説明

車両用動力伝達装置の制御装置

【課題】 無段変速機に発生するフレッティング摩耗を、ドライブフィールの低下を回避しながら防止する。
【解決手段】 無段変速機Tの変速比を決定する偏心量εが一定の状態が継続すると、無段変速機Tのギヤが同一の歯面で長時間接触してフレッティング摩耗が発生する虞があるが、偏心量固定状態判定手段M3が偏心量εが所定時間一定であると判定したときに、目標出力トルク保持手段M5が偏心量εを変更するとともに、無段変速機Tの目標出力トルクを保持するように駆動源の出力トルクを制御するので、偏心量εを変更してフレッティング摩耗の発生を防止しながら、無段変速機Tの目標出力トルクが変化しないようにしてドライブフィールの低下を回避することができる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、駆動源に接続された入力軸の回転を変速して出力軸に伝達する無段変速機が、前記入力軸の軸線からの偏心量が可変であって該入力軸と共に回転する入力側支点と、前記偏心量を変化させる変速アクチュエータと、前記出力軸に接続されたワンウエイクラッチと、前記ワンウエイクラッチの入力部材に設けられた出力側支点と、前記入力側支点および前記出力側支点に両端を接続されて往復運動するコネクティングロッドとを備える車両用動力伝達装置の制御装置に関する。
【背景技術】
【0002】
かかる車両用動力伝達装置に用いられる無段変速機が、下記特許文献1により公知である。
【0003】
また遊星歯車機構を備えた有段変速機において、遊星歯車機構のサンギヤ、リングギヤおよびピニオンの各ギヤ要素が相対回転しない所定の変速段での運転状態が継続すると、それらのギヤ要素の噛合面から潤滑油が失われて異常摩耗(フレッティング摩耗)が発生する虞がある。そこで前記所定変速段での運転状態が所定時間継続したときに、有段変速機の油圧クラッチの一つを一時的に緩めて遊星歯車機構の各ギヤ要素を相対回転させることで、前記フレッティング摩耗の発生を回避するものが、下記特許文献2により公知である。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特表2005−502543号公報
【特許文献2】特許第4458741号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
しかしながら上記特許文献2に記載されたものは、遊星歯車機構の各ギヤ要素を相対回転させるために、一時的ではあるにせよ有段変速機の油圧クラッチの一つを緩める必要があるため、その瞬間にトルク伝達が中断されてショックが発生し、ドライブフィールが損なわれる可能性があった。また油圧クラッチを緩める際に滑りを利用するため、頻繁に行うとクラッチライニングの消耗につながる可能性がある。
【0006】
また引用文献1に記載の無段変速機も、一定の変速比で運転している間は入力軸の軸線からの入力側支点の偏心量が一定になり、偏心量を変更する機構のギヤの噛合面が変化しないため、その噛合面にフレッティング摩耗が発生する可能性がある。
【0007】
本発明は前述の事情に鑑みてなされたもので、無段変速機に発生するフレッティング摩耗を、ドライブフィールの低下を回避しながら防止することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
上記目的を達成するために、請求項1に記載された発明によれば、駆動源に接続された入力軸の回転を変速して出力軸に伝達する無段変速機が、前記入力軸の軸線からの偏心量が可変であって該入力軸と共に回転する入力側支点と、前記偏心量を変化させる変速アクチュエータと、前記出力軸に接続されたワンウエイクラッチと、前記ワンウエイクラッチの入力部材に設けられた出力側支点と、前記入力側支点および前記出力側支点に両端を接続されて往復運動するコネクティングロッドとを備える車両用動力伝達装置の制御装置であって、車両および前記駆動源の運転状態を検出する運転状態検出手段と、前記運転状態検出手段により検出された前記運転状態に応じて車両の目標出力トルクを算出する目標出力トルク算出手段と、前記目標出力トルク算出手段によって算出された前記目標出力トルクに応じて前記駆動源の出力トルクを算出する駆動源出力トルク算出手段と、前記偏心量を算出する偏心量算出手段と、前記偏心量算出手段によって算出された前記偏心量が所定時間一定であるか否かを判定する偏心量固定状態判定手段と、前記偏心量固定状態判定手段によって前記偏心量が所定時間一定であると判定されたときに該偏心量を変更するとともに、前記目標出力トルクを保持するように前記駆動源の出力トルクを制御する目標出力トルク保持手段とを備えることを特徴とする車両用動力伝達装置の制御装置が提案される。
