説明

車両用学習制御装置

【課題】学習機会の損失を低減することができる車両用学習制御装置を提供すること。
【解決手段】車両用学習制御装置は、クラッチ5と、クラッチ5を介して車両の車輪と接続されたエンジン1と、クラッチ5よりも車輪側に接続されたモータジェネレータ3と、モータジェネレータ3と電力を授受できるバッテリ4と、を有する駆動系と、モータジェネレータ3に動力を出力させて駆動系に関しての学習を行う制御部と、を備える。制御部は、モータジェネレータ3に発電を行わせることが可能な場合、モータジェネレータ3に発電させた電力でバッテリ4を充電した後で学習を行う。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、車両用学習制御装置に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、車両において学習を行う技術が知られている。特許文献1には、オフセット修正した定常偏差特性マップに基づいて目標ストロークを学習補正するクラッチ制御手段を備えるハイブリッド車両の制御装置の技術が開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特開2010−167798号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
車両において学習を行う場合に、学習機会の損失を低減できることが望まれている。例えば、バッテリの電力を消費して行う学習の場合、バッテリの充電状態の制約を受けて学習を行うことができなくなることが考えられる。
【0005】
本発明の目的は、学習機会の損失を低減することができる車両用学習制御装置を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明の車両用学習制御装置は、クラッチと、前記クラッチを介して車両の車輪と接続されたエンジンと、前記クラッチよりも前記車輪側に接続されたモータジェネレータと、前記モータジェネレータと電力を授受できるバッテリと、を有する駆動系と、前記モータジェネレータに動力を出力させて前記駆動系に関しての学習を行う制御部と、を備え、前記制御部は、前記モータジェネレータに発電を行わせることが可能な場合、前記モータジェネレータに発電させた電力で前記バッテリを充電した後で前記学習を行うことを特徴とする。
【0007】
上記車両用学習制御装置において、前記制御部は、前記学習を行うことによって前記バッテリにおいて充電不足が生じると予測され、かつ前記モータジェネレータに発電を行わせることが可能な場合に、前記発電させた電力で前記バッテリを充電した後で前記学習を行うことが好ましい。
【0008】
上記車両用学習制御装置において、前記クラッチは、摩擦係合式であり、かつ入力される駆動力によって係合度合いを制御可能なものであって、前記制御部は、前記エンジンが動力を出力しているときに前記駆動力を変化させることで前記クラッチの係合度合いと前記駆動力との関係を学習し、かつ、前記学習時における前記係合度合いの低下に応じて前記モータジェネレータに動力を出力させることが好ましい。
【0009】
上記車両用学習制御装置において、前記クラッチは、摩擦係合式であり、かつ入力される駆動力によって係合度合いを制御可能なものであって、前記制御部は、前記エンジンが停止しているときに、前記モータジェネレータに動力を出力させ、かつ解放していた前記クラッチを係合させることで、前記クラッチが係合し始める前記駆動力を学習することが好ましい。
【0010】
上記車両用学習制御装置において、前記バッテリの充電不足を生じることなく前記学習を完了できるように、前記学習前に前記バッテリを充電することが好ましい。
【0011】
上記車両用学習制御装置において、前記車両の走行環境に基づいて前記学習前における前記バッテリに対する充電量を決定することが好ましい。
【発明の効果】
【0012】
本発明にかかる車両用学習制御装置は、モータジェネレータに動力を出力させて駆動系に関しての学習を行う制御部を備え、制御部は、モータジェネレータに発電を行わせることが可能な場合、モータジェネレータに発電させた電力でバッテリを充電した後で学習を行う。よって、本発明にかかる車両用学習制御装置によれば、学習機会の損失を低減することができるという効果を奏する。
【図面の簡単な説明】
【0013】
【図1】図1は、第1実施形態の車両用学習制御装置の動作を示すフローチャートである。
【図2】図2は、実施形態の学習制御にかかるタイムチャートである。
【図3】図3は、実施形態の車両用学習制御装置が搭載された車両を示す図である。
【図4】図4は、記憶されている学習結果の一例を示す図である。
