説明

車両用姿勢制御装置

【課題】ペダルの踏み込み量、ハンドル操舵量などを考慮して車両の姿勢制御を行うことにより、ドライバの意図するとおりの旋回走行をアシストすることができる車両用姿勢制御装置を提供する。
【解決手段】操舵角δと車速vとに基づいて、車両旋回時の目標横すべり角βsを算出する目標横すべり角演算部151と、操舵角速度δ′、アクセルペダルの踏み込み量A、アクセルペダルの踏み込み速度A′、フットブレーキペダルの踏み込み量Bの中から選択される少なくとも1つに対応して算出される横すべり角補正量Δβを用いて、前記目標横すべり角演算部151によって算出された目標横すべり角βsを補正する目標横すべり角補正部152と、前記目標横すべり角補正部152によって補正された目標横すべり角β*を用いて車両の姿勢制御を行う。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、車両挙動の安定化を図ることができる車両用姿勢制御装置に関するものである。
【背景技術】
【0002】
車両の運転中に、急なハンドル操作をした時や滑りやすい路面を走行中に、車両の横滑りを感知すると、自動的に個々の車輪に独立してブレーキをかけることにより横滑りを防止する機構を「電子式車両姿勢制御機構」(Electronic Stability Control; ESC)、又は「横滑り防止機構」という。
この電子式車両姿勢制御機構は、車速、さらには車両に発生する横加速度、回転角速度(ヨーレート)などを検出する各種センサから情報を集積し、不安定な車両状態を検知し、各輪独立したブレーキ制御やエンジン出力制御などを実施することにより、車両の進行方向を修正、維持する。
【0003】
具体的には、車両がアンダーステア状態になった時に、旋回内側車輪の制動力を旋回外側車輪の制動力よりも大きくすることで旋回内側方向への車両ヨーモーメントを発生させ、オーバーステア状態になった時には旋回外側車輪の制動力を旋回内側車輪の制動力よりも大きくすることで旋回外側方向への車両ヨーモーメントを発生させ、車両挙動を安定化させる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開2001-233195号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
ところが従来技術の例では、車両状態を検知するために、各種センサから情報を集めて目標とするヨーレート若しくは車体横すべり角を演算により求めていたが、ドライバの操作する部材の操作量についてまで考慮されていなかった。
そこで、本発明の目的は、ペダルの踏み込み量、ハンドル操舵量などを考慮して車両の姿勢制御を行うことにより、ドライバの意図するとおりの旋回走行を行うことができる車両用姿勢制御装置を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0006】
前記の目的を達成するための本発明の車両用姿勢制御装置は、操舵角と車速とに基づいて、車両旋回時の目標横すべり角を算出する目標横すべり角演算部と、操舵角速度、アクセルペダルの踏み込み量、アクセルペダルの踏み込み速度、フットブレーキペダルの踏み込み量の中から選択される少なくとも1つに対応して算出される横すべり角補正量を用いて、前記目標横すべり角演算部によって算出された目標横すべり角を補正する目標横すべり角補正部と、前記目標横すべり角補正部によって補正された目標横すべり角を用いて車両の姿勢制御を行う姿勢制御部とを備えるものである。
【0007】
この構成によれば、操舵部材、アクセルペダル、フットブレーキペダルというドライバの操作する部材の操作量に応じて、目標横すべり角を補正することができる。これによって、アンダーステア状態もオーバーステア状態も発生しないで、車両はドライバの意図するとおりの旋回走行を行うことができる。