【0009】
また請求項2に記載された発明によれば、請求項1の構成に加えて、前記目標出力トルク保持手段は、前記偏心量の変更により生じる前記目標出力トルクの変化量を算出し、前記目標出力トルクの変化量を打ち消すように前記駆動源の出力トルクを制御することを特徴とする車両用動力伝達装置の制御装置が提案される。
【0010】
また請求項3の構成によれば、請求項1または請求項2の構成に加えて、前記入力軸の回転角を検出する入力軸回転角センサと、前記変速アクチュエータの変速軸の回転角を検出する変速軸回転角センサとを備え、前記偏心量算出手段は、前記入力軸回転角センサによって検出された前記入力軸の回転角と、前記変速軸回転角センサによって検出された前記変速アクチュエータの変速軸の回転角とに基づいて前記偏心量を算出することを特徴とする車両用動力伝達装置の制御装置が提案される。
【0011】
また請求項4に記載された発明によれば、請求項1〜請求項3の何れか1項の構成に加えて、前記無段変速機の作動油温を検出する作動油温センサと、前記作動油温センサによって検出された前記無段変速機の作動油温に基づいて前記所定時間を変更する時間変更手段とを備えることを特徴とする車両用動力伝達装置の制御装置が提案される。
【0012】
また請求項5に記載された発明によれば、請求項4の構成に加えて、前記時間変更手段は、前記無段変速機の作動油温が所定値以上のときは、所定値未満のときよりも前記所定時間を短くすることを特徴とする車両用動力伝達装置の制御装置が提案される。
【0013】
尚、実施の形態の偏心ディスク18は本発明の入力側支点に対応し、実施の形態のピン19cは本発明の出力側支点に対応し、実施の形態のアウター部材22は本発明の入力部材に対応し、実施の形態のクランク角センサSaは本発明の入力軸回転角センサに対応し、実施の形態のエンジン回転数センサSb、吸気負圧センサSc、車速センサSdおよびアクセル開度センサSeは本発明の運転状態検出手段に対応し、実施の形態のエンジンEは本発明の駆動源に対応する。
【発明の効果】
【0014】
請求項1の構成によれば、無段変速機が、入力軸の軸線からの偏心量が可変であって該入力軸と共に回転する入力側支点と、出力軸に設けられたワンウエイクラッチと、ワンウエイクラッチの入力部材に設けられた出力側支点と、入力側支点および出力側支点に両端を接続されて往復運動するコネクティングロッドとを備えるので、入力軸の回転をコネクティングロッドおよびワンウエイクラッチを介して出力軸に伝達するとともに、入力側支点の偏心量を変化させて変速比を変化させることができる。
【0015】
目標出力トルク算出手段が車両および駆動源の運転状態に応じて車両の目標出力トルクを算出すると、駆動源出力トルク算出手段が目標出力トルクが生じるように駆動源の出力トルクを算出する。
【0016】
また請求項2の構成によれば、目標出力トルク保持手段は、偏心量の変更により生じる目標出力トルクの変化量を算出し、目標出力トルクの変化量を打ち消すように駆動源の出力トルクを制御するので、目標出力トルクが変化してドライブフィールが低下するのを確実に防止することができる。
【0017】
また請求項3の構成によれば、偏心量算出手段は、入力軸回転角センサによって検出された入力軸の回転角と、変速軸回転角センサによって検出された変速アクチュエータの変速軸の回転角とに基づいて偏心量を算出するので、偏心量を精度良く算出することが可能となる。
【0018】
また請求項4の構成によれば、時間変更手段は、無段変速機の作動油温に基づいて所定時間を変更するので、フィレッティング摩耗が発生する可能性の大小に応じて適切な所定時間を設定することができる。
【0019】
また請求項5の構成によれば、時間変更手段は、無段変速機の作動油温が所定値以上のときは所定値未満のときよりも所定時間を短くするので、作動油温が高くてフィレッティング摩耗が発生する可能性が高いときに、偏心量の変更を高頻度で行ってフィレッティング摩耗の発生を一層確実に防止することができる。