【図5】図5は、第2実施形態の車両用学習制御装置の動作を示すフローチャートである。
【発明を実施するための形態】
【0014】
以下に、本発明の実施形態にかかる車両用学習制御装置につき図面を参照しつつ詳細に説明する。なお、この実施形態によりこの発明が限定されるものではない。また、下記の実施形態における構成要素には、当業者が容易に想定できるものあるいは実質的に同一のものが含まれる。
【0015】
(第1実施形態)
図1から図4を参照して、第1実施形態について説明する。本実施形態は、車両用学習制御装置に関する。図1は、本発明の第1実施形態にかかる車両用学習制御装置の動作を示すフローチャート、図2は、本実施形態の学習制御にかかるタイムチャート、図3は、実施形態の車両用学習制御装置が搭載された車両を示す図である。
【0016】
本実施形態は、エンジン1と、動力の出力および回生を行うモータジェネレータ3と、変速機2と、クラッチ5とを有するハイブリッド車両100に関する。車両用学習制御装置としての機能を有するECU30は、モータジェネレータ3の出力を用いて学習(クラッチ特性、トランスミッション特性、エンジン特性)を行う際に、電力不足がなく学習を行うことができるための制御を行う。具体的には、学習を行うことによってバッテリ4において充電不足が生じると予測され、かつモータジェネレータ3に発電を行わせることが可能な場合、モータジェネレータ3に発電させた電力でバッテリ4を充電した後で学習を行う。これにより、学習による充電不足の発生を未然に防ぎ、かつ学習に必要な電力を確保することができ、学習機会の損失を低減することが可能となる。
【0017】
本実施形態は、以下の構成を有する車両を前提としている。
(1)モータ(学習を行うために必要な要件を満たし、出力および発電が可能なもの)。
(2)学習状態を記憶可能な記憶装置。
(3)自動変速が可能なトランスミッション。
(4)エンジンとトランスミッションとを締結するクラッチ(自動変速と学習が可能な構成)。
【0018】
図3において、符号100は、本実施形態の車両用学習制御装置1−1が搭載されたハイブリッド車両を示す。車両用学習制御装置1−1は、エンジン1と、変速機2と、モータジェネレータ3と、バッテリ4と、クラッチ5と、を有する駆動系と、ECU30とを備える。
【0019】
エンジン1は、ハイブリッド車両100の動力源であり、燃料の燃焼エネルギーをクランクシャフト11の回転運動に変換して出力する。クランクシャフト11は、クラッチ5を介して変速機2の入力軸2Aに接続されている。
【0020】
変速機2は、自動制御式マニュアルトランスミッション(AMT;Automated Manual Transmission)である。変速機2は、アクチュエータによって変速操作(変速段の切り替え)が自動的に行われる。変速機2は、複数のギヤ対21,22,23,24を有する。各ギヤ対21,22,23,24の一方は入力軸2Aに配置されており、他方は出力軸2Bに配置されている。各ギヤ対21,22,23,24は、常時噛み合っており、シンクロメッシュ機構によって、入力軸2Aと出力軸2Bとの間で動力を伝達する動力伝達状態と、入力軸2Aと出力軸2Bとの間で動力を伝達しない非伝達状態とに切り替えられる。
【0021】
変速機2のアクチュエータは、シンクロメッシュ機構を作動制御することにより、各ギヤ対21,22,23,24のいずれかを動力伝達状態とし、他のギヤ対を非伝達状態にすることができる。これにより、変速機2において動力伝達状態とされたギヤ対に応じた変速比で入力軸2Aから出力軸2Bに回転を伝達することができる。また、変速機2のアクチュエータは、全てのギヤ対21,22,23,24を非伝達状態として変速機2をニュートラル状態とすることができる。
【0022】
変速機2の出力軸2Bには、モータジェネレータ3が動力を伝達可能に接続されている。モータジェネレータ3は、電力の供給により駆動する電動機としての機能(力行機能)と、機械エネルギーを電気エネルギーに変換する発電機としての機能(回生機能)とを兼ね備えている。モータジェネレータ3としては、例えば、交流同期型のモータジェネレータを用いることができる。バッテリ4は、充放電が可能な蓄電装置である。バッテリ4は、モータジェネレータ3と電気的に接続されており、モータジェネレータ3と電力を授受できる。
【0023】
モータジェネレータ3の回転軸31には、回転軸31と一体に回転するMGギヤ32が設けられている。また、出力軸2Bには、出力軸2Bと一体に回転するMG入力ギヤ25が設けられている。MGギヤ32とMG入力ギヤ25とは噛み合っており、モータジェネレータ3の回転軸31と変速機2の出力軸2Bとは互いに動力を伝達することができる。MGギヤ32は、MG入力ギヤ25よりも小径であり、モータジェネレータ3の出力する動力は、増幅されて出力軸2Bに伝達される。