【図面の簡単な説明】
【0008】
【図1】本発明の一実施形態に係る車両用姿勢制御装置の概略構成を示す模式図である。
【図2】姿勢制御部15の制御ブロック図である。
【図3】姿勢制御部15の全体手順を説明するためのフローチャートである。
【図4】操舵角速度(δ′)、アクセルペダルの踏み込み量(A)、アクセルペダルの踏み込み速度(A′)、フットブレーキペダルの踏み込み量(B)と、横すべり角補正量(Δβ)との関係を示すグラフである。
【図5】測定された推定横すべり角と目標横すべり角との差分(β−β*)の符号(正/負)に応じて、右後輪又は左後輪に姿勢制御ブレーキ圧を印加する手順を示すフローチャートである。
【発明を実施するための形態】
【0009】
以下、本発明の実施の形態を、添付図面を参照しながら詳細に説明する。
図1は、車両用姿勢制御装置の概略構成を示す模式図である。
車両用姿勢制御装置1は、ステアリングホイール等の操舵部材2と、操舵部材2に同行回転可能に連結されたステアリングシャフト3とを備えている。ステアリングシャフト3には、操舵部材2の操舵角δを検出する操舵角センサ4が設けられている。操舵角センサ4は、例えば操舵部材2のステアリングシャフト3の円周上に取り付けられた多極磁石を磁気感応素子等で検出することによりステアリングシャフト3の回転角を検出するセンサである。ステアリングシャフト3の一端には操舵部材2が取り付けられ、他端は自在継手5に連結され、ここから舵取り機構を介して、前輪タイヤTfr,Tflに連結されている。
【0010】
舵取り機構は、ピニオン軸6と、ピニオン軸6の先端のピニオンに噛み合い、車両の左右方向に延びる転舵軸としてのラック軸7と、ラック軸7の一対の端部のそれぞれにタイロッド8L,8Rを介して連結されるナックルアーム9L,9Rとを有している。“10f”はラック軸7にかかる左右方向の軸力を検出するための軸力センサを示し、“10r”は後輪の車軸に発生する引張応力と圧縮応力との差に基づいた歪を検出するための軸力センサを示す。
【0011】
なお、ステアリングシャフト3又はラック軸7には、ギア装置を介して、操舵補助電動モータ(図示せず)が連結されている。この操舵補助電動モータによって操舵補助力が与えられる。
“19”はアクセルペダルを示す。アクセルペダル19にはその踏み込み量(ストローク)を検出する変位センサが設けられている。変位センサはその踏み込み量を示す信号を、姿勢制御部15に供給するようにされ姿勢制御部15はアクセルペダル19の踏み込み量を知ることができる。
【0012】
“12”はフットブレーキペダルを示す。フットブレーキペダル12にはその踏み込み量(ストローク)を検出する変位センサが設けられている。変位センサはその踏み込み量を示す信号を、姿勢制御部15に供給するようにされ、姿勢制御部15はフットブレーキペダル12の踏み込み量を知ることができる。
なお、変位センサに代えて、四輪油圧制御ユニット11に入力されるブレーキペダル12の踏力に応じた各車輪の制動圧を表す信号を用いても良い。この制動圧を表す信号は、四輪油圧制御ユニット11から姿勢制御部15に伝送されることにより、姿勢制御部15はフットブレーキペダルの踏み込み量を知ることができる。
【0013】
車両用姿勢制御装置1には、車両の前後左右車輪を制動するための四輪油圧制御ユニット11が設けられている。この四輪油圧制御ユニット11は、ブレーキペダル12の踏力に応じた各車輪の制動圧をマスターシリンダにより発生させる。その各制動圧は、四輪油圧制御ユニット11から各車輪のブレーキ装置13にホイルシリンダ圧として分配され、各ブレーキ装置13において各車輪に制動力を作用させる。
【0014】