【図面の簡単な説明】
【0020】
【図1】車両用の走行用動力装置の全体構成を示す図。
【図2】図1の2部詳細図。
【図3】図2の3−3線断面図(TOP状態)。
【図4】図2の3−3線断面図(LOW状態)。
【図5】TOP状態での作用説明図。
【図6】LOW状態での作用説明図。
【図7】エンジンおよび変速アクチュエータの制御系のブロック図。
【図8】無段変速機の各変速比における偏心量および出力トルクの関係を示すグラフ。
【図9】エンジンの等出力線を示すグラフ。
【図10】偏心量およびエンジン出力トルクを制御するルーチンのフローチャート。
【図11】無段変速機の油温により第1所定時間を変更するルーチンのフローチャート。
【発明を実施するための形態】
【0021】
以下、図1〜図11に基づいて本発明の実施の形態を説明する。
【0022】
図1に示すように、自動車の走行用駆動源であるエンジンEに無段変速機Tが直列に接続されており、無段変速機TのエンジンEと反対側の端部に、その変速比を変更するための電動モータよりなる変速アクチュエータAが直列に接続される。エンジンEの運転を制御する電子制御ユニットUには、エンジンEのクランク角を検出するクランク角センサSaと、エンジンEの回転数を検出するエンジン回転数センサSbと、エンジンEの吸気負圧を検出する吸気負圧センサScと、車速を選出する車速センサSdと、アクセル開度を検出するアクセル開度センサSeとが接続される。電子制御ユニットUとの間で相互に通信を行って変速アクチュエータAの作動を制御するアクチュエータドライバDには、前記クランク角センサSaと、変速アクチュエータAの回転数を検出するアクチュエータ回転角センサSfと、無段変速機Tの作動油の油温を検出する作動油温センサSgとが接続される。
【0023】
次に、図2〜6に基づいて無段変速機Tの構造を説明する。
【0024】
図2および図3に示すように、無段変速機Tは同一構造を有する複数個(実施の形態では4個)の変速ユニット10…を軸方向に重ね合わせたもので、それらの変速ユニット10…は平行に配置された共通の入力軸11および共通の出力軸12を備えており、入力軸11の回転が減速または増速されて出力軸12に伝達される。
【0025】
以下、代表として一つの変速ユニット10の構造を説明する。エンジンEのクランクシャフト30に接続されて回転する入力軸11は、変速アクチュエータAの中空の変速軸14aの内部を相対回転自在に貫通する。変速アクチュエータAのロータ14bは変速軸14aに固定されており、ステータ14cはケーシングに固定される。変速アクチュエータAの変速軸14aは、入力軸11と同速度で回転可能であり、かつ入力軸11に対して異なる速度で相対回転可能である。
【0026】
変速アクチュエータAの変速軸14aを貫通した入力軸11には第1ピニオン15が固定されており、この第1ピニオン15を跨ぐように変速アクチュエータAの変速軸14aにクランク状のキャリヤ16が接続される。第1ピニオン15と同径の2個の第2ピニオン17,17が、第1ピニオン15と協働して正三角形を構成する位置にそれぞれピニオンピン16a,16aを介して支持されており、これら第1ピニオン15および第2ピニオン17,17に、円板形の偏心ディスク18の内部に偏心して形成されたリングギヤ18aが噛合する。偏心ディスク18の外周面に、コネクティングロッド19のロッド部19aの一端に設けたリング部19bがボールベアリング20を介して相対回転自在に嵌合する。
【0027】
出力軸12の外周に設けられたワンウェイクラッチ21は、コネクティングロッド19のロッド部19aにピン19cを介して枢支されたリング状のアウター部材22と、アウター部材22の内部に配置されて出力軸12に固定されたインナー部材23と、アウター部材22の内周の円弧面とインナー部材23の外周の平面との間に形成された楔状の空間に配置されてスプリング24…で付勢されたローラ25…とを備える。
【0028】
図2から明らかなように、4個の変速ユニット10…はクランク状のキャリヤ16を共有しているが、キャリヤ16に第2ピニオン17,17を介して支持される偏心ディスク18の位相は各々の変速ユニット10で90°ずつ異なっている。例えば、図2において、左端の変速ユニット10の偏心ディスク18は入力軸11に対して図中上方に変位し、左から3番目の変速ユニット10の偏心ディスク18は入力軸11に対して図中下方に変位し、左から2番目および4番目の変速ユニット10,10の偏心ディスク18,18は上下方向中間に位置している。