【0024】
出力軸2Bには、出力軸2Bと一体に回転するドライブピニオンギヤ26が設けられている。ドライブピニオンギヤ26は、差動機構12のリングギヤ13と噛み合っている。エンジン1やモータジェネレータ3から出力軸2Bに入力された動力は、差動機構12を介して左右の駆動輪に伝達される。このように、エンジン1は、クラッチ5、変速機2および差動機構12を介して車輪と接続されている。また、モータジェネレータ3は、クラッチ5よりも車輪側の動力伝達経路に接続されている。
【0025】
クラッチ5は、摩擦係合式のクラッチ装置であり、入力される駆動力によって係合度合いを制御可能なものである。クラッチ5は、例えば、互いに対向する係合部材5A,5Aと、図示しないダイヤフラムスプリング、レリーズベアリング、レリーズフォーク、及び、レリーズフォークの操作を行う油圧式のアクチュエータ等を有する。係合部材5A,5Aの一方はクランクシャフト11に連結され、他方は変速機2の入力軸2Aに連結されている。
【0026】
係合部材5A,5Aは、ダイヤフラムスプリングによって互いに接近する方向の付勢力を受けており、この付勢力によって係合することができる。クラッチ5のアクチュエータは、レリーズフォークを介してレリーズベアリングに対して軸方向の駆動力を入力する。アクチュエータは、油圧に応じた駆動力によってレリーズベアリングを軸方向に移動させ、ダイヤフラムスプリングを押圧させる。アクチュエータ(レリーズベアリング)のストローク(クラッチストローク)は、入力する駆動力に対応している。クラッチストロークに応じてダイヤフラムスプリングが押圧駆動されることで、係合部材5A,5Aを係合させる係合力が変化する。
【0027】
アクチュエータが発生させる駆動力が大きいほど、レリーズベアリングは付勢力を低下させる方向にダイヤフラムスプリングを押圧し、ダイヤフラムスプリングが係合部材5A,5Aに対して作用させる係合力が低下する。アクチュエータが発生させる駆動力は、任意に制御可能である。これにより、クラッチ5は、係合部材5A,5Aが離間して動力を伝達しない解放状態、係合部材5A,5Aが係合し、かつ相対回転しない完全係合状態、係合部材5A,5Aが係合し、かつ相対回転する半係合状態の3つの状態に制御可能である。また、クラッチ5は、半係合状態において駆動力を調節することにより、動力の伝達度合いを可変に制御可能となっている。
【0028】
ECU30は、周知のコンピュータを有する電子制御ユニットである。ECU30は、ハイブリッド車両100の走行制御を行う走行制御装置としての機能を有している。また、本実施形態のECU30は、車両用学習制御装置1−1の制御部としての機能を有している。ECU30には、エンジン1、変速機2、モータジェネレータ3およびクラッチ5が接続されており、エンジン1、変速機2、モータジェネレータ3およびクラッチ5は、それぞれECU30によって制御される。また、ECU30には、バッテリ4の充放電状態や電圧等を検出するセンサが接続されている。ECU30は、このセンサによる検出結果に基づいて、バッテリ4の充電状態SOC(State of Charge、以下、単に「SOC」とも記載する。)を取得することができる。
【0029】
ECU30は、ハイブリッド車両100においてEV走行およびEHV走行を選択的に実行させることができる。ECU30は、車速およびアクセル開度などの条件に基づいて、駆動輪に伝達するべき要求トルクを算出し、その算出結果に基づいて、エンジン1、モータジェネレータ3、およびクラッチ5を制御する。EHV走行においてエンジン1のトルクを駆動輪に伝達する際には、クラッチ5が係合状態とされる。EHV走行では、モータジェネレータ3を発電機として機能させ、発生した電力をバッテリ4に充電することができる。つまり、バッテリ4は、エンジン1の出力する動力によってモータジェネレータ3が発電した電力で充電可能となっている。また、ECU30は、ハイブリッド車両100の運動エネルギーによってモータジェネレータ3を発電させてバッテリ4を充電する回生制御を実行することができる。
【0030】
EHV走行では、さらに、モータジェネレータ3を電動機として駆動させ、その動力を駆動輪に伝達することができる。モータジェネレータ3は、ハイブリッド車両100の加速時等にエンジン1のトルクが不足する場合に、これをアシストすることができる。この場合、エンジン1の動力およびモータジェネレータ3の動力は、出力軸2Bにおいて合成されて駆動輪に伝達される。
【0031】