ブレーキ装置13の構造を、図1の後輪タイヤTrrの部位において、破線円内に拡大して示す。ブレーキ装置13は、キャリパ13aの内部に取り付けられたブレーキパッド13bが車輪のロータ14に押し当てられることにより、制動力が発生する構造となっている。
四輪油圧制御ユニット11は、コンピュータにより構成される姿勢制御部15に接続される。この姿勢制御部15には、前述した操舵角センサ4及び軸力センサ10と、車輪の回転速度を検出する車輪速センサ16と、車体に取り付けられたヨーレートセンサ17と、車体に取り付けられた横加速度センサ18とが接続されている。車輪速センサ16は、車輪のロータ14の回転速度を光学的に読み取るセンサであって、読み取った回転速度に、タイヤの有効回転半径をかけることにより、車速vを検出する。ヨーレートセンサは車両の回転角速度(ヨーレート)を検出するセンサであり、例えば圧電素子を用いて振動体にかかるコリオリの力を検出することにより、車両の回転角速度を検出する。横加速度センサは、車両の横方向にかかる加速度を検出するセンサであり、例えばセンサ素子の可動部と固定部との間に発生する静電容量の変化を検出することにより、車両の横方向にかかる加速度を検出する。
【0015】
姿勢制御部15は、車輪速センサ16により検出される車両の速度vと、操舵角センサ4により検出される操舵角δとに基づいて、目標とする車体横すべり角(車体の横方向の速度と縦方向の速度のなす角度のことである。以下単に「横すべり角」という)β*を算出し、ヨーレートセンサ17と横加速度センサ18とを用いて推定された実際の横すべり角βとの差に基づいて、後輪に分配するブレーキ圧を決定し、そのブレーキ圧信号を四輪油圧制御ユニット11に提供する。
【0016】
なおこの実施形態では、操舵角δは、中立位置から左方向に回している場合を正の値とし、中立位置から右方向に回している場合を負の値として処理されるものとする。車体横すべり角βは、車体が中立位置から左方向を向いている場合を正の値とし、中立位置から右方向を向いている場合を負の値として処理されるものとする。
これにより、ブレーキペダル12の踏力に応じて設定される四輪の制動圧に対して、後輪にかかる制動力を個別に補正することが可能となる。
【0017】
図2は、姿勢制御部15の制御ブロック図を示す。
姿勢制御部15は、車輪速センサ16から得られる車速vと、操舵角センサ4から得られる操舵角δとから目標横すべり角βsを演算する目標横すべり角演算部151と、目標横すべり角補正部152とを備えている。目標横すべり角補正部152は、4つの記憶部(1)〜(4)を備えている。目標横すべり角βsの演算式については後述する。
【0018】
目標横すべり角演算部151で算出された目標横すべり角βsは、図2に示されるように、目標横すべり角補正部152によって、操舵角δの時間微分である操舵角速度δ′、アクセルペダルの踏み込み量A、アクセルペダルの踏み込み量の時間微分(踏み込み速度)A′、フットブレーキペダルの踏み込み量から算出されるブレーキ圧Pに基づいて補正される。
【0019】
目標横すべり角補正部152は、記憶部(1)において、操舵角速度δ′と横すべり角補正量Δβδ′との間の予め定められた関係(マップ)を記憶しており、操舵角δを時間微分して操舵角速度δ′を得、その操舵角速度δ′を前記関係に適用して第一の横すべり角補正量Δβδ′を算出する。この関係を、図4(a)のグラフに示す。このグラフは、操舵角速度δ′が閾値−δ′thから閾値δ′thの範囲であれば横すべり角補正量Δβδ′を0とし、操舵角速度δ′が閾値δ′thを正の方向に超えると横すべり角補正量Δβδ′を正の所定値に設定し、操舵角速度δ′が閾値−δ′thを負の方向に超えると横すべり角補正量Δβδ′を負の所定値に設定している。したがって操舵部材2を急激に左に切って操舵角速度δ′が閾値δ′thを超えるようになると、目標横すべり角βsは正(左)の方向に増大し、操舵部材2を急激に右に切って操舵角速度δ′が閾値−δ′thを負の方向に超えるようになると、目標横すべり角βsは負(右)の方向に増大する。すなわち目標横すべり角補正部152は、切った方向に車体が向くように、目標横すべり角βsを補正する。