【0029】
次に、無段変速機Tの一つの変速ユニット10の作用を説明する。変速アクチュエータA4の変速軸14aを入力軸11に対して相対回転させると、入力軸11の軸線L1まわりにキャリヤ16が回転する。このとき、キャリヤ16の中心O、つまり第1ピニオン15および2個の第2ピニオン17,17が成す正三角形の中心は入力軸11の軸線L1まわりに回転する。
【0030】
図3および図5は、キャリヤ16の中心Oが第1ピニオン15(つまり入力軸11)に対して出力軸12と反対側にある状態を示しており、このとき入力軸11に対する偏心ディスク18の偏心量ε(図3参照)が最大になって無段変速機Tの変速比はTOP状態になる。図4および図6は、キャリヤ16の中心Oが第1ピニオン15(つまり入力軸11)に対して出力軸12と同じ側にある状態を示しており、このとき入力軸11に対する偏心ディスク18の偏心量εが最小になって無段変速機Tの変速比はLOW状態になる。
【0031】
図5に示すTOP状態で、エンジンEで入力軸11を回転させるとともに、入力軸11と同速度で変速アクチュエータAの変速軸14aを回転させると、入力軸11、変速軸14a、キャリヤ16、第1ピニオン15、2個の第2ピニオン17,17および偏心ディスク18が一体になった状態で、入力軸11を中心に反時計方向(矢印A参照)に偏心回転する。図5(A)から図5(B)を経て図5(C)の状態へと回転する間に、偏心ディスク18の外周にリング部19bをボールベアリング20を介して相対回転自在に支持されたコネクティングロッド19は、そのロッド部19aの先端にピン19cで枢支されたアウター部材22を反時計方向(矢印B参照)に回転させる。図5(A)および図5(C)は、アウター部材22の前記矢印B方向の回転の両端を示している。
【0032】
このようにしてアウター部材22が矢印B方向に回転すると、ワンウェイクラッチ21のアウター部材22およびインナー部材23間の楔状の空間にローラ25…が噛み込み、アウター部材22の回転がインナー部材23を介して出力軸12に伝達されるため、出力軸12は反時計方向(矢印C参照)に回転する。
【0033】
入力軸11および第1ピニオン15が更に回転すると、第1ピニオン15および第2ピニオン17,17にリングギヤ18aを噛合させた偏心ディスク18が反時計方向(矢印A参照)に偏心回転する。図5(C)から図5(D)を経て図5(A)の状態へと回転する間に、偏心ディスク18の外周にリング部19bをボールベアリング20を介して相対回転自在に支持されたコネクティングロッド19は、そのロッド部19aの先端にピン19cで枢支されたアウター部材22を時計方向(矢印B′参照)に回転させる。図5(C)および図5(A)は、アウター部材22の前記矢印B′方向の回転の両端を示している。
【0034】
このようにしてアウター部材22が矢印B′方向に回転すると、アウター部材22とインナー部材23との間の楔状の空間からローラ25…がスプリング24…を圧縮しながら押し出されることで、アウター部材22がインナー部材23に対してスリップして出力軸12は回転しない。
【0035】
以上のように、アウター部材22が往復回転したとき、アウター部材22の回転方向が反時計方向(矢印B参照)のときだけ出力軸12が反時計方向(矢印C参照)に回転するため、出力軸12は間欠回転することになる。
【0036】
図6は、LOW状態で無段変速機Tを運転するときの作用を示すものである。このとき、入力軸11の位置は偏心ディスク18の中心に一致しているので、入力軸11に対する偏心ディスク18の偏心量εはゼロになる。この状態でエンジンEで入力軸11を回転させるとともに、入力軸11と同速度で変速アクチュエータAの変速軸14aを回転させると、入力軸11、変速軸14a、キャリヤ16、第1ピニオン15、2個の第2ピニオン17,17および偏心ディスク18が一体になった状態で、入力軸11を中心に反時計方向(矢印A参照)に偏心回転する。しかしながら、偏心ディスク18の偏心量εがゼロであるため、コネクティングロッド19の往復運動のストロークもゼロになり、出力軸12は回転しない。