また、モータジェネレータ3は、単独でもハイブリッド車両100の走行駆動源として機能することができる。すなわち、ハイブリッド車両100は、エンジン1の動力によらずにモータジェネレータ3が出力する動力によって走行するEV走行が可能である。EV走行において、モータジェネレータ3は、バッテリ4からの電力を消費して出力する動力によってハイブリッド車両100を走行させる。ECU30は、バッテリ4の充電状態(SOC)や走行状態等に基づいて、EHV走行あるいはEV走行のいずれのモードでハイブリッド車両100を走行させるかを決定する。例えば、軽負荷や低速での走行時にはEV走行が選択され、中高負荷や中高速での走行時には、EHV走行が選択される。EV走行では、ECU30は、変速機2の出力軸2Bとエンジン1とで動力が伝達されないように、例えばクラッチ5を解放状態に制御する。
【0032】
また、ECU30は、EHV走行において、変速機2の変速制御を行うことができる。変速機2の目標変速段は、運転者の変速操作に応じた変速段であっても、ハイブリッド車両100の走行状態に応じてECU30によって選択された変速段であってもよい。ECU30は、目標変速段を実現するように、クラッチ5および変速機2のアクチュエータを制御する。変速機2において変速を行う場合、ECU30は、クラッチ5を解放させ、変速機2において変速前の変速段に対応するギヤ段を非伝達状態とし、目標変速段に対応するギヤ段を動力伝達状態とする。ECU30は、目標変速段へのギヤ段の切替えがなされると、クラッチ5を係合状態とする。
【0033】
ここで、ECU30が変速機2の変速段の切替えを行う場合や、EHV走行とEV走行との間で走行モードを移行させる場合など、クラッチ5を制御する場合に、クラッチ5の係合度合いとアクチュエータの駆動力との関係を精度よく把握できることが好ましい。ここで、係合度合いとは、クラッチ5の完全係合状態や半係合状態、解放状態などの係合部材5A,5A同士の係合の度合い、言い換えると係合部材5A,5Aにおける動力の伝達率やクラッチ5のトルク容量等である。クラッチ5においては、経年変化や係合部材5A,5Aの摩耗などにより、クラッチ5の係合度合いと駆動力との関係や、係合度合いとクラッチストロークとの関係が変化することがある。ECU30は、クラッチ5の係合度合いと駆動力との関係や、クラッチ5の係合度合いとクラッチストロークとの関係について適宜学習制御を行う。
【0034】
図2を参照して、ECU30が行う学習制御について説明する。図2において、(a)は学習要求フラグ、(b)は発電実施可能フラグ、(c)はバッテリ4の充電状態(SOC)、(d)は学習可能SOCフラグ、(e)はモータジェネレータ3のトルク、(f)はアクセル開度、(g)はトルク、(h)は回転数をそれぞれ示す。(f)には、エンジン1の出力トルクおよびクラッチトルクが示されている。ここで、クラッチトルクとは、クラッチ5において伝達可能なトルクの大きさを示すものである。また、(g)には、エンジン回転数および変速機2の入力軸2Aの回転数が示されている。
【0035】
ECU30は、エンジン1が動力を出力しているハイブリッド車両100のEHV走行中に、クラッチ5のアクチュエータによる駆動力を低下させて完全係合状態から半係合状態に切り替わる駆動力を学習する。図2に示すように、ECU30は、時刻t4においてクラッチトルクを低下させ始める。ECU30は、クラッチ5のアクチュエータによる駆動力を徐々に低下させることでクラッチトルクを低下させていく。時刻t5においてクラッチトルクがエンジントルクを下回り、クラッチ5が完全係合状態から半係合状態に移行する。これに伴い、時刻t5においてエンジン回転数が上昇し始める。
【0036】
ECU30は、このエンジン回転数の上昇に基づいて、クラッチ5が完全係合状態から半係合状態に移行したことを検出することができる。つまり、ECU30は、エンジン回転数の上昇に基づいて、クラッチ5の係合度合いとアクチュエータの駆動力との関係を学習する。また、ECU30は、同様にして、エンジン回転数の上昇に基づいて、クラッチ5の係合度合いとクラッチストロークとの関係を学習することができる。
【0037】
時刻t5以降はクラッチトルクがエンジントルクを下回るため、クラッチ5におけるトルク伝達量が不足することとなり、そのままでは運転者の要求駆動力を実現できなくなる。ECU30は、クラッチ5におけるトルク伝達量の不足分をモータジェネレータ3の動力で補わせる。ECU30は、時刻t5以降に不足する分の動力をモータジェネレータ3によって出力させる。この不足分の動力は、学習時におけるクラッチ5の係合度合いの低下に対応する動力である。これにより、学習中における駆動力不足が抑制され、入力軸2Aの回転数は学習の開始後も低下しない。時刻t6において学習が終了し、学習要求フラグがOFFとなると、ECU30はクラッチ5のアクチュエータによる駆動力を増加させてクラッチ5の係合力を増加させる。また、ECU30は、クラッチトルクの増加に応じてモータジェネレータ3の出力トルクを低下させることで駆動力の変動を抑制する。