【0020】
操舵角速度δ′が閾値−δ′thから閾値δ′thの範囲であれば横すべり角補正を行わないようにしているが、これは操舵角速度δ′が小さい場合、ドライバは急操舵を行っておらず、走行状態は十分にドライバの制御の範囲内であり、車両の姿勢制御をサポートする必要はないと判断されるからである。
また、目標横すべり角補正部152は、記憶部(2)において、アクセルペダル19の踏み込み量Aと横すべり角補正量ΔβAとの間の予め定められた関係(マップ)を記憶しており、測定されたアクセルペダル19の踏み込み量Aを前記関係に適用して第二の横すべり角補正量ΔβAを算出する。
【0021】
この関係を、図4(b)のグラフに示す。このグラフによれば、アクセルペダル19の踏み込み量Aが閾値Ath以内であれば横すべり角補正量ΔβAを0とし、右旋回している車両を前提にするならば、アクセルペダル19の踏み込み量Aが閾値Athを超えて大きくなると、目標横すべり角βsを正の方向に増大させて、車両を相対的に左に旋回させる。つまり直進方向に近づける。左旋回している車両の場合は、アクセルペダル19の踏み込み量Aが閾値Athを超えて大きくなると、目標横すべり角βsを負の方向に増加させて、車両を相対的に右に旋回させ、直進方向に近づける。
【0022】
アクセルペダル19の踏み込み量Aが閾値Ath以内であれば横すべり角補正を行わないようにしているが、これは踏み込み量Aが小さい場合、ドライバは急加速を行っておらず、走行状態は十分にドライバの制御の範囲内にあり、車両の姿勢制御をサポートする必要はないと判断されるからである。
また、右旋回している車両と左旋回している車両とで、横すべり角補正量ΔβAの符号を変えている(アクセルペダルの踏み込み速度、フットブレーキペダルの踏み込み量の処理においても同じ)。右旋回しているか左旋回しているかを区別するには、操舵角センサ4、ヨーレートセンサ17又は横加速度センサ18の検出信号を利用して行う。
【0023】
また目標横すべり角補正部152は、記憶部(3)において、アクセルペダル19の踏み込み速度A′と横すべり角補正量ΔβA′との間の予め定められた関係(マップ)を記憶しており、測定されたアクセルペダル19の踏み込み速度A′を前記関係に適用して第三の横すべり角補正量ΔβA′を算出する。
この関係を、図4(c)のグラフに示す。アクセルペダル19の踏み込み速度A′が閾値−A′thから閾値A′thの範囲であれば横すべり角補正量ΔβA′を0とし、アクセルペダル19の踏み込み速度A′が閾値A′thを正の方向に超えると横すべり角補正量ΔβA′を正の所定値に設定し、アクセルペダル19の踏み込み速度A′が閾値−A′thを負の方向に超えると横すべり角補正量Δβδ′を負の所定値に設定している。したがって、右旋回している車両であれば、アクセルペダル19の踏み込み速度A′が閾値A′thを超えるようになると、目標横すべり角βsは正(左)の方向に増大し、アクセルペダル19を急激に離し踏み込み速度A′が閾値−A′thを負の方向に超えるようになると、目標横すべり角βsは負(右)の方向に増大する。左旋回の場合は、横すべり角補正量ΔβA′の符号はこの逆になる。
【0024】
アクセルペダル19の踏み込み速度A′が閾値−A′thから閾値A′thの範囲であれば横すべり角補正を行わないようにしているが、これは踏み込み速度A′が小さい場合、ドライバは急加速を行っておらず、走行状態は十分にドライバの制御の範囲内であり、車両の姿勢制御をサポートする必要はないと判断されるからである。