【0037】
従って、変速アクチュエータAを駆動してキャリヤ16の位置を図3のTOP状態と図4のLOW状態との間に設定すれば、ゼロ変速比および所定変速比間の任意の変速比での運転が可能になる。
【0038】
無段変速機Tは、並置された4個の変速ユニット10…の偏心ディスク18…の位相が相互に90°ずつずれているため、4個の変速ユニット10…が交互に駆動力を伝達することで、つまり4個のワンウェイクラッチ21…の何れかが必ず係合状態にあることで、出力軸12を連続回転させることができる。
【0039】
次に、エンジンEおよび無段変速機Tの制御について説明する。
【0040】
図7に示すように、電子制御ユニットUおよびアクチュエータドライバDは、目標出力トルク算出手段M1と、駆動源出力トルク算出手段M2と、偏心量算出手段M3と、偏心量固定状態判定手段M4と、目標出力トルク保持手段M5と、時間変更手段M6とを備える。
【0041】
目標出力トルク算出手段M1は、車両およびエンジンEの運転状態、即ち、エンジン回転数センサSbで検出したエンジン回転数、吸気負圧センサScで検出したエンジンEの吸気負圧、車速センサSdで検出した車速、アクセル開度センサSeで検出したアクセル開度等に基づいて運転者の要求トルク、つまり無段変速機Tから駆動輪に出力させるべき目標出力トルクを算出する。駆動源出力トルク算出手段M2は、無段変速機Tから駆動輪に出力させるべき前記目標出力トルクと無段変速機Tの目標変速比とに基づいて、エンジンEに出力させるべき出力トルクを算出する。無段変速機Tの目標変速比は、車速およびアクセル開度からマップで検索される。
【0042】
偏心量算出手段M3は、無段変速機Tの入力軸11に対する偏心ディスク18の偏心量εを算出する。即ち、前述したように変速アクチュエータAを駆動してキャリヤ16を入力軸11と同速度で回転させると変速比は一定に保持され、入力軸の回転数に対して変速アクチュエータAの回転数を増速あるいは減速すると、変速比はLOW側あるいはTOP側に変化する。無段変速機Tの入力軸11の回転角は、入力軸11に直結されたエンジンEのクランクシャフトの回転角を検出するクランク角センサSaにより検出可能であり、変速アクチュエータAの回転角はアクチュエータ回転角センサSfにより検出可能であるため、クランクシャフトの回転角および変速アクチュエータAの回転角の差分が入力軸11に対するキャリヤ16の相対回転角となり、この相対回転角から偏心ディスク18の偏心量εを幾何学的に算出することができる。
【0043】
偏心量固定状態判定手段M4は、前記偏心量εが第1の所定時間一定値に保持されたこと、つまり無段変速機Tの変速比が第1の所定時間一定値に保持されたことを判定する。無段変速機Tの偏心量εが固定されると、入力軸11、変速軸14a、キャリヤ16、第1ピニオン15、2個の第2ピニオン17,17および偏心ディスク18が一体になった状態で回転するため、第1ピニオン15、第2ピニオン17,17および偏心ディスク18のリングギヤ18aが同一の歯面で接触し続けることになり、その接触部にフレッティング摩耗が発生する可能性がある。
【0044】
そこで偏心量固定状態判定手段M4が偏心ディスク18の偏心量εが第1の所定時間(例えば5分)一定値に保持されたことを判定すると、目標出力トルク保持手段M5は、前記偏心量εを変更することで、第1ピニオン15、第2ピニオン17,17および偏心ディスク18のリングギヤ18aが噛合する歯面を変化させる。前記偏心量εの変更量は、第1ピニオン15、第2ピニオン17,17あるいはリングギヤ18aの一歯分で充分である。
【0045】
図8は、無段変速機Tの偏心量εと無段変速機Tの出力トルクとの関係を無段変速機Tの各変速比(入力回転数/出力回転数)毎に示すもので、横線は運転者の要求出力トルクに相当する。例えば、偏心量εがa点において第1の所定時間一定値に保持された場合には、偏心量εを一定要求出力トルク線上でa点からb点に移動させることで、第1ピニオン15、第2ピニオン17,17および偏心ディスク18のリングギヤ18aが噛合する歯面を変化させる。そして第2の所定時間(例えば数秒)が経過すると、偏心量εが変更後のb点から変更前のa点に戻される。
【0046】