【0038】
ECU30は、このように、モータジェネレータ3に動力を出力させてクラッチ5に関しての学習を行う。この学習では、モータジェネレータ3に動力を出力させることが必要であるため、モータジェネレータ3に電力を供給するバッテリ4の充電状態によっては、学習を行うことが適当でない場合がある。学習を行うことが適当でない場合とは、例えば、バッテリ4の充電状態が低下しており、学習を行うことによってバッテリ4において充電不足が生じると予測される場合である。
【0039】
本実施形態のECU30は、学習を行うことによってバッテリ4において充電不足が生じると予測され、かつモータジェネレータ3に発電を行わせることが可能な場合、モータジェネレータ3に発電させた電力でバッテリ4を充電させ、バッテリ4に対する充電を行った後で学習を行う。これにより、電力不足による学習機会の損失を防止することができる。
【0040】
図1を参照して、本実施形態における学習のための電力不足を抑制する制御について説明する。図1に示す制御フローは、ハイブリッド車両100の走行時に実行されるものであり、例えば、所定の間隔で繰り返し実行される。本制御フローは、例えば、イグニッションがONであり、通常の走行が可能な状態において実行される。
【0041】
まず、ステップS1では、ECU30により、学習が必要であるか否かが判定される。ECU30は、例えば、各種学習制御における開始条件に基づいてステップS1の判定を行う。ECU30は、例えば、補助記憶装置に記憶されている学習結果に基づいて、学習不足である場合に学習が必要であると判定する。図4は、記憶されている学習結果の一例を示す図である。
【0042】
図4において、横軸はクラッチストローク、縦軸はクラッチトルクを示す。クラッチストロークとクラッチトルクとの対応関係についての学習結果が学習箇所として記憶されている。ECU30は、この学習結果に基づいて、クラッチストロークとクラッチトルクとの対応関係を補正する。この学習は、エンジントルクとクラッチトルクとの大小関係が逆転するクラッチストロークを学習するものであるため、様々なエンジントルクにおいて学習を行うことが必要となる。ECU30は、例えば、まだ学習がなされていない、あるいは学習回数が不足している領域があり、かつ現在のエンジントルクが学習不足の領域についての学習に適したトルクである場合に、学習の必要があると仮判定する。
【0043】
ECU30は、学習の必要があると仮判定した場合、更に、学習可能な運転条件であるか否かを判定する。エンジン1の出力が変動する場合や、変速機2の変速がなされる場合には、学習を行うのに適当な運転条件ではない。ECU30は、例えば、変速がなく、運転者の要求が一定時間安定している場合にステップS1において学習が必要であると判定する。その判定の結果、学習が必要であると判定した場合(ステップS1−Y)には、学習要求フラグをONとしてステップS2に進み、そうでない場合(ステップS1−N)には、学習要求フラグをOFFとして本制御フローは終了する。図2では、時刻t1において学習が必要であると判定され、学習要求フラグがONとされる。
【0044】
ステップS2では、ECU30により、SOCが一定以下であるか否かが判定される。ECU30は、現在のバッテリ4のSOCに基づいてステップS2の判定を行う。ECU30は、学習を開始することができるSOCの下限値を予め記憶しており、現在のSOCがこの下限以下である場合に、ステップS2で肯定判定を行う。ここで、学習を開始することができるSOCの下限値とは、バッテリ4の充電不足を生じることなく学習を完了することができる学習開始時のSOCの下限値のことである。以下、このSOCの下限値を「学習開始可能な下限のSOC」と記載する。
【0045】
学習開始可能な下限のSOCは、学習を行うために必要となるモータジェネレータ3の消費電力と、バッテリ4において許容されるSOCの最小値とに基づくものであり、例えば、実験結果等に基づいて予め定められている。ステップS2の判定の結果、SOCが一定以下であると判定された場合(ステップS2−Y)には、学習可能SOCフラグをOFFとしてステップS3に進み、そうでない場合(ステップS2−N)には、学習可能SOCフラグをONとして本制御フローは終了する。図2では、学習が必要と判定された時刻t1において、学習可能SOCフラグはOFFである。すなわち、時刻t1では、バッテリ4のSOCが学習開始可能な下限のSOC以下であり、そのまま学習を開始すると学習によってバッテリ4の充電不足を招く可能性がある。
