ10Bに対する対向面に周方向に間隔をおいて形成された複数の2速ドグ歯と、その2速ドグ歯に噛み合うように2速出力ギヤ10Bに形成された複数のドグ歯とからなる2速のドグクラッチを採用したものに適用してもよい。
【符号の説明】
【0093】
1 前輪
2 後輪
3 電動モータ
4 モータ軸
6 ディファレンシャルギヤ
7 入力軸
8 出力軸
9A 1速入力ギヤ
9B 2速入力ギヤ
10A 1速出力ギヤ
10B 2速出力ギヤ
15 連結穴
16 連結軸部
18 係合突条
20 係合溝
21,22 弾性部材
23 軸受
24A 1速の2ウェイローラクラッチ
24B 2速の2ウェイローラクラッチ
25 円筒面
27 カム面
28 ローラ
29A 1速保持器
29B 2速保持器
30A 1速スイッチばね
30B 2速スイッチばね
41 変速アクチュエータ
42 シフトリング
43A 1速摩擦板
43B 2速摩擦板
47A 1速離反ばね
47B 2速離反ばね
49 シフト機構
67 液圧緩衝機構
68 第1油圧室
69 第2油圧室
70 油路
A 車両用モータ駆動装置
E エンジン

【特許請求の範囲】
【請求項1】
電動モータ(3)と、
その電動モータ(3)のモータ軸(4)の回転が入力される入力軸(7)と、
前記入力軸(7)に対して間隔をおいて平行に配置された出力軸(8)と、
前記入力軸(7)に設けられた第1入力ギヤ(9A)および第2入力ギヤ(9B)と、
前記出力軸(8)に設けられ、前記第1入力ギヤ(9A)および第2入力ギヤ(9B)にそれぞれ噛合する第1出力ギヤ(10A)および第2出力ギヤ(10B)と、
前記出力軸(8)の回転を左右の車輪に分配するディファレンシャルギヤ(6)とを有し、
前記第1入力ギヤ(9A)と第2入力ギヤ(9B)と入力軸(7)の組と、前記第1出力ギヤ(10A)と第2出力ギヤ(10B)と出力軸(8)の組とのうち一方を、第1クラッチギヤ(10A)と第2クラッチギヤ(10B)とこれらのクラッチギヤ(10A,10B)を軸受(23)を介して回転可能に支持するクラッチギヤ支持軸(8)とし、
前記第1クラッチギヤ(10A)とクラッチギヤ支持軸(8)との間でトルクの伝達と遮断の切換えを行なう第1クラッチ(24A)と、前記第2クラッチギヤ(10B)とクラッチギヤ支持軸(8)との間でトルクの伝達と遮断の切換えを行なう第2クラッチ(24B)と、前記第1クラッチ(24A)と第2クラッチ(24B)とを選択的に係合させる変速アクチュエータ(41)を設け、
前記第1クラッチ(24A)と第2クラッチ(24B)は2ウェイローラクラッチまたはドグクラッチであり、
前記モータ軸(4)と入力軸(7)のうちの一方の軸(4)の軸端に開口する連結穴(15)に、他方の軸(7)の軸端に設けられた連結軸部(16)を挿入し、
前記連結軸部(16)の外周に軸方向に延びる係合突条(18)を設け、前記連結穴(15)の内周に前記係合突条(18)に係合する係合溝(20)を設け、
その係合突条(18)と係合溝(20)の間に、モータ軸(4)と入力軸(7)の間で伝達する衝撃トルクを緩衝する緩衝機構を設けた車両用モータ駆動装置。
【請求項2】
前記緩衝機構が、前記係合突条(18)と係合溝(20)の間の周方向隙間に収容された弾性部材(21,22)である請求項1に記載の車両用モータ駆動装置。
【請求項3】
前記弾性部材(21,22)がゴムで形成されている請求項2に記載の車両用モータ駆動装置。
【請求項4】
前記弾性部材(21,22)が、径方向または軸方向に並列に配置された周方向長さが異なる複数の弾性部材(21,22)からなる請求項2または3に記載の車両用モータ駆動装置。
【請求項5】
前記緩衝機構が、前記係合突条(18)と係合溝(20)の間に組み込まれた液圧緩衝機構(67)である請求項1に記載の車両用モータ駆動装置。
【請求項6】
前記液圧緩衝機構(67)が、前記係合突条(18)と係合溝(20)の間の周方向両側の隙間のうち片側の隙間に形成された第1油圧室(68)と、反対側の隙間に形成された第2油圧室(69)と、前記第1油圧室(68)と第2油圧室(69)の間を連通する油路(70)とからなる請求項5に記載の車両用モータ駆動装置。
【請求項7】
前記緩衝機構として、弾性部材(21,22)と液圧緩衝機構(67)とを組み合わせて採用した請求項1に記載の車両用モータ駆動装置。
【請求項8】