さらに目標横すべり角補正部152は、記憶部(4)において、ブレーキペダル12の踏み込み量Bと横すべり角補正量ΔβPとの間の予め定められた関係(マップ)を記憶しており、測定されたブレーキペダル12の踏み込み量Bを前記関係に適用して第四の横すべり角補正量ΔβPを算出する。
【0025】
この関係を、図4(d)のグラフに示す。このグラフによれば、ブレーキペダル12の踏み込み量Bが第一の閾値Bth1以内であれば横すべり角補正量ΔβPを0とし、右旋回している車両を前提にするならば、ブレーキペダル12の踏み込み量Bが第一の閾値Bth1を超えて大きくなると、目標横すべり角βsを正の方向に増大させて、車両を相対的に左に旋回させる。つまり直進方向に近づける。左旋回している車両の場合は、ブレーキペダル12の踏み込み量Bが第一の閾値Bth1を超えて大きくなると、目標横すべり角βsを負の方向に増加させて、車両を相対的に右に旋回させ、直進方向に近づける。ドライバのブレーキペダル12の踏み込みを、より大きく曲がろうとする意図であると解釈して、その意図に忠実に、より車両を所定の方向に旋回させることができる。
【0026】
ブレーキペダル12の踏み込み量Bが第一の閾値Bth1以内であれば横すべり角補正を行わないようにしているが、これはブレーキペダル12の踏み込み量Bが小さい場合、ドライバは急減速を行っておらず、走行状態は十分にドライバの制御の範囲内にあり、車両の姿勢制御をサポートする必要はないと判断されるからである。
なお、第一の閾値Bth1の他に、第二の閾値Bth2を設定している。Bth2>Bth1の関係がある。ブレーキペダル12の踏み込み量Bが第二の閾値Bth2を超えて大きくなると、ドライバの意図が車両を止めることであると判断し、横すべり角補正を行う必要しなく、横すべり角補正量ΔβPを0に戻している。
【0027】
以上に説明した横すべり角補正量Δβδ′,ΔβA,ΔβA′,ΔβPの値は、車両の速度、車両の重量、車両のホイールベースに応じて決定される設計値となる。
姿勢制御部15は、さらに、式
β*=βS+GΔβδ′+HΔβA+IΔβA′+JΔβP …(1)
に基づいて、目標横すべり角β*を補正する。 係数G,H,I,Jは、各横すべり角補正量Δβδ′,ΔβA,ΔβA′,ΔβPに対する重み付け係数である。
【0028】
姿勢制御部15は、補正後の目標横すべり角β*と推定された車体横すべり角βとの差分(β−β*)をとり、この差分(β−β*)に基づいて姿勢制御のためのブレーキ圧の算出を行う姿勢制御ブレーキ圧演算部153と、ヨーレートセンサにより検出されたヨーレートγと、横加速度センサにより検出された横加速度aとから、実際の車体横すべり角βを推定する横すべり角推定部154をさらに備えている。
【0029】
姿勢制御ブレーキ圧演算部153によって算出された右後輪のブレーキ圧と左後輪のブレーキ圧とは、各後輪に分配され、車体に回転を発生させる。この回転はヨーレートセンサや横加速度センサにより検出され、横すべり角推定部154によって車体横すべり角βが求められる。姿勢制御ブレーキ圧演算部153は、この車体横すべり角βと目標横すべり角β*との差分(β−β*)に基づいて、姿勢制御のためのブレーキ圧の算出を行うことにより、車体横すべり角βを、目標横すべり角β*に保つようにフィードバック制御を行う。
【0030】
図3は、姿勢制御部15の全体手順を説明するためのフローチャートである。姿勢制御部15は、目標横すべり角βsを算出する(ステップS1)。
目標横すべり角βsの算出式は次のとおりである。ここでm:車両重量、v:車両の速度、L:ホイールベース(L=Lf+Lr)、Lf:車両重心点と前車軸との距離、Lr:車両重心点と後車軸との距離、Cf:前輪のコーナーリングパワー(タイヤ横滑り角0度付近のタイヤの横力とタイヤ横滑り角との比)、Cr:後輪のコーナーリングパワー、とする。