【0046】
ステップS3では、ECU30により、発電可能か否かが判定される。ECU30は、例えば、モータジェネレータ3が動作しておらず、かつエンジン1の出力に余裕がある場合に発電可能と判定することができる。エンジン1の出力に余裕がある場合、運転者の要求駆動力に基づく動力に対して発電に必要な動力を上乗せしてエンジン1に出力させ、上乗せ分の動力でモータジェネレータ3に発電を行わせることができる。モータジェネレータ3に発電させた電力でバッテリ4を充電することで、学習を開始することができるまでバッテリ4のSOCを回復させることができる。本実施形態では、学習開始可能な下限のSOCを超えるまでバッテリ4に対する充電が行われる。つまり、ECU30は、バッテリ4の充電不足を生じることなく学習を完了できるように、学習前にバッテリ4を充電する。
【0047】
一方、ECU30は、例えばモータジェネレータ3が動力を出力中である場合や、運転者の要求駆動力が著しく変化している場合など、発電することが物理的に不可能である場合や、発電することが適当でない場合には、発電可能ではないと判定する。図2では、運転者の要求(ここではアクセル開度)、が一定時間安定し、かつモータジェネレータ3を使用していないため、発電実施可能フラグがONのまま推移しており、時刻t2の時点で発電可能と判定される。ステップS3の判定の結果、発電可能と判定された場合(ステップS3−Y)には、発電実施可能フラグをONにしてステップS4に進み、そうでない場合(ステップS3−N)には、発電実施可能フラグをOFFにして本制御フローは終了する。
【0048】
ステップS4では、ECU30により、発電が実行される。ECU30は、例えば、モータジェネレータ3による発電のために必要な動力の分だけエンジン1の出力を増加させると共に、モータジェネレータ3に発電を行わせる。ステップS4が実行されると、ステップS2に移行する。図2では、時刻t2において発電可能と判定されて発電が開始され、バッテリ4が充電される。充電によりバッテリ4のSOCが回復し、時刻t3においてSOCが、学習開始可能な下限のSOCを超える。これにより、時刻t3において学習可能SOCフラグがONとされ、発電が終了される。時刻t3において学習可能SOCフラグが立てられると、学習制御が開始される。
【0049】
本実施形態では、ECU30は、学習を行うことによってバッテリ4において充電不足が生じると予測され、かつモータジェネレータ3に発電を行わせることが可能な場合、モータジェネレータ3に発電させた電力でバッテリ4を充電した後で学習を行う。これにより、電力不足による学習機会の損失を抑制することができる。
【0050】
本実施形態では、学習前に発電を行うか否かを判定する閾値が、学習開始可能な下限のSOCであったが、閾値はこれには限定されない。閾値は、学習を行うことによってバッテリ4の充電不足が生じるか否かとは無関係に定められたものであってもよい。例えば、バッテリ4のSOC制御において、維持すべきSOCの目標制御範囲が定められている場合に、実際のSOCがこの目標制御範囲における電力不足側の領域にある場合に学習開始前に発電を行うと判定されるようにしてもよい。言い換えると、ECU30は、学習を行うことによってバッテリ4において充電不足が生じると予測されない場合であっても、学習前にモータジェネレータ3に発電させてバッテリ4を充電するようにしてもよい。このようにすると、バッテリ4のSOCが不足気味となることを抑制でき、結果として学習機会の損失を未然に抑制することが可能となる。
【0051】
なお、本実施形態では、クラッチストロークとクラッチトルクとの関係、特にクラッチ5の完全係合状態と半係合状態とが切り替わるクラッチストロークや駆動力が学習されたが、学習内容はこれには限定されない。制御部としてのECU30は、モータジェネレータ3に動力を出力させて駆動系に関しての他の学習を行うものであってもよい。例えば、クラッチ5における係合開始のクラッチストロークが学習されてもよい。クラッチ5の係合開始点の学習は、例えば、EV走行時のエンジン1が停止しているときに行われる。クラッチ5を解放した状態でモータジェネレータ3の動力により変速機2の入力軸2Aを回転させて、クラッチ5のアクチュエータの駆動力を徐々に減少させていくと、クラッチ5が係合し始めるときに入力軸回転数が変化する。この入力軸回転数の変化に基づいてクラッチ5の係合開始の駆動力およびクラッチストロークを検出することができる。
【0052】