上述のようにして偏心量εを変更すると無段変速機Tの変速比が変化するため、エンジンEの出力トルクを変更しないと無段変速機Tの出力トルクが変化してドライブフィールが低下してしまうが、これを防止すべく目標出力トルク保持手段M5は、エンジンEの出力トルクを変更することで無段変速機Tの出力トルクが変化するのを防止する。即ち、無段変速機Tの変更後の偏心量εから変更後の変速比を求め、この変更後の変速比と無段変速機Tの目標出力トルクとから、その目標出力トルクを発生させるのに必要なエンジンEの新たな出力トルクを算出する。
【0047】
これにより、偏心量εの変更に伴う無段変速機Tの出力トルクの変化を、エンジンEの出力トルクの変更によって打ち消し、無段変速機Tの出力トルクが変化しないようにしてドライブフィールの低下を防止することができる。第2の所定時間が経過すると、偏心量εが変更後のb点から変更前のa点に戻され、それに伴ってエンジンEの出力トルクも変更後の値から変更前の値に戻される。
【0048】
図9はエンジンEの等出力線図を示すもので、偏心量εの変更前のエンジンEの出力トルクがTaであり、偏心量εの変更後のエンジンEの出力トルクがTbであるとすると、偏心量εの変更前は、燃料消費量が最小になるBSFCボトムラインと交差する等出力線上で出力トルクがTaになるA点でエンジンEが運転される。そして偏心量εの変更後は、同じ等出力線上で出力トルクがTbになるB点でエンジンEが運転され、偏心量εが元に戻ると、燃料消費量の増加を最小限に抑えるために運転ポイントがB点からA点に速やかに戻される。
【0049】
上記作用を図10のフローチャートに基づいて更に説明する。
【0050】
先ずステップS1で無段変速機Tの偏心量εが固定状態になければ、ステップS11で第1、第2タイマを停止する。前記ステップS1で無段変速機Tの偏心量εが固定状態にあり、ステップS2でフレッティング摩耗防止のための偏心量εの変更中でなく、ステップS3で第1タイマの作動中でなければ、ステップS10で第1タイマをスタートさせる。前記ステップS3で第1タイマが作動中であり、ステップS4で第1タイマが第1の所定時間(例えば5分)をカウントすると、ステップS5で無段変速機Tの偏心量εを変更するとともに、エンジンEの出力トルクを変更することで、無段変速機Tの出力トルクが変化しないようにしてフレッティング摩耗を防止する。
【0051】
続くステップS6で第2タイマをスタートさせ、ステップS7で第2タイマが第2の所定時間(例えば数秒)をカウントすると、ステップS8で無段変速機Tの偏心量εおよびエンジンEの出力トルクを元に戻し、ステップS9で第1、第2タイマを停止する。
【0052】
ところで、無段変速機Tのフレッティング摩耗はギヤが同一歯面で長時間接触することで潤滑油が接触面から押し出されることにより発生するため、油温が高いために潤滑油の粘性が低くなった状態では、潤滑油が接触面から容易に押し出されてフレッティング摩耗が発生し易くなる。そこで本実施の形態では、時間変更手段M6が、作動油温センサSgで検出した無段変速機Tの作動油の油温に基づいて第1の所定時間を変更する。
【0053】
即ち、図11のフローチャートのステップS21で第1タイマをスタートさせ、ステップS22で油温が所定温度(例えば120°C)以上であれば、ステップS23で前記第1の所定時間を高油温時用所定時間(例えば3分)に設定し、前記ステップS22で油温が所定温度(例えば120°C)未満であれば、ステップS24で前記第1の所定時間を通常油温時用所定時間(例えば5分)に設定する。
【0054】
これにより、フレッティング摩耗が発生し易い高油温時に第1の所定時間短く設定することで、フレッティング摩耗の発生を一層確実に防止することができる。
【0055】
以上、本発明の実施の形態を説明したが、本発明はその要旨を逸脱しない範囲で種々の設計変更を行うことが可能である。
【0056】
例えば、本発明の駆動源は実施の形態のエンジンEに限定されず、電動モータ等の他の駆動源であっても良い。
【符号の説明】
【0057】
11 入力軸
12 出力軸
14a 変速軸
18 偏心ディスク(入力側支点)
19 コネクティングロッド
19c ピン(出力側支点)
21 ワンウエイクラッチ
22 アウター部材(入力部材)
A 変速アクチュエータ
E エンジン(駆動源)
L1 入力軸の軸線
M1 目標出力トルク算出手段
M2 駆動源出力トルク算出手段