【0031】
βs=(A/B)(Lf/L)δ …(2)
A,Bは、それぞれ
A=1−(m/2L)(Lf/LrCr)v2 …(3)
B=1−(m/2L2)[(LfCf−LrCr)/CfCr]v2 …(4)
で表される。
【0032】
姿勢制御部15は、さらに、補正後の目標横すべり角β*を求める(ステップS2)。
一方、実際の車体横すべり角βは、ヨーレートセンサにより検出されたヨーレートγと、横加速度センサにより検出された横加速度aとから、次の式に基づいて推定される。
β=∫(−γ+a)dt …(5)
積分範囲は、車両が旋回走行に入る直前時点(この時点ではγ,a,βともに0である)から、旋回走行中の現時刻tまでとする。これにより、車体横すべり角βを時刻tの関数として求めることができる(ステップS3)。
【0033】
なお、実際の車体横すべり角βは前記(5)式を用いる以外に、軸力センサ10の検出値を用いて次のようにして求めても良い。
β=(1/L)[(LrFyf/Cf)(LfFyr/Cr)+Lrδ] …(6)
ここで、Fyf,Fyrは前輪、後輪の軸力である。
姿勢制御ブレーキ圧演算部153において、目標横すべり角β*と実際の車体横すべり角βとの差分(β−β*)をとり(ステップS4)、この差分(β−β*)に基づいて、姿勢制御のためのブレーキ圧の算出を行う(ステップS5)。
【0034】
ステップS4において、差分(β−β*)の絶対値|β−β*|が、姿勢制御を開始するかどうか判定するための閾値βthよりも小さければ、姿勢制御ブレーキ圧演算を行わない。この場合、ドライバのブレーキペダル12の踏力に応じたブレーキ圧(初期ブレーキ圧という)のみに基づいてブレーキ圧制御を行うことになる。
差分(β−β*)の絶対値が閾値βthよりも大きければ、姿勢制御ブレーキ圧演算を行う(ステップS5)。この姿勢制御ブレーキ圧は、差分(β−β*)の符号(正/負)に応じて、右後輪又は左後輪に追加されるブレーキ圧のことである。
【0035】
次にステップS5の手順を、詳細なフローチャート(図5)を参照しながら説明する。
差分(β−β*)>0であれば(ステップT1のYes)、車体は目標横すべり角β*よりも左にずれているので、右後輪の目標ブレーキ圧Prrを演算する(ステップT2)。(β−β*)>0ということは、車体の実際の横すべり角βが目標とする横すべり角よりも正(左)の方向を向いていることを意味するので、車体が、目標よりも左を向いていることになる。そこで右後輪のブレーキ圧を、初期ブレーキ圧よりも大きめに設定する(ステップT3)。設定すべき右後輪のブレーキ圧をPrrは、
Prr=P0+Gbr|β−β*| …(7)
に基づいて算出する。ここで、P0は初期ブレーキ圧、Gbrは設定されたブレーキ圧から発生すると考えられるヨーレートγと横加速度aとの関数である横すべり角βの、目標とする応答性に対して決定されるゲイン係数である。
【0036】
差分(β−β*)<0であれば(ステップT1のNo)、車体は右にずれているので、左後輪の目標ブレーキ圧Prlを演算する(ステップT4)。この場合、車体の実際の横すべり角βが目標とする横すべり角よりも負(右)の方向にずれているので、車体が、目標よりも右を向いていることになる。そこで左後輪のブレーキ圧を、初期ブレーキ圧よりも大きめに設定する(ステップT5)。設定すべき左後輪のブレーキ圧をPrlとすると、
Prl=P0+Gbr|β−β*| …(8)
となる。
【0037】
以上のようにして、車体横すべり角βが、目標横すべり角β*になることを実現するように車両の姿勢制御を行う。車体の実際の横すべり角βが目標とする横すべり角よりもずれている場合、左右何れかの後輪のブレーキ圧を増加させることによって、アンダーステア状態もオーバーステア状態も発生しないで、車両はドライバの意図するとおりの旋回走行を行うことができる。