また、変速機2におけるシンクロメッシュ機構の係合開始点を学習してもよい。例えば、EV走行時に変速機2をニュートラルとし、クラッチ5を係合させた状態から、変速機2のアクチュエータによって、いずれかのギヤ段を動力伝達状態とするようにシンクロメッシュ機構に対する駆動力(ストローク)を徐々に変化させていく。シンクロメッシュ機構が係合し始める点は、入力軸回転数の変化に基づいて検出可能である。
【0053】
また、モータジェネレータ3の動力を出力してエンジン1の特性が学習されてもよい。モータジェネレータ3の動力を出力して行われるハイブリッド車両100の駆動系についてのその他の学習についても、本実施形態の学習機会の損失を低減する制御を適用可能である。
【0054】
なお、本実施形態のモータジェネレータ3は変速機2における出力軸2Bに設けられていたが、これには限定されない。モータジェネレータ3は、変速機2における入力軸2A側と動力を伝達可能に設けられてもよい。つまり、モータジェネレータ3は、駆動系におけるクラッチ5よりもエンジン1側と反対側、すなわち車輪側に設けられていればよい。
【0055】
(第2実施形態)
図5を参照して、第2実施形態について説明する。第2実施形態については、上記実施形態で説明したものと同様の機能を有する構成要素には同一の符号を付して重複する説明は省略する。図5は、本実施形態の車両用学習制御装置の動作を示すフローチャートである。
【0056】
本実施形態において、上記第1実施形態と異なる点は、学習開始に際してバッテリ4の充電が必要と判定する閾値Aと、充電完了を判定する閾値Bとにヒステリシスが設けられている点である。これにより、学習後のモータジェネレータ3の動作、例えばアシストトルクの出力にも対応することが可能となる。
【0057】
図5を参照して、本実施形態における学習のための電力不足を抑制する制御について説明する。図5に示す制御フローは、ハイブリッド車両100の走行時に実行されるものであり、例えば、所定の間隔で繰り返し実行される。本制御フローは、例えば、イグニッションがONであり、通常の走行が可能な状態において実行される。
【0058】
ステップS11では、ECU30により、学習が必要であるか否かが判定される。ECU30は、例えば、上記第1実施形態のステップS1と同様の方法で判定を行う。その判定の結果、学習が必要であると判定された場合(ステップS11−Y)には、学習要求フラグをONとしてステップS12に進み、そうでない場合(ステップS11−N)には、学習要求フラグをOFFとして本制御フローは終了する。
【0059】
ステップS12では、ECU30により、バッテリ4の充電状態SOCが閾値A以下であるか否かが判定される。閾値Aは、例えば、学習開始可能な下限のSOCである。ステップS12の判定の結果、SOCが閾値A以下であると判定された場合(ステップS12−Y)には、学習可能SOCフラグをOFFとしてステップS13に進み、そうでない場合(ステップS12−N)には、学習可能SOCフラグをONとして本制御フローは終了する。
【0060】
ステップS13では、ECU30により、発電可能であるか否かが判定される。ECU30は、例えば、上記第1実施形態のステップS3と同様の方法で判定を行う。その判定の結果、発電可能であると判定された場合(ステップS13−Y)には、発電実施可能フラグをONにしてステップS14に進み、そうでない場合(ステップS13−N)には、発電実施可能フラグをOFFにして本制御フローは終了する。
【0061】
ステップS14では、ECU30により、発電が実行される。ECU30は、例えば、モータジェネレータ3による発電のために必要な動力の分だけエンジン1の出力を増加させると共に、モータジェネレータ3に発電を行わせる。ステップS14が実行されると、ステップS15に進む。
【0062】
ステップS15では、ECU30により、バッテリ4の充電状態SOCが閾値B以上であるか否かが判定される。閾値Bは、ステップS12の閾値Aよりも大きな値である。すなわち、本実施形態では、バッテリ4の充電が必要と判定する閾値Aと、充電完了を判定する閾値Bとにヒステリシスが設けられている。これにより、制御のハンチングが抑制される。閾値Bが、閾値Aよりも大きな値とされていることで、学習後のモータジェネレータ3の動作、例えばアシストトルクの出力にも対応することができる。ステップS15の判定の結果、SOCが閾値B以上であると判定された場合(ステップS15−Y)には、学習可能SOCフラグをONとして本制御フローは終了し、そうでない場合(ステップS15−N)にはステップS14に移行する。
【0063】
本実施形態によれば、学習後のバッテリ4が電力供給余力を残した状態とすることができる。これにより、学習後においてモータジェネレータ3が動力を出力する必要がある場合に、モータジェネレータ3の電力要求に応じることができる。