M3 偏心量算出手段
M4 偏心量固定状態判定手段
M5 目標出力トルク保持手段
M6 時間変更手段
Sa クランク角センサ(入力軸回転角センサ)
Sb エンジン回転数センサ(運転状態検出手段)
Sc 吸気負圧センサ(運転状態検出手段)
Sd 車速センサ(運転状態検出手段)
Se アクセル開度センサ(運転状態検出手段)
Sf 変速軸回転角センサ
Sg 作動油温センサ
T 無段変速機
ε 偏心量

【特許請求の範囲】
【請求項1】
駆動源(E)に接続された入力軸(11)の回転を変速して出力軸(12)に伝達する無段変速機(T)が、
前記入力軸(11)の軸線(L1)からの偏心量(ε)が可変であって該入力軸(11)と共に回転する入力側支点(18)と、前記偏心量(ε)を変化させる変速アクチュエータ(A)と、前記出力軸(12)に接続されたワンウエイクラッチ(21)と、前記ワンウエイクラッチ(21)の入力部材(22)に設けられた出力側支点(19c)と、前記入力側支点(18)および前記出力側支点(19c)に両端を接続されて往復運動するコネクティングロッド(19)とを備える車両用動力伝達装置の制御装置であって、
車両および前記駆動源(E)の運転状態を検出する運転状態検出手段(Sb〜Se)と、
前記運転状態検出手段(Sb〜Se)により検出された前記運転状態に応じて車両の目標出力トルクを算出する目標出力トルク算出手段(M1)と、
前記目標出力トルク算出手段(M1)によって算出された前記目標出力トルクに応じて前記駆動源(E)の出力トルクを算出する駆動源出力トルク算出手段(M2)と、
前記偏心量(ε)を算出する偏心量算出手段(M3)と、
前記偏心量算出手段(M3)によって算出された前記偏心量(ε)が所定時間一定であるか否かを判定する偏心量固定状態判定手段(M4)と、
前記偏心量固定状態判定手段(M4)によって前記偏心量(ε)が所定時間一定であると判定されたときに該偏心量(ε)を変更するとともに、前記目標出力トルクを保持するように前記駆動源(E)の出力トルクを制御する目標出力トルク保持手段(M5)とを備えることを特徴とする車両用動力伝達装置の制御装置。
【請求項2】
前記目標出力トルク保持手段(M5)は、前記偏心量(ε)の変更により生じる前記目標出力トルクの変化量を算出し、前記目標出力トルクの変化量を打ち消すように前記駆動源(E)の出力トルクを制御することを特徴とする、請求項1に記載の車両用動力伝達装置の制御装置。
【請求項3】
前記入力軸(11)の回転角を検出する入力軸回転角センサ(Sa)と、前記変速アクチュエータ(A)の変速軸(14a)の回転角を検出する変速軸回転角センサ(Sf)とを備え、
前記偏心量算出手段(M3)は、前記入力軸回転角センサ(Sb)によって検出された前記入力軸(11)の回転角と、前記変速軸回転角センサ(Sf)によって検出された前記変速アクチュエータ(A)の変速軸(14a)の回転角とに基づいて前記偏心量(ε)を算出することを特徴とする、請求項1または請求項2に記載の車両用動力伝達装置の制御装置。
【請求項4】
前記無段変速機(T)の作動油温を検出する作動油温センサ(Sg)と、前記作動油温センサ(Sg)によって検出された前記無段変速機(T)の作動油温に基づいて前記所定時間を変更する時間変更手段(M6)とを備えることを特徴とする、請求項1〜請求項3の何れか1項に記載の車両用動力伝達装置の制御装置。
【請求項5】
前記時間変更手段(M6)は、前記無段変速機(T)の作動油温が所定値以上のときは、所定値未満のときよりも前記所定時間を短くすることを特徴とする、請求項4に記載の車両用動力伝達装置の制御装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【図11】
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【公開番号】特開2012−215228(P2012−215228A)
【公開日】平成24年11月8日(2012.11.8)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−80580(P2011−80580)
【出願日】平成23年3月31日(2011.3.31)
【出願人】(000005326)本田技研工業株式会社 (23,863)
【Fターム(参考)】