【0038】
以上で、本発明の実施の形態を説明したが、本発明の実施は、前記の形態に限定されるものではない。今まで説明した実施の形態では、補正された目標横すべり角を用いて車両の姿勢制御を行うのに、後輪のブレーキ圧制御を行ったが、前輪を含めた四輪のブレーキ圧制御を行っても良い。また、四輪駆動車両において後輪左右の駆動力配分制御を採用しても良く、前輪を含めた四輪の駆動力配分制御を採用しても良い。その他、本発明の範囲内で種々の変更を施すことが可能である。
【符号の説明】
【0039】
1…車両用姿勢制御装置、151…目標横すべり角演算部、152…目標横すべり角補正部、153…姿勢制御ブレーキ圧演算部、β*…目標横すべり角、δ′…操舵角速度、A…アクセルペダルの踏み込み量、A′…アクセルペダルの踏み込み速度、B…フットブレーキペダルの踏み込み量、Δβ…横すべり角補正量

【特許請求の範囲】
【請求項1】
操舵角と車速とに基づいて、車両旋回時の目標横すべり角を算出する目標横すべり角演算部と、
操舵角速度、アクセルペダルの踏み込み量、アクセルペダルの踏み込み速度、フットブレーキペダルの踏み込み量の中から選択される少なくとも1つに対応して算出される横すべり角補正量を用いて、前記目標横すべり角演算部によって算出された目標横すべり角を補正する目標横すべり角補正部と、
前記目標横すべり角補正部によって補正された目標横すべり角を用いて車両の姿勢制御を行う姿勢制御部とを備える、車両用姿勢制御装置。
【請求項2】
車両の旋回方向を検出するセンサを有し、
前記アクセルペダルの踏み込み量、アクセルペダルの踏み込み速度、フットブレーキペダルの踏み込み量の中から選択される少なくとも1つに対応して前記目標横すべり角補正部において発生する横すべり角補正量は、車両の旋回方向に応じて異なる符号を有する、請求項1に記載の車両用姿勢制御装置。
【請求項3】
前記目標横すべり角補正部は、操舵角速度の絶対値が所定の閾値を超えた場合にのみ、前記横すべり角補正量を発生する、請求項1に記載の車両用姿勢制御装置。
【請求項4】
前記目標横すべり角補正部は、アクセルペダルの踏み込み量が所定の閾値を超えた場合にのみ、前記横すべり角補正量を発生する、請求項1に記載の車両用姿勢制御装置。
【請求項5】
前記目標横すべり角補正部は、アクセルペダルの踏み込み速度の絶対値が所定の閾値を超えた場合にのみ、前記横すべり角補正量を発生する、請求項1に記載の車両用姿勢制御装置。
【請求項6】
前記目標横すべり角補正部は、フットブレーキペダルの踏み込み量が第一の所定の閾値を超えた場合にのみ、前記横すべり角補正量を発生する、請求項1に記載の車両用姿勢制御装置。
【請求項7】
前記目標横すべり角補正部は、フットブレーキペダルの踏み込み量が第一の所定の閾値から第二の所定の閾値までの範囲内にある場合にのみ、前記横すべり角補正量を発生する、請求項1又は請求項5に記載の車両用姿勢制御装置。
【請求項8】
前記姿勢制御部は、前記目標横すべり角を用いて、四輪ブレーキ圧の制御を行う、請求項1から請求項7のいずれか1項に記載の車両用姿勢制御装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【公開番号】特開2013−82268(P2013−82268A)
【公開日】平成25年5月9日(2013.5.9)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−222272(P2011−222272)
【出願日】平成23年10月6日(2011.10.6)
【出願人】(000001247)株式会社ジェイテクト (7,053)
【Fターム(参考)】