【0064】
なお、閾値A、閾値Bは、それぞれ可変とされてもよい。例えば、閾値Aは、状況に応じて、学習開始可能な下限のSOCよりも大きな値とされてもよい。例えば、走行環境に基づいて、学習の終了後にモータジェネレータ3による動力の出力が必要と予測される場合、閾値Aは、学習後にバッテリ4がモータジェネレータ3に電力を供給可能であるように定められてもよい。また、閾値Aは、学習において消費されると予測される電力に応じて可変とされてもよい。例えば、行う学習の内容に応じて消費電力が異なる場合、それぞれの学習内容に応じて閾値Aが可変とされてもよい。また、走行環境に基づいて閾値Aが可変とされてもよい。例えば、登坂路などの走行負荷が高くなる走行環境である場合、走行負荷が高くならない走行環境である場合よりも閾値Aが大きな値とされてもよい。
【0065】
閾値Bは、例えば、学習の要求状態に応じて可変とされてもよい。例えば、連続で学習の要求がある場合には、間に充電を行うことなく連続して学習を行うことができるように、閾値Bが大きな値とされてもよい。1度でモータジェネレータ3による発電およびバッテリ4に対する充電を完了させることで、学習機会の損失を低減することができる。また、走行環境によって、学習を行う際のモータジェネレータ3の消費電力が変動する可能性がある。このため、ECU30は、ハイブリッド車両100の走行環境に基づいて、学習前の充電におけるバッテリ4に対する充電量を決定し、閾値Bを定めるようにしてもよい。
【0066】
上記の各実施形態に開示された内容は、適宜組み合わせて実行することができる。
【産業上の利用可能性】
【0067】
以上のように、本発明にかかる車両用学習制御装置は、学習機会の損失を低減するのに適している。
【符号の説明】
【0068】
1 エンジン
2 変速機
2A 入力軸
2B 出力軸
21,22,23,24 ギヤ対
3 モータジェネレータ
4 バッテリ
5 クラッチ
30 ECU

【特許請求の範囲】
【請求項1】
クラッチと、前記クラッチを介して車両の車輪と接続されたエンジンと、前記クラッチよりも前記車輪側に接続されたモータジェネレータと、前記モータジェネレータと電力を授受できるバッテリと、を有する駆動系と、
前記モータジェネレータに動力を出力させて前記駆動系に関しての学習を行う制御部と、を備え、
前記制御部は、前記モータジェネレータに発電を行わせることが可能な場合、前記モータジェネレータに発電させた電力で前記バッテリを充電した後で前記学習を行う
ことを特徴とする車両用学習制御装置。
【請求項2】
前記制御部は、前記学習を行うことによって前記バッテリにおいて充電不足が生じると予測され、かつ前記モータジェネレータに発電を行わせることが可能な場合に、前記発電させた電力で前記バッテリを充電した後で前記学習を行う
請求項1に記載の車両用学習制御装置。
【請求項3】
前記クラッチは、摩擦係合式であり、かつ入力される駆動力によって係合度合いを制御可能なものであって、
前記制御部は、前記エンジンが動力を出力しているときに前記駆動力を変化させることで前記クラッチの係合度合いと前記駆動力との関係を学習し、かつ、前記学習時における前記係合度合いの低下に応じて前記モータジェネレータに動力を出力させる
請求項1または2に記載の車両用学習制御装置。
【請求項4】
前記クラッチは、摩擦係合式であり、かつ入力される駆動力によって係合度合いを制御可能なものであって、
前記制御部は、前記エンジンが停止しているときに、前記モータジェネレータに動力を出力させ、かつ解放していた前記クラッチを係合させることで、前記クラッチが係合し始める前記駆動力を学習する
請求項1または2に記載の車両用学習制御装置。
【請求項5】
前記バッテリの充電不足を生じることなく前記学習を完了できるように、前記学習前に前記バッテリを充電する
請求項1から4のいずれか1項に記載の車両用学習制御装置。
【請求項6】
前記車両の走行環境に基づいて前記学習前における前記バッテリに対する充電量を決定する
請求項1から5のいずれか1項に記載の車両用学習制御装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【公開番号】特開2012−166618(P2012−166618A)
【公開日】平成24年9月6日(2012.9.6)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−27641(P2011−27641)
【出願日】平成23年2月10日(2011.2.10)
【出願人】(000003207)トヨタ自動車株式会社 (59,920)
【出願人】(592058315)アイシン・エーアイ株式会社 (490)
【Fターム(参考)】