前記第1クラッチ(24A)は、第1クラッチギヤ(10A)の内周とクラッチギヤ支持軸(8)の外周のうち一方に設けられた円筒面(25)と、他方に設けられたカム面(27)と、そのカム面(27)と前記円筒面(25)の間に組み込まれたローラ(28)と、そのローラ(28)を保持し、前記カム面(27)と円筒面(25)の間にローラ(28)を係合させる係合位置とローラ(28)の係合を解除する中立位置との間で前記クラッチギヤ支持軸(8)に対して相対回転可能に設けられた第1保持器(29A)と、その第1保持器(29A)を前記中立位置に弾性保持する第1スイッチばね(30A)とからなる第1の2ウェイローラクラッチ(24A)であり、
前記第2クラッチ(24B)は、第2クラッチギヤ(10B)の内周とクラッチギヤ支持軸(8)の外周のうち一方に設けられた円筒面(25)と、他方に設けられたカム面(27)と、そのカム面(27)と前記円筒面(25)の間に組み込まれたローラ(28)と、そのローラ(28)を保持し、前記カム面(27)と円筒面(25)の間にローラ(28)を係合させる係合位置とローラ(28)の係合を解除する中立位置との間で前記クラッチギヤ支持軸(8)に対して相対回転可能に設けられた第2保持器(29B)と、その第2保持器(29B)を前記中立位置に弾性保持する第2スイッチばね(30B)とからなる第2の2ウェイローラクラッチ(24B)である請求項1から7のいずれかに記載の車両用モータ駆動装置。
【請求項9】
前記変速アクチュエータ(41)は、前記第1保持器(29A)に対して回り止めされかつ前記第1クラッチギヤ(10A)の側面に接触する位置と離反する位置との間で軸方向に移動可能に設けられた第1摩擦板(43A)と、その第1摩擦板(43A)を前記第1クラッチギヤ(10A)の側面から離反する方向に付勢する第1離反ばね(47A)と、前記第2保持器(29B)に対して回り止めされかつ前記第2クラッチギヤ(10B)の側面に接触する位置と離反する位置との間で軸方向に移動可能に設けられた第2摩擦板(43B)と、その第2摩擦板(43B)を前記第2クラッチギヤ(10B)の側面から離反する方向に付勢する第2離反ばね(47B)と、前記第1摩擦板(43A)を押圧して前記第1クラッチギヤ(10A)の側面に接触させる第1シフト位置と前記第2摩擦板(43B)を押圧して前記第2クラッチギヤ(10B)の側面に接触させる第2シフト位置との間で軸方向に移動可能に設けられたシフトリング(42)と、そのシフトリング(42)を軸方向に移動させるシフト機構(49)とからなる請求項8に記載の車両用モータ駆動装置。
【請求項10】
左右一対の前輪(1)と左右一対の後輪(2)のうち少なくとも一方を請求項1から9のいずれかに記載の車両用モータ駆動装置で駆動するようにした電気自動車。
【請求項11】
左右一対の前輪(1)と左右一対の後輪(2)のうち一方をエンジン(E)で駆動し、他方を請求項1から9のいずれかに記載の車両用モータ駆動装置で駆動するようにしたハイブリッド自動車。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【図11】
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【図12】
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【図13】
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【図14】
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【図15】
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【図16】
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【図17】
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【図18】
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【図19】
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【公開番号】特開2012−219852(P2012−219852A)
【公開日】平成24年11月12日(2012.11.12)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−83570(P2011−83570)
【出願日】平成23年4月5日(2011.4.5)
【出願人】(000102692)NTN株式会社 (9,006)
【Fターム(参